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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41B
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A41B
管理番号 1176313
審判番号 無効2007-800048  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-03-09 
確定日 2008-02-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第1970113号発明「使い捨て紙おむつ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1970113号の請求項1に係る発明についての出願は、特願昭62-7471号(昭和62年1月16日出願)であり、平成7年9月18日に設定登録(請求項の数1)されたものである。
そして、平成19年3月9日に王子ネピア株式会社より無効審判が請求され、平成19年6月4日付けで被請求人大王製紙株式会社より答弁書が提出され、平成19年7月13日付けで請求人より弁駁書が提出されたものである。
平成19年9月26日に口頭審理が行われ、同日付けで請求人・被請求人より口頭審理陳述要領書が提出された。
さらに、平成19年10月22日付けで被請求人より、第2答弁書が提出され、平成19年11月21日付けで請求人より、上申書が提出された。

II.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。」(以下「本件特許発明」という。)

III.請求人及び被請求人の主張の概略
1.請求人の主張
主張1:
平成3年2月12日付の手続補正書による補正は、当初明細書等において記載されたホットメルト薄膜による体液の前後漏れ防止に関する機能、作用を変更するものである。
さらに、同手続補正書による実施例2を追加する補正は、当初明細書等に記載されたホットメルト薄膜の範囲を拡大するものである。
また、平成3年10月4日付の手続補正書及び平成5年11月12日付の手続補正書で特許請求の範囲が補正されたことにより、当初明細書等に記載された「体液の前後漏れ防止」の技術的意義が変更されている。
このように、平成3年2月12日付の手続補正書、平成3年10月4日付の手続補正書及び平成5年11月12日付の手続補正書による補正は、当初明細書等の要旨を変更するものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成5年法律第26号)附則第2条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた平成5年改正法による改正前の特許法第40条の規定により、本件特許出願は平成3年2月12日にしたものとみなされる。
そうすると、本件特許発明は、平成3年2月12日以前に頒布された刊行物である甲第1号証刊行物(本件特許出願の公開公報)に記載された発明であるか、又は甲第1号証刊行物及び甲第3号証刊行物(特開昭63-99301号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項又は同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1号の規定により、無効とすべきである。

主張2:
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明を容易に実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されておらず、また、特許請求の範囲には、本件特許発明の構成に欠くことができない事項が記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされており、同法第123条第3号の規定により、無効とすべきである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開昭63-182403号公報
甲第2号証:特公平6-22511号公報
甲第3号証:特開昭63-99301号公報
甲第4号証:被請求人(原告)作成の技術説明書(平成17年(ワ)634 6号事件)
甲第5号証:平成17年(ワ)第6346号事件東京地裁判決
参考資料1の1?5:本件特許出願の補正の経緯
参考資料2:特許請求の範囲の記載の変遷
参考資料3:昭和62年(行ツ)第109号事件最高裁判決(判例時報13 81号、108?114頁)

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人の主張は、以下の通りである。
(1)主張1について
本件発明の構成は、本件出願当初明細書に記載の技術事項であり、なんら要旨変更ではないことは明らかである。本件出願当初明細書においても「ホットメルト薄膜」と記載され、その「ホットメルト薄膜」の記載が本件特許公報の特許請求の範囲にそのまま記載されているのであるから、「ホットメルト薄膜」の意義が変更されたなどの議論は成り立ち得ないことは明らかである。
また、本件発明の「体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した」ことも本件出願当初明細書に記載された事項である。そして、本件出願時から特許査定に至るまで「ホットメルト薄膜」は、「前後漏れ防止効果」を示すものとして機能するものと説明され、その作用効果に変更はない。
以上のように、請求人が主張する各補正について、これが要旨変更に当たらないことは明らかであり、特許出願日が繰り下がることはないから、請求人による新規性及び進歩性に関する主張は誤りである。

(2)主張2について
本件特許公報には、目的は、〔発明が解決しようとする問題点〕(同3欄6行?13行)に、構成は、〔問題点を解決するための手段〕(同3欄14行?33行)が、〔作用〕(同3欄34行?4欄34行)とともに記載され、かつ、〔発明の具体的構成〕が実施例1および実施例2とともに記載(同3欄35行?6欄35行)され、効果は、〔発明の効果〕(同6欄36行?38行)に記載されており、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、当業者という)であれば、本件明細書の記載から容易に本件特許発明(甲第2号証)を実施することができることは明らかであり、本件特許明細書(甲第2号証)は、特許法36条3項の規定を具備していることは明らかであり請求人の主張は失当である。

〈証拠方法〉
乙第1号証:平成17年(行ケ)第10325号審決取消訴訟事件判決
乙第2号証:実願昭58-91439号(実開昭60-306号)マイクロフィルム
乙第3号証:高分子刊行会「接着」Vol.26、No3、1982年、2 9頁?32頁
乙第4号証:日本接着協会「接着の技術」Vol.6、No1、1986年 、8頁右欄19行?23行

IV.当審の判断
1.主張1について
平成3年2月12日付けの手続補正書、平成3年10月4日付けの手続補正書及び平成5年11月12日付けの手続補正書による補正は、当初明細書等の要旨を変更するものであるという請求人の主張1は、ホットメルト薄膜による体液の前後漏れ防止に関する機能、作用及び技術的意義を変更したものであるという点(争点1)と実施例2を追加することにより、ホットメルト薄膜の範囲を拡大したという点(争点2)の2点に大きく分けられるので、これらの2点について検討する。

(1)争点1について
まず、ホットメルト薄膜による体液の前後漏れ防止に関する機能、作用及び技術的意義について、出願当初明細書(本件公開特許公報)と特許明細書(本件公告特許公報)の記載の確認をしておく。
[出願当初明細書の記載]
記載事項ア:体液吸収体とこの縁より外方に延び着用者の腰部対応位置にあって吸収体が存在しない縁とを有する衣料において、前記縁の腰周り方向に沿って弾性伸縮性の発泡シートを設けたことを特徴とする使い捨て衣料。(請求項1)

記載事項イ:使い捨ておむつ……の使い捨て衣料に関する」(1頁右欄2行?3行)

記載事項ウ:腰周りにおける弾性体としては、ゴム材料が主体をなしており、その結果、着用者に過度の圧迫感を与えがちであり、また前後漏れに対して十分な対処がなされていなかった。そこで本発明の主たる目的は、前後漏れ防止を確実に達成できるとともに、着用感に優れた使い捨て衣料を提供することにある。」(1頁右欄下3行?2頁左上欄4行)

記載事項エ:第1図および第2図は使い捨ておむつの第1実施例を示したもので、このおむつは不織布等の透液性材料からなるトップシート1とポリエチレン等の非透水性材料からなるバックシート2との間に、周囲を残して綿状パルプを主体とする吸収体3を包んだ基本構成をなしている。」(2頁右上欄9行?14行)

記載事項オ:おむつの長手方向両端部における吸収体が存在しない縁(フラップ部)5には、おむつの巾方向(第1図左右方向)に沿って弾性伸縮性の合成樹脂発泡シート5が設けられている。この第1実施例では、トップシート1とバックシート2との間に介在されている。」(2頁右上欄17行?左下欄2行)

記載事項カ:さらに、吸収体3に吸収された体液が長手方向両端から漏れることを防止するために、ホットメルト薄膜7が、吸収体の端部からトップシート1と発泡シート6との間に跨って設けられており、このホットメルト薄膜7は発泡シート6をトップシート1に固着することも兼ねている。」(2頁左下欄5行?10行)

記載事項キ:他方、第3図例は、ホットメルト薄膜7を発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの中方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し、このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めたものである。」(3頁左欄12行?16行)

記載事項ク:本発明によれば、着用感に優れ、かつ前後漏れ防止効果が高い使い捨て衣料が提供される」(3頁右欄10行?12行)

記載事項ケ:第1図は本発明の使い捨て紙おむつの一部被断平面図、第2図はII-II線矢視図、第3図?第6図は他の例のII-II線相当位置の断面図、第7図はおむつカバー併用型紙おむつの平面図である。」(3頁右欄14行?17行)

記載事項コ:また、フラップ部は、発泡シートの弾性伸縮性のために、着用者の肌に密着し、体液の前後漏れ防止がなされる。(2頁右上欄3行?5行)

[特許明細書の記載]
記載事項a:体液吸収体と、透水性トップシートと、非透水性バックシートとを有し、前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており、前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて、前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり、かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され、前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており、前記トップシートのバックシートがわ面において、体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し、さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され、体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。(請求項1)

記載事項b:すなわち、一旦、吸収体に吸収された尿が、幼児の動きにより吸収体が圧迫されると、逆戻り現象が生じ、この尿はトップシートを通って紙おむつの端部に至る。しかし、ホットメルト薄膜がトップシートの内面に吐着されているので、それ以上尿がトップシートを伝わることはない。一方、吸収体がトップシートに対して非固定であると、吸収体の長手方向端部において、吸収体上面とトップシートとの間に空間ができ、この空間でできた状態で排尿があると、尿が吸収体に吸収されることなくトップシートを伝わり前後漏れが生じやすい。これに対して、吸収体の端部がホットメルト薄膜によりトップシートに対して固定されていると、前記空間が生じることがなく、トップシートを伝わることによる前後洩れが防止される。しかも、吸収体がその端部において、トップシートに固定されることにより、吸収体の位置決めがなされ、幼児の激しい運動により、吸収体がトップシートとバックシート間において丸まり、もって尿の吸収が不十分となる事態を防ぐことができる。(2頁3欄48行?4欄16行)

記載事項c:他方、特に本発明においては、ホットメルト薄膜を前記吸収体の長手方向端縁と発泡シートとの間の離間位置において前記非透水性バックシートに接合して、前記腰回り方向に沿う体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した。(2頁4欄17行?21行)

記載事項d:確かに、上述の理由により、紙おむつの表面側での前後漏れを防止できるとしても、たとえば第2図のように、本発明に係るシール領域(第3図の符号9で示す部分)を形成しない場合、吸収体の端縁から紙おむつの長手方向端縁に流出する体液は、発泡シートとバックシートとの間から漏れることがある。たとえば、発泡シートが液透過性である、あるいは発泡シートをその長手方向についてバックシートに対して間欠的に固定する場合などにおいては、その危険性が高い。これに対して、前記シール領域を形成すると、そのそもこのシール領域で体液の長手方向の流出を阻止するので、発泡シートの材質やそのバックシートに対する固定態様に関係なく、常に前後漏れを防止できる。(2頁4欄22行?34行)

記載事項e:(実施例2)紙おむつの前後をファスニングテープにより組み立てるとともに、横置きにし、着用者のうつぶせ状態を再現させるようにした。次いで、紙おむつの中央部分に人工尿を徐々に注入し、紙おむつ端部からその尿が漏れ始めるまでの、人工尿の注入量を測定した。その結果、ホットメルト薄膜を設けない場合には、注入量が130ccであったのに対して、本発明にしたがってホットメルト薄膜を設けた場合、注入量が210ccであった。この結果から、本発明の紙おむつ構造によれば、トップシートを伝わって尿が漏れることが少ないことが判明した。(3頁6欄24?35行)。

[争点1についての判断]
本件特許明細書は、出願当初明細書の時点からみると、審査過程の中で、本件審判請求人が提出した参考資料1の1?5及び参考資料2に記載されているように、数次にわたって補正されている。
まず、特許請求の範囲については、出願当初明細書の記載に比して文言上減縮されているし、本件発明の実施例とされる図面も第2図は参考例とされ、第5図及び第6図は補正により削除されており、本件発明の実施例の断面図としては第3図及び第4図のみに減縮されている。
争点1で議論となっているホットメルト薄膜による体液の前後漏れ防止に関する機能、作用及び技術的意義については、出願当初明細書においては、記載事項ウ、キあるいはコに記載されているように、本件発明の目的としての記載、発泡シートの弾性伸縮性のために着用者の肌に密着し体液の前後漏れ防止がなされる旨の記載、ホットメルト薄膜7を発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの中方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し、このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高める旨の記載があるのみである。
そして、ホットメルト薄膜と体液の前後漏れ防止との相互の関係について、多少なりとも記載がなされているのは、ホットメルト薄膜7を発泡シート6と吸収体3の端との間でバックシート2に紙おむつの中方向に連続的に溶接させてシール線部9を形成し、このシール線部9で体液の前後漏れ防止効果を高めるという記載事項キの記載である。
本件特許公報においては、記載事項b、c、dのように説明が詳細にわたってはいるが、その意味するところは、ホットメルト薄膜を非透水性バックシートに接合してシール領域を形成するとこのシール領域で体液の長手方向の流出を阻止するので前後漏れを防止できる、というものであって、出願当初明細書に記載されていた記載事項キと同程度の技術事項を説明しているものにすぎず、発明の要旨を変更するものとまではいえない。
以上の点からすれば、審査過程における手続補正は、本件特許発明の内容を徐々に詳しく記載しているが、ホットメルト薄膜を設けたことによる体液の前後漏れ防止に関して同程度の技術内容を記載しているものにすぎないから、要旨を変更するものとまではいえない。
よって、数次にわたる補正は要旨変更であるとして本件特許の出願日を繰り下げて認定して、本件特許自身の公開公報あるいはその公開公報と他の公知技術との組み合わせによって本件特許を無効とするほどまでに不適当なものとはいえない。

なお、本件無効審判請求人は本件特許について、ホットメルト剤がトップシートの表面のみならずトップシートの肌側面にまで入り込み、このことによってトップシート中の体液の流れが防止されるという技術的事項を、本件特許発明は含むことを前提として、無効理由の主張を行っている。
しかし、本件出願当初の明細書及び本件特許明細書には、ホットメルト剤がトップシートの表面のみならずトップシートの肌側面にまで入り込むという構成は全く記載されておらず、このことによってトップシート中の体液の流れが防止されるという作用効果についても全く記載されていない。
本件出願当初の明細書及び本件特許明細書には、ホットメルト薄膜を非透水性バックシートに接合してシール領域を形成するとこのシール領域で体液の長手方向の流出を阻止するので前後漏れを防止できる旨の記載があるのみであって、ホットメルト薄膜がどのような態様で非透水性バックシートに接合しているのか、あるいはシール領域がどのような構造となっているのか、さらに特定の構成となっていることによりどのような作用効果があるのかについて具体的な記載がなく、本件特許明細書からは不明な事項である。
したがって、本件特許明細書に記載されていない事項あるいは本件特許明細書からは把握できない事項を前提とした請求人の主張は採用できない。

一方、本件被請求人は請求人の主張に対し、第2答弁書の25頁において、乙第2号証考案に記載のように、液透過性表面シートの組織内に含浸することで、ホットメルト接着剤が「尿がトップシートを伝わる」ことを防止し、前後漏れ防止を図ることができることは本件出願時に当業者の技術常識であった旨の主張をしている。
乙第2号証には、「疎水性接着剤層7の接着剤は、ホットメルト型のものが好ましく、さらには発泡ホットメルト型のものが縦方向対向端部7の接合部に柔軟性を付与するうえで好ましい。またこのような接着剤は、液透過性表面シート1の組織内に含浸してこれを疎水性化しているのが好ましい。このようにするためには塗布した接着剤が固化しない間に縦方向対向端部7を圧着すればよいが、液透過性表面シート7としての不織布は、目付が15?35g/m^(2)、密度が0.08?0.35g/cm^(3)であることが好ましい。」という記載があるが、この記載は乙第2号証考案についての記載であって、このような記載が公知であるからとして、ただちに本件特許発明においてもホットメルト接着剤が液透過性表面シートの組織内に含浸しているとはいえない。
しかも、乙第2号証の記載にもあるように、接着剤を液透過性表面シートの組織内に含浸させるためには不織布の目付や密度等他の条件が適切に管理される必要があるものであって、そのような製造条件について何ら記載のない本件特許発明において、ホットメルト接着剤が液透過性表面シートの組織内に含浸しているとは到底いえるものではない。

(2)争点2について
[争点2についての判断]
請求人は、実施例2を追加する補正は、当初明細書等に記載されたホットメルト薄膜の範囲を拡大するものである、と主張する。
その理由の概要は、当初明細書等にホットメルト薄膜として記載されていたものは、非透水性のプラスチックフィルムのような非透水性膜により体液の前後漏れを防止するものであったのに対し、実施例2の追加により210cc程度の量を超える人工尿により端部漏れが生じるホットメルト薄膜でもこれを含むように拡大されたのである。従って、実施例2の追加により、ホットメルト薄膜の範囲が拡大されたこととなるから、実施例2を追加する平成3年2月12日付の手続補正書による補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものではなく、当初明細書等の要旨を変更するものである、というものである。
本件特許明細書に記載されている実施例2の記載は、上記記載事項eのとおりであり、この記載内容について検討する。
実施例2が追加された補正は、平成3年2月12日付け手続補正書により、特許請求の範囲の補正と同時に補正されたものである。実施例とは、発明をどのように実施するかを示す発明の実施の形態であるから、実施例2は同補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された発明の実施例と見るべきである。そして、その後の補正により、特許請求の範囲が補正されているが、実施例2から把握すべき技術事項は平成3年2月12日付け手続補正書による補正時点において把握できる技術事項と何ら変わるものではない。
そして、実施例2の記載は本件発明の実施の形態としては極めて簡略なものであって、何ら発明の内容を具体的に実施できるように記載したものではなく、被請求人が主張しているように、実施例2は、単に、ホットメルト薄膜を設けない場合とホットメルト薄膜を設けた場合との間で、当初明細書の範囲内における前後漏れ防止効果の高低を対比しただけのものにすぎない。そして、この実施例2から把握できる技術内容は、ホットメルト薄膜を設けた場合の方が設けない場合よりも、トップシートを伝わって尿が漏れることが少ないことのみであって、人工尿の注入量の数値自体に何ら格別の技術的な意義があるものではないし、また「トップシートを伝わって」という文言もその具体的意味内容が記載されているものではないから、その文言から更にその技術的内容を発展して把握できるものでもない。
以上のとおり、実施例2の追加は上記したような意味内容を単に示すものにすぎないから、本件特許の要旨を変更するほどの補正であるとは認められない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件請求人が主張する手続補正書は要旨を変更するものではないから、本件特許の出願日が繰り下がってみなされるものではなく、本件特許発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとする審判請求人の主張1は採用できない。

2.主張2について
請求人の主張2の概要は、本件特許明細書には、ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させるための特別な条件が記載されていないから、当業者は、トップシートにホットメルト剤を浸透させることができず、その結果トップシートの中を伝わる体液の流れを防止することができない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件特許発明を実施することができる程度に、その目的、構成及び効果が記載されていない、というものである。
しかし、本件特許は、ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させることが特許請求の範囲に記載されているわけではなく、本件発明の構成要件とはなっていないのであるから、ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させるための特別な条件が記載されていないからといって、明細書の記載が不備であるということはできない。
よって、本件特許発明は特許法第36条の規定により特許を受けることができないものであるとする審判請求人の主張2は採用することができない。

なお、被請求人は請求人の主張に対して、乙第2号証によって明らかなように、ホットメルト薄膜を塗布した場合に、ホットメルト薄膜が、トップシート不織布の繊維組織内に浸透することは当業者の自明又は技術常識であったのであるから、ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させるための条件を敢えて記載するに及ばないことは明らかである旨、反論するものであるが、上記したように、ホットメルト接着剤をトップシートに浸透させることが特許請求の範囲に記載されているわけではなく、本件発明の構成要件とはなっていないのであるから、そのために条件を記載する必要はないものであると判断したものである。
被請求人が主張するように、ホットメルト薄膜が、トップシート不織布の繊維組織内に浸透することは当業者の自明又は技術常識であったのであるから、そのための条件を敢えて記載するに及ばないと判断したものではない。

V.むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-12-19 
結審通知日 2007-12-21 
審決日 2008-01-07 
出願番号 特願昭62-7471
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A41B)
P 1 113・ 531- Y (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 豊永 茂弘
関 信之
登録日 1995-09-18 
登録番号 特許第1970113号(P1970113)
発明の名称 使い捨て紙おむつ  
代理人 辻居 幸一  
代理人 永井 義久  
代理人 渡辺 光  
代理人 平山 孝二  
復代理人 湯浅 正之  
代理人 高石 秀樹  
代理人 竹内 麻子  
代理人 奥村 直樹  
代理人 外村 玲子  

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