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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1183236
審判番号 不服2006-680  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-01-11 
確定日 2008-08-21 
事件の表示 平成11年特許願第282208号「廃水中のアンモニア及び(または)アンモニウムイオンの除去と回収方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 4月17日出願公開、特開2001-104966〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年10月1日の出願であって、平成17年10月13日付けで手続補正がなされ、同年12月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年1月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願発明
本願請求項1に係る発明は、平成17年10月13日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】 リン酸マグネシウムアモニウム6水塩であるMAP粒子を100℃?120℃の温度範囲において1時間?15時間の範囲で加熱することによってMAP粒子内のアンモニア及び結晶水を放出させた粒子であるH-MAP粒子を、アンモニア及びアンモニウムイオンの少くともいずれかを含む廃水と接触させ、これをH-MAP粒子に吸収して除去することを特徴とするアンモニア及び(または)アンモニウムイオンの除去方法。」
なお、上記「リン酸マグネシウムアモニウム6水塩」は「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩」の誤記である。

3.引用刊行物
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平9-253657号公報(原査定における引用文献1、以下、「刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。

(あ)「【発明の実施の形態】本発明の排水処理剤は、前記したように一般式(I)で表されるが、マグネシウム、チッソ、リンの原子比が1:1:1で結晶水が1から6のもの、即ち、前記一般式(II)において、x=1、y=1、z=0、n=1?6で表されるものは、リン酸アンモニウムマグネシウム(以下、MAPと略記する。)として良く知られている。」(段落【0016】)
(い)「実施例1
排水(A)は硫酸アンモニウムに由来するアンモニア性チッソを823ppm(Nとして)含有していた。この排水(A)1973gに、MAP六水塩(一般式に於けるx=1.0、y=1.0、z=0.0、n=6)56gを300℃で2時間加熱処理して得られた排水処理剤(x=1.0、y=0.10、z=0.90、n=0.05)28.0gを分散させて2時間攪拌した後、排水処理剤を分離し、排水中のチッソ分を分析したところ185ppmであった。また、排水のpHは6.5であった。回収した排水処理剤はx=0.96、y=0.49、z=0.51、n=5.5であった。」(段落【0035】)
(う)「比較例3
排水(A)1969gに、MAP六水塩56gを120℃で2時間加熱処理して得られた排水処理剤(x=1.0、y=0.78、z=0.22、n=2.2)40.3gと軽焼マグネシア3.4gを分散させ、2時間攪拌した後、固形分を分離し、排水中のチッソ分を分析したところ755ppmであった。排水のpHは8.8であった。」(段落【0038】)

ここで、原査定の拒絶の理由には、引用文献1として「特開平9-235657号公報」と記載されているが、これは「特開平9-253657号公報」の誤記である。
この点について、「特開平9-253657号公報」は、平成16年6月11日に提出された刊行物等提出書にて「刊行物1」として提出された文献であること、「特開平9-235657号公報」は「残留磁気の少ないアーク溶接用ニッケル鋼鋼板」の発明に関するものであるところ、平成17年10月13日に提出された意見書の「3.引用文献、先願発明との対比」には、「1)引用文献1の段落〔0035〕(実施例1)ではMAP水塩を300℃、・・・その排水率のチッソ除去の効果とともに説明されています。」と記載されており、その記載内容は特開平9-253657号公報のものに一致し特開平9-235657号公報のものとは一致しないこと、同様に、平成18年4月14日に提出された審判請求書を補正対象とする手続補正書の、「3.本発明の新規性進歩性」の「(1)発明の新規性」には、「1)審査官が上記請求項1および3の発明の新規性を否定する根拠としております引用文献1には・・・823ppmに比べて755ppmと、ほとんど吸収除去の効果がないことが説明されているのであります。」と記載されており、その記載内容は特開平9-253657号公報のものに一致し特開平9-235657号公報のものとは一致しないことからみて、請求人は、原査定の拒絶の理由に引用された「特開平9-235657号公報」は「特開平9-253657号公報」の誤記であるとして対応していることは明らかである。

そこで、上記記載事項について検討すると、刊行物には、上記記載事項(う)より、「排水(A)」に「MAP六水塩を120℃で2時間加熱処理して得られた排水処理剤」を分散させて撹拌して、排水中のチッソ分を「755ppm」としたことが記載されており、記載事項(い)によれば、「排水(A)」は「硫酸アンモニウムに由来するアンモニア性チッソを823ppm」含有する。そして記載事項(あ)によれば、「MAP」は「リン酸アンモニウムマグネシウム」の略記である。
そこで、上記記載事項(あ)?(う)を本願発明の記載ぶりに則して整理し直すと、刊行物には以下の発明が記載されていると認められる。
「硫酸アンモニウムに由来するアンモニア性チッソを823ppm含有する排水に、リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩を120℃で2時間加熱処理して得られた排水処理剤を分散させて撹拌して、排水中のチッソ分を755ppmとする排水処理方法。」(以下、「刊行物発明」という。)

4.本願発明と刊行物発明との対比
本願発明と刊行物発明とを対比すると、「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」は、一般に、「Mg(NH_(4))PO_(4)・6H_(2)O」であることが知られており(必要ならば、志田正二編「化学辞典」(普及版)、(1993年10月30日)、森北出版株式会社、p.1363「リン酸アンモニウムマグネシウム」の項参照)、これは本願発明の「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAP」に他ならないから、刊行物発明の「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」は、本願発明の「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAP」に相当する。
また、刊行物発明の「硫酸アンモニウムに由来するアンモニア性チッソを823ppm含有する排水」は、本願発明の「アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくともいずれかを含む廃水」に相当する。
また、刊行物発明の「120℃」、「2時間」という加熱処理条件は、本願発明の「100℃?120℃の温度範囲において1時間?15時間の範囲で加熱」という加熱処理条件の「100℃?120℃」、「1時間?15時間」という範囲にそれぞれ含まれる。したがって、刊行物発明の「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩を120℃で2時間加熱処理」することは、本願発明の「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAP」を「100℃?120℃の温度範囲において1時間?15時間の範囲で加熱」することのうち、「120℃において2時間加熱処理すること」に相当する。
さらに、刊行物発明の「硫酸アンモニウムに由来するアンモニア性チッソを823ppm含有する排水」の「排水中のチッソ分を755ppmとする」ことは、アンモニア性チッソが823ppmから755ppmに減少しているのであるから、本願発明の「アンモニア及び(または)アンモニウムイオン」を除去することに相当する。
してみると、本願発明と刊行物発明とは
「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAPを120℃、2時間加熱したものを、アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくともいずれかを含む廃水と接触させる、アンモニア及び(または)アンモニウムイオンの除去方法」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

(相違点1)本願発明の「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAP」は「粒子」であり、これを加熱処理した、「H-MAP」も「粒子」であるのに対して、刊行物発明の「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」及び「排水処理剤」は「粒子」であるか否かが明記されていない点。
(相違点2)本願発明は、加熱処理によって「リン酸マグネシウムアンモニウム6水塩であるMAP粒子」内のアンモニア及び結晶水を放出させて、「H-MAP粒子」を得ているのに対して、刊行物発明は、加熱処理によって「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」中のアンモニア及び結晶水を放出することが明記されていない点。
(相違点3)本願発明は、「アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくともいずれか」を「H-MAP粒子」に「吸収して除去」するのに対して、刊行物発明は、「排水処理剤」による「アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくともいずれか」の除去が「吸収」によるものであると明記されていない点。

5.当審の判断
上記相違点について、検討する。
相違点1について、
刊行物発明において、「排水処理剤」は「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」を本願発明の加熱処理条件と重複する「120℃、2時間」で加熱処理して得られるものであるから、その形態は本願の「粒子」と同様に「固体」であると解される。そして、刊行物発明において、当該「固体」である「排水処理剤」が、排水に「分散」、「拡散」せしめられるものであるから、刊行物発明においても「排水処理剤」は「粒子」形状であるとみるのが相当である。
また、当該「粒子」形状の「排水処理剤」は、「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」の加熱処理により得られたものであるところ、「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」は固体であり(必要ならば、化学大辞典編集委員会編「化学大辞典9」(1997年9月20日)共立出版株式会社、p.817、「りんさんマグネシウムアンモニウム」の項参照)、刊行物発明において、「排水処理剤」を得るにあたり、「リン酸アンモニウムマグネシウム」を加熱処理しているのみで粉砕等は行っていないことによれば、加熱により「排水処理剤」を得るための「リン酸アンモニウムマグネシウム」も「粒子」形状であるとみるのが相当である。
してみると、相違点1について、本願発明と刊行物発明との間に実質的な差異はない。
相違点2について、
刊行物発明においても、本願発明と同一の「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」を、本願発明の加熱処理の条件と重複する「120℃、2時間」で加熱処理を行うのであるから、「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」内の「アンモニア」、「結晶水」は本願発明のものと同様に放出されることは明らかである。
してみると相違点2について、本願発明と刊行物発明との間に実質的な差異はない。
相違点3について、
刊行物発明において、「アンモニア性チッソ」を含有する排水に添加する排水処理剤は、上記「相違点2について」で述べたとおり、本願発明と同一の「リン酸アンモニウムマグネシウム六水塩」を、本願発明の加熱条件と重複する「120℃、2時間」で加熱処理を行ったものであるから、当該排水処理剤は、本願発明において廃水に添加するもののうち、「120℃、2時間」での加熱処理を経たものと同一であるといえる。
すると、このとき、刊行物発明においても、本願発明のものと同様に「排水処理剤」による吸収により「アンモニア及びアンモニウムイオンの少なくともいずれか」が除去されることは明らかである。
してみると相違点3について、本願発明と刊行物発明との間に差異はない。

[請求人の主張について]
平成18年4月14日に提出された審判請求書の手続補正書において、請求人は、次のように主張する。
「そして、極めて重要な点として、引用文献1の段落〔0038〕(比較例3)では、MAP6水塩を120℃、2時間加熱して得られたものの場合には、排水中のチッソ濃度は当初の823ppmに比べて755ppmと、ほとんど吸収除去の効果がないことが説明されているのであります。
このことからは、MAP6水塩の120℃以下での加熱処理によるものでは排水中のアンモニア性チッソの吸収除去効果は期待できず、その機能、作用効果が否定されていることがわかります。」
上記請求人の主張について検討するに、確かに段落〔0038〕の記載は「比較例」として記載されたものであるが、本願発明と刊行物発明との間に実質的な相違点がないことは上記5.で検討したとおりであり、段落〔0038〕に記載されたものが「比較例」であるからといって、このことは、本願発明と刊行物発明との間に実質的な相違点がないということに何ら影響をおよぼすものではない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

6.むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-24 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願平11-282208
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫛引 明佳  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 繁田 えい子
斉藤 信人
発明の名称 廃水中のアンモニア及び(または)アンモニウムイオンの除去と回収方法  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  

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