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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1192869
審判番号 不服2006-27517  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-12-07 
確定日 2009-02-20 
事件の表示 特願2001- 51557「画像形成方法及び画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 6日出願公開、特開2002- 40681〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成13年2月27日(特許法第41条に基づく優先権主張 平成12年5月19日)の出願であって、平成18年10月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年12月26日付けで手続補正がなされたものである。


第2.平成18年12月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の概要
平成18年12月26日付けの手続補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりとする補正事項を含むものである。

「【請求項1】 Cukα線におけるX線回析においてブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回析ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する電荷発生層と、一般式(I)あるいは一般式(II)で表される構造を単位を含むポリカーボネート樹脂を含有する電荷移動層が積層した感光層を有する電子写真感光体に対し、デジタル像露光を行い、この像露光で形成された静電潜像の現像に於いて、体積平均粒径(DV)が3?8μmであるトナーをカラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像に用いたことを特徴とする画像形成方法。


(一般式(I)中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、フェニル基を表す。)

(一般式(II)中、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、フェニル基を表すか、あるいは一体となった、置換基をを有しても良い環状アルキル基を表す。R^(5)、R^(6)はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、アラルキル基を表し、R^(7)、R^(8)はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有しても良いアルキル基を表す。)」

2.補正の適否の判断
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「現像」の過程について、「カラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像」であるものに限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

3.引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな、
引用文献1(特開平11-38660号公報)、
引用文献3(特開平8-272125号公報)、
引用文献6(特開2000-19751号公報)、
引用文献10(特開平11-174731号公報)、
引用文献15(特開平11-44981号公報)、
引用文献18(特開平11-72934号公報)、
引用文献19(特開平10-20527号公報)、
引用文献40(特開平11-130857号公報)には、
以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

〔引用文献1〕
(1a)「【請求項1】 導電性基体上に電荷発生層、電荷輸送層が積層された電子写真感光体において、該電荷発生層に含まれる電荷発生物質が、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するX線回析スペクトルのブラッグ角2θが27.2°±0.2°に最大ピークを有するチタニルフタロシアニン化合物であり、且つ下記一般式(1)(当審注:式は省略)で表されるアミノ系酸化防止剤を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項4】 レーザー光源によるデジタル書き込み像形成プロセスを持つ画像形成方法において、請求項1に記載された感光体を用いることを特徴とする画像形成方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、長波長レーザー光に対しても非常に高感度であり、且つ繰り返し使用時にも残留電位の上昇や、帯電性能の低下が起きない、優れた耐久性を有する電子写真感光体とそれを用いた画像形成方法を提供することにある。」(段落番号【0011】:以下「段落番号」は省略する。)

(1c)「電荷発生物質(CGM)としては、オキシチタニルフタロシアニン(TiOPc)をもちいる。本発明の電子写真感光体には、Cu-Kα線に対するブラッグ角2θの27.2°±0.2°に最大ピークを有するオキシチタニルフタロシアニンを用いると感度、耐久性及び画質の点で著しく改善された効果を示す。
・・・(中略)・・・
尚、TiOPcの結晶型についてはA、B、Y型等があり、本発明の結晶型は多くはY型TiOPcの範疇にはいるものである。このTiOPcは、Cu-Kα線に対するX線回折スペクトル(ブラッグ角2θ)が最大ピークの27.2°±0.2°以外に、9.6°±0.2°、24.1°±0.2°にもピークを有している。」(【0036】?【0041】)

(1d)「本発明に係わるトナー自体の粒径は任意であるが、小粒径のものが本発明の効果を奏しやすく、体積平均粒径で2?15μmのものが好ましく、特に3?9μmのものが好ましい。この粒径は、凝集剤の濃度や有機溶媒の添加量、更には重合体自体の組成によって制御することができる。なお、着色粒子の体積平均粒径はコールターカウンターTA-II或いはコールターマルチサイザーで測定されるものである。」(【0066】)

(1e)「1 感光体の形成
(下引層)
A-1 アラミンCM-8000(東レ(株)) 2重量部
メタノール 100重量部
を混合し、下引層液とした。これを円筒状アルミ基体上に浸漬塗布し、厚さ0.5μmの下引層を得た。
(電荷発生層)
G-1(Y型チタニルフタロシアニン) 4重量部
シリコーン樹脂KR-5240(信越化学(株)) 2重量部
2-ブタノン 100重量部
を混合し、サンドミルにて10時間分散して電荷発生層塗布液を得た。この液を前記下引層の上に浸潰塗布して、厚さ0.25μmの電荷発生層を得た。
(電荷輸送層)
T-1(電荷輸送物質) 8重量部
ビスフェノールZ型ポリカーボネートZ-300(三菱瓦斯化学(株))
12重量部
1,2-ジクロロエタン 100重量部
を混合溶解し、電荷輸送層塗布液を得た。この液を、前記電荷発生層の上に浸漬塗布して、95℃、1時間の熱処理を行い、厚さ25μmの電荷輸送層を形成した。
上記の電荷発生層、電荷輸送層へ、表1に示す酸化防止剤を添加し、実施例1?5及び比較例1?4の感光体を作製した。」(【0085】?【0088】)

(1f)「評価方法と結果
図3に示したKNC方式のカラー画像形成装置に、実施例1?5及び比較例1?4の各感光体を装着し、常温常湿環境(20℃、55%RH)にて連続5万枚のカラー画像出力を行い、その後の感光体帯電電位と初期帯電電位との電位差を測定し、これをΔV_(H)とした。さらに画像形成後除電した後の再帯電前電位(残留電位)について、連続5万枚のカラー画像出力前後の電位差を測定しΔV_(R)とした。
【表2】(略)
表2から明らかなごとく、本発明内の実施例1?5は比較例1?4に比べ電位特性が良好であり、実用に耐えるものが得られることがわかる。」(【0091】?【0093】)

(1g)「図3に該画像形成方法を採用したデジタル複写機の一例を挙げ、本発明に係る画像形成方法及び装置の好ましい態様を説明する。
・・・(中略)・・・一方、像形成を担う感光体ドラム4は帯電ユニット5でコロナ放電により均一に帯電され、続いて画像書き込み部のレーザー光源から像露光が感光体ドラム4上に照射される。そして次の現像ユニット6で反転現像され、露光部にトナー像が形成される。本例のようにカラー画像形成装置の場合は、画像読み取り時に色分解された各分解色ごとに、帯電、レーザ露光による画像書き込みとそれに対応するカラートナーが現像される、というプロセスが繰り返され、イエロー、マゼンタ、シアン、黒トナーの4色トナー像が、感光体上に形成される。」(【0077】?【0079】)

上記の摘示事項(主に(1e)?(1g))に基づけば、引用文献1には、
「Cu-Kα線に対するX線回折スペクトル(ブラッグ角2θ)で27.2°±0.2°に最大ピークを有するY型TiOPc(オキシチタニルフタロシアニン)を含有する電荷発生層と、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂を含有する電荷輸送層が積層した感光層を有する電子写真感光体に対し、デジタル像露光を行い、この像露光で形成された静電潜像の現像に於いて、イエロー、マゼンタ、シアン、黒のトナーを現像に用いた、画像形成方法。」の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、引用文献1、本願補正発明、本願発明(下記「第3)参照)などでは、「X線回析」と表記されているが、これは正確には「X線回折」というべきであるから、これ以降、「X線回析」は「X線回折」と表記する。

〔引用文献3〕
引用文献3において、請求項2の一般式(2)や一般式(4)、【0069】?【0071】の式P_(2)-6?P_(2)-8,P_(3)-4等、【0138】の表2の実施例7?9には、電荷輸送層の電荷輸送物質として、本願の一般式(I)で表される構造単位を含むポリーカーボネート樹脂が示されており、
【0138】【0145】の表2,3、【0163】などには、当該樹脂の分子量や添加する無機粒子の粒径を工夫することにより、耐摩耗性の高い感光体が得られる旨が記載されており、
また、【0155】?【0162】の実施例14,15には、本願の一般式(I)のポリカーボネート樹脂と並んで有用とされる他の構造のポリカーボネート樹脂に対してではあるが、電荷発生物質として、本願及び引用文献1に記載された発明と同じ、ブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを使用する例が示されている。

〔引用文献6〕
引用文献6において、請求項1の式(II)、【0099】の実施例1等には、 電荷輸送層の電荷輸送物質として、本願の一般式(II)で表される構造単位を含むポリーカーボネート樹脂が示されており、
【0092】【0094】、図3、図5には、電荷発生物質として、ほぼブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するチタニウムフタロシアニンが示されており、
また、【0110】の実施例6には、当該ポリーカーボネート樹脂と当該チタニウムフタロシアニンを用いた感光体が示されている。

〔引用文献10〕
(10a)「第1図は、本発明の画像形成方法を実施可能な画像形成装置の概略図を示す。」(【0321】)

(10b)「・・・・・例えば、第1の画像形成ユニットPaにイエロートナー、第2の画像形成ユニットPbにマゼンタトナー、第3の画像形成ユニットPcにシアントナー、及び第4の画像形成ユニットPdにブラックトナーをそれぞれ用い、各画像形成ユニットの転写部で各カラートナーの転写材上への転写が順次行なわれる。・・・・・」(【0327】)

(10c)「【0334】次に、複数画像形成部にて各色のトナー画像をそれぞれ形成し、これを同一転写材に順次重ねて転写するようにした画像形成方法を図3をもとに説明する。
【0335】ここでは、第1,第2,第3及び第4の画像形成部29a ,29b ,29c ,29d が並設されており、各画像形成部はそれぞれ専用の静電潜像保持体、いわゆる感光ドラム19a ,19b ,19c 及び19d を具備している。
【0336】感光ドラム19a 乃至19d はその外周側に潜像形成手段23a ,23b ,23c 及び23d ,現像部17a ,17b ,17c 及び17d 、転写用放電部24a,24b,24c 及び24d 、ならびにクリーニング部18a,18b,18c 及び19d が配置されている。
【0337】このような構成にて、先ず、第1画像形成部29a の感光ドラム19a 上に潜像形成手段23a によって原稿画像における、例えばイエロー成分色の潜像が形成される。該潜像は現像手段17a のイエロートナーを有する現像剤で可視画像とされ、転写部24a にて、転写材としての記録材Sに転写される。
【0338】上記のようにイエロー画像が転写材Sに転写されている間に、第2画像形成部29b ではマゼンタ成分色の潜像が感光ドラム19b 上に形成され、続いて現像手段17b のマゼンタトナーを有する現像剤で可視画像とされる。この可視画像(マゼンタトナー像)は、上記の第1画像形成部29a での転写が終了した転写材Sが転写部24b に搬入されたときに、該転写材Sの所定位置に重ねて転写される。
【0339】以下、上記と同様な方法により第3,第4の画像形成部29c ,29d によってシアン色,ブラック色の画像形成が行われ、上記同一の転写材Sに、シアン色,ブラック色を重ねて転写するのである。このような画像形成プロセスが終了したならば、転写材Sは定着部22に搬送され、転写材S上の画像を定着する。これによって転写材S上には多色画像が得られるのである。・・・・・」
ここで、図3をみると、いわゆる「フルカラーのタンデム方式の画像形成装置」が記載されている。


(10d)「多重現像一括転写方法について、フルカラー画像形成装置を例にして図5に基づいて説明する。
感光ドラム103上に帯電器102とレーザー光を用いた露光部101で形成された静電潜像は現像器、104,105,106,及び107により順次トナーを現像して可視化される。現像プロセスにおいては、非接触現像方法が好ましく用いられる。非接触現像方法によれば現像器中の現像剤層が像形成体の表面を擦ることがないので、2回目以降の現像工程において先行の現像工程で形成された像を乱すことなく現像を行なうこができる。現像する順は、多色の場合は黒以外の色で、明度,彩度の高い色から現像するのが好ましい。フルカラーの場合は、イエロー、ついでマゼンタあるいはシアンのどちらか、ついでマゼンタあるいはシアンの残った方、最後に黒の順で現像することが好ましい。」(【0355】【0356】)

〔引用文献15〕
(15a)「第1図に、本発明の画像形成装置の一例を表す概略図を示す。・・・・・」(【0033】)

(15b)「・・・・・プロセスユニット100aの現像器9aにはイエロー色の第1の現像剤、プロセスユニット100bの現像器9bにはマゼンタ色の第2の現像剤、プロセスユニット100cの現像器9cにはシアン色の第3の現像剤、プロセスユニット100dの現像器9dにはブラック色の第4の現像剤の各色の現像剤が収容されている。」(【0044】)

(15c)


(15d)「・・・・・従って、まず、感光体ドラム1a上の第1の現像剤像が用紙P上に転写され、第1の現像剤像を担持した用紙Pは、搬送されて感光体ドラム1bに達する。感光体ドラム1bに形成された第2の現像剤像は、先に転写された第1の現像剤像上に重ねて転写される。用紙Pは更に搬送されて、感光体ドラム1c、感光体ドラム1dにおいても、同様に、第3及び第4の現像剤像が転写される。
このように、多重転写により形成された像を担持した用紙Pは、搬送手段11から定着器33へ送られる。定着器33は、加熱ローラ35及び加熱ローラ加圧ローラ37を有している。用紙Pは、加熱ローラ及び加圧ローラとの間を、像が加熱ローラと接触する状態で、通されることにより、用紙P上に定着される。」(【0051】【0052】)

〔引用文献18〕
引用文献18の請求項3、【0030】の構造単位(2-2)、【0033】?【0041】の実施例1?6には、電荷輸送層の電荷輸送物質として、本願の一般式(I)で表される構造単位を含むポリーカーボネート樹脂が示されており、【0051】?【0053】には、1万枚印刷後の膜削れ量が少ない旨が記載されており、また、【0022】には、好ましい電荷発生物質としてY型などのチタニウムフタロシアニンが挙げられている。

〔引用文献19〕
引用文献19の請求項1の一般式(2)や【0058】?【0061】には、電荷輸送層の電荷輸送物質として、本願の一般式(II)の式に相当する構造単位を含むポリーカーボネート樹脂が記載されており、【0073】?【0075】には、5000枚印字での耐摩擦性が良好である旨が記載されており、また、【0024】【0025】には、本願及び引用文献1に記載された発明と同じ、ブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する電荷発生層を用いることが好ましい旨が記載されている。

〔引用文献40〕
引用文献40の請求項6の式(4),【0022】の構造式(2-1)、【0047】の合成例2,【0047】の合成例4、【0054】の実施例3、【0055】の実施例4等には、電荷輸送層の電荷輸送物質として、本願の一般式(I)で表される構造単位を含むポリーカーボネート樹脂が示されており、【0074】【0075】には、1万枚後の膜削れ量が少ない旨が記載されている。また、【0031】には、好ましい電荷発生物質としてY型などのチタニウムフタロシアニンが挙げられている。

4.対比、判断
本願補正発明と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、
引用文献1に記載された発明の「電荷輸送層」は、本願補正発明の「電荷移動層」に相当し、
引用文献1に記載された発明の「Cu-Kα線に対するX線回折スペクトル(ブラッグ角2θ)で27.2°±0.2°に最大ピークを有するY型TiOPc(オキシチタニルフタロシアニン)」は、実質的に、本願補正発明の「Cukα線におけるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニン」(なお、本願明細書【0088】には、これが「Y型」と呼ばれることが記載されている。)に相当するということができ、
また、引用文献1に記載された発明の「イエロー、マゼンタ、シアン、黒のトナーを用いた、画像形成方法」は、フルカラーの画像形成方法ということができる。

したがって、両発明の一致点、相違点は以下のとおりと認められる。

〔一致点〕
「Cukα線におけるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する電荷発生層と、ポリカーボネート樹脂を含有する電荷移動層が積層した感光層を有する電子写真感光体に対し、デジタル像露光を行い、この像露光で形成された静電潜像の現像に於いて、トナーを現像に用いた、フルカラーの画像形成方法。」

〔相違点1〕
電荷移動層に含有するポリカーボネート樹脂として、
本願補正発明においては、「一般式(I)あるいは一般式(II)で表される構造を単位を含むポリーカーボネート樹脂」を使用することを規定するのに対して、
引用文献1に記載の発明においては、ビスフェノールZ型ポリカーボネートを使用している点。

〔相違点2〕
本願補正発明が、体積平均粒径(DV)が3?8μmであるトナーをカラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像に用いたのに対して、
引用文献1記載の発明においては、トナーの粒径や、各色現像部の位置関係、タンデム方式を適用することについては記載していない点。

まず、相違点1について検討する。

本願補正発明で規定する一般式(I)あるいは一般式(II)(以下、それぞれ「本願の一般式(I)」「本願の一般式(II)」という。)で示される構造単位を含むポリカーボネート樹脂を、積層型感光体の電荷輸送層の形成に使用することは、本願の一般式(I)については、引用文献3,引用文献18,引用文献40に記載されており、また、本願の一般式(II)については、引用文献6,引用文献19に記載されており、しかも、本願の一般式(I)、本願の一般式(II)ともに、耐摩耗性に優れた感光体が得られることがそれら文献に記載されており、周知といってもよいほどである。

そして、本願の一般式(II)のポリカーボネート樹脂に対して、本願及び引用文献1に記載された発明と同じ、ブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する電荷発生層を組み合わせることも、引用文献6(実施例6)、引用文献19(【0025】)に記載又は示唆されている。
本願の一般式(I)のポリカーボネート樹脂に対する電荷発生物質の組合については、引用文献3の【0155】?【0162】では、本願一般式(I)と並んで有用とされる別のポリカーボネート樹脂に対してではあるが、本願及び引用文献1に記載された発明と同じ、ブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを使用する例が示されている。また、引用文献18(【0022】)、引用文献40(【0031】)には、好ましい電荷発生物質としてY型のチタニウムフタロシアニンなどが挙げられている。

そうしてみれば、引用文献1(感光体の電荷発生層には、Cukα線におけるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する)に記載された画像形成方法に用いられている電荷輸送層のポリカーボネート樹脂として、感光体表面の耐摩耗性を向上させる目的で、ビスフェノールZ型ポリカーボネートに代えて、本願の一般式(I)又は一般式(II)の構造を含むポリカーボネート樹脂の適用を試みることは、当業者であれば容易に想起するところである。

次に、相違点2について検討する。

引用文献1には、「本発明に係わるトナー自体の粒径は任意であるが、小粒径のものが本発明の効果を奏しやすく、体積平均粒径で2?15μmのものが好ましく、特に3?9μmのものが好ましい。」(1d)との記載があり、また、一般に、高解像度のために、トナーの体積平均粒径(DV)を3?8μm程度にすることは周知でもある(原審の拒絶理由通知に引用された引用文献12の【0007】、同じく引用文献13の【0004】、同じく引用文献14の【0004】?【0005】、同じく引用文献21の【0006】などを参照。)。
また、フルカラー画像の形成において、有彩色トナーによる現像後に、黒色トナーによる現像を行うことは、引用文献10及び引用文献15にも見られるとおり、ごく通常に行われていることであり、タンデム方式を含めた、多重現像一括転写方式において、有彩色トナーによる現像後に、黒色トナーによる現像を行うのが好ましいことも、引用文献10にも記載されているとおり、本願優先日前より公知のことである。
そして、フルカラー画像形成方法に使用される現像方式として、タンデム型はごく通常選択される方式の一つである。
したがって、引用文献1に記載された発明において、本願補正発明のように、体積平均粒径(DV)が3?8μmのトナーを、カラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像に用いることは、当業者が容易になし得ることである。

さらに、本願明細書に記載されている発明の効果についても検討すると、
1)細線再現性及び階調性の向上のために、微粒子トナー、すなわち、重量平均粒径3?8μm程度のトナーを使用すること(上記のとおり)、
2)タンデム方式の有する利点として、フルカラー画像形成プロセスにおける高速化が達せられること(例えば、「続 電子写真技術の基礎と応用」コロナ社1996年11月15日発行第55頁)、
3)本願の一般式(I)又は一般式(II)に該当するポリカーボネート樹脂の使用により、耐摩耗性に優れた有機感光体が得られること(上記のとおり)は、
それぞれ、本願優先日前より当業界において広く知られていた事項であるから、それらを寄せ集めれば、本願明細書【0007】に記載された、本願発明が目的とする、「細線再現性や階調性に優れる画像を得ると同時に、高速プロセスに適応した、高寿命電子写真感光体およびそれを用いた画像形成方法を提供する」ことを達成しうるであろうとは、当業者であれば容易に想起しうることである。
そして、本願明細書に記載された各実施例及び比較例の対比をみても、本願補正発明が奏する効果は、格段のものとは言い難く、上記の公知事項や周知事項から当業者であれば容易に予測しうる程度のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1、引用文献3、引用文献6、引用文献10、引用文献15、引用文献18、引用文献19、引用文献40に記載された発明、及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成18年12月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至13に係る発明は、平成18年5月15日付の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至13に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 Cukα線におけるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)27.3°に最大回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを含有する電荷発生層と、一般式(I)あるいは一般式(II)で表される構造を単位を含むポリカーボネート樹脂を含有する電荷移動層が積層した感光層を有する電子写真感光体に対し、デジタル像露光を行い、この像露光で形成された静電潜像の現像に於いて、体積平均粒径(DV)が3?8μmであるトナーを用いたことを特徴とする画像形成方法。


(一般式(I)中、R^(1)、R^(2)はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、フェニル基を表す。)


(一般式(II)中、R^(3)、R^(4)はそれぞれ独立に、水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、フェニル基を表すか、あるいは一体となった、置換基をを有しても良い環状アルキル基を表す。R^(5)、R^(6)はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有しても良いアルキル基、アラルキル基を表し、R^(7)、R^(8)はそれぞれ独立に水素原子、置換基を有しても良いアルキル基を表す。)」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな引用文献1、引用文献3、引用文献6、引用文献18、引用文献19、引用文献40には、上記「第2.平成18年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.」欄に摘示したとおりの事項が記載されている。

3.判断
本願発明は、上記「第2.平成18年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「1.」欄に示した本願補正発明における、「カラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像に用いた」とする限定を含まないものである。
すなわち、本願発明は、引用文献1に記載された発明に対して、上記「第2.平成18年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「4.対比、判断」欄に記載した「相違点2」において、「カラー現像部がブラック現像部より前に位置するフルカラータンデム方式での現像に」の点を有しない関係のものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、引用文献1、引用文献3、引用文献6、引用文献10、引用文献15、引用文献18、引用文献19、引用文献40に記載の発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用文献1、引用文献3、引用文献6、引用文献18、引用文献19、引用文献40に記載された発明、及び周知技術に基づいて(なお、引用文献10、引用文献15は使用する必要がない)、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用文献1、引用文献3、引用文献6、引用文献18、引用文献19、引用文献40に記載された発明、及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-02 
結審通知日 2008-12-09 
審決日 2009-01-05 
出願番号 特願2001-51557(P2001-51557)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
P 1 8・ 575- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伏見 隆夫
中田 とし子
発明の名称 画像形成方法及び画像形成装置  
代理人 特許業務法人志成特許事務所  

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