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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A24D
管理番号 1189916
審判番号 無効2007-800211  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2008-12-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3958685号発明「着火性の低下した特性を有する喫煙用品の製造方法およびその方法により作製された製品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3958685号の請求項11、12、14、16、18、21、22、23、24、25、30、32及び33に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3958685号は、2001年11月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月13日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年5月18日に、請求項1乃至請求項36に係る発明について特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成19年10月1日付けで、日本たばこ産業株式会社(以下、「請求人」という。)から、請求項11、12、14、16、18、21、22、23、24、25、30、32及び33に係る発明についての特許に対して無効審判が請求され、平成19年10月22日付けで、特許権者シュヴァイツア マードゥイット インターナショナルインコーポレイテッド(以下、「被請求人」という。)に審判請求書副本を送達(送達日:同年10月25日)し、答弁を求めたところ、平成20年1月22日付けで、答弁書が提出された。なお、訂正請求はなされていない。
以上の手続を経て、平成20年5月23日に口頭審理を行い、審理を終結したものである。
又、口頭審理に先立ち、当審において、「口頭審理において検討したい内容について」の質問書を送付しており、口頭審理と同日付けで、請求人、被請求人から、それぞれ「口頭審理陳述要領書」(以下、「陳述要領書」という。)が提出されている。

第2 当事者の主張
1 請求人の主張
1-1 審判請求書における主張の概要
請求人の、「請求の趣旨」は、「特許第3958685号発明の特許請
求の範囲の請求項11、12、14、16、18、21、22、23、2
4、25、30、32及び33に記載された発明についての特許を無効と
する。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というも
のであり、「請求の理由」は、本件特許の請求項11、12、14、16
、18、21、22、23、24、25、30、32及び33に係る発明
は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないもの
であり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきもので
ある、というものであり、証拠として甲第1号証乃至甲第12号証を提出
している。

1-1-1 本件特許を無効とすべき理由(1)
甲1には「約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブ、
および前記ペーパーウェブにフィルム形成用組成物を塗布することによっ
て形成された前記ペーパーウェブ上の互いに離れた処理区域を含む喫煙用
品用巻き紙であって、前記の互いに離れた区域は無処理区域により隔てら
れており、前記の互いに離れた処理区域は、約25コレスタ未満の透過率
を有し、前記処理区域は、前記巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を
低下させる喫煙用品用巻き紙。」が記載されている。
本件の請求項11記載の発明と甲第1号証記載の発明とは一応以下の相
違点がある。
(1)相違点1
甲第1号証には、本件発明の課題「自由燃焼状態で、燃焼性の物質上に
落とされたかまたは放置された際に自己消火する紙巻タバコを得ること」
について明示の記載はない。
しかし、自由燃焼状態で、燃焼性の物質上に落とされたかまたは放置さ
れた際に自己消火する紙巻タバコを得ることは当業者が容易想到すること
ができる程度であるので、実質的な相違点とはなりえない。
(2)相違点2
甲第1号証には、請求項11に記載された「前記の互いに離れた処理区
域は、約5cm^(-1)未満のBMIを有し」について明示の記載はない。
しかし、自己消火するために、互いに離れた処理区域が、約5cm^(-1) 未満のBMIを有するようにすることは、当業者の設計事項程度である。

本発明の自己消火性の課題は周知であり、また、本発明の自己消火性の
課題を解決するために燃焼速度を適切に制御すればよいことは出願前公知
であり、しかも、本発明のBMI値の範囲とすることにより自己消火性の
課題を解決できることも出願前公知である。
甲第1号証には、燃焼速度を制御することが示されているのであるから
、上記甲号証に記載された上記の知見を斟酌すれば、燃焼速度を適切に制
御してBMI値を本発明の範囲内とすることにより自己消火性の課題を解
決すること、即ち、相違点1、2は当業者が容易に想到できる。

1-1-2 本件特許の請求項11に記載された発明を無効とすべき理由
(2)
請求項11に係る特許発明は、甲第9号証を主な証拠とし、甲第10号
証、甲第4乃至6号証を組み合わせることにより、当業者が容易になし得
たものである。

1-1-3 本件の請求項12、14、16、18、21、22、23、
24、25、30、32、33に記載された発明を無効とする理由(3)

請求項12、14、16、18、21、22、23、24、25、30
、32及び33に係る特許発明は、甲第1号証或いは、甲第9号証を主な
証拠とし、甲第2乃至8号証、甲第10乃至12号証を組み合わせること
により、当業者が容易になし得たものである。

[証拠方法]
(1)甲第1号証:特開昭51-95197号公報
(2)甲第2号証:特開平11-151082号公報
(3)甲第3号証:特開平7-300795号公報
(4)甲第4号証:特開昭63-85200号公報
(5)甲第5号証:特開昭60-71798号公報
(6)甲第6号証:特開昭60-59199号公報
(7)甲第7号証:特開平1-225473号公報
(8)甲第8号証:特開平4-289298号公報
(9)甲第9号証:特開平11-46744号公報
(10)甲第10号証の1:Kinberly-Clark Corporation PRODUCT LIST
の抜粋(DATE: November 13, 1992)
(11)甲第10号証の2:ECUSTA社のStandard Products Catalog,
Cigarette Paper のパンフレット抜粋、1987

(12)甲第11号証:特表平1-500639号公報
(13)甲第12号証:特開平5-230797号公報

1-2 陳述要領書における主張の概要
1-2-1 無効理由1について
(1)答弁書7頁20-27行の主張に対し
たばこの燃焼速度が低下することにより着火性向が低下することは当業
者に周知の事実であることは、審判請求書において既に述べたとおりであ
る。

(2)答弁書8頁8-9行の主張に対し
本件明細書の段落【0043】乃至【0045】の記載から、本件発明
11は、「着火性向特性を改善するとして知られている範囲内の透過率(
約25コレスタ未満)を有する。着火性向特性が低下したことを示すため
に利用できる透過率以外の正確な測定法として、燃焼モード指数(BMI
)があり、本件発明11のBMI値は約5cm^(-1)未満である。」というこ
と、即ち、透過率とBMI値とは着火性向特性の低下を示す指数である点
で共通しており、両値の相違点は単に測定法であることが理解できる。
一方、引用例1の処理領域は、約25コレスタ未満である「0から10
コレスタの透過率の範囲内にある」から、これをBMI値で表せば約5c
m^(-1)未満の範囲内にあることは明らかである。
このことは、甲第5号証:特開昭60?71798号公報の記載からも
支持される。甲第5号証の9頁、表1には、実施例1?3の処理区域とし
て透過度が1.5?4.0コレスタで、2.5?3.5cm^(-1)のBMIが開
示されている。

(3)答弁書8頁14-16行の主張に対し
引用例1は、低い着火性向特性を有するように設計された喫煙用品に高
い透過率を有する巻き紙を採用している。そして先に述べたように、BM
I値は透過率とは別の測定法による値にすぎない。
従って、被請求人の上記の主張は根拠がない。

(4)答弁書12頁19-23行の主張に対し
ここでの被請求人の主張は、「バンド幅が3mm以上でないと低い着火
性向特性を有する喫煙用品を得ることができない」との主張と推測される

しかし、被請求人の主張は、無効審判請求に係る請求項記載の発明との
関連性がないと、請求人は考えるので、この点に関する請求人の反論は留
保する。

(5)答弁書13頁3-20行の主張に対し
(1)燃焼制御を低下することにより着火性向が低下するということは、
出願時に当業者に周知の事実である。引用例1の紙巻たばこにもとづいて
、低い着火性向特性を有する巻き紙を製造することができる。
(2)引用例1に開示される高多孔性バンドを有する巻き紙を喫煙用品に
組み込んでも周囲の基材を容易に発火させることはなく本件発明11で要
求される低い着火性向特性を有する喫煙用品を製造することができない、
とはいえない。
(3)引用例1に開示される喫煙用品の構成は、低い着火性向特性を有す
る喫煙用品を製造するのに相応しいものではない、とはいえない。

1-2-2 無効理由2について
(1)答弁書14頁25-27行の主張に対し
しかし、被請求人も認めるとおり、引用例9には、巻き紙は「商業的に
入手可能な任意の種類のタバコ巻紙であってもよい」と記載され、商業的
に入手可能な任意の種類のタバコ巻紙として60コレスタより大きい透過
率を有するものがあることは明らかである。従って、被請求人の主張は理
由がない。

(2)答弁書14頁27行-15頁24行の主張に対し
引用例9には、32.6コレスタの非処理区域の透過率と6コレスタの
処理区域の透過率との組み合わせが、引用例9の要求を満たしていること
が示されている。
被請求人の主張に従えば、「32.6コレスタの非処理区域の透過率と
6コレスタの処理区域の透過率との組み合わせ」は、ベースの巻き紙と処
理区域の間の透過率の変化を劇的に増大させるものではないが、「60コ
レスタの非処理区域の透過率と6コレスタの処理区域の透過率との組み合
わせ」は、ベースの巻き紙と処理区域の間の透過率の変化を劇的に増大さ
せ、引用例9の要求を満たさない」ということになる。しかしこのような
被請求人の主張は、根拠がないものである。

(3)答弁書15頁28-16頁1行の主張に対し
本件特許出願当時の技術常識は、「処理領域の着火性向を低下させるこ
とによりペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下させる」
というものである。
従って、被請求人の主張は、その前提において誤りがある。

(4)答弁書17頁20行-18頁17行の主張に対し
1.「比較的高い透過率を有する巻き紙を引用例9に開示される巻き紙とし
て採用するならば、ベースとなる巻き紙と処理区域との間の透過率に急峻
な変化をもたらすことになり、引用例9が要求するなだらかに増加又は減
少する通気率のプロフィールを有する巻き紙を製造することが不可能とな
る。」との被請求人の主張は客観性がなく、根拠がない。
2.「従来の技術常識によれば、低タールのタバコを製造するために用いら
れる透過率の高い紙を喫煙用品に組み込むならば周囲の基材を容易に発火
させることになるのであり、本件発明11で要求されるような低い着火性
向特性を有する喫煙用品を製造することに重大な悪影響を及ぼすことにな
る。」との被請求人の主張は、本件発明11において処理領域の性状が低
い着火性向特性を有する喫煙用品を製造するためにベースとなる巻紙の透
過率が重要であるとの主張のように推測される。しかし、このような主張
は、本件発明11において「処理領域の性状が、低い着火性向特性を有す
る喫煙用品を製造するために必要である」との本件明細書の記載と矛盾す
る。

1-2-3 無効理由3について
被請求人の無効理由3に関する主張は、無効理由1,2に関する誤った
主張を前提とするものであるから、この主張も根拠がない。

2 被請求人の主張
2-1 答弁書における主張の概要
被請求人の「答弁の趣旨」は、「本件審判の請求は、成り立たない。審
判費用は、請求人の負担とする。」というものであり、乙第1号証乃至乙
第7号証を提出し、次のように主張している。
2-1-1 無効理由(1)について
(1)請求人は、無効審判請求書において、請求項11は、引用例1を主た
る引用例として、これに引用例2?8又は9を組み合わせることにより当
業者が容易に想到できたものであり、進歩性を有しない旨主張する
請求人自身も認めるように、引用例1は、本件発明11の目的ないし解
決すべき課題を開示しておらず、低い多孔度のバンド又は高い多孔度のバ
ンドが喫煙用品の着火性向特性を低下させることを開示も示唆もしていな
い。引用例1は、タバコの燃焼速度を制御するために低多孔性と高多孔性
の交互のバンドを設けた喫煙用品を開示するにすぎない。
引用例1は、タバコの「燃焼速度を有利に制御しかつ(または)ふかし
回数(puff times)を増加する手段を提供すること」(488頁上段右欄
7?9行)を目的とする。
引用例1のどこにも、低い着火性向特性を有する巻き紙を製造する方法
についての開示も示唆も存在しない。また、引用例1に開示されるバンド
はタバコの吹かし回数や燃焼速度といった性質を制御するための手段であ
り、いかなる意味においても、自由燃焼状態で付近の基材に放置されたと
きに自己消火するタバコを設計することを目的とするものではない。した
がって、引用例1が開示するウイギンスティープ紙透過性測定装置によっ
て測定される0?100(0?10コレスタ)、150?2000(15
?200コレスタ)という低多孔性バンド及び高多孔性バンドの多孔度に
関する数値限定は、あくまでタバコの燃焼速度を制御することを目的とし
たものであって、低い着火性向特性を有する巻き紙を製造するためのもの
ではなく、本件発明11における透過率の数値限定とは意味合いを異にす
る。
また、引用例1は、約5cm^(-1)未満のBMIを有する離間した複数の
処理区域を含んだ喫煙用品の巻き紙を開示も示唆もしていない。
さらに、以下に述べるとおり、引用例1に開示される巻き紙の構成を低
い着火性向特性を有する巻き紙を製造するために使用することは自明では
なかった。引用例1と引用例2?8又は9を組み合わせようとするのは不
当な後知恵に他ならない。

(2)本件特許出願当時の技術常識は、低い着火性向特性を有するように設
計された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用することを阻害する
請求人は、引用例1の発明の目的が本件発明11と異なり、引用例1に
は本件発明11の解決すべき課題が開示されていないことを認める。この
欠缺を補うべく、請求人は、引用例2?8又は9に基づき、低い着火性向
特性を有する巻き紙を製造することは自明であった旨主張する。さらに、
請求人は、引用例4、5又は6に照らせば、請求項11でクレームされた
BMI値を有するバンドを形成することも同様に自明であった旨主張す
る。本件特許出願当時の当業者は、低い着火性向特性を有する喫煙用品を
設計するために、多孔度の高い領域を含む巻き紙を採用することを合理的
に想起し得なかった。高い透過性を有する巻き紙は、自由燃焼状態で付近
の基材に放置されたときに発火を生じる危険を著しく増大させるものと認
識されていたからである。したがって、引用例1に引用例2?8又は引用
例9のいずれかを組み合わせることが自明あったとはいえない。
本件特許出願当時の技術常識によれば、高い透過率の紙は、速く高温で
燃焼し、それ故周囲の物体を発火させるタバコの傾向を実際に高めるので
、着火性向を低くする用途としては不適切であると考えられていたのであ
る(乙第1号証項目4.、5.、及び6.、訳文第2頁第6行?第3頁第
23行)。
故に、当業者は低い着火性向を得る手段として、引用例1に開示される
多孔度150?2000(15?200コレスタ)という高多孔性バンド
を有する巻き紙を用いることなど想定しなかったのである。よって、引用
例1に引用例2?8又は引用例9のいずれかを組み合わせることは自明で
はなかったのである。

(3)引用例1に開示される巻き紙の低多孔性バンドのバンド幅は低い着火
性向特性を有する喫煙用品を製造するのに相応しいものではない
引用例1が列挙する13件の実施例における低多孔性バンドのバンド幅
は、1mmのものが2件、2mmのものが9件、2.5mmのものが1件
、3mmのものが1件であり、かろうじて、本件特許の明細書が望ましい
バンド幅の最小値として開示する3mmのものが1件あるものの、それ以
外はいずれもその最小値に満たないものである。引用例1に開示される構
成は、その低多孔性バンドのバンド幅からして、およそ低い着火性向特性
を有する喫煙用品を製造するのに相応しいものではないのである。

(4)まとめ
かくして、以下の理由により、本件発明11は、引用例1と引用例2?
8又は9の組合せに基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとは
いえない。
1.引用例1は、あくまで紙巻タバコの燃焼速度やふかし回数を制御す
ることを目的としたものであって、低い着火性向特性を有する巻き紙を製
造する目的を有するものではない。
2.従来の技術常識によれば、引用例1に開示される多孔度150?2
000というような高多孔性バンドを有する巻き紙を喫煙用品に組み込む
ならば周囲の基材を容易に発火させることになるのであり、本件発明11
で要求されるような低い着火性向特性を有する喫煙用品を製造することに
重大な悪影響を及ぼすことになる。
3.引用例1に開示される喫煙用品の構成は、その低多孔性バンドのバ
ンド幅からして、およそ低い着火性向特性を有する喫煙用品を製造するの
に相応しいものではない。

2-1-2 無効理由(2)について
(1)請求人は、無効審判請求書において、本件発明11は、引用例9を主
たる引用例として、これに引用例4?6、引用例10-1又は同10-2
を組み合せることにより当業者が容易に想到できたものであり、進歩性
有しない旨主張する
請求人が認めるとおり、引用例9は、本件発明11において要求される
約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブを開示していな
い。引用例9は、単に、巻き紙は「商業的に入手可能な任意の種類のタバ
コ巻紙であってもよ[い]」(甲第9号証段落0025)と記載するのみ
である。
引用例9は約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブを
実質的に開示していた、又は、引用例9において約60コレスタより大き
い透過率を有するペーパーウェブを用いるは自明であった、と強いて主張
するために、請求人は、キンバリ・クラーク社とエクスタ社がそれぞれ従
前販売していた製品のリストである引用例10-1と同10-2を引用す
る。双方の製品リストは60コレスタより大きい透過率を有する巻き紙を
開示している。例えば、引用例10-1は81種類のシガレット・ペーパ
ーをリストしているが、その中には60コレスタより大きい多孔度を有す
る3種類のペーパーが含まれる。同様に、引用例10-2にリストされる
19種類のシガレット・ペーパーの中には60コレスタより大きい多孔度
を有する2種類のペーパーが含まれる。しかしながら、以下に詳しく述べ
るとおり、引用例9に開示される処理を施す巻き紙として引用例10-1
又は同10-2に開示される高い透過率のペーパーウェブを採用すること
は、本件特許の出願当時において自明ではなかった。
より具体的には、引用例9は、喫煙製品の燃焼方向に沿ってなだらかに
変化する通気率のプロフィールを有する離間した複数の処理区域を形成す
ることを目的とする(甲第9号証段落0049参照)。なだらかに変化す
る通気率のプロフィールは、喫煙製品の燃焼が処理区域に及ぶに際して生
ずる味及び煙の放出の変化を喫煙者に認識しにくくするために設けられる
(同段落参照)。
しかしながら、請求項11と全く対照的なことに、引用例9は、60コ
レスタより大きい透過率を有するような比較的高い透過率を有する巻き紙
を用いることをどこにも開示しておらず、またその示唆もなく、逆に、引
用例9において確認されるタバコの巻き紙は、32.6コレスタの透過率
しか有しないキンバリ・クラーク社のKCグレード603ペーパーのみな
のである(同号証段落0045)。
さらに、引用例9に開示される製品に比較的高い透過率を有する巻き紙
を採用することは自明ではなかった。

(2)引用例9は、ベースとなる巻き紙と処理区域との間で透過率が大きく
変化することを回避すべきことを要求する
引用例9においては、望ましい処理区域の透過率は6コレスタ以下で、
一般には2?6コレスタの範囲内であると開示するのであり(段落001
7、0028)、60コレスタより大きい透過率を有するような比較的高
い透過率を有する巻き紙を使用するならば、ベースの巻き紙と処理区域の
間の透過率の変化を劇的に増大させることになる。比較的高い透過率を有
する巻き紙は、当然、処理区域と巻き紙との間の透過率に「急峻な変化」
をもたらすのであり、このことは引用例9の教示と完全に齟齬するのであ
る。
したがって、本件発明11は、引用例9と引用例4?6、引用例10-
1又は同10-2の組合せに基づいて、当業者が容易に想到できたもので
あるということはできない。

(3)本件特許出願当時の技術常識は、低い着火性向特性を有するように設
計された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用することを阻害する
無効理由(1)に対する反論の項において既に述べたとおり、本件特許出
願当時の技術常識によれば、高い透過率の紙は、速く高温で燃焼し、それ
故周囲の物体を発火させるタバコの傾向を実際に高めるので、着火性向を
低くする用途としては不適切であると考えられていた(乙第1号証項目
4.、5.、及び6.、訳文第2頁第6行?第3頁第23行)。
高い透過率を有するペーパーウェブから製造された巻き紙は、低タール
排出の喫煙用品を製造することができるが、かかる巻き紙は、着火性向を
低くする用途に使用するには不適当だと考えられていた。例えば、かかる
巻き紙は非常に急速に燃焼するため、燃焼時に大きな熱量を発生させるの
である。さらに、乙第2号証、同3号証に示されるとおり、本件特許出願
当時の当業者は、低い着火性向特性を有するタバコを構成するために多孔
度の高いタバコ巻き紙を用いることを合理的に想起し得なかった。無効理
由(1)に対する反論の項において述べたとおり、高い透過性を有する巻き
紙は、自由燃焼状態で付近の基材に放置されたときに発火を生じる危険を
著しく増大させるものと認識されていたからである。
かかる一般通念が存在したことは、引用例9の記載自体からも見て取れ
る。例えば、引用例9は、「帯24の幅および間隔は、いくつかの変数、
例えば包装体14の初期通気率やタバコ・カラムの密度に依存する」と記
載する(甲第9号証段落0029)(強調付加)。かかる記載を乙第2号
証及び同3号証によって裏付けられる当時の技術常識と併せ読めば、比較
的高い透過性を有する紙を引用例9に組み込む動機を当業者が有したもの
とは到底考えられない。そのような紙は、喫煙用品の着火性向特性を低下
させる巻き紙の能力に重大な悪影響を与えるからである。

(4)まとめ
かくして、以下の理由により、本件発明11は、引用例9と引用例4?
6、引用例10-1又は同10-2の組合せに基づいて、当業者が容易に
想到できたものであるとはいえない。
1.比較的高い透過率を有する巻き紙を引用例9に開示される巻き紙と
して採用するならば、ベースとなる巻き紙と処理区域との間の透過率に急
峻な変化をもたらすことになり、引用例9が要求するなだらかに増加又は
減少する通気率のプロフィールを有する巻き紙を製造することが不可能と
なる。
2.従来の技術常識によれば、低タールのタバコを製造するために用い
られる透過率の高い紙を喫煙用品に組み込むならば周囲の基材を容易に発
火させることになるのであり、本件発明11で要求されるような低い着火
性向特性を有する喫煙用品を製造することに重大な悪影響を及ぼすことに
なる。

2-1-3 無効理由(3)について
請求人の無効理由(1)及び(2)はいずれも理由がなく、本件発明11は、
引用例1又は引用例9を主たる引用例として、これに他の引用例を組み合
わせることにより当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。よ
って、本件特許の請求項11を引用する請求項12、14、16、18、
21、22、23、24、25、30、32、33に係る発明は、引用例
1又は引用例9を主たる引用例として、これに他の引用例を組み合わせる
ことにより当業者が容易に想到できたものであるという請求人の無効理由
(3)にも理由がない。

[証拠方法]
(1)乙第1号証:Dr. Donald Durocher の供述書
(2)乙第2号証:The Effect of Cigarette Characteristics on the
Ignition of Soft Furnishings
(3)乙第3号証:Overview: Practicability of Developing a
Performance Standard to Reduce Cigarette
Ignition Propensity
(4)乙第4号証:英国特許第1524211号明細書
(5)乙第5号証:特開平11-93097号公報
(6)乙第6号証:米国特許第6,725,867号の出願について、米
国特許商標庁からの特許可能性通知書
(7)乙第7号証:米国特許商標庁への最終拒絶後の補正書

2-2 陳述要領書における主張の概要
2-2-1 質問書に対する回答
(1)本件特許請求項11にいう「約25コレスタ未満の透過率および約5
cm^(-1)未満のBMIを有し」における「および」の意義について
喫煙用具における着火性向は二つのメカニズムに起因している。そのう
ちの一方は、巻紙の外部と内部の圧力差により、酸素が巻紙の空隙を通過
することによるものであり、他方は、巻紙の外部と内部における酸素濃度
勾配により酸素が巻紙中を拡散して通過することによるものである。
前者を示すファクターが「透過率」(コレスタ値)であり、これは1.
0キロパスカルの一定した圧力差のもとにおいて、1分間に1平方センチ
メートルの紙を通過する空気量を立方センチメートル単位で表した空気透
過率で定義されるものであり、一定の圧力勾配のある状態での酸素の透過
しやすさを示す。これに対して、後者を示すファクターは「BMI値」で
あり、例えば引用例5の4頁下段右欄に記載されるように、紙を電解質の
非水溶液中に浸漬して二つの電極の間に置いたときの電流に対する紙の抵
抗を測定することにより求められる燃焼モード指数であり、外力(圧力差
)の作用のない状態での拡散による酸素の透過しやすさを示す。
本件発明11は、このメカニズムを勘案して、自己消火性を確保する
ために、前者の透過率のみならず、併せて、後者の「BMI値」について
も特定したのである。
したがって、本件発明11において、「約25コレスタ未満の透過率」
と「約5cm^(-1)未満のBMI」を「および」とした点は、格別の技術的
意義を有するものである。

(2)本件発明11が、60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウ
ェブを用いた意義について
非処理区域、即ち離間した複数の処理区域に挟まれた区域において、
巻き紙の透過率が60コレスタ以上であることが要求されるのである。着
火性向特性を低下させるために、透過率及びBMIを低下させる処理を行
うものの、巻き紙自体の透過率が約60コレスタ以上という比較的大きな
透過率のものを採用することにより、処理後もなお、円滑な喫煙を可能と
する程度の通気を確保することができるという意義を有する。
このような比較的高い透過率の紙を用いながら、離間した処理区域の透
過率とBMIを適正値とすることにより、喫煙用品の着火性向特性を低下
させるのみならず、喫煙用品の特性をうまくバランスさせることができる
。本件発明11の発明者は、(1) 約60コレスタより大きい初期透過率を
有する巻き紙であること、(2) 離間した処理区域が約25コレスタ未満の
透過率を有すること、及び、(3) 当該処理区域が約5cm^(-1)未満のBM
Iを有することという三つの要素の組合せが、着火性向特性についてのみ ならず、燃焼特性(パフ・カウント等)と味についても優れた製品を産み 出すという本件特許の出願当時において予測されていなかった効果をもた らすことを発見したのである。
本件発明11は、・・・例えば、処理区域のバンド幅やバンド間の間隔
を適切に定める等、その他の手段を補助的に併用することにより、離間し
た処理区域は「巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下」させる機
能ないし作用を営むことを排除するものではない。

(3) 引用例1に記載の発明の効果について
引用例1は、その記載事項に照らし、開示された巻き紙が着火性向を低
下させることなど一切示されていない。引用例1は、いかなる意味におい
ても低い着火性向を問題にしておらず、そのため、当該巻き紙を用いた喫
煙用品が本件発明11が要求するような低い着火性向を有することを示す
ようないかなる実験データも開示していない。上述のとおり、透過率テス
トとBMIテストとは相関するものではなく、紙の異なる特質を測定する
ものである。したがって、引用例1の記載の低多孔性バンドの透過率から
当該バンドのBMI値を正確に導き出すことは不可能である(この点に関
しては、更に下記5.(2)イにおいて詳述する。)。加えて、答弁書で
述べたとおり、引用例1に開示される巻き紙の低多孔性バンドのバンド幅
は低い着火性向特性を有する喫煙用品を製造するのに相応しいものではな
い。
さらに、引用例1の実施例においてフィルム形成用組成物によって処理
された全ての巻き紙の初期透過率は37コレスタ以下であり、「約60コ
レスタより大きい」という本件特許の請求項11において要求されるペー
パーウェブの初期透過率に比べて遙かに小さい。引用例1において、約6
0コレスタより大きい透過率を有する高多孔性の紙を製造するための方法
として唯一開示されているのは、実施例1及び2において記載されている
ように紙にパーフォレーションを施すことである。しかしながら、実施例
1又は2においては、紙にフィルム形成用組成物は塗布されておらず、パ
ーフォレーションを施されていない部分が低多孔性バンドになっているの
であり、この点で本件発明11の構成とは全く異なる。
以上より、引用例1に記載される発明の低多孔性バンドは、必ずしも喫
煙用品の着火性向を低下させるものとはいえない。

2-2-2 無効理由1に関する請求人の主張に対する反論
(1)タバコの燃焼速度と着火性向の低下との関連について
タバコの燃焼速度の低下とタバコの着火性向特性との間には関連性があ
ることは否定できない。しかしながら、注目すべきことは、タバコの燃焼
速度が少しでも低下すればそれだけで本件発明11で要求されるような着
火性向の低下がもたらされるわけではないということである。着火性向を
低下させるには、それに足りる程度、タバコの燃焼速度が低下しなければ
ならないのである。上述したように、本件発明11にいう「巻き紙を取り
込んだ喫煙用品の着火性向を低下させる」というのは、具体的には、燃え
ている喫煙用品が可燃性の基材に放置された場合に、およそその喫煙用品
を消火させる能力を巻き紙が有するということがモックアップ着火試験及
び/又は「紙巻タバコ消火試験において実証されることに他ならない。こ
の点、引用例1は、その記載事項に照らし、開示された巻き紙が着火性向
を低下させることなど一切示されていない。引用例1は、当該巻き紙を用
いた喫煙用品が本件発明11が要求するような低い着火性向を有すること
を示すようないかなる実験データも開示せず、着火性向特性の指標となる
BMI値も示しておらず、いかなる意味においてもタバコの着火性向の低
下を問題にしていないのである。

(2)透過率とBMI値との関係について
請求人は、「透過率とBMI値とは着火性向特性の低下を示す指数であ
る点で共通しており、両値の相違点は単に測定法であることが理解できる
」としたうえ、「引用例1の処理領域は、約25コレスタ未満である『0
から10コレスタの透過率の範囲内にある』から、これをBMI値で表せ
ば、約5cm^(-1)未満の範囲内にあることは明らかである」と主張する(
請求人陳述要領書5-2-2)。そして、その根拠として引用例5に開示され る実施例1?3の処理区域の透過率が1.5?4.0コレスタであり、対 応するBMIが2.5?3.5であることを示す。
しかしながら、上述のとおり、透過率とBMI値とは測定法が異なるの
みならず、これら二つの指数は紙に関して異なる側面の特性を示すのであ
り、両者の間に直接的な相関関係があるわけではない。このことは、請求
人が指摘する引用例5の実施例1と実施例2を比較対照しても明らかであ
る。すなわち、引用例5の実施例1においては、透過率が4であるのに対
し、BMI値は2.5であるところ、実施例2においては、透過率が1.
5に低下したにもかかわらず、BMI値は3.5であり、実施例1よりも
増加しているのである。
そもそも、引用例5の実施例は、本件発明11とも引用例1とも全く関
連性がない。例えば、引用例5の実施例で用いられている紙は全て、本件
発明11や引用例1よりも透過率が低い。さらに、引用例5でテストされ
ているペーパーウェブ上のバンドには、フィルム形成用組成物は塗布され
ていない。したがって、引用例5の実施例の構成は、本件発明11や引用
例1の実施例の構成とは全く異なるのであり、引用例1の実施例のBMI
値を予想するのに引用例5の数値を用いることは全く技術的根拠を欠き、
無意味である。

(3)低い着火性向特性を有するように設計された喫煙用品に高い透過率を
有する巻き紙を採用することについて
引用例1の課題は燃焼速度の調整にすぎず、着火性向特性の低下ではな
い。本件特許の出願当時の技術常識によれば、低い着火性向特性を有する
ように設計された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用することを
阻害するのである。
また、上述のとおり、引用例1の実施例には本件発明11の技術的範囲
に属する巻き紙は一つも開示されていないのである。
さらに、上述のとおり、透過率とBMI値とは測定法が異なるのみなら
ず、二つの指数は紙に関して異なる側面の特性を示すのであって、両者の
間に必ずしも直接的な相関関係はない。したがって、請求人の主張は全く
失当である。

(4)引用例1における低多孔性バンドのバンド幅について
まず、被請求人は、「バンド幅が3mm以上でないと低い着火性向特性
を有する喫煙用品を得ることができない」などとは主張していない。低い
着火性向特性を有する喫煙用品を得るには、バンド幅が3mm以上である
ことが望ましく、引用例1の実施例はおよそ低い着火性向特性を有する喫
煙用品を製造するのに相応しいものではないと主張しているのである。
次に、「被請求人の主張は、無効審判請求に係る請求項記載の発明との
関連性がない」という請求人の主張は失当である。おそらく請求人は、本
件発明11には低多孔性バンドのバンド幅に関する限定を含まないので、
引用例1の実施例における低多孔性バンドのバンド幅に依拠した議論は成
り立たないと考えているものと思われる。しかしながら、上述のとおり、
本件発明11は、離間した処理区域が「約25コレスタ未満の透過率」及
び「約5cm^(-1)未満のBMI」を有することを基本としつつ、処理区域
のバンド幅やバンド間の間隔を適切に定める等の他の手段を必要に応じて 補助的に併用することにより、離間した処理区域が「巻き紙を取り込んだ 喫煙用品の着火性向を低下させる」機能ないし作用を営むことを構成要件 として要求するのである。
そもそも、被請求人は、引用例1から本件発明11に想到することは容
易でないと主張するものであり、その根拠として、引用例1は、その実施
例に鑑みて、低い着火性向特性を有する喫煙用品の構成として用いるのに
適切ではないと主張しているのである。換言すれば、引用例1は、その実
施例における低多孔性バンドのバンド幅からして、当業者に対して低い着
火性向特性を有する喫煙用品の構成として用いる動機付けを与えるもので
はないと言っているのである。

2-2-3 無効理由2に関する請求人の主張に対する反論
(1)引用例9は60コレスタより大きい透過率を有する巻き紙を用いる
ことを開示していないことについて
答弁書において既に述べたとおり、引用例9の発明は、喫煙製品の燃焼
が処理区域に及ぶに際して生ずる味及び煙の放出の変化を喫煙者に認識し
にくくするために、喫煙製品の燃焼方向に沿ってなだらかに変化する通気
率のプロフィールを有する離間した複数の処理区域を形成することをその
本旨とする(甲第9号証段落0049参照)。かかる発明の目的に照らせ
ば、巻き紙は「商業的に入手可能な任意の種類のタバコ巻紙であってもよ
[い]」(甲第9号証段落0025)との引用例9の記載は、タバコの巻
き紙のメーカーは問わないという程度の謂いにすぎず、これを巻き紙の透
過率について無限定な許容を認めたものと解釈することはできない。結局
、「商業的に入手可能な任意の種類のタバコ巻紙であってもよ[い]」と
は、喫煙製品の燃焼が処理区域に及ぶに際して生ずる味及び煙の放出の変
化を喫煙者に認識しにくくするという発明の目的に反しない限りにおいて
、商業的に入手可能な任意の種類のタバコ巻紙であってもよいという意味
にすぎないのである。したがって、請求人の上記主張は失当である。

(2)引用例9の構成に高い透過率を有する巻き紙を用いることは自明でな

答弁書15頁において述べたように、引用例9は、「喫煙者に対する味
および煙の放出の変化が段階的な期間にわたって生じるので喫煙者が認識
しずらい」(甲第9号証段落0049)という効果を得るために、なだら
かに変化する通気率のプロフィールを有する処理区域を設けることを教示
する。引用例9においては、望ましい処理区域の透過率は6コレスタ以下
で、一般には2?6コレスタの範囲内であると開示するのであり(段落0
017、0028)、「なだらかに変化する通気率のプロフィールを有す
る処理区域を設ける」という引用例9の発明の目的に照らすと、非処理区
域の透過率には自ずと制限が設けられる。引用例9においては32.6コ
レスタの巻き紙を用いることが開示されており、その程度の透過率であれ
ば引用例9の発明の目的に反しないことが示唆されているが、それ以上の
透過率を有する巻き紙を利用することは開示されていない。60コレスタ
というその倍近くもの透過率を有する巻き紙を利用することは、「なだら
かに変化する通気率のプロフィールを有する処理区域を設ける」という引
用例9の発明の目的に合致しないことは自明である。

(3)本件特許出願当時の技術常識は、低い着火性向特性を有するように設
計された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用することを阻害する
本件特許出願当時の技術常識として、「処理領域の着火性向を低下させ
ることによりペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下させ
る」という観念が存在したことを被請求人は争うものではない。被請求人
は、かかる技術常識とは別個に、「低い着火性向特性を有するように設計
された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用することはしない」と
いう技術常識が存在したと主張しているのである。「処理領域の着火性向
を低下させることによりペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品の着火性向
を低下させる」という観念が存在したことは、「低い着火性向特性を有す
るように設計された喫煙用品に高い透過率を有する巻き紙を採用すること
はしない」という技術常識が存在したことを否定するものではない。
既に被請求人が証拠として提出したDr. Donald Durocherの供述書(乙
第1号証)、米国規格基準局火災調査研究センターが1987年10月に 発行した「The Effect of Cigarette Characteristics on the Ignition
of Soft Furnishings」と題する研究レポート(乙第2号証)及び米国消
費者安全委員会が1993年8月に発行した「Overview: Practicability
of Developing a Performance Standard to Reduce Cigarette Ignition
Propensity」と題する刊行物(乙第3号証)の記載から明らかなとおり
、本件特許の出願当時において、高い透過率の紙は、速く高温で燃焼し、 それ故周囲の物体を発火させるタバコの傾向を実際に高めるので、着火性 向を低くする用途としては不適切であると考えられていたことは動かしが たい事実なのである。

2-2-4 無効理由3に関する請求人の主張に対する反論
無効理由1及び2に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。した
がって、これらを前提とする請求人の無効理由3に理由がないことも明ら
かである。

第3 本件特許発明
特許第3958685号の請求項11、12、14、16、18、21、22、23、24、25、30、32及び33に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである(以下、請求項11、12、14、16、18、21、22、23、24、25、30、32及び33に係る発明を請求項の項番に対応させて、それぞれ「本件特許発明11」ないし「本件特許発明33」という。)。

【請求項11】
約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブ、および前記ペーパーウェブにフィルム形成用組成物を塗布することによって形成された前記ペーパーウェブ上の互いに離れた処理区域を含む喫煙用品用巻き紙であって、
前記の互いに離れた区域は無処理区域により隔てられており、前記の互いに離れた処理区域は、約25コレスタ未満の透過率および約5cm^(-1)未満のBMIを有し、前記処理区域は、前記巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下させることを特徴とする喫煙用品用巻き紙。
【請求項12】
前記の互いに離れた処理区域は、互いに離れた複数の外周バンドを含むことを特徴とする請求項11に記載の巻き紙。
【請求項14】
前記フィルム形成用組成物はアルギネートを含むことを特徴とする請求項11から13に記載の巻き紙。
【請求項16】
前記フィルム形成用組成物は、ポリビニルアルコール、デンプン、またはセルロース誘導体を含むことを特徴とする請求項11から13に記載の巻き紙。
【請求項18】
前記ペーパーウェブは、約80コレスタより大きい透過率を有することを特徴とする請求項11から17に記載の巻き紙。
【請求項21】
前記フィルム形成用組成物は、前記ペーパーウェブに塗布される前に、アルコールを含有することを特徴とする請求項20に記載の巻き紙。
【請求項22】
前記ペーパーウェブは、約18gsmから約60gsmの坪量を有することを特徴とする請求項11から21に記載の巻き紙。
【請求項23】
ペーパーウェブに添加された燃焼制御添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項11から22に記載の巻き紙。
【請求項24】
前記燃焼制御添加剤がアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項23に記載の巻き紙。
【請求項25】
前記アルカリ金属塩がクエン酸塩であることを特徴とする請求項24に記載の巻き紙。
【請求項30】
前記の互いに離れた処理区域は、隣接した基材上に置かれたとき、前記ペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品を自己消火性させることを特徴とする請求項11から29に記載の巻き紙。
【請求項32】
前記の互いに離れた処理区域は、約1から約3cm^(-1)のBMIを有ることを特徴とする請求項11から31に記載の巻き紙。
【請求項33】
タバコを含む柱、および請求項11から32に記載の前記柱を囲む巻き紙を含む喫煙用品であって、前記処理区域は、喫煙用品が隣接した表面上に置かれたときに自己消化するという点で前記喫煙用品の着火性向を低下することを特徴とする喫煙用品。

第4 甲各号証に記載された事項
1 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「1.巻紙を有する喫煙物品であつて、物品を包囲する巻紙に低多孔
性と高多孔性の交互のバンドを設け、低多孔度は0から100の範囲内に
あり、高多孔度は150から2000の範囲内にあることを特徴とする喫
煙物品。」(第1頁左欄第5?9行)

イ.「7.巻紙は本来高多孔性であり、低多孔性のバンドは巻紙を処理し
てこれらのバンドにおける巻紙の多孔度を減少することにより作られるこ
とを特徴とする特許請求の範囲第1項ないし第5項の何れかに記載の喫煙
物品。
8.低多孔性のバンドはゲル形成物品を用いてこれらのバンドにおける
巻紙を被覆または印刷することにより作られるバンドであることを特徴と
する特許請求の範囲第7項記載の喫煙物品。」(第1頁右欄第9?18行 )

ウ.「本発明は喫煙物品、特に、限定する訳ではないがシガレツトに関す
る。
シガレツトの燃焼速度を増し、白い灰を与えまたはシガレツトの味を向
上するような物質でシガレツトペーパーを処理することは周知である。一
般に、このペーパーは全面が被覆されるが、かかる物質はシガレツトの長
さに沿う選択部域に付与される。ほう砂とか食塩の水溶液の如き塩溶液で
シガレツトペーパーを処理して燃焼速度を減少しあるいはシガレツトを消
火することも同様に周知である。しかし、燃焼を得るには、シガレツトペ
ーパーラツパー(たばこの巻紙)はある程度の多孔性を有することが必要
である。通常、シガレツトは吸われていないときかなり急速に燃えるが、
これは望ましくない。
本発明の目的は、例えばシガレツトの燃焼速度を有利に制御しかつ(ま
たは)ふかし回数(puff times)を増加する手段を提供するこ
とである。
本発明によれば喫煙物品は物品を包囲する低多孔性と高多孔性の交互の
バンドを備えた巻紙を有する。」(第2頁左上欄第12行?右上欄第12行
)

エ.「ここに言及されるすべての多孔度はウイキンステイーブ(Wigg
ins Teape)紙透過性測定装置により測定されたものでその単位
はcm^(3) min^(-1)(10cm^(2))^(-1)(10cmウオータゲージ)
^(-1)である。」(第2頁右上欄第20行?左下欄第3行)

オ.「交互のバンドはタバコロツドのまわりの巻紙の全長または実質的に
全長を占め、かつ喫煙物品のタバコロツドのまわり、即ち円周の少なくと
も75%のまわりで巻紙を包囲する。しかし、好ましくは、バンドは全円
周を包囲する。」(第2頁左下欄第13?17行)

カ.「本来高多孔性の紙を採用して低多孔度のバンドを得ることができる
がそれにはそれらのバンド中の紙を処理してその多孔度を減少させる。こ
れは紙の孔を閉塞または充填しあるいは紙の繊維間間隙にわたるフイルム
を形成する如き物質で紙を処理することにより選択できる。しかして、ゲ
ル形成物質を塗布、印刷または他の被覆技術により前記バンドにおける紙
に付与できる。特に適当な物質は水中でゲルを形成する物質である。好適
な物質はゼラチン、アルギン酸塩、メチルセルロース、メチルエチルセル
ロースおよびガムである。」(第2頁右下欄第5?16行)

キ.「すべてのシガレツトは長さ70mm、円周25mmであつた。各場
合に用いたタバコは乾燥処理(flue-cured)したバージニアタ
バコである。」(第3頁左上欄第19行?右上欄第1行)

ク.「実施例4
下記の態様でゼラチン溶液を調製した。脱イオンゼラチン90gとクエ
ン酸500とを撹拌しながら水2.3lに添加した。ゼラチンを室温で3
0分間膨潤させる。ゼラチンが溶けるまで混合物を加熱し、ほぼ沸騰した
メタノール3lを除々に添加する。加熱と撹拌を続け、ほぼ沸騰したメタ
ノール12lを更に添加し、次いで冷たいアセトン4lを添加した。溶液
を放置して室温まで冷却させた。この溶液を分析した結果、組成は下記の
通りであつた。・・・
溶液中の懸濁ゼラチン粒子の直径は約2ないし4ミクロンであつた。
多孔度320の巻紙にその全面にわたりゼラチン溶液を被覆し被覆厚さを
0.9g/m^(2)とした。被覆は溶剤被覆機(印刷業界で用いる如きメエヤ
ーロツド(Meyer Rod)付きのデイクソンNo.164ソルベン
トコータ)により付与された。かくして紙の多孔度は15に減少した。被
覆された紙は周知の態様でエンボスして幅x=y=2mmのバンドを形成
した。yバンドの多孔度は165また平均多孔度は90であつた。」(第
3頁左下欄第15行?第4頁左上欄第6行)

ケ.「実施例5
多孔度370の巻紙に幅x=y=2mmのバンドの形態で5%ゼラチン
水溶液を被覆した。被覆厚さは1.0g/m^(2)であり、xバンドの多孔度
はゼロ、平均多孔度では173であつた。
バンドがシガレツトを包囲しかつゼラチン被覆を巻紙の外側になるよう
にしてこの紙に巻かれたタバコのシガレツトは、くすぶり速度が4.4m
m/min、ふかし回数が7.9であった。これは匹敵する平均多孔度1
70の紙に巻かれたシガレツトの数値4.9mm/min、および7.2回
と対比される。
実施例6
多孔度360の巻紙に5%のアルギン酸ナトリウム水溶液を幅x=y=
2mmのバンドの形態で被覆した。xバンドの被覆厚さは1.2g/m^(2) 、多孔度はゼロ、平均多孔度は167であつた。この巻紙に巻かれタバコ のシガレツトは、くすぶり速度が3.0mm/min、ふかし回数が8.9 であつた。」(第4頁左上欄第15行?右上欄第12行)

2 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【請求項1】 改善された着火性を有する喫煙製品であって、
包装体に包まれたタバコ・カラムを有し、該包装体は未処理領域と、非水
溶媒に溶解した溶媒可溶性セルロース・ポリマーからなり、かつ粒子状の
非反応性無機充填剤が懸濁した非水溶液によって処理されることで前記包
装体上に離散的に形成された処理領域と該処理がなされていない未処理領
域とを有するペーパ・ウエブからなり、前記処理領域は平坦かつ滑らかな
質感を有するとともに着火性を減少させるのに十分な所定の範囲内の通気
率を持つもので、燃えさしが前記処理領域に達すると同時に、燃えさしへ
の酸素供給を前記処理領域が減少させることで前記着火性が減少すること
を特徴とする喫煙製品。
【請求項2】 前記処理領域の通気率は、6/ml/分/cm^(2) 以下であ
ることを特徴とする請求項1に記載の喫煙製品。」(【特許請求の範囲】
)

イ.「喫煙製品、特にシガレットに求められる特徴は、自由燃焼状態で可
燃性の材料上に落下あるいは放置されている場合に自己消化することであ
る。
タバコ巻紙はシガレットのくすぶりに対して顕著な影響を与えることが
産業界において長い間認識されていた。この点に関して、自己消化するの
に求められるシガレットの特性や、シガレットの着火性を抑えるためにタ
バコ巻紙を変えたり、あるいは改良したりする試みが当業者によってなさ
れてきた。」(段落【0003】、【0004】)

ウ.「処理領域18において包装体14に塗布された溶液は処理領域の通
気率を減少させる。粒子状の無機非反応性充填材が懸濁された溶媒可溶性
セルロース・ポリマーが特に良好に作用する。非水溶媒はペーパ・ウエブ
の繊維間結合(例えば、水素結合)を壊さない傾向を示し、したがってぺ
ーパ・ウエブの強度が顕著に減少するようなことはない。また、非水溶媒
は該溶媒が乾燥した際にぺーパ・ウエブにしわやひだを生ずるようなこと
はない。このことは、包装体14が滑らかで、かつ美的に満足のいく外観
が得られる。
特に十分に適した非水溶媒は、アルコールとアセテートとの混合物であ
り、例えばイソプロピル・アルコールとエチル・アセテートとの50/5
0混合である。しかし、これはこのましい溶媒ではあるけれども、任意の
適当な非水溶媒または溶媒混合物を利用することもできよう。例えば、標
準プロピル・アセテートと標準プロピル・アルコールとの60/40混合
もまた、特に良好に作用する。十分に適した溶媒可溶性セルロース・ポリ
マーはエチル・セルロースである。このエチル・セルロースは、一般に溶
液の重量で約15%ないし35%、好ましくは約25%である。しかし、
任意のセルロースを主成分とするポリマー、例えばヒドロキシプロピルセ
ルロースもまた利用することができる。」(段落【0048】、【0049】)

3 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「パルプ繊維と、多価金属陽イオンを含む粒子材料との混合物からな
るペーパー層を形成し、前記ペーパーの少なくとも一部分を覆うように、
アルギン酸の塩と誘導体から選択された材料の溶液を塗布し、前記アルギ
ン酸の塩、又は誘導体を前記ペーパー内の多価金属陽イオンと反応させて
、ポリマーコーティングを形成し、前記ペーパーとポリマーコーティング
を乾燥させる、段階からなる、コーティングされたペーパーを形成する方
法。」(【請求項1】)。

イ.「過去において、ペーパーは透過率を減少させるように処理されてき
た。・・・透過率の低い煙草用の包装ペーパーが好ましい。何故ならば、
このペーパーは、燃えている煙草が可燃材料をも着火する恐れを減らし、
煙草が所定の時間の間、妨げられることなく燃えた後に自然に消えること
もありうるからである。」(段落【0002】)

ウ.「アルギン酸の塩類、または誘導体の例には、アルギン酸アンモニウ
ム、アルギン酸カリウム、・・・、またはこれらの混合物を含む」(段落
【0003】)

4 甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「幅が約2から20mmの範囲である1つ以上のバンドを備えた普通
に燃焼するセルロース繊維紙製のベースシートから成り、前記1つ以上の
バンド内においては、固有BMIの値が約0から約4cm^(-1)の範囲であ
る喫煙品用巻き紙。」(第1頁左欄第4?8行)

イ.「本発明の目的は、紙巻きタバコに対して、発火傾向の減じられた特
性を付与でき、所望なら、空気中で自然燃焼しているときでも所定の自然
消火特性を確実に付与できる紙巻きタバコ等の喫煙用巻き紙構造を提供す
るものである。」(第3頁左上欄第13?17行)

5 甲第5号証に記載された事項
甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「このように処理されると、得たシガレツトは、処理されたゾーンが
消費されるまで正常に燃焼し、そしてもしふかされなければ確実に自己消
火するであろう。すなわち、望ましい自己消火特性を達成しながら、煙及
びタールの通常又は僅かにのみ高められた移送ならびに通常のふかし数が
得られる。
本発明の包装材構造物の好ましい実施態様は、亜麻又は他のセルロース
繊維を含むシート及び高められた量のアルカリ金属塩燃焼促進剤たとえば
カルボン酸のナトリウム及び特にカリウム塩で処理されたゾーンを含む。
そのような包装材は望ましくは、不透明性のための鉱物性充填材を含む。
第1図は、BMI(燃焼モード指数)の測定のための装置を示す。
第2図は、増加するBMIの関数として、燃焼の連続性を得るために必
要なアルカリ金属塩(クエン酸カリウムとして)の減少する量を示すグラ
フである。」(第4頁右上欄第15行?左下欄13行)

イ.表1には、実施例1乃至3として、透過度(cm/min)1.5
?4.0、及び、BMI(cm^(-1))2.5?3.5を有する一重包装シガ
レツトが示されている。

6 甲第6号証に記載された事項
甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「連続的自由燃焼及び他の物質を発火させる傾向の低さを特徴とする
喫煙物品のための一重包装材構造物において、約1.5cm^(-1)?約5.0
cm^(-1)の範囲のBMIを持つ基礎シートを含むセルロース繊維を包含し
かつまた絶乾基礎シート1g当たり約5mg?150mgの無水クエン
酸カリウムに当量の量のアルカリ金属塩燃焼促進剤を含むところの包装材
構造物。」(第1頁左欄第5?12行)

イ.「BMIが約1.5cm^(-1)?3.5cm^(-1)の範囲にあり、絶乾基礎
紙1g当たり15mg?150mgの無水クエン酸カリウムに当量の量の
アルカリ金属塩燃焼促進剤を含む特許請求の範囲第1項記載の包装材構造
物。」(第1頁左欄第17行?右欄第1行)

ウ.「本発明は、望ましいシガレット特性を実質的に損なうことなくシガ
レットの発火傾向を減少したシガレットのような喫煙物品のための産業的
に実際的な包装材構造物及び得られた喫煙物品に関する。本発明の包装材
は、喫煙物品が空気中で望ましい速度で連続的に燃え、しかし多くの一般
的な可燃性物質などの物体上に落ちたときに迅速に自己消火することを可
能ならしめる。」(第3頁右下欄第6?13行)

エ.「一重包装態様のための包装材のBMIは、約1.5cm^(-1)から約
5.0cm^(-1)の範囲内になければならず、好ましくは約1.5cm^(-1)?
3.5cm^(-1)の範囲にある。」(第5頁右下欄第5?8行)

オ.「この紙は、絶乾の基礎紙1g当たり90mgの無水クエン酸カリウ
ムを含むように処理された。この紙は下記の特性を持った:68%のタッ
ピ(Tappi)乳白度、3800g/29mmの引張強度、CORES
TA法で測定された、1センチバーレルで4cm/分の透過度、21g/
m^(2)の基礎重量及び2.5cm^(-1)のBMI。
13.2mg/mmのタバコ柱密度でこの包装紙を用いて作ったシガレ
ットは、3.8mm/分で自由燃焼し、連続燃焼するために20%の酸素
の雰囲気を必要とし、模擬布張り家具テストで3分間で自己消火した。実
施例1(M)は、9.2mg/mmのタバコ柱密度での繰返しである。」
(第7頁右上欄第5?18行)

カ.「表1、2及び3において本発明の実施例は番号により区別され、一
重包装シガレットに対する1.5?5.0cm^(-1)及び二重包装シガレット
の内側包装材に対する0.1?4.0cm^(-1)という本発明の範囲の外にあ
るBMI値を持つアルファベットで区別した包装材と比較される。
表1に示されるように、本発明に従う包装材の使用は、BMIが定義さ
れた範囲内にある場合に望む自由燃焼速度及び低減された発火傾向を示
す。」(第8頁左下欄第13行?右下欄第1行)

また、表1には、BMIが、1.5?5.0cm^(-1)の定義された範囲内
にある場合、およびBMIが該範囲の外にある場合の自由燃焼速度、発火
傾向についての実験結果が示されている。

7 甲第7号証に記載された事項
甲第7号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「タバコが、好ましくは環状であるパターン化された形状でありより
小さな通気度とより大きな通気度との領域を有するシガレットペーパのケ
ーシングにより囲まれており、初期通気度が15Pより低く、特定のパタ
ーン化されたゾーンを少なくとも1回のバトニングの結果として4Pより
低い平均総通気度を有するシガレットペーパを備えている、速やかに消火
又は自動消火するシガレット。」(第1頁左欄第5?13行)

イ.「本発明は、タバコ芯が、パターン化された好ましくは環状ゾーンの
形をしたより小さい通気度の領域及びより大きい通気度の領域を有するシ
ガレットペーパのケーシング(casing)で囲まれている、速やかに
消火、あるいは自動消火するシガレットに関する。
(従来の技術)
このようなシガレットは、独国特許公開公報第2559071号により
既に公知であり、このシガレットでは、シガレットペーパは最高100ま
でのより小さい有孔度を持つゾーンと、150から2000までのそれよ
り大きい有孔度を持つゾーンとを示し、平均有孔度は50から500であ
る。この単位は、10cm水柱の圧力のもと10cm^(2)当たりのcm^(3)/
分で求められる。この公知のシガレットでは、制御された燃焼速度及び/
又は吸引(puff)回数の増加は、交互の有孔度を持つ環状ゾーンの手
段により可能になるはずである。
・・・独国特許公開公報第2559071号のシガレットでは、より低
い方の有孔度の領域は最高10Pまでの好ましくは5Pまでの通気度に対
応しており、一方高い有孔度の領域はこのシガレットペーパの5?50P
の総有孔度に於いて15?200Pの値を示す。」(第2頁左上欄第5行
?右上欄第18行)

8 甲第8号証に記載された事項
甲第8号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「喫煙品の包装材料に用いられる紙は約20から30g/m^(2)の基本
重量を有し、本発明の紙は約25から70g/m^(2)の平均基本重量を有す
る。横方向領域は好ましくは基体ウエブの重量以上の基本重量を有する。
さらに横方向領域は基体ウエブの基本重量を約100%越えた基本重量の
増大を有することが好ましい。横方向領域はその基本重量の増大が基体ウ
エブの約0.01から30%であることがもっとも好ましい。」
(段落【0019】)

イ.「上記に説明したように本発明の紙は喫煙品に組み合わされた場合に
喫煙品の自己消火を促進する作用をも有する。」(段落【0023】)

9 甲第9号証に記載された事項
甲第9号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「タバコ・カラムと該タバコ・カラムを囲む包装体とを有する喫煙製
品であって、前記包装体は喫煙製品の着火性を改善するための通気率が減
少した離散的な領域を有し、前記通気率が減少した離散的な領域における
通気率減少は、前記喫煙製品の燃焼方向に沿って最小ゼロ通気率減少から
最大通気率減少に増加するように、前記燃焼方向に段階的に減少する通気
率のプロフィールを定めることを特徴とする喫煙製品。」(【請求項1】
)

イ.「前記通気率が減少した離散的な領域は、最大減少通気率が6ml/
分/cm^(2) 以下である領域を有することを特徴とする請求項1に記載の
喫煙製品。」(【請求項11】)

ウ.「したがって、喫煙製品、特にシガレットに求められる特徴は、自由
燃焼状態で可燃性の材料上に落下あるいは放置されている場合に自己消化
することである。
タバコ巻紙はシガレットのくすぶりに対して顕著な影響を与えることが
産業界において長い間認識されていた。」(段落【0003】、【0004】)

エ.「本発明の基本的な目的は、着火性が改善された喫煙製品を提供する
ことである。」(段落【0011】)

オ.「本発明の好ましい一実施形態例の概略的構成を図1および図2に示
す。参照符号10で示される喫煙製品(シガレット)は、着火性が改善さ
れた包装体(タバコ巻紙)14に覆われたタバコ・カラム12とを有する
。また、喫煙製品10はフィルタ26を有するものであってもよい。さら
に、包装体14は商業的に入手可能な任意の種類のタバコ巻紙であっても
よく、例えばキムバリー・クラーク・コーポレーション(kimberly-Clark
Corporation)のKCグレート603ぺーパ(KC grade 603 paper)が挙げ
られる。」(段落【0025】)

10 甲第10号証の1に記載された事項
甲第10号証の1には、次の事項が記載されている。
1992年の製品リストのGRADE 432、508、672の巻き紙の
透過率が、それぞれ80コレスタ、67コレスタ、80コレスタであるこ
と。

11 甲第10号証の2に記載された事項
甲第10号証の2には、次の事項が記載されている。
1987年の製品リストの製品番号11625、12625、11725
の巻き紙の透過率が72コレスタであること。

12 甲第11号証に記載された事項
甲第11号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「1.被覆領域を有する透過性支持体を含んで成る喫煙用ロッドラツ
パー材料(ここで該材料は多孔性低下性組成物の被膜により被覆され又は
含浸される)であって、前記被膜が不連続であり、そして前記被覆領域に
おける材料の多孔度が被覆されていない支持体の多孔度の2/3以下(コ
レスタで測定される)であることを特徴とする材料。
2.前記被覆領域の多孔度(コレスタで測定された)が被覆されていな
い支持体の多孔度の25?50%である請求の範囲第1項記載の材料。
3.前記被覆されていない支持体が20?200コレスタの多孔度を有
し、そして前記被覆領域が3?60コレスタの多孔度を有する請求の範囲
第1項記載の材料。」(第1頁左欄第2?13行)

イ.「喫煙用ロッドの燃焼及び煙特性が、ロッドラッパーの多孔度により
影響を受けることは良く知られている。そのラッパーは、典型的には、た
とえば約20コレスタ(Coresta)?たとえば約200コレスタま
での多孔度を有する。
ラッパーのある領域を多孔性にする(この孔あけは、一般的に1,00
0以上、たとえば5,000?7,000コレスタの多孔度をラッパー上に
与える)結果として特定の効果を得ることは知られている。これらの孔あ
けの効果を高めるために、燃焼端が孔に近ずくにつれてそれらの孔をふさ
がない材料によりそれらの孔をふさぐことが知られている。たとえばアメ
リカ特許第2,992,647号、第3,511,247号及び第3,526,
904号並びにイギリス特許第1,439,778号を参照のこと。これら
の組成物は、燃焼端が近ずくにつれて孔の開口を可能にすることができる
けれども、それらは、開孔が存在しない場合、実質的に完全に不透過性で
あるラッパーを付与する効果を有する。
本発明は、第1に孔あけされていないラッパー、たとえば約200コレ
スタ以下の多孔度を典型的には有するラッパーに関する。そのような孔あ
けされていないラッパーに関しては、低められた多孔性は、高められたタ
ール排出、高められた一吹の回数及び高められた一酸化炭素排出をもたら
すことができる。その高められたタール排出は、それが喫煙者に改良され
た感覚を与えるので好ましいものである。高められた一吹きの回数は、煙
が弱くなる傾向があるので(タールが補うために十分に高められなければ
)所望されない傾向がある。高められた一酸化炭素排出は、特に、一酸化
炭素:タールの比が高められる場合、所望されない。」(第2頁左上欄
第2行?右上欄第5行)

ウ.「適切な燃焼促進剤は良く知られていて、そして有機酸(一般的にク
エン酸または酒石酸)のアルカリ金属(一般的にナトリウム又はカリウム
)塩、又は硝酸カリウムを含む。」(第3頁右上欄第14?16行)

エ.「被覆された紙が低い多孔度(典型的には15コレスタ以下)を有し
、そして/又は被覆されていない紙が80コレスタ以下の多孔度を有する
場合、多量の燃焼促進添加剤、典型的には2?10%、たとえば約5%の
添加剤が適切な一吹きの回数を得るために必要とされる。」(第3頁左下
欄第2?6行)

オ.「ポリマー材料は、スターチ又はセルロースポリマー又はその誘導体
、たとえばヒドロキシ-エチル又はヒドロキシ-プロピルセルロース、カ
ルボキシメチルセルロース又はエチルセルロースであり、又はそれは、合
成ポリマー、たとえばポリビニルアルコール又は好ましくは、エチレンビ
ニルアセテートコポリマーであり得る。」(第3頁左下欄第23行?右下
欄第3行)

カ.「例1
それぞれ50、80及び135コレスタの初期多孔度を有する3枚の巻
タバコ用ロッドラッパーを、エタノール中、30%エチレンビニルアセテ
ートの組成物によりプリントし、そのロッドの円錐端から65mmのプリ
ントされた領域の表面の60%を被覆する、直径1mmの点のパターンを
付与した。多孔度、一吹の回数、タール排出及び一酸化炭素排出を、被覆
されていない紙(対照)及びプリントされたサンプルのそれぞれのために
記録し、そしてそれらの結果を第1表に示す。」(第4頁右上欄第19行
?左下欄第2行)

13 甲第12号証に記載された事項
甲第12号証には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「バンド区域内の添加レベルは25g/m^(2)の基体シート上で約1.
0g/m^(2)であった(すなわちバンド区域は基本重量26g/m^(2)であり
、一方非バンド区域は25g/m^(2)だけの基本重量であった)。」(段落 【0043】)

第5 甲第1号証に記載された発明
甲1号証の「多孔度」は、「ウイキンステイーブ(Wiggins Te
ape)紙透過性測定装置により測定されたものでその単位はcm^(3) min^(-1)(10cm^(2))^(-1)(10cmウオータゲージ)^(-1)である。」(
前記第4 1(1)エ参照。)。すなわち、その単位は「cm^(3)/10cm^(2)・min・100mmH_(2)O」となり、これは、被請求人も口頭審理において認めたとおり、透過率を表すコレスタの単位(cm^(3)/cm^(2)・min・100mmH_(2)O)と同じである。
したがって、甲1号証の「多孔度370」、「多孔度0」を、コレスタ単
位に換算すると、それぞれ、「37コレスタ」、「0コレスタ」となる。
前記記載事項からみて、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「透過率37コレスタのシガレツトペーパー、およびシガレツトペーパーにゼラチン水溶液を被覆処理することにより形成した低多孔性のバンドを含むシガレツトペーパーラツパー(たばこの巻紙)であって、低多孔性のバンドと高多孔性のバンドとが複数交互に設けられており、低多孔性のバンドの透過率は0コレスタであるシガレツトペーパーラツパー(たばこの巻紙)。」

ところで、請求人は、甲第1号証について、「甲1には『約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブ、および前記ペーパーウェブにフィルム形成用組成物を塗布することによって形成された前記ペーパーウェブ上の互いに離れた処理区域を含む喫煙用品用巻き紙であって、
前記の互いに離れた区域は無処理区域により隔てられており、前記の互いに離れた処理区域は、約25コレスタ未満の透過率を有し、前記処理区域は、前記巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下させる喫煙用品用巻き紙。』が記載されている。」(審判請求書第2ページ枠内右欄)と主張するが、甲1号証には、このような巻き紙は、記載されていない。
甲第1号証に記載された実施例のうち、巻き紙をフィルム形成用組成物によって処理したものは、いずれも、初期透過率が37コレスタ以下のものである。
しかしながら、このコレスタ値の数値について、被請求人は、「引用例1の実施例においてフィルム形成用組成物によって処理された全ての巻き紙の初期透過率は37コレスタ以下であり、「約60コレスタより大きい」という本件特許の請求項11において要求されるペーパーウェブの初期透過率に比べて遙かに小さい。」(陳述要領書第7頁第20?23行)と主張しており、当該主張及び答弁書等におけるペーパーウェブが「約60コレスタより大きい」ことに関する主張を勘案すれば、被請求人は、甲第1号証に記載された巻紙が、「フィルム形成用組成物によって処理された巻き紙の初期透過率が37コレスタ」のものを含むことを認め、その上で、コレスタ値が約60以上であるとして、実質的に反論しているから、甲1発明を上記のように認定した。

第6 当審の判断
1 本件特許発明11について
本件特許発明11と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「シガレツトペーパー」は、本件特許発明11の「ペーパー ウェブ」に相当し、同様に、「ゼラチン水溶液」は「フィルム形成用組成 物」に、「被覆処理」は「塗布」に、「シガレツトペーパーラツパー(た ばこの巻紙)」は「喫煙用品用巻き紙」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の透過率「0」コレスタは、本件特許発明11の「約2 5コレスタ未満の透過率」に含まれる数値である。
さらに、本件特許発明11の「ペーパーウェブ上の互いに離れた処理区
域」、及び、「前記の互いに離れた区域は無処理区域により隔てられてお
り」との記載は、処理区域と無処理区域とが交互に設けられていることを
表現していることに他ならないから、甲1発明の「低多孔性のバンドと高
多孔性のバンドとが複数交互に設けられ」は、本件特許発明11の「ペー
パーウェブ上の互いに離れた処理区域」、及び、「前記の互いに離れた区
域は無処理区域により隔てられており」と同義である。

ゆえに、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「ペーパーウェブ、およびペーパーウェブにフィルム形成用組成物を塗
布することによって形成されたペーパーウェブ上の互いに離れた処理区域
を含む喫煙用品用巻き紙であって、
互いに離れた区域は無処理区域により隔てられており、互いに離れた処
理区域は、約25コレスタ未満の透過率を有する喫煙用品用巻き紙。」

[相違点1]
ペーパーウェブ(無処理区域)の透過率が、本件特許発明11では、「
約60コレスタより大きい」のに対して、甲1発明では、37コレスタで
ある点。

[相違点2]
本件特許発明11は、「巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を低下
させる」ことを目的としているのに対して、甲1発明は、「シガレツトの
燃焼速度を有利に制御しかつ(または)ふかし回数(puff time
s)を増加する手段を提供する」ことを目的としている点。

[相違点3]
巻き紙の処理区域について、本件特許発明11では、「約25コレスタ
未満の透過率および約5cm^(-1)未満のBMIを有」するのに対し、甲1
発明では、「約25コレスタ未満の透過率を有」する点。

(1)相違点1について
ア.透過率を約60コレスタより大きくすることの意義について
この意義について、被請求人は、「非処理区域、即ち離間した複数の処
理区域に挟まれた区域において、巻き紙の透過率が60コレスタ以上であ
ることが要求されるのである。着火性向特性を低下させるために、透過率
及びBMIを低下させる処理を行うものの、巻き紙自体の透過率が約60
コレスタ以上という比較的大きな透過率のものを採用することにより、処
理後もなお、円滑な喫煙を可能とする程度の通気を確保することができる
という意義を有する。」(陳述要領書第5頁第1?7行)と主張する。
即ち、「処理後もなお、円滑な喫煙を可能とする程度の通気を確保する
ことができる」ためには、「巻き紙の透過率が60コレスタ以上であるこ
とが要求される」と主張する。
しかしながら、「円滑な喫煙を可能とする程度の通気」の量は、個人に
よっても、また、吸い方によっても異なるものである。
また、本件特許発明11では、「約60コレスタより大きい」と特定す
るだけで、ペーパーウェブの透過率の下限値が「約60」であることの臨
界的意義について説明されていないばかりか、透過率の上限についても特
定されておらず、さらに、円滑な喫煙性を立証するための実験等がなされ
ている訳でもないから、「円滑な喫煙を可能とする程度の通気」の量が、
透過率が「約60コレスタ以上」のペーパーウェブでなければ、得ること
のできないものであるのか否か、断定できない。
したがって、本件特許発明11の「約60コレスタより大きい透過率を
有するペーパーウェブ」とは、被請求人も主張するように、「比較的大き
な透過率」を有するペーパーウェブという程度の意味、さらに言えば、処
理区域の透過率が25コレスタ未満であることも参酌すると、処理区域と
無処理区域の透過率の差が、コレスタ値で約35以上であればよいという 程度の意味と解される。
なお、甲1発明の巻紙も、処理区域と無処理区域との透過率の差は37
であり、上記数値の差の範囲内のものである。

イ.処理区域のバンド幅について
上記アの意義に関連して、被請求人は、「例えば、処理区域のバンド幅
やバンド間の間隔を適切に定める等、その他の手段を補助的に併用するこ
とにより、離間した処理区域は「巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向
を低下」させる機能ないし作用を営むことを排除するものではない。」(
陳述要領書第6頁第2?8行)、「例えば本件特許明細書段落0040、
0041に記載するように、処理区域のバンド幅やバンド間の間隔を適切
に定める等、他の手段を必要に応じて補助的に併用することを排除するも
のではない。」(第6頁第26行?第7ページ第2行)と主張するが、「
処理区域のバンド幅」や「バンド間の間隔」は、本件特許発明11の発明
特定事項ではないから、被請求人の当該主張は、特許請求の範囲の記載に
基づかないものであり、採用できない。

ウ.「約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブ」につい

該ペーパーウェブが特殊なものであるか否かについてみると、甲第10
号証の1や甲第10号証の2として提出された製品リストに掲載されてい
るように、約60コレスタより大きい透過率である、62コレスタ、72
コレスタ、80コレスタの各ペーパーウェブは、本件優先日前、商業的に
簡単に入手できる一般的なものであった。
また、本件優先日前、喫煙用品に用いられる巻き紙の透過率は、約10
コレスタ単位から約200コレスタ単位のものが普通に知られていたもの
である(第1回口頭審理調書、前記第4 12イ参照。)。
すなわち、約60コレスタより大きい透過率を有するペーパーウェブは
、ペーパーウェブとして何ら特殊なものではない。

エ.小括
以上のとおり、無処理区域のコレスタ値が60以上であることに格別の
意義はなく、また、約10コレスタから200コレスタまでのペーパーウ
ェブは普通に入手可能なものであったから、コレスタ値を約60以上と特
定することは、当業者が適宜決定し得る技術事項である。
したがって、相違点1を格別なものとすることはできない。

(2)相違点2について
ア.甲第1号証に記載された「巻き紙を取り込んだ喫煙用品の着火性向を
低下させる」なる目的の自明性について
本件特許発明11の「着火性向を低下させること」とは、口頭審理にお
いても確認したように、「自己消火する望ましい傾向をもたせる」(本件
特許公報段落【0004】)ことである。
この点に関して、被請求人は、平成20年1月22日付け答弁書におい
て、「請求人自身も認めるように、引用例1は、本件発明11の目的ない
し解決すべき課題を開示しておらず、低い多孔度のバンド又は高い多孔度
のバンドが喫煙用品の着火性向特性を低下させることを開示も示唆もして
いない。」(答弁書第7頁第8?11行)と主張する。
確かに、甲第1号証に記載の巻紙は、「シガレツトの燃焼速度を有利に
制御しかつ(または)ふかし回数(puff times)を増加する手
段を提供すること」を直接的な目的としている。
しかしながら、甲1号証には、その従来技術として、「シガレツトペー
パーを処理して燃焼速度を減少しあるいはシガレツトを消火することも同
様に周知である。」(前記第4 1ウ参照)とも記載されている。
ここに言う、「シガレツトペーパーを処理してシガレツトを消火する」
とは、処理されたシガレツトペーパーを用いたシガレツトは自己消火する
、ということに他ならず、また、この「処理」が、「塩溶液でシガレツト
ペーパーを処理」(前記第4 1ウ参照)することであるのは明らか
である。
すなわち、甲第1号証には、シガレツトペーパーを塩溶液で処理する
とシガレツトが自己消火することが従来周知である、と記載されており、
「処理されたシガレツトペーパーが着火性向を低下させる」ことは、甲第
1号証において、十分開示されていると言え、上記被請求人の主張は
採用できない。

イ.着火性向について
低い通気率のタバコ巻紙が高い通気率のタバコ巻紙よりも着火性向が低
いことは、本件優先日前の技術常識であり、また、甲第2号証にも、低い
通気率のタバコ巻紙は、着火性が低いことが記載されている(前記第4
2ア参照。)。

ウ.小括
以上のとおりであるから、甲第1号証には、塩溶液で処理されたシガレ
ツトペーパーが、「着火性向を低下させること」が開示されており、甲1
発明の「低多孔性のバンド」の透過率が「0」コレスタであることは、着 火性向を低下させるという課題も解決するものである。
したがって、甲1発明も、明記されてはいないが、「巻き紙を取り込ん
だ喫煙用品の着火性向を低下させる」という目的を有していると言える。
よって、相違点2を格別なものとすることはできない。

(3)相違点3について
ア.「約25コレスタ未満の透過率および約5cm^(-1)未満のBMI」な
る発明特定事項の「および」の意義について
被請求人は、「本件発明11は、このメカニズムを勘案して、自己消火
性を確保するために、前者の透過率のみならず、併せて、後者の「BMI
値」についても特定したのである。したがって、本件発明11において、
「約25コレスタ未満の透過率」と「約5cm^(-1)未満のBMI」とを「
および」とした点は、格別の技術的意義を有するものである。」(陳述要
領書第4頁第7?12行)と主張する。
被請求人も主張するように、本件特許発明11は、「約25コレスタ未
満の透過率」と「約5cm^(-1)未満のBMI」とを、「および」で接続す
ることにより、ペーパーウェブの処理区域が、コレスタ値、BMI値に関
する2つの測定法のどちらの条件も満たすものであることを特定し、この
点に技術的意義を有するものである。

イ.甲第6号証の記載事項について
甲第6号証には、その表1に、BMI(cm^(-1))が、1.5?5.0と
定義された範囲内において、実施例1として、透過度(cm/分)4.0
及びBMIが2.5である一重包装シガレツトの発火傾向(消火までの分
)が3分であること、実施例2として、透過度1.5及びBMIが3.5で
ある一重包装シガレツトの発火傾向が4分であること、実施例3として、
透過度2.0及びBMIが3.5である一重包装シガレツトの発火傾向が4
分であること、また、BMIが上記定義の範囲外(5.0を越える)であ
ると、比較例A、Cのように、透過度(コレスタ)が6.0、10.0のよ
うに小さな数値であっても発火傾向が無限大となる(自己消火しない)こ
とが記載されている。
すなわち、甲第6号証には、発火傾向(消火までの分)を減少させるた
めには、換言すれば、自己消火を確実なものとするためには、BMIと透
過度の2つの条件を満たすこと、具体的に言えば、BMIが1.5?5な
る条件と、透過度が小さい値であるという条件の、2つの条件を満たすこ
とが必須の要件であることが記載されている。

ウ.透過率が25コレスタ未満である点について
本件特許発明11は、着火性向を低下させるために、処理区域のBMI
及び透過率の取り得る値の範囲を規定するものであるところ、BMIにつ
いては前記イのとおりであるが、透過率の具体的数値が「25コレスタ未
満」であることは明記されていないので、この点について検討する。
本件特許公報には、処理区域の透過率の上限値が「25」であることの
臨界的意義について、何ら記載されておらず、また、「25」に何らかの
意味があることを窺わせる記載もないから、コレスタ値が「25」コレス
タ未満であることに格別な意義があるとは認められない。
また、喫煙用品用巻き紙の技術分野において、透過率が小さくなればな
る程、燃焼領域への空気の供給量が減少し、着火性向が減少することは、
本件優先日前、広く知られている技術事項である。
したがって、本件特許発明11が、着火性向を低下させるために、処理
区域の透過率の上限を「25」とすることは、当業者が適宜設定し得た数
値である。

エ.小括
以上のとおり、甲1発明において、自己消火を確実なものとするために
、甲第6号証に記載された技術事項を適用することにより、処理区域を透
過率とBMIの2つの条件で規定することは、当業者が容易になし得たも
のである。
そして、甲第6号証の適用に際して、処理区域の透過率の上限値をどの
ような値とするかは、必要とされる着火性向の程度、BMI値、喫煙用品
の材質及び形状等に基づいて当業者が適宜決定し得たものであり、具体的
には、前記イ、ウのとおりである。
したがって、相違点3を格別なものとすることはできない。

(4)作用効果について
本件特許発明11の奏する効果についてみても、甲1発明、甲第2、6
号証に記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲
内のものである。

(5)まとめ
よって、本件特許発明11は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

2 本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明11に「互いに離れた処理区域は、
互いに離れた複数の外周バンドを含むこと」なる発明特定事項を付加する
ものである。
ここに言う「外周バンド」とは、横方向外周バンド24のことであり、
図2によれば、バンドがタバコ柱の全周に亘って形成されていることを特
定するものであるところ、甲1発明の「低多孔性のバンド」も、タバコロ
ッドのまわりの全周に亘って設けられるものであるから、甲1発明の「低
多孔性のバンド」が、本件特許発明12の「巻紙の外周バンド」に相当す
ることは明らかである。
してみると、本件特許発明12の「互いに離れた処理区域は、互いに離
れた複数の外周バンドを含む」なる発明特定事項は、甲1発明との一致点
に含まれる事項であるから、本件特許発明12は、前記1で指摘した、本
件特許発明11と甲1発明との相違点と同じ相違点を有するものであり、
その検討については前記したとおりである。

よって、本件特許発明12は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

3 本件特許発明14について
本件特許発明14は、本件特許発明11に「フィルム形成用組成物はア
ルギネートを含むこと」なる発明特定事項を付加するものである。
甲第1号証には、その実施例6として、「5%のアルギン酸ナトリウム
水溶液」で巻紙を被覆すること(前記第4 1ケ参照)も記載されており
、本件特許発明14の「アルギネート」は「アルギン酸ナトリウム」を含
むものである。
してみると、本件特許発明14の「フィルム形成用組成物はアルギネー
トを含む」なる発明特定事項は、甲1発明との一致点に含まれる事項であ
り、本件特許発明14は、前記1で指摘した、本件特許発明11と甲1発
明との相違点と同じ相違点を有するものであり、その検討については前記
したとおりである。

よって、本件特許発明14は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

4 本件特許発明16について
本件特許発明16は、本件特許発明11に「フィルム形成用組成物は、
ポリビニルアルコール、デンプン、またはセルロース誘導体を含むこと」
なる発明特定事項を付加するものである。

甲第1号証には、「ゲル形成物質を塗布、印刷または他の被覆技術によ
り前記バンドにおける紙に付与できる。特に、適当な物質はゲルを形成す
る物質である。好適な物質はゼラチン、アルギン酸塩、メチルセルロース
、メチルエチルセルロースよびガムである。」(前記第4 1カ参照)こ
とも記載されており、本件特許発明16の「セルロース誘導体」は、「メ
チルセルロース、メチルエチルセルロース」を含むものである。
してみると、本件特許発明16の「フィルム形成用組成物は、ポリビニ
ルアルコール、デンプン、またはセルロース誘導体を含む」なる発明特定
事項は、甲1発明との一致点に含まれる事項であり、本件特許発明16は
、前記1で指摘した、本件特許発明11と甲1発明との相違点と同じ相
違点を有するものであり、その検討については前記したとおりである。

よって、本件特許発明16は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

5 本件特許発明18について
本件特許発明18は、ペーパーウェブについて、本件特許発明11にお
いて、「約60コレスタより大きい透過率を有すること」とあるものを、
「約80コレスタより大きい透過率を有すること」とするものである。
そこで、本件特許発明18と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、[相違点]のうち、相違点1について
、ペーパーウェブ(無処理区域)の透過率が、本件特許発明18では、「
約80コレスタより大きい」のに対して、甲1発明では、37コレスタで
ある点で相違する。

そこで、この相違点について検討する。
本件特許明細書には、処理区域の透過率の下限値が「80」であること
の臨界的意義について、何ら記載されておらず、また、「80」に何らか
の意味があることを窺わせる記載もないから、コレスタ値が「80」コレ
スタより大きいことに格別な意義があるとは認められない。
また、前記1(1)の相違点1についての判断において検討したように、
80コレスタの透過率を有するペーパーウェブは、本件優先日前、商業的
に入手できる一般的なものであった。
また、本件優先日前、喫煙用品に用いられる巻き紙の透過率は、約10
コレスタ単位から約200コレスタ単位のものが普通に知られていたもの
である(第1回口頭審理調書、前記第4 12イ参照)。

してみると、コレスタ値が80以上であることに格別の意義はなく、ま
た、約10コレスタから200コレスタまでのペーパーウェブは普通に入
手可能なものであったから、コレスタ値を約80以上と特定することは当
業者が適宜決定し得る技術事項である。

よって、本件特許発明18は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

6 本件特許発明21について
本件特許発明21は、本件特許発明11に「フィルム形成用組成物は、
ペーパーウェブに塗布される前に、非水性組成物を含むこと」なる発明特
定事項を付加した請求項20において、更に、「非水性組成物」を「アル
コール」と限定するものである。

そこで、本件特許発明21と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、既に検討した相違点1乃至相違点3に
加え、次の点で相違する。
[相違点4]
フィルム形成組成物について、本件特許発明21では、「ペーパーウェ
ブに塗布される前に、アルコールを含有する」のに対して、甲1発明では
、この発明特定事項を備えていない点。

上記相違点4について検討する。
甲第2号証には、「非水溶液は、ペーパ・ウエブに塗布される前に、ア
ルコールと混合される、自己消火可能なタバコ包装体」が記載されている

甲第2号証に記載された「非水溶液」は、「フィルム形成用組成物」で
あり、「アルコールと混合される」と、「アルコールを含有する」ことに
なることは言うまでもない。
してみると、甲2号証には、「フィルム形成用組成物は、ペーパーウェ
ブに塗布される前に、アルコールを含有する自己消火可能な喫煙用品用巻
き紙」が記載されている。
すなわち、甲第2号証には、上記相違点4に係る発明特定事項が記載さ
れている。
そして、甲第2号証に記載された巻き紙は、自由燃焼状態で可燃性の材
料上に落下あるいは放置されている場合に自己消火する課題を解決するも
のであるから、喫煙用品の着火性向を低下させるという自明の課題を解決
するために、甲1発明のペーパーウェブに、甲第2号証に記載された巻き
紙を適用することは、当業者が容易になし得たものである。

また、本件特許発明21の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6号証に
記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内のも
のである。

よって、本件特許発明21は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

7 本件特許発明22について
本件特許発明22は、本件特許発明11に「ペーパーウェブは、約18
gsmから約60gsmの坪量を有すること」なる発明特定事項を付加す
るものである。
本件特許発明22と甲1発明とは、前記1において示した[一致点]を
有し、既に検討した相違点1乃至相違点3に加え、次の点で相違する。
[相違点5]
本件特許発明22では、「ペーパーウェブは、約18gsmから約60
gsmの坪量を有する」のに対して、甲1発明では、ペーパーウェブの坪
量については記載されていない点。

上記相違点5について検討する。
甲第8号証には、「一般に喫煙品の包装材料に用いられる紙は約20か
ら30g/m^(2)の基本重量を有し」ていることが記載されている。
そして、甲第8号証に記載された紙も、「喫煙用品に組み合わせられた
場合に喫煙品の自己消火を促進する作用をも有する。」(段落【0023】)
なる課題を解決するものであるから、甲1発明のペーパーウェブに、喫煙
用品の着火性向を低下させるという課題を解決するために、甲第8号証に
記載された技術事項を適用することは、当業者が容易になし得たものであ
る。

また、本件特許発明22の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6、8号
証に記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内
のものである。

よって、本件特許発明22は、甲1発明、甲第2、6、8号証に記載さ
れた技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たも
のである。

8 本件特許発明23について
本件特許発明23は、本件特許発明11に「ペーパーウェブに添加され
た燃焼制御添加剤をさらに含むこと」なる発明特定事項を付加するもので
ある。

そこで、本件特許発明23と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、既に検討した相違点1乃至相違点3に
加え、次の点で相違する。
[相違点6]
本件特許発明23では、「ペーパーウェブに添加された燃焼制御添加剤
をさらに含む」のに対して、甲1発明では、燃焼制御添加剤を含むことに
ついて記載されていない点。

上記相違点6について検討する。
甲第6号証には、アルカリ金属塩燃焼促進剤(本件特許発明23の「燃
焼制御添加剤」に相当する。)を含むシガレットのシートについても記載
されている(前記第4 6イ、オ参照。)。
すなわち、甲第6号証には、上記相違点6に係る発明特定事項について
記載されている。

したがって、甲1発明において、自己消火を確実なものとするために、
甲第6号証に記載された技術事項を適用することは、当業者が容易になし
得たものである。

また、本件特許発明23の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6号証に
記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内のも
のである。

よって、本件特許発明23は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

9 本件特許発明24について
本件特許発明24は、本件特許発明23に「燃焼制御添加剤がアルカリ
金属塩であること」なる発明特定事項を付加するものである。

そこで、本件特許発明24と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、既に検討した相違点1乃至相違点3及 び相違点6に加え、次の点で相違する。
[相違点7]
燃焼制御添加剤について、本件特許発明24では、「アルカリ金属塩」
であるのに対して、甲1発明では、「アルカリ金属塩」であることが記載
されていない点。

上記相違点7について検討する。
甲第6号証には、アルカリ金属塩燃焼促進剤を含むシガレットのシート
についても記載されている(前記第4 1イ、オ参照)。
すなわち、甲第6号証には、上記相違点7に係る発明特定事項について
記載されている。

したがって、甲1発明において、自己消火を確実なものとするために、
甲第6号証に記載された技術事項を適用することは、当業者が容易になし
得たものである。

また、本件特許発明24の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6号証に
記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内のも
のである。

よって、本件特許発明24は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

10 本件特許発明25について
本件特許発明25は、本件特許発明24に「アルカリ金属塩がクエン酸
塩であること」なる発明特定事項を付加するものである。

そこで、本件特許発明25と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、既に検討した相違点1乃至相違点3、 相違点6及び相違点7に加え、次の点で相違する。
[相違点8]
アルカリ金属塩について、本件特許発明25では、「クエン酸塩」であ
るのに対して、甲1発明では、「クエン酸塩」であるであることが記載さ
れていない点。

上記相違点8について検討する。
甲第6号証には、アルカリ金属塩燃焼促進剤として無水クエン酸カリウ
ムを用いたことについても記載されている(前記第4 1イ、オ参照)。
すなわち、甲第6号証には、上記相違点8に係る発明特定事項について
記載されている。

したがって、甲1発明において、自己消火を確実なものとするために、
甲第6号証に記載された技術事項を適用することは、当業者が容易になし
得たものである。

また、本件特許発明25の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6号証に
記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内のも
のである。

よって、本件特許発明25は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

11 本件特許発明30について
本件特許発明30は、本件特許発明11に「互いに離れた処理区域は、
隣接した基材上に置かれたとき、ペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品を
自己消火性させる」なる発明特定事項を付加するものである。

甲第1号証には、「シガレツトペーパーを処理して燃焼速度を減少しあ
るいはシガレツトを消火すること」(前記第4 1ウ参照)も記載されて
いるが、ここで言うシガレツトとは「喫煙用品」のことであり、「シガレ
ツトを消火する」には、自由燃焼状態で燃焼性の物質上に落とされたかま
たは放置された際に消火する、という2つの消火を含むことは技術常識で
ある。

してみると、本件特許発明30の「互いに離れた処理区域は、隣接した
基材上に置かれたとき、ペーパーウェブを取り込んだ喫煙用品を自己消火
性させる」なる発明特定事項は、甲1発明との一致点に含まれる事項であ
るから、本件特許発明30は、前記1で指摘した、本件特許発明11と甲
1発明との相違点と同じ相違点を有するものであり、その検討については
前記したとおりである。

よって、本件特許発明30は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

12 本件特許発明32について
本件特許発明32は、本件特許発明11に「互いに離れた処理区域は、
約1から約3cm^(-1)のBMIを有する」なる発明特定事項を付加するも
のである。

そこで、本件特許発明32と甲1発明とを対比すると、両者は、前記1
において示した[一致点]を有し、[相違点]のうち、相違点3の巻き紙
の処理区域について、本件特許発明では、約1から約3cm^(-1)のBMI
を有」するのに対して、甲1発明では、BMIについて特定されていない
点で相違する。
そこで、この相違点について検討する。

甲第6号証には、BMIが約2.5cm^(-1)の喫煙用品用巻き紙(前記
第4 1イ、オ参照)についても記載されている。
すなわち、甲第6号証には、上記相違点に係る発明特定事項について記
載されている。

したがって、甲1発明において、自己消火を確実なものとするために甲
第6号証に記載された技術事項に倣ってBMIを約1から約3cm^(-1)と
することは、当業者が容易になし得たものである。

また、本件特許発明32の奏する効果は、甲1発明、甲第2、6号証に
記載された技術事項及び周知の技術事項により奏される効果の範囲内のも
のである。

よって、本件特許発明32は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

13 本件特許発明33について
本件特許発明33は、本件特許発明11に「タバコを含む柱、および柱
を囲む巻き紙を含む喫煙用品であって、処理区域は、喫煙用品が隣接した
表面上に置かれたときに自己消化するという点で喫煙用品の着火性向を低
下すること」なる発明特定事項を付加するものである。

甲第1号証には、「シガレツトペーパーを処理して燃焼速度を減少しあ
るいはシガレツトを消火すること」(前記第4 1ウ参照)も記載されて
いるが、ここで言うシガレツトとは「タバコを含む柱、および柱を囲む巻
き紙を含む喫煙用品」のことであり、「シガレツトを消火する」には、自
由燃焼状態で燃焼性の物質上に落とされたかまたは放置された際に消火す
る、という2つの消火を含むことは技術常識である。

してみると、本件特許発明33の「タバコを含む柱、および柱を囲む巻
き紙を含む喫煙用品であって、処理区域は、喫煙用品が隣接した表面上に
置かれたときに自己消化するという点で喫煙用品の着火性向を低下するこ
と」なる発明特定事項は、甲1発明との一致点に含まれる事項であるから
、本件特許発明33は、前記1で指摘した、本件特許発明11と甲1発明
との相違点と同じ相違点を有するものであり、その検討については前記し
たとおりである。

よって、本件特許発明33は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された
技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易になし得たもので
ある。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明11、12、14、16、18、21、23、24、25、30、32及び33は、甲1発明、甲第2、6号証に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて、本件特許発明22は、甲1発明、甲第2、6、8号証に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易になし得たものである。
したがって、本件特許発明11、12、14、16、18、21、22、23、24、25、30、32及び33は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2008-07-28 
出願番号 特願2002-540589(P2002-540589)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (A24D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川端 修  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 長崎 洋一
関口 哲生
登録日 2007-05-18 
登録番号 特許第3958685号(P3958685)
発明の名称 着火性の低下した特性を有する喫煙用品の製造方法およびその方法により作製された製品  
復代理人 主代 静義  
代理人 河野 哲  
代理人 阿部 和夫  
代理人 河野 直樹  
代理人 伊藤 晴國  
代理人 中村 誠  
代理人 堀内 美保子  
復代理人 田村 正  
代理人 谷 義一  
代理人 高橋 美智留  
代理人 小宮山 展隆  
代理人 鈴江 武彦  

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