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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20052623 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1177240
審判番号 不服2005-16597  
総通号数 102 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-31 
確定日 2008-05-08 
事件の表示 特願2002-240705「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日出願公開、特開2004- 73652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成14年8月21日の出願であって、平成17年7月25日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年8月31日付けで本件審判請求がされるとともに、同年9月16日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年9月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容及び補正目的
本件補正は特許請求の範囲を補正するものであり、具体的には補正前の請求項3を削除するとともに、請求項1を次のとおり補正するものである。
「遊技者によりスタート操作がされたとき、3つの表示領域で種々の図柄の変動表示を開始する変動表示手段と、
前記スタート操作に基づいて入賞役の抽選を実行する抽選手段と、
前記3つの表示領域での変動表示をそれぞれ停止させる3つの停止ボタンのうち、操作された停止ボタンに対応する表示領域の変動表示を停止制御する停止制御手段と、
正面側から見て前記変動表示手段よりも手前側に設けられ、演出画像を表示する演出表示手段と、
前記変動表示手段と前記演出表示手段との間に設けられた、前記3つの表示領域に対して前記遊技者が前記図柄を視認できる状態と視認できない状態に変更可能な遮蔽手段と、
該遮蔽手段及び前記演出表示手段を制御するサブ制御回路とを備え、前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序と、揃わない停止ボタンの操作順序とが予め定められた前記停止制御手段の制御種別を選択する遊技機において、
前記サブ制御回路は、前記スタート操作の後に、前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域に対して、前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、前記遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、その他の停止ボタンに対応する表示領域に対して、前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とを、前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序に応じて、切替えることを特徴とする遊技機。」(下線部が補正箇所)
本件補正前後の請求項1の記載を比較すると、上記下線部の補正(単に「前記」と追加された部分は除く。)により、「変動表示手段」、「抽選手段」、「停止制御手段」、「遮蔽手段」及び「サブ制御回路」が限定され、「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序と、揃わない停止ボタンの操作順序とが予め定められた前記停止制御手段の制御種別を選択する遊技機」である旨限定されたのだから、特許請求の範囲の減縮(平成18年改正前特許法17条の2第4項2号該当)を目的とするものと認める。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」といい、それは上記補正後の請求項1に記載された事項によって特定される。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-252394号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア?サの記載が図示とともにある。
ア.「透光性の前面側表示手段と、
該前面側表示手段の背後側に配される背後側表示手段と、
遊技機の利用状態を判別する状態判別手段と、
前記状態判別手段の判別結果に応じて前記前面側表示手段を通して認識される前記背後側表示手段の認識具合を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする遊技機。」(【請求項1】)
イ.「請求項1ないし7のいずれか記載の遊技機において、
前記前面側表示手段は自発光型の透明表示器であることを特徴とする遊技機。」(【請求項8】)
ウ.「【発明が解決しようとする課題】本発明は、透光性の前面側表示手段の背後側に背後側表示手段を配して重畳表示を行う遊技機において、例えば前面側表示手段による表示内容だけを目立たせたい場合のように、前面側表示手段または背後側表示手段の一方の表示を遊技者に良好に視認可能とすることを目的としている。」(段落【0006】)
エ.「背後側表示手段としては、照明の存在下で表示が明瞭になる形態のもの、例えば図柄が描かれているリール(ドラム)やベルト等の回転体の回転と停止で図柄を表示する機械的な表示手段を備えるもや、EL表示器、CRT、LEDのドットマトリクスのように自発光するものを採用できる。照明の存在下で表示が明瞭になる形態のものであれば、その照明の明るさを制御すればよいし、EL表示器、CRT等の自発光するものならその発光の強さ(輝度)を制御すればよい。この際に照明やEL表示器、CRT等を消灯することも可能である。」(段落【0009】)
オ.「【実施例】図1は本実施例のスロットマシン15の表示部の概要図である。前面枠11にはパネル6が装着されており、遊技店に設置した状態で遊技者7に対面する位置に表示窓6aが設けられている。パネル6の背面側には、前面側表示手段に該当する光透過型の透明ELパネル5が取り付けられている。・・・また、透明ELパネル5の背後側(図2に示す筐体10の内部)には、背後側表示手段に該当する回転リール表示器2が配されている。回転リール表示器2は、3個のリール2aとこれらを回転駆動するモータ2b(図4参照)等から構成されている。各リール2aには、図1(b)に例示する図柄2c($、7、X等)が描かれており、表示窓6aからは各3個の図柄2cを見ることができる。つまり、3つのリール2aにより3×3のマトリクス状の表示が行われる。」(段落【0020】?【0021】)
カ.「前面枠11の内側で透明ELパネル5の斜め上方となる位置には、照明手段に該当する蛍光灯9が配されており、蛍光灯9を点灯することでリール2aを照明できる。さらに前面枠11には、スタートレバー3、ストップスイッチ4等のスロットゲームを行うために遊技者が操作するスイッチ類やメダル投入口14等が設置されている。図1(b)に示すように、ストップスイッチ4は、各リール2aに対応する位置に1個ずつ配されている。」(段落【0022】)
キ.「透明ELパネル5には、駆動回路12が一体化されており、筐体10側に収容されている本体メイン基板13とはハーネス12aを介して接続されている。」(段落【0025】)
ク.「ゲームを実行するために遊技者がメダル投入口14からメダルを投入すると、メダル投入センサ14aがメダルを検出する毎に投入信号を出力し、これが本体メイン基板13に入力される。すると、CPU20aは、投入信号すなわち投入されたメダル数(ベット数)に応じて有効な入賞ラインL1?L5を設定し、これを図4に示すように透明ELパネル5に表示させる。」(段落【0029】)
ケ.「メダルの投入あるいはベットスイッチの操作により有効な入賞ラインL1?L5が決まってから、遊技者がスタートレバー3を押し下げると、これに連動するスタートスイッチ3aからの始動信号が本体メイン基板13に入力される。すると、CPU20aは、3つのモータ2bの回転を開始させ、3本のリール2aを回転させる。これにより図柄2cが変動表示される。・・・またCPU20aは、始動信号が入力されると例えばRAM20cの一部を使用するソフトウエアカウンタによって生成された乱数値を読み込んで、これが複数種類用意されている当たり値のいずれかと一致するか否かにより、入賞、ボーナスモードまたはビッグボーナスモードへの移行或いは外れを判定する。入賞には当たり値によってランクがあり、例えば2枚払出の入賞から15枚払出の入賞までさまざまである。」(段落【0031】?【0032】)
コ.「リール2aの回転開始後にストップスイッチ4が操作されたことによりストップ信号が入力されると、CPU20aは、操作されたストップスイッチ4に対応するリール2aを停止させて図柄2cを静止表示させる。この際、CPU20aは、自身で決めた図柄2cの組合せとなるようにリール2aの停止位置を制御するが、ストップスイッチ4の操作から停止させるまでのリール2aの回転量にはおのずと制限があるので(スイッチ操作から停止までの時間が長いと遊技者が不信感を抱くので)、ほとんど即座に停止させなければならない。したがって、決めた通りの図柄2cの組合せとならないこともある。」(段落【0034】)
サ.「図10のように、透過型液晶シャッター23を背後側表示手段2(回転リール表示器)と前面側表示手段5との間に配置し、遊技機が利用されていないときに該液晶シャッター23に通電し、前面側表示手段5を通しての背後側表示手段2の認識ができないようにしても勿論よい。」(段落【0053】)

3.引用例1記載の発明の認定
引用例1の【図10】には、遊技者側から順に符番23の部材、符番5の部材及び符番2の部材(これが「背後側表示手段」に該当することは明らかである。)が配された図が図示されており、記載サによれば、符番23が「透過型液晶シャッター」に、符番5が「前面側表示手段」に対応することになるが、そうすると透過型液晶シャッターと前面側表示手段の配置順序が、記載サと【図10】で矛盾することになるから、どちらの配置が正しいのか検討する。
記載サによれば、前面側表示手段を通しての背後側表示手段の認識ができないようにするために透過型液晶シャッターを設けたのであるが、透過型液晶シャッターが前面側表示手段よりも遊技者側にあったのでは、シャッターを閉じた際に前面側表示手段をも視認できなくなるから、透過型液晶シャッターは前面側表示手段よりも背後側表示手段側、すなわち前面側表示手段と背後側表示手段側の間になければならない。【図10】においても、背後側表示手段2からの光が符番5の部材で遮断される様子が図示されていることからみても、【図10】における符番5と符番23が、それぞれ符番23と符番5の誤記であることは明白である。
したがって、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「透光性の前面側表示手段と、該前面側表示手段の背後側に配され、図柄が描かれた3個のリールからなる背後側表示手段と、前面側表示手段及び背後側表示手段の間に配置され、駆動回路が一体化された透過型液晶シャッターと、スタートレバー及び3個のリールに対応した3個のストップスイッチを備え、
スタートレバーの操作により始動信号が本体メイン基板に入力され、乱数値を読み込んで、これが複数種類用意されている当たり値のいずれかと一致するか否かにより入賞又は外れを判定し、3個のストップスイッチの操作により、対応するリールを停止制御する遊技機。」(以下「引用発明1」という。)

4.補正発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「スタートレバーの操作」及び「3個のリール」は、補正発明の「遊技者によりスタート操作」及び「3つの表示領域」にそれぞれ相当し、引用発明1ではリールが回転する(スタート操作により回転を開始する。)ことによって表示される図柄が変動するから、引用発明1の「背後側表示手段」は補正発明の「変動表示手段」に相当する。
引用発明1では、スタートレバーの操作を契機として「乱数値を読み込んで、これが複数種類用意されている当たり値のいずれかと一致するか否かにより入賞又は外れを判定」するのだから、補正発明でいう「前記スタート操作に基づいて入賞役の抽選を実行する抽選手段」を備えることは明らかである。
引用発明1の「3個のリールに対応した3個のストップスイッチ」は補正発明の「前記3つの表示領域での変動表示をそれぞれ停止させる3つの停止ボタン」に相当し、「対応するリールを停止制御」する以上、引用発明1が「操作された停止ボタンに対応する表示領域の変動表示を停止制御する停止制御手段」を備えることも明らかである。
引用発明1の「透光性の前面側表示手段」は「変動表示手段」(背後側表示手段)よりも遊技者側(補正発明の「手前側」に相当)にあり、当然何らかの演出画像を表示するものと認める。記載クの「有効な入賞ライン」表示も演出と捉えることができるし、仮に引用例1の記載のみから「演出画像を表示する」とまで認定できないとしても、変動表示手段の手前側に設けた表示手段によって各種演出画像を表示することは周知である(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された「パチスロ攻略マガジン,日本,株式会社双葉社,2002年8月1日,2002 8月号,4?9頁」に紹介されているとおり、パチスロ機「ネオプラネットXX」(引用例1の出願人である山佐株式会社製造販売に係るパチスロ機である。)では、手前側の透明ELディスプレイ(引用発明1の「前面側表示手段」の実施例に当たる。)にて各種演出画像を表示している。)から、「演出画像を表示する演出表示手段」であるかどうかを相違点と認定しても、どのみち容易想到の域を出ないことが明らかであって、進歩性又は独立特許要件の判断には影響を及ぼさない。ここでは、一致点として扱う。
引用発明1の「透過型液晶シャッター」は、「背後側表示手段」の認識ができないようにするものであるが、当然シャッターを開いている際には認識できるようにするものであるから、補正発明の「前記変動表示手段と前記演出表示手段との間に設けられた、前記3つの表示領域に対して前記遊技者が前記図柄を視認できる状態と視認できない状態に変更可能な遮蔽手段」に相当する。
引用発明1の「駆動回路」と補正発明の「サブ制御回路」は、「演出表示手段を制御する」回路の限度では共通する。以下では、遮蔽手段を制御するかどうか相違点として扱い、補正発明の用語を用いて「サブ制御回路」の点で一致するものとする。
引用発明1においては、「透過型液晶シャッター」が開いた状態及び閉じた状態があり、前者は補正発明の「前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、遊技者が前記図柄を視認可能な状態」に、後者は「前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態」にそれぞれ相当する。
また、補正発明の「第1制御状態」及び「第2制御状態」について検討するに、それぞれ「前記演出表示手段を制御する」との限定はあるものの、演出表示手段において演出表示することを限定しているわけではなく、何も表示しないことも「演出表示手段を制御」に該当する。発明の詳細な説明を参酌しても、「停止操作するべき停止ボタンに対応するリールの表示領域のみ電子シャッター部22を透過制御し、その他の表示領域を遮蔽制御することで、適切な停止操作を示唆する。」(段落【0080】)、「図15(b)は、図15(a)の状態で、遊技者が右停止ボタン15Rを停止操作したときのパネル表示部7を示す図である。右停止ボタン第1停止は正当な停止操作なので、図15(a)において、回転中の右リール24R全体が視認されていた右リール24Rの表示領域について、内部当選役であるベルの図柄のみ視認可能として、その他の表示領域を遮蔽することで、正しい停止操作であったことを遊技者に報知している。また、図15(a)において遮蔽されていた左リール24Lの表示領域が透過状態となって、回転中の左リール24Lが視認可能な状態となっており、遊技者に左リール24Lを操作すべきことを示唆している。」(段落【0081】)及び「図15(c)は、図15(b)の状態で、遊技者が左停止ボタン15Lを操作したときのパネル表示部7を示す図である。左停止ボタン第2停止は正当な停止操作なので、図15(b)において、回転中の左リール24L全体が視認されていた左リール24Lの表示領域について、内部当選役であるベルの図柄のみ視認可能として、その他の表示領域を遮蔽することで、正しい停止操作であったことを遊技者に報知している。また図15(b)において遮蔽されていた中リール24Cの表示領域が透過状態となって、回転中の中リール24Cが視認可能な状態となっており、遊技者に残りの中リール24Lを操作すべきことを示唆している。」(段落【0082】)との記載があり、これら記載と【図15】によれば、「入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域」(【図15】(a)の右リール24Rの表示領域、【図15】(b)の左リール24Lの表示領域」及び【図15】(c)の中リール24Cの表示領域がこれに該当)に対して、演出表示手段においては何も表示していない。上記の理由から、演出表示手段において演出表示する趣旨であれば、請求項1の記載は著しく不明確であるとともに、補正発明は発明の詳細な説明に記載されていない(特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たしていない。)ことになるから、この理由のみで補正発明は独立特許要件を欠如することになる。
上記のとおり、補正発明の「第1制御状態」及び「第2制御状態」において、演出表示手段において何らかの演出表示をすることは限定されておらず、そうである以上、引用発明1においても、「前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、遊技者が前記図柄を視認可能な状態」及び「前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態」のそれぞれにおいて、演出表示手段(前面側表示手段)を制御するといえる。
引用発明1において、「透過型液晶シャッター」を制御する回路は当然備わっており、同回路と引用発明1の「駆動回路」全体では、「前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、前記遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とを切替える」ように制御することが明らかである。
したがって、補正発明と引用発明1は、
「遊技者によりスタート操作がされたとき、3つの表示領域で種々の図柄の変動表示を開始する変動表示手段と、
前記スタート操作に基づいて入賞役の抽選を実行する抽選手段と、
前記3つの表示領域での変動表示をそれぞれ停止させる3つの停止ボタンのうち、操作された停止ボタンに対応する表示領域の変動表示を停止制御する停止制御手段と、
正面側から見て前記変動表示手段よりも手前側に設けられ、演出画像を表示する演出表示手段と、
前記変動表示手段と前記演出表示手段との間に設けられた、前記3つの表示領域に対して前記遊技者が前記図柄を視認できる状態と視認できない状態に変更可能な遮蔽手段と、
前記演出表示手段を制御するサブ制御回路とを備えた遊技機において、
前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、前記遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とを切替える遊技機。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明の「サブ制御回路」は、「演出表示手段」だけでなく「遮蔽手段」をも制御するのに対し、引用発明1のそれが「遮蔽手段」をも制御するかどうか明らかでない点。なお、第1制御状態と第2制御状態の切替えを「サブ制御回路」が行うことはこの相違点に付随する結果にすぎす、別途独立した相違点ではない。
〈相違点2〉補正発明が「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序と、揃わない停止ボタンの操作順序とが予め定められた前記停止制御手段の制御種別を選択する遊技機」であるのに対し、引用発明1がそのような遊技機であると認めることができない点。
〈相違点3〉「第1制御状態」と「第2制御状態」の切替えにつき、補正発明では「前記スタート操作の後に、前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域に対して、前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として、前記遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、その他の停止ボタンに対応する表示領域に対して、前記遮蔽手段を遮蔽状態として前記遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とを、前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序に応じて、切替える」としているのに対し、引用発明1ではこのような切替えを行っていない点。

5.相違点の判断及び補正発明の独立特許要件の判断
(1)相違点1について
引用発明1に遮蔽手段を制御する回路が存することには疑いの余地がない。そして、引用発明1の制御手段は、前面側表示手段(演出表示手段)の視認性を向上するために、背後側表示手段(変動表示手段)を認識する必要がない場合に、背後側からの光を遮蔽するために設けられた手段である。また、遮蔽手段の状態そのものは、背後側表示手段の視認性には影響するが、遊技の進行そのものを支配しない。
そして、遊技機においては、遊技の進行を支配する部材に対しての制御回路と、遊技の進行を支配せず、演出等を司る部材に対しての制御回路を1つの別回路として構成すること周知である。
そうであれば、引用発明1において、前面側表示手段と遮蔽手段を1つの制御回路で制御することには、何の困難性もなく、当業者にとって想到容易といわざるを得ない。

(2)相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-200219号公報(以下「引用例2」という。)は発明の名称を「回胴式遊技機」とする公開公報であって、「各図柄リール11、12、13毎に、各図柄リールの左右両側に告知表示器20が配置されている。」(段落【0013】)及び「(3)図柄リールの停止順序を、点滅表示によって案内する。」(段落【0019】)との各記載がある。段落【0019】の記載において、案内表示された順序でリールの停止操作を行えば、それ以外の順序で停止操作を行った場合よりも遊技者にとって有利であることは当業者には自明である。引用例2の上記記載からは、案内表示された順序であれば「図柄組合せが揃」い、それ以外の順序であれば「揃わない」ことまでは認定できないものの、それは遊技者にとっての有利・不利のもっともありふれた態様(例えば、実用新案登録第3077924号公報の段落【0111】及び【0113】にそのような態様が記載されている。)である。
そして、引用発明1において、引用例2記載の技術を適用し、その際案内表示された順序と有利不利の関係を上記のとおりのありふれた態様とすることには何の困難性もない。そのようにすれば、「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序と、揃わない停止ボタンの操作順序とが予め定められた前記停止制御手段の制御種別を選択」せざるを得ないから、相違点2に係る補正発明の構成に至ることには何の困難性もなく、当業者にとって想到容易である。

(3)相違点3について
「停止ボタンの操作順序」についての報知ではなく、内部当選(補正発明でいう「入賞役の抽選」結果)についての報知ではあるが、リール(変動表示手段)停止時にリール照明手段を消灯することは、例えば特開2000-135306号公報に示されているように周知である。
相違点2の容易想到性については前項で説示したとおりであるが、引用例2においては、各図柄リールの左右両側に配置した告知表示器にて「停止ボタンの操作順序」を報知しており、報知の位置において、上記周知技術と同一とまではいえないが、近接した位置である。また、上記周知技術においては、リール照明手段を消灯により遊技情報を報知しているのだから、引用例2記載の告知表示器を設ける必要がなく(引用例2記載の遊技機では、告知表示器を他の告知にも用いているから、その遊技機で省略できるかどうかは別問題であるが、「停止ボタンの操作順序」の報知だけを意図するならば省略できる。)、装置を簡素化することができる。
そうであれば、引用発明1を出発点として、相違点2に係る補正発明の構成を採用するに際し、「停止ボタンの操作順序」についての報知として、上記周知技術同様リール照明手段の消灯を採用することには、それを妨げる特段の事情がない限り当業者にとって想到容易である。
そこで、特段の事情の有無につき検討するに、リール照明手段を消灯すれば図柄視認性が損なわれるから、リール図柄を視認する必要性があれば特段の事情に該当するし、その必要性がなければ該当しない。上記周知技術において、リール停止時にリール照明手段を消灯することも、停止前は図柄視認の必要性があるためである。そして、相違点2に係る補正発明の構成を採用する以上、停止ボタンの操作順序によって図柄組合せが揃うか揃わないかが定まっているのだから、図柄を視認する必要性はないというべきである。その場合、「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域」を消灯しても、「その他の停止ボタンに対応する表示領域」を消灯しても、遊技者が行うべき停止順序は報知されるから、どちらを採用しようと設計事項であるが、遊技者の心理を考慮すれば、これから停止しようとするリール(「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域」)の図柄を視認できる方が好ましいことはたやすく予測できる。
さらに、引用例1の記載エ及び記載サによれば、引用発明1の「透過型液晶シャッター」は、照明を消灯することに代わる手段として採用されたものといえるから、引用発明1を出発点として、相違点2に係る補正発明の構成を採用するに当たっては、リール照明手段の消灯という技術をそのまま採用するのではなく、そのまま採用した場合に消灯すべき領域となる「その他の停止ボタンに対応する表示領域」が「遮蔽状態」に、「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う操作順序の停止ボタンに対応する表示領域」が「透過又は半透過状態」となるように遮蔽手段を制御する(当然「前記入賞役が入賞となる図柄組合せが揃う停止ボタンの操作順序に応じて」の制御であり、切替えである。)ことは当然というべきである。もちろん、引用発明1の「透過型液晶シャッター」は、領域を区分して「遮蔽状態」と「透過又は半透過状態」を切り替えるものではないけれども、領域を区分してシャッター機能を有する程度のことには何の技術力も要さない(区分した領域ごとに個別電極を設けるだけのことである。)。
以上のとおりであるから、相違点3に係る補正発明の構成を採用することも当業者にとって想到容易である。

(4)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1?3に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1,引用例2記載の技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反しており、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年3月10日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「種々の図柄を変動表示する変動表示手段と、
入賞役の抽選を実行する抽選手段と、
前記変動表示を停止制御する停止制御手段と、
正面側から見て前記変動表示手段よりも手前側に設けられ、演出画像を表示する演出表示手段と、
前記変動表示手段と前記演出表示手段との間に設けられた遮蔽手段と、
該遮蔽手段及び前記演出表示手段を制御するサブ制御回路とを備えた遊技機において、
前記サブ制御回路は、所定の条件に基づいて、前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、前記遮蔽手段を遮蔽状態として遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とに切替えることを特徴とする遊技機。」

2.本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
「第2[理由]4」で述べたことを踏まえて検討する。「第2[理由]4」で述べたとおり、引用発明1も「前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、前記遮蔽手段を遮蔽状態として遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とに切替える遊技機」であり、その切替えが何らかの条件に基づくことはいうまでもない。そして、本願発明の「所定の条件に基づいて、」は、その条件を特定するものではないから、本願発明と引用発明1の相違点を構成しない。
また、「第1制御状態」及び「第2制御状態」において、「演出表示手段を制御する」との文言について再度検討するに、同文言が演出表示手段において何かを表示する趣旨でないことは「第2[理由]4」で述べたとおりであるが、仮にその趣旨であるとしても、引用発明1においても、記載ク及び【図3】に見られるようにリール図柄に重ねて有効な入賞ラインを前面側表示手段に表示(第1制御状態)したり、記載サに見られるように背後側表示手段(リール)の認識ができないように前面側表示手段に表示(第2制御状態)しているのだから、一致点であることに変わりはない。
したがって、本願発明と引用発明1は、
「種々の図柄を変動表示する変動表示手段と、
入賞役の抽選を実行する抽選手段と、
前記変動表示を停止制御する停止制御手段と、
正面側から見て前記変動表示手段よりも手前側に設けられ、演出画像を表示する演出表示手段と、
前記変動表示手段と前記演出表示手段との間に設けられた遮蔽手段と、
前記演出表示手段を制御するサブ制御回路とを備えた遊技機において、
所定の条件に基づいて、前記遮蔽手段を透過又は半透過状態として遊技者が前記図柄を視認可能な状態で前記演出表示手段を制御する第1制御状態と、前記遮蔽手段を遮蔽状態として遊技者が前記図柄を視認不可能な状態で前記演出表示手段を制御する第2制御状態とに切替える遊技機。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉本願発明の「サブ制御回路」は、「演出表示手段」だけでなく「遮蔽手段」をも制御するのに対し、引用発明1のそれが「遮蔽手段」をも制御するかどうか明らかでない点。なお、第1制御状態と第2制御状態の切替えを「サブ制御回路」が行うことはこの相違点に付随する結果にすぎす、別途独立した相違点ではない。

3.相違点の判断及び本願発明の進歩性の判断
上記相違点は、補正発明と引用発明1の相違点1と同一であるから、「第2[理由]5(1)」で述べたことがそのまま当てはまり、当業者にとって何の困難性もない。そして、相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-05 
結審通知日 2008-03-11 
審決日 2008-03-24 
出願番号 特願2002-240705(P2002-240705)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀬津 太朗  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 ▲吉▼川 康史
中槙 利明
発明の名称 遊技機  
代理人 正林 真之  

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