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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H
管理番号 1187930
審判番号 不服2006-14963  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-12 
確定日 2008-11-14 
事件の表示 特願2003-429264「化学的に繊維内架橋されたセルロースの繊維を含む化学的に架橋されたセルロースの個別化された嵩高い繊維」拒絶査定不服審判事件〔平成16年3月25日出願公開、特開2004-92015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
1 手続の経緯
本願は、1995年3月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理1994年3月25日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願平7-525198号の一部を平成15年12月25日に新たな特許出願としたものであって、その後の経緯は、概略、以下のとおりである。
拒絶理由の通知(起案日):平成17年5月27日
意見書及び手続補正書 :平成17年10月3日
手続補足書 :平成17年10月3日
拒絶査定(起案日) :平成18年4月10日
審判請求 :平成18年7月12日
手続補正書 :平成18年8月11日
手続補足書 :平成18年9月13日
特許法163条2項の規定に基づく拒絶理由通知(起案日):平成19年 1月18日

なお、平成19年1月18日付けの特許法163条2項の規定に基づく拒絶理由通知に対し、請求人からは何らの応答もなかった。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・マレエート)コポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・イタコネート)コポリマー、及びそれらの混合物から成る群より選択されるポリカルボン酸架橋剤により化学的に繊維内架橋されたセルロースの繊維を含む化学的に架橋されたセルロースの個別化された嵩高い繊維。」
(以下、「ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・マレエート)コポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・イタコネート)コポリマー、及びそれらの混合物から成る群より選択されるポリカルボン酸架橋剤」を「本願発明の架橋剤」という。)

第2 拒絶の理由
上記特許法163条2項の規定に基づく拒絶理由通知における拒絶の理由は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条5項1号及び6項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものである。(なお、本願において適用される特許法は平成6年改正前特許法である。)

第3 発明の詳細な説明の記載
本願明細書における発明の詳細な説明の記載については、以下のとおりである。
1 「【背景技術】
発泡ポリスチレンは低密度であり、比較的高い物理的強度を有する。前記ポリスチレンは、造形品へと容易に成形され、申し分の無い絶縁性を有する。発泡ポリスチレンは、例えばホットドリソクを入れるカップ、及び食品用の包装、例えば卵用のカートン及びファーストフード用の容器として用いられる。生憎、発泡ポリスチレンは生分解性ではなく、その製造において非再利用源を消費する。
セルロース繊維から作られる製品は、生分解性で、再生可能源から作られ、そして再利用することができるので、魅力的な代替品である。その主な欠点は、典型的なセルロース製品は比較的高密度であるか又は嵩高くない点である。嵩は、密度に反比例し、材料の比重量によって占められる体積であり、cm^(3)/gmの単位で示される。必須の強度を提供するために必要とされるセルロース材料の量によって、重い製品が作り出される。その製品の断熱性は良くない。」(段落【0002】?【0003】)
2 「Weyerhaeuser Companyから1990年に出版された小冊子では、嵩高い添加剤(High Bulk Additive)又はHBAとして知られている化学的に架橋されたセルロース繊維と、濾紙、含浸用紙(saturation papers)、ティシュー及びタオル地、ペーパーボード、紙製品及び吸収製品におけるHBAの利用とが説明されている。前記の小冊子は、HBA繊維を5%及び15%のレベルでペーパーボードの中に組み込むことができることを示していた。また、前記の小冊子は、HBAを3プライペーパーボードの中間プライにおいて用いることができることも示している。前記のボードを、従来の3プライボードと比較した。基本重量は25%減少し;テーバー剛性は一定のままであるが;破壊荷重は縦方向において25kN/mから16kN/mまで減少し、横方向においては9kN/mから6kN/mまで減少した。」(段落【0004】)
3 「成形されたプラスチックに似させることができる高い嵩と強度特性の両力を有する新しいセルロース製品に対する需要がある。前記製品は、5cm^(3)/gmを超える嵩を有しているべきである。また、前記の製品、必ずしもアニオン性ではない嵩高い繊維と、カチオン性結合剤に限定されない様々な水溶性又は水分散性結合剤から選択し得る結合剤とを用いて作ることができる場合には好ましい。」(段落【0011】)
4 「本発明は、嵩高い繊維/水性結合剤組成物を提供する。嵩高い繊維は、約1cm^(3)/gm - 約40cm^(3)/gmの嵩を有する、繊維内で化学的に架橋されたセルロース材料である。前記繊維の嵩は、典型的には、約5cm^(3)/gmを超える。一般的には、適当な架橋剤は、ヒドロキシル基と結合して、繊維内のセルロース分子にあるヒドロキシル基の間に共有結合の橋を作り出すことができる二官能価タイプである。例えばクエン酸のようなポリカルボン酸架橋剤を用いると、食品包装に特に適する製品が製造される。」(段落【0012】)
5 「化学的に架橋された嵩高い繊維に対して、例えば澱粉及びポリビニルアルコールのような水性結合剤をある重量%加えると、嵩高い繊維のみに比べて、従来の繊維のみに比べて、又は前記結合剤を有していない嵩高い繊維と従来の繊維とから成る混合物に比べて、優れた物理的性質を有する組成物が製造される。前記材料は、発泡ポリスチレンの望ましい強度と嵩高さを有する。また、それは、従来の繊維と比較して、内部強度を生じさせるのに必要な繊維の量が少ない材料も生成する。」(段落【0013】)
6 「嵩高い化学的に架橋されたセルロース繊維は、様々な適当な架橋剤を用いて架橋することができる、繊維内で架橋されたセルロース繊維である。各繊維は、それぞれ、多数のセルロース分子から構成されていて、セルロース分子にあるヒドロキジル基の少なくとも一部分は、架橋剤による架橋反応によって、同じ繊維内のセルロース分子にある他のヒドロキシル基に結合されている。架橋繊維は、約1cm^(3)/gm-約50cm^(3)/gm、典型的には約10cm^(3)/gm- 約30cm^(3)/gm、及び通常は約15cm^(3)/gm- 約25cm^(3)/gmの嵩を有す看マットヘと成形することができる。
適当な架橋剤は、一般的には、ヒドロキシル基と結合することができ、且つ繊維内のセルロース分子にあるヒドロキシル基との間に共有結合の橋を作り出すことができる二官能価タイプである。架橋剤の好ましいタイプは、例えばメトリル化尿素、メチロール化環状尿素、メチロール化低級アルキル置換環状尿素、メチロール化ジヒドロキシ環状尿素のような尿素誘導体から選択される。好ましい尿素誘導体架橋剤は、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(DMDHEU)及びジメチルジヒドロキシエチレン尿素である。尿素誘導体の混合物も用いることができる。好ましいポリカルボン酸架橋剤は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、琥珀酸、グルタル酸及びシトラコン酸である。これらのポリカルボン酸架橋剤は、材料の目的用途が食品用包装であるときには特に有用である。用いることができる他のポリカルボン酸架橋剤は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・マレエート)コポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル・ユ・イタコネート)コポリマー、マレイン酸、イタコン酸、及びタルトレートモノ琥珀酸である。ポリカルギン酸の混合物を用いることもできる。」(段落【0016】?【0017】)
7 「本質において、コンベヤー12(図1)は、セルロース繊維マット14を運んで、アプリケーター18によってマット14上に架橋剤が適用される繊維処理領域16を通過させる。典型的には、化学薬品は、前記マットの両側に均一に適用される。マット14は、フィベライザー(fiberizer)20によって、実質的に破壊されていない独立繊維へと分離される。繊維化のために、ハンマーミル及びディスク精砕機(disc refiner)を用いることができる。次に、乾燥装置22において、その繊維を乾燥させ、架橋剤を硬化させる。」(段落【0024】)
8 「本発明の組成物は、水性結合剤を必要とする。これによって、嵩が増加し、密度が低下し、そして嵩高い繊維を用いずに作られた製品と実質的に同じ強度を有する製品が製造される。水媒介性という用語は、水で運ぶことができる任意の結合剤を意味しており、水溶性で、水中に分散することができ、あるいは水中懸濁液を形成する結合剤を含む。適当な水性結合剤としては、澱粉、改質澱粉、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリエチレン/アクリル酸コポリマー、アクリル酸ポリマー、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリアミン、グアーガム、酸化ポリエチレン、ポリビニルクロリド、ポリビニルクロリド/アクリル酸コポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー及びポリアクリロニトリルが挙げられる。これらのうちの多くは、水中分散液又は懸濁液のためのラテックスポリマーとなる。特に適当な結合剤としては、澱粉、ポリビニルアルコール及びポリビニルアセテートが挙げられる。結合剤の目的は、シート内にある嵩高い繊維の全体の結合を増加させることである。」(段落【0026】)
9 実施例1(段落【0030】)には、市販のHBA繊維を用いてセルロースパッドを作り、その密度と嵩を、市販の紙のそれと比較した例が記載されている。
10 実施例2の段落【0031】?【0033】には、HBA繊維から得られたHBA繊維パッドと市販されているHBA用の出発パルプであるNB316から作られた対照パッドに関する引張指数について、HBA繊維パッドの引張指数が0.0081Nm/gであるのに対し、NB316から作られた対照パッドの引張指数は1.15Nm/gであることが記載されている。
11 実施例2の段落【0034】?【0035】には、実施例1のようにして調製したパッドについて、「作られた乾燥パッドは、低密度であり、申し分の無い剛性を有する。シートの強度は、結合剤を用いずに作られた嵩高い添加シートに比べて、著しく増大した。製品はナイフで容易に切断することができた。その材料は、外観及び風合いが発泡ポリスチレンに極めて似ている。」と記載されている。
12 実施例3(【0036】?【0041】)には、NB316とHBA繊維を用いて、澱粉又はポリビニルアルコールを用いた場合、及び用いなかった場合について、エアレイド法又はウェットレイド法により嵩高い繊維添加パッドを作った例が記載されており、得られたパッドの密度、嵩、引張指数等が表IIに示されている。
13 実施例4(【0042】)には、エアレイドHBA繊維パッドに対してポリビニルアセテートラテックスポリマーを添加して得られたパッドは十分に結合されていたことが記載されている。
14 実施例5(【0043】?【0045】)には、化学的に架橋された嵩高い繊維とNB316従来パルプとの重量比10/90配合物に水溶性カチオン性ポテト澱粉を加えて乾燥パッドを得て、密度、テーバー剛性及び耐熱性を試験した例が記載されている。結果が表IIIにまとめられ、McDonald's Corporationによって用いられているクラムの貝殻の包装箱のふたの発泡ポリスチレンと同じ値が得られたこと、及び繊維配合物は、有望なことに、スチロフォーム材料に匹敵したことが記載されている。
15 実施例6(【0046】?【0048】)には、セルロース繊維/結合剤組成物を用いて、成形されたスチロフォームと同様な特性を有する成形品を作ることができ、それらは、特に食品の容器として用いることができることが記載されている。
16 実施例7(【0049】)には、従来の繊維から成るシートのエッジ吸上と、従来の繊維と嵩高い添加繊維との混合物から成るシートのエッジ吸上とを比較して、任意の密度において、従来の繊維は、従来の繊維/嵩高い添加繊維混合物に比べて、より多量の液体を吸収したことが記載されている。
17 実施例8(【0050】)には、湿潤プレスの後、従来の繊維から成るシートの固形分レベルと、従来の繊維と嵩高い添加繊維との混合物から成るシートの固形分レベルとを比較して、従来の繊維と嵩高い添加繊維との混合物から成るシートは、より高い固形分レベルを有していたことが記載されている。
18 実施例9(【0051】?【0055】)には、漂白されたクラフトベイマツ及び始めに記したHBAのパルプを用いて、場合により澱粉を加えシートを製造した例が記載されている。シートに関する密度やテーバー剛性等の物性値が表IVにまとめられ、結合剤を添加すると、HBAシートの剛性が向上することが記載されている。
19 図1には、嵩高い化学的に架橋された繊維を作る方法についての構成図が示されている。(13頁左上欄)

第4 当審の判断
1 明細書のサポート要件について
特許法36条5項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下、本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討することにする。

2 本願発明の課題について
以下、本願発明の課題について検討する。(なお、以下に記載する摘示番号は、先に第3で付した項目番号を示す。)
本願明細書の発明の詳細な説明には、
(1) 発泡ポリスチレンは低密度であり、比較的高い物理的強度を有するのに対し、典型的なセルロース製品は比較的高密度であるか又は嵩高くない点が欠点であること(摘示1)、
(2) 成形されたプラスチックに似させることができる高い嵩と強度特性の両力を有する新しいセルロース製品に対する需要があること(摘示3)、
(3) 実施例2には、実施例1のようにして調製したパッド(当審注.市販のHBA繊維から調整されるパッド)について、「作られた乾燥パッドは、低密度であり、申し分の無い剛性を有する。シートの強度は、結合剤を用いずに作られた嵩高い添加シートに比べて、著しく増大した。製品はナイフで容易に切断することができた。その材料は、外観及び風合いが発泡ポリスチレンに極めて似ている。」こと(摘示11)、
(4) 実施例5には、化学的に架橋された嵩高い繊維とNB316従来パルプとの重量比10/90配合物に水溶性カチオン性ポテト澱粉を加えて乾燥パッドを得て、密度、テーバー剛性及び耐熱性を試験した結果、得られた乾燥パッドは発泡ポリスチレンと同じ値が得られ、スチロフォーム材料に匹敵したこと(摘示14)、
(5) 実施例9には、漂白されたクラフトベイマツとHBAのパルプを用いて、場合により澱粉を加えシートを製造した例が記載されており、表IVの結果から、結合剤を添加すると、HBAシートの剛性が向上すること(摘示18)、
が記載されている。
してみると、本願発明の解決すべき課題には、発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得ることが含まれるものと認められる。

3 サポート要件の適合性について
前記2で述べたように、本願発明の解決すべき課題には、発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得ることが含まれるものと認められるから、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明がかかる課題を達成する性能において有効であることが客観的に開示される必要があるというべきである。
しかしながら、以下に述べるように、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明がかかる課題を達成する性能において有効であることが客観的に開示されているとは認められない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、「嵩高い化学的に架橋されたセルロース繊維は、様々な適当な架橋剤を用いて架橋することができる、繊維内で架橋されたセルロース繊維である。」とした上で、用いることができるポリカルボン酸架橋剤の例として、他のポリカルボン酸架橋剤とともに本願発明の架橋剤が列挙されており(摘示6)、また、本願発明の嵩高い繊維を作る方法が概念的には記載されている(摘示7及び摘示19)が、本願発明の架橋剤を用いて架橋した嵩高い繊維を製造する具体例(例えば、製造原料、反応試剤、溶媒、反応温度、反応時間等を明らかにするもの。)すら記載されておらず、まして、本願発明により、発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を達成し得ることは全く開示されていない。
また、本願明細書の実施例をみても、実施例で用いているのは単にHBA繊維と記載されているだけで、本願発明の架橋剤の何れかを用いたことは記載されていないので、本願明細書の実施例の記載から、本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維が発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を達成し得るものとは認められない。
(この点について付言すると、請求人(出願人)が提出した平成17年10月3日付けの意見書における「(3)引用文献1-4に対する新規性および進歩性」の項には、「本明細書[0004]に記載されているように、『HBA』とは『嵩高い添加剤(High Bulk Additive)』を意味し、『HBA繊維』とは『嵩高い(低密度)繊維』を一般に意味するものです。したがって、本明細書のHBA繊維とは、Weyerhaeuser Companyから市販されているHBA繊維のみを意味するものではなく、嵩高い繊維であれば本明細書のHBA繊維に該当いたします(よって、本願発明1に係る繊維もHBA繊維の一種といえます)。」と記載されていることからみて、本明細書のHBA繊維とは、「Weyerhaeuser Companyから市販されているHBA繊維」又は「Weyerhaeuser Companyから市販されている以外のHBA繊維」の何れかであると理解できる。
そして、上記の摘記部分に続いて上記意見書には、「なお、[0023]にいう『Weyerhaeuser Companyから市販されている』HBA繊維は、本願発明1の『嵩高い繊維』とは異なります。すなわち、『Weyerhaeuser Companyから市販されているHBA繊維』は、嵩高い繊維ではあるものの、『酒石酸、リンゴ酸、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・マレエート)コポリマー、ポリ(メチルビニルエーテル・コ・イタコネート)コポリマー、及びそれらの混合物から成る群より選択されるポリカルボン酸架橋剤により化学的に繊維内架橋』(請求項1)されている訳ではないためです。」と記載されていることを考慮すると、仮に本願明細書の実施例におけるHBA繊維が「Weyerhaeuser Companyから市販されているHBA繊維」である場合には当該HBA繊維は本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維ではないことは明らかであるし、また、仮に本願明細書の実施例におけるHBA繊維が「Weyerhaeuser Companyから市販されている以外のHBA繊維」である場合にはどのような架橋剤を用いたのかが不明であるから、何れの場合であるとしても、本願明細書の実施例におけるHBA繊維が本願発明の架橋剤により架橋されたものであるとは認められないので、結局、本願明細書の実施例の記載から、本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維が発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を達成し得るものとは認められないことになる。)
更に、本願明細書の発明の詳細な説明における他の記載部分をみても、本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維が発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を達成し得ることは全く開示されていない。
そして、そもそも、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本願発明の架橋剤によりセルロース繊維が架橋できるかどうかすら不明であるが、それはさておき、仮に本願発明の架橋剤によりセルロース繊維が架橋できたとしても、当業者が出願時の技術常識に照らし、本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維が、発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めるに足る技術的根拠は見いだせない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本願発明の解決すべき課題を解決できると認識できるに足る記載を欠いているし、しかも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の解決すべき課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

4 平成18年9月13日付けの手続補足書について
平成18年9月13日付けの手続補足書には添付資料2の実験報告書が添付されており、それによると、本願発明の架橋剤によりセルロース繊維が架橋できるとともに、本願発明の架橋繊維が、レジリエンスや耐老化性の点において、クエン酸で架橋した繊維よりも優れていることが記載されている。
しかしながら、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず、特許出願時の当業者の技術常識又は自然法則を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合において、特許出願後に実験データを提出して、明細書の発明の詳細な説明に記載されていない内容を補足することによって、これを、当該内容を特許請求の範囲に記載された発明についても適用されるものとして、明細書のサポート要件を補うことは、特定の技術思想の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反するものとして許されないというべきである。
しかも、添付資料2の実験報告書をみても、本願発明の架橋剤により架橋されたセルロース繊維が、発泡ポリスチレンに匹敵するような、低密度で比較的高い物理的強度を有する繊維を得るという課題を解決できると認識できると認めるに足る記載はなされていない。
したがって、平成18年9月13日付けの手続補足書を考慮しても、本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するとは認められない。

5 小括
よって、本願の特許請求の範囲の記載が、特許法36条5項1号に規定する、明細書のサポート要件に適合するとは認められない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法36条5項1号に適合するものではないから、本願は同条同項に規定する要件を満たしていない。したがって、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-19 
結審通知日 2008-06-20 
審決日 2008-07-07 
出願番号 特願2003-429264(P2003-429264)
審決分類 P 1 8・ 534- WZ (D21H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 利直菊地 則義  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
鈴木 紀子
発明の名称 化学的に繊維内架橋されたセルロースの繊維を含む化学的に架橋されたセルロースの個別化された嵩高い繊維  
代理人 富田 博行  
代理人 増井 忠弐  
代理人 千葉 昭男  
代理人 小林 泰  
代理人 社本 一夫  

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