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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G08G
管理番号 1185403
審判番号 不服2006-21568  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-27 
確定日 2008-09-29 
事件の表示 特願2003-359620「車両の作動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-152286〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、特許法41条に基づく優先権主張を伴う平成11年8月24日(優先日、平成10年8月27日)に出願した特願平11-236293号の一部を平成12年9月13日に新たな特許出願である特願2000-277871号とし、その一部を平成13年4月17日に新たな特許出願である特願2001-118654号とし、さらにその一部を平成15年10月20日に新たな特許出願としたものであって、平成17年10月25日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がなされたものの、平成18年8月21日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年10月25日に特許請求の範囲及び明細書についての補正がなされたものである。

2.平成18年10月25日付けの手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲における請求項1は、
「電磁波からなる信号(T2)を受信して制御信号(T3)を出力する受信装置(7)と、車両(8)の目標となる所定の走行速度に対応する基準値(t)を設定する基準値設定手段(83)と、車両(8)の走行速度を検出し、車速信号(T4)を出力する車速検出手段(81)とを車両(8)に有し、
車両(8)の安全性を向上させるために、受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて、車両(8)の基準値設定手段(83)に設定する基準値(t)と車速信号(T4)とを比較し、
車両(8)の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号(T13,T23,T33)を出力し、かつ、該基準値(t)と車速信号(T4)とを繰返し比較することができると共に、車両(8)の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいときは作動信号(T13,T23,T33)を出力することなく該基準値(t)と車速信号(T4)とを比較する制御を終了することができ、かつ、作動信号(T13,T23,T33)を出力した後に車両(8)の走行速度が目標となる走行速度よりも小さくなつたときにも該基準値(t)と車速信号(T4)とを比較する制御を終了することができることを特徴とする車両の作動装置。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するのに必要な事項である「基準値」が「基準値設定手段」に設定されるものであることを特定し、同じく「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいとき」に「基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ」る際に、「作動信号を出力することなく」上記制御を終了することができることを特定し、及び、同じく「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号を出力」することに関し、「作動信号を出力した後に車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さくなつたときにも基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ」ることを特定したものであるから、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-215435号公報(以下「引用例」という。)には、「自動安全運転装置」と題して、図面と共に、以下の事項が記載されている。

・「自動車15(注:「5」は誤記)にはアンテナ4が設けられている。アンテナ4によって捕捉された電波信号は車載受信器2によって復調される。」(2ページ左下欄9?11行)

・「これで(F+G)又は(F-G)の信号を作る事ができる。どちらを用いてもよい。ここでは簡単のため(F+G)と略記する。
増幅器38でこの信号を増幅しアンテナ40から、電波として空中へ発信する。
この信号を、ここでは車速コントロール信号(注:「車速コントローラ信号」は誤記)という。」(2ページ右下欄20行?3ページ左上欄6行)

・「自動車15(注:「5」は誤記)のアンテナ4によって、(F+G)の電波を捕える。」(3ページ左上欄12?13行)

・「このようにして、車載受信器に於て、車速コントロール信号から、速度制御信号Gを得る。
いっぽう、自動車には車輪の回転速さをモニタするために車輪速センサ20が設けられている。車輪速センサ20から、現在の自動車の走行速度Vを得る。
速度制御信号Gは、最高速度をある値に制限する、というような信号である。つまり、最大値という形で速度が与えられる。この速度と、車輪速センサ20の測定した速度とは、一定の乗数をかける事によって、同一の速度単位に合わせる事ができる。
制御回路18は、このような乗算を行ない、GとVとを同じ速度単位とする。この後、GとVとを比較して、V≦Gであれば、車速を変更しない。つまり、ブレーキやエンジンなどになんらの作用を及ぼさないようにする。
しかし、V>Gである時は違う。この地域に於ける最高速度Gよりも、自動車の速度Vが速いのである。この場合は、制御回路18が減速動作を自動的に開始する。
ここでは4つの作用が示されている。
まずブレーキ制御系へ減速信号を送る。つまりブレーキを作動し、直接に制動を行なう。
さらに、スロットバルブ制御系28へ減速信号を送る。スロットバルブを閉じる方向へ変位させ、エンジンの出力を減少させる。
そして、運転者に、自動減速作動中である事を示すため、アラーム22が鳴るようになつている。このように知らせなければ、運転者は意図しない減速にとまどうからである。
もうひとつ、ブレーキランプSWにオン信号を送る。これはブレーキが作動しているので当然のことである。後続車に対して制動中である事を知らせるものである。
こうして減速すると、車輪速センサ20の検出速度Vが下つてゆく。この間、運転者がアクセルを踏み込んでも加速されない。やがてV=Gとなる。ここでつりあつた後は、この速さで通信可能領域5を走り抜ける事になる。」(3ページ左下欄5行?4ページ左上欄4行)

これらの記載事項及び図示内容によれば、引用例には、
「電波からなる車速コントロール信号を受信して速度制御信号を得る車載受信器と、自動車の最高速度をある値に制限する速度制御信号に一定の乗数をかけて所定の速度単位にした最高速度を得る制御回路と、自動車の車輪の回転速さをモニタし、自動車の走行速度を出力する車輪速センサとを自動車に有し、
車載受信器の速度制御信号に基づいて、自動車の制御回路で得た最高速度と自動車の走行速度とを比較し、
自動車の走行速度が最高速度よりも大きいときは減速信号を出力し、自動車の走行速度が最高速度以下のときはブレーキやエンジンなどになんらの作用も及ぼさないようにし、かつ、減速信号を出力した後に自動車の走行速度が最高速度と等しくなった後は、この速さで走行する自動安全運転装置。」
という発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認定することができる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「電波からなる車速コントロール信号」は、本願補正発明の「電磁波からなる信号」に相当し、引用発明の「速度制御信号を得る車載受信器」は本願補正発明の「制御信号を出力する受信装置」に相当する。
また、引用発明の「自動車の最高速度をある値に制限する速度制御信号に一定の乗数をかけて所定の速度単位にした最高速度」は、本願補正発明の「車両の目標となる所定の走行速度に対応する基準値」に実質的に相当する。
そして、引用発明の最高速度「を得る制御回路」は、自動車の走行速度との比較の対象となる最高速度(基準値)を得たうえで該比較のためにそれを保持する必要があるものと認められるので、該最高速度(基準値)を設定する機能を有するものといえるから、本願補正発明の基準値「を設定する基準値設定手段」に相当する。
次に、引用発明の「自動車の車輪の回転速さをモニタし、自動車の走行速度を出力する車輪速センサ」は本願補正発明の「車両の走行速度を検出し、車速信号を出力する車速検出手段」に相当し、引用発明の「制御回路で得た最高速度」は、上述した「設定」に関する対比を考慮すると、本願補正発明の「基準値設定手段に設定する基準値」に相当する。
さらに、引用発明の「自動車の走行速度が最高速度よりも大きいときは減速信号を出力」する態様は、引用発明が自動車の走行速度を最高速度以下にするよう減速信号(作動信号)を出力するものであることに照らすと、自動車の走行速度が最高速度以下になるまでは自動車の走行速度(車速信号)と最高速度(基準値)とを繰返し比較すべきことが明らかであるから、本願補正発明の「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号を出力し、かつ、基準値と車速信号とを繰返し比較することができる」という態様に相当する。
続いて、引用発明の「自動車の走行速度が最高速度以下のときはブレーキやエンジンなどになんらの作用も及ぼさない」態様は、まず、「最高速度以下」は「最高速度よりも小さい」という概念を包含するものであり、次に、「ブレーキやエンジンなどになんらの作用も及ぼさない」ということは、減速信号(作動信号)を出力していないことになり、かつ、出力する必要がない状態、つまり、最高速度(基準値)と自動車の走行速度(車速信号)とを比較して減速信号(作動信号)を出力する制御を終了させても構わない状態であることが明らかであるから、本願補正発明の「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいときは作動信号を出力することなく基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ」るという態様に相当する。
そして、引用発明の「減速信号を出力した後に自動車の走行速度が最高速度と等しくなった後は、この速さで走行する」ことは、これ以上減速する必要がない状態、すなわち、最高速度(目標となる走行速度)と自動車の走行速度(車速信号)とを比較して減速信号(作動信号)を出力する制御を終了させても構わない状態といえるから、本願補正発明の「作動信号を出力した後に車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さくなつたときにも基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができる」ことと、「作動信号を出力した後に車両の走行速度が目標となる走行速度に対して所定の関係であるときにも基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができる」という概念で共通する。
また、引用発明の「自動安全運転装置」は、本願補正発明の「車両の作動装置」に相当する。
最後に、引用発明の自動安全運転装置による自動車の走行速度の制御は、全体的にみて、「車両の安全性を向上させるため」のものということができる。

そうすると、両者は、
「電磁波からなる信号を受信して制御信号を出力する受信装置と、車両の目標となる所定の走行速度に対応する基準値を設定する基準値設定手段と、車両の走行速度を検出し、車速信号を出力する車速検出手段とを車両に有し、
車両の安全性を向上させるために、受信装置の制御信号に基づいて、車両の基準値設定手段に設定する基準値と車速信号とを比較し、
車両の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号を出力し、車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいときは作動信号を出力することなく該基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ、かつ、作動信号を出力した後に車両の走行速度が目標となる走行速度に対して所定の関係であるときにも該基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができる車両の作動装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

・相違点
作動信号を出力した後に制御を終了することができるための、車両の走行速度と目標となる走行速度との間の「所定の関係」が、本願補正発明では車両の走行速度が目標となる走行速度「よりも小さくなつたとき」という関係であるのに対し、引用発明では車両の走行速度が目標となる走行速度「と等しくなった後」という関係である点。

(4)相違点についての判断
引用発明は、全体的にみると、車両の走行速度が目標となる走行速度「以下」になったら制御を終了するものであり、本願補正発明は、車両の走行速度が目標となる走行速度「よりも小さく」なったら制御を終了するものであるから、上記相違点は、制御終了の判断基準の差異ということができる。端的にいえば、判断基準に、車両の走行速度が目標となる走行速度と等しくなったときを含むか否かということである。
これについて検討すると、「等しくなった」速度を上記判断基準に含めるか否かは当業者が適宜設定すればよい事項であると認められ、含めるか否かによって安全性を確保できるという効果が左右されるわけではないし、その効果に顕著な差異が生じるわけでもない。
そうすると、「所定の関係」について、引用発明における、車両の走行速度が目標となる走行速度「と等しくなった後」という関係に代えて、本願補正発明の車両の走行速度が目標となる走行速度「よりも小さくなつたとき」という関係を採用することは当業者が容易になし得たものである。

そして、本願補正発明の全体構成から奏される効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明については、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり、平成18年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下を免れない。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成17年10月25日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「電磁波からなる信号(T2)を受信して制御信号(T3)を出力する受信装置(7)と、車両(8)の目標となる所定の走行速度に対応する基準値(t)を設定する基準値設定手段(83)と、車両(8)の走行速度を検出し、車速信号(T4)を出力する車速検出手段(81)とを車両(8)に有し、
車両(8)の安全性を向上させるために、受信装置(7)の制御信号(T3)に基づいて、車両(8)に設定する基準値(t)と車速信号(T4)とを比較し、車両(8)の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号(T13,T23,T33)を出力し、かつ、該基準値(t)と車速信号(T4)とを繰返し比較することができると共に、車両(8)の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいときは該基準値(t)と車速信号(T4)とを比較する制御を終了することができることを特徴とする車両の作動装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.」で検討した本願補正発明から、「基準値」が「基準値設定手段」に設定されるものであるとの特定を省き、「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さいとき」に「基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ」る際に、「作動信号を出力することなく」上記制御を終了することができるとの特定を省き、及び、「車両の走行速度が目標となる走行速度よりも大きいときは作動信号を出力」することに関し、「作動信号を出力した後に車両の走行速度が目標となる走行速度よりも小さくなつたときにも基準値と車速信号とを比較する制御を終了することができ」るとの特定を省いたものである。
そうすると、上記「2.」での検討内容を踏まえれば、本願発明と引用発明との間に構成上の相違点はないから、本願発明は、引用例に記載された発明ということができる。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明については、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、特許法49条2号の規定に該当し、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-03-10 
結審通知日 2008-03-18 
審決日 2008-03-31 
出願番号 特願2003-359620(P2003-359620)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G08G)
P 1 8・ 121- Z (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 哲  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 田良島 潔
本庄 亮太郎
発明の名称 車両の作動装置  

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