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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1180137
審判番号 無効2006-80268  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-12-26 
確定日 2008-06-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3016703号発明「被覆硬質部材」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3016703号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3016703号は、平成7年1月31日に特許出願されたものであって、平成11年12月24日にその設定登録がなされ、当該特許につき、平成12年9月1日付け及び平成12年9月4日付けで各々特許異議の申立てがなされ、平成14年10月17日付けで本件明細書の訂正請求が請求され、平成14年10月18日付けで特許を維持するとの異議の決定がなされて、上記訂正請求が容認され、その後、当審において、以下の手続を経たものである。
無効審判請求書 平成18年12月26日
審判事件答弁書 平成19年 3月19日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成19年 5月15日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成19年 5月15日
口頭審理(特許庁第1審判廷) 平成19年 5月15日
上申書(請求人) 平成19年 5月29日
上申書(被請求人) 平成19年 6月12日

II.本件発明
本件請求項1及び2に係る発明は「被覆硬質部材」に関するものであり、平成14年10月17日付け訂正請求により訂正された特許請求の範囲には、以下の事項が記載されている。
【請求項1】基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングで、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式
Ia=I(200)/I(111)
で表されるIa値が2.3以上であることを特徴とする被覆硬質部材。
【請求項2】前記皮膜の層とAlN、周期律表4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭窒化物、のうち1つから選ばれる層を2層以上の多層としたことを特徴とする請求項1記載の被覆硬質部材。
(以下、必要に応じて、「本件発明1」及び「本件発明2」という)

III.請求人の求めた審決及び主張
審判請求人は、特許第3016703号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって以下に示す無効理由により、本件請求項1及び2に係る発明の特許は無効にされるべきであると主張する。
(書 証)
甲第1号証:玉垣浩外2名著、「アークイオンプレーティング(AIP)法によるTiAlN皮膜の形成」、第82回講演大会・講演要旨集、社団法人表面技術協会、平成2年9月28日、第128及び129頁
甲第2号証:池田孜外2名著、「次世代の硬質膜コーティング技術」、R&D神戸製鋼技報、Vol.41、No.3、JULY1991、第9?13頁
甲第3号証:特開平5-179310号公報
甲第4号証:特開平2-194159号公報
甲第5号証:特開平3-17251号公報
甲第6号証:特表2001-516654号公報
参考資料1:知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10042号特許取消決定取消請求事件の判決の写し
参考資料2:東京高等裁判所、平成13年(行ケ)第338号特許取消決定取消請求事件の判決の写し
参考資料3:知的財産高等裁判所、平成17年(行ケ)第10205号審決取消請求事件の判決の写し
参考資料4:特許第3016703号明細書(本件特許公報)
参考資料5:特開昭56-156767号公報
参考資料6:特許異議申立2000-73324における平成13年1月24日付け取消理由通知書
参考資料7:特許異議申立2000-73324における平成13年4月5日差出の特許異議意見書
参考資料8:特許異議申立2000-73324における平成13年4月5日差出の訂正請求書
参考資料9:特許異議申立2000-73324における平成14年5月14日付け訂正請求取下書
参考資料10:特許異議申立2000-73324における平成14年10月8日付け取消理由通知書
参考資料11:特許異議申立2000-73324における平成14年10月17日付け特許異議意見書
参考資料12:特許異議申立2000-73324における平成14年10月17日付け特許異議意見書に添付の平成14年9月17日付け実験結果報告書
参考資料13:特許異議申立2000-73324における平成14年10月17日付け訂正請求書
参考資料14:異議2000-73324の特許決定公報
なお、上記参考資料1?14については、甲第7?20号証として提出されたものであるが、これら証拠は、口頭審理後の上申書により提出されたものであり、上記のとおり参考資料として表示する。
(無効理由)
【無効理由1】
本件請求項1及び2に係る発明は、本願出願前に頒布された刊行物である甲第1?5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
【無効理由2】
本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
【無効理由3】
本件特許請求の範囲に記載された発明は、次の(イ)?(ハ)の特定事項については、発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしておらず、したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(イ)本件請求項1(同様に、その従属請求項である請求項2)における「・・・Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること・・・」
(ロ)本件請求項1(同様に、その従属請求項である請求項2)における「・・・3元系の・・・」
(ハ)本件請求項2における「・・・2層以上の多層とした・・・」
【無効理由4】
本件特許請求の範囲に記載された発明は、次の(ニ)?(ヘ)の点で、明確でなく、本件出願は特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしておらず、したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(ニ)本件請求項1における「Ia値が2.3以上」に限定する意義が発明の詳細な説明の記載から明らかでない。
(ホ)本件請求項1における「Ia値が2.3以上」に限定する点は、下限だけを示す数値限定であって範囲をあいまいにする表現であり、発明の範囲が不明確である。
(ヘ)本件請求項1における発明特定事項として、「バイアス電圧値」については何も記載がない。
【無効理由5】
本件明細書の発明の詳細な説明には、次の(ト)?(ヌ)の点で、本件請求項1及び2に記載された事項により構成される発明を当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成及び効果が記載されていないから、本件出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(ト)本件請求項1及び2における「Ia値が2.3以上であること」とするための本件発明特有の製造方法が発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に記載されていない。
(チ)発明の詳細な説明には、本件請求項1及び2に記載の発明の特定事項のうち「Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」については、「Ia値の上限値」が記載されていない。
(リ)発明の詳細な説明には、本件請求項1及び2に記載の発明の特定事項のうち「Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」を達成するための製造方法に関し、「低電圧バイアス値」におけるIa値が記載されていない。
(ヌ)発明の詳細な説明において、「バイアス電圧値を中電圧(50?100V)」(段落0007)(本発明例では、60、80、90V)を最適としながら、中電圧バイアスのIa値の上限値の具体的記載もない。
【無効理由6】
平成14年10月17日提出の訂正請求書によりした次の(ル)の訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、また、この訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、同法第126条第3項及び4項に規定する要件を満たしておらず、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第8号に該当し、無効とすべきである。
(ル)本件請求項1における「Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が1.5以上であること」の記載を「Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」と訂正した事項。
【無効理由7】
本件請求項1及び2に係る発明は、未完成の発明であり、特許法第29条第1項柱書きの発明に該当しないから、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

IV.被請求人の求めた審決及び反論
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として下記の書証をもって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は、上記無効理由1?7によっては無効とすることができないと主張する。
(書 証) 記
乙第1号証:特開平1-252304号公報
乙第2号証:特開平3-17251号公報
乙第3号証:特開平6-136514号公報
乙第4号証:米国特許第4,871,434号明細書
乙第5号証:O.Knotek et al.「Industrial deposition of binary,ternary,and quaternary nitrides of titanium,zirconium,and aluminum」、American Vacuum Sciety、J.Vac.Scl.Technol.A5(4)、1987、pp.2173?2179
乙第6号証:特開平4-128363号公報

V.甲号各証の記載事項
V-A.甲第1号証(前記「アークイオンプレーティング(AIP)法によるTiAlN皮膜の形成」)の記載
(A-1)「アークイオンプレーティング(AIP)法によるTiAlN皮膜の形成」(第128頁第1及び2行)
(A-2)「2.実験方法
使用したAIP装置(神戸製鋼所製AIP-050型)の基本構成を図1に示す。陰極に取り付ける直径100mmのターゲット材としては,Ti:Alの組成比が75:25、50:50、25:75(atomic%)のチタンアルミ合金を用いた。基板には表面を鏡面に研磨した市販超硬チップを洗浄したものを使用し、これをターゲット表面から約190mmの位置の回転テーブル上に設置し,反応ガスとしてN_(2)を1.3Paの圧力で導入しながら、アーク電流100A、基板バイアス電圧-50Vで20分間のコーティングを行いTiAlN膜を形成した。」(第128頁下から第19行?下から第3行)
(A-3)「3.結果
形成した皮膜の主要な評価結果を下表に示す。
ターゲットAl/(Ti+Al)% 25 50 75
被膜組成Al/(Ti+Al)% 20 46 77
膜厚 (μm) 2.4 2.3 3.3」旨(第129頁上段の抜粋)
(A-4)「X線回折の結果からは、Alの組成が25%と50%のターゲットから形成したTiAlN膜に関しては、(111)面または(200)面に配向したTiN膜に相当するパターンが得られ、これらの皮膜ではTiNの結晶格子中でTi原子がAl原子に置きかわったような結晶構造を持つと考えられる。一方、Al組成が75%のターゲットから形成したTiAlN皮膜になると、主要な回折ピークはTiNからの回折パターンに一致せず、異なった結晶構造を示す。」(第129頁下から第19行?下から第10行)

V-B.甲第2号証(前記「次世代の硬質膜コーティング技術」)の記載
(B-1)「本稿では,イオンプレーティング法を用いてTi-Al-N系におけるN_(2)分圧,あるいはAl添加量を変化させることにより,Ti_(x)N系および(Ti_(1-X)Al_(X))N系の膜形成をおこない,その結晶構造の変化,硬さなどについて調べた。また,それらの耐摩耗性に関して酸化挙動などの観点から考察した。」(第9頁左欄末行?右欄第5行)
(B-2)「1.Ti-Al-N系膜の形成とその特性
膜形成は,蒸発源としてTiまたはTi_(1-X)Al_(X)(x=0.25?0.85)合金をカソードとしたアーク放電によりカソード物質を蒸発させ,N_(2)ガスとの反応性イオンプレーティング法によりおこなった。カソードアークイオンプレーティング法の原理を第1図に示す。」(第9頁右欄第10?15行)
(B-3)「1.2 (Ti_(1-X)Al_(X))N系膜
第5図は,N_(2)分圧を4×10^(-1)Paとした時の(Ti_(1-X)Al_(X))N(x=0?0.85)膜のX線回折結果を示す。この結果から,TiNへのAl固溶度の増加にしたがって,0<x<0.7間では,TiNと同一のB1型結晶構造(立方晶)であることがわかる。
しかし,x=0.7組成ではB1型結晶構造のほかに微量のウルツ鉱型(六方晶)とみなせる相が検出された。さらにAlの増加により,(Ti_(0.15)Al_(0.85))Nではウルツ鉱型結晶構造となった。」(第10頁右欄第3?12行)
(B-4)「TiNへAlを添加したときの耐摩耗性に与える影響をTi-N系膜と比較して調べた。各種コーティング超硬チップの切削性能を切削時間に対するフランク摩耗幅で評価した結果を第9図に示す。・・・。第9図にみられるように(Ti,Al)Nは優れた耐摩耗性を有することがわかった。これは,高硬度であることのほかに,切削中に発生する高温状態で膜最表面に形成されるアモルファスAl酸化物の保護膜が(Ti,Al)Nの酸化の進行を抑制しているためと考えられる。」(第11頁左欄第14?25行)

V-C.甲第3号証(特開平5-179310号公報)の記載
(C-1)「【産業上の利用分野】本発明は耐摩耗性の優れた超硬エンドミルに関し、殊に成分組成の特定されたWC系超硬エンドミル基材の切削刃表面に、TiAlNC系の耐摩耗性皮膜を形成し、摩耗量を抑えると共に欠け等の損傷を抑制し長寿命化を可能にした耐摩耗性超硬エンドミルに関するものである。」(段落0001)
(C-2)「【実施例】
実施例1
WC系超硬エンドミル素材(WCの平均粒径:0.5μm、Co含量:12重量%、VC含量:0.3重量%)の切削刃表面に、表1に示す膜厚のAlTiNC耐摩耗性皮膜を形成したものについて下記の条件で切削試験を行ない、切削刃の摩耗状況及び刃先部の欠け発生状況を調べた。」(段落0016)
(C-3)「但し耐摩耗性皮膜の形成法は次の通りとした。即ちAl_(0.6)Ti_(0.4)をカソード電極とするカソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーにエンドミル基材を取付ける。尚本装置には、皮膜形成状態の均一性を確保するための基材回転機構とヒータを設置した。」(段落0017)
(C-4)「成膜に当たっては、ヒーターによって基材温度を400℃に加熱保持し、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、装置内に高純度N_(2)ガスを7×10^(-3)Torrまで導入してアーク放電を行ない、放電時間を調整することにより所定の膜厚を得た。尚膜組成はオージェ分光分析法によりいずれも(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nであることを確認し、また膜厚は膜断面の走査型電子顕微鏡によって確認した。」(段落0018の抜粋)

V-D.甲第4号証(特開平2-194159号公報)の記載
(D-1)「基材表面に耐摩耗性皮膜を形成するに当たり、
(Al_(x)Ti_(1-x))(N_(y)C_(1-y))
但し 0.56≦x≦0.75
0.6 ≦y≦1
で示される化学組成からなり、膜厚が0.8?10μmの耐摩耗性皮膜を、蒸発源としてカソードを用いるアーク放電方式によって形成することを特徴とする耐摩耗性皮膜形成方法。」(特許請求の範囲、第1頁左下欄第5?12行)
(D-2)「本発明は、フライス加工工具等の表面に、密着性の優れた耐摩耗性皮膜を効率良く形成する方法に関するものである。」(第1頁左下欄第15?17行)
(D-3)「実施例1
Al_(0.6)Ti_(0.4)をカソード電極とするカソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーに超硬合金製チップ(WC-10%Coを主成分とする)を取付けた。尚本装置には、耐摩耗性皮膜形成状態の均一性を確保する為の基材回転機構等及びヒータを設置した。
成膜に当たっては、ヒータによって基材温度を400℃に加熱保持したまま、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、装置内に高純度N_(2)ガスを7×10^(-3)Torrまで導入し、アーク放電を開始して基材表面に膜厚4μmの皮膜を形成した。・・・。その結果Al,Ti,Nの膜厚さ方向には濃度変化がなく一定で、各成分元素のピーク高さから、膜組成は(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nであった。膜中の金属成分比Ti/Alはカソード成分比とずれがなく殆んど同一といえる。」(第3頁右下欄第10行?第4頁左上欄第11行)
(D-4)「実施例2
Al_(0.7)Ti_(0.3)カソードを用いた以外は、実施例1と同1条件で成膜を行なった。成膜した膜厚は3.8μmであり、膜組成は(Al_(0.7)Ti_(0.33))Nであった。」(第4頁左上欄第12?16行)

V-E.甲第5号証(特開平3-17251号公報)
(E-1)「(1)TiC_(x)N_(1-x)(但し0≦x≦0.6)で示される化学組成からなり、膜厚が0.3?6μmの皮膜層が基材表面に形成されると共に、(Al_(y)Ti_(1-y))(N_(z)C_(1-z))(但し0.05≦y≦0.75,0.8≦z≦1)示される化学組成からなり、膜厚が0.6?8μmの皮膜層が最上層に形成され、少なくとも2層からなることを特徴とする耐摩耗性皮膜。」(特許請求の範囲第1項、第1頁左下欄第5?12行)
(E-2)「実施例1
Tiカソード電極およびAl_(y)Ti_(1-y)(y=0.05?0.75)の組成のカソード電極を用い、カソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーに超硬合金製チップ(WC-10%Coを主成分とする)を取付けた。尚本装置には、耐摩耗性皮膜形成状態の均一性を確保する為の基材回転機構等及びヒータを設置した。
成膜に当たっては、ヒータによって基材温度を450℃に加熱保持したまま、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、装置内に高純度N_(2)ガスを5×10^(-2)Torrまで導入し、アーク放電を開始し、基材表面にTi(C_(x)N_(1-x))系皮膜層(第1皮膜層)、中間層および(Al_(y)Ti_(1-y))(N_(z)C_(1-z))系皮膜層(表面層)の順に積層して各種の皮膜を形成した。
〈中 略〉
その結果を各層の組成および層厚と共に第1表に示す。尚第1表には比較の為、実施例1で示した手段と同様にして(Al,Ti)(C,N)系単層膜を形成したときのもの(No.8?10)、および第1皮膜層が本発明の範囲外のもの(No.11)についても、その組成,膜厚およびフランク摩耗幅を示した。」(第4頁右下欄第8行?第5頁右上欄第8行)
(E-3)「第1表
No. 表 面 層 備考
組 成 膜厚(μm)
1 Al_(0.61)Ti_(0.39)N 4 実施例
2 Al_(0.07)Ti_(0.93)N 3.8 実施例
3 Al_(0.26)Ti_(0.74)N 4.5 実施例
4 Al_(0.56)Ti_(0.44)N 1.8 実施例
5 Al_(0.68)Ti_(0.32)N 5.8 実施例
6 Al_(0.58)Ti_(0.42)N 4.1 実施例
7 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 3.5 実施例
11 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 4.2 比較例
第1皮膜層
組 成 膜厚(μm)
8 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 4 比較例
9 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 6.5 比較例
10 Al_(0.26)Ti_(0.74)N 5.3 比較例」旨〔第4頁中段の表1(No.1?7及び11については、第1皮膜層、中間層、フランク摩耗幅の項の記載を省略。No8?11については中間層、表面層、フランク摩耗幅の項の記載を省略)〕
(E-4)「第1表より明らかな様に、比較例に比べて本発明はいずれも耐摩耗性に優れていた。」(第5頁右下欄第1及び2行)
(E-5)「実施例2
6mmφの(WC-9.5%Coを主成分とする)超硬ドリルに実施例1と同様に各種の皮膜を形成した。
得られた各皮膜について、下記の条件にて切削を行なった。
〈中 略〉
このときの穴開け個数の結果を、各皮膜層の組成および層厚と共に第2表に示す。」(第5頁右下欄第4?17行)
(E-6)「第2表
No. 表 面 層 備考
組 成 膜厚(μm)
11 Al_(0.61)Ti_(0.39)N 3.8 実施例
12 Al_(0.61)Ti_(0.39)N 3.8 実施例
13 Al_(0.61)Ti_(0.39)N 3.8 実施例
14 Al_(0.48)Ti_(0.52)N 2.8 実施例
15 Al_(0.48)Ti_(0.52)N 2.8 実施例
16 Al_(0.48)Ti_(0.52)N 2.8 実施例
第1皮膜層 備考
組 成 膜厚(μm)
17 Al_(0.63)Ti_(0.37)N 4.8 比較例
18 Al_(0.63)Ti_(0.37)N 4.8 比較例
19 Al_(0.63)Ti_(0.37)N 4.8 比較例
20 Al_(0.38)Ti_(0.62)N 6 比較例
21 Al_(0.38)Ti_(0.62)N 6 比較例
22 Al_(0.38)Ti_(0.62)N 6 比較例」旨〔第6頁上段の第2表(No.11?16については第1皮膜層、中間層、穴開け個数、摩擦状況の項の記載を省略。No.17?22については中間層、表面層、穴開け個数、摩擦状況の項の記載を省略。)〕
(E-7)「実施例3
6mmφハイスドリルに実施例1と同じ様にして各種皮膜を形成した。
得られた各皮膜について、下記の条件にて切削を行なった。
〈中 略〉
このときの穴開け個数の結果を、各皮膜層の組成および層厚と共に第3表に示す。」(第6頁右上欄第5?16行)
(E-8)「第3表
No. 表 面 層 備考
組 成 膜厚(μm)
23 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 3.9 実施例
24 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 3.9 実施例
25 Al_(0.62)Ti_(0.38)N 3.9 実施例
26 Al_(0.08)Ti_(0.92)N 4.5 実施例
27 Al_(0.08)Ti_(0.92)N 4.5 実施例
28 Al_(0.08)Ti_(0.92)N 4.5 実施例
29 Al_(0.26)Ti_(0.74)N 3 実施例
30 Al_(0.26)Ti_(0.74)N 3 実施例
31 Al_(0.26)Ti_(0.74)N 3 実施例
第1皮膜層 備考
組 成 膜厚(μm)
32 Al_(0.65)Ti_(0.35)N 5.2 比較例
33 Al_(0.65)Ti_(0.35)N 5.2 比較例
34 Al_(0.65)Ti_(0.35)N 5.2 比較例
35 Al_(0.45)Ti_(0.55)N 4.8 比較例
36 Al_(0.45)Ti_(0.55)N 4.8 比較例
37 Al_(0.45)Ti_(0.55)N 4.8 比較例
38 Al_(0.28)Ti_(0.72)N 4.3 比較例
39 Al_(0.28)Ti_(0.72)N 4.3 比較例
40 Al_(0.28)Ti_(0.72)N 4.3 比較例」旨〔第6頁下段の第3表(No.23?31については第1皮膜層、中間層、穴開け個数の項の記載を省略。No.32?40については中間層、表面層、穴開け個数の項の記載を省略。)〕
(E-9)「本発明は以上の様に構成されているので、TiNを基本としたTi(C,N)系皮膜元来の良好な基材密着性を有すると共に、表面層が、III_(b)族の窒化物であるAlNにTiが固溶した皮膜層である為、耐熱性、熱伝導性等に関し、AlNに近似した優れた特性が発揮される。」(第6頁右下欄第5?10行)

V-F.甲第6号証(特表2001-516654号公報)
(F-1)「本発明は、工具本体および耐摩耗性層システムを有する工具に関し、該層システムは、少なくとも1層のMeX層を含み、
-Meはチタンおよびアルミニウムを含み、
-Xは窒素および炭素のうち少なくとも一方である。
定義
・用語Q_(1)は、θ-2θ法を使用する材料のX線回折において(200)面および(111)面にそれぞれ割当てられる、回折強度I(200)対I(111)の比として規定される。したがって、有効値Q_(1)=I(200)/(111)が存在する。強度値は、以下の機器を使用して以下の設定により測定された:
シーメンス回折器 D500
パワー: 動作電圧: 30kv
動作電流: 25mA
開口絞り: 絞り位置 I: 1°
絞り位置 II:0.1°
検出器絞り: ソーラスリット
時定数: 4s
2θ角速度:0.05°/分
放射: Cu-Kα(0.15406nm)
「MSに従って測定された」という表現は、これらの機器および設定を使用して測定がなされたことを意味する。本願を通じたQ_(1)及びIのすべての量的な結果は、MSに従って測定されたものである。」(第6頁第5?25行)
(F-2)「図1に、上に説明した例を実現するため使用された反応性PVD蒸着(deposition)方法としての反応性陰極アーク蒸着(evaporation)のために適用された、窒素分圧対工具本体のバイアス電圧の線形スケーリング(linear scaling)された図を示す。
陰極アーク蒸着(evaporation)プロセスのすべてのプロセスパラメータ、すなわち、アーク電流、プロセス温度、蒸着(deposition)速度、蒸着(evaporation)される材料、アーク源に隣接する磁場の強さおよび構成、プロセス室および処理されるワークピース工具のジオメトリおよび寸法、は一定に維持された。これ以外のプロセスパラメータ、すなわち、反応性ガスの分圧、または全圧、およびワークピースとしてコーティングされるべき工具本体の、室の壁の接地電位について、予め定められた基準電位に関してのバイアス電圧は変えられた。
こうして、チタンアルミニウム窒化物が蒸着(deposition)された。反応性ガスの分圧および工具本体のバイアス電圧に関しては、異なった、有効に作用する点が確定され、蒸着(deposition)された硬質材料層におけるQ_(1)値がMSに従って測定され、得られた。
図1の図からは、図の座標の原点に少なくとも隣接する部分から線形に第1の近似において伸びる領域Pがあり、結果として得られる層が、I(200)およびI(111)の極めて低いXRD強度値となることがわかる。Pの境界を厳密に決定するためには、多数の測定を行なわなければならないことは明らかである。ここでは、MSに従って測定した場合、平均ノイズレベルの20倍もの大きさとなる強度値I(200)および(111)は存在しない。
図1に示すようにこの領域Pの一方側では、Q_(1)は1よりも大きく、Pに関して他方の領域においては、Q_(1)は1よりも小さい。これらのいずれの領域においても、MSに従って測定した場合、値I(200)、I(111)の少なくとも1つが平均ノイズレベルの20倍よりも大きい。」(第25頁下から第7行?第26頁下から第3行)
(F-3)「図1の矢印で示すように、反応性ガスの分圧の低下、または前記分圧と実質的に等しいのであれば全圧の低下および/またはコーティングされる工具本体のバイアス電圧の増加によって、Q_(1)が減少する。」(第26頁末行?第27頁第2行)
(F-4)「そして所望のQ_(1)値を実現するためにこれらの2つのパラメータのいずれか一方または両方が調節され、この発明により、バイアス電圧が減少されるおよび/または反応性ガスの分圧が増加されて、上に説明したように少なくとも1より大きく好ましくは少なくとも2よりも大きくまたはさらに5でありより好ましくは10であるQ_(1)値を得る。」(第27頁第8?12行)

VI.当審の判断
VI-1.無効理由3について
VI-1-1.無効理由3の(イ)
【本件請求項1における「・・・Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること・・・」が、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえない、との無効理由3の(イ)について】
本件請求項1の記載によれば、TiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、そのIa値が2.3以上であると規定するものである。
《本件明細書の発明の詳細な説明の記載について》
そこで、当該Ia値につき本件明細書の記載をみると、そこには、以下の記載がある。
(a)「更に、PVD、CVD法などで基体上にTi、Zr等の炭化物、窒化物を形成した場合、基体表面の結晶性、及び成膜装置でのガス雰囲気、条件により特定の面に配向した皮膜を得ることができる。特開昭56-156767号公報には、超硬合金またはサーメットの基体表面に被覆されたTi、Zr、Hfの炭化物、窒化物、炭窒化物の皮膜の結晶性が(200)面に強く配向されてなる被覆硬質合金について記載されている。このようにして形成される皮膜の結晶配向性を制御することにより膜特性を向上させることが出来、被覆硬質合金の耐摩耗性、耐欠損性は改善される。」(段落0004)
(b)「【発明が解決しようとしている課題】よって、前記(Ti、Al)N膜についてはTi/Al比により皮膜の特性も変わるため、高硬度の膜を得ることが難しい。さらに皮膜の結晶配向性について検討されたことはなく、皮膜と基体との密着性に問題がある。本発明は、前記問題点を解決したものであり硬質部材上にTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆させる場合に、皮膜の結晶配向性を最適にすることにより密着性を向上させ耐摩耗性、耐欠損性に優れた被覆硬質部材の提供を目的とする。」(段落0005)
(c)「【課題を解決するための手段】本発明者は、超硬部材表面にTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系の窒化物を被覆して皮膜の結晶配向性と基体との密着性について検討を行った結果、最適な結晶配向面があることを見い出した。すなわち、本発明の被覆硬質部材は、基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングで、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であることを特徴としている。」(段落0006の抜粋)
(d)「【作用】表1に、各種合金ターゲットを用意してアークイオンプレーティング法により、バイアス電圧値を中電圧(50?100V)、高電圧(150?200V)、反応ガス(窒素)圧力10^(-1)Paの条件で各種皮膜を3μm作製し、前記Ia値が異なる場合のスクラッチ試験機による臨界荷重値の評価結果を示す。尚、成膜に用いた基体は84WC-3TiC-1TiN-3TaC-9vol%Co組成の超硬工具である。」(段落0007)
(e)「【表1】
番号 膜質 ピーク強度 臨界荷重 バイアス電
比 値(N) 圧値(V)
比較例1 (Ti、Al)N 1.2 31 150
比較例2 (Ti、Zr)N 0.9 27 200
比較例3 (Ti、V)N 1.1 24 180
比較例4 (Ti、Hf)N 0.8 25 160
比較例5 (Ti、Cr)N 1.4 28 150
比較例6 (Ti、Nb)N 1.0 21 190
本発明例7 (Ti、Al)N 2.3 54 80
本発明例8 (Ti、V)N 2.5 45 60
本発明例9 (Ti、Hf)N 3.1 47 90
本発明例10(Ti、Cr)N 2.7 51 60」旨(段落0008)
(f)「ところで、表1より、Ia=I(200)/I(111)の値はバイアス電圧値により調節することが可能である。中電圧と低バイアス電圧値では適当なイオン衝撃のために残留圧縮応力も小さく密着性に優れているが、高バイアス電圧値にするとイオン衝撃が大きくなって残留圧縮応力も大きくなり膜は剥離し易くなる。しかしながら逆に50V未満の低バイアス電圧値では充分なイオン衝撃が得られないために膜は剥離してしまう。そのため、本検討に用いたアークイオンプレーティング装置では、中電圧を最適バイアス電圧値とした。
これから、どの皮膜においてもIa=I(200)/I(111)が1.5を越えると臨界荷重値が大きくなり密着性が向上することがわかる。このことから、Iaの値は2.3以上と決定した。本発明は前記窒化物の他に炭化物、炭窒化物にも適用することができる。また本発明はTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物にも適用することができる。さらにまた本発明は皮膜を形成する基体を限定するものではなく、WC超硬合金やサーメット、ハイス、或いは耐摩合金等用途に応じて適宜選択すれば良い。以下、実施例により本発明を詳細に説明する。」(段落0009及び0010)
(g)「【実施例】84WC-3TiC-1TiN-3TaC-9vol%Coの組成になるように市販の平均粒径2.5μmのWC粉末、同1.5μmのTiC粉末、同TiN粉末、同1.2μmのTaC粉末をボールミルにて96時間混合し、乾燥造粒の後、SEE42TNのスローアウェイチップをプレスし、焼結後、所定の工具形状に加工した。
このチップ上にアークイオンプレーティング法により各種合金ターゲットを用意して、表2に示すような皮膜を形成した。そしてこれらの被覆超硬工具を以下の切削条件によりフライス切削試験を行い最大摩耗量が0.2mmに達するまでの切削長を求めた。その結果を表2に併記する。
被削材 SKD61
切削速度 250m/min
送り 0.2mm/刃
切り込み 2.0mm
切削油 なし
工具形状 SEE42TN-G9Y」(段落0011及び0012)
(h)「【表2】
番号 膜厚 ピーク強度比 切削長 摩耗状態
μm (m)
従来例1 3 1.2 2.3 正常摩耗
従来例2 3 0.9 2.1 〃
従来例3 3 1.1 1.9 剥離による異常摩耗
従来例4 3 0.8 1.7 〃
従来例5 3 1.4 2.2 〃
従来例6 3 1.0 2.1 〃
本発明例7 3 2.3 2.9 正常摩耗
本発明例8 3 2.5 2.7
本発明例9 3 3.1 3.0 〃
本発明例10 3 2.7 2.8 〃 」(段落0013)
(i)「【発明の効果】本発明の被覆硬質部材はX線回折パターンの強度比Ia=I(200)/I(111)が2.3以上の皮膜を有することにより、基体との密着性を向上させ耐摩耗性に優れ格段に長い寿命が得られるものである。」(段落0015)

上記の記載(a)?(c)及び(i)によれば、本件明細書には、Ia値につき、従来、Ti、Zr、Hfの炭化物、窒化物、炭窒化物の皮膜の結晶配向性を制御することにより膜特性を向上させることができ、被覆硬質合金の耐摩耗性、耐欠損性は改善されるものの、(Ti、Al)N膜については皮膜の結晶配向性について検討されたことはなく、皮膜と基体との密着性に問題があるところ、本発明(本件発明1)は、前記課題を解決するものであり、また、硬質部材上にTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆させる場合において、皮膜の結晶配向性を最適にすることにより皮膜と基体との密着性を向上させ耐摩耗性、耐欠損性に優れた被覆硬質部材を提供することを発明の目的とするものであり、そして、本件明細書の請求項1に記載される構成を採択することにより、皮膜と基体との密着性を向上させ耐摩耗性に優れ格段に長い寿命の被覆硬質部材が得られたことが記載されているといえる。
具体的には、上記の記載(d)?(i)によれば、本件明細書では、本件発明の実施例である、膜質(Ti、Al)Nで被覆され皮膜のIa値が2.3である超硬工具〔本願発明例7〕、膜質(Ti、V)Nで被覆され皮膜のIa値が2.5である超硬工具〔本願発明例8〕、膜質(Ti、Hf)Nで被覆され皮膜のIa値が3.1である超硬工具〔本願発明品9〕、及び、膜質(Ti、Cr)Nで被覆され皮膜のIa値が2.7である超硬工具〔本願発明品10〕については、皮膜と基体との密着性を向上させ耐摩耗性に優れ格段に長い寿命のものであることが記載され、そのIa値が本件発明1の数値を満たさない比較例である、膜質(Ti、Al)Nで被覆され皮膜のIa値が1.2である超硬工具〔従来例1〕、膜質(Ti、Zr)Nで被覆された皮膜のIa値が0.9である超硬工具〔従来例2〕、膜質(Ti、V)Nで被覆された皮膜のIa値が1.1である超硬工具〔従来例3〕、膜質(Ti、Hf)Nで被覆された皮膜のIa値が0.8である超硬工具〔比較例4〕、膜質(Ti、Cr)Nで被覆された皮膜のIa値が1.4である超硬工具〔比較例5〕、及び、膜質(Ti、Nb)Nで被覆された皮膜のIa値が1.0である超硬工具〔比較例6〕については、皮膜と基体との密着性が十分でなく耐摩耗性に劣ることが記載されているといえる。
そして、本件明細書では、上記したとおり当該被覆硬質部材の皮膜につきIa値を2.3以上とすることが、発明の課題を解決し、発明の目的を達成するうえで不可欠の構成であると表見上記載されるものの、上記実施例以外の箇所では、当該Ia値の条件を満たすことで当該課題を解決し、発明の目的を達成することができることが当業者において理解できる程度に記載されていない。

《発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲の請求項1に記載された発明との対比・検討》
特許法第36条第5項第1号に規定される要件は、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明において、当該発明の課題が解決でき、また、当該発明の目的を達成することができることが当業者において認識できるように記載しなければならないことを含むものである。
そこで、本件明細書の記載が本件請求項1の記載との関係で、上記の要件を満たし得るか否かにつき検討する。
本件発明1は、本件請求項1の記載からみて明らかなように、TiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であるとの構成を採用するものであるところ、当該「Ia値が2.3以上」といえば、その数値が(200)面と(111)面の比をいうだけのものであるから上限なく高い値の比が想定でき、かつ、その比の値に制限があるとする特段の事情も存在しないことから、当該Ia値の数値としては、2.3を超える高い数値、すなわち、5、10、20等の数値を含み得るものである。
事実、当該Ia値として、5、10程度のものが存在することは特許異議の申立の審理段階で被請求人自身が提出した特許異議意見書に添付した実験結果報告書(参考資料12)の表1?4において確認される。
これに対して、本件明細書の発明の詳細な説明では、当該被覆硬質部材の皮膜につきIa値を2.3以上とすることが、発明の課題を解決し、発明の目的を達成するうえで不可欠の構成であると表見上記載されるものの、当該Ia値が2.3以上との構成を採用することの有効性を示すためのその実施例では、上記したとおり、膜質(Ti、Al)Nでは皮膜のIa値が2.3、膜質(Ti、V)Nでは同2.5、膜質(Ti、Hf)Nでは同3.1、及び、膜質(Ti、Cr)Nでは同2.7である被覆硬質部材が記載され、その四例の被覆硬質部材では、皮膜と基材との密着性を向上させ、耐摩耗性、耐欠損性に優れたものとすることができたことが記載されるだけであり、Ia値が5、10、20等の高い数値を示す場合の実施例については何も示されるものはない。
しかも、上記したとおり、本件明細書においては、その実施例以外の箇所において、皮膜の当該Ia値が5、10、20等の高い数値を示す場合を含め、それが2.3以上であれば、その余の構成と相俟って、上記発明の課題を解決し、上記発明の目的を達成することができることにつき、当業者において理解できる程度に記載されていない。すなわち、本件明細書では、当該Ia値を採択することにより当該発明の課題解決及び発明の目的達成に至る因果関係ないしはメカニズムにつき技術的に説明されるものが何もない。
外に、本件出願前に、当該Ia値の数値と、当該発明の課題及び発明の目的との関係につき、当業者において認識できることを裏付けるところの証拠の提出もない。
そうであれば、本件明細書の発明の詳細な説明では、当該Ia値が5、10、20等の高い数値を示す場合においては、発明の課題が解決できるということ、また、発明の目的を達成することができるということについては、当業者において認識できるように記載されているということができない。
してみれば、Tiと周期律表4a族のZr、同Hf、周期律表5a族のV、周期律表6a族のCr、Alの中から選ばれる2元系の窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であれば、全体として、上記発明の課題を解決し且つ発明の目的を達成することができるとまでいえるものではない。
当然のこととして、本件明細書において膜質につき全く確認されないものを含むところの、TiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であれば、全体として、上記発明の課題を解決し且つ発明の目的を達成することができるとはいえない。
したがって、本件請求項1に記載される発明は、「・・・Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること・・・」との構成を具備する点で、発明の詳細な説明において発明の課題を解決し、また、発明の目的を達成することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。
また、本件請求項2は本件請求項1の構成を全て引用するものであり、本件請求項2に記載される発明は、上記した理由と同じ理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。

VI-1-2.無効理由3の(ロ)
【本件請求項1における「・・・3元系の・・・」が、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえない、との無効理由3の(ロ)について】
本件請求項1の記載によれば、TiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、そのIa値が2.3以上であると規定するものである。
そこで、本件被覆硬質部材の被覆に用いられる炭化物、窒化物及び炭窒化物の金属元素につき、本件明細書で記載される内容をみると、そこには、以下の事項が記載されている。
「・・・Ti、Zr等の炭化物、窒化物、炭窒化物の硬質膜を利用した被覆硬質部材が多く用いられている。・・・」(段落0002)、
「・・・前記Ti、Zr等の炭化物、窒化物、炭窒化物では耐熱性が劣るため・・・そこで耐酸化性に優れている(Ti、Al)N膜が注目されるようになり開発が進められている。・・・また、改善案としてTi/Alの比率を限定した特公平5-57705号や(Ti、Al、Zr)N、(Ti、Al、V)Nといったさらに多次元化した皮膜に関する特許(米国特許4871434号)も提案されている。」(段落0003)、
「・・・特開昭56-156767号公報には、超硬合金またはサーメットの基体表面に被覆されたTi、Zr、Hfの炭化物、窒化物、炭窒化物の皮膜の結晶性が(200)面に強く配向されてなる被覆硬質合金について記載されている。・・・」(段落0004)、
「【発明が解決しようとしている課題】よって、前記(Ti、Al)N膜についてはTi/Al比により皮膜の特性も変わるため、高硬度の膜を得ることが難しい。さらに皮膜の結晶配向性について検討されたことはなく、皮膜と基体との密着性に問題がある。本発明は、前記問題点を解決したものであり硬質部材上にTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆させる場合に、皮膜の結晶配向性を最適にすることにより密着性を向上させ耐摩耗性、耐欠損性に優れた被覆硬質部材の提供を目的とする。」(段落0005)
「【課題を解決するための手段】本発明者は、超硬部材表面にTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系の窒化物を被覆して皮膜の結晶配向性と基体との密着性について検討を行った結果、最適な結晶配向面があることを見い出した。すなわち、本発明の被覆硬質部材は、基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングで、皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であることを特徴としている。また、前記皮膜の層とAlN、周期律表4a、5a、6a族の炭化物、窒化物、炭窒化物のうち1つから選ばれる層を2層以上の多層としたことを特徴としている。」(段落0006)
「【表1】
番号 膜質 ピーク強度 臨界荷重 バイアス電
比 値(N) 圧値(V)
比較例1 (Ti、Al)N 1.2 31 150
比較例2 (Ti、Zr)N 0.9 27 200
比較例3 (Ti、V)N 1.1 24 180
比較例4 (Ti、Hf)N 0.8 25 160
比較例5 (Ti、Cr)N 1.4 28 150
比較例6 (Ti、Nb)N 1.0 21 190
本発明例7 (Ti、Al)N 2.3 54 80
本発明例8 (Ti、V)N 2.5 45 60
本発明例9 (Ti、Hf)N 3.1 47 90
本発明例10(Ti、Cr)N 2.7 51 60」旨(段落0008)、及び
「・・・本発明は前記窒化物の他に炭化物、炭窒化物にも適用することができる。また本発明はTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物にも適用することができる。・・・」(段落0010)、

本件明細書の以上の記載によれば、「本発明はTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物にも適用することができる」(段落0010)ことが表見上記載されているものの、そこでは、具体的には、本件被覆硬質部材の被覆に用いられる炭化物、窒化物及び炭窒化物の金属元素につき、従来、Ti、Zr等の単元系の炭化物、窒化物、炭窒化物、(Ti、Al)Nの二元系の窒化物、(Ti、Al、Zr)N、(Ti、Al、V)Nの三元系の窒化物が知られていたこと、及び、その実施例において、(Ti、Al)N、(Ti、Zr)N、(Ti、V)N、(Ti、Hf)N、(Ti、Cr)N、(Ti、Nb)Nとの特定の二元系の窒化物につき実際にそのIa値を求め、この内、(Ti、Al)N、(Ti、V)N、(Ti、Hf)N、(Ti、Cr)Nについてのみ、その皮膜のIa値が順に2.3、2.5、3.1、2.7であったことが示されるだけであり、これによれば、本件明細書では、Tiと周期律表4a属(Zr、Hf)、5a属(V、Nb、Ta)、6a族(Cr、Mo、W)、Alの中から選ばれる3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物からなる皮膜を採択した場合において、そのIa値が2.3以上のものについては、一種たりともその存在が確認されていないものである。
しかも、上記実施例の箇所の外には、本件明細書においては、皮膜が3元系の場合を含め皮膜のIa値が2.3以上であれば、その被覆硬質部材が上記VI-1-1.で記載する本件発明1の課題を解決し、同じく、上記VI-1-1.で記載する本件発明1の皮膜と基材との密着性を向上させ耐摩耗性、耐欠損性に優れた被覆硬質部材を得るという発明の目的を達成することができることにつき、その因果関係ないしはメカニズムにつき技術的に説明されるものが何もなく、そのように課題解決及び目的達成に至る関係が、当業者において理解できる程度に記載されていない。
なお、被請求人は乙第4?6号証を提示しするものの、それら乙号証では、特定の三元系化合物の被膜を硬質金属基体に設けることが記載されるとしても、その被膜のIa値が2.3以上となること、更には、そのIa値を有するものが、上記発明の課題を解決することができること等につき、教示または説明するものは何もない。
そうであれば、本件請求項1に記載される発明は、「・・・三元系の・・・」との構成を具備する点で、発明の詳細な説明において発明の課題を解決し、また、発明の目的を達成することを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていないといわざるを得ない。
また、本件請求項2は本件請求項1の構成を全て引用するものであり、本件請求項2における構成は、上記した理由と同じ理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の項に記載されたものであるとはいえず、本件出願は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。

VI-2.無効理由5について
VI-2-1.無効理由5の(ト)
【請求項1における「Ia値が2.3以上であること」とするための本件発明特有の製造方法が発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に記載されていない、との無効理由5の(ト)について】
本件請求項1の記載によれば、TiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材の皮膜につき、そのIa値が2.3以上であると規定するものである。
ところが、本件発明1が属するイオンプレーテイング技術においては、そのイオンプレーテイングにより得られる皮膜の物性は、(雰囲気)圧力P、イオン衝撃電力W、堆積速度R、サブストレート(基板)温度Tの各プロセイスパラメータに依存して変移することは周知の事項である〔社団法人金属表面技術協会編集、「金属表面技術便覧(改訂新版)」、日刊工業新聞社、昭和54年12月20日3版、第566頁下から第8行?第569頁第17行〕。
更に、甲第1号証では、その(A-3)、(A-4)及び(A-1)によれば、アークイオンプレーティング法により作成したTiAlN膜につき、その皮膜組成の成分割合の違いにより、X線回折したときの(111)面及び(200)面への配向に差異が生ずること、また、甲第2号証の第5図及びその(B-2)によれば、アークイオンプレーティング法により作成した(Ti_(1-X)Al_(X))N膜のx数値、すなわち、皮膜組成におけるTi成分とAl成分の割合の変位により、当該膜のX線回折パターン(111)及び(200)における強度又はパターンの有無に差異が生ずることが、具体的に示される。
そうであれば、アークイオンプレーティングにより皮膜を形成するに際しては、その皮膜の物性の一種であるX線回折パターンにおける(200)面、(111)面のピーク強度及びその比であるIa値は、イオン衝撃電力W、堆積速度R、サブストレート(基板)温度Tの各プロセスパラメータにより影響を受けるものであり、特に、皮膜の組成の成分割合により強く影響を受け、そのIa値はその成分割合の選定により大きく変位するといえるものである。
一方、本件発明1の被覆硬質部材の製造方法につき、本件明細書をみると、前記VI-1-1.の本件明細書の記載の(d)、(e)、(f)、(g)〔段落0007?0009、0011及び0012〕によれば、本願明細書では、本件発明1の被覆硬質部材につき、基材(被被覆材)として84WC-3TiC-1TiN-3TaC-9vol%Coの組成のスローアウェイチップと、各種合金ターゲット(但し、成分割合不明)を用意して、バイアス電圧値を中電圧(50?100V)、反応ガス(窒素)圧力10^(-1)Paの条件でアークイオンプレーティング法により各種皮膜を3μm作製することにより製造できることが示されるだけであって、アークイオンプレーティング法ないしはイオンプレーテイング法により必要とされる製造条件につき概括的に説明するものは何もなく、また、サブストレート(基板)温度T等の他のプロセスパラメータにつき記載されるものは何もなく、更には、その製造条件の中でも、被覆硬質部材の皮膜のIa値に大きな影響を及ぼす皮膜組成におけるTi成分とAl等の他成分の割合につき記載されるものは何もない。
してみれば、本件明細書では、その被覆硬質部材の製造条件として、皮膜組成の成分割合等のIa値にとって重要であるパラメータにつきその開示を欠くものであり、したがって、その製造条件のみでは皮膜のIa値を決定ないしは特定することができず、所定のIa値を保有する被覆硬質部材の皮膜を製造することができないものである。
そうであれば、そのIa値が2.3以上であると規定する本件請求項1に記載の発明については、本件明細書に当該Ia値が2.3以上のものを得るうえで特有の製造方法が記載されていない点で、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成及び効果が記載されているということはできない。
したがって、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、本件請求項2は本件請求項1の構成を全て引用するものであり、本件請求項2における構成については、上記した理由と同じ理由により、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成及び効果が記載されているということはできない。
したがって、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

VI-3.無効理由1について
VI-3-1.その1(甲第1号証に記載の発明との対比)
甲第1号証には、その前記(A-1)及び(A-2)によれば、「基板として硬質チップを用い、ターゲット材としてTi:Alの組成比が75:25、50:50、25:75(atomic%)のチタンアルミ合金を用い、反応ガスとしてN_(2)を1.3Paの圧力で導入しながら、基板バイアス電圧-50Vの条件下で、アークイオンプレーテイング法により、TiAlN膜を形成した硬質チップ」が記載されており、また、当該TiAlN膜については、前記(A-3)によれば、上記ターゲット材のAl/(Ti+Al)%が25及び50である場合は、その皮膜組成のAl/(Ti+Al)%がそれぞれ20及び46、すなわち、Ti_(0.80)Al_(0.20)窒化物及びTi_(0.46)Al_(0.54)窒化物であるものが得られ、かつ、Alの組成が25%と50%のターゲットから形成したTiAlN膜に関しては、前記(A-4)により、X線回折の結果、(111)面または(200)面に配向したパターンを示したことが記載される。
そうであれば、甲第1号証には、
「基板として硬質チップを用い、反応ガスとしてN_(2)を1.3Paの圧力で導入しながら、基板バイアス電圧-50V等の条件下で、アークイオンプレーテイング法により、Ti_(0.80)Al_(0.20)窒化物及びTi_(0.46)Al_(0.54)窒化物からなるTiAlN膜を形成した硬質チップであって、
当該TiAlN膜が、(111)面または(200)面に配向したX線回折パターンを示す上記硬質チップ 」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲1発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「硬質チップ」は、本件発明1の「硬質部材」及び「基体」に相当し、また、甲1発明のアークイオンプレーテイング法は、本件発明1のPVD法に含まれる。
そして、甲1発明では、アークイオンプレーテイングにより、本件発明1と同じように、硬質チップの表面を被覆するものであって、その「TiAlN膜を形成した硬質チップ」は、本件発明1の「TiとAlの中から選ばれる2元系窒化物を被覆してなる被覆硬質部材」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングである、被覆硬質部材」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】被覆硬質部材につき、本件発明1は、「皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」とするのに対して、甲1発明では、その硬質チップにTiAlN膜が形成されているので皮膜を保有するといえるものの、当該Ia値が示されない点
以下、上記相違点につき検討する。
当該相違点に対する請求人の具体的主張は、『本件発明の被覆硬質部材は、その製造条件から見て、甲第1?5号証に記載されたものと異なるところがない。したがって、本件発明の製造条件によって得られた被覆硬質部材が、「Ia値が2.3以上」であるとするならば、甲第1?5号証に記載されたものにおいても、当然「Ia値が2.3以上」となるはずであり、それを覆す証拠はない。』(審判請求書第16頁下から第2行?17頁第3行)というものであるので、この主張につき検討する。
上記VI-2-1.で記載したとおり、本件明細書では、その被覆硬質部材の製造条件としては、皮膜組成の成分割合等のIa値にとって重要であるパラメータにつきその開示を欠くものであり、したがって、その製造条件のみでは皮膜のIa値を決定ないしは特定することができないものである。
してみると、本件発明1の被覆硬質部材につき、その製造条件が甲1発明のものと、実質上、異なることがないとしても、又は、両者の製造条件の間で唯一相違するところの反応ガス(窒素)圧力につき、甲第6号証の前記(F-3)及び(F-4)とその図1の記載を参照すれば甲1発明の膜のIa値が本件の製造条件で製造される膜の1a値よりも高い数値を示すとしても、そもそも、本件明細書で開示される製造条件のみでは製造される膜のIa値が特定できないものである以上、本件明細書で開示される製造条件に基づき甲1発明のTiAlN膜のIa値を推定することなどできるものではなく、また、そのように推定してもIa値の適正な数値が得られるものでもなく、したがって、甲1発明の当該膜のIa値が2.3以上であると断定することなどできるものではない。
他に、甲1発明の膜のIa値につき教示するものはない。
そうであれば、本件発明1が甲1発明とが同一であるということはできず、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は本件発明1の構成の全てを引用するものであり、上記した理由と同じ理由により、本件発明2は甲第1号証に記載された発明であるということができない。

VI-3-2.その2(甲第2号証に記載の発明との対比)
甲第2号証には、その前記(B-1)?(B-3)と、その第5図の(Ti_(0.3)Al_(0.7))N膜におけるX線回折の(200)/(111)のピーク強度が約1.9との記載によれば、「Ti_(1-X)Al_(X)(x=0.25?0.85)合金をカソードとなし、かつ、N_(2)分圧を4×10^(-1)Paとしてカソードアークイオンプレーティング法により、(200)/(111)のピーク強度が約1.9である(Ti_(0.4)Al_(0.6))N膜を含むTi_(1-X)Al_(X)N系の膜を基板上に形成した」ことが記載されており、また、そこでは、当該基板として、前記(B-4)の前段の記載により、超硬チップを供し得ることが示される。
以上のことから、甲第2号証には、
「Ti_(1-X)Al_(X)(x=0.25?0.85)合金をカソードとなし、かつ、N_(2)分圧を4×10^(-1)Paとして、カソードアークイオンプレーティング法により、(200)/(111)のピーク強度が約1.9である(Ti_(0.4)Al_(0.6))N膜を含むTi_(1-X)Al_(X)N系の膜を形成した超硬チップ」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲2発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「硬質チップ」は、本件発明1の「硬質部材」及び「基体」に相当し、また、甲2発明のカソードアークイオンプレーテイング法は、本件発明1のPVD法に含まれ、また、そのカソードアークイオンプレーティングは本件発明1のアークイオンプレーティングに含まれる。
そして、甲2発明では、アークイオンプレーテイングにより、本件発明1と同じように、硬質チップの表面を被覆するものであって、その「Ti_(1-X)Al_(X)N系の膜を形成した超硬チップ」は、本件発明1の「TiとAlの中から選ばれる2元系窒化物を被覆してなる被覆硬質部材」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングである、被覆硬質部材」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点2】被覆硬質部材につき、本件発明1は、「皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」とするのに対して、甲2発明では、その硬質チップにTi_(1-X)Al_(X)N系の膜が形成されているので皮膜を保有するといえるものの、具体的に示される皮膜のIa値は約1.9でしかなく、また、その他の膜においてはそのIa値が不明であり、したがって、Ia値が2.3以上であるとする上記構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
上記VI-3-1.の相違点1についての箇所で記載したとおり、本件明細書では、その被覆硬質部材の製造条件として、皮膜組成の成分割合等のIa値にとって重要であるパラメータにつきその開示を欠くものであり、したがって、その製造条件のみでは皮膜のIa値を決定ないしは特定することができないものである。
してみると、本件発明1の被覆硬質部材につき、その製造条件が甲2発明のものと類似するとしても、また、更に、両者の反応ガス(窒素)圧力の相違につき甲第6号証の前記(F-3)及び(F-4)とその図1の記載を参照すれば甲2発明の膜のIa値が本件の製造条件で製造される膜の1a値よりも高い数値を示す可能性があるとしても、そもそも、本件明細書で開示される製造条件のみでは製造される膜のIa値が特定できないものである以上、本件明細書で開示される製造条件に基づき甲2発明のTi_(1-X)Al_(X)N系の膜のIa値を推定することなどできるものではなく、また、そのように推定してもIa値の適正な数値が得られるものでもなく、したがって、甲2発明の当該膜のIa値が2.3以上であると断定することなどできるものではない。
他に、甲2発明の膜のIa値が2.3以上であることにつき教示するものは何もない。
そうであれば、本件発明1が甲2発明とが同一であるということはできず、本件発明1は甲第2号証に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は本件発明1の構成の全てを引用するものであり、上記した理由と同じ理由により、本件発明2は甲第2号証に記載された発明であるということができない。

VI-3-3.その3(甲第3号証に記載の発明との対比)
甲第3号証には、その前記(C-2)?(C-4)によれば、「カソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーにWC系超硬エンドミル基材を取付け、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、該装置内に高純度N_(2)ガスを7×10^(-3)Torrまで導入して、アーク放電を行い、(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nの皮膜をその切削刃表面に形成してなる、WC系超硬エンドミル」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲3発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「WC系超硬エンドミル」は、本件発明1の「硬質部材」及び「基体」に相当し、また、甲3発明ではカソードアーク方式イオンプレーテイング装置により皮膜を形成するものであるから、本件発明1と同じように、アークイオンプレーティングにより且つPVD法により皮膜を形成するものであるといえる。
そして、甲3発明の「(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nの皮膜をその切削刃表面に形成してなる、WC系超硬エンドミル」は、本件発明1の「TiとAlの中から選ばれる2元系窒化物を被覆してなる被覆硬質部材」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングである、被覆硬質部材」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】被覆硬質部材につき、本件発明1は、「皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」とするのに対して、甲3発明では、そのエンドミル表面に(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nの皮膜を有するものの、その皮膜のIa値が示されず、したがって、上記構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
上記VI-3-1.の相違点1についての箇所で記載したとおり、本件明細書では、その被覆硬質部材の製造条件として、皮膜組成の成分割合等のIa値にとって重要であるパラメータにつきその開示を欠くものであり、したがって、その製造条件のみでは皮膜のIa値を決定ないしは特定することができないものである。
してみると、本件発明1の被覆硬質部材につき、その製造条件が甲3発明のものと、実質上、異なることがないとしても、又は、両者の製造条件の間で唯一相違するところの反応ガス(窒素)圧力につき、甲第6号証の前記(F-3)及び(F-4)とその図1の記載を参照すれば甲3発明の皮膜のIa値が本件の製造条件で製造される皮膜の1a値よりも高い数値を示すとしても、そもそも、本件明細書で開示される製造条件のみでは製造される膜のIa値が特定できないものである以上、本件明細書で開示される製造条件に基づき甲3発明の(Al_(0.62)Ti_(0.38))Nの皮膜のIa値を推定することなどできるものではなく、また、そのように推定してもIa値の適正な数値が得られるものでもなく、したがって、甲3発明の当該皮膜のIa値が2.3以上であると断定することなどできるものではない。
他に、甲3発明の膜のIa値が2.3以上であることにつき教示するものは何もない。
そうであれば、本件発明1が甲3発明とが同一であるということはできず、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は本件発明1の構成の全てを引用するものであり、上記した理由と同じ理由により、本件発明2は甲第3号証に記載された発明であるということができない。

VI-3-4.その4(甲第4号証に記載の発明との対比)
甲第4号証には、その前記(E-3)及び(E-4)によれば、
「カソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーに超硬合金製チップ(WC-10%Coを主成分とする)を取付け、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、装置内に高純度N_(2)ガスを7×10^(-3)Torrまで導入し、アーク放電を開始して、その表面に(Al_(0.62)Ti_(0.38))N及び(Al_(0.7)Ti_(0.33))Nの皮膜を形成してなる、該超硬合金製チップ」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲4発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「超硬合金製チップ」は、本件発明1の「硬質部材」及び「基体」に相当し、また、甲4発明ではカソードアーク方式イオンプレーテイング装置により皮膜を形成するものであるから、本件発明1と同じように、アークイオンプレーティングにより且つPVD法により皮膜を形成するものであるといえる。
そして、甲4発明の「その表面に(Al_(0.62)Ti_(0.38))N及び(Al_(0.7)Ti_(0.33))Nの皮膜を形成してなる、超硬合金製チップ」は、本件発明1の「TiとAlの中から選ばれる2元系窒化物を被覆してなる被覆硬質部材」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングである、被覆硬質部材」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点4】被覆硬質部材につき、本件発明1は、「皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」とするのに対して、甲4発明では、その超硬合金製チップ表面に(Al_(0.62)Ti_(0.38))N及び(Al_(0.7)Ti_(0.33))Nの皮膜を有するものの、その皮膜のIa値が示されず、したがって、上記構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
上記VI-3-1-4.の相違点3についての箇所で記載した理由と同じ理由により、本件明細書で開示される製造条件に基づき甲4発明の(Al_(0.62)Ti_(0.38))N及び(Al_(0.7)Ti_(0.33))Nの皮膜のIa値を推定することなどできるものではなく、また、そのように推定してもIa値の適正な数値が得られるものでもなく、したがって、甲4発明の当該皮膜のIa値が2.3以上であると断定することなどできるものではない。
他に、甲4発明の膜のIa値が2.3以上であることにつき教示するものは何もない。
したがって、本件発明1が甲4発明とが同一であるということはできず、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は本件発明1の構成の全てを引用するものであり、上記した理由と同じ理由により、本件発明2は甲第4号証に記載された発明であるということができない。

VI-3-5.その5(甲第5号証に記載の発明との対比)
甲第5号証には、その前記(E-2)?(E-8)によれば、
「カソードアーク方式イオンプレーティング装置の基板ホルダーに、超硬合金製チップ(WC-10%Coを主成分とする)、超硬ドリル(WC-9.5%Coを主成分とする)、ハイスドリル〔以下、「超硬合金製チップ等」という〕を取付け、基材に-70Vのバイアス電圧を印加すると共に、装置内に高純度N_(2)ガスを5×10^(-2)Torrまで導入し、アーク放電を開始し、その表面に、直接又は中間層を介して、下記のAlTiN皮膜を形成してなる、該超硬合金製チップ等

Al_(0.61)Ti_(0.39)N、Al_(0.07)Ti_(0.93)N、Al_(0.26)Ti_(0.74)N 、Al_(0.56)Ti_(0.44)N、Al_(0.68)Ti_(0.32)N、Al_(0.58)Ti_(0.42)N、Al_(0.62)Ti_(0.38)N、Al_(0.48)Ti_(0.52)N、Al_(0.63)Ti_(0.37)N、Al_(0.38)Ti_(0.62)N、Al_(0.08)Ti_(0.92)N、Al_(0.65)Ti_(0.35)N、Al_(0.45)Ti_(0.55)N、Al_(0.28)Ti_(0.72)N」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲5発明」という)が記載されているということができる。
そこで、本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「超硬合金製チップ等」は、本件発明1の「硬質部材」及び「基体」に相当し、また、甲5発明ではカソードアーク方式イオンプレーテイング装置により皮膜を形成するものであるから、本件発明1と同じように、アークイオンプレーティングにより且つPVD法により皮膜を形成するものである。
そして、甲5発明の「その表面に、直接又は中間層を介して、AlTiN皮膜を形成してなる、超硬合金製チップ等」は、本件発明1の「TiとAlの中から選ばれる2元系窒化物を被覆してなる被覆硬質部材」に相当することは明らかである。
よって、両者は、
「基体表面にPVD法によってTiとTi以外の周期律表4a、5a、6a族、Alの中から選ばれる2元系、ないし3元系の炭化物、窒化物、炭窒化物を被覆してなる被覆硬質部材において、前記PVD法はアークイオンプレーティングである、被覆硬質部材」である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点5】被覆硬質部材につき、本件発明1は、「皮膜のX線回折パターンにおける(200)面のピーク強度をI(200)、(111)面のピーク強度をI(111)としたときに、次式Ia=I(200)/I(111)で表されるIa値が2.3以上であること」とするのに対して、甲5発明では、その超硬合金製チップ等の表面にAlTiNの皮膜を有するものの、その皮膜のIa値が示されず、したがって、上記構成を具備しない点
以下、上記相違点につき検討する。
上記VI-3-1-4.の相違点3についての箇所で記載した理由と同じ理由により、本件明細書で開示される製造条件に基づき甲5発明のAlTiNの皮膜のIa値を推定することなどできるものではなく、また、そのように推定してもIa値の適正な数値が得られるものでもなく、したがって、甲5発明の当該皮膜のIa値が2.3以上であると断定することなどできるものではない。
他に、甲5発明の膜のIa値が2.3以上であることにつき教示するものは何もない。
そうであれば、本件発明1が甲5発明とが同一であるということはできず、本件発明1は甲第3号証に記載された発明であるということができない。
また、本件発明2は本件発明1の構成の全てを引用するものであり、上記した理由と同じ理由により、本件発明2は甲第5号証に記載された発明であるということができない。

VI-3-6.理由1の結論
請求人の提出した証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえない。

VII.まとめ
前記VI-1-1.、VI-1-2.及びVI-2-1.で記載したとおり、本件出願は特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定する要件を満たさないものであり、本件請求項1及び2に係る発明の特許については、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-06-29 
結審通知日 2007-07-04 
審決日 2007-07-20 
出願番号 特願平7-34612
審決分類 P 1 113・ 113- Z (C23C)
P 1 113・ 534- Z (C23C)
P 1 113・ 531- Z (C23C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮澤 尚之  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 廣野 知子
松本 貢
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3016703号(P3016703)
発明の名称 被覆硬質部材  
代理人 本多 弘徳  
代理人 小栗 昌平  
代理人 星野 昇  

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