【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部無効 2項進歩性  B29C
管理番号 1187807
審判番号 無効2006-80051  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-03-28 
確定日 2008-10-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3705494号「フィルム製容器の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成19年3月22日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10148号平成19年12月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1. 本件特許第3705494号の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)についての特許出願は、平成14年9月18日に出願され、平成17年8月5日にその発明についての特許権の設定登録(請求項の数2)がされたものである。
2. これに対して、請求人は、平成18年3月28日に、請求項1及び2に係る発明の特許について特許無効審判を請求し、証拠方法として、甲第1ないし第7号証を提出した。
3. 被請求人は、平成18年6月19日に答弁書を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた(請求項の数2。以下、「第1次訂正」という。)。これに対して、請求人は、同年7月31日に弁駁書(以下、「第1次弁駁書」という。)を提出した。
4. 平成18年10月4日に、口頭審理が行われ、同日、請求人及び被請求人が口頭審理陳述要領書(以下、それぞれ、「請求人口頭審理陳述要領書」、「被請求人口頭審理陳述要領書」という。)を提出し、請求人は、証拠方法として、甲第8号証を提出した。
5. 請求人は、平成18年10月13日付けで、上申書(以下、「請求人第1上申書」という。)を提出し、被請求人は、同日付けで、上申書(以下、「被請求人上申書」という。)を提出した。
6. 平成18年11月2日付けで、被請求人及び請求人に対して、特許法第153条第2項の規定による通知がされたところ、被請求人は、同年12月8日に意見書を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた(請求項の数1)。これに対して、請求人は、平成19年1月31日に弁駁書(以下、「第2次弁駁書」という。)を提出し、証拠方法として、甲第9号証を提出した。
7. その後、請求人は、平成20年6月12日付けで、上申書(以下、「請求人第2上申書」という。)を提出し、資料1ないし4を提出した。

第2.請求人の主張、及び、特許法第153条第2項の規定による通知の内容の概要
1.請求人の主張の概要
請求人は、「特許第3705494号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めており、その主張は、審理の全趣旨、とりわけ第2次弁駁書によれば、以下の(1)ないし(3)にあるものと認められる。
(1) 被請求人が平成18年12月8日に提出した訂正請求書による訂正請求は、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、認められない。
(2) 本件特許発明は、刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「無効理由1」という。)
(3) 本件特許発明は、発明が明確でないから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「無効理由2」という。)

なお、請求人が提出した甲第1ないし9号証、及び、資料1ないし4は以下のものである。
甲第1号証: 実願昭61-33468号(実開昭62-146710号)のマイクロフィルム
甲第2号証: 実願昭55-139649号(実開昭57-64407号)のマイクロフィルム
甲第3号証: 特開昭50-91678号公報
甲第4号証: 特開平5-330536号公報
甲第5号証: 特開平8-276966号公報
甲第6号証: 特開平9-221177号公報
甲第7号証: 特開2002-46235号公報
甲第8号証: 特開平9-314400号公報
甲第9号証: 特開平6-121706号公報
資料1: 特開平9-265258号公報
資料2: 特開平11-100451号公報
資料3: 特開2001-283175号公報
資料4: 特開平8-39947号公報
(なお、請求人は、甲第1及び第2号証を公開実用新案公報として表示しているが、添付された証拠は、マイクロフィルムの写しであるので、上記のとおり認定した。)

2.特許法第153条第2項の規定による通知の内容の概要
特許法第153条第2項の規定による通知(以下、「無効理由通知」という。)は、概略、以下の理由を含むものである。
本件特許の特許権の設定登録時の請求項1及び2に係る発明は、特開平9-314400号公報(以下、「引用例」という。請求人の提出した甲第8号証と同じである。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである。(以下、「職権無効理由」という。)

第3.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。
また、無効理由通知に対しては、本件特許発明は、引用された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は無効とされるべきものでない旨、主張している。

第4.訂正の可否に対する判断
1.平成18年12月8日に提出した訂正請求書による訂正請求によって求める訂正の内容
被請求人が平成18年12月8日に提出した訂正請求書による訂正請求によって求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載を、同訂正請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、以下の訂正事項aないしlにあるものと認められる。
なお、上記平成18年6月19日に提出した訂正請求書による訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項a
本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1中の「異種フィルムどうしが対向するように重ね合わせて」を、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて」に訂正する。
(2)訂正事項b
本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1中の「熱成形加工して製造する」を、「予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」に訂正する。
(3)訂正事項c
本件特許明細書の特許請求の範囲請求項2を削除する。
(4)訂正事項d
本件特許明細書の段落【0008】中、「異種フィルムどうしが対向するように重ね合わせて」を、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて」に訂正する。
(5)訂正事項e
本件特許明細書の段落【0008】中、「熱成形加工して製造する」を、「予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」に訂正する。
(5)訂正事項f
本件特許明細書の段落【0009】中、「異種フィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため、互いに異種フィルムどうしが対向するように重ね合わせて」を、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため、互いに透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて」と訂正する。
(6)訂正事項g
本件特許明細書の段落【0009】中、「重ね合わせて熱成形(通常、100?200℃程度)した場合」を、「重ね合わせてプレス成形加工(金型を予め130?170℃に加熱)した場合」に訂正する。
(7)訂正事項h
本件特許明細書の段落【0011】中、「前記樹脂製フィルムがポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。使用する樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレンなどポリオレフィン系樹脂であるので、」を、「前記樹脂製フィルムが、二軸延伸ポリプロピレン樹脂であるので、」と訂正する。
(8)訂正事項i
本件特許明細書の段落【0025】中、「マット加工されるポリプロピレンフィルム2とが共押出成形され、その後、縦延伸機ついで横延伸機により二軸延伸されて、二軸延伸されて、所定厚みを有する2層フィルムとされている。ポリプロピレンフィルム2に対するマット加工は、通常、共押出成形された後実施される。又、図1に示す樹脂製フィルムAの場合、」を、「マット加工されるポリプロピレンフィルム2とからなり、図1に示す樹脂製フィルムAの場合、」に訂正する。
(9)訂正事項j
本件特許明細書の段落【0025】中、「20μm以上であることが必要があり」を、「20μm以上であることが必要であり」に訂正する。
(10)訂正事項k
本件特許明細書の段落【0033】を、削除する。
(11)訂正事項l
本件特許明細書の段落【0034】中、「(2)本発明において、積層フィルムを構成する樹脂フィルムは、必ずしも透明である必要はなく、半透明なもの、不透明なものでもよく、更に、その厚み、サイズ等も特に限定されるものではない。」を、「〔別実施の形態〕
(1)本発明において、積層フィルムを構成する樹脂フィルムは、必ずしも透明である必要はなく、半透明なもの、不透明なものでもよく、更に、20μm以上であればその厚み、サイズ等も特に限定されるものではない。」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項a について
訂正事項aを訂正しようとする技術内容の観点から区分すると、以下の訂正事項a-1及び訂正事項a-2に区分できる。
【訂正事項a?1】:「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が「異種フィルム」であるとする点。
【訂正事項a?2】:「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が、「マット加工された面を挟んで」重ね合わせるものであるとする点。
まず、訂正事項a-1について検討する。
訂正事項a-1は、換言すると、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、互いに「異種」の「フィルム」であるとする点、といえる。
そして、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」は、成形材料としては、同じ「二軸延伸ポリプロピレン」からなるものであるが、一般に「種」の概念における同種、異種の意味は、必ずしも同種の成形材料、異種の成形材料を指すことに限られるものとはいえず、本件特許明細書の段落【0008】に「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂製フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムどうしが対向するように重ね合わせて、熱成形加工して製造することにある。」との記載があり、同じく段落【0027】に、「透明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム1とマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2とが、接着剤にて接着されラミネート構成とされていてもよい。」との記載があることからみて、本件特許明細書又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)では、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の違いによる種別を互いに「異種」とする意味で使用することも含んで記載しているものといえる。
したがって、訂正事項a-1は、本件特許明細書等に記載されているに等しい事項と認められる。
次に、訂正事項a-2について検討する。
本件特許明細書の段落【0027】に、「透明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム1とマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2とが、接着剤にて接着されラミネート構成とされていてもよい。」と記載され、同じく、段落【0030】に、「図2に示すように、ラミネートフィルムAの複数枚を重ね合わせ(図2では3枚。二軸延伸ポリプロピレンフィルム2のマット加工された面2aは、便宜上、最下面のラミネートフィルムAのみに表してある。)」との記載があり、更に、図1には、樹脂製フィルム1と樹脂製フィルム2とからなるラミネートフィルムAの模式断面図が示され、図2には、ラミネートフィルムAの3枚が、樹脂製フィルム1/樹脂製フィルム2/樹脂製フィルム1/樹脂製フィルム2/樹脂製フィルム1/樹脂製フィルム2の順に配列したものが記載されていることを考慮すると、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」が、「マット加工された面を挟んで」重ね合わせていることが、本件特許明細書等から読み取れるといえる。
したがって、訂正事項a?2は、本件特許明細書等に記載されているに等しい事項である。
上記のことから、訂正事項aは、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項aは、本件特許明細書の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムどうしが対向するように重ね合わせて」なることを、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて」なることに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
(2)訂正事項b
訂正事項bの「予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」ことに関して、本件特許明細書の段落【0030】には、「図2に示すように、ラミネートフィルムAの複数枚を重ね合わせ(図2では3枚。二軸延伸ポリプロピレンフィルム2のマット加工された面2aは、便宜上、最下面のラミネートフィルムAのみに表してある。)、図3に示すように、所定のラミネートフィルム片A0に打ち抜いてから、これを雄型と雌型とからなる金型4に配置し、金型4を予め130?170℃程度に加熱しておき、所定形状にプレス成形する」との記載がある。
したがって、訂正事項bは、本件特許明細書等に記載されている事項と認められ、新規事項の追加に該当しない。
そして、「予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工」は、熱成形加工の一つの形態といえるから、訂正事項bは、本件特許明細書の請求項1に係る発明を特定する事項である「熱成形加工して製造する」ことを、「予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」ことに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
(3)訂正事項c
請求項の削除を目的とした訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
(4)訂正事項dないしi
訂正事項dないしiは、明細書の発明の詳細な説明において、特許請求の範囲の訂正に係る上記訂正事項a及びbに付随的に生じる記載の不備を解消するなどの整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当しない。
(5)訂正事項j
訂正事項jは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当するとともに、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。
(6)訂正事項k及びl
訂正事項k及びlは、訂正事項dないしiと同様に、明細書の発明の詳細な説明において、特許請求の範囲の訂正に係る上記訂正事項a及びbと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当しない。

そして、上記訂正事項aないしlは、いずれも、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
なお、この点、第2の1.の(1)で述べたように、請求人は、本件訂正は、実質上特許請求の範囲を変更するものであると主張しており、その理由として、「異質のフィルム」とは「材質の異なるフィルム」と解するのが自然である旨を述べている(平成19年1月31日付け弁駁書)が、先に(1)において、【訂正事項a?1】について検討したとおり、本件特許明細書等では、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の違いによる種別を互いに「異種」とする意味で使用することも含んで記載しているものといえるから、請求人の主張は採用しない。

3.まとめ
以上検討したことから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において準用する第126条第3項ないし第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第5.本件特許発明
上記第4.のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許発明は、本件訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を発明特定事項とする、以下のとおりのものである。
「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて、予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造することを特徴とするフィルム製容器の製造方法。」

第6.特許法第29条第2項に関わる無効理由についての検討
I.職権無効理由についての検討
1.引用例(特開平9-314400号公報、すなわち請求人が提出した甲第8号証)の記載事項
ア: 「【発明の属する技術分野】本発明は、各種の食品を収納するための容器として、異質の食品を同一大型容器内に収納する時の他食品に対する影響を最小限にするための小型容器として利用するものであるが、その小型容器が合成樹脂フイルム製であるため電子レンジ加熱を可能にしたものである。」(段落【0001】)
イ: 「・・・合成樹脂フイルム製成形容器も製作されているが、成形された成形形状の保持能力が劣り、保形性能が悪いので内容物を充分保持出来ないとか、成形時の成形時間に多くの時間を要するとかで、品質的にも生産性にも劣ったものであった。
本発明は、このような問題点を解決することを目的とした合成樹脂フイルム製容器の成形装置、及び、その成形方法を提供するものである。」(段落【0005】、【0006】)
ウ: 「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するに至った本発明の合成樹脂フイルム製容器の成形装置は、平判状の合成樹脂フイルムを多数枚積層してなる合成樹脂フイルム製容器成形用材料の最上面及び最下面の両面に、成形金型との成形時の加圧、摺動に耐え得る滑性度を有する紙質材を添えることが有効であることを発見し、紙質材には薄葉紙から上質紙、クラフト紙と各種の紙を試みた。
又、変形させても復元性の高い合成樹脂フイルムに於いては、その変形加工時に加温する事が必要であり、又その後変形させたものを常温近くまでの温度、当然夫々の合成樹脂の軟化点以下の温度まで成形加工させた状態を保持することが必要である事を確認することが出来たので、その保形性を保持させる為に、保形性に有効な上質紙とかクラフト紙とかを多数枚積層した合成樹脂フイルム材料の中に介在させる事で、その保形性を活用するとか、さらに保形性の高いアルミニウム箔等の金属箔も、上述紙質材と同様に多数枚積層された合成樹脂フイルム材に対する紙質材に代わって活用するとか、又紙質材と共に共用することも有効であることが確認できた。」(段落【0007】、【0008】)
エ: 「これらの紙質材に代えて金属箔を使った時は保形性は更に良く効果的であるにかかわらず、合成樹脂フイルムの成形に効果的な加温の効果は紙質材より熱伝導性の高い金属箔の方が有効であることは言うまでもない。合成樹脂フイルムの復元性を無くすためには夫々の合成樹脂フイルムの軟化点より高い温度に保持した状態で変形成形加工する事が効果的である事は言うまでもない。
又、その効果を更に高めるため、合成樹脂フイルムの両面外側に積層された紙質材等の保温保形材を加減して、その加温温度との均衡を保つことで、加工時間を加減して生産性を高めることも可能である。成形加工時の工程的な前加工とも言える予備加工として加えられる第3金型と下側の雌金型の加工材料の加圧作用は、前述の軟化点以上の温度に加温する効果を高める作用を有効にしているのであり、又この加圧力を成形加工工程に雄金型の移動に合わせて次第に挟圧力を高める様に構成した事は、その効果を一段と高める事ができたのである。」(段落【0012】、【0013】)
オ: 「図2(a)、(b)はストレート型の上金型1Aを示し、図2(c)、(d)は先細りテーパー型の上金型1Bを示している。これらにはいずれも加熱用の電気式ヒーター20A、20Bが埋め込み式で取り付けられている。
図3(a)、(b)は第3金型3の全体図で、中心に上金型1が自由に移動できる大きさの孔が設けられ、その中心から円周上に放射状の波起状に傘歯車状の加工が施されたものである。ネジ孔11は、吊りボルト7用のものであり、ドリル孔12は吊りボルト9のものである。第3金型3にも加熱用電気ヒーター21A、21Bが埋め込まれている。
図4は下金型2を示すもので、第3金型3の傘歯車状の凹凸に勘合する擂鉢状の窪みを有し、中央部底には上金型1に相対する内歯型のスプライン溝が加工され、その寸法は、上金型1に成形加工される材料の暑さに相当する隙間を加えた大きさに加工されている。この下金型2にも加熱用電気ヒーター22A、22Bが埋め込まれている。」(段落【0018】?【0020】)
カ: 「〔実施態様例1〕図1に示す容器成形装置を用いて、合成樹脂フイルムとして・・・OPPフイルム40μm厚さを25枚積層し、その上面に90g/m^(2)の上質紙を2枚置き、下面には125g/m^(2)の段ボール用中心原紙を2枚重ねて、図7に示すように円形に断截した材料16を下金型2の上に置き、30回/分の成形速度で成形加工を行った。
この時の上金型1の加熱温度は210℃、下金型2の加熱温度は209℃、第3金型3の加熱温度は220℃であった。この結果、製品の保形性等、また上下面の紙質材への密着性共に、申し分ない評価が得られた。
〔実施態様例2〕実施態様例1で行った同様の材料構成で、第3金型3の温度を上昇させず、15℃常温のままとし、他は実施態様例1と全く同1条件で成形加工を実施した。結果は、上下紙質材への密着性等は問題ないが、保形性が悪く容器の開口部が大きく開き、充分な製品とは言えないもので、第3金型3に対する加熱の必要性を痛感した。
〔実施態様例3〕実施態様例2で行った条件の内、成形速度を30回/分のサイクルから次第に回/分を減少させて、その効果を確認したところ、保形性が実施態様例1と同一になるには5回/分のサイクルである事が解った。また、非常に悪い生産性であることも解った。
〔実施態様例4〕実施態様例1の条件の内、上下に備え付けた紙質材上面の上質紙(90g/m^(2))1枚とし、又、下面の段ボール用中心原紙(125g/m^(2))を同じく1枚として、他は全く同1条件で成形加工を実施したら、紙質材2枚ずつの時に比べて保形性が少し悪く、開口部が開き気味となると共に、40μm厚さのOPPフイルムの分離性に少し難点を感じたが、これは合成樹脂フイルムの片面でよいから、ワックス系樹脂剤とか、シリコン系樹脂剤を塗布したものの活用が無難である事が示された。又、上下に備え付けの紙質材が多い方が保形性が良くなる事が解った。
〔実施態様例5〕実施態様例4で行った条件の内、厚さ40μmのOPPフイルムの片面に離型性ワックスコートを行ったものを使用し、上下紙質材それぞれ1枚の内側(フイルム側)にアルミニウム箔硬質50μm厚さ1枚をそれぞれ挿入して、その他の条件を実施態様例1と同じにして成形加工を行った。結果は非常に良好で全て申し分なかった。
〔実施態様例6〕図1に示す容器成形装置を用いて、合成樹脂フイルムとして、15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し、この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にしてウレタン系二液型のドライラミネート接着剤で貼り合わされたものを用い、このフイルムの25枚を積層してその上面に90g/m2 の上質紙を2枚置き、下面には125g/m^(2)の段ボール用中心原紙K3枚を重ねて、図7に示すように円形に断截した材料16を下金型2と第3金型3との間に入れながら、30回/分の成形速度で成形加工を行った。
この時の上金型1の加熱温度は209℃、下金型2の加熱温度は200℃、第3金型3の加熱温度は220℃であった。成形の結果は、離型性ワックスを片面にコートしてあるので、印刷インキの流れ不良も、又フイルム間のブロッキング密着現象も全く問題無く、保形性も申し分ないものであった。」(段落【0024】?【0031】)
キ: 「〔実施態様例8〕実施態様例6で行ったと同1条件の内、上金型1の温度を80℃、下金型2の温度を850℃、第3金型3の温度を70℃にして、その他の条件は実施態様例6と全く同一にして成形加工を行った。結果は、成形性、保形性共に悪く、製品とは言えなかった。これで解ったことは、成形金型の温度を加工される樹脂の軟化点以上に維持する必要性があることである。」(段落【0033】)
ク: 「〔実施態様例10〕実施態様例6の条件の内、成形に使用する材料に30μm厚さのOPPフイルムと10μm厚さの印刷されたPETフイルムを印刷面を内側にウレタン系二液型のドライラミネート接着剤で貼り合わせ、その後30μm厚さのOPPフイルム外側に離型性ワックスコートを施して作った成形材料を25枚重ねに積層し、その他は実施態様例6と同じ条件で成形を行った。結果は申し分の(ない)良好なものであった。」(段落【0035】)

2.引用例に記載された発明
引用例には、摘示オ、カからみて、「上下動する上金型1及び第3金型3と上記上金型1及び第3金型3を受ける下金型2の各金型を有し、上記各金型に加熱用電気ヒーターが埋め込まれた容器成形装置を用いて合成樹脂フイルム製の容器を成形する成形方法であって、上記合成樹脂フイルムとして、15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し、この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にして接着剤で貼り合わされ、離型性ワックスを片面にコートしたものを用い、上記貼り合わされたものの多数枚を上記上金型1及び上記第3金型3と下金型2の間に積層し、上記各金型を成形材料の軟化点以上の温度、具体的には、上記上金型1は209℃、下金型2は200℃、第3金型3は220℃に加熱するとともに、上記上金型1及び上記第3金型3と上記下金型2の間で上記貼り合わされたものの多数枚を加圧して成形加工を行う成形方法。」の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていたと認められる。

3.本件特許発明と引用例発明との対比
本件特許発明と引用例発明とを対比すると、
両者は、「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂製フィルムの1は、少なくとも一方の表面が特殊な表面処理が施され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである二軸延伸ポリプロピレンフィルムと特殊な表面処理が施された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するように特殊な表面処理を施された面を挟んで重ね合わせて、予め加熱した金型にてプレス成形加工して製造するフィルム製容器の製造方法」である点において一致し、
以下の相違点1ないし4において相違するものと認められる。
【相違点1】: 特殊な表面処理に関して、本件特許発明では、マット加工であるのに対して、引用例発明では、離型性ワックスをコートする加工である点。
【相違点2】: ラミネートフィルムの重ね合わせの態様に関して、本件特許発明では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの重ね合わせであるのに対して、引用例発明では、二軸延伸ポリプロピレンフィルムと離型性ワックスをコートした二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの重ね合わせである点。
【相違点3】: 二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関して、本件特許発明では、ラミネートフィルムを構成する一方の二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムでない二軸延伸ポリプロピレンフィルムが『透明』であるのに対して、引用例発明では、『透明』であるとの特定がされていない点。
【相違点4】: プレス成形加工に使用する金型を予め加熱する加熱温度に関して、本件特許発明では、『130?170℃』であるのに対して、引用例発明では、軟化点以上の温度、具体的には、上記上金型1は209℃、下金型2は200℃、第3金型3は220℃である点。

4.相違点についての検討
まず相違点1について検討する。
(1)本件特許発明及び引用例発明におけるフィルム表面の特殊処理の目的(課題)の共通性について
本件明細書には、次の各記載がある。
(ア): 「【従来の技術】
…電子レンジでの調理では、金属などいわゆる導体性の容器、包装物を使用することができず、そのため、調理には容器の材質に制限がある。
特に、食品容器あるいは食品包装物として都合の良いアルミニウム製品…を使用できないので、これに代わる材料として樹脂製の容器を使用する場合が多い。このようなラミネートフィルムを成形して食品容器を製造しようとした場合、樹脂の表面に静電気が蓄積され易いため、樹脂どうしが接着して取り扱い上煩わしくなり作業性は良くない。しかも、複数枚のラミネートフィルムを重ねて金型に配置し、加熱しつつ(100?200℃程度)プレス成形して製品を製造するようにすると、一度のプレス成形で多数のフィルム容器を製造できるものの、フィルムどうしが熱接着するため、成形後、個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても、剥がし難くなり、作業性が著しく悪くなる。このことは、生産性の低下、使用上の不便さにつながるという問題がある。特に、同種のフィルムどうしを重ねて熱成形すると、熱接着し易い。
もっとも、重ねられた複数枚の樹脂フィルムを熱成形するに際して、剥がしやすくするため、表面にコロナ処理して熱成形する方法が考えられた・・・。」(段落【0002】?【0004】)
(イ): 「【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、成形時の剥がし易さの点では未だ十分でなく、しかも、コロナ放電処理設備を要することから設備コストが高くなり、加えて処理工程のために工程数が増えることにもなり、結果的に生産コストの上昇につながり、好ましくない。」(段落【0005】)
(ウ): 「本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、樹脂製フィルムに静電気を蓄積し難くし、樹脂製フィルムどうしを接着し難くして取り扱い易くでき、それでいて積層して熱成形するに際しても、樹脂製フィルムどうしが熱接着し難くできるフィルム製容器の製造方法を提供することにある。」(段落【0007】)
(エ): 「【課題を解決するための手段】
上記目的は各請求項記載の発明により達成される。…
この構成によれば、少なくとも一方の表面がマット加工された樹脂製フィルムは表面に静電気が蓄積され難く、従って、取り扱い上、樹脂性フィルムどうしが接着してくっつくといった煩雑さを低減でき、しかも、積層して熱成形しても接着し難いため、作業性は極めて高く、従来技術に比べて顕著に生産性を高めることができる。…
しかも、異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため、互いに透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせてプレス成形加工(金型を予め130?170℃に加熱)した場合、成形されたラミネートフィルム成形体である容器は互いに接着性を有しておらず、成形された容器を金型から取り出した後も、個別の容器を剥がして分離することが容易となり、作業性に優れ、生産性高く容器を製造することができるので、生産コストを低減できる。」(段落【0008】、【0009】)

上記(ア)?(エ)の各記載によれば、本件特許出願当時、樹脂製フィルムにおいては、樹脂の表面に静電気が蓄積されやすいため、樹脂同士が接着して取扱いが煩わしくなること、複数枚の樹脂製フィルムを重ねて金型に配置し、熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合、フィルム同士が熱接着するため、成形後、個別に容器を取り出す際に、各容器を剥がして分離することが困難となること、といった問題点があったところ、後者の問題点を解決するためのフィルム表面のコロナ処理についても、成型時の剥がしやすさがいまだ十分な域にまで改善されなかったなどの問題があったことから、本件発明は、上記各問題点、とりわけ、後者の問題点(以下「熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題」という。)を解決するため、相違点1に係る構成(2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて、そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面にマット加工を施すこと)を採用したものといえる。
他方、引用例発明については、引用例記載のとおり、多数枚の樹脂製フィルムを重ねて金型に配置し、熱プレス成形によりフィルム製容器を製造するに当たり、実施態様例4において、積層された樹脂製フィルムの両面外側に添えられた紙質材の枚数を減らしたことに起因するものではあるものの、「OPPフィルムの分離性に少し難点を感じたが、これは合成樹脂フィルムの片面でよいから、ワックス系樹脂剤とか…を塗布したものの活用が無難である事が示された。」というのであるから、熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題が生じたということができるところ、これを解決するため、実施態様例5においては、片面に離型性ワックスコートを施したOPPフィルムを使用し、紙質材とOPPフィルムとの間にアルミニウム箔硬質50μm厚さ1枚を挿入したたところ、「結果は非常に良好で全て申し分なかった。」というのである。
そうすると、引用例発明も、熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため、相違点1に係る構成(2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて、そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面に離型性ワックスをコートする加工を施すこと)を採用したものということができる。

(2)本件特許出願当時におけるマット加工技術の状況について
まず、マット加工技術は、被加工面における摩擦係数の低減及び静電気の蓄積の防止、被加工面のつや消し等の目的で、当該被加工面に微細な凹凸を形成する技術であり、
例えば、特開2000-109157号公報(以下、「周知例1」という。)の「表面荒さを前記範囲内にすることにより、表面がマット状(微細な凹凸状)になるため外観を美しくすることができ、容器成形時における容器と成形金型の剥離性、容器同士の剥離性を高めることができ、食品容器材料を複数枚重ねて裁断するときの剥離性も高めることができる。」(段落【0013】)、
特開平8-310569号公報(以下、「周知例2」という。)の「【従来の技術】 珈琲等の飲料用のカップとして、内面がポリエチレン膜で被覆された紙カップが用いられている。カップ成型時の型との滑り及び製品の自動販売機でのカップ離れを良好にするため、ポリエンチレン膜の表面をマット(つや消し)加工する技術が知られている。マット加工によるポリエンチレン膜の十点平均粗さは約5μmに設定される。」(段落【0002】)、
特開平6-121706号公報(以下、「周知例3」という。)の「【実施例】
以下本発明の好ましい一実施例を説明する。まず、実施例品に用いる透明プラスチックシートには、ポリプロピレン、ポリスチレン等の焼却しても有害なガスを発生しないものを使用する。また、本実施例に於ては、厚み200μのポリスチレンシートを用いている。そして、この200μのポリスチレンシートの片面に、マット加工を施し、このポリスチレンシートを一定の長さにカットしてカット版シート(1)を形成する。また、カット版シート(1)は、両面にマット加工を施しても良い。
このように、カット版シート(1)は、片面または両面にマット加工を施すと、このマット加工面(2)に微細な凹凸部(3)を形成できる。そのため、カット版シート(1)は、マット加工面(2)に形成した凹凸部(3)が、重なり合うカット版シート(1)との間に、空気層(4)を形成する。
そのため、複数枚のカット版シート(1)を積み重ねても、静電気が発生して密着する事がなく、確実な一枚ずつの取り出しが可能となる。」(段落【0011】?【0013】)、
「【発明の効果】 本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、物品収納用透明ケースを形成する場合、マット加工を施したカット版シートは、積み重ねても上下のシートの間に空気の層を形成し、静電気による密着がなく、枚葉式印刷機への一枚毎の確実な供給が可能となる。」(段落【0022】)、
特開2002-94214号公報(以下、「周知例4」という。)の「銅箔シート11と密着配設される絶縁フィルム12は、銅箔シート11の保護を兼ねた電気絶縁性フィルムであり、例えばポリエステル(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、フッ素樹脂(ETFE、PTFE)などの高分子材料を、厚さ25μm程度に成形加工したフィルム材が用いられる。なお、フィルム材には、ベースとなる高分子材料に適合した帯電防止剤を混練ないし塗工処理し、あるいは微細な凹凸を形成するマット処理を行うなどの帯電防止処理を予め行っておくことが好ましい。」(段落【0024】)、と記載されているように、
本件特許出願当時、当業者にとって周知の技術であったものと認めることができる。
他方、例えば、特開平5-169788号公報には、「絵付け成形に使用する化粧シートの表面を所望の凹凸面…にしておいても、成形時の熱と圧力によって、凹凸が消失したり…する」(段落【0003】)と、特開2002-240131号公報には、「加熱ロールやプレス機でフィルムに圧力を掛けることにより、フィルム表面側が溶解し、マットが消え(る)」(段落【0015】)と、特開平11-221882号公報には、「マットロールの転写で得られたシートは熱成形を行うと凹凸面が消失(する)」(段落【0004】)との各記載があるから、先に述べた周知例1に「本発明の加熱調理用食品容器は、上記した食品容器材料を公知の成形法、例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものである」、「この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し、・・・カップ状の加熱調理用食品容器・・・を得た」との各記載があり、加熱圧縮法に供することが記載されていることを考慮してもなお、本件特許出願当時の当業者において、少なくとも、マット加工面は、熱と圧力が同時に加わることによってマット加工が消失する可能性が高いものと考えられていたものと認めることができる。

なお、この点、請求人は、請求人第2上申書において、資料1ないし4を提示して、マット加工面に熱と圧力を同時に加えて製造する方法が公知となっている旨を主張しているので、これについて検討する。
資料1(特開平9-265258号公報)には、「【請求項7】 フィルム本体と、該フィルム本体の一方の表面に一体に積層されたホットメルト接着剤層と、上記フィルム本体のホットメルト接着剤層とは反対側の表面に剥離可能に一体に積層された支持体層とを備え、ホットメルト接着剤層が被着体に接合するように該被着体上に重ね合わされた状態で支持体層側からプレス板で加熱されつつ押圧されて被着体に貼着されるようにした熱圧着型マーキングフィルムであって、
上記支持体層のフィルム本体とは反対側の表面に、プレス板からの離型性を有する離型層が一体に設けられていることを特徴とする熱圧着型マーキングフィルム。
【請求項8】 請求項7記載の熱圧着型マーキングフィルムにおいて、
支持体層のフィルム本体とは反対側の表面に、離型層に代えて、多数の微細な凹凸を有する凹凸面が形成されていることを特徴とする熱圧着型マーキングフィルム。」(特許請求の範囲の請求項7及び8)、「【発明の実施の形態】以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)図1は、この発明の実施形態1に係る熱圧着型マーキングフィルムMの構成を模式的にかつ誇張して示し、このマーキングフィルムMは、例えば各種運動用ユニフォームのチーム名や番号等の表示、衣料や鞄、袋物等への文字ないし図柄の表示を行うために用いられる。
上記熱圧着型マーキングフィルムMは、主成分のウレタン樹脂に顔料等の着色剤が含有されてなるフィルム本体1と、…ウレタン系のホットメルト接着剤層2と、上記フィルム本体1のホットメルト接着剤層2とは反対側の表面…に剥離可能に一体に積層されたPETフィルムからなる支持体層3とを備えてなっており、カッティングマシンにて所定形状にカッティングされた後、上記ホットメルト接着剤層2が被着体としての布地9に接合するように該布地9上に重ね合わされて位置合せされた状態で支持体層3側からプレス板12で加熱されつつ押圧されることで布地9に貼着されるようになされている。」(段落【0017】?【0018】)、及び、「(実施形態5)図8は、この発明の実施形態5に係る熱圧着型マーキングフィルムMを模式的にかつ誇張して示している。尚、上記実施形態1の場合と同じ部分には同じ符号を付して示し、その説明は省略する。
この実施形態では、支持体層3のフィルム本体1とは反対側の表面(図8の上側の表面)に、実施形態4の離型層に代えて、多数の微細な凹凸を有する凹凸面6が設けられている。この凹凸面6は、例えばサンドブラスト処理により形成されている。尚、その他の構成は実施形態1の場合と同じであるので、説明は省略する。
したがって、この実施形態5によれば、支持体層3の凹凸面6によってプレス板12に対する密着し難さを高めることができるので、上記実施形態4の場合と同じ効果を得ることができる。」(段落【0043】?【0045】)との記載があり、
資料2(特開平11-100451号公報)には、「【請求項1】(A)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)及び1、4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつエチレングリコール単位(I)と1、4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が1以上であるポリエステル、
(B)テレフタル酸単位を主とするジカルボン酸単位とエチレングリコール単位(I)及び1、4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)を主とするグリコール単位からなるポリエステルであって、かつエチレングリコール単位(I)と1、4-シクロヘキサンジメタノール単位(II)のモル比(I)/(II)が1より小さいポリエステル、および
(C)芳香族ポリカーボネート、
を含有せしめてなるポリエステル樹脂組成物の無延伸シートであって、かつ該シートの少なくとも片面に表面粗さRaが0.3?10μmのマット加工を施していることを特徴とする識別カード用シート。」(特許請求の範囲の請求項1)との記載があり、
資料3(特開2001-283175号公報)には、「【請求項1】 スキン層の間にコア層を有する少なくとも3層のシートであって、スキン層が実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂組成物からなり、コア層がポリカーボネート系樹脂組成物からなり、かつ、コア層の全シート中に占める厚さの割合が50%以上、100%未満であることを特徴とするカード用シート。
【請求項2】 シートの少なくとも片面にマット加工が施されており、かつ、シートが白色無機顔料を5重量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のカード用シート。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)との記載があり、
資料4(特開平8-39947号公報)には、「【請求項1】 ポリエステルフィルムとポリオレフィン系樹脂層との積層体からなり、該ポリオレフィン系樹脂層の表面がマット加工されていることを特徴とする転写型ラミネートフィルム形成用基材フィルム。
【請求項2】 ポリエステルフィルムがPETフィルムからなる請求項1記載の転写型ラミネートフィルム形成用基材フィルム。…
【請求項5】 ポリオレフィン系樹脂層がポリエチレン又はポリプロピレンからなる請求項4記載の転写型ラミネートフィルム。」(特許請求の範囲の請求項1?5)、「【産業上の利用分野】本発明は、印画紙に形成された画像の上に、表面保護等のための透明フィルムを形成するラミネートフィルムに関する。」(段落【0001】)、「基材2としてポリオレフィンフィルムを使用した場合には、マット加工自体は容易であるが、ラミネート層3を印画紙にラミネートする時に熱収縮や変形が生じやすいという問題がある。」(段落【0011】)との記載があるのであるから、
資料1?4のいずれにも、本件特許発明に係る「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法」とは異なる技術分野におけるフィルムのマット加工に関する技術が記載されているだけである。
しかも、資料1の特許請求の範囲の請求項7及び8、並びに、段落【0043】?【0045】の記載に照らせば、支持体として、PETフィルムにマット加工をしたものであれば、プレス板で加熱されつつ押圧されてもなお、マット加工が消失しないことが窺える一方、資料4の段落【0011】にみられるように、「ポリオレフィンフィルムを使用した場合には、マット加工自体は容易であるが、…熱収縮や変形が生じやすいという問題がある」ことさえ知られていたことが窺えるのであるから、資料1?4に接した本件特許出願当時の当業者であっても、マット加工面に熱と圧力を同時に加えると、マット加工が消失し、マット加工をした技術的意味が没却されると考えられていた、という上記認定は左右されない。

(3)引用例発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することの容易想到性について
(ア) 引用例は、前記(1)のとおり、熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を課題として開示するものといえるが、これを解決するための手段としてのマット加工技術を開示し、又は示唆するものではない。
(イ) 周知例2及び3には、マット加工が施された樹脂膜又はプラスチックシートが、熱と圧力をかけて容器等に成形されるとの記載も示唆もないところ、上記(2)のとおり、本件特許出願当時の当業者において、マット加工面に熱と圧力を同時に加えると上記のようにマット加工の技術的意味が没却されると考えられていたことに照らすと、各金型に加熱用電気ヒータが埋め込まれた容器成形装置を用いて合成樹脂フィルム製の容器を成形することによるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため、引用例発明に、周知例2又は3に記載されたマット加工技術を適用することについては、その動機付けがないばかりか、その適用を阻害する要因が存在したものともいえる。
(ウ) また、周知例4は、本件発明や引用発明が属する技術分野とは異なり、基板の製造方法等の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか、板状のコア部材の上面にプリプレグシートを挟んで銅箔シートを重ねた上、その上面に金属板を重ね、このように積層された積層部材を積層方向に圧縮・加熱することにより、銅箔シートをコア部材に接着させるという技術において、銅箔シートの一方の面に、あらかじめ帯電防止処理(マット加工処理等)が施された絶縁フィルムを配設しておくことにより、ロール状に巻き取られた銅箔シートを繰り出すときや、接着加工後に絶縁フィルムを剥離するときの静電気の発生を抑制するという技術を開示するものであって、複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し、熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を開示し、又は示唆するものではない。したがって、上記熱接着の問題を解決するため、引用例発明に、周知例4に記載されたマット加工技術を適用することについても、その動機付けがないというべきである。
(エ) 他方、周知例1は、本件発明や引用発明と同種の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか、同周知例には、「本発明の加熱調理用食品容器は、上記した食品容器材料を公知の成形法、例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものである」、「この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し、…カップ状の加熱調理用食品容器…を得た」との各記載があるところである。
しかしながら、周知例1に記載された食品容器材料は、紙である基材の上に、ポリプロピレンよりも融点が高いポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン等の耐熱性樹脂層を有するものであって、ポリプロピレン樹脂製フィルムのみから成る本件発明及び引用発明のラミネートフィルムとはその材質を異にするものであるほか、同周知例には、加熱圧縮法において用いられる加熱温度についての具体的な記載はみられないところ、紙である基材は、復元性の高い樹脂製フィルムとは異なり、折り込みのような機械的な作用のみでも成形が可能であることからすると、その加熱温度が、上記ポリブチレンテレフタレート等の耐熱性樹脂の成形温度(軟化温度)よりも相当低いことも想定され、また、食品容器材料から容器を形成する際の方法についても、複数枚の材料を積層して加熱圧縮するとの方法が示されているものではないから、結局、周知例1が、複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し、熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題の解決方法を開示し、又は示唆するものということはできず、したがって、当該問題を解決するため、引用例発明に、周知例1に記載されたマット加工技術を適用することについても、その動機付けがないといわざるを得ない。
したがって、引用例発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を、容器表面に対するマット加工で置き換えることが、当業者において容易になし得たことということはできない。

II.請求人が主張する無効理由1についての検討
1.請求人が主張する無効理由1の具体的な内容
(1)審判請求書における無効理由1に関わる主張の概要
本件特許の特許査定時の明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明については、甲第2ないし第6号証に記載された発明を、甲第1号証に記載された製造方法の発明に適用することは当業者にとって容易であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というにあると認められる。
(2)第1次弁駁書における無効理由1に関わる主張の概要
第1次訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下、「第1次訂正特許各発明」という。)については、甲第2ないし第6号証に記載された発明を、甲第1号証に記載された製造方法の発明に適用することは当業者にとって容易であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というにあると認められる(同書第6ページ)。
(3)請求人口頭審理陳述要領書における無効理由1に関わる主張の概要
第1次訂正特許各発明については、甲第1ないし第6及び第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というにあると認められる(同書第7ページ)。
(4)請求人第1上申書における無効理由1に関わる主張の概要
第1次訂正特許各発明については、第1に、甲第8号証に記載された「離型性ワックスコート」を「マットコート」に置き換えることは当業者にとって容易であるから、甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり(同書第3ページ)、
また、第2に、甲第1ないし第6及び第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というにあると認められる(同書第7ページ)。
(5)第2次弁駁書における無効理由1に関わる主張の概要
本件特許発明については、甲第9号証にマット加工を施すことにより帯電防止(静電気蓄積防止)を図ることが記載されていることを踏まえれば、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というにあると認められる(同書第6ページ)。
(6)請求人第2上申書における無効理由1に関わる主張の概要
本件特許発明については、刊行物、周知技術及び、資料1ないし4に記載された本件特許出願当時におけるマット加工技術の状況に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というにあると認められる(同書第19ページ)。
(7)無効理由1の小括
(1)ないし(6)を総合すれば、請求人が主張する無効理由1とは、本件特許発明は、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである、というにある。

2.甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された事項
(1)甲第1号証には、以下の記載がある。
(1)-1: 「透明な合成樹脂フイルムと透明あるいは不透明な合成樹脂フイルム間に模様印刷が施され、上記透明な合成樹脂フイルムと透明あるいは不透明の合成樹脂フイルムとが重合接着されてなる模様入りフイルムシートを押圧成形し、押圧成形によつて形成された収容部の底面および/または周壁面に模様が表現されていることを特徴とする食品収容用簡易容器。」(実用新案登録請求の範囲)
(1)-2: 「本考案に適用される合成樹脂フイルムとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、CPP、OPPなどの耐酸性のものが好ましく、…容器の製作に際しては、模様印刷が容器の底面や周壁に位置するように設定して任意の大きさに打ち抜き、該合成樹脂フイルムの融点以下の温度でもって加熱押圧成形するとよい。」(第3ページ第4ないし13行)
(1)-3: 「本考案による容器(2)は第5図に示しているように2枚のポリプロピレンフイルム(3)(4)が重合接着され、両フイルム(3)(4)間に模様印刷(1)が存在している模様入りフイルムシート(5)によって形成されている。この模様入りフイルムシート(5)は、例えば一方の12?20μの透明なフイルム(3)の片面に模様印刷(1)を施したのち他方の12?20μの透明なフイルム(4)をその印刷面側に重合し、接着することによって形成されている。…容器(2)の大きさに応じて草花の印刷(1)の大きさや配置を定めて模様入りフイルムシート(5)となしたのち…裁断素材となし、しかるのち該素材シートを130℃にて加熱しながら押圧成形して所定形状の容器(2)となしたものである。
また、上記実施例の合成樹脂フイルム(3)(4)についてはいずれか一方のフイルムを不透明なフイルムになしてもよく、両フイルム(3)(4)がそれぞれ透明なときは、内・外面から印刷模様が美麗に見える。」(第4ページ第6行ないし第5ページ第10行)

(2)甲第2号証には、以下の記載がある。
(2)-1: 「(1) 表面の少なくとも一方の側に模様等を印刷したフイルムまたはシートと、その印刷面上にラミネートした透明なフイルムまたはシートとより成る複合シートで構成し、容器本体と蓋体とを一体として成形したことを特徴とする模様入りの食品容器。
(2) 上記複合シートの少くとも一表面に更に他のフイルムまたはシートを積層して成る実用新案登録請求の範囲第(1)項記載の食品容器。
(6) フイルムまたはシートがポリスチレン、塩化ビニル、又はポリプロピレンから成るものである、実用新案登録請求の範囲第(1)項及至第(5)項のいずれかに記載の食品容器。」(実用新案登録請求の範囲の第1、2及び6項)
(2)-2: 「まず、透明な熱可塑性樹脂フイルムまたはシート5の片側表面の一部7に模様…を印刷する。そしてこの印刷された面に透明な熱可塑性樹脂フイルムまたはシート6を接着材又は、加熱圧着により貼り付ける。このようにして、2層構造を有する複合シート(第3図)ができる。この複合シートではフイルムまたはシート5の模様を印刷した面7に他の透明な樹脂フイルムまたはシート6を接着してあるので、印刷部分が外部に露出することはなく衛生的である。…模様の見える部分7が容器本体4に、また透明の部分8が蓋体2に、そして模様部分と透明部分との境界線のあたりが食品容器1の屈曲部3にくるように熱プレス成形する。」(第4ページ第9行ないし第5ページ第3行)
(2)-3: 「本案において使用されるフイルム又はシートとしては、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリプロピレンから成るものが好ましく、同一樹脂同志、または異なつた種類の樹脂を組合せて使用しても良い。
第4図は、この複合シートに更に透明フイルム又はシート9を一枚接着して3層構造としたものを示し、必要な場合には3層以上の多層構造とすることもできる。この場合、フイルム又はシート5の両面7、10に夫々印刷することもできる。」(第5ページ第9ないし18行)
(2)-4:


(第3図)

(2)-5:


(第4図)

(3)甲第3号証には、以下の記載がある。
(3)-1: 「ポリエステルフイルムよりなるフイルム中に微細な不活性化合物0.01?40重量%分散せしめたフイルムを、表面平滑なポリエステルフイルムの少なくとも一面に積層した、成型用積層ポリテトラメチレンテレフタレート及びポリテトラメチレン-2、6-ナフタレートフイルム。」(特許請求の範囲)
(3)-2: 「未延伸、一軸延伸、二軸延伸フイルムは、フイルム相互間の滑りが悪く、フイルム巻き取り、スリツテイング等を行なう際に、しわおよびブロツキング現象を発生し、作業性が損なわれると同時に、製品としての価値を減ずる。又開口性、剥離性が悪いため、種々の成型加工を行なう際の作業能率を著しく低下して、生産性が落ちると同時に、取扱いが困難であるとの欠点を有している。特に成型加工材料としては優れた離型性が要求される。従ってフイルム巻き取り、スリツテイング、成型加工等を円滑に行なわしめるためには、円滑に走行するよう良好な滑り性(フイルム表面の摩擦係数が低いこと)、離型性が要求される。
このためには従来、微粉末をフイルム表面に散布あるいは塗布する方法、原料重合後チップを作成する際、或いは製膜時に無機化合物を添加するとか、ポリマー中に他の高重合体を分散ブレンドするとかして、ポリマーをフイルムに成型することにより表面に凹凸を付与して、包装、成型加工用途として用いられることが一般に行なわれている。」(第2ページ上左欄第3行ないし上右欄第4行)

(4)甲第4号証には、以下の記載がある。
(4)-1: 「【請求項1】 熱可塑性樹脂で形成された容器において、深さが0.3?2.0μmである表面凹凸を、長さ3mm当たり少なくとも20個有する材料を容器内面に用いることを特徴とする易離型性容器。
【請求項2】 容器内面に用いる材料がエチレン-プロピレンブロック共重合体である請求項1記載の易離型性容器。」(特許請求の範囲)
(4)-2: 「【従来の技術】従来、プリン、ゼリー、水羊羮など内容物を皿などに取り出して使用することの多い食品容器としては、金属缶、プラスチック容器などが用いられている。
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の容器は、内容物の離型性に対する配慮がなされていないため、内容物の種類によっては容器に粘着して、皿などに移す際形が崩れるなどして使用に供することができないことが多かった。特に、プリンなどのように容器に充填した後、蛋白質を固化させる食品にあっては離型性が悪く、安心して使用できる容器の開発が強く要望されている。
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、プリンなどのような離型性が悪い食品にも安心して使用できる容器を提供することを目的とする。」(段落【0002】ないし【0004】)

(5)甲第5号証には、以下の記載がある。
(5)-1: 「【請求項1】 ヒートシール部を有する易剥離性包装体であって、内容物が充填されており、かつ、前記ヒートシール部の一部にシール幅より大きい深さを有するV字形状部位又はU字形状部位が、内容物方向側にその先端部を有するように形成されていることを特徴とする電子レンジ調理用包装物品。
【請求項2】 ヒートシール部を有する易剥離性包装体が、層間剥離性多層フィルムから構成されている請求項1記載の電子レンジ調理用包装物品。
【請求項3】 易剥離性包装体を構成する異種の材料からなる多層共押出フィルムが、表面層を形成する第1層がポリプロピレンであって、それに積層される第2層が、エチレン-ブテン共重合体、第3層ポリエチレンである請求項1又は2記載の電子レンジ調理用包装物品。
【請求項4】 積層フィルムの第1層の厚さと第2層の厚さとの比率が、前者/後者=0.01?1.0である請求項3記載の電子レンジ調理用包装物品。」(特許請求の範囲の請求項1ないし4)
(5)-2: 「本発明で用いる易剥離性フィルムとしては、1○界面剥離型フィルム、2○層間剥離型多層フィルム、3○凝集破壊型フィルムの何れであってもよい。界面剥離型のフィルム1○は、異種のシートをシールして形成されるものであればよく、その組み合わせとしては、例えば、ポリスチレンフィルムとエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムとの組み合わせ、ポリエチレンテレフタレートとエチレン酢酸ビニル共重合体フィルムとの組み合わせ等が挙げられる。
層間剥離型多層フィルム2○としては、異種多層型のフィルムが何れも使用でき、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、これらの樹脂を一成分として含むポリマーアロイ等の樹脂から任意に選択される樹脂から構成される多層フィルムが挙げられる。
また、凝集破壊型フィルム3○としては、多種の樹脂の混合によって得られる海島構造を有する樹脂成分から構成されるものであればよく、特に制限されるものではないが、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレンの混合樹脂、ポリエチレンとポリプロピレンとの混合樹脂等の樹脂成分から構成されるフィルムが挙げられる。
上記した1○?3○のなかでも特に剥離性が良好で本発明の効果が顕著となる点から2○の層間剥離型多層フィルムが好ましく、上記した多層フィルムのなかでも特に、表面層を形成する第1層(シール時に融着される層)がポリエチレンであって、それに積層される第2層がポリプロピレンの2層型のフィルムであること、或いは、表面層を形成する第1層がポリプロピレンであって、第2層がエチレン-ブテン共重合体であって、第3層がポリエチレンの3層型のフィルムであることが包装体の強度並びに剥離性に優れる点から好ましい。」(段落【0007】ないし【0010】)
(合議体注: 「1○」?「3○」は、それぞれ、数字「1」?「3」が、「○」で囲まれた数字記号を意味する。以下、同じ。)

(6)甲第6号証には、以下の記載がある。
(6)-1: 「【請求項1】 フランジ部を有する合成樹脂容器と合成樹脂フィルムから成る蓋材とを、該容器内に調理用食品が充填された状態で、前記フランジ部にヒートシール部を形成する様にヒートシールすることによって構成される電子レンジ調理用包装容器において、前記ヒートシール部が、その一部にシール幅より大きい深さを有するV字形状部位又はU字形状部位を蓋材中心部方向に先端部を有する様に形成していることを特徴とする電子レンジ調理用包装容器。
【請求項2】 蓋材を構成する合成樹脂フィルムが、層間剥離性多層フィルムから構成されている請求項1記載の電子レンジ調理用包装容器。
【請求項3】 層間剥離性多層フィルムが、表面層を形成する第1層がポリプロピレンであって、それに積層される第2層がエチレン-ブテン共重合体、第3層が、ポリエチレンである請求項2記載の電子レンジ調理用包装容器。」(特許請求の範囲の請求項1ないし3)
(6)-2: 「本発明で用いる易剥離性蓋材を構成するフィルムとしては1○界面剥離型フィルム、2○層間剥離型多層フィルム、3○凝集破壊型フィルムの何れであってよい。界面剥離型のフィルム1○は、異種のシートをシールして形成されるものであればよく、その組み合わせとしては、例えばポリプロピレン系容器にはエチレン酢酸ビニルをヒートシール層とするフィルム、ポリスチレン系容器には変性エチレン酢酸ビニルをヒートシール層とするフィルム等が挙げられる。
層間剥離型多層フィルム2○としては、異種多層型のフィルムが何れも使用でき、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ブテン共重合体、アイオノマー樹脂、ポリスチレン、エチレン酢酸ビニル等の樹脂から任意に選択される樹脂から構成される多層フィルムが挙げられ、ヒートシール層を容器の材質に合わせればよい。
また、凝集破壊型フィルム3○としては、多種の樹脂の混合によって得られる海島構造を有する樹脂成分から構成されるものであればよく、特に制限されるものではないが、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレンの混合樹脂、ポリスチレンとポリプロピレンの混合樹脂、ポリエチレンとポリエチレンとの混合樹脂等の樹脂成分から構成されるフィルムが挙げられ、容器の材質に応じ選択すればよい。
上記した1○?3○のなかでも特に剥離性が良好で本発明の効果が顕著となる点から2○の層間剥離型多層フィルムが好ましく上記した多層フィルムのなかでも特に、フランジ付き容器の表面層がポリプロピレン系であるとき表面層を形成する第1層(シール時に融着される層)がポリプロピレンであって、それに積層される第2層がエチレン-ブテン共重合体であって、第3層がポリエチレンの3層型のフィルムであることが包装容器のシール強度並びに剥離性に優れる点から望ましい。」(段落【0013】ないし【0016】)

(7)甲第8号証には、第6のI.の1.に記載したとおりの記載がある。

(8)甲第9号証には、以下の記載がある。
(8)-1: 「【請求項1】 透明プラスチックシートの製造時に、片面または両面にマット加工を施して、カット版シートを形成し、このカット版シートに枚葉式印刷機で文字・意匠の印刷を施すとともにこのカット版シートのマット加工面の打抜予定部の全面もしくは一部分に、透明インキをコーティングした後、枚葉式加工装置でカット版シートを打ち抜き加工し、この打ち抜いたカット版シートを製函するものである事を特徴とする物品収納用透明ケースの製造方法。
【請求項2】 透明プラスチックシートは、ポリスチレンにより形成した事を特徴とする請求項1の物品収納用透明ケースの製造方法。
【請求項3】 透明プラスチックシートは、ポリプロピレンにより形成した事を特徴とする請求項1の物品収納用透明ケースの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1ないし3)
(8)-2: 「本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、物品収納用透明ケースを形成する場合、プラスチックシートを、積み重ねても静電気による密着が生じる事がなく、枚葉式印刷機への一枚毎の確実な供給を可能とする。また、この密着防止を、プラスチックシートに、静電気防止剤を配合したり、滑剤を用いない事により、表面が曇ったり、ベタついたり、傷付く等の虞れが全くなく、長期間の透明性を維持できるようにしようとするものである。」(段落【0006】)

3.甲第1号証に記載された発明及び本件特許発明との対比、並びに、無効理由1に関する検討
3-1.甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、摘示(1)-1の「模様入りフイルムシートを押圧成形し」の記載からみて、食品収容用簡易容器の製造方法に関する発明が記載されているものと認められ、また、摘示(1)-2及び(1)-3から、合成樹脂フイルムとしては、OPP、すなわち、延伸ポリプロピレンからなるものが使用でき、押圧成形は130℃に加熱しながら行われるから、
「透明な延伸ポリプロピレンフイルムと透明あるいは不透明な延伸ポリプロピレンフイルム間に模様印刷が施され、上記透明な延伸ポリプロピレンフイルムと透明あるいは不透明の延伸ポリプロピレンフイルムとが重合接合されてなる模様入りフイルムシートを、130℃に加熱しながら押圧成形する、食品収容用簡易容器の製造方法」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

3-2.本件特許発明と甲1発明との対比
本件特許発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「模様入りフイルムシート」は、本件特許発明における「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルム」に相当すると認めら、また、甲1発明において、「模様入りフイルムシートを、130℃に加熱」するためには、押圧成形に使用する金型を加熱していると解するのが自然であるから、
両者は、「印刷面を内側に含む、2枚以上の延伸ポリプロピレンフイルムである樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、加熱した金型にてプレス成形加工して製造するフィルム製容器の製造方法」において一致し、
本件特許発明は、発明特定事項として、
a.樹脂フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すること、
b.ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせてプレス成形加工すること、及び、
c.透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせること、
の各事項をあわせ備えるのに対して、甲1発明が、a.ないしc.の事項を備えるものではない点で相違する。

3-3.相違点についての検討
3-3-1.相違点に係るb.及びc.の事項についての検討
まず、相違点に係るb.の事項について、当業者の技術常識を踏まえて、他の甲号各証、具体的には甲第2ないし第6、第8及び第9号証の記載から、これが容易に想到することができたものであるかどうかを検討する。すなわち、樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムからなるフィルム製容器を製造するに際して、ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせてプレス成形加工することが、他の甲号各証に記載又は示唆されているかどうかを検討する。

甲第2号証には、摘示(2)-1の「表面の少なくとも一方の側に模様等を印刷したフイルムまたはシートと、その印刷面上にラミネートした透明なフイルムまたはシートとより成る複合シートで構成」、摘示(2)-2の「熱プレス成形する」からみて、
「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法」が記載されていると認められるが、
「表面の少なくとも一方の側に模様等を印刷したフイルムまたはシートと、その印刷面上にラミネートした透明なフイルムまたはシートとより成る複合シート」の複数枚を重ねてプレス成形加工すること、すなわち、「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルム」の複数枚を重ね合わせてプレス成形加工することについては、記載も示唆も認められない。
この点、請求人は、甲第2号証における摘示(2)-3の「使用されるフイルム又はシートとしては、ポリスチレン、塩化ビニル、又はポリプロピレンから成るものが好ましく、同一樹脂同志、または異なつた種類の樹脂を組み合わせて使用しても良い。」の記載に言及して、「フイルム製容器を大量生産する場合には複数枚のフイルム又はシートを重ね合わせて成形加工することが当然のことながら極めて容易に考えられる」と主張している(第1次弁駁書第4ページの(b-2))。
しかしながら、請求人が引用した「同一樹脂同志、または異なつた種類の樹脂を組み合わせて」は、甲第2号証に記載される「複合シート」が、摘示(2)-4で示される第3図の2層構造のものである場合、層5及び6が、いずれも同一樹脂のフイルムまたはシートであってもよいし、層5と層6が異なつた種類の樹脂のフイルムまたはシートであってもよい、という意味の記載であることは、文理上も明らかである。
そうであれば、甲第2号証に、相違点に係るb.はもちろん、ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせの態様に関わるc.の事項についても、示唆があるということはできない。

また、甲第3ないし第6号証のいずれにも、その摘示事項に照らせば、相違点に係るb.はもちろん、ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせの態様に関わるc.についても、記載も示唆も認められない。
次に、甲第9号証には、摘示(8)-2の「プラスチックシートを、積み重ねても静電気による密着が生じる事がなく、枚葉式印刷機への一枚毎の確実な供給を可能とする」からみれば、シートを積み重ねることについての言及はあるが、これは、印刷機に1枚ずつ供給する紙葉物の積み重ねに関するものであって、ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせてプレス成形加工することに対は何らの示唆もないから、相違点に係るb.及びc.の事項については、記載も示唆も認められない。

したがって、甲第2ないし第6、及び第9号証をみても、相違点に係るb.及びc.の事項に思い至ることは困難といわざるを得ない。なお、甲第8号証については、次項で検討する。

3-3-2.甲第8号証についての検討
甲第8号証は、職権無効理由における引用例であって、先に第6のI.の2.で述べたとおり、「上下動する上金型1及び第3金型3と上記上金型1及び第3金型3を受ける下金型2の各金型を有し、上記各金型に加熱用電気ヒーターが埋め込まれた容器成形装置を用いて合成樹脂フイルム製の容器を成形する成形方法であって、上記合成樹脂フイルムとして、15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し、この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にして接着剤で貼り合わされ、離型性ワックスを片面にコートしたものを用い、上記貼り合わされたものの多数枚を上記上金型1及び上記第3金型3と下金型2の間に積層し、上記各金型を成形材料の軟化点以上の温度、具体的には、上記上金型1は209℃、下金型2は200℃、第3金型3は220℃に加熱するとともに、上記上金型1及び上記第3金型3と上記下金型2の間で上記貼り合わされたものの多数枚を加圧して成形加工を行う成形方法。」という引用例発明が記載されていたと認められるものである。
してみると、甲第8号証には、相違点b.の事項について記載があるといえるが、「離型性ワックス」の使用を必須とするものであって、相違点に係るa.及びc.の事項については記載も示唆もない。
すなわち、第6のI.の4.の(3)「引用例発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することの容易想到性について」で検討したように、周知技術を踏まえたとしても、『離型性ワックスをコート』するという加工を、容器表面に対するマット加工で置き換えることが、当業者において容易になし得たことということはできないのであるから、甲第8号証をみたとしても、相違点に係るa.及びc.の事項に思い至ることは困難といわざるを得ない。

3-3-3.小括
以上のとおりであるから、甲第2ないし第6、第8及び第9号証をみても、当業者が、相違点に係るa.ないしc.の事項をあわせ備えることに思い至ることは困難である。

3-4.まとめ
よって、本件特許発明が、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4.無効理由1についての予備的検討
3.で述べたように、本件特許発明は、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないものであるが、甲第1号証以外を主たる引用文献として、その他の甲号各証に記載された発明と組み合わせて、本件特許発明に容易に思い至ることができるかどうかについても検討する。

4-1.甲第2号証を主たる引用文献としての検討
甲第2号証には、摘示(2)-1の「一体として成形」、摘示(2)-2の「熱プレス成形する」との記載をみれば、「容器の製造方法」に関する発明が記載されていると認められ、また、摘示(2)-2の「2層構造を有する複合シート(第3図)」、摘示(2)-3の「本案において使用されるフイルム又はシートとしては、ポリスチレン、塩化ビニル、又はポリプロピレンから成るものが好ましく、同一樹脂同志…を組み合わせて使用しても良い。」の記載から、「表面の少なくとも一方の側に模様等を印刷したポリプロピレンから成るフイルムまたはシートと、その印刷面上にラミネートした透明なポリプロピレンから成るフイルムまたはシートとより成る複合シートで構成し、容器本体と蓋体とを一体として熱プレス成形する模様入りの食品容器の製造方法」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
本件特許発明と甲2発明を対比すると、その余の相違点についてはともかく、少なくとも、
本件特許発明は、発明特定事項として、
a.樹脂フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すること、
b.ラミネートフィルムの複数枚を重ね合わせてプレス成形加工すること、及び、
c.透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせること、
の各事項をあわせ備えるのに対して、甲2発明が、a.ないしc.の事項を備えるものではない点で相違する。
そして、3.で検討したように、甲第1号証はもちろん、甲第3ないし第6、第8及び第9号証には、相違点に係るa.ないしc.の事項をあわせ備えることについて記載も示唆も認めることができないのであるから、甲第2号証を主たる引用文献としても、本件特許発明が、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4-2.甲第3ないし第6及び第9号証を主たる引用文献としての検討
3.で検討したように、甲第3ないし第6及び第9号証には、上記のa.ないしc.の事項についての記載がないばかりか、「印刷面を内側に含む、2枚以上の延伸ポリプロピレンフイルムである樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法」についても記載がないから、甲第3ないし第6及び第9号証を主たる引用文献としても、本件特許発明が、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという余地はない。

4-3.甲第8号証を主たる引用文献としての検討
先に、3-3.において述べたように、甲第8号証には、「上下動する上金型1及び第3金型3と上記上金型1及び第3金型3を受ける下金型2の各金型を有し、上記各金型に加熱用電気ヒーターが埋め込まれた容器成形装置を用いて合成樹脂フイルム製の容器を成形する成形方法であって、上記合成樹脂フイルムとして、15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し、この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にして接着剤で貼り合わされ、離型性ワックスを片面にコートしたものを用い、上記貼り合わされたものの多数枚を上記上金型1及び上記第3金型3と下金型2の間に積層し、上記各金型を成形材料の軟化点以上の温度、具体的には、上記上金型1は209℃、下金型2は200℃、第3金型3は220℃に加熱するとともに、上記上金型1及び上記第3金型3と上記下金型2の間で上記貼り合わされたものの多数枚を加圧して成形加工を行う成形方法。」の発明が記載されていたと認められるから、甲第8号証は、「離型性ワックス」の使用を必須とするものであって、相違点に係るa.及びc.の事項については記載も示唆もない。
そして、第6のI.の4.の(3)「引用例発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することの容易想到性について」で検討したように、周知技術を踏まえたとしても、『離型性ワックスをコート』するという加工を、容器表面に対するマット加工で置き換えることが、当業者において容易になし得たことということはできない。
さらに、既に検討したとおり甲第1ないし第6及び第9号証には、相違点に係る「樹脂フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すること、」という事項についての記載がなく、すなわち、「マット加工」に関する記載もないのであるから、先に述べた、「『離型性ワックスをコート』するという加工を、容器表面に対するマット加工で置き換えることが、当業者において容易になし得たことということはできない。」との判断を左右する理由は何ら見当たらない。
したがって、甲第8号証を主たる引用文献としても、本件特許発明が、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

5.無効理由1についての検討のまとめ
本件特許発明が、甲第1ないし第6、第8及び第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、その特許は第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである、とすることはできない。

第7.特許法第36条に関わる請求人が主張する無効理由2についての検討
1.請求人が主張する無効理由2の具体的な内容
審理の全趣旨によれば、本件特許明細書には、本件特許発明の発明特定事項である、「異種フィルム」に関して、記載の内容に技術的な矛盾又は欠陥があるため、特許を受けようとする発明が不明確であるから、本件特許発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである、というにあり、請求人は、この主張を裏付けるために、甲第7号証を提出している。

2.本件特許発明
先に、第5.で述べたとおり、本件訂正が認められた結果、本件特許発明は、以下を発明特定事項とするものである。
「印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて、予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造することを特徴とするフィルム製容器の製造方法。」

3.請求人の主張の検討
2.の「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」との記載から、本件特許発明の発明特定事項である「異種フィルム」が、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」であることは、文理上明らかである。
そして、「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」とが、「フィルム」としてみれば、同一ではない、すなわち、「異種」といえるものであることも、当業者に明らかである。
また、甲第7号証には、「【請求項1】 プロピレン系樹脂層(A)、エチレン系樹脂との接着性を有する接着性樹脂層(B)、エチレン系樹脂を含有するオレフィン系樹脂層(C)、及び、スチレン系樹脂との接着性を有するエチレン系樹脂層(D)が、この順に積層された多層フィルムで、(A)層と(B)層の層間接着強度が2?20N/15mmであることを特徴とする、多層フィルム。
【請求項4】 プロピレン系樹脂層(A)、エチレン系樹脂との接着性を有する接着性樹脂層(B)、エチレン系樹脂を含有するオレフィン系樹脂層(C)、スチレン系樹脂との接着性を有するエチレン系樹脂層(D)、及び、スチレン系樹脂層(E)が、この順に積層された多層シートで、(A)層と(B)層の層間接着強度が2?20N/15mmであることを特徴とする、多層シート。」(特許請求の範囲の請求項1及び4)、「【発明の属する技術分野】 本発明は、易開封性包装容器用として好適な多層フィルム、多層シート、及びこの多層シートを使用した易開封性包装用容器に関する。
【従来の技術】 スチレン系樹脂シートを用いた食品容器は、トレー、カップ、どんぶり等種々の形で幅広く使用されている。上記スチレン樹脂系の容器は、安価で軽量で容器への成型性も良好な長所を有するが、耐熱性、耐油性、耐衝撃性、易開封性に劣る等の短所をも有するものであった。」(段落【0001】、【0002】)が記載され、要するところ、プロピレン系樹脂層(A)と、スチレン系樹脂層(E)との接着性を改善することを課題とする発明が記載されており、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」という本件特許発明の発明特定事項に係る記載についての不備を窺わせるものではない。
してみれば、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載に特段の不備があるとすることはできないから、請求人が主張する無効理由2には、理由がない。

なお、先に、第4の2.で検討したとおり、「異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」という発明特定事項に関しては、本件特許明細書等において、表面の処理において、一方のフィルムの表面処理をマット加工とする「透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルム」と「マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム」の違いによる種別を互いに「異種」とする意味で使用することも含んで記載しているといえる。

第8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フィルム製容器の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂製フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて、予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造することを特徴とするフィルム製容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はフィルム製容器の製造方法に関し、詳しくは、主として電子レンジ等で調理可能な食品容器に使用するフィルム製容器の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子レンジの普及に伴い、その利便性の高さから、電子レンジでの調理は、一般家庭、業務用を問わず、益々利用される頻度が高くなっている。電子レンジでの調理では、金属などいわゆる導体性の容器、包装物を使用することができず、そのため、調理には容器の材質に制限がある。
【0003】
特に、食品容器あるいは食品包装物として都合の良いアルミニウム製品(アルミニウム製トレイ、容器、箔など)を使用できないので、これに代わる材料として樹脂製の容器を使用する場合が多い。このようなラミネートフィルムを成形して食品容器を製造しようとした場合、樹脂の表面に静電気が蓄積され易いため、樹脂どうしが接着して取り扱い上煩わしくなり作業性は良くない。しかも、複数枚のラミネートフィルムを重ねて金型に配置し、加熱しつつ(100?200℃程度)プレス成形して製品を製造するようにすると、一度のプレス成形で多数のフィルム容器を製造できるものの、フィルムどうしが熱接着するため、成形後、個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても、剥がし難くなり、作業性が著しく悪くなる。このことは、生産性の低下、使用上の不便さにつながるという問題がある。特に、同種のフィルムどうしを重ねて熱成形すると、熱接着し易い。
【0004】
もっとも、重ねられた複数枚の樹脂フィルムを熱成形するに際して、剥がしやすくするため、表面にコロナ処理して熱成形する方法が考えられた(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】
特開平6-328552号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、成形時の剥がし易さの点では未だ十分でなく、しかも、コロナ放電処理設備を要することから設備コストが高くなり、加えて処理工程のために工程数が増えることにもなり、結果的に生産コストの上昇につながり、好ましくない。
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意研究努力した結果、樹脂製フィルムの少なく一方の表面に静電気の蓄積し難いよう表面処理した樹脂製フィルムを採用することにより、樹脂製フィルムを極めて取り扱い易くなること、更に樹脂製フィルムを積層して熱成形するに際しても、熱接着し難いことを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、樹脂製フィルムに静電気を蓄積し難くし、樹脂製フィルムどうしを接着し難くして取り扱い易くでき、それでいて積層して熱成形するに際しても、樹脂製フィルムどうしが熱接着し難くできるフィルム製容器の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的は各請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係るフィルム製容器の製造方法の特徴構成は、印刷面を内側に含む、2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において、前記樹脂製フィルムの1は、少なくとも一方の表面がマット加工され、20μm以上の厚みを有すると共に、前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて、予め130?170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造することにある。
【0009】
この構成によれば、少なくとも一方の表面がマット加工された樹脂製フィルムは表面に静電気が蓄積され難く、従って、取り扱い上、樹脂性フィルムどうしが接着してくっつくといった煩雑さを低減でき、しかも、積層して熱成形しても接着し難いため、作業性は極めて高く、従来技術に比べて顕著に生産性を高めることができる。更に、樹脂がマット加工されていることから、容器に成形した場合に、光の反射が抑制され落ち着いた高級感をかもしだすと共に、厚みを厚くするに伴いパール光沢を呈するようになり、商品価値を高いフィルム製容器を製造することができる。
のみならず、製造されたフィルム製容器の印刷面がラミネートされたフィルム間に位置するため、容器に食品を収容した場合であっても、印刷面が直接食品と接触することがなく、食品衛生上なんら支障が生じないものであり、印刷による容器の美観性を高めて、商品価値を一層高めた容器とすることができる。そして、従来技術のように、表面にコロナ放電処理を行う必要もない。印刷には、その方法に限定されるものではなく、単なる着色、2色以上の模様、各種図形など、樹脂製フィルムの地色とは異なる外観となるようにする方法が含まれる。
しかも、異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため、互いに透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせてプレス成形加工(金型を予め130?170℃に加熱)した場合、成形されたラミネートフィルム成形体である容器は互いに接着性を有しておらず、成形された容器を金型から取り出した後も、個別の容器を剥がして分離することが容易となり、作業性に優れ、生産性高く容器を製造することができるので、生産コストを低減できる。
【0010】
樹脂製フィルムの厚みが20μm未満であると、容器としての保形性が弱くなり好ましくない。より好ましくは、40μm以上である。
【0011】
マット加工される前記樹脂製フィルムが、二軸延伸ポリプロピレン樹脂であるので、強度が高く成形後の保形性に優れるため、特に、厚みのより薄いものを使用できるようになって原料コストを低くできる。
【0012】
マット加工は、特に限定されるものではなく、種々の加工方法を採用できる。要は、樹脂製フィルムの表面に微小な凹凸が多数形成されて、表面に静電気が蓄積され難くなっていればよい。もとより、両面にマット加工されていてもよい。
【0017】
又、2種以上の前記樹脂製フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、二軸延伸ポリプロピレンフィルムとの組み合わせからなっていてもよい。印刷がし易いのみならず、成形性が良好であるため、歩留りが高く、一層生産性に優れたものになると共に、食品衛生上の支障がないため、成形された容器を食品容器として使用するのに都合がよい。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態に用いる樹脂製フィルムの構造を示す。
【0025】
この樹脂製フィルムAは、透明のポリプロピレンフィルム1とマット加工されるポリプロピレンフィルム2とからなり、図1に示す樹脂製フィルムAの場合、各フィルム1,2は共に厚み約20μmであり、全体の厚みは約40μmとなっている。もとより、厚みはこれに限定されるものではなく、用途、目的などに応じて変更可能であるが、成形された容器を使用するときのことを考慮すると、20μm以上であることが必要であり、約40μm程度以上であることが好ましい。
【0026】
図1に示す二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の片面2aはマット加工がされており、多数の微小な凹凸が形成されて、静電気を蓄積し難くなっている。このマット加工は、特に限定されるものはないが、(1)砂を吹き付けるサンドブラスト法、(2)薬剤を用いてエッチングするエッチングマット法、(3)表面にマット剤をコーティングする表面コーテイング法、(4)エンボスロールや梨地ドラムを用いて押圧し表面をマット化する方法などを採用できる。このように二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の片面にマット加工がされていることにより、樹脂製フィルムどうしが接着するのを効果的に防止でき、作業工程中の取り扱いに際して、煩わしさがないため作業が楽になり、作業効率が著しく改善される。もとより、二軸延伸ポリプロピレンフィルム2のマット加工は、両面にされていてもよい。
【0027】
透明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム1とマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2とが、接着剤にて接着されラミネート構成とされていてもよい。その場合、樹脂製フィルムAは、夫々コイル状に巻回されている透明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム1とマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2とを、送給しつつ一方のフィルムの片面を接着剤槽に浸漬されているロールと接触させて、一方のフィルムの片面に接着剤を付着させた後、必要に応じて接着剤中の溶剤を乾燥して揮発させた後、ロール間を通して互いに貼り合わせし、適温に加熱したロール間を通して接着を促進させ、更に冷却ロールを経由させて巻き取る等により製造できる。もとより、本実施形態のラミネートフィルムの製造方法は、これに限定されるものではなく、その他の方法により製造されてもよい。
【0028】
又、接着剤には、ビニール系、セルロース系、エポキシ系、ゴム系など、市販のものを使用でき、特別なものを要しない。そして、透明の二軸延伸ポリプロピレンフィルム1あるいはマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルム2のいずれか一方の接着側表面に、模様その他の印刷が施されて商品価値が高めることができ、両者が接着されることにより、印刷面は内側に位置するようになって、収容される食品などと直接接触する可能性のある外表面に現れなくできる。
【0029】
次に、上記ラミネートフィルムAを用いて、電子レンジで調理可能な樹脂製弁当内などに惣菜入れとして用いられる、図4に示すような食品容器を製造することを例に挙げて、樹脂フィルム製容器の製造方法を説明する。
【0030】
まず、図2に示すように、ラミネートフィルムAの複数枚を重ね合わせ(図2では3枚。二軸延伸ポリプロピレンフィルム2のマット加工された面2aは、便宜上、最下面のラミネートフィルムAのみに表してある。)、図3に示すように、所定サイズのラミネートフィルム片Aoに打ち抜いてから、これを雄型と雌型とからなる金型4に配置し、金型4を予め130?170℃程度に加熱しておき、所定形状にプレス成形する。成形された容器5は、図4に示すように、重ねられた状態を維持しているが、各成形体どうしの剥離性が良好であるため、成形された容器を個別に取り出す作業は容易になる。
【0031】
このように、本実施形態による方法によれば、特に剥離特性を高めるためのコロナ放電処理などの表面処理を行う必要がなく、簡略な工程で作業性の良いラミネートフィルム製容器を製造することができる。もとより、打ち抜き時に、ラミネートフィルムを重ね合わせる枚数は、図2に示した枚数に限定されるものではなく、更に多数枚を重ねて打ち抜き、熱成形してもよい。
【0034】
〔別実施の形態〕
(1)本発明において、積層フィルムを構成する樹脂フィルムは、必ずしも透明である必要はなく、半透明なもの、不透明なものでもよく、更に、20μm以上であればその厚み、サイズ等も特に限定されるものではない。又、積層形態も、2層に限定されるものではなく、3層あるいはそれ以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかる樹脂製フィルム容器に用いる樹脂製フィルムの模式断面図
【図2】図1の樹脂製フィルムを重ね合わせた模式断面図
【図3】本発明のフィルム製容器の製造方法を説明する図
【図4】熱成形したフィルム製容器を取り出した斜視図
【符号の説明】
1 樹脂製フィルム
2 樹脂製フィルム
2a 一方の表面
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-03-13 
結審通知日 2008-08-05 
審決日 2008-08-27 
出願番号 特願2002-271166(P2002-271166)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B29C)
P 1 113・ 537- YA (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一宮 里枝  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 野村 康秀
亀ヶ谷 明久
登録日 2005-08-05 
登録番号 特許第3705494号(P3705494)
発明の名称 フィルム製容器の製造方法  
代理人 谷口 俊彦  
代理人 谷口 俊彦  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 足立 彰  
代理人 梶崎 弘一  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 梶崎 弘一  
代理人 梶崎 弘一  
代理人 谷口 俊彦  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ