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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D02G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D02G
管理番号 1180486
審判番号 不服2005-20841  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-27 
確定日 2008-07-03 
事件の表示 平成11年特許願第219180号「積層糸」拒絶査定不服審判事件〔平成13年2月20日出願公開、特開2001-49541〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成11年8月2日の出願であって、平成16年2月16日に手続補正がされ、平成17年9月16日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年10月27日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年11月11日付けで手続補正がされ、さらに、平成19年10月17日付けで審尋がされたものである。

第2 平成17年11月11日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成17年11月11日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正
平成17年11月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲(平成16年2月16日付けの手続補正により補正されたもの)の、
「【請求項1】 帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用積層糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする帯電防止用積層糸。
【請求項2】 合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止用積層糸。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の帯電防止用積層糸を編み込むことを特徴とする帯電防止性布製品の製造方法。
【請求項4】 請求項1又は2に記載の帯電防止用積層糸を編み込むことを特徴とする帯電防止性衣服の製造方法。
【請求項5】 請求項1又は2記載の帯電防止用積層糸を布製品に編み込むことを特徴とする布製品の帯電防止加工方法。
【請求項6】 請求項1又は2記載の帯電防止用積層糸を衣服に編み込むことを特徴とする衣服の帯電防止加工方法。」

「【請求項1】 帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用積層糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性金属である銀を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする帯電防止用積層糸。
【請求項2】 合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止用積層糸。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の帯電防止用積層糸を編み込むことを特徴とする帯電防止性布製品の製造方法。
【請求項4】 請求項1又は2に記載の帯電防止用積層糸を編み込むことを特徴とする帯電防止性衣服の製造方法。
【請求項5】 請求項1又は2記載の帯電防止用積層糸を布製品に編み込むことを特徴とする布製品の帯電防止加工方法。
【請求項6】 請求項1又は2記載の帯電防止用積層糸を衣服に編み込むことを特徴とする衣服の帯電防止加工方法。」
とする補正を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否
この補正は、「抗菌性金属」という補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を「抗菌性金属である銀」と限定するものであって、この出願の願書に最初に添付した明細書の[発明の詳細な説明]段落【0015】において抗菌性金属の一つとして例示された「銀」に限定したものであるから、同明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第2項に規定する要件を満たすものであり、同条第4項第2号に掲げる事項を目的とするものということができる。

(2)独立特許要件の有無
しかし、その補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、この請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、この補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



補正発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記アの刊行物に記載された発明及び周知事実に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ア 特開平11-117134号公報(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)

イ 刊行物1に記載された事項
a 「基材フィイルム、銀層および銅層を少なくとも有する積層体をマイクロスリットして得られるスリット糸であって、銀層と銅層とが相対するように配されていることを特徴とする抗菌スリット糸」(特許請求の範囲)
b 「本発明は、・・・、層の構成例としては例えば・・・、フイルム/銅層/銀層/フイルム、・・・があり、」(段落[0009])
c 「これらの中で、銀層と銅層とが直接密着積層(例えば銀蒸着層上に直接銅層を蒸着積層)した積層体からのスリット糸よりも、別々に基材フイルムに蒸着して得た両フイルムを銀層と銅層とを相対させて点接着や線接着のように疎接着して後スリットとしたものの方が好ましい。」(段落[0009])
d 「本発明のスリット糸は、・・・、織物、編物、不織布、堅綿等の繊維構造物の構成要素として使用でき、銀層単独、銅層単独、銀層銅層の単なる混在よりも優れた抗菌等の効果を発揮し得る。」(段落[0010])
e 本発明における基材フイルムとしては、ポリエチレンテレフタレートや・・・等のポリエステル、・・・ポリアミド、・・・ポリオレフィン、・・・・、等のフイルムが挙げられる。」(段落[0005])

ウ 刊行物1に記載された発明
刊行物1は、「基材フイルム、銀層および銅層を少なくとも有する積層体をマイクロスリットして得られるスリット糸であって、銀層と銅層とが相対するように配されていることを特徴とする抗菌スリット糸」(摘記a)について記載するものであって、その「基材フイルム」について、「ポリエチレンテレフタレートや・・・等のポリエステル、・・・ポリアミド、・・・ポリオレフィン、・・・・、等のフイルムが挙げられる。」(摘記e)とされているから、「基材フイルム」は合成樹脂フィルムを含むということができる。また、その「銀層および銅層を少なくとも有する積層体」の態様として、「銀層と銅層とが・・・別々に基材フイルムに蒸着して得た両フイルムを銀層と銅層とを相対させて」(摘記c)接着したものが記載されているが、その「銀」も「銅」も抗菌を有する金属であることは明らかである。
以上によれば、刊行物1には、
「抗菌性を付与する用途に用いられる抗菌スリット糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性を有する銀の層を蒸着して得たフィルムと合成樹脂フィルムに抗菌性を有する銅の層を蒸着して得たフィルムとを両フィルムの銀層と銅層とを相対させて接着した積層体をマイクロスリットして得られた抗菌スリット糸」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

エ 補正発明と引用発明との対比
補正発明は、上記1のとおりの
「帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用積層糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性金属である銀を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする帯電防止用積層糸。」
というものであるところ、この補正発明と上記引用発明と対比すると、引用発明の「抗菌性を有する銀(銅)」は本願発明の「抗菌性金属」に包含され、引用発明の「合成樹脂フィルムに抗菌性を有する銀の層を蒸着して得たフィルムと合成樹脂フィルムに抗菌性を有する銅の層を蒸着して得たフィルムとを両フィルムの銀層と銅層とを相対させて接着した積層体」は両フィルムが接着されてサンドイッチ構造となっていると認められるから、本願発明の「合成樹脂フィルムに抗菌性金属である銀を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体」に対応する。そして、その引用発明の「積層体」を「マイクロスリットして得られた抗菌スリット糸」は細長く切断して形成された積層糸であると認められ、その切断方向は通常縦方向ということができる(仮に縦方向でないとしても、物として変わるものでもない。)から、補正発明の「積層体を縦方向に細長く切断して形成された・・・積層糸」に相当するということができる。すると、両者は、
「積層糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする積層糸」
という点で一致し、下記の相違点1、2で相違するということができる。
相違点1:積層糸が、補正発明は帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用のものであるのに対して、引用発明は抗菌性を付与する用途に用いられるものである点
相違点2:抗菌性金属が、補正発明は銀であるのに対して、引用発明は銀と銅である点

オ 判断
そこで、この相違点について判断する。
(ア)相違点1について
金属箔をポリマーフィルムでサンドイッチしてスリットするスリットヤーンは、帯電防止機能を有するものであって帯電防止用の繊維としてこの出願前に周知のもの(例えば、平成11年4月15日、丸善株式会社発行、社団法人繊維学会編、「第2版 繊維便覧」第718?719頁、参照。以下、「参考資料」という。)であるから、引用発明の抗菌スリット糸が帯電防止機能をも有することは当業者にとって自明なことである。
そうすると、引用発明のスリット糸を、帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用の糸とすることは、当業者にとって何ら困難なことではない。

(イ)相違点2について
刊行物1に「本発明のスリット糸は、・・・・、織物、編物、不織布、堅綿等の繊維構造物の構成要素として使用でき、銀層単独、銅層単独、銀層銅層の単なる混在よりも優れた抗菌等の効果を発揮し得る」(摘記d)と、「銀層単独」とするスリット糸も開示されている。
そうすると、引用発明の糸の構成を銀のみとすることは、当業者にとって必要に応じ適宜なし得ることであって、何ら困難なことではない。

(ウ)補正発明の効果について
(i) 補正発明の効果は、この出願の明細書の段落【0009】、【0047】に記載されているように「外観が美しく、高い抗菌性を備え、洗濯を繰り返しても抗菌力が低下せず、帯熱防止機能や帯電防止機能を示した」というものであるが、これらの効果は、引用発明の奏する効果及び技術常識を考慮すれば予測可能な範囲内のものであり、格別優れたものとも認められない。
(ii) 請求人の主張
請求人は、審判請求書の【請求の理由】の「(4-4)本願発明の奏する有利な効果」の第4段落において、「本願発明の積層糸において、銀の単体から成る導電性の蒸着被膜は、その上下の面を、不導体である合成樹脂フィルムで挟まれるとともに、裁断の切り口の面では蒸着被膜の面積は無視できるほど小さく、さらに、蒸着被膜のうち、切り口側の部分は、導電性の低い化合物(硫化銀等)となっています。本願発明の積層糸は、この構造により、帯電防止効果を長期間にわたって安定的に奏するという有利な効果を奏することができます。すなわち、本願発明の積層糸は、導電性の蒸着被膜を備えることにより、いわゆるコロナ放電を生じさせ、静電気を除去することができます。」と主張し、その「切り口側の部分は、導電性の低い化合物(硫化銀等)となっています」旨の主張を裏付ける証拠として甲第1?3号証を提示している。
しかし、積層糸が、導電性の蒸着被膜を備えることにより、コロナ放電を生じさせ、静電気を除去することができることは周知のことであり(上記参考資料参照)、かつ糸の切り口側の部分は、導電性の低い化合物となることは銅も同じであると認められるから、補正発明と引用発明とが、帯電防止効果において格別の差があるものとは認められない。
よって、請求人の主張は採用することはできない。

カ まとめ
以上のとおり、補正発明は、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができるものではないから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、この補正を含む本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成17年11月11日付けの手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成16年2月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「帯電防止性を付与する用途に用いられる帯電防止用積層糸において、合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする帯電防止用積層糸。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物(特開平11-117134号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 刊行物及び刊行物の記載事項・刊行物に記載された発明・本願発明と引用発明との対比・判断
上記刊行物は、上記の第2 2(2)の項のアの刊行物1と同じものであり、その記載事項及びその刊行物に記載された発明も同項のイ及びウに記載したとおりである(その発明を、同様に「引用発明」という。)。
そして、本願発明は補正発明の「抗菌性金属である銀」が「抗菌性金属」であるものであるから、本願発明と引用発明との相違点は、同項のエの相違点1のみであり、その相違点についての判断は、同項のオに記載したとおりである。

4 まとめ
よって、本願発明は、この出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明ついて言及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-22 
結審通知日 2008-05-07 
審決日 2008-05-22 
出願番号 特願平11-219180
審決分類 P 1 8・ 121- Z (D02G)
P 1 8・ 575- Z (D02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐野 健治  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
坂崎 恵美子
発明の名称 積層糸  
代理人 足立 勉  
代理人 足立 勉  
代理人 足立 勉  

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