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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200617636 審決 特許
訂正2008390058 審決 特許
不服20058174 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09D
管理番号 1185540
審判番号 無効2006-80228  
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-11-02 
確定日 2008-09-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3272111号「低屈折率膜形成用塗料、帯電防止・反射防止膜および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体並びに陰極線管」の特許無効審判事件についてされた平成19年7月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、請求項1についての部分の審決取消の判決(平成20年5月28日言渡、平成19年(行ケ)10319号)があったので、審決が取り消された部分である請求項1についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3272111号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、6分の5を請求人の、6分の1を被請求人の負担とする。  
理由 第1 手続の経緯
平成5年8月6日、名称を「低屈折率膜形成用塗料、および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体および陰極線管」とする発明につき特許出願(特願平5-196535号、請求項の数9)がされ、拒絶理由通知を受けたので、平成13年11月2日付けで発明の名称を「低屈折率膜形成用塗料、帯電防止・反射防止膜および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体並びに陰極線管」とし請求項の数を6とする等を内容とする手続補正がされたところ、平成14年1月25日に特許第3272111号として設定登録を受けた(請求項の数6。以下、その特許を「本件特許」、その明細書を「特許明細書」という。)。
平成18年11月2日に本件特許の請求項1ないし6につき本件特許無効審判の請求がされ、平成19年7月31日に全請求項につき「本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がされたところ、請求項1に対する審決部分の取り消しを求め知的財産高等裁判所に出訴され、平成19年(行ケ)10319号事件として審理された結果、平成20年5月28日に「特許庁が無効2006-80228号事件について平成19年7月31日にした審決のうち、請求項1について審判の請求は成り立たないとした部分を取り消す。」との判決がされた。
なお、請求項2ないし6に係る審決は、特許法第178条第3項に定める期間に審決取消の訴えがされなかったことにより、平成19年9月10日に確定した(当該請求項2ないし6に対する審決は、後記「参考」を参照のこと)。

第2 本件発明
特許第3272111号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認められる。
「シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなることを特徴とする低屈折率膜形成用塗料。」

第3 無効理由の概要
請求人は、本件発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。
本件発明1についての無効理由は、本件発明1は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり若しくは甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項の規定に該当し、又は同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1についての特許は同法第123条第1項第2号の規定に違反してされたものである、というものである(以下、この理由を「本件無効理由」という。)。

第4 証拠方法の内容
特開平5-13021号公報(甲第1号証。以下「甲1」という。)には、以下の記載がある(下線は審決で付記。以下同じ。)。
「【請求項1】反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体において、前記超微粒子は表面が凹凸を呈するものであることを特徴とする反射防止体。」
「【請求項2】反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体において、前記超微粒子は少なくともその表面が多孔質である…反射防止体。」
「【請求項8】請求項1乃至6のいずれかにおいて、前記反射防止機能超微粒子はSiO_(2),MgF_(2)の群から選ばれることを特徴とする反射防止体。」
「【請求項31】前記反射防止用超微粒子が粒径100?150nmのSiO_(2)超微粒子であることを特徴とする請求項1乃至9または24乃至27に記載の反射防止体。」
「【0002】
【従来の技術】透明性板表面の反射率を低減する膜(反射防止膜)は古くから研究されておりカメラ,メガネなどのレンズに利用されてきた。…反射防止膜には様々なものが考えられているが、現在利用されているものは主に多層膜と不均一膜である。」
「【0003】多層膜は透明性板表面に低屈折率物質と高屈折率物質とを交互に少なくとも三層積層した構造であり、その反射防止効果は各層感での光学的干渉作用の総合効果である。…」
「【0004】また、膜厚方向に屈折率分布を持つ不均質膜は、膜の平均屈折率が基板ガラスよりも低い場合に反射防止膜となる。不均質膜は透明性板表面を多孔質化したものが一般的である。」
「【0019】…超微粒子を規則正しく緻密に塗布した場合に最も反射率が小さくなることになる。」
「【0020】本発明者等は、先に超微粒子を反射防止膜に適用することを提案したが、更に鋭意検討した結果、塗布液を基板表面上を一定速度で上昇あるいは下降することにより塗布液に混合されている超微粒子が基板上に規則正しく配列,塗布され、理論値に近い低反射率が得られることを見出した。」
「【0021】この場合、表面に凹凸を有する超微粒子を用いることにより、超微粒子表面層での拡散反射が減少し、白濁のない膜が得られることを見出した。…」
「【0049】【作用】上記(1)の如く、凹凸,多孔質化,超微粒子集合の各工夫にて、拡散反射を少なくすることが可能である。拡散反射とは反射の中であらゆる方向に拡散する反射をいう。本発明によれば光路先端が超微粒子の凹部に至るとその光の進行がその凹部内にとどまる。拡散反射は見た目に塗布した膜が白濁し、同時に透過率も悪くなり、しかも解像度も低下する。」
「【0050】解像度を向上させつつ拡散反射率は極力0にしたいが実際には難かしい。超微粒子を極超微粒子(平均粒径0.01μm以下)にすると、拡散反射率は0になるが、一方で正反射率が無処理に近づいてしまう。従って超微粒子としての大きさを保持しつつ、かつ拡散反射率を0に近づける工夫として、凹凸形成(含,多孔質,超微粒子集合)を提案した。」
「【0062】(超微粒子)超微粒子の機能は透明性,透光性に支障のない限り特に限定はされないが、平均粒径としては0.1μm 以下のものをいう。代表的な機能は帯電防止,反射防止及び/又は赤外線反射である。」
「【0064】上記反射防止用超微粒子の平均粒径は100?150nmが望ましい。SiO_(2)等は100nmより小さな粒径では形成された膜の最外表面が平坦になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあり、一方150nmより大きな粒径では反射防止効果は充分得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがあるからである。従って反射防止用超微粒子の粒径は100?150nmが好ましい。この場合、表面に凹凸を有する超微粒子を用いると、超微粒子表面での散乱光が減少し、その結果膜全体の拡散反射も非常に少なくなって白濁を解消することができる。」
「【0092】薄膜形成方法は、Si(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に、本発明超微粒子…を分散し、この溶液を透光性画像表示画板上に塗布した後、この塗布面を加熱(焼成)して前記Si(OR)_(4)を加水分解した超微粒子薄膜をSiO_(2)で覆った膜を形成することになる。Si(OR)_(4) の分解物たるSiO_(2) は超微粒子と基板との間隙にも入り込むから接着剤の役目もある。」
「【0093】上記Si(OR)_(4)のRとしては、一般に炭素数1?8特に5のアルキル基が好ましい。またSi(OR)_(4)を溶解させるためのアルコールは、上記Rの炭素数を増加と共にSi(OR)_(4) アルコール溶液の粘性が高くなるので、作業性を考慮して粘性が高くなりすぎないように適宜アルコールを選択すればよい。一般に使用可能なアルコールとしては炭素数が1ないし5のアルコールが挙げられる。」
「【0121】光の反射は屈折率が急変する界面で生じるため、逆に界面において屈折率が徐々に変化すれば反射は生じなくなる。通常、ソーダガラス(屈折率約1.53)の反射防止には、最も低反射率の物質フッ化マグネシウム(MgF_(2))(屈折率約1.38)をスパッタ等によって蒸着させているが、ガラス基板とMgF_(2)膜の界面、MgF_(2)膜と空気(屈折率約1.0)との界面で屈折率で急変するため反射防止効果は十分ではない。従って、ガラス基板に近い屈折率から徐々に空気に近い屈折率へ変化する膜が形成できれば、有効な反射防止効果が得られる。」
「【0122】そこで、ガラス基板とMgF_(2)との中間の屈折率を持つ物質、例えばSiO_(2)(屈折率1.46)の超微粒子とMgF_(2)超微粒子を混合してガラス基板に塗布し、その混合比を膜厚方向で変える、すなわちガラス基板面から塗布膜表面に向って徐々にSiO_(2)超微粒子の混合比を減らし、MgF_(2)超微粒子の混合比を増すことで、塗布面とガラス基板との界面における屈折率変化がよりゆるやかとなり、有効な反射防止効果が図れる。…」
「【0123】ガラス基板に近い屈折率を持つ物質(例えばSiO_(2))と空気に近い屈折率を持つ物質(例えばMgF_(2))とを混合する際に超微粒子を用いることで、両物質が光の波長より小さなレベルで均一に混合することができる。そのため、その屈折率はSiO_(2)とMgF_(2)との体積分率に対応した平均的屈折率となる。すなわち、SiO_(2)超微粒子とMgF_(2)超微粒子とを混合した超微粒子膜において、膜厚方向Xの位置における平均的屈折率n(x)は、同位置におけるSiO_(2)超微粒子の体積分率をV(s)とすると、n(x)=1.46×V(s)+1.38×{1-V(s)}と示せる。従って膜厚方向に混合比を変えれば屈折率も対応して変化し、ガラス基板と塗布膜との界面の屈折率変化がゆるやかとなる。」
「【0136】(塗布溶液)本発明の超微粒子膜の形成には、所定の超微粒子にバインダー…その他添加物を加えた塗布溶液を用いる。」
「【0137】透光性板がガラス体のときはバインダーとしてSi(OR)_(4)(但しRはアルキル基)を使用することが好ましく、透光性板がプラスチックのときはバインダーとしてSi(OR)_(X) (X=2?4、特に好ましくは3)を使用することが好ましい。…」
「【0190】光の反射は屈折率が急変する界面で生じるため、逆に界面において屈折率が徐徐に変化すれば反射は生じなくなる。以上の原理に基づいて膜厚方向に屈折率分布を持たせた膜が前述の不均質膜である。」
「【0191】基板上に光の波長よりも小さい凹凸があると、個々の凹凸は界面と見なせず、基板と空気の体積分率に対応する平均的な屈折率を持つ面とみなせる。すなわち、膜厚方向深さxの位置における平均屈折率n_(x)は、基板の占める体積分率をv(_(x)) 、基板の屈折率をn_(s)、空気の屈折率をn_(a)とすると、n_(x)=n_(s)・v(_(x))+n_(a)(1-v(_(x)))と表わされる。従って、微小な凹凸を形成して、基板の体積分率v(_(x)) を連続的に変化させると、屈折率も連続変化し、不均質膜となり反射を防止することができる。」
「【0192】超微粒子膜をエッチングすると、超微粒子と同等あるいはそれ以下の大きさの凹凸が形成され、前記のごとく不均質膜となり、有効な反射防止膜となる。超微粒子表面の凹凸処理,多孔質化,集合による微粒子化も同様である。」
「【0193】(反射防止機能超微粒子自体の工夫) 図8により反射防止機能超微粒子の態様を例示する。」
「【0194】(a)は表面を多孔質としたもので、各開孔径は0.05μm以下であり、開孔率は50%程度で球状面をまんべくなく(ほぼ均一に)開口している。全体径は平均0.1μm以下が好ましい。多孔質にする手法の一例として核生長法がある。この場合は例えばアルコキシド-水-酸-アルコールの出発原料の配合比を変化させ、加水分解,重合反応を不均一もしくは反応を速めると水分濃度の高い部分が内部に生じる。これらを焼処理すると水分が蒸発し、その跡は空孔となって多孔質となる。」
「【0198】(2層膜形成例)図9は、ガラス基板上に本発明の超微粒子膜を2層に形成した例の断面図であり、図10は前記超微粒子膜の膜厚方向に対する平均屈折率の変化を示す図である。各超微粒子は図8のいずれかの態様による。」
「【0199】まず、エチルシリート〔Si(OC_(2)H_(5))_(4)〕をエタノールに溶解し、さらに水,硝酸,イソプロピルアルコール,アセチルアセトンを加えた溶剤に、SiO_(2)超微粒子を加えて超音波振動により十分に分散させた。SiO_(2)超微粒子の量は、上記溶剤1lに対して、25gとした。SiO_(2)超微粒子分散後、さらにシトラコン酸を加え、十分に溶解させた。シトラコン酸の量は上記溶剤1lに対して10gとした。その後、さらに超音波振動を加えて、SiO_(2)超微粒子の十分な分散、各成分の十分な混合を図った。以上の混合を終えた溶剤を溶剤Aとする。」
「【0200】上記溶剤Aに、あらかじめMgF_(2)超微粒子,エチルシリケートをエタノールに分散しておいた溶剤Bを加え、超音波振動によって均一に混合した。溶剤B中のMgF_(2)超微粒子量は溶剤1lに対し、約25gである。溶剤Aと溶剤Bとの混合比を変えて、SiO_(2)超微粒子とMgF_(2)超微粒子の混合比を変える。」
「【0201】まず、SiO_(2)超微粒子とMgF_(2)超微粒子の体積分率が7:3になるように溶剤Aと溶剤Bとを混合した溶剤をガラス板面上に滴下し、さらにスピンナーで均一に塗布した後、空気中で40℃に約10分間保って上記塗布膜を乾燥させた。乾燥後、さらにSiO_(2)超微粒子とMgF_(2)超微粒子の体積分率が1:1になるように混合した溶剤を滴下し、スピンナーで均一に塗布した。その後、160℃で45分間空気中で焼成し、エチルシリケートを熱分解してSiO_(2)化した。MgF_(2)超微粒子,SiO_(2)超微粒子は熱分解で生じたSiO_(2)によってガラス基板上に強固に固着される。」
「【0202】このようにして形成した超微粒子膜の断面を電子顕微鏡で観察したところ、図9に示すようにSiO_(2)超微粒子52とMgF_(2)超微粒子51が7:3となる層(第1層)が約0.1μm ,1:1となる層(第2層)が約0.1μm で計約0.2μm 膜厚の、SiO_(2)超微粒子,MgF_(2)超微粒子が均一に混合して、密に堆積した膜が観察された。53はガラス基板である。」
「【0203】上記の超微粒子膜の、膜厚方向に対する平均屈降率の変化をSiO_(2)超微粒子とMgF_(2)超微粒子の体積分率から算出した結果を図10に示す。aは空気の屈折率で約1.0 、bは第1層の屈折率で約1.42 、cは第2層の屈折率で約1.44 、dはソーダガラスの屈折率で約1.53 である。膜全体としては、屈折率が徐々に変化しているため、塗布膜とガラス基板との界面における反射率を低減する効果がある。また、超微粒子によって膜を形成しているため、塗布膜表面に微小な凹凸が生じ、塗布膜表面での反射を低減する結果となっている。」
「【0204】上記の超微粒子膜を形成したガラス基板と未処理のガラス基板に対して、5°の入射角度で波長400?700nmの光を入射させ、その反射率を測定し結果を図11に示す。図中Iが上記超微粒子膜を形成したガラス板の反射特性であり、IIが未処理のガラス板の反射特性である。」
「【0205】全波長域において本発明の反射防止膜は未処理のガラス板の約1/4まで反射率が低減している。また透過率は、波長400?700nm間の積分値で示すと、未処理ガラス板が92%に対して本発明の反射防止膜を形成したガラス板は約86%となる。可視光全領域で低反射であり、かつ透過率が高いため、VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)に対する反射防止膜として好適である。」
「【0206】なお、本実施例では混合比を変えた2層としたが、より多層として平均屈折率の変化をより小刻みとすれば反射防止効果は一層増すこととなる。」
「【0207】本実施例によれば、簡単な塗布法をくり返すことで屈折率が連続変化した膜を形成できるため、反射防止膜を低コストで製造できる、さらに大面積の反射防止膜も容易に形成できる効果がある。」
「【0228】…超微粒子の粒径が小さすぎると、形成される膜の最外表面が平滑になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあるので平均粒径100Å以上が好ましい。逆に大きすぎても拡散効果が大きすぎてしまい解像度が低下するとともに膜強度も低下するので、いわゆる超微粒子と定義される0.1μm 以下の平均粒径が好ましい。」

2 APPLIED OPTICS、19巻、9号、1980年5月1日 第1425?1429頁(甲第5号証。以下「甲5」という。)には、以下の記載がある(摘示は抄訳による。)。
a 「物質の屈折率は、その密度に関係し、後者は多孔性を導入することによって低下されることができ、屈折率もまた下げられることができるからである。」(1425頁右欄下から9行?7行)

第5 当審の判断
請求人が主張する、本件発明1が特許を受けることができないとする理由は、第3のとおり、「本件発明1は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり若しくは甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項の規定に該当し、又は同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない」というものであって、その理由は、「本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない」という理由を含むものである。
そこで、まずこの理由について検討する。

1 甲1に記載された発明
甲1は、「反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体において、前記超微粒子は表面が凹凸を呈するものであることを特徴とする反射防止体」(【請求項1】)に関し記載するものであって、その表面が凹凸を呈するものである超微粒子には「少なくともその表面が多孔質」(【請求項2】)である「SiO_(2) 」(「シリカ」である。【請求項8】)が含まれることが認められる。
そして、その「反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜」は、Si(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に、上記超微粒子を分散し、この溶液を基体上に塗布した後、この塗布面を加熱(焼成)して前記Si(OR)_(4)を加水分解し、超微粒子薄膜をSiO_(2)で覆った膜を形成する方法(段落【0092】)などによって形成されることが認められるから、このSi(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に、上記超微粒子を分散したものは、反射防止体形成用塗料であるということができる。
以上によれば、甲1には、
「アルコキシシランSi(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子を分散させた反射防止体形成用塗料」
という発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

2 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1の「シリコンアルコキシド」、「非水溶媒」は、具体的には特許明細書に「このシリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシラン系化合物、アルキルトリアルコキシシラン系化合物、ジアルキルジアルコキシシラン系化合物などから選ぶことができる。また、非水溶媒は、アルコール系化合物、…などから選ぶことができる」(段落【0011】)などと記載されているとおり、甲1発明の「アルコキシシランSi(OR)_(4)」、及び「アルコール」を包含するものである。
また、本件発明1の多孔質シリカ微粉末は、具体的には特許明細書に「平均粒径が0.3?100nmであることが好ましい」(段落【0012】)と記載されているとおり、多孔質シリカの微粒子であるといえ、そして、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」も、その好ましい平均粒子径について不明りょうな点はあるものの、少なくとも、ともに多孔質シリカの微粉末であるといえる。
さらに、甲1発明は「反射防止体形成用塗料」であり、本件発明1は「低屈折率膜形成用塗料」であって、いずれも皮膜形成用塗料であるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、多孔質シリカの微粒子とを分散含有してなる皮膜形成用塗料」
である点で一致するが、以下の点(a)、(b)、(c)で一応の相違が認められる。
(a) 多孔質シリカの微粒子の平均粒子径が、本件発明1では、「0.3?100nm」と特定されるのに対し、甲1発明では、そのような平均粒子径の範囲であるかは明らかではない点
(b) 多孔質シリカの微粉末の屈折率が、本件発明1では、その「1.2?1.4」と特定されるのに対し、甲1発明では、そのような屈折率の範囲であるかは明らかではない点
(c) 皮膜形成用塗料が、本件発明1では、「低屈折率膜」形成用塗料であるのに対し、甲1発明では、「反射防止体」形成用塗料である点
(以下これらの相違点を、それぞれ「相違点(a)」、「相違点(b)」、「相違点(c)」という。)

3 相違点の検討
事案にかんがみ、まず、相違点(b)について検討し、その後、相違点(a)、相違点(c)の順に検討する。

(1) 相違点(b)について
ア 本件発明1は低屈折率膜形成用塗料に関する発明であり、その含有する塗料成分につき、シリコンアルコキシド、非水溶媒、多孔質シリカ微粉末とを含有することを発明特定事項としているところ、これら塗料成分により形成される低屈折率膜自体の屈折率については特定されていない。これについては、含有する上記の多孔質シリカの屈折率(1.2?1.4)等及び平均粒子径(0.3?100nm)を規定する方法によっているものである。
そして、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】一般に画像表示用透明基材、例えばTVブラウン管の画像表示部には静電気が帯電しやすく、この静電気によってほこりが表示面に付着するという問題点が知られている。また、上記画像表示面に、外部の光が反射し、あるいは外部影像が映り込み、表示面の画像を不明瞭にするなどの問題点も知られている。上記の問題点を解決するために、従来、透明基材の表面に、アンチモンをドープした酸化錫微粉末とシリコンアルコキシドの加水分解生成物(以下「シリカゾル」という)との非水性溶媒分散液を塗布・乾燥して帯電防止膜を形成し、前記帯電防止膜上に、それよりも屈折率の低い低屈折率膜を形成することが行われている。即ち、前述のアンチモンドープ酸化錫微粉末と上記のシリカゾルとの混合物を含む非水分散液からなる塗料を用いて帯電防止膜を形成し、その上にシリカゾルの非水分散液からなる塗料を塗布して低屈折率膜を形成するものである。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の帯電防止膜の屈折率は、n=1.50?1.54程度であって、シリコンアルコキシドの加水分解生成物(シリカゾル)により形成される前記低屈折率膜の屈折率との差が小さく、従って、従来の帯電防止膜と低屈折率膜との組合せによる反射防止効果は十分なものではなかった。また、前述した酸化インジウム等の透明導電膜をスパッタ法や蒸着法等で形成したフェースプレートを表示面に張り付ける方法で得られる陰極線管は、非常に高価である。一方、着色帯電防止液をコーティングする方法によって得られる帯電防止・光フィルター付き陰極線管では、導電性が不足しているために、十分な電磁波遮蔽効果が得られず、更には、着色帯電防止コーティング液をスプレーする方法によって形成される帯電防止・光フィルター・反射防止機能付き陰極線管の場合は、形成された膜の凹凸により、画像の解像度が著しく低下するという問題があった。また、シリカゾルの非分散液からなる低屈折率膜形成用塗料を塗布して形成した低屈折率膜にあっては、帯電防止・反射防止膜付き透明積層体の反射防止機能が不十分であった。」
「【0005】本発明は上記問題を解決するために、十分な反射防止機能を有する低屈折率膜形成用塗料、帯電防止性にすぐれた帯電防止・反射防止膜、および、透明基材の面上に、帯電防止性にすぐれた帯電防止・反射防止膜付き透明積層体、特に帯電防止・高屈折率膜とその上に形成された低屈折率膜とを有する透明積層体ならびに少なくとも表示面がこの帯電防止・反射防止膜で形成された帯電防止・反射防止機能付き陰極線管を提供することにある。」
「【0010】
【作用】本発明の低屈折率膜形成用塗料では、シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有するので、この塗料を塗布・乾燥し、焼付け処理することによって低屈折率膜を形成することができる。こうして得られた低屈折率膜は、十分な反射防止機能を有する。…」
「【0011】…本発明の低屈折率膜形成用塗料は、シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなる。このシリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシラン系化合物、アルキルトリアルコキシシラン系化合物、ジアルキルジアルコキシシラン系化合物などから選ぶことができる。また、非水溶媒は、アルコール系化合物、エステル系化合物、およびケトン系化合物などから選ぶことができる。これらは単一種で用いてもよく、2種以上の混合物として用いても良い。上記塗料を、帯電防止・高屈折率膜上に塗布、乾燥し、これを焼き付け処理すると、シリコンアルコキシド加水分解生成物はシリカとなる。シリカの屈折率は、n=1.46であり、アンチモンドープ酸化錫の屈折率よりも低いが、帯電防止・高屈折率膜との屈折率差を大きくするためには、シリカよりも屈折率が低く、かつ透明性の高い物質との併用が好ましい。」
「【0012】本発明の低屈折率膜形成用塗料中に含まれる多孔質シリカ微粉末(屈折率:n=1.2?1.4)の含有率には、格別の制限はなく、対応する帯電防止・高屈折率膜の組成に応じて適宜に対応することができるが、一般にはシリコンアルコキシドの重量(SiO_(2))に対して0.01?60%の範囲内にあることが好ましい。この多孔質シリカ微粉末は、平均粒径が0.3?100nmであることが好ましい。この平均粒径が100nmを越えると、得られる低屈折率膜において、レイリー散乱によって光が乱反射され、低屈折率膜が白っぽく見え、その透明性が低下することがある。」
「【0013】また、前記多孔質シリカの平均粒径が0.3nm未満であると、微粒子が凝集しやすく、したがって塗料中における微粒子の均一分散が困難になり、塗料の粘度が過大になるなどの問題が生ずる。…」
「【0014】前記多孔質シリカは、シリコンのアルコキシドをアルカリの存在下において、加水分解させたり、シリコンのアルコキシドを高分子、例えば、ポリビニルアルコール、セルロースの存在下において加水分解させることなどにより製造することができる。また、多孔質シリカ微粉末は、粉末状で使用してもよく、分散されたゾル状で使用してもよい。粉末状の多孔質シリカを使用したときの形状は、球状、針状、板状、および鎖状等のいずれであってもよい。」
「【0031】このため、帯電防止・高屈折率膜形成用塗料を用いて得られる帯電防止・高屈折率膜は、極めて優れた帯電防止効果および電磁波遮蔽効果を示す。そして、前記帯電防止・高屈折率膜は、n(屈折率)=1.6?2.0という高屈折率を具有する。」
「【0032】また、特に本発明の透明積層体にあっては、基材面での反射光を低減させるために、上記の帯電防止・高屈折率膜の上に屈折率差0.1以上、好ましくは0.15以上の低屈折率膜を設ける。これにより、極めて優れた反射防止性をも具現すことになる。これは、低屈折率膜表面からの反射光と帯電防止・高屈折率膜の界面からの反射光とが干渉によって打ち消しあい、さらに高屈折率膜に存在するカーボンブラック粒子により、帯電防止・高屈折率膜内に侵入する外光が吸収されるからである。これによって、反射防止効果を従来以上に高めることができる。」
「【0037】前記塗料により形成された第一層目の膜では、アンチモンドープ酸化錫に、さらに高導電性の黒色系着色導電性微粉末が添加されたことによって、帯電防止効果の他に、電磁波シールド効果、さらに光吸収による画像の高コントラスト化効果を付与することができる。また、第一層目の膜上に、それより低屈折率の第二層目の膜を形成したことによって、第一層目と第二層目との組み合わせによる光学的反射防止効果を付与することができる。」
「【0040】次いで、第二層目の低屈折率膜形成用塗料としては、表面硬度、屈折率の点から、シリコンアルコキシドを加水分解して得られるシリカゾルを含む塗料を用いてもよい。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のシリコンアルコキシドをメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、ケトン類、アルデヒド類、エチルセロソルブ等の1種又は2種以上の混合溶媒に加え、それに水と塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の酸を加えて加水分解してシリカゾルを生成した溶液を第二層目の低屈折率膜形成用塗料として用いることができる。これら塗料の塗布方法としては、スピンコート法、スプレー法、ディップ法等が適用できるが、陰極線管上に膜厚の均一な膜を形成する場合には、スピンコート法が好ましい。」
「【0043】(実施例2)実施例1と同様な操作を行い、下記の調製した塗料(b)を用いた。100gのテトラメトキシシランと530gのメタノールとを混合し、この混合液に室温で23.5gのアンモニア水を添加し、24時間撹拌した。その後、24時間還流してアンモニアを除去してさらに濃縮し、平均粒子径が10nmの多孔質シリカゾル(固形分20重量%)を得た。この多孔質シリカ/バインダーの量比を変化させて反射防止膜を作製し、その時の屈折率と多孔質シリカ濃度との関係から、多孔質シリカ100%の値を外挿し、屈折率が1.25の多孔質シリカを得た。この2.0gの多孔質シリカゾル(約10nm)を0.6gのテトラエトキシシランとともに0.6gの0.1N塩酸、96.8gのエチルアルコール溶液に混合し、均一に分散させ塗料(b)とした。得られた透明積層体の評価結果を表1に示す。」
「【0054】【発明の効果】本発明の低屈折率膜形成用塗料は、シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有しているので、帯電防止・高屈折率用膜の上に均一にシリコンアルコキシドを分散させて積層させることができる。この塗料中に多孔質シリカ微粉末を分散含有させるので、十分に反射防止機能を有する低屈折率膜を製造でき、これを用いて帯電防止・反射防止膜の反射防止機能を向上させることができる。」
「【0055】本発明に係わる帯電防止・反射防止膜は、透明基材上に帯電防止性に優れ屈折率が高い膜を容易に形成することを可能にするものであって、特に、帯電防止・高屈折率膜形成用塗料を用いて得られた帯電防止・高屈折率膜に低屈折率膜を組み合わせることによって、実用的性能の優れた帯電防止・反射防止膜付き透明積層体が得られる。…」
イ 上記によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 従来、画像表示用透明基材(ブラウン管等)の画像表示部が帯電してほこり等が付着する問題、及び、画像表示部に光が反射等し画像を不明瞭にする問題を解決するため、画像を表示する透明基材の表面に、まず帯電防止膜を形成し、その上にシリカゾルの非水分散液からなる塗料を塗布し、低屈折率膜を形成する方法がとられてきた(段落【0002】)。
しかし、帯電防止膜の上に形成する上記の低屈折率膜は、従来シリカゾル(シリコンアルコキシドの加水分解生成物)の非水分散液からなる塗料を用いて形成していたが、その帯電防止膜の屈折率(1.50?1.54)との差が小さく反射防止効果が十分でないという課題があった(段落【0002】、【0004】)。
そこで、本件発明1は十分な反射防止機能を有する低屈折率膜を形成することができる塗料を提供する(段落【0005】、【0010】)ことを目的及び効果とする。
すなわち、本件発明1は、上記の低屈折率膜(の形成用塗料)に関する発明である。
そして本件発明1に係る低屈折率膜は、第一層の膜として帯電防止・高屈折率膜を形成した後に、その上に塗布・形成し、この第一層目と第二層目の組み合わせにより光学的反射防止効果を付与するものであり(段落【0037】)、第二層目(低屈折率膜)の塗料成分等について段落【0011】、【0040】に記載されている。
(イ) 既に検討したとおり、本件発明1は、その特許請求の範囲に記載されたようにシリコンアルコキシド、非水溶媒、多孔質シリカ微粉末とを含有する低屈折率膜形成用塗料であるところ、これにより形成される膜自体の屈折率は規定されておらず、多孔質シリカの屈折率等によって規定されている。
そして、この多孔質シリカの屈折率(1.2?1.4)の点についての本件明細書の記載をみると、まず「シリカの屈折率は1.46」(段落【0011】)とあるのはシリカの一般の屈折率をいうにすぎないところ、本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率「1.2?1.4」はこれよりも低い数値である。そしてその屈折率の数値については、段落【0011】、【0012】にこの屈折率の多孔質シリカ微粉末を用いるとの記載はあるものの、上記で該当段落を摘示したとおり、その屈折率の多孔質シリカ微粉末を用いると記載されているだけで、その屈折率に関する技術的ないし臨界的意義に関しては何らの記載もない。
加えて、本件明細書に記載された実施例1?3のうち、多孔質シリカ微粉末の屈折率についての記載があるのは実施例2(段落【0043】?【0048】。そのうち実施例2に用いた低屈折率膜形成用塗料の作製に関する記載は段落【0043】)のみであるところ、そこにも「屈折率が1.25の多孔質シリカを得た。」(段落【0043】)との記載があるだけである。この屈折率が1.25の多孔質シリカを得るに当たっては、低屈折率膜形成用塗料の原料として段落【0040】にあげられたテトラメトキシシランとメタノールを用いて多孔質シリカを得たとされているものの、「この多孔質シリカ/バインダーの量比を変化させて反射防止膜を作製し、その時の屈折率と多孔質シリカ濃度との関係から、多孔質シリカ100%の値を外挿し、屈折率が1.25の多孔質シリカを得た。」とするのみで、具体的に屈折率が1.2?1.4の多孔質シリカ微粉末を用いることに関する記載はない。
なお、「帯電防止・高屈折率膜は、n(屈折率)=1.6?2.0…上記の帯電防止・高屈折率膜の上に屈折率差0.1以上」(段落【0031】?【0032】)と、低屈折率膜につき帯電防止・高屈折率膜との屈折率との差を0.1以上とすることの記載はあるものの、多孔質シリカ微粉末の屈折率との関係についての記載はない。
そうすると、本件発明1の低屈折率膜形成用塗料は、所定成分を配合することにより低屈折率の塗膜を形成できるものであって、分散含有される多孔質シリカ微粉末については、シリカゾルから形成される従来のシリカ(屈折率1.46)よりも低い屈折率物質であることを特定したものであると解されるにとどまるというべきである。
ウ 一方、甲5には「物質の屈折率は、その密度に関係し、後者は多孔性を導入することによって低下されることができ、屈折率もまた下げられることができるからである。」(摘示a)と記載されている。
上記の記載によれば、物質の屈折率は、その物質の多孔質化により小さくなることは周知事項であると認められる。
エ さらに、甲1の段落【0198】?【0207】には、屈折率の異なる2種類の粒子を混合し、その混合比を変えて屈折率が異なる2層の膜をガラス基板上に形成した実施例が記載されている。具体的には、SiO_(2)(屈折率1.46)及びそれよりも低屈折率のMgF_(2)(屈折率1.38)を7:3で混合したガラス基板上の層、1:1で混合したその上の層からなり、体積分率から算出された平均屈折率は前者の層が約1.44、後者の層が約1.42であると認められる。
これらの記載によれば、甲1には、低屈折率の粒子を混合することによって、シリカ(SiO_(2))単独の膜よりも低屈折率の膜を形成する手段が開示されているといえる。
そして、上記低屈折率膜を形成するMgF_(2)粒子の屈折率1.38は、本件発明1の多孔質シリカ微粉末の屈折率(1.2?1.4)の範囲内の数値である。
オ そうすると、甲1発明の反射防止体形成用塗料は、下記(3)で述べるとおり低屈折率膜形成用塗料を含むと認められるところ、その低屈折率膜を形成する手段として「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」をシリカよりも低屈折率のものとすることは当業者が容易に想到し得る事項であり、上記ウのように多孔質シリカは中実(孔のない)のシリカよりも屈折率が小さいこと、(中実の)シリカの屈折率が1.46であることを考慮すれば、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」の屈折率を、「1.46」より低い数値範囲の「1.2?1.4」とすることに格別の困難性は認められないというべきである。
カ さらに、このような屈折率の多孔質シリカの微粉末を分散含有したことによる本件発明1の効果については、本件明細書に「この塗料中に多孔質シリカ微粉末を分散含有させるので、十分に反射防止機能を有する低屈折率膜を製造でき、これを用いて帯電防止・反射防止膜の反射防止機能を向上させることができる。」(段落【0054)】)と記載されているとおり、低屈折率膜の形成により反射防止効果を向上させるという、低屈折率膜から予想できる程度の効果にすぎず、格別顕著なものとは認められない。
キ 以上の検討によれば、甲1発明において、相違点(b)に係る本件発明1の発明特定事項を甲1発明に適用することは、甲1の記載及び当業者の技術常識に基づいて容易に想到することができたものであると認められる。

(2) 相違点(a)について
ア 甲1には「反射防止膜には様々なものが考えられているが、現在利用されているものは主に多層膜と不均一膜である」(段落【0002】)と、反射防止膜には主に2種のものがあり、前者の「多層膜」は「透明性板表面に低屈折率物質と高屈折率物質とを交互に少なくとも三層積層した構造であり、その反射防止効果は各層感での光学的干渉作用の総合効果である」(段落【0003】)ものとされている。また、後者の「不均一膜」(不均質膜)は「膜厚方向に屈折率分布を持つ不均質膜は、膜の平均屈折率が基板ガラスよりも低い場合に反射防止膜となる。不均質膜は透明性板表面を多孔質化したものが一般的である。」(段落【0004】)ものとされ、さらに、「光の反射は屈折率が急変する界面で生じるため、逆に界面において屈折率が徐徐に変化すれば反射は生じなくなる。以上の原理に基づいて膜厚方向に屈折率分布を持たせた膜が前述の不均質膜である。基板上に光の波長よりも小さい凹凸があると、個々の凹凸は界面と見なせず、基板と空気の体積分率に対応する平均的な屈折率を持つ面とみなせる。すなわち、膜厚方向深さxの位置における平均屈折率n_(x)は、基板の占める体積分率をv(_(x)) 、基板の屈折率をn_(s)、空気の屈折率をn_(a)とすると、n_(x)=n_(s)・v(_(x))+n_(a)(1-v(_(x)))と表わされる。従って、微小な凹凸を形成して、基板の体積分率v(_(x)) を連続的に変化させると、屈折率も連続変化し、不均質膜となり反射を防止することができる。」(段落【0190】?【0191】)と記載されている。
甲1発明の反射防止体の反射防止は、例えば、図5に示されるような、超微粒子により皮膜表面を微小な凹凸の皮膜によることから、不均質膜を形成したことによるものと認められる。そして、その「不均質膜」には、微小な凹凸の皮膜のほか、段落【0198】?【0207】に記載される例のような、屈折率の異なる2種類の粒子を混合しその混合比を変えた、屈折率が異なる2層ないしそれ以上の膜からなるものが包含されることが認められる。
イ そして、甲1には、その反射防止体形成用塗料に用いる超微粒子の(平均)粒径について、100?150nm(が好ましい)とする記載、100nm以下(が好ましい)とする記載等、様々な記載が見受けられる。
例えば、前者として、「反射防止用超微粒子が粒径100?150nmのSiO_(2)超微粒子である」(【請求項31】)、「反射防止用超微粒子の平均粒径は100?150nmが望ましい。SiO_(2)等は100nmより小さな粒径では形成された膜の最外表面が平坦になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあり、一方150nmより大きな粒径では反射防止効果は充分得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがあるからである。従って反射防止用超微粒子の粒径は100?150nmが好ましい。」(段落【0064】)などの記載がある一方、後者として、「(反射防止機能超微粒子自体の工夫) 図8により反射防止機能超微粒子の態様を例示する。(a)は表面を多孔質としたもので、各開孔径は0.05μm以下であり、開孔率は50%程度で球状面をまんべくなく(ほぼ均一に)開口している。全体径は平均0.1μm以下が好ましい」(段落【0193】?【0194】)の記載、「超微粒子の粒径が小さすぎると、形成される膜の最外表面が平滑になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあるので平均粒径100Å(審決注:10nmと同じ)以上が好ましい。逆に大きすぎても拡散効果が大きすぎてしまい解像度が低下するとともに膜強度も低下するので、いわゆる超微粒子と定義される0.1μm (審決注:100nmと同じ)以下の平均粒径が好ましい」(段落【0228】)などの記載がある。
上記のとおり甲1には、超微粒子の(平均)粒径について、様々な記載が見受けられるものの、その平均粒子径の両者の範囲の意義は、下限値について、前者は「100nmより小さな粒径では形成された膜の最外表面が平坦になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあり」(段落【0064】)と、後者も「小さすぎると、形成される膜の最外表面が平滑になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがある」(段落【0228】)から好ましいと、上限値について、前者は「150nmより大きな粒径では反射防止効果は充分得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがある」(段落【0064】)と、後者は「大きすぎても拡散効果が大きすぎてしまい解像度が低下するとともに膜強度も低下する」(段落【0228】)から好ましいと、両者の範囲いずれも、形成される皮膜の最外表面が平坦になりすぎない程度に大きいが、しかし、拡散反射が大きくなりすぎず、解像度等が低下しすぎない程度に小さいことが「好ましい」というにすぎないものであって、臨界的な意義のあるものではなく、その範囲でなければ反射防止体形成用塗料のための超微粒子として使用することができないというものではないと認められ、しかも、両者の範囲は100nmにおいて重複することが認められる。
ウ そうすると、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」には、いずれにしても、平均粒径が100nmの場合が包含されるといえるから、本件発明1の平均粒子径(下記エのとおり「平均粒径」と同義)が0.3?100nmである多孔質シリカ微粉末と甲1発明の平均粒子径が100nmの「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」とは、重複し、この点で、少なくとも両者は相違するとはいえない。
また、甲1には、100nm以上のものが好ましいとの記載がみられるとしても、100nm未満のものを使用することができないとまではいえないと認められるから、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」には平均粒子径が100nm以下のものも包含し得ると認めるのが相当である。
加えて、甲1発明の「反射防止体」の皮膜が段落【0198】?【0207】に記載される例のような、屈折率の異なる2種類の粒子を混合しその混合比を変えた、屈折率が異なる2層ないしそれ以上の膜からなる不均質膜であるものは、その反射防止効果が(皮膜表面の凹凸あった方がよいとしても)その皮膜表面の凹凸に基づくものではないから、超微粒子の皮膜表面を平坦にしすぎないことは必ずしも必要とされるものではない。そうすると、その場合における超微粒子には、拡散反射及び解像度等の点からより小さいものが好ましいといえるのであるから、その平均粒子径を100nmより小さい適当な平均粒子径とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
エ そして、多孔質シリカ微粉末を本件発明1の平均粒子径(0.3?100nm)としたことによる本件発明1の意義について本件明細書の記載をみると、その平均粒子径の範囲の数値については、段落【0012】、【0013】に、「この多孔質シリカ微粉末は、平均粒径が0.3?100nmであることが好ましい。この平均粒径が100nmを越えると、得られる低屈折率膜において、レイリー散乱によって光が乱反射され、低屈折率膜が白っぽく見え、その透明性が低下することがある。」、「また、前記多孔質シリカの平均粒径が0.3nm未満であると、微粒子が凝集しやすく、したがって塗料中における微粒子の均一分散が困難になり、塗料の粘度が過大になるなどの問題が生ずる。」とする技術的意義に関する記載が認められる。ただし、本件明細書に記載された実施例1?3のうち、多孔質シリカ微粉末の平均粒子径(上記段落【0012】、【0013】の記載からみて「平均粒径」と同義と認められる。)についても記載があるのは実施例2のみであるところ、そこには「平均粒子径が10nmの多孔質シリカゾル(固形分20重量%)を得た。」(段落【0043】)との記載があるだけで、本件明細書には上記技術的意義を具体的に裏付ける記載はない。
そうすると、本件発明1の低屈折率膜形成用塗料に分散含有される平均粒子径の多孔質シリカ微粉末は、それを超える平均粒子径であると「得られる低屈折率膜において、レイリー散乱によって光が乱反射され、低屈折率膜が白っぽく見え、その透明性が低下することがある」ためであり、また、その下限は、「微粒子が凝集しやすく、したがって塗料中における微粒子の均一分散が困難になり、塗料の粘度が過大になるなどの問題が生ずる」ため好ましいというものであって、その範囲に臨界的意義を有することは確認することはできないから、その範囲外であると上記の不都合が生じることがあるという程度のものであってその範囲外のものを使用することができないというほどのものではないと認められる。
オ そして、平均粒子径に基づく本件発明1のこれらの効果は、甲1の記載及び技術常識から予測しうることであって格別のものではない。
すなわち、甲1には、「拡散反射は見た目に塗布した膜が白濁し、同時に透過率も悪くなり、しかも解像度も低下する」(段落【0049】)ため低減することが好ましいことが示され、「超微粒子を極超微粒子(平均粒径0.01μm(審決注:10nmに同じ)以下)にすると、拡散反射率は0になる」(段落【0050】)、「150nmより大きな粒径では…、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがある」(段落【0064】)と平均粒子径が10nmを超えると拡散反射があり、150nmより大きな粒径で拡散反射が大きくなり、膜が白濁することが示されている。そうすると、その150nmよりも小さい、例えば100nm以下とすれば、「超微粒子表面での散乱光が減少し、その結果膜全体の拡散反射も非常に少なくなって白濁を解消することができる」こと、「低屈折率膜が白っぽく見え、その透明性が低下することが」ないという本件発明1の効果は予想できる効果であるといえる。
また、平均粒子径が微細すぎると「微粒子が凝集しやすく、したがって塗料中における微粒子の均一分散が困難になり、塗料の粘度が過大になるなどの問題が生ずる」ことは、超微粒子における技術常識であって、何ら格別のことではない。
よって、本件発明1において多孔質シリカ微粒子の平均粒子径の範囲を「0.3?100nm」とする点の効果は、甲1及び技術常識から予測しうることであって格別のものということはできない。
カ 以上のとおり、相違点(a)は本件発明1と甲1発明との相違点とはいえないか、又は甲1発明において、相違点(a)に係る本件発明1の発明特定事項を甲1発明に適用することは、甲1の記載及び当業者の技術常識に基づいて容易に想到することができたものであると認められる。

(3) 相違点(c)について
本件発明1の「低屈折率膜」形成用塗料は、上記(1)イのとおり、本件発明1に係る多孔質シリカ微粉末を配合することにより、シリカ膜よりも低屈折率の塗膜を形成できるものといえる。
他方、甲1発明の「反射防止体」形成用塗料には、上記(2)イのとおり、段落【0198】?【0207】に記載される例のような、屈折率の異なる2種類の粒子を混合しその混合比を変えた、屈折率が異なる2層ないしそれ以上の膜からなる皮膜を形成できるものも含まれるが、それらの各層の膜は、シリカより低屈折率の微粒子を混合したシリカ膜よりも低屈折率の塗膜であるといえるから、甲1発明の「反射防止体」形成用塗料は、本件発明1の「低屈折率膜」形成用塗料といえる。
以上のとおり、相違点(c)は、本件発明1と甲1発明との相違点とはいえない。

4 まとめ
そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明及び当業者の技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び当業者の技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。そうすると、本件発明1に係る特許は、本件無効理由に含まれるその余の理由を検討するまでもなく、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その6分の5を請求人が、6分の1を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
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(参考:平成19年7月31日付け審決)
審決

無効2006- 80228
東京都板橋区富士見町4?25?701
請求人 市橋 俊一郎
大阪府大阪市北区西天満5丁目13番3号 高橋ビル 北3号館6階 廣瀬特許事務所
代理人弁理士 廣瀬 孝美
東京都千代田区六番町6番地28
被請求人 住友大阪セメント 株式会社
東京都中央区八重洲2丁目3番1号 志賀国際特許事務所
代理人弁理士 志賀 正武

上記当事者間の特許第3272111号発明「低屈折率膜形成用塗料、帯電防止・反射防止膜および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体並びに陰極線管」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。

理 由
I.手続の経緯
本件特許第3272111号発明は、平成5年8月6日に出願され、平成14年1月25日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。
審判における手続の経緯は以下のとおりである。
審判請求 平成18年11月2日
答弁書 平成19年1月23日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成19年4月6日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成19年4月6日
口頭審理 平成19年4月20日
上申書(請求人) 平成19年5月11日
上申書(被請求人) 平成19年5月11日
(なお、本件は口頭審理がなされた後、書面審理に切り替えて審理されたものである。)

II.本件発明
特許第3272111号の請求項1?6に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された以下のとおりのものと認められる。
「【請求項1】シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなることを特徴とする低屈折率膜形成用塗料。
【請求項2】アンチモンドープ酸化錫微粉末および黒色系導電性微粉末からなる固形成分と溶媒とを含む帯電防止・高屈折率膜形成用塗料から形成された帯電防止・高屈折率膜と、この膜上に請求項1記載の低屈折率膜形成用塗料を用いて形成され、かつ、前記帯電防止・高屈折率膜の屈折率よりも0.1以上低い屈折率を有する低屈折率膜とが積層されてなることを特徴とする帯電防止・反射防止膜。
【請求項3】前記溶媒は、沸点が150℃以上であり、かつ、表面張力が40dyne/cm以上である溶媒を含むことを特徴とする請求項2記載の帯電防止・反射防止膜。
【請求項4】前記黒色系導電性微粉末は、カーボンブラック、黒鉛、チタンブラックの少なくとも一つであることを特徴とする請求項2または3記載の帯電防止・反射防止膜。
【請求項5】透明基材の表面上に請求項2、3または4記載の帯電防止・反射防止膜が形成されてなることを特徴とする帯電防止・反射防止膜付き透明積層体。
【請求項6】請求項2、3または4記載の帯電防止・反射防止膜が表示面上に形成されてなることを特徴とする帯電防止・反射防止膜付き陰極線管。」
(以下、請求項1?6に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」、「本件発明5」、「本件発明6」といい、それらをまとめて単に「本件発明」ということもある。)

III.請求人の主張の概要
1.無効理由の概要
請求人は、本件発明1?6に係る特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、審判請求書に添付して甲第1号証?甲第4号証を、さらに、口頭審理陳述要領書に添付して甲第5号証、甲第6号証を、上申書に添付して甲第7号証?甲第15号証を、それぞれ提出し、以下の無効理由1?3を示して、本件発明1?6の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものであると主張している。
(1)無効理由1
本件発明1は、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり若しくは甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項の規定に該当し、又は同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
(2)無効理由2
本件発明2は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)無効理由3
本件発明3?6は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2.証拠方法
甲号各証は以下のとおりである
甲第1号証:特開平5-13021号公報
甲第2号証:特開平5-132309号公報
甲第3号証:特開昭60-203679号公報
甲第4号証:特開平5-36365号公報
(以上、審判請求書に添付)
甲第5号証:APPLIED OPTICS、19巻、9号、1980年 5月1日 第1425?1429頁及びその抄訳
甲第6号証:「気孔率と屈折率のグラフ」
(以上、口頭審理陳述要領書に添付)
甲第7号証:久保亮五外3名共編集「岩波 理化学辞典 第4版」198 9年2月24日第4版第3刷(株式会社岩波書店)746頁「多孔度 」の項
甲第8号証:特公昭63-56802号公報
甲第9号証:特開2006-231123号公報
甲第10号証:株式会社コガネイのホームページの「用語集」の「開口率 」の項(http://wwl.koganei.co.jp/jp /tech/words505ka.html 2007/05/1 0)
甲第11号証:特開平3-218915号公報
甲第12号証:作花済夫著「ゾルーゲル法の科学」(株式会社アグネ承風 社)2006年2月25日、第1版第8刷、154-161頁
甲第13号証:特開昭60-71545号公報
甲第14号証:特開平1-230421号公報
甲第15号証:試験報告書(塗料の塗膜形成の評価、2007年5月9日 株式会社エイブル 牛久保陽一作成)
(以上、上申書に添付)

IV.被請求人の答弁の概要
被請求人は、答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書及びこれらの書類に添付して乙第1号証、乙第2号証、資料1?6を提出し、本件審判の請求は成り立たない旨答弁している。

乙号各証、資料1?6は以下のとおりである。
乙第1号証:玉虫文一外7共編集「岩波 理化学辞典 第3版増補版」第 3版増補版第8刷、1987年2月5日、株式会社岩波書店、514 頁
(答弁書に添付)
乙第2号証:特開平3-150501号公報
(口頭審理陳述要領書に添付)
資料1:特開昭59-213660号公報
資料2:黒崎播磨株式会社のホームページ「ファインポーラス製品]L- type(http://www.krosaki.co.jp/f c/ceranic/fc7.html 2007/05/ 11)
資料3:株式会社コガネイのホームページ「用語集」の「開孔率」の項( http://ww1.koganei.co.jp/jp/tec h/words505ka.html 2007/05/11)
資料4:近藤連一編著者「多孔材料-性質と利用-」(株式会社技報堂) 31頁、昭和48年9月5日初版
資料5:日鉄鉱業株式会社発行のパンフレット「シリナックス」
資料6:作花済夫著「ゾルーゲル法の科学」(株式会社アグネ承風社)2 001年8月20日第1版第8刷、54?71、84?85、154 ?161頁
(以上、上申書に添付)

V.証拠方法の内容
1.甲号各証に記載された事項
あ:甲第1号証
あ-1:「【請求項1】反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体において、前記超微粒子は表面が凹凸を呈するものである・・・反射防止体。
【請求項2】・・・前記超微粒子は少なくともその表面が多孔質である・・・反射防止体。
【請求項3】・・・前記超微粒子の集合によって略球状の微粒子を形成し、該超微粒子間隙が該微粒子の表面の凹凸を形成する反射防止体。」(特許請求の範囲の請求項1?3)

あ-2:「【請求項8】・・・前記反射防止機能超微粒子はSiO_(2) ,MgF_(2) の群から選ばれる・・・反射防止体。」(同請求項8)

あ-3:「【請求項31】前記反射防止用超微粒子が粒径100?150nmのSiO_(2 )超微粒子である・・・請求項1乃至9・・・に記載の反射防止体。」(同請求項31)

あ-4:従来の技術として、「膜厚方向に屈折率分布を持つ不均質膜は、膜の平均屈折率が基板ガラスよりも低い場合に反射防止膜となる・・・ガラス表面に島上の金属蒸着膜を形成後、スパッタエッチングにより微細な凹凸を形成して不均質膜を作り、反射率を低減する方法」(段落【0004】?【0005】)

あ-5:「本発明者等は、先に超微粒子を反射防止膜に適用することを提案したが、更に鋭意検討した結果、塗布液を基板表面上を一定速度で上昇あるいは下降することにより塗布液に混合されている超微粒子が基板上に規則正しく配列,塗布され、理論値に近い低反射率が得られることを見出した。
この場合、表面に凹凸を有する超微粒子を用いることにより、超微粒子表面層での拡散反射が減少し、白濁のない膜が得られることを見出した。」(段落【0020】?【0021】)

あ-6:「【作用】上記(1)の如く、凹凸,多孔質化,超微粒子集合の各工夫にて、拡散反射を少なくすることが可能である。拡散反射とは反射の中であらゆる方向に拡散する反射をいう。本発明によれば光路先端が超微粒子の凹部に至るとその光の進行がその凹部内にとどまる。拡散反射は見た目に塗布した膜が白濁し、同時に透過率も悪くなり、しかも解像度も低下する。」(段落【0049】)

あ-7:「解像度を向上させつつ拡散反射率は極力0にしたいが実際には難かしい。超微粒子を極超微粒子(平均粒径0.01μm以下)にすると、拡散反射率は0になるが、一方で正反射率が無処理に近づいてしまう。従って超微粒子としての大きさを保持しつつ、かつ拡散反射率を0に近づける工夫として、凹凸形成(含,多孔質,超微粒子集合)を提案した。」(段落【0050】)

あ-8:反射防止用超微粒子の平均粒径について、「上記反射防止用超微粒子の平均粒径は100?150nmが望ましい。SiO_(2)等は100nmより小さな粒径では形成された膜の最外表面が平坦になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあり、一方150nmより大きな粒径では反射防止効果は充分得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがあるからである。従って反射防止用超微粒子の粒径は100?150nmが好ましい。この場合、表面に凹凸を有する超微粒子を用いると、超微粒子表面での散乱光が減少し、その結果膜全体の拡散反射も非常に少なくなって白濁を解消することができる。・・・SiO_(2) やMgF_(2 )等の反射防止用超微粒子材料はいずれもその屈折率が1.50 以下である。」(段落【0064】)

あ-9:薄膜形成方法として、「薄膜形成方法は、Si(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に、本発明超微粒子・・・を分散し、この溶液を透光性画像表示画板上に塗布した後、この塗布面を加熱(焼成)して前記Si(OR)_(4)を加水分解した超微粒子薄膜をSiO_(2)で覆った膜を形成することになる。Si(OR)_(4) の分解物たるSiO_(2) は超微粒子と基板との間隙にも入り込むから接着剤の役目もある。」(段落【0092】)

あ-10:反射防止膜の形成方法として、「次に、上記透明導電膜を下地として、その上に反射防止膜を形成する工程について詳述する。・・・Si(OR)_(4)を溶解したアルコール溶液に、粒径100?10,000ÅのSiO_(2)微粒子を分散する・・・上記溶液に更に・・・加水分解を容易ならしめるための水及び触媒として、例えば硝酸のごと無機酸を添加するとさらに好ましい。」(段落【0112】?【0114】)

あ-11:「(塗布溶液)本発明の超微粒子膜の形成には、所定の超微粒子にバインダーや・・・その他添加物を加えた塗布溶液を用いる。透光性板がガラス体のときはバインダーとしてSi(OR)_(4)(但しRはアルキル基)を使用することが好ましく、」(段落【0136】?【0137】)

あ-12:「超微粒子膜をエッチングすると、超微粒子と同等あるいはそれ以下の大きさの凹凸が形成され、前記のごとく不均質膜となり、有効な反射防止膜となる。超微粒子表面の凹凸処理,多孔質化,集合による微粒子化も同様である。
(反射防止機能超微粒子自体の工夫) 図8により反射防止機能超微粒子の態様を例示する。
(a)は表面を多孔質としたもので、各開孔径は0.05μm以下であり、開孔率は50%程度で球状面をまんべくなく(ほぼ均一に)開口している。全体径は平均0.1μm以下が好ましい。多孔質にする手法の一例として核生長法がある。この場合は例えばアルコキシド-水-酸-アルコールの出発原料の配合比を変化させ、加水分解,重合反応を不均一もしくは反応を速めると水分濃度の高い部分が内部に生じる。これらを焼処理すると水分が蒸発し、その跡は空孔となって多孔質となる。」(段落【0192】?【0194】)

あ-13:「超微粒子1は、球形に限らず、・・・超微粒子の粒径が小さすぎると、形成される膜の最外表面が平滑になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあるので平均粒径100Å以上が好ましい。逆に大きすぎても拡散効果が大きすぎてしまい解像度が低下するとともに膜強度も低下するので、いわゆる超微粒子と定義される0.1μm 以下の平均粒径が好ましい。」(段落【0228】)

あ-14:「図13はSiO_(2)超微粒子の粒径分布で、平均粒径は450nmであり、かなり広い粒径分布を有しており、・・・この超微粒子を1wt%Si(OR)_(4)アルコール溶液・・・分散させ、スピンコート法によりガラス基板上に塗布し、その後160℃で30分焼成した。・・・本例のように粒径分布を持つ超微粒子を用いることにより、適度の空孔を持った膜が得られた。前述の如きエッチング処理を施した後に測定したこの膜の反射特性は可視光領域(400?700nm)で0.06?0.3%である。・・・本実施例によれば簡便な方法により、良好な反射防止膜が得られる効果がある。」(段落【0254】?【0256】)

あ-15:図5、図8及び図12(図面は省略)には超微粒子の断面図が記載され、超微粒子の表面に多孔質による凹凸が形成されていることが記載されている。

あ-16:「粒径分布を有する超微粒子を用いた場合には適度の空孔を持たせることができので、結果的には深さ方向に連続的に体積が増加して反射防止効果が得らる。」(段落【0110】)

い:甲第2号証
い-1:「【請求項1】シリカとシリカ以外の無機酸化物の1種または2種以上とからなる複合酸化物の微粒子が分散したゾルであって、・・・を満足する・・・複合酸化物ゾル。」(特許請求の範囲の請求項1)

い-2:「【発明の具体的説明】本発明の複合酸化物は、・・・無機酸化物としては、・・・具体的にはAl_(2)O_(3)、・・・ZrO_(2)、SnO_(2)、・・・等がある。」(段落【0006】)

い-3:「【発明の効果】本発明に係る複合酸化物ゾルは、・・・微粒子の内部に多数の細孔を有している。従って、触媒としての用途以外にも、以下のような種々の用途に適用することができる。(1)・・・(4)更に、多孔質であることから、低屈折率用のフィラーとしたり、コロイド粒子の細孔中に染料や顔料を固定して色素材料としての利用も可能である。(5)その他・・・等に有用である。」(段落【0027】?【0029】)

う:甲第3号証
う-1:「(A)一般式(式省略)で表わされる有機ケイ素化合物の加水分解物 100重量部
ただし、(A)成分中50重量部以上がCH_(3)Si(OR_(2))_(3)で表わされる有機ケイ素化合物の加水分解物(ここで、R^(1)は炭素数が1?10のアルキル基、・・・R^(2)は炭素数が1?8のアルキル基・・・であり、aは0または1である。)
(B)平均粒子径1?100mμの微粒子状シリカ 28?350重量部
(C)1種または2種以上の溶剤および/または分散剤からなり実質的固形分濃度が2重量%以上10重量%未満であるコーテイング組成物をコーテイング被膜の屈折率より0.03以上高い屈折率を有する透明基材表面の少なくとも一部に塗布したのち加熱硬化させることを特徴とする反射防止性透明材料の製造方法。」(特許請求の範囲)

う-2:「また成分(B)は成分(A)100重量部に対し、350重量部より少なく、28重量部より多いことが必要である。成分(B)がこれより少なくなると表面硬度が低下し、またこれより多いと透明基材との接着性不良、クラツクが発生するなどの問題が生ずる。」(6頁左下欄1?6行)

う-3:「通常使用される溶剤・・・としては各種アルコール類、・・・水、・・・などがあり、・・・特に・・・メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、・・・水・・・などが好ましく使用される。」(6頁右下欄下から5行?7頁左上欄8行)

う-4:「実施例 1
(1)透明基材の製造・・・(2)反射防止加工
(a)シラン加水分解物の調製
メチルトリメトキシシラン13.4g、γ?クロロプロピルトリメトキシシラン4.3g、n?プロピルアルコール13.4gを添加し、10℃に冷却したのち撹拌下で0.01規定塩酸水溶液6.5gを滴下した。・・・シラン加水分解物を得た。
(b)コーテイング組成物の調製
上記シラン加水分解物32.4g、n?プロピルアルコール142.7g、・・・水70.8g、・・・を加え、よく混合した後、・・・メタノール分散コロイド状シリカ27.0g、・・・を加えて十分撹拌を行ないコーテイング組成物とした。固形分は5.95%であつた。
(c)塗布およびキユア
前項(1)で製造した透明基材の上に上記(2)、(b)で調製したコーテイング組成物を・・・スピンコートし、コート後は93℃の熱風乾燥機で4時間加熱硬化を行なつた。
(3)試験結果・・・なお、コーテイング被膜の屈折率は1.36であつた。」(8頁右下欄2行?9頁右上欄17行)

え:甲第4号証
え-1:「【請求項1】・・・ガラス画面上に塗料が複数層塗布されて形成される多機能塗布膜であって、ガラス画面側の第1層の塗膜が、テトラエトキシシランをバインダーとし、これに粒径が0.1μm以下のアンチモン含有酸化スズを・・・配合してなる塗料を、・・・塗布して形成されたものであるとともに屈折率が1.52?1.58に調整されており、最外層の塗膜が、テトラエトキシシランをバインダーとし、これに粒径が0.1μm以下のフッ化マグネシウムを・・・配合してなる塗料を、・・・塗布して形成されたものであるとともに屈折率が1.39?1.44に調整されてなることを特徴とする多機能塗布膜。」(特許請求の範囲の請求項1)

え-2:「このような帯電防止のための対策としては、・・・アンチモン含有酸化スズ(ATO)といったのフィラーを配合してなる透明で導電性の塗料でコートする方法がある。」(段落【0003】)

え-3:「[実施例1](a)帯電防止塗布液の製造
粒径8?10nmのATO・・・1.8gと、テトラエトキシシランの部分加水分解液24g・・・とをエタノール74.2gに添加し、・・・分散し、帯電防止塗布液(第1層用塗布液)とした。
(c)反射防止塗布液の製造
粒径が10?15nmのフッ化マグネシウム・・・1gと、テトラエトキシシランの部分加水分解液20g・・・とをエタノール79gに添加し、・・・分散し、反射防止塗布液(最外層用塗布液)とした。」
(1)帯電防止-反射防止膜の成膜
(a)で製造した塗布液をスピンコート法でブラウン管に塗布し、150℃にて20分間焼き付けして0.3μmの帯電防止膜を得た。冷却後、(b)で製造した塗布液を帯電防止膜上にスピンコート法で塗布し、150℃にて20分間焼き付けして0.1μmの反射防止膜とし、2層からなる多機能塗布膜を得た。得られた多機能塗布膜の各種性能を調べ、その結果を表1に示す。」(段落【0025】)

お:甲第5号証
お-1:1425頁右欄3行?1426頁の左欄の式(8)下1行には、多孔質酸化物を用いたガラス表面のための反射防止コーティングについて記載され、多孔質物質の屈折率と多孔率の関係式と併せて第1図にAl_(2)O_(3)、TiO_(2)とともにSiO_(2)の多孔質物質の多孔率と屈折率の関係がグラフに表されており、SiO_(2 )については孔のない中実SiO_(2) の屈折率1.4を基に算出され、また、中実のAl_(2)O_(3)の屈折率が1.7であることが示されている。

か:甲第6号証
か-1:甲第6号証の図は甲第5号証の第1図における、中実シリカの屈折率1.4を本件特許明細書に記載の1.46に置き換えて作成されたものであって、気孔率が0?70%における多孔質シリカの気孔率と屈折率の関係がグラフに表されており、多孔度(気孔率と同じ)15%で多孔質シリカの屈折率が1.4となることが示されている。

き:甲第7号証
き-1「多孔度[porosity]多孔質物質を特徴づける量で、与えられた物質の全体積V_(0)の中で細孔が占める体積Vの割合V/V_(0)をいう」(746頁、多孔度の項)

く:甲第8号証
く-1:「本発明にいう開孔率とは外表面に開孔している微孔の全孔面積の外表面積に対する割合を百分率で示したものである。」(2頁右欄35?37行)

け:甲第9号証
け-1:「ここで、表面開孔率とは、ゼオライト結晶よりなる層を製膜する側の多孔質支持体における、開孔した部分の面積の全面積に対する比率をいう。・・・完全に均質な多孔体においては、表面開孔率は空孔率の2/3乗となるが、実際の多孔質材料においては、圧縮変形等により表面が潰れ、表面開孔率は空孔率の2/3乗より低い値となることが多い。」(段落【0009】?【0010】)

こ:甲第10号証
こ-1:「開口率 多孔質体表面積に対する開口部面積の割合。通常百分率で表す。」(「開口率」の項)

さ:甲第11号証
さ-1:「(1)シード粒子が分散された水-有機溶媒系分散液にテトラエトキシシランを添加して該テトラエトキシシランを加水分解し、前記シード粒子上にシリカを付着させて粒子成長を行わせて単分散されたシリカ粒子・・・の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

さ-2:「実施例6ヒールゾルの調製
純水・・・にNaOH・・・を溶解した後、シリカゾル(・・・平均粒径0.008μm・・・)・・・を加え、さらにメタノール・・・を加えた。これにアンモニアガスを吹き込んでpH11.5に調製した。・・・得られた単分散シリカ粒子の性状を表2に示す。(表2省略)」(5頁左下欄7行?同頁右下欄3行)

し:甲第12号証
し-1:「溶液のゲル化は、溶液中の金属アルコキシドの加水分解と重縮合の結果おこる。シリコンアルコキシド・・・アルコールと水を含んでいる。また、そのほかに触媒として酸あるいはアルカリ(アンモニア)が少量加えられるのがふつうである。」(154頁下から4行?155頁1行)

し-2:「酸を触媒とする溶液で、水含有量が少ない場合には、単量体が完全に加水分解を受ける前に重縮合がおこるので、架橋結合が生じる割合が少なく・・・線状の高分子が生じやすくなる、・・・触媒が酸であっても、出発溶液中の水含有量が大きときには、・・・架橋結合が増し・・・網目的な構造になる・・・と説明できる。」(160頁3?19行)

し-3:「塩基性溶液では、・・・最後まで加水分解され・・・重縮合は三次元的に進み・・・架橋結合の著しい重合体になる。」(160頁20?23行)

す:甲第13号証
す-1:「反射防止シリカ塗膜」(発明の名称)

す-2:「8.ガラス質基材に・・・塗膜を形成させる・・・塗布方法であり・・・孔部形態を有する薄いシリカ塗膜に変化させる方法であって、・・・式Si(OR)_(4)・・・で表される・・・シリコン・アルコキシドと・・・水と・・・有機溶剤と、触媒作用を発揮する少量の鉱酸とから成り、前記塗料溶液は・・・所定条件下で加熱し・・・冷却することにより加水分解度及び重合化度の調整がなされている・・・方法。」(特許請求の範囲の第8項)

す-3:「本発明は、・・・シリカ層全体にわたって少なくとも幾分かの気孔率を有し、・・・露出面に隣接する前記シリカ層部分の気孔率が最も高く、前記シリカ層の気孔率は・・・露出面からの距離が増すにつれて気孔率を漸次減少させ・・・基材の屈折率に近づくよう変化又は傾斜がつけられており、」(第4頁左下欄7行?同頁右下欄10行)

せ:甲第14号証
せ-1:「本発明の多孔質球状シリカ微粒子は例えば以下に述べる製法によって製造することができる。加水分解、縮合可能な一般式(I)SiX_(4)(但しXは・・・水酸基、アルコキシ基・・・)で示されるシラン化合物・・・を触媒と水を含む有機性溶液中で加水分解、縮合して球状シリカ水和物微粒子の有機性溶液懸濁体とする。・・・常圧における沸点が120℃以上のアルコール・・・を微粒子内部細孔内表面のシラノール基と結合せしめ、・・・乾燥及び・・・焼成することにより・・・多孔質球状シリカ微粒子を得ることができる。」(3頁左下欄4?末行)

せ-2:「触媒としては、アンモニア・・・等が好ましい。」(4頁左上欄16?18行)

せ-3:実施例5には粒子径が0.10μmである多孔質の球状シリカ微粒子が記載されている。(7頁下欄の表1参照)

そ:甲第15号証
そ-1:本件特許明細書の実施例1、3の配合割合に習って、12nmの平均粒径のシリカ微粉末を用いて調製した塗料をガラス基板に塗布し、乾燥し、焼成処理して形成した膜についの評価結果として、表面を指で軽く擦るだけでシリカ微粉末が脱落し、膜と言えるほどのものは形成されていないとの記載がされている。

2.乙号各証及び資料1?6に記載された事項

た:乙第1号証
た-1:酸化スズ(SnO_(2) )の屈折率が1.9968であることが記載されている。

ち:乙第2号証
ち-1:甲第1号証の出願人の先願であり、甲第1号証の段落【0075】、【0237】?【0252】と同じ記載がなされている(4頁左上欄10?20行、第10頁右下欄下から2行?第12頁左下欄1行参照)

つ:資料1
つ-1:「開孔率〔全表面積(孔部+非孔部)に対する孔部面積の%〕」(3頁右下欄11?12行)

て:資料2
て-1:「開口率とは平板形状での平面全体に対する見掛けの孔の面積の割合」

と:資料3
と-1:「開口率 多孔質体表面積に対する開口部面積の割合」(甲第10号証と同じものである。)

な:資料4
な-1:31頁に、「全容積に対する細孔容積の割合を空隙比(ml/ml),同じく百分率で示したものを気孔率(%)とよぶ.」(31頁下から8?7行)

に:資料5
に-1:中空ナノシリカの電子顕微鏡写真には、後ろが透けて見えるシリカが掲載されている。

ぬ:資料6(甲第12号証と同じであるので甲12号証と同じ部分は省略
)
ぬ-1:「式(9.3)で表される加水分解の機構は、酸性の溶液と塩基性の溶液で異なる。」(156頁下から9行?下から8行)、

ぬ-2:「反応のしかたに上述のように違いがあることは、反応生成物である溶液中の重合体の形状の違いとなってあらわれる。」(157頁下から2行?最終行)

ぬ-3:表5.2には、触媒として塩酸を用いた溶液I 、II 、III、及び触媒として水酸化アンモニウムを用いた溶液 IV、Vが記載されている。(61頁の表5.2)

ぬ-4:「I、IIは・・・えい糸性を示し、・・・溶液IVおよびVは・・・えい糸性を示さない溶液である。」(60頁下から3行?61頁1行)

ぬ-5:「溶液I・・・溶液中に一次元重合体が生成していることがわかる。・・・溶液V・・・溶液中の重合体が一次元重合体でなく、丸い粒子であることがわかる。」(63頁8?18行)


VI.当審の判断
1.無効理由1について(本件発明1について)
1-1.特許法第29条第1項について
ア.本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるか否か検討する。
請求人は、甲第1号証の発明の構成と本件発明1の構成は多孔質微粉末の屈折率が1.2?1.4であることが甲第1号証に記載されていない点を除き共通し、甲第1号証では屈折率の記載はないが、屈折率の点で両発明が相違するものではないと主張している(審判請求書12頁5?9行参照)。
これに対し被請求人は、甲第1号証には、超微粒子の粒子径として0.1?0.15μm(100?120nm)が好ましいとの記載があるのみで、請求人の共通点の認識が誤っており、また、超微粒子の屈折率が1.2?1.4であることが必要であることについては記載も示唆もされていないと答弁している(答弁書の4頁1行?8頁17行参照)。
そこで、以下検討する。

ア-1. 甲第1号証に記載された発明について
甲第1号証には、特許請求の範囲の請求項1?3に反射防止機能を有する超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体において、超微粒子体は表面が凹凸を呈するもの(請求項1)、少なくともその表面が多孔質であるもの(請求項2)、超微粒子の集合によって略球状の微粒子を形成し、該超微粒子間隙が該微粒子の表面の凹凸を形成するもの(請求項3)(摘記あ-1)、請求項8に前記反射防止機能超微粒子がSiO_(2 )であるもの(摘記あ-2)が記載されているから、甲第1号証には反射防止機能を有する、少なくともその表面が多孔質であるシリカ(SiO_(2))の超微粒子を分散した皮膜を基体に付与してなる反射防止体が記載されているところ、段落【0092】に、上記皮膜である薄膜の形成方法として、Si(OR)_(4()ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に、超微粒子を分散し、この溶液を透光性画像表示画板上に塗布した後、この塗布面を加熱(焼成)して前記Si(OR)_(4)を加水分解した超微粒子薄膜をSiO_(2)で覆った膜を形成することが記載され(摘記あ-9参照)、また、段落【0112】?【0114】に透明導電膜を下地としてその上に反射防止膜を形成する方法として、アルコキシシランSi(OR)_(4)をアルコールに溶解したアルコール溶液に、粒径100?10,000ÅのSiO_(2)微粒子を分散し、加水分解を容易ならしめるための水及び触媒として、例えば硝酸のごとき無機酸を添加するとさらに好ましいことが記載されている(摘記あ-10参照)。
ここで、上記皮膜である薄膜は反射防止膜であり、アルコキシシランSi(OR)_(4)を溶解し、シリカ超微粒子を分散したアルコール溶液は、下地の上に塗布して反射防止膜を形成するものであって反射防止膜形成用塗料であるから、甲第1号証には、
「アルコキシシランSi(OR)_(4)(ただし、Rはアルキル基)を溶解したアルコール溶液に少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子を分散させた反射防止膜形成用塗料」
という発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(なお、シリカ(SiO_(2))微粒子の粒径については請求人と被請求人とで異なる主張がなされているのでシリカの粒径については、ここでは認定せずに以下相違点として判断する。)

ア-2.本件発明1と甲1発明とを対比する。
本件発明1のシリコンアルコキシド、非水溶媒は、本件特許明細書の段落【0011】に「このシリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシラン系化合物、アルキルトリアルコキシシラン系化合物、ジアルキルジアルコキシシラン系化合物などから選ぶことができる。また、非水溶媒は、アルコール系化合物、・・・などから選ぶことができる。」と記載されているから、甲1発明の「アルコキシシランSi(OR)_(4)」は本件発明1の「シリコンアルコキシド」に相当し、甲1発明の「アルコール溶液」は本件発明1の「非水溶媒」に相当する。また、本件特許明細書の段落【0013】に「多孔質シリカの平均粒径が0.3nm未満であると、微粒子が凝集しやすく、したがって塗料中における微粒子の均一分散が困難になり」と記載されているように本件発明1の「微粉末」は、微粒子のことをいうものであるから甲1発明の超微粒子と差異はない。

そうしてみると、本件発明1と甲1発明は
「シリコンアルコキシドと、非水溶媒と、多孔質シリカ微粉末とを分散含有してなる膜形成用塗料」
である点で一致しているが、
(a)多孔質のシリカ微粉末の平均粒子径が、本件発明1では0.3?100nmであると特定されているのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点、
(b)多孔質のシリカ微粉末の屈折率が、本件発明1では、1.2?1.4であると特定されているのに対し、甲1発明では、そのような特定がなされていない点、
(c)塗料の対象が、本件発明1では、低屈折率膜形成用であるのに対し、甲1発明では、反射防止膜形成用である点
で相違している。

ア-3.以下相違点について検討する。
(1)相違点(c)について
本件発明1は、本件特許明細書の段落【0032】に「低屈折率膜表面からの反射光と帯電防止・高屈折率膜の界面からの反射光とが干渉によって打ち消しあい、・・・これによって、反射防止効果を・・・高める」と、また、同段落【0037】に「第一層目と第二層目との組み合わせによる光学的反射防止効果を付与することができる」と記載されているように、各層での反射光の光学的干渉作用により反射防止効果を得る反射防止膜(高屈折率膜と低屈折率膜の多層膜)に使用する低屈折率膜形成用塗料である。
一方、甲第1号証には、段落【0004】?【0005】に「膜厚方向に屈折率分布を持つ不均質膜は、膜の平均屈折率が基板ガラスよりも低い場合に反射防止膜となる・・・ガラス表面に微細な凹凸を形成して不均質膜を作り、反射率を低減する」(摘記あ-4)と記載されているように、甲1発明は、表面に凹凸のある膜を形成して膜厚方向に設けた屈折率分布により反射防止効果を得るための反射防止膜を形成するための塗料であり、形成される膜の反射防止について、本件発明1と甲1発明とではその反射防止の原理が異なっている。
しかし、甲1発明の反射防止膜はガラス等の下地の表面より屈折率が低いものであり、下地の表面より屈折率が低い反射防止膜を形成するための塗料であるから、本件発明1と甲1発明はいずれも下地の表面より屈折率が低い反射防止に用いる膜を形成する塗料である点において同じものであり、相違点(c)は実質的な相違点とはならない。

(2)相違点(a)について
請求人は、シリカ超微粒子が多孔質である態様において平均粒径が0.1μm(100nm)以下であることが好ましいと甲第1号証に記載されていると主張し(審判請求書12頁2?4行参照)、被請求人は、答弁書において、甲第1号証の出願の審査において、段落【0062】の「平均粒径としては0.1μm以下のものをいう。」なる記載を誤りであるとして補正により削除した経緯を根拠にして、甲第1号証には、超微粒子の粒子径として、「100nm?150nmが好ましい」との記載があるのみであると判断するのが妥当である(答弁書4頁1行?5頁13行参照)と、また、口頭審理陳述要領書において、甲第1号証の同一出願人の先願である乙第2号証(白濁を防止するという課題が存在せず、反射防止のみが課題となっており、これを解決するために、超微粒子の平均粒子径を0.1μm以下としている)の記載を誤ってそのまま引用したもので、甲第1号証の平均粒子径は、100?150nmであり、100nm以下であるとの記載は誤りであると主張している(口頭審理陳述要領書の3頁17行?5頁3行参照)。

(2)-1.甲1発明における「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」の粒径について検討する。
特許請求の範囲の請求項31に反射防止機能超微粒子が粒径100?150nmのSiO_(2)超微粒子であること(摘記あ-3)、段落【0064】に、反射防止用超微粒子の平均粒径は100?150nmが望ましく、SiO_(2)等は100nmより小さな粒径では形成された膜の最外表面が平坦になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあり、一方150nmより大きな粒径では反射防止効果は充分得られるが、拡散反射が大きくなり、その結果白濁すると同時に解像度が低下する恐れがあり、表面に凹凸を有する超微粒子を用いると、超微粒子表面での散乱光が減少し、その結果膜全体の拡散反射も非常に少なくなって白濁を解消することができること(摘記あ-8)が記載されている。
一方、段落【0192】?【0194】に「超微粒子膜をエッチングすると、超微粒子と同等あるいはそれ以下の大きさの凹凸が形成され、前記のごとく不均質膜となり、有効な反射防止膜となる。超微粒子表面の凹凸処理,多孔質化,集合による微粒子化も同様である。
(反射防止機能超微粒子自体の工夫)
図8により反射防止機能超微粒子の態様を例示する。
(a)は表面を多孔質としたもので、各開孔径は0.05μm以下であり、開孔率は50%程度で球状面をまんべくなく(ほぼ均一に)開口している。全体径は平均0.1μm以下が好ましい。」(摘記あ-12)と記載され、また、段落【0288】に超微粒子1は、「粒径が小さすぎると、形成される膜の最外表面が平滑になりすぎて充分な反射防止効果が得られない恐れがあるので平均粒径100Å(10nmと同じ)以上が好ましい。逆に大きすぎても拡散効果が大きすぎてしまい解像度が低下するとともに膜強度も低下するので、いわゆる超微粒子と定義される0.1μm(100nmと同じ) 以下の平均粒径が好ましい」こと(摘記あ-13)が記載されている。
してみると、反射防止効果と拡散効果からみて、好ましいとされる平均粒径の範囲について100?150nmと100nm以下との異なる記載がなされており、粒径について整合性のない記載が見受けられる。

しかし、甲1発明の反射防止膜の白濁防止効果について、段落【0020】?【0021】に、「超微粒子を反射防止膜に適用する・・・この場合、表面に凹凸を有する超微粒子を用いることにより、超微粒子表面層での拡散反射が減少し、白濁のない膜が得られることを見出した」(摘記あ-5)と記載され、また、段落【0049】に「【作用】・・・凹凸,多孔質化,超微粒子集合の各工夫にて、拡散反射を少なくすることが可能である。・・・本発明によれば光路先端が超微粒子の凹部に至るとその光の進行がその凹部内にとどまる。」(摘記あ-6)と記載されていることからすると、甲1発明は、シリカ超微粒子を用いて得られた反射防止膜に形成された表面の凹凸での拡散反射の増加による膜の白濁を防止する目的で、表面が多孔質の超微粒子を用い、その表面の多孔質表面の開孔による凹部によって拡散反射を少なくさせることにより、反射防止膜の白濁を防ぐものであると解され、さらに、段落【0050】に「超微粒子を極超微粒子(平均粒径0.01μm(10nm)以下)にすると、拡散反射率は0になるが、一方で正反射率が無処理に近づいてしまう。従って超微粒子としての大きさを保持しつつ、かつ拡散反射率を0に近づける工夫として、凹凸形成(含、多孔質、超微粒子集合)を提案した。」(摘記あ-7)と記載されているのであるから、平均粒径が10nm以上である超微粒子を使用することにより生じる拡散反射は、表面が多孔質の超微粒子の表面の開孔による凹部によって少なくできるものであり、その効果はシリカ超微粒子の平均粒径が100?150nmの範囲のものだけに限らず、100nm以下の範囲のものでも生じるものと解される。
そして、段落【0254】?【0256】に「図13はSiO_(2)超微粒子の粒径分布で、平均粒径は450nmであり(図13からみて、450nmは45nmの誤記であると認める。)、・・・この超微粒子を1wt%Si(OR)_(4)アルコール溶液・・・に分散させ、・・・ガラス基板上に塗布し、その後・・・焼成した。・・・本例のように粒径分布を持つ超微粒子を用いることにより、適度の空孔を持った膜が得られた。前述の如きエッチング処理を施した後に測定したこの膜の反射特性は可視光領域(400?700nm)で0.06?0.3%である。」(摘記あ-14)と記載され、平均粒径45nmのシリカ超微粒子を分散させた膜の反射特性が低いものであって、平均粒径が100nm以下のものにおいても、反射防止効果が得られることも記載されているので、甲第1号証に記載の平均粒径が100nm以下の表面が多孔質であるシリカ超微粒子も甲1発明に利用可能なものと解される。

してみると、甲第1号証には、平均粒径について整合性がない記載も見受けられるものの、甲第1号証の「少なくとも表面が多孔質であるシリカ超微粒子」の平均粒径100nm以下についての記載が明細書の記載からみて、明らかに誤りであるとはいえないので、甲第1号証には、「少なくとも表面が多孔質であるシリカ超微粒子」の平均粒径が100nm以下のものも記載されているものと認められる。
そして、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質のシリカ超微粒子」の平均粒径は、上記のように極超微粒子(平均粒径10nm以下)よりも大きいものであり、10?150nmであると解され、本件発明1の平均粒子径(平均粒径と同じ)0.3?100nmの範囲と重複しているので、多孔質のシリカ微粒子の平均粒径において実質的な差異はなく、相違点(a)は実質的な相違点とはならない。

(3)相違点(b)について
甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」の屈折率について甲第1号証には全く記載されていない。
請求人は、「多孔質のシリカ微粉末の屈折率が、中実シリカの屈折率(1.46)より小さくなることは知られており(甲第5及び6号証:多孔率15%で屈折率1.4)、甲第1号証の多孔質シリカの屈折率が1.2?1.4であることは当然である旨、主張している(口頭審理陳述要領書の1頁下から4?2行)。
甲第5及び6号証には、多孔質物質の膜について、その屈折率は膜の多孔率に関連づけられことが記載されており、特に甲第6号証の図には、シリカ膜の気孔率(多孔率と同じ)0?70%におけるシリカ膜の屈折率が表されている(摘記お-1、か-1参照)。
しかし、甲第5及び6号証の記載により屈折率と開連があるとされる「多孔率」について、甲1発明の「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」がどの程度の多孔率であるのかについては甲第1号証には何も記載されていない。
甲1発明の「少なくとも表面が多孔質である超微粒子」について、甲第1号証の段落【0194】に「(a)は表面を多孔質としたもので、各開孔径は0.05μm以下であり、開孔率は50%程度で球状面をまんべくなく(ほぼ均一に)開口している。全体径は平均0.1μm以下が好ましい。多孔質にする手法の一例として核生長法がある。この場合は例えばアルコキシド-水-酸-アルコールの出発原料の配合比を変化させ、加水分解,重合反応を不均一もしくは反応を速めると水分濃度の高い部分が内部に生じる。これらを焼処理すると水分が蒸発し、その跡は空孔となって多孔質となる。」(摘記あ-12)と記載され、また、図5、図8及び図12に超微粒子の断面図が記載されており(摘記あ-15)、甲1発明の「少なくとも表面が多孔質である超微粒子」は、具体的には開孔率50%程度であること及びその製造方法として、核生長法でアルコキシド-水-酸-アルコールから得られることが示されているにすぎない。
以下、甲1発明の開孔率50%程度のシリカの屈折率及びその製造方法に基づいて、本件発明1と甲1発明の多孔質シリカとの相違について検討する。

(3)-1.開孔率50%程度の屈折率及びその製造方法について
「開孔率」は、甲第8、9、10号証及び資料1、2、3の記載(摘記く-1、け-1、こ-1、つ-1、て-1、と-1参照)からみて、「多孔質体において、外表面に開孔している孔の全面積の外表面積に対する割合」を意味し、一方「多孔率」(気孔率)は、甲7号証、資料4の記載(摘記き-1、な-1参照)からみて、「多孔質物質の全体積V_(0)の中で細孔が占める体積Vの割合V/V_(0)をいう」を意味しているのであるから、「開孔率」と「多孔率」の意味する内容が異なるものであることは明らかである。
そして、第1回口頭審理における、合議体からの「甲第1号証の段落【0194】で開孔率50パーセント程度の場合の屈折率はどのくらいになるか」との質問に対し、請求人は、上申書において、「「完全に均質な多孔体においては、表面開孔率は空孔率の2/3乗になる」との記載があります。・・・上記の関係が成立するのは完全に均質な多孔体の場合であり、実際のシリ力多孔質体においてこの条件が当てはまるかどうかは即断できません。従って、開孔率の数値から屈折率を推定することは困難かと思います。」(上申書の2頁下から6行?3頁2行)と回答している。

そこで、気孔率と開孔率の関係についてみると、内部が中空である場合は気孔率が大きくて開孔率が小さく、また、表面のみに気孔が偏在する場合は逆に気孔率が小さくて開孔率が大きくなるので、開孔率と気孔率との間には、多孔質シリカが完全に均質な多孔体である場合以外、つまり、完全に均質な多孔体でない場合には、開孔率と気孔率との間には関係がなく、開孔率から気孔率、屈折率は算出できないものであることは明らかである。
そして、甲1発明のシリカ超微粒子についてみると、少なくともその表面が多孔質であることが要求されており、すでに述べたようにシリカ超微粒子の表面における開孔による凹部に意義を有するのであるから、甲1発明のシリカが内部まで完全に均質な多孔体であることまでは要求されておらず、甲1発明の開孔率が50%である多孔質シリカが完全に均質な多孔体であるとはいえない。
また、甲1発明における多孔質シリカについての製法は核生長法によるもので、核となるシード粒子上にシリカを析出させ、粒子成長させてシリカ粒子を得るものであり(摘記さ-1、2)、甲第1号証の図5、8、12に示される多孔質のシリカの断面図として示されているように(摘記あ-15参照)、内部までがすべて均一の多孔質であるものとは解されない。
してみると、甲1発明の開孔率が50%であるシリカの屈折率は開孔率50%から直ちに算出されるものではなく、まして、本件発明1の1.2?1.4の範囲にあると推測できるものではないから、甲1発明の開孔率が50%程度の多孔質シリカの屈折率が本件発明1の1.2?1.4の範囲にあるものとはいえない。

次に、甲1発明の具体的な多孔質シリカ微粒子の製造方法についてみると、甲1発明の多孔質にする手法は核生長法で、アルコキシド-水-酸-アルコールの出発原料の配合比を変化させ、加水分解、重合反応を不均一もしくは反応を速めると記載されている(摘記あ-12参照)。一方、本件発明1における製造方法は、特許明細書の段落【0014】に「多孔質シリカは、シリコンのアルコキシドをアルカリの存在下において、加水分解させ・・・ることなどにより製造することができる」と記載され、また、同段落【0043】にアンモニア水を用いるものが記載され、多孔質シリカの製造方法は甲1発明が酸の存在下に加水分解させるものであり、本件発明1がアンモニア等のアルカリの存在下で加水分解している点で明らかに異なっている。
そして、甲第12号証及び資料6の記載(摘記し-1?3、ぬ-1?5参照)によれば、触媒として酸を用いるかアルカリを用いるかで、加水分解と縮合の反応に違いが生じ、生成されるシリカの構造も異なるので、甲1発明の製造方法(酸触媒)により得られたは多孔質シリカは、本件発明1の製造方法(アルカリ触媒)により得られた多孔質シリカと同様のものであるとは解されないから、多孔質シリカの製造方法からみても、甲1発明の多孔質シリカが本件発明の屈折率1.2?1.4の範囲にあるとまではいえない。

さらに、甲第13号証には、シリカ膜自体を多孔質にする発明に関し、式Si(OR)_(4)で表されるシリコン・アルコキシド(アルコキシシランと同じ)と水とを所定割合で含み、さらに有機溶剤および触媒作用をする少量の酸の混合物を基材に塗布し、所定条件下で加熱および冷却することによって加水分解度および重合化度の調整をすること(摘記す-1?3参照)が記載されており、すなわち、酸を触媒として用いて、アルコキシシランから多孔質のシリカゲル膜を製造することが示されているのみで、甲1発明のシリカ微粒子が本件発明1の1.2?1.4の範囲にあることを示すものではない。
また、甲第14号証には、多孔質球状シリカ微粒子の発明に関し、SiX_(4)(但しXは・・・水酸基、アルコキシ基・・・)で示されるシラン化合物とアンモニア等の触媒と水とアルコールを含む有機性溶液中で加水分解縮合して、乾燥及び焼成することにより多孔質球状シリカ微粒子を得ることが記載されており(摘記す-1?3参照)、アルカリ触媒を使用して製造された多孔性シリカの微粒子が記載されているが、甲1発明の多孔質シリカ微粒子の屈折率がどのくらいのものであるかを示唆するものではない。
以上のとおり、甲第5?14号証に記載された事項によっても、甲1号証に反射防止機能を有する超微粒子として記載されている甲1発明も多孔質シリカ超微粒子が屈折率1.2?1.4であることを裏付けることはできず、他にそれを裏付ける証拠もないので、甲1発明の多孔質シリカ超微粒子の屈折率が本件発明の1.2?1.4の範囲にあるとはいえない。
したがって、相違点(b)の多孔質のシリカ微粉末の屈折率が1.2?1.4である点において実質的に相違しているものである

ア-4.まとめ
以上のとおり、本件発明1は、上記相違点(b)の多孔質のシリカ微粉末の屈折率が1.2?1.4である点において相違するから、甲1発明と同一であるとはいえない。

イ.本件発明1が甲第3号証に記載された発明であるか否か検討する。
イ-1.甲第3号証に記載された発明について
甲第3号証の特許請求の範囲には、(A)CH_(3)Si(OR_(2))_(3)で表される有機ケイ素化合物の加水分解物を50重量部以上を含有する一般式(式省略)で表わされる有機ケイ素化合物の加水分解物(ここで、R^(1)は炭素数が1?10のアルキル基、R^(2)は炭素数が1?8のアルキル基であり、aは0または1である。)100重量部、と(B)平均粒子径1?100mμの微粒子状シリカと(C)溶剤および/または分散剤からなるコーテイング組成物をコーテイング被膜の屈折率より0.03以上高い屈折率を有する透明基材表面の少なくとも一部に塗布したのち加熱硬化させる反射防止性透明材料の製造方法が記載されている(摘記う-1参照)。
そして、一般式で表される有機ケイ素化合物は、R^(1)はアルキル基であるから、aが0である場合はアルキルトリアルコキシシランに、またはaが1である場合はジアルキルジアルコキシシランに、また、CH_(3)Si(OR_(2))_(3)はR^(2)がアルキル基であるからメチルトリアルコキシシランに該当する化合物であり、さらに、溶剤として、各種アルコール類、特にメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール挙げられており(摘記う-3参照)、1?100mμは1?100nmであって、甲第3号証には、塗布する前のコーテイング組成物も記載されている。
そうしてみると、甲第3号証には
「(A)メチルトリアルコキシシランの加水分解物を50重量部以上を含有する、アルキルトリアルコキシシラン又はジアルキルジアルコキシシランである有機ケイ素化合物の加水分解物100重量部と(B)平均粒子径1?100nmの微粒子状シリカと(C)アルコール等の溶剤からなるコーテイング組成物」
という発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

イ-2.本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明のコーテイング組成物はコーテイング被膜の屈折率より0.03以上高い屈折率を有する透明基材表面に塗布したのち加熱硬化させて反射防止性透明材料を製造するものであって、透明基材表面にその透明基材の屈折率より低屈折率であるコーテイング被膜を形成することにより、反射防止効果を得ているので、甲3発明の「コーテイング被膜」は基材表面の屈折率より低い低屈折率膜であり、「コーテイング組成物」は基材表面に塗布したのち加熱硬化するものであるから塗料といえるので、甲3発明の「コーテイング組成物」は本件発明1の「低屈折率膜形成用塗料」に相当する。
一方、本件発明1の低屈折率膜形成用塗料について、本件特許明細書の段落【0040】に「第二層目の低屈折率膜形成用塗料としては、・・・シリコンアルコキシドを加水分解して得られるシリカゾルを含む塗料を用いてもよい。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン等のシリコンアルコキシドをメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類・・・に加え、それに水と塩酸・・・等の酸を加えて加水分解してシリカゾルを生成した溶液を第二層目の低屈折率膜形成用塗料として用いることができる。」と記載され、また、
同段落【0042】に実施例1として、「(実施例1)・・・(2)低屈折率膜形成用塗料(a)を下記のように調製した。0.6gのテトラエトキシシランと、0.6gの0.1N塩酸と、96.8gのエチルアルコールと、多孔質シリカ微分末2.0gとを混合して均一な溶液とした。」と記載されているので、本件発明1の低屈折率膜形成用塗料には、シリコンアルコキシドをアルコール等の溶剤に加え、水と塩酸等の酸を加えて加水分解して得られるシリカゾルを含む塗料に多孔質シリカ微粒子が分散したものも含まれる。
さらに、本件発明1のシリコンアルコキシドには、上記1-1.のア-2で述べたように、本件特許明細書の段落【0011】にアルキルトリアルコキシシラン系化合物、ジアルキルジアルコキシシラン系化合物が挙げられており、甲3発明の「メチルトリアルコキシシラン」、「アルキルトリアルコキシシラン」又は「ジアルキルジアルコキシシラン」である有機ケイ素化合物は本件発明1のシリコンアルコキシドに包含されるので、本件発明1のシリコンアルコキシドを含む塗料には甲3発明のメチルトリアルコキシシランの加水分解物を含有する、アルキルトリアルコキシシラン又はジアルキルジアルコキシシランである有機ケイ素化合物の加水分解物を含む塗料を包含しているものと解される。
また、上記1-1.のア-2.で述べたように、本件発明1のシリカ微粉末は平均粒子径0.3?100nmの微粉末であるので、甲3発明の平均粒子径1?100nmの微粒子状シリカと平均粒子径の範囲において重複するものであるからシリカ微粉末において差異はなく、また、甲3発明のアルコールは本件発明1の非水溶媒に相当する。

してみると、本件発明1と甲3発明とは、
「シリコンアルコキシドの加水分解物と、非水溶媒と、平均粒子径1?100nmのシリカ微粉末とを分散含有してなる低屈折率膜形成用塗料」
である点で一致しているが、
シリカ微粉末において、本件発明1は屈折率が1.2?1.4である多孔質であるのに対し、甲3発明はそのような特定がなされていない点
で相違する。

イ-3.以下相違点について検討する。
甲第3号証には、コーテイング組成物より得られたコーテイング被膜について、実施例1にメチルトリメトキシシラン等のトリメトキシシランから得られたシラン加水分解物とn?プロピルアルコール、メタノール分散コロイド状シリカを加えたコーテイング組成物をスピンコートし、加熱硬化を行なって得られたコーテイング被膜の屈折率が1.36であることが記載されている(摘記う-4参照)。
そして、請求人は、甲第3号証には、「屈折率が1.36となるコーティング被膜を形成するものであるから、使用するシリカの屈折率が1.2?1.4という本件発明の数値範囲から著しく逸脱する範囲にあるとは認められない」と主張している(審判請求書の3頁の理由の要点の7?11行参照)。
しかし、シリコンアルコキシドの加水分解物と、アルコール等の非水溶媒と、シリカ微粉末とを分散含有してなる塗料から形成されたコーティング被膜において、その屈折率は、膜中に気孔が形成された場合でも低くなることは従来から自明のことであり、例えば、甲第13号証には孔部形態を有する薄いシリカ塗膜が式Si(OR)_(4)で表されるシリコン・アルコキシドと水と有機溶剤と触媒作用をする少量の酸とから成る塗料から形成されること(摘記す-1?3参照)が記載され、また、甲第1号証の段落【0110】には、粒径分布を有する超微粒子を用いた場合には適度の空孔を持たせることができること(摘記あ-16参照)、が記載されているように、コーテイング被膜に、気孔を意図的に形成する場合も、膜形成時に膜中の粒子間に空気を含んだ空隙が形成される場合もあるから、シリカからなるコーティング被膜自体が多孔質となり、コーティング被膜の屈折率が中実シリカの屈折率1.46よりも低くなることも考えられるので、コーティング被膜の屈折率が1.36であるからといって、直ちに塗料に分散されたシリカ微粒子が多孔質であること、まして、その屈折率が1.2?1.4の範囲にあるとまではいえない。
また、甲第3号証には、「成分(B)がこれより少なくなると表面硬度が低下し」(摘記う-2参照)、と記載されており、この成分(B)は微粒子状シリカであるので、微粒子状シリカは表面硬度の向上を目的として配合されているものであって、甲第3号証の通常のコロイド状シリカを使用するという記載が、多孔質であるものを積極的に示唆しているとは解されないから、甲3発明のシリカ微粒子が屈折率が1.2?1.4である多孔質であるとはいえない。
請求人は、審判請求書14頁17行?15頁19行において、本件特許権者の別出願である特願平5-196533号(平均粒径0.3?100nmで、かつ屈折率が1.2?1.4の多孔質シリカ微粉末がバインダー中に分散した反射防止層を有する光学材料に関する発明)における審査において、甲第3号証を引用して拒絶査定されたことに対し、審判を請求しなかった事実を根拠にして、本件発明1に特許性がないと主張しているが、別出願において査定不服の審判の請求をしなかったことと本件発明1の特許性とが一体的に判断されるものではなく、そのことにより本件発明1の特許性の判断が左右されるものでもない。

してみると、本件発明1はシリカ微粉末が屈折率が1.2?1.4である多孔質である点で甲3発明と同一であるとはいえない。


1-2.特許法第29条第2項について
ア.本件発明1が甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものであるか否かを検討する。
本件発明1と甲1発明とを比較すると、上記1-1.のア-2で述べたように、多孔質シリカ微粉末が本件発明1では屈折率が1.2?1.4であるのに対し、甲1発明では、屈折率について特定されていない点で相違している。
甲1発明において、「少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子」を用いることは、表面が多孔質であることにより生じるシリカ超微粒子表面の開孔による凹部により拡散反射を少なくさせて、反射防止膜の表面の凹凸によって、増加する拡散反射により生じる、反射防止膜の白濁を防ぐものであり(摘記あ-5、6参照)、その効果は表面が多孔質であるシリカ超微粒子の屈折率自体に関与するものではないので、甲第1号証にはどの程度の屈折率である多孔質のシリカ超微粒子を使用するかについては記載も示唆もされておらず、「屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末」を分散含有させるという構成が甲第1号証の記載から示唆されるものではない。 また、甲1発明において少なくともその表面が多孔質であるシリカ超微粒子を屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粉末に変更して使用することが当業者において自明であるものとも認められないので、そのような構成の変更は当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1の塗料中に「屈折率1.2?1.4の多孔質シリカ微粉末」を分散含有させるという構成を採用したことにより、本件特許明細書の段落【0004】の発明が解決しようとする課題及び同段落【0054】の発明の効果に記載されている、シリコンアルコシドの加水分解生成物により形成される低屈折膜の屈折率をシリカよりも低くして、帯電防止膜等の高屈折率膜と低屈折率膜との組み合わせによる反射防止機能を向上させる効果を奏するものであるから、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、甲第2号証には、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる複合酸化物の微粒子が分散した複合酸化物ゾルが記載され、複合酸化物ゾルは分散微粒子の内部に多数の細孔を有すること及び多孔質であることから、低屈折率用のフィラーとしての利用も可能であることが記載されている(摘記い-1、い-3参照)。
しかし、低屈折率用のフィラーとしての利用とは、細孔を有する複合酸化物を単に分散せしめ、それ自体の屈折率により屈折率を調整するのか、又はその細孔に屈折率調整剤を沈積させて屈折率を調整するのか不明であり、仮に、複合酸化物を単に分散せしめるものとしても、どの程度の低屈折率用に使用することができるのかは明らかでない。
そもそも、甲第2号証に複合酸化物として具体的に記載されているのは、複合酸化物のシリカ以外の成分の無機酸化物であるAl_(2)O_(3)、SnO_(2)であって(摘記い-2参照)、その屈折率は各々1.7と2.00であり(摘記お-1、た-1参照)、いずれもシリカよりも屈折率が大きいから、甲第2号証にはシリカ膜の屈折率をシリカの屈折率よりも低くするために、シリカ膜中に多孔質の複合酸化物、さらに屈折率1.2?1.4の多孔質シリカを分散して用いることまでは記載も示唆もされていない。
さらに、甲第5?14号証には、屈折率1.2?1.4の多孔質シリカ微粒子を分散させることにより、シリコンアルコキシドから形成されたシリカ膜の屈折率を更に低下させることは記載も示唆もされていない。
してみると、甲1発明に、甲第2号証及び甲第5?14号証に記載された事項を合わせて考慮しても、本件発明1はこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.本件発明1が甲3発明に基づいて当業者が容易に発明し得るものであるか否かを検討する
本件発明1と甲3発明とを比較すると、上記1-1.のイ-2で述べたように、シリカ微粉末において、本件発明1は屈折率が1.2?1.4である多孔質であるのに対し、甲3発明はそのような特定がなされていない点で相違する。
甲3発明は、コーテイング被膜の屈折率より0.03以上高い屈折率を有する透明基材とコーテイング被膜の多層膜からなる反射防止体であるから、本件発明1と反射防止の原理を同じくするものであり、最外層のコーテイング被膜中にシリカ微粉末を加えているものではあるが、その目的は屈折率を調整するものではなく、むしろ膜の表面強度を増加するものであるので、甲第3号証には多孔質であること及びその屈折率が1.2?1.4であることについては記載も示唆もされておらず、「屈折率が1.2?1.4である多孔質シリカ微粒子」を分散含有させるという構成が甲第3号証の記載から示唆されるものではない。また、甲3発明においてシリカ微粉末を屈折率が1.2?1.4に限定した多孔質シリカ微粉末に変更して使用することが当業者において自明であるものとも認められないので、そのような構成の変更は当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1の構成を採用することにより上記1-2.のアで述べたような効果が得られるとともに、甲3発明のシリカ微粒子を用いるよりも、屈折率が1.2?1.4の多孔質シリカを使用することの方が、より確実に、均一に、簡便な方法によって屈折率を下げることができるもであるから、本件発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

なお、甲第2号証、甲第5?14号証には、上記1-2.ア.で述べたように屈折率1.2?1.4の多孔質シリカ微粒子を分散させることにより、シリコンアルコキシドから形成されたシリカ膜の屈折率を更に低下させることは記載も示唆もされていない。
してみると、甲3発明に甲第2号証及び甲第5?14号証に記載された事項を合わせて考慮しても、本件発明1はこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

以上のように、甲1発明、又は、甲3発明に、甲第2号証及び甲第5?14号証に記載された事項を合わせて考慮しても、本件発明1はこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって無効理由1は理由がない。


2.無効理由2について(本件発明2について)
ア.甲第4号証に記載された発明
甲第4号証には、テトラエトキシシランをバインダーとし、これに粒径が0.1μm以下のアンチモン含有酸化スズを有する塗料から形成された、屈折率が1.52?1.58に調整されてなる、第1層の塗膜と、テトラエトキシシランをバインダーとし、これに粒径が0.1μm以下のフッ化マグネシウムを配合してなる塗料から形成された、屈折率が1.39?1.44に調整されてなる最外層の塗膜とにより形成された多機能塗布膜が記載されており(摘記え-1参照)、具体的には、実施例1に、第1層用塗布液について、「(a)帯電防止塗布液の製造
粒径8?10nmのATO(ATOがアンチモン含有酸化スズであることは段落【0003】(摘記え-2参照)参照)とテトラエトキシシランの部分加水分解液とをエタノールに添加し、分散し、帯電防止塗布液(第1層用塗布液)とした。」、最外層用塗布液について、「(c)反射防止塗布液の製造((c)は(b)の誤記であると認める)
粒径が10?15nmのフッ化マグネシウムとテトラエトキシシランの部分加水分解液とをエタノールに添加し、分散し、反射防止塗布液(最外層用塗布液)とした。」、多機能塗布膜の成膜について
「(1)帯電防止-反射防止膜の成膜
(a)で製造した塗布液をブラウン管に塗布し、焼き付けして帯電防止膜を得、冷却後、(b)で製造した塗布液を帯電防止膜上に塗布し、焼き付けして反射防止膜とし、2層からなる多機能塗布膜を得た。」(摘記え-3参照)と記載されている。
そのことからみると(a)で製造した帯電防止塗布液から得られた第1層の塗膜は帯電防止膜であって、帯電防止塗布液は帯電防止膜形成用塗料であり、(b)で製造した反射防止塗布液から得られた最外層の塗膜は反射防止膜であり、反射防止塗布液は反射防止膜形成用塗料であり、また、多機能塗布膜は帯電防止膜の上に反射防止膜を積層したものであって、帯電防止と反射防止効果を有する帯電防止・反射防止膜である。そして、粒径の0.1μm以下は100nm以下である。

してみると、甲第4号証には、
「バインダーであるテトラエトキシシランと粒径100nm以下のアンチモン含有酸化スズとをエタノールに添加した帯電防止膜形成用塗料から形成された屈折率が1.52?1.58である帯電防止膜とその上にバインダーであるテトラエトキシシランと粒径100nm以下のフッ化マグネシウムとをエタノールに添加した反射防止膜形成用塗料から形成された屈折率が1.39?1.44である反射防止膜とが積層された帯電防止・反射防止膜」
という発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

イ. 本件発明2と甲4発明を対比する。

甲4発明は、帯電防止膜の屈折率が1.52?1.58で、反射防止膜の屈折率が1.39?1.44であるから、帯電防止膜の屈折率よりも0.1以上低い屈折率を有する反射防止膜を積層させたものを含むものであり、甲4発明の「帯電防止膜」、「帯電防止膜形成用塗料」、「反射防止膜」及び「反射防止膜形成用塗料」は、それぞれ、本件発明2の「帯電防止・高屈折率膜」、「帯電防止・高屈折率膜膜形成用塗料」、「低屈折率膜」及び「低屈折率膜形成用塗料」に相当するものである。
そして、甲4発明のバインダーであるテトラエトキシシランとして、実施例1ではテトラエトキシシランの部分加水分解液が用いられている。一方、本件発明2のアンチモンドープ酸化錫微粉末および黒色系導電性微粉末からなる固形成分と溶媒とを含む帯電防止・高屈折率膜形成用塗料について、本件特許明細書の段落【0028】に「アンチモンドープ酸化錫微粉末やカーボンブラック微粉末を基材上に固定するため・・・シリコンアルコキシド加水分解物等の無機系バインダー・・・を添加しても良い。」と記載されており、本件発明2の帯電防止・高屈折率膜形成用塗料には、シリコンアルコキシド加水分解物等の無機系バインダーが含まれ、また、上記1-1.のイ-2で述べたように本件発明2の低屈折率膜形成用塗料にもシリコンアルコキシド加水分解物が含まれ、甲4発明のテトラエトキシシランは本件発明2のシリコンアルコキシドに包含されるものであるから、甲4発明の帯電防止膜形成用塗料及び反射防止膜形成用塗料も本件発明の帯電防止・高屈折率膜形成用塗料及び反射防止用の低屈折率膜形成用塗料も、シリコンアルコキシド加水分解物を含む点で同じであるといえる。
また、甲4発明の「アンチモン含有酸化スズ」は本件発明2の「アンチモンドープ酸化スズ」と同じものであり、甲4発明のエタノールは本件発明2の帯電防止・高屈折率膜形成用塗料の溶媒や、低屈折率膜形成用塗料の非水溶媒に相当する。

してみると、本件発明2と甲4発明は、
「アンチモンドープ酸化錫微粉末と溶媒とシリコンアルコキシド加水分解物を含む帯電防止膜形成用塗料から形成された帯電防止膜と、この膜上にシリコンアルコキシド加水分解物と非水溶媒とシリカよりも屈折率が低い微粒子を配合した低屈折率の反射防止膜形成用塗料を用いて形成され、かつ、前記帯電防止の屈折率よりも0.1以上低い屈折率を有する低屈折率の反射防止膜とが積層されてなる帯電防止・反射防止膜」
である点で一致しているが、
(a)帯電防止膜が本件発明2は黒色系導電性微粉末を更に含むものであるのに対し、甲4発明にはその点が記載されていない点、
(b)反射防止膜中に分散含有している低屈折率材料である微粒子が、本件発明2では平均粒子径が0.3?100nmかつ屈折率1.2?1.4である多孔質シリカであるのに対し、甲4発明は粒径が0.1nm以下のフッ化マグネシウムである点、
(c)帯電防止膜が本件発明2では高屈折率膜と特定されているのに対し、甲4発明はその点が特定されていない点及び
(d)反射防止膜が本件発明では低屈折率膜と特定されているのに対し、甲4発明はその点が特定されていない点
で相違している。

ウ.相違点について検討する。
(1)相違点(a)について
本件発明2の帯電防止・高屈折率膜と低屈折率膜とが積層されてなる帯電防止・反射防止膜において、帯電防止・高屈折率膜に黒色系導電性微粉末を配合することは、甲第4号証には示唆されておらず、甲第1号証にも黒色系導電性微粉末を併用することは記載も示唆もされていない。
そして、本件特許明細書に記載されているように、黒色系導電性微粉末を配合することにより、帯電防止・高屈折率膜内に侵入する外光が吸収され、反射防止効果を従来以上に高めることができる(本件特許明細書の段落【0032】参照)という効果が奏されるものであり、そのことは甲第1号証および甲第4号証からは予測し得ないものであるから、「黒色系導電性微粉末を配合する」という構成は当業者が容易に想到し得るとはいえない。

(2)相違点(b)について
請求人は、甲第4号証の発明において、粒径0.1nm以下のフッ化マグネシウム粒子の代わりに、甲第1号証の粒径0.1nm以下の多孔質のSiO_(2)微粒子を用いることは容易に想到し得ると主張している(審判請求書の16頁2?6行参照)。
しかし、本件発明2の低屈折率膜中に配合する微粉末が屈折率が1.2?1.4の多孔質シリカであるという構成は、上記1-1.のアで述べたように甲第1号証には記載されていないものであるから、甲第1号証と甲第4号証の記載を組み合わせて考慮しても本件発明2は当業者がこれらの事項から容易に想到し得るものともいえない。

してみると、本件発明2の相違点(1)及び(2)の構成は当業者が容易に想到し得るものではないから、相違点(c)及び(d)について検討するまでもなく、本件発明2が甲1発明及び甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、甲1発明、甲4発明に、甲第2号証及び甲第5?14号証に記載された事項を合わせて考慮しても、本件発明2はこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、無効理由2は理由がない


3.無効理由3について(本件発明3?6について)
請求人は、本件発明3?6に記載の技術的事項自体は格別のものではなく、当業者が適宜採用するものであると主張している。

本件発明3は本件発明2の溶媒を更に特定の沸点と表面張力を有するものに限定するものであり、本件発明4は本件発明2及び3について、黒色系導電性微粉末を更にカーボンブラック等の特定のものに限定するものである。また、本件発明5は本件発明2、3又は4の帯電防止・反射防止膜を透明基材の表面に形成した透明積層体であり、本件発明6は本件発明2?4の帯電防止・反射防止膜を表示面上に形成された陰極線管であるので、本件発明3?6はいずれも本件発明2の帯電防止・反射防止膜をその構成としている発明である。
そして、本件発明2は、当業者が甲1発明と甲4発明に基づいて容易に発明をすることができないものであることは上記2.で示したとおりであるから、本件発明3?6も当業者が甲1発明と甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、甲1発明、甲4発明に、甲第2号証及び甲第5?14号証に記載された事項を合わせて考慮しても、本件発明3?6もこれらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、無効理由3は理由がない。

4.請求人のその他の主張について
上申書において、甲第15号証を添付して、本件特許明細書における実施例1、3が実施不可能であると主張しているが、本件特許無効審判の請求の理由において主張している無効理由1?3は特許法第29条第1項及び同法第29条第2項であり、甲第15号証は無効理由1?3を補充、補完するものではなく、これと直接関係するものではないので、無効審判請求した後に提出された甲第15号証は証拠として採用しない。また、甲第15証を基に実施不可能であるとする主張も採用しない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び請求人の提出した証拠方法によっては、本件発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成19年 7月31日

審判長 特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
特許庁審判官 略
 
審理終結日 2007-07-17 
結審通知日 2007-07-20 
審決日 2007-07-31 
出願番号 特願平5-196535
審決分類 P 1 113・ 121- Z (C09D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
橋本 栄和
登録日 2002-01-25 
登録番号 特許第3272111号(P3272111)
発明の名称 低屈折率膜形成用塗料、帯電防止・反射防止膜および帯電防止・反射防止膜付き透明積層体並びに陰極線管  
代理人 志賀 正武  
代理人 廣瀬 孝美  

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