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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1192026
審判番号 不服2006-12816  
総通号数 111 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-06-21 
確定日 2009-02-05 
事件の表示 特願2001-314064「型保持装置および型保持方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 4月23日出願公開、特開2003-117646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成13年10月11日の出願であって、平成17年6月17日付で拒絶理由通知がなされ、同年8月22日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成17年6月17日付拒絶理由通知書に記載した理由2によって、平成18年5月19日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月20日付で手続補正書が提出され、同年10月11日付で前置報告がなされ、平成19年8月7日付で審尋がなされ、同年10月3日に回答書が提出されたものである。

[2]平成18年7月20日付手続補正についての補正却下の決定

<補正却下の決定の結論>
平成18年7月20日付手続補正を却下する。

<理由>
(1)補正の内容
平成18年7月20日付手続補正は、特許請求の範囲の記載を、
「【請求項1】第1の地点から第2の地点へと移動される金型を前記第2の地点で保持する型保持装置であって、
前記第1の地点は射出成形を行うダイカスト装置内の地点であり、前記第2の地点は金型の交換のためのダイカスト装置外の地点であり、ダイカスト装置による射出成形の都度、前記金型を交換する際に前記型保持装置で型保持を行い、
前記金型を前記第1の地点から前記第2の地点に向かわせる第1の方向への移動動作を利用してその金型と係合する開口と係合片で構成の型保持手段が設けられているとともに、それらの開口と係合片のいずれか一方が前記金型に設けられ、
前記金型を押し付ける押し付け手段が設けられていて、
前記係合片を開口に挿入して、前記押し付け手段で前記金型を前記第1の方向と交差する第2の方向に押し付けて型保持を行うと、前記係合片が反対側の前記開口内面に押し付けられて型保持を行うことを特徴とする型保持装置。
【請求項2】請求項1に記載の型保持装置であって、
前記金型の型開装置として構成されるとともに、前記第2の方向は前記金型を開く方向として設定されていることを特徴とする型保持装置。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の型保持装置であって、前記押し付け手段は、前記開口と、前記開口に挿入された前記係合片との間に、隙間が形成されるとともに、その隙間に前記第2の方向に対して前記係合片を前記開口内面に押し付けるものであることを特徴とする型保持装置。
【請求項4】請求項1?3のいずれかに記載の型保持装置であって、前記係合片は、前記開口内面に面接触状態で押し付けられることを特徴とする型保持装置。
【請求項5】請求項1?4のいずれかに記載の型保持装置であって、前記押し付け手段は、シリンダーによって構成されていることを特徴とする型保持装置。
【請求項6】請求項1?5のいずれかに記載の型保持装置であって、前記金型は、前記第2の方向への移動で型開きを行うことを特徴とする型保持装置。
【請求項7】請求項1?6のいずれかに記載の型保持装置であって、前記金型の型開きは、成形機から搬出された位置で行われることを特徴とする型保持装置。
【請求項8】第1の地点から第2の地点へと移動される金型を前記第2の地点で型保持手段によって保持する型保持方法であって、
前記第1の地点は射出成形を行うダイカスト装置内の地点であり、前記第2の地点は前記金型の交換のためのダイカスト装置外の地点であり、ダイカスト装置による射出成形の都度金型を交換する際に前記型保持装置で型保持を行い、
前記型保持手段は、前記金型を前記第1の地点から前記第2の地点に向かわせる第1の方向への移動動作を利用して、前記金型と係合する開口と係合片とで構成されていて、
いずれか一方が金型に設けられている開口と係合片及び前記金型を押し付ける押し付け手段とで型保持を行うに当たって、
前記係合片を前記開口に挿入して、前記押し付け手段で前記金型を前記第1の方向と交差する第2の方向に押し付けて型保持を行うと、前記係合片が反対側の前記開口内面に押し付けられて型保持を行うことを特徴とする型保持方法。
【請求項9】請求項8に記載の型保持方法であって、前記金型の型開方法として用いられ、前記第2の方向への移動が前記金型を開く方向であることを特徴とする型保持方法。
【請求項10】ダイカスト装置の鋳造作業に用いられる金型であって、
その金型の固定型と可動型との間に、型開き用の低圧シリンダを横架状に設け、前記金型には、ダイカスト装置外に設置の搬出位置で型開き可能で、且つ、前記型開きの方向と交差する方向に係合片と押し付け手段を内挿可能な開口が形成してあることを特徴とする金型。」とする補正を含むものである。

(2)補正の目的
上記手続補正は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正であるから、同条第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かについて、以下検討する。
まず、特許法第17条の2第4項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮という目的に該当するか否かについてみるに、
補正後の請求項3は、「押し付け手段」及び「隙間」について、「前記開口と、前記開口に挿入された前記係合片との間に、隙間が形成されるとともに、その隙間に前記第2の方向に対して前記係合片を前記開口内面に押し付ける」と記載されているので、同じく「押し付け手段」及び「隙間」について記載されている補正前の請求項4に対応するものと認められる。
しかしながら、補正前の請求項4には、「その隙間に・・・押し付け手段が設けられている」と記載されているのに対して、補正後の請求項3には、「前記押し付け手段は、・・・その隙間に前記第2の方向に対して前記係合片を前記開口内面に押し付けるものである」と記載されるものの、「その隙間に・・・押し付け手段が設けられている」ことは記載されていない。
してみると、補正後の請求項3についての補正は、対応する補正前の請求項4に直列的に記載されている上記の発明特定事項を削除しようとするものである。
また、補正後の請求項4は、「前記係合片は、前記開口内面に面接触状態で押し付けられる」と記載されているので、それと同様に記載される補正前の請求項5に対応するものと認められる。
しかしながら、補正前の請求項5では、補正前の請求項4のみが引用されており、同請求項4には、「開口と、開口に挿入された係合片との間には、隙間が形成されるとともに、その隙間に・・・押し付け手段が設けられている」と記載されているので、この「押し付け手段」及び「隙間」についての発明特定事項を具備しているのに対して、補正後の請求項4では、補正後の請求項1?3が択一的に引用されており、同請求項1及び2には、「開口と、開口に挿入された係合片との間には、隙間が形成されるとともに、その隙間に・・・押し付け手段が設けられている」ことが記載されていないので、同請求項1又は2を引用する場合の補正後の請求項4は、上記「押し付け手段」及び「隙間」についての発明特定事項を具備していないものと認められる。
してみると、補正後の請求項4は、引用項を増項するとともに、それに伴い、上記発明特定事項を削除したものも包含しているといえる。
したがって、補正後の請求項3、4についての補正は、対応する補正前の請求項4、5に記載した発明を特定するために必要な事項の範囲を拡張するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮には該当しない。
次に、その他の目的要件についてみるに、当該補正は、同特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正に該当しないことは明らかであり、また、同項第4号に掲げる、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものともいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明
平成18年7月20日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?11に係る発明は、平成17年8月22日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「【請求項9】第1の地点から第2の地点へと移動される金型を前記第2の地点で型保持手段によって保持する型保持方法であって、
前記第1の地点は射出成形を行うダイカスト装置内の地点であり、前記第2の地点は金型の交換のためのダイカスト装置外の地点であり、ダイカスト装置による射出成形の都度金型を交換する際に前記型保持装置で型保持を行い、
前記型保持手段は、前記金型を前記第2の地点に向かわせる第1の方向への移動動作を利用して金型と係合することで前記第1の方向と交差する第2の方向に対する型保持を行うことを特徴とする型保持方法。」

[4]引用刊行物の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-15704号公報(以下、「引用刊行物1」という。)、同じく刊行物である.特開平4-284960号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)引用刊行物1:.特開平6-15704号公報
(1a)「【請求項1】横型射出成形機の1対の金型固定盤に対して金型を交換する方法において、射出成形機の金型固定盤に着脱自在に固定される補助基板を予め設け、前記金型を補助基板に予め着脱自在に固定し、金型を補助基板に固定した状態で補助基板と共に交換することを特徴とする横型射出成形機の金型交換方法。」(特許請求の範囲の請求項1)、
(1b)実施例として、図1?図8が示されるとともに、
「この金型搬送台車16上には、左右に直列状に2組の金型セッティング装置20が設けられている。この金型セッティング装置20は、射出成形用の雌雄の金型6a,6b(これらは、金型交換の際にはボルトやピン部材により一体的に連結されている)を1対の補助基板7,8に固定したり、或いは雌雄の金型6a,6b1対の補助基板7,8から取り外したりするとともに、一体的に連結した雌雄の金型6a,6bを固定した1対の補助基板7,8を射出成形機IMの盤間空間11に対して搬出入する為のものである。」(段落【0025】)、
(1c)「【0027】前記補助盤21,22の盤面の下部には、固定盤1,2の複数のローラ19及び中間搬送台12のローラ13,14の搬送面と同一レベルの5つの遊転ローラ25が片持ち状に夫々設けられ、また補助盤21,22の前後方向中央部の上段部と下段部には、補助基板7,8のT溝26に係合する係合具27aを有するクランプ装置27が横向き状態に固定され、それらの各係合具27aが盤面から突出している。このクランプ装置27は、図4に示すように油圧シリンダのロッドの先端部に小判状金具を固着した構造であり、ロッドを退入駆動することで補助基板7,8を固定するように構成してある。」(段落【0027】)、
(1d)「【0030】・・・先ず、第1工程において、予め、左側の金型セッティング装置20に図1に示すように、次に使用する予定の金型6を準備する。この場合、補助盤21には補助基板7をまた補助盤22には補助基板8を夫々固定しておき、・・・
【0031】次に、油圧シリンダ24により補助盤22を右方へ移動させて、補助基板7,8間に金型6を挟持した状態とし、次に4つのクランプ装置30を金型6側へ移動させてからクランプ駆動して金型6を補助基板7,8に固定すると、図1、図7に示す状態となる。次に、第2工程において、射出成形に供した使用済の金型6を金型搬送台車16の右側の金型セッティング装置20へ移送する。この場合、金型搬送台車16を図1に示すように設定し、固定盤2を図1に示すように位置させ、雌雄の金型6a,6bを組合せて一体的に連結した状態において、固定盤2を数mmだけ左方へ移動させ、固定盤1,2のクランプ装置10をクランプ解除した状態において、金型6を固定した状態の補助基板7,8を固定盤1,2の複数の転動ローラ19上を移動させて中間搬送台12上へ送り、中間搬送台12上を前方移動させて金型セッティング装置20の補助盤21,22の複数の遊転ローラ25上へ送り込む。この時、補助盤21のクランプ装置27の係合具27aは、補助基板7の対応するT溝26に嵌まり込み、また補助盤22のクランプ装置27の係合具27aは、補助基板8の対応するT溝26に嵌まり込むので、金型6と補助基板7,8が補助盤21,22間に停止後、4つのクランプ装置27により補助基板7,8を補助盤21,22に夫々固定する。
【0032】次に、第3工程において、金型搬送台車16を右方へ移動させて、左側の金型セッティング装置20を盤間空間11の前方に対応させ、左側の金型セッティング装置20に予め準備した金型6とそれを固定した状態の補助基板7,8を、補助盤21,22の複数の転動ローラ25と、中間搬送台12と、固定盤1,2の複数の転動ローラ19を介して前記第2工程とは反対方向へ移動させて、盤間空間11に送り込み、・・・射出成形できる状態となる。」(段落【0030】?【0032】)が記載されている。

(2)引用刊行物2:.特開平4-284960号公報
(2a)「【0014】成形機10の両側にはそれぞれ製品取出装置(以下、取出装置と略称する)66,68が配設されている。」(段落【0014】)、
(2b)「可動プレート14がさらに下降して両プレート12,14により金型30が型締めされ、射出装置により溶融金属材料が金型30のキャビティ内に射出され、成形が行われる。
【0018】成形終了後、可動プレート14と共に上型36が上昇し、金型30の型開きが行われ、・・・
【0019】上記型開き後、搬送ローラ34が搬送ローラ上昇・下降機構により固定プレート12の溝から突出させられ、金型30の搬送が可能な状態となる。この状態で搬送ローラ34が駆動させられて金型30が搬送装置90へ送られ、さらに取出装置66へ搬入される。
なお、成形機10においては、図1に示すように、金型32が取出装置68から搬送装置92により固定プレート12上に搬入され、同様にして型締めおよび成形が行われる。」(段落【0017】?【0019】)、
(2c)「・・・製品がキャビティから取り出される。
【0021】製品の取出後、可動プレート76が上昇し、ピストンロッド86がスライドコア44の係合溝52から離脱する。そして4つのスライドコア44が後退状態のまま、金型30が搬送ローラ80から搬送装置90を経て再び成形機10へ搬送される。この際には、成形機10では金型32の型開きが終了し、取出装置68側へ搬出されている。
【0022】成形機10において、・・・再び可動プレート14が下降して金型30が型締めされ、成形が行われる。一方、取出装置68においては金型32からの製品の取出しが取出装置66と同様にして行われ、成形機10から取出装置66へ金型30が搬送された後、取出装置68から成形機10へ金型32が搬送される。」(段落【0020】?【0022】)、
(2d)「【0025】・・・成形機10の両側に取出装置66,68が設けられるとともに、両者のサイクルタイムがほぼ同じとされているため、成形機10の成形サイクルが倍増し、生産性が向上する効果が得られる・・・。」(段落【0025】)が記載されている。

[5]対比・判断
上記摘記(1a)によれば、引用刊行物1には、射出成形機の1対の金型固定盤に対して金型を交換する方法において、該金型固定盤に着脱自在に固定し得る補助基板に、その固定前に金型を予め着脱自在に固定し、金型を補助基板に固定した状態で補助基板と共に交換する射出成形機の金型交換方法が記載されている。
そして、上記摘記(1b)(1d)によれば、射出成形機の上記金型交換のために、2組の金型セッティング装置が金型搬送台車に設けられており、該2組の金型セッティング装置では、金型を補助基板に固定したり、或いは取り外したりするとともに、金型を補助基板に固定した状態で射出成形機の盤間空間に対して交互に搬出入するものといえる。
また、上記摘記(1c)(1d)によれば、金型セッティング装置の1対の補助盤にはそれぞれ、各補助基板のT溝に係合する係合具を有するクランプ装置が横向き状態に設けられており、該クランプ装置は、油圧シリンダのロッドの先端部に小判状金具を固着した構造であり、該ロッドを退入駆動することで上記補助盤に補助基板を固定するように構成されており、射出成形に供した金型を、射出成形機の1対の固定盤の盤間空間から金型搬送台車の一方の金型セッティング装置の1対の補助盤間へ送り込む時、該送り込みに伴って、該金型セッティング装置の1対の補助盤の各クランプ装置の係合具が補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで補助基板を固定するものといえる。
これらの事項を総合すると、引用刊行物1には、
「射出成形機の金型交換のため、1対の金型を夫々固定した1対の補助基板を、金型搬送台車の金型セッティング装置の1対の補助盤に固定する方法であって、該1対の補助盤には夫々、各補助基板のT溝に係合する係合具を有するクランプ装置が横向き状態に設けられており、該クランプ装置は、油圧シリンダのロッドの先端部に小判状金具を固着した構造であり、該ロッドを退入駆動することで上記補助盤に補助基板を固定するように構成されており、射出成形に供した使用済の金型を、射出成形機の1対の固定盤の盤間空間から金型搬送台車の一方の金型セッティング装置の1対の補助盤間へ送り込む時、該補助盤の各クランプ装置の係合具が各補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、該各クランプ装置の上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで該補助基板を固定する方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(ア)引用発明における「射出成形機の1対の固定盤の盤間空間」は、「射出成形を行うダイカスト装置内の地点」であり、本願発明における「第1の地点」に相当する。また、引用発明における「金型セッティング装置の1対の補助盤間」は、「金型の交換のためのダイカスト装置外の地点」であり、本願発明における「第2の地点」に相当する。
(イ)引用発明における「各補助基板のT溝に係合する係合具を有する・・・横向き状態に設けられており、・・・油圧シリンダのロッドの先端部に小判状金具を固着した構造であり、該ロッドを退入駆動することで上記補助盤に補助基板を固定するように構成されて」いる「クランプ装置」は、その「係合具が補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、・・・上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで該補助基板を固定する」ものであり、該補助基板には金型がそれぞれ固定されており、該補助基板を該補助盤に固定することにより、結果として該金型が金型セッティング装置の1対の補助盤間に保持されるのであるから、本願発明における「型保持手段」に相当する。
(ウ)引用発明における「補助盤の各クランプ装置の係合具が各補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、該各クランプ装置の上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで該補助基板を固定する」とは、該補助基板の固定により、金型が金型セッティング装置の1対の補助盤間に保持されるのであるから、本願発明における「金型を前記第2の地点で型保持手段によって保持する」に相当する。
(エ)引用発明における「射出成形機の1対の固定盤の盤間空間から金型搬送台車の一方の金型セッティング装置の1対の補助盤間へ送り込む」方向は、該金型を第2の地点に向かわせる方向に他ならない。そして、その方向を第1の方向とすれば、引用発明における「該各クランプ装置の上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで該補助基板を固定する」方向は、該第1の方向と交差する第2の方向といえる。そうすると、「金型を、射出成形機の1対の固定盤の盤間空間から金型搬送台車の一方の金型セッティング装置の1対の補助盤間へ送り込む時、該補助盤の各クランプ装置の係合具が補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、上記油圧シリンダのロッドを退入駆動することで該補助基板を固定する」とは、該金型を第2の地点に向かわせる第1の方向への移動動作を利用して前記第1の方向と交差する第2の方向に対する型保持を行うことに他ならない。
してみると、両発明は、
「第1の地点から第2の地点へと移動される金型を前記第2の地点で型保持手段によって保持する型保持方法であって、
前記第1の地点は射出成形を行うダイカスト装置内の地点であり、前記第2の地点は金型の交換のためのダイカスト装置外の地点であり、金型を交換する際に前記型保持装置で型保持を行い、
前記型保持手段は、前記金型を前記第2の地点に向かわせる第1の方向への移動動作を利用して前記第1の方向と交差する第2の方向に対する型保持を行う型保持方法」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明では、ダイカスト装置による射出成形の都度金型を交換するのに対し、引用発明では、それが明らかでない点。

相違点2:本願発明では、型保持手段が、金型と係合することで型保持を行うのに対し、引用発明では、金型セッティング装置の補助盤の係合具が補助基板の対応するT溝に嵌まり込み、該補助基板を固定する点。

そこで、上記相違点について、以下検討する。
(1)相違点1について
引用刊行物2に、射出成形機の両側に製品取出装置が配設され、射出成形機による射出成形の都度、金型を一方の製品取出装置に搬入して製品を取出し、他方の製品取出装置から別の金型を射出成形機に搬入して金型を交換し、該金型交換を繰り返すことにより、射出成形機の成形サイクルが倍増し、生産性が向上することが記載されている他(摘記(2a)?(2c)参照)、次の周知例1にも、以下のとおり、ダイカストマシン本体による射出成形の都度金型を交換することにより、該ダイカストマシン本体の鋳造サイクル時間を短縮し、生産性を向上させることが記載されているように、ダイカスト装置による射出成形の都度金型を交換して生産性を向上させることは、本願出願前周知の技術と認められるから、引用発明において、射出成形機の金型交換を射出成形の都度行うことは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

周知例1:特開平6-190526号公報
(周1a)「【0020】一方の金型移送台車(3) にて第1の金型(D)をダイカストマシン本体(1)内に移送し、金型ロック装置(1c)によりボルスタ上の定位置にセットする。そして、この金型(D)を型締めプレス機構(1a)により高圧力で締め切り、同時に、溶湯射出機構(1b)により該金型(D)のインプレッション内に金属溶湯を圧入して鋳造する。次いで、所定のチルタイムをおいた後に金型締めとロックを解除し、この第1の金型(D)を金型移送台車(3)にて金型開閉装置(2)に向けて移送する。
【0021】そして、それと同時に、他の一方の金型移送台車(3')にて第2の金型(D)をダイカストマシン本体(1) 内に移送し、〔図1〕の(b)図に示すように、この第2の金型(D) を用いて上記と同様に鋳造工程を開始させる。」(段落【0020】、【0021】)、
「【0023】そして、この第1の金型(D)を、一方の金型移送台車(3)にて再びダイカストマシン本体(1)内に移送し、また、その間にダイカストマシン本体(1)側にあって鋳造の終わった第2の金型(D)を、他の一方の金型移送台車(3')にて金型開閉装置(2)内に移送し、これにより2対の金型(D)を入れ換えて鋳造を継続する。
【0024】・・・ダイカストマシン本体(1)において溶湯鋳造、すなわち型締めおよび溶湯射出を行う一方、金型開閉装置(2)においてその他の工程、すなわち型開き、製品取出しおよび金型潤滑を同時平行的に行うことができ、これにより1台のダイカストマシン本体(1)で2対の金型(D) を交互に切れ目無く使用して鋳造サイクル時間を短縮し、その生産性を向上させることができる。」(段落【0023】、【0024】)が記載されている。

(2)相違点2について
引用刊行物2に記載された射出成形機、又は周知例1に記載されたダイカストマシンにおいて、それぞれ射出成形機、又はダイカストマシン本体に金型が装着され、それぞれ製品取出装置、又は金型開閉装置に金型又は射出成形後の金型が搬出入されているように、射出成形機内に金型を装着して射出成形を行い、該射出成形機外の装置に金型又は射出成形後の金型を搬出入することは本願出願前周知の技術と認められる。
一方、引用発明では、金型を補助基板に固定し、該金型を補助基板と共に射出成形機の固定盤間に装着して射出成形を行い、該固定盤間から取り出して金型セッティング装置の補助盤間に搬出入するのであるから、該金型を補助基板に固定したものは、上記周知技術の射出成形機及び射出成形機外の装置に装着され、搬出入されている金型と同様に取り扱われているものと理解できる。
そうすると、引用発明における金型を補助基板に固定したものは、上記周知技術における金型と同様に取り扱われるのであるから、該補助基板を含めて金型として構成し、該金型を構成する補助基板に設けたT溝に、金型セッティング装置の補助盤の係合具を嵌まり込ませて該金型の保持を行わせることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

そして、本願発明の上記相違点1、2に係る特定事項によってもたらされる効果も、引用刊行物1に記載された発明、及び上記周知技術から当業者が普通に予測し得る程度のものであって、格別なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[6]むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1に記載された発明、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、上記のとおり本願発明が特許を受けることができないため、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-11-06 
結審通知日 2008-11-11 
審決日 2008-12-12 
出願番号 特願2001-314064(P2001-314064)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B22D)
P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馳平 憲一  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 鈴木 正紀
市川 裕司
発明の名称 型保持装置および型保持方法  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

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