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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1187815
審判番号 不服2007-6736  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-07 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2005-113614「画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-258458〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年5月31日に出願した特願平7-155602号の一部を平成17年4月11日に新たな出願としたものであって、平成18年11月13日付けで通知された拒絶理由に対して、平成19年1月22日付けで手続補正書が提出されたが、同年2月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月7日付けで審判請求がなされるとともに同年4月4日付けで手続補正書が提出され、その後、当審において、平成20年7月7日付けで審判請求人に対して審尋を行ったところ、同年8月2日付けで回答書が提出されたものであって、「画像形成方法」に関するものと認める。


第2 平成19年4月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正には、特許請求の範囲を以下のように補正しようとする補正事項が含まれている。

(補正前)
「【請求項1】感光体と、該感光体に対向して設けられ、内部に複数個の磁石が設けられており、現像域に現像剤を搬送して供給する現像剤担持体と、該現像剤担持体に現像剤を供給する手段と、現像剤担持体に担持された現像剤を圧縮する現像剤返し部材と、現像剤担持体上に形成される磁気ブラシを所定の穂高に穂切りする穂高規制部材とを少なくとも有し、更に上記現像剤担持体内の複数個の磁石が、少なくとも現像域に対応する現像極と、穂高規制部材の上流に対向するカット極とを備えた現像装置とを有する上記の各色に対応する画像形成ステーションがベルト状移動体に沿って設置され、更に、該ベルト状移動体によって搬送されるトナー画像を被転写材上に加熱・加圧定着するための定着装置を少なくとも有する画像形成装置を使用し、
下記(5)及び(6)の要件を満たす磁性キャリア粒子と、下記(3)及び(4)の要件を満たす、マゼンタ色のトナー、シアン色のトナー、イエロー色のトナー及びブラック色のトナーとを有する二成分系現像剤を使用して画像形成を行う画像形成方法において、
(3)トナーの形状係数SF-1を100?140、SF-2が100?140とする。
(4)トナーが、融点40?100℃の低軟化点物質を樹脂100質量部に対して5?40質量部含有する。
(5)磁性キャリア粒子が、フェライト芯材又は磁性体を樹脂中に分散させた芯材の表面を被覆樹脂で被覆した磁性キャリア粒子である。
(6)磁性キャリア粒子が、50%平均粒径(D50)が15?45μmであり、空気透過法によって測定される比表面積S1と、下記式(1)によって算出される比表面積S2との比S1/S2が下記の関係を有する磁性キャリア粒子である。
1.4≦S1/S2≦1.7
S2=(6/ρD50)×10^(4)(式中、ρ=キャリアの比重)(1)
上記現像剤の空隙率を45?60%とし、且つ、
カット極の磁束密度をA(ガウス)とし、現像極の磁束密度をB(ガウス)とし、且つ
現像剤担持体の直径をd(mm)としたときに、
300≦A≦900
600≦B≦1200
16≦d≦22
であり、これらが下記の関係を有する様にすることを特徴とする画像形成方法。
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23
【請求項2】トナーの一部又は全体が重合法により形成される請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】トナーの重量平均粒径が3.5?7.5μmであり、且つ5.04μm以下の粒径を有するトナーが25個数%より多く、4μm以下の粒径を有するトナーが5個数%以上、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下、且つ10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下、夫々含有されているトナーである請求項1又は請求項2に記載の画像形成方法。」

(補正後)
「【請求項1】感光体と、該感光体に対向して設けられ、内部に複数個の磁石が設けられており、現像域に現像剤を搬送して供給する現像剤担持体と、該現像剤担持体に現像剤を供給する手段と、現像剤担持体に担持された現像剤を圧縮する現像剤返し部材と、現像剤担持体上に形成される磁気ブラシを所定の穂高に穂切りする穂高規制部材とを少なくとも有し、更に上記現像剤担持体内の複数個の磁石が、少なくとも現像域に対応する現像極と、穂高規制部材の上流に対向するカット極とを備えた現像装置とを有する上記の各色に対応する画像形成ステーションがベルト状移動体に沿って設置され、更に、該ベルト状移動体によって搬送されるトナー画像を被転写材上に加熱・加圧定着するための定着装置を少なくとも有する画像形成装置を使用し、
下記(5)及び(6)の要件を満たす磁性キャリア粒子と、下記(3)及び(4)の要件を満たす、マゼンタ色のトナー、シアン色のトナー、イエロー色のトナー及びブラック色のトナーとを有する二成分系現像剤を使用して画像形成を行う画像形成方法において、
(3)トナーの形状係数SF-1を100?140、SF-2が100?140とする。
(4)トナーが、融点40?100℃の低軟化点物質を樹脂100質量部に対して5?40質量部含有する。
(5)磁性キャリア粒子が、フェライト芯材又は磁性体を樹脂中に分散させた芯材の表面を被覆樹脂で被覆した磁性キャリア粒子である。
(6)磁性キャリア粒子が、50%平均粒径(D50)が15?45μmであり、空気透過法によって測定される比表面積S1と、下記式(1)によって算出される比表面積S2との比S1/S2が下記の関係を有する磁性キャリア粒子である。
1.4≦S1/S2≦1.7
S2=(6/ρD50)×10^(4)(式中、ρ=キャリアの比重)(1)
上記現像剤の空隙率を47?55%とし、且つ、
カット極の磁束密度をA(ガウス)とし、現像極の磁束密度をB(ガウス)とし、且つ
現像剤担持体の直径をd(mm)としたときに、
300≦A≦900
900≦B≦1200
16≦d≦22
であり、これらが下記の関係を有する様にすることを特徴とする画像形成方法。
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21
【請求項2】トナーの一部又は全体が重合法により形成される請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】トナーの重量平均粒径が3.5?7.5μmであり、且つ5.04μm以下の粒径を有するトナーが25個数%より多く、4μm以下の粒径を有するトナーが5個数%以上、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下、且つ10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下、夫々含有されているトナーである請求項1又は請求項2に記載の画像形成方法。」

この補正事項は、請求項1において、現像剤の空隙率について、補正前の「45?60%」を「47?55%」に限定し、また、カット極の磁束密度:A(ガウス)、現像極の磁束密度:B(ガウス)、現像剤担持体の直径:d(mm)について、補正前の「600≦B≦1200」「0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23」を、それぞれ、「900≦B≦1200」「0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21」に限定するものである。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.独立特許要件の判断
本願補正発明では、カット極の磁束密度:A(ガウス)、現像極の磁束密度:B(ガウス)、現像剤担持体の直径:d(mm)について、次の限定を行っている。
300≦A≦900
900≦B≦1200
16≦d≦22
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21

一方、発明の詳細な説明では、本願で上記のようなA,B,dの限定(数値範囲は若干異なるが)を行う理由等として、次のような記載がみられる。(なお下線は当審で付した。)
「【0036】この現像剤は、カット極N2からの磁界で形成され、現像スリーブ3の中心方向へ作用し、且つ現像剤返し部材1で規制された現像剤量に応じて決まる磁気拘束力と、現像スリーブ3の回転方向に作用する搬送力とにより、ブレード2へ搬送される。そして、現像剤溜り部5を形成規制する現像剤返し部材1によって圧縮され、ブレード2にて層厚が規制されて現像域へと搬送される。このとき現像剤は、現像剤間の圧縮力と現像スリーブ3表面との摺擦力の影響で、長期にわたって画像形成を行った場合には現像剤の劣化により画質が低下してくる。その為、本発明では磁束密度の最適化を行った。その際、スリーブの直径を変化させて劣化に対する影響をも考慮して、同時に最適化を行った。
【0037】この検討の結果、ブレード2の上流に位置するカット極N2の磁束密度をA(ガウス)、現像極N1の磁束密度をB(ガウス)、現像剤担持体の直径をd(mm)としたとき、
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23
である場合に、画像劣化に対し効果があることがわかった。即ち、この範囲よりも大きいと、カット極N2とブレード2間で構成される現像剤溜り部5で現像剤が強く圧縮、摺擦されてしまう為、画像劣化が発生し、小さいと穂切り位置での規制が不安定で、良好な穂立ちが確保できなくなり、その為、現像位置での現像剤層の安定性が失われ、ムラ等の画像欠陥が発生する。更に、特に高画質を要求される場合には、下記の範囲に設定することが好ましい。
0.10≦{A/(B×√d)}≦0.20
【0038】スリーブ径に関しては、スリーブ3を小径のスリーブにすると、現像剤が穂切り位置を通過する回数が増加する為、大径のスリーブの場合と比較して、カット極の磁束密度を現像極に対して相対的に小さくする必要がある。本発明者らは数種類の直径の異なるスリーブを作製して検討を行った結果、現像極、カット極、スリーブ径を上記の範囲に収めることで画像劣化を防止することが出来るという結論に達した。
【0039】又、本発明の画像形成方法においては、現像極N1の磁束密度を、600ガウス以上にすることが好ましいことがわかった。これは、600ガウスより小さいと高画質を達成することが出来ず、ハイライト再現性の悪い画像となったからである。」
この記載によれば、{A/(B×√d)}の数値範囲は、数種類の異なるd(現像剤担持体直径、スリーブ径)のスリーブを作製して何らかの検討を行った上で、最適な範囲として得たことが理解されるが、
{A/(B×√d)}が技術的にどのような意味を持つのか、つまり、AをBで割って更に√dでも割ることにどのような意味があるのかは、本願の明細書、請求人の意見書、審判請求書、審尋に対する回答書において、何ら説明がない。「A/B」だけなら、まだしも、「√d」が関係してくる理由は不明である。また、仮に現像剤担持体の直径:dが関係するとしても、「d」や「d^(1/3)」等でなく、何故「√d」であるのかを理論的に理解することはできない。
そうすると、{A/(B×√d)}による数値範囲は、本願の発明者がA,B,dの値を種々に変更したうえで、実際に、実施例でみるような実験を行い、好ましい評価(効果)が得られる数値範囲として、特定したものと考えるほかないというべきである。つまり、多数の実験データを包含する関係として、便宜的に{A/(B×√d)}を用いたと考えられるのである。
その際に重要なことは、{A/(B×√d)}による数値範囲が、実験データでサポートされているかどうかということである。その数値範囲に、好ましい評価(効果)が得られる実験データが含まれ、良くない評価の実験データが含まれないことは当然として、好ましい評価が得られるかどうか確認されておらず、しかも技術常識に照らしても好ましい評価が得られるとは推論できないものまでを{A/(B×√d)}による数値範囲がカバーすることがないようにすることである。これは、実証的な研究による結果に基づき特許を請求する以上、当然のことである。
この観点から、本願を具体的に検討すると、
実験データとしては、実施例、比較例があるが、適切な現像剤を使用しているものだけを抜粋すると、次のとおりである。
d B A {A/(B×√d)}
実施例1 16 900 750 0.21
実施例2 16 900 580 0.16
実施例3 16 900 300 0.08
実施例4?6 16 900 580 0.16
実施例7 22 1200 900 0.16
比較例1 16 900 900 0.25
比較例2 22 1200 1400 0.25
比較例10 16 900 100 0.03
これらの実施例はいずれも本願補正発明の下記の関係を満たしており、逆に、比較例はいずれも下記の関係を満たしておらず、この点で矛盾はない。
300≦A≦900
900≦B≦1200
16≦d≦22
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21
しかしながら、本願補正発明の上記関係は、実施例、比較例のどちらでもないものをも包含する概念であり、好ましい評価が得られるのかどうかが不明確なもの(以下、「グレーゾーンのもの」という。)を含んでいる。
グレーゾーンのものであっても、実施例1?6を含むところの、「d:16,B:900,A:300?750,{A/(B×√d)}:0.08?0.21」の範囲にあるものは、実施例1?6の記載から好ましい評価が得られることは十分に推認可能である。
ところが、それ以外のグレーゾーンのものについては、好ましい評価が得られるのかどうかが不明確である。例えば、「d:22」のものに関しては、実施例7があるだけであり、グレーゾーンにある「d:22,B:1200,A:300,{A/(B×√d)}:0.05」や「d:22,B:900,A:885,{A/(B×√d)}:0.21」についての評価は不明確である。また、例えば、実施例にない「d:19」について、グレーゾーンにある「d:19,B:900,A:820,{A/(B×√d)}:0.21」「d:19,B:900,A:300,{A/(B×√d)}:0.08」「d:19,B:1200,A:300,{A/(B×√d)}:0.06」「d:19,B:1200,A:900,{A/(B×√d)}:0.17」などについての評価は不明確である。
つまり、本願補正発明では、評価(効果)が不明確なグレーゾーンのものが多数存在するのである。

したがって、本願補正発明においては、出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を超えて、効果が確認されておらずかつ推認もできないものを含めて、特許を請求していると言わざるを得ない。

なお、請求人は、審判請求書において、「本願発明で規定する範囲が、本願発明の特有の作用効果を奏する範囲として妥当なものであることを追認するためのもの」と称して、上記の「300≦A≦900、900≦B≦1200、16≦d≦22」のうち上下限である「A:300又は900,B:900又は1200,d:16又は22」を用いた「追加実験例」を提示しているが、
本願補正発明の
300≦A≦900
900≦B≦1200
16≦d≦22
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21
という規定は、請求人も認めるように本願補正発明の核心的又は本質的な部分に係わるものであり、
特許法第36条第5項第1号(平成5年改正法)に規定する要件である「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」に適合するためには、「追加実験例」のような発明の核心的又は本質的な部分に係わる重要なデータは、発明の詳細な説明における実施例などの記載や技術常識から作用効果が論理的に十分に推認されるがそのことを実際の実験により念のために確認する場合ならいざ知らず、効果の推認ができないような本件の場合においては、本願の出願当初から発明の詳細な説明に記載されているべきものである。よって、上記要件の判断に当たっては、審判請求書での「追加実験例」の内容を参酌することはできない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本願補正発明は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1.本願発明
平成19年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成19年1月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】感光体と、該感光体に対向して設けられ、内部に複数個の磁石が設けられており、現像域に現像剤を搬送して供給する現像剤担持体と、該現像剤担持体に現像剤を供給する手段と、現像剤担持体に担持された現像剤を圧縮する現像剤返し部材と、現像剤担持体上に形成される磁気ブラシを所定の穂高に穂切りする穂高規制部材とを少なくとも有し、更に上記現像剤担持体内の複数個の磁石が、少なくとも現像域に対応する現像極と、穂高規制部材の上流に対向するカット極とを備えた現像装置とを有する上記の各色に対応する画像形成ステーションがベルト状移動体に沿って設置され、更に、該ベルト状移動体によって搬送されるトナー画像を被転写材上に加熱・加圧定着するための定着装置を少なくとも有する画像形成装置を使用し、
下記(5)及び(6)の要件を満たす磁性キャリア粒子と、下記(3)及び(4)の要件を満たす、マゼンタ色のトナー、シアン色のトナー、イエロー色のトナー及びブラック色のトナーとを有する二成分系現像剤を使用して画像形成を行う画像形成方法において、
(3)トナーの形状係数SF-1を100?140、SF-2が100?140とする。
(4)トナーが、融点40?100℃の低軟化点物質を樹脂100質量部に対して5?40質量部含有する。
(5)磁性キャリア粒子が、フェライト芯材又は磁性体を樹脂中に分散させた芯材の表面を被覆樹脂で被覆した磁性キャリア粒子である。
(6)磁性キャリア粒子が、50%平均粒径(D50)が15?45μmであり、空気透過法によって測定される比表面積S1と、下記式(1)によって算出される比表面積S2との比S1/S2が下記の関係を有する磁性キャリア粒子である。
1.4≦S1/S2≦1.7
S2=(6/ρD50)×10^(4)(式中、ρ=キャリアの比重)(1)
上記現像剤の空隙率を45?60%とし、且つ、
カット極の磁束密度をA(ガウス)とし、現像極の磁束密度をB(ガウス)とし、且つ
現像剤担持体の直径をd(mm)としたときに、
300≦A≦900
600≦B≦1200
16≦d≦22
であり、これらが下記の関係を有する様にすることを特徴とする画像形成方法。
0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23 」

2.特許法第36条5項第1号について
(1)原審の拒絶理由
原査定における特許法第36条関連の拒絶の理由は以下のとおりである。
(なお、下線は当審で付した。)

(a)平成18年11月13日付けで通知された拒絶理由の概要
『[1]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない。

明細書の段落【0033】等の記載を参照すると、請求項1に係る発明は、「本発明によれば、高精細、高画質を維持しながら現像剤の寿命を大幅に延ばし、長期間にわたって安定した高品質の画像を得ることのできる画像形成方法が提供される。更に、本発明によれば、小型で高速のプリント性能を有し、定着ローラーにオイル等の離型剤を塗布することなく、高温オフセットを防止した画像形成方法が提供される。」というものである。
そこで、請求項1の記載を参照すると、請求項1では、
(1)カット極の磁束密度:A(ガウス)の数値範囲
(2)現像極の磁束密度:B(ガウス)の数値範囲
(3)現像剤担持体の直径:d(mm)の数値範囲
(4)上記(1)?(3)の関係式:A/(B×√d)の数値範囲
(5)現像剤の空隙率の数値範囲
(6)トナーの形状係数:SF-1の数値範囲
(7)トナーの形状係数:SF-2の数値範囲
(8)トナーに含有される低軟化点物質の含有量の数値範囲
(9)磁性キャリア粒子の50%平均粒径(D50)の数値範囲
(10)空気透過法によって測定される比表面積S1と、
S2=(6/ρD50)×104(式中、ρ=キャリアの比重)
の関係式であるS1/S2の数値範囲
の10種類の数値範囲を定めている。そして、請求項1の記載から、上記(1)?(10)に記載された数値範囲に含まれるものは、請求項1に係る発明の範囲に含まれるものと認められる。
そこで、発明の詳細な説明等の記載を参照すると、段落【0107】、【0108】の記載を参照すると、わずか17例の実験結果が記載されているのみであり、上記(9)に関しては、50%平均粒径(D50)が35.5μmの例である現像剤A、好ましくない例と考えられるD50が51.2μmである現像剤Fが開示されているのみであって、なぜD50として、15?45μmの全ての範囲が良好といえるのか、明確な根拠が示されていない。また、SF-1、SF-2に関しても、SF-1=191の現像剤Kと、SF-1=148の現像剤Jのほかは、SF-1の値が111?122の例が示されているのみであり、なぜ、SF-1として、100?140の全ての範囲が良好といえるのか、明確な根拠が示されていない。
他の数値範囲に関しても、発明の詳細な説明には、ピンポイント的に良好な結果が得られた例と、良好な結果が得られなかった例が開示されているだけであり、上記(1)?(10)の数値範囲の全ての領域における全ての組み合わせについて、発明の詳細な説明に記載された作用効果を奏しうることを客観的に示した根拠が、十分に開示されておらず、そのことが、当業者にとって自明であるとも認められない。
したがって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとは認められない。
請求項2?5に係る発明についても同様である。
よって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。』

(b)平成19年2月1日付けの拒絶査定の概要
『この出願については、平成18年11月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由[1]によって、拒絶をすべきものである。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討したが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない。
備考
請求項1に係る発明は、
「感光体と、該感光体に対向して設けられ、内部に複数個の磁石が設けられており、現像域に現像剤を搬送して供給する現像剤担持体と、該現像剤担持体に現像剤を供給する手段と、現像剤担持体に担持された現像剤を圧縮する現像剤返し部材と、現像剤担持体上に形成される磁気ブラシを所定の穂高に穂切りする穂高規制部材とを少なくとも有し、更に上記現像剤担持体内の複数個の磁石が、少なくとも現像域に対応する現像極と、穂高規制部材の上流に対向するカット極とを備えた現像装置とを有する上記の各色に対応する画像形成ステーションがベルト状移動体に沿って設置され、更に、該ベルト状移動体によって搬送されるトナー画像を被転写材上に加熱・加圧定着するための定着装置を少なくとも有する画像形成装置を使用」し、
磁性キャリア粒子とトナーに関して、「下記(5)及び(6)の要件を満たす磁性キャリア粒子と、下記(3)及び(4)の要件を満たす、マゼンタ色のトナー、シアン色のトナー、イエロー色のトナー及びブラック色のトナーとを有する二成分系現像剤を使用して画像形成を行う画像形成方法」
「(3)トナーの形状係数SF-1を100?140、SF-2が100?140とする。
(4)トナーが、融点40?100℃の低軟化点物質を樹脂100質量部に対して5?40質量部含有する。
(5)磁性キャリア粒子が、フェライト芯材又は磁性体を樹脂中に分散させた芯材の表面を被覆樹脂で被覆した磁性キャリア粒子である。
(6)磁性キャリア粒子が、50%平均粒径(D50)が15?45μmであり、空気透過法によって測定される比表面積S1と、下記式(1)によって算出される比表面積S2との比S1/S2が下記の関係を有する磁性キャリア粒子である。
1.4≦S1/S2≦1.7
S2=(6/ρD50)×104(式中、ρ=キャリアの比重)(1)」
という前提のもとで、さらに、
(a)現像剤の空隙率を45?60%
(b)カット極の磁束密度をA(ガウス)とし、現像極の磁束密度をB(ガウス)とし、且つ現像剤担持体の直径をd(mm)としたときに、
(b-1)300≦A≦900
(b-2)600≦B≦1200
(b-3)16≦d≦22
(c)0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23
の条件を満たすすべての領域を発明の範囲とするものである。
したがって、上記の(3)?(6)の条件、及び、(a)、(b-1)、(b-2)、(b-3)、(c)の条件を満たすものであり、上記の画像形成装置を使用する画像形成装置を使用する画像形成方法であれば、上記の(3)?(6)の数値範囲、(a)、(b-1)、(b-2)、(b-3)、(c)の数値範囲のすべての領域における、すべての組み合わせの範囲が、請求項1に係る発明の範囲に含まれるものであることは明らかである。
しかしながら、明細書の段落【0107】の表1等の記載を参照しても、上記の要件(a)に関して47?55の範囲、(b-2)に関して900のものが6例と1200のものがわずか1例、(b-3)に関して、16のものが6例と22のものがわずか1例、(c)に関して、0.08?0.21の数値範囲のものが良好である旨が示されているのみであり、(a)、(b-1)、(b-2)、(b-3)、(c)の条件のみに限った場合であっても、そのすべての数値範囲の組み合わせにおける全ての領域において、十分な作用効果を生じうることは示されていない。
出願人は意見書において、「現像剤担持体の径[要件(3)];カット極の磁束密度、現像極の磁束密度、現像剤担持体の径の三者が満たす特定の関係[要件(4)];現像剤の空隙率[要件(5)]に関しましては、本願の明細書、特に実施例において、各数値範囲の全域で上記効果が得られるということが、十分に示されているものと思料致します。」と主張しているが、そのようなことが示されているとは到底認められない。
したがって、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化できるとは認められない。
請求項1の記載を引用する請求項2及び3に係る発明についても同様である。
よって、請求項1?3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められない。』

(2)当審の判断
本願発明は、上記「第2 1.」で検討した本願補正発明において、現像剤の空隙率について、「47?55%」を「45?60%」に拡大し、また、カット極の磁束密度:A(ガウス)、現像極の磁束密度:B(ガウス)、現像剤担持体の直径:d(mm)について、「900≦B≦1200」「0.05≦{A/(B×√d)}≦0.21」をそれぞれ「600≦B≦1200」「0.05≦{A/(B×√d)}≦0.23」に拡大するものである。
そうすると、本願発明では、上記「第2 2.」に示したグレーゾーンが本願補正発明より広くなるから、
上記「第2 2.」で検討した本願補正発明が、発明の詳細な説明に記載したものではない以上、本願発明も、同様の判断理由により、発明の詳細な説明に記載したものではないということになる。

3.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-12 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-29 
出願番号 特願2005-113614(P2005-113614)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 小宮山 文男
山下 喜代治
発明の名称 画像形成方法  
代理人 近藤 利英子  
代理人 吉田 勝広  

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