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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
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管理番号 | 1191543 |
審判番号 | 不服2006-11664 |
総通号数 | 111 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-06-08 |
確定日 | 2009-01-19 |
事件の表示 | 特願2002-256934「金属製品の窒化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月25日出願公開、特開2004- 91892〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成14年9月2日の出願であって、その請求項1?4に係る発明は、平成20年11月10日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 窒素分を含む熱硬化性樹脂製の成形品を窒化剤とし、この窒化剤の加熱により発生したガスの存在下(真空下にガスを導入する場合を除く)で、窒化処理の対象とするチタン又はチタン合金から成る金属製品を700?850℃の窒化温度に加熱して前記金属製品の表面に窒化層を形成することを特徴とする金属製品の窒化方法。」 2.引用例とその記載事項 当審において通知した平成20年9月11日付け拒絶理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、第54回(平成14年度春季)日本熱処理技術協会講演大会講演概要集19?20頁「ジシアンジアミド粉末を用いた鋼の固体窒化」(以下、「引用例1」という。)、特開昭49-29242号公報(以下、「引用例2」という。)、特表平1-503790号公報(以下、「引用例3」という。)、特開平11-43760号公報(以下、「引用例4」という。)、及び、特開平2-25560号公報(以下、「引用例5」という。)には、それぞれ、次の事項が記載されている。 〔1〕引用例1:第54回(平成14年度春季)日本熱処理技術協会講演大会講演概要集19?20頁「ジシアンジアミド粉末を用いた鋼の固体窒化」 〔1a〕「窒化処理は、窒素を含む媒体中で鋼を加熱し、その表面に窒化層を形成させるもので、・・・古くから実用されてきている。・・・本研究では、メラミンの製造原料であるジシアンジアミド粉末あるいはメラミンやユリアのプラスチック廃棄物粉末を用い、これらによるオーステナイト系ステンレス鋼、極軟鋼などの窒化について検討した。」(1頁2?8行) 〔1b〕「実験には熱間圧延ステンレス鋼板SUS304(t=4mm)、冷間圧延鋼板SPCC(t=3mm)などから切り出した板材(・・・)を用いた。・・・これらの表面は・・・研磨した後、窒化剤容器のジシアンジアミド(C_(2)H_(4)N_(4)、50g)などの粉末中に埋没させ、電気炉を用いて表1に示す条件で加熱・保持した後空冷した。窒化層の形成状態は、X線回折、硬度測定、組織観察、EPMA分析などにより調べた。」(1頁10?15行) 〔1c〕「本研究ではジアミド粉末のほかに、メラミン樹脂やユリア樹脂の粉末を用いて、SCM415、SKD11、FCD800材などを対象に窒化を試みた。その結果、これらの粉末は高い窒化能を有し、鋼種によらず、また鋳鉄にも比較的容易に窒化が施されることがわかった。」(2頁17?23行) 〔1d〕表2には、加熱温度が480℃、565℃であることが示されている。 〔2〕引用例2:特開昭49-29242号公報 〔2a〕「特許請求の範囲 1.浸炭又は窒化条件下に炭素源又は窒素源としての気体を発生する常温で固体の物質の存在下、真空又は減圧下に金属、殊に鉄合金を浸炭窒化する方法。」(1頁左下欄3?6行) 〔3〕引用例3:特表平1-503790号公報 〔3a〕「請求の範囲 1.鋼片を有機窒化試薬の気体分解生成物の媒体中で処理し、次いで該鋼片を冷却することにより該鋼片の低温浸炭窒化処理を行う方法において、該工程が密閉空間内で行われ、且つ有機窒化試薬がポリアミドであることを特徴とする鋼片を低温浸炭窒化する方法。」(1頁左下欄1?6行) 〔4〕引用例4:特開平11-43760号公報 〔4a〕「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ・・・ 【請求項2】 ・・・真空雰囲気中で・・・チタンおよびチタン合金からなる部材を加熱手段により700?800℃まで所定時間加熱し焼鈍処理する加熱工程と、 窒素成分を含むガスを導入した減圧雰囲気中で加熱工程と同一温度で所定時間保持しチタンおよびチタン合金からなる部材の表面から内部へ窒素を拡散、固溶させて窒素が固溶した硬化層を形成させる硬化処理工程と、 ・・・冷却工程と、からなることを特徴とするチタンおよびチタン合金からなるチタン硬化部材の硬化処理方法。」 〔5〕引用例5:特開平2-25560号公報 〔5a〕「特許請求の範囲 1.一次粒子径0.2μm以下のジシアンジアミド及び/又はメラミン80?10重量%と平均粒子径2?20μmの範囲内の鉱物粉体及び/又は金属酸化物粉体90?20重量%とを混合してなることを特徴とする粉体窒化剤。」(1頁左下欄5?10行) 〔5b〕「本発明に係る粉末窒化剤は、加熱されることによつて、先ずアンモニアガスを発生させ、温度上昇にともなつてアンモニアガスの発生が少なくなると、次いで容器内の空気中の酸素を取り込んでシアン酸重合物を生成させるとともに活性窒素(・・)も生成させるものであり、窒化作用はアンモニア分解反応(・・・)が主で、・・・窒化が進行するものと推定できる。」(6頁左下欄2?10行) なお、本願は、特許法第30条第1項の適用を申請したものであり、特許庁長官が指定した学術団体である日本機械学会が平成14年3月7日に開催した研究集会において文書をもって発表したことについては、特許法第30条第4項の規定に沿う証明書「日本機械学会 東海学生会 第33回学生員卒業研究発表講演会 講演前刷集」(平成14年3月1日発行)が提出されている。 しかしながら、特許庁長官が指定した学術団体である日本熱処理技術協会が平成14年5月29日、5月30日に開催した研究集会〔第54回(平成14年度春季)日本熱処理技術協会講演大会〕において文書をもって発表したことについては、特許法第30条第4項の規定に沿う証明書は一切提出されておらず、しかも、その発表は、上記日本機械学会の研究集会での発表と密接不可分の関係にあるものともいえないし、さらに、その発表内容は、上記引用例1の講演概要集の記載から見て、窒化剤としてジシアンジアミド粉末以外にプラスチック廃棄物粉末を用いる点、及び、ステンレス鋼板以外のものの窒化を含んでいる点で、上記日本機械学会の研究集会での発表と全く同一内容のものともいえない。 してみると、日本熱処理技術協会の研究集会での発表やその講演概要集である引用例1による発表については、特許法第30条第1項の適用が申請されていないといわざるを得ず、同項のみなし規定は適用されない。 3.引用例1記載の発明 引用例1の摘記〔1a〕?〔1d〕の記載を、メラミン樹脂やユリア樹脂の廃棄物粉末を用いた窒化方法について整理すると、引用例1には、次の「窒化方法」についての発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 「熱間圧延ステンレス鋼板SUS304、冷間圧延鋼板SPCC、SCM415、SKD11、FCD800材、鋳鉄などから切り出した板材を研磨した後、窒化剤容器のメラミン樹脂やユリア樹脂の廃棄物粉末中に埋没させ、電気炉を用いて板材を480℃や565℃に加熱し、その表面に窒化層を形成する板材の窒化方法。」 4.対比・判断 本願発明1と引用例1発明を対比すると、 (ア)引用例1発明における(熱間圧延ステンレス鋼板SUS304、冷間圧延鋼板SPCC、SCM415、SKD11、FCD800材、鋳鉄などから切り出した)「板材」は、本願発明1における「金属製品」に相当する。 (イ)本願明細書の「【0025】・・・ユリア樹脂、メラミン樹脂、・・・等の窒素分を含む熱硬化性樹脂・・・」、「【0031】・・・樹脂成形品の形状は特に限定されず、回収された樹脂成形品そのままの状態であっても良く、又は例えば・・・粉末状や片状、所定大の塊状に破砕乃至は粉砕し、これを窒化剤として使用しても良い」との記載からみて、引用例1発明における「メラミン樹脂やユリア樹脂の廃棄物粉末」は、本願発明1における「窒素分を含む熱硬化性樹脂製の成形品」に相当するといえる。 (ウ)引用例1発明における窒化層を形成する際の加熱温度「480℃や565℃」は、「窒化温度」といえる。 (エ)引用例1発明における窒化剤としての「メラミン樹脂やユリア樹脂の廃棄物粉末」は、摘記〔2a〕、〔3a〕、〔5a〕、〔5b〕等の記載からみて、窒化の際の加熱により窒化用のガスを発生するものといえるから、引用例1発明においても、窒化層の形成は、「窒化剤の加熱により発生したガスの存在下で」なされているといえる。 以上の(ア)?(エ)の事項を考慮すると、両者は、 「窒素分を含む熱硬化性樹脂製の成形品を窒化剤とし、この窒化剤の加熱により発生したガスの存在下で、窒化処理の対象とする金属製品を窒化温度に加熱して前記金属製品の表面に窒化層を形成する金属製品の窒化方法。」である点で一致するが、次の点で相違する。 <相違点1> 本願発明1では、窒化処理の対象とする金属製品が「チタン又はチタン合金から成る」ものであり、窒化温度が「700?850℃」であるのに対し、引用例1発明では、窒化処理の対象とする金属製品が「熱間圧延ステンレス鋼板SUS304、冷間圧延鋼板SPCC、SCM415、SKD11、FCD800材、鋳鉄などから切り出した」ものであり、窒化温度が「480℃や565℃」である点 <相違点2> 本願発明1では、窒化処理の条件が「真空下にガスを導入する場合を除く」ものであるのに対し、引用例1発明では、そのような条件が規定されていない点 以下、上記相違点1、2について検討する。 チタンやチタン合金からなる製品を700?850℃の範囲内の窒化温度に加熱して窒化処理することは、引用例4の摘記〔4a〕に記載されているし、また、下記周知例1?4の記載に見られるように、本願出願前において周知の事項でもある。 しかも、チタンやチタン合金からなる製品の窒化を、真空下にガスを導入することなく行うことも、下記周知例1?4の記載に見られるように、本願出願前において周知の事項である。 周知例1:特開平2-25559号公報 〔周1a〕「特許請求の範囲 (1)TiまたはTi合金の表面を窒化処理するのに際して、 NH_(3)ガス: 20体積%以上100体積%未満 残部 不活性ガス である雰囲気中かまたは NH_(3)ガス: 100体積% である雰囲気中で、400℃以上850℃以下の温度範囲で1時間以上加熱/保持することを特徴とする、TiまたはTi合金の窒化処理法。」(1頁左下欄4?13行) 〔周1b〕「従来よりTiまたはTi合金の表面を硬化する方法が種々提案されており、例えば以下に示すような方法がある。 (i)イオン注入法 ・・・・・ (ii)イオン窒化法 ・・・・・ (iii)窒素ガスによる窒化法 ・・・・・ (発明が解決しようとする課題) しかしながら、・・・大型のTiまたはTi合金からなる材料の表面の窒化処理を行うには、これらの方法に共通する次のような問題があった。すなわちいずれの方法にしても (i)・・・大型の被処理材を収容することができるチャンバーが必要となり、多大な設備費を要すること (ii)処理用チャンバー内を真空にする必要があり処理時間が極めて長大となってしまうため処理費用が大幅に上昇すること といった問題があり、TiまたはTi合金からなる大型材料の表面を窒化処理するに際してどの方法も容易には採用することができなかったのである。 ここに、本発明の目的は、TiまたはTi合金からなる大型の金属材料の表面を容易にかつ確実に窒化処理する方法を提供することにある。」(2頁左上欄5行?左下欄16行) 〔周1c〕「本発明においては、特別なチャンバーは必要とせず、雰囲気制御が可能な例えば熱処理炉を用いればよく、この熱処理炉はローラー、ウォーキングビーム等による連続炉であっても、あるいはバッチ炉であっても良い。」(2頁右下欄15?19行) 周知例2:特開平4-232247号公報 〔周2a〕「【特許請求の範囲】 【請求項1】 部材をアンモニア又はアンモニア含有ガス混合物を用いて加圧下で500℃より高い温度で熱化学的に処理することにより、チタン及びチタン合金からなる部材に窒化物層を施す方法において、該処理を500?1000℃の温度及び0.2?10MPaの圧力で実施し、その際アンモニア分圧を少なくとも0.2MPaに保持することを特徴とする、チタン及びチタン合金からなる部材に窒化物層を施す方法。 【請求項2】 該処理を700?950℃の温度及び0.5?7MPaの圧力で実施し、その際アンモニア分圧を少なくとも0.2MPaに保持する請求項1記載の窒化物層を施す方法。」 周知例3:特開昭55-38966号公報 〔周3a〕「特許請求の範囲 1. 窒化しようとするチタンもしくはチタン合金の周囲に、チタン金属と同等またはそれに準ずる酸素と窒素との親和力を有する活性金属粉末を充填し、窒素ガスを流すことにより窒素とチタンもしくはチタン合金を反応させることを特徴とするチタンおよびチタン合金の窒化法。」(1頁左下欄4?10行) 〔周3b〕「従来は、脱水素処理あるいは脱酸素処理工程を必要とし、装置も複雑かつ大がかりとなつていた。また使用するガスも高純度ガスを利用する為、コスト的にも高くつくなどの欠点があつた。 この発明は上記に鑑みてなしたもので、簡単な方法で前記欠点を除去することができるチタンおよびチタン合金の窒化法を提供することを目的とする。」(1頁右下欄12?20行) 〔周3c〕「〔実施例1〕 φ20mm×H3mm形状のチタン(Ti)およびTi-6Al-4V合金試料を反応管中に入れ、周囲に100メツシユのチタン粉末を充填し、一般窒素ガスを毎分500ccで流し、800℃にて40時間保持して窒化反応をおこなつた。」(2頁左上欄14?19行) 周知例4:特開昭49-10831号公報 〔周4a〕「特許請求の範囲 チタンおよびチタン基合金を基材として製作し、窒化処理を施し、その表面に窒化層を設けた硬度高く耐摩耗性を有するチタン及びチタン基合金窒化ボルト、ナット。」(1頁左下欄4?8行) 〔周4b〕「窒化走査は通常窒素ガスを精製したものを使用し、窒化温度800?1100℃、好ましきは800?900℃において長時間、好ましきは10?100hr窒化処理を行なう。」(2頁左上欄11?14行) してみれば、引用例1発明において、窒化処理の対象とする金属製品を「チタン又はチタン合金から成る」ものとし、その窒化温度を「700?850℃」の範囲内の温度とするとともに、真空下にガスを導入することなく窒化処理を行い、結果的に、「真空下にガスを導入する場合を除く」条件とすることは、前示の周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。 この点に関し請求人は、平成20年11月10付けの意見書において、要するところ、次のように主張している。 <請求人の主張> 窒化対象がチタン等の酸化し易い金属である場合には、窒化を酸素の存在下で行うと、窒化が生じる前に処理対象の表面に酸化被膜が形成されてしまい、この酸化被膜が窒素の浸透を阻害して窒化が行えないという問題があるから、チタン又はチタン合金の窒化処理は、酸素の除去された真空容器内で行わなければならないという認識は当業者において一般的に存在している。それ故、刊行物1記載の発明において、窒化対象をチタンやチタン合金に変更する場合、真空槽を使用し、この真空槽内を真空排気した後、この真空容器内に窒化ガスを導入して窒化を行うという構成を併せて採用する筈であるから、上記相違点1、2は、当業者が容易に想到し得ない。 しかしながら、酸化被膜の形成を防止する手段として、真空槽を使用し真空排気すること以外に各種の手段が存在することは、当業者に周知の事項であるし、チタンやチタン合金からなる製品の窒化を、真空下にガスを導入することなく行うことも上述のとおり周知の事項であるから、請求人の上記主張は、妥当なものでなく採用できない。 そして、本願発明1は、引用例1の記載や前示の周知事項から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。 よって、本願発明1は、引用例1に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2008-11-27 |
結審通知日 | 2008-11-28 |
審決日 | 2008-12-09 |
出願番号 | 特願2002-256934(P2002-256934) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀧口 博史 |
特許庁審判長 |
綿谷 晶廣 |
特許庁審判官 |
國方 康伸 真々田 忠博 |
発明の名称 | 金属製品の窒化方法 |
代理人 | 小倉 正明 |
代理人 | 小倉 正明 |