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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1186919
審判番号 不服2007-24150  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-03 
確定日 2008-10-27 
事件の表示 平成 9年特許願第525366号「高効率の水中翼および水泳用足ヒレのデザイン」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月17日国際公開、WO97/25109、平成12年 3月21日国内公表、特表2000-503216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成9年1月9日(パリ条約による優先権主張1996年1月11日、米国)の出願であって、平成18年8月14日付け拒絶理由通知に対して、平成19年2月22日付け手続補正書と同月27日付け意見書が提出されるも、同年5月24日付けで拒絶査定がなされ、これを不服とする拒絶査定不服審判請求が同年9月3日付けでなされ、同年11月15日付けで審判請求理由が補正されたものである。
本願の平成19年2月22日付け手続補正書は、本願の特許請求の範囲を対象とするものであって、当該手続補正書には請求項1?78が記載されており、引用される請求項毎にまとめると、以下のようになっている。

請求項1:「水中翼の性能を改善する方法」
請求項2?14:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項15?19:「旋回するブレード部材を水泳用足ヒレに連結する方法」
請求項20?23:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項24?28:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項29?31:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項32?39:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項40、41:「水泳用足ヒレ」
請求項42?46:「水泳用足ヒレ」
請求項47?50:「水泳用足ヒレ」
請求項51、52:「水泳用足ヒレを提供する方法」
請求項53?59:「横方向の柔軟素材を備えた負荷支持構造に連結されたブレード部材を含む水中翼」
請求項60?62:「水泳用足ヒレ」
請求項63?69:「水泳用足ヒレ」
請求項70?78:「水泳用足ヒレ」
ただし、請求項16では請求項5を引用する記載がなされているが、「柔軟部分」なる特定は、請求項5あるいは当該請求項5の引用する請求項2のいずれにも直ちに対応するものがなく、直近の請求項15に存在することから、ひとまず、請求項15を引用すると記載すべきところを誤って請求項5と記載したものと推察されるので、そのように扱った。

ところで、原審においては、前記平成18年8月14日付け拒絶理由通知において、3つの拒絶理由を掲げており、理由1では、特許法第37条に規定する要件を満たしていないことを、理由2では、特許請求の範囲に記載された請求項に係る発明すべてについて引用文献1、2を引用して特許法第29条第2項に係る容易想到であることを、理由3では、明細書の記載が全般的に明確でないとする特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないことを指摘していたが、平成19年5月24日付け拒絶査定においては、特許法第29条第2項に係る容易想到であることを指摘した前記理由2によって、拒絶をすべきものとしており、見かけ上、前記理由1及び理由3が解消したかの記載がされている。
しかしながら、当審において、平成19年2月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?46、48?78の記載を検討するに、本願明細書に記載される発明のいずれと対応するかが明らかとはいえず、また、これらの発明を実施したとする具体的構成のいずれと対応するかも把握できない故に、実態としては、前記拒絶理由通知で指摘している理由1及び理由3は解消されていないといわざるを得ない。
そこで、当審においては、その内容が把握できる請求項47を対象として、前記拒絶理由通知で指摘される理由2が妥当か否かを検討することとする。
なお、平成19年2月22日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項47においては、「前記可動部分は、射出成形中に作成される結合材で固着された二つの熱可塑性部材でできている活動部分、」と記載されているが、当該「前記可動部分」に相当する部分は、それ以前に記載がなく、当該記載は、「活動部分」がいかなるものであるかを記載していることが明らかであることからして、当該「前記可動部分」は「前記活動部分」の誤記と認定する。

してみるに、本願の請求項47に係る発明は、以下のものと認める。

請求項47
「水泳用足ヒレであって、
(a)足への装着部材、
(b)前記足への装着部材に形作られ、前記足への装着部材から前への延長部を形成する活動部分であって、前記活動部分は、前記足への装着部材に隣接した根元部分、および、前記根元部分や前記足への装着部材から離れた自由端部を有し、前記自由端部は、自由端部の左右面を有し、前記自由端部は、前記自由端部を二つの先端部に分けるのに十分な凹部を有し、前記凹部の少なくとも一つの部分は、前記自由端部の左右面大部分に渡って延びた、くぼんだ左右面を有し、前記活動部分は、射出成形中に作成される結合材で固着された二つの熱可塑性部材でできている活動部分、
を含む水泳用足ヒレ。」
(以下、「本願発明」という。)

2.引用刊行物
これに対して、原審における、平成18年8月14日付け拒絶理由通知に引用された本願出願日前に頒布されたイタリア国特許発明第625377号明細書(以下、「刊行物」という。)には、以下の記載事項が認められる。
なお、以下では、当該刊行物における頁・行を示した上で当審における翻訳を記載することで、その内容を示す。

ア.1頁1-8行


翻訳「本発明は水泳用足ヒレに関するものであり、泳者の前方への推力を増加させ、従来製品と比べて、同じ打面で更なる効果をもたらす足ヒレを実現化することを目的としている。」

イ.1頁67行-2頁5行


翻訳「本発明による足ヒレは、プラスチック、ラバー、天然ゴムといった素材、又はあらゆる適切な、硬質、半硬質、又は伸縮性、浮動性に富む素材を用い、あらゆる色彩を施すことが可能である。足ヒレの靴部の種類は、バックル付、ボタン式、サンダル状、又はあらゆる適切な種類の靴にすることができる。」

ウ.2頁44-59行


翻訳「図1及び図2は、発明に従って実施された足ヒレの最初の形を、側面図及び平面図で図示したものである。
図3は、図2のIIIからIIIの線に沿っての断面図である。
図4から図8は、発明に従って実施された足ヒレの形5つを平面図で概略的に図示したものである。
図4a、4b、及び図5a、図8aは、それぞれ図4から図8の、IVaからIVa、IVbからIVb、及びVaからVa、VIIIaからVIIIaの線に沿った概略的切断面である。」

エ.3頁20-32行


翻訳「図5及び図5aによる実施様態は、靴部2から前方に広がる二枚の分岐したヒレ201によって足ヒレの打面が構成されている。このヒレ201は、前方に向かって徐々に幅が狭くなり、足ヒレの前面の縁に向かって徐々に溝が細くなって縁上で外に通じるように、片面又は両面上に畝部がついている。」

上記記載事項アからは、当該刊行物1記載のものが水泳用足ヒレに係るものであること、同記載事項イからは、足ヒレが、プラスチック、ラバー、天然ゴムといった素材、又はあらゆる適切な、硬質、半硬質、又は伸縮性、浮動性に富む素材からなるものであること、また、当該足ヒレが、靴部を有し、当該靴部は、バックル付、ボタン式、サンダル状、又はあらゆる適切な種類にすることができることが把握できる。
そして、同記載事項ウの図の説明を参照しつつ、実施形態である図5及び図5aをみれば、同記載事項エにあるように、靴部2から前方に広がる二枚の分岐したヒレ201によって足ヒレの打面を構成するものが示されていることが把握できる。

よって、これら刊行物の記載事項から以下の発明が把握できる。
「プラスチック、ラバー、天然ゴムといった素材、又はあらゆる適切な、硬質、半硬質、又は伸縮性、浮動性に富む素材からなる足ヒレであって、
靴部を有し、当該靴部は、バックル付、ボタン式、サンダル状、又はあらゆる適切な種類にすることができ、
足ヒレ打面は、靴部から前方に広がる二枚の分岐したヒレによって構成されている、
水泳用足ヒレ。」
(以下、「刊行物記載発明」という。)

3.対比・判断
3-1 対比
「本願発明」
「水泳用足ヒレであって、
(a)足への装着部材、
(b)前記足への装着部材に形作られ、前記足への装着部材から前への延長部を形成する活動部分であって、前記活動部分は、前記足への装着部材に隣接した根元部分、および、前記根元部分や前記足への装着部材から離れた自由端部を有し、前記自由端部は、自由端部の左右面を有し、前記自由端部は、前記自由端部を二つの先端部に分けるのに十分な凹部を有し、前記凹部の少なくとも一つの部分は、前記自由端部の左右面大部分に渡って延びた、くぼんだ左右面を有し、前記活動部分は、射出成形中に作成される結合材で固着された二つの熱可塑性部材でできている活動部分、
を含む水泳用足ヒレ。」

「刊行物記載発明」
「プラスチック、ラバー、天然ゴムといった素材、又はあらゆる適切な、硬質、半硬質、又は伸縮性、浮動性に富む素材からなる足ヒレであって、
靴部を有し、当該靴部は、バックル付、ボタン式、サンダル状、又はあらゆる適切な種類にすることができ、
足ヒレ打面は、靴部から前方に広がる二枚の分岐したヒレによって構成されている、
水泳用足ヒレ。」
本願発明と刊行物記載発明とを対比する。
刊行物記載発明における「靴部」は、足への装着を行うための構成であることは明らかであるから、本願発明の「足への装着部材」に相当する。
刊行物記載発明における「足ヒレ打面」は、「靴部」から前方に広がるヒレによって構成されているものであるから、本願発明の「前記足への装着部材に形作られ、前記足への装着部材から前への延長部を形成する活動部分」に相当し、当該本願発明の「前記活動部分は、前記足への装着部材に隣接した根元部分、および、前記根元部分や前記足への装着部材から離れた自由端部を有し、」なる特定も充足している。

してみると、本願発明と、刊行物記載発明とは以下の点で一致するものの、以下の2点で相違している。

〈一致点〉
「水泳用足ヒレであって、
(a)足への装着部材、
(b)前記足への装着部材に形作られ、前記足への装着部材から前への延長部を形成する活動部分であって、前記活動部分は、前記足への装着部材に隣接した根元部分、および、前記根元部分や前記足への装着部材から離れた自由端部を有した、水泳用足ヒレ。」

〈相違点1〉
本願発明においては、「活動部分」に関して、「前記自由端部は、自由端部の左右面を有し、前記自由端部は、前記自由端部を二つの先端部に分けるのに十分な凹部を有し、前記凹部の少なくとも一つの部分は、前記自由端部の左右面大部分に渡って延びた、くぼんだ左右面を有し、」と特定されているのに対して、
刊行物記載発明においては、当該特定を有するか定かでない点。

〈相違点2〉
本願発明においては、「活動部分」に関して、「前記活動部分は、射出成形中に作成される結合材で固着された二つの熱可塑性部材でできている活動部分、」と特定されているのに対して、
刊行物記載発明においては、当該特定を有するか定かでない点。

3-2 相違点に係る判断
相違点1を検討するに、刊行物記載発明においては、「足ヒレ打面は、靴部から前方に広がる二枚の分岐したヒレによって構成されている」。
このように、刊行物記載発明における足ヒレ打面は、靴部から分岐して前方に広がる構成と記載されており、当該刊行物における図5及び当該図5におけるVaからVaの線に沿った概略的切断面である図5aを参酌すれば、少なくとも靴部2から前方へ二枚の足ヒレ打面が形成されている。
すると、当該図5及び図5aに示される二枚の足ヒレ打面201の間には、実質的に「凹部」と呼称し得る「空間部」が形成されている。
そして、当該図5及び図5aを参照すれば、二枚の足ヒレ打面201が自由端部を有し、当該自由端部は左右面を有するものであって、前記二枚の足ヒレ打面201の二つの先端部を分けるべく、前記「凹部」と呼称し得る「空間部」が存在し、当該「空間部」の一つの部分は、前記自由端部の左右面大部分に渡って延びた、くぼんだ左右面を有しているといえる。
よって、刊行物記載発明は、相違点1に係る構成を実質的に備えており、当該相違点1に係る構成は、実質的な相違点とはいえない。

次に、相違点2を検討するに、刊行物には、足ヒレを構成する材料に関して、前記記載事項イにあるように、「プラスチック、ラバー、天然ゴムといった素材、又はあらゆる適切な、硬質、半硬質、又は伸縮性、浮動性に富む素材」が採用し得ることが記載されている。
なるほど、ここにいう「プラスチック」すべてが直ちに熱可塑性を有するものといえないものの、「プラスチック」に熱可塑性のものが多く存在することは技術常識に属する。
また、「プラスチック」が射出成形を行い得ることから、形状を容易に構成し得る材料であることも、技術常識に属する。

ここで、相違点2に係る「射出成形中に作成される結合材で固着された」に関し、本願明細書中においては、どのような技術を想定しているかについて確認するに、図9?図13に係る説明あるいは図24?27の説明等を参照するに、「モールド成形」を行うことで、複数の部材が一体部品となし得ることが説明されている。
してみるに、ここでいう「射出成形中に作成される結合材で固着された」とは、プラスチック成形に係る「モールド成形」を包含したものではあるが、当該「モールド成形」は、一般的な技術であって、本願発明によって初めて提言されたものではなく、一般的なプラスチック成形技術に係るものといえる。
よって、相違点2に係る構成を採用することは、水泳用ヒレの技術分野において特段に困難性はなく、当業者であれば必要に応じて適宜に採用し得た程度のことといえる。

なお、請求人は、審判請求に係る理由補充を行う平成19年11月15日付け手続補正書における「(3) 本願発明と引用発明との対比」の「(i)本願請求項1に係る発明と引用文献との対比」の「5)」において、前記請求項47に係る発明について、
「本願請求項47に係る発明は、射出成形中に創成される接着剤でもって連結される二つの熱可塑性材からなる水泳用足ヒレに関しているが、両引用文献には、単一ブレードにおいて異なった熱可塑性材の使用については開示されておらず、それ故、請求項47に係る発明による水泳用足ヒレについては教示または示唆していない。」との主張を行っている。
しかしながら、ここで「両引用文献には、単一ブレードにおいて異なった熱可塑性材の使用については開示されておらず、」と主張されるに相当する特定は、当該請求項47には存在せず、請求人の主張は当該請求項47の特定に根拠を置くものではないから採用できない。

以上のとおりであるから、相違点1及び相違点2に係る構成を採用することは、実質的な相違でないか、水泳用ヒレの技術分野における当業者であれば適宜に採用し得た程度のことであって、それら相違点に係る構成により格別な作用効果がもたらされるものともいえない。

4.むすび
したがって、本願発明は、刊行物記載発明と当業者の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2008-06-02 
結審通知日 2008-06-03 
審決日 2008-06-16 
出願番号 特願平9-525366
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鉄 豊郎  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 七字 ひろみ
江成 克己
発明の名称 高効率の水中翼および水泳用足ヒレのデザイン  
代理人 浅村 肇  
代理人 岩本 行夫  
代理人 浅村 皓  
代理人 山本 貴和  

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