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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1185532
審判番号 不服2007-1657  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-17 
確定日 2008-10-02 
事件の表示 特願2002- 9835「ガスレーザ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日出願公開、特開2003-218432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年1月18日の出願であって、平成18年11月14日に手続補正がなされ、同年12月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年1月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年2月15日に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きな値を有する部位のうち、少なくとも1箇所に制振材(59)を貼付したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項2】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
レーザチャンバ(12)、ホルダ(31A,31B)、及びファン駆動手段(35)のうち、少なくともいずれか1箇所の外周部に制振材(59)を貼付したことを特徴とする、ガスレーザ装置。
【請求項3】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きな値を有する部材のうち、少なくとも1箇所を制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項4】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
ファン駆動手段(35)から発生した振動がホルダ(31A,31B)に伝搬する伝搬経路を構成する部材のうち少なくとも一部を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項5】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
ファン駆動手段(35)とホルダ(31A,31B)との間を機械的に連結する部材の少なくとも一部を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項6】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)と、
ベースプレート(36)上に搭載され、レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
ベースプレート(36)に機械的に固定されたキャビティ板(43A,43B)と、
キャビティ板(43A,43B)に機械的に保持され、共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
キャビティ板(43A,43B)、ベースプレート(36)、ファン駆動手段(35)のハウジング、及びこれらを固定する部材のうち少なくとも1個を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項7】 請求項6記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に固定されたレール(37,37)と、
レーザチャンバ(12)に固定され、レール(37,37)上を摺動自在のローラ(38,38)とを備え、
レール(37,37)、ローラ(38,38)、及びこれらを固定する部材のうち少なくとも1個を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項8】 請求項3?7のいずれかに記載のガスレーザ装置において、
請求項1又は2記載の部位に制振材(59)を貼付したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項9】 所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)と、
ベースプレート(36)上に搭載された、レーザガスを封止するレーザチャンバ(12)と、
レーザチャンバ(12)の前後に配置された、共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)とを備え、
レーザチャンバ(12)と少なくとも一方のホルダ(31A,31B)との間に、振動を減衰させる振動減衰部材を介在させたことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項10】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
レーザチャンバ(12)がベースプレート(36)上に振動を減衰させる振動減衰部材を介して搭載されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項11】 請求項10記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が弾性体であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項12】 請求項10記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が制振合金で製造され、振動によってたわみを生じる形状であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項13】 請求項11又は12記載のガスレーザ装置において、
前記レーザチャンバ(12)が、ベースプレート(36)上に、高さを変更自在の支持部材(54)によって支持されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項14】 請求項13記載のガスレーザ装置において、
前記支持部材(54)の少なくとも一部が制振合金で製造されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項15】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上にレール(37,37)が振動減衰部材を介して保持され、レーザチャンバ(12)が前記レール(37,37)上にローラ(38,38)を介して搭載されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項16】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に固定されたレール(37,37)と、
レーザチャンバ(12)に固定され、レール(37,37)上を摺動自在のローラ(38,38)とを備え、
ローラ(38,38)とレール(37,37)との間に振動減衰部材を介在させることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項17】 請求項16記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が、レーザ発振時にローラ(38,38)が位置するレール(37,37)の切り欠き部(71)に埋め込まれたスプリング(56)であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項18】 請求項17記載のガスレーザ装置において、
前記スプリング(56)の上面の高さを変更自在としたことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項19】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に屹立してホルダ(31A,31B)を保持するキャビティ板(43A,43B)を備え、
ベースプレート(36)とキャビティ板(43A,43B)との間、及びキャビティ板(43A,43B)とホルダ(31A,31B)との間のうち、少なくともいずれか一方に、振動減衰部材を介在させたことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項20】 請求項1?19のいずれかに記載のガスレーザ装置において、
レーザ光(21)の波長を狭帯域化する狭帯域化素子を備え、
前記ホルダが狭帯域化素子を保持するリアホルダ(31B)であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項21】 請求項20記載のガスレーザ装置において、
前記狭帯域化素子がグレーティング(33)であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項22】 請求項21記載のガスレーザ装置において、
前記ガスレーザ装置は、レーザガスがフッ素を含むエキシマレーザ装置(11)又はフッ素分子レーザ装置(50)であることを特徴とするガスレーザ装置。」から、

「【請求項1】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きな値を有する部位のうち、少なくとも1箇所に制振材(59)を貼付したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項2】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
レーザチャンバ(12)、ホルダ(31A,31B)、及びファン駆動手段(35)のうち、少なくともいずれか1箇所の外周部に制振材(59)を貼付したことを特徴とする、ガスレーザ装置。
【請求項3】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きな値を有する部材のうち、少なくとも1箇所を制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項4】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
ファン駆動手段(35)から発生した振動がホルダ(31A,31B)に伝搬する伝搬経路を構成する部材のうち少なくとも一部を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項5】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
ファン駆動手段(35)とホルダ(31A,31B)との間を機械的に連結する部材の少なくとも一部を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項6】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)と、
ベースプレート(36)上に搭載され、レーザガスを封止したレーザチャンバ(12)と、
ベースプレート(36)に機械的に固定されたキャビティ板(43A,43B)と、
キャビティ板(43A,43B)に機械的に保持され、共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)と、
レーザチャンバ(12)内でレーザガスを循環させる貫流ファン(24)と、
貫流ファン(24)を駆動するファン駆動手段(35)とを備え、
キャビティ板(43A,43B)、ベースプレート(36)、ファン駆動手段(35)のハウジング、及びこれらを固定する部材のうち少なくとも1個を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項7】 請求項6記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に固定されたレール(37,37)と、
レーザチャンバ(12)に固定され、レール(37,37)上を摺動自在のローラ(38,38)とを備え、
レール(37,37)、ローラ(38,38)、及びこれらを固定する部材のうち少なくとも1個を、制振合金で製造したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項8】 請求項3?7のいずれかに記載のガスレーザ装置において、
請求項1又は2記載の部位に制振材(59)を貼付したことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項9】 レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)と、
ベースプレート(36)上に搭載された、レーザガスを封止するレーザチャンバ(12)と、
レーザチャンバ(12)の前後に配置された、共振器を構成する光学部品を保持するホルダ(31A,31B)とを備え、
レーザチャンバ(12)と少なくとも一方のホルダ(31A,31B)との間に、振動を減衰させる振動減衰部材を介在させたことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項10】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
レーザチャンバ(12)がベースプレート(36)上に振動を減衰させる振動減衰部材を介して搭載されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項11】 請求項10記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が弾性体であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項12】 請求項10記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が制振合金で製造され、振動によってたわみを生じる形状であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項13】 請求項11又は12記載のガスレーザ装置において、
前記レーザチャンバ(12)が、ベースプレート(36)上に、高さを変更自在の支持部材(54)によって支持されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項14】 請求項13記載のガスレーザ装置において、
前記支持部材(54)の少なくとも一部が制振合金で製造されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項15】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上にレール(37,37)が振動減衰部材を介して保持され、レーザチャンバ(12)が前記レール(37,37)上にローラ(38,38)を介して搭載されていることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項16】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に固定されたレール(37,37)と、
レーザチャンバ(12)に固定され、レール(37,37)上を摺動自在のローラ(38,38)とを備え、
ローラ(38,38)とレール(37,37)との間に振動減衰部材を介在させることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項17】 請求項16記載のガスレーザ装置において、
前記振動減衰部材が、レーザ発振時にローラ(38,38)が位置するレール(37,37)の切り欠き部(71)に埋め込まれたスプリング(56)であることを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項18】 請求項17記載のガスレーザ装置において、
前記スプリング(56)の上面の高さを変更自在としたことを特徴とするガスレーザ装置。
【請求項19】 請求項9記載のガスレーザ装置において、
ベースプレート(36)上に屹立してホルダ(31A,31B)を保持するキャビティ板(43A,43B)を備え、
ベースプレート(36)とキャビティ板(43A,43B)との間、及びキャビティ板(43A,43B)とホルダ(31A,31B)との間のうち、少なくともいずれか一方に、振動減衰部材を介在させたことを特徴とするガスレーザ装置。」へと補正された。

(2)上記(1)によれば、本件補正は、以下の内容を含むものである。
ア 本件補正前の請求項1?6及び9に記載した発明を特定するために必要な事項である「所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するガスレーザ装置」が「レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成」するとの事項を備えているとの限定をする補正。
イ 本件補正前の請求項20?22を削除する補正。

したがって、本件補正前の請求項3についてした補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項3に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用例
(1)原査定の拒絶の理由において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-229889号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。

ア 「2.特許請求の範囲
一対の電極2、3間にて放電され、この放電部に封入されているレーザ媒質ガスが励起されるようにし、また上記レーザ媒質ガスを放電部4へ送り込む送風機7等をガス流駆動機ベース9を介して装置枠11に固着したガスレーザ発振装置において、上記ガス流駆動機ベース9に吸振金属を用いたことを特徴とするガスレーザ発振装置。」(第1頁左下欄第4行?第12行)
(審決注:「装置枠1」は「装置枠11」の誤記であることが明らかであるので、上記のとおり修正して摘記した。)

イ 「従来の技術
従来の例えば3軸直交型の放電励起型のガスレーザ発振装置は第3図、第4図に示すようになつていて、電源1の出力を一対の電極2,3間の放電部4に放電が生じ、同部分に封入されているレーザ媒質ガスが励起され、全反射鏡5と部分透過鏡6からなる光共振器の間でレーザ発振が生起する。この発振光の一部がレーザ光として部分透過鏡6より取り出される。このとき、レーザ媒質ガスは送風機7により放電部4を数10?数100m/sの速度で通過した後、熱交換器8で冷却され、再び放電部4へ送り込まれる。送風機7はガス流駆動機ベース9に固定され、防振ゴム10をはさんで装置枠11に固定され、送風機7にて発生した振動が装置全体に伝わらないようにしである。」(第1頁左下欄第17行?右下欄第12行)

ウ 「問題点を解決するための手段及び作用
本発明は上記のことにかんがみなされたもので、防振部材からレーザ特性に悪影響を与える脱ガスの発生をなくして、長時間のガス封じ切りが可能となり、また防振ゴムという部品が1点なくなり、これを設置する作業になつて据付け作業が簡単になるようにしたガスレーザ発振装置を提供しようとするもので、その構成は、ガス流駆動機ベースに吸振金属を用い、ガス流駆動機ベースに振動を吸振するようになっている。
実 施 例
本発明の実施例を第1図、第2図に基づいて説明する。なおこの実施例において、第3図、第4図に示す従来例と同一部材は同一符号を付して説明を省略する。
送風機7を固定するガス流駆動機ベース9は吸振合金にて構成されている。そしてこのベース9は装置枠11に固着されている。
上記吸振合金とは、たたいても音がしない合金のことであり、内部摩擦が非常に大きく、弾性エネルギを熱エネルギに変換する能力が非常に大きいために、振動を速やかに減衰する機能をもつている。
上記吸振合金の成分の例を示すと以下の通りである。
・・・(中略)・・・
発明の効果
ガスレーザ発振装置においては、レーザ発振出力の向上また長時間のガス封じ切りによる連続発振を可能にするということは、装置の性能を向上させるための根本的な問題点である。特に長時間のガス封じ切り連続発振が可能となるということは、装置の信頼性維持のために不可欠なことである。吸振金属を従来の防振ゴムの代りに使用することにより上記の2点が可能になる。また、吸振性が金属にあるため、装置の振動による光共振器のミスアライメントによるレーザ出力変動がなくなり信頼性が高くなり、また振動音による環境に対する悪影響も減少する。さらに防振ゴムを設置する作業がなくなり、据付け作業が簡単になる。また防振ゴム設置時の装置枠とガス流駆動機ベース間のゴムの締め圧の調整が必要でなくなり、この面からも装置の信頼性が増す。そしてさらに吸振合金を用いることにより、高強度、高硬度、耐熱性、耐食性、低熱膨張、低比重、及び非磁性の特性をバランスよく付与したガス流駆動機ベースに最適なベースを得ることができる。」(第2頁左上欄第1行?第3頁右下欄第2行)

エ 第2図の記載、上記イの「・・・全反射鏡5と部分透過鏡6からなる光共振器の間でレーザ発振が生起する。」との記載及び上記ウの「なおこの実施例において、第3図、第4図に示す従来例と同一部材は同一符号を付して説明を省略する。」との記載に照らせば、引用例の実施例において、「全反射鏡5と部分透過鏡6からなる光共振器の間でレーザ発振が生起する」構成を読み取ることができる。

(2)上記(1)の各事項によれば、引用例には、
「一対の電極2、3間にて放電され、この放電部に封入されているレーザ媒質ガスが励起され、全反射鏡5と部分反射鏡6からなる光共振器の間でレーザ発振が生起し、また上記レーザ媒質ガスを放電部4へ送り込む送風機7等をガス流駆動機ベース9を介して装置枠11に固着したガスレーザ発振装置において、上記ガス流駆動機ベース9に吸振合金を用い、ガス流駆動機ベースに振動を吸振するようになつているガスレーザ発振装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
(1)本願補正発明と引用発明とを以下に対比する。
ア 引用発明の「全反射鏡5」、「部分反射鏡6」、「共振器」、「ガスレーザ発振装置」及び「吸振合金」は、それぞれ、本願補正発明の「光学部品」、「フロントミラー」、「共振器」、「ガスレーザ装置」及び「制振合金」に相当する。

イ 引用発明においては、「ガス流駆動機ベース9に」「吸振合金」(本願補正発明の「制振合金」に相当。)「を用い、ガス流駆動機ベースに振動を吸振するようになつている」から、引用発明は、本願補正発明の「レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きい値を有する部材のうち、少なくとも1箇所を制振合金で製造した」との事項を備えているといえる。

ウ 引用発明は「ガスレーザ発振装置」(本願補正発明の「ガスレーザ装置」に相当。)である以上、「所望する波長を中心とした領域の波長のみを発振する」点で、本願補正発明の「ガスレーザ装置」と一致するといえる。

(2)上記(1)によれば、本願補正発明と引用発明とは、
「光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした領域の波長のみを発振するガスレーザ装置において、
レーザ発振時に発生する振動の振幅が所定の値よりも大きな値を有する部材のうち、少なくとも1箇所を制振合金で製造したガスレーザ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
本願補正発明においては、「光学部品」が「レーザ光(21)の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む」ものであり、「所望する波長を中心とした領域」が「狭い」のに対し、引用発明はそうなっていない点。

4 判断
上記[相違点]について検討する。

ガスレーザ装置の技術分野において、レーザ光の波長を狭帯域化する目的で、レーザ光の波長を狭帯域化するプリズムおよびグレーティングを含む光学部品とフロントミラーとで共振器を構成し、所望する波長を中心とした狭い領域の波長のみを発振するようにすることは、本願出願前に周知の技術である(たとえば、原査定の拒絶の理由において引用された特開平8-88426号公報の【0013】、【0023】の各記載のほか、特開2000-208848号公報の【0004】?【0008】の記載、特開平5-283785号公報の【0002】の記載を参照。)。
してみれば、引用発明のガスレーザ装置においてレーザ光の波長を狭帯域化する目的で、上記周知技術を採用し、本願補正発明のようにすることは当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本願補正発明の効果は、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測し得たものである。
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明
1 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成18年11月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定されるものであって、上記第2の1(1)において、本件補正前の請求項3として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記第2の2のとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明において、上記第2の1(2)アの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の要件を付加したものに相当する本願補正発明が上記第2の4のとおり、引用例に記載した発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載した発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-07-16 
結審通知日 2008-07-22 
審決日 2008-08-15 
出願番号 特願2002-9835(P2002-9835)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前川 慎喜  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 山村 浩
吉野 公夫
発明の名称 ガスレーザ装置  
代理人 木村 高久  
代理人 木村 高久  

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