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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1180622
審判番号 不服2006-20548  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-14 
確定日 2008-07-10 
事件の表示 特願2003-143485「半導体受光モジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日出願公開、特開2004-349395〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯

本願は、平成15年5月21日の出願であって、平成18年7月21日に手続補正がなされ、同年8月11付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月11日に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]

(1)補正の内容
本件補正は、平成18年7月21日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された、

「【請求項1】
基板上に順次に形成された光吸収層と上部クラッド層とを有し、前記基板と前記光吸収層とが同一端面の光入射端面をなし、前記基板と前記光吸収層の少なくとも一方の前記光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号をp電極及びn電極から外部に出力する半導体受光素子と、
前記半導体受光素子の前記光入射端面に対して光を斜めに入射させると共に、前記光の少なくとも一部が前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させる入射光指向装置とを具備し、
前記入射光指向装置は、前記光を前記光入射端面に対して斜めに入射させると共に、前記光の少なくとも一部が前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させることにより、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるようにし、且つ前記上部クラッド層に対する光の入射角が前記光吸収層と前記上部クラッド層との界面において光の全反射が起きる臨界角以上になるようにし、
前記半導体受光素子は、前記光吸収層に入射した光について、前記光吸収層の上方にある前記上部クラッドとの界面と平行に伝搬する成分と、前記光吸収層の上方にある界面で反射し前記光吸収層内を斜め方向に伝搬する成分とのうち少なくとも一方を伝搬するようにしたことを特徴とする半導体受光モジュール。」を、

「【請求項1】
基板上に順次に形成された光吸収層と上部クラッド層とを有し、前記基板と前記光吸収層とが同一端面の光入射端面をなし、前記基板と前記光吸収層の少なくとも一方の前記光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号をp電極及びn電極から外部に出力する半導体受光素子と、
前記半導体受光素子の前記光入射端面に対して光を斜めに入射させると共に、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記基板と前記光吸収層を照射するように指向させる入射光指向装置とを具備し、
前記入射光指向装置は、前記光を前記光入射端面に対して斜めに入射させると共に、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記基板と前記光吸収層に前記光を照射するように指向させ、且つ前記上部クラッド層に対する光の入射角が前記光吸収層と前記上部クラッド層との界面において光の全反射が起きる臨界角以上になるようにし、
前記半導体受光素子は、前記光吸収層に入射した光について、前記光吸収層の上方にある前記上部クラッド層との界面と平行に伝搬する成分と、前記光吸収層の上方にある界面で反射し前記光吸収層内を斜め方向に伝搬する成分とのうち少なくとも一方を伝搬するようにしたことを特徴とする半導体受光モジュール。」に補正する内容を含むものである。

上記請求項1に係る補正は、
補正前の請求項1の発明特定事項である「前記光の少なくとも一部が」前記光入射端面において前記光吸収層を照射することに関し、「前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように」前記光吸収層を照射することと、それ以外に「前記基板」も照射することとを限定し、
同じく補正前の請求項1の発明特定事項である「前記光の少なくとも一部が」前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させることにより、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるようにすることに関し、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記光吸収層に前記光を照射する以外に「前記基板に」も「前記光を」照射するように指向させることを限定するとともに、
「前記上部クラッド層」の誤記であることが明らかな補正前の請求項1の「前記上部クラッド」の記載を「前記上部クラッド層」と訂正するものであるから、
平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮及び同3号の誤記の訂正を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物記載の発明

原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の平成14年7月5日に頒布された刊行物である国際公開第2002/091484号(以下「引用例」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

ア.「i-InGaAsからなる光吸収層」(2頁9行)、
「光吸収層4の屈折率n_(4)を3.50と仮定する」(7頁12行)
及び「ここで、p^(+)-InGaAsからなるコンタクト層2は屈折率n_(2)が光吸収層4と同じ(n_(2)=n_(4))である」(8頁14?15行)

イ.「また、n-InPからなる下部クラッド層5の屈折率n_(5)は、3.15である。
なお、ノンドープInPの屈折率は3.17であるが、nドープInPの屈折率は、これよりも低くなることが知られているので、ここでは、3.17よりも低くn_(5)=3.15としている。」(6頁19?24行)
及び「正孔は質量が重いので、通常、p-InPからなる上部クラッド層3の屈折率n_(3)はノンドープInPのものと同じなので、n_(3)=3.17とする」(8頁1?3行)

ウ.「つまり、層の総数がk+1で光吸収層がk番目の層であると仮定すると、光が最初に存在する媒質の屈折率n_(1)がk+1番目の層の屈折率n_(K+1)よりも大きい場合には、光は光吸収層とk+1番目の層の界面において光吸収層内に幾何光学の意味において全反射される入射角θ1 が存在することになる。
ここで、図14と図18及び図15と図19に示した従来の半導体受光素子について再度考察してみる。
図15に示した半導体受光素子におけるn-InPからなる下部クラッド層5の屈折率n_(5)と、図19に示した半導体受光素子におけるn^(+)-InPからなる基板6の屈折率n_(6)とは3.15であり、図15と図19のp-InPからなる上部クラッド層3の屈折率n_(3)(=3.17)より低いので、図14と図18に示した従来の半導体受光素子においては、光は光吸収層4を幾何光学におけるスネルの法則に従って通り抜ける。
つまり、これらの従来の半導体受光素子においては光吸収層4とp-InPからなる上部クラッド層3との界面において光が幾何光学の意味において全反射されることは、原理的に不可能である。
以下、以上のような基本的な考え方に基づく本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
(第1の実施の形態)
図2は、本発明の第1の実施の形態に係わる半導体受光素子の概略構成を示す横断面図である。
図2において、図14に示した従来の半導体受光素子と同一部分には同一符号を付して
、重複する部分の詳細説明を省略する。
すなわち、図2に示すように、半絶縁性InP(SI-InP)材料で形成された基板9上には、n-InGaAsPからなる下部クラッド層13、i-InGaAsからなる光吸収層4、p-InPからなる上部クラッド層3、p^(+)-InGaAsからなるコンタクト層2が積層されている。
そして、このコンタクト層2の上側には、電気信号を取出すためのp型電極1が取付けられている。
また、n-InGaAsPからなる下部クラッド層13には、同じく電気信号を取出すためのn型電極7が取付けられている。
さらに、基板9の下側に配置されたくさび型の台座14によって、半導体受光素子は傾斜されている。
そして、この半導体受光素子においては、基板9と下部クラッド層13の端面で形成される光入射端面10と下部クラッド層13の上面(光吸収層4の下面)とのなす角度は90度に設定されている。
具体的には、光入射端面10は、へき開によって形成されている。
そして、n-InGaAsPからなる下部クラッド層13には、p-InPからなる上部クラッド層3(屈折率n_(3)=3.17)よりも屈折率の高い材料、例えば、バンドギャップ波長1.3μmの4元組成の材料(屈折率n_(13)=3.39)が採用されている。
なお、実際のデバイスにおいては、オーミックコンタクトを実現するためにp^(+)-InGaAsからなるコンタクト層2が用いられるので、ここにおいてもその使用を想定している。
図3は、この第1の実施の形態の半導体受光素子における光の中心の軌跡を示す図である。
ここで、重要なことは、光は、p-InPからなる上部クラッド層3よりも高い屈折率を有するn-InGaAsPからなる下部クラッド層13に入射されていることである。
以下、各媒質の境界においてスネルの法則を適用すると、
光入射端面10では、
n_(0)sinθ_(1) = n_(13)sinθ_(2) …(19)
が得られる。
下部クラッド層13と光吸収層4の境界では、
n_(13)sinθ_(4) = n_(4)sinθ_(5) …(20)
が得られる。
最終的に、光吸収層4とp-InPからなる上部クラッド層3の界面で光が幾何光学の意味において全反射されるためには、スネルの法則から得られる下記の反射条件
n_(4)sinθ_(5) = n_(3) …(21)
が成り立つことが必要である。
ちなみに、光吸収層4の屈折率n_(4)は3.5、p-InPからなる上部クラッド層3の
屈折率n_(3)は3.17なので、光吸収層4内でのθ_(5)の臨界角θ_(5C)は式(21)よりθ_(5C)=64.9度(あるいはθ_(6C)=π/2-64.9度=25.1度)となる。
一方、式(21)を式(20)に代入することにより、反射条件を
n_(13)sinθ_(4) = n_(3) …(22)
とも書きかえることができる。
p-InPからなる上部クラッド層3の屈折率n_(3)は3.17、n-InGaAsPからなる下部クラッド層13の屈折率n_(13)は3.39であるから、光が吸収層4内において反射を得るためのθ_(4)の臨界角θ_(4C)は69.2度(あるいはθ_(2) の臨界角θ_(2C)は20.8度)となる。
つまり、光入射端面10に入射後、屈折した光が光入射端面10の法線となす角θ_(2)がこの20.8度以内であれば、光は光吸収層4とp-InPからなる上部クラッド層3との界面において反射され、再度、光吸収層4を伝播し、吸収される。
先に説明した従来の半導体受光素子と比較すると、本実施の形態による半導体受光素子において光吸収層4内を伝播する光の傾きが従来の半導体受光素子の場合と比較して小さいので、光の実効的な吸収長が長くなる。
さらに、本実施の形態の半導体受光素子では、光は反射されるので実効的な吸収長は倍化され、半導体受光素子としての変換効率が大幅に改善される。
例として、光の光入射端面10に対する入射角θ_(1)が10度の場合について考えてみる。
光入射端面10におけるスネルの法則より、
n_(0)sinθ_(1) = n_(13)sinθ_(2) …(23)
が成り立つ。
そして、空気の屈折率n_(0)が1であることを考慮すると、式(23)のθ_(2)は、2.9度となる。
したがって、θ_(4)=π/2-θ_(2)=87.1度となる。
このθ_(4)を式(20)に代入すると、θ_(5)=75.3度、つまりθ_(6)=14.7度となる。
よって、本実施の形態の半導体受光素子では、光吸収層4における光の反射の臨界角θ_(6C)=25.1度以内であることを確認することができる。
さらに、本実施の形態の半導体受光素子では、光吸収層4内を光が伝播する角度を小さく設定できることと、この幾何光学の意味における光の全反射を用いることにより、従来の半導体受光素子と比較して、光の吸収効率を大幅に改善することができる。
例えば、本実施の形態の半導体受光素子では、入射角θ_(1)が10度の場合、光の実効的な吸収長は、光吸収層4の厚みの1/sin(14.7度)×2(反射分)=7.9倍にもなるので、光の吸収効率を大幅に改善することができる。
前述したように、従来の半導体受光素子では光の実効的な吸収長は光吸収層4の厚みの約2倍であったから、本実施形の態の半導体受光素子を使用することにより、光の吸収効率を大幅に改善することができる。
また、本実施の形態の半導体受光素子では、実効的な吸収長を同じとするならば、光吸収層4の幾何学的な長さを短くできるので、キャパシタンスを減らすことができ、CR時定数から制限される帯域を大幅に改善することができる。
なお、本実施の形態の半導体受光素子では、光の入射角θ_(1)を最適化すればさらなる改善が期待される。」(27頁17行?33頁1行)

エ.「ここで、屈折率が高い下部クラッド層13に光が入射されることが望ましいが、光にとっての等価屈折率が上部クラッド層3の屈折率よりも高くなるように、下部クラッド層13と基板9の両方に光が入射されるようにしても本発明を実施できる。」(33頁下から2行目?34頁3行)

オ.「すなわち、本発明では、光が入射する部分の屈折率を光吸収層の上側のクラッド層の屈折率よりも高くすることが基本的な考え方なので、以上の全ての実施形態におけるn-InGaAsPからなる下部クラッド層13、15の代りに、p-InPからなる上部クラッド層3よりも屈折率が高い他の材料を全て使用することができる。
例えば、バンドギャップ波長が1.3μm以外のn-InGaAsP材料やその他n-InGaAlAs、n-InAlAsなどを用いても良いことは言うまでもない。」(41頁16?24行)

カ.「さらに、光吸収層4の材料としては、p-InGaAsの他、p-InGaAsP、p-InGaAlAsなどの4元混晶のほか、各種多重量子井戸でも良いことは言うまでもない。」(42頁19行?22行)

キ.「さらに、図1から図9に示した本発明の各実施の形態では光入射端面10の上側のエッジから光吸収層4の端面間での距離が零でないように図を描いているが、実際には、光が光吸収層4に効率良く照射されれば良いので、この距離は零で良いし、零でなくても良い。」(43頁2行?6行)

ク.「さらに、高濃度のnタイプの半導体は屈折率がやや小さくなることを利用して、光吸収層4の上にn型もしくはn^(+)型の半導体層を、光吸収層の下にp型もしくはp^(+)型の半導体層を形成しても良い。
例えば、光吸収層の上にn^(+)-InPクラッド層を形成することが考えられる。
その場合には、以上の各実施の形態において、コンタクト層2をn^(+)-InGaAsで形成し、上部クラッド層3をn^(+)-InPで形成し、下部クラッド層5をp-InP(InPの他にInGaAsPなどその他の材料でも良い)で形成し(但し、この層はあってもなくても良い)、下部クラッド層13をp-InPあるいはp-InPとしても良いし、p-InGaAsP層あるいはp^(+)-InGaAsP層など屈折率を高めることができれば、半絶縁性InPなどを含めどの材料でも良いことは言うまでもない。
さらに、基板9と下部クラッド層13とを一体と見なし、p^(+)-InP基板を使用しても良い。」(43頁12行?44頁9行)

ケ.「ここで、図2に示した本発明の第1の実施の形態による半導体受光素子の実測結果ついて図10により説明する。
すなわち、図10は、入射光の傾きθ_(1)が35度(入射光は、図3に示したように斜め左下から斜め右上方に向っている)の場合に、先球ファイバを光入射端面10に沿って基板9側から上方に動かした際に得られる光電流の測定値を示している。
この場合、入力光のパワーは、-8.1dBmである。
先球ファイバを基板9側から光入射端面10に沿って、上方に移動させるにつれ、先球ファイバから出射された光が図3の基板9の他にn-InGaAsPからなる下部クラッド層13の高い屈折率を感じだすと、入射光の等価屈折率は高くなる。
その結果、入射光の等価屈折率は、光吸収層4の上にあるp-InPからなる上部クラッド層3の屈折率n_(3)よりも高くなり、光はi-InGaAsからなる光吸収層4とp-InPからなる上部クラッド層3との境界において反射されるようになるので、効率が大幅に改善される。
ここで、光吸収層4の厚みは、0.4μmである。
なお、この実験では、光吸収層4、上部クラッド層3、コンタクト層2の端面と光入射端面10とは同一平面上にある素子を用いている。
つまり、この素子では光入射端面10のエッジから光吸収層4までの距離は零である。」(45頁3行?46頁2行)

コ.「請求の範囲
1.基板と、
上記基板の上部に積層され、少なくとも一層で構成される下部クラッド層と、
上記下部クラッド層の上部に積層される光吸収層と、
上記光吸収層の上方に積層され、少なくとも一層で構成される上部クラッド層と、
上記基板及び上記下部クラッド層の少なくとも一方に提供され、所定角度をなして光を入射させることにより、上記光吸収層で該光を吸収させて電流として出力させることを可能とする光入射端面とを備え、
上記光入射端面を提供する上記基板及び上記下部クラッド層の少なくとも一方の等価屈折率が上記上部クラッド層を構成する少なくとも一層の屈折率よりも大であるとともに、
上記所定角度が、上記光吸収層に入射された光を上記上部クラッド層を構成する少なくとも一層の下面で反射させることを可能とする角度である半導体受光素子。
2.上記光は、上記光入射端面に対して斜めに入射し、さらに上記光吸収層に対して斜めに入射して伝播した後、
上記光吸収層の上側の界面もしくは上記光吸収層の上側に位置する上記上部クラッド層を構成する少なくとも一層の界面において反射され、
再び、上記光吸収層を斜め下方に伝播する請求の範囲1に従う半導体受光素子。
・・・・(中略)・・・・
11.上記光を、上記光入射端面に対して斜めに入射させるために、上記半導体受光素子は、上記基板の下側に配置されたくさび型の台座によって傾斜されている請求の範囲2に従う半導体受光素子。
・・・・(中略)・・・・
16.基板と、
上記基板上に順番に積層される下部クラッド層、光吸収層、上部クラッド層と、
上記基板と上記下部クラッド層との少なくとも一方の端面に形成された光入射端面と、
上記光入射面から入射した光が上記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号を、上記上部クラッド層及び下部クラッド層をそれぞれ経て外部に出力するp電極及びn電極とを備え、
上記光入射面に入射した光が、上記光入射端面において屈折された後、上記光吸収層に斜めに入射されて伝搬した後、上記光吸収層の上側の界面もしくは上記光吸収層の上側に位置する半導体層の界面において全反射され、再び上記吸収層を斜め下方に伝搬するように、
上記下部クラッド層の屈折率を上記上部クラッド層の屈折率よりも高くした半導体受光素子。」(48頁1行?51頁16行)

サ.上記ア?コによれば、引用例には、
「下部クラッド層を一体と見なした基板上に順番に積層される光吸収層と上部クラッド層とを有し、前記基板端面に形成された光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号を外部に出力するp電極及びn電極とを備えた半導体受光素子であって、前記光吸収層はi-InGaAs、p-InGaAs、p-InGaAsP、p-InGaAlAsなどの材料からなるとともに厚みは0.4μmであり、前記光吸収層及び前記上部クラッド層の端面と前記光入射端面とは同一平面上にあり、前記上部クラッド層はn^(+)-InPからなり、前記基板は前記上部クラッド層よりも屈折率の高いp^(+)-InPが採用されている半導体受光素子と、
前記光を、前記光入射端面に対して斜めに入射させるために、前記基板の下側に配置されたくさび型の台座とを具備し、
前記台座は、前記光入射端面に入射した前記光が、前記光入射端面において屈折された後、前記光吸収層に斜めに入射されて伝搬した後、前記光吸収層の上側の界面において全反射され、再び前記吸収層を斜め下方に伝搬するように、前記光が入射する位置が前記上部クラッド層の屈折率よりも屈折率を高くした前記基板の端面となり、かつ、前記光が前記光吸収層内での臨界角θ_(5C)以上の入射角で前記光吸収層の上側の界面に入射するような入射角θ_(1)で前記光入射端面に対して斜めに入射するようにし、
前記半導体受光素子は、前記光入射端面に入射した前記光が、前記光入射端面において屈折された後、前記光吸収層に斜めに入射されて伝搬した後、前記光吸収層の上側の界面において全反射され、再び前記吸収層を斜め下方に伝搬する半導体受光装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比

そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「下部クラッド層を一体と見なした基板」、「光吸収層」、「上部クラッド層」、「前記基板端面に形成された光入射端面」、「前記光吸収層及び前記上部クラッド層の端面と前記光入射端面とは同一平面にあり」、「光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号を外部に出力するp電極及びn電極とを備えた半導体受光素子」、「前記光を、前記光入射端面に対して斜めに入射させる」、「前記基板の下側に配置されたくさび型の台座」、「前記台座は、前記光入射端面に入射した前記光が、前記光入射端面において屈折された後、前記光吸収層に斜めに入射されて伝搬した後、前記光吸収層の上側の界面において全反射され、再び前記吸収層を斜め下方に伝搬するように、前記光が入射する位置が前記上部クラッド層の屈折率よりも屈折率を高くした前記基板の端面となり、かつ、前記光が前記光吸収層内での臨界角θ_(5C)以上の入射角で前記光吸収層の上側の界面に入射するような入射角θ_(1)で前記光入射端面に対して斜めに入射するようにし」及び「半導体受光装置」は、それぞれ、本願補正発明の「基板」、「光吸収層」、「上部クラッド層」、「光入射端面」、「前記基板と前記光吸収層とが同一端面」、「光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号をp電極及びn電極から外部に出力する半導体受光素子」、「前記半導体受光素子の前記光入射端面に対して光を斜めに入射させる」、「『前記光入射端面において前記基板』『を照射するように指向させる入射光指向装置』」、「『前記入射光指向装置は、前記光を前記光入射端面に対して斜めに入射させると共に、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記基板』『に前記光を照射するように指向させ、且つ前記上部クラッド層に対する光の入射角が前記光吸収層と前記上部クラッド層との界面において光の全反射が起きる臨界角以上になるようにし』」及び「半導体受光モジュール」に相当する。

イ.引用発明においては、「前記半導体受光素子は、前記光入射端面に入射した前記光が、前記光入射端面において屈折された後、前記光吸収層に斜めに入射されて伝搬した後、前記光吸収層の上側の界面において全反射され、再び前記吸収層を斜め下方に伝搬する」から、引用発明は、本願補正発明における「前記半導体受光素子は、前記光吸収層に入射した光について、前記光吸収層の上方にある前記上部クラッド層との界面と平行に伝搬する成分と、前記光吸収層の上方にある界面で反射し前記光吸収層内を斜め方向に伝搬する成分とのうち少なくとも一方を伝搬する」点を備えている。

ウ.したがって、両発明は、
「基板上に順次に形成された光吸収層と上部クラッド層とを有し、前記基板と前記光吸収層とが同一端面の光入射端面をなし、前記基板の前記光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号をp電極及びn電極から外部に出力する半導体受光素子と、
前記半導体受光素子の前記光入射端面に対して光を斜めに入射させると共に、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記基板を照射するように指向させる入射光指向装置とを具備し、
前記入射光指向装置は、前記光を前記光入射端面に対して斜めに入射させると共に、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記基板に前記光を照射するように指向させ、且つ前記上部クラッド層に対する光の入射角が前記光吸収層と前記上部クラッド層との界面において光の全反射が起きる臨界角以上になるようにし、
前記半導体受光素子は、前記光吸収層に入射した光について、前記光吸収層の上方にある前記上部クラッド層との界面と平行に伝搬する成分と、前記光吸収層の上方にある界面で反射し前記光吸収層内を斜め方向に伝搬する成分とのうち少なくとも一方を伝搬するようにしたことを特徴とする半導体受光モジュール。」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点:
本願補正発明においては、光吸収層の端面も光入射端面をなしており、光の等価屈折率が半導体受光素子の上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように半導体受光素子の光入射端面に対して光を照射する位置が「前記基板と前記光吸収層」とされているのに対して、
引用発明においては、光の等価屈折率が半導体受光素子の上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように半導体受光素子の光入射端面に対して光を照射する位置は基板であり、「前記光吸収層」にも光が照射されるか否か不明である点。

(4)判断

上記相違点について検討する。

ア.光入射端面から入射した光が光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号を外部に出力する半導体受光素子の前記光入射端面に対して前記光を斜めに入射させると共に、前記光入射端面において前記光吸収層の端面を照射することは、本願出願前に周知である(例.特開平11-345996号公報の段落0008?0010及び図3、国際公開97/48137号の9頁13?15行及び第4図参照。)。

イ.引用発明の光吸収層はi-InGaAs、p-InGaAs、p-InGaAsP、p-InGaAlAsなどの材料からなり、その屈折率(=3.50程度、上記(2)ア参照。)はn^(+)-InPからなる上部クラッド層(=3.15、上記(2)イ参照。)の屈折率よりも大きいことから、
あるいは、引用例には、「本発明では、光が入射する部分の屈折率を光吸収層の上側のクラッド層の屈折率よりも高くすることが基本的な考え方なので、以上の全ての実施形態におけるn-InGaAsPからなる下部クラッド層13、15の代りに、p-InPからなる上部クラッド層3よりも屈折率が高い他の材料を全て使用することができる。例えば、バンドギャップ波長が1.3μm以外のn-InGaAsP材料やその他n-InGaAlAs、n-InAlAsなどを用いても良いことは言うまでもない。」(上記オ参照。)との記載のように、光が入射する部分の材料として、光吸収層の材料と同じ材料であるInGaAsP及びInGaAlAsが例示されていることから、
引用発明において、光入射端面に入射する光の位置を上記アの周知技術のように光吸収層の端面としても、引用例に記載の下部クラッド層13と同様の作用により、「前記光入射端面に入射した前記光が、前記光入射端面において屈折された後、前記光吸収層を伝搬した後、前記光吸収層の上側の界面において全反射され、再び前記吸収層を斜め下方に伝搬するようにでき、かつ、前記光が前記光吸収層内での臨界角θ_(5C)以上の入射角で前記光吸収層の上側の界面に入射するような入射角θ_(1)で前記光入射端面に対して斜めに入射するように」できることが当業者に自明である。

ウ.そして、引用発明の光吸収層の屈折率(=3.50程度、上記(2)ア参照。)はp^(+)-InPからなる基板の屈折率(=3.17、上記(2)イ参照。)の屈折率よりも大きく、ある屈折率nよりも高い屈折率の層とnよりも低い屈折率の層の両方に光が入射されるようにしても、光の等価屈折率が屈折率nよりも高くなるようにできること(引用例の上記エの記載参照。)に照らせば、引用発明に上記アの周知技術を付加し、引用発明において、半導体受光素子の光入射端面に対して光を照射する位置を、「前記基板と前記光吸収層」とすることにより、光の等価屈折率を基板のみに照射する場合の屈折率よりも更に大きいものとすることは、当業者が容易に想到することができた程度のことである。

エ.本願補正発明の効果は、引用発明、引用例の記載事項及び上記周知技術から、当業者が予測することができた程度のものである。

オ.したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、引用例の記載事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年7月21日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】
基板上に順次に形成された光吸収層と上部クラッド層とを有し、前記基板と前記光吸収層とが同一端面の光入射端面をなし、前記基板と前記光吸収層の少なくとも一方の前記光入射端面から入射した光が前記光吸収層において吸収されることにより生じた電気信号をp電極及びn電極から外部に出力する半導体受光素子と、
前記半導体受光素子の前記光入射端面に対して光を斜めに入射させると共に、前記光の少なくとも一部が前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させる入射光指向装置とを具備し、
前記入射光指向装置は、前記光を前記光入射端面に対して斜めに入射させると共に、前記光の少なくとも一部が前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させることにより、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるようにし、且つ前記上部クラッド層に対する光の入射角が前記光吸収層と前記上部クラッド層との界面において光の全反射が起きる臨界角以上になるようにし、
前記半導体受光素子は、前記光吸収層に入射した光について、前記光吸収層の上方にある前記上部クラッド層との界面と平行に伝搬する成分と、前記光吸収層の上方にある界面で反射し前記光吸収層内を斜め方向に伝搬する成分とのうち少なくとも一方を伝搬するようにしたことを特徴とする半導体受光モジュール」
なお、「前記上部クラッドとの界面」は、「前記上部クラッド層との界面」の誤記であることが明らかであるから、「前記上部クラッド層との界面」と誤記を訂正して認定した。

(2)引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.[理由](2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断

本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、「前記光入射端面において前記光吸収層を照射すること」に関する限定事項である「前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように」前記光吸収層を照射するとの限定と、それ以外に「前記基板」も照射するとの限定とを省き、単に「前記光の少なくとも一部が」前記光吸収層を照射するとし、同じく、「前記光入射端面において前記光吸収層を照射するように指向させることにより、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように」することに関し、前記光の等価屈折率が前記半導体受光素子の前記上部クラッド層の屈折率よりも高くなるように前記光入射端面において前記光吸収層に前記光を照射する以外に「前記基板に」も「前記光を」照射するように指向させるとの限定を省き、単に「前記光の少なくとも一部が」前記光吸収層を照射するように指向させるとしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらにその構成要件を限定したものに相当する本願補正発明が、前記2.[理由](4)に記載したとおり、引用例に記載された発明、引用例の記載事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、引用例の記載事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-09 
結審通知日 2008-05-13 
審決日 2008-05-26 
出願番号 特願2003-143485(P2003-143485)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 聖司  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 里村 利光
服部 秀男
発明の名称 半導体受光モジュール  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 哲  
代理人 橋本 良郎  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  

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