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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1183020
審判番号 不服2007-822  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-11 
確定日 2008-08-15 
事件の表示 特願2005-511735「電動機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日国際公開、WO2005/112230〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、2004(平成16)年5月18日を国際出願日とする出願であって、平成18年9月11日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がなされたものの、同年12月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年1月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年1月24日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がなされたものである。

2.平成19年1月24日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲における請求項1ないし13のうちの請求項1は、
「電動機であって、
所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含む第1のコイル列と、
前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1のコイル列との相対的な位置関係が固定された第2のコイル列と、
少なくとも1つの磁石を含む磁石列であって、前記第1及び第2のコイル列に対向してN極とS極とが交互に配置され、前記第1及び第2のコイル列との相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な磁石列と、
を備え、
前記第1及び第2のコイル列は、電気角でπ/2の奇数倍だけ相互にずれた位置に配置されており、
前記電動機は、さらに、
前記第1と第2のコイル列にそれぞれ対応付けられ前記第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、前記磁石列の移動による磁束変化を検出して正弦波状の出力信号をそれぞれ生成する第1と第2の磁気センサと、
前記第1と第2の磁気センサの出力信号を利用して前記第1と第2のコイル列に供給するための第1と第2の交流駆動信号を生成する駆動信号生成回路と、
を備えており、
前記駆動信号生成回路は、前記第1と第2の磁気センサから出力される正弦波状の出力信号を利用したPWM制御を実行することによって、前記第1と第2の交流駆動信号を生成する、電動機。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である「第1と第2の磁気センサ」が、「第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、磁石列の移動による磁束変化を検出して正弦波状の出力信号をそれぞれ生成する」ものであることを特定したものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3057913号公報(以下「引用例」という。)には、「永久磁石直流モーター」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は無鉄芯、無ブラシの軸向き磁場の永久磁石直流モーターに関し、特に中低速の回転、大回転力、高効率の無鉄芯、無ブラシの軸向き磁場の永久磁石直流モーターに関する。」

・「【0004】
【課題を解決するための手段】
心棒上で、その軸方向にそって順番に第一電気磁石セット、永久磁石セット、第二電気磁石セットを組み込み、永久磁石セットには複数の永久磁石鋼を設ける。永久磁石鋼を永久磁石セット上の中心から同じ距離のところで、周りを囲むよう等間隔に固定する。永久磁石鋼の磁気と心棒の向きは平行で、またお互いが隣り合う2個の永久磁石鋼の磁気方向を反対にする。第一、第二電気磁石セットは永久磁石セットの両側に平行になるように設置し、第一、第二電気磁石セットはお互いに動かない。そのため永久磁石セットは第一、第二電気磁石セットに対応して回転する。第一、第二電気磁石セット上にそれぞれ永久磁石セットに対応して、同じ数量で複数個の第一、第二電磁区を設ける。隣り合う2個の第一電磁区或いは第二電磁区の感応電磁は磁気方向が反対で、磁気方向を交換することができる。相対応する第一、第二電磁区を交互に設置し、第一電磁区と第二電磁区の電磁感応位相差は90°である。
2つの面の第一、第二電気磁石セットを永久磁石セットの両側に設けることにより、永久磁石セットは両面が引き付ける力と押す力を受けて安定して運転することができる。そのため相対応する第一、第二電磁区を反対向きで交互に設置し、電磁コイルの使用率を上げる。そのため回転力が大きい特性を持ち、両面の交替換相の位相差はわずか90°だけなので振動やデッドスペースの現象を避けることができる。」

・「【0005】
・・・。本実施例の中で、全部で24個の永久磁石鋼21を等間隔で周りを囲むように永久磁石セット2上の中心からの距離が同じ所に固定し、隣り合う2個の永久磁石鋼21のN極、S極はちょうど反対になるようにする。」

・「【0006】
図2に示すように、第一電気磁石セット3、第二電気磁石セット4を永久磁石セット2の両側面に設け、第一電気磁石セット3、第二電気磁石セット4上にそれぞれ24個の区域を形成する。そのうちの1個の区域にセンサーを取り付け、その他23個の区域をコイル式巻線で第一電磁区31、第二電磁区41を形成する。図3に示すように、巻線32、42を第一電気磁石セット3、第二電気磁石セット4の内側に組み入れ、その表面を絶縁材料で密封する。巻線32、巻線42の2端をそれぞれ違う位置の電極板33、34、43、44と接続し、電源アダプター331、341、431、441により電気を供給する。隣り合う2個の第二電磁区41の電流方向はお互いが反対向きで、感応電磁方向は反対である。第二電磁区41はずっと電流を磁力へ変換し、第一電磁区31の巻線32の状況も同じである。
図3に示すのは、本考案実施例の第一電気磁石セット3、第二電気磁石セット4の相対設置関係である。特に重要なのは相対応する第一電磁区31と第二電磁区41がお互いにずれて設置され、第一電磁区31はちょうど隣りあう2個の第二電磁区41の間に位置する。本考案の実施例では、隣り合う2個の第二電磁区41の相対角度は15°である(360°÷24=15°)。対応する第一電磁区31はちょうど2個の第二電磁区41の間になるように設置して、第一電磁区31と第二電磁区41の相対角度は僅かに7.5°だけである。」

・「【0007】
図5から図8に示すのは、図3のP-P線における断面図で、実施例の連続動作関係を説明したものである。記号◎は電流Iが手前へ向かうのを示し、記号×は電流Iが奥へ向かうのを示す。図5に示す記号Aの永久磁石鋼21は第一位置にあり、そのN極の位置は上方の第一電磁区31に対応する。第一電磁区31の電流方向は◎であり、前述の左手の法則により永久磁石鋼21は力を受けて右へ移動する。永久磁石セット2が図6の第二位置まで来たときに、記号A永久磁石鋼21のS極の位置は下方の第二電磁区41に対応する。第二電磁区41の◎は電流が手前の方向へ流れるのを示し、フレミング左手の法則により永久磁石鋼21は力の作用で右へ移動する。図7は記号Aの永久磁石鋼21が第三位置まで移動したときに、上方対応の第一電磁区31はコントロール信号を受け取って換相を発生する。対応する第一電磁区31の電流は手前に向かい、フレミング左手の法則により永久磁石鋼21は力の作用で右へ移動する。記号Aの永久磁石鋼21が図8の第四位置まで来たとき、下方の対応する第二電磁区41はコントロール信号を受け取って換相を発生する。対応する第二電磁区41の電流方向は◎が表示するように、手前に流れて、左手の法則により永久磁石鋼21は力の作用で右へ移動する。次の位置まで来たときに、第一電磁区31は再び記号Aの永久磁石鋼21を継続して前へ移動させる。このような繰り返しにより、第一、第二電磁区31本体の換相位相差は180°で、お互いの相対位相差は90°である。このように永久磁石セット2上の永久磁石鋼21は運転を継続することができる。」

・図1ないし図3及び図5には、第一電気磁石セット3が所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数の第一電磁区31を含むこと、及び、第二電気磁石セット4が所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数の第二電磁区41を含み、前記第一電気磁石セット3との相対的な位置関係が固定されていること、が示されている。また、これらの図には、永久磁石セット2の永久磁石鋼21が第一電気磁石セット3及び第二電気磁石セット4に対向してN極とS極とが交互になるように配置されていることや、永久磁石セット2と第一電気磁石セット3及び第二電気磁石セット4との相対的な位置関係が所定の方向に沿って変化可能であることも示されているといえる。

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例には、
「永久磁石直流モーターであって、
所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数の第一電磁区を含む第一電気磁石セットと、
前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数の第二電磁区を含み、前記第一電気磁石セットとの相対的な位置関係が固定された第二電気磁石セットと、
24個の永久磁石鋼を含む永久磁石セットであって、前記第一及び第二電気磁石セットに対向してN極とS極とが交互に配置され、前記第一及び第二電気磁石セットとの相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な永久磁石セットと、
を備え、
前記第一電気磁石セットの第一電磁区と第二電気磁石セットの第二電磁区とは、電磁感応位相差が90°だけ相互にずれた位置に配置されており、
前記永久磁石直流モーターは、さらに、
前記第一と第二電気磁石セットにそれぞれ形成した24個の区域のうちの1個の区域に取り付けられたセンサーと、
前記第一電気磁石セットの第一電磁区と第二電気磁石セットの第二電磁区にそれぞれ供給するための換相可能な電流を生成する手段と、
を備える、
永久磁石直流モーター。」
という事項を含む発明(以下「引用発明」という。)が開示されていると認定することができる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「永久磁石直流モーター」は、本願補正発明の「電動機」に相当し、以下同様に、「複数の第一電磁区を含む第一電気磁石セット」は「複数のコイルを含む第1のコイル列」に、「複数の第二電磁区を含み」は「複数のコイルを含み」に、「第二電気磁石セット」は「第2のコイル列」に、「24個の永久磁石鋼を含む永久磁石セット」は「少なくとも1つの磁石を含む磁石列」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「電磁感応位相差が90°」とは、電気角が90°であることと同義であると認められ、電気角180°が「π」であるから、電気角90°であれば「π/2」の1倍、つまりは、「π/2の奇数倍」に相当するといえる。そして、第一電磁区及び第二電磁区とはそれぞれ第一電気磁石セット(「第1のコイル列」が相当)及び第二電気磁石セット(「第2のコイル列」が相当)の構成要素であるから、第一電磁区と第二電磁区とのずれは、すなわち第一電気磁石セットと第二電気磁石セットとのずれに相当するということができる。そうすると、引用発明の「第一電気磁石セットの第一電磁区と第二電気磁石セットの第二電磁区とは、電磁感応位相差が90°だけ相互にずれた位置に配置されており」という態様は、本願補正発明の「第1及び第2のコイル列は、電気角でπ/2の奇数倍だけ相互にずれた位置に配置されており」という態様に相当する。
続いて、引用発明の「第一と第二電気磁石セットにそれぞれ形成した24個の区域のうちの1個の区域に取り付けられたセンサー」が、その配置及び技術常識を踏まえると、永久磁石セット(「磁石列」が相当)の位置を検出、すなわち磁石列の移動による磁束変化を検出して所定の信号を出力するものであると認められるから、本願補正発明の「第1と第2のコイル列にそれぞれ対応付けられ前記第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、磁石列の移動による磁束変化を検出して正弦波状の出力信号をそれぞれ生成する第1と第2の磁気センサ」と、「第1と第2のコイル列にそれぞれ対応付けられ前記第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、磁石列の移動による磁束変化を検出して所定の出力信号をそれぞれ生成する第1と第2の磁気センサ」という概念で共通する。
さらに、引用発明の「第一電気磁石セットの第一電磁区と第二電気磁石セットの第二電磁区にそれぞれ供給するための換相可能な電流を生成する手段」は、前記「(2)」で摘記した引用例【0007】及び図5ないし8に開示されるとおり、第一電磁区を有する第一電気磁石セットと永久磁石セットとの相対位置、及び、第二電磁区を有する第二電気磁石セットと永久磁石セットとの相対位置によって、第一電磁区及び第二電磁区それぞれへ供給する電流を換相するものであるから、センサー(「第1と第2の磁気センサ」が相当)の出力信号を利用して前記相対位置を検出して電流を換相すべきこと、並びに、第一又は第二電磁区(「コイル」が相当)に供給される換相可能な電流は「交流駆動信号」ということができること、に照らせば、本願補正発明の「第1と第2の磁気センサの出力信号を利用して前記第1と第2のコイル列に供給するための第1と第2の交流駆動信号を生成する駆動信号生成回路」に相当する。

そうすると、両者は、
「電動機であって、
所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含む第1のコイル列と、
前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1のコイル列との相対的な位置関係が固定された第2のコイル列と、
少なくとも1つの磁石を含む磁石列であって、前記第1及び第2のコイル列に対向してN極とS極とが交互に配置され、前記第1及び第2のコイル列との相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な磁石列と、
を備え、
前記第1及び第2のコイル列は、電気角でπ/2の奇数倍だけ相互にずれた位置に配置されており、
前記電動機は、さらに、
前記第1と第2のコイル列にそれぞれ対応付けられ前記第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、前記磁石列の移動による磁束変化を検出して所定の出力信号をそれぞれ生成する第1と第2の磁気センサと、
前記第1と第2の磁気センサの出力信号を利用して前記第1と第2のコイル列に供給するための第1と第2の交流駆動信号を生成する駆動信号生成回路と、
を備える、電動機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点1
磁気センサで生成される所定の出力信号が、本願補正発明では「正弦波状の」ものであることが特定されているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

・相違点2
駆動信号生成回路について、本願補正発明では「第1と第2の磁気センサから出力される正弦波状の出力信号を利用したPWM制御を実行することによって」第1と第2の交流駆動信号を生成するものであるとの特定がなされているのに対し、引用発明ではかかる特定がなされていない点。

(4)相違点についての判断
・相違点1及び2について
永久磁石を用いる電動機の一態様である、いわゆるブラシレスモータの技術分野において、磁気センサの出力信号を正弦波状とし、かかる出力信号を利用したPWM制御にて、ブラシレスモータの駆動信号を生成することは、周知の技術である(例えば、原査定時に周知の技術として提示された特開2000-350488号公報【0008】の「本発明では正弦波の振幅に応じてPWMのデューティをほぼ0%から100%に変調する。」及び【0009】の「三相ブラシレスモータ(1)の回転軸(2)に磁石(3)を取り付け、この磁石(3)が回転軸(2)の回転に伴ってその周囲に発生する正弦波状に変化する磁場の強さをモータの固定子に固定した複数の磁気センサ(4)によって相似形の電圧に変換し、この複数の磁気センサ(4)はそれぞれの発生する正弦波電圧の位相が互いに120度ずれるように配置するものとして、その正弦波電圧をアンプ(5)で増幅し、これによって作られる三相正弦波電圧信号(6)を出力とし、またそれぞれの三相正弦波電圧信号(6)をPWM変換回路(7)に入力し、そのPWM信号(8)を三相インバータ(9)に入力すると三相ブラシレスモータを駆動するための電力が得られる。」という記載や、特開2004-104954号公報【0015】の「本発明に係るモータの回転制御方式は、モータの回転に基づき検出した多相の正弦波アナログ信号を前記モータの逆起電力と前記モータの相電流とが同位相となるように位相調整する回路と、前記位相調整する回路により位相調整された正弦波アナログ信号により前記モータをPWM制御する回路とを有する」という記載を参照)。
そして、引用発明において、センサー(「第1と第2の磁気センサ」が相当)の出力信号を利用して換相可能な電流(「第1と第2の交流駆動信号」が相当)を生成する手段として、周知の技術として認識されている手段を適宜採用することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものと認められる。
そうすると、引用発明において周知の技術を参酌し、相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明の全体構成から奏される効果も、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

なお、平成19年1月24日付け手続補正書(方式)にて補正がなされた請求の理由の、同書3ページに、前掲特開2000-350488号公報を引用文献6と称したうえで、「また、引用文献6の段落0004には、『正弦波駆動では電機子巻線が三相型以外は無いと考えて良い。』と記載されており、本願の請求項1のように二相モータにおいて正弦波駆動を行うことは除外されています。従って、二相モータに引用文献6に記載されている構成を組み合わせ変形することによって本願発明を構成する動機付けは排除されているものと思料致します。」との主張について付言する。結論として、かかる主張は誤りであり採用できるものではない。すなわち、【0004】における「正弦波駆動」とは、電機子巻線に供給する電流が正弦波であるということであって、磁気センサの出力信号が正弦波であることを意味したものではない。また、【0003】には「非正弦波駆動モータ」に関する記載があり、そこには、「したがって非正弦波駆動型のブラシレスモータは簡易型であって低コスト、低精度、低効率、小出力の分野に応用されてきた。小型、小出力の物では電機子巻線が三相ではなく二相の物もあるが、それは電力効率が問題にならないからである。」として「二相」のモータについても適用例がある旨が明示されている。
加えて、前掲特開2000-350488号公報は、前記したとおり、磁気センサの出力信号を正弦波状とし、かかる出力信号を利用したPWM制御にて、ブラシレスモータの駆動信号を生成することが周知の技術であることを示すための一例に過ぎず、該公報記載の細部の構成までをも引用するものではない。

したがって、本願補正発明については、引用発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年9月11日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「電動機であって、
所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含む第1のコイル列と、
前記所定の方向に沿って所定のピッチで配列されて相互に電気的に接続された複数のコイルを含み、前記第1のコイル列との相対的な位置関係が固定された第2のコイル列と、
少なくとも1つの磁石を含む磁石列であって、前記第1及び第2のコイル列に対向してN極とS極とが交互に配置され、前記第1及び第2のコイル列との相対的な位置関係が前記所定の方向に沿って変化可能な磁石列と、
を備え、
前記第1及び第2のコイル列は、電気角でπ/2の奇数倍だけ相互にずれた位置に配置されており、
前記電動機は、さらに、
前記第1と第2のコイル列にそれぞれ対応付けられた第1と第2の磁気センサと、
前記第1と第2の磁気センサの出力信号を利用して前記第1と第2のコイル列に供給するための第1と第2の交流駆動信号を生成する駆動信号生成回路と、
を備えており、
前記駆動信号生成回路は、前記第1と第2の磁気センサから出力される正弦波状の出力信号を利用したPWM制御を実行することによって、前記第1と第2の交流駆動信号を生成する、電動機。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である「第1と第2の磁気センサ」が、「第1と第2のコイル列に対して固定された磁気センサであって、磁石列の移動による磁束変化を検出して正弦波状の出力信号をそれぞれ生成する」ものであるとの特定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願発明についても同様の理由により引用発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-05-30 
結審通知日 2008-06-10 
審決日 2008-06-23 
出願番号 特願2005-511735(P2005-511735)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大河原 裕
本庄 亮太郎
発明の名称 電動機  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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