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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1177047
審判番号 不服2006-16178  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-27 
確定日 2008-05-01 
事件の表示 平成 6年特許願第309575号「合成樹脂製保持器」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 6月 4日出願公開、特開平 8-145062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成6年11月18日の出願であって、平成18年6月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月24日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年8月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年8月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
潤滑油中で使用される転がり軸受用の合成樹脂製保持器であって、前記転がり軸受が円すいころ軸受であり、直鎖型ポリフェニレンサルファイドを主成分とし、これに強化繊維及びエラストマーを添加しており、前記強化繊維がガラス繊維であり、前記エラストマーがエチレン・プロピレン共重合体からなるオレフィン系ポリマーであり、全成分中に占める前記強化繊維の割合が20?30重量%であり、前記エラストマーの割合が6.5?9.75重量%であることを特徴とする合成樹脂製保持器。」
と補正された。(なお、下線は、請求人が附したものであって、補正箇所を示すものである。)
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「転がり軸受」について「円すいころ軸受であり」、「強化繊維」について「ガラス繊維であり」、「オレフィン系ポリマー」について「エチレン・プロピレン共重合体からなる」、強化繊維の割合としての「8?40重量%」について「20?30重量%」、エラストマーの割合としての「5?30重量%」について「6.5?9.75重量%」との限定を付加するものであって、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物に記載された発明
(刊行物1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平3-117722号公報(以下、「刊行物1」という。)には、「転がり軸受用保持器」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(ア)「ポリフェニレンサルファイド樹脂にオルガノポリシロキサンエラストマーと繊維状強化材とを添加した組成物からなる転がり軸受用保持器。」(特許請求の範囲参照)
(イ)「しかし、このナイロン製の保持器1は、120℃以上の連続使用温度条件下、または、極圧添加剤その他が添加された油類もしくはその他の酸性の薬剤と接触する条件下では、ナイロンが劣化し、その特性を失うため良好な状態で使用することができなかった。
このようなナイロンに代わって、高温条件下で使用でき、比較的廉価である材料に、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と略称する)があり、耐熱性とともに耐薬品性、成形性などにも優れている。このPPS樹脂は、・・・大別して架橋性PPS樹脂(分岐状PPS樹脂とも呼ばれる)と直鎖状PPS樹脂の2種類がある。」(1頁右下欄2行?16行)
(ウ)「〔作用〕
この発明においてPPS樹脂に添加されるオルガノポリシロキサンエラストマーは、PPS樹脂の柔軟性を著しく改善し、また繊維状強化材は、PPS樹脂とオルガノポリシロキサンエラストマーからなる組成物の機械的強度を向上させる。したがって、このようなPPS樹脂とオルガノポリシロキサンエラストマーと繊維状強化材とからなる組成物で形成された保持器は、適度な柔軟性を有して組み立て時に破損することがなく、また組み込み性に優れ、使用時における高温下の変形率が低いものとなる。」(2頁右上欄17行?左下欄8行)
(エ)「なお、上記の繊維状強化材のうち、コスト面、入手の容易性、取扱いの簡便性などから、つぎのようなガラス繊維が特に好ましいといえる。」(3頁左下欄20行?右下欄2行)
(オ)「ここで、PPS樹脂へのオルガノポリシロキサンエラストマーと繊維状強化材との添加量は、3成分全体の重量を100として、PPS樹脂40?90重量%、オルガノポリシロキサンエラストマー3?30重量%、繊維状強化材5?40重量%であることが望ましい。」(3頁右下欄20行?4頁左上欄5行)
(カ)「第1表から明らかなように、PPS樹脂にオルガノポリシロキサンエラストマーおよび繊維状強化材を添加した組成物からなる保持器(実施例1?6)は、比較例1?3の保持器と比較して、組み立て時の組み込み性および保持器の爪部の耐久性に優れ、しかも高温で運転される軸受内にあって変形率は低く、潤滑剤を劣化させることがない。」(6頁右上欄17行?左下欄3行)

以上の記載事項及び図面の記載からみて、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(引用発明)
潤滑剤中で使用される転がり軸受用保持器であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂にオルガノポリシロキサンエラストマーと繊維状強化材とを添加しており、繊維状強化材としてはガラス繊維が特に好ましく、成分全体の重量を100として、オルガノポリシロキサンエラストマー3?30重量%、繊維状強化材5?40重量%であることが望ましい保持器。

(刊行物2)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平4-29617号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「転がり軸受用保持器」に関して、下記の事項が図面とともに記載されている。

(キ)「架橋型ポリフェニレンサルファイドとオレフィン系ポリマーとを樹脂成分として含有することを特徴とする転がり軸受用保持器。」(特許請求の範囲参照)
(ク)「本発明の転がり軸受用保持器は、架橋型PPSを含有するため、耐熱性、耐薬品性に優れ、しかも、柔軟なオレフィン系ポリマーを含有するため、靭性に優れたものとなる。」(2頁左下欄4行?7行)
(ケ)「上記オレフィン系ポリマーとしては、・・・、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等が好適に使用される。」(2頁右下欄19行?3頁左上欄3行)
(コ)「本発明の構成は、玉軸受、針状ころ軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受等の種々の転がり軸受用の、あらゆる形状の保持器に適用することができ、」(3頁左下欄8行?10行)

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能に照らして、引用発明の「潤滑剤」は本願補正発明の「潤滑油」に相当し、以下同様に「繊維状強化材」は「強化繊維」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、本願補正発明の用語を用いて記載すると下記の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
潤滑油中で使用される転がり軸受用の合成樹脂製保持器であって、ポリフェニレンサルファイドを主成分とし、これに強化繊維及びエラストマーを添加しており、前記強化繊維がガラス繊維であり、全成分中に占める前記強化繊維の割合が第一の所定の重量%であり、前記エラストマーの割合が第二の所定の重量%である合成樹脂製保持器。

(相違点1)
本願補正発明においては、「転がり軸受」が「円すいころ軸受」であるのに対し、引用発明においては、「転がり軸受」が「円すいころ軸受」とは特定していない点。
(相違点2)
本願補正発明においては、「ポリフェニレンサルファイド」が「直鎖型」であるのに対し、引用発明においては、「ポリフェニレンサルファイド」が「直鎖型」とは特定していない点。
(相違点3)
本願補正発明においては、「エラストマー」が「エチレン・プロピレン共重合体からなるオレフィン系ポリマー」であるのに対し、引用発明においては、「エラストマー」が「オルガノポリシロキサンエラストマー」である点。
(相違点4)
本願補正発明においては、強化繊維の割合である第一の所定の重量%が「20?30」であり、エラストマーの割合である第二の所定の重量%が「6.5?9.75」であるのに対し、引用発明においては第一の所定の重量%が「5?40」であり、異なる素材のエラストマーの割合である第二の所定の重量%が「3?30」である点。

以下、上記相違点について検討する。
(相違点1について)
円すいころ軸受は転がり軸受の一つとして、普通に例示される(例、刊行物2の摘記事項(コ)、特開平4-362311号公報段落【0012】等参照)ものであるから、引用発明の転がり軸受として円すいころ軸受を選択して、相違点1に係る本願補正発明のように構成することは当業者が何ら創意なくなし得たことにすぎない。

(相違点2について)
刊行物1において、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称する。)樹脂として、架橋性のものと直鎖状のものがあることが記載されている(摘記事項(イ)参照)から、引用発明のPPSとして直鎖型を選択して、相違点2に係る本願補正発明のように構成することは当業者が何ら創意なくなし得たことにすぎない。

(相違点3について)
刊行物2には、転がり軸受用保持器を靭性に優れたものとするために、エチレン・プロピレン共重合体からなるオレフィン系ポリマーを使用する点が記載されている(摘記事項(ク)、(ケ)参照)。そして、引用発明と刊行物2に記載された発明とは架橋型か否かの差はあっても共にPPSを主成分とする転がり軸受に関するものである。そうすると、引用発明においてPPS樹脂の柔軟性を改善するために用いられる(摘記事項(ウ)参照)オルガノポリシロキサンエラストマーに替えて、刊行物2に記載された靭性向上のために用いられるエチレン・プロピレン共重合体からなるオレフィン系ポリマーを適用して、相違点3に係る本願補正発明のように構成することは当業者が容易になし得たことである。

(相違点4について)
本願の願書に最初に添付した明細書及び図面を参照すると、強化繊維及びエラストマーの割合について、実施例2及び3に強化繊維の割合である重量%として「20.0」と「30.0」とが記載され、エラストマーの割合である重量%として「6.5」と「9.75」とが記載され、参考例3に強化繊維の割合である重量%として「10.0」が記載され、エラストマーの割合である重量%として「3.25」が記載されていて、その試験結果が図3に記載されている。
しかしながら、これらの3例のみから強化繊維の割合の境界値20及び30重量%、エラストマーの割合の境界値6.5及び9.75重量%の臨界的意義を認めることはできない。
そして、引用発明の強化繊維の割合「5?40重量%」が本願補正発明の強化繊維の割合「20?30重量%」を含む範囲であること、具体的なエラストマーの素材は異なるものの、引用発明のエラストマーの割合「3?30重量%」が本願補正発明のエラストマーの割合「6.5?9.75重量%」と重複した範囲を含んでいることを考慮すれば、引用発明に基づき、適用対象や具体的素材等に応じて当業者が適宜行う数値範囲の好適化により、相違点4に係る本願補正発明のように構成することは当業者が容易になし得たことである。

なお、これらの相違点に関連して、請求人は請求の理由において、
「しかし、強化繊維及びエラストマーの割合についての数値範囲を最適化または好適化することは、当業者が適宜なし得た設計事項とはいえないと思料します。なぜならば、本願のような円すいころ軸受では、・・・・・これにより、円すいころと軌道輪との接触面圧の軸方向のバランスが崩れて円すいころにスキューが発生し、円すいころの周方向一方側の大径側と保持器の大径側のポケットとの間、及び円すいころの周方向他方側の小径側と保持器の小径側のポケットとの間の両者で接触が生じ、この両者の間隔を大きくするように変形させようとする力が作用します。そこで、本願発明では、円すいころ軸受の保持器へのころの無理嵌めの耐性、油中浸漬で上記円すいころ軸受に発生するスキューに対する強度を高めるために、強化繊維の割合を20?30重量%に、エラストマーの割合を6.5?9.75重量%に設定しているのです。・・・・・
引用文献1?2及び周知技術例1?5には保持器を円すいころ軸受に適用できるという記載はあっても、その実施例及び図面に円すいころ軸受用保持器は開示されておらず、また上記のような円すいころ軸受及びその保持器に発生する問題についても開示も示唆もされていない以上、引用文献1に記載された発明に、上記周知技術例1?5に記載された技術を適用し、保持器の機械的強度及び柔軟性を確保するために強化繊維及びエラストマーの割合について数値範囲を最適化又は好適化したとしても、本願実施例のような保持器を変形させようとするスキューに対する良好な引張強度は得られないと思料します。それは、ガラス繊維及びエチレン・プロピレン共重合体の割合が請求項1発明の範囲から少しはずれただけで(参考例3(ガラス繊維=10.0重量%、エチレン・プロピレン共重合体=3.25重量%)の保持器)、1000時間の潤滑油浸漬時間後に引張強度が10%以上下がることからも明らかです。」等主張している。
しかしながら、本願の明細書及び図面中には、請求人が主張する円すいころ軸受に発生するスキューに対する強度を高めるとの作用効果については何ら記載されていないし、それらの記載から自明の事項でもない。したがって、上記作用効果は本願補正発明の作用効果と認めることはできない。
そして、本願の明細書に記載されている円すいころ軸受の保持器へのころの無理嵌めの耐性を高めるとの作用効果については、引用発明にも、「適度な柔軟性を有して組み立て時に破損することがなく、また組み込み性に優れ」(摘記事項(ウ)参照)と記載されていることから、当業者が予測しうる範囲内のものである。
また、強化繊維とエラストマーの割合である数値範囲に臨界的意義がないこと、さらには引用発明の強化繊維とエラストマーの割合を考慮すれば、引用発明に基づき、適用対象や具体的素材等に応じて当業者が適宜行う数値範囲の好適化により、本願補正発明の数値範囲のように構成することは当業者にとって容易である点は上記したとおりである。
以上の点により、請求人の上記主張は採用できない。

また、本願補正発明のその他の効果を検討しても、引用発明及び刊行物2に記載された発明から、当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年8月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成17年3月7日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
潤滑油中で使用される転がり軸受用の合成樹脂製保持器であって、直鎖型ポリフェニレンサルファイドを主成分とし、これに強化繊維及びエラストマーを添加しており、上記エラストマーがオレフィン系ポリマーであり、全成分中に占める前記強化繊維の割合が8?40重量%であり、前記エラストマーの割合が5?30重量%であることを特徴とする合成樹脂製保持器。」

(2)刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1、2及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明から「転がり軸受」の限定事項である「円すいころ軸受であり」との構成を省き、同様に「強化繊維」の限定事項である「ガラス繊維であり」、「オレフィン系ポリマー」の限定事項である「エチレン・プロピレン共重合体からなる」、強化繊維の割合としての「8?40重量%」の限定事項である「20?30重量%」、エラストマーの割合としての「5?30重量%」の限定事項である「6.5?9.75重量%」、との構成をそれぞれ省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-27 
結審通知日 2008-03-04 
審決日 2008-03-17 
出願番号 特願平6-309575
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬川 裕  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 水野 治彦
溝渕 良一
発明の名称 合成樹脂製保持器  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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