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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580275 審決 特許
無効200580201 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部無効 2項進歩性  C09J
管理番号 1176158
審判番号 無効2006-80149  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-09 
確定日 2008-04-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3476248号発明「気泡含有ホットメルト型粘着剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明

(1)手続の経緯
本件特許第3476248号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年6月27日に出願され、平成15年9月26日にその特許権の設定登録がなされ、平成17年10月31日に訂正審判が請求され(訂正審判2005-39197号)、同年12月28日に訂正審判請求取下が確定したものである。
これに対して、平成18年8月9日に、請求人積水化学工業株式会社より無効審判の請求がなされ、平成18年10月30日付けで被請求人より審判事件答弁書及び訂正請求書が提出され、平成18年12月8日付けで請求人より審判事件弁駁書及び訂正請求事件弁駁書が提出され、平成19年1月18日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成19年1月22日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、平成19年2月1日に、特許庁第1審判廷において、第1回口頭審理がなされたものである。

(2)訂正請求
平成18年10月30日付け訂正請求書による訂正請求の趣旨は、特許第3476248号の訂正前の明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することであって、次の訂正事項a、bのとおりである。
訂正事項a:
特許請求の範囲の請求項1について、訂正前に
「【請求項1】 気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の無機充填剤を粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤。」であったものを、
「【請求項1】 気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の炭酸カルシウムを粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤。」と訂正する。
訂正事項b:
明細書の段落0008について、訂正前に
「本発明は、気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の無機充填剤を粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤である。」であったものを、
「本発明は、気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の炭酸カルシウムを粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤である。」と訂正する。

訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るために、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、訂正前の明細書の段落0009の「中空でない塊状の無機充填剤としては、炭酸カルシウム、・・・が挙げられる」との記載からみて、これらの訂正事項はいずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

(3)本件発明
以上のとおりであるから、本件発明は、平成18年10月30日付け訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載される次のとおりのものである。
「【請求項1】 気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の炭酸カルシウムを粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤。」

2.請求人の主張の概要及び甲各号証に記載された事項

請求人は、本件発明に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、
(i)審判請求書に添付して本願出願前に頒布された刊行物である甲第1?4号証を提出し、本件の訂正前の請求項1に記載の発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載されているため、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができなかったものであり、また、同発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載の発明から容易に発明できたものであるため、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができなかったものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであると主張し、さらに、
(ii)訂正後の発明について、口頭審理陳述要領書に添付して本願出願前に頒布された刊行物である甲第5?6号証を提出し、第1回口頭審理調書に記載のとおり、同発明は、直接証拠を甲第1、2号証とし、甲第1?6号証に記載の発明から容易に発明できたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができなかったものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきであると主張する。

(証拠方法)
甲第1号証:特開平6-17015号公報
甲第2号証:特開昭54-15967号公報
甲第3号証:特公平4-65880号公報
甲第4号証:特開平5-17730号公報
甲第5号証:日本粘着テープ工業会、粘着ハンドブック編集委員会編「粘着ハンドブック」、日本粘着テープ工業会、昭和60年7月10日初版第2刷発行、第116?119頁、第336?340頁
甲第6号証:芝崎一郎著「接着百科(上)」、株式会社高分子刊行会、昭和50年3月25日初版発行、第210?213頁

甲第1号証には次の記載がある。
(1-1)「【請求項1】ホットメルト接着組成を混合し、テープ裏材に塗布し、ホットメルト接着剤を冷却し、そしてそれにより該テープ上に感圧接着コーテイングとして凝固させるという段階からなる圧力に敏感な接着テープの製造において、ホットメルト接着組成に、ホットメルト接着剤の混合、及び塗布条件下では分解しない発泡剤を混入し、そしてその後発泡剤を分解させ、それによりホットメルトコーテイングに気泡構造を付与することからなる改良をした方法。
【請求項2】最高で約310゜Fの温度で熔解する接着剤を保持する裏材及び発泡による気泡の表面を有している接着剤からなる感圧接着テープ。」(特許請求の範囲)
(1-2)「発明に従って、そのような方法は、ホットメルト接着組成の混合及び塗布条件下に分解しない発泡剤をホットメルト接着組成に含有させ、そしてその後発泡剤を分解して、そして、これにより溶融塗工に気泡構造を与えることによって修正される。」(段落0003)
(1-3)「気泡構造は、それ自身をすぐれた機能に示す。」(段落0004)
(1-4)「【実施例】
実施例1
図に示される装置を用いるに当たって、ユニロイヤル(Uniroyal)から商標Celogen RAで市販される発泡剤を感圧ホットメルト接着組成中に注入する。混合物は重量部において下記の組成を有する。
以下の構成を有している:
SIS ポリマー (Kraton 1112) 100
アンチオキシダント(Butyl Zimate) 2
アンチオキシダント(Irganox 1010) 0.5
顔 料(TiO2) 6
Escorez 1580 Tackifying Resin 60
液状樹脂 Wingtack 10 20
樹 脂 Kolon 90 30
樹 脂 Pentalyn H 30
Cellogen RA 1.25
粘着組成は、約310゜Fで溶解される。そしてポジティブな置換ポンプによってアプリケーターに注入し、そこで3000平方フィートにつき40ポンドの重さのクレープ・ペーパーに3000平方フィートにつき20ポンドの量で塗布される。クレープ・ペーパーは約100フィート/分の線形の速度で動いている。」(段落0023?0024)
(1-5)「拡大鏡でみたテープの粘着性の表面は、溶液塗布接着剤に特有な発泡による気泡構造、底密度及び優れた機能を示す。」(段落0025)

甲第2号証には次の記載がある。
(2-1)「(1)溶融材料に界面活性剤を充分な安定化量で添加することによつて溶融熱可塑性材料中の気体の泡を安定化し、該安定化泡を加圧し高温溶液を形成し、そして低圧下に該高温溶液を処理しそれによつて該気体を該溶液から遊離させ発泡材料を形成することから成る発泡熱可塑性材料を製造する方法。」(特許請求の範囲第1項)
(2-2)「(8)該界面活性剤が重量で約0.1%乃至約5%の量で含まれる上記1項の方法。」(特許請求の範囲第8項)
(2-3)「本発明は、その主な観点で溶融熱可塑性材料中の気体の分散が溶融材料に界面活性剤を充分な安定化量で添加することによつて安定化することができるという発見に基づいている。可溶性又は固体相界面活性剤材料の添加によつて、気体が溶融熱可塑物中泡として分散することができ、そして充分な経時安定性が達成され」(3頁左上欄19行?右上欄5行)
(2-4)「事実、本発明の原理を用いると、被覆、接着剤、構造体及び多くの他の領域の用途に熱可塑性発泡材料の著しい改良が達成される。簡単な技術及びエネルギー節約は、本発明の広い利用を可能にする。」(3頁左下欄9?13行)
(2-5)「高温熱可塑性発泡体の寿命又は安定性は、非常に少量でもそれに界面活性剤の添加によつて伸ばすことができることは実験的に測定される。微粉固体状態で溶融物に溶解性か又は不溶性である界面活性剤が用いられ、そして安定化が達成される。固体相界面活性剤を用いることの利点は、溶解ガスを含有する溶融組成物から圧力を除いたときの気泡の形成である。固体相界面活性剤は核化中心を与えそして作用することが判った。かかる核化中心は、同じ量の溶解ガスからより多いそしてより小さい泡がより急速に形成される。核化中心がないと、発泡は圧力放出後しばしば遅れる。かくして、発泡遅れが望ましいときの工程変化がかかる核化中心をコントロールすることによつて達せられる。」(3頁右下欄13行?4頁左上欄7行)
(2-6)「この記述で用いられるのと同様に、用語「熱可塑性ホツトメルト接着剤」又は「ホツトメルト接着剤」は当業者によく知られているものでありそしてこの材料は加熱によつて液化しそして冷却によつて固体、半固体又は粘着性状態に固化する同じ特性を有する。」(4頁左下欄10?15行)
(2-7)「この用語「熱可塑性材料」はここでは時折「ホツトメルト」、「メルト」、「ホツトメルト熱可塑物」又は「ホツトメルト接着剤」と交換可能に用いられる。」(4頁右下欄18行?5頁左上欄1行)
(2-8)「例えば「ELVAX」はDu Pontによるエチレン酢酸ビニルの共重合体(EVA)である。」(5頁左上欄15?17行)
(2-9)「更に、固体界面活性剤が用いられることが理解できる。更に、固体界面活性剤が用いられる。安定化活性は、二酸化チタン、カーボンブラツク、二酸化硅素、熔融シリカ(・・・)、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、クレー及び類似のものの如き微粉固体界面活性剤で達成される。」(6頁左上欄20行?右上欄6行)
(2-10)「しかし、一般に界面活性剤は、メルトの重量で約0.1乃至約5%、普通重量で約0.25乃至約1%の有効な少量でのみ必要である。」(6頁右上欄14?17行)
(2-11)9頁上欄の「表」の「接着剤」の欄に、「EVA(エルヴアクス410)」と記載されている。

甲第3号証には次の記載がある。
(3-1)「1 ホツトメルト接着剤組成物として有用な、
(a) ポリスチレンと水素化したポリジエンとの水素化ブロツク共重合体(但しそのジエンはポリブタジエンおよびポリイソプレンからなる群から選ばれる)
(b) 前記水素化ブロツク共重合体100重量部当たり25ないし250重量部の石油または石炭タール留分の炭化水素樹脂、および
(c) 前記水素化ブロツク共重合体100重量部当たり25ないし200重量部のポリブテンまたはポリイソブチレン、
を含む接着剤組成物。
2 (d) 前記水素化ブロツク共重合体100重量部当たり1ないし150重量部の、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラツク、粘土およびタルク並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる充填剤、および(または)
(e) 前記水素化ブロツク共重合体100重量部当たり100重量部未満の、極性化合物2重量%未満を有する油を含む、請求の範囲第1項記載の組成物。」(特許請求の範囲第1、2項)
(3-2)「D 増量剤入りブレンド接着剤組成物
ホツトメルト接着剤組成物または感圧接着剤組成物のブレンド組成物はタルク、炭酸カルシウム粉、水沈降炭酸カルシウム、離層か焼または水和粘土、シリカ、およびカーボンブラツク並びにそれらの混合物からなる群から選ばれる充てん剤を添加することができる。これらの充てん剤はブレンド組成物中へ、水素化ブロツク共重合体100重量部当り約1ないし約150重量部、より好ましくは約20ないし約150重量部、最も好ましくは約30ないし約100重量部混合される。典型的にはこれらの充てん剤は約0.03ないし約20ミクロン、より好ましくは約0.3ないし約10ミクロン、最も好ましくは約0.5ないし約10ミクロンの粘度を有する。充てん剤100gによつて吸収された油のグラム数により測定した油吸収は約10ないし約100、より好ましくは約10ないし約85、最も好ましくは約10ないし約75である。本発明に用いられる典型的な充てん剤は表1に例示される。」(5頁10欄1?19行)
(3-3)「 表I
------------
充てん剤 コード# 油/充 比重 平均粒度 pH
てん剤 ミクロン
100g
---------------------------------
粉砕炭酸カルシウム アトマイト 15 2.71 9.3
(Atomite)
沈降炭酸カルシウム ピュアカル 35 2.65 .03-.04 9.3
(Purecal)U. 」
(5頁37?末行)

甲第4号証には次の記載がある。
(4-1)「【請求項1】 ホットメルト接着剤と熱膨張性材料を主成分とする発泡剤とから構成され、これらが混練されてなるものであることを特徴とする発泡性ホットメルト接着剤。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4-2)「発泡したホットメルト接着剤は、通常のホットメルト接着剤に比べオープンタイムが長く、圧着時間が短く、さらに、被着体に塗布された後の流動性が少ない等、種々の点で利点を有する。・・・例えばエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を主成分とし、これに合成樹脂,界面活性剤あるいはフィラー(炭酸カルシューム)を包含させた固化状のホットメルト接着剤を加熱溶融した後、この溶融状態のホットメルト接着剤を移送手段によって適宜量づつ移送するとともに、この移送されてくる溶融状態のホットメルト接着剤にチッソガス,二酸化炭素ガス等のガスを吹き込んでこれらを攪拌し、そして、これらをノズルから吐出させることによってホットメルト接着剤を発泡させるようにしたものである。」(段落0002)
(4-3)「ホットメルト接着剤と加熱により自己膨張する成分やあるいは加熱により分解ガスを発生する熱膨張性材料を主成分とする発泡剤とから構成され、これらが混練されてなるものである。このホットメルト接着剤は、従来から使用されている通常のホットメルト接着剤と同様のもので、ポリオレフィン及びその誘導体、ポリウレタン及びその誘導体、ポリエステル及びその誘導体、合成ゴム及びその誘導体、天然ゴム及びその誘導体等の熱可塑性樹脂の一種又は二種以上組み合わせたものを主成分としたものが挙げられる。例えばエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂を主成分とするものは、これに合成樹脂、あるいは、パラフィンワックス等を包含する。」(段落0005)

甲第5号証には次の記載がある。
(5-1)「充てん剤は、増量によるコスト低減あるいは着色等が主な使用目的であるが、凝集力向上、耐熱性、電気的特性等の付与目的で使用される場合もある。」(116頁下から7?6行)
(5-2)



(117頁の「表45 充填剤の種類と性質」)
(5-3)「(a)炭酸カルシウム
沈降性炭酸カルシウム(軽質炭カル)と重質炭酸カルシウムに分けられる。沈降性は一般に微細結晶である。有機物で表面処理したものもありゴムへの補強性を有する。重質炭酸カルシウムは、粗晶石灰石をハンマーミル等で粉砕製造される。安価であるため増量剤として多量に使用される。ゴム用炭酸カルシウムとしてJIS K 6223 ゴム用炭酸カルシウムに記載がある。」(117頁末行?118頁4行)
(5-4)「(e)その他
カーボンブラック、微粒子珪酸(ホワイトカーボン)、炭酸マグネシウムはいずれもゴムに対する補強効果の強い充てん剤である。しかしカーボンブラックは、黒色顔料として使用される場合が多い。」(118頁21?24行)
(5-5)「ところで粘着剤配合における充てん剤の効果に関する報告として前田、遠山は・・・充てん剤の効果としては、粘着剤を硬くさせ粘着性を低下させる結果を示している。
また福沢・・・沈降性炭酸カルシウム、水酸化シリカゲルが高い粘、接着力を、・・・。このように充てん剤の種類によっても、特性は異ることを示している。」(118頁25?末行)
(5-6)



(338頁の「表1 布粘着テープの構成材料」)
(5-7)「粘着剤のベースとしては、天然ゴム及び再生ゴムが主に使用されている。」(339頁下から4行)
(5-8)「また、最近は、SIS(スチレン・イソプレンブロック共重合体)のような、熱可塑性エラストマーベースとした、いわゆるホットメルトタイプの粘着剤がある。」(340頁下から3?2行)

甲第6号証には次の記載がある。
(6-1)



(211頁の「表9-1 原料ポリマーの種類」)
(6-2)「4.接着剤の構成成分
ホットメルト接着剤の構成成分は天然ポリマーをベースとするものから新しい合成ポリマー、あるいはそれらの混合物を主とした組成を含み、その種類は非常に広範囲にわたっているため一概にまとめにくいが、だいたい樹脂分、ワックス類、可塑剤、粘着付与剤、酸化防止剤、熱安定剤、充てん剤などに大別することができる。」(212頁1?5行)
(6-3)「充てん剤としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、バライタ(硫酸バリウム)が用いられる。」(213頁7?8行)

3.被請求人の答弁の概要

これに対して被請求人は、答弁書及び口頭審理陳述要領書において、本件発明は、甲第1、2号証に記載された発明ではなく、これらの甲号証に記載された発明に基いて容易になし得たものでない旨、主張している。

4.当審の判断

本件の平成18年10月30日付け訂正請求書による訂正は、上記1.に示したように認められ、訂正後の発明(「本件発明」)についての無効理由は、上記2.に示したように、「本件発明は、直接証拠を甲第1、2号証とし、甲第1?6号証に記載の発明から容易に発明できたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができなかったものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである」、というものである。
そこで、本件発明が、甲第1号証及び甲第2号証を直接証拠とし、甲第1?6号証に記載された事項を勘案しつつ、これらの甲号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて、検討する。
まず、請求人が主として主張するところの甲第2号証に基づく特許法第29条第2項について検討し(口頭審理陳述要領書5頁下から7?6行)、次いで、甲第1号証に基づく特許法第29条第2項について検討する。

(1)甲第2号証に基づく特許法第29条第2項
甲第2号証には、「溶融材料に界面活性剤を充分な安定化量で添加することによつて溶融熱可塑性材料中の気体の泡を安定化し、該安定化泡を加圧し高温溶液を形成し、そして低圧下に該高温溶液を処理しそれによつて該気体を該溶液から遊離させ発泡材料を形成することから成る発泡熱可塑性材料を製造する方法。」が記載されている(摘記(2-1))。
ここで上記界面活性剤についてみるに、「可溶性又は固体相界面活性剤」が用いられ(摘記(2-3))、「重量で約0.1%乃至約5%の量で含まれる」こと(摘記(2-2)、(2-10))、界面活性剤を安定化量で添加することによって「溶融熱可塑性材料中の気体の分散が安定化することができ、気体が溶融熱可塑物中泡として分散することができ、そして充分な経時安定性が達成される」こと(摘記(2-3))、「固体相界面活性剤を用いることの利点は、溶解ガスを含有する溶融組成物から圧力を除いたときの気泡の形成であって、固体相界面活性剤は核化中心を与えそして作用するから、かかる核化中心は、同じ量の溶解ガスからより多いそしてより小さい泡がより急速に形成される」こと(摘記(2-5))、これらの固体界面活性剤は、具体的には「二酸化チタン、カーボンブラツク、二酸化硅素、熔融シリカ、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、クレー」等であること(摘記(2-9)、がわかる。
そして、「「熱可塑性材料」はここでは時折「ホツトメルト」、「メルト」、「ホツトメルト熱可塑物」又は「ホツトメルト接着剤」と交換可能に用いられる」こと(摘記(2-7))、その用途としては「被覆、接着剤、構造体」等であること(摘記(2-4))からすると、上記「熱可塑性材料」とは、「ホツトメルト型接着剤、ホツトメルト型構造体等」を意味し、甲第2号証には、摘記(2-1)の方法で得られたこれらのホットメルト型接着剤、ホットメルト型構造体等の発明も記載されており、これらの接着剤、構造体等は発泡体であって気泡が含有されているのであるから、甲第2号証には、
「気泡含有ホットメルト型接着剤、気泡含有ホットメルト型構造体等の発泡熱可塑性材料であって、二酸化チタン、カーボンブラック、二酸化硅素、熔融シリカ、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、クレー等の固体界面活性剤を熱可塑性材料中に0.1?5重量%含み、気泡を含有する処理を施された、気泡含有ホットメルト型接着剤、気泡含有ホットメルト型構造体等の発泡熱可塑性材料」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

そこで本件発明と甲2発明とを対比すると、本件発明におけるホットメルト型粘着剤は熱可塑性材料であり、また、本件発明における炭酸カルシウムも甲2発明における固体界面活性剤も無機材料であって、両者の無機材料の含有量は2?5重量%の部分で共通するから、両者は、「気泡含有ホットメルト型熱可塑性材料であって、無機材料を熱可塑性材料中に2?5重量%含む気泡含有ホットメルト型熱可塑性材料」である点で一致し、次の(i)、(ii)の点で相違する。
(i)気泡含有ホットメルト型である「熱可塑性材料」が、本件発明においては、「粘着剤」であるのに対し、甲2発明においては、「接着剤、構造体等」である点、
(ii)「無機材料」が、本件発明においては、「平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の炭酸カルシウム」であるのに対し、甲2発明においては、「二酸化チタン、カーボンブラック、二酸化硅素、熔融シリカ、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、クレー等の固体界面活性剤」である点。

相違点(i)、(ii)について検討する。
相違点(i)について
この点に関し、請求人は、摘記(2-6)に示した、「この材料は加熱によつて液化しそして冷却によつて固体、半固体又は粘着性状態に固化する同じ特性を有する。」なる記載から、「粘着性状態に固化する」とはすなわち、粘着剤を意味しているので、甲第2号証も粘着剤を開示していると主張する(審判請求書9頁9?14行、審判事件弁駁書3頁19行?4頁3行)。
ところで、「接着」とは、本願出願前に頒布された、当業者に周知の刊行物である「新版高分子辞典」(高分子学会・高分子辞典編集委員会編、株式会社朝倉書店、1991年8月10日初版第3刷発行)によれば、「同種または異種の2物体間に緊密な接触界面が形成され、その界面を通して負荷応力を伝達しうる強さが発現すること」(235頁、「接着」の項)であり、一方、「粘着」とは、同新版高分子辞典によれば、「弱い圧力下での瞬間的接触により、引き離すに際し測定ないし感知しうる結合力の生ずること」(341頁、「粘着」の項)である。そして、該「粘着」の項には、さらに、「粘着は広義の接着に含まれ、粘着剤を感圧接着剤ともいう。逆に接着の初期過程は粘着である。」と説明されている。
これらのことから、粘着は広義の接着に含まれるものであり(上記新版高分子辞典参照)、甲第2号証に記載の接着剤なる語は、広く考えるならば粘着剤をも包含する概念といえる。しかしながら、甲第2号証には、具体的に「粘着剤」の組成も製造法も記載されておらず、「粘着剤」に用いたときの作用効果も特には記載されていない。請求人は、甲第2号証の「加熱によつて液化しそして冷却によつて固体、半固体又は粘着性状態に固化する」なる記載(摘記(2-6))をもって、粘着剤を意味すると主張しているが、上記新版高分子辞典にも記載されているように、接着の初期過程は粘着なのであるから、甲第2号証の該記載は、この1行で粘着剤に関して述べていると解するよりも、寧ろ接着剤の初期状態を述べている、と解するのが自然である。
なお、(2-8)、(2-11)に摘記した「EVA」も、接着剤についての記載である摘記(6-1)にみられること、また、ホットメルト接着剤についての記載である摘記(4-3)にもみられることからすると、これを接着剤と解することは自然であって、特に粘着剤と解する理由はない。

そうしてみると、甲第2号証には、非常に一般的に広くみれば、粘着剤が記載されていないとはいえないが、積極的に粘着剤を記載していると読むのは不自然であり、粘着剤に関して具体的に記載されている、とまではいうことはできない。
したがって、相違点(i)は、実質的な相違点であり、また甲第3?6号証をみても、気泡含有ホットメルト接着剤が気泡含有ホットメルト粘着剤に普通に転用できる、ということは記載も示唆もされていないのであるから、この点を当業者が容易になしえたとすることはできない。

相違点(ii)について
この点に関し、請求人は、「甲第5号証第117頁の表45には、粘着剤に用いられる充填剤として炭酸カルシウムがカーボンブラックや珪酸塩など他の無機充填剤とともに記載されており、その粒子の大きさは大きくとも10μmであり、微細結晶あるいは粉砕品、すなわち中空でない塊状であり(摘記(5-2)?(5-4))、粘着剤のベースとしては、天然ゴム及び再生ゴムが使用され、最近はSIS(スチレン・イソプレンブロック共重合体)のような、熱可塑性エラストマーベースとしたいわゆるホットメルトタイプの粘着剤があり(摘記(5-7)、(5-8))、また、甲第6号証においても、ホットメルト型接着剤に、無機充てん剤として、タルク、クレーなどと同様に炭酸カルシウムを配合した構成が示されているから、甲第2号証における二酸化チタン、カーボンブラック、二酸化ケイ素、溶融シリカ、酸化鉄、酸化アルミニウム、クレイ及び類似のものとして、これらと共に無機充填剤として汎用されていた炭酸カルシウムを用いることに何の困難性も存在しない」と、主張する(口頭審理陳述要領書3頁下から2行?5頁下から6行)。
ところで、甲第2号証においては、これらの「二酸化チタン、カーボンブラツク、二酸化硅素、熔融シリカ、酸化鉄、酸化クロム、酸化アルミニウム、クレー及び類似のもの」である無機材料を、固体界面活性剤として用いているものであり(摘記(2-9))、(2-5)に摘記したように、「溶解ガスを含有する溶融組成物から圧力を除いたときの気泡の形成の際に、固体相界面活性剤は核化中心を与えそして作用し、かかる核化中心は、同じ量の溶解ガスからより多いそしてより小さい泡がより急速に形成される」ために、有効なのである。
そこで、請求人が「無機充填剤として汎用されていた」とした、炭酸カルシウムについて、甲第3?6号証をみるに、
甲第3号証には、(3-1)?(3-3)に摘記したように、炭酸カルシウム等の充填剤を配合した接着剤組成物が記載されているが、該接着剤は気泡を含有していないから、気泡とこれらの充填剤との関係は何ら記載されていない。また、充填剤を配合する意味は、(3-2)にも説明されておらず、甲第3号証の他の箇所にも特に説明はされていないので、普通に充填剤を配合する技術的意味において配合しているものといえる。
甲第4号証には、発泡性のホットメルト接着剤が記載され(摘記(4-1))、炭酸カルシウムをフィラーとして包含させたものも記載されている(摘記(4-2))が、これは従来技術における発泡方法としてのものであり、炭酸カルシウムを包含させる技術的意味は記載されていない。
甲第5号証には、そもそも充填剤を配合する意味について、「充てん剤は、増量によるコスト低減あるいは着色等が主な使用目的であるが、凝集力向上、耐熱性、電気的特性等の付与目的で使用される場合もある。」とされ(摘記(5-1))、炭酸カルシウムについては、「ゴムへの補強性を有する。」(摘記(5-3))、「沈降性炭酸カルシウム、水酸化シリカゲルが高い粘、接着力を」(摘記(5-5))と記載されているのみである。
甲第6号証には、ホットメルト接着剤において、充てん剤として、「タルク、クレー、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、バライタ(硫酸バリウム)」(摘記(6-3))が、記載されている。
以上のことからすると、甲第3?6号証には、接着剤、粘着剤において、炭酸カルシウムを配合することは記載されているが、甲第3、5、6号証は気泡が含有されているものではないので、気泡と炭酸カルシウムとの関係は何ら示されておらず、また甲第4号証にも、炭酸カルシウムを配合する意味は特に説明されていない。
そうしてみると、接着剤、粘着剤において、炭酸カルシウムが周知の添加剤のひとつであると認められるものの、これを配合する意味は、甲第3?6号証に記載されるところの、増量によるコスト低減あるいは着色等、凝集力向上、耐熱性、電気的特性、ゴムへの補強性、高い粘・接着力を得るためにとどまり、炭酸カルシウムと気泡との関係については、何ら教示するところはない。
以上のとおり、炭酸カルシウムが、二酸化チタンと同様に気泡含有型の接着剤あるいは粘着剤において固体界面活性剤としての機能があることは、甲第2号証にはもちろん、甲第3?6号証にも、記載も示唆もされていない。
そうしてみると、炭酸カルシウムが、粘着剤における周知の充填剤であるからといって、甲第2号証に記載の、固体界面活性剤として機能を果たしている二酸化チタン等に替えてあるいは二酸化チタン等に加えて炭酸カルシウムを用いることを容易とすることはできない。

本件発明と甲2発明との効果について
甲第2号証には、(2-3)に摘記したように、「可溶性又は固体相界面活性剤材料の添加によつて、気体が溶融熱可塑物中泡として分散することができ、そして充分な経時安定性が達成され」ること、(2-5)に摘記したように、「溶解ガスを含有する溶融組成物から圧力を除いたときの気泡の形成の際に、固体相界面活性剤は核化中心を与えそして作用し、かかる核化中心は、同じ量の溶解ガスからより多いそしてより小さい泡がより急速に形成される」ために、有効であることが記載されている。
ところで本件発明の奏する効果は、特許明細書の段落0032に記載されるように、「平滑性保持及び気泡消滅防止は、気泡含有ホットメルト型粘着剤の低温特性、対粗面接着性及び再剥離性において優れた効果をもたらす。」ものと認められ、このことは特許明細書段落0030の第1表に記載されるものであるところ、気泡に固体相界面活性剤である無機材料が含有されると、泡が溶融熱可塑物中に分散され、充分な経時安定性が得られるのであるから、泡が粘着剤中に安定に存在していれば、粘着剤層の厚みに変化が生じないことは当業者が当然に理解するところであるから、粘着剤の厚さに変化が少ない、という効果は、甲第2発明から予測される範囲のものとすることができ、また、気泡が安定に存在することで対粗面接着性に優れるものであることも、当業者に周知であるから、これも甲第2発明から予測される範囲のものといえる。
しかしながら、低温特性に関しては、甲第2号証にこれに関連するような記載はされておらず、粘着剤や接着剤に関する周知技術の掲載されている他の甲号証を参照しても、気泡の安定性と低温特性に関しては記載も示唆もされていない。また、これを、当業者の技術常識であるとすることもできない。
そうしてみると、本件発明の効果は、甲第2号証あるいは他の甲号証に記載されたものを合わせ考慮しても、当業者が予測し得たものとすることはできない。

(2)甲第1号証に基づく特許法第29条第2項
甲第1号証には、ホットメルト接着組成に気泡構造を付与された感圧接着テープに関する発明が記載されており(摘記(1-1)?(1-3)、(1-5))、その組成として、具体的に、「SIS ポリマー (Kraton 1112) 100重量部、アンチオキシダント(Butyl Zimate) 2重量部、アンチオキシダント(Irganox 1010) 0.5重量部、顔 料 (TiO2) 6重量部、Escorez 1580 Tackifying Resin 60重量部、液状樹脂 Wingtack 10 20重量部、樹 脂 Kolon 90 30重量部、樹 脂 Pentalyn H 30重量部、Cellogen RA 1.25重量部」、からなる粘着組成が記載されている(摘記(1-4))。
ここで、顔料として二酸化チタンが、249.75重量部中の6重量部、すなわち、2.4重量%添加配合されているから、甲第1号証には、「粘着剤として、顔料である二酸化チタンを2.4重量%含有する、気泡構造を付与された感圧接着テープ」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
ところで、前出の新版高分子辞典によれば、「粘着剤」を「感圧接着剤」というのであるから、上記「ホットメルト接着組成に気泡構造を付与された感圧接着テープ」は、ホットメルト粘着剤、ということができ、二酸化チタンも炭酸カルシウムも無機材料であるから、本件発明と甲1発明とを対比すると、両者は、「気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、無機材料を粘着剤中に2.4重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤」である点で一致し、
(iii)「無機材料」が、本件発明においては「平均粒径が200μm 以下の中空でない塊状の炭酸カルシウム」であるのに対し、甲1発明においては、「顔料である二酸化チタン」である点、で相違する。
そこで、相違点(iii)について検討する。
炭酸カルシウムが顔料として有用である旨の記載は甲第1号証にないばかりでなく、炭酸カルシウムが記載されている甲第3?6号証にも記載されていない。
そうしてみると、炭酸カルシウムが粘着剤における周知の添加剤であるからといって、顔料として配合されている二酸化チタンに替えて、炭酸カルシウムを用いることを容易であるとすることはできない。
また、その効果を検討しても、本件発明の効果である特許明細書の段落0032に記載される「平滑性保持及び気泡消滅防止は、気泡含有ホットメルト型粘着剤の低温特性、対粗面接着性及び再剥離性において優れた効果をもたらす。」ことが、顔料がその組成として含有されている甲1発明から予測しうるものとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明は、甲第2?6号証に記載された発明に基づいても、甲第1及び3?6号証に記載された発明に基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、甲第1?6号証に記載された発明すべてを合わせ考慮しても、これから当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(4)結論
したがって、上記無効理由には理由がなく、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当しない。

5.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
気泡含有ホットメルト型粘着剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm以下の中空でない塊状の炭酸カルシウムを粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、再剥離性、低温特性及び対粗面接着性において優れた気泡含有ホットメルト型粘着剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から使用されているホットメルト型粘着剤の多くは、エラストマーとしてポリスチレン/ポリイソプレン系ブロック共重合体、ポリスチレン/ポリブタジエン系ブロック共重合体及びこれらの水素添加物等のブロック共重合体を使用し、さらに、粘着付与樹脂、軟化剤、老化防止剤等をブレンドしたものである。しかしながら、この粘着剤は接着力が強すぎ再剥離性がないので、これを用いた粘着テープを剥がした際、被着体を傷つけたり、テープの切断を起こすという欠点があった。また、凝集力が強すぎるため、低温特性や対粗面接着性が劣る等の問題があった。
【0003】
一方、ホットメルト型粘着剤あるいは接着剤に関し、これを発泡化させることにより品質の改善を行う提案がされている。例えば、特公昭50-14668号公報、特開昭58-125776号公報では粘着剤中に気泡を含有させることにより、対粗面接着性の向上を目的としている。しかしながら、これらの方法では、時間の経過とともに気泡が潰れたり、あるいは消失するという欠点があった。
【0004】
また、粘着剤中の気泡の安定性を向上させる目的で、特公昭64-6678号公報では、粘着剤中の気泡を、気泡形成時の体積よりも少なくとも5%減少させ非真円状とすることが提案されているが、5%減少させるための条件設定が困難で再現性に乏しいことや、粘着剤塗布時の粘着剤中に生ずる剪断応力により気泡が潰れたり、気泡を均一に分散できない等、実用的でない。
【0005】
更に、特開昭63-89582号公報では、直径200μ以下の中空のガラス微球体を含有させることにより、粘着剤あるいは接着剤中の気泡の安定性を向上させる方法が提案されているが、該方法で提案されているガラス微球体は、一般に球径が不均一である。このため、例えば粘着剤の厚さを100μmに塗布する場合、平均粒径100μmのガラス微球体を用いると、平均粒径より大きい粒径の球体は、塗工ヘッド部で目詰まりをおこし、粘着剤の塗工性を阻害することになり、粘着剤表面に筋状の粘着剤が塗布されない部分、いわゆるゴミ筋が生じたり、あるいは目詰まりをおこさず粘着剤とともに塗布された場合でも、粘着剤厚さより大きい粒径の球体は、粘着剤表面から突出し、粘着剤表面の平滑性が損なわれ粘着特性が劣悪になる。また、この場合、最大球径が100μm未満の小さい球径のガラス微球体を用いればこの問題は解決されるが、気泡の安定性を向上させる効果が薄れる等の欠点があった。
【0006】
いずれにしても、粘着剤あるいは接着剤中に気泡を含有させる場合に、粘着剤あるいは接着剤の特性の改善と該気泡の経時安定性の向上の両方を再現性良く達成する方法はないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、再剥離性、低温特性及び対粗面接着性において優れた、気泡含有ホットメルト型粘着剤を提供することである。なお、ここで言う再剥離性とは、粘着テープを剥がした際、被着体を傷つけたり、テープの切断が生じるような現象がないことを指す。
【0008】
【課題を解決するための手毀】
本発明は、気泡含有ホットメルト型粘着剤であって、平均粒径が200μm以下の中空でない塊状の炭酸カルシウムを粘着剤中に2?30重量%含む気泡含有ホットメルト型粘着剤である。
【0009】
本発明において、気泡の安定性を向上させる目的で使用される、中空でない塊状の無機充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、タルク等が挙げられるが、炭酸カルシウムが好ましい。平均粒径は、その理由を「作用」の項で後述するように、200μm以下が好ましい。無機充填剤の添加量は粘着剤中の2?30重量%が好ましい。2重量%未満の場合には粘着剤中の気泡の安定性が劣る。また、30重量%以上では、粘着剤が硬くなり対粗面への接着性や低温特性が低下する。
【0010】
本発明において気泡を粘着剤中に含有させるために発泡剤が使用される。発泡剤としては一般に加熱により窒素、二酸化炭素、水蒸気等の分解ガスを生ずる化学分解型の発泡剤が挙げられ、具体的には大塚化学(株)の「ユニフォーム」、永和化成(株)の「ビニフォーム」等がある。発泡剤により形成された気泡は、粘着剤総体積の5?40vol%が好ましい。40vol%を越えると粘着剤の凝集力及び接着力が著しく低下する。また、5vol%以下では気泡含有の効果が乏しいため、対粗面接着性及び低温特性の悪化を招き、また再剥離性が低下する。
【0011】
本発明において使用されるホットメルト型粘着剤の組成は、特に制限はないが、一般的には、熱可塑性ブロック共重合体を主エラストマーにした粘着剤が使用される。ブロック共重合体は、一般的にはA-B型又はA-B-A型で表され、Aは芳香族ビニル単量体の重合体ブロックを、Bは共役ジエン系単量体の重合体ブロックを示す。このようなブロック共重合体の例としてはA-B型としてスチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、A-B-A型としてスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体及びそれらの水素添加物であるスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これらのエラストマーに、粘着付与樹脂、軟化剤、老化防止剤、紫外線吸収剤をブレンドして使用する。粘着付与樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、クマロン・インデン系樹脂等の公知のものが挙げられる。軟化剤にはナフテン系オイル、芳香族系オイル、パラフィン系オイル等が挙げられる。老化防止剤としては、ビスフェノール系、トリアジン系等の酸化防止剤が挙げられる。
【0012】
エラストマー成分としてポリエチレン系、ポリプロピレン系、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の公知のポリオレフィン系エラストマーを全エラストマー中の20重量%を越えない範囲で使ってもよい。
【0013】
【作用】
本願発明の中空でない塊状の無機充填剤を使用すれば、該無機充填剤の粒径が不均一であり粘着剤厚さより大きい粒径の塊が混入していても、粘着剤塗布時の剪断力により、粘着剤の塗布厚さを越えない範囲で充填剤粒塊は破壊し、粘着剤表面上に突出しない。しかしながら、該無機充填剤の粒径が、粘着剤厚さに比べはるかに大きくなると、粘着剤塗布時の剪断力によっても、該無機充填剤は完全には破壊されにくくなり、その結果、粘着剤表面に充填剤粒子が突出することになる。また一般には、粘着テープの粘着剤の厚さは、200μmをこえることは殆どない。従って、本願発明に用いる無機充填剤の平均粒径は、200μm以下が好ましい。
【0014】
また、時間の経過とともに気泡が消失するメカニズムは、気泡が粘着剤中で移動し、合体することにより肥大化し、粘着剤外に飛散することによるものであるが、充填剤を含有させることにより気泡の粘着剤中の移動が抑制され、気泡は安定化する。なお、特開昭63-89582号公報に示される、中空のガラス微球体を用いた場合、粘着剤塗布時の粘着剤内部の剪断力により、該微球体は破壊し、薄い鱗片状となるため、気泡の安定性は、本願発明の充填剤に比べ劣る。
【0015】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明が実施例によって何ら制限されるものではない。
【0016】
実施例1
下記組成によるベース粘着剤を195℃で溶融撹拌して調製した。
ベース粘着剤組成
(A)スチレン-イソプレン系ブロック共重合体^(*1)) 100重量部
(B)脂肪族系石油樹脂^(*2)) 70重量部
(C)クマロン・インデン樹脂^(*3)) 35重量部
(D)ナフテン系オイル^(*4)) 50重量部
(E)ビスフェノール系老化防止剤 1重量部
*1):カリフレックスTR1107〔シェル化学(株)製〕
*2):クイントンD100〔日本ゼオン(株)製〕
*3):エスクロンG90〔新日鉄化学(株)製〕
*4):シェルフレックス371N〔シェル化学(株)製〕
【0017】
このベース粘着剤溶融物に、中空でない無機充填剤として、平均粒径50μmの炭酸カルシウム〔商品名;寒水#100、日東粉化工業(株)〕を粘着剤100重量部に対して15重量部(13.0重量%)、及び熱分解型発泡剤としてユニフォームAZ-L〔大塚化学(株)製)〕を粘着剤100重量部に対して0.5重量部添加して撹拌溶融して気泡含有ホットメルト型粘着剤組成物を調製した。
上記に従って得られた気泡含有ホットメルト型粘着剤を、ホットプレート上で、厚さ38μmのポリエステルフィルム上に、粘着剤厚さが55μmとなるように溶融塗布した。
【0018】
実施例2
実施例1で用いたベース粘着剤溶融物に、中空でない無機充填剤として平均粒径65μmの炭酸カルシウム〔商品名;寒水#70、日東粉化工業(株)〕を、粘着剤100重量部に対し15重量部(13.0重量%)と、実施例1で用いた分解型発泡剤を粘着剤100重量部に対して0.5重量部添加し、195℃で溶融撹拌して気泡含有ホットメルト型粘着剤組成物を調製した。
上記に従って得られた気泡含有ホットメルト型粘着剤を、ホットプレート上で、厚さ38μmのポリエステルフィルム上に、粘着剤厚さが70μmとなるように溶融塗布した。
【0019】
比較例1
実施例1において用いた無機充填剤の代わりに、平均粒径49μmの無機中空粒子〔商品名;マイクロセルズSL-75、小野田セメント(株)製〕を用いた他は、実施例1と同様の操作を行った。
【0020】
比較例2
実施例2において用いた無機充填剤の代わりに、平均粒径65μmの無機中空粒子〔商品名;フィライト200/7、日本フィライト(株)製〕を用いた他は、実施例2と同様の操作を行った。
【0021】
比較例3
実施例1において、無機充填剤、発泡剤を使用せず、その他は実施例1と同様の操作を行った。
【0022】
実施例1、2及び比較例1?3において得られた粘着テープの、常態未経時及び40℃×1カ月経時後の粘着剤厚さを試験した。また、粘着力、再剥離性、低温特性、対粗面接着性を下記試験法により試験した。
【0023】
粘着力
JIS Z0237に従い、23℃雰囲気下でステンレスパネルに25mm幅の粘着テープを貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で一往復圧着し、20分放置後の剥離角度180度、剥離速度300mm/分の剥離力を測定した。
【0024】
再剥離性
23℃雰囲気下で粘着テープを化粧合板に貼付し、5kgロールで300mm/分の速度で二往復圧着し、直ちに180度の剥離角度で急速に剥離し、化粧合板の塗装面の剥がれ状態を観察した。塗装の剥がれの無いものが再剥離性を有する。
【0025】
低温特性(ボールタック値、対ダンボール接着性)
低温特性の指標として、5℃でのボールタック値及び対ダンボール接着性を下記試験法により試験した。
【0026】
ボールタック値
J.DOW法に従い、5℃雰囲気下において傾斜角度30度のステンレス板上に、長さ10cmの粘着テープを粘着剤面を上にして貼付し、粘着テープの上端から10cmの位置から、直径3/32?1インチの30種類の鋼球を初速0で転がし、粘着テープ上で停止する最大の鋼球の番号をボールタック値とした。なおボールタック値が大きいほど初期接着性は高い。
【0027】
対ダンボール接着性
Kライナーダンボール及び粘着テープを5℃雰囲気下に1時間以上放置後、ダンボールに粘着テープを貼付し、850gの荷重で一往復圧着し、直ちに180度の剥離角度で急速に剥離し、ダンボール紙面の紙むしり度合いを粘着テープの貼付面積に対する割合(%)で示した。なおダンボール紙むしり率は、大きいほど特性は良好である。
【0028】
対粗面接着性
23℃雰囲気下で25mm幅の粘着テープをコンクリートブロックに貼付し、2kgのゴムロールで300mm/分の速度で一往復圧着し、20分放置後、剥離角度180度、剥離速度300mm/分の剥離力を測定した。
【0029】
試験結果
上記試験により得られた結果を第1表に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
第1表から明らかなように、実施例1及び2においては、再剥離性、低温特性及び対粗面接着性において優れ、粘着剤厚さの変化も少なく、気泡の安定性も良好である。これに対して比較例1及び2においては、厚さの変化は比較的少なく気泡の安定性は良いものの、粘着剤表面には中空粒子が突出したり、平均粒径より大きい粒径の中空粒子が、塗布装置の先端部で目詰まりをおこし、粘着剤が塗布されない筋状のゴミ筋が生じ、粘着特性が劣る。また、充填剤及び気泡を含まないベース粘着剤のみからなる比較例3では、再剥離性がなく、低温特性や対粗面接着性も悪い。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、該無機充填剤の粒径が不均一で、たとえ粘着剤厚さより大きい粒径の充填剤が混入していても、粘着剤表面の平滑性を保持でき、かつ、粘着剤中の気泡のつぶれや消失を防止することができる。
これら平滑性保持及び気泡消滅防止は、気泡含有ホットメルト型粘着剤の低温特性、対粗面接着性及び再剥離性において優れた効果をもたらす。本発明に従った気泡含有ホットメルト型粘着剤をフィルム、クラフト紙、布基材等に塗布することにより、梱包用途や建材等の仮止め等の用途において優れた特性を有する粘着テープとなる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-02-21 
結審通知日 2007-02-26 
審決日 2007-03-12 
出願番号 特願平6-144564
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C09J)
P 1 113・ 113- YA (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 達也  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 鈴木 紀子
木村 敏康
登録日 2003-09-26 
登録番号 特許第3476248号(P3476248)
発明の名称 気泡含有ホットメルト型粘着剤  
代理人 伊藤 佐保子  
代理人 宮▲崎▼ 主税  
代理人 斉藤 房幸  
代理人 津国 肇  
代理人 伊藤 佐保子  
代理人 津国 肇  
代理人 斉藤 房幸  
代理人 目次 誠  

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