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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1189656
審判番号 不服2007-12965  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2008-12-11 
事件の表示 特願2002-136311「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月19日出願公開、特開2003-330022〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成14年5月10日の出願であって、平成18年8月10日に手続補正がなされ、平成19年3月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年5月25日に手続補正がなされたものである。

第2 平成19年5月25日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年5月25日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の内容・目的
本件補正は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前に、
「【請求項1】
液晶層に電圧を印加するための電極を備えた基板対と、基板対の間に挟持された捩れ配向を有する液晶層と、偏光板、第1の半波長板、及び遅相軸方向が基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向にほぼ平行であり、かつリタデーションが140nmより小さい第1の1/4波長板からなる楕円偏光板と、可視光域の光を反射する反射鏡からなる反射型の液晶表示素子を備えた液晶表示装置において、
液晶層の捩れ角が63°以上77°以下であり、かつ偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が5°以上25°以下または65°以上85°以下であり、かつ第1の半波長板の遅相軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ1+45°(ただし、偏光板の透過軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ1+45°)であり、かつ第1の1/4波長板のリタデーションをRe(単位はnm)、第1の半波長板のリタデーションをRe'(単位はnm)とした時、液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が120nm以上であり、かつ式1で与えられる値(単位はnm)以下であることを特徴とする液晶表示装置。
【数1】


【請求項2】
前記液晶層の捩れ角は、65°以上75°以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が10°以上20°以下、または70°以上80°以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積が130nm以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液晶表示装置。
【請求項5】
第2の偏光板、第2の半波長板及び第2の1/4波長板からなる第2の楕円偏光板と、前記基板対の間に挟持された捩れ配向を有する第2の液晶層からなる透過型の液晶表示領域を一つの画素領域にさらに備え、かつ当該第2の1/4波長板の遅相軸方向が、基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に対して-15°以上+15°以下であり、かつ第2の1/4波長板のリタデーションが140nm以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記第2の1/4波長板の遅相軸方向が、基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に対して-10°以上+10°以下であることを特徴とする請求項5記載の液晶表示装置

【請求項7】
前記第2の偏光板の透過軸方向と前記第2の半波長板の遅相軸方向のなす角θ2が63°以上70°以下、または20°以上27°以下であり、かつ第2の半波長板の遅相軸方向と第2の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ2+45°(ただし、第2の偏光板の透過軸方向と第2の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ2+45°)であることを特徴とする請求項5又は6記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記第2の1/4波長板がハイブリッド配向液晶フィルムであることを特徴とする請求項5、6又は7記載の液晶表示装置。」
とあったものを、

「【請求項1】
液晶層に電圧を印加するための電極を備えた基板対と、基板対の間に挟持された捩れ配向を有する液晶層と、偏光板、第1の半波長板、及び遅相軸方向が基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向にほぼ平行であり、かつリタデーションが140nmより小さく対象波長の1/4より小さい第1の1/4波長板からなる楕円偏光板と、可視光域の光を反射する反射鏡からなる反射型の液晶表示素子を備えた液晶表示装置において、
液晶層の捩れ角が65°以上75°以下であり、かつ偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が10°以上20°以下、または70°以上80°以下であり、かつ第1の半波長板の遅相軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ1+45°(ただし、偏光板の透過軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ1+45°)であり、かつ第1の1/4波長板のリタデーションをRe(単位はnm)、第1の半波長板のリタデーションをRe'(単位はnm)とした時、液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が130nm以上であり、かつ式1で与えられる値(単位はnm)以下であることを特徴とする液晶表示装置。
【数1】


【請求項2】
第2の偏光板、第2の半波長板及び第2の1/4波長板からなる第2の楕円偏光板と、前記基板対の間に挟持された捩れ配向を有する第2の液晶層からなる透過型の液晶表示領域を一つの画素領域にさらに備え、かつ当該第2の1/4波長板の遅相軸方向が、基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に対して-15°以上+15°以下であり、かつ第2の1/4波長板のリタデーションが140nm以下であることを特徴とする請求項1記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記第2の1/4波長板の遅相軸方向が、基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に対して-10°以上+10°以下であることを特徴とする請求項2記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記第2の偏光板の透過軸方向と前記第2の半波長板の遅相軸方向のなす角θ2が63°以上70°以下、または20°以上27°以下であり、かつ第2の半波長板の遅相軸方向と第2の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ2+45°(ただし、第2の偏光板の透過軸方向と第2の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ2+45°)であることを特徴とする請求項2又は3記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記第2の1/4波長板がハイブリッド配向液晶フィルムであることを特徴とする請求項2、3又は4記載の液晶表示装置。」
と補正するものである。

上記補正は、本件補正前の(以下、単に「旧」という。)請求項1において、その発明特定事項である「液晶層の捩れ角」の範囲「63°以上77°以下」を旧請求項2において特定されていた範囲「65°以上75°以下」に限定し、同じくその発明特定事項である「偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1」の範囲「5°以上25°以下または65°以上85°以下」を旧請求項3において特定されていた範囲「10°以上20°以下、または70°以上80°以下」に限定し、同じくその発明特定事項である「液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)」の下限「120nm」を旧請求項4において特定されていた下限「130nm」としてその範囲を限定し、同じくその発明特定事項である「第1の1/4波長板」の「リタデーション」について、「対象波長の1/4より小さい」との限定を付加して、新たな請求項1とする内容を含んでいる。

上記本件補正後の請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開第98/48320号(以下「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「発明の開示
本発明の目的は、高解像度表示可能な1枚偏光板方式の反射型液晶表示装置の問題点を解決し、コントラスト比が高く見やすい視認性に優れたカラー表示可能な反射型液晶表示装置・・・(略)・・・を提供することにある。
上記の目的を達成するために、本願発明の反射型液晶表示装置は、光反射性を有する第1の基板と光透過性を有する第2の基板とに挟持され、誘電率異方性が正でツイスト配向されたネマティック液晶からなる液晶層と、直線偏光板(以下、偏光板)を有し、自然光から左右廻りいずれかの円偏光を選択的に透過する円偏光手段とを備え、少なくとも上記の第1の基板、液晶層、円偏光手段がこの順に積層配置されて構成され、前記円偏光手段に自然光が入射した場合に円偏光を出射する円偏光手段における主面が前記液晶層側に設置されるとともに、該液晶層の液晶の複屈折率差と液晶層厚との積が150nm以上350nm以下であり、かつ、該液晶層のツイスト角が45度から100度の範囲である構成である。
この反射型液晶表示装置は、本願発明者らが、視差を生じない構成が可能で高解像度表示を実現可能な1枚偏光板方式の反射型液晶表示装置において、明状態と暗状態の実現に必要な反射板上での異なる偏光状態を電気的に切り替え可能なものを各種検討した結果、液晶層に電圧を印加した状態で液晶表示装置の暗状態を実現するように円偏光手段を備えて構成することにより、液晶層の製造工程に高い精度を要求することなく良好な暗状態を実現可能なものを見出したものである。
さらに、このような偏光状態を実現する円偏光手段を用いて電圧の低い状態で十分な明状態を実現するもののうち、液晶層を上記のように設計することで、上記従来技術よりもより容易に製造可能な反射型液晶表示装置を見出したものである。
すなわち、上記の構成によれば、円偏光手段と液晶層とを採用し、それらの配置関係を上記のようにすることにより、従来の構成における課題を解決し、表示特性に優れた反射型液晶表示装置の実現が可能となる。
また、上記の反射型液晶表示装置においては、円偏光手段が、液晶層側からこの順に配置された、基板法線方向のリタデーションが100nm以上180nm以下に設定された第1の光学位相差補償板と、基板法線方向のリタデーションが200nm以上360nm以下に設定された第2の光学位相差補償板と、偏光板とからなり、かつ、偏光板の透過軸又は吸収軸と第1の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度をθ1として偏光板の透過軸又は吸収軸と第2の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度をθ2としたとき|2×θ2-θ1|の値が35度以上55度以下である構成とすることが望ましい。
この望ましい構成は、前述したような偏光状態を実現する円偏光手段の構成として、偏光板と光学位相差補償板との構成を見出したものであり、このような構成の円偏光手段では、実質的な可視波長領域の光を円偏光に変換できる。なお、偏光板の透過軸と吸収軸とは、互いに直交する関係にあるものである。」(9頁1行?10頁21行)

(2)「〔発明の第1の実施の形態〕
以下に、本発明の実施の一形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明による実施形態の反射型液晶表示装置の概略構成を示す要部断面図である。図1に示すように、この反射型液晶表示装置は、配向処理された配向膜2の形成された基板4と、同様に配向処理された配向膜3の形成された基板5とによって、正の誘電異方性を有するツイストされたねじれネマティック液晶が挟持されてなる液晶層1を備える。そして、下部の基板5上には、光反射膜7が配置されており、その光反射膜7の反射面は反射光の偏光性を保存する程度に滑らかな凹凸形状とすることが好ましい。さらに、その滑らかな凹凸形状は、光反射膜7の反射面で、方向によって異なる凹凸周期のものが好ましい。
上部の基板4には透明電極6が形成され、下部の基板5上の光反射膜7が導電性材料により形成され電極の機能も果たし、これら透明電極6と光反射膜7とによって液晶層1に電圧が印加される。このように構成された電極対への電圧印加手段として、アクティブ素子等が用いられてもよいが、特には限定しない。なお、光反射膜7が電極として機能しないものを用いた場合には、基板5側に別途電極を設ければ良い。
そして、このように基板4,5及び液晶層1から構成される液晶駆動セルの基板4側の表示面上には、自然光から左右廻りいずれかの円偏光を選択的に透過する円偏光手段100が備えられている。本実施形態においてこの円偏光手段100は、基板4側の表示面上にこの順に積層配置された、光学位相差補償板8、光学位相差補償板9、及び偏光板10から構成される。
以下、光学位相差補償板8、光学位相差補償板9、及び偏光板10の各光学素子の光学特性とその作用について説明する。
本実施形態の反射型液晶表示装置は、液晶層1に偏光板10を通して外光等の照明光が入射され、照明光が入射された偏光板10側から観察されるものである。この偏光板10によって特定の方位の直線偏光成分のみが選択的に透過され、その入射直線偏光は光学位相差補償板9と光学位相差補償板8とによって偏光状態が変更される。
ここで、光学位相差補償板8の基板法線方向のリタデーションが100nm以上180nm以下であり、光学位相差補償板9の基板法線方向のリタデーションが200nm以上360nm以下であり、かつ、偏光板10の透過軸又は吸収軸と光学位相差補償板8の遅相軸とのなす角度をθ1として偏光板10の透過軸又は吸収軸と第2の光学位相差補償板9の遅相軸とのなす角度をθ2としたとき|2×θ2-θ1|の値が35度以上55度以下とすると、光学位相差補償板8を通過した後の入射光は概ね円偏光になる。このとき、左右のどちらの円偏光になるかはこれらの3つの光学素子(光学位相差補償板8,光学位相差補償板9,偏光板10)の配置に依存する。
このことについて、一例として図2に示すように配置した場合について、より詳細に説明する。ただし、この例では、反射型液晶表示装置の入射光の方位から観察したものである。図2に示すように、偏光板10の透過軸を11、光学位相差補償板8の遅相軸を13、光学位相差補償板9の遅相軸を12とし、偏光板10の透過軸11と光学位相差補償板8の遅相軸13とのなす角度をθ1、偏光板10の透過軸11と光学位相差補償板9の遅相軸12とのなす角度をθ2とし、それぞれが、θ1=75゜、θ2=15゜になるように配置すると、液晶表示装置に入射した光は偏光板10と光学位相差補償板9および光学位相差補償板8を通過して、入射光は概ね右回り円偏光に近い偏光になる。
そして、液晶層1に入射された入射光は、印加された電圧に対応して配列した液晶層1の捩じれた複屈折媒体(液晶)による偏光変換作用にしたがって偏光状態を変化させて反射板に到達する。このとき、光反射膜7上での偏光状態は液晶分子の配向によって異なる状態に実現される。
まず、暗状態について説明する。電圧印加時に液晶分子の配向状態が電圧印加方向に並び、装置の法線方向に進む光に対して偏光変換作用を持たない場合には、円偏光になった入射光は偏光の変化を伴わずに光反射膜7に到達するので、暗状態が実現される。この暗状態を可視波長領域全域で成立させることができれば、黒表示が実現されることになる。
これに近い偏光状態を、実質的に可視波長領域で準備するために、本願発明者らは次のような条件が必要であることを見出した。すなわち、光学位相差補償板8は、主たる可視波長である400nmから700nmの光に対して四分の1波長だけの位相差を与えることのできる位相差、つまり波長550nmの光に対するリタデーションで100nmから180nmの特性とする。そして、光学位相差補償板9は、同様の範囲の可視波長に対して二分の1波長だけの位相差を与えることのできる位相差、つまり波長550nmの光に対するリタデーションで200nmから360nmの特性とする。
そして、図2に示す偏光板10と光学位相差補償板8,9の配置では、前述のとおり、θ1=75゜、θ2=15゜としたので、|2×θ2-θ1|=45゜なので、下式の条件を満たす。
35゜≦|2×θ2-θ1|≦55゜ …(1)
この条件を満たす範囲でθ1、θ2の各値を変更可能であることは言うまでもないが、その具体的な値は、用いる光学位相差補償板8,9の2枚の複屈折の波長分散の組み合わせによって決定するのが望ましい。また、式(1)の角度設定によると、|2×θ2-θ1|の値の範囲が20度あるが、この範囲でどの値を取るのが良いかは、さらに、液晶層1に電圧を印加した場合の液晶層1の偏光変換作用に依存している。すなわち、光学位相差補償板8,9と液晶層1の複屈折を含めて、光反射膜7上で円偏光になるように設定するのが望ましい。このとき、十分に電圧を印加した状態の液晶層1の偏光変換作用は、液晶層1の作製精度に大きくは依存しないため、液晶層1の作製・製造が容易である。
次に、明状態の作用について説明する。前述の式(1)のように設定された光学位相差補償板8,9によって、概ね円偏光になっている入射光を光反射膜7上で直線偏光にすることによって明状態が実現されるが、このときの直線偏光の光電界の振動方位は、光反射膜7平面内で任意である。つまり、可視波長の光が、波長によって異なる方位の直線偏光になっていても、あるいはすべて同じ方位の直線偏光になっていても、同様に明るい明状態が実現される。
これにより、上記暗状態を実現するために概ね円偏光にした液晶層1への入射光を、可視波長範囲で任意の方位の直線偏光にするような液晶層1の光学的作用を実現することが肝要である。
液晶層1が作製及び製造の容易な上記の電気的駆動を考慮すると、暗状態が電圧印加状態により実現されるので、明状態は、電圧の印加されていない状態にて実現するか、もしくは、電圧によって液晶分子の配向状態が変化しているが暗状態とは大きく異なる配向の状態で実現することが必要である。
鋭意検討を重ねた結果、本願発明者らは、明状態の作用を実用上十分な範囲、つまり、可視波長域での十分な明度が確保でき、かつ、容易かつ高歩留まりに製造可能な液晶表示装置に適する液晶組成物の開発が可能な範囲を見出した。
その具体的条件は、液晶層1のねじれネマティック液晶のツイスト角が45度以上100度以下とすることである。そして、その液晶の複屈折率差Δnと液晶層1の厚さdとの積のΔnd値で150nm以上350nm以下の範囲とすることである。」(19頁下から4行目?24頁4行)

(3)「〔実施例1〕
まずは、実施例1として、液晶層の光学的な作用を考慮した具体的な設計を行うために、本願発明者らが、計算によって液晶層の設定を検討した経緯を説明する。まず、液晶層の設定の最適化にあたり、式(2)に示す評価関数を用いて液晶層の設定を検討した。
f=1-s_(3)^(2) ……(2)
ここで、s_(3)は、偏光状態を指定するストークスパラメータであり、液晶層を一度だけ透過する光の、反射面上の偏光状態に関するストークスパラメータである。なお、ストークスパラメータは、ここでは規格化されたものを用いている。
偏光状態が記述できる完全偏光は、光の強度を規格化した場合、3つの成分を有するストークスパラメータで偏光状態が記述でき、互いに45度振動面の異なった直線偏光を表すs_(1)およびs_(2)と、円偏光成分を表すs_(3)によって指定される。s_(1、)s_(2、)s_(3)は、-1以上1以下の値を取り、特にs_(3)は、円偏光の場合には±1、直線偏光の場合には0、楕円偏光の場合にはこれらの中間の値を取る。
即ち、評価関数fは、s_(3)を二乗することにより偏光の回転方向に関係なく、反射面上での偏光状態によって、円偏光になる場合はf=0、楕円偏光になる場合は0<f<1、直線偏光になる場合はf=1に分類できる。
本願発明者らは、1枚の偏光板と鏡面反射を示す反射面によって挟まれた任意の複屈折媒体に偏光板側から光が入射した場合、反射板上でf=0(円偏光)の時には、反射した光は、入射時に通過した偏光板によってすべて吸収され、f=1の場合には、該偏光板によって吸収されることなく通過できることを、解析的な検討によって確認している。評価関数fがこの中間の値をとる場合には、反射光の一部は偏光板によって吸収され、残りの反射光は偏光板を透過し、中間の反射率の表示となる。
さらに、上記の評価関数fが、このような1枚の偏光板を用いて反射板で入射光を反射させる反射型液晶表示装置の反射率に比例し、1枚偏光板方式の反射率が評価できることを見出している。従って、この評価関数fによって、明表示において良好な明るさが得られるかどうかと、良好な暗状態が得られるかどうかとを共に評価することが可能である。
このように、評価関数fによって、表示性能が予測可能であることから、1枚の偏光板方式の最も良好な性能が期待できる液晶表示方式を鋭意検討した。次にその具体的な手法について説明する。
まず、液晶表示装置を作製するに当たり、量産性に関する考察を行った。特に、液晶表示装置の光学特性を決定する液晶層厚の保持精度が、量産性に大きな影響を与えるため、これに関して考察を行った。
この液晶層厚の保持方法としては、液晶層を挟持する基板の間に一定の粒径で作製された球状スペーサーを設ける方法が最も精度と実用性のバランスが優れている。しかし、この方法によっても、量産工程において高い精度を要求することは量産コストの上昇を招く。このことから、液晶層厚の精度が必要でない方法を検討することが産業上重要である。
また、作製された液晶表示装置の表示品位に関しては、人の視覚の特徴を考慮することが重要である。即ち、人の視覚は、実際に眼球の網膜を刺激する光の強度と認知される明度とは比例関係にはなく、非線型特性を有していることが知られている。つまり、表示装置の光強度の一定量の変動に対しても、同時に網膜に加わっている刺激の強弱によって小さな明度の変動のように感じられたり(背景が強い刺激の場合)、大きな明度の変調に感じられたり(背景が弱い刺激の場合)する。このような視覚の非線型特性を考慮すると、反射率のムラが同程度であっても、それが明表示に生じる場合に比較して、暗表示に生じる場合のほうが、表示品位の低下が大きい。
このことから、反射率のむらが大きい状態と小さな状態が存在する場合には、反射率のむらが小さい状態を暗表示に割り当て、反射率のむらが大きい状態を明表示に割り当てることが、良好な表示品位の液晶表示素子を作製する点から望ましい。
さらに、液晶層に十分に電圧を印加して偏光変換作用が消失した場合のほうが、液晶層厚のむらが偏光変換作用の大きな変動になり難い。
以上の3点を考慮し、電圧が充分に加えられた配向状態を暗表示に割り当てることによって、良好な表示が得られることが考察される。つまり、液晶に電圧が印加されていない状態を明表示に設定し、電圧を印加した場合を暗表示に設定すること、いわゆるノーマリーホワイト表示が望ましい。
次に、この設定を実現する光学位相差補償板の設定と液晶層部分の設定に関して、評価関数fに基づいて説明する。
まず、液晶層に十分に電圧が印加された場合に関しては、液晶層には偏光変換作用が無い。光学位相差補償板に必要な特性は、そのような液晶層を通過して反射板上に到達した反射板上で、円偏光にする特性である。ここに、円偏光の回転方向は、どちらであってもよい。
光学位相差補償板に関する前述の設定によって、広い波長帯域でこの特性を実現可能である。このとき、液晶の偏光変換作用が消失しているため、評価関数fは0となり、良好な暗状態になる。
一方、液晶層に電圧が印加されない場合において、十分な反射明度が得られる条件を検討するためには、このような円偏光を生じる光学位相差補償板の設定において、この評価関数fを評価する必要がある。本願発明者らは、液晶層に電圧が印加されない状態で、液晶層が一様にツイストした配向に対して評価関数fを求めた。その結果、液晶に円偏光が入射した場合には、評価関数fは、式(3)となることが、Jones Matrix 法によってs_(3)を解析的に計算することによって明らかとなった。


図3に、視感度が最も高い波長(λ=550nm)での評価関数fの値を、液晶層の設計パラメータであるΔndとツイスト角に関して、等値線図にして示す。なお、ツイスト角Φ_(tw)に関して、fが偶関数であることから、ツイスト角は正の値についてのみfを記載しているが、実際の液晶配向の捩じれ方向が左右どちらであっても良いことは言うまでもない。
図3は、単一波長(550nm)での値であるが、可視波長である380nmから780nmの波長に関しても、同様の方法で評価できる。すなわち、550nm以外の波長の入射光に対しては、評価関数fの変数のうちΔnとλのみが変更されることを考慮すればよい。
このように波長によって視覚の感度が異なる効果を考慮して、視感度と標準的な照明光源を仮定してfとの重なり積分をとることにより、さらに精密な最適化が可能になる。つまり、前述の式(3)に、視感度曲線(CIE1931等色関数のy_(BAR)(λ))およびD65標準光源のスペクトル密度S_(D65)(λ)を用いて、式(4)と定義することが有効である。


ここに、f(λ)は、式(3)によって計算されるが、波長λに依存した値を持つことを明示している。
このように定義されたf_(vis)を、図3と同様にΔndおよびツイスト角に対して計算したものが、図4である。ここで、Δnの波長分散を考慮した計算をしており、縦軸のΔndは、550nmの波長の光における値である。
さらに、式(2)による評価関数fが表示の反射率に比例した値を示すため、式(4)の等色関数y_(BAR)(λ)をCIE1931に同様に規定されているx_(BAR)(λ)、z_(BAR)(λ)に変更することによって、色度の計算が可能になる。これより、D65光源での色度(x、y)を図4と同様のパラメータに対して計算を行った。この結果をx、yそれぞれ図5、図6に示す。
以上のような検討によって、十分な視感反射率(f_(vis)が0.7以上)で、白表示における良好な色相(xが0.27以上0.35以下で、かつyが0.28以上0.36以下)の条件を設定し、これに適うΔndとツイスト色の範囲を求めた。この結果を図7に示す。
以上のように、十分な明度と色相を得るために必要な液晶層のパラメータの範囲が定まるが、液晶層の設定には、更に、液晶材料と液晶層厚の設定による制限も存在する。このため、図7の斜線に示した範囲のすべてが実用的とは限らない。また、この範囲から若干外れた範囲であっても良好な条件が存在する。この点に関して、更に詳細に説明する。
液晶材料の光学的な物性値であるΔnと、液晶材料の使用可能な温度範囲には、一定の相関があることが知られている。すなわち、実用に付される液晶材料は、一般に複数の化合物のブレンドによって必要な特性に調整されるが、この際のブレンド比率を変更してΔnを小さくすると、ネマティック相の得られる温度範囲が狭くなる。このような場合、液晶表示装置の使用温度範囲や、保存温度範囲を著しく狭める困難がある。つまり、ネマティック層が安定して得られる温度範囲の観点から、液晶材料Δnには、下限が存在する。このような理由により、室温におけるΔnは、必要な温度範囲等に依存するものの、概ね0.05以上、望ましくは0.065以上の値が要求される。
また、液晶層の層厚は、液晶表示装置の作製工程の異物等に起因する不良発生率の問題や、液晶を駆動するための素子の作製段差、用いる基板の平面度数から制限がある。さらに、本願発明の一部の構成に用いる場合には、液晶層に近接して配置される凹凸拡散反射板の凹凸形状の点からも制限がある。
液晶層の層厚としては、透過型液晶表示装置の場合には、概ね5μm前後の値が用いられており、生産技術が確立している。しかし、液晶層の層厚をこれよりも著しく小さくすることは、多大な困難を伴い、実用性に乏しい。これにより、液晶層厚は、概ね3μm以上、望ましくは4μm以上にて作製することが有用である。
以上の観点から、液晶の屈折率差Δnと液晶層厚dの積であるΔndの下限を150nm、望ましくは、260nm以上にすることが有用である。
さらに、実際の液晶表示装置の駆動状態の液晶においては、閾値特性を示す液晶の閾値付近以上の電圧を印加して駆動することが多い。このとき、閾値程度の印加電圧において、液晶は全く電圧が印加されていない状態から若干傾斜しており、この若干傾斜した状態での基板法線方向の屈折率差が、実際の表示に表れる。
このことから、液晶材料によってきまるΔnは、この傾斜した液晶に関する実効的なΔnよりも10%程度大きな値を取りうる。なお、液晶の閾値以下での表示も可能であるため、このΔndの値の変更をΔndの下限には適用しないのが適当である。
以上のように、実際の液晶層の設定を用いた具体的な計算を行い、1枚偏光板方式の反射型液晶表示装置においては、Δndを150nmからΔndの上限を350nmに、液晶のツイスト角を45度から100度に設定することが有効であることを見出した。」(24頁15行?31頁14行)

(4)「〔実施例2〕
実施例2では、前述の図1に示した構造を有する反射型液晶表示装置を、表1に記載のパラメータにて作製し、5つのサンプル#2a?#2fを得た。


各サンプルの表示結果の概略を表2に示す。


なお、Vthは、各サンプルにおける液晶層1の配向変化が見られる閾値電圧であり、異なるΔndに設定されるために、異なった値をとっている。
以上に示したように、パラメータが本発明の反射型液晶表示装置の範囲に入るサンプル#2a,#2bにおいては、実際に使用する電圧であるVthから3.0×Vthにおいて、白表示から黒表示へと表示が変化した。これに対し、パラメータが本発明の反射型液晶表示装置の範囲に入らないサンプル#2c?#2fにおいては、表示が暗かったり(サンプル#2c,#2f)、表示に着色が見られた(サンプル#2d,#2e)。
表2に示した表示の概略は、偏光板10と光学位相差補償板8,9の相対角度(θ1、θ2)を変更せずに、液晶配向との方向の設定θ3を変更しただけでは、サンプル#2a?#2fに見られるような大きな特性変動は観察されず、むしろ液晶層1部分の設定に依存していることを確認している。」(31頁15行?33頁14行)

(5)「〔実施例4〕
実施例4として、ねじれネマティック液晶のツイスト角を70度に設定した液晶層に、リタデーションが135nmと270nmの光学位相差補償板をそれぞれ1枚用いた例を示す。
実施例4では、前述の図1に示した構造を有する反射型液晶表示装置を作製した。基板5上の光反射膜7は、アルミニウムを用い、光反射性電極とした。又、液晶駆動セルは、液晶導入後に液晶層1の厚さが4.5μm(サンプル#4a)及び4.2μm(サンプル#4b)になるよう調整された70度にツイストされた液晶層1とし、導入した液晶材料は通常のTFT透過型液晶ディスプレイに使用されている液晶と同様の液晶物性(誘電異方性、弾性、ネマティック温度範囲、電圧保持特性)を有していて、Δnだけが0.06に調整されたものを用いた。ここで、液晶層1の厚さと液晶の複屈折率差との積を270nm(サンプル#4a)及び250nm(サンプル#4b)になるように設定した。
本実施例の偏光板の10、光学位相差補償板8、および光学位相差補償板9の配置は、図11に示すように設定した。なお、図11において、11は偏光板の透過軸方位、12は光学位相差補償板9の遅相軸方位、13は光学位相差補償板8の遅相軸方位、14は基板4上に形成された配向膜2に接触する即ち配向膜2近傍の液晶分子の配向の方位、15は基板5上に形成された配向膜3に接触する即ち配向膜3近傍の液晶分子の配向の方位をそれぞれ示し、この図は液晶表示装置の入射光の方位から観察したものである。
そして、これらの配置関係は、図11に示すように、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板8の遅相軸方位13とのなす角度θ1を75゜、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板9の遅相軸方位12とのなす角度θ2を15゜、基板4上の液晶分子の配向方向14と偏光板10の透過軸方位11とのなす角度θ3を45゜としたものである。
光学位相差補償板8と光学位相差補償板9とは、ともにポリビニールアルコール製の延伸フィルムからなり、光学位相差補償板8は波長550nmの面法線方向の透過光に対して130nmから140nmに制御された位相差を持ち、光学位相差補償板9は同様の光に対して265nmから275nmに制御された位相差を持つ。」(36頁7行?37頁15行)

(6)「〔実施例5〕
実施例5として、ねじれネマティック液晶のツイスト角を70度に設定した液晶層に、リタデーションが135nmと270nmの光学位相差補償板をそれぞれ1枚用いた例を示す。
実施例5では、前述の図1に示した構造を有する反射型液晶表示装置を作製した。基板5上の光反射膜7は、アルミニウムを用い、光反射性電極とした。また、液晶駆動セルは、液晶導入後に液晶層1の厚さが4.5μmになるよう調整された70度にツイストされた液晶層1とし、導入した液晶材料は通常のTFT透過型液晶ディスプレイに使用されている液晶と同様の液晶物性(誘電異方性、弾性、粘性、温度特性、電圧保持特性)を有していて、Δnだけが0.0667に調整されたものを用いた。ここで、液晶層1の厚さと液晶の複屈折率差との積を300nmになるように設定した。
本実施例の偏光板10、光学位相差補償板8、及び光学位相差補償板9の配置は、図12(a),(b)に示すように、2種類の設定をして、2種類のサンプルを作製した。なお、図12(a),(b)において、前述の図8と同様に、11は偏光板10の透過軸方位、12は光学位相差補償板9の遅相軸方位、13は光学位相差補償板8の遅相軸方位、14は基板4上に形成された配向膜2に接触する即ち配向膜2近傍の液晶分子の配向の方位、15は基板5上に形成された配向膜3に接触する即ち配向膜3近傍の液晶分子の配向の方位をそれぞれ示し、この図は液晶表示装置の入射光の方位から観察したものである。
そして、一つのサンプルでの配置関係は、図12(a)に示すように、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板8の遅相軸方位13とのなす角度θ1を75゜、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板9の遅相軸方位12とのなす角度θ2を15゜、基板4上の液晶分子の配向方向14と偏光板10の透過軸方位11とのなす角度θ3を40゜としたものであり、このサンプルをサンプル#5aとする。
他方のサンプルでの配置関係は、図12(b)に示すように、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板8の遅相軸方位13とのなす角度θ1を75゜、偏光板10の透過軸方位11と光学位相差補償板9の遅相軸方位12とのなす角度θ2を15゜、基板4上の液晶分子の配向方向14と偏光板10の透過軸方位11とのなす角度θ3を130゜としたものであり、このサンプルをサンプル#5bとする。すなわち、サンプル#5aとサンプル#5bとは、θ3が異なり、θ1及びθ2は同じである。
なお、これらのサンプル#5a,#5bは、上記実施例3と同様に、光学位相差補償板8,9がともにポリビニールアルコール製の延伸フィルムからなり、光学位相差補償板8が波長550nmの面法線方向の透過光に対して130nmから140nmに制御された位相差を持ち、光学位相差補償板9が同様の光に対して265nmから275nmに制御された位相差を持つものである。また、偏光板10には、誘電体多層膜によるAR層を有する単体内部透過率が45%の偏光板を用いた。
以上のような構成の反射型液晶表示装置(サンプル#5a,#5b)の反射率の電圧依存性を示すグラフを図13に示す。図13において、曲線13-1はサンブル#5aの測定結果、曲線13-2はサンプル#5bの測定結果をそれぞれ示す。なお、この反射率は、上記実施例3と同様に図10に示す測定光学系の配置にて測定されたもので、100%は上記実施例3と同様に設定した。図13に示す測定結果から、1.5V程度以下の低い駆動電圧で、高い反射率が得られたことがわかり、中でも曲線13-1で示されるサンプル#5aの方が高い反射率が得られた。
また、以上のような実施例5の反射型液晶表示装置(サンプル#5a,#5b)及び前述の実施例3の反射型液晶表示装置について、電圧反射率特性を調べた結果を表4に示す。


表4から、いずれにおいても十分な明状態の反射率と、コントラスト比が実現されたことがわかり、目視観察においても良好な反射型液晶表示装置であった。
なお、表4において、コントラスト比は、明状態の反射率を暗状態の反射率で除して定義したものである。ここで、明状態の印加電圧は、各実施例毎に最も反射率の高い電圧を用い、暗状態は、印加電圧を3Vに設定した。」(40頁4行?42頁22行)

(7)「〔発明の第2の実施の形態〕
以下に、本発明の実施の他の形態について、図面を参照して説明する。
尚、説明の便宜上、前記実施の形態にて示した部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記し、その説明を省略する。
これまでは、液晶層に電圧を十分に印加した場合に関しては、液晶層に偏光変換作用がなく、このような近似の下に良好な特性が得られた例を記載したが、さらに、液晶に印加される電圧が有限の電圧にとどまることを考慮して、詳細な最適化を行うことが有効である。
つまり、前述の図1を参照して説明すると、液晶に印加される電圧の最大値において黒表示を実現するが、このときの液晶は、全く基板法線方向に向いているのではなく、液晶の配向には基板4,5に平行な成分が残る効果を考慮する。これを考慮した暗表示の条件は、これまでと同様に、液晶に実用上の最大電圧を印加した状態において、偏光板10から入射した光が、光学位相差補償板8,9と液晶層1を共に通過した段階で円偏光になることである。
このとき液晶層1には、実用上の最大電圧が印加されているため、ほぼ偏光変換作用が生じない状態になっているものの、液晶配向の基板に平行な成分にしたがって若干の偏光変換作用(以後、残留位相差と称する)が残っており、これに合わせて、光学位相差補償板8,9をこれまでの条件から若干変更することによって、実用上の最大電圧で良好な暗表示が実現する。
一方、このようにして良好な暗表示を実現するように最適化された光学位相差補償板8,9と液晶層1の配向を用いて良好な明表示を得る条件は、同様に、反射板3面上での偏光状態が直線偏光であることであるが、それを実現する液晶層1の設計パラメータは、これまでの液晶の残留複屈折が無視できる程度に十分な電圧が印加可能であった場合に準じている。
つまり、液晶の残留位相差に合わせて若干の変更を受けた光学位相差補償板8,9を用いた場合、液晶層1の設定は、変更以前の液晶層1の設定から大きくずれることはなく、これまでの設定に基づく探索が可能である。
図25に、本実施形態の反射型液晶表示装置の概略構成を示す。図25に示すように、この反射型液晶表示装置は、前述した実施の形態1の反射型液晶表示装置において、円偏光板100における光学位相差補償板8と基板4との間に、液晶層1の残留位相差をキャンセルするために第3の光学位相差補償板101が配設されている構成である。図26に、この反射型液晶表示装置における3枚の光学位相差補償板8,9,101の配置の一例を示す。
液晶層1の残留位相差は、液晶層1の設定が本願発明に示したツイスト角の設定の中心付近であるツイスト角70度付近では、液晶層1の基板4,5の中央の液晶配向方向に平行な遅相軸の複屈折成分が残留する。これをキャンセルするには、この液晶配向と直交した方位に遅相軸を有する光学位相差補償板を第3の光学位相差補償板101として配置するのが適している。そのリタデーションの量は、液晶に印加される最大電圧に依存するものの、概ね10から50nm前後にすることで、液晶層1の残留位相差をキャンセルできる。」(55頁22行?57頁19行)

(8)「〔実施例11〕
実施例11として、前述の図25に示した構成の反射型液晶表示装置を、表6に記載のパラメータにて作製し、2つのサンプル#11a,#11bを得た。


各サンプル#11a,#11bの電圧反射率曲線を図29に記載する。比較のため、実施例3の反射型液晶表示装置の電圧反射率曲線を記載している。
これから、本実施例のサンプル#11aにおいては、明表示の反射率が若干低下するものの、良好な暗表示が実現していることが分かる。また、サンプル#11bにおいては、明度の低下もなく、良好な暗表示が実現している。
ここで、さらに、光学位相差補償板の使用枚数を削減することによって、さらに低コストなこれらの構成例と同様の液晶表示装置を作製することを目的に、光学位相差補償板101と光学位相差補償板8の2枚の作用を光学位相差補償板1枚で実現するための検討を行った。
このとき、・・・(略)・・・2枚の光学位相差補償板が遅相軸を直交に配置して積層されている場合には、それぞれのリタデーションの差のリタデーションを有する1枚の光学位相差補償板によって代替が可能であることを利用した。
つまり、本実施例のサンプル#11bにおける光学位相差補償板8と光学位相差補償板101は、近接して積層配置され、かつ遅相軸方位が直交して配置されているため、これら2枚の差のリタデーションを有する光学位相差補償板1枚で代替が可能である。・・・(略)・・・さらに、2枚の光学位相差補償板を用いる場合にも、リタデーションの調整によって、同様の効果が実現可能であることを確認した。つまり、実施の駆動を考慮した光学位相差補償板の追加や調整を行うことで、より良好な黒表示が実現できることを確認した。」(59頁15行?62頁20行)

(9)「 請 求 の 範 囲
1.光反射手段を有する第1の基板と光透過性を有する第2の基板とに挟持され、誘電率異方性が正でツイスト配向されたネマティック液晶からなる液晶層と、1枚の直線偏光板を有し、自然光から左右廻りいずれかの円偏光を選択的に透過する円偏光手段とを備え、少なくとも上記の第1の基板、液晶層、円偏光手段がこの順に積層配置されて構成され、前記円偏光手段に自然光が入射した場合に円偏光を出射する該円偏光手段における主面が前記液晶層側に設置されるとともに、該液晶層の液晶の複屈折率差と液晶層厚との積が150nm以上350nm以下であり、かつ、該液晶層のツイスト角が45度から100度の範囲であることを特徴とする反射型液晶表示装置。
2.請求項1に記載の反射型液晶表示装置において、前記円偏光手段が、液晶層側からこの順に配置された、基板法線方向のリタデーションが100nm以上180nm以下に設定された第1の光学位相差補償板と、基板法線方向のリタデーションが200nm以上360nm以下に設定された第2の光学位相差補償板と、直線偏光板とからなり、かつ、前記直線偏光板の透過軸又は吸収軸と前記第1の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度をθ1として前記直線偏光板の透過軸又は吸収軸と前記第2の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度をθ2としたとき|2×θ2-θ1|の値が35度以上55度以下であることを特徴とする反射型液晶表示装置。」(68頁、請求の範囲1ないし2)

(10)図11から、光学位相差補償板8の遅相軸方位13が、一対の基板上にそれぞれ形成された両配向膜近傍の液晶分子の各配向の方向を示す2本の線14,15のなす70°の角の二等分線の方向と5度の角度をなしていることがみてとれ、図12(a)から、光学位相差補償板8の遅相軸方位13が、一対の基板上にそれぞれ形成された両配向膜近傍の液晶分子の各配向の方向を示す2本の線14,15のなす70°の角の二等分線の方向と平行であることがみてとれ、また、サンプル#11aに関する表6(上記(8)参照。)の記載から、図26において、θ1(度)=75、ツイスト角(度)=70、θ3(度)=40であることがわかるから、図26の記載から、光学位相差補償板8の遅相軸方位13は、一対の基板上にそれぞれ形成された両配向膜近傍の液晶分子の各配向の方向を示す2本の線14,15のなす70°の角の二等分線の方向と平行であることがみてとれる。

(11)図4、図5、図6によって良好なホワイトバランスと明度がともに得られる領域を示す図である図7から、ツイスト角70度の場合、良好なホワイトバランスと明度がともに得られる550nmでのΔndの範囲は、約120以上約270以下の範囲であることがみてとれる。

3.引用例の記載から把握される発明

(1)第1の実施の形態の発明
上記2.(1)ないし(6)、(9)及び(10)からみて、引用例には、
「電極の機能も果たす光反射膜からなる光反射手段を有する下部の第1の基板と透明電極を備え光透過性を有する上部の第2の基板とに挟持され、誘電率異方性が正でツイスト配向されたネマティック液晶からなる液晶層と、白表示時に閾値Vth付近の電圧を黒表示時に閾値Vthの3倍の電圧を前記透明電極と前記光反射膜電極を介して前記液晶層に印加する電圧印加手段と、1枚の直線偏光板を有し、自然光から左右廻りいずれかの概ね円偏光を選択的に透過する円偏光手段とを備え、前記の第1の基板、液晶層、円偏光手段がこの順に積層配置されて構成され、前記円偏光手段に自然光が入射した場合に概ね円偏光を出射する該円偏光手段における主面が前記液晶層側に設置されるとともに、該液晶層の液晶の550nmでの複屈折率差Δnが0.06又は0.0667である液晶材料を用い、液晶層厚dを3μm以上の実用的な厚さとして、前記複屈折率差Δnと前記液晶層厚dとの積Δndの範囲を150nm以上350nm以下の範囲となし、かつ、前記液晶層のツイスト角を70度とした反射型液晶表示装置であって、前記円偏光手段が、液晶層側からこの順に配置された、550nmでの基板法線方向のリタデーションが135nmに設定された第1の光学位相差補償板と、550nmでの基板法線方向のリタデーションが270nmに設定された第2の光学位相差補償板と、前記直線偏光板とからなり、第1の光学位相差補償板の遅相軸方位が第1基板上の配向膜近傍の液晶分子の配向の方向を示す線及び第2基板上の配向膜近傍の液晶分子の配向の方向を示す線のなす角の二等分線の方向と平行又は5度の角度をなしており、かつ、前記直線偏光板の透過軸と第1の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度θ1を75度とし、前記直線偏光板の透過軸と第2の光学位相差補償板の遅相軸とのなす角度θ2を15度として、|2×θ2-θ1|の値が35度以上55度以下になるようにし、液晶に電圧を印加した状態で反射率の波長依存性が大きくなく色付きが生じにくい良好な暗状態と電圧の低い状態で可視波長領域での十分な明状態とを実現でき、かつ、従来技術よりもより容易に製造可能にした、反射型液晶表示装置。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)第2の実施形態の発明
上記2.(1)、(7)及び(8)からみて、引用例には、
「液晶層に印加される電圧は有限であるため、黒表示時に前記液晶層に実用上の最大電圧が印加されても前記液晶層には70度にツイストしている液晶層の中央の液晶配向方向に平行な遅相軸の複屈折成分である残留位相差が残ってしまうという、第1の光学位相差補償板のリタデーションが135nmに設定されている引用発明1の反射型液晶表示装置が有する問題点は、30nmの前記実用上の最大電圧に依存して決まるリタデーション値を有し、前記残留位相差の遅相軸に直交した方位に遅相軸を有する第3の光学位相差補償板を配置することにより、前記残留位相差をキャンセルして解決できるが、これでは光学位相差補償板の枚数が増えてしまうので、このように第3の光学位相差補償板を追加する代替として、遅相軸方位が前記残留位相差の遅相軸方向(この方向は引用発明1の二等分線の方向に平行である。)にほぼ平行である前記第1の光学位相差補償板のリタデーションを、引用発明1における設定値(=135nm)と前記第3の光学位相差補償板のリタデーションの値(=30nm)との差(=105nm)のリタデーションに変更した反射型液晶表示装置。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

4.対比

本願補正発明と引用発明1とを対比する。

(1)引用発明1の「第1の基板と第2の基板」、「液晶層」、「直線偏光板」、「550nmでの基板法線方向のリタデーションが270nmに設定された第2の光学位相差補償板」、「『液晶材料』、『ネマティック液晶』及び『液晶分子』」、「550nm」、「550nmでの基板法線方向のリタデーションが135nmに設定された第1の光学位相差補償板」、「自然光が入射した場合に概ね円偏光を出射する円偏光手段」、「光反射膜からなる光反射手段」、「反射型液晶表示装置」、「550nmでの複屈折率差Δn」、「液晶層厚d」、「前記複屈折率差Δnと前記液晶層厚dとの積Δnd」及び「角度θ2」は、それぞれ、本願補正発明の「基板対」、「液晶層」、「偏光板」、「第1の半波長板」、「液晶材料」、「対象波長」、「第1の1/4波長板」、「楕円偏光板」、「反射鏡」、「反射型の液晶表示素子を備えた液晶表示装置」、「複屈折Δn」、「液晶層の厚さd」、「複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)」及び「角θ1」に相当する。

(2)引用発明1において、電圧印加手段は、第2の基板が有する透明電極と第1の基板が有する光反射膜電極を介して液晶層に電圧を印加するのであるから、この「透明電極」及び「光反射膜電極」は「液晶層に電圧を印加するための電極」である。よって、引用発明1の「基板対(第1及び第2の基板)」と本願補正発明の「基板対」とは、「液晶層に電圧を印加するための電極を備えた」点で一致する。

(3)引用発明1の「液晶層」は、第1の基板と第2の基板とに挟持されツイスト配向されたネマティック液晶からなるものであるから、本願補正発明の「液晶層」と、「基板対の間に挟持された捩れ配向を有する」ものである点で一致する。

(4)本願補正発明の第1の1/4波長板の遅相軸方向が基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に「ほぼ平行」であるとの発明特定事項に関しては、本願明細書の段落0033に、「位相差板3と液晶層の一部が広帯域円偏光板の約1/4のリタデーションを持つ位相差板として機能すればよいので、位相差板3の遅相軸方向は厳密に基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向に平行である必要はなく、中線方向に対して±15°、より好ましくは±10°以内であればよい。」と記載されているから、「ほぼ平行」とは両方向のなす角が「15°以内」であればよいものと解される。
引用発明1の「第1の1/4波長板(第1の光学位相差補償板)」は、その遅相軸方位が第1基板上の配向膜近傍の液晶分子の配向の方向を示す線及び第2基板上の配向膜近傍の液晶分子の配向の方向を示す線のなす角の二等分線の方向と平行又は5度の角度をなしているが、このことは、本願補正発明の発明特定事項の「ほぼ平行」の意味を上記のとおり解すと、本願補正発明の「第1の1/4波長板」の遅相軸方向が基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向にほぼ平行であることに相当する。

(5)引用発明1の「第1の1/4波長板」は、その「対象波長(550nm)」での「リタデーション」が135nmに設定されているから、本願補正発明の「第1の1/4波長板」の「リタデーションが140nmより小さく対象波長の1/4より小さい」との技術事項を備えている。

(6)引用発明1の「反射鏡(光反射膜からなる光反射手段)」が「可視光域の光を反射する」ことは、引用発明1が反射型液晶表示装置であることから、当業者に自明である。

(7)引用発明1の「液晶層のツイスト角を70度と」している点は、本願補正発明の「液晶層の捩れ角が65°以上75°以下であり」との発明特定事項と「液晶層の捩れ角が70°であ」る点で一致する。

(8)引用発明1は、「偏光板」の透過軸と「第1の半波長板」の遅相軸とのなす「角θ1(角度θ2)」を「15度」としているから、本願補正発明の「偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が10°以上20°以下であり」との発明特定事項と「偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が15°であ」る点で一致する。

(9)引用発明1において、「偏光板」の透過軸と「第1の半波長板」の遅相軸とのなす「角θ1」は15度(上記(8)参照。)であり、かつ、「偏光板」の透過軸と「第1の1/4波長板」の遅相軸とのなす角度θ1は75度であるから、「第1の半波長板」の遅相軸方向と「第1の1/4波長板」の遅層軸方向のなす角は60度である。よって、引用発明1と本願補正発明とは「第1の半波長板の遅相軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ1+45°(ただし、偏光板の透過軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ1+45°)であ」るとの点で一致する。

(10)引用発明1は、液晶層の液晶の550nmでの複屈折率差Δnと液晶層厚dとの積Δndの範囲を、150nm以上350nm以下の範囲としているから、引用発明1は、本願補正発明の「液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が130nm以上であり」との技術事項を備えている。

(11)上記(1)ないし(10)から、本願補正発明と引用発明とは、
「液晶層に電圧を印加するための電極を備えた基板対と、基板対の間に挟持された捩れ配向を有する液晶層と、偏光板、第1の半波長板、及び遅相軸方向が基板界面での液晶材料の配向方向の中線方向にほぼ平行であり、かつリタデーションが140nmより小さく対象波長の1/4より小さい第1の1/4波長板からなる楕円偏光板と、可視光域の光を反射する反射鏡からなる反射型の液晶表示素子を備えた液晶表示装置において、
液晶層の捩れ角が70°であり、かつ偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1が15°であり、かつ第1の半波長板の遅相軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角がθ1+45°(ただし、偏光板の透過軸方向と第1の1/4波長板の遅相軸方向のなす角は2×θ1+45°)であり、かつ液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が130nm以上である液晶表示装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
第1の1/4波長板のリタデーションをRe(単位はnm)、第1の半波長板のリタデーションをRe'(単位はnm)とした時、液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が、本願補正発明においては「式1

で与えられる値(単位はnm)以下である」のに対して、引用発明1においては、Re=135、Re’=270、θ1=15°であるから、上記式1で与えられる値は167.1nmになり、150nm以上350nm以下の範囲となされるところの液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)が、167.1nm以下であるか否かが定かでない点。

5.判断

上記相違点について検討する。

(1)引用発明1において、液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)の下限を150nmとする理由は、液晶層厚dを3μm以上の実用的な厚さとしたためであるが、引用例の「ネマティック層が安定して得られる温度範囲の観点から、液晶材料Δnには、下限が存在する。このような理由により、室温におけるΔnは、必要な温度範囲等に依存するものの、概ね0.05以上、望ましくは0.065以上の値が要求される。・・・・(略)・・・・液晶層の層厚としては、透過型液晶表示装置の場合には、概ね5μm前後の値が用いられており、生産技術が確立している。しかし、液晶層の層厚をこれよりも著しく小さくすることは、多大な困難を伴い、実用性に乏しい。これにより、液晶層厚は、概ね3μm以上、望ましくは4μm以上にて作製することが有用である。
以上の観点から、液晶の屈折率差Δnと液晶層厚dの積であるΔndの下限を150nm、望ましくは、260nm以上にすることが有用である。」(上記2.(3)参照。)との記載からみて、そのΔndの下限の150nmは、Δn=0.05、d=3μmとしたものと解されるところ、「液晶層の層厚dが2μm以上3μm以下である液晶表示装置」は本願出願時に周知である(例.拒絶の理由に引用された特開2000-187220号公報(段落0028の「drは約2?3μm」、段落0052、0060「dr=約3.0μm」参照。段落0051、0060の「Δn=0.06」も参照。)、特開平11-305218号公報(「液晶層厚は2.5μm」参照。段落0067の「Δnは、0.065」も参照。)、特開2000-330105号公報(段落0015の「セルギャップ2.0μm」、段落0030の「セルギャップは2.0μm」参照。段落0016の「Δn=0.0625」、段落0023の「Δn=0.0603」及び段落0030の「Δn=0.0625」も参照。)、特開2000-347180号公報(段落0017の「セルギャップ2.0μm」、段落0025の「セルギャップ:2.0μm」参照。段落0018、0021の「Δn=0.0625」及び段落0025、0028の「Δn=0.0603」も参照。)、特開2000-356791号公報(段落0025の「セルギャップはいずれも2.1μm」参照。段落0025及び段落0028の「Δn=0.0625」も参照。))から、複屈折率差Δnが0.06又は0.0667である液晶材料を用いた引用発明1において、液晶層の層厚dを2.5?2.7μm又は2.3?2.5μm程度とし、複屈折率差Δnが0.06又は0.0667である液晶材料との積Δndを(2.5μm×0.06=)150nm以上(2.5μm×0.0667=)166.8nm以下の範囲、すなわち上記式1で与えられる値(=167.1nm)以下となすことは、上記周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得た程度のことである。
このとき、ツイスト角70度の引用発明1において、良好なホワイトバランスと明度がともに得られる550nmでのΔndの範囲は、120nm以上270nm以下の範囲であるから(上記2.(11)参照。)Δndを150nm以上166.8nm以下としても良好なホワイトバランスと明度がともに得られることが明らかであり、かつ、引用例に記載されている「(液晶層厚を3μm未満とすることの)多大な困難」(上記2.(3)参照。)は上記周知技術に鑑みれば本願出願時にはすでに存在しないことも明らかである。

(2)また、引用例には、引用発明1に引用発明2を採用することが示唆されているが(上記3.(2)参照。)、このことにより残留位相差をキャンセルでき、良好な黒表示をできることが、引用例の記載から当業者に自明である。
そして、この引用発明2の採用により、引用発明1の「第1の1/4波長板」のリタデーションは105nmに変更され(上記3.(2)参照。)、その結果上記式1で与えられる値は218nmとなる。
他方、3μm以上の液晶層の層厚については、引用発明1が発明された当時から生産技術上の多大な困難(上記2.(3)参照。)がない層厚であったから、本願出願時においても多大な困難を伴わないことが明らかである。
したがって、液晶層の層厚dを3?3.6μm又は3?3.2μm程度とし、複屈折率差Δnが0.06又は0.0667である液晶材料との積Δndを(3μm×0.06=)180nm以上(3.6μm×0.06=)216nm以下の範囲、すなわちは、上記式1で与えられる値(=218nm)以下となすことは、引用発明2及び引用例に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得た程度のことである。

(3)上記(1)及び(2)からして、引用発明1において、その「第1の1/4波長板」のリタデーションを105nmに変更するとともに、液晶層の層厚dを2.5?3.6μm又は2.3?3.2μm程度とし、複屈折率差Δnが0.06又は0.0667である液晶材料との積Δndを150nm以上216nm以下の範囲、すなわち、上記式1で与えられる値(=218nm)以下となして、上記相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、引用発明2、上記周知技術及び引用例に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得た程度のことである。

(4)本願補正発明の奏する効果は、引用発明1の効果、引用発明2の効果、上記周知技術の効果及び引用例に記載された事項から当業者が予測できた程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成18年8月10日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1」で、本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2及び3」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明から、発明特定事項である「液晶層の捩れ角」の範囲、「偏光板の透過軸方向と第1の半波長板の遅相軸方向のなす角θ1」の範囲、「液晶層に使用される液晶材料の複屈折Δnと液晶層の厚さdの積(単位はnm)」の下限及び「第1の1/4波長板のリタデーション」上限について、それぞれ、「65°以上75°以下」、「10°以上20°以下、または70°以上80°以下」、「130nm」及び「対象波長の1/4より小さい」のとの限定を省き本件補正前のより広い範囲に戻したものに相当する。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕5」に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-09 
結審通知日 2008-10-14 
審決日 2008-10-27 
出願番号 特願2002-136311(P2002-136311)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 磯野 光司福島 浩司柏崎 康司  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 岩本 勉
服部 秀男
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 家入 健  

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