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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B62D
管理番号 1178057
審判番号 無効2007-800012  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-01-24 
確定日 2008-04-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3222309号発明「タンクローリ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3222309号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1) 本件特許第3222309号の請求項1及び2に係る発明についての出願は,平成6年3月1日に出願され,平成13年8月17日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
(2) これに対して,請求人は,本件特許の請求項1及び2に係る発明は,甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に違反していると主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。
(3) 被請求人は,平成19年5月2日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
2.訂正の可否に対する判断
(1)訂正請求の内容
当該訂正請求の内容は,本件特許の請求項1及び2に係る発明の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。 すなわち,特許請求の範囲の請求項2を削除して特許請求の範囲を請求項1のみに訂正し、それにあわせて明細書の記載を整合させることを求めるものである。
(2)これらの訂正事項について検討すると,上記訂正は,請求項2を削除するものであるから,上記訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,いわゆる、新規事項の追加に該当せず,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。また、請求項2の削除にあわせて明細書の記載を整合させることは、明瞭でない記載の釈明に該当するものである。
(3)したがって,平成19年5月2日付けの訂正は,平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書の規定,特許法第134条の2第5項の規定において準用する平成6年改正前特許法126条2項の規定に適合するので,当該訂正を認める。

3.請求人の主張
これに対して,請求人は,本件発明の特許を無効とする,との審決を求め,その理由として,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は無効とされるべきであると主張し,証拠方法として甲第1?6号証を提出している。さらに、平成19年7月13日に提出した弁駁書において周知の事例として、甲第7?9号証を提出している。

4.被請求人の主張
一方,被請求人は,甲第1号証?甲第6号証には本件発明のステー部及びその構成が記載されていないし、示唆もされていない旨、主張し乙第1?3号証を提出している。

5.本件の発明
本件の発明は,訂正明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 タンクを搭載したトレーラーがトラクタにて牽引される、トレーラータイプのタンクローリであって、該トラクタの後部フレーム上にカプラが付設されると共に、該トレーラーの前端部下にキングピンが垂下設されて該カプラに回動自在に嵌挿保持され、もって、該トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結されており、
該トレーラー上には、該タンクとそのステー部とが搭載され、該タンクは、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷が積載されると共に、マンホールや底弁等の積荷用設備が付設されており、該ステー部は、該タンクの閉鎖された前側に一体的に連設され、該タンクと同一断面形状をなすと共に前側が閉鎖された中空構造よりなり、前記積荷は積載されず前記積荷用設備も付設されず、前記キングピンやカプラ上に位置していること、を特徴とするタンクローリ。」(以下「本件特許発明」という。)

6.甲第各号証と記載事項及び引用発明
(1)甲第各号証
甲第1号証:特開平5-278514号公報
甲第2号証:実願昭63-161641号(実開平2-83295号)の マイクロフィルム
甲第3号証:"Freightliner-Heil Consortium Designs Advanced Concept Safety Tank Truck " ,Trailer/Body Builders,Vo.31,No.1,November 1989,pp.38-42
甲第4号証:ドイツ特許DE4006810 A1明細書
甲第5号証:"Prototype Safety Tank Trailer ,Truck Undergoing Fleet Testing in Germany",Modern Bulk Transporter,Vol.50,No.8,February 1988,pp.58-62
甲第6号証:”FACT-The Freightliner/Heil Advanced Concept Truck", SAE Technical Paper Series 892462,Society of Automotive Engineers,Inc., Truck and BusMeeting and Exposition,Charlotte,North Carolina,November 6-9,1989,pp.1-25
また、周知例として
甲第7号証:米国特許第4,877,293号明細書
甲第8号証:米国特許第5,026,228号明細書
甲第9号証:特開昭49-87015号公報

(2)記載事項及び引用発明
(イ)上記の甲第6号証の第10頁右欄第16行?第33行には,FIG.1(FACTの写真)、FIG.26(TOPASの写真)のタンクトレーラの構成として
「Rupture resistance improvements, ・・・ ・・・ "Crush"areas have been added to both the front and the rear of the liquid vessel. ・・・ Dimensionally,the end "Crush" areas are configured as vessel "Voids". Shaped as an integral portion of the vessel itself they provide a stand off depth of 15 inches separating these end caps from the longitudinal terminations of the liquid carrying vessel.」
(「耐衝撃性の改善は、・・・ ・・・液体容器の前部および後部の両方に「クラッシュ」領域を加えた。・・・ ・・・寸法上は、端部の「クラッシュ」領域は、容器の「ボイド」として構成される。これらの領域は容器自体の一体部分として形成され、これらのエンドキャップを液体収容容器の長手方向の終端から隔離する、15インチの隔離された奥行きを設ける。」) (請求人の提出した甲第6号証の抄訳文より摘記)が記載されている。
また、FIG.1及びFIG.26には「トレーラーがトラクタに牽引されるトレーラータイプのタンクローリ」が記載されている。
ところで、上記(イ)の記載事項及びFIG.1、FIG.26の記載事項を総合すると甲第6号証には次の発明が記載されているものと認められる。
「liquid vessel(液体容器)を搭載したトラクタに牽引されるトレーラータイプのタンクローリであって、トレーラー上には、"Crush"areas(「クラッシュ」領域)とliquid vessel(液体容器)とが搭載され、liquid vessel(液体容器)は、前後が閉鎖された筒状をなし、"Crush"areas(「クラッシュ」領域)は、 liquid vessel(液体容器)の閉鎖された前部と後部に一体部分として形成される共に閉鎖された vessel"Voids"(容器の「ボイド」)よりなるタンクローリ。」 (以下「引用発明」という。)

(ロ)トレーラとトラクタの連結関係において、トラクタ後部のカプラと、トレーラーの前端部下のキングピンとの結合により、トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結されるものは周知である。(例えば、実願昭51-139520号(実開昭53-56619号)のマイクロフイルム(第1図)、実公昭43-1363号公報、特開昭57-99428号公報参照)
また、牽引型トレーラーにおいて、積荷の前後方向の荷重中心が大きく後方に移動させるように積荷の前部を、牽引車とトレーラーの接続部分に対して大きく後方に離れて位置させるものも周知である。実際、上記甲第7号証の第2欄第14?20行目及びFIG.1には
「Referring to FIG.1,the rear wheel axle assembly 20 includes a set of wheels 21 and is shown located directly under the rear end of the cargo box 18. In this position, the major portion of the cargo box load will be concentrated on the rear wheel 12 with a minimum load on the fifth wheel 12 because the front of the box is spaced from the fifth wheel 12.」
(「図1を参照すると、後輪軸アセンブリ20は、車輪21の組を含み、かつ貨物ボックス18の後端のすぐ下に位置して示される。この位置においては、貨物ボックス積荷の大部分は、後輪21に集中して、5番目の車輪12に最小の荷重がかかる。なぜなら、ボックスの前部は5番目の車輪12から離れているからである。」)(請求人の提出した甲第7号証の抄訳)が記載され、甲第8号証のSBSTRACT及びFIG.1には、「・・・結果的に、水圧アクチュエーター(65)のシャフト(39)にエネルギーが与えられた場合、コンテナ(27)はトレーラー(13)の縦軸に沿って後ろにスライドする。コンテナ(27)は、コンテナ(27)の後ろの通路がトレーナー(13)の後端(25)と垂直に並んでいる積荷位置と徐荷位置との間と、コンテナ(27)がトレーラーの直列方の後輪(29)とトレーラー(13)を引っ張るトラクタ(15)の後輪(31)との間の中心にある移動位置との間で移動される。」(請求人の提出した甲第8号証の抄訳)が記載され、さらに、甲第9号証の第2頁左下欄5?15行及びFIG.1には「第1図に示す車輌は、トラックトラクタ10とトレーラ11とを含む型のセミトレーラである。トレーラ11は、コンテナ12とフレーム13とから成る自己支承構造であって、フレーム13はコンテナ12の本来の意味の枠組を成すものではない。コンテナ12そのものがトレーラの支承構造の一部を成しており、フレーム13は引張り応力を受ける部材だからである。トレーラはその前端においてトラックトレーラの上にスイベル14によって支承され、後端においても3軸車輪組立体15によって支承されている。」が記載されており、いずれのものからも「牽引型トレーラーにおいて、積荷の前後方向の荷重中心が大きく後方に移動させるように積荷の前部を、牽引車とトレーラーの接続部分に対して大きく後方に離れて位置させる」ということが明らかである。

7.対比
本件特許発明と上記の引用発明とを比較すると,引用発明の「liquid vessel(液体容器)」は、液体を収納する容器であるところから、閉鎖されており、内部に各種油その他液状の積荷が積載されると共にマンホールや底弁等の積荷用設備が付設されていることは明らかであるから、本件特許発明の「タンク」に相当する。また、「Voids (ボイド)」とは「中空」の意であり、引用発明の「vessel"Voids"(容器の「ボイド」)」は上記の記載事項6.(2)(イ)及び甲第6号証のFIG.1からみれば、liquid vessel (液体容器)の閉鎖された前部と後部に一体的に連設されると共に閉鎖された中空構造であるから、引用発明の「"Crush"areas(「クラッシュ」領域)」は本件特許発明の「中空構造」からなる「ステー部」と同様に、「中空構造部」を構成している点で共通している。
したがって、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「タンクを搭載したトレーラーがトラクタにて牽引されるトレーラータイプのタンクローリであって、該トレーラー上には、該タンクと中空構造部とが搭載され、該タンクは、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷が積載されると共に、マンホールや底弁等の積荷用設備が付設されており、該中空構造部はタンクに一体的に連設され、閉鎖された中空構造よりなるタンクローリ。」

相違点は、次のとおりである。
(相違点1)
本件特許発明は「トラクタの後部フレーム上にカプラが付設されると共に、トレーラーの前端部下にキングピンが垂下設されてカプラに回動自在に嵌挿保持され、もって、トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結され」ているが、引用発明ではそのような構成が不明である点。
(相違点2)
中空構造部が、本件特許発明は「ステー部」で「キングピンやカプラ上に位置し」ており「積荷は積載されず積荷用設備も付設されていない」のに対して、引用発明では「"Crush"areas(「クラッシュ」領域)」であり、キングピンやカプラとの位置関係、積荷や積荷用設備について明らかでない点。
(相違点3)
本件特許発明の「ステー部」は、タンクの閉鎖された前側に連設され、タンクと同一断面形状をなすのに対して、引用発明の「"Crush"areas(「クラッシュ」領域)」は、「liquid vessel(液体容器)」の閉鎖された前部と後部に形成され、「liquid vessel(液体容器)」と同一断面形状をなすかどうか不明である点。

8.相違点についての当審の判断
上記相違点について検討する。
(イ)(相違点1)について
トレーラとトラクタの連結関係において、トレーラーの前端部下にキングピンが垂下設されて、トラクタ後部に付設されたカプラに回動自在に嵌挿保持されることにより、トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結されるものは、上記記載事項6.(2)(ロ)に示されているように、当該技術分野において普通に知られた周知技術といえるし、また、このような周知技術の採用は、必要に応じて適宜実施されるべき通常の技術事項である。そうすると、引用発明においても、上記のような周知技術を採用して、上記相違点1で指摘した本件特許発明の構成と同様にすることは、当業者が容易に想到し得た設計事項といえる。

(ロ)(相違点2)について
牽引型トレーラーにおいて、トレーラーのフレームの前部で、キングピン上に位置するキングピン取付部に補強部を設けることは、周知の技術である(例えば、実願昭54-126327号(実開昭56-43672号)のマイクロフイルム参照)。そして、引用発明の「"Crush"areas(「クラッシュ」領域)」の「vessel"Voids"(容器の「ボイド」)」は「耐衝撃性の改善」を目的とするものであるから(上記記載事項6.(2)(イ))参照)、該「 "Crush"areas(「クラッシュ」領域)」はある一定の強度をもって作られているものと認められる。引用発明におけるトレーラータイプのタンクローリも牽引型トレーラーの一形態であるから、牽引型トレーラーのキングピン取付部を補強する上記周知の技術を勘案すれば、引用発明における「liquid vessel (液体容器)」前部の「" Crush" areas (「クラッシュ」領域)」は一定の強度を有するので、キングピンやカプラ上に位置させて補強部として機能させることは可能である。
また、引用発明における「ボイド(中空)」の「 "Crush"areas(「クラッシュ」領域)」は、「liquid vessel (液体容器)」と区別されているところからみて、積荷の積載、積荷用設備の付設が必要ないことは明らかである。
してみれば、「中空構造部」としての引用発明の「"Crush"areas(「クラッシュ」領域)」を周知であるキングピン取付部の補強部として、本件特許発明のタンク前部の補強用の「ステー部」とすることは当業者が容易に想到し得たものといえる。 そして、そのような結果として、引用発明の「 "Crush"areas (「クラッシュ」領域)」は、本件特許発明の「ステー部」と同じく、「タンクの前部は確実に保持され十分に補強される」という効果も奏するものと認められる。

(ハ)(相違点3)について
「牽引型トレーラーにおいて、積荷の前後方向の荷重中心を、大きく後方に移動できるように積荷の前部を、牽引車とトレーラーの接続部分に対して大きく後方に離れて位置させる」ことは周知の事項であり(上記6.(2)(ロ)の記載事項参照)、引用発明において衝撃保護部材である「"Crush" areas 」(「クラッシュ」領域)」は「 liquid vessel (液体容器)」の前部と後部の両方に形成されているが、この場合、タンク前部でも、タンク後部でも、タンクの前部と後部の両方でも、衝撃保護を必要と考える箇所に設ければよく、前部に設ければ上記の周知の技術からみて荷重中心が後方に位置することは明らかである。
また、"Crush"areas (「クラッシュ」領域)の構成として、タンクの前部又は後部の全面を保護する必要性のあることを考慮すれば、全面にわたって "Crush"areas (「クラッシュ」領域)を設けることが通常であって、また、断面形状を変えなければならない特別の技術的必要性もないことから、断面形状をliquid vessel(液体容器)と同一断面形状をなすように設定することは当業者が容易に成し得たものである。(中空構造の断面形状をタンクと同一断面形状とすることは、例えば、上記6.(1)の甲第2号証である実願昭63-161641号(実開平2-83295号)のマイクロフイルムを参照)

そして、本件特許発明の作用効果について検討しても、引用発明及び周知事項から当業者が予測できる範囲内のものである。

9.むすび
以上のとおりであるから,本件特許発明は,引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり,同法123条1項2号に該当する。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
タンクローリ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】タンクを搭載したトレーラーがトラクタにて牽引される、トレーラータイプのタンクローリであって、該トラクタの後部フレーム上にカプラが付設されると共に、該トレーラーの前端部下にキングピンが垂下設されて該カプラに回動自在に嵌挿保持され、もって、該トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結されており、
該トレーラー上には、該タンクとそのステー部とが搭載され、該タンクは、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷が積載されると共に、マンホールや底弁等の積荷用設備が付設されており、該ステー部は、該タンクの閉鎖された前側に一体的に連設され、該タンクと同一断面形状をなすと共に前側が閉鎖された中空構造よりなり、前記積荷は積載されず前記積荷用設備も付設されず、前記キングピンやカプラ上に位置していること、を特徴とするタンクローリ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はタンクローリに関する。すなわち、タンクの内部に各種油その他液状の積荷を積載して運搬する、タンクローリに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図4は、従来のトレーラータイプのタンクローリにおけるトレーラーを示し、(1)図は側面概略図、(2)図は平面概略図、(3)図はトラクタ側のカプラ等と共に示した側面概略図である。同図にも示したように、トレーラータイプのタンクローリでは、タンク1を搭載したトレーラー2がトラクタ3にて牽引される。そして、トラクタ3の後部フレーム4上にカプラ5が付設されると共に、トレーラー2のフレーム6の前端部下にキングピン7が垂下設されて、カプラ5に回動自在に嵌挿保持され、もって、トラクタ3とトレーラー2が左右に揺動可能に連結されている。そしてタンク1は、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷Aが積載されるが、従来、タンク1の前部にはステー8が付設されており、このようなステー8が、タンク1の前部を保持しつつキングピン7やカプラ5上に位置していた。
【0003】
すなわち、タンク1に積載された積荷Aの前後方向の荷重配分,耐荷重限界に関しては、前軸たるキングピン7やカプラ5側、そしてトラクタ3や前輪9の車軸側より、後軸たるトレーラー2の後輪10の車軸側の方が、一般的に余裕があるので、前軸側に加わる荷重を出来るだけ軽減すべく、キングピン7やカプラ5に対しタンク1の前部は後方に離れて位置せしめられていた。つまりキングピン7やカプラ5は、タンク1の前後方向の積荷Aの荷重中心Bから、なるべく前方に離れるように位置していた。そこで、このままでは強度上の不具合が生じるので、トレーラー2のフレーム6の前部に、補強用の支持部材たるステー8が取付けられており、このようなステー8がタンク1の前部を保持しつつ、前軸たるキングピン7やカプラ5上に位置することにより、上述した強度上の不具合を解消していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このような従来例にあっては、次の問題が指摘されていた。第1に、このようなステー8を用いても、ステー8によるタンク1の前部の保持,補強には強度上自ずと限界があり、タンク1の前部をあまり後方に離れて位置せしめることはできなかった。そこで依然として、タンク1に積載された積荷Aについて前後方向の荷重配分のバランスが悪いという難点があり、まず▲1▼、タンク1の前軸たるキングピン7やカプラ5側そしてトラクタ3側より、後軸たるトレーラー2の後輪10の車軸側の方に、耐荷重限界上かなり余裕が存在するのに対し、▲2▼前軸のトラクタ3側は、作用する荷重に耐えるべく大きな積載能力のものが要求され、結果的に▲3▼、タンク1の積荷Aの積載量に悪影響を及ぼす、等々の問題が指摘されていた。
【0005】
第2に、タンクローリそしてトレーラー2の転倒事故時において、タンク1の前部は転倒による衝撃を受けやすく、前部の鏡板の側方に張り出した左右側部分を始め、前部各所に損傷,亀裂が発生しやすかった。特に、前部の鏡板の左右側部分は、側方に張り出しているので、転倒事故時の変形による応力集中により、損傷,亀裂が発生しやすいという指摘があった。そして、タンク1の前部の鏡板に損傷,亀裂が発生した場合には、タンク1内の例えば最前室たる第1室に積載された各種油等の積荷Aが、そこから外部に洩れ出して大事故につながる危険があり、安全性に問題があった。
【0006】
第3に、タンク1の支持部材たるステー8やその取付部材は、タンク1とは別体として製造された後に取付けられると共に、補強用・強度上の観点から、非常に大きく特殊な形状の複雑なフレーム構造よりなっていた。そこで、このようなステー8等について、製造コスト,取付作業性,デザイン面等に問題が指摘されていた。
【0007】
なお上述したところは、タンク1を搭載したトレーラー2がトラクタ3にて牽引される、例えば図4に示したトレーラータイプのタンクローリに関するものである。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み、上記従来例の問題点を解決すべくなされたものであって、タンクの閉鎖された前側に、タンクと同一断面形状をなし前側が閉鎖された中空構造のステー部を、一体的に連設して、請求項1ではキングピンやカプラ上に位置せしめたことにより、第1に、タンクに積載された積荷について、前後方向の荷重配分のバランスが向上し、第2に、転倒事故時のタンクの前部の損傷,亀裂も防止されて、安全性が向上すると共に、第3に、製造コスト,取付作業性,デザイン面等にも優れた、タンクローリを提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成する本発明の技術的手段は、次のとおりである。まず、請求項1については次のとおり。すなわち、このタンクローリは、タンクを搭載したトレーラーがトラクタにて牽引される、トレーラータイプのものよりなる。すなわち、該トラクタの後部フレーム上にカプラが付設されると共に、該トレーラーの前端部下にキングピンが垂下設されて該カプラに回動自在に嵌挿保持され、もって、該トラクタとトレーラーが左右に揺動可能に連結されている。そして該トレーラー上には、該タンクとそのステー部とが搭載されている。該タンクは、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷が積載されると共に、マンホールや底弁等の積荷用設備が付設されている。又、該ステー部は、該タンクの閉鎖された前側に一体的に連設され、該タンクと同一断面形状をなすと共に前側が閉鎖された中空構造よりなり、前記積荷は積載されず前記積荷用設備も付設されず、前記キングピンやカプラ上に位置している。
【0010】
本発明は、このようなタンクローリに関する。
【0011】
【作用】
本発明は、このような手段よりなるので、次のように作用する。このタンクローリでは、タンクの前側に中空構造のステー部が、一体的に連設されている。そしてステー部は、連結用のキングピンやカプラ上に位置している。
【0012】
そこで第1に、このようなステー部にて、タンクの前部は確実に保持され十分に補強される。もって請求項1では、タンクの前部をキングピンやカプラから大きく後方に離れて位置させ、タンクに積載された積荷の荷重中心を後方に移動させて、キングピンやカプラを荷重中心からはるかに前方に離れて位置させること、等々が可能となる。そこで、荷重配分,耐荷重限界上、余裕がある後軸たる後輪の車軸側に、より大きな荷重を負担させ、その分だけ、請求項1では、前軸たるキングピンやカプラ側そしてトラクタ側に加わる荷重を軽減できる。このようにして、荷重配分のバランスが向上し、効率的な荷重配分が実現される。
【0013】
第2に、タンクの前側は、ステー部にて覆われるように保護され補強されている。そこで転倒事故時において、タンクの前部は、このようなステー部にて緩衝され応力集中も回避され、その損傷,亀裂は防止される。第3に、しかもこのステー部は、タンクと共に簡単容易に製造でき、製造コスト面に優れると共に、取付作業上の問題もなく、更に、タンクと同一形状よりなりデザイン面にも優れている。
【0014】
【実施例】
以下本発明を、図面に示すその実施例に基づいて、詳細に説明する。図1,図2は、本発明のトレーラータイプのタンクローリの実施例を示し、図1の(1)図は側面図、図1の(2)図は要部の側面図であり、図2の(1)図は要部の平面図、図2の(2)図は背面図である。図3は、本発明には属さない参考例に関し、単車タイプのタンクローリの側面図である。
【0015】
まず、図1,図2のトレーラータイプの実施例について述べる。トレーラータイプのタンクローリでは、タンク1を搭載したトレーラー2がトラクタ3にて牽引されるようになっており、トラクタ3の後部フレーム4上にカプラ5が付設されると共に、トレーラー2の前端部下にキングピン7が垂下設されて、カプラ5に回動自在に嵌挿保持され、もって、トラクタ3とトレーラー2が左右に揺動可能に連結されている。
【0016】
これらについて詳述すると、牽引車たるトラクタ3は、前方にキャブ11そして後方に後部フレーム4を備えると共に、前後1組の前輪9が設けられており、後部フレーム4のほぼ中央部の上面に、取付部12やピン13(図4の(3)図も参照)を介し、カプラ5が付設されている。カプラ5は、第5輪とも称され、略平板状をなすと共に中央にキングピン7の嵌挿保持部が形成され、ピン13を中心に前後に揺動可能となっている。これに対し、トレーラー2のフレーム6上には、次に述べるタンク1とそのステー部14とが搭載されると共に、フレーム6の前端部の下面中央付近には、キングピンプレート15を介しキングピン7が垂下設され、カプラ5に左右方向に回動自在に嵌挿保持されている。もって、トラクタ3の後部フレーム4上に、トレーラー2のフレーム6の前端部が枢支され、トラクタ3とトレーラー2が左右に揺動可能に連結されている。なお図示例では、トレーラー2の後部の後輪10は前後1組の2軸方式よりなるが、これによらず、例えば1軸方式や3軸方式も勿論可能である。
【0017】
そしてタンク1は、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷Aが積載されると共に、マンホール16(前述した図4の(2)図を参照)や底弁17(後述の図3を参照)等の積荷用設備が付設されている。これらについて詳述すると、タンク1は、前後が鏡板18にて閉鎖された筒状をなし、内部に、ガソリン,軽油,灯油等の各種油その他液状の積荷Aが積載される。危険物たる積荷Aを積載する場合は、内部が幅方向に沿った仕切板19により、2室から7室程度の複数のタンク室20に区画される(後述の図3を参照)。そして積荷Aは、例えば、マンホール16付近の注入口からタンク1のタンク室20内に積込まれ、目的地まで積載,運搬された後、底弁17を介し荷卸しされる。なおタンク1は、断面形状が円形,楕円形,略船型等をなし、通常は直線的な筒状をなす。
【0018】
次に、ステー部14について述べる。このステー部14は、タンク1の閉鎖された前側に一体的に連設され、タンク1と同一断面形状をなすと共に前側が閉鎖された中空構造よりなり、積荷Aは積載されずマンホール16や底弁17等の積荷用設備も付設されず、キングピン7やカプラ5上に位置している。
【0019】
これらについて詳述すると、ステー部14は、タンク1の前部の鏡板18の前側に一体的かつ同軸に連設されており、タンク1に対応した円形,楕円形,略船型等の断面形状をなし、その前側が、上述したタンク1側の鏡板18に準じた構造の鏡板21にて閉鎖され、内部には、空間室たる中空部22が形成されている。すなわちステー部14は、タンク1の胴板を前方に延出せしめて鏡板21にて閉鎖した形態、言い換えれば、タンク1の前側をあたかも一部区画して形成されたような形態よりなり、タンク1と同様に、前方に延出されたトレーラー2のフレーム6上に取付け固定されている。図示例では、このようなステー部14のほぼ中央部付近下に、キングピン7やカプラ5が位置しているが、ステー部14の長手方向の長さCは、タンク1そしてトレーラー2の長さ等に応じて、適宜設定される。なお図中23は、トレーラー2のフレーム6後部下に配されたリアフレームであり、図中Dは、タンク1上に周設された防護枠であるが、図示例の防護枠Dは、ステー部14上をも含みつつ周設されている。
【0020】
次に、本発明には属さない図3の単車タイプの参考例について述べておく。この単車タイプのタンクローリでは、単一のシャーシフレーム24上に、キャブ11,タンク1,ステー部14等が搭載されており、1軸の前輪25と2軸の後輪26とを備えてなるが、勿論、後輪26が1軸のものその他も可能である。27はサブフレームであり、このサブフレーム27は、タンク1やステー部14下に一体的に固定されると共に、シャーシフレーム24上に取付けられている。
【0021】
そして、この図3の単車タイプのタンクローリにあっても、前述した図1,図2のトレーラータイプのタンクローリの場合に準じ、タンク1とステー部14とが搭載されている。すなわち、まずタンク1は、前後が閉鎖された筒状をなし、内部に各種油その他液状の積荷Aが積載されると共に、マンホール16や底弁17等の積荷用設備が付設されており、図示例では危険物たる積荷Aが積載されるので、タンク1内が各タンク室20に区画されている。又、ステー部14は、タンク1の閉鎖された前側に一体的に連設され、タンク1と同一断面形状をなすと共に前側が閉鎖された中空構造よりなり、積荷Aは積載されず積荷用設備も付設されないと共に、前輪25の車軸寄りに位置している。
【0022】
本発明は、以上説明したように構成されている。そこで以下のようになる。このタンクローリは、タンク1の内部に各種油その他液状の積荷Aを積載して運搬し、タンク1には、マンホール16や底弁17等の積荷用設備が付設されている。そして、このタンク1の閉鎖された前側に、タンク1と同一断面形状をなし前側が閉鎖された中空構造のステー部14が、一体的に連設されている。そして、図1,図2のトレーラータイプのタンクローリでは、このようなステー部14が、トラクタ3とトレーラー2を連結するキングピン7やカプラ5上に位置している。そこで、このタンクローリでは、次の第1,第2,第3のようになる。
【0023】
第1に、このような形状,構造,位置のステー部14を設けたことにより、タンク1の前部をかなり後方に位置させても、強度上の不具合を生じることなく、確実に保持し十分に補強することができるようになる。
【0024】
従って、図1,図2のトレーラータイプのタンクローリでは、前述した図4のこの種従来例に比し、タンク1の前部をキングピン7やカプラ5に対し、はるかに大きく後方に離れて位置させることが可能となる。つまり、タンク1に積載された積荷Aの前後方向の荷重中心Bを、図示したように大きく後方に移動させて、キングピン7やカプラ5を、タンク1の荷重中心Bからはるかに前方に離れて位置させることが可能となる。
【0025】
もって、図1,図2のタンクローリでは、タンク1に積載された積荷Aの前後方向の荷重配分,耐荷重限界上、前軸たるキングピン7やカプラ5側そしてトラクタ3や前輪9の車軸側より、一般的に余裕がある後軸たるトレーラー2の後輪10の車軸側の方に、前述した図4のこの種従来例に比しより大きな荷重を負担させ、その分、前軸側に加わる荷重を軽減させることができる。このようにして、この図1,図2のタンクローリでは、タンク1の荷重配分のバランスが向上し、前後方向に無駄のない効率的な荷重配分が実現される。
【0026】
第2に、タンク1の前部の鏡板18等は、中空構造のステー部14にて、覆われるように保護され十分に補強されている。そこでタンクローリの転倒事故時、図1,図2の例ではトレーラー2の転倒事故時において、前方に位置するステー部14が、衝撃を受けたり変形による応力集中により、損傷,亀裂が発生しても、タンク1の前部は、このようなステー部14にて緩衝されると共に、変形による応力集中も回避される。このようにして、転倒事故時におけるタンク1の前部の損傷,亀裂は確実に防止され、タンク1の例えば最前室たる第1室のタンク室20からの油等の洩れ出しも発生しなくなる。
【0027】
第3に、しかもこのような補強用のステー部14は、タンク1と同形状で一体的に連設される。そこで、タンク1の製造時にその胴板を前方に延出せしめて、鏡板21にて閉鎖することにより、タンク1と共に簡単容易に製造でき、製造コスト面に優れている。特に、図1,図2のトレーラータイプのタンクローリにおけるステー部14では、前述した図4のこの種従来例において、非常に特殊で複雑なフレーム構造のステー8等を別途製造して取付けていたのに比し、製造コストが大きく軽減される。又、このステー部14は、このようにタンク1と共に製造できるので、取付作業上の問題もなく、更に、タンク1と同一形状よりなり外見上も一体的であり、デザイン面にも優れている。
【0028】
【発明の効果】
本発明に係るタンクローリは、以上説明したように、タンクの閉鎖された前側に、タンクと同一断面形状をなし前側が閉鎖された中空構造のステー部を、一体的に連設して、キングピンやカプラ上に位置せしめたことにより、次の効果を発揮する。
【0029】
第1に、荷重配分のバランスが向上する。すなわち、ステー部により強度上十分に補強が行えるので、耐荷重限界上余裕のある後軸側に、より大きな荷重を負担させることができる。もってその分、前軸側に加わる荷重が軽減され、タンクの積荷の荷重配分のバランスが向上し、請求項1では、より積載能力の小さなトラクタを用いることが可能となり、結果的に、タンクの積荷の積載量を増加させることができる。
【0030】
第2に、転倒事故時にステー部にて、タンクの前部の損傷,亀裂が防止される。すなわち、転倒により衝撃を受けやすく応力集中もみられたタンクの前部の鏡板等は、ステー部にて覆われるように保護され十分に補強されているので、これらは回避され、その損傷,亀裂の発生が防止される。もって、タンクに積載されていた各種油等の積荷が外部に洩れ出すことはなく、大事故につながる危険も回避され、安全性が大きく向上する。
【0031】
第3に、製造コスト,取付作業性,デザイン面等にも優れている。すなわちこのステー部は、タンクと共に製造でき製造コストが大きく軽減されると共に、取付作業上の問題もなく、デザイン面にも優れている。このように、この種従来例に存した問題点が一掃される等、本発明の発揮する効果は、顕著にして大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係るトレーラータイプのタンクローリの実施例を示し、(1)図は側面図、(2)図は要部の側面図である。
【図2】
同実施例のトレーラータイプのタンクローリを示し、(1)図は要部の平面図、(2)図は背面図である。
【図3】
本発明には属さない参考例の単車タイプのタンクローリを示す、側面図である。
【図4】
従来例のトレーラータイプのタンクローリにおけるトレーラーを示し、(1)図は側面概略図、(2)図は平面概略図、(3)図はトラクタ側のカプラ等と共に示した側面概略図である。
【符号の説明】
1 タンク
2 トレーラー
3 トラクタ
4 後部フレーム
5 カプラ
7 キングピン
14 ステー部
16 マンホール
17 底弁
25 前輪
A 積荷
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-03-03 
結審通知日 2008-03-05 
審決日 2008-03-18 
出願番号 特願平6-55129
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B62D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 高木 進
柴沼 雅樹
登録日 2001-08-17 
登録番号 特許第3222309号(P3222309)
発明の名称 タンクローリ  
代理人 安村 高明  
代理人 合志 元延  
代理人 山本 秀策  
代理人 合志 元延  
代理人 森下 夏樹  

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