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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1190199
審判番号 不服2007-10354  
総通号数 110 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-11 
確定日 2009-01-09 
事件の表示 特願2006-206096「車輪用軸受装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月24日出願公開、特開2006-317007〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年5月12日に特許出願された特願2005-140452号の一部を平成18年7月28日に新たな特許出願としたものであって、平成19年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成19年4月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成19年5月11日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審において審理がなされ、特許法第159条第2項において準用される同法第50条の規定に基づいて平成20年8月7日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、平成20年10月14日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.当審の拒絶理由
当審において平成20年8月7日付けて通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。すなわち、本願発明は、特許法第44条第2項の規定によってみなされたもとの特許出願前に頒布された刊行物である特開2004-108449号公報(拒絶理由通知における刊行物1。本審決においても、「刊行物1」という。)に記載された発明に、特開2001-130209号公報(同刊行物2)及び国際公開第2000-37813号公報(同刊行物3)に示されるような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成19年2月13日付け手続補正、平成19年5月11日付け手続補正及び平成20年10月14日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その請求項1に記載された以下のとおりのものであると認める(以下、単に「本願発明」という。)
「内周に複列の軌道面を有する外方部材と、前記各軌道面に対向する複列の軌道面を外周に有する内方部材と、対向する軌道面間に介在したボールとを備え、両列の軌道面の接触角が背面合わせとなる複列のアンギュラ玉軸受型であり、前記内方部材が車輪取付用のハブフランジをアウトボード側端の外周に有しインボード側端に段差部状に小径となる内輪嵌合面を有するハブ輪と、このハブ輪の前記内輪嵌合面に嵌合した内輪とでなり、前記外方部材が懸架装置におけるナックルに嵌合させるナックル嵌合部をインボード側端に有し、外方部材のインボード側の軌道面の一部が、前記ナックル嵌合部の設けられた軸方向範囲に重なるものである、乗用車用の車輪用軸受装置において、
アウトボード側のボール列のピッチ円直径を、インボード側のボール列のピッチ円直径よりも大きくし、アウトボード側列のボール個数をインボード側列のボール個数よりも多くし、
インボード側のボール列のピッチ円直径PCDiに対するボール径dの割合(d/PCDi)を、
0.14≦(d/PCDi)≦0.25
としたことを特徴とする車輪用軸受装置。」

4.刊行物に記載の発明
一方、当審で通知した拒絶の理由に引用された上記刊行物1(特開2004-108449号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

イ.「本発明は、狭隘な車体に対して、装置を大型化させることなく高剛性化を図れる構造でもって、転がり軸受装置の長寿命化を図れるようにすることを解決課題とする。」(3ページ10-12行;段落番号【0005】)

ロ.「以下、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を、図面を参照して詳細に説明する。この転がり軸受装置は、車両用車軸の軸受用に適用して説明する。この転がり軸受装置は、従動輪側を例にとっている。図1は本発明の一実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図、図2は、図1の転がり軸受装置の上半分断面図である。図1で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナ側(軸方向他方側)を示す。
図例の転がり軸受装置100は、複列外向きアンギュラ玉軸受装置として、外輪1と、ハブ軸2と、内輪3と、一対の玉群4,5と、一対の保持器6,7と、一対のシール部材8,9とを有する。
外輪1は、外輪部材として、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、車両アウタ側の軌道面12の車両インナ側における外周面に車両(不図示)に固定するためのフランジ14を有する。
ハブ軸2は、内輪部材の一部分として、車両アウタ側の外周面に車輪(不図示)を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、軸方向中間の外周面に外輪1の車両アウタ側の軌道面12と対向する一列の軌道面16を有する。内輪3は、内輪部材の一部分として、ハブ軸2における車両インナ側の外周面に該ハブ軸2と一体回転可能に嵌合装着され、外周面に外輪1の車両インナ側の軌道面13と対向する一列の軌道面17を有する。
玉群4,5は、転動体として、外輪1の軌道面12,13とハブ軸2および内輪3の各軌道面16,17との間において軸方向に二列介装される。」(4ページ11-31行;段落番号【0015】ないし【0019】)

ハ.「本実施形態では、次の構成を有することを特徴とする。すなわち、上述した構成を有する転がり軸受装置100の場合、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブ軸2のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブ軸2のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。本実施形態では、この環状の自由空間11に着目して、図1に示すように、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定している。但し、このD_(1)>D_(2)の関係は、D_(1)を大きく設定することにより実現し、D_(2)は一定とする。これに伴い、ハブ軸2の軌道面16を内輪3の軌道面17よりも拡径し、あわせて外輪1の車両アウタ側の軌道面12を車両インナ側の軌道面13よりも拡径している。
このように、D_(1)>D_(2)に設定することにより、転がり軸受装置100の剛性が向上する。」(4ページ44行-5ページ6行;段落番号【0023】及び【0024】)

ニ.「以下、D_(1)および玉群4の介装数の最適な設定について試験により検証しているので、説明する。
この試験に用いた転がり軸受装置100は、車両インナ側の玉5について、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とし、車両アウタ側の玉4については、その直径を玉5と同じ12.7mmとした。この試験では、車両アウタ側の玉4について、D_(1)および介装数をいろいろ変化させて転がり軸受装置100の剛性および寿命を確認した。従来例としては、玉4,5について、D_(1)=D_(2)=49mm、直径は共に12.7mm、介装数は共に11個に設定した。
転がり軸受装置100の剛性は、転がり軸受装置100に径方向に一定の荷重をかけたときの転がり軸受装置100の傾きを計測して確認し、寿命は、転がり軸受装置100を回転させ寿命に至るまでの走行距離を計測して確認する。なお、転がり軸受装置100の剛性を示す傾き(単位:分)は、その値が小さいほど転がり軸受装置100の剛性が高いことを示しており、転がり軸受装置100の寿命を示す走行距離(単位:万km)は、その値が大きいほど転がり軸受装置100の寿命が長いことを示す。
表1において、試料1では、D_(1)をD_(2)の110%とし、玉4の介装数を玉5と同じ11個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が98%と向上しており、寿命も玉4側が108%、玉5側が107%と向上している。
試料2では、D_(1)をD_(2)の149%とし、玉4の介装数を16個としている。この場合、転がり軸受装置100は、従来例との比較において、剛性が84%と向上しており、寿命も玉4側が257%、玉5側が121%と向上している。しかも、試料1との比較においても、剛性、寿命ともに向上している。・・・(省略)・・・。
以上のように、本実施形態では、車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径を大きく設定している。そのため、外輪1のフランジ14と内輪3のフランジ15との間に生じるスペースを有効に活用して転がり軸受装置100における玉群4,5の互いの軸受負荷中心間距離を増大させることができ、転がり軸受装置100の剛性を向上させることができる。しかも、車両アウタ側の玉群4の周方向における介装スペースも増大するため、その分、玉群4の介装数を増やすことができ、転がり軸受装置100の剛性をさらに向上させることができる。」(5ページ27行-7ページ16行;段落番号【0028】ないし【0035】)

ホ.「さらに、以上のように車両アウタ側の玉4の直径を小さくすることにより、上記実施形態に比べてさらに車両アウタ側の玉群4の周方向における介装数を増やすことができる。図5に示すように、玉4の直径を小さくすると、周方向に隣り合う玉4同士の配置間隔を狭めることができるので、玉4の介装数を増やすことができる。これにより、玉一個当たりの荷重を分散することができ、転がり軸受装置100の剛性がさらに向上する。
ただし、玉4の直径を小さくするにつれ、転がり軸受装置100の剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にある。そのため、玉4の直径は、従来例に比べて転がり軸受装置100の寿命が低下しない範囲で適切に設定する必要がある。」(7ページ49行-8ページ7行;段落番号【0042】及び【0043】)

ヘ.「(2)図6は、本発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の全体構成を示す断面図である。
図6において、図1から図2と対応する部分には同一の符号を付しており、その同一の符号に係る部分の詳しい説明は省略する。図6で軸方向左側は車両アウタ側(軸方向一方側)を、軸方向右側は車両インナー側(軸方向他方側)を示す。
転がり軸受装置200は、内輪部材としてハブホイール43と等速ジョイント40とを有する。
この転がり軸受装置200においても、外輪部材として外輪1、これと同心に配置された内輪部材としてハブホイール43および等速ジョイントの軸部42とを有する。」(10ページ18-30行;段落番号【0050】ないし【0053】)

ト.「このような構成の転がり軸受装置200も、外輪1のフランジ14の車両インナ側が車両の一部であるナックル(不図示)に固定され、ハブホイール43のフランジ15の車両アウタ側に車輪(不図示)が取り付けられる。このとき、外輪1のフランジ14とハブホイール43のフランジ15との間には環状の自由空間11が存在する。」(10ページ50行-11ページ4行;段落番号【0059】)

チ.図6から、「外輪1」の「フランジ14」の車両インナ側(図中右側)に「ナックル」との嵌合部が設けられている点、及び「外輪1」の車両インナ側の「軌道面13」の一部が当該「ナックル」との嵌合部に対して軸方向範囲に重なる点がそれぞれ看取される。

これらの記載事項によれば、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「外輪1と、内輪部材と、玉群4,5とを有し、外輪1は、内周面に軸方向二列の軌道面12,13を有するとともに、外周面に車両に固定するためのフランジ14を有し、内輪部材は、車輪を取り付けるためのフランジ15を有するとともに、外輪1の軌道面12と対向する一列の軌道面16を有するハブ軸2と、ハブ軸2に嵌合装着され、外輪1の軌道面13と対向する一列の軌道面17を有する内輪3を有し、玉群4,5は、転動体として、外輪1の軌道面12,13と内輪部材の各軌道面16,17との間に介装され、外輪1のフランジ14が車両の一部であるナックルに固定されるものであって、
車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)と、車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)との関係をD_(1)>D_(2)に設定し、車両インナ側の玉5を、D_(2)=49mm、直径は12.7mm、介装数は11個とし、車両アウタ側の玉4の介装数を16個とした車両用車軸の軸受用の転がり軸受装置」

5.対比
(1)一致点
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明における「外輪1」は、内周面に軸方向二列の「軌道面12,13」を有することから、その機能ないし構造からみて、本願発明における「内周に複列の軌道面を有する外方部材」に相当することは、明らかである。同様に、「内輪部材」は、「前記各軌道面に対向する複列の軌道面を外周に有する内方部材」に、「玉群4,5」は、「対向する軌道面間に介在したボール」に、それぞれ相当する。また、刊行物1記載の発明における軸受は、図1ないし図4の記載に鑑みれば、本願発明と同様、「両列の軌道面の接触角が背面合わせとなる複列のアンギュラ玉軸受型」であると理解できる。
次に、刊行物1記載の発明における「車輪を取り付けるためのフランジ15」と「内輪3」とは、それぞれ本願発明における「車輪取付用のハブフランジ」と「内輪」に相当することは、明らかであるところ、刊行物1記載の「ハブ軸2」は、図1ないし図4も参酌してみれば、「車輪を取り付けるためのフランジ15」を車両アウタ側の外周、すなわちアウトボード側の外周に有しているとともに、「内輪3」を車両インナ側の端部、すなわちインボード側の端部において、段差部状に小径となる部分に嵌合装着していることから、その構造から見て、本願発明における「車輪取付用のハブフランジをアウトボード側端の外周に有しインボード側端に段差部状に小径となる内輪嵌合面を有するハブ輪」に相当する。
また、刊行物1記載の発明における「フランジ14」は、「ナックル」に固定されるものであるところ、刊行物1記載の発明における「軸受装置」が「車両用車軸」に用いられるものであることに鑑みれば、当該「ナックル」は、「懸架装置」におけるものであると直ちに理解されるとともに、図1ないし図4も参酌してみれば、「ナックル」が「外輪1」のインボード側端部において嵌合され、「フランジ14」に固定されるものであることも、十分理解できる。そうすると、刊行物1記載の発明における「外輪1のフランジ14が車両の一部であるナックルに固定される」は、本願発明における「外方部材が懸架装置におけるナックルに嵌合させるナックル嵌合部をインボード側端に有し」に実質的に相当するものであるといえる。
さらに、刊行物1記載の発明では、「車両アウタ側の玉群4のピッチ円直径D_(1)」と「車両インナ側の玉群5のピッチ円直径D_(2)」との関係が「D_(1)>D_(2)」とされていることから、これは、本願発明における「アウトボード側のボール列のピッチ円直径を、インボード側のボール列のピッチ円直径よりも大きく」するものに相違ない。加えて、刊行物1記載の発明は、「車両アウタ側の玉群4」の玉の介装数は16個であり、「車両インナ側の玉群5」の玉の介装数は11であることから、本願発明の「アウトボード側列のボール個数をインボード側列のボール個数よりも多くし」に相当する構成も有しているものである。
加えて、刊行物1記載の発明における「車両用車軸の軸受用の転がり軸受装置」は、車輪用の軸受装置であるという点において、本願発明における「車輪用軸受装置」にひとまず相当する。
してみれば、両者は、本願発明の表記にならえば、以下の点で一致する。
「内周に複列の軌道面を有する外方部材と、前記各軌道面に対向する複列の軌道面を外周に有する内方部材と、対向する軌道面間に介在したボールとを備え、両列の軌道面の接触角が背面合わせとなる複列のアンギュラ玉軸受型であり、前記内方部材が車輪取付用のハブフランジをアウトボード側端の外周に有しインボード側端に段差部状に小径となる内輪嵌合面を有するハブ輪と、このハブ輪の前記内輪嵌合面に嵌合した内輪とでなり、前記外方部材が懸架装置におけるナックルに嵌合させるナックル嵌合部をインボード側端に有した、車輪用軸受装置において、アウトボード側のボール列のピッチ円直径を、インボード側のボール列のピッチ円直径よりも大きくし、アウトボード側列のボール個数をインボード側列のボール個数よりも多くした車輪用軸受装置。」

(2)相違点
一方、両者は、次の点で相違する。
1)相違点1
本願発明では、「外方部材のインボード側の軌道面の一部が、前記ナックル嵌合部の設けられた軸方向範囲に重なる」ものであるのに対して、刊行物1記載の発明では、車両インナ側の「軌道面13」の全部がナックルとの嵌合部に軸方向範囲で重なるものであると理解される点。

2)相違点2
本願発明では、「乗用車用の車輪用軸受装置」であるのに対して、刊行物1記載の発明では、「車両用車軸」の「軸受装置」であり、「乗用車用」とはされていない点。

3)本願発明では、「インボード側のボール列のピッチ円直径PCDiに対するボール径dの割合(d/PCDi)を、0.14≦(d/PCDi)≦0.25」としているのに対して、刊行物1記載の発明では、車両インナ側の「玉群5」について、そのピッチ円直径とボール径とがどのような比率にあるのか明らかではない点。

6.相違点の判断
(1)相違点1について
上述4.チ.のとおり、刊行物1の図6には、「外輪1」の車両インナ側の「軌道面13」の一部が当該「ナックル」との嵌合部に対して軸方向範囲に重なる点が記載されていることが看取される。そして、刊行物1記載の発明に対し、同一の技術分野におけるこの技術的事項を単に組み合わせることにより、上述相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(2)相違点2について
上述4.イ.に摘記したとおり、刊行物1記載の発明は、「狭隘な車体」をその対象とするものであるから、トラック等の大型車両ではなく、乗用車のような比較的小型の車両を念頭においていることが示唆されているものであるし、このような構造の車輪用軸受装置を乗用車に用いることは、周知技術であるから(例えば、特開2002-61663号公報の段落【0017】、特開2001-246905号公報の段落【0018】等参照)、刊行物1記載の発明を「乗用車」に適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。

(3)相違点3について
上述4.ホ.に摘記したとおり、刊行物1には、アウトボード側についてとはいえ、ボール径を小さくすることにより玉の介装数を増やし、もって軸受装置の剛性をさらに向上させることが可能であること、同時にボール径を小さくするにつれ、剛性は向上するものの、寿命は低下する傾向にあることが記載され、また、国際公開第2000-37813号公報も、同様の記載がなされている(第18ページ第18行-第24行)。してみると、剛性と寿命とを考慮し、ボール径を適切な上限・下限の範囲内に設定するという課題は、軸受において広く知られていたということができる。さらに、国際公開第2004-22992号公報の表7(第18ページ)において、ボール径とピッチ円直径との比を本願発明の数値範囲内である約0.207又は約0.249とすることが記載されているように、両者の比率をこの程度とすることも知られているところである。
そして、これら剛性の向上と寿命の低下の防止という課題は、個々の軸受そのもののが有するものであって、軸受が単列か複列か、あるいは、複列の軸受において互いに異なるピッチ円直径を持つか否かに関わらず、共通するものである。
そうすると、刊行物1記載の発明における車両インナ側の軸受において、ボールの径を上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項のような数値範囲に設定することは、当業者であれば容易に想到し得たものである。

さらに本願発明は、「インボード側における剛性の向上、転動疲労寿命の確保が得られる」、「インボード側部分においても、限られた軸受径で剛性の向上を図り、かつ転動疲労寿命が確保でき、コスト面でも有利なものとなる」という効果を奏するものであるがこれは、上述(3)のとおり、インボード側のボール径であってもそれを適切な範囲に設定することは、当業者にとって容易想到であって、これによって当然に得られる効果であることから、当業者にとって直ちに予測可能なものである。
また、願書に添付された図面の図4には、確かに0.26を境に剛性が低下することが一応見て取れるものの、願書に添付された明細書には、実験の前提や条件が何も記載されておらず、下限については、結果が不明であることから、これをもって直ちに剛性の向上に顕著な効果があるということはできないし、寿命の向上に関する効果については、単に向上するという以外、そもそもなんら言及がない。
よって、本願発明は、刊行物1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、審判請求人は、平成19年5月11日付け手続補正により補正された審判請求書、平成20年7月28日付け回答書及び平成20年10月14日付け意見書の中で、ボール径をピッチ円直径との関係を考慮しつつ設計することは、一般論としては周知であるものの、単列軸受、あるいは、個々の列毎のピッチ円直径との関係に止まり、特定の用途、構成の車両用軸受装置である、両列のピッチ円直径違いの軸受において、その影響を考慮し、インボード側列の工夫で軸受け全体としての剛性向上を図る点は、周知ではない旨主張する。しかし、ボール径を適宜の数値範囲内に設計し、剛性向上と寿命とを両立するという課題が個々の軸受そのものが本来有するものである以上、個々の軸受として、刊行物1記載の発明における車両インナ側の軸受にもこれがあてはまることは、当業者にとって容易に理解されるところであるから、そのような周知技術の適用を図ることについて十分な動機づけがあるといえ、その結果、得られる効果も当業者にとって予想の範囲内であり、格別なものではない以上、この点に進歩性があるとすることはできない。

7.まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-10-29 
結審通知日 2008-11-04 
審決日 2008-11-17 
出願番号 特願2006-206096(P2006-206096)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 和英  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 溝渕 良一
岩谷 一臣
発明の名称 車輪用軸受装置  
代理人 野田 雅士  

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