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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G10H
管理番号 1186850
審判番号 不服2006-13256  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-26 
確定日 2008-10-28 
事件の表示 特願2000-614437「デジタルメディア通信および制御のシステムと方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年11月 2日国際公開、WO00/65571、平成16年 1月 8日国内公表、特表2004-500586〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、2000年4月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1999年4月26日、米国、1999年9月23日、米国、2000年4月25日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年2月24日付けで、同年1月30日付け手続補正書についての補正却下の決定とともに拒絶査定がなされ、これに対して同年6月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年7月26日に手続補正がなされたものである。

第2 平成18年7月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
複数のデジタルメディアデバイスと、汎用データリンクとを備え、
前記複数のデジタルメディアデバイスの少なくとも1つのデバイスは、音声デバイスおよび/またはビデオデバイスであり、
前記複数のデジタルメディアデバイスは、それぞれが、デジタルデータおよび制御データを、少なくとも1つのデバイスから少なくとも他の1つのデバイスに通信するためのデバイスインタフェースモジュールを含み、前記制御データは、デバイスのそれぞれを、システムに結合されるデバイスの他のものと識別するデバイス識別データを含み、
前記汎用データリンクは、各デバイスのデバイスインタフェースモジュールのそれぞれに動作できるように接続されており、
前記デバイスインタフェースモジュールおよび汎用データリンクは、システム内で複数のデバイスを互いに接続し、複数のデバイス間でのデジタルデータおよび制御データの全二重通信を行なうように組み合わせて動作可能となっており、
前記複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスは、システムタイミングマスタとして構成され、少なくとも他の1つのデバイスは、スレーブデバイスとして構成され、前記システムタイミングマスタは、前記スレーブデバイスに同期データを与えるよう動作可能となっており、前記複数のデバイスのいずれのデバイスもシステムタイミングマスタとして構成されていない場合、前記複数のデバイスのうちの1つのデバイスがシステムタイミングマスタとして自動再構成されるようになっていることを特徴とするデジタルメディア通信および制御システム。」
と補正された。
上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について、「前記複数のデジタルメディアデバイスの少なくとも1つのデバイスは、音声デバイスおよび/またはビデオデバイスであり」、「制御データは、デバイスのそれぞれを、システムに結合されるデバイスの他のものと識別するデバイス識別データを含み」、「複数のデバイスのいずれのデバイスもシステムタイミングマスタとして構成されていない場合、前記複数のデバイスのうちの1つのデバイスがシステムタイミングマスタとして自動再構成されるようになっていること」等の限定を付加するものであって、平成18年改正前特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-187148号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項及び図面が記載されている。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はMIDI規格の電子楽器および電子楽器システムに関し、特に、MIDIのシステム・メッセージに従って演奏を制御するように成された自動伴奏装置(リズムマシン)や自動演奏装置(シーケンサ)などを備えた電子楽器に用いて好適なものである。
【0002】
【従来の技術】従来、電子ピアノ、電子キーボード、シンセサイザ等の電子楽器においては、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格により複数の電子楽器を互いに接続し、マスター楽器の鍵操作によってスレーブ楽器から楽音を発生させたり、自動演奏機能や自動伴奏機能を持つマスター楽器から送出される演奏情報や伴奏情報によってスレーブ楽器から楽音を発生させたりできるようにしたものがあった。この種の電子楽器では、マスター楽器から送出されるMIDIのタイミング・クロック(MIDIクロック)に同期して自動演奏や自動伴奏を制御し、複数の電子楽器で合奏(シンク演奏)を行うことも可能であった。」

イ 「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明によるMIDI規格の電子楽器は、与えられるクロック信号に従って動作する装置を有するMIDI規格の電子楽器であって、他の機器とMIDI接続された場合にマスター楽器として動作するマスターモードおよびスレーブ楽器として動作するスレーブモードを有し、上記マスターモードを設定するための設定スイッチと、上記クロック信号を含むMIDIメッセージの他に、上記設定スイッチがオンにされたときにスレーブ設定信号を上記他の機器に送出する送信手段と、上記MIDIメッセージの他に、上記スレーブ設定信号を受信する受信手段とを備えたことを特徴とする。」

ウ 「【0019】図1において、1a?1dはそれぞれ同じ構成を持つ電子楽器であり、これらは何れも、MIDIのシステム・メッセージ(タイミング・クロック、スタート、コンティニュー、ストップなどのリアルタイム・メッセージやコモン・メッセージ)に従って演奏を制御するように成された自動伴奏装置(リズムマシン)や自動演奏装置(シーケンサ)などを備えている。
【0020】図1に示すように、これら複数の電子楽器1a?1dは、MIDIイン/アウト端子を介して環状に従属接続されている。すなわち、1つの電子楽器のMIDIアウトを次の電子楽器のMIDIインに繋ぎ、そのMIDIアウトから更に次の電子楽器のMIDIインに繋ぎ、……というようにして複数の電子楽器を環状に従属接続している。なお、ここでは4台の電子楽器1a?1dを従属接続しているが、本発明はこの数には限定されない。
【0021】各々の電子楽器1a?1dは、マスターモード設定スイッチ2を備えており、このスイッチをONにすることによって何れの電子楽器1a?1dもマスター楽器として動作できるようになっている。後で詳しく説明するが、ある電子楽器でマスターモード設定スイッチ2が押されたときは、それ以外の電子楽器はスレーブ楽器として動作するように設定される。なお、スレーブモードが設定された場合は、対応するLED(図示せず)が点灯される。
【0022】例えば、電子楽器1aのマスターモード設定スイッチ2が押されたときは、電子楽器1aはマスター楽器として動作し、それ以外の電子楽器1b?1dはスレーブ楽器として動作する。また、電子楽器1bのマスターモード設定スイッチ2が押されたときは、電子楽器1bはマスター楽器として動作し、それ以外の電子楽器1a,1c,1dはスレーブ楽器として動作する。
【0023】このように、各々の電子楽器1a?1dは、マスター楽器として動作するマスターモードとスレーブ楽器として動作するスレーブモードとを有しており、マスターモード設定スイッチ2の操作のし方によって何れのモードでも動作できるようになっている。したがって、本実施形態の場合は、電子楽器の接続のし方によってマスター楽器として動作するかスレーブ楽器として動作するかが固定されていた図10の従来例に比べ、電子楽器の接続をやり直さなくてもマスター楽器として動作する電子楽器を自由に変えることができるというメリットを有する。
【0024】マスターモードに設定された電子楽器は、自機器で発生したタイミング・クロック(MIDIクロック)をMIDIアウト端子から外部に出力する。このとき、スレーブモードに設定された他の電子楽器は、MIDIイン端子から入力されるMIDIクロックに従って内部に備えられた自動伴奏装置あるいは自動演奏装置を制御するとともに、MIDIアウト端子から次段の電子楽器に上記入力されたMIDIクロックをそのまま出力する。」

エ 「【0035】次に、上記電子楽器1a?1dの構成について図2を用いて説明する。図2において、鍵盤部11、操作パネル部12、CPU13、ROM14、RAM15、自動伴奏部16、自動演奏部17、クロック発生部18、楽音発生部19およびMIDIインタフェース20は、それぞれデータバス、アドレスバス等のバスライン24に接続されて、相互にデータの送受信が行われるように構成されている。」

オ 「【0049】MIDIインタフェース20は、電子楽器と外部機器との接続規格であるMIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格により外部機器との間で情報(種々の楽音パラメータ情報の他、MIDIクロック、スタート、コンティニュー、ストップなどのリアルタイム・メッセージやコモン・メッセージ、スレーブ設定信号、スレーブ解除信号、テンポスピード情報を含む)の授受を行う。
(中略)
【0051】図3?図5において、MIDIイン端子31、MIDIアウト端子32は、図2に示したMIDIインタフェース20に相当する。MIDIイン端子31は、外部機器よりテンポスピード情報を含む種々のMIDIメッセージや演奏情報を入力する。また、MIDIアウト端子32は、自機器の鍵盤部11の操作により生成した演奏情報や、テンポスピード情報を含む種々のMIDIメッセージを出力する。」

これらの記載及び図面によれば、引用例1には、
「複数の電子楽器1a?1dは、MIDIインタフェースを介して接続され、
電子楽器1a?1dは、MIDI規格の電子楽器であって、電子楽器と外部機器との接続規格であるMIDI規格により外部機器との間で情報(種々の楽音パラメータ情報の他、MIDIクロック、スタート、コンティニュー、ストップなどのリアルタイム・メッセージやコモン・メッセージ、スレーブ設定信号、スレーブ解除信号、テンポスピード情報を含む)の授受を行う、MIDIインタフェース20を含み、
ある電子楽器でマスターモード設定スイッチ2が押されたときは、それ以外の電子楽器はスレーブ楽器として動作するように設定され、
マスターモードに設定された電子楽器は、自機器で発生したタイミング・クロック(MIDIクロック)をMIDIアウト端子から外部に出力し、スレーブモードに設定された他の電子楽器は、MIDIイン端子から入力されるMIDIクロックに従って内部に備えられた自動伴奏装置あるいは自動演奏装置を制御する、
電子楽器システム。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-49682号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項及び図面が記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数のインタフェース方式で通信を行うことのできる電子楽器の通信制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年の電子楽器は通信機能を有し、電子楽器に内蔵される音源を用いて楽音を発生する他に、外部機器との間で楽音データを通信できるようになっている。例えば、鍵盤を弾くことにより発生する楽音データを、外部に送信して外部音源、例えば音源モジュール又は他の電子楽器の音源を用いて楽音を発生させることができる。また、逆に、外部の電子楽器から楽音データを受信し、本電子楽器の音源を用いて楽音を発生させることができる。
【0003】かかる電子楽器間の通信を行うための一般的な規格として、MIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格が用いられている。このMIDI規格によれば、送信側と受信側とにMIDI規格に則ったインタフェース回路を用意しておき、所定の形式に従ったデータを送受することにより、電子楽器相互間で楽音データを通信できる。かかる機能を実現するために、近年の電子楽器はMIDIインタフェース機構が搭載されているのが一般的である。
【0004】ところで、近年は、所謂コンピュータミュージックが著しい進展を遂げ、例えばパーソナルコンピュータ上で作曲や編曲を行って楽音データを生成し、この楽音データを電子楽器に送って発音させることが可能となっている。また、逆に電子楽器を弾くことにより得られた楽音データをコンピュータに送ってコンピュータ上で編集するというアプリケーションが可能となっている。
【0005】かかるアプリケーションを実現するために、コンピュータと電子楽器(又は音源モジュール)との間で上述したMIDIインタフェースを用いて楽音データの通信が行われるが、このために、コンピュータ側にMIDIインタフェース機構を備える必要があった。
【0006】しかしながら、通常のパーソナルコンピュータ等は、MIDIインタフェース機構を一般的に装備していないので、電子楽器と通信するためには新たにMIDIインタフェース機構を組み込む必要があり、コストアップにつながるという問題があった。
【0007】そこで、通常のパーソナルコンピュータ等に一般的に組み込まれている例えばRS-232C、RS-422等のシリアルインタフェース、或いは所謂セントロニクスインタフェース等のパラレルインタフェース機構等(以下、これらを総称して「汎用インタフェース」という)の何れかに適合するインタフェース機構を電子楽器側に備え、コンピュータとの通信は、これらインタフェース機構を介して行うものが開発されている。」

上記記載及び図面によれば、引用例2には、
「RS-232Cを含む汎用インタフェースに適合するインタフェース機構を電子楽器側に備え、前記インタフェース機構を介して楽音データの通信を行う電子楽器の通信制御装置。」
の発明が記載されていると認める。

3.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「電子楽器1a?1d」が、本願補正発明の「デジタルメディアデバイス」に相当するとともに、「音声デバイスおよび/またはビデオデバイス」を含むことは、引用例1の記載から明らかである。
引用発明における複数の「電子楽器1a?1d」は、いずれもMIDI規格に基づく「MIDIインタフェース20」を備えた「MIDI規格の電子楽器」であって、「MIDIインタフェースを介して接続」されている。
ここで、引用発明において採用されている「電子楽器と外部機器との接続規格であるMIDI規格」は、電子楽器等の情報をデジタル信号によって伝達するためのインタフェースとして標準化された周知の規格であり、電子楽器間の通信を行うための規格としての機能をも備えることから、電子楽器等のデジタルデバイスが、前記MIDI規格に準拠したインタフェースを備えていれば、デジタルデバイスの種類にかかわらず相互に接続可能であり、楽音データを通信することができることは、技術常識である。
したがって、引用発明における、MIDI規格に準拠したMIDIインタフェースを介して複数の電子楽器1a?1dを接続し、情報の授受、すなわち通信を行う構成(以下、「MIDI接続」と略す。)は、上位概念化して表現すれば、「汎用データリンク」ということができる。
なお、本件審判請求書の「請求の理由」において、「汎用データリンクとは、複数のデバイス(例えば音声デバイス)をこれらの各デバイスのデバイスインタフェースモジュールによって相互に接続するのに用いられる標準化された通信リンク」(「請求の理由 (3)3.」)と記載されていることからみても、上記「MIDI接続」が「汎用データリンク」といえることは明らかである。
したがって、引用発明と本願補正発明とは、「複数のデジタルメディアデバイスと、汎用データリンクとを備え、前記複数のデジタルメディアデバイスの少なくとも1つのデバイスは、音声デバイスおよび/またはビデオデバイス」である点で一致する。
(2)引用発明において、各電子楽器1a?1dは、前記「MIDI接続」により、「外部機器との間で情報(種々の楽音パラメータ情報の他、MIDIクロック、スタート、コンティニュー、ストップなどのリアルタイム・メッセージやコモン・メッセージ、スレーブ設定信号、スレーブ解除信号、テンポスピード情報を含む)の授受を行う、MIDIインタフェース20」を含み、前記「情報」が、「デジタルデータおよび制御データ」に相当すること及び前記「MIDIインタフェース20」が、本願補正発明の「デバイスインタフェースモジュール」に相当することは明らかである。
したがって、引用発明は、本願補正発明と同様に、「複数のデジタルメディアデバイスは、それぞれが、デジタルデータおよび制御データを、少なくとも1つのデバイスから少なくとも他の1つのデバイスに通信するためのデバイスインタフェースモジュールを含」むということができる。
(3)引用発明において、「MIDI接続」は、各電子楽器1a?1dを「MIDIインタフェース」を介して接続し、各電子楽器間での「情報(種々の楽音パラメータ情報の他、MIDIクロック、スタート、コンティニュー、ストップなどのリアルタイム・メッセージやコモン・メッセージ、スレーブ設定信号、スレーブ解除信号、テンポスピード情報を含む)の授受」、すなわち通信、を行うことにより、各電子楽器を制御するものであるから、引用発明と本願補正発明とは、「汎用データリンクは、各デバイスのデバイスインタフェースモジュールのそれぞれに動作できるように接続されており、前記デバイスインタフェースモジュールおよび汎用データリンクは、システム内で複数のデバイスを互いに接続し、複数のデバイス間でのデジタルデータおよび制御データの通信を行なうように組み合わせて動作可能」としている点で共通するということができる。
(4)引用発明において、「ある電子楽器でマスターモード設定スイッチ2が押されたとき」、該電子楽器は「マスターモードに設定」され、一方、「それ以外の電子楽器はスレーブ楽器として動作するように設定」されており、前記マスターモードに設定された電子楽器は、「自機器で発生したタイミング・クロック(MIDIクロック)をMIDIアウト端子から外部に出力」し、他の電子楽器の「内部に備えられた自動伴奏装置あるいは自動演奏装置」は、前記「MIDIクロック」に従って制御されることから、引用発明と本願補正発明とは、「複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスは、システムタイミングマスタとして構成され、少なくとも他の1つのデバイスは、スレーブデバイスとして構成され、前記システムタイミングマスタは、前記スレーブデバイスに同期データを与えるよう動作可能」となっている点で一致する。
(5)そして、上記構成及び機能から、引用発明の「電子楽器システム」は、本願補正発明と同様に、「デジタルメディア通信および制御システム」と呼称することができる。

以上を踏まえると、本願補正発明と引用発明とは次の一致点、相違点がある。
【一致点】
「複数のデジタルメディアデバイスと、汎用データリンクとを備え、
前記複数のデジタルメディアデバイスの少なくとも1つのデバイスは、音声デバイスおよび/またはビデオデバイスであり、
前記複数のデジタルメディアデバイスは、それぞれが、デジタルデータおよび制御データを、少なくとも1つのデバイスから少なくとも他の1つのデバイスに通信するためのデバイスインタフェースモジュールを含み、
前記汎用データリンクは、各デバイスのデバイスインタフェースモジュールのそれぞれに動作できるように接続されており、
前記デバイスインタフェースモジュールおよび汎用データリンクは、システム内で複数のデバイスを互いに接続し、複数のデバイス間でのデジタルデータおよび制御データの通信を行なうように組み合わせて動作可能となっており、
前記複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスは、システムタイミングマスタとして構成され、少なくとも他の1つのデバイスは、スレーブデバイスとして構成され、前記システムタイミングマスタは、前記スレーブデバイスに同期データを与えるよう動作可能となっているデジタルメディア通信および制御システム。」

【相違点1】
本願補正発明は、制御データが、「デバイスのそれぞれを、システムに結合されるデバイスの他のものと識別するデバイス識別データ」を含むのに対し、引用発明には、制御データが、「デバイス識別データ」を含むことは特定されていない点。

【相違点2】
本願補正発明は、「汎用データリンク」が、複数のデバイス間で「全二重通信」を行なうように互いに接続しているのに対し、引用発明は、「汎用データリンク」が、複数のデバイス間を「MIDI接続」により接続しており、「全二重通信」を行なうものではない点。

【相違点3】
本願補正発明は、「複数のデバイスのいずれのデバイスもシステムタイミングマスタとして構成されていない場合、前記複数のデバイスのうちの1つのデバイスがシステムタイミングマスタとして自動再構成されるようになっている」のに対し、引用発明は、複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスをシステムタイミングマスタとして構成するが、複数のデバイスのいずれのデバイスもシステムタイミングマスタとして構成されていない場合、システムタイミングマスタとなるデバイスを自動再構成することは特定されていない点。

4.判断
以下、相違点について検討する。
(1)相違点1について
複数のデジタルデバイスをネットワークに接続し、相互に通信を行うネットワークシステムを構成する場合、通信する制御データに各デバイスを識別するためのデバイス識別データを含ませることは、周知慣用の技術手段であり、引用発明において、電子楽器等のデバイス間で授受する情報中の制御データに、「デバイス識別データ」を含ませることは、当業者であれば自明のことである。

例えば、特公平6-79219号公報には次の記載がある。
「複数の電子楽器(101?108)を信号接続線(21?25)で環状に縦続接続し、
楽音設定情報・演奏情報・動作パラメータ設定情報に各電子楽器識別情報を付するとともに各電子楽器の制御信号における主従の動作状態を付加した通信信号により相互に通信することができる電子楽器」(1ページ左欄2行?7行)

したがって、相違点1は格別のことではない。

(2)相違点2について
複数のデジタルデバイス相互に通信を行うネットワークシステムを構成するための規格として、デバイス間で「全二重通信」を行うことが可能な規格は、例えば、「RS-232C」として標準化されており、電子楽器の技術分野において、前記標準化された規格に対応したインタフェースを用いて電子楽器を含むデバイス間を接続し、前記インターフェースを介してデバイス間での楽音データの通信を行うことは、引用例2に記載されている。
したがって、引用発明において、「音声デバイスおよび/またはビデオデバイス」である電子楽器を互いに接続し、電子楽器間で情報の通信を行う「MIDI接続」の機能を、前記周知の「全二重通信」を行う標準化された規格に対応したインタフェースにより実現することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(3)相違点3について
ネットワークに接続された複数のデバイスのうち、1つのデバイスをマスタとし、他のデバイスをスレーブとして、マスタデバイスからスレーブデバイスに同期信号を送信するよう構成したネットワークにおいて、マスタからの同期信号が得られないとき、他のスレーブデバイスがマスタとなり、同期信号を送信するよう前記構成を自動的に再構成することは、例えば、特開平6-30009号公報に記載されているように、周知の技術手段である。

前記特開平6-30009号公報には次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、複数のステーションの1つがマスタとなり、残りの全ステーションがスレーブとなって、ステーション相互間のデータ伝送を行うリング型LANに係り、特にマスタステーションがダウンした場合に好適なリング型LANにおけるマスタのバックアップ方式に関する。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記したように、予めマスタに定められた、あるい固定的にマスタとなっているステーションがリング伝送路に同期信号または同期用フレームを送信し、他のステーションがそれと同期をとってデータ伝送を行う方式を適用する従来のリング型LANでは、マスタステーションがダウンして同期信号または同期用フレームが送信されなくなると、データ伝送が行えなくなるという問題があった。
【0005】この発明は上記事情に鑑みてなされたものでその目的は、マスタステーションがダウンして同期信号または同期用フレームを送信できなくなっても、他のステーションの1つがマスタとなって同期信号または同期用フレームを送信してバックアップできるリング型LANにおけるマスタのバックアップ方式を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、リング型LAN上の複数のステーションのうちの1つが、リング伝送路を介して同期信号または同期用フレームを常時送信するマスタ(マスタステーション)となり、残りの全ステーションがスレーブ(スレーブステーション)となる構成とすると共に、各スレーブステーションがマスタステーションからの同期信号または同期用フレームと同期をとって通信を行い、この同期信号または同期用フレームが受信されなくなった場合には、そのステーションに固有の時間を監視して、その監視時間内に同期信号または同期用フレームを受信できなければ、マスタステーションがダウンしたものとして、そのステーションが新たにマスタとなって同期信号または同期用フレームを送信する構成としたことを特徴とするものである。」

したがって、複数の電子楽器1a?1dのうちの1つの電子楽器をマスタとし、それ以外の電子楽器をスレーブとし、マスタとされた電子楽器からスレーブとされた他の電子楽器にタイミングクロックを送信する引用発明において、上記周知の技術手段を採用し、タイミング・クロックが得られない場合、すなわち、複数の電子楽器のいずれもマスタとして設定されていない場合、いずれかの電子楽器をタイミング・クロックを送信するマスタとして自動的に再構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願補正発明の奏する作用効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年7月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし46に係る発明は、平成17年6月14日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし46に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「【請求項1】
複数のデジタルメディアデバイスと、汎用データリンクとを備え、
前記複数のデジタルメディアデバイスは、それぞれが、デジタルデータおよび制御データを、少なくとも1つのデバイスから少なくとも他の1つのデバイスに通信するためのデバイスインタフェースモジュールを含み、
前記汎用データリンクは、デバイスインタフェースモジュールのそれぞれに動作できるように接続されており、
前記デバイスインタフェースモジュールおよび汎用データリンクは、システム内でデバイスを互いに接続し、デジタルデータおよび制御データのデバイス間での全二重通信を行なうように組み合わせて動作可能となっており、
前記複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスは、システムタイミングマスタとして構成され、少なくとも他の1つのデバイスは、スレーブデバイスとして構成されており、前記システムタイミングマスタは、前記スレーブデバイスに同期データを与えるよう動作可能となっていることを特徴とするデジタルメディア通信および制御システム。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2及びその記載事項は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明から、「前記複数のデジタルメディアデバイスの少なくとも1つのデバイスは、音声デバイスおよび/またはビデオデバイスであり」、「制御データは、デバイスのそれぞれを、システムに結合されるデバイスの他のものと識別するデバイス識別データを含み」、「複数のデバイスのいずれのデバイスもシステムタイミングマスタとして構成されていない場合、前記複数のデバイスのうちの1つのデバイスがシステムタイミングマスタとして自動再構成されるようになっていること」等の限定事項を省いたものである。
そうすると、上記「第2 3.」と同様に対比すれば、本願発明と引用発明とは、
「複数のデジタルメディアデバイスと、汎用データリンクとを備え、
前記複数のデジタルメディアデバイスは、それぞれが、デジタルデータおよび制御データを、少なくとも1つのデバイスから少なくとも他の1つのデバイスに通信するためのデバイスインタフェースモジュールを含み、
前記汎用データリンクは、デバイスインタフェースモジュールのそれぞれに動作できるように接続されており、
前記デバイスインタフェースモジュールおよび汎用データリンクは、システム内でデバイスを互いに接続し、
前記複数のデバイスの少なくとも1つのデバイスは、システムタイミングマスタとして構成され、少なくとも他の1つのデバイスは、スレーブデバイスとして構成されており、前記システムタイミングマスタは、前記スレーブデバイスに同期データを与えるよう動作可能となっているデジタルメディア通信および制御システム。」
の点で一致し、次の点で相違する。

【相違点】
本願発明は、「汎用データリンク」が、「デジタルデータおよび制御データのデバイス間での全二重通信を行なうように組み合わせて動作可能」となるように互いに接続しているのに対し、引用発明は、「汎用データリンク」が、「MIDI接続」であり、複数のデバイスを「デジタルデータおよび制御データのデバイス間での全二重通信を行なうように組み合わせて動作可能」となるように互いに接続しているとはいえない点。

4.判断
上記相違点は、上記「第2 3.」の【相違点2】と同様であり、該相違点についての判断は、上記「第2 4.(2)」に記載したとおりである。
したがって、本願発明も、上記「第2 4.」と同様の理由により、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-04-16 
結審通知日 2008-05-13 
審決日 2008-05-26 
出願番号 特願2000-614437(P2000-614437)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G10H)
P 1 8・ 121- Z (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間宮 嘉誉山下 剛史樫本 剛  
特許庁審判長 西山 昇
特許庁審判官 脇岡 剛
月野 洋一郎
発明の名称 デジタルメディア通信および制御のシステムと方法  
代理人 川崎 隆夫  

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