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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1188473 |
審判番号 | 不服2005-9103 |
総通号数 | 109 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-05-16 |
確定日 | 2008-11-27 |
事件の表示 | 特願2002-105672「少なくとも1種の鉱物性フィラーの水性ディスパージョンをベースとした即効性抗シワ組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月15日出願公開、特開2002-326923〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年4月8日(パリ条約による優先権主張 2001年4月6日,仏国)の出願であって、拒絶理由通知に応答して平成16年7月27日付けで手続補正がなされたが、平成17年1月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、更に同年6月15日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成17年6月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年6月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)平成17年5月16日付けの手続補正と平成17年6月15日付けの手続補正は、いずれも特許法第17条の2第1項第4号において準用する拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にするときになされたものであるところ、そのような場合において特許請求の範囲についてする補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項で同項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので、その規定を満たすか検討する。 ところで、ある補正が特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについて判断する場合には、当該補正よりも前の時点での特許請求の範囲を基準にしなければならないところ、その基準となるのは最後に適法に補正された特許請求の範囲であり、上記判断をする場合において、それ以前にされた複数の補正ついてその適否がいまだ判断されていないときには、補正のされた順番に従って、補正の適否について順次判断すべきことになる。(平成17年(行ケ)第10698号平成18年9月26日言渡しの判例を参照) そして、平成17年5月16日付けの手続補正はいまだ判断されていない。 (2)そこで、先ず、平成17年5月16日付け手続補正について検討する。 この手続補正により、補正前(平成16年7月27日付けの手続補正書参照)の特許請求の範囲の範囲の請求項2?32は削除され、請求項1はそのまま補正後の特許請求の範囲の請求項1とされたものである。 してみると、該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号の特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当するから、適法になされたものである。 (3)次に、平成17年6月15日付けの手続補正について検討する。 この手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 (a)補正前(適法になされた平成17年5月16日付けの手続補正書を参照)の 「【請求項1】 生理学的に許容可能な媒体中に、混合シリケートを除く、有効量の少なくとも1種の鉱物性フィラーを含有する即効性の抗シワ効果を持つ化粧品組成物において、鉱物性フィラーが、水性、アルコール性又は水性アルコール性媒体のディスパージョン中でその少なくとも70%が0.1から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子の形態であり、組成物は(C_(1)-C_(5))ポリオールを含まず、油中水型エマルション(W/O)又は水中油型エマルション(O/W)又は水中油中水型エマルション(W/O/W)の形態であることを特徴とする組成物。」から、 (b)補正後の 「【請求項1】 生理学的に許容可能な媒体中に、混合シリケートを除く、有効量の少なくとも1種の鉱物性フィラーを含有する、シワ及び/又はコジワを即効的に減じるために皮膚に張りを持たせるための化粧品組成物において、鉱物性フィラーが、水性、アルコール性又は水性アルコール性媒体のディスパージョン中でその少なくとも70%が0.1から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子の形態であり、組成物は(C_(1)-C_(5))ポリオールを含まず、油中水型エマルション(W/O)又は水中油型エマルション(O/W)又は水中油中水型エマルション(W/O/W)の形態であることを特徴とする組成物。」 と補正され、 更に、請求項2?32が新たに追加されたものである。 してみると、請求項数の増加を伴う平成17年6月15日付けの手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)のいずれを目的とするものにも該当しない。 (4)むすび 以上のとおり、平成17年6月15日付けの手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成17年6月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1にかかる発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年5月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(「前記2.(3)」の(a)の摘示を参照)。 (1)引用例 原査定の拒絶理由に引用される本願優先権主張日前の刊行物である特開平8-40820号公報(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審が付したものである。 (i)「【請求項1】 ゾル-ゲル法によって製造できる無機充填材を基体とするコロイド懸濁液を、これの液状媒体が蒸発した後に皮膚、毛髪および(または)爪のうえに無機皮膜を形成するために、皮膚、毛髪および(または)爪を処理するための香粧品組成物として使用すること。 【請求項2】 香粧品媒体の蒸発の後に形成される皮膜が皮膚、毛髪および(または)爪の反射特性を変化するように、コロイド懸濁液が、約1.9以上のあるいは1.3?1.6の屈折率を有する粒子状の金属塩または金属酸化物を水、水/アルコール混合物またはアルコールからなる香粧品媒体中に含有する請求項1記載の使用。 【請求項3】 ・・・中略・・・ 【請求項4】 皮膚および(または)毛髪につや消しの外観を与えるために、金属塩または金属酸化物としてSiO_(2)、MgF_(2)またはCaF_(2)を使用する、請求項1または2に記載の使用。 【請求項5】 ・・・中略・・・。 【請求項6】 皮膚のしわを視覚上隠すためにSiO_(2)を基体とするコロイド懸濁液を使用すること。 ・・・ 【請求項11】 金属酸化物または金属塩が1?300nm、望ましくは5?100nmの平均粒子寸法を有する、請求項7から10のいずれか1項に記載の方法」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項11】参照) (ii)「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者は無機充填材を基体とするコロイド懸濁液の使用により、溶媒の蒸発の後、無機皮膜を得ることができることを見出しており、このことが本発明の主題をなす。この皮膜は特に、皮膚、毛髪または爪の反射特性を変化させることができる。従って適当なコロイド懸濁液で処理した皮膚はより一層つや消しにされることができ、その結果しわが視覚上隠される。このような組成物で処理した毛髪は改善された輝きを示すことができる。さらにこの懸濁液は皮膚、毛髪および(または)爪に良好な香粧的特性を与える。 【0005】本発明で使用できるコロイド懸濁液は、それ自体知られたゾル-ゲル法によって特に製造される。」(段落【0004】?【0005】参照) (iii)「【0017】この皮膜は上記に規定した金属酸化物または金属塩から実質的になる。これらの無機充填材は一層特定的に、1?300nmそして一層望ましくは5?100nmの寸法を有する粒子の形で使用される。 【0018】この粒子は球状または平行六面体またはその他の形状を有してよい。本発明において一層特定的に好ましい無機充填材は毛髪に輝きを与える効果のある二酸化チタン(TiO_(2))、および特に皮膚をつや消しにする効果のあるSiO_(2)である。本コロイド懸濁液は一般に1?5mPa・秒の粘度を有する。 【0019】本発明の組成物はそれ自体知られておりまた最新の技術において周知である方法によって製造できる。この組成物はアルコールのような溶媒中に溶解した対応する金属塩または金属アルコキシドから一層特定的に製造する。次いで、無定形な沈澱をつくるために加水分解反応を行う。次に所望のpHに従って酸または塩基を用いて分散を行なう。この結果、沈澱の解膠および結晶化が起きる。このようにして溶媒中に結晶性酸化物が生成する。 【0020】このようなコロイド懸濁液は、SiO_(2)についてはJ.Collid Interface Sci.26(1968年)62?69頁に、TiO_(2) については・・・中略・・・に述べられているごとくそれ自体知られている方法によって製造できる。 【0021】この懸濁液は、塩化物、オキシ塩化物、過塩素酸塩、硝酸塩、オキシ硝酸塩もしくは酢酸塩から最もしばしば選択されるイオン性前駆体、または分子式M(OR)_(n) (Mは金属を、ORは炭素原子1?6個を含むアルコキシ基をそしてnは金属の原子価を表わす)を有するアルコキシドから望ましくは選択される分子性前駆体を使用することにより製造される。上記した方法において、前駆体は加水分解または弗素化され、次いで選択した溶媒中に不溶であり、核をなしそしてコロイド懸濁液として知られる最終生成物が得られるまで重合される。アルコキシドの場合、この有機金属誘導体の非常に親水性の性質が供されるならば、加水分解を厳密に制御せねばならない。」(段落【0017】?【0021】参照) (iv)「【0024】使用可能な媒体は水、水/アルコール混合物またはアルコールからなってよい。一層特定的に、アルコールは炭素原子1?4個を有する低級アルコール例えばエタノールまたはイソプロパノール、あるいは多価アルコール例えばプロピレングリコール、グリセロールおよびソルビトールから選択する。 【0025】本組成物のpHは一般に5?10、望ましくは6?9であり、またそれ自体既知であり、香粧品として許容できるアルカリ剤または酸性剤によって調整できる。 【0026】本発明の組成物は、望ましくは非イオン性の種々な添加剤、一層特定的に例えばアルキルフェノキシポリエトキシエタノールのような非イオン界面活性剤、例えばエトキシ基の数が2?10であるオクチルフェノキシポリエトキシエタノールも含有してよい。 【0027】本組成物はシリコーン、非イオン性ポリマー例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンもしくはポリビニルブチラール、またはグリセロールも含有してよい。 【0028】本組成物には、それをあるいは毛髪または皮膚を着色することを目的とする染料、抗遊離基剤、湿潤剤、紫外線の作用から皮膚を保護するための遮蔽剤、およびコロイド懸濁液にあるいはこれが毛髪、皮膚および(または)爪の上に形成する皮膜に不安定化作用を及ぼさない任意の別な添加剤もまた添加できる。 【0029】本組成物は、本発明において使用する無機充填材に対して0.1?10%の直接染料または色素、例えばメラニンから誘導される色素を含有してよい。一層特定的に、5,6-ジヒドロキシインドールのまたはその誘導体の酸化から特に得られるメラニン色素および天然の源泉からのメラニン色素、あるいは着色した酸化鉄を使用することができる。」(段落【0024】?【0029】参照) (v)「【0035】例2 粒子寸法が26nmであるSiO_(2)をエタノール中に3.5%含むコロイド懸濁液を皮膚に噴霧する。乾燥の後、皮膚が一層つや消しとなった外観をもち、そのことがしわを隠す結果となることが認められる。皮膚はその色を保ち、白色化しない。」(段落【0035】参照) (2)対比、判断 そこで、本願発明と引用例に記載された発明を対比する。 引用例には、前記「3.(1)」に摘示された記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。 「ゾル-ゲル法によって製造できる無機充填材を基体とするコロイド懸濁液を、これの液状媒体が蒸発した後に皮膚のうえに無機皮膜を形成するために、皮膚を処理するための香粧品組成物であって、 コロイド懸濁液が、粒子状の金属塩または金属酸化物を水、水/アルコール混合物またはアルコールからなり、5?100nmの平均粒子寸法を有する粒子を有し、 皮膚のしわを視覚上隠すためにSiO_(2)を基体とするコロイド懸濁液を使用する、 組成物。」 そして、 (α)引用例発明の「ゾル-ゲル法によって製造できる無機充填材を基体とするコロイド懸濁液」,「コロイド懸濁液が、粒子状の金属塩または金属酸化物を水、水/アルコール混合物またはアルコールからなり、5?100nmの平均粒子寸法を有する粒子を有し」及び「SiO_(2)を基体とするコロイド懸濁液」は、まとめて、本願発明の「鉱物性フィラーが、水性、アルコール性又は水性アルコール性媒体のディスパージョン中でその少なくとも70%が0.1から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子の形態」,「生理学的に許容可能な媒体中に」及び「有効量の少なくとも1種の鉱物性フィラーを含有する」に対応するところ、 (α-1)本願発明の「鉱物性フィラー」については、本願明細書段落【0009】の説明には鉱物の説明や例示はなく、シリカ、アルミナ、二酸化チタン等の所謂一般に無機フィラーと呼ばれるものが示されていることからみて、引用例発明の「無機充填材」(充填剤とフィラーは同義)と同じ意味と認められること、 (α-2)引用例発明の「粒子状の金属塩または金属酸化物」が具体的には「SiO_(2)を基体とする」ものであることは、シリカが例示され且つ実施例でも用いられている本願発明の「鉱物性フィラー」とは、いずれもSiO_(2)フィラーであることで一致すること(なお、含有成分を「有効量」で用いることは当然のことといえる。)、 (α-3)引用例発明の「コロイド懸濁液」は、本願発明の「コロイド粒子の形態」に相当すると認められること、 (α-4)引用例発明の「5?100nmの平均粒子寸法を有する粒子」(実施例2では粒子寸法が26nm)は、該平均粒子寸法とは技術常識からみて平均直径の意味と解するのが相当であり、また、引用例発明には「少なくとも70%が」との特定はないけれども実質的に殆どが規定する平均粒子寸法のもの解されるので、本願発明の「少なくとも70%が0.1から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子」に対応し、いずれも5?100nmの直径であることで一致すること、 (α-5)本願発明の「生理学的に許容可能な媒体中」は、単に「皮膚(並びに瞼の内側)又はヒトの唇への塗布に適した非毒性の媒質を意味する。」(段落【0007】)と説明されているだけで、具体的にどのような物質か言及されていないけれども、実施例で水(他の成分と併せて100%に達する量)が用いられ、ディスパージョン媒体として水またはアルコールが用いられていることに鑑みれば、引用例発明で用いられる水またはアルコールを用いることと何ら相違しないと言う他ないこと、 (α-6)本願発明では「コロイド粒子の形態」(即ち、コロイド懸濁液)の製造方法を限定していないため、引用例発明の「ゾル-ゲル法によって製造できる」との特定は相違点となり得ないこと、 のこれら(α-1)?(α-6)の対応関係を併せ勘案すると、 両者は、「SiO_(2)フィラーが、水性、アルコール性又は水性アルコール性媒体のディスパージョン中で5から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子の形態」,「生理学的に許容可能な媒体中に」及び「有効量の少なくとも1種のSiO_(2)フィラーを含有する」で一致する。 (β)引用例発明の「これの液状媒体が蒸発した後に皮膚のうえに無機皮膜を形成するために、皮膚を処理する香粧品組成物」は、本願発明では化粧品組成物を皮膚に塗布することによって使用されることからみて、本願発明の「化粧品組成物」に相当する。 してみると、両発明は、 「生理学的に許容可能な媒体中に、有効量の少なくとも1種のSiO_(2)フィラーを含有する化粧品組成物において、 SiO_(2)フィラーが、水性、アルコール性又は水性アルコール性媒体のディスパージョン中で5から100nmの範囲の直径を持つようなコロイド粒子の形態である組成物。」 で一致し、次の(A)?(C)の点で相違する。 <相違点> (A)本願発明では、(鉱物性無機フィラーに関して)「混合シリケートを除く」と特定され、また、「組成物は(C_(1)-C_(5))ポリオールを含まず」と特定されているのに対し、引用例発明では、それらのように特定されていない点。 (B)本願発明では「油中水型エマルション(W/O)又は水中油型エマルション(O/W)又は水中油中水型エマルション(W/O/W)の形態」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点。 (C)本願発明では、「即効性の抗シワ効果を持つ」と特定しているのに対し、引用例発明では「皮膚のしわを視覚上隠す」としている点。 そこで、これらの相違点について検討する。 (A)の点について (i)「混合シリケート」に関しては、本願明細書を検討しても何らの説明もないものの、平成16年7月27日付け意見書の「○記載不備」の項において、「複数種の金属イオンが混合してケイ酸に化合した形のケイ酸塩を意味します。」と釈明されているので、その釈明の解釈を前提に検討する。 しかし、引用例発明では、本願発明の実施例と同様にSiO_(2)が用いられていて、そのような「混合シリケート」は用いられていないことから、「混合シリケートを除く」ことは実質的な相違点ではない。 (ii)引用例には、媒体として水や低級アルコールの他にグリセロール等が例示され、含有してもよい成分としてグリセロールが例示されているが、使用される可能性を示唆するにすぎず、引用例発明の実施例2(他の実施例も)では、「(C_(1)-C_(5))ポリオール」が用いられていないことからみても、「組成物は(C_(1)-C_(5))ポリオールを含まず」との態様は、引用例発明でも実質的に採り得る態様であるいえるから実質的な相違点ではない。 (B)の点について 化粧品については、慣用的に、化粧液、ローション、クリーム、ペースト、エアロゾル、エマルジョン等の適宜の形態で用いられているし、本願明細書でも、「エマルションの形態に使用される油類、乳化剤及び共重合乳化剤は化粧品または皮膚科学の分野で一般的に使用されているものから選択される。」(段落【0013】参照)と説明されているように、エマルション形態が周知慣用の形態の一つであることは明らかである。また、引用例では、非イオン性界面活性剤やシリコーン、染料、紫外線遮蔽剤などの各種剤を含有してよいとされている(摘示(iv)参照)。 そうであるから、引用例発明においても、油分を添加することによってエマルジョンの形態を採用することは適宜と認められる。そして、「油中水型エマルション(W/O)又は水中油型エマルション(O/W)又は水中油中水型エマルション(W/O/W)」は水と油分からなるエマルションの一般的な形態にすぎない。 ところで、本願明細書を検討しても、エマルションの形態を採用することによる優位性は何も示されおらず、段落【0010】では「本発明に係る組成物は少なくとも1種の油を含む油相も含みうる。」とされていたにすぎない。 そもそも、本願明細書では、「化粧品組成物に鉱物性フィラーを使用すると、そのようなフィラーが水性媒体の安定なディスパージョンにコロイド粒子の形態で存在している場合に、そのような組成物に、皮膚への塗布後に、皮膚の表面の層を直ぐに滑らかにする優れた効果をもたらすことを発見した。・・・本願においてコロイド粒子とは十ナノメータかその付近のオーダーのサイズを持つ粒子を意味する。」(段落【0005】参照)と記載され、コロイド粒子の形態で用いることによって作用効果を奏し得るとされていたものであって、エマルションによって作用効果を奏しているとの認識は示されていない。 更に、本願明細書に記載の実施例を検討してもエマルションにしたことによって化粧液の場合に比べ優れているとは認められない。即ち、エマルションとされる実施例1のクリームによる検体の伸びの収縮パーセントは「-1.3+/-0.5%」であるのに対し、実施例2の美容液(化粧液)のそれは「-2.2+/-0.4%」であり(段落【0024】,【0025】参照)、むしろエマルションの方が劣っていると解すべきである。 よって、引用例発明を、「油中水型エマルション(W/O)又は水中油型エマルション(O/W)又は水中油中水型エマルション(W/O/W)の形態」で用いることは、当業者が容易に想到し得たものである。 (C)の点について 引用例発明の「皮膚のしわを視覚上隠す」は、抗シワ効果を持つことを意味すると解すべきであり、そして、本願発明の「即効性」は単なる判断基準が不明な尺度にすぎず、その記載によって実質的な差異が生じるとは解されないから、本願発明の「即効性の抗シワ効果を持つ」に含まれるものと解される。 また、本願発明の「即効性の抗シワ効果を持つ」は、単に特性を示すものにすぎないところ、前記「(B)の点について」で検討したように、化粧液であっても検体の伸びの収縮%が生じる(優れている)のであるから、特定の粒径をもったコロイド粒子を用いる点で構成上本願発明と差異がない引用例発明でも、同様な検体の伸びの収縮が生じる特性を有すると解する他なく、「即効性の抗シワ効果を持つ」と解するのが相当であり、また、エマルションにすることによってその特性が無くなると解すべき理由もない。 したがって、(C)の点は、実質的な相違点ではない。 ところで、平成16年7月27日付け意見書において、請求人(出願人)は、 「引例2に記載されている引用発明は、コロイド懸濁液の反射特性を利用しているもので、しわについては、コロイド懸濁液によりしわが視覚的に隠されることが説明されております。これに対して、本願発明は皮膚の緊張化効果を利用しているもので、技術思想として異なります。また、単に無機充填材が皮膚に残るだけならば、引例1におけるように白色化してしまうことが予想されるのに、引例2では白色化しないことが記載されており、してみると、引例2では、そこに開示された通りの水性及び/又はアルコール性のコロイド懸濁液の形態を保つことが特に必須であると推量されます。よって、この水性及び/又はアルコール性のコロイド懸濁液の形態を、油相を含むエマルションにしてしまうことは、引例2の所期の効果は得られなくなることが予想され、油相を含むエマルションにするという発想はこの引例からも出てこないものと思料されます。」 と主張している(なお、引用文中の「引例2」は引用例を指す。)。 しかし、引用例にはコロイド懸濁液によりしわが視覚的に隠されることが説明されいることはそのとおりであるが、皮膚の緊張化効果を利用することは、本願発明では特定されていないから相違点とはなり得ない(上記(C)を参照)し、また、エマルションにすると引用例発明の所期の効果が得られなくなると予想される旨の主張は、そのようなことは引用例に示唆されていないし、その予想が合理的であると解すべき理由もないから、前記請求人の主張は失当であり、採用できない。 よって、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 なお、補正却下の決定がされた平成17年6月15日付け手続補正では、請求項1について前記「2.(3)」の(b)に摘示したとおりであるところ、「即効性の抗シワ効果を持つ」との特定を、「シワ及び/又はコジワを即効的に減じるために皮膚に張りを持たせるための」との特定に補正しようとしたものであるが、たとえそのような補正を想定しても、上記判断を左右し得ないものである。 なぜなら、審判請求理由における審判請求人の、「本願発明は、シワ及び/又はコジワを即効的に減じるために皮膚に張りを持たせるための化粧品組成物であるのに対して、引例2に記載の引用発明は、コロイド懸濁液の反射特性を利用してシワを視覚的に隠すようにした化粧品組成物である点で相違する。すなわち、本願発明は、単に抗シワ効果を有する組成物ではなく、その特許請求の範囲に記載の通り、シワ及び/又はコジワを即効的に減じるために皮膚に張りを持たせるための組成物である。これに対して、引例2には、「シワ及び/又はコジワを即効的に減じる」ことも、「皮膚に張りを持たせる」ことも記載されていない。引例2に記載されていることは、シワを視覚的に隠すことである。よって、本願発明に係る化粧品組成物の用途、すなわち「シワ及び/又はコジワを即効的に減じるために皮膚に張りを持たせるための」用途は、引例2には記載されていないし、引例2に記載されたシワ隠しの用途から容易に想到しうることでもない。また、引例2において認識されているコロイド懸濁液の反射特性を利用してシワを視覚的に隠すことができるという作用機序から、皮膚の緊張化作用を導き出せるか否かを検討しても、両者には何等技術的な関連性はないし、単なる表現上の差異というものでもない。」との主張は、次の理由で採用できないからである。 即ち、即効性については、上記「(C)の点について」で判断したとおり、単なる判断基準が不明な尺度にすぎず、その即効性との記載によって実質的な差異が生じるとは解されない。また、「皮膚に張りを持たせる」ことについては、引用例に記載されていないのはそのとおりであるけれども、上記「(B)の点について」と上記「(C)の点について」で判断したとおり、本願明細書で本願発明の作用の原因となるとされている(特定粒径の)コロイド粒子を用いることでは引用例発明でも同じであるから、引用例発明で言及はなくとも同様の作用効果を奏すると解するのが相当であって、抗シワ効果を意図して皮膚に塗布する点で相違はなく、新たな用途を提供するものでもないと解するのが相当である。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-05-15 |
結審通知日 | 2008-06-10 |
審決日 | 2008-06-23 |
出願番号 | 特願2002-105672(P2002-105672) |
審決分類 |
P
1
8・
573-
Z
(A61K)
P 1 8・ 574- Z (A61K) P 1 8・ 121- Z (A61K) P 1 8・ 572- Z (A61K) P 1 8・ 571- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大宅 郁治 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
星野 紹英 谷口 博 |
発明の名称 | 少なくとも1種の鉱物性フィラーの水性ディスパージョンをベースとした即効性抗シワ組成物 |
代理人 | 園田 吉隆 |
代理人 | 小林 義教 |