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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 A63H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63H
管理番号 1186523
審判番号 不服2007-22852  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-20 
確定日 2008-10-21 
事件の表示 特願2005-69828「自動車玩具用シャーシ」拒絶査定不服審判事件〔平成18年9月21日出願公開、特開2006-247211〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年(2005年)3月11日に出願された特願2005-69828号の出願に係り、原審における平成18年11月21日付の拒絶理由通知に対し、平成19年1月18日付の意見書が提出され、前記拒絶理由により平成19年7月13日付で拒絶査定されたところ、これに対し、前記拒絶査定を不服として、平成19年8月20日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付の手続補正書が提出され、その後、前記平成19年8月20日付の手続補正に基づいて補正された本願特許出願について審査官により前置審査がなされ、その前置審査の結果としての特許庁長官宛の前置報告書を審判請求人に送付することにより、審査官による前置審査に対する審判請求人の意見を徴集すべく、当審において平成20年5月20日付で審尋したところ、審判請求人から平成20年7月14日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年8月20日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成19年8月20日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成19年8月20日の手続補正(以下、この補正を「本件補正」という。)は、出願当初の特許請求の範囲についての、
「【請求項1】 略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレームとを備え、前記メインシャーシの形状は略左右対称であり、前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられることを特徴とする自動車玩具用シャーシ。
【請求項2】 前記フレームは両端部に前記前構造体及び前記後構造体をそれぞれ取り付けるための転がり軸受けを備え、この転がり軸受けのスラスト方向は前記メインシャーシの平板面に対して直交することを特徴とする請求項1記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項3】 前記メインシャーシ上面に搭載されるモータと、前記フレームの平板面に取り付けられて前記モータから回転駆動力を伝達される第1及び第2のプーリと、前記メインシャーシ上面の両端にそれぞれ配されて前記前輪及び前記後輪にそれぞれ回転駆動力を伝達する第3及び第4のプーリと、前記第1のプーリと前記第3のプーリに懸架される第1のベルトと、前記第2のプーリと前記第4のプーリに懸架される第2のベルトとを備え、前記モータ及び前記第1乃至第4のプーリはスラスト方向が前記フレームの平板面に対して直交するように配置され、前記モータの回転駆動力は前記第1のベルトにより前記第1のプーリから前記第3のプーリへ伝達され、前記第2のベルトにより前記第2のプーリから前記第4のプーリへ伝達されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項4】 前記フレームは合成樹脂材料で構成され、面外方向に対して弾性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項5】 前記第1及び第2のベルトの長さは略同一であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。
【請求項6】 バッテリ、モータ、受信機などが搭載された走行体と外形部分(ボディ)とで構成される無線操縦自動車玩具において、前記走行体は請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシに前輪及び後輪を備えたことを特徴とする無線操縦自動車玩具。」
の記載を、
「【請求項1】 略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレームを備え、前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられることを特徴とする自動車玩具用シャーシ。
【請求項2】 前記フレームは合成樹脂材料または軽金属材料で構成され、面外方向に対して弾性を有すると同時に、前記フレームは両端部に前記前構造体及び前記後構造体をそれぞれ取り付けるための転がり軸受けを備え、この転がり軸受けのスラスト方向は前記メインシャーシの平板面に対して直交することを特徴とする請求項1記載の自動車玩具用シャーシ。」
と補正することを含むものである。

2 本件補正についての補正の適否の検討
(1)本件補正の内容
ア 本件補正により、本件補正前の請求項1(本件補正前の請求項1を「旧請求項1」といい、本件補正後の請求項1を「新請求項1」などということがある。以下同様。)ないし旧請求項6のうちの旧請求項2、旧請求項3、旧請求項5及び旧請求項6を削除する補正(以下、「補正ア」という。)がされた。

イ 本件補正により、旧請求項1に記載されていたメインシャーシについての「略平板状のメインシャーシと、」の記載と「前記メインシャーシの形状は略左右対称であり、」の記載とを統合して、新請求項1において、「略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシと、」に補正(以下、「補正イ」という。)された。

ウ 本件補正により、旧請求項1に記載されていた「前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体」が、新請求項1において、「前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体」に補正(以下、「補正ウ」という。)された。

エ 本件補正により、旧請求項1に記載されていた「前記メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレーム」が、新請求項1において、「前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレーム」に補正(以下、「補正エ」という。)された。

オ 本件補正により、旧請求項1乃至旧請求項3のいずれか1項を引用する旧請求項4における「前記フレームは合成樹脂材料で構成され、面外方向に対して弾性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。」における、旧請求項1乃至旧請求項3のいずれか1項の引用請求項を、削除される旧請求項2のみに限定するとともに、旧請求項4に記載されていた「前記フレームは合成樹脂材料で構成され、」を、「前記フレームは合成樹脂材料または軽金属材料で構成され、」に補正(以下、「補正オ」という。)された。

(2)補正の目的要件についての検討
まず、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2(以下、省略して単に「特許法第17条の2」という。)第4項の規定に適合するか否か、すなわち、同法第17条の2第1項第4号の規定により、拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内になされた特許請求の範囲についてする補正が、同法第17条の2第4項の第1号ないし第4号に規定する補正の目的に該当する補正であるか否かについて検討する。
ア 本件補正について当審の判断
(ア)上記「補正ア」の補正は、旧請求項2、旧請求項3、旧請求項5及び旧請求項6を削除する補正であるから、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とする補正に該当する。

(イ)上記「補正イ」の補正は、旧請求項1に記載されていたメインシャーシについての「略平板状のメインシャーシと、」の記載と「前記メインシャーシの形状は略左右対称であり、」の記載とを統合することにより、「略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシと、」とする補正であり、これにより、発明特定事項のメインシャーシが、「略左右対称でありかつ略平板状の」と限定されるとともに、メインシャーシについての重複していた明りようでない記載が釈明されることになる補正でもあるから、上記「補正イ」の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とする補正に該当する。

(ウ)上記「補正ウ」の補正は、旧請求項1に記載されていた「前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体」の記載を、「前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体」のように限定して可能性を排除する補正であるから、上記「補正ウ」の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

(エ)上記「補正エ」の補正は、旧請求項1に記載されていた「前記メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレーム」の形状を「略左右対称の」と限定することにより、「前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレーム」とする補正であるから、上記「補正エ」の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。

(オ)上記「補正オ」の補正は、旧請求項4に記載されていた「前記フレームは合成樹脂材料で構成され、面外方向に対して弾性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の自動車玩具用シャーシ。」における「旧請求項1乃至旧請求項3のいずれか1項」という選択的な引用請求項の記載を、上記「補正ア」の補正により削除される旧請求項2のみの請求項の引用に限定する補正であるから、この点において、上記「補正オ」の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に一応該当する。
しかしながら、その一方で、上記「補正オ」の補正は、旧請求項4に「前記フレームは合成樹脂材料で構成され、」と記載されていた合成樹脂材料のみからなるフレームの構成材料に関する発明特定事項が、「前記フレームは合成樹脂材料または軽金属材料で構成され、」と補正されることにより、前記フレームの構成材料に関する発明特定事項が、合成樹脂材料のみからなる構成材料に比して、合成樹脂材料または軽金属材料で構成されるという選択的表現により、むしろ特許請求の範囲が拡張するものとなっている。
したがって、上記「補正オ」の全体としての補正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるとはいえず、逆に「特許請求の範囲の拡張」を目的とする補正であるといえるものである。
そうすると、上記「補正オ」の補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当しない。また、前記「補正オ」の補正は、同法第17条の2第4項第1号、第3号及び第4号にそれぞれ掲げる「請求項の削除」、「誤記の訂正」、或いは、「明りようでない記載の釈明」を目的とする補正のいずれにも該当しない。

イ まとめ
以上のとおり、本件補正の上記「補正オ」の補正は、特許法第17条の2第4項第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げるところの、
第1号:第三十6条第5項に規定する請求項の削除
第2号:特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
第3号:誤記の訂正
第4号:明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)
のいずれの目的にも該当しない補正である。

したがって、本件補正は、その補正の目的が特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項のいずれにも該当しない補正を含むものである。

(3)独立特許要件について
上記のとおり、本件補正は、その補正の目的が特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項のいずれにも該当しない補正を含むものであるが、ここで、本件補正のうちの新請求項1についての上記「補正イ」、「補正ウ」及び「補正エ」が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当しているので、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについても、次に検討する。

ア 本願補正発明1
本願補正発明1は、次のとおりのものである(上記「第2」の「1 補正の内容」を参照。)。
「【請求項1】 略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレームを備え、前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられることを特徴とする自動車玩具用シャーシ。」

イ 引用刊行物及びその摘記事項
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物(以下、「引用刊行物1」という。)である「ラジコン技術 Radio Control Technique 1999年5月号」(株式会社電波実験社、1999年5月1日発行)の第40ページ及び第41ページには、「電動バギーから生まれた変わった1/10電動ツーリングカー・シャーシ 標準仕様そのままで勝利を狙えるポテンシャル ヨコモ MR-4TC」に関し、写真とともに次の事項が掲載されている。
(ア)引用刊行物1の第40ページの下段には、次の事項が記載されている。
「1995年に開催された1/10電動バギー世界選手権を制したのはヨコモのYZ-10,そして,1977年[当審注:「1997年」の誤記と認める。]に開催された次の世界選手権では,ヨコモは5連覇を達成すべくMX-4を投入,見事世界を制し,このMX-4の駆動系やハブキャリア,ステアリング・ブロックなどのパーツを搭載して登場したのがMR4ラリー。そして,このMR4ラリーのダンパー,ショック・タワー,バルク・ヘッドなどをツーリングカー用としてモディファイしてMR-4TCに搭載,このようにMR-4TCは,約4年の歳月を費やして誕生したマシンと言える。
あくまでも,フラットな舗装路面のみで最高の性能が発揮できるように設計されており,その直進性の良さ,コーナーでの安定感,そして,ドライビングのしやすさは特筆もの。リヤタイヤのグリップが高い割りにはアンダーステアも出ず,標準仕様そのままでも十分に勝利を狙えるマシンのデビューだ。今後,その勝利をより確実なものとするためのオプションも発売予定で,そのメニューは,
●フロント・ワンウェイ
●ショート・タイプ・ダンパー・スプリング(ホワイト,ブルー)
●アルミ製オイル・ダンパー
●メインギヤ・アダプター(ワンウェイ式,ダイレクト・ドライブ式)
●アルミ製モーター・マウント
●カーボン混入モールド・メイン・シャーシ」
「テクニカル・データ
全長……………………………………………342mm
全幅……………………………………………189mm
ホイルベース…………………………………258mm
トレッド…………………F160mm/R160mm
全備重量………………………………………約1500g
価格………………………………………18,500円 」

(イ)引用刊行物1の第40ページの上段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCを右側上方の斜め前方の方向から撮影したシャーシ全体の写真が掲載されている。
その写真によれば、上記シャーシには、前記シャーシを構成する底板の前後方向の前端部及び後端部の両側にそれぞれ前輪及び後輪が配置されていて、前記底板の幅方向のやや中央部上面に前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形の梁材が配設されており、前記梁材の前後方向の前端部及び後端部に、前輪及び後輪を装着する前方部材及び後方部材がそれぞれ接続されている。そして、前記梁材の進行方向の右側の底板上のホルダーにはパック電源が配置され、また、前記梁材の進行方向の左側の底板上には前記パック電源に接続された駆動モータ及び受信機、さらには、前輪の舵取り装置に接続する操舵駆動機構が配置されていることが看取できる。

(ウ)引用刊行物1の第41ページの左側上段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCを右側上方の斜め後方の方向から前方を撮影したシャーシのフロント側の写真が掲載されている。
その写真によれば、上記シャーシには、前記シャーシを構成する底板の前後方向の前端部の両側に前輪が装着され、前記底板の幅方向のやや中央部上面に前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形の梁材が配設されており、前記梁材の前後方向の前端部に、前輪を装着する前方部材が接続されている。そして、前記梁材の進行方向の右側の底板上には前記パック電源が配置されていることが看取できる。

(エ)引用刊行物1の第41ページの左側中段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCを左側上方の斜め後方の方向から前方を撮影したシャーシのリヤ側の写真が掲載されている。
その写真によれば、上記シャーシには、前記シャーシを構成する底板の前後方向の後端部の両側に後輪が装着され、前記底板の幅方向のやや中央部上面に前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形の梁材が配設されており、前記梁材の前後方向の後端部に、後輪を装着する後方部材が接続されている。そして、前記梁材の進行方向の左側の底板上には、底板上の右側に配設されている前記パック電源に接続された駆動モータが配置されていることが看取できる。
そして、これら上記(ウ)及び(エ)の2枚の写真の説明文として、「サスペンションはもちろん4輪独立懸架で,高剛性,軽量なコンポジット・マテリアル・ロングサスアームを装備するダブル・ウイシュボーン。アッパーサスアームはターン・バックル式のI型なので調整可能だ。オイル・ダンパーはローフリクション仕様の樹脂成型品。ドライブ・シャフトはユニバーサル・タイプ。上写真がフロント,下写真がリヤ。」が記載されている。

(オ)引用刊行物1の第41ページ左側下段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCを左側上方の斜め前方の方向から後方を撮影したシャーシの中央部の写真が掲載されている。
その写真によれば、前記シャーシを構成する底板の幅方向のやや中央部に配設されている前記底板の前後方向に横架する梁材の左側面が、ポリカーボネイト樹脂製の長尺透明カバーで覆われていて、断面コ字状の長尺部材と断面I字状の前記長尺透明カバーとで箱状に構成される断面長方形状の中空の前記梁材の内部に、ドライブ・ベルトが前記長尺透明カバーを通して透視できる状態で収納されている様子が写し出されており、その梁材の両側に、パック電源、駆動モータ、受信機、操舵駆動機構等が左右に振り分け状態で配置されていて、さらに、前記受信機、操舵駆動機構等の裏面側が前記長尺透明カバーの鏡面状の表面に反射して写っている様子が看取できる。
そして、この写真の説明文として、「20個標準装備の精密ボール・ベアリングが相まっての高効率,低重心の2ベルト式4WD。これは,脱着可能なポリカーボネイト製カバーによりメンテナンス性にも優れ、また,密閉構造なのでホコリなどが侵入せず,トラブルも防止できる。」が記載されている。

(カ)引用刊行物1の第41ページ中央上段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCを右側上方の斜め後方の方向から前方を撮影したシャーシの中央部の写真が掲載されている。
その写真には、前記梁材の進行方向の右側の底板上の電源スペースから電源を取り外したシャーシの状態が写し出されている。このため、この写真によれば、前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形の梁材の右側側面が明確にされた状態で、前記シャーシを構成する底板の幅方向のやや中央部上面に垂直状に起立して配設されていることが明確に看取できる。
そして、この写真の説明文として、「ニッカド・バッテリーはスティック・パックでもバラセル・タイプでも搭載可能。バラセル搭載時に対応すべく,そのホルダーもシャーシに一体成型されている。ニッカド・バッテリーの脱着はワンタッチバーで簡単にできる。」が記載されている。

(キ)引用刊行物1の第41ページ中央下段には、外形ボディーが外されたヨコモMR-4TCの底板の下面を撮影したシャーシ全体の写真が掲載されている。
その写真によれば、前記シャーシを構成する略左右対称の形状をした底板の前後方向の前端部及び後端部の両側にそれぞれ前輪及び後輪が配置されていて、前輪及び後輪を装着する前方部材及び後方部材がそれぞれ底板の下面側から底板にビスで止め付けられている様子が掲載されている。そして、シャーシの底板の下面がほぼ平滑面であることも看取できる。
そして、この写真の説明文として、「高剛性で軽量なモールド式コンポジット・マテリアル・シャーシ。」が記載されている。

ウ 引用刊行物1に記載の発明
そうしてみると、引用刊行物1の上記摘記事項及び写真からみて、前記引用刊行物1には、次の発明(以下、これを「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「シャーシを構成する略左右対称の形状をした底板の前後方向の前端部及び後端部の両側にそれぞれ前輪及び後輪が配置されていて、前記底板の上面に垂直状に起立する断面コ字状の長尺部材と断面I字状の前記長尺透明カバーとで箱状に構成され、前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形状の中空の梁材が配設されており、前記梁材は、前記底板の幅方向のやや中央部に配設されており、前記梁材の前後方向の前端部及び後端部に、前輪及び後輪をそれぞれ装着する前方部材及び後方部材がそれぞれ接続され、前記梁材の進行方向の右側の底板上のホルダーには電源が配置され、また、前記梁材の進行方向の左側の底板上には前記電源に接続された駆動モータ及び受信機、前輪の舵取り装置に接続する操舵駆動機構が配置されている1/10電動ツーリングカー・シャーシ」

エ 対比
ここで、本願補正発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「シャーシを構成する略左右対称の形状をした底板」、「前輪及び後輪」、「前輪及び後輪をそれぞれ装着する前方部材及び後方部材」及び「1/10電動ツーリングカー・シャーシ」のそれぞれが、本願補正発明1の「略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシ」、「前輪及び後輪」、「前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体」及び「自動車玩具用シャーシ」のそれぞれに相当することは明らかである。

(イ)ところで、平板の剛性を補強するときに該平板に対して垂直に立ち上げて設ける「肋材(リブ)」又は「補剛材(スティフナー)」は、従来から知られている常套手段であり、前記常套手段の肋材又は補剛材を略平板状の部材の平面に対して垂直方向に起立する姿勢で略平板状の部材に設けることにより略平板状の部材の剛性を補強することは、技術分野を問わず広範に採用されているところの、本願特許出願時における周知技術(その一例として、実願昭57-190385号(実開昭59-93593号)のマイクロフィルムの第3図(e)に記載されている「モータ駆動による車輪11の軸受けを兼ねた側板3が、玩具自動車のシャーシの底板の両側に連結片8により垂直に起立するように設けられている玩具自動車のシャーシ構造体」の図示を参照。前記図示において、底板に対し垂直に起立するように設けられている側板3がシャーシの底板の剛性を補強していることは明らかである。)である。
そして、引用発明1の「前記底板の上面に垂直状に起立する断面コ字状の長尺部材と断面I字状の前記長尺透明カバーとで箱状に構成され、前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形状の中空の梁材」も、本願補正発明1の「前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレーム」も、等しく、周知技術である「略平板状の部材の剛性を補強するために設けられる肋材又は補剛材」の役割を担うものであるといえる。
そうすると、引用発明1の「前記底板の上面に垂直状に起立する断面コ字状の長尺部材と断面I字状の前記長尺透明カバーとで箱状に構成され、前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形状の中空の梁材」は、本願補正発明1の「前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレーム」に相当する。

(ウ)そして、引用発明1の前記「前輪及び後輪をそれぞれ装着する前方部材及び後方部材」が前記底板の上面側にかつ底板の両端部に取り付けられていることは、引用刊行物1の上記(イ)及び(キ)における写真についての摘記事項から明らかであるから、引用発明1は、本願補正発明1の「前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられる」の構成を備えているといえる。

(エ)そうすると、本願補正発明1と引用発明1とは、
「略左右対称でありかつ略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付けられる前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設されかつ形状は略左右対称の略平板状のフレームを備え、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられる自動車玩具用シャーシ」
である点で一致し、次の点で構成が相違する。
[相違点]:本願発明1が「前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され」るのに対し、引用発明1の梁材は、底板の幅方向のやや中央部に配設されているが、梁材の配設位置が底板の対称軸上であるか否か明確でない点。

オ 相違点についての検討
上記「エ 対比」の「(イ)」に前述したように、引用発明1の梁材も、本願補正発明1のフレームも、等しく略平板状の部材の剛性を補強するために設けられる肋材(リブ)又は補剛材(スティフナー)であるといえる。
しかして、引用発明1の「前記底板の上面に垂直状に起立する断面コ字状の長尺部材と断面I字状の前記長尺透明カバーとで箱状に構成され、前記底板の前後方向に横架する断面外形が略長方形状の中空の梁材」は、本願補正発明1のフレームと同様に、略平板状の部材の剛性を補強するために設けられる肋材又は補剛材としての役割を担っていることから、引用発明1においては、「断面外形が略長方形状の中空の梁材」が「前記底板の上面に垂直状に起立」して「前記底板の前後方向に横架」されていさえすれば、十分に略平板状の底板の剛性を補強することができることは、周知技術から明らかなことである。
そして、引用発明1の肋材又は補剛材としての梁材(本願補正発明1の「フレーム」に相当する。)の取付け位置を、引用発明1の「底板の幅方向のやや中央部」から、本願補正発明1のように「メインシャーシの対称軸上」であるところの「底板の幅方向の中央部」に位置変更させることにより、梁材が丁度底板の左右の中心線軸上に位置するように配置して、外力によるシャーシの変形及び歪み応力に対する抵抗力として働くシャーシの剛性を、シャーシの左右方向にバランス良く持たせるようにすれば、シャーシの剛性の左右バランスの均衡配置のために、外力によるシャーシの変形及び歪み応力がバランス良く復元し得ることも、力学上の技術常識から明らかなことである。
そうすると、外力によるシャーシの変形及び歪み応力がバランス良く復元し得るように、前記変形及び歪み応力に対する抵抗力として働くシャーシの剛性を、シャーシの左右方向にバランス良く均衡配置しておくという力学上の技術常識から、引用発明1の梁材の「底板の幅方向のやや中央部」の位置を、「底板の幅方向の中央部」に変更することにより、前記相違点に係る本願補正発明1の前記「前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され」る構成とすることは、当業者が格別の技術的困難性を伴うことなく、容易に想到できることである。

そして、本願補正発明1の奏する作用効果は、引用発明1、並びに、周知技術及び技術常識から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

カ まとめ
したがって、本願補正発明1は、引用発明1、並びに、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本件補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明(本願補正発明1)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定するところの「特許出願の際独立して特許を受けることができるもの」に適合していない。

(4)むすび
以上のとおりであり、本件補正が特許法第17条の2第4項の規定に適合していない補正を含んでいるばかりではなく、本件補正により補正された本願補正発明1が特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記「第2」に前述した理由により、平成19年8月20日付の手続補正が却下されたことにより、当審が審理すべき本願発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、これを「本願発明1」という。)は次のとおりのものである(上記「第2」の「1 補正の内容」を参照。)。
「【請求項1】 略平板状のメインシャーシと、前輪及び後輪がそれぞれ取り付け可能な前構造体及び後構造体と、前記メインシャーシ上面に垂設される略平板状のフレームとを備え、前記メインシャーシの形状は略左右対称であり、前記フレームは前記メインシャーシの対称軸上に配置され、前記前構造体及び前記後構造体は前記メインシャーシ上面に搭載されるとともに前記フレームの両端に取り付けられることを特徴とする自動車玩具用シャーシ。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である前記引用刊行物1には、上記上記「第2」の「2 本件補正についての補正の適否の検討」の「(3)独立特許要件について」の「イ 引用刊行物及びその摘記事項」の(ア)ないし(キ)に摘記したとおりの技術事項が記載されており、そして、前記引用刊行物1に記載されている発明(引用発明1)は、前記「ウ 引用刊行物1に記載の発明」に前示したとおりである。

3 対比・判断
本願発明1は、本願補正発明1から、上記「第2」の「2 本件補正についての補正の適否の検討」の「(2)補正の目的要件についての検討」の(イ)、(ウ)及び(エ)において前述した限定を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに限定されたものに相当する本願補正発明1が、前記「第2」の「2 本件補正についての補正の適否の検討」の「(3)独立特許要件について」の「オ 相違点についての検討」に記載した理由により、引用発明1、並びに、周知技術及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、引用発明1、並びに、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきものである。

4 むすび
以上のとおりであり、本願発明1は、引用発明1、並びに、周知技術及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-08-08 
結審通知日 2008-08-19 
審決日 2008-09-01 
出願番号 特願2005-69828(P2005-69828)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63H)
P 1 8・ 575- Z (A63H)
P 1 8・ 57- Z (A63H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安久 司郎  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 武田 悟
森林 克郎
発明の名称 自動車玩具用シャーシ  

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