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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない A61M
管理番号 1180772
審判番号 無効2004-35088  
総通号数 104 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-12 
確定日 2008-07-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第2645203号「膨張可能なステント及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成18年12月 8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10134号平成19年11月29日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 本件特許第2645203号に係る発明は、平成4年10月23日(パリ条約による優先権主張1991年10月28日、米国)に特許出願され、平成9年5月2日に特許権の設定登録がされたものである。
2 この特許に対して、平成10年2月25日にテルモ株式会社より特許異議の申立てがなされ(平成10年異議70855号)、平成10年5月13日付けで取消理由が通知され、これに対して、平成10年12月7日付けで特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、さらに、平成11年1月14日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、平成11年8月2日付けで特許異議意見書及び手続補正書(訂正請求書)が提出され、平成11年10月15日付けで「訂正を認める。特許第2645203号の請求項1ないし23に係る特許を維持する。」との異議決定がなされた。
3 その後、平成16年2月12日に株式会社グッドマンより本件特許第2645203号の請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許の無効審判の請求がなされ、これに対して、被請求人より平成16年6月2日付けで答弁書が提出され、さらに、請求人より平成16年7月8日付けで弁駁書が提出され、平成17年4月5日に第1回口頭審理が行われ、平成17年5月31日付けで「特許第2645203号の請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされた。
4 そこで、被請求人より知的財産高等裁判所に審決の取消しを求める訴えが提起された後(平成17年(行ケ)第10727号)、90日の期間内に、特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判の請求がなされたところ、当該裁判所は、平成18年1月13日付けで、特許法181条2項を適用して審決を取り消す決定をし、同決定は確定した。
5 その後、被請求人より特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内の平成18年2月16日に訂正請求がなされ、これに対して、請求人より平成18年3月27日付けで弁駁書が提出され、さらに、被請求人より平成18年6月23日付けで上申書が提出され、平成18年8月22日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して請求人より平成18年9月25日付けで意見書が提出され、被請求人より平成18年10月13日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成18年12月8日付けで「特許第2645203号の請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされた。
6 そこで、再び、被請求人より知的財産高等裁判所に審決の取消しを求める訴えが提起された後(平成19年(行ケ)第10134号、本訴提起日:平成19年4月17日)、平成19年7月13日に訂正審判(訂正2007-390088号)の請求がなされ、平成19年9月14日付けで「特許第2645203号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、同審決は確定し、知的財産高等裁判所は、「特許庁が無効2004-35088号事件について平成18年12月8日にした審決を取り消す。」との判決を下した(平成19年11月29日判決言渡)。
7 その後、請求人に対し、平成20年1月15日付けで「訂正を認める審決の確定通知書」を送付し、意見を求めたが、30日の指定期間内に請求人から意見は提出されなかった。なお、被請求人は、平成20年3月25日付で平成18年2月16日付け訂正請求書を取り下げている。

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
審判請求人は、下記証拠を提出するとともに次の理由から、本件の請求項1?3、6?9及び23に係る発明の特許が特許法123条第1項第2号により無効にすべきものであると主張する(なお、後述するとおり、訂正審判(訂正2007-390088号)において、請求項3は削除されている。)。
(1)無効理由1
平成10年異議第70855号事件(以下、「先の異議事件」という。)における平成11年8月2日付け手続補正書に添付された訂正請求書(甲第13号証)において訂正事項として表示されていなかった「各円筒形状の要素はその直径より小さい長さを有する」という事項(以下、「特徴的事項」という。)は特許庁の認定誤りによるもので有効でないことを前提として、上記訂正請求書の訂正内容の内から特徴的事項の部分を除いたところの請求項1?3、6?9及び23に係る発明は、甲第17号証に記載された発明と同一であり、又は甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)無効理由2
先の異議事件における訂正請求は有効ではないことを前提として、登録時の特許明細書の請求項1?3、6?9及び23に係る発明は、甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明と同一であり、又は甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)無効理由3
先の異議事件における補正後の訂正明細書の訂正内容が全て有効であることを前提として、当該訂正明細書の請求項1?3、6?9及び23に係る発明は、甲第17号証に記載された発明、甲第17号証及び甲第18号証に記載された発明、甲第17号証及び甲第19号証に記載された発明、または甲第17号証及び甲第20号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?3、6?9及び23に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(証拠)
甲第1号証:特許異議申立書
甲第2号証:取消理由通知書
甲第3号証:平成10年9月4日付け期間延長請求書
甲第4号証:平成10年12月7日付け特許異議意見書
甲第5号証:訂正請求書
甲第6号証:平成10年12月11日付け上申書
甲第7号証:訂正拒絶理由通知書
甲第8号証:平成11年4月23日付け期間延長請求書
甲第9号証:代理人受任届
甲第10号証:代理人辞任届
甲第11号証:応対記録
甲第12号証:平成11年8月2日付け特許異議意見書
甲第13号証:手続補正書(訂正請求書)
甲第14号証:平成11年9月28日付け上申書
甲第15号証:特許異議の申立てについての決定
甲第16号証:平成10年異議第70855号在中文書目録
甲第17号証:特開平2-174859号公報
甲第18号証:特開平3-151983号公報
甲第19号証:日本医学放射線学会雑誌第48巻第9号、p.1183?1185
甲第20号証:Radiology,Vol.176,p.665?670
甲第21号証:特開平1-299550号公報
甲第22号証:「審判請求のてびき」、改訂第6版、社団法人発明協会、平成10年12月8日発行、第230?237頁
甲第23号証の1?3:東京高等裁判所の平成8年(行ケ)第222号事件に係る判決の全文を紹介する「特許ニュース」平成11年11月29,30日号及び12月2日号
甲第24号証:「訂正の補正に関する運用変更のお知らせ」、特許庁、平成12年3月発行

なお、審判請求人は、口頭審理陳述要領書により参考資料2ないし4を、並びに、平成17年4月19日付け上申書により参考資料5(米国特許第5019090号明細書)を、それぞれ提出している。

2 被請求人の主張
被請求人は、平成16年6月2日付け答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め」(答弁の趣旨)、次のように主張する。
(1)審判請求人による訂正が有効でないという主張に対して
審判請求人の主張は、異議決定において認められた訂正が、特許法第120条の4第2項の規定に違反し、特許法123条第1項第8号に規定する無効理由があるという主張でないから失当である。
(2)上記訂正は有効であることを前提として、請求項1?3、6?9及び23に係る発明は、甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
(3)仮に、上記訂正が有効でないとしても、請求項1?3、6?9及び23に係る発明は、甲第17号証ないし甲第21号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。
なお、被請求人は、平成17年4月19日付け上申書により参考資料1を提出している。

第3 本件発明
先の異議事件における訂正請求及び異議決定は、審判請求書添付の甲第5号証及び弁駁書添付の甲第24号証に示されるように、特許庁審判部における訂正の補正に関する運用の変更(変更後の運用の開始日は平成12年5月1日である)がなされる前になされた訂正請求ないし異議決定(異議決定日:平成11年10月15日)であり、かつまた、当該異議決定は既に確定している(送達日:平成11年11月15日)。
そして、同上弁駁書添付の甲第23号証に示された判決(東京高等裁判所・平成8年(行ケ)第222号、平成11年6月3日言渡し)は、審決取消訴訟事件において、訂正を認めた部分につき審決は取り消されるべき理由があるとして、当該審決を取り消すとした事例であるから、既に確定した異議決定における認定までを無効審判請求事件において一部取り消すべきとする本件とは事情が異なるものといえる。
さらに、上記運用の変更を行う以前の異議事件の審理においては、訂正請求の要旨が変更される補正をも認めるという運用が一般的になされていたという事実を考慮すれば、その訂正請求できる時期に適法になされた訂正請求の内容につき、これに特許明細書に開示された範囲内において更なる訂正事項を加えるという訂正内容に関する補正を許容して訂正後の本件発明の認定を行ったことが、当該異議決定の時点において明らかに違法な手続きであったということもできない。
また、訂正請求書に記載された訂正事項と訂正明細書に記載された記載内容とに部分的な不整合が存在する点は、望ましいことではないものの、上記運用の変更の前後を通じて、訂正明細書に記載した訂正内容の一部を訂正事項として抽出し忘れたケースとして時折実務上で見受けられていることでもあり、このような部分的な不整合が存在する場合に、訂正明細書に記載された内容に基づきその訂正事項を認定することも通常の実務上の慣行として行われてきたことであるから、上記異議決定における本件発明の認定が通常の実務上の運用とは明らかに異なる取り扱いに依る認定であったということもできない。
さらに、平成19年7月13日に訂正審判(訂正2007-390088号)の請求がなされ、平成19年9月14日付けで「特許第2645203号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、同審決は確定している。
以上のことを考慮すると、本件の請求項1、2、6?9及び23に係る発明(以下、「本件発明1、2、6?9、23」という。)は、平成19年7月13日付けの訂正審判請求書(訂正2007-390088号)に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、該訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2、6?9、23に記載された次のとおりのものと認める(なお、請求項3は削除されている。)。

1 本件発明1
「送出カテーテルからの半径方向外向きの力の適用により第1送出径から第2展開径へ独立に膨脹可能でかつ塑性変形可能となっており、相互連結部を互い違いにすることによって共通の軸線に略整列するように、互いに連結された複数の円筒形状の要素を有し、隣接した円筒形状の要素の間に配置された相互連結部は3つ以上であり、該円筒形状の要素は、長手方向軸線に直交して、複数の山谷を含む閉環状の滑らかな略波状模様に形成され、前記円筒形状の要素の一端の各連結部は、前記円筒形状の要素の他端の連結部から円周方向にずれており、各円筒形状の要素は第1送出径より小さい長さを有することを特徴とする、その長さに沿って、長手方向に可撓性を有するステント。」
2 本件発明2
「円筒形状部材が、膨脹の際に第2展開径を維持するようになった請求項1の長手方向に可撓性を有するステント。」
3 本件発明6
「相互連結部の円周方向の配置は、均等の大きさである請求項1の長手方向に可撓性を有するステント。」
4 本件発明7
「隣接した円筒形状の要素の間に配置された4つまでの相互連結部がある請求項1の長手方向に可撓性を有するステント。」
5 本件発明8
「前記円筒形状の要素と前記相互連結部は同じ材料で作られている請求項1の長手方向に可撓性を有するステント。」
6 本件発明9
「前記長手方向に可撓性を有するステントは、管の単一片から形成されている請求項8の長手方向に可撓性を有するステント。」
7 本件発明23
「(a)近位端及び遠位端と、該遠位端に膨脹可能な部材とを有する細長いステント送出カテーテルと、
(b)脈管構造の中の送出のために、前記カテーテルの膨脹可能な部材に摺動可能に取り付けられるようになっており、送出カテーテルからの半径方向外向きの力の適用により第1送出径から第2展開径へ独立に膨脹可能でかつ塑性変形可能となっており、相互連結部を互い違いにすることによって共通の軸線に略整列するように、互いに連結された複数の円筒形状の要素を有し、隣接した円筒形状の要素の間に配置された相互連結部は3つ以上であり、該円筒形状の要素は、長手方向軸線に直交して、複数の山谷を含む閉環状の滑らかな略波状模様に形成され、前記円筒形状の要素の一端の各連結部は、前記円筒形状の要素の他端の連結部から円周方向にずれており、各円筒形状の要素は第1送出径より小さい長さを有する、その長さに沿って、長手方向に可撓性を有するステント送出装置。」

第4 請求人の主張する無効理由1?3についての検討
1 請求人が主張する無効理由1、2について
上記「第3」で述べたとおり、先の異議事件における訂正請求は有効であるから、請求人が主張する無効理由1、2によっては、本件発明1?3、6?9及び23についての特許を無効とすることはできない。

2 請求人が主張する無効理由3について
(1)刊行物記載事項
ア 本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第17号証の刊行物である特開平2-174859号公報(以下、「刊行物1」という。)には、第1図?第8図とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は身体通路(body passageway)又は管(duct)内で使用するための伸張可能な管腔内移植片(expandable intraluminal graft)に関するものであり、更に特定的には疾患により狭くなった又は閉塞した血管を修復するために特に有用な伸張可能な管腔内脈管移植片(expandable vascular graft)移植片及び伸張可能な管腔内移植片を移植するための方法及び装置に関する。」(第2頁右上欄第1?8行)
(イ)「本発明は、複数の薄肉管状部材、ここで該管状部材の各々は第1の端部、第2の端部及び該第1の端部と第2の端部との間に配置されている壁表面を有し、該壁表面は実質的に均一な厚さを有しておりそして該壁表面には複数のスロットが形成されており、該スロットは各管状部材の長手方向軸線に実質的に平行に配置されており;及び、隣接管状部材間に配置されていて隣接管状部材を柔軟に接続する単一のコネクタ部材、ここで…(中略)…とを備えて成り;各管状部材は、管腔を持った身体通路内への前記管状部材の管腔内送り込みを可能とする第1の直径を有し;前記管状部材は、該管状部材の内側から半径方向外向きに伸張させる力を加えられたとき伸張しそして変形した第2の直径を有し、該第2の直径は可変でありそして該管状部材に及ぼされる力の量に依存しており、それにより、該管状部材は身体通路の管腔を伸張させるように伸張及び変形することができる。」(第4頁右上欄第11行?左下欄第17行)
(ウ)「本発明の更なる特徴は、単一のコネクタ部材は薄い壁の細長い棒状部材とすることができそして隣接する管状部材と同一平面とすることができるということである。本発明の付加的な特徴は、第1のコネクタ部材を、第1の管状部材の第2の端部と第2の管状部材の第1の端部との間に配置することができ;第2のコネクタ部材を、第2の管状部材の第2の端部と第3の管状部材の第1の端部との間に配置することができ;第1及び第2のコネクタ部材は、管状部材の長手方向軸線に対して互いに角度的にずれていることにある。」(第4頁左下欄第18行?右下欄第8行)
(エ)「本発明の、伸張可能な管腔内脈管移植片を、これまでに提唱された先行技術の管腔内移植片と比較したとき、…(中略)…脈管系のような身体通路における曲がりくねった曲がり部及び湾曲部を乗り越えるのに必要な柔軟性を与える;という利点を有している。」(第4頁右下欄第9行?第5頁左上欄第1行)
(オ)「好ましくは、管状部材71は最初は均一な肉厚を有する薄肉のステンレス鋼の管であり、多数のスロット82が管状部材71の壁表面74に形成されている。」(第5頁右下欄第9?12行)
(カ)「第1A図及び第1B図の移植片又はプロテーゼ、70は2つのスロット82の長さにほぼ等しい長さを有しているように例示されているが、移植片70の長さは必要に応じてより長く又は短く作ることもできる。」(第6頁右上欄第11?15行)
(キ)「次いでプロテーゼ又は移植片70は、カテーテル83の伸張可能な膨張可能な部分84を制御下に伸張させられ、変形せしめられ、それによりプロテーゼ又は移植片70は、第4図に示すように、身体通路80と接触するように伸張され、半径方向外向きに変形させられる。」(第7頁右下欄第13?18行)
(ク)「コネクタ部材100は、好ましくは、前記したような、移植片70と同じ材料から形成され、そしてコネクタ部材100は、第7図に示すように、隣接移植片70又は管状部材71かんで一体的に形成されてもよい。移植片又はプロテーゼ70′の長手方向軸線に沿ったコネクタ部材100の断面形状は、コネクタ部材100が細長い部材75の同じ均一な厚さを有するという点で同じであり、そして隣接する管状部材71と同一平面にある薄い壁の細長い棒状部材101を形成する。」(第9頁左下欄第14行?右下欄第4行)
(ケ)「更に第7図及び第8図を参照すると、移植片又はプロテーゼ70′は、コネクタ部材100により柔軟に接続されている3つの移植片又はプロテーゼ70を含むものとして例示されているけれども、2つといったような少数の移植片70を接続して移植片又はプロテーゼ70′を形成することができることに留意されるべきである。更に、所望に応じて多くの移植片70をコネクタ部材100により柔軟に接続して、移植片又はプロテーゼ70′を形成することができる。…(中略)…第7図及び第8図に示すように、相互に連結された移植片又はプロテーゼ70の間で必要な柔軟性を可能にするために、管状部材70の長手方向の軸線に対して第1及び第2のコネクタ部材100を互いに角度的にずらすことができる。」(第9頁右下欄第12行?第10頁左上欄第18行)

上記記載事項(ア)?(ケ)、及び図面に示された内容を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「複数の薄肉管状部材と隣接管状部材間に配置されていて隣接管状部材を柔軟に接続する単一のコネクタ部材とを備え、該管状部材の各々は第1の端部、第2の端部及び該第1の端部と第2の端部との間に配置されている壁表面を有し、該壁表面は実質的に均一な厚さを有しており、該壁表面には複数のスロットが形成され、該スロットは各管状部材の長手方向軸線に実質的に平行に配置されており、コネクタ部材は管状部材の長手方向軸線に対して互いに角度的にずらされており、各管状部材は、管腔を持った身体通路内への前記管状部材の管腔内送り込みを可能とする第1の直径を有するとともに、該管状部材の内側からカテーテルの伸張可能な膨張可能な部分によって半径方向外向きに伸張させる力を加えられたとき伸張して変形した第2の直径を有しており、該第2の直径は可変であって該管状部材に及ぼされる力の量に依存し、それにより、該管状部材は身体通路の管腔を伸張させるように伸張及び変形することができる伸張可能な管腔内移植片。」

イ 本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第18号証の刊行物である特開平3-151983号公報(以下、「刊行物2」という。)には、第1図?第9図とともに、次の事項が記載されている。
(ア)「〈発明が解決しようとする課題〉この試みは、ステントの有用性を著しく改善し、作業の効率を従前のものに比べてよくするものであったが、血管の屈曲部においては、その曲がり具合や長さ、更に直径の変化にあわせて血管を適度に支えるために複数のステントを使用する必要があった。また、この方法では、ステントを正確な位置に隣接して配置することが困難であり、隣り合うステント同士の干渉によりステントの効果が減少するおそれもあった。更に、この方法ではステントを適正に配置するのに多くの時間が必要であった。そこで、本発明は、動脈の屈曲や直径の変化に適応するとともに、一回の施術で取付可能な単一のステントを提供することを課題とする。」(第2頁右上欄第3?17行)
(イ)「〈課題を解決するための手段〉上記課題を達成するために、本発明のステントは、少なくとも2以上の金属性の管状ステント分節部と、当該ステント分節部同士を接合するための生体適応性材料よりなる柔軟なヒンジ部とを有するものである。このヒンジ部は、まっすぐなワイヤーであっても、らせん状のワイヤーであってもよい。更に、このヒンジ部は、放射線非透過性材料で作られているか、または放射線非透過性材料で被覆されていることが望ましい。また、当該ステント分節部は、複数個のワイヤーの各端部を互いに溶着してなる管状のものであるが、この少なくとも2以上の管状ステント分節部相互間を接合するのに当該ワイヤーの一端部を延伸してヒンジ部としてもよい。」(第2頁右上欄第18行?右下欄第13行)
(ウ)その図面の第1図には、分節部12を複数個のワイヤーの右端部同士と左端部同士とを交互に溶着させて構成したこと、すなわち山部と谷部が交互に表れるジグザグ状の形状としたことが示されている。

ウ 本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第19号証の刊行物である日本医学放射線学会雑誌第48巻第9号、p.1183?1185 (以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
「Expandable metallic stentはステンレス鋼線をジグザグに12回折り曲げて円筒状にすることにより自主製作した。使用したstentは,太さ0.010または0.012インチの鋼線を用いて長さ10mm,直径10mmにしたものと,太さ0.016インチの鋼線を用いて長さ25mm,直径25mmにした2種類である。」(第1183頁左欄9行?右欄2行)

エ 本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第20号証の刊行物であるRadiology,Vol.176,p.665?670(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
「我々は、0.018インチ(約0.46mm)のステント鋼線からステントを作製した。各ステントは長さ25mm 、直径20?28mmで、5または6の屈曲点を有するようにした。我々は、単一のステント、またはステント間において1ないし2mmの隙間を許容する状態で0.018インチステンレス鋼支柱により結合された(2ないし6の)縦並びの複合ステントを用いた(第1図)。」(第665頁中段第34行?右段6行、請求人訳)

オ 本件発明の特許出願日前に頒布されたところの甲第21号証の刊行物である特開平1-299550号公報(以下、「刊行物5」という。)には、第1A図?第10図とともに、次の事項が図示されている。
(ア)「コネクタ部材100は、好ましくは、前記したような、移植片70と同じ材料から形成され、そしてコネクタ部材100は、第7図に示された如く、隣接移植片70又は管状部材71かんで一体的に形成されてもよい。」(第11頁左下欄4?8行)
(イ)第10図には、伸張され変形された形状のプロテーゼにおいて、少なくとも1つのプロテーゼ部分は、その直径より小さい長さを有する点が図示されている。

(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、その作用ないし構造からみて、刊行物1記載の発明における「管腔内移植片」は、本件発明1の「ステント」に、以下同様に「コネクタ部材」は「相互連結部」に、「カテーテル」は「送出カテーテル」に、「薄肉管状部材」は「円筒形状の要素」に、それぞれ相当する。
また同様に、その作用ないし機能からみて、刊行物1記載の発明における「管状部材の管腔内送り込みを可能とする第1の直径」は本件発明1の「第1送出径」に、刊行物1記載の発明における「該管状部材の内側からカテーテルの伸張可能な膨張可能な部分によって半径方向外向きに伸張させる力を加えられたとき伸張して変形した第2の直径」は本件発明1の「送出カテーテルからの半径方向外向きの力の適用により第1送出径から」膨張し、かつ塑性変形する「第2展開径」に、それぞれ相当し、そして、刊行物1記載の発明も「第1送出径」から「第2展開径」へ独立に膨張可能でかつ塑性変形可能となっているといえる。
さらに、その作用ないし構造からみて、刊行物1記載の発明における「コネクタ部材は管状部材の長手方向軸線に対して互いに角度的にずらされて」いる点は、本件発明1の「複数の円筒形状の要素」が「相互連結部を互い違いにすることによって共通の軸線に略整列するように、互いに連結され」ている点ないし「前記円筒形状の要素の一端の各連結部は、前記円筒形状の要素の他端の連結部から円周方向にずれて」いる点に、実質的に相当することが明らかであり、そして、両者は、その長さに沿って、長手方向に可撓性有するステントであるといえる。

してみると、両者は、
「送出カテーテルからの半径方向外向きの力の適用により第1送出径から第2展開径へ独立に膨張可能でかつ塑性変形可能となっており、相互連結部を互い違いにすることによって共通の軸線に略整列するように、互いに連結された複数の円筒形状の要素を有し、前記円筒形状の要素の一端の各連結部は、前記円筒形状の要素の他端の連結部から円周方向にずれており、その長さに沿って、長手方向に可撓性を有するステント。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
円筒形状の要素の形態に関して、本件発明1は「該円筒形状の要素は、長手方向軸線に直交して、複数の山谷を含む閉環状の滑らかな略波状模様に形成され」ているのに対して、刊行物1記載の発明は、「管状部材」が「壁表面を有し、」「該壁表面には複数のスロットが形成され」たものとして構成されている点。
<相違点2>
円筒形状の要素の長さに関して、本件発明1は「各円筒形状の要素は第1送出径より小さい長さを有する」のに対して、刊行物1記載の発明はこのような長さを備えているかが明らかでない点。
<相違点3>
隣接した円筒形状の要素の間に配置された相互連結部の数に関して、本件発明1は3つ以上であるのに対して、刊行物1記載の発明は1つである点。

相違点1ないし3について以下に検討する。
本件発明1の相違点1に係る構成の技術的意義は、相互連結部により連結された円筒形状の要素の長さを短くすることができ、身体ルーメンを開いた状態に保持するのに必要とされる半径方向の剛性を維持すると同時に、ステント全長に沿って、長手方向により可撓性を有するステントを提供することにあるといえる。
ところで、相互連結部により連結された円筒形状の要素を山部と谷部が交互に表れるジグザグ状の形態のものとすることは、刊行物2ないし4にも示されるように、従来より周知の技術であったといえる。
しかしながら、上記刊行物2ないし4に記載の発明は、相互連結部により連結された円筒形状の要素を、閉環状の滑らかな略波状模様に形成するものではなく、また、このものが周知の技術であるともいえない。そして、上記刊行物2ないし4に記載の発明には、本件発明1の相違点1に係る構成の「相互連結部により連結された円筒形状の要素の長さを短くすることができ、ステント全長に沿って、長手方向により可撓性を有するステントを提供する」という技術的意義を示唆するものもない。
また、本件発明1の相違点2、3に係る構成である、各円筒形状の要素は第1送出径より小さい長さを有する点、隣接した円筒形状の要素の間に配置された相互連結部が3つ以上ある点についても刊行物1ないし4には記載も示唆もされておらず、周知の技術であるともいえない(刊行物1ないし4における円筒形状の要素の直径と長さの関係は、ステントの膨張後のものである。無効審判請求書15頁19行?24行参照)。
そして、上記相違点1ないし3によって、本件発明1は、その長さに沿って、長手方向に可撓性を有し、くねった身体ルーメンを通す送出が容易になると共に、身体ルーメンの中に移植されたとき、身体ルーメンの開通性を維持するために膨脹した状態で半径方向に十分な硬くて安定した血管壁の支持が可能となるという、顕著な作用、効果を奏するものである。
したがって、本件発明1の相違点1ないし3に係る構成とすることは、刊行物1ないし4記載の発明及び周知の技術から容易に想到し得たことであるとはいえない。

なお、刊行物5にも、上記本件発明1の相違点1ないし3に係る構成が、記載も示唆もされておらず、また、請求人が参考資料5として提示した米国特許第5019090号明細書には、複数の滑らかな山谷がらせん状に連なったステントが記載されているが、このステントは、1本のワイヤを螺旋状にして管状にしたものであって、相互連結部により連結された円筒形状の要素を、閉環状の滑らかな略波状模様に形成するものではなく、しかも、本件発明1の相違点1に係る構成の「相互連結部により連結された円筒形状の要素の長さを短くすることができ、ステント全長に沿って、長手方向により可撓性を有するステントを提供する」という技術的意義を示唆するものもない。
したがって、この刊行物5記載の発明及び参考資料5を考慮したとしても、本件発明1は、刊行物1ないし5記載の発明、参考資料5記載の発明及び周知の技術から容易に想到し得た発明であるとはいえない。

イ 本件発明2、6?9及び23について
本件発明2、6?9及び23は、本件訂正発明1の上記相違点1ないし3に係る構成を備えているものであるから、本件訂正発明1と同様の理由で刊行物1ないし4記載の発明から容易に想到し得た発明であるとはいえない。

以上のとおりであるから、請求人が主張している無効理由3の理由によっては、本件発明1、2、6?9及び23についての特許を無効とすることはできない。
また、他の無効理由を発見することもできない。

なお、上記と同様の理由からも、請求人が主張している無効理由1、2の理由によっては、本件発明1、2、6?9及び23についての特許を無効とすることはできない。

第5 むすび
したがって、本件発明1、2、6?9及び23についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-18 
結審通知日 2005-05-20 
審決日 2006-12-08 
出願番号 特願平4-286331
審決分類 P 1 122・ 121- Y (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山中 真  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 豊永 茂弘
北村 英隆
登録日 1997-05-02 
登録番号 特許第2645203号(P2645203)
発明の名称 膨張可能なステント及びその製造方法  
代理人 小林 純子  
代理人 原田 崇史  
代理人 長沢 幸男  
代理人 日野 真美  
代理人 石田 喜樹  
代理人 片山 英二  
代理人 園田 清隆  

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