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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1183544
審判番号 不服2004-6332  
総通号数 106 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-31 
確定日 2008-08-27 
事件の表示 特願2000-136439「ポートフォリオの資産配分決定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月12日出願公開、特開2001-282993〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成12年3月31日の出願であって、平成15年9月17日付で拒絶理由が通知され、平成15年11月28日付で意見書の提出とともに手続補正がなされたが、平成16年2月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年3月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年4月30日付で手続補正がなされたものである。


2.平成16年4月30日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成16年4月30日付の手続補正を却下する。

[理由]
2-1.補正についての審判請求人の主張の概要
平成16年4月30日付の手続補正(以下「本件補正」という。)の内容についての審判請求人の主張の概要は、審判請求書の記載からみて、以下のとおりである。
「補正前の各請求項に係る発明の構成上、リバランスタイミングの判断に関する記載が明瞭でなかったことを考慮し、『リバランスタイミング判断手段』を新たに構成要素として付加するとともに関連する記載を補正することにより各請求項に係る発明を実質的に減縮。」
「請求項1、請求項2、請求項3及び請求項4については『該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク非連動性資産投資額と、該ベンチマーク連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク連動性資産投資額とを、リバランスのための決定された資産配分として出力する出力手段』を構成要素として付加。」
「請求項7、請求項8、請求項10及び請求項11については『上記ステップで演算されたベンチマーク非連動性資産投資額と、上記ステップで演算されたベンチマーク連動性資産投資額とを、リバランスのための決定された資産配分として出力するステップ』を構成要素として付加。」
「補正前の各請求項に記載された発明は、情報処理システムあるいは情報処理方法としての構成が不明瞭であったため、出力手段または出力するステップを構成要素として付加することにより、請求の範囲を減縮すると共に、発明の構成を明瞭にした。」

2-2.補正の内容
上記審判請求人の主張及び本件補正前と本件補正後の特許請求の範囲の各請求項の記載からみて、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項1を補正したものと認められる。

本件補正により請求項1は、本件補正前の、
「時間の経過と共に価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとして資金運用するために用いるポートフォリオ資産配分決定システムであって、
資産クラス情報とリバランス情報と過去の運用実績とを含むポートフォリオに関する情報を記憶する資産データ記憶手段と、
マーケットの動きに連動して逐次更新される資産運用に必要なマーケットデータを記憶するマーケットデータ記憶手段と、
該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報に基づきt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値(Pt)演算手段と、
該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づき確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値を下記の式から求めるフロア-(Ft)演算手段と、
該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から、該フロア-(Ft)演算手段により演算されたフロア-の値(Ft)を減じてクッション(Ct)の値を求めるクッション(Ct)演算手段と、
該クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求めるベンチマーク非連動性資産投資額演算手段と、
該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段によって演算されたベンチマーク非連動性資産投資額を、該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から減じてベンチマーク連動性資産への投資額を求めるベンチマーク連動性資産投資額演算手段と
を有し、演算されたベンチマーク非連動性資産投資額とベンチマーク連動性資産投資額とからリバランスのための資産配分を決定するポートフォリオ資産配分決定システム。
Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
f3(Mt) :γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
Mt :Max{Ps-Bs,0≦s≦t}
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
e^(rt) :安全利子率(r)による連続複利運用
α、β、γ、δ:定数あるいは変数
t :時間 」

から、本件補正後の、

「時間の経過と共に価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとして資金運用するために用いるポートフォリオ資産配分決定システムであって、
資産クラス情報とリバランス情報と過去の運用実績とを含むポートフォリオに関する情報を記憶する資産データ記憶手段と、
マーケットの動きに連動して逐次更新される資産運用に必要なマーケットデータを記憶するマーケットデータ記憶手段と、
該資産データ記憶手段に記憶されたリバランス情報を呼び出してリバランスタイミング時点か否かを判断するリバランスタイミング判断手段と、
該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報を呼び出してt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値Pt演算手段と、
該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値Btを含むt時点までに蓄積されたマーケットデータと該資産データ記憶手段に蓄積された資産データとを呼び出して、t時点で確保されるべきポートフォリオの価値であるフロアーFtの値を下記の式から求めるフロア-Ft演算手段と、
該ポートフォリオの価値Pt演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値Ptから、該フロア-Ft演算手段により演算されたフロア-の値Ftを減じてクッションCtの値を求めるクッションCt演算手段と、
該クッションCt演算手段により求めたクッションCtの値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求めるベンチマーク非連動性資産投資額演算手段と、
該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段によって演算されたベンチマーク非連動性資産投資額を、該ポートフォリオの価値Pt演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値Ptから減じてベンチマーク連動性資産への投資額を求めるベンチマーク連動性資産投資額演算手段と、
該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク非連動性資産投資額と、該ベンチマーク連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク連動性資産投資額とを、リバランスのための決定された資産配分として出力する出力手段と、
を有する、ポートフォリオ資産配分決定システム。
Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-αをはじめとする、t時点におけ
るベンチマークの価値Btの関数。αは定数。
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))をはじめとする、tの関
数。βは定数。e^(rt)は安全利子率rによる連続複
利運用。
f3(Mt) :γMt、Mt-γをはじめとする、Mtの関数で
あり、Mtは、Max{Ps-Bs,0≦s≦t
}。すなわち、Mtは、t時点までにおけるポー
トフォリオの価値とベンチマークの価値との差の
最大値。γは定数。
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))をはじめとする、tの関
数。δは定数。e^(rt)は安全利子率rによる連続複
利運用。
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
t :時間 」

と補正された。


2-3.当審の判断

(1)補正の目的について
本件補正は、特許法第17条の2第1項第4号の規定に基づき、特許請求の範囲についてする補正を含むものであるから、その補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないだけでなく、同条第4項第1号(請求項の削除)、第2号(特許請求の範囲の減縮)、第3号(誤記の訂正)及び第4号(明りょうでない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものに限られる。
そこで、特許請求の範囲についてする本件補正が、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものであるか否かについて検討する。

(2)本件補正について
本件補正は請求項1について以下の補正を含む。
(ア)「マーケットデータ記憶手段」の後「ポートフォリオの価値演算手段」の前に「該資産データ記憶手段に記憶されたリバランス情報を呼び出してリバランスタイミング時点か否かを判断するリバランスタイミング判断手段」を追加する補正。
(イ)「該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報に基づきt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値(Pt)演算手段」を、「該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報を呼び出してt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値Pt演算手段」とする補正。
(ウ)「該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づき確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値を下記の式から求めるフロア-(Ft)演算手段」を、「該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値Btを含むt時点までに蓄積されたマーケットデータと該資産データ記憶手段に蓄積された資産データとを呼び出して、t時点で確保されるべきポートフォリオの価値であるフロアーFtの値を下記の式から求めるフロア-Ft演算手段」とする補正。
(エ)「ベンチマーク連動性資産投資額演算手段」の後に「該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク非連動性資産投資額と、該ベンチマーク連動性資産投資額演算手段により演算されたベンチマーク連動性資産投資額とを、リバランスのための決定された資産配分として出力する出力手段」を追加し、「を有し、演算されたベンチマーク非連動性資産投資額とベンチマーク連動性資産投資額とからリバランスのための資産配分を決定するポートフォリオ資産配分決定システム。」を「を有する、ポートフォリオ資産配分決定システム。」とする補正。
(オ)「 Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
f3(Mt) :γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
Mt :Max{Ps-Bs,0≦s≦t}
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
e^(rt) :安全利子率(r)による連続複利運用
α、β、γ、δ:定数あるいは変数
t :時間」
を、
「Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-αをはじめとする、t時点におけ
るベンチマークの価値Btの関数。αは定数。
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))をはじめとする、tの関数
。βは定数。e^(rt)は安全利子率rによる連続複利
運用。
f3(Mt) :γMt、Mt-γをはじめとする、Mtの関数で
あり、Mtは、Max{Ps-Bs,0≦s≦t
}。すなわち、Mtは、t時点までにおけるポー
トフォリオの価値とベンチマークの価値との差の
最大値。γは定数。
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))をはじめとする、tの関数

δは定数。e^(rt)は安全利子率rによる連続複利運
用。
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
t :時間 」
とする補正。

(3)本件補正の目的について

(3-1)特許法第17条の2第4項第1号(請求項の削除)
本件補正は補正前と補正後の特許請求の範囲の記載からみて請求項の削除にはあたらないことから、本件補正は「請求項の削除」を目的とするものではない。

(3-2)特許法第17条の2第4項第2号(特許請求の範囲の減縮)
特許請求の範囲の補正が、特許法第17条の2第4項第2号に該当するためには、補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の限定であることが必要である。
本件補正の(ア)の「リバランスタイミング時点か否かを判断するリバランスタイミング判断手段」を追加する補正、及び(エ)の補正のうち「リバランスのための決定された資産配分として出力する出力手段」を追加する補正は、いずれも補正前の請求項には記載されていない「リバランス」に関する新たな手段を追加するものであり、補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の限定にはあたらないことから、当該補正は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。

(3-3)特許法第17条の2第4項第3号(誤記の訂正)
特許請求の範囲の補正が「誤記の訂正」であるためには、「本来その意であることが明らかな字句・語句の誤りを、その意味内容の字句・語句に正す」ことであるから、本件補正は「誤記の訂正」を目的とするものではない。

(3-4)特許法第17条の2第4項第4号(明りょうでない記載の釈明)
特許法第17条の2第4項第4号は「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しており、「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正は、拒絶理由中で特許請求の範囲が明りょうではない旨を指摘した事項について、その記載を明りょうにする補正を行う場合に限られる。
原審の審査官が拒絶理由中で明りょうではない旨を指摘したのは「演算手段」についてのみであることから、「『リバランスタイミングの判断』に関する記載が明りょうでなかったこと」から補正する本件補正の、(ア)の「リバランスタイミング判断手段」を追加する補正、(イ)の「該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に」を追加する補正、(ウ)の「該リバランスタイミング判断手段がリバランスタイミングと判断した時に」を追加する補正は、いずれも「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではない。

(3-5)前記摘記事項(ア)の補正の目的
以上のことから本件補正のうち請求項1に係る補正の前記摘記事項(ア)の補正は特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれをも目的とするものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであることから、本件補正は特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明

平成16年4月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年11月28日付の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「時間の経過と共に価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとして資金運用するために用いるポートフォリオ資産配分決定システムであって、
資産クラス情報とリバランス情報と過去の運用実績とを含むポートフォリオに関する情報を記憶する資産データ記憶手段と、
マーケットの動きに連動して逐次更新される資産運用に必要なマーケットデータを記憶するマーケットデータ記憶手段と、
該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報に基づきt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値(Pt)演算手段と、
該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づき確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値を下記の式から求めるフロア-(Ft)演算手段と、
該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から、該フロア-(Ft)演算手段により演算されたフロア-の値(Ft)を減じてクッション(Ct)の値を求めるクッション(Ct)演算手段と、
該クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求めるベンチマーク非連動性資産投資額演算手段と、
該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段によって演算されたベンチマーク非連動性資産投資額を、該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から減じてベンチマーク連動性資産への投資額を求めるベンチマーク連動性資産投資額演算手段と
を有し、演算されたベンチマーク非連動性資産投資額とベンチマーク連動性資産投資額とからリバランスのための資産配分を決定するポートフォリオ資産配分決定システム。
Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
f3(Mt) :γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
Mt :Max{Ps-Bs,0≦s≦t}
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
e^(rt) :安全利子率(r)による連続複利運用
α、β、γ、δ:定数あるいは変数
t :時間」


4.原査定の拒絶の理由
平成15年9月17日付の拒絶理由通知に示された特許法第36条第6項第2号に関する拒絶の理由(以下「理由1」という。)及び特許法第29条第1項柱書に関する拒絶の理由(以下「理由2」という。)の概要は、以下のとおりである。
「 A.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1?9のポートフォリオ資産配分決定システムの備える「ベンチマーク追従型資産配分演算手段」は、資産データ記憶手段、マーケットデータ記憶手段や資産データ入力手段、マーケットデータ入力手段に記憶され、または入力されたデータに基づき、資産配分や損失許容範囲を演算するとしているが、単にデータに基づいて演算するとするのみでは、演算に用いるデータと、求めるべき結果のデータとが何らかの関係を有していることを特定している以上のものとは認められず、コンピュータのソフトウエアによる情報処理として具体的でないから、そのような「演算手段」を備えるポートフォリオ資産配分決定システムも発明として不明確である。
請求項10?12のポートフォリオ資産配分決定方法、請求項13,14のポートフォリオ資産配分決定プログラムを記録した記録媒体も同様の理由により発明として不明確である。
よって、請求項1?14に係る発明は明確でない。

B.この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。

「請求項1?14」
請求項1?9のポートフォリオ資産配分決定システムの備える「ベンチマーク追従型資産配分演算手段」は、資産データ記憶手段、マーケットデータ記憶手段や資産データ入力手段、マーケットデータ入力手段に記憶され、または入力されたデータに基づき、資産配分や損失許容範囲を演算するとしているが、単にデータに基づいて演算するとするのみでは、演算に用いるデータと、求めるべき結果のデータとが何らかの関係を有していることを特定している以上のものとは認められず、コンピュータのソフトウエアによる情報処理として具体的でないから、そのような「演算手段」を備えるポートフォリオ資産配分決定システムは、全体としても、自然法則を利用した技術的思想の創作であることを要件とする特許法上の発明に該当しない。
請求項10?12のポートフォリオ資産配分決定方法、請求項13,14のポートフォリオ資産配分決定プログラムを記録した記録媒体も同様の理由により特許法上の発明に該当しない。 」

また、平成16年2月19日付の拒絶査定の理由1及び理由2に係る備考の概要は以下のとおりである。
「 『理由A、Bについて』
出願人は意見書において、請求項1?11に記載の発明は、演算に用いるデータと、そのデータを用いて求めるべき結果を得るまでのコンピュータのソフトウエアによる情報処理を具体的にそれぞれの構成要件として記載したため、拒絶理由Aおよび拒絶理由Bは解消した旨主張している。
しかしながら、例えば、補正された請求項1の「ポートフォリオ資産配分決定システム」において、「フロアー演算手段」は、「t時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づきポートフォリオの価値であるフロアー(Ft)の値を下記の式から求める」とはあるものの、「下記の式から求める」「フロアーの値」は、ベンチマークの価値と、ポートフォリオの価値とベンチマークの価値の差の最大値の何らかの関数によって計算される以上の具体的な式を特定しているものではなく、請求項1の「ポートフォリオ資産配分決定システム」によって決定される「ベンチマーク非連動性資産投資額」と「ベンチマーク連動性資産投資額」も、その計算の途中で、フロアーの値や、クッションの値などの算出をしてはいるものの、結果的にポートフォリオの価値とベンチマークの価値を用い、何らかの演算をすることにより「ベンチマーク非連動性資産投資額」と「ベンチマーク連動性資産投資額」決定するという以上の事項を特定しているものとは認められない。
そして、これらの「演算手段」は、コンピュータのソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現された技術的な手段として特定しているものとも認められないから、請求項1の「ポートフォリオ資産配分決定システム」は、依然として明確でなく、また、自然法則を利用した技術的思想の創作ではない。
請求項2?11についても同様である。 」


5.当審の判断

5-1.【理由1(特許法第36項第6項第2号)について】

(1)請求項1に係る発明を分説して示すと、以下のとおりである。

(ア)時間の経過と共に価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとして資金運用するために用いるポートフォリオ資産配分決定システムであって、
(イ)資産クラス情報とリバランス情報と過去の運用実績とを含むポートフォリオに関する情報を記憶する資産データ記憶手段と、
(ウ)マーケットの動きに連動して逐次更新される資産運用に必要なマーケットデータを記憶するマーケットデータ記憶手段と、
(エ)該資産データ記憶手段に記憶された資産クラス情報に基づきt時点でのポートフォリオの価値を演算するポートフォリオの価値(Pt)演算手段と、
(オ)該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づき確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値を下記の式から求めるフロア-(Ft)演算手段と、
(カ)該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から、該フロア-(Ft)演算手段により演算されたフロア-の値(Ft)を減じてクッション(Ct)の値を求めるクッション(Ct)演算手段と、
(キ)該クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求めるベンチマーク非連動性資産投資額演算手段と、
(ク)該ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段によって演算されたベンチマーク非連動性資産投資額を、該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から減じてベンチマーク連動性資産への投資額を求めるベンチマーク連動性資産投資額演算手段とを有し、
(ケ)演算されたベンチマーク非連動性資産投資額とベンチマーク連動性資産投資額と
からリバランスのための資産配分を決定するポートフォリオ資産配分決定システム。
(コ)Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
f3(Mt) :γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
Mt :Max{Ps-Bs,0≦s≦t}
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
e^(rt) :安全利子率(r)による連続複利運用
α、β、γ、δ:定数あるいは変数
t :時間

(2)ここで、「ポートフォリオ資産配分決定システム」は、「演算されたベンチマーク非連動性資産投資額とベンチマーク連動性資産投資額とからリバランスのための資産配分を決定する」ものであり、「ベンチマーク非連動性資産への投資額」は、前記摘記事項(イ)、(ウ)の各「記憶手段」に記憶された情報に基づき、前記摘記事項(エ)乃至(キ)に記載された各「演算手段」の全体により求めるものである。

(3)当該各「演算手段」のうち、前記摘記事項(オ)の「フロア-(Ft)演算手段」の記載が明確であるのか以下に検討する。
前記摘記事項(コ)の記載によれば、フロア-(Ft)は、
「Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)」
なる演算から求まるものである。
ここで、
Btは「t時点におけるベンチマークの価値」と、
Ptは「t時点におけるポートフォリオの価値」と、
Mtは「Max{Ps-Bs,0≦s≦t}」と、
e^(rt)は「安全利子率(r)による連続複利運用」と、
tは「時間」と
それぞれ定義される。
一方、
f1(Bt)は「αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数」と、
f2(t)は「βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数」と、
f3(Mt)は「γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数」と、
f4(t)は「δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数」と
されており、α、β、γ、δはそれぞれ「定数あるいは変数」とされている。
してみると、Ftを演算するためのf1(Bt)、f2(t)、f3(Mt)、f4(t)は、それぞれ少なくとも複数の関数のうちいずれか一の関数を使用するものであり、さらに各関数で用いられるα、β、γ、δも、それぞれ少なくとも何らかの定数あるいは変数を使用するものであるところ、どのような場合に、どのような関数、定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されるのかが特定されていないことから、「フロア-(Ft)演算手段」は、Bt、Pt、Mt、e^(rt)、tを用いて何らかの演算をすることが特定されるにとどまる。

(4)当該各「演算手段」のうち、(キ)の「ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段」の記載が明確であるのか以下に検討する。
前記摘記事項(キ)によれば、「t時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額」は、「クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値」に「任意の定数あるいは変数」を「掛け」て求めるものである。
してみると、「t時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額」は、「クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値」に、少なくとも何らかの定数あるいは変数を使用し、これを掛けて求めるものであるところ、どのような場合に、どのような定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されるのかが特定されていないことから、「ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段」はクッション(Ct)を用いて何らかの演算をすることが特定されるにとどまる。

(5)してみると、前記摘記事項(エ)乃至(キ)に記載された各「演算手段」の全体で求める「ベンチマーク非連動性資産への投資額」は、前記摘記事項(オ)及び(キ)に記載される「フロア-(Ft)演算手段」及び「ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段」の両「演算手段」をその一部として含むことから、各「演算手段」の全体として、前記摘記事項(イ)、(ウ)の各「記憶手段」に記憶された情報を用いて何らかの演算をすることにより「ベンチマーク非連動性資産への投資額」を求めることが特定されているにとどまるものであり、「記憶手段」に記憶された情報をどのような演算手段でどのように演算することにより各投資額を求めるのか明確ではない。

(6)以上のとおりであることから、請求項1に係る発明の記載は明確ではなく、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


5-2.【理由2(特許法第29条第1項柱書)について】

請求項1に係る発明の「ポートフォリオ資産配分決定システム」は、発明の詳細な説明の記載からみて、コンピュータシステムが行うものであり、請求項1に係る発明を実施するためにはソフトウエアを必要とするので、請求項1に係る発明はいわゆるコンピュータ・ソフトウエア関連発明である。こうしたコンピュータ・ソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって所定の技術的課題を解決できるような特有な構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
そして、請求項1に係る発明は、「時間の経過と共にその価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとした資金運用において、対ベンチマークでの収益を狙いつつ、同時に対ベンチマークでの損失を特定の範囲内に抑える運用手法を提供する」こと、さらにこれを「コンピュータを用いることにより効率的に実行」するという技術的課題を解決しようとするものであって、技術的課題の解決手段の根拠となるべき要部は、上記5-1.(1)にて分説して示したとおりのものである。

そこで、これらの各手段について、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているといえるかどうか、つまり、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工(以下、「情報処理」という。)を実現することにより、使用目的に応じた特有の動作方法が構築されているといえるかどうかを、以下に検討する。

(オ)には、「該マーケットデータ記憶手段に記憶されたt時点におけるベンチマークの価値(Bt)に基づき確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値を下記の式から求めるフロア-(Ft)演算手段」と記載されており、下記の式として
(コ)
「Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)
但し、f1(Bt) :αBt、Bt-α、をはじめとするBtの関数
f2(t) :βt、β(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
f3(Mt) :γMt、Mt-γ、をはじめとするMtの関数
f4(t) :δt、δ(1-e^(rt))、をはじめとするtの関数
Mt :Max{Ps-Bs,0≦s≦t}
Bt :t時点におけるベンチマークの価値
Pt :t時点におけるポートフォリオの価値
e^(rt) :安全利子率(r)による連続複利運用
α、β、γ、δ:定数あるいは変数
t :時間 」
が記載されている。
ここで「フロア-(Ft)演算手段」は「t時点におけるベンチマークの価値(Bt)」から「確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値」を求めることとしているが、Ftを演算するためのf1(Bt)、f2(t)、f3(Mt)、f4(t)は、それぞれ少なくとも複数の関数のうちいずれか一の関数を使用するものであり、さらに各関数に用いられるα、β、γ、δも、それぞれ少なくとも何らかの定数あるいは変数を使用するものであるところ、どのような場合に、どのような関数、定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されるのかが特定されておらず、仮にこれらが特定されたとしても、「確保されるべきポートフォリオの価値であるフロア-(Ft)の値」を求めるために、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働したどのような具体的手段を用いて、どのような情報を具体的にどのように情報処理してコンピュータに行わせることにより実現されるのかが、具体的に特定されていない。

(キ)には、「該クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求めるベンチマーク非連動性資産投資額演算手段」と記載されており、「t時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額」は、「クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値」に「任意の定数あるいは変数」を「掛け」て求めるものである。
してみると、「t時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額」は、「クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値」に、少なくとも何らかの定数あるいは変数を使用し、これを掛けて求めるものであるところ、どのような場合に、どのような定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されるのかが特定されておらず、仮にこれらが特定されたとしても「t時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額」を求めるために、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働したどのような具体的手段を用いて、どのような情報を具体的にどのように情報処理してコンピュータに行わせることにより実現されるのかが、具体的に特定されていない。

以上の検討を踏まえた上で、請求項1に係る発明の方法を全体として検討すると、請求項1の記載では、「ポートフォリオ資産配分決定システム」の処理手段が示されてはいるが、請求項1に係る発明の目的を達成するための一連の処理に必要な主要な手段である「フロア-(Ft)演算手段」「ベンチマーク非連動性資産投資額演算手段」において、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段により、使用目的に応じた情報の演算又は加工を具体的に実現する仕組みが特定されていないので、請求項1に係る発明は、使用目的に応じた特有な手段が構築されているとは認められず、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」とはいえない。

以上のとおりであることから、請求項1に係る発明は、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないので、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。


6.審判請求人の主張について

審判請求人は審判請求書において以下のように主張している。

「【拒絶査定の要点】
(略)
【本願発明が特許されるべき理由】
(イ)本願発明の説明
(略)
(ロ)補正の根拠の明示
(略)
(ハ)理由A(特許法第36条第6項第2号に関する拒絶理由)について
上記した(イ)本願発明の説明の項でも述べましたように、本願発明の特徴は、ベンチマークの価値を基準としてリバランスのための資産配分を演算することにあり、そのために、ポートフォリオのベンチマークからの損失許容範囲をベンチマークの価値を基準として演算することにあります。そして、これにより、時間の経過と共に価格が変動する指数等をベンチマークとする資金運用に際し、ポートフォリオ価値の絶対水準での損失ではなく、ベンチマークに対する相対的な差の大きさに応じて資産配分比率を最適に決定して出力できるという顕著な作用効果を奏するものです。このように、ベンチマークに対するポートフォリオの相対的な損失の大きさに応じて、ポートフォリオの資産配分比率をコントロールする手法を以下「BF手法」(Benchmark Following手法の略)と称して説明致します。
BF手法は、文章で説明しただけではその効果を実感しにくいため、本項ではシミュレーションによる具体例を用いて、BF手法の効果を示すことに致します。具体的には、BF手法を用いた「ポートフォリオA」と、BF手法を用いない「ポートフォリオB」の運用成績の比較を行うものです。シミュレーションのための設定条件は以下のようにしました(なお、以下の設定条件はあくまで一例であって、例えば、95%という運用目標や、100+クッション×5という株式への投資ウェイトは、それこそ運用者が任意に設定できる数字です。このシミュレーションは、運用者が任意に設定することの出来ない部分、すなわちBF手法の効果について検証することを目的とするものです)。
・運用目標は、両ポートフォリオとも、「ベンチマーク価値の95%水準
を確保しつつ、プラスの超過収益を狙うこと」とする。
・BF手法におけるフロアーやクッションの算出には様々な関数が考えら
れるが、ここでは説明を簡便にするために、参考図1に示した表に従っ
て、シンプルな関数を用いる。
・ベンチマーク連動性資産は株式(東証株価指数:TOPIX)とし、ベ
ンチマーク非連動性資産は現金(金利=0)とする。
・株式市場に対する予測は、ポートフォリオA、ポートフォリオBともに
、シミュレーションの期間(平成14年3月?平成16年3月)を通じ
て、一貫して株式市場の「上昇」を予測していたと仮定する。
*ポートフォリオAの株式への投資ウェイト(%):100+クッシ
ョン×5
*ポートフォリオBの株式への投資ウェイト(%):125
・シミュレーション期間(平成14年3月?平成16年3月)の株式市場
の推移を参考図2に示す。参考図2は、平成14年3月末の東証株価指
数(TOPIX)を100として指数化し、その推移をグラフ化したも
のである。図に示す通り、平成14年3月から平成15年3月までは、
ポートフォリオAとポートフォリオB共に「株式市場の上昇」という予
測が外れた期間であり、平成15年4月から平成16年3月までは予測
が的中した期間である。

次に運用結果の分析について説明します。参考図3はポートフォリオAとポートフォリオBの運用結果を表にしたもので、参考図4は両ポートフォリオの株式への投資ウェイトの推移と、両ポートフォリオの価値とベンチマーク価値との比の推移とをグラフ化したものです。これらの図に示す通り、ポートフォリオBの株式への投資比率は一貫して125%ですが、ポートフォリオAではBF手法により毎月株式への投資比率を組み替えています。運用の結果、平成14年3月から平成15年3月の期間は、ポートフォリオA、B共に株価上昇という予測が外れ、その価値が平成14年6月以降ベンチマークの価値を下回りました。BF手法を用いたポートフォリオAでは、クッションの減少に伴って株式への投資ウェイトが低下したため、その後の株式下落から受ける影響が小さく、フロアーを下回ることがありませんでした。一方、BF手法を用いていないポートフォリオBでは、株式への投資ウェイトを維持していたため、フロアー割れしてしまい、運用目標の一つである「ベンチマークの95%水準」を守れませんでした。
このように、ポートフォリオAとポートフォリオBの株式市場に対する予測が全く同じであったにもかかわらず、上記のような運用結果の違いが生じたのは、BF手法を用いたか否かによるもので、BF手法の効果が確認されたものです。
このBF手法の効果は、本願発明の構成中、フロアーFt演算手段においてフロアーFtの値をベンチマークの価値Btを基準に演算することによって、ベンチマークの価値が変化するにつれて演算されるフロアーの価値も変化し、ポートフォリオ価値の絶対水準での損失ではなく、ベンチマークに対する相対的な差の大きさに応じて資産配分比率を最適に決定して出力できることになります。式A、式Bでは、さらに時間の経過とともにフロアー値が変化する特性あるいはポートフォリオの価値がベンチマークの価値を上回るにつれてフロアー値が変化する特性を組み合わせています。従って、審査官殿は拒絶査定において、「フロアー演算手段はベンチマークの価値とポートフォリオの価値とベンチマークの価値の差の最大値の何らかの関数によって計算される以上の具体的な式を特定しているものではない、従ってそのような演算手段を備えるポートフォリオ資産配分決定システムも発明として不明確である」旨ご指摘になりましたが、上記の説明からフロアー演算手段を備えることによって、具体的で明確な効果を奏することが明らかであることはご理解いただけると考えます。従って、本願の請求項1?11に記載した発明は明確であって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものです。

(ニ)理由B(特許法第29条第1項柱書に関する拒絶理由)について
(略)
(ホ)理由C(特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶理由)について
(略) 」


上記主張について検討する。

審判請求人は、BF手法を用いた「ポートフォリオA」と、BF手法を用いない「ポートフォリオB」の運用成績の比較をシミュレーションし、その結果を参考図1乃至参考図4にて補足して説明したうえで、「フロアーFt演算手段においてフロアーFtの値をベンチマークの価値Btを基準に演算することによって」・・・「フロアー演算手段を備えることによって具体的で明確な効果を奏することが明らかである」旨主張している。
しかしながら、本願発明では、フロアー(Ft)は、ベンチマークの価値(Bt)に、「Ft=f1(Bt)×f2(t)+f3(Mt)×f4(t)」なる演算をほどこすものであるあるところ、参考図1の「Ft=0.95×Bt」なる記載、及びシミュレーション結果である参考図3のフロアー(Ft)及びベンチマークである株式の価値(Bt)の記載を見ても、どのような場合に、どのような関数、定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されたものであるのか明確ではない。
さらに本願発明では、クッション(Ct)演算手段により求めたクッション(Ct)の値に任意の定数あるいは変数を掛けてt時点におけるベンチマーク非連動性資産への投資額を求め、ベンチマーク非連動性資産投資額を、該ポートフォリオの価値(Pt)演算手段により演算されたt時点におけるポートフォリオの価値(Pt)から減じてベンチマーク連動性資産への投資額を求めるものであるところ、参考図1のベンチマーク連動性資産への投資ウエイトは、株式の「上昇」を予測する場合には「100+クッション×5」、株式の「下降」を予測する場合には「100-クッション×5」と記載されており、株式の「上昇」の場合と「下降」の場合に、「5」「-5」という定数が、どのようにして選択されて使用されたものであるのか明確ではなく、さらにベンチマークが株式以外の場合には、どのような場合に、どのような関数、定数あるいは変数が、どのようにして選択されて使用されるものであるのか明確ではない。

以上のとおりであることから、審判請求人の主張を採用することはできない。


7.当審の審尋に対する審判請求人の回答について

審判請求人は当審の平成20年3月27日付の審尋に対して、平成20年5月30日付の回答書で以下のように主張している。

「【回答の内容】
(1)
(略)
こうした点を考慮し、審判請求人は、平成16年4月30日付で提出した手続補正書が却下され、平成15年11月28日付で提出した手続補正書で補正された特許請求の範囲に記載された請求項の内容であったとしても、拒絶理由には該当しないものと考えます。(略)
(2)本願発明が特許されるべき理由
本願発明が特許されるべき理由について説明するにあたり、拒絶理由通知に記載された各拒絶理由(理由A,理由B,理由C)に対する主張は、各請求項についてほぼ同一の主張となると考えましたので、本回答書では、請求項1について特許されるべき理由を申し述べることにより、すべての請求項についての審判請求人の主張はご理解いただけるものと考えました。
(略)
(イ)平成15年11月28日付で補正された請求項1
この請求項1の記載は以下のとおりです。
<請求項1>
(略)
上記した請求項1に係る発明は、時間の経過と共に価格が変動する指数もしくはそれらを合成したものをベンチマークとして資金運用するために、リバランスタイミングにおいて、リバランスを実行するための最適な資産配分比率を効率的に演算するためのシステムであります。特に、上記の演算式(これを、以下「式A」という)を用いたフロアーFt演算手段において、ポートフォリオのベンチマークからの損失許容範囲をベンチマークの価値を基準にして演算することによって、ポートフォリオ価値の絶対水準での損失ではなく、ベンチマークに対する相対的な差の大きさに応じて資産配分比率を適切に演算できるので、ベンチマークに対するポートフォリオの相対的な損失を特定の範囲に抑えるための資産配分を決定できるという効果を達成できるものです。
ここで、式Aは、フロアーFtを求めるために、第一項f1(Bt)×f2(t)において、t時点におけるベンチマークの価値Btを反映させる関数f1(Bt)と、時間tを反映させる関数f2(t)を組み合わせております。これは、フロアーFtの値に、ベンチマークの価値が変化するにつれてフロアー値も変化する特性と、ベンチマーク価値の変化には依存せず時間の経過とともにフロアー値が変化する特性とをもたせることを意味します。
また、第二項f3(Mt)×f4(t)において、t時点まででポートフォリオの価値がベンチークの価値を上回った超過収益の最大値であるMtを反映させる関数f3(Mt)と、時間tを反映させる関数f4(t)を組み合わせております。これは、ポートフォリオの価値がベンチマークの価値を上回るにつれてフロアーが変化する特性と、時間の経過とともにフロアー値が変化する特性とを組み合わせることにより、ポートフォリオのベンチマークからの損失許容範囲をベンチマークの価値を基準にして演算するばかりではなく、過去においてポートフォリオの価値がベンチマークを上回った超過収益の最大値も考慮して演算することを意味します。言わば、過去に稼いだ超過収益(貯金)を使い果たすことのないように、その貯金の大きさに応じてフロアーを高くすることが狙いです。
最後に、関数f2(t)や関数f4(t)の機能についてご説明します。もし、式Aがf1(Bt)やf3(Mt)だけで構成されていたら、何らかの原因で一度でもクッション値がゼロとなりベンチマーク非連動性資産の投資額がゼロとなってしまうと、その後はポートフォリオの投資対象資産がベンチマーク連動性資産のみで推移してしまいます。すると、その後はベンチマークに対する超過収益を狙うことができず、運用手法としての意味を持たなくなってしまいます。関数f2(t)や関数f4(t)は、この問題を解決するために導入されたもので、時間の経過とともに強制的にフロアーを下げ、再びベンチマーク非連動性資産に投資を振り向ける資産配分を決定できるという効果を達成するものです。
(ロ)理由A(特許法第36条第6項第2号に関する拒絶理由)について
審査官殿は、拒絶査定において、フロアー演算手段(あるいはフロアー演算ステップ)におけるフロアーの値を求める演算式が、ポートフォリオの価値とベンチマークの価値の差の最大値の何らかの関数によって計算される以上の具体的な式を特定しているものではない、とご指摘になっていますので、この点についてまず説明致します。
請求項1におけるフロアーの値を求める演算式における各関数の機能については、上記(イ)の項で説明したとおりであり、このような関数及び式を選択したことにより、求めるフロアーの値に一定の特性をもたせる効果についてはご理解いただけるものと考えます。
(ハ)理由B(特許法第29条第1項柱書に関する拒絶理由)について
請求項1の記載は、判断及び演算に用いるデータと、そのデータを用いて求めるべき結果を得るまでのコンピュータのソフトウェアによる情報処理を明確に夫々の構成要素として記載したものであり、演算式も具体的効果を奏するものとして明確であるものと考えております。
(ニ)理由C(特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶理由)について
(略) 」


上記主張について検討する。

審判請求人の主張は、(イ)において各関数が有する機能及び効果を主張し、(ロ)において、理由1(理由A)に関して「このような関数及び式を選択したことにより、求めるフロアーの値に一定の特性をもたせる効果」を主張し、(ハ)において、理由2(理由B)に関して「判断及び演算に用いるデータと、そのデータを用いて求めるべき結果を得るまでのコンピュータのソフトウェアによる情報処理を明確に夫々の構成要素として記載したものであり、演算式も具体的効果を奏するものとして明確である」と主張するものであるところ、請求項1の記載が、明確ではないことは上記5-1.に記載したとおりであり、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないことは上記5-2.に記載したとおりである。

以上のとおりであることから、審判請求人の主張を採用することはできない。


8.むすび
上記5-1.で述べたとおり、本件出願は請求項1に係る発明が不明確であるので、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また上記5-2.で述べたとおり、請求項1に係る発明は、特許法第2条でいう特許法上の「発明」である「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しないので、請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-23 
結審通知日 2008-06-30 
審決日 2008-07-15 
出願番号 特願2000-136439(P2000-136439)
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丹治 彰石川 正二  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 久保田 健
田川 泰宏
発明の名称 ポートフォリオの資産配分決定システム  
代理人 佐藤 明子  

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