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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1187138
審判番号 無効2006-80003  
総通号数 108 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2008-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-01-13 
確定日 2008-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3656755号「中通し竿の内面塗装方法とその装置」の特許無効審判事件についてされた平成18年12月11日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成19年(行ケ)第10025号平成19年4月20日言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 特許第3656755号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3656755号は,平成4年3月30日に出願された特願平4-71804号(以下,「原出願」という。)の一部を新たな出願としたものであって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。

平成 4年 3月30日 原出願(特願平4-71804号)
平成16年 6月 7日 本件出願
(特願2004-168841号)
平成17年 2月 3日 特許査定(特許第3656755号)
平成18年 1月13日 無効審判請求(無効2006-80003号)
平成18年 4月 3日 被請求人:答弁書提出
平成18年 5月29日 請求人:弁駁書提出
平成18年12月11日 無効審判審決(請求成立)
平成19年 1月18日 知的財産高等裁判所出訴
(平成19年(行ケ)第10025号)
平成19年 3月22日 訂正審判請求
(訂正2007-390035号)
平成19年 4月20日 差戻し決定(審決取消)
平成20年 3月 6日 訂正請求のための期間指定通知
平成20年 3月20日 訂正請求
平成20年 4月25日 請求人:弁駁書提出

なお,被請求人は平成20年3月6日付け訂正請求のための期間指定通知に対して訂正請求をしなかったので,被請求人が行った平成19年3月22日付けの訂正審判請求(訂正2007-390035号)は,特許法第134条の3第5項の規定により,当該期間の末日である平成20年3月20日に,その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書又は図面を援用した訂正請求とみなされた。

第2.請求人の主張の概略
1.請求人は,本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,その理由として,次の(理由1)ないし(理由5)により,本件特許の請求項1に係る発明の特許は無効とすべきものであると主張し,証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証を提出している。

2.請求人は,さらに,平成20年4月25日付け弁駁書において,本件訂正は訂正の目的のいずれにも該当せず訂正目的要件に違反するので,当該訂正は認められるべきものではない旨を主張するとともに,仮に訂正が認められるとしても,訂正後の発明に対する特許要件は本件審決中においてすでに実質的に判断済みであって特許要件を欠如しているから,本件特許の請求項1に係る発明の特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきものであると主張している。

[無効理由]
(理由1)本件発明は,原出願に包含された二以上の発明のうちの一つではなく,不適法な分割出願に係るものであり,その出願日は,現実の出願日である平成16年6月7日となるから,本件発明は,原出願の公開公報である特開平5-268858号公報(甲第1号証),及び周知慣用の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,その特許は,特許法123第1項2号に該当し,無効とすべきものである。

(理由2)本件発明は,原出願の請求項2に係る発明と同一であり,不適法な分割出願に係るものであり,その出願日は,現実の出願日である平成16年6月7日となるから,本件発明は,原出願の公開公報である特開平5-268858号公報(甲第1号証),及び周知慣用の技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,その特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

(理由3)本件発明は,その発明の詳細な説明において,当業者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的,構成及び効果を記載しなければならないとの要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,特許法36条4項の規定に違反するものであって,その特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。

(理由4)本件発明は,米国特許第4209931号明細書(甲第5号証),及び周知慣用の技術手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,その特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

(理由5)本件発明は,仏国特許第1592422号明細書(甲第15号証),及び周知慣用の技術手段に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,その特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平5-268858号公報(原出願)
甲第2号証:特開平1-304836号公報
甲第3号証:実願平1-128576号(実開平3-67554号)の
マイクロフイルム
甲第4号証:原出願(特願平4-71804号)の平成16年6月7日付け
手続補正書
甲第5号証:米国特許第4209931号明細書
甲第6号証:特開平3-10631号公報
甲第7号証:特開昭60-264239号公報
甲第8号証:「最新表面処理技術総覧」最新表面処理技術総覧編集委員会
編集,1183?1188頁,発行所:株式会社 産業技術
サービスセンター,発行日:昭和63年4月11日重版
甲第9号証:特開平1-197533号公報
甲第10号証:特公昭51-3489号公報
甲第11号証:特開昭49-24234号公報
甲第12号証:特開昭63-225451号公報
甲第13号証:「最近の機能性塗料」講演会-弗素系樹脂とその塗装の
「すべり特性・非粘着特性を生かした弗素樹脂コーティング
材料の種類(特性)」ダイキン工業(株)化学事業部応用
研究部 第二樹脂応用研究課長 本田紀将』
(昭和61年12月15日国立国会図書館受入)
甲第14号証:特開平3-107617号公報
甲第15号証:仏国特許第1592422号明細書
甲第16号証:特開平2-292349号公報
甲第17号証:実願昭55-188813号(実開昭57-113857号
)のマイクロフイルム

なお,請求人は,平成18年5月29日付け弁駁書に添付して「参考資料1」(上記甲第8号証刊行物の第630?633頁)を提出している。

第3.被請求人の主張の概略
1.被請求人は,平成18年4月3日付け答弁書において,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,(理由1)および(理由2)に対しては,分割が適法である旨を,また,(理由3)に対しては,次の乙第1号証を提出して記載不備がない旨を,それぞれ主張している。さらに,(理由4)および(理由5)に対しては,各証拠の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨を主張している。

2.被請求人は,平成20年3月20日付け訂正請求書(平成19年3月22日付け訂正審判請求書)において,本件訂正は特許法第126条第1項第1号の特許請求の範囲の減縮又は同条第1項第3号の明りょうでない記載の釈明に該当し,また,本件訂正後の本件請求項1に係る発明は甲1号証等との差異を明確にしたものであるから特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり,特許法第126条第5項の規定も充足している旨を主張している。

[証拠方法]
乙第1号証:「竿材内面撥水塗装残存水量調査」

第4.本件特許の出願日について
後述のとおり(「第7.1.」参照。),本件特許は,特許法第44条第1項の規定に基づいて適法に分割されたものであるから,本件特許の出願日は原出願の出願日である平成4年3月30日とみなす。

第5.訂正請求について
1.訂正事項
平成20年3月20日付け訂正請求(以下,「本件訂正」という。)は,本件特許の明細書を,訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり,次の事項をその訂正内容とするものである。

(1)訂正事項a
請求項1の「前記竿材(R)」を,「筒状に成形された焼成後の前記竿材(R)」と訂正する。

(2)訂正事項b
請求項1の「弗素樹脂粒子(8)と樹脂塗材(9)の混合物」を,「弗素樹脂粒子(8)と前記竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物」と訂正する。

(3)訂正事項c
発明の名称を「中通し竿の内面塗装方法」と訂正する。

(4)訂正事項d
発明の詳細な説明の【0001】を「本発明は、中通し竿の内面塗装方法に関し、詳しくは、竿材内部の釣り糸挿通空間の滑動性を向上させるための樹脂層を形成する技術に関するものである。」と訂正する。

(5)訂正事項e
発明の詳細な説明の【0006】を「本発明の目的は、竿素材内面への釣り糸の付着を阻止するという従来からの良好な面を損なうこと無く、釣り糸を円滑に案内するための樹脂層を形成する中通し竿の内面塗装方法を合理的に構成する点にある。」と訂正する。

(6)訂正事項f
発明の詳細な説明の【0007】を「本発明の第1の特徴は、高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形された竿材(R)の内部空間に釣り糸(6)を挿通させる中通し竿の内面塗装方法であって、筒状に成形された焼成後の前記竿材(R)の前記釣り糸(6)が通る全内面に、弗素樹脂粒子(8)と前記竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物を前記竿材(R)の内部に対して送り込んで塗布を行い、前記竿材(R)の内面に空気の供給を行って乾燥を行うことにより、前記樹脂塗材(9)により樹脂層(P)を形成し、前記樹脂層(P)の表面に前記弗素樹脂粒子(8)が露出したことを特徴とするものであり、夫々の作用、及び、効果は次の通りである。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)訂正の目的の適否について
訂正事項aにおける請求項1についての訂正内容は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「竿材(R)」を,「筒状に成形された焼成後の前記竿材(R)」と限定するものであるから,特許請求の範囲を減縮するものといえる。
訂正事項bにおける請求項1についての訂正内容は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「樹脂塗材(9)」を,「前記竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)」と限定するものであるから,特許請求の範囲を減縮するものといえる。
訂正事項cないしeの訂正内容は,特許請求の範囲に記載された発明が方法の発明のみであることとの整合性を図るものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
訂正事項fについての訂正内容は,上記訂正事項aおよびbの特許請求の範囲の訂正に伴い,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合性を図るものであるから,明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。

ところで,請求人は,平成20年4月25日付け弁駁書において,訂正事項aおよびbは訂正前の発明の構成要件にただ同じ表現を繰り返し重ねるだけ,もしくは塗材として当然に備わった性質を加入訂正するものだから特許請求の範囲の減縮に当たらない旨主張している。
しかしながら,上記のように,当該訂正事項aおよびbは,「竿材(R)」および「樹脂塗材(9)」について,訂正前には明記されていなかった「筒状に成形された焼成後の」および「前記竿材(R)と密着性の良好な性質の」という限定を加えるものであるから,特許請求の範囲を減縮するものといえる。

(2)新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項aは本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0017】の記載を,訂正事項bは本件出願の願書に最初に添付した明細書の段落【0009】の記載を,それぞれ根拠とするものであり,また,訂正事項cないしfは形式的な訂正にすぎないから,訂正事項aないしfは,いずれも本件出願の願書に最初に添付した明細書および図面に記載された事項の範囲内の訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

3.まとめ
以上のとおり,訂正事項aおよびbは,特許請求の範囲の減縮を,また,訂正事項cないしfは,明りようでない記載の釈明を目的とするものであるから,平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合している。そして,訂正事項aないしfは,いずれも,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないから,同法第134条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するので,本件訂正を認める。

第6.本件発明
前述のとおり(「第5.」参照。),本件訂正は認められるから,本件特許第3656755号の請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)は,訂正明細書および図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものと認める。

(本件発明)
「高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形された竿材(R)の内部空間に釣り糸(6)を挿通させる中通し竿の内面塗装方法であって、
筒状に成形された焼成後の前記竿材(R)の前記釣り糸(6)が通る全内面に、弗素樹脂粒子(8)と前記竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物を前記竿材(R)の内部に対して送り込んで塗布を行い、
前記竿材(R)の内面に空気の供給を行って乾燥を行うことにより、前記樹脂塗材(9)により樹脂層(P)を形成し、
前記樹脂層(P)の表面に前記弗素樹脂粒子(8)が露出した
ことを特徴とする中通し竿の内面塗装方法。」

第7.無効理由についての判断
1.理由1および2について
理由1において,請求人は,本件発明の「前記竿材(R)の前記釣り糸(6)が通る全内面に、弗素樹脂粒子(8)と樹脂塗材(9)の混合物を前記竿材(R)の内部に対して送り込んで塗布を行い、」との構成要件中,「釣り糸(6)が通る全内面に」との技術事項は,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものではないから,本件発明は不適法な分割出願に係るものである旨主張する。
しかしながら,原出願が「竿材内部の釣り糸挿通空間の滑動性を向上させるための樹脂層を形成する技術に関するもの」であることや,原出願の明細書の段落【0021】,【図2】,【図4】,【図5】および段落【0032】の記載等を総合的に参酌すれば,原出願に記載された発明が,「弗素樹脂粒子(8)と樹脂塗材(9)の混合物」を「釣り糸(6)が通る全内面」に塗布する構成を含んでいたことは自明なことといえるから,「釣り糸(6)が通る全内面に」との技術事項は,原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものといえる。
また,理由2において,請求人は,本件発明は,拒絶査定が確定している原出願の請求項2に係る発明と同一であるから,本件発明は不適法な分割出願に係るものである旨主張する。
しかしながら,本件発明は,前述のとおり(「第5.」参照。),特許請求の範囲を減縮する訂正が認められるから,本件発明は原出願の請求項2に係る発明と同一ということはできない。
したがって,本件発明は,特許法第44条第1項の規定に基づく適法な分割出願に係るものであり,その出願日は原出願の出願日である平成4年3月30日とみなされるから,本件発明は本件特許の出願後に公開された甲第1号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

2.理由3について
請求人は,本件発明の「前記樹脂層(P)の表面に前記弗素樹脂粒子(8)が露出した」に関して,発明の詳細な説明には樹脂層Pの表面に弗素樹脂粒子8を露出させるに際しての具体的構成,手段が何ら記載されておらず,当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないから,その記載が不備である旨主張する。
しかしながら,後述のとおり(「第7.3.(2)(B)」参照。),弗素樹脂粒子と樹脂塗材の混合物からなる弗素樹脂塗料において,条件に応じて弗素樹脂粒子が表面に露出することは周知技術であり,また,樹脂層(P)の表面に弗素樹脂粒子(8)を露出させる程度のことは,例えば,樹脂塗材に対する弗素樹脂粒子の配合比を多するなど,その具体的手段を当業者が容易に思いつくことができるものであるから,当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載されていないとまではいえない。

3.理由4について
請求人は,本件発明は,甲第5号証および周知の技術から当業者が容易に発明をすることができたと主張しているので,この主張について検討する。

(1)請求人の提出した証拠の記載事項
(A)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には,「EYELESS FISHING ROD」(中通し釣竿)に関して,図面とともに次の事項が記載されている(注;以下の翻訳文は,審判請求書に添付された翻訳文を,当審が修正を加えて援用したものである。)。
(イ)「This invention relates to eyeless fishing rods and reel mounting mechanism therefor which provide for controlled passage of a reel broadcasted fishing line through the center of the rod while reducing line contact and frictional engagement with the bore of the rod at its tip to reduce drag on the line. The handle of the rod stores a magnetic line threading means and cooperates with the rod to quickly attach and detach a reel therefrom while securely holding it in place during use.」(1頁1欄4?9行)
「本発明は,糸抵抗を低減するため,釣竿の先端における釣竿の孔との接触および摩擦係合を低減しながら,釣竿の中心を通る,リールにより広範囲にキャストされる釣糸の制御された通路を提供する中通し釣竿およびそのリール取付機構に関する。」(翻訳文1頁13?15行)
(ロ)「Another object of this invention is to provide a new and improved eyeless fishing rod which provides for straight line passage of the fishing line through the center of the rod while reducing drag on the line.
A further object of this invention is to provide a new and improved eyeless fishing rod employing a novel bore lining to reduce line drag.」(1頁1欄67行?2欄5行)
「本発明の別の目的は,釣糸への抵抗を少なくして釣竿の中心を通る釣糸の直線経路を備えた新規で改善された中通し釣竿を提供することである。
本発明のさらなる目的は,新規なライニングを使用して糸抵抗を少なくした新規で改善された中通し釣竿を提供することである。」(翻訳文2頁22?25行)
(ハ)「FIG. 1 is a partial cross-section view partly in elevation of the fishing rod and associated reel and embodying the invention;」(1頁2欄23?25行)
「図1は,釣竿と結合されたリールを一部正面図で示す部分断面図である。」(翻訳文3頁7行)
(ニ)「FIG. 4 is an exploded view of the cooperating parts of the tip of the rod illustrating the line guiding means;」(1頁2欄31?32行)
「図4は,釣糸案内手段を示す釣竿の先端の協働部品を示す分解図である。」(翻訳文3頁10行)
(ホ)「Referring more particularly to the drawing by characters of reference, FIGS. 1-9 disclose an eyeless fishing rod 10 comprising an elongated rod portion 11 which may comprise one or more parts which form a generally cylindrical elongated tapered tube having an internal passageway 12. The rod portion may be formed of fiberglass or other suitable material.
As shown in FIG. 1 the end 13 of the rod portion 11 is provided with a cylindrical tip member 11A which slidingly fits over the end 13 of rod portion 11 and is distorted outwardly at its free end to form a cavity 14 into which is securely fitted, such as by bonding, a bushing 15 formed of suitable material such as ceramic which covers not only the end of rod portion 11 and any exposed edges of the flared end portion of member 11A forming cavity 14 to prevent snagged lines, but reduces to a minimum the drag of the fishing line passing over the surface of bushing 15.」(1頁2欄47?64行)
「参照符号によって図面をより詳しく参照して,図1から9は,内部通路12を有する概して円筒状長尺先細り管を形成する一つまたはそれ以上の部品を含んでもよい長尺釣竿部11を備える中通し釣竿10を示す。釣竿部はガラス繊維または他の適切な材料で形成することができる。
図1に示したように,釣竿部11の先端13には円筒状先端部材11Aが設けられており,この部材は釣竿部11の先端13に摺動嵌合され,自由端において外方向に曲げられてキャビティ14・・・が形成され,ここにセラミックのような適切な材料で形成されたブッシング15が接着などによって強固に固定されている。ブッシングは釣竿部11の先端とキャビティ14を形成しているフレアー状端部の露出エッジを覆って釣糸の折れ曲がりを阻止するだけでなく,ブッシング15の表面を通過する釣糸の抵抗を最小に低減する。」(翻訳文3頁18?28行)
(ヘ)「The inside of hollow interior of rod portion 11 may be coated with a suitable lining material 58 such as TFE, i.e., Teflon applied by spraying or by using a Teflon film applied during the fabrication of the fiberglass rod 11, to reduce drag on the line.
Thus, a fishing rod is disclosed which may, for example, comprise a spin casting rod for use in sport fishing consisting of a tubular rod through which the fishing line passes thereby eliminating external line guides. The elimination of the external line guides eliminates line fouling, reduces manufacturing costs and enhances rod action. The tapered tubular rod consists of fiberglass or graphite filaments bonded together by a resin and internally coated with a low friction material. The tubular rod is provided with a single guide bushing 15 at the tip end.」(3頁4欄36?51行)
「釣竿部11の中空内部の内面は,糸抵抗を少なくするために,TFEのような適切なライニング材58,すなわち,ガラス繊維の釣竿11の製造中に貼り付けたテフロン・フィルムを用いて設けられたテフロン,またはスプレーによって塗布されたテフロン,で被覆することができる。
このようにして,例えば釣竿内に釣糸が通され,これによって外部系案内をなくすことができる管状竿からなる,スポーツ・フィッシングで使用するためのスピン投げ釣竿を備えることができる釣竿が開示される。外部系案内がないことで糸のからみをなくし,製造費用を低減して釣竿の作用を強化する。先細管状竿は樹脂によって結合されたガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントからなり,また低摩擦材料で内面が被覆されている。管状竿には先端部に単一案内のブッシング15が設けられている。」(翻訳文6頁5?15行を一部修正)。
(ト)Fig.4には,筒状に成形された釣竿部11が,また,Fig.1には,釣竿部11の内部空間に釣糸22を挿通させる中通し竿において,釣竿部11の釣り糸が通る内面がライニング材58で被覆された状態が,それぞれ示されている。
上記記載事項(イ)ないし(ト)を総合すると,甲第5号証には,次の発明(以下,「甲5発明」という。)が開示されているものと認められる。

(甲5発明)
「樹脂によって結合されたガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントで筒状に成形された釣竿部11の内部空間に釣糸22を挿通させる中通し竿の内面塗装方法であって,釣竿部11の釣糸22が通る内面に,スプレーによってテフロンの塗布を行い,テフロンのライニング材58を形成した,中通し竿の内面塗装方法。」

(B)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には,「釣竿およびその製造方法」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。
(チ)「(2)高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを巻回した後,これを加熱焼成して管状体本体を形成し,この後,この管状体本体の表面に,表面研磨および下地処理を行なった後、3弗化塩化エチレン樹脂からなる主剤に硬化剤を混合した塗料を塗布し、この後、これを硬化して塗膜層を形成することを特徴とする釣竿の製造方法。」(1頁左下欄9?15行)
(リ)「・・・高強度繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグをマンドレルに巻回した後、これを、例えば、120?160℃の温度で加熱焼成して管状体本体21が形成される。・・・この後、脱脂等の下地処理が行われる。・・・この後、管状体本体21の表面に、3弗化塩化エチレン樹脂からなる主剤に硬化剤を混合した塗料を塗布することが行われる。
この塗布には、いわゆるシゴキ塗装が用いられる。」(3頁右上欄4?20行)

(C)甲第7号証の記載事項
甲第7号証には,「釣竿等積層管の製造方法」に関して,図面とともに次の事項が記載されている
(ヌ)「熱硬化性樹脂を含浸したカーボン、ガラス等の高強度繊維のシートもしくはクロスを台形に裁断し、これを芯金に捲回して常法により硬化させた後脱芯金して成形する釣竿等積層管の製造方法・・・」(1頁左下欄4?8行)
(ル)「又上記割型7を強化プラスチックで成形する場合は、芯金へプリプレグを捲回した後に捲回したプリプレグへ切れ目を入れ、その後テーピング、焼成、脱芯することにより成形する。」(5頁右下欄1?4行)

(D)甲第8号証の記載事項
甲第8号証には,「フッ素樹脂塗料」に関して,次の事項が記載されている(注;「(マル・・・)」は,丸数字で表記されたものを示す)。
(ヲ)「(1)フッ素樹脂塗料
フッ素樹脂塗料をその形態から大別すると、次の5種類に分けることができる。
(マル1)ディスパージョン塗料・・・
(マル2)粉体塗料・・・
(マル3)変性フッ素樹脂塗料
フッ素樹脂粒子をバインダーとなる他の樹脂塗料中に分散させ、塗膜化したのちも粒子状でフッ素樹脂が存在するタイプの塗料。
(マル4)オルガノゾル塗料・・・
(マル5)溶液塗料」(1185頁右欄34?45行)
(ワ)「(マル1)と(マル2)のタイプの塗料は、フッ素樹脂を融点以上に加熱することにより、フッ素樹脂の微粒子同士を融着成膜させる。・・・(マル3)のタイプの塗料は、バインダーとしてエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂などに、フッ素樹脂の微粒子を分散させたもので、塗膜化したのちも、フッ素樹脂は粒子状で存在し、皮膜形成を他の樹脂バインダーに依存するため、非粘着性や耐熱性、耐候性などは低下する。しかし素材との接着性が向上し、1コート塗装が可能になる上、常温から比較的低温焼付けでの塗膜形成ができることから、ある程度の非粘着性を要求する分野や低摩耗性を活かした一般塗料分野に広く応用されている。(表5.11)」(1186頁左欄17行?右欄9行)

(E)甲第9号証の記載事項
甲第9号証には,「高分子弾性体の表面処理用塗料組成物」に関して,次の事項が記載されている。
(カ)「(1)ウレタン塗料に、シリコンオイルとフッ素樹脂パウダー及びポリエチレンパウダーを混入、配合してなることを特徴とする高分子弾性体の表面処理用塗料組成物。」(1頁左下欄5?8行)
(ヨ)「この発明は、高分子弾性体、特に無極性のゴム等からなる被塗装物の表面にワンコート処理することにより、被塗装物の表面に強固に密着し、撥水性(水密性及び気密性)、滑性、耐摩耗性、耐久性、防音性、非固着性、非凍結性等にすぐれた表面性を付与するようにした表面処理用塗料組成物に関する。

(F)甲第10号証の記載事項
甲第10号証には,「潤滑塗料」に関して,次の事項が記載されている。
(タ)「1 錫粉末30?65wt%、四ふつ化エチレン樹脂粉末5?20wt%、アルキツド樹脂15?35wt%の各固形分を溶剤に分散溶解させてなる潤滑塗料。」(1頁1欄16?19行)
(レ)「本発明の潤滑塗料は速乾性で、ドブ漬け、刷毛塗り、あるいはスプレーなどの方法で適用され、密着性、被膜強度が大で、くり返し摩擦に対してすぐれた耐摩耗性、低摩擦を有するものである。」(1頁1欄32?35行)

(G)甲第11号証の記載事項
甲第11号証には,「被膜の形成方法」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。
(ソ)「筒状体内面に塗布液を流し塗りし、若干自然乾燥した後、筒状体上端より、それの全長の30%以内を強制的に乾燥し、その後未乾燥部分を自然乾燥することを特徴とする被膜の形成方法。」(1頁左欄5?8行)
(ツ)「本発明は被膜の形成方法に関し、特にガラスバルブの内面に均一な螢光体被膜を形成する方法に関するものである。」(1頁左欄10?12行)
(ネ)「さらにチェン5の間欠移動によりガラスバルブ10が送風ノズル15の直下に移送されると、ガラスバルブ内に風速0.2?5m/sec程度で送風され、それの上端より下方に向けて順次乾燥されていく。即ち、表面膜上の蒸気層の除去が促進されるために表面幕下の塗布液中の溶剤の蒸発が活発化され乾燥が早められる。・・・」(3頁左上欄6?12行)

(H)甲第12号証の記載事項
甲第12号証には,「蛍光体被膜の形成方法」に関して,次の事項が記載されている。
(ナ)「垂直に保持された直管形ガラス管の下端部を蛍光体とバインダ、溶剤を含む塗布液に浸漬し、このガラス管内にガラス管上端部からの真空吸引力で前記塗布液をガラス管上端近くまで吸引してから、ガラス管内の真空吸引を止め、ガラス管内の塗布液を自重で流下させてガラス管内面に塗布する工程と、ガラス管内に温風を吹き込んでガラス管内面に塗布された塗布液を強制乾燥させる工程を含むことを特徴とする蛍光体被膜の形成方法。」(1頁左欄5?14行)

(I)甲第13号証の記載事項
甲第13号証には,「すべり特性・非粘着性を生かしたフッ素樹脂コーティング材料の種類と特性」に関して,次の事項が記載されている。
(ラ)「変性型フッ素樹脂エナメルのコーティング皮膜は、図1の模型図の如く表面層にフッ素樹脂が多く、すべり特性・非粘着性を付与し、基材側はバインダーが多く密着性を付与している。写真1,2参照」(2頁2?7行)
(ム)「フッ素樹脂が表面層にでてくるメカニズムは、フッ素樹脂とバインダーの比重からは考えられないが、フッ素樹脂の表面エネルギーが非常に小さいことからフッ素樹脂を表面層にブリードさすことが可能である。」(2頁8?10行)

(J)甲第14号証の記載事項
甲第14号証には,「すべり軸受」に関して,図面とともに次の事項が記載されている。
(ウ)「(1)耐熱、耐摩耗性樹脂によって形成される軸受本体の軸を受ける面にフッ素樹脂被覆層を設けたことを特徴とするすべり軸受。」(1頁左下欄5?7行)
(ヰ)「・・・テフロンSを基材にコーティングした場合テフロン粒子はコーティング膜中に均一に分散しているが、このコーティング膜を焼成するとテフロン粒子は膜の上部に集まり、膜の表面部分にテフロン樹脂層に富んだ層が形成されるとともに基材に近い部分にはバインダー樹脂に富んだ層が形成される。このため、コーティング膜と基材との密着性はバインダー樹脂によって強力なものとなり、一方コーティング膜表面にはフッ素樹脂の特性が顕著に現れる。」(3頁左上欄4?13行)

(K)甲第15号証の記載事項
甲第15号証には,図面とともに次の事項が記載されている(注;以下の翻訳文は,審判請求書に添付された翻訳文を,当審が修正を加えて援用したものである。)。
(ノ)「

」(1頁1?5行)
「本発明は,特にガラスファイバーで製造される,中空で伸縮式のいわゆる「中通し」釣り竿に実施する改良に関する。本発明はまた,穂先内で道糸を滑りやすくするために釣り竿の穂先に適用される方法に関する。」(翻訳文2頁1?3行)
(オ)「

」(4頁2?20行)
「この方法は,硬質パラフィンのコーティング材で穂先の内壁を塗布することからなる。
好適な塗布方式は,次の操作を順次実施することからなる。
-パラフィンを溶融して液状にし,流し込みに適する充分な流動性を有するようにする。
-先端を下にして垂直に置いた穂先の中に,この液化パラフィンを流す。
-穂先の内壁の表面全体にわたってコーティング層を均質化するために,穂先自体の回転運動と組み合わせた連続反転運動を穂先に与える。
-パラフィンによって完全に塞がれた穂先の先端ゾーンに,特にドリルを用いて穿孔することにより直径約1ミリの円筒形の通路を開ける。
以上の操作の間,コーティング層の厚さが穂先のガラスファイバー製の壁に対して適切な隔離効果を確保するのに充分になるように,導入されるパラフィンの量を定量する。」(翻訳文4頁20行?5頁4行を一部修正。)
(ク)また,中空で伸縮式のいわゆる「中通し」釣り竿や,穂先が,筒状に成形されたものであることは,Fig.1,Fig.2および明細書全体の記載や技術常識を参酌すれば自明なことである。
よって,上記記載事項(ノ)ないし(ク)を総合すると,甲第15号証には,次の発明(以下,「甲15発明」という。)が開示されているものと認められる。

(甲15発明)
「ガラスファイバーで製造される,筒状に成形された,中空で伸縮式のいわゆる「中通し」釣り竿の穂先内で道糸を滑りやすくするために,いわゆる「中通し」釣り竿の穂先の内壁にコーティング層を設ける方法であって,垂直に置いた穂先の中に,液化パラフィンを流し,穂先の内壁の表面全体にわたってコーティング層を均質化する,いわゆる「中通し」釣り竿の穂先の内壁にコーティング層を設ける方法。」

(2)対比・判断
本件発明と甲5発明とを対比すると,その機能ないし構造から見て,甲5発明の「ガラス繊維またはグラフアイト・フィラメント」は本件発明の「高強度繊維」に,「釣竿部11」は「竿材(R)」に,それぞれ相当する。
また,「テフロン(デュポン社の登録商標)」が弗素樹脂を総称するものとして使用されていることは明らかであるから,甲5発明の「テフロン」と本件発明の「弗素樹脂粒子(8)と竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物」とは,ともに「弗素樹脂塗料」である点で共通しており,また,甲5発明の「ライニング材58」と本件発明の「樹脂層」とは,ともに「被覆体」である点で共通している。
してみれば,両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「筒状に成形された竿材の内部空間に釣り糸を挿通させる中通し竿の内面塗装方法であって,前記竿材の前記釣り糸が通る内面に,弗素樹脂塗料を塗布を行い,被覆体を形成した,中通し竿の内面塗装方法。」

(相違点1)
筒状に成形された竿材が,本件発明は「高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状」としたものであって,「焼成」されたものであるのに対し,甲5発明は,高強度繊維であるガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントを樹脂によって結合したものではあるが,プリプレグを巻回して焼成する方法により成形されたものであるのかどうか不明な点。

(相違点2)
本件発明は,弗素樹脂塗料が「弗素樹脂粒子(8)と前記竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物」であり,被覆体が「前記樹脂塗材(9)により樹脂層(P)を形成し,前記樹脂層(P)の表面に前記弗素樹脂粒子(8)が露出した」ものであるのに対し,甲5発明は,弗素樹脂塗料が「テフロン」であり,被覆体が「テフロンのライニング材」であって,弗素樹脂が表面に露出したものではあるが,弗素樹脂粒子と樹脂塗材の混合物ではなく,また樹脂塗材の表面に弗素樹脂粒子が露出したものとはいえない点。

(相違点3)
竿材の内面に弗素樹脂を含む塗布材料の層を設けるための手法が,本件発明は「筒状に形成された焼成後の前記竿材(R)の前記釣糸(6)が通る全内面に、弗素樹脂を含む塗布材料を前記竿材の内部に対して送り込んで塗布を行い、前記竿材の内面に空気の供給を行って乾燥を行う」ものであるのに対し,甲5発明は,釣竿部11の釣糸22が通る内面にスプレーによってテフロンの塗布を行うものであって,塗布の時期が釣竿部11を筒状に形成する前なのか後なのか明らかでなく,塗布が釣糸が通る全内面になされたかどうかも明らかでない点。

(A)相違点1についての検討
上記(相違点1)について検討する。竿材の製法として,高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形した後に焼成することにより竿材を生産することは,例えば,甲第6号証および甲第7号証に記載されているように,周知技術である。
甲5発明の「樹脂によって結合されたガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントで筒状に成形された釣竿」を,上記周知技術のように,高強度繊維であるガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントに樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形し,焼成したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(B)相違点2についての検討
上記(相違点2)について検討する。撥水性や低摩擦性といった弗素樹脂としての特性を備えつつも,被膜強度や被塗装物の表面への密着性が高い弗素樹脂塗料として,弗素樹脂粒子と被塗装物と密着性の良好な性質の樹脂塗材の混合物を用いる技術は,例えば甲第8号証ないし甲第10号証に見られるように周知技術である。
そして,弗素樹脂粒子と樹脂塗材の混合物からなる弗素樹脂塗料において,撥水性や低摩擦性を発揮させるために,樹脂塗材に対する弗素樹脂粒子の量を調整して,調整弗素樹脂粒子が表面に露出するようにすることは容易であり,また,条件に応じて弗素樹脂粒子が表面に露出することも,例えば甲第13号証にみられるように周知技術である。
したがって,甲5発明の弗素樹脂塗料として,上記周知な弗素樹脂粒子と被塗装物と密着性の良好な性質の樹脂塗材の混合物を用いて,樹脂層の表面に弗素樹脂粒子を露出させることは,当業者が容易になし得たことである。

(C)相違点3についての検討
上記(相違点3)について検討する。筒状体の内面に塗装するに際し,内面となる部位に塗装してから筒状に成形するか,筒状に成形してから内面に塗装するかは,それぞれ長所短所があり,当業者が必要に応じて適宜選択し得た事項である。そして,筒状体の内面に塗装する手法として,筒状に形成された後の筒状体の内面に,塗布液を筒状体の内部に対して送り込んで塗布を行い,筒状体の内面に空気の供給を行って乾燥を行うことは,例えば甲第11号証および甲第12号証のみならず,特開昭56-38162号公報(特に,特許請求の範囲等参照。),特開昭63-175677号公報(特に,特許請求の範囲等参照。),特開昭59-228977号公報(特に,特許請求の範囲等参照。)等にみられるように周知技術である。また,例えば甲第15号証には,竿材の内面にコーティング層を設けるにあたり,筒状に成形した後の竿材の内面にコーティング材を直接塗布する技術が記載されている。
そうすると,甲5発明の竿材の内面に弗素樹脂塗料を塗布するための手法として,筒状に形成された焼成後の竿材に対して,塗布液を竿材の内部に対して送り込んで塗布を行い,竿材の内面に空気の供給を行って乾燥を行う手法を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(D)「竿材(R)の内面に空気の供給を行って乾燥を行うこと」と「樹脂層(P)の表面に弗素樹脂粒子が露出したこと」との因果関係についての検討
被請求人は平成19年3月22日付け訂正審判請求書の(5-3-3-3)(3),および(5-4-8)(3)において,「・・・空気を送って乾燥させることにより余計な熱や強い圧力を加えることなく,うまく弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出した樹脂層を形成させるものです。」と主張している。しかしながら,甲第13号証および甲第14号証によれば,弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出することは弗素樹脂粒子と樹脂塗材の組み合わせ等の条件に依存するものであって,必ずしも,空気を送って乾燥させたことにより弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出するものとはいえない。そもそも,本件出願の願書に最初に添付した明細書では,「空気を送って乾燥させた」ことと「弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出する」こととの間に何ら因果関係は示されていないのであるから,「空気を送って乾燥させた」ことと「弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出する」こととを関係づけることは合理的とはいえず,上記主張は採用できない。
また,被請求人は平成18年4月3日付け審判事件答弁書において,乙第1号証として「竿材内面撥水塗装残存水量調査」を提出し,「空気の供給を行って乾燥した」場合の残存水量が,空気の供給を行わない場合の残存水量に対して少ないことを示している。しかしながら,上記調査で用いられた「リペルコート(日本ペイントの登録商標)」はシリコーン・アクリルブロックポリマーをベースとしたものであって,アクリル樹脂の種類により常乾型塗料から焼き付け型塗料までさまざまな硬化形式が選定できるものであり,「リペルコート300(日本ペイント株式会社製)」がいかなるアクリル樹脂を用いているのかやその中にどの程度弗素樹脂粒子が含まれているのか不明であり,また,上記調査において,弗素樹脂粒子と樹脂塗材の種類の組み合わせを変えた実験や,乾燥時間,乾燥温度,生成される被膜の厚さ等の条件を変えた実験はなされておらず,さらに,塗膜の断面を直接観察して弗素樹脂粒子の状態を比較確認したものでもないため,上記調査の結果は「空気を送って乾燥させた」ことと「弗素樹脂粒子が樹脂塗材から露出する」こととを直接関係づけるものとはいえない。

そして,本件発明が奏する効果は,甲5発明および周知技術から当業者が予測し得るものであって,格別なものということができない。

(3)まとめ
以上のことから,本件発明は,甲5発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.理由5について
請求人は,本件発明は,甲第15号証および周知の技術から当業者が容易に発明をすることができたと主張しているので,この主張について検討する。

(1)請求人の提出した証拠の記載事項
甲第5号証ないし甲第15号証に記載された事項は,前述のとおり(「第7.3.(1)」参照。)である。

(2)対比・判断
本件発明と甲15発明とを対比すると,その機能ないし構造から見て,甲15発明の「いわゆる「中通し」釣り竿」,「中空」,「道糸」および「内壁にコーティング層を設ける方法」は本件発明の「中通し竿」,「内部空間」,「釣り糸」および「内面塗装方法」に相当する。
また,甲15発明の「穂先」と本件発明の「竿材(R)」とは,ともに「竿構成部材」である点で共通している。
さらに,甲15発明の「液化パラフィン」と本件発明の「弗素樹脂粒子(8)と竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物」とは,竿構成部材の撥水性を高め,釣り糸の滑りをよくする塗布物であるから,ともに「撥水滑性塗材」である点で共通しており,また,甲15発明の「コーティング層」と本件発明の「樹脂層」とは,ともに「撥水滑性被覆層」である点で共通している。
してみれば,両者の一致点および相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「内部空間に釣り糸を挿通させる中通し竿の内面塗装方法であって,筒状に成形された後の竿構成部材の前記釣り糸が通る内面に,撥水滑性塗材を前記竿構成部材の内部に対して送り込んで塗布を行い,撥水滑性被覆層を形成した,中通し竿の内面塗装方法。」

(相違点4)
中通し竿が,本件発明は「高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形された竿材(R)の内部空間に釣り糸(6)を挿通させる」ものであって,「焼成」されたものであるのに対し,甲15発明は「ガラスファイバーで製造される」ものであって,プリプレグを巻回して焼成する手法で成形されたものかどうか不明な点。

(相違点5)
撥水滑性塗材の塗布対象である,筒状に成形された後の竿構成部材の前記釣り糸が通る全内面が,本件発明は「竿材(R)の釣り糸が通る全内面」であるのに対し,甲15発明は「穂先の釣り糸が通る全内面」である点。

(相違点6)
撥水滑性塗材による撥水滑性被覆層が,本件発明は「弗素樹脂粒子(8)と竿材(R)と密着性の良好な性質の樹脂塗材(9)の混合物を前記竿材(R)の内部に対して送り込んで塗布を行い,前記竿材(R)の内面に空気の供給を行って乾燥を行うことにより,前記樹脂塗材(9)により樹脂層(P)を形成し,前記樹脂層(P)の表面に前記弗素樹脂粒子(8)が露出した」ものであるのに対し,甲15発明は加温して液化したパラフィンを穂先の中に流し,パラフィンが冷えて固化することによりコーティング層となるものである点。

(A)相違点4についての検討
上記(相違点4)について検討する。竿材の製法として,高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形した後に焼成することにより竿材を生産することは,例えば,甲第6号証および甲第7号証に記載されているように,周知技術である。
甲15発明の「ガラスファイバーで製造される,中空で伸縮式のいわゆる「中通し」釣り竿」を,上記周知技術のように,高強度繊維であるガラス繊維またはグラフアイト・フィラメントに樹脂を含浸させたプリプレグを巻回して筒状に成形し,焼成したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(B)相違点5についての検討
上記(相違点5)について検討する。撥水滑性塗材は,竿構成部材の撥水性を高め,釣り糸の滑りをよくするものであるから,釣り糸と竿構成部材とが接触する可能性のある場所すべてに撥水滑性塗材を塗布した方が釣り糸の滑りがよくなるのは自明なことである。よって,甲15発明において,撥水滑性塗材の塗布対象を,釣り糸と竿構成部材とが接触する可能性のある場所すべて,すなわち,穂先だけでなく,中通し竿の竿構成部材の釣り糸が通る全内面とすることは,当業者が容易になし得たことである。

(C)相違点6についての検討
上記(相違点6)について検討する。耐久性の高い撥水滑性塗材として,弗素樹脂粒子と被塗装物と密着性の良好な性質の樹脂塗材の混合物を用いる技術は,例えば甲第8号証ないし甲第10号証に見られるように周知技術である。
そして,弗素樹脂粒子と樹脂塗材の混合物からなる弗素樹脂塗料において,撥水性や低摩擦性を発揮させるために,樹脂塗材に対する弗素樹脂粒子の量を調整して,調整弗素樹脂粒子が表面に露出するようにすることは容易であり,また,条件に応じて弗素樹脂粒子が表面に露出することも,例えば甲第13号証にみられるように周知技術である。
さらに,通風乾燥させるかどうかは樹脂塗料の種類に依存するものであって,溶媒を蒸発させて塗膜を形成するタイプの樹脂塗料について,必要に応じて通風乾燥を行うことは技術常識といえる。
したがって,甲5発明の液化パラフィンに代えて,上記周知な弗素樹脂粒子と被塗装物と密着性の良好な性質の樹脂塗材の混合物を用いて,樹脂層の表面に弗素樹脂粒子を露出させたり,樹脂塗料の性質に応じて通風乾燥させたりすることは,当業者が容易になし得たことである。

(3)まとめ
以上のことから,本件発明は,甲15発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7.むすび
以上のとおり,本件発明は,甲第5号証に記載された発明および上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,また,甲第15号証に記載された発明および上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-24 
結審通知日 2008-08-11 
審決日 2008-08-27 
出願番号 特願2004-168841(P2004-168841)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 隆彦  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 関根 裕
宮崎 恭
登録日 2005-03-18 
登録番号 特許第3656755号(P3656755)
発明の名称 中通し竿の内面塗装方法  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 富崎 元成  

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