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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1187982
審判番号 不服2006-3417  
総通号数 109 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-23 
確定日 2008-11-13 
事件の表示 平成 9年特許願第359803号「画像処理方法、装置および記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月21日出願公開、特開平11-196285〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
出願日 :平成 9年12月26日
拒絶査定日 :平成18年 1月16日
審判請求日 :平成19年 2月23日
拒絶理由通知(最初):平成20年 2月14日
手続補正書 :平成20年 4月21日
拒絶理由通知(最後):平成20年 5月23日
手続補正書 :平成20年 7月28日

第2 手続補正の却下
1 補正却下の決定の結論
平成20年7月28日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1) 補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1ないし5は,次のとおり補正された。
「 【請求項1】 同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定するユーザインターフェイスを有する画像処理方法であって、
表示モードとカタログプリントモードと通常モードを有し、
前記表示モードでは、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードでは、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し、前記選択された画像に対応する表示用色処理条件を印刷用色処理条件に変換し、前記変換された印刷用色処理条件を用いて前記同一画像に色処理を行う
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】 さらに、画像形成部の種類に対応させて複数の補正パラメータを格納し、
画像形成部の種類を識別し、
前記識別された画像形成部の種類に対応する補正パラメータを前記格納されている複数の補正パラメータの中から選択し、
前記カタログプリントモードでは、前記選択された補正パラメータを用いて前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正することを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】 前記ユーザインターフェイスは、前記ユーザの指示に基づく複数の表示用色処理条件の関係を視覚的に表示することを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項4】 同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定する画像処理装置であって、
ユーザの指示に基づき表示モードまたはカタログプリントモードまたは通常モードを選択する選択機能を有し、
前記表示モードが選択された場合は、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードが選択された場合は、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し、前記選択された画像に対応する表示用色処理条件を印刷用色処理条件に変換し、前記変換された印刷用色処理条件を用いて前記同一画像に色処理を行う
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】 コンピュータが読み出し可能であるプログラムを記録する記録媒体であって、
前記プログラムは、同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定する機能を実現するものであり、
ユーザの指示に基づき表示モードまたはカタログプリントモードまたは通常モードを選択し、
前記表示モードが選択された場合は、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードが選択された場合は、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し、前記選択された画像に対応する表示用色処理条件を印刷用色処理条件に変換し、前記変換された印刷用色処理条件を用いて前記同一画像に色処理を行う
ことを実現するプログラムであることを特徴とする記録媒体。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成18年4月21日付けの手続補正による特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「 【請求項1】 同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定するユーザインターフェイスを有する画像処理方法であって、
表示モードとカタログプリントモードと通常モードを有し、
前記表示モードでは、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードでは、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件を用いて、前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】 さらに、画像形成部の種類に対応させて複数の補正パラメータを格納し、
画像形成部の種類を識別し、
前記識別された画像形成部の種類に対応する補正パラメータを前記格納されている複数の補正パラメータの中から選択し、
前記カタログプリントモードでは、前記選択された補正パラメータを用いて前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正することを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項3】 前記ユーザインターフェイスは、前記ユーザの指示に基づく複数の表示用色処理条件の関係を視覚的に表示することを特徴とする請求項1記載の画像処理方法。
【請求項4】 同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定する画像処理装置であって、
ユーザの指示に基づき表示モードまたはカタログプリントモードまたは通常モードを選択する選択機能を有し、
前記表示モードが選択された場合は、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードが選択された場合は、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件を用いて、前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】 コンピュータが読み出し可能であるプログラムを記録する記録媒体であって、
前記プログラムは、同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定する機能を実現するものであり、
ユーザの指示に基づき表示モードまたはカタログプリントモードまたは通常モードを選択し、
前記表示モードが選択された場合は、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ、
前記カタログプリントモードが選択された場合は、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ、
前記通常モードでは、前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件を用いて、前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う
ことを実現するプログラムであることを特徴とする記録媒体。」

(3)補正の目的の適否についての判断
請求項1,4及び5に関する本件補正は,本件補正前の請求項1,4及び5に記載された発明を特定するために必要な事項である「通常モード」において,(1)「前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件」を「前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し、前記選択された画像に対応する表示用色処理条件を印刷用色処理条件に変換し、前記変換された印刷用色処理条件」とする補正,及び(2)「同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う」という事項を,「同一画像に色処理を行う」と補正するものである。
まず,上記補正点(1)について検討する。当該補正は,平成20年5月23日付けの拒絶理由通知書の理由2として指摘した,「請求項1、4、5における「前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された」との記載において、紙などに「形成された複数の画像の中からユーザ」が、どのような手段を用いて、画像の「選択」を行うものであるのか、その「選択」内容を、どのようにして処理装置に伝達するものであるのか、不明確である。」という事項に対して,明りょうでない記載の釈明を目的としてなされたものと認められる。したがって,補正点(1)に関する本件補正は,特許法第17条の2第3項第4号(明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。))に記載される事項を目的としたものと認められ,適法な補正である。
次に,上記補正点(2)について検討する。当該補正は,「色処理を行う」対象を「同一画像」から「同一画像とは異なる印刷用の画像」に変更するものであり,補正前の請求項における発明を特定するための事項を,概念的により下位の発明を特定するための事項とするものではないから,補正前の発明を特定するために必要な事項の限定に該当しない。したがって,上記補正点(2)に関する本件補正は,補正前の請求項1ないし5のいずれかに記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから,特許法第17条の2第4項第2号(特許請求の範囲の減縮)に規定される事項を目的としたものとはいえない。
また,上記補正点(2)に関する本件補正は,上述したように,「色処理を行う」対象を「同一画像とは異なる印刷用の画像」から「同一画像」に変更するものであり,誤記の訂正,つまり明らかな字句・語句の誤りを,その意味内容の字句・語句に正すものとは認められない。したがって,特許法第17条の2第4項第3号(誤記の訂正)に規定される事項を目的としたものとはいえない。
さらに,上記補正点(2)に関する本件補正箇所は,平成20年5月23日付けの拒絶理由通知において,明りょうでないと指摘した点ではなく,また補正前においても「同一画像とは異なる印刷用の画像」という明りょうな記載であったものであるから,特許法第17条の2第3項第4号(明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。))に規定される事項を目的としたものとはいえない。
上記補正点(2)に関する本件補正が、特許法第17条の2第4項第1号(請求項の削除)に規定される事項を目的とするものでないことは明らかである。
したがって,上記補正点(2)に関する本件補正は,適法になされたものとはいえない。

(4)本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,その補正内容の一部において,平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり,全体として,本件補正は,特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

(5)付記
なお,念のため,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとした場合についても,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

ア 引用例
原査定の拒絶の理由として引用された,遠藤悦郎 他著「Adobe Photoshop A to Z III」,株式会社ビー・エヌ・エヌ,1994年2月20日,初版第八刷,p.8-4?8-10(以下,「引用例1」という。)には,次の事項が図面と共に開示されている。

a 「[イメージ↓色補正→バリエーション]は、最も簡単に色かぶりを補正するコマンドです。
このコマンドを選ぶと、対象とする画像のサムネールが縦横斜めに並んだダイアログが表示されます。
色補正は、希望の補正結果に近似したサムネールを次々にクリックして、真ん中のサムネールが求めている表示になったら<OK>するという方法で行われます。」(第8-5頁右欄第6行?第12行)

b 「□7つのサムネール
<現在>と表記のある中央のサムネールの周りには、それぞれラベルに書いてある方向に色補正した7つのサムネールが並んでいます。その中から希望する色に近いものがあれば、そのサムネールをクリックします。すると、それが今度は中央の<現在>になります。さらに続けて希望の見えのサムネールを選んでいきます。」(第8-6頁右欄第1行?第6行)

c 「□<小?大>スライダ
補正結果を表示する各サムネールと<現在>のサムネールの補正の度合いは<小?大>スライダで調節します。
始めからスライダを<小>にするのではなく、<大>側にスライダを動かして試行錯誤し、傾向を把握した後でいったん補正していない状態にもどり、今度はスライダを<小>にして確認した方向に補正していくとよいでしょう。なお、無補正状態に戻るには、ダイアログ左上の<原画>のサムネールをクリックするか、optionキーを押すと<キャンセル>ボタンが<初期設定>になりますのでこれをクリックします。」(第8-6頁右欄第11行?第20行)

d 「□<限界を表示>チェックボックス
<限界を表示>チェックボックスをオンにすると、色補正の結果補正後の明るさや色がつぶれてしまう(飽和してべったりとなってしまう)部分を蛍光色で表示警告します。」(第8-6頁右欄第21行?第24行)

e 図面(第8-5頁左欄中央の図面,及び第8-6頁左欄上の図面)には,中央の<現在>と表記のあるサムネールの周りに,イエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンと表記のあるサムネールを,当該順に配置することが記載されている。

前掲aないしeの記載及び図面によると,引用例1には,

「[バリエーション]コマンドを選ぶと,対象とする画像のサムネールを縦横斜めに並んだダイアログを表示し,該ダイアログは,<現在>の中央のサムネールの周りに,該中央のサムネールに対して,それぞれイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの方向に色補正したサムネールを当該順に並べたものであって,前記周りのサムネールの中から希望する色に近いものがあれば,そのサムネールをクリックし,クリックすると,該クリックされたサムネールを中央のサムネールとし,さらに続けて希望の見えのサムネールを選んでいき,中央のサムネールが求めている表示になったら<OK>することで,画像データを補正する,色補正方法」

の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明において「中央のサムネールに対して,それぞれイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの方向に色補正」することは,本願補正発明の「複数の色処理」に相当する。
引用発明の「対象とする画像」は,色補正の対象となる画像であるから,本願補正発明において,色処理の対象となる「同一画像」に相当する。
引用発明において「周りのサムネールの中から希望する色に近いものがあれば,そのサムネールをクリック」すること,および「希望の見えのサムネールを選んでいき,中央のサムネールが求めている表示になったら<OK>すること」は,本願補正発明における「色処理条件を設定する」ことに相当する。
引用発明において,ユーザが「クリック」したり,「<OK>する」,つまりOKの指示を行ったりしてのであるから,引用発明が,マウス又はキーボードなどの何からの「ユーザインターフェイス」を有していることは明らかであり,引用発明には,本願補正発明の「ユーザインターフェイス」に相当する構成を有しているといえる。
引用発明の「色補正」が,画像処理の1つであることは明らかであるから,「画像処理方法」といえる。
したがって,引用発明は,本願補正発明と同様,「同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定するユーザインターフェイスを有する画像処理方法」であるといえる。
引用発明は,色補正を,表示されたサムネールを用いて行う方法であるから,本願補正発明の「表示モード」に相当する構成を有しているといえる。
引用発明の「<現在>の中央のサムネールの周りに,該中央のサムネールに対して,それぞれイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの方向に色補正したサムネール」は,対象とする画像に対して,異なる複数の色処理を行いサムネールとしたものである。そして,該サムネールを「当該順に並べたダイアログを表示」すること,つまり,中央のサムネールの周りにイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの順で並べて表示することは、「色相環に応じて並列表示させる」ことであるといえる。そうすると,引用発明の「<現在>の中央のサムネールの周りに,該中央のサムネールに対して,それぞれイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの方向に色補正したサムネールを当該順に並べた」「ダイアログを表示」することは,本願補正発明の「同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ」ることに相当する。
引用例の前掲dにも記載されているように、ユーザインターフェイスを用いて色調整を行う際,色つぶれのない,パラメータの調整可能領域内で指示を行うようなことは常識的に行われていることであり,引用発明においても,「周りのサムネールの中から希望する色に近いものがあれば,そのサムネールをクリック」する際は,「色調整可能領域」内で行われるものといえる。
そして,引用発明において「周りのサムネールの中から希望する色に近いものがあれば,そのサムネールをクリック」し、それに基づいて「色補正したサムネール」を表示することは,クリックによりユーザが表示用の色補正条件を選択していくにあたり,色調整領域における色処理条件の位置を指示することであるといえる。
したがって,引用発明は,本願補正発明と同様,「ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させ」るものといえる。

以上を踏まえると,両者の一致点,相違点は以下のとおりである。

【一致点】
同一画像に対して複数の色処理を施し表示させ、色処理条件を設定するユーザインターフェイスを有する画像処理方法であって、
表示モードを有し、
前記表示モードでは、ユーザが色調整可能領域における位置を指示し、該指示に基づき設定される複数の表示用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、色相環に応じて並列表示させる
画像処理方法。

【相違点】
(a)本願補正発明が「カタログプリントモード」を有し,「カタログプリントモードでは、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ」るのに対し,引用発明では,そのようなモードを有していない点。

(b)本願補正発明が「通常モード」を有し,「通常モードでは、表示モードで並列表示された画像、または、カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し、前記選択された画像に対応する表示用色処理条件を印刷用色処理条件に変換し、前記変換された印刷用色処理条件を用いて前記同一画像に色処理を行う」のに対し,引用発明には,そのようなモードが明示されていない点。

ウ 当審の判断
まず,上記相違点(a)について検討する。
ユーザが画像処理のための条件設定を行うときに、設定の過程において該画像処理を施した画像を表示すること、及び、該画像処理が施された画像の印刷された状態を確認するために、表示と同様の該画像処理を施した画像を印刷することは周知技術である。
例えば,当該周知技術としては,特開平8-279918号公報(原査定の拒絶の理由及び平成20年2月14日付け拒絶理由通知書で提示された文献。以下,「周知例」という。)に「【0024】ステップS1は、表示装置204のみにカラーマッチング処理画像の一覧を表示するか、表示装置204と画像出力装置206との双方に出力するのかを利用者に指定させるステップである。尚、この選択は、入力装置202により行われる。ステップS2は、記憶装置203に登録されているカラーマッチング処理方式の中から画像出力装置206の内の現在選択されている画像出力装置に有効なものを選択するステップである。これは記憶装置203に登録されている画像出力装置の色表現能力情報を参照することにより、組み合わせが可能なカラーマッチング処理方式を選択することで行われる。また、本ステップで抽出された有効なカラーマッチング処理方式は一種類とは限らないためリストとして記憶装置203に保管しておく。」と記載されている。
そして,当該周知技術において,表示用の画像処理を施した画像を印刷する際には,「表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正」する必要があることは,当業者にとって自明の事項にすぎない。
また,通常,紙媒体への画像形成にはコストがかかるため,まずは,コストのかからない表示による確認を行い,紙媒体への画像形成はその後に行うことが,画像形成分野においては技術常識である。
当該技術常識を踏まえ,引用発明に前記周知技術を適用し,引用発明の表示による調整を行い,その後に「ユーザの指示に基づく複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し、該補正された複数の印刷用色処理条件を使用して同一画像に対して複数の色処理を行い、該色処理された複数の画像を色相環に応じて並列に形成させ」るようなモードを実行させることは,当業者が容易になし得たことである。

次に,上記相違点(b)について検討する。
引用発明は,中央のサムネールに対して,それぞれイエロー,レッド,マゼンダ,ブルー,シアン,グリーンの方向に色補正したサムネールを当該順に並べたダイアログを表示することそれ自体が目的ではなく,そのようなダイアログを使って,色補正の処理条件を選択し,最終的に,対象とする画像に対して希望するような色補正を行うものであることは明らかである。してみれば,ユーザが<OK>することによって選択されたサムネールに対応する色補正の処理条件を用いて,最終的な色補正を行うことは,明確な記載はなくとも,自明なことといえる。また,色調整後に,その画像を印刷することは,広く一般的に行われていることであり,その際には,表示用の処理条件に対応する印刷用の処理条件を用いて色処理を行うことは,自明なことである。そして,このような一連の処理を,ダイアログを表示,調整した後に実行させることは,当業者が容易になし得たことである。なお,これを「通常モード」とするのは,単なる呼称の問題である。

なお,平成20年4月21日付けの意見書において,審判請求人は「表示モード、カタログプリントモード、通常モードを段階的に行い所望の色の画像を得ること」は,引用発明や周知例には,記載も示唆もない点で相違する旨主張している。
当該主張について検討する。まず,本願補正発明には,「表示モードとカタログプリントモードと通常モードを有し」との記載,「前記カタログプリントモードでは、ユーザの指示に基づく前記複数の表示用色処理条件を印刷用色処理条件に補正し」との記載,「前記通常モードでは、前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し」との記載がある。よって,「カタログプリントモード」が「表示モード」実行後に実行されること,「通常モード」が,少なくても「表示モード」が実行後に実行されることは明らかである。しかし,「カタログプリントモード」が,「表示モード」後であって,「通常モード」前に,必ず実行されるとの記載はない。つまり「通常モード」に関する記載においては,「前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像」に基づいて選択することとなっており,「前記表示モードで並列表示された画像」があれば十分であり,必ずしも「前記カタログプリントモードで形成された複数の画像」は必要とされていない。つまり,「表示モード」後であって,「通常モード」前に,必ず「カタログプリントモード」を実行することは記載されていない。また,「通常モード」に関する記載として「前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し」とあり,画像の選択に際しては「カタログプリントモードで形成された複数の画像」は,用いられていない。つまり,「カタログプリントモード」を実行すること自体,記載されていない。してみれば,本願補正発明が,必ずしも「カタログプリントモード、通常モードを段階的に行」うものでないことは,明らかである。したがって,「表示モード、カタログプリントモード、通常モードを段階的に行い所望の色の画像を得ること」という審判請求人の主張は,請求項の記載に基づくものではないことは明らかであり,採用することはできない。

仮に,請求項の記載に基づくものだとしても,やはり,審判請求人の主張を採用することはできない。つまり,上述したように,「カタログプリントモード」が「表示モード」実行後に実行されること,「通常モード」が,少なくとも「表示モード」が実行後に実行されることに関しては,それぞれ,上記相違点(a),(b)で検討したとおりである。また,「カタログプリントモード」が,調整の際に用いられていることを鑑みれば,それが,最終的な印刷用の処理を行う「通常モード」後に行うことは考えられない。してみれば,「表示モード」,「カタログプリントモード」,「通常モード」の順番で段階的に行われることは,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,これら相違点を総合的に考慮してみても当業者が推考し難い格別のものであるとすることはできず,本願補正発明の奏する効果を検討してみても,引用例1に記載された発明及び周知技術から想定される範囲を越えるものではない。

したがって,本願補正発明は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

エ 記載不備について
本願補正発明は,「前記表示モードで並列表示された画像、または、前記カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて、前記表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択し」とするものであるが,「カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて」「画像をユーザが選択」すると記載されている一方,「表示モードで表示された複数の画像の中から一枚の画像をユーザが選択」する,つまり「表示モード表示された複数の画像」がないと選択できない記載となっており,紙などに「カタログプリントモードで形成された複数の画像に基づいて」画像を選択する場合において,どのような手段を用いて,画像の「選択」を行うものであるのか,その「選択」内容を,どのようにして処理を行う装置に伝達するものであるのか,依然として明確でない。また,このような場合について,どのように処理するか,【発明の詳細な説明】にも,明確な記載がない。
したがって,本願補正発明は,特許を受けようとする発明が明確でなく,また【発明の詳細な説明】には,当業者が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしておらず,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年7月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は,平成20年4月21日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された,上記「第2 2 (2)」のとおりのものと認める。

2 当審の拒絶理由
一方、当審において平成20年5月23日付けで通知した拒絶理由における理由1の概要は、次のとおりである。

「平成20年4月21日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


当該手続補正によりなされた請求項1、4、5の「前記通常モードでは、前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件を用いて、前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う」という記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には何ら記載されておらず、また当初明細書等に記載されていた事項からみて自明な事項であるとは認められない。
(平成20年4月21日付け意見書において、当該補正は「段落73の記載「カタログプリントでは元画像を9分の1以下に縮小して通常モードで印刷を行う印刷用紙に印刷できるように加工する。158は印刷用のカレントパラメータを用いて処理された画像であり、通常モードでは該パラメータを用いて印刷される。」、段落84の記載「前記表示画面上の画像や前記印刷結果に基づいて、カレント画像をサムネイルの中央に移動させることにより、該8つの色調整パラメータから1つを選択し元画像に対して該パラメータを用いて色調整処理を行う方法を有している」との記載を根拠とする旨主張している。
これに対し、請求項1、4、5には「前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う」ものと記載され、この記載では、例えば、ある1つのサンプル画像Aに対して、表示モードやカタログプリントモードを利用して複数の色処理を行い、その中から画像を選択することで色処理条件を選択し、その選択結果を、前記サンプル画像Aとは全く異なる画像Bの印刷の際に利用して色処理を行うようなものをも含み得るものであり、このような色処理方法は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超えるものである。
上記当初明細書等の記載からは、あくまでも、表示モードやカタログプリントモードにおいて利用した画像の「元画像に対して該パラメータを用いて色調整処理を行う」ことのみが記載されるものであって、請求項1、4、5に記載されたような「前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う」という事項が、上記のような当初明細書等の記載及びその記載からみて自明な事項であるとは認められない。)。」

3 当審の判断
拒絶理由において指摘したとおり,「前記通常モードでは、前記形成された複数の画像の中からユーザによって選択された画像に対応する印刷用色処理条件を用いて、前記同一画像とは異なる印刷用の画像に色処理を行う」という記載は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には何ら記載されておらず、また当初明細書等に記載されていた事項からみて自明な事項であるとは認められない。
なお、上記「第2」のとおり、平成20年7月28日付けの手続補正は却下されたので、当審において平成20年5月23日付けで通知した拒絶の理由で指摘した点は、何ら解消していない。
したがって、上記拒絶の理由において指摘した記載事項は、当初明細書等には記載されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえないから、平成20年4月21日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

4 むすび
以上のとおり、平成20年4月21日付けの手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項(新規事項)に規定する要件を満たしておらず,同法第49条第1項の規定に該当し,拒絶をすべきものである。
よって、原査定を取り消す,本願は特許をすべきものであるとする審判請求の趣旨は認められないから,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-09 
結審通知日 2008-09-16 
審決日 2008-09-30 
出願番号 特願平9-359803
審決分類 P 1 8・ 572- WZ (H04N)
P 1 8・ 561- WZ (H04N)
P 1 8・ 573- WZ (H04N)
P 1 8・ 574- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高瀬 健太郎日下 善之伊藤 隆夫  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 廣川 浩
板橋 通孝
発明の名称 画像処理方法、装置および記録媒体  
代理人 内尾 裕一  
代理人 西山 恵三  

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