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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680024 審決 特許
無効200680020 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01J
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B01J
管理番号 1183451
審判番号 無効2007-800234  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-29 
確定日 2008-08-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3918037号発明「充填塔用充填物およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3918037号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、平成11年7月27日に出願され、その発明について平成19年2月23日に特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人東京特殊金網株式会社よって、平成19年10月29日付け審判請求書により本件無効審判の請求がなされ、これに対し、被請求人株式会社アドバネクスより平成20年1月15日付けで審判事件答弁書が提出されたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

請求人より口頭審理陳述要領書の提出: 平成20年 5月19日
被請求人より口頭審理陳述要領書の提出: 平成20年 5月19日
口頭審理: 平成20年 5月19日
請求人より上申書の提出: 平成20年 5月30日
被請求人より上申書の提出: 平成20年 6月12日

2.本件発明
本件特許第3918037号の請求項1ないし10に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】 線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされるとともに、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とされ、かつ、該歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状とされ、前記各一巻単位は、隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配されていることを特徴とする充填塔用充填物。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】 前記線状体はバネ材料からなり、前記コイル体はスプリングとされていることを特徴とする請求項1記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】 前記バネ材料はバネ用ステンレス鋼線であることを特徴とする請求項2に記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明3」という。)
「【請求項4】 前記コイル体の隣り合う前記各一巻単位のそれぞれは、互いに密着状態とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明4」という。)
「【請求項5】 前記コイル体の前記各一巻単位は、楕円形とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明5」という。)
「【請求項6】 前記コイル体の一の端部に位置する一巻単位の前記長軸と、前記コイル体の他の端部に位置する一巻単位の前記長軸とがなす角度が、100°以上150°以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明6」という。)
「【請求項7】 前記各一巻単位の前記最大径が2?6mm、前記最小径が1?3mmとされ、かつ、前記各一巻単位の積層方向における前記コイル体の高さが2?6mmとされていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明7」という。)
「【請求項8】 前記各一巻単位の積層方向における前記コイル体の高さと、該積層方向に直交する方向における前記コイル体の幅の最大値との比が、ほぼ1:1とされていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の充填塔用充填物。」(以下、「本件発明8」という。)
「【請求項9】 線状体を複数巻回して円筒形状のコイルスプリングを形成し、該コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とし、前記押圧を解いて、スプリングバックにより、前記各一巻単位を隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配することを特徴とする充填塔用充填物の製造方法。」(以下、「本件発明9」という。)
「【請求項10】 前記コイルスプリングを径方向に押圧するとともに、該コイルスプリングを一定長に切断することを特徴とする請求項9記載の充填塔用充填物の製造方法。」(以下、「本件発明10」という。)

3.請求人の主張
請求人は、本件特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書において、次のとおり、無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証を提出している。

(1)無効理由
本件発明1ないし10は、その出願前に頒布された刊行物である甲第2号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明と同一、又は、これらの発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号に該当し、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

なお、請求人は、審判請求書において、無効審判請求の根拠として「本件特許の請求項1乃至10に係る発明は、甲第2号証、甲第5号証または甲第6号証に記載された発明と同一またはこれらの記載に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである」(第5頁下から6?3行)と主張していることから、上記のとおり、無効理由を認定した(第1回口頭審理調書を参照)。また、請求人は、上申書において、本件特許発明は「特許法第29条第1項第2号及び第3号に該当し特許を受けることができないものである。」(第6頁第4?5行)及び「特許法第29条第1項第1号から第3号及び同条第2項に該当するものである。」(第18頁下から2?1行)と主張しているが、これらの主張のうち、特許法第29条第1項第1号又は第2号に基づく主張は、審判請求書で主張する無効理由と異なる新たな無効理由を主張するものであり、明らかに審判請求書の要旨を変更するものであるから採用することはできない。

(2)証拠方法
甲第1号証:「特許第3918037号公報」(本件特許公報)
甲第2号証:「TowerPackings」のカタログ(浪速特殊金網株式会社)
甲第2号証の1:甲第2号証第7頁の「No.4」の写真を拡大した写し
甲第3号証:「独立行政法人産業技術総合研究所」のホームページ中の沿革(2007/09/04)
甲第4号証:独立行政法人産業技術総合研究所のホームページ中の大阪工業技術研究所の「歩みと実績」(2007/09/04)
甲第5号証:「経歴書」(1993.1、東京特殊金網株式会社)
甲第5号証の1:甲第5号証第6頁の「ヘリパック(HELI PACK)」の写真を拡大した写し
甲第5号証の2:甲第5号証第6頁の「ヘリパック(HELI PACK)」の写真を拡大した写し
甲第6号証:「OKUNO MACHINE CATALOGUE」(1966.11、株式会社奥野機械製作所)
甲第7号証:「TOWER PACKINGs 充填塔用・不規則(ランダム)充填物」のカタログ(1999.4、東京特殊金網株式会社)
甲第8号証:「実験化学講座(続)2 分離と精製」(昭和42年1月25日発行、丸善株式会社)
甲第9号証:「分離技術シリーズ2 タワーパッキング」(平成8年3月31日、分離技術懇話会)

4.被請求人の主張
被請求人は、上記請求人の主張に対して、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記無効理由に対して、本件発明1ないし10は、甲第2号証、甲第2号証の1、甲第5号証、甲第5号証の1又は甲第6号証に記載された発明ではなく、これらの発明及び公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第1項3号又は同条第2項の規定に該当せず、特許を受けられるものであると反論している。

5.当審の判断
5-1.甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証について
(1)甲第2号証
甲第2号証の「TowerPackings」のカタログには、その扉に「通商産業省 工業技術院 大阪工業技術試験所」との記載があり、この「大阪工業技術試験所」は、甲第3号証(2/4ページ)の「平成5年(1993年)10月 『技術試験所』を『技術研究所』に改称」、ならびに甲第4号証(歩みと実績1/1ページ)の「昭和27年(1952) 大阪工業技術試験所に改称」及び「平成5年(1993) 大阪工業技術研究所に改称」との記載によれば、平成5年10月に「大阪技術研究所」に改称したと認められるから、甲第2号証は、平成5年10月までに印刷されたカタログといえる。
また、甲第2号証は、その第29頁右下の日付記入欄に「昭和 年 月 日」と記載されていることからみて、昭和年号の時期に印刷されたカタログともいえる。
そうすると、甲第2号証は、本件発明1ないし10の出願日である平成11年7月27日より前に印刷されたものといえるが、甲第2号証には、その頒布日を示す記載はなく、それが頒布された事実をはじめ、その頒布日を明らかにする他の証拠も示されていないことから、甲第2号証の頒布日は明らかでない。

そして、甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(ア)扉の第5行に「今回精蒸溜塔用充填物だけの型録を編集いたしました。」と記載されている。
(イ)第6頁右上欄に「ワイヤーを使用したパッキングのうちで最も代表的なものは、ナニワパックである。ナニワパックは弊社多年の研究により、完成された最も優秀な高性能のパッキングで1本の線をそのサイズにより、線と線の間を等間隔にして、矩角型のコイル状に整形したもので、型は半永久的にくずれず、最も充填し易く、充填状態も非常によく、最精密蒸留に最適なものであります。」と記載されている。
(ウ)上記(イ)の「ナニワパック」について、第7頁中段に「No.1」ないし「No.4」の写真が掲載されている。
(エ)上記(ウ)の「No.4」の写真を拡大したものが、甲第2号証の1に示されている。

そうすると、甲第2号証には、記載事項(イ)によれば、甲第2号証には、「1本の線を、線と線の間を等間隔にして、矩角型のコイル状に整形した、最精密蒸留に最適なパッキング」が記載されているといえ、この「最精密蒸留に最適なパッキング」は、記載事項(ア)によれば、「精蒸溜塔用充填物」であることが記載されているといえる。これらの記載事項によれば、甲第2号証には、「1本の線を、線と線の間を等間隔にして、矩角型のコイル状に整形した、精蒸溜塔用充填物」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第5号証
甲第5号証の「経歴書」は、その裏表紙右下の「1993.1.No.26 1,000」という記載によれば、1993年(平成5年)1月に印刷されたものといえ、本件発明の出願日である平成11年7月27日より前に印刷されたものといえるが、甲第5号証には、その頒布日を示す記載はなく、それが頒布された事実をはじめ、その頒布日を明らかにする他の証拠も示されていないことから、甲第5号証の頒布日は明らかでない。

そして、甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(カ)表紙及び裏表紙に「東京特殊金網株式会社」と記載されている。
(キ)第6頁下欄に、「ヘリパック (HELI PACK)」と記載されているとともに、写真が掲載されている。
(ク)上記(キ)の写真を拡大したものが、甲第5号証の1及び2に示されている。

ここで、上記(カ)によれば、甲第5号証は、請求人東京特殊金網株式会社の「経歴書」であり、上記(キ)の「ヘリパック (HELI PACK)」は、請求人が扱う商品であると認められるところ、甲第1号証である本件特許公報の明細書段落【0004】には「東京特殊金網株式会社より入手可能とされたヘリパックパッキング(商品名)」と記載され、甲第7号証の「TOWER PACKINGs 充填塔用・不規則(ランダム)充填物」のカタログには、裏表紙に「東京特殊金網株式会社」、第5頁左上欄に「HELI PACK (ヘリ パック)」と記載されている。そして、請求人は、審判請求書において、「本件無効審判請求人である東京特殊金網株式会社が、本件特許発明の出願時に製造販売していた、ヘリパックが『短角型のコイル状』であることは本件明細書記載の通りである」(第11頁第16?18行)及び「請求人は『短角型のコイル状』のヘリパックの製造販売を、少なくとも本件特許出願日である1999年7月27日の前、1993年1月以前から現在まで行っている」と主張している。これらのことに照らせば、甲第5号証に記載されている「ヘリパック (HELI PACK)」と、甲第1号証の本件特許明細書に記載されている「ヘリパックパッキング(商品名)」及び甲第7号証に記載されている「HELI PACK (ヘリ パック)」は、いずれも同一のものを意味していると推認できる。
そして、甲第1号証の本件特許明細書には、「ヘリパックパッキング(商品名)」の形状について、「金属ワイヤーで製作されており、線間が等間隔に離間された短角型のコイル状であるとともに、僅かなひねりが与えられた形状とされている」(段落【0004】)と記載され、甲第7号証には、「HELI PACK (ヘリ パック)」の形状について、「ワイヤーを素材にした中で最も代表的なもので、・・・優れた充填物です。線と線との間を等間隔にして矩形型のコイル状に巻き更に気液を効率よく接触させるための空間を確保するために、長さ方向に『ひねり』を加えています。実験室から小塔径までの特に高理論段数を要する系に多く利用されています」(第5頁左上欄)と記載され、この記載の下に、上記(キ)の写真に写っているものと同様の形状のものが写っている写真が掲載されている。
そうすると、甲第5号証には、上記(キ)の「ヘリパック (HELI PACK)」について、その形状等を説明した記載はないが、甲第1号証及び甲第7号証の記載事項を参酌すれば、「ワイヤーを、線と線との間を等間隔にして短角型ないし矩形型のコイル状に巻き、長さ方向にひねりを加えた、充填塔用充填物」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲第6号証
甲第6号証の「OKUNO MACHINE CATALOGUE」は、その裏表紙右下の「1996.11.1000」という記載によれば、1996年(平成8年)11月に印刷されたものといえ、本件発明の出願日である平成11年7月27日より前に印刷されたものといえるが、甲第6号証には、その頒布日を示す記載はなく、それが頒布された事実をはじめ、その頒布日を明らかにする他の証拠も示されていないことから、甲第6号証の頒布日は明らかでない。

そして、甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(サ)第6頁左上に、「スプリング一覧表」と記載され、その下に「機械選択が便利な様に代表的なスプリング形状別に加工可能な機種を示した一覧表です。」と記載されており、この「一覧表」の右欄下から3段目に、「スプリング名称」として「楕円バネ」、「製作機種」として「OCF」と記載され、「スプリング形態」として「楕円バネ」の図が記載されている。
(シ)第28頁左上に、「OCF」と記載され、その下に「本機は楕円バネ成形の専用機です。」と記載され、「OCFで製作できるスプリング基本形。」との記載とともに、「楕円バネ」の図が記載されている。
(ス)第28頁の下段に、上記(シ)の「OCF」についての「機械仕様」の表が記載されており、この表の「項目」として「加工可能線径」との記載がある。

そうすると、甲第6号証には、記載事項(サ)によれば、「スプリングである楕円バネ」が記載されているといえ、記載事項(シ)及び(ス)によれば、「線を加工してスプリングを作製すること」が記載されているといえる。これらの記載事項によれば、甲第6号証には、「線を加工して作製されるスプリングである楕円バネ」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

(4)頒布日について
上述したとおり、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証は、いずれもその頒布日が明らかでなく、本件発明の出願日より前に頒布されたかどうかは明確ではないが、これらの印刷時期、体裁及び内容からみれば、本件発明の出願日より前に頒布された刊行物である蓋然性が高いといえるから、これらに記載された甲2発明、甲5発明及び甲6発明に対する本件発明1ないし10の新規性及び進歩性について、以下に検討する。

5-2.本件発明1について
(1)本件発明1と甲2発明との対比
甲2発明の「1本の線」及び「精蒸溜塔用充填物」は、それぞれ本件発明1の「線状体」及び「充填塔用充填物」に相当する。また、甲2発明の「コイル状に整形した」ものは、本件発明1の「コイル体」に相当し、「コイル」という用語は、線状のものを螺旋状に巻いたものを意味し、等間隔にして巻くことにより、コイルの各一巻単位のそれぞれが略同一形状となることは明らかであるから、甲2発明の「1本の線を、線と線の間を等間隔にして」、「コイル状に整形した」ものは、本件発明1の「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされ」たものに相当するといえる。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされている充填塔用充填物」の発明である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

相違点(a):本件発明1は、コイル体の各一巻単位のそれぞれが「最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とされ」ているのに対して、甲2発明は、「矩角型」に整形されている点。
相違点(b):本件発明1は、歪んだ円形が「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状とされ」ている構成を有するのに対して、甲2発明は、かかる構成を有していない点。
相違点(c):本件発明1は、「各一巻単位は、隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配されている」構成を有するのに対して、甲2発明は、かかる構成を有していない点。

(2)本件発明1と甲5発明との対比
甲5発明の「ワイヤー」及び「線」は、いずれも本件発明1の「線状体」に相当し、「コイル」という用語は、線状のものを螺旋状に巻いたものを意味し、等間隔にして巻くことで、コイルの各一巻単位のそれぞれが略同一形状となることは明らかであるから、甲5発明における「ワイヤーを素材にして、線と線との間を等間隔にして」、「コイル状に巻」いたものは、本件発明1における「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされ」たものに相当する。また、甲5発明における、コイル状に巻いたものの「長さ方向にひねりを加え」ることは、本件発明1における、コイル体の各一巻単位を「隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配」することに相当する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされるとともに、前記各一巻単位は、隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配されている充填塔用充填物」の発明である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

相違点(d):本件発明1は、コイル体の各一巻単位のそれぞれが「最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とされ」ているのに対して、甲5発明は、「短角型ないし矩形型」に整形されている点。
相違点(e):本件発明は、歪んだ円形が「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状とされ」ているの構成を有するのに対して、甲5発明は、かかる構成を有していない点。

(3)本件発明1と甲6発明との対比
甲6発明の「線」は、本件発明1の「線状体」に相当し、甲第6号証の記載事項(サ)及び(シ)の図によれば、甲6発明の「線を加工して作製されるスプリング」は、線を複数巻回して、各一巻単位のそれぞれを略同一形状とされていることが窺えるから、本件発明1の「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされ」たものに相当するといえる。また、甲6発明の「楕円」は、本件発明1の「最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、「線状体を複数巻回することにより形成されたコイル体であって、該コイル体の各一巻単位のそれぞれは、略同一形状とされるとともに、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とされているもの」の発明である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

相違点(f):本件発明1は、歪んだ円形が「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状とされ」ている構成を有するのに対して、甲6発明は、かかる構成を有していない点。
相違点(g):本件発明1は、「各一巻単位は、隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配されている」構成を有するのに対して、甲6発明は、かかる構成を有していない点。
相違点(h):本件発明は「充填塔用充填物」の発明であるのに対し、甲6発明は「バネ」の発明である点。

(4)相違点の検討
上記相違点(a)ないし(h)のうち、相違点(b)、(e)及び(f)は、甲2発明、甲5発明及び甲6発明において共通する本件発明1との相違点(以下、「共通相違点」という。)といえるから、この点について以下検討する。

まず、甲2発明の「矩角型」及び甲5発明の「短角型ないし矩形型」についてみると、「矩角型」及び「短角型」という用語は、一般的な用語でないことから、どのような形状を意味するのか必ずしも明確ではないが、「矩」という文字は直角を意味し、「角」という文字は1点に発する二つの半直線のなす図形を意味するものであり、甲2発明及び甲5発明は、いずれも「コイル状に整形した」ものであることから、甲2発明の「矩角型」及び甲5発明の「短角型」は、いずれも矩形又は角部が丸みを帯びた矩形を意味するものと解釈できる。この解釈は平成20年5月19日に実施された口頭審理において、請求人及び被請求人の双方に確認し了承された事項であり、当事者間に争いのない事項である(第1回口頭審理調書を参照)。この解釈によれば、甲2発明の「矩角型」及び甲5発明の「短角型ないし矩形型」は、いずれも矩形に類する形状といえることから、相対向して配置された辺が二対と、これらの辺の間に位置させられる4つの角部を有する形状といえる。
次に、甲6発明の「楕円」についてみると、甲第6号証の記載事項(サ)及び(シ)の図に「楕円バネ」の形状が記載されており、この図を見ると、甲6発明の「楕円」は、相対向して配置された一対の直線部分と、これら直線部分の間に曲線部分を有する形状であることが看取できる。
そうすると、甲2発明の「矩角型」、甲5発明の「短角型ないし矩形型」及び甲6発明の「楕円」は、いずれも共通相違点にかかる本件発明1の「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状」と明らかに異なる形状といえるから、甲2発明、甲5発明又は甲6発明が、共通相違点にかかる本件発明1の構成を、実質的に有しているとはいえない。
そして、本件発明1は、共通相違点にかかる構成を有することにより、本件特許の明細書に記載されている「角部を有する角形に比べて、より最密かつ均一に充填することができる」(段落【0043】)という効果を奏するものと解することができるが、この点について、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証には何らの記載もないことから、甲2発明、甲5発明及び甲6発明を組み合わせても、共通相違点にかかる本件発明1の構成を当業者が容易に導き出せるとはいえない。
したがって、本件発明1と、甲2発明、甲5発明又は甲6発明とに、少なくとも共通相違点があり、この共通相違点にかかる本件発明1の構成は、当業者が容易に導き出せるものといえないことから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明、甲5発明又は甲6発明と同一ということはできず、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(5)請求人の主張の検討
請求人は、上述した共通相違点に関し、審判請求書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、以下の主張をしている。
(あ)「甲第5号証に示す充填物であるヘリパックは『後期ヘリパック』であって、『短角形のコイル状』のヘリパックを意図して製造したものであるが、本件特許発明の出願時以前に発行された、この甲第5号証には、製造のバラツキから発生した製品として、本件特許発明と同一の製品が記載されているものである。」(審判請求書第11頁第下から3行?第12頁第2行)
(い)「請求人は『短角型のコイル状』のヘリパックの製造販売を、少なくとも本件特許出願日である1999年7月27日の前、1993年1月以前から現在まで行っているが、この『短角型のコイル状』のヘリパックの製造販売を開始する以前は、『歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状』を備えたヘリパック(以後区別のため前期ヘリパックという)を販売していたものである。・・・・・・請求人は『充填塔用充填物』の性能向上のために、本件特許発明と同一構成の『前期ヘリパック』を『短角型のコイル状』に変更したものである。」(審判請求書第12頁第4?同第13頁第1行)
(う)「甲第2号証の1の丸印I?III及び甲第5号証の1の丸印、VVIには、『歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部』が記載され且つ『これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部』が記載されていることは明らかである。」(審判請求書第14頁第8?12行)
(え)「甲第2号証の『ナニワパック』の写真を当業者の注意力では当然であるが、一般人の視点で見た場合でも『コイル体の各一巻単位を、歪んだ円形にし、かつ、この歪んだ円形を、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状としたものである』事は極めて明白である。」(口頭審理陳述要領書第4頁第1?7行)
(お)「甲第5号証に記載の発明も本件特許発明も技術目的を全く同一とする『充填塔用充填物』であって、しかもこの甲第5号証に本件特許発明と同一又は極めて近似したものが記載されているのであるから、甲第5号証に記載の『充填塔用充填物』が偶然的に生じたものであるか否かはともかくとして、甲第5号証に記載の『充填塔用充填物』を当業者が知見することによって、十分な動機付けとなり、本件特許発明を発明することが極めて容易であることは多言を要しないものである。」(口頭審理陳述要領書第8頁第10?18行)
(か)「甲第5号証の2を精査すれば、コイルの開口部側の端面が確認でき、曲線部の曲率が判断できるものが16個存在し、この16個中の1、3、4、5、6、7、10、11、16に『該歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部』を確認することができる。」(上申書第4頁下から4行?同第5頁第3行)
(き)「この甲第5号証の2に表示されたヘリパックは、本来『矩形型』のコイルを形成することを意図して成型したものであるが、それでもスプリングバックの発生や、塑性変形しきれずに弾性変形が生じたため、上記、16個中から1、3、4、5、6、7、10、11、16が発生したものである。」(上申書第5頁第10?14行)
(く)「この甲第5号証の50%以上で発生している『曲線部』を見て、『該歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部』を形成することは当業者に於いて極めて容易なものである。」(上申書第5頁下から6?1行)

そこで、甲第2号証記載事項(ウ)の「ナニワパック」の写真及び甲第5号証記載事項(キ)の「ヘリパック」の写真を、それらを拡大した甲第2号証の1、甲第5号証の1及び2を参照して見てみると、請求人が甲第2号証の1に丸印I?IIIを記入した部分、甲第5号証の1に丸印V及びVIを記入した部分ならびに甲第5号証の2に1?16の番号を付した部分の一部に、共通相違点にかかる本件発明1の「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状」を有するものが写っていると見られなくもない。
しかしながら、上記各写真に写っている「ナニワパック」及び「ヘリパック」は、それぞれ甲2発明及び甲5発明の充填物といえるから、写っている充填物の大半は、甲2発明の「矩角型」又は甲5発明の「短角型ないし矩形型」のものといえ、コイル体の各一巻単位が矩形又は角部が丸みを帯びた矩形のものと認められる。そして、上述したとおり、甲2発明の「矩角型」又は甲5発明の「短角型ないし矩形型」は、共通相違点にかかる本件発明1の「相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状」と明らかに異なる形状といえることから、上記各写真に写っている多数の充填物のうち、共通相違点にかかる本件発明1の構成を有すると見ることができるものは、一部のものというべきである。また、請求人が主張するとおり、甲第5号証の2の1、3、4、5、6、7、10、11、16の部分に「曲線部」を有するものが写っているとしても、これらの全てが、共通相違点にかかる本件発明1の構成を有すると見ることはできない。これらのことに照らせば、上記各写真に、共通相違点にかかる本件発明1の構成を有する充填物が写っているとしても、その充填物は、上記(あ)及び(き)の主張にもあるように、製造のバラツキから偶然的に発生したものと認められ、このような明らかに異なる形状の充填物は、通常、不良品として認識されるものといえる。
そうすると、本件発明1、甲2発明及び甲5発明の充填物は、いずれも1個だけで用いられるものではなく、多数個で用いられることにより、充填物として機能するものであることは自明であり、たとえ、甲2発明又は甲5発明の充填物に共通相違点にかかる本件発明1の構成を有するものが一部含まれているとしても、その一部の充填物は製造のバラツキにから偶然的に発生したものであって、他の大半の充填物は本件発明1の充填物と共通相違点を有するといえることから、甲2発明又は甲5発明が、共通相違点にかかる本件発明1の構成を有するということはできない。
また、たとえ、甲第2号証又は甲第5号証の上記各写真に、共通相違点にかかる本件発明1の構成を有する充填物が写っているとしても、その充填物は、上述したとおり、甲第2号証又は甲第5号証において不良品と認識されるものであるから、不良品と認識される充填物の構成を、甲2発明、甲5発明又は甲6発明に採用することには阻害要因があるというべきであり、このような充填物の構成に基づいて、本件発明1を当業者が容易に想到し得るとはいえない。
なお、上記(い)における、「前期ヘリパック」が、上記共通相違点にかかる本件発明1の「歪んだ円形が、相対向して配置された所定の曲率半径を有する一対の曲線部と、これら曲線部間に位置させられるとともに、前記所定の曲率半径より小さい曲率半径を有する一対の屈曲部と、からなる形状」を備えるという主張に関して、「前期ヘリパック」の形状を明らかにする証拠は何ら示されておらず、この主張を採用することはできない。

また、請求人は、本件発明1の効果に関して、甲第8号証及び甲第9号証を示し、口頭審理陳述要領書及び上申書において、以下の主張をしている。
(け)「本件発明のコイルスプリングがヘリパックパッキングより流路抵抗が低くなる事実を示す気体流量(・・・)と圧力損失を表す比較データが全く欠如しているだけでなく、甲第1号証の明細書の記載からは、理論段数も必ずも大きくなる事が証明されていない。充填物の性能は理論段数と最適操作速度の総合的性能で有効性を判断するべきもので理論段数のみで判断しようとすることは間違いである。・・・ヘリパックパッキングよりも本件特許発明のコイルスプリングが優れた技術効果を有し進歩性があるとの主張は根拠がない」(口頭審理陳述要領書第16頁第2?12行)
(こ)「『充填塔用充填物』において、『理論段数』と『圧力損失』とはどちらが優れていれば良いというものではなく、両者は一体不可分のものであって、その一方のみから優れた『充填塔用充填物』であるとか、優れていないとか言うことはできないものである。その両事項の実施例が示されて初めて優劣を論じることが可能となるものである。・・・その両方の特性において優れた技術的効果を奏することが甲第1号証明細書に記載されていなければ、本件特許発明の技術効果を主張することは不可能である」(上申書第12頁第16行?同第13頁第4行)

しかしながら、請求人が主張するように、充填塔用充填物には、理論段数と一体不可分の圧力損失等の性能があり、その優劣は総合的に判断するべきものであるとしても、充填塔用充填物において、理論段数は、その性能を示す指標の1つであり、その値は大きい方が好ましく、「より最密かつ均一に充填することができる」ことによって、理論段数を大きくし得ることは、当業者にとって明らかなことである。
そうすると、本件特許の明細書には、本件発明1が共通相違点にかかる構成を有することにより、「より最密かつ均一に充填することができる」という、理論段数を大きくし得る効果について記載されているといえるから、この理論段数以外の性能について記載されていないというだけでは、本件発明1の効果を否定することはできない。

したがって、共通相違点及び効果に関する、請求人の上記主張は、いずれも採用することができない。また、請求人のその他の主張及び証拠方法をみても、上述した判断を覆すだけの理由は見あたらない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するものといえず、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものともいえない。

5-3.本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1の発明特定事項をすべて有するとともに、さらに、限定事項を付加したものであるから、本件発明2ないし8も、上記「5-2.本件発明1について」で述べた理由と同様の理由により、甲2発明、甲5発明又は甲6発明と同一ということはできず、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
また、請求人の本件発明2ないし8についての主張は、本件発明1が、甲2発明、甲5発明又は甲6発明と同一であるか、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという前提においてなされたものであるから採用することはできない。
したがって、本件発明2ないし8は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。

5-4.本件発明9について
本件発明9は、「充填塔用充填物の製造方法」の発明であり、「コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とし、前記押圧を解いて、スプリングバックにより、前記各一巻単位を隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配する」という構成を有するものである。
そこで、本件発明9の上記構成における「各一巻単位を隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配する」点についてみると、上記「5-2.本件発明1について」の「(2)本件発明1と甲5発明との対比」で述べたとおり、甲5発明における、コイル状に巻いたものの「長さ方向にひねりを加え」ることは、「各一巻単位を隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配する」ことに相当するが、この「長さ方向にひねりを加え」ることを「コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して」、「前記押圧を解いて、スプリングバックにより」行うことは、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証のいずれにも記載されていない。
そして、本件発明9は、上記構成を有することにより、本件明細書に記載されている「コイルスプリングに対して壁部を接近、押圧変形し、離間させるといった一連の動作でねじれた形状のコイルスプリングを簡便に製造することが可能となる」(段落【0045】)という効果を奏するものといえ、この点についても、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証には何らの記載もない。
この点に関して、請求人は、審判請求書において、以下の主張をしている。
(さ)「一定の形状を備えた物品を、この物品の一方から塑性変形が生じる力で押圧することにより、この物品に元の形状に比較して歪んだ形状とすることは本件出願前から公知の手法である。この公知の手法を用いて『コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形と』することは、請求項1に記載した公知の充填塔用充填物を製造する方法として、証拠を示すまでもなく当業者に於いて自明の事項である。」(第20頁第1?8行)
(し)「『スプリングバック』と言う現象は少なくとも当業者に於いては周知の現象であり、・・・このスプリングバックの現象を利用することにより、コイルスプリングの各一巻単位を隣り合う一巻単位に対して同一周回方向に順次位置をずらして配することは必然的に発生することであって、証拠を示すまでもなく当業者に於いて自明の事項である。」(第20頁第14?23行)
(す)「請求項9の構成要件は、甲第2号証及び甲第5号証に記載されている何等の新規性進歩性もない充填塔用充填物を製造する充填塔用充填物の製造方法であって、この製造方法もコイルスプリングの製造方法としては従来公知のものである。この公知の製造方法を単に公知の充填塔用充填物の製造方法に転用したに過ぎない」(第20頁下から3行?第21頁第2行)

しかしながら、請求人が主張するとおり、「一定の形状を備えた物品を、この物品の一方から塑性変形が生じる力で押圧することにより、この物品に元の形状に比較して歪んだ形状とすること」が、本件出願前から公知の手法であるとしても、この公知の手法を、コイルスプリングに用いることは、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証のいずれにも記載されておらず、前記公知の手法に限らず、例えば、断面が歪んだ円形の芯に線状体を螺旋状に巻くなど、他の手法によっても、コイルスプリングの各一巻単位を歪んだ円形とし得ることは、当業者にとって明らかであるから、本件発明9における「コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形と」することが、当業者にとって自明の事項とまではいえない。
そして、本件発明9における「スプリングバック」は、「コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形とし、前記押圧を解」くことにより生ずる現象であるところ、上述したとおり、「コイルスプリングの軸線方向から見て、一の対向する線状部を径方向に押圧して、該コイルスプリングの各一巻単位を、最大径の方向を規定する長軸と、最小径の方向を規定する短軸とを有する歪んだ円形と」することは、甲第2号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載されておらず、自明の事項ともいえないことから、たとえ、「スプリングバック」という現象自体が周知の現象であるとしても、本件発明9における「スプリングバック」により、「ねじれた形状のコイルスプリングを簡便に製造することが可能となる」ことは、当業者にとって自明の事項とまでいえず、当業者が容易に想到し得たことであるということもできない。
また、請求人の上記主張は、本件発明1が公知であるという前提においてなされたものであるが、上記「5-2.本件発明1について」で述べたとおり、本件発明1は公知とはいえないから、上記主張を採用することはできない。
そうすると、本件発明9は、甲第2号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明と同一ということはできず、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
したがって、本件発明9は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。

5-5.本件発明10について
本件発明10は、本件発明9の発明特定事項をすべて有するとともに、さらに、限定事項を付加したものであるから、本件発明10も、上記「5-4.本件発明9について」で述べた理由と同様の理由により、甲第2号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明と同一ということはできず、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
また、請求人の本件発明10についての主張は、本件発明9が、甲第2号証、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明と同一であるか、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという前提においてなされたものであるから採用することはできない。
したがって、本件発明10は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。

5-6.まとめ
よって、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし10は、特許法第29条第1項3号に該当するか、又は、同条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとの理由は見当たらないから、請求人が主張する無効理由には理由がない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-25 
審決日 2008-07-08 
出願番号 特願平11-212938
審決分類 P 1 113・ 113- Y (B01J)
P 1 113・ 121- Y (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 森 健一
板橋 一隆
登録日 2007-02-23 
登録番号 特許第3918037号(P3918037)
発明の名称 充填塔用充填物およびその製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 特許業務法人銀座総合特許事務所  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 西 和哉  
代理人 高橋 詔男  

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