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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1185424
審判番号 不服2005-16492  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-08-29 
確定日 2008-09-29 
事件の表示 平成 7年特許願第519911号「ウェファ基板のキャビティを含む構造とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月 3日国際公開、WO95/20824、平成 9年 8月26日国内公表、特表平 9-508493〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、1995年1月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1994年1月26日、フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、平成17年5月24日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年8月29日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年9月28日付けで手続補正がなされ、その後当審において平成19年5月11日付けで審尋がなされ、同年11月14日に回答書が提出されたものである。

2.平成17年9月28日付けの手続補正について
(1)補正の内容
平成17年9月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項2及び3を削除するとともに、補正前の特許請求の範囲の請求項1、4を補正後の特許請求の範囲の請求項1、2と各々補正するものであり、補正前の特許請求の範囲の請求項1及び4、並びに補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2は以下のとおりである。
(補正前)
「1. 基板(2)と、非導電性材料で作られていて該基板(2)の1つの面(1)に接合された表面薄膜(16)とを有する構造物を製造する方法にして、前記基板(2)は前記表面薄膜(16)の下に位置する前記1つの面(1)と同じ面にあるキャビティ(10)を有している、前記方法において、
基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階にして、該キャビティ(10)は該基板(2)の面に、前記表面薄膜(16)を正しく保持するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している段階と、
固体部分(14)、中間層、及び表面薄膜(16)を有する非導電性材料のウェファ(12)を、前記表面薄膜(16)を前記面(1)上に置いて、前記基板(2)の該面(1)に結合する段階と、
薄い表面部分を得るために前記ウェファ(12)を薄くする段階にして、該ウェファ(12)を薄くすることは、薄い表面薄膜を得るために、前記中間層から前記固体部分(14)と表面薄膜(16)を分離することによって得られ、前記表面薄膜(16)と前記固体部分(14)とを分離している前記中間層は前記ウェファ内にガスを注入することによって得られた微細泡の層(18)であり、前記表面薄膜(16)の分離は、前記微細泡の層(18)によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェファ(12)を引き剥がすことによって行なわれている段階と、
を含むことを特徴とする方法。」
「4. キャビティ(10)は、長手方向の溝である請求の範囲第1項に記載の方法。」

(補正後)
「 【請求項1】 基板(2)と、非導性材料で作られていて該基板(2)の1つの面(1)に接合された表面薄膜(16)とを有する構造物を製造する方法にして、前記基板(2)は前記表面薄膜(16)の下に位置する前記1つの面(1)と同じ面にあるキャビティ(10)を有している、前記方法において、
基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階にして、
該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している段階と、
固体部分(14)、中間層、及び表面薄膜(16)を有する非導電性材料のウェファ(12)を、前記表面薄膜(16)を前記面(1)上に置いて、前記基板(2)の該面(1)に結合する段階と、
薄い表面部分を得るために前記ウェファ(12)を薄くする段階にして、該ウェファ(12)を薄くすることは、薄い表面薄膜を得るために、前記中間層から前記固体部分(14)と表面薄膜(16)を分離することによって得られ、前記表面薄膜(16)と前記固体部分(14)とを分離している前記中間層は前記ウェファ内にガスを注入することによって得られた微細泡の層(18)であり、前記表面薄膜(16)の分離は、前記微細泡の層(18)によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェファ(12)を引き剥がすことによって行なわれている段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】 キャビティ(10)は、長手方向の溝である請求の範囲第1項に記載の方法。」

(2)補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると以下のようになる。
(2-1)補正事項1
補正前の請求項1の「基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階にして、該キャビティ(10)は該基板(2)の面に、前記表面薄膜(16)を正しく保持するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している段階と」を、補正後の請求項1の「基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階にして、 該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している段階と」と補正すること。

(2-2)補正事項2
補正前の請求項2を削除すること。

(2-3)補正事項3
補正前の請求項3を削除すること。

(3)新規事項の有無について
まず、補正事項1についてみると、特許法第184条の6第2項の規定により、本願の願書に最初に添付した明細書とみなされる平成8年7月25日付けの明細書翻訳文、及び同条同項の規定により本願の願書に最初に添付した図面とみなされる国際出願日における図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「基板の1面にキャビティをエッチングする段階にして、該キャビティが基板表面の平面内において、表面膜を正しく固定するため、表面膜の厚みの関数である少なくとも1個の寸法を有する段階と、 非導電性材料のウェファを基板の面に接合する段階と、 薄い表面膜を得るためにウェファを薄くする段階とを有している。 接合とは、後続の操作の間に分離することがないように、基板とウェファとの間に適切な接着エネルギーを保証する操作を意味する。例えば、分子間接合を形成させる表面処理操作、接着操作等が考えられる。」(平成8年7月25日付けの明細書翻訳文第2頁第9行ないし第16行)、「驚くべきことに、支持基板内にエッチングされたキャビティが、ウェファの薄い部分の正しい固定を阻止することはない。本発明は、引き剥がされるウェファと基板との間に緊密な接触が必須であるという原則が成立しない場合があるという事実を発見したことに基づいている。この特性は、キャビティが各場合において、基板のエッチングされる面の平面内において、形成すべき表面膜の厚さの関数である最大値l_(0)に等しいか、より小さい少なくとも1次元の寸法lを有しているときに確認される。」(同翻訳文第3頁第24行ないし第4頁第1行)と記載されているから、当初明細書等には、補正後の請求項1における「基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階にして、 該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している段階」が記載されているものと認められる。
したがって、補正事項1についての補正は、当初明細書等の範囲内においてなされたものである。
次に、補正事項2及び3についての補正は、請求項を削除するものであるから、補正事項2及び3についての補正は、当初明細書等の範囲内においてなされたものである。
以上、要するに、補正事項1ないし3についての補正は、いずれも当初明細書等の範囲内においてなされたものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に適合するものである。

(4)補正の目的について
まず、補正事項1についてみると、補正により、「基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階」について、補正前の「該キャビティ(10)は該基板(2)の面に、前記表面薄膜(16)を正しく保持するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」という構成要件が、補正後の「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」という構成要件に補正されている。
そして、これは、「基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階」において、補正前には、「該キャビティ(10)」のどの部分が「該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」のかが明りょうでなかったものを、補正により、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状」が「該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」ことを明りょうにするとともに、補正前の「該基板(2)の面に、前記表面薄膜(16)を正しく保持するために、」という構成が、「正しく保持する」がどのようなことを指すのか不明であったため、明りょうでなかったものを、補正により、「該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、」と明りょうにするものであるから、補正事項1についての補正は、特許法第17条の2第3項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
次に、補正事項2および3についての補正は、特許法第17条の2第3項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当することは明らかである。
以上、要するに、本件補正は、特許法第17条の2第3項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

(5)手続補正についてのむすび
以上、検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に適合するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当するから、適法になされたものである。

3.本願発明
平成17年9月28日付けの手続補正は、上記のとおり適法になされたものであるから、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成17年9月28日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであり、その内、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は上記2.(1)の「(補正後)」の部分に記載したとおりである。
ここにおいて、請求項1における「非導性材料」は、「非導電性材料」の誤記であると認められるので、「非導性材料」を「非導電性材料」とみなして、以下に検討を進める。

4.引用刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平5-167083号公報刊行物(以下、「引用刊行物1」という。)には、図1ないし図7とともに、以下の事項が記載されている。
「【請求項7】 第1のシリコン基板の表面に沿って絶縁層を形成し、絶縁層の1部を除去して空洞領域とし、第1のシリコン基板の絶縁層上に第2の単結晶シリコン基板を接着し、第1または第2の単結晶シリコン基板を研磨して薄膜とすることを特徴とする空洞領域内蔵半導体基板の製造方法。」(請求項7)
「【0008】本発明の第1の目的は、従来技術の半導体基板における前述の問題点を解消するために、第1の単結晶シリコン基板の表面に空洞領域を形成し、この表面に第2の単結晶シリコン基板を接着し、第1または第2の単結晶シリコン基板を研磨して薄膜にすることで、長時間におよぶエッチング作業を不要とし、作業能率を高めた半導体基板の提供にある。」(0008段落)
「【0032】
【実施例】本発明の実施例を図面に従い説明する。
【0033】図1?7は、本発明の第1実施例の半導体基板及びその製作手順を示す拡大断面図である。
【0034】この実施例においては、積層された半導体基板が第1の単結晶シリコン基板1及び第2の単結晶シリコン基板5からなり、第2の単結晶シリコン基板5が薄膜層となっている。この薄膜がダイアフラムとして作用するように空洞領域が形成されている。また、前記薄膜の厚さを3ミクロン以下とすれば、この層は可視光線に対して半透明、ないしは透明であるので、予め形成した空洞領域3の位置を表面から確認し、ダイアフラム領域と電気回路の位置を整合させることができる。
【0035】第1の単結晶シリコン基板1に形成された空洞領域3の側壁面をゆるやかな斜面とすることで、第2の単結晶シリコン基板5を薄膜層に研磨する際の加工応力の集中を防いでいる。
【0036】以下に第1実施例の空洞領域内臓半導体基板の製造方法を説明する。
【0037】図2に示すように、第1の単結晶シリコン基板1の表面に、ダイアフラムとなる領域にフォトレジスト膜6を予め形成しておき、その上に膜厚2500オームストロングの窒化シリコン層7を形成し、該フォトレジスト膜6の上の窒化シリコン層7をリフトオフすることで除去を容易にし、図3に示すように、窒化シリコン層7に開口部4を形成する。
【0038】水蒸気を含む1000℃の酸素雰囲気において第1の単結晶シリコン基板1を加熱し、図4に示すように、第1の単結晶シリコン基板1の開口部4から酸化膜8を成長させ、この酸化膜8の領域の端部で鳥の嘴(バーズビーク)構造を形成する。言い換えると酸化膜8は第1の単結晶シリコン基板1と窒化シリコン層7の間に中厚先細状に拡張し、開口部4を中心として周辺の窒化シリコン層7を隆起させる。酸化膜8の厚さは中心部で6000オームストロングである。
【0039】次に、燐酸溶液により窒化シリコン層7をエッチング除去して、図5に示すような状態とした後、緩衝HF溶液により酸化膜8をエッチング除去して、図6に示すような状態とする。そして、第1の単結晶シリコン基板1の表面に第2の単結晶シリコン基板5を1000℃の真空中で接触させて接着し、第2の単結晶シリコン基板5を研磨加工して、図1に示すような厚さ1ミクロンの単結晶シリコン薄膜とした。」(0032段落し0039段落)
「【0045】そして、酸化膜8により空洞領域の側壁部を緩やかな傾斜とすることで、応力の集中をなくし、この部分の損傷を未然に防止できる。空洞領域の端部において、その研磨等の加工工程で加わる変位のための応力の集中が緩和され、亀裂や切断等の欠陥を生ずるのが防止されるからである。」(0045段落)
ここにおいて、図1における「第1の単結晶シリコン基板1」は、その表面に接着された「単結晶シリコン薄膜」を有しているとともに、「単結晶シリコン薄膜」の下に位置する「第1の単結晶シリコン基板1」の表面と同じ面にある「空洞領域3」を有していることは明らかである。
したがって、引用刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「第1のシリコン単結晶基板1と、単結晶シリコンで作られていて、前記第1のシリコン単結晶基板1の表面に接着された単結晶シリコン薄膜とを有する空洞領域内蔵半導体基板を製造する方法にして、前記第1のシリコン単結晶基板1は前記単結晶シリコン薄膜の下に位置する前記表面と同じ面にある空洞領域3を有している、前記方法において、
前記第1の単結晶シリコン基板1に前記空洞領域3をエッチングする段階と、
第2の単結晶シリコン基板5を前記第1の単結晶シリコン基板1の前記表面に接着する段階と、
薄い単結晶シリコン薄膜を得るために、前記第2の単結晶シリコン基板5を研磨加工する段階と、
を含む方法。」

5.対比
刊行物発明1における「第1の単結晶シリコン基板1」、「単結晶シリコン」、「単結晶シリコン薄膜」、「第1の単結晶シリコン基板の表面」、「空洞領域内蔵半導体基板」、「空洞領域3」、「第2の単結晶シリコン基板5」が、各々、本願発明における「基板(2)」、「非導電性材料」、「表面薄膜(16)」、「基板(2)の1つの面(1)」、「構造物」、「キャビティ(10)」、「ウェファ(12)」に相当する。
また、刊行物発明1における「接着された」が、本願発明における「接合された」に相当する。
したがって、本件発明と刊行物発明1とを比較すると、両者は、
「 基板(2)と、非導電性材料で作られていて該基板(2)の1つの面(1)に接合された表面薄膜(16)とを有する構造物を製造する方法にして、前記基板(2)は前記表面薄膜(16)の下に位置する前記1つの面(1)と同じ面にあるキャビティ(10)を有している、前記方法において、
基板(2)の1つの面(1)にキャビティ(10)をエッチングする段階と、
非導電性材料のウェファ(12)を前記基板(2)の該面(1)に結合する段階と、
薄い表面部分を得るために前記ウェファ(12)を薄くする段階と、
を含むことを特徴とする方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」のに対して、刊行物発明1は、「空洞領域3」の寸法について特定されていない点。
(相違点2)
本願発明は、「固体部分(14)、中間層、及び表面薄膜(16)を有する非導電性材料のウェファ(12)を、前記表面薄膜(16)を前記面(1)上に置いて、前記基板(2)の該面(1)に結合する段階」を含み、かつ、「該ウェファ(12)を薄くすることは、薄い表面薄膜を得るために、前記中間層から前記固体部分(14)と表面薄膜(16)を分離することによって得られ、前記表面薄膜(16)と前記固体部分(14)とを分離している前記中間層は前記ウェファ内にガスを注入することによって得られた微細泡の層(18)であり、前記表面薄膜(16)の分離は、前記微細泡の層(18)によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェファ(12)を引き剥がすことによって行なわれている」のに対して、刊行物発明1は、「第2の単結晶シリコン基板5」が、「固体部分(14)」、「中間層」、「表面薄膜(16)」を有しておらず、「第2の単結晶シリコン基板5を前記第1の単結晶シリコン基板1の前記表面に接着」しており、かつ、「第2の単結晶シリコン基板5」を薄くすることは、薄い表面薄膜を得るために、「前記第2の単結晶シリコン基板5」を「研磨加工」している点。

6.判断
(1)相違点1について
(1-1)本願発明の「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」という構成における「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、」「該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」という部分について検討すると、「関数」がどのようなものであるのかが特定されておらず、当該「関数」には、定数関数やランダム関数(すなわち、「該表面薄膜(16)の厚さ」にかかわらず一定の値をとる関数や、「該表面薄膜(16)の厚さ」により、ランダムな値を取る関数)も含め、全ての関数が包含されることに加え、「少なくとも一次元の寸法」が、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状」におけるどの箇所の寸法であるかについても特定されていないから、当該部分は、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状」の寸法について、何らかの具体的な限定を行うための記載ではなく、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、」「該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証する」ものであることの確認的記載にすぎないものと認められる。
なお、これに関して付言すれば、本願の発明の詳細な説明には、「キャビティの寸法lは、キャビティが円筒形か半円筒形の場合はその直径を、他の場合には幅か長さを意味している。キャビティが溝形の場合には、寸法lは溝の幅である。ウェファがシリコンのときは、l_(0)は表面膜の厚みe_(0)に比例して、l_(0)=10e_(0)、すなわち、l≦l_(0)=10e_(0)になるように選択される。」(明細書第4頁第2行ないし第5行)と、キャビティが円筒形、半円筒形、又は溝形の場合におけるキャビティの直径又は溝の幅と表面膜の厚さとの関係について記載されている。しかしながら、本願発明においては、キャビティの形状も関数も特定されていないのであるから、発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状」が「該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」という記載が、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状」の寸法について、何ら具体的な限定を行うものではないことが明らかである。
したがって、本願発明における「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」とは、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証する」ものとなっていることを意味するものと認められる。

(1-2)引用刊行物1には、「第1の単結晶シリコン基板1に形成された空洞領域3の側壁面をゆるやかな斜面とすることで、第2の単結晶シリコン基板5を薄膜層に研磨する際の加工応力の集中を防いでいる。」(0035段落)と記載されており、刊行物発明1において、「空洞領域3」を作成する際には、後続の操作である「薄い単結晶シリコン薄膜を得るために、前記第2の単結晶シリコン基板5を研磨加工する」際の加工応力の集中を防ぐよう配慮することが記載されている。そして、引用刊行物1の「・・・応力の集中をなくし、この部分の損傷を未然に防止できる。空洞領域の端部において、その研磨等の加工工程で加わる変位のための応力の集中が緩和され、亀裂や切断等の欠陥を生ずるのが防止されるからである。」(0045段落)という記載から、加工応力の集中を防ぐ理由は、亀裂や切断等の欠陥を生ずるのを防止するためであることが明らかであるから、刊行物発明1において、「空洞領域3」を作成する際に、後続の操作において欠陥が生じないように配慮することは、当業者が当然になし得た事項である。
そして、刊行物発明1は、そもそも、「第2の単結晶シリコン基板5」を研磨してできた「単結晶シリコン薄膜」が「第1の単結晶シリコン基板1」の上に接着されてなる「空洞領域内蔵半導体基板」を作成するための製造方法であり、一旦接着した「第1の単結晶シリコン基板1」と「第2の単結晶シリコン」とが、後続する工程において分離するようなことがあれば、甚大な欠陥を生ずることは当業者にとって自明であるから、刊行物発明1において、「空洞領域3」を作成する際に、「第1の単結晶シリコン基板1」の表面内の形状も含めた「空洞領域3」の形状を、後続の操作の間に「第1の単結晶シリコン基板1」と「第2の単結晶シリコン基板5」とが分離することがないようなものとすることは、当業者にとって自明である。
そして、「第1の単結晶シリコン基板1」と「第2の単結晶シリコン基板5」とが分離することがないようにすることと、分離することがないような、「第1の単結晶シリコン基板1」と「第2の単結晶シリコン基板5」との間の接着エネルギーを保証することとは技術的にみて同義であると解されるから、刊行物発明1において、「空洞領域3」の「第1の単結晶シリコン基板1」の表面内の形状を、「単結晶シリコン薄膜」が「第1の単結晶シリコン基板1」の表面に接着された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、「第1の単結晶シリコン基板1」と「第2の単結晶シリコン基板5」との間の接着エネルギーを保証するものとすること、すなわち、刊行物発明1において、本願発明のように「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(1-3)さらにいえば、本願の発明の詳細な説明には、「キャビティの寸法lは、キャビティが円筒形か半円筒形の場合はその直径を、他の場合には幅か長さを意味している。キャビティが溝形の場合には、寸法lは溝の幅である。ウェファがシリコンのときは、l_(0)は表面膜の厚みe_(0)に比例して、l_(0)=10e_(0)、すなわち、l≦l_(0)=10e_(0)になるように選択される。」(明細書第4頁第2行ないし第5行)と記載されているが、一般に、溝を有する基板と、当該基板に接合された表面薄膜とを有する構造物を製造する方法において、溝の幅lと表面薄膜の厚さe_(0)との関係が、l≦l_(0)=10e_(0)という関係を満たすように、lとe_(0)とを選択することは、例えば、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平1-120850号公報刊行物における「〔実施例〕 以下本発明の実施例を図面を参照して説明する。 第1図は本発明の一実施例の工程を説明するための要部断面図であって、例えばシリコン単結晶から成る半導体基板(シリコンウェハ)1の表面を公知の熱酸化方法により酸化して厚さ約6000Åの酸化(SiO_(2))層2を絶縁層として形成する。〔第1図(a)および(b)参照〕 一方、支持基板3として、例えばシリコン単結晶ウェハを用意し、公知のシリコンエッチング方法を用いて、その一表面に幅(W)が約20μm、深さ(D)が約0.5μmの溝4(凹部)を形成する。」(第2頁右下欄第7行ないし第19行)、「上記のようにして接着された半導体基板1の表面を、公知のシリコンエッチングまたは機械研磨により選択的に除去し、所定厚さの半導体層1’を残す。半導体層1’の厚さは以後の工程によって異なるが、例えば1?2μmである。」(第3頁左上欄第18行ないし右上欄第3行)という記載において、「溝4」の幅を20μm、「半導体層1’」の厚さを2μmとすれば、l=10e_(0)となり、本願の発明の詳細な説明に記載された「l≦l_(0)=10e_(0)」という条件に合致することからも明らかなように、本願の優先権主張の日前に当業者において周知であったと認められるから(以下、「周知技術」という。)、この点からみても、本願発明のように、「該キャビティ(10)の前記1つの面(1)内における形状が、該表面薄膜(16)が該基板(2)の面(1)に結合されて保持された場合に、後続の操作の間に分離することがないような、該基板(2)と該表面薄膜(16)との間の接着エネルギーを保証するために、該表面薄膜(16)の厚さの関数である少なくとも一次元の寸法を有している」ようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
以上検討したとおり、相違点1についての相違は、上記周知技術を勘案することにより、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。

(2)相違点2について
(2-1)原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された特開平5-211128号公報刊行物(以下、「引用刊行物2」という。)には、図1ないし図4とともに、以下の事項が記載されている。
「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、選択される半導体とは種類の異なった初期基板も、非常に多い注入線量も、エッチストップをも必要とせずに前述した欠点を克服し得、且つ更に均質で調整された厚さを有するフィルムの製造を可能とする薄い半導体材料フィルムの製造方法に関する。
【0014】
【課題を解決するための手段】この薄いフィルムの製造方法は、半導体材料が完全に単結晶質の場合にはその面が主要結晶面と実質的に平行であり、材料が多結晶質の場合にはその面が全ての粒子に対して同一指数の主要結晶面に対して僅かに傾斜している半導体材料ウェーハを、以下の3つの段階:基板のバルクを構成する下方区域6と薄いフィルムを構成する上方区域5とを前記ウェーハの容積部内に限定する微小気泡の層3をイオンの平均進入深さに近い深さの前記ウェーハの容積部に生じる、イオンにより行われる前記ウェーハ1の面4へのボンバード2による注入の第1段階であって、イオンは水素ガスイオン又は稀ガスイオンの中から選択され、注入中のウェーハ温度は、注入イオンにより発生されたガスが拡散により半導体から放出し得る温度より低く維持されている第1段階と、前記ウェーハの平面4を、少なくとも1つの剛性材料層からなる補剛材7と密着させる第2段階と、イオンボンバード2が実施される温度よりも高く、且つこの段階中に前記補剛材と前記ウェーハの平面とは密着させたままで、ウェーハ1中の結晶の再配列作用及び微小気泡内の圧力作用により薄いフィルム5と基板6のバルクとを分離させるのに適した温度で前記ウェーハ1と前記補剛材7とのアセンブリを熱処理する第3段階とで処理することを包含することを特徴とする。」(0013段落及び0014段落)
「【0021】密着という用語は、例えば静電圧力及び/又は付着接触によって補剛材をウェーハ上に押圧することによって得られる接触を意味する。」(0021段落)
「【0026】
【実施例】添付図面を参照して本発明の非制限的実施例を更に詳細に説明する。
【0027】これから添付図面を参照して説明する実施例は、H^(+)イオン注入による単結晶質シリコンウェーハ内での薄いフィルムの製造に関する。
【0028】その表面が主要結晶面、例えば(1,0,0)面に相当する単結晶質シリコンウェーハに150keVでH^(+)イオン(プロトン)を注入すると、注入線量が少ない(<10^(16)cm^(-2))場合には、図1に示すように深さRpで最大濃度を有する深さPに対する水素濃度プロフィールCが得られる。シリコン内へのプロトン注入の場合には、Rpは約1.25マイクロメータである。
【0029】約10^(16)cm^(-2)の線量では、注入水素原子は気泡を形成し始め、これらの気泡は表面に平行な面の付近に配分されている。表面の面は主要結晶面に相当し、また結果的に劈開面となる微小気泡面についても同様である。
【0030】10^(16)cm^(-2)を超える(例えば5・10^(16)cm^(-2))注入線量では、シリコンを2つの部分に劈開させる気泡と、厚さが1.2マイクロメータの上方フィルム(薄いフィルム)と、基板のバックとの融合を加熱により開始させることが可能である。
【0031】水素注入は有利な例である。何故ならば、シリコン中でのイオンの制動プロセスは事実上イオン化(電子制動)だからである。原子移動による原子核型制動は飛程の最後にのみ生じる。それ故シリコンの表面層では非常に僅かな欠陥だけが生じ、限定された厚さにわたり、気泡が深さRp(最大濃度の深さ)の付近に集中されている。これにより、穏当な注入線量(5・10^(16)cm^(-2))で方法の必要な効率、及び表面層の分離後には粗度の限定された表面を得ることが可能となる。
【0032】本発明方法を使用すると、注入エネルギを選択することにより広い厚さ範囲内で薄いフィルムの厚さを選択することが可能となる。この特性は、注入イオンの原子番号zが小さいだけに一層重要である。例えば以下の表は、H^(+)イオン(z=1)の異なる注入エネルギに対して得られ得るフィルムの厚さを示している。
【0033】
H^(+)イオンのエネルギ(keV) 10 50 100 150 200 500 1000
フィルムの厚さ(μm) 0.1 0.5 0.9 1.2 1.6 4.7 13.5
図2は封入層10で任意に被覆された半導体ウェーハ1を示し、該層は、主要結晶面に平行な平面4を通してのH^(+)イオンのイオンボンバード2を受けている。面4に平行に微小気泡層3を認めることができる。層3及び面4は薄いフィルム5を限定している。半導体基板6の他の部分は、基板のバルクを構成している。
【0034】図3は、半導体ウェーハ1の面4と密着された補剛材7を示している。本発明の有利な実施例では、材料へのイオン注入は高温酸化シリコン封入層10を通じて行われ、補剛材7は少なくとも1つの誘電層によって被覆されたシリコンウェーハからなっている。
【0035】他の実施例は、半導体材料に補剛材を固定するために静電圧力を使用している。この場合、例えば5000A厚さの酸化シリコン層を有するシリコン補剛材が選択される。ウェーハの平面は補剛材の酸化物と接触させられ、ウェーハと補剛材との間には数十ボルトの電位差が適用される。ここで得られる圧力は数10^(5)?10^(6)パスカルである。
【0036】図4は、基板6のバルクから空間8によって離隔された、補剛材7に結合されたフィルム5を示している。」

(2-2)ここにおいて、「ウェーハ1中の結晶の再配列作用及び微小気泡内の圧力作用により薄いフィルム5と基板6のバルクとを分離させるのに適した温度で前記ウェーハ1と前記補剛材7とのアセンブリを熱処理する第3段階」(0014段落)、及び「表面の面は主要結晶面に相当し、また結果的に劈開面となる微小気泡面についても同様である。」(0029段落)という記載より、「微小気泡層3」の「劈開面」、すなわち、「微少気泡層3」によって画定された引き剥がし面に沿ってウェーハ1を引き剥がし、薄いフィルム5を得ていることは明らかである。
また、当該「第3段階」が、薄い表面部分を得るためのプロセスであることは自明である。
さらに、図2及び0003段落の「図2は封入層10で任意に被覆された半導体ウェーハ1を示し、該層は、主要結晶面に平行な平面4を通してのH^(+)イオンのイオンボンバード2を受けている。面4に平行に微小気泡層3を認めることができる。層3及び面4は薄いフィルム5を限定している。」の記載から、「ウェーハ1」の「平面4」とは、「ウェーハ1」における「フィルム5」が存在する部分の面を意味するものであることが明らかである。
したがって、引用刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「薄い半導体材料フィルムの製造方法において、基板のバルクを構成する下方区域6、微小気泡層3、フィルム5を有する単結晶質シリコンのウェーハ1の前記フィルム5と補剛材7とを密着させる段階と、
薄い表面部分を得るために、前記ウェーハ1を薄くする段階にして、前記ウェーハ1を薄くすることは、薄いフィルム5を得るために、前記微小気泡層3から前記基板のバルクを構成する前記下方区域6と前記フィルム5を分離することによって得られ、前記フィルム5と前記基板のバルクを構成する前記下方区域6とを分離している前記微小気泡層3は前記ウェーハ1内にH^(+)イオンを注入することによって得られた微小気泡の層であり、前記フィルム5の分離は、前記微小気泡層3によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェーハ1を引き剥がすことによって行われる段階と、
を含む方法。」

(2-3)刊行物発明2の「補剛材7」、「フィルム5」、「ウェーハ1」は、各々刊行物発明1の「第1のシリコン単結晶基板1」、「単結晶シリコン薄膜」、「第2の単結晶シリコン基板5」に相当するものである。
そして、刊行物発明2の技術分野と刊行物発明1の技術分野は、共に半導体薄膜の製造に関する分野であって、両者は共通しており、また、引用刊行物2の0013段落に記載された「更に均質で調整された厚さを有するフィルムの製造を可能とする」という刊行物発明2の技術課題は、半導体薄膜の製造の分野に携わる者が常に念頭に置いている課題であると認められるから、刊行物発明1と刊行物発明2とを組み合わせ、刊行物発明1における「第2の単結晶シリコン基板5を前記第1の単結晶シリコン基板1の前記表面に接着する段階と、 薄い単結晶シリコン薄膜を得るために、前記第2の単結晶シリコン基板5を研磨加工する段階」に替え、「基板のバルクを構成する下方区域6、微小気泡層3、フィルム5を有する単結晶質シリコンのウェーハ1の前記フィルム5と補剛材7とを密着させる段階と、 薄い表面部分を得るために、前記ウェーハ1を薄くする段階にして、前記ウェーハ1を薄くすることは、薄いフィルム5を得るために、前記微小気泡層3から前記基板のバルクを構成する前記下方区域6と前記フィルム5を分離することによって得られ、前記フィルム5と前記基板のバルクを構成する前記下方区域6とを分離している前記微小気泡層3は前記ウェーハ1内にH^(+)イオンを注入することによって得られた微小気泡の層であり、前記フィルム5の分離は、前記微小気泡層3によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェーハ1を引き剥がすことによって行われる段階」とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
ここにおいて、「基板のバルクを構成する下方区域6、微小気泡層3、フィルム5を有する単結晶質シリコンのウェーハ1の前記フィルム5と補剛材7とを密着させる」に際して、「ウェーハ1」を、「フィルム5」を「補剛材7」の面上に置いて、「補剛材7」の面と「密着させる」か、「補剛材7」の面を、「ウェーハ1」の「フィルム5」上に置いて、「フィルム5」と「密着させる」かは、当業者が適宜選択できる設計的事項であるから、「基板のバルクを構成する下方区域6、微小気泡層3、フィルム5を有する単結晶質シリコンのウェーハ1の前記フィルム5と補剛材7とを密着させる」に際して、「ウェーハ1」を、「フィルム5」を「補剛材7」の面上に置いて、「補剛材7」の面と「密着させる」ようにすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
また、刊行物発明2の「基板のバルクを構成する下方区域6」、「微小気泡層3」、「フィルム5」、「単結晶質シリコン」、「ウェーハ1」、「補剛材7」、「H^(+)イオン」、「微少気泡」は、各々本願発明の「固体部分(14)」、「中間層」、「表面薄膜(16)」、「非導電性材料」、「ウェファ(12)」、「基板(2)」、「ガス」、「微細泡」に相当するものであり、また、刊行物発明2の「H^(+)イオンを注入する」、「密着させる」は、各々本願発明の「ガスを注入する」、「結合する」に相当するものである。
したがって、これらの検討結果を勘案すると、刊行物発明1において、本願発明のように、「固体部分(14)、中間層、及び表面薄膜(16)を有する非導電性材料のウェファ(12)を、前記表面薄膜(16)を前記面(1)上に置いて、前記基板(2)の該面(1)に結合する段階」を含み、かつ、「該ウェファ(12)を薄くすることは、薄い表面薄膜を得るために、前記中間層から前記固体部分(14)と表面薄膜(16)を分離することによって得られ、前記表面薄膜(16)と前記固体部分(14)とを分離している前記中間層は前記ウェファ内にガスを注入することによって得られた微細泡の層(18)であり、前記表面薄膜(16)の分離は、前記微細泡の層(18)によって画定された引き剥がし面に沿って前記ウェファ(12)を引き剥がすことによって行なわれている」構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、相違点2についての相違は、刊行物発明2を勘案することにより、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎない。

以上検討したとおり、本願発明は、引用刊行物1及び2に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-17 
結審通知日 2008-04-18 
審決日 2008-05-16 
出願番号 特願平7-519911
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 井原 純
北島 健次
発明の名称 ウェファ基板のキャビティを含む構造とその製造方法  
代理人 浅村 皓  
代理人 岩本 行夫  
代理人 森 徹  
代理人 浅村 肇  

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