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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200035635 審決 特許
異議200370102 審決 特許
異議199874668 審決 特許
訂正200539001 審決 特許
無効200235443 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1181374
審判番号 無効2006-80164  
総通号数 105 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-09-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-30 
確定日 2008-06-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2720121号発明「スロットマシンの回転リール装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2720121号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 一.手続の経緯
本件特許第2720121号は、平成3年10月15日に出願され,平成9年11月21日にその発明について特許権の設定登録がされたものであって、平成18年8月30日付けで特許無効の審判請求がなされ、これに対して、平成18年11月20日付けで答弁書及び訂正請求書が提出され、これに対して、同年12月22日付けで弁駁書が提出され、平成19年4月5日に口頭審理を行った。

二.訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が平成18年11月20日付けで行った訂正請求は、特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、すなわち、次のとおりに訂正することを求めるものである。

(1)訂正事項a
特許明細書における特許請求の範囲である、
「回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに基準突起の遮光片部は塑性変形が可能であることを特徴とするスロットマシンの回転リール装置。」を、
「回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であることを特徴とするスロットマシンの回転リール装置。」に訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の段落番号「0009」の、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した目的を達成するためのものである。請求項1記載のスロットマシンの回転リール装置は、回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに基準突起の遮光片部は塑性変形が可能であることを特徴とする。」を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した目的を達成するためのものである。請求項1記載のスロットマシンの回転リール装置は、回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であることを特徴とする。」に訂正する。

2.訂正請求に対する審判請求人の主張
審判請求人は、上記訂正事項は、実質的に、遮光片部が、回転リールを回転させた際に光センサーの発光部と受光部との間を通過する、ことを付加しているものであるが、遮光片部についていは、訂正前から、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する旨記載されていて、すなわち、訂正前は、「遮光する」ものであったものを、一方では「遮光する」ものが他方では「通過する」という条件を満たさなければならないというように訂正するものであり、したがって、この訂正事項は、返って不明瞭になるのみで、何ら、「明りょうでない記載の釈明」には該当しないと主張する。
また、審判請求人は、考え方によっては、遮光片部が、回転リールを回転させた際に光センサーの発光部と受光部との間を通過する、という概念は、遮光する場合と、遮光せずに単に通過する場合を含むものとも把握できるものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるといえると主張する。

3.訂正請求の適否
(1)訂正事項aについて
特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0011】
【作用】以下、請求項1記載の発明に係る回転リール装置の作用を説明する。まず、回転リールと光センサーとを隣接させて固定する。次に、基準突起の固定部により、基準突起を回転リールに固定する。基準突起を固定した回転リールを回転させた際に、基準突起の遮光片部が光センサーの発光部及び受光部の間を通過するように、遮光片部を塑性変形させる。」

「【0019】基準突起20は、塑性変形の可能な材質、例えばアルミニウム、鋼などで形成されている。従って、基準突起20を固定穴16に埋め込んで固定した後、遮光片部21を湾曲させたり、折曲させたりすることができる。更に、前記の回転リール10と、その回転リール10とは別個に設けられた光センサー40とを有する回転リール装置について説明する。」

「【0021】このように形成される回転リール装置にあっては、ベース板50に対してリールモーター30のみならず光センサー40を予め固定してから、リールモーター30の出力軸に回転リール10を固定する。光センサー40が予めベース板50に固定されているために、基準突起20を埋め込んだ回転リール10がリールモーター30に軸支固定された際、基準突起20の遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置しない場合がある。その場合には、塑性変形が可能な遮光片部21を湾曲させたり折曲させたりすることによって、遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置させることができる。」

これらの記載から、「塑性変形」は、「遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置しない場合に、塑性変形が可能な遮光片部21を湾曲させたり折曲させたりすることによって、遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置させる」ために行うもので、「基準突起を固定した回転リールを回転させた際に、基準突起の遮光片部が光センサーの発光部及び受光部の間を通過するように、遮光片部を塑性変形させる」ための「塑性変形」であると認められる。
したがって、「基準突起の遮光片部は塑性変形が可能である」との記載では、何のためにどのように行うのか不明であるため、「回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能」としたものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

ここで、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を「通過する」ことと、基準突起の遮光片部が回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を「遮光する」こととは、同義であるものと認められ、したがって、審判請求人が主張するように、訂正前は「遮光する」ものであったものを、一方では「遮光する」ものが他方では「通過する」という条件を満たさなければならないというように解することはできず、返って不明瞭になるということはない。

また、同様の理由で、審判請求人が主張するように、遮光する場合と、遮光せずに単に通過する場合を含むものと解することはできないから、上記訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、上記訂正事項aによる訂正は、特許明細書の発明の詳細な説明の上記記載によれば、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項bについて
上記訂正事項bは、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項bによる訂正は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって新規事項を追加するものでなく、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

三.請求人の主張
請求人は、本件特許の請求項1及び2に係る発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであると主張し、以下の証拠方法を提出している。

・甲第1号証:実願昭60-36595号(実開昭61-151783号)
のマイクロフィルム
・甲第2号証:特開平2-177986号公報
・甲第3号証:特開平1-192377号公報
・甲第4号証:「建築用語辞典」(1965年7月10日第1版、技報堂出
版株式会社発行)第24、第25頁、ただし、添付された甲第4号証の写
しは1995年4月10日第2版のもの
・甲第5号証:実願昭61-63421号(実開昭62-174871号)
のマイクロフィルム
・甲第6号証:実願昭59-100537号(実開昭61-16279号)
のマイクロフィルム
・甲第7号証:実願昭59-42510号(実開昭60-153766号)
のマイクロフィルム

・参考資料1:実願昭61-162299号(実開昭63-68158号)
のマイクロフィルム
・参考資料2:特開平2-237789号公報
・参考資料3:特開昭59-37966号公報
・参考資料4:特開昭61-245418号公報
・参考資料5:実願昭62-165245号(実開平1-70244号)の
マイクロフィルム

四.被請求人の主張
1.答弁書
(1)請求項1について
被請求人は、以下の乙第1号証乃至乙第22号証により、リールの遮光片部に関して、本件特許発明の出願前の技術として、リールの回転開始基準位置を知るための遮光片部がリールに設けられていることは周知技術であり、遮光片部がリールの円周方向に若干移動可能とする技術はあったものの、遮光片部は、シールと一体か否かにかかわらず塑性変形しない合成樹脂で形成されていた、すなわち、本件特許の出願前では、遮光片部が合成樹脂で形成されているために、光センサーとの位置合わせのために塑性変形させるとの課題は想起しえない状態となっていたと主張する。

・乙第1号証:実願昭56-58559号(実開昭57-170790号)
のマイクロフィルム
・乙第2号証:実願昭56-59868号(実開昭57-173786号)
のマイクロフィルム
・乙第3号証:実願昭63-45569号(実開平1-150987号)の
マイクロフィルム
・乙第4号証:実願昭56-184306号(実開昭58-89088号)
のマイクロフィルム
・乙第5号証:特開昭58-203788号公報
・乙第6号証:実願昭57-112184号(実開昭59-16691号)
のマイクロフィルム
・乙第7号証:実願昭58-174764号(実開昭60-83679号)
のマイクロフィルム
・乙第8号証:実願昭60-36595号(実開昭61-151783号)
のマイクロフィルム
・乙第9号証:実願昭60-36593号(実開昭61-151784号)
のマイクロフィルム
・乙第10号証:実願昭60-36594号(実開昭61-151785号
)のマイクロフィルム
・乙第11号証:実願昭60-95832号(実開昭62-6879号)の
マイクロフィルム
・乙第12号証:実願昭61-173391号(実開昭63-174890
号)のマイクロフィルム
・乙第13号証:特開平1-104285号公報
・乙第14号証:特開平1-129867号公報
・乙第15号証:実願昭62-97986号(実開昭64-4482号)の
マイクロフィルム
・乙第16号証:特開平3-21278号公報
・乙第17号証:特開平2-279183号公報
・乙第18号証:特開平2-279184号公報
・乙第19号証:実願平1-90805号(実開平3-58474号)のマ
イクロフィルム
・乙第20号証:実願平1-94029号(実開平3-58477号)のマ
イクロフィルム
・乙第21号証:特開平3-136680号公報
・乙第22号証:実願平1-142929号(実開平3-80773号)の
マイクロフィルム

そして、請求項1記載の発明と甲第1号証との相違点について、本件特許発明の出願(「出願前」の誤記と認められる。)には、「光センサーの取付位置を調整することによって、回転体に設けられた遮光片部が、回転中に固定された光センサーの発光部と受光部との間を通過するようにしたい。」との解決課題及び解決手段は存在していたものの、本件特許発明の出願前の技術では、遮光片部は樹脂製であるとの固定観念から、遮光片部に工夫を加えるということは、考えつかなかったものであり、従って、
「遮光片部を工夫することによって、回転体に設けられた遮光片部が、回転中に固定された光センサーの発光部と受光部との間を通過するようにしたい。」
という解決課題は本願特許発明で初めて開示された解決課題であり、この課題を解決するための手段として、
「回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能である」
という解決手段も本願特許発明で初めて開示された構成である旨、主張する。

また、甲第2号証として、歯車相互のかみ合わせのために、歯車の取付け部材を変形させる技術を提示しているが、いわゆる「現場合わせ」のために、部材を変形させることは知られているものの、本件特許発明では、「遮光片部を工夫する」ものであるが、そのような課題の開示あるいは示唆がなく、
「遮光片部を工夫することによって、回転体に設けられた遮光片部が、回転中に固定された光センサーの発光部と受光部との間を通過するようにしたい。」
というような解決課題の提示あるいは示唆は全引用文献のいずれにも開示されていない旨、主張するとともに、甲第3号証は上記解決課題とは無関係な技術である旨、主張する。

これらにより、請求項1記載の発明は、「請求項1記載の発明が回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であるのに対して、甲第1号証記載の発明は基準突起の遮光片部が合成樹脂で形成されているとのみ記載され、組成(「塑性」の誤記と認められる。)変形が可能であるか否かの記載がない点」に進歩性があり、無効理由を有していない発明である旨、主張する。

(2)請求項2について
被請求人は、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明を技術的に限定したものであって、請求項1記載の発明に進歩性がある以上、請求項2に記載の発明にも進歩性がある旨、主張する。

2.口頭審理陳述要領書
(1)パチスロの歴史について
被請求人は、以下の資料1乃至4及び乙第1号証により、以前は、回転させたリールを外力によって強制的に停止させるために、リールが重くても使用が可能であり、むしろ停止部材、停止レバーあるいは係合子等の衝撃的な移動によって回転しているリールを停止させるために、リール等の素材として金属等が用いられていたが、入賞の絵柄がそろうタイミングで停止スイッチを押せば、入賞となってしまうため、上手な遊技者はメダルを獲得するものの、下手な遊技者はまったくメダルが獲得できないこととなっていただけでなく、メダルを払い出す波が作れないこととなっていたことから、リールの回転にステッピングモータを用い、全体の制御にCPUを用いたスロットマシン(小型化され、パチンコ機と同一寸法に作られたことから、パチンコ形スロットマシン、略してパチスロと呼ばれた。)が提供され、ここで、リールの素材が画期的に変化した、すなわち、停止スイッチを押した後、回転しているルール(「リール」の誤記と認められる。)を瞬時にモータの力のみで停止させることが必要とされたため、従来の重くて丈夫な金属から、プラスチック製に変わったものである旨、主張する。

(2)「遮光片部として、金属を用いたものは周知技術か」について
被請求人は、ステッピングモータを用いた場合には、乙第1号証に記載されているように、リールの慣性を小さくする必要があり、プラスチック製のリールが採用されることとなったこと、資料1の14頁「パチスロパルサー」では、「ステッピングモータを初めて採用」と記載されて写真から、リールがプラスチック製であることが伺えること、また同時期に販売されているパチスロ「アメリカーナ」も、カタログ(資料5)の6頁に「リールユニット」が記載され、リールがプラスチック製であることが伺えること、さらに、資料6でも3頁に甲第16号証の図面により最初にリールが製造されたのが、昭和55年12月25日であり、甲第16号証(資料7)に「樹脂リール」と記載されていることから、ステッピングモータの採用に伴い、リールの素材が金属製からプラスチック製へ移行していったことがわかることを示し、金属製のリールの時は、停止後に絵柄の位置を判断していたので「遮光片」は必要でなく、ステッピングモータの採用に伴い、リールの素材が金属製からプラスチック製へと移行したのち、「遮光片」が採用されたものであり、また、リールをプラスチック製としたことに伴い、一般的には「遮光片部」を含めてリールを一体成形することから、「遮光片部」もプラスチック製となっていた旨、主張し、「遮光片部として金属を用いたものは周知技術か」という点に関しては、否認する。

(3)「光学的検出手段において、塑性変形により位置調整するものは周知技術か」について
被請求人は、現在特許庁における審査基準では、「発明が解決しようとする課題に関連した技術分野の技術」についての引例適格を認めており、本件特許発明の解決しようとする課題は、「回転体の一部の通過を狭いスリットにおいて検出する際に、その回転体の一部がスリットに衝突しないようにする」ことにあって、「光学的検出手段において塑性変形により位置調整する」という漠然としたものではないはずであり、従って、前記質問は、「回転体の一部の通過を狭いスリットにおいて光学的に検出する際に、その回転体の一部が塑性変形によって位置調整されるものは周知技術か」とされるべきである旨、主張する。
また、被請求人は、請求人が弁駁書に添付した参考資料1についても、回転体を塑性変形させることなく、検出体の位置を変位させてると(「させている」の誤記と認められる。)技術であることから、本件発明の引例たり得ない技術であることを主張する。
そして、被請求人は、「光学的検出手段において、塑性変形により位置調整するものは周知技術か」については、不知であるとする。

・資料1:パチスロ大図鑑2001 2001年5月12日(株)白夜書房
発行 第10乃至17頁
・資料2:特開昭50-89156号公報
・資料3:特開昭50-60349号公報
・資料4:特開昭56-116478号公報
・資料5:パチスロ「アメリカーナ」カタログ
・資料6:平成5年4月6日提出の平成3年(ワ)第6661号で提出した
「弁論再開申請」
・資料7:平成3年(ワ)第6661号の甲第16号証の図面

3.口頭審理調書
被請求人の陳述の要領は以下のとおりである。
1 答弁の趣旨及び理由は、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書に
記載のとおりである。
2 遮光片部は塑性変形可能な材料で作られている。
3 塑性変形可能とは、遮光片がスリットを通過できるようにすること
である。
4 回転体がスリットを通過するとき、突出部がスリットにぶつからな
いようにするという解決課題を開示するものは公知ではない。
5 回転体の遮光片部であるということを前提として、遮光片部として
金属を用いたものは周知技術ではない。
6 回転体に取り付けた突出部が光学的検出手段のスリットを通過する
際の位置調整は周知技術ではない。

4.平成19年4月18日付けの上申書
(1)「合議体で把握された周知技術」について
被請求人は、各技術が存在することは争わないが、このような技術を先行技術として採用することについては争う、と主張する。

(2)塑性変形可能な遮光片部について
被請求人は、ステッピングモータに対応する合成樹脂製のリールは、軽く作ることが大前提であり、重くするということは、リールの設計においてはタブーであり、採用され得ないことであったため、言い換えると、リールは軽くすることに動機付けはあるものの、重くすることは阻害要因として存在していたため、リールの「基準突起の遮光片」を合成樹脂でなく、「塑性変形が可能なもの」で作るということは、この「塑性変形が可能なもの」として金属材料が想定されることから、リール全体を重くすることにつながるものであり、設計者は採用すること自体躊躇する事項となっていたから、部品の軽重を考慮しなくても足りる先行技術を、進歩性の判断時の先行技術として用いることは「後知恵」そのものであり、本件特許発明の出願時に「重くしてもよい」という課題は想定できない課題であって、「合議体で把握された周知技術」は、技術としては存在するものの、本件特許発明の進歩性判断時の先行技術にはなり得ない技術である旨、主張する。

(3)解決すべき課題について
被請求人は、審査基準にある発明者のスキルを規定した「解決課題が共通する技術分野」の中の「解決課題」とは、本件特許発明にあって、「遮光片部を固定した回転リールが回転していくときに、簡単な操作によって光センサーの発光部と受光部との間でぶつからないように遮光片部を通過させたい」という点にあり、単に「光センサーの発光部と受光部との間でぶつからないように遮光片部を通過させたい」ということではないから、「回転」を考慮しない先行技術は、本件特許発明の出願時の解決課題とは全く異なる技術であり、進歩性の判断時の先行技術として用いることに適さない技術であって、「合議体で把握された周知技術」は、技術としては存在するものの、本件特許発明の進歩性の判断時の先行技術にはなり得ない技術である旨、主張する。

五.合議体で把握された周知技術
口頭審理において、審判長は、合議体で把握された周知技術として以下のものを当事者双方に示し、意見がある場合には上申書を提出することを求めた。
1.遮光片として塑性変形が可能なものとして、
・実願昭57-66392号(実開昭58-168733号)のマイク
ロフィルム
(遮光部材が金属またはプラスチック等の剛性ないしは塑性の材料で
構成されている、第2頁第9?11行目参照)
・特開昭62-190623号公報
(遮光部20aは遮光板20を折曲して構成され、第2頁右上欄第1
9?20行目参照)
・特開昭64-1170号公報
(遮蔽板56Aが折曲げ形成されており、第3頁右下欄18?19行
目)
2.位置調整のために塑性変形が可能なものとして、
・特開昭63-86122号公報
(調整溝を介して受光素子基板を塑性変形させることにより受光素子
の位置調整を行える、特許請求の範囲参照)
・特開昭63-132211号公報
(外部からスリーブにそれの軸方向に沿った力を加えてこれを塑性変
形させることにより……調整する、特許請求の範囲参照)
・特開平1-120516号公報
(光ファイバ保持部29に外力を加えると、形状が細い塑性変形部3
1を支点に光ファイバの保持部29が動くため、光ファイバ保持部
29の取付姿勢を変化させて、……位置を調整する、第2頁左上欄
第8?13行目参照)
・特開平2-25810号公報
(光素子、集光光学系、光ファイバの少なくともいずれか一つの支持
部は塑性変形による位置調整自在形状になっている、特許請求の範
囲の第1項参照)

六.本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める(以下、請求項1に記載された発明を「本件特許発明1」、また、請求項2に記載された発明を「本件特許発明2」という。)。
「【請求項1】 回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であることを特徴とするスロットマシンの回転リール装置。
【請求項2】 回転リールには、基準突起の固定部を固定するための固定凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載のスロットマシンの回転リール装置。」

七.甲第1号証
そして,甲第1号証(実願昭60-36595号(実開昭61-151783号)のマイクロフィルム)には、図面とともに、以下の記載がある。
「(産業上の利用分野)
本考案はパルスモータなどの回転位置制御モータによってリールドラムが駆動されると共に、リールドラムの回転基準位置がリールドラムに付設した位置決め部材の通過を基準位置検出センサで検出することによって検知されるスロットマシンにおけるリール回転位置検出装置に関する。」(明細書第1頁第17行目乃至第2頁第4行目)

「第3図はスロットマシンの1例の外観を示し、1は外装ケース……。
前記外装ケース1内には第4図に示すようなリール装置Aが配設されている。このリール装置Aは、同一構成のリールユニット9を3個、リール支持盤10上に形成したガイドレール13に挿脱自在に挿入して、各リールユニット9をリール支持盤10上に配置する構成としている。……
各リールユニット9は、第1図及び第2図に示すように、リールドラム15、リールドラム15を回転駆動するパルスモータ16,リールドラム15の回転位置を検出する基準位置検出センサ17及びリールドラム15、パルスモータ16、前記センサ17を支持するハウジング11から構成される。
前記リールドラム15は合成樹脂で形成され、……」(同第4頁第3行目乃至第5頁第5行目)

「前記リールドラム15には位置決め部材26が円周方向の取付位置を調整できるようにして取付けられている。このためリールドラム15に円周方向のガイド部27を形成すると共に、位置決め部材26を合成樹脂で形成し、その基端部に合成樹脂の弾性を利用したクリップ部28を形成している。このクリップ部28は前記ガイド部27に止着され、或る程度以上の力を加えたときのみガイド部27上を移動できるように構成されている結果、位置決め部材26のリールドラム15に対する取付位置を任意に調整することができる。
前記位置決め部材26はリールドラム15と一体に回転するが、その先端部29の通過をフォトカプラからなる基準位置検出センサ17によって検出することにより、リールドラム15の回転基準位置を検知することができる。尚、前記基準位置検出センサ17は前記ハウジング11に固定されている。」(同第6頁第18行目乃至第7頁15行目)

「又前記位置決め部材26や前記ガイド部27の形状、構造は上記実施例に示すものに限定されない。」(同第8頁第8乃至10行目)

したがって、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲第1号証発明」という。)。
「合成樹脂で形成されるリールドラム15、リールドラム15を回転駆動するパルスモータ16,リールドラム15の回転位置を検出する基準位置検出センサ17及びリールドラム15、パルスモータ16、前記センサ17を支持するハウジング11から構成され、前記リールドラム15には位置決め部材26が円周方向の取付位置を調整できるようにして取付けられているスロットマシンのリールユニット9であって、
前記位置決め部材26はリールドラム15と一体に回転するが、その先端部29の通過をフォトカプラからなる基準位置検出センサ17によって検出することにより、リールドラム15の回転基準位置を検知することができるものであり、
リールドラム15に円周方向のガイド部27を形成すると共に、位置決め部材26を合成樹脂で形成し、その基端部に合成樹脂の弾性を利用したクリップ部28を形成し、このクリップ部28は前記ガイド部27に止着され、或る程度以上の力を加えたときのみガイド部27上を移動できるように構成されている結果、位置決め部材26のリールドラム15に対する取付位置を任意に調整することができるスロットマシンのリールユニット9。」

八.対比、判断
1.本件特許発明1と甲第1号証発明との対比、判断
そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、甲第1号証発明の「リールドラム15」は本件特許発明1の「回転リール」に相当し、以下同様に、「基準位置検出センサ17」は「光センサー」に、「位置決め部材26」は「基準突起」に、「リールユニット9」は「回転リール装置」に、「先端部29」は「遮光片部」に、「クリップ部28」は「固定部」にそれぞれ相当する。

また、甲第1号証発明は、リールドラム15と基準位置検出センサ17とがハウジング11に支持されるものであるから、光センサー(基準位置検出センサ17)が回転リール(リールドラム15)に隣接固定されているものといえる。

さらに、甲第1号証発明は、位置決め部材26はリールドラム15と一体に回転するが、その先端部29の通過をフォトカプラからなる基準位置検出センサ17によって検出することにより、リールドラム15の回転基準位置を検知することができるものであって、フォトカプラは発光部と受光部を有することは当業者の技術常識であるといえるから、甲第1号証発明の光センサーは発光部及び受光部を有し、基準突起はその間を遮光するものといえる。

そのうえ、甲第1号証発明は、リールドラム15に円周方向のガイド部27を形成すると共に、位置決め部材26を合成樹脂で形成し、その基端部に合成樹脂の弾性を利用したクリップ部28を形成し、このクリップ部28が前記ガイド部27に止着されるものであるから、基準突起(位置決め部材26)が回転リール(リールドラム15)とは別体に形成され回転リールに固定されるものであり、回転リールに固定するための固定部(クリップ28)を有するものといえる。

したがって、両者は
「回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するスロットマシンの回転リール装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であるものであるのに対して、甲第1号証発明は、基準突起(位置決め部材26)が合成樹脂で形成されるものであるが、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であるものかどうかは不明な点。

<相違点1について>
そこで、上記相違点1について検討する。
甲第1号証発明の光センサー(フォトカプラからなる位置検出センサ17)が属する技術分野である発光部と受光部との間を遮光部材が通過することにより位置を検知する光センサーの技術分野において、遮光部材が塑性変形可能なものは、例えば、実願昭57-66392号(実開昭58-168733号)のマイクロフィルム(遮光部材が金属またはプラスチック等の剛性ないしは塑性の材料で構成されている、第2頁第9?11行目参照)、特開昭62-190623号公報(遮光部20aは遮光板20を折曲して構成され、第2頁右上欄第19?20行目参照)、特開昭64-1170号公報(遮蔽板56Aが折曲げ形成されており、第3頁右下欄18?19行目参照)に記載されているように周知技術である。

また、甲第1号証発明では、回転リール(リールドラム15)及び基準突起(位置決め部材26)はいずれも合成樹脂で形成されているところ、一般に合成樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分類されるものであり、スロットマシンの回転リールに熱可塑性樹脂の材料を用いることが、例えば、乙第16号証である特開平3-21278号公報の第2頁左上欄第2乃至3行目に記載されているように慣用技術であるので、この慣用技術に基づき、甲第1号証発明の回転リール及び基準突起のいずれについても熱可塑性樹脂の材料を用いて形成することは、当業者が容易になし得ることであり、熱可塑性樹脂の材料で形成された基準突起は加熱すれば塑性変形が可能である。

そして、甲第1号証発明の光センサーの上位概念である位置センサーの技術分野及び光学素子の技術分野において、塑性変形を利用して位置調整を行うことは、例えば、参考資料1である実願昭61-162299号(実開昭63-68158号)のマイクロフィルム(装置組立後にインデックス信号の検出位置、すなわちホール素子19の位置の微調整を行う場合には、外溝21を介して対向している切欠20a,24aにドライバ等の工具を係合し、これを適宜回動させて腕部23を塑性変形させれば、ホール素子19をモータの回動部の円周方向に沿って所定量変位させることができる、明細書第10頁第13乃至19行目参照)、特開昭63-86122号公報(調整溝を介して受光素子基板を塑性変形させることにより受光素子の位置調整を行える、特許請求の範囲参照)、特開昭63-132211号公報(外部からスリーブにそれの軸方向に沿った力を加えてこれを塑性変形させることにより……調整する、特許請求の範囲参照)、特開平1-120516号公報(光ファイバ保持部29に外力を加えると、形状が細い塑性変形部31を支点に光ファイバの保持部29が動くため、光ファイバ保持部29の取付姿勢を変化させて、……位置を調整する、第2頁左上欄第8?13行目参照)、特開平2-25810号公報(光素子、集光光学系、光ファイバの少なくともいずれか一つの支持部は塑性変形による位置調整自在形状になっている、特許請求の範囲の第1項参照)に記載されているように周知技術である。

そのうえ、一般に製品組立工程での位置合わせ(現場合わせ)のために塑性変形を用いることは、例えば、甲第2号証である特開平2-177986号公報(変動入賞装置10の構成部品の製作寸法の誤差や組立誤差などにより、第4図に示すように、駆動歯車352と回転力伝達歯車159の噛合い位置がずれて旨く噛み合わない場合が生じてもこの実施例では取付け部材330が金属製で塑性変形が可能となっているので、モータ取付け片333を変化させるなどしてそれら相互の噛合いを良好な状態に修正させることが可能である、第8頁左下欄第6乃至14行目参照)に記載されているように周知技術である。

したがって、甲第1号証発明の基準突起に上記周知技術を採用して、基準突起の遮光片部が塑性変形が可能であるように構成することは当業者が容易になし得るものである。

ここで、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するようにすることは、光センサーによる検出を有効に機能させるためには当然に行わなければならないことであって、基準突起の遮光片部を塑性変形が可能であるように構成した場合に、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であるように構成しなければならないことは当業者に自明な事項である。

2.本件特許発明2と甲第1号証発明との対比、判断
本件特許発明2と甲第1号証を対比すると、本件特許発明1と甲第1号証発明との一致点で一致し、その相違点に加えて、次の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明2は、回転リールに、基準突起の固定部を固定するための固定凹部を設けたものであるのに対して、甲第1号証発明は、リールドラム15に円周方向のガイド部27を形成すると共に、位置決め部材26を合成樹脂で形成し、その基端部に合成樹脂の弾性を利用したクリップ部28を形成し、このクリップ部28が前記ガイド部27に止着されるものである点。

<相違点2について>
そこで、上記相違点2について検討する。
機械設計上、固定手段として、固定凹部を設けることは、例えば、甲第4号証(「ありかけ」一方の材の端を鳩尾形にして他の材の上にはめ込んで組み合わせる仕口。→ありつぎ。)、甲第5号証(角柱状のスパナヘッド5をスパナヘッドホルダ6の軸方向に設けた角穴に嵌合固定する。)、甲第6号証(レンチ本体側の角柱状のアダプター軸(5b)とレンチソケット(S)の方形の孔(Sa)とを嵌合固定する。)、及び、甲第7号証(ドライバー本体(5)のシャンク(7)先端に設けられたビットホルダー(6)の多角形の凹部に多角形柱状のドライバービット(1)を嵌合固定する。)に記載されているように周知慣用技術であり、甲第1号証には、「又前記位置決め部材26や前記ガイド部27の形状、構造は上記実施例に示すものに限定されない。」(同第8頁第8乃至10行目)と記載されているから、この周知慣用技術を甲第1号証発明の固定手段として採用することは、当業者が容易になし得るものである。

3.本件特許発明1及び本件特許発明2が有する作用効果について
本件特許発明1及び本件特許発明2が有する作用効果は、甲第1号証に記載された事項及び周知慣用技術から当業者が予測できた範囲内のものである。

4.まとめ
本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

九.むすび
本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

したがって、本件特許発明1及び本件特許発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スロットマシンの回転リール装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であることを特徴とするスロットマシンの回転リール装置。
【請求項2】回転リールには、基準突起の固定部を固定するための固定凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載のスロットマシンの回転リール装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明はスロットマシンの回転リール、更に詳しくは、回転リールの回転角度を検出させるための基準位置の検出機構の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、スロットマシンの回転リールユニットに用いられている回転リールには、図4や図5に斜視図で示すようなものがあった。
従来の回転リール10は、中央に軸受部12を有しその軸受部12を中心にして放射状に広がる放射板11と、その放射板11の最外郭端から垂直に折曲して円周面をなす筒状の円周部材13とから形成されている。放射板11も円周部材13も軽量化等のため、適宜の肉抜きが施してある。このため、このように形成される回転リール10は、浅い有底の筒状体を肉抜きしたような形状をなすこととなる。
【0003】
円周部材13の外周面には、絵柄を描いたリールテープ19が貼付される。
放射板11の軸受部12は、回転リール10を円周方向に回転させるためのリールモーター30の出力軸を固定するためのものである。そのリールモーター30の出力軸は、回転リール10の円周部材13側から放射板11側に向かって挿入されて固定される。また、このリールモーター30はベース板50に固定され、そのベース板50は図示を省略した回転リールユニットに固定される。尚、回転リール10、リールモーター30、及び光センサー40を有して形成されるものを「回転リール装置」とする。
【0004】
放射板11の軸受部12と円周面部材との間には、放射板11に対して垂直な軸方向をなして反放射板11側に向かう基準突起20を一つ設けている。この基準突起20は、回転リール10の一回転の基準となるものである。
回転リール10は熱可塑性樹脂製であり、この基準突起20を含めて一体に成型されていた。
【0005】
回転リール10の一回転の検出は、回転リール10とは別個に固定された光センサー40が基準突起20の存在を捉えることによってなされる。回転リール10の一回転の検出に用いられる光センサー40は、図4に示すように、リールモーター30の固定されているベース板50に固定されている。なお、この光センサー40は、いわゆる自己独立型の光センサーではなく、発光部41及び受光部42を対面して有するものである。即ち、光センサー40は、基準突起20が発光部41と受光部42との間隙を通過するような位置となるように、ベース板50に固定される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記した従来のスロットマシンの回転リールでは、以下に示すような問題点があった。
ベース板50に対する回転リール10、リールモーター30、及び光センサー40の組立順序は、リールモーター30、回転リール10、光センサー40の順である。光センサー40をベース板50に固定する組立作業は、基準突起20が発光部41と受光部42との間隙を通過するような位置となるように微調整を必要とするからである。このような微調整を必要とする組立作業は、手数が掛かり面倒であった。
【0007】
この微調整が必要なければ、リールモーター30及び光センサー40を固定したベース板50に対して回転リール10を固定することができるのである。ところが、回転リール10は、基準突起20を含めて一体に成型される熱可塑性樹脂製品であるため、成型の誤差によって軸受部12や基準突起20の位置が微妙にずれることは避けられない。場合によっては、ベース板50への光センサー40の固定位置の調整では調整しきれず、その回転リール10を廃棄せざるを得ないこともあった。このため、リールモーター30、回転リール10をベース板50に固定した後に、回転リール10を微調整しながら固定せざるを得なかった。
【0008】
回転リールの成型後に基準突起の位置を調整できるような回転リール装置を提供できれば、光センサーの位置固定を一律に行った後に基準突起の位置を調整すればよく、上記したような問題点は解決できるのであるが、そのような回転リール装置は提供されていなかった。
本発明が解決すべき課題は、回転リールの成型後に基準突起の位置を調整できるような回転リール装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記した目的を達成するためのものである。
請求項1記載のスロットマシンの回転リール装置は、回転リールと、その回転リールに隣接固定され、回転リールの一回転を検出するための光センサーと、回転リールとは別体に形成され回転リールに固定される基準突起とを有して形成されるスロットマシンの回転リール装置であって、光センサーは発光部及び受光部を有し、回転リールに固定される基準突起は、回転リールの一回転に伴って光センサーの発光部と受光部との間を遮光する遮光片部と、回転リールに固定するための固定部とを有するとともに、回転リールを回転させた際に基準突起の遮光片部が光センサーの発光部と受光部との間を通過するように塑性変形が可能であることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載のスロットマシンの回転リール装置は、回転リールには、基準突起の固定部を固定するための固定凹部を設けたことを特徴とする。
【0011】
【作用】
以下、請求項1記載の発明に係る回転リール装置の作用を説明する。
まず、回転リールと光センサーとを隣接させて固定する。次に、基準突起の固定部により、基準突起を回転リールに固定する。
基準突起を固定した回転リールを回転させた際に、基準突起の遮光片部が光センサーの発光部及び受光部の間を通過するように、遮光片部を塑性変形させる。
【0012】
続いて、請求項2記載の発明に係る回転リール装置の作用を説明する。
この回転リール装置にあっては、基準突起の固定部により基準突起を回転リールに固定する際に、回転リールに設けられた固定凹部を用いる。続いて、基準突起の遮光片部が光センサーの発光部及び受光部の間を通過するように遮光片部を塑性変形させるのは、請求項1記載の発明に係る回転リール装置と同様である。
【0013】
【実施例】
以下、実施例及び図面によって発明に係るスロットマシンの回転リール装置を説明する。
図1は、請求項1記載の発明に係るスロットマシンの回転リールの実施例を示す側断面図である。また、図2は、図1における主要部を示す斜視図である。また、図3は、回転リールの主要部と光センサーとの位置関係を示すための断面図である。
【0014】
まず、本実施例の回転リールの構成について説明する。
本実施例の回転リール10の外形は、中央に軸受部12を有しその軸受部12を中心にして放射状に広がる放射板11と、その放射板11の最外郭端から垂直に折曲して円周面をなす筒状の円周部材13とから形成されている。そして、この回転リール10は、後記するストッパーを要するため、適度な剛性と弾性とを兼備する熱可塑性樹脂で成型されている。
【0015】
なお詳しい図示は省略するが、放射板11も円周部材13も、軽量化等のための適宜の肉抜きが施してある。このため、このように形成される回転リール10は、浅い有底の筒状体を肉抜きしたような形状をなすこととなる。
軸受部12からは、放射板11より内側であって円周部材13の内面の間において、中間放射部14が設けられている。この中間放射部14は、その断面形状が鈍角をなすクランク状をしており、円周部材13側の端部が軸受部12側の端部よりも放射板11から離れるように配置される。
【0016】
中間放射部14の一箇所には、肉厚の厚い基準突起支持部15が設けられている。この基準突起支持部15には、縦断面が略L字形をし、一側面を開放した、固定凹部としての固定穴16が設けられている。その固定穴16がなすL字の方向は、軸受部12の軸方向に平行、及び垂直な二方向であり、軸受部12の軸方向に平行な方向は端部を有さず開放されており、軸受部12の軸方向に垂直な方向は端部を有して閉塞されている。
【0017】
この固定穴16の開放側の一部には、半球状に突き出したストッパー17が設けられている。
上記のように形成された回転リール10の基準突起支持部15の固定穴16には、遮光片部21と固定片部22とで縦断面形状がL字形の基準突起20が埋め込まれる。この基準突起20の固定片部22は、固定穴16における軸受部12の軸方向に垂直な方向長さと同じである。また、基準突起20の幅は、固定穴16におけるストッパー17の内側端からの固定穴16の内側の深さと同じであるので、基準突起20を固定穴16にはめ込んで、ワンタッチで固定することができる。
【0018】
この固定方法について更に詳しく説明する。基準突起20を固定穴16にはめ込もうとすると、基準突起20はストッパー17にぶつかる。更に強く基準突起20を押し込むと、ストッパー17が基準突起20によって下方に押され、固定穴16をストッパー17の高さ方向に拡開する。基準突起20がストッパー17を通過すると、基準突起20は固定穴16の奥側壁を奥行き方向に押し込む。回転リール10を形成する熱可塑性樹脂の弾性力により固定穴16が元に戻ると、基準突起20は、固定穴16の奥側壁とストッパー17とに挟まれて外れないよう固定される。
【0019】
基準突起20は、塑性変形の可能な材質、例えばアルミニウム、鋼などで形成されている。従って、基準突起20を固定穴16に埋め込んで固定した後、遮光片部21を湾曲させたり、折曲させたりすることができる。
更に、前記の回転リール10と、その回転リール10とは別個に設けられた光センサー40とを有する回転リール装置について説明する。
【0020】
図3及び図5を参照させながら説明する。回転リール10に設けられた軸受部12は、この回転リール10を回転させるためのリールモーター30の出力軸に適合するものである。そのリールモーター30は、ベース板50に固定され、更にそのベース板50は、図示を省略した回転リールユニットに固定される。
光センサー40は、ベース板50に固定され、回転リール10の一回転の検出を行うものであり、リールモーター30の出力軸と同方向に発光部41及び受光部42を突出させている。
【0021】
このように形成される回転リール装置にあっては、ベース板50に対してリールモーター30のみならず光センサー40を予め固定してから、リールモーター30の出力軸に回転リール10を固定する。
光センサー40が予めベース板50に固定されているために、基準突起20を埋め込んだ回転リール10がリールモーター30に軸支固定された際、基準突起20の遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置しない場合がある。その場合には、塑性変形が可能な遮光片部21を湾曲させたり折曲させたりすることによって、遮光片部21の先端が光センサー40の発光部41と受光部42との間に位置させることができる。
【0022】
本実施例の回転リール装置によれば、回転リール10の成型後に基準突起20の位置を調整できるような回転リール装置を提供することができたという効果がある。
また、固定凹部としての固定穴16及びL字形の基準突起20のより、基準突起20の回転リール10への固定が確実に行える回転リール装置を提供することができた。
【0023】
次に、本実施例のバリエーションについて説明する。
前記した実施例にあっては、基準突起20及び固定凹部としての固定穴16は、略L字形であるとし、更にストッパー17を設けたとして説明したが、本発明に係る回転リール装置の基準突起及び固定凹部はこれに限られるものではない。たとえば、基準突起を平板とし、固定穴を単なる溝とし、基準突起の固定部をその溝に埋め込んだ後に接着剤で固定することとしてもよい。
【0024】
前記した実施例にあっては、中間放射部14を設け、その中間放射部14に基準突起支持部15、及び固定穴16を設けることによって基準突起20を固定することとしたが、中間放射部14は必ずしも必要なものではない。また、基準突起支持部15には、縦断面が略L字形をし、一側面を開放した、固定凹部としての固定穴16が設けられている、として説明したが、両側面が開放され、ストッパー17を両側に設けるような構成であってもよい。更に、ストッパー17の形状を半球状に突き出したストッパーであるとして説明したが、例えば、ストッパーを凹状とし、その凹状のストッパーにはまり込む凸状を形成してもよい。
【0025】
【発明の効果】
請求項1記載のスロットマシンの回転リールによれば、回転リールの成型後に基準突起の位置を調整できるような回転リール装置を提供することができた。
また、請求項2記載のスロットマシンの回転リールによれば、固定凹部を設けたので、基準突起の回転リールへの固定が確実に行える回転リール装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】
請求項1記載の発明に係るスロットマシンの回転リールの実施例を示す側断面図である。
【図2】
図1における主要部を示す分解斜視図である。
【図3】
回転リールの主要部と光センサーとの位置関係を示すための断面図である。
【図4】
従来のスロットマシンの回転リールを示す斜視図である。
【図5】
従来のスロットマシンの回転リール装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 回転リール 11 放射板
12 軸受部 13 円周部材
14 中間放射部 15 基準突起支持部
16 固定穴 17 ストッパー
19 リールテープ
20 基準突起 21 遮光片部
22 固定片部
30 リールモーター
40 光センサー 41 発光部
42 受光部
50 ベース板
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-30 
結審通知日 2007-06-05 
審決日 2007-06-19 
出願番号 特願平3-265846
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A63F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 三原 裕三
特許庁審判官 藤田 年彦
渡部 葉子
登録日 1997-11-21 
登録番号 特許第2720121号(P2720121)
発明の名称 スロットマシンの回転リール装置  
代理人 黒田 博道  
代理人 黒田 博道  
代理人 小林 茂雄  

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