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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1189492
審判番号 不服2006-22556  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 特願2002-158078「位置計測システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-344522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年5月30日の出願であって、平成18年8月25日付け(発送日:平成18年9月5日)で拒絶査定がされ、これに対し、平成18年10月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年11月6日付けで明細書又は図面についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての検討
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正前の

「【請求項1】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、有効なエフェメリスの数が基準値よりも少なければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。
【請求項2】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数と、上空に存在するGPS衛星の数とに基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、上空に存在するGPS衛星の数に対する有効なエフェメリスの数の割合が基準値よりも低ければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。
【請求項3】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、有効なエフェメリスの数にGPS衛星の仰角によって重み付けした値が基準値よりも小さければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。」

から、補正後の

「【請求項1】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、有効なエフェメリスの数が基準値よりも少なければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。
【請求項2】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数と、上空に存在するGPS衛星の数とに基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、上空に存在するGPS衛星の数に対する有効なエフェメリスの数の割合が基準値よりも低ければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。
【請求項3】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって前記仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、有効なエフェメリスの数にGPS衛星の仰角によって重み付けした値が基準値よりも小さければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。」

に補正し(以下、「補正事項1」という。)、発明の詳細な説明の段落【0011】および段落【0099】を、それぞれ補正前の

「【0011】・・・第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け・・・」
「【0099】・・・第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け・・・」

から、補正後の

「【0011】・・・第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって前記仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け・・・」
「【0099】・・・第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって前記仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けした値に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け・・・」
に補正する(以下、「補正事項2」という。)ものである。なお、下線部は補正箇所を明示するために請求人が付したものである。

2.本件補正についての判断
本件補正の上記補正事項1は、補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「GPS衛星の仰角によって重み付けした値」を「GPS衛星の仰角によって前記仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けした値」と限定するものであるから、本件補正の上記補正事項1は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項3に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。
本願補正発明における、有効なエフェメリスの数にGPS衛星の仰角によって前記仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けした値が基準値よりも小さければ、通信開始判断部が第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断するという事項に関しては、原査定において示された引用文献のいずれにも記載も示唆もなされておらず、かつ、この点が周知慣用技術であったともいえないから、本願補正発明は、当該引用文献に基づいて当業者が容易に発明することができたものでない。
そして、本願補正発明について他に拒絶の理由を発見しないから、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の上記補正事項1は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

また、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)における段落【0040】の「通信開始判断部15は、変数SUMの値をリセットしたのち(S7)、衛星情報記憶部13に記憶されたGPS衛星のエフェメリスが有効か否かを判定し(S8)、有効であれば変数SUMの値にこのGPS衛星の仰角を加算する(S9)。そして、衛星情報記憶部13にエフェメリスが記憶された全てのGPS衛星について処理を行ったか否かを判定し(S10)、全てのGPS衛星について処理が完了していなければ、S8に戻って上述の処理を実行し、処理が完了していれば、変数SUMの値と所定の基準値nとを比較する(S11)。そして、変数SUMの値が基準値n以上であれば通信を行わず、基準値n未満であれば通信を開始させるようにしている(S12)。」との記載及び同段落【0041】の「このように、有効なエフェメリスの個数に、GPS衛星の仰角による重み付けを行い、重み付けを行った値が基準値n以上であれば、基地局との間の通信を控えるようにしており、上空に存在するGPS衛星のうち、より仰角の高いGPS衛星について有効なエフェメリスを保持している場合には、位置測定に有利な情報を保持していると判断できるので、基地局との間の通信を控えることによって、通信料金を低減できる。」との記載から、「第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に、GPS衛星の仰角によって重み付けした値」に対応する「変数SUMの値」が、GPS衛星の仰角が高いほど値が大きくなるように重み付けしたものである点が読み取れる。
よって、本件補正の上記補正事項1及び上記補正事項2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることも明らかであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
したがって、本件補正を認める。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
本件補正は上記のとおり認められるから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成18年11月6日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されている有効なエフェメリスの数に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、有効なエフェメリスの数が基準値よりも少なければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得することを特徴とする位置計測システム。」

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-74826号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項1?3が図面とともに記載されている。

・記載事項1
「【0023】測位装置1は・・・時計部11とGPS部12とから構成されている。GPS部12は、GPS衛星からのL1帯の電波を受信するGPSアンテナやRF、A/D等で構成された衛星電波受信部13と、衛星電波受信部13が受信した電波からエフェメリスやアルマナックといった衛星データ、及びC/Lコードからなる測位情報を解読するのに必要なデータレジスタ、カウンター、デコーダー、及びそれらの制御を行うCPU等からなる信号処理部14とを備えている。信号処理部14には、・・・、位置計測作業に伴い前記衛星情報をはじめ各種データを保存するとともに、前記CPUの演算用のレジスタとして用いられる読み書き可能なSRAM16とが接続されており、衛星電波受信部13の受信信号に基づき現在位置を計測する。そして、計測結果すなわち緯度/経度や位置計測時に捕捉した衛星の数等の測位データを時計部11側へ送出する。なお、前記SRAM16は非計測時においても電源を供給されており、電池交換等を除き常時データの保持が可能となっている。
【0024】時計部11は制御部17と、制御部17に接続された後述する各部とによって構成されている。制御部17とGPS部12の信号処理部14とは、・・・データの送受信が可能となっている。・・・
【0025】・・・さらに、制御部17には無線データ送受信部26が接続されており、無線による前記基地局装置2や他の測位装置1との間のデータ通信が可能となっている。
【0026】一方、基地局装置2は、図3に示すように、基地局装置2全体を制御するCPU31に、測位装置1と同様の構成からなるGPS部12が接続された構成を有している。また、CPU31には、・・・測位装置1の時計部12におけるものと同様の・・・無線データ送受信部26が接続されている。
【0027】次に、以上の測位システムにおける測位装置1の位置計測動作を図4のフローチャートに従って説明する。なお、本実施の形態においては測位装置1がPHS端末、基地局装置2がPHSの基地局であって、測位装置1が所定の局番へ発信を行うと最寄りの基地局に回線が接続されるものとする。
【0028】以下、説明すると、測位装置1は計測開始に伴い、まずGPS部2に電源を供給してそれを起動した後(ステップSA1)、前回エフェメリスを取得してから2時間以内であるか否かを判別する(ステップSA2)。ここで2時間以内であれば前記SRAM16内のエフェメリスデータが有効と判断し、そのまま計測処理によりエフェメリスに基づく衛星の捕捉、コード解読、位置計算、及び計測結果表示等を行い(ステップSA10)、計測動作を終了する。また、前回エフェメリスを取得してから2時間を経過していたときには(ステップSA2でNO)、引き続きGPS部12がSRAM16内のデータそのものの有効性を判別する。これは、SRAM16内のエフェメリスデータが例えば破壊されている場合等のデータ不良の有無を判断するものであって、ここでデータが有効であれば(ステップSA3でYES)、前述した計測処理を行い(ステップSA10)、計測動作を終了する。
【0029】また、SRAM16内のデータが無効であれば(ステップSA3でNO)、自動的に所定の局番に発信することにより、その地域で有効なエフェメリスを有するサーバーとなる最寄りの基地局装置2に回線を接続する(ステップSA4)。引き続き、回線接続の成功を待ってネットワーク接続を行い、基地局装置2が保有するエフェメリスをダウンロードするとともに、そのデータをRAM20に記憶し(ステップSA5)、ダウンロードが終了したら、回線を切断する(ステップSA6)。なお、エフェメリスは基地局装置2が保有する複数のデータである。次に、制御部17が信号処理部14に対してエフェメリスを転送する旨のコマンドを送出した後(ステップSA7)、エフェメリスを転送し(ステップSA8)、転送されたエフェメリスを信号処理部14がSRAM16に書き込む(ステップSA9)。そして、新たに取得したエフェメリスを使用して計測処理を行い(ステップSA10)、処理を終了する。
【0030】したがって、前回エフェメリスを取得してから長時間(本実施の形態では2時間)が経過していたときのように、自己が保有するエフェメリスが無効である場合であっても、位置計測時には、それを衛星から取得する場合に比べて短時間での位置計測が可能である。よって、位置計測時の消費電力が小さく、電池寿命が長くなるとともに、装置の小型化が可能である。」(段落【0023】?【0030】)

・記載事項2
「【0042】・・・前述した基地局装置2における、測位装置1の要求に応じたエフェメリスデータの送信動作に関するものである。・・・、基地局装置2は、2時間毎にGPS部12を起動して計測処理を行い、自己の視野内における衛星のエフェメリスを更新した後、・・・。また、かかる動作の後、及び計測及びデータの更新を行っていない間には、例えば第1の実施の形態で説明したような測位装置1からのエフェメリスの送信要求待ちの状態となり、送信要求がなければ(ステップSD5でNO)、ステップSD1へ戻る。」(段落【0042】)

・記載事項3
図面の図3から、「基地局装置2」は、「CPU31」、「GPS部12」及び「無線データ送受信部26」を備え、その「GPS部12」は、「衛星電波受信部13」、「信号処理部14」及び「SRAM16」を備える点が読み取れる。

上記記載事項1の「測位装置1は・・・時計部11とGPS部12とから構成されている。」、「時計部11は制御部17と、制御部17に接続された後述する各部とによって構成されている。制御部17とGPS受信部12の信号処理部14とは、・・・データの送受信が可能となっている。」、「制御部17には無線データ送受信部26が接続されており、無線による前記基地局装置2や他の測位装置1との間のデータ通信が可能となっている。」、「なお、本実施の形態においては測位装置1がPHS端末、基地局装置2がPHSの基地局であって、測位装置1が所定の局番へ発信を行うと最寄りの基地局に回線が接続されるものとする。」及び「また、SRAM16内のデータが無効であれば(ステップSA3でNO)、自動的に所定の局番に発信することにより、その地域で有効なエフェメリスを有するサーバーとなる最寄りの基地局装置2に回線を接続する(ステップSA4)。引き続き、回線接続の成功を待ってネットワーク接続を行い、基地局装置2が保有するエフェメリスをダウンロードするとともに、そのデータをRAM20に記憶し(ステップSA5)、ダウンロードが終了したら、回線を切断する(ステップSA6)」との記載から、測位装置1が、外部の基地局装置2からエフェメリスをダウンロードする無線データ送受信部26を備える点が読み取れる。
また、上記記載事項1の「次に、制御部17が信号処理部14に対してエフェメリスを転送する旨のコマンドを送出した後(ステップSA7)、エフェメリスを転送し(ステップSA8)、転送されたエフェメリスを信号処理部14がSRAM16に書き込む(ステップSA9)。」との記載から、上記無線データ送受信部26がダウンロードしたエフェメリスを記憶するSRAM16を備える点が読み取れる。
そして、上記記載事項1の「基地局装置2は、図3に示すように、基地局装置2全体を制御するCPU31に、測位装置1と同様の構成からなるGPS部12が接続された構成を有している。」との記載、上記記載事項2の「・・・前述した基地局装置2における、測位装置1の要求に応じたエフェメリスデータの送信動作に関するものである。・・・、基地局装置2は、2時間毎にGPS部12を起動して計測処理を行い、自己の視野内における衛星のエフェメリスを更新した後、・・・」との記載及び上記記載事項3から、基地局装置2は、GPS衛星からの電波を受信する衛星電波受信部13、衛星電波受信部13の受信信号から得たエフェメリスを記憶するSRAM16、保有するエフェメリスを送信する無線データ送受信部26を備えるものであることが読み取れる。
さらに、上記記載事項1の「前回エフェメリスを取得してから2時間以内であるか否かを判別する(ステップSA2)。ここで2時間以内であれば前記SRAM16内のエフェメリスデータが有効と判断し、そのまま計測処理によりエフェメリスに基づく衛星の捕捉、コード解読、位置計算、及び計測結果表示等を行い(ステップSA10)、計測動作を終了する。また、前回エフェメリスを取得してから2時間を経過していたときには(ステップSA2でNO)、引き続きGPS部12がSRAM16内のデータそのものの有効性を判別する。これは、SRAM16内のエフェメリスデータが例えば破壊されている場合等のデータ不良の有無を判断するものであって、ここでデータが有効であれば(ステップSA3でYES)、前述した計測処理を行い(ステップSA10)、計測動作を終了する。」及び「また、SRAM16内のデータが無効であれば(ステップSA3でNO)、自動的に所定の局番に発信することにより、その地域で有効なエフェメリスを有するサーバーとなる最寄りの基地局装置2に回線を接続する(ステップSA4)。引き続き、回線接続の成功を待ってネットワーク接続を行い、基地局装置2が保有するエフェメリスをダウンロードするとともに、そのデータをRAM20に記憶し(ステップSA5)、ダウンロードが終了したら、回線を切断する(ステップSA6)。」との記載から、測位装置1に、SRAM16に記憶されているエフェメリスが有効であるか否かに基づいて、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を開始するか否かを判断する手段を設け、当該手段は、SRAM16に記憶されているエフェメリスが有効でなければ、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を開始させると判断し、通信を開始させるように判断した場合のみ、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を行い、基地局装置2から基地局装置2のSRAM16に記憶されたエフェメリスをダウンロードする、という点が読み取れる。
したがって、上記記載事項1?3によれば、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「GPS衛星からのL1帯の電波を受信する衛星電波受信部13、外部の基地局装置2からエフェメリスをダウンロードする無線データ送受信部26、無線データ送受信部26がダウンロードしたエフェメリスを記憶するSRAM16、衛星電波受信部13の受信信号及びSRAM16に記憶されたエフェメリスに基づき現在位置を計測する信号処理部14、からなる測位装置1と、GPS衛星からの電波を受信する衛星電波受信部13、衛星電波受信部13の受信信号から得たエフェメリスを記憶するSRAM16、保有するエフェメリスを送信する無線データ送受信部26、からなる基地局装置2とで構成され、測位装置1に、SRAM16に記憶されているエフェメリスが有効であるか否かに基づいて、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を開始するか否かを判断する手段を設け、当該手段は、SRAM16に記憶されているエフェメリスが有効でなければ、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を開始させると判断し、通信を開始させるように判断した場合のみ、測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を行い、基地局装置2から基地局装置2のSRAM16に記憶されたエフェメリスをダウンロードする測位システム。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「GPS衛星からのL1帯の電波」は、本願発明の「GPS衛星から送信される衛星信号」に相当し、同様に、「エフェメリス」は「衛星情報」に、「ダウンロード」は「受信」に、「測位システム」は「位置計測システム」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「測位装置1」は、本願発明の「第1のGPS受信機」に相当し、引用発明の「測位装置1」の構成要素である「衛星電波受信部13」、「無線データ送受信部26」、「SRAM16」、「信号処理部14」及び「測位装置1の無線データ送受信部26と基地局装置2の無線データ送受信部26との間の通信を開始するか否かを判断する手段」は、本願発明の「第1のGPS受信機」の構成要素である「第1の衛星信号受信部」、「第1の通信部」、「第1の衛星情報記憶部」、「位置演算部」及び「第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「基地局装置2」は、本願発明の「第2のGPS受信機」に相当し、引用発明の「基地局装置2」の構成要素である「衛星電波受信部13」、「SRAM16」及び「無線データ送受信部26」は、本願発明の「第2のGPS受信機」の構成要素である「第2の衛星信号受信部」、「第2の衛星情報記憶部」及び「第2の通信部」にそれぞれ相当する。
さらに、「通信開始判断部」の「第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断」を、引用発明のように「エフェメリスが有効であるか否かに基づいて」行うか、本願発明のように「有効なエフェメリスの数に基づいて」行うかの相違はあるものの、ともに「エフェメリスの有効性に基づいて」行うという点では共通している。
してみると、本願発明と引用発明は、
「GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第1の衛星信号受信部、外部から送信された衛星情報を受信する第1の通信部、第1の通信部が受信した衛星情報を記憶する第1の衛星情報記憶部、第1の衛星信号受信部が受信した衛星信号及び第1の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報をもとに現在位置を演算する位置演算部、からなる第1のGPS受信機と、GPS衛星から送信される衛星信号を受信する第2の衛星信号受信部、第2の衛星信号受信部が受信した衛星信号から得た衛星情報を記憶する第2の衛星情報記憶部、及び第1の通信部との間で通信を行い、第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を第1の通信部に送信する第2の通信部、からなる第2のGPS受信機とで構成され、第1のGPS受信機に、第1の衛星情報記憶部に記憶されているエフェメリスの有効性に基づいて、第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を設け、通信開始判断部は、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行い、第2のGPS受信機から第2の衛星情報記憶部に記憶された衛星情報を取得する位置計測システム。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
第1及び第2の通信部の間の通信を開始するか否かを判断する通信開始判断部を、本願発明では、「有効なエフェメリスの数に基づ」き、「有効なエフェメリスの数が基準値よりも少なければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し、通信を開始するように判断した場合のみ、第1の通信部と第2の通信部との間で通信を行」うのに対して、引用発明では、「エフェメリスの有効性に基づ」き、「記憶されているエフェメリスが有効でなければ、第1及び第2の通信部の間の通信を開始させると判断し」ているにとどまり、エフェメリスの有効性を具体的にどう判断しているのか、不明であって、本願発明のような上記上記構成を具備するかどうかは不明である点。

4.判断
上記<相違点>について検討する。
衛星情報を取得する位置計測の技術分野において、GPSにより測位を行う上で最低限必要な衛星数が決まってくることは技術常識であって(例えば、二次元位置測位で3個以上、三次元位置測位の場合は4個以上)、GPS受信機においては、当該必要数の衛星を捕捉・追尾するとともにそれらに必要な衛星数のエフェメリスを取得して測位を行うようにすることは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-31061号公報(特に、段落【0005】の「GPS受信機7は、可視位置を周回している少なくとも4つ以上のGPS衛星を選択し、それらの衛星を追尾して衛星が送信する電波を復調し、航法メッセージを収集する。そして、航法メッセージから、測位に必要な正確な軌道情報(エフェメリス)を取り出し、衛星の位置を計算する。」なる記載。段落【0024】の「GPS受信機2は、測位に必要な個数の衛星を追尾し、航法メッセージから取得した時刻情報を基に、受信機内部のカウンタで衛星から受信機までの伝搬時間を測定すると、GPS基地局から取得した有効なエフェメリスを使用して、直ぐに連立方程式(1)により測位演算を実行し、受信機の位置を算出する。」なる記載を参照。)や、特開2002-26631号公報(特に、段落【0003】の「GPS受信機における処理タスクは、概ね以下のとおりである。まず、GPS受信機の電源をオンにすると、最初に、衛星からのアルマナックを受信して捕捉・追尾すべき複数の衛星(二次元位置測位で3個以上、三次元位置測位の場合は4個以上)を特定し、次に、特定された衛星からのエフェメリスを受信して、各衛星までの疑似距離や疑似距離変化率などのデータを収集した後、最後に、各衛星のエフェメリス、疑似距離及び疑似距離変化率に基づいて、自己位置(GPS受信機の位置)を求めるための測位演算を行うという流れになる。」なる記載を参照。)にみられるように周知技術である。
そして、引用発明の測位装置1においても、「衛星電波受信部13の受信信号及びSRAM16に記憶されたエフェメリスに基づき現在位置を計測する」構成とされているところ、上記技術常識を勘案すれば、「・・・エフェメリスに基づき現在位置を計測する」上で、測位装置のSRAM16に記憶されている有効なエフェメリスの数が、測位に最低限必要な衛星数だけ存在していなければならない(すなわち、有効なエフェメリスの数が、測位に最低限必要な衛星数だけ存在していなければ、「・・・エフェメリスに基づき現在位置を計測する」ことはできない)ことは、当業者にとって明らかである。
してみると、引用発明の測位装置1におけるエフェメリスの有効性の判断に関し、上記周知技術を適用して、測位に最低限必要な衛星数を基準値として、記憶されている有効なエフェメリスの数をその基準値と比較することによりその有効性を判断するようにし、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到しうるというべきである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲内のものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-03 
結審通知日 2008-10-07 
審決日 2008-10-28 
出願番号 特願2002-158078(P2002-158078)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 575- Z (G01S)
P 1 8・ 561- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 山田 昭次
特許庁審判官 山下 雅人
飯野 茂
発明の名称 位置計測システム  
代理人 西川 惠清  
代理人 森 厚夫  

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