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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1178941
審判番号 不服2006-24969  
総通号数 103 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-02 
確定日 2008-06-06 
事件の表示 特願2002-256672「同位体濃縮方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日出願公開、特開2004- 89910〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月2日の出願であって、平成18年9月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1乃至4に係る発明は、平成18年3月29日提出の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項によりそれぞれ特定されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「2T以上の強度を有する磁場下において電解濃縮を行うにあたり、前記電解濃縮における電解電流の向きと、前記磁場の向きとを同一にして、所定の同位体を濃縮するようにしたことを特徴とする、同位体濃縮方法。」

3.引用文献1の記載事項
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1:高篠静香外5名著、“強磁場下でのトリチウム電解濃縮の有用性”、第38回理工学における同位元素・放射線研究発表会要旨集、社団法人日本アイソトープ協会、2001年、p.50(なお、原査定での文献の著者名の誤記を改めた上記述した。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「2.実験方法
強磁場(1.0Tまたは1.8T)中に設置したトリチウム電解濃縮装置を使って、既知濃度の低レベルトリチウム水を濃縮した。さらに、磁場のない場合(0T)についても濃縮を行い、濃縮割合について検討した。なお、装置を強磁場中に設置する方法として以下の3通りを選んだ。」(本文第5-8行)
(イ)記載事項(ア)のすぐ下側、本文第8行と第9行の間には、横方向に並んだ3つの図面が記載されており、そのうちの中央の図面には、一番上に「磁場の方向」と記載され、その下に左側から右側に向かう矢印が記載され、その下に左側から「+」の記号、縦長の長方形が2つ、「-」の記号が記載され、その下、図面の一番下に「Experiment 2」と記載されている。
(ウ)「3.結果および考察
トリチウム濃縮割合を定量的に相互比較するため、トリチウム電解分離係数(βa)を算出した。ここで、βaが大きいほど高い濃縮率を示すことになる。・・・実験2において、1.0Tではβaの値に変化は見られなかったが、1.8Tではβaの増加が見られた。・・・
以上のことから、強磁場中でのトリチウム電解濃縮において、条件によっては、その濃縮率の向上が見られる可能性の高いことがわかった。」(本文第9-16行)

4.対比

4-1.引用文献1発明
引用文献1の記載事項(ア)に「強磁場(・・・1.8T)中に設置したトリチウム電解濃縮装置を使って、・・・低レベルトリチウム水を濃縮した。」と記載されているから、引用文献1には、「強磁場(1.8T)中に設置したトリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する方法」が記載されているといえる。
前記「トリチウム電解濃縮装置」を「磁場(・・・)中に設置」することに関し、記載事項(ア)に「装置を強磁場中に設置する方法として以下の3通りを選んだ。」と記載されている。そして、記載事項(イ)中の記載「Experiment 2」の訳は「実験2」である。したがって、記載事項(ア)のすぐ下側に記載された記載事項(イ)には、トリチウム電解濃縮装置を磁場中に設置する方法の一つとして、「実験2」の設置方法が記載されているといえる。
そこで、記載事項(イ)をみると、一番上に「磁場の方向」と記載され、その下に左側から右側に向かう矢印が記載されているから、磁場の方向は紙面左側から右側に向かう向きである。また、電解濃縮装置は+の電極(陽極)と-の電極(陰極)を用いるものであるから、記載事項(イ)に左側から「+」の記号、縦長の長方形が2つ、「-」の記号が記載されていることは、左側の縦長の長方形が+の電極を示し、右側の縦長の長方形が-の電極を示し、その結果、トリチウム電解濃縮装置の紙面左側に陽極が設けられ、紙面右側に陰極が設けられているといえる。そして、前記したとおり、磁場の方向は紙面左側から右側に向かう向きであるから、記載事項(イ)には、トリチウム電解濃縮装置を磁場中に設置する「実験2」の方法として、磁場の方向の上流側に陽極が、下流側に陰極が設けられる設置方法が記載されているということができる。
以上のことから、記載事項(ア)及び(イ)の記載を整理すると、引用文献1には、「強磁場(1.8T)中に設置した、磁場の方向の上流側に陽極が、下流側に陰極が設けられたトリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する方法」の発明(以下「引用文献1発明」という。)が記載されているといえる。

4-2.本願発明と引用文献1発明との対比
以下、本願発明と引用文献1発明とを対比する。
引用文献1発明において「トリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する」ことは、トリチウムが三重水素であって、水素の同位体の一つであることから、本願発明において「電解濃縮を行」い、「所定の同位体を濃縮する」ことに相当する。また、引用文献1発明において「強磁場・・・中に設置した、・・・トリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する」ことは、本願発明において「磁場下において電解濃縮を行う」ことに相当する。
また、電解装置において電解電流は陽極から陰極に流れるから、「磁場の方向の上流側に陽極が、下流側に陰極が設けられたトリチウム電解濃縮装置」における電解電流の向きは磁場の向きと同一である。そして、前記したとおり、トリチウムは水素の同位体の一つであるから、引用文献1発明において「磁場の方向の上流側に陽極が、下流側に陰極が設けられたトリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する」ことは、本願発明において「電解濃縮における電解電流の向きと、前記磁場の向きとを同一にして、所定の同位体を濃縮する」ことに相当するといえる。
以上のことから、本願発明と引用文献1発明は、次の点で一致する。
<一致点>
「磁場下において電解濃縮を行うにあたり、前記電解濃縮における電解電流の向きと、前記磁場の向きとを同一にして、所定の同位体を濃縮するようにした、同位体濃縮方法。」である点。
一方、本願発明と引用文献1発明は、次の点で相違する。
<相違点>
本願発明は、「2T以上の強度を有する磁場下において電解濃縮を行う」のに対し、引用文献1発明は、「強磁場(1.8T)中に設置した、・・・トリチウム電解濃縮装置を使って、低レベルトリチウム水を濃縮する」点。

5.判断
以下、前記<相違点>について検討する。

5-1.磁場強度を2T以上とすることについて
前記「4-1.」に記載したとおり、引用文献1発明における「磁場の方向の上流側に陽極が、下流側に陰極が設けられたトリチウム電解濃縮装置」の磁場中への設置方法は、「実験2」の方法として引用文献1に記載されたものである。そして、該「実験2」の方法によるトリチウム濃縮率について、引用文献1の記載事項(ウ)に「トリチウム濃縮割合を定量的に相互比較するため、トリチウム電解分離係数(βa)を算出した。ここで、βaが大きいほど高い濃縮率を示すことになる。・・・実験2において、1.0Tではβaの値に変化は見られなかったが、1.8Tではβaの増加が見られた。」と記載されている。したがって、磁場の強度を1.8Tより大きくすればβaは減少することが理論的に予測されていた、又は経験上知られていた等の事情がない限り、当業者は、引用文献1発明において磁場の強度を1.8Tより大きくすれば、トリチウム分離係数(βa)はさらに増加し、トリチウム濃縮率が高くなることを予想できるといえる。また、「低レベルトリチウム水を濃縮する方法」である引用文献1発明においてトリチウム濃縮率が高いことが望ましいことは、当業者に自明の事項である。以上のことから、引用文献1発明において、さらにトリチウム濃縮率を高くすることを企図して、磁場の強度を1.8Tより大きくすることは、当業者が容易に想到し得ることである。そして、引用文献1発明において磁場の強度を1.8Tより大きくする際に、2T以上の強度とすることは、所望のトリチウム濃縮率を考慮することにより当業者が適宜なし得ることである。

5-2.<相違点>における本願発明の発明特定事項を採用することにより奏される効果について
<相違点>における本願発明の発明特定事項を採用することにより奏される効果に関し、本願明細書の段落【0016】に「図2から明らかなように、磁場の大きさが1.8T程度まではトリチウム分離係数(βa)に顕著な差異は見られないが、1.8Tを超えて2T以上となると、トリチウム分離係数(βa)が顕著に増大し、トリチウムの濃縮度合いが顕著に向上していることが分かる。」と記載されている。
しかしながら、本願の図面【図2】に示された、磁場強度を横軸に、トリチウム分離係数(βa)を縦軸に取ったグラフには、5つの点がプロットされているのみであり、さらに磁場強度2Tのところには点がプロットされておらず、このグラフから、磁場強度が1.8Tを超えて2T以上となるとトリチウム分離係数(βa)が顕著に増大すると直ちにいうことはできない。また、本願明細書には、単に「トリチウム分離係数(βa)が顕著に増大」及び「トリチウムの濃縮度合いが顕著に向上」と記載されているのみであり、磁場強度2T前後でトリチウム分離係数(βa)が具体的にどのように変化するかを示すデータは記載されていない。したがって、本願明細書に磁場強度を2T以上とすることの臨界的意義が記載されているということはできない。そして、前記「5-1.」に記載したとおり、引用文献1の記載から、当業者は、引用文献1発明において磁場の強度を1.8Tより大きくすれば、トリチウム分離係数(βa)はさらに増加し、トリチウム濃縮率が高くなることを予想できるといえる。以上のことから、本願明細書に記載された、<相違点>における本願発明の発明特定事項を採用することにより奏される効果は、引用文献1から当業者が予測し得る範囲内のものである。

5-3.審判請求書における請求人の主張について
(a)審判請求書において請求人は、「引用文献1から磁場を高くすることにより分離係数が高まることを知ることはできません。たしかに、引用文献1のFig.1(磁場と電解電流とが直交)では、1.8Tまでは分離係数の増加が認められ、このまま続くかに見えます。また、引用文献1のFig.2(磁場と電解電流の向きとが同じ)では、1.8Tまでは若干の分離係数の増加が認められます。そして、Fig.1の例とFig.2の例とを比べてみると、Fig.1の例のほうがより大きい効果が期待できるように見えます。従って、引用文献1の事実からは、磁場と電解電流とが直交している方がゲインが大きいと推定できます。
しかし、本願発明の30条適用の対象となった文献(・・・)では、Fig.6(磁場と電解電流の向きと同じ)の例では2Tを超えても引用文献1のFig.2の例の予想通り分離係数が増加していますが、Fig.5(磁場と電解電流とが直交)の例は2Tを超えると分離係数は増加せずむしろ減少しています。このことから、明らかに、磁場と電解電流との向きが同じで、さらに、2.0T以上でないと本願発明の効果が期待できないことがわかります。」と主張している(「【請求の理由】(3)本願発明が特許されるべき理由」の「(c-1)」)。
しかしながら、引用文献1の記載事項から、磁場と電解電流との向きが同じ場合よりも、磁場と電解電流とが直交している場合の方がトリチウム分離係数(βa)が大きいと推定できるとしても、前記「5-1.」に記載したとおり、当業者は、引用文献1発明、すなわち磁場と電解電流との向きが同じ場合において、磁場の強度を1.8Tより大きくすれば、トリチウム分離係数(βa)はさらに増加し、トリチウム濃縮率が高くなることを予想できる。そして、特許法第30条第1項の規定の適用の対象となった文献に記載された「(磁場と電解電流の向きと同じ)の例では2Tを超えても引用文献1のFig.2の例の予想通り分離係数が増加」することは、まさに前記予想のとおりの結果に他ならない。したがって、請求人の前記主張は、本願発明が引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かの判断を左右するものではない。
(b)また、審判請求書において請求人は、「引用文献1のFig.1?Fig.3を詳細に検討すると、・・・磁場が電解電流と同一の方向の場合(Fig.2)では、1.0Tで分離係数の値が減少し、1.8Tで分離係数が上昇しており、・・・分離係数の増加に正の相関を認めることは自明ではないものと考えます。
よって、・・・磁場が電解電流と同一の方向の場合(Fig.2:本願発明)・・・では、磁場を高める実験を行うことで、分離係数が上昇するであろうとの予測は、当業者であってもできないものと考えます。」と主張している(「【請求の理由】(3)本願発明が特許されるべき理由」の「(c-2)」)。
しかしながら、引用文献1の記載事項(ウ)に「実験2において、1.0Tではβaの値に変化は見られなかったが、1.8Tではβaの増加が見られた。」と記載されており、磁場が電解電流と同一の方向の場合、磁場強度1.0Tでは分離係数の値は減少しておらず、「1.0Tで分離係数の値が減少」するとの請求人の引用文献1の理解は正しいものではない。したがって、前記主張は引用文献1を正しく理解してなされたものではなく、採用することができない。

6.結び
以上のことから、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-03 
結審通知日 2008-04-08 
審決日 2008-04-23 
出願番号 特願2002-256672(P2002-256672)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
斎藤 克也
発明の名称 同位体濃縮方法  
代理人 杉村 興作  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 来間 清志  
代理人 杉村 憲司  
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