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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1187827
審判番号 不服2007-13989  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-15 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 特願2003-390653「露光マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成17年6月16日出願公開、特開2005-156590〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯、手続補正及び本願発明
(1)手続の経緯
本願は、平成15年(2003年)11月20日に出願された特願2003-390653号の特許出願であって、原審における平成17年10月24日付の1回目の拒絶理由通知に対し、平成18年1月4日付の意見書とともに同日付の手続補正書が提出され、さらに、原審における平成19年1月22日付の最後の拒絶理由通知に対し、平成19年3月23日付の意見書と平成19年3月26日付の手続補正書とが提出されたところ、前記平成17年10月24日付の1回目の拒絶理由により、平成19年4月11日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成19年5月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

(2)手続補正
しかして、平成19年3月26日付の手続補正は、第17条の2第1項第2号に掲げる場合の、原審における平成19年1月22日付の最後の拒絶理由通知に係る特許法第50条の規定により指定された期間内になされた補正であるところ、前記補正は、単に補正前の請求項1、請求項2及び請求項4に記載されていた「平面上にパターンを有し、」という誤記を、特許法第17条の2第4項第3号に掲げる「誤記の訂正」を目的として、正しく「凸面上にパターンを有し、」のように、明らかな誤記を訂正するための補正であるから、前記平成19年3月26日付の手続補正は、特許法第17条の2第3項から第5項までの規定に適合する手続補正であると認められるので、特許法第53条第1項に規定する「第17条の2第1項第2号に掲げる場合において、願書に添付した明細書又は図面についてした補正が同条第3項から第5項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。」の手続きを必要としない適法な補正であると認められる。

(3)本願発明
したがって、当審の審理の対象とすべき本願発明は、平成19年3月26日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、特にその請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、これを「本願発明1」という。)
「【請求項1】平面と凸面を有する凸型形状を有し、凸面上にパターンを有し、凸面部のTIRが5ミクロン以下であるコンタクト露光用露光マスク。」

2 引用刊行物及びその記載事項
(1)引用刊行物1
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である実願昭48-49690号(実開昭49-149004号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下、「引用刊行物1」という。)には、「殖版機における原稿枠」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「殖版機における原稿枠の原稿貼付面において、該原稿貼付面をその中央部が突出した湾曲面に形成することにより、印刷原版等が前記貼付面に貼付けられた原稿にバキユーム操作等で完全密着しうるようにした殖版機における原稿枠。」(明細書1ページ5?9行の実用新案登録請求の範囲)
「本考案は殖版機における原稿枠に関するものである。
従来、殖版機における原稿枠の原稿貼付面はその水平型、竪型の如何にかかわらず平面ガラスで構成されている。
一般に殖版作業は、まずこの平面ガラスからなる貼付面に原稿を粘着テープ等で貼着し、次いでこの原稿に感光材の塗布された印刷原版を接近させて両者間に介在する空気をバキユームポンプで排出することによつて両者を完全に密着させ、しかる後光を照射して原稿を印刷原版に焼付けることによって行なわれている。
しかしながら、前記原稿と印刷原版とをバキユーム操作で密着させる作業において、空気の排出口は原稿枠の周辺に設けられていること、また原稿貼付面が平面であることから、印刷原版はその周辺部がまず密着し、中心部はその結果として完全な排気を行なえず、印刷原版と原稿との間に空気が存在したままとなつて、原稿の絵柄が歪んで焼付けられる等の焼付け不良が頻繁に発生している。
本考案は上記従来技術の欠点を解消することを目的として完成されたものであつて、その特徴とするところは、殖版機における原稿枠の原稿貼付面において該原稿貼付面をその中央部が突出した湾曲面に形成することにより、印刷原版等が前記貼付面に貼付けられた原稿にバキユーム操作等で完全密着しうるようにした殖版機における原稿枠にある
以下、図面を用いて本考案の実施例につき詳細な説明を行なう。
第1図は本考案に係る原稿枠の垂直断面を示す。
第1図において1は内方に開口2を有する通常の枠体である。
この枠体の下部にはその開口2を遮蔽するように例えば、ガラス等で作製される透明体3が接着剤等4で密着され、かつ支持具5で強固に固定されている。
ここに前記透明体3は、その下面における原稿6の貼付面7がその中央部が突出するように一方向に湾曲した湾曲面に形成されている。
また前記透明体3の支持具5の外周における前記枠体1の下部には例えば、ゴム、合成樹脂等からなる弾性枠体8が固着されている。この枠体8は前記透明体3の中央突出部の先端よりも外方に出るような高さに形成されるのが好ましい。
なお、第1図において9は前記弾性枠体8の下縁に緊密に接触して固定された可撓性を有する通常の印刷原版であるが、これは印刷原版のみに限られるものではなく、未露光フイルム等の感光性材料にも置換されうるものである。
さて、上記の構成を有する原稿枠を用いて殖版作業を行なうには、従来一般に行なわれている手順でまず原稿6を前記透明体3の湾曲した貼付面7に粘着テープ等を用いて貼付け、次いで印刷原版9を弾性枠体8の下部周縁に密着させて気密室10を形成し、この気密室の空気を弾性枠体8の所定箇所に設置された排気口(図示せず)からバキユームポンプ等(図示せず)によるバキユーム操作を行ない、大気圧によって印刷原版9を透明体3に貼付けられた原稿6に密着させる。
ここに、前記透明体における原稿貼付面7は湾曲面となっているので、印刷原版9はまずその中央部が原稿に密着し、また弾性枠体8が縮むので順次その周囲が原稿に密着していく。
なお、バキユーム操作を行なう以前にエアシリンダ(図示せず)で前記原稿枠を移動させることにより印刷原版に原稿を接触させる操作が行なわれることもある。この印刷原版を原稿に密着させる操作が完了した後に枠体の開口2上方にある光源(図示せず)を発光させて原稿の絵柄を印刷原版に焼付ける。
本考案は上記の構成及び作用を具備したものであるから、従来におけるとは全く反対に印刷原版の中央部から密着作用が進行するので、中央部に空気が残留して印刷原版の原稿への密着不良を来すことがなく、従って完全な焼付けを行なことができる。
また、このことから原稿の焼直し、版待ちなどに伴なう労力、時間等の浪費を極めて低減化することが可能であり、印刷産業の能率化に寄与するところ大なるものである。」(明細書1ページ11行?5ページ10行)

そうしてみると、引用刊行物1の上記摘記事項及び図面の図示からみて、前記引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「密着露光方式原稿焼き付けに用いる原稿枠の透明体3において、
前記透明体3は、印刷原版9側に面し原稿6が貼付けられる原稿貼付面7の湾曲面と、枠体1の開口2上方の光源側に面する平面とを有し、
前記密着露光方式原稿焼き付けでは、
まず原稿6を前記透明体3の湾曲した貼付面7に粘着テープ等を用いて貼付け、次いで印刷原版9を弾性枠体8の下部周縁に密着させて気密室10を形成し、前記気密室の空気を弾性枠体8の所定箇所に設置された排気口からバキユームポンプ等によるバキユーム操作を行ない、大気圧によって印刷原版9を透明体3に貼付けられた原稿6に密着させると、前記透明体における原稿貼付面7が湾曲面となっているので、印刷原版9はまずその中央部が原稿に密着し、また弾性枠体8が撓むので順次その周囲が原稿に密着していき、前記印刷原版を原稿に密着させる操作が完了した後に枠体の開口2上方にある光源を発光させて原稿の絵柄を印刷原版に焼付けて、印刷原版の中央部から密着作用が進行することにより、中央部に空気が残留して印刷原版の原稿への密着不良を来すことがなく、完全な焼付けを行なことができるようにした密着露光方式原稿焼き付け方法に用いる原稿枠の透明体3」

(2)引用刊行物2
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である実願平4-37419号(実開平5-96856号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したCD-ROM(以下、「引用刊行物2」という。)には、「画像転写基板」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 被露光材料に画像を転写するために用いる画像転写基板であって、透光性を有する板状体からなり、かつ中央部が盛り上がるように湾曲しているとともに前記画像を形成する画像形成面を備えている、画像転写基板。」
「【0001】【産業上の利用分野】 本考案は、画像転写基板、特に、被露光材料に画像を転写するために用いる画像転写基板に関する。
【0002】【従来の技術】 プリント配線基板やカラーCRT用シャドウマスクは、フォトエッチング法により製造されている。例えば、カラーCRT用シャドウマスクの製造では、まず、シャドウマスク材をアルカリ水溶液等を用いて脱脂処理し、水洗及び整面処理後に表裏両面に感光液を塗布して乾燥させ、フォトレジスト膜を形成する。次に、電子ビーム透過孔のパターン画像を有する画像転写基板をシャドウマスク材の両面にそれぞれ形成された各フォトレジスト膜の表面に真空密着させ、画像転写基板の背面から光を照射してフォトレジスト膜を露光処理する。これにより、画像転写基板のパターン画像がフォトレジスト膜に転写される。露光処理の後、現像、エッチング処理及びレジスト膜の剥離をこの順で行うとシャドウマスクが得られる。
【0003】 このようなフォトエッチング法では、画像転写基板としてガラス板が用いられている。このガラス板は、枠体により支持されており、フォトレジスト膜が形成されたシャドウマスク材に真空密着し得る。ところが、このような画像転写基板は、周辺部が中央部よりも先にシャドウマスク材に密着し易い。このため、画像転写基板の中央部とシャドウマスク材との間に空気溜まりが生じ、真空密着が完了するまでに長時間を有する。特に、30インチ以上のテレビジョン用のCRTやハイビジョン用のCRT等の大型CRT用のシャドウマスクを製造する場合は、真空密着に要する時間がより長くなる。
【0004】 そこで、画像転写基板の真空密着に要する時間を短縮するために、種々の改良が検討されている。例えば、特開平1-276141号公報には、画像転写基板の中央部をシャドウマスク材に押し付ける治具を設けた構成が示されている。また、特開昭49-62130号公報には、画像転写基板の周辺部をサンドブラストやエッチング等の方法により削り取る構成が示されている。さらに、実開昭61-196248号公報には、画像転写基板に形成した画像の回りにスペーサを配置した構成が示されている。これらの画像転写基板によれば、画像形成基板の中央部が周辺部よりも先にシャドウマスク材に密着し得るので、真空密着に要する時間を短縮できる。
【0005】【考案が解決しようとする課題】 しかしながら、前記特開平1-276141号公報の構成によれば、露光処理時に、露光の妨げとなる治具を移動させる必要がある。このため、治具の移動機構等を設ける必要があり、構成が複雑化する。また、特開昭49-62130号公報の構成によれば、小型のシャドウマスクを製造する場合は効果が期待できるが、大型のシャドウマスクを製造する場合は真空密着不良が起こり易い。さらに、実開昭61-196248号公報の構成によれば、スペーサ等の別部材が必要であり、また、このスペーサを画像転写基板に貼着する等の手間がかかる。
【0006】 本考案の目的は、被露光材料に画像を転写するために用いる画像転写基板に関し、簡単な構成により真空密着時に要する時間を短縮することにある。
【0007】【課題を解決するための手段】 本考案の画像転写基板は、被露光材料に画像を転写するために用いるものである。この画像転写基板は、透光性を有する板状体からなり、かつ中央部が盛り上がるように湾曲しているとともに、画像を形成する画像形成面を備えている。
【0008】【作用】 本考案に係る画像転写基板の画像形成面を被露光材料に真空密着させ、画像形成面の背面から光を照射すると、画像形成面に形成された画像を被露光材料に転写できる。ここで、画像転写基板を被露光材料に真空密着する際には、画像形成面の中央部が最初に被露光材料に密着し、その後画像形成面の周縁部が除々に被露光材料に密着する。したがって、画像転写基板と被露光材料との真空密着時には、画像転写基板と被露光材料との間に空気溜まりが発生しにくく、画像転写基板は速やかに被露光材料に真空密着する。
【0009】【実施例】 図1及び図2に、本考案の画像転写基板を備えた両面焼付機1を示す。図において、両面焼付機1は、1対の画像転写装置1a,1aから主に構成されている。各画像転写装置1aは、支持枠2と、支持枠2に支持された画像転写基板3とから主に構成されている。
【0010】 支持枠2は、直方体の枠状部材であり、中央に窓部4を有している。また、支持枠2の片面は、図2に示すように、周縁部5が突出しており、中央部に凹部6を有している。この凹部6の深さは、画像転写基板3の厚みに比べて小さく設定されている。周縁部5には、一連のゴムパッキング7が取り付けられている。さらに、支持枠2は、窓部4の回りに複数の第1真空排気孔8を有している。第1真空排気孔8の外周には、複数の第2真空排気孔9が形成されている。第1真空排気孔8及び第2真空排気孔9は、それぞれ別々の真空排気経路(図示せず)に連結している。なお、図1では、第1真空排気孔8及び第2真空排気孔9を省略している。
【0011】 画像転写基板3は、板状の透明ガラス製である。画像転写基板3は一方の主面に画像形成面10を有している。画像形成面10は、図3に示すように、中央部が盛り上がる、球面形状に形成されている。この画像形成面10は、画像転写基板3の中心Oにおける厚みが3?8mmの場合、中心Oと隅角部との高低差X_(1)が0.01?0.3mmに設定されている。なお、このような画像転写基板3は、溶融ガラスの成形、ガラス板の研磨加工又はサンドブラスト加工等の手法により製造し得る。画像転写基板3は、画像形成面10の反対側の主面が支持枠2の凹部6に設けられているガスケット11により保持されている。ここで、画像転写基板3は、周縁部が第1真空排気孔8と第2真空排気孔9との間に位置するよう凹部6に保持されている。
【0012】 次に、前記両面焼付機1による画像転写動作について説明する。ここでは、カラーCRT用のシャドウマスクを製造する場合を例に説明する。
まず、各画像転写装置1aの画像転写基板3に、シャドウマスクの電子ビーム通過孔に対応する画像を形成する。このような画像は、画像形成面10に銀塩乳剤を塗布してから製版カメラを用いて、或いは画像形成面10にクロム等の金属を蒸着させてからエッチング法により形成できる。なお、画像転写基板3は、ガスケット11により凹部6に取り付けられているため、画像形成面10に画像を形成する際に支持枠2から取り外すことができる。
【0013】 一方、シャドウマスク用のシャドウマスク材(被露光材料の一例)を用意する。シャドウマスク材としては、低炭素アルキド鋼やニッケルを36重量%含有するインバー型合金等の厚みが通常0.1?0.3mmの板材が用いられる。また、大きさは、CRTの大きさに対応して設定される。このようなシャドウマスク材は、アルカリ水溶液により脱脂処理され、水洗後に両主面が整面処理される。そして、整面処理された両主面には、感光液が塗布され、これにより厚みが数μmのフォトレジスト膜が形成される。
【0014】 次に、図1及び図2に示すように、両面にフォトレジスト膜が形成されたシャドウマスク材12を1対の画像転写装置1a,1a間に挟む。ここでは、画像転写装置1aの画像形成面10をそれぞれシャドウマスク材12と対向させ、ゴムパッキング7,7間にシャドウマスク材12を挟む。これにより、1対の画像転写装置1a,1aの当接部位が気密に維持される。
【0015】 次に、画像転写装置1a,1aの第1真空排気孔8に連結された図示しない真空排気経路を作動させる。これにより、画像転写基板3が凹部6に吸着し、窓部4が気密に封止される。この状態で、画像転写装置1a,1aの第2真空排気孔9に連結された図示しない真空排気経路を作動すると、各画像転写装置1の凹部6とシャドウマスク材12とにより形成される空間Sが負圧に設定される。これにより、両画像転写装置1a,1aは、大気圧により押されてゴムパッキング7が弾性変形し、互いに近づく。この結果、各画像転写基板3の画像形成面10の中央部が、シャドウマスク材12に密着する。
【0016】 さらに空間S内が負圧になると、図4に示すように画像転写装置1a,1a間の間隔Yが縮まり、これとともに画像転写基板3とシャドウマスク材12との密着面積が除々に拡大する。さらに、画像転写基板3の周縁部がシャドウマスク材12方向に反り、画像形成面10全体がシャドウマスク材12に密着する。
このようにシャドウマスク材12に画像形成面10全体が密着すると、次に、各窓部4,4の外側から超高圧水銀ランプにより光を照射する。これにより、画像形成面10に形成された画像がシャドウマスク材12のフォトレジスト膜上に焼付けられる。
【0017】 その後、シャドウマスク材12を両面焼付機1から取り外し、現像処理後にエッチング処理を施すと、所定パターンの電子ビーム通過孔が形成されたシャドウマスクが得られる。
実験例
前記実施例において、900mm×800mmでX_(1)が0.21mmの画像転写基板を用い、両面にフォトレジスト膜が形成された600mm×600mm×0.15mm(板厚)の鉄板製長尺シャドウマスク材に対して焼付処理を施した。この際、画像転写基板とシャドウマスク材との真空密着に要した時間は約20秒であった。
【0018】 比較のため、X_(1)が0.01未満の画像転写基板を用いて同様の焼付処理を行ったところ、画像転写基板とシャドウマスク材との真空密着に要した時間は約80秒であった。このことから、前記実施例によれば、画像転写基板とシャドウマスク材との真空密着に要する時間を大幅に短縮できたことになる。
〔他の実施例〕
前記実施例において、画像転写基板3の画像形成面10は、図5に示すように、円筒面であっても良い。この場合も、画像形成面10の中央部と端部との高低差X_(2)は、0.01?0.3mmに設定するのが好ましい。
【0019】 また、図6に示すように、画像転写基板3の画像形成面10は、画像形成部10aのみが湾曲し、その周縁部が平坦に削り取られた形状であっても良い。この場合も、画像形成部10aとその周辺部との高低差X_(3)は、0.01?0.3mmに設定するのが好ましい。
【0020】【考案の効果】 本考案の画像転写基板は、被露光材料に画像を転写する画像形成面を上述のような湾曲形状に構成したため、簡単な構成で真空密着時に要する時間を短縮できる。」

(3)引用刊行物3
原審における拒絶査定の理由に引用された、本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開昭59-123229号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「半導体装置の製造方法」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「半導体基板表面に被着した感光性樹脂膜にマスクパターンを転写する工程において、半導体基板とマスクとの間の密着時の減圧および速度を制御し、さらに、半導体基板とマスクとの間の密着時の間隙の変位を制御することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(1ページ5?10行の特許請求の範囲)
「本発明は、特にマスクのパターンを半導体基板表面上の感光性樹脂製膜に転写する方法の1つである密着露光方法に関するものである。
従来の密着露光方法では、半導体基板-マスク間の密着時の減圧速度が固定であり、又、半導体基板一マスク間の密着時の間隙も固定である為、半導体基板とマスクが均一に密着せず、パターン転写の寸法精度及び位置精度が半導体基板内で不均一であり、又、密着露光装置の機械精度、半導体基板表面の平面性等のばらつきがパターン転写の寸法精度及び位置精度に大きく作用するという欠点を持っていた。
本発明の目的は、半導体装置の縮少化に寄与する実用的な密着露光方法を提供するものである。
本発明は、半導体基板表面に被着した感光性樹脂膜にマスクのパターンを転写する工程において、半導体基板一マスク間の密着時の減圧速度を制御し、さらに半導体基板一マスク間の密着時の間隙の変位を制御することを特徴とする密着露光方法である。
即ち、半導体基板とマスクを密着させる為に、半導体基板とマスクの間の空間の気圧を下げる。つまり真空度を上げる訳であるが、その時減圧速度をコントロールしながらゆっくり上げる。さらに、半導体基板を固定しているステージを半導体基板、マスクに対して垂直方向に可変にし、半導体基板-マスクの間隙をコントロールしながら小さくしていくという方法である。
本発明の方法による作用および効果について以下に詳細に説明する。
一定の間隙をおいて半導体基板とマスク間の真空度を上げると、大気圧によりマスクは半導体基板側へ凹型に反り、半導体基板表面と密着する。この時、従来の方法では高い真空度へ急激に上がる為、半導体基板の中央部でマスクと密着しきらない状態で周辺部が密着してしまう。さらに、中央部での密着度を上げる為に半導体基板とマスクの間隙を大きくすると、逆にマスクの凹型の反りが大きくなって半導体基板内でのパターン転写の位置精度が悪くなってしまう。同時に半導体基板外周部での密着度が下がり、半導体基板内でのパターン転写の寸法精度も悪くなる。又、密着露光装置の機械精度、半導体基板表面の平面性のバラツキがこの密着の状態に大きく影響し、パターン転写の寸法精度及び位置精度が悪くなる。
これに対し、この発明の減圧速度の制御によれば、真空度を徐々に上げるとマスクはゆっくりと凹型に反り半導体基板表面とマスクの密着は必ず中央部から始まり周辺部に向かって広がっていく。この為、半導体基板-マスクの間隙を大きくしなくとも、中央部に空隙が残らず、半導体基板全面で均一な密着が得られる。又、密着露光装置の機械精度、半導体基板表面の平面性のバラツキによる密着度への影響を小さくできる。さらにまた、この発明の密着時の半導体基板-マスク間の間隙の変位の制御によれば、半導体基板一マスク間の真空度を徐々に上げる時、中央部で密着が始まるまでは間隙を大きくしておき、密着が始まった後は徐々に間隙を小さくする。これにより、パターン転写の位置精度を悪くすることなく、半導体基板全面で均一な密着を得ることがさらに確実になる。
以下本発明を実施例につき図面を参照して詳細に説明する。第1図乃至第4図は本発明の一実施例による密着露光方法を時系列順に説明する為の図である。
まず、6インチ角マスク4をマスク固定板5に、表面に感光性樹脂2を被着した5インチ径半導体基板1をステージ3にそれぞれ設置し、マスク4と半導体基板1との間隙を初期値40μmに設定した(第1図)。
続いてマスク4一半導体基板1間の真空度を徐々に上げていくとマスク4が半導体基板1側に反り、中央部が密着し始める(第2図)。
さらに真空度を徐々に上げると共に、半導体基板ステージ3を上方へ徐々に移動させ、マスク4と半導体基板1との間隙を小さくしていく(第3図)。
最後に真空度を40cmHgにしてマスク4と半導体基板1と間隙を約0μにし、この状態で露光する(第4図)。
この実施例によるパターン転写の寸法精度は0.2μm、位置精度は0.3μmであった。従来方式では各々0.6μm、1.0μmであった。このように、本発明では従来より非常にパターン転写精度を良くすることができた。
以上の様に、本発明は密着露光の密着時のマスク一半導体基板間の減圧、速度、間隙の変位を制御することにより、マスクと半導体基板表面を均-に密着させ、パターン転写時の寸法精度を従来の密着露光方法よりも数段良くすることができる密着露光方式である。又、半導体基板へのパターン転写以外に、マスク-マスクからワーキングマスクへのコピーへも応用が可能である。これは半導体集積回路の縮少化、高精度化を進める上で、半導体装置の製造上極めて有用な方法である。」(1ページ左欄12行?2ページ右下欄7行)

3 当審の判断
(1)対比
本願発明1と上記引用発明1とを対比する。
ア まず、引用発明1における「密着露光方式原稿焼き付けに用いる」における「密着露光方式」が、本願発明1の「コンタクト露光用露光」における「コンタクト露光」に対応し、また、引用発明1の「原稿焼き付けに用いる」が、本願発明1の「露光用」に対応することは、明らかであるから、引用発明1の「密着露光方式原稿焼き付けに用いる」が、本願発明1の「コンタクト露光用露光」に相当する。

イ そして、引用発明1における「透明体3に貼付けられた原稿6」が、本願発明1の「パターン」に相当する。

ウ また、引用発明1の透明体3における「印刷原版9側に面し原稿6が貼付けられる原稿貼付面7の湾曲面」が、本願発明1の「凸面上にパターンを有する」に対応し、また、引用発明1の透明体3における「枠体1の開口2上方の光源側に面する平面」が、本願発明1の「平面」に対応しているから、結局のところ、引用発明1の「印刷原版9側に面し原稿6が貼付けられる原稿貼付面7の湾曲面と、枠体1の開口2上方の光源側に面する平面とを有する」が、本願発明1の「平面と凸面を有する凸型形状を有し、凸面上にパターンを有する」に相当する。

エ しかして、引用発明1の「原稿枠の透明体3」は、密着露光方式で印刷原版9に原稿6を焼き付ける時に用いられる、いわば「印刷原版への原稿焼き付け用原稿支持体」であるのに対して、本願発明1の「コンタクト露光用露光マスク」は、本願の出願明細書の発明の詳細な説明(段落【0001】の記載を参照。)の記載によれば、「半導体製造等に使用されるフォトレジストのコンタクト露光において好適に使用される露光マスク」である点で、両者の用途が相違しているが、いずれにしても、引用発明1の「原稿枠の透明体3」と本願発明1の「コンタクト露光用露光マスク」の両者は、ともに「コンタクト露光用露光パターン支持透明体」である点で共通する。

オ そうすると、本願発明1と引用発明1の両者は、
「平面と凸面を有する凸型形状を有し、凸面上にパターンを有するコンタクト露光用露光パターン支持透明体」
である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:コンタクト露光用露光パターン支持透明体が、本願発明1では、「コンタクト露光用露光マスク」であるのに対し、引用発明1は、「原稿枠の透明体3」である点。
相違点2:本願発明1が、「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」のに対し、引用発明1は、前記限定がなされていない点。

(2)相違点についての検討
ア 相違点1について
(ア)引用刊行物2に、「本考案の画像転写基板は、被露光材料に画像を転写するために用いるものである。この画像転写基板は、透光性を有する板状体からなり、かつ中央部が盛り上がるように湾曲しているとともに、画像を形成する画像形成面を備えている。」(段落【0007】)及び「本考案に係る画像転写基板の画像形成面を被露光材料に真空密着させ、画像形成面の背面から光を照射すると、画像形成面に形成された画像を被露光材料に転写できる。」(段落【0008】)が記載されている。
また、引用刊行物3に、「本発明は、特にマスクのパターンを半導体基板表面上の感光性樹脂製膜に転写する方法の1つである密着露光方法に関するものである。」(1頁左欄12?14行)が記載されている。
このように、密着露光方法により、透光性を有する画像転写基板の画像形成面に形成された画像又はマスクのパターンを、被露光材料又は半導体基板表面上の感光性樹脂製膜に転写することは、本願特許出願時の周知技術である。
そうすると、かかる周知技術の「密着露光方法」に用いられる「透光性を有する画像転写基板」あるいは「マスク」(以下、単に「マスク」という。)も、本願特許出願時の周知のものといえる。

(イ)そして、上記周知技術の密着露光方法に用いられる前記「マスク」は、本願発明1の「コンタクト露光用露光マスク」にほかならないから、コンタクト露光用露光パターン支持透明体として、引用発明1の「原稿枠の透明体3」に代えて、周知技術である密着露光方法に用いられる「マスク」を適用することにより、相違点1にかかる本願発明1の前記「コンタクト露光用露光マスク」の構成とすることは、当業者が容易に想到できることである。

イ 相違点2について
(ア)「ミクロン」が「μm(マイクロメートル)」と同じ意味の長さの単位であることに照らせば、本願発明1の相違点2の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定が、「0μm ≦ 「凸面部のTIR」 ≦ 5μm」の数値範囲の限定であることを意味していることは、その限定の文言から明らかである。
そして、かかる「凸面部のTIR」の数値範囲の下限値が0(ゼロ)であるような限定は、「凸面部」が「凸面」ではなく、単に「平面」を意味することになるから、下限値に0(ゼロ)を含む前記限定が技術的意義を有していないことも明らかである。

(イ)しかして、本願の特許出願明細書の補正された発明の詳細な説明には、本願発明1の「凸面部のTIR」について、
「【0018】 なお、レーザ光が入射する側の面は当然に平面であり、ウエハ面と接触する側のみが凸面にされる。凸面の程度は任意であるが、ウエハとの密着時にウエハに過剰なひずみや応力が生じない程度のものであることが必要である。さらに、後述のようにマスクのTIRは5ミクロン以下であることが好ましいので、このようなTIRを与えることができる凸面であることが好ましい。」、
「【0020】 さらに本発明者は、露光マスクのTIRが5ミクロン以下である場合に良好な結果が得られることを見いだした。すなわち、本発明は凸型形状を有し、TIRが5ミクロン以下である露光マスク、およびかかるマスクを使用し、露光マスクとウエハのギャップを0.2μm以下とするコンタクト露光方法に関する。
本発明においてTIRとは、トロペル社製の平坦度測定装置FM-200により測定されたTIR値をいう。
理想的には、TIRは小さいほど良好な結果が得られるが、TIRを小さくすることは技術的に困難なだけではなく、コスト増大の要因にもなるので、許容限界を見いだすことは工業的に非常に重要なことである。本発明はかかる現実的な許容上限を見いだした点において価値あるものである。」、
「【0023】 MgF_(2)基板を5インチ□、厚さ4.6mmにカットし、平行度1/1000mm以下に表面を研磨した後、基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った。トロペル社製のFM-200を用いて平坦度を測定した。TIRで約4.09μmが得られた。
得られたMgF_(2)基板に上にCrパターンを製作した。Crの厚さは200nmとした。マスク内にはコンタクトホールパターン、ライン・アンド・スペースパターン(BrightパターンおよびDarkパターン)および孤立ラインパターンを配置した。パターンの配置とパターンサイズ(設計値)を図14および表1に示す。また、パターンの設計図を図15に示す。」
と記載されている。

(ウ)そして、特許出願人(審判請求人)は、上記「TIR」についての資料として、平成18年1月4日付の意見書において、「7.トロペル社資料」及び「8.Elma-Malachit 株式会社のホームページプリントアウト」を提出している。
前記「7.トロペル社資料」の「Corning Tropel社製平面度解析装置 FlatMaster200XR」のP8及びP9の図示によれば、ベスト・フィット平面(Best Fit Plane)についてのTIR(Total Indicated Reading)は、「平面度」の意義であり、ベスト・フィット平面(Best Fit Plane)を基準面とした場合の前記ベスト・フィット平面(Best Fit Plane)に対する測定検査面(Test specimen surface)における凸部の高さ|A|と、凹部の深さ|B|の合計であるとして、
TIR=|A|+|B| ・・・・・・(定義a)
と定義されている。
そして、この定義aの場合に、
TIR=|A|+|B|=0(ゼロ)
の場合があり得ることは、その定義aから明らかである。
一方、前記「8.Elma-Malachit 株式会社のホームページプリントアウト」の資料によれば、
「凸面部のTIR」は、「下部の平面部と、上部のなだらかな凸面部を有する凸型形状の物体の前記平面部を基準面とした場合において、前記凸面部の中心部における前記平面部からの最高の高さ(Max)から前記凸面部の肩部における前記平面部からの最低の高さ(Min)を差し引いた差分値」、すなわち、
TIR=Max-Min ・・・・・・(定義b)
であると定義されている。
そして、この定義bの場合にも、
TIR=Max-Min=0(ゼロ)
の場合があり得ることは、その定義bから明らかである。

(エ)そうすると、本願発明1の「TIR」には、上記したとおり、お互いに相容れない相反する2つの定義である、定義a及び定義bが存在しているところ、本願発明1の「TIR」は、いずれの定義のものとも判然としない。

(オ)そこで、本願発明1の「TIR」が、上記定義aの場合と定義bの場合とに分けて、次に検討する。
a 本願発明1の「TIR」が上記定義aである場合について
本願発明1の「TIR」の定義を、上記定義aの、
TIR=|A|+|B|
とした場合には、本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、「コンタクト露光用露光マスクの凸面部の中心部と周辺部とを分け隔てすることなく、凸面部の全面における平坦度(平面度)が、0(ゼロ)か、或いは限りなく0(ゼロ)に近い5ミクロン以下である」という意味になり、これは、「凸面部の中心部と周辺部とを合わせた全面にわたって、凹凸の差が0(ゼロ)か、或いは殆ど凹凸の差がなく、凸面部の中心部と周辺部とを合わせた全体形状が平面であるか、或いは殆ど平坦である凸面」であることを意味することになる。
そうすると、本願発明1の「TIR」の定義を、上記の定義aとした場合には、本願発明1の凸面部は、その全体形状が平面であるか、或いは殆ど平坦である凸面でなければならないのに対して、本願の出願明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】には、「MgF_(2)基板を5インチ□、厚さ4.6mmにカットし、平行度1/1000mm以下に表面を研磨した後、基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った。トロペル社製のFM-200を用いて平坦度を測定した。TIRで約4.09μmが得られた。」が記載されている。
そうすると、前記本願発明1の前記限定が、「凸面部の中心部と周辺部とを合わせた全体形状が平面」であることを意味する場合は、その文言自体に形容矛盾があって、かかる「基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った」の記載に反することになるのに対して、前記本願発明1の前記限定が、「凸面部の中心部と周辺部とを合わせた全体形状が殆ど平坦である凸面」であることを意味する場合には、前記「基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った」の記載に一応合致していることになる。

b 本願発明1の「TIR」が上記定義bである場合について
本願発明1の「TIR」の定義を、上記定義bの、
TIR=Max-Min
とした場合には、本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、「コンタクト露光用露光マスクの凸面部の中心部から肩部にかけての、なだらかな凸曲面における落差が、0(ゼロ)か、或いは限りなく0(ゼロ)に近い5ミクロン以下である」という意味になり、これは、「凸面部の中心部から肩部にかけての落差が0(ゼロ)か、或いは落差が殆どなく、凸面部の中心部から肩部にかけた全体形状が平面であるか、或いは殆ど平面に近い凸曲面」であることを意味することになる。
そうすると、本願発明1の「TIR」の定義を、上記の定義bとした場合には、本願発明1の凸面部は、全体形状が平面であるか、或いは殆ど平面に近い凸曲面でなければならないのに対して、本願の出願明細書の発明の詳細な説明の段落【0023】には、「MgF_(2)基板を5インチ□、厚さ4.6mmにカットし、平行度1/1000mm以下に表面を研磨した後、基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った。トロペル社製のFM-200を用いて平坦度を測定した。TIRで約4.09μmが得られた。」が記載されていて、前記本願発明1の凸面部は、かかる「基板の中心部が凸になるように更に研磨を行った」の記載に一応合致していることになる。
しかしながら、「TIR」についての上記定義bは、特許出願人(審判請求人)が、上記「TIR」についての資料として、平成18年1月4日付の意見書において提出した、「8.Elma-Malachit 株式会社のホームページプリントアウト」の定義に基づいているのであり、かかる「8.Elma-Malachit 株式会社のホームページプリントアウト」における「TIR」についての定義自体が、本願の出願明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】において明記している「本発明においてTIRとは、トロペル社製の平坦度測定装置FM-200により測定されたTIR値をいう。」という、「TIR」の定義に該当しないものであるから、「TIR」についての前記定義bは、決して、前記「7.トロペル社資料」に基づく定義でないことが、明らかなことである。
したがって、本願発明1の「TIR」が上記定義bである場合は、あり得ないことになる。

(カ)そこで、上記「(オ)」のaにおいて言及した、前記本願発明1の「TIR」の定義を定義aとした場合における本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定が、「凸面部の中心部と周辺部とを合わせた全体形状が殆ど平坦である凸面」であることを意味する場合について検討すると、引用発明1の透明体3における印刷原版9側に面し原稿6が貼付けられる原稿貼付面7の湾曲面の平坦度(平面度)を、好適な数値範囲に設定しておくことは、当業者が当然に考慮すべき技術事項であって、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないことであるから、前記相違点2に係る本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、当業者が必要に応じて適宜に設定できる設計事項である。

(キ)また、前記相違点2に係る本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、上記「イ 相違点2について」の「(ア)」に前述したとおり、その数値範囲に0(ゼロ)の下限値を含んでいて、その下限値の限定に臨界的な技術的な意義を認めることができないものであるところ、本願発明1の「TIR」は、上記定義aである場合及び上記定義bである場合のいずれの場合も、「本願発明1の凸面部は、その全体形状が平面である」ところのTIRが0(ゼロ)である場合を含んでいるから、本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、本願発明1の「凸面を有する凸型形状を有し」の構成とは相容れない矛盾する限定であるともいえるものである。

(ク)ところで、「本発明においてTIRとは、トロペル社製の平坦度測定装置FM-200により測定されたTIR値をいう。」のように、本願の出願明細書において定義している 前記「TIR」の意義が、前記「7.トロペル社資料」に記載されているような、ベスト・フィット平面(Best Fit Plane)として「平面(plane)」が要求される場合の前記「平面(plane)」を「測定検査面(Test specimen surface)」とした場合の前記「平面(plane)」上のマクロな凹凸の大きさについての「平坦度」又は「平面度」の指標の意義であるとするのではなく、前記「TIR」はミクロな凹凸の有無に関する「平滑度」の意義であると解釈して、前記「TIR」が、本願発明1の「平面と凸面を有する凸型形状におけるパターンを有する凸面」を「測定検査面(Test specimen surface)」とした場合の前記「凸面」上のミクロな凹凸の大きさについての「凸面上における平滑度」の数値指標の意義であると仮定した場合であっても、研磨により凸面上における凹凸の大きさを限りなく小さくして、前記「TIR」を、「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」ような平滑曲面になるように表面加工することは、要求される製品仕様に応じて当業者が適宜なし得る事項にすぎないから、本願発明1の前記「TIR」を「平滑度」の意義であると解釈したとしても、前記相違点2に係る本願発明1の前記「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、当業者が必要に応じて適宜に設定できる設計事項といえるものである。
(ケ)そうすると、前記相違点2に係る本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」の限定は、前記限定の数値範囲に臨界的な技術的意義を認めることができないものであることも参酌すれば、当業者が必要に応じて適宜設定できる設計事項というべきものである。

(コ)そこで、さらに前記「本願発明1の凸面部は、その全体形状が平面である」ところのTIRが0(ゼロ)である場合について検討する。
引用刊行物3に、「真空度を徐々に上げるとマスクはゆっくりと凹型に反り半導体基板表面とマスクの密着は必ず中央部から始まり周辺部に向かって広がっていく6インチ角マスク4」が記載されており、また引用刊行物3の第1図の図示からみて引用刊行物3に記載のマスク4はその全体形状が平面であることが明らかである。
そうすると、引用発明1における透明体3に代えて、引用刊行物3に記載の前記「真空度を徐々に上げるとマスクはゆっくりと凹型に反り半導体基板表面とマスクの密着は必ず中央部から始まり周辺部に向かって広がっていく、全体形状が平面である6インチ角マスク4」を採用することにより、相違点2に係る本願発明1の「凸面部のTIRが5ミクロン以下である」と限定することは、格別の技術力を要せずに当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明1、並びに、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明ないし周知技術から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願特許出願前に当業者が上記引用発明1、並びに、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明ないし周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、請求項1に係る本願発明1は、本願特許出願前に当業者が上記引用発明1、並びに、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明ないし周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-03 
結審通知日 2008-09-30 
審決日 2008-10-01 
出願番号 特願2003-390653(P2003-390653)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 多田 達也  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 森林 克郎
安田 明央
発明の名称 露光マスク  
代理人 辻永 和徳  

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