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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C
管理番号 1192929
審判番号 不服2006-8857  
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-08 
確定日 2009-02-16 
事件の表示 平成 7年特許願第 58691号「窒化ピストンリング」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年12月 5日出願公開、特開平 7-316778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は平成7年3月17日の出願(優先権主張 平成6年3月30日)であって、平成16年12月9日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年12月14日)、平成17年2月9日付けで意見書・手続補正書が提出され、平成18年4月6日付けで拒絶査定され(発送日は同年4月12日)、その後、平成18年5月8日に拒絶査定不服審判請求され、同年6月5日付け手続補正書により明細書が補正され、平成20年5月26日付けで当審から拒絶理由が通知され(発送日は同年6月2日)、同年7月30日付けで意見書・手続補正書が提出され、同年9月30日付で審尋が通知され(発送日は同年9月4日)、同年10月23日に回答書が提出されたものである。

2.平成20年7月30日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]

平成20年7月30日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]

平成20年7月30日付け手続補正書による補正は、平成18年6月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3を新たに同請求項1とし、この請求項1に「窒化層の窒化後の表面粗さを0.5?1.0μmとした」という発明特定事項を新たに付加する補正(以下、「本件補正」という。)を含むものである。
以下本件補正について検討する。

2-1.特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定を満足するか否かについて
本件補正により新たに付加された上記発明特定事項は「ステンレス鋼製」の「オイルリング表面に」形成された「脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層」に係るものである。
ここで、願書に最初に添付された明細書・図面(以下、「当初明細書等」)の記載を参照すると、窒化層の窒化後の表面粗さについて、当初明細書等の【0010】には、以下の事項が記載されている。

「図4は鋼製コンプレッションリング10の窒化深さと硬度の関係を示す図であり、HV700以上の純拡散層がSUS420J2母材リングは43μmの深さに、SUS440B母材リングは31μmの深さにそれぞれ達していることを示す。窒化後の表面粗さを測定したところ、SUS420J2母材リングは外周が0.5μm、幅面(上下面)が1μm、SUS440B母材リングは外周が0.9μm、幅面(上下面)が1μmであった。これは従来のSUS440B母材ガス窒化リングの表面粗さ外周2μm、幅面(上下面)2.5μmに比較すると格段に小さいから、本発明の窒化処理による表面の荒れはほとんどないといえる。」

そこで、この記載について検討する。
(a)窒化層の窒化後の表面粗さを測定したものは、この記載の文脈からみて、コンプレッションリングであって、その母材は、SUS402J2、SUS440Bである。SUS402J2、SUS440Bは、共に、ステンレス鋼であるから、窒化層の窒化後の表面粗さを測定したものは、ステンレス鋼製のコンプレッションリングといえる。
(b)窒化層の窒化後の表面粗さは、SUS420J2母材リングは外周が0.5μm、幅面(上下面)が1μm、SUS440B母材リングは外周が0.9μm、幅面(上下面)が1μmであったから、窒化後の表面粗さとして0.5?1μmのものが記載されているといえる。
そうすると、上記【0010】には、”ステンレス鋼のコンプレッションリングの窒化層の窒化後の表面粗さが0.5?1μmのもの”が記載されているといえる。
ところで、コンプレッションリングは、当初明細書等を参照すると、図面の図1(a)に示される断面形状を有し、オイルリングは同図1(b)に示される断面形状を有しているから、両者の断面形状は異なり、さらには、コンプレッションリングとは、シリンダ内の混合空気や爆発ガス及び排気ガスを逃がさない役割を果たすものであり、オイルリングとはシリンダ壁に残っている余分な潤滑油を掻き落とし潤滑油が燃焼室に入らない役割を果たすもの(要すれば、特開昭62-96626号公報、特開昭62-48949号公報、特開平5-203055号公報)であるから、コンプレッションリングとオイルリングでは形状や果たす役割が異なり、その結果として、窒化層において、要求される窒化後の表面粗さは異なるということは技術常識に照らし明らかである。
そうすると、窒化層に関し、コンプレッションリングの窒化後の表面粗さとして望ましい数値範囲が、直ちにオイルリングの窒化後の表面粗さとして望ましい数値範囲となるとはいえず、上記【0010】の記載から、本件補正に係る上記発明特定事項を導出することはできない。
また、当初明細書等の他部分から本件補正に係る上記発明特定事項を導出する記載事項は何ら見あたらない。
したがって、平成20年7月30日付け手続補正書による補正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

2-2.特許法第17条の2第3項の規定を満足するか否かについて
本件補正は上記2-1.において検討したとおり、特許法第17条第2項の規定を満足していないが、仮に特許法第17条第2項の規定を満足しているとして、以下の検討を行う。

特許法17条の2第3項第2号は、「特許請求の範囲の減縮(前号に規定する一の請求項に記載された発明(第一項第四号又は第五号の規定による補正前のものに限る。以下この号において「補正前発明」という。)と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明の構成に欠くことができない事項の範囲内において、その補正前発明の構成に欠くことができない事項の全部又は一部を限定するものに限る。)」と定めているから、同号の事項を目的とする補正とは、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明の構成に欠くことができない事項を限定するものでなければならないと解される。

ここで、平成18年6月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3は、次のとおりのものである。

【請求項3】 イオン窒化処理によりステンレス鋼製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成したことを特徴とする窒化ピストンリング。

この請求項3には、「イオン窒化処理によりステンレス鋼製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成したこと」については記載されているが、「窒化層の窒化後の表面粗さ」については全く記載されていない。そうすると、補正前に何ら特定されていない「窒化層の窒化後の表面粗さ」について、さらにその数値範囲を特定する本件補正の上記発明特定事項は、発明の構成に欠くことのできない事項を限定するものではない。
よって、本件補正は特許法第17条の2第3項第2号に規定する事項を目的とする補正ではなく、さらに、同条同項第1、3、4号に規定する事項を目的とするものでないことも明らかである。
したがって、平成20年7月30日付け手続補正書による補正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、審判請求人は、平成20年10月23日付け回答書において、「本願発明は、ピストンリングの表面処理に係るものであるから、表面粗さは発明を特定するために必要な事項(表面物性)の一つである」旨主張するが、上記請求項3には表面粗さについて何ら言及されていないのであるから、上記請求項3に係る発明がピストンリングの「表面処理」に係るものであっても、表面粗さに関する発明の構成に欠くことのできない事項を含んでいるものでないことは、一般的な用語法に照らして明らかであり、この主張を採用することはできない。

2-3.特許法第17条の2第5項の規定を満足するか否かについて
本件補正は上記2-1.及び2-2.において検討したとおり、特許法第17条の2第2項及び第3項の規定を満足していないが、仮に特許法第17条の2第2項及び第3項の規定を満足しているとして、以下の検討を行う。
以下、平成20年7月30日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲第1項に係る発明を「補正後本願発明」ということとする。
当審が発した上記平成20年5月26日付け拒絶理由通知書で引用した、
引用文献5:実願昭52-52191号(実開昭53-147309号)のマイクロフィルム
引用文献3:特開平4-325677号公報
引用文献6:特開昭64-35055号公報
には、それぞれ以下の事項が記載されている。

・引用文献5
(5-1)「内燃機関用の組合せピストンリングにおいて、サイドレールの内周面及び外周面に・・・・・・窒化処理による硬化層を形成したことを特徴とする組合せピストンリングのサイドレール」(実用新案登録請求の範囲)
(5-2)「本考案を・・・・・・実施例に従って詳述する・・・・・・サイドレール2の外周面3及び内周面5には・・・・・・軟窒化処理等による窒化処理によって硬化層6が形成されている。而して前述の軟窒化処理法としては、例えばグロー放電によるイオン窒化法・・・・・・使用される。・・・・・・ピストン7のリング溝8には上下交互に配設されたサイドレール押圧突起9を有するスペーサーエキスパンダ4の上下受圧面10にサイドレール2が夫々装着されて一体的に組合わされた鋼製組合せオイルリングが嵌着され、これが圧縮された状態でシリンダ1に挿着されている。」(3ページ15行?4ページ19行)
との記載がある。
そうすると、引用文献5には、「イオン窒化処理により鋼製のオイルリングの表面に窒化層を形成した窒化ピストンリング」の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているといえる。

・引用文献3
引用文献3には、グロー放電を利用した金属表面のイオン窒化法に関し、
(3-1)「本発明は・・・・・・脆化層を生じる事なく複雑な形状を有する被処理物に対しても容易に効率よく窒化による表面硬化が行える方法を提供するものである。」(【0004】)
(3-2)「真空容器内に設置した鉄鋼やステンレススチール等の鉄系合金よりなる金属部材と前記容器の間に、高周波、又は高周波と直流を印加し、プラズマによりイオン化された窒素イオンにより前記鉄系合金の表面を窒化することを特徴とするグロー放電を利用した金属部材のイオン窒化方法。」(【請求項1】)
(3-3)「【実施例1】・・・・・・図9に示すように窒素は表面から約50μmに亘り拡散していることがわかった。」(【0008】、【0009】)
との記載がある。
上記(3-3)の記載は窒化層が脆化層を含まない拡散層からなることを表しているから、引用文献3にはイオン窒化法により窒化すれば窒化層が脆化層を含まない拡散層からなることが記載されているといえる。

・引用文献6
引用文献6には、ピストンリングに関し、
(6-1)「重量%で、炭素0.4?0.6%、クロム16?19%・・・・・・残部が実質的に鉄からなるオイルリングの少なくともシリンダ壁と摺動する摺動面に硬質表面処理層を有することを特徴とするオイルリング。」(特許請求の範囲第2項)
(6-2)「オイルリングのシリンダ壁と摺動する面には硬質表面層を有していることが必要であるが、同時に上下面にも設けてもよい。・・・・・・硬質表面層として窒化・・・・・・を適用することができる。」(2ページ左下欄4?9行)
との記載がある。
(6-1)に記載のようにクロムを16?19重量%含む鋼であることからみてオイルリングはステンレス鋼といえ、「硬質表面処理層」と「硬質表面層」とは同じものであることは明らかだから、引用文献6には「ステンレス鋼製オイルリングの表面に窒化層を形成した窒化ピストンリング」が記載されている。

ところで、補正後本願発明における「窒化層」は窒化されるピストンリングの組成を考慮すると「軟窒化層」であることは明らかである。よって、以下の検討では、「窒化層」と「軟窒化層」を区別せず、「窒化層」として表記する。

ここで、補正後本願発明と引用発明5とを対比すると、引用発明5ではグロー放電によるイオン窒化法を用いて窒化層を形成しており、このグロー放電によるイオン窒化法は引用文献3の(3-2)及び(3-3)の記載から脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成するものであるから、両者は、共に、窒化ピストンリングに関し、「イオン窒化処理により鉄合金製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成した」ものである点で一致し、
(ア)補正後本願発明ではステンレス鋼製オイルリングであるのに対し、引用発明5では鋼製オイルリングである点
(イ)窒化層の窒化後の表面粗さにつき、補正後本願発明では0.5?1.0μmであるのに対し、引用発明5は何ら言及がない点
で相違している。
この相違点(ア)について検討すると、引用文献6には、窒化層を有するオイルリングをステンレス鋼とすることが記載されており、オイルリングの材質はオイルリングに要求される物理的性質等を考慮して適宜決定されるものであるから、引用発明5のオイルリングの材質をステンレス鋼とすることは困難とはいえない。
次に、相違点(イ)について検討すると、オイルリングは上述のとおりシリンダ壁に残っている余分な潤滑油を掻き落とし潤滑油が燃焼室に入らないようにするものであるから、その表面は平滑でなくてはならないことは技術常識に照らし明らかであり、他方、イオン窒化処理による窒化後の表面粗さは窒化処理条件により変化するものであるから、当業者であれば、窒化層の窒化後の表面粗さを適宜決定し、0.5?1.0μmとすることは困難なくなしえたことである。
そうすると、補正後本願発明は、上記引用文献5、3、及び6の記載に基づいて当業者であれば困難なくなしえたものといえるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、平成20年7月30日付け手続補正書による補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3-1.本願発明
上記2-1.?2-3.のとおり平成20年7月30日付け手続補正書による手続補正は却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は平成18年6月5日付け手続補正書によって補正された請求項1?8に記載されたとおりのものであって、その請求項1及び3に係る発明(以下、「本願第1、3発明」という。)は、次のとおりのものである。

【請求項1】 イオン窒化処理により鋳鉄製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成したことを特徴とする窒化ピストンリング。
【請求項3】 イオン窒化処理によりステンレス鋼製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成したことを特徴とする窒化ピストンリング。

3-2.引用文献
当審が発した平成20年5月26日付け拒絶理由通知書において、それぞれ、引用文献1、2、3、5及び6として引用した実願昭58-3299号(実開昭59-110355号)のマイクロフィルム 、特開平3-204479号公報 、特開平4-325677号公報 、実願昭52-52191号(実開昭53-147309号)のマイクロフィルム 及び特開昭64-35055号公報には、以下の事項が記載されている(引用文献3、5及び6については上述しているが再度記載する。)。

引用文献1(実願昭58-3299号(実開昭59-110355号)のマイクロフィルム)には、溶射ピストンリングに関し、
(1-1)「鋳鉄または鋼製ピストンリングの全表面に軟窒化層を有し、且つリング外周面は前記軟窒化層上に溶射層を有する事を特徴とするピストンリング。」(実用新案登録請求の範囲)
(1-2)「第2図は本考案の他の実施例を示すものでありこの場合には、組み合わせオイルかきピストンリングのサイドレールに適用した例を示すものである。」(3ページ6?8行)
との記載がある。
「組み合わせオイルかきピストンリング」は「オイルリング」であるから、引用文献1には、「鋳鉄製のオイルンリングの表面に軟窒化層を形成した窒化ピストンリング」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

引用文献2(特開平3-204479号公報)には、ピストンリングに関し、
(2-1)「従来のコンプレッションリング1の一部を示しており、鋼製母材2の表面に、窒化処理により窒化層3が形成されている。この窒化処理に伴なって表層部には白層と称する非常に脆硬なポーラス層が生じるが、摺動面4又はこの摺動面4を含む上下面は、後加工によって脆硬なポーラス層を除去することにより製品化している。」(2ページ右上欄5?12行)
(2-2)「露出した拡散層の表面にめっき層又は溶射層を形成すれば、耐腐食性及び耐摩耗性がさらに向上する。」(7ページ左下欄19行?右下欄1行)
との記載がある。

引用文献3(特開平4-325677号公報)には、グロー放電を利用した金属表面のイオン窒化法に関し、
(3-1)「本発明は・・・・・・脆化層を生じる事なく複雑な形状を有する被処理物に対しても容易に効率よく窒化による表面硬化が行える方法を提供するものである。」(【0004】)
(3-2)「真空容器内に設置した鉄鋼やステンレススチール等の鉄系合金よりなる金属部材と前記容器の間に、高周波、又は高周波と直流を印加し、プラズマによりイオン化された窒素イオンにより前記鉄系合金の表面を窒化することを特徴とするグロー放電を利用した金属部材のイオン窒化方法。」(【請求項1】)
(3-3)「【実施例1】・・・・・・図9に示すように窒素は表面から約50μmに亘り拡散していることがわかった。」(【0008】、【0009】)
との記載がある。
上記(3-3)の記載は窒化層が脆化層を含まない拡散層からなることを表しているから、引用文献3にはイオン窒化法により窒化すれば窒化層が脆化層を含まない拡散層からなることが記載されているといえる。

引用文献5(実願昭52-52191号(実開昭53-147309号)のマイクロフィルム)には、組合せピストンリング用サイドレールに関し、
(5-1)「内燃機関用の組合せピストンリングにおいて、サイドレールの内周面及び外周面に・・・・・・窒化処理による硬化層を形成したことを特徴とする組合せピストンリングのサイドレール」(実用新案登録請求の範囲)
(5-2)「本考案を・・・・・・実施例に従って詳述する・・・・・・サイドレール2の外周面3及び内周面5には・・・・・・軟窒化処理等による窒化処理によって硬化層6が形成されている。而して前述の軟窒化処理法としては、例えばグロー放電によるイオン窒化法・・・・・・使用される。・・・・・・ピストン7のリング溝8には上下交互に配設されたサイドレール押圧突起9を有するスペーサーエキスパンダ4の上下受圧面10にサイドレール2が夫々装着されて一体的に組合わされた鋼製組合せオイルリングが嵌着され、これが圧縮された状態でシリンダ1に挿着されている。」(3ページ15行?4ページ19行)
との記載がある。
そうすると、引用文献5には、「イオン窒化処理により鋼製のオイルリングの表面に窒化層を形成した窒化ピストンリング」の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているといえる。

引用文献6(特開昭64-35055号公報)には、ピストンリングに関し、
(6-1)「重量%で、炭素0.4?0.6%、クロム16?19%・・・・・・残部が実質的に鉄からなるオイルリングの少なくともシリンダ壁と摺動する摺動面に硬質表面処理層を有することを特徴とするオイルリング。」(特許請求の範囲第2項)
(6-2)「オイルリングのシリンダ壁と摺動する面には硬質表面層を有していることが必要であるが、同時に上下面にも設けてもよい。・・・・・・硬質表面層として窒化・・・・・・を適用することができる。」(2ページ左下欄4?9行)
との記載がある。
(6-1)に記載のようにクロムを16?19重量%含む鋼であることからみてオイルリングはステンレス鋼といえ、「硬質表面処理層」と「硬質表面層」とは同じものであることは明らかだから、引用文献6には「ステンレス鋼製オイルリングの表面に窒化層を形成した窒化ピストンリング」が記載されている。

ところで、本願第1発明及び第3発明における「窒化層」は窒化されるピストンリングの組成を考慮すると「軟窒化層」であることは明らかである。よって、以下の検討では、「窒化層」と「軟窒化層」を区別せず、「窒化層」として表記する。

3-3.対比・判断
3-3-1.本願第1発明について
本願第1発明と引用発明1とを対比すると、両者は、共に、窒化ピストンリングに関し、鋳鉄製のオイルリングの表面に窒化層を形成したものである点で一致し、
(あ)本願第1発明の窒化層はイオン窒化処理により脆化層を含まない純拡散層からなるものであるのに対し、引用発明1では窒化層の窒化処理方法やその構造について何ら言及のない点で相違している。
そこで、この相違点について検討する。
引用文献2には、(2-1)にて摘示したように、鋼を窒化処理によって窒化層の表層部に白層と称する脆硬なポーラス層が生じ、この脆硬なポーラス層を除去することが記載されている。引用文献2は鋼についての言及であるが、鋳鉄においても同様の脆硬なポーラス層が生じていることは明らかであるから、引用発明1において溶射膜の形成に当たり、溶射膜の密着性等を向上させるために脆硬なポーラス層を除去することは不可欠である。
3-3-1-1.
上述のとおり引用発明1において脆硬なポーラス層を除去することは不可欠であるであるから、引用文献1には明言はないが脆硬なポーラス層を除去しているといえ、引用発明1の窒化層は脆化層を含まない純拡散層からなるものとなるから、引用発明1の窒化層はイオン窒化処理をした脆化層を含まない純拡散層からなるものと区別できない。
そうすると、本願第1発明は引用発明1と同じである。
3-3-1-2.
上述のとおり引用発明1において脆硬なポーラス層を除去することは不可欠であるであるから、窒化処理に当たって脆硬なポーラス層を生じないようにすることは当業者ならば容易に想到する事項である。一方、引用文献3には、イオン窒化法により窒化すれば窒化層が脆化層を含まない拡散層からなることが記載されているから、引用発明1の窒化処理に当たって脆硬なポーラス層を生じないようにするために、イオン窒化を使用することは困難とはいえない。
よって、本願第1発明は引用発明1及び引用文献2、3に記載された事項から当業者ならば容易になしえたものである。

3-3-2.本願第3発明について
本願第3発明と引用発明5とを対比すると、引用発明5ではグロー放電によるイオン窒化法を用いて窒化層を形成しており、このグロー放電によるイオン窒化法は引用文献3の(3-2)及び(3-3)の記載から脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成するものであるから、両者は、共に、窒化ピストンリングに関し、「イオン窒化処理により鉄合金製オイルリングの表面に脆化層を含まない純拡散層からなる窒化層を形成した」ものである点で一致し、本願第3発明ではステンレス鋼製オイルリングであるのに対し、引用発明5では鋼製オイルリングである点で相違している(以下、「相違点(う)」という。)。
そこで、この相違点(う)について検討すると、引用文献6には、窒化層を有するオイルリングをステンレス鋼とすることが記載されており、オイルリングの材質はオイルリングに要求される物理的性質等を考慮して適宜決定されるものであるから、引用発明5のオイルリングの材質をステンレス鋼とすることは困難とはいえない。
よって、本願第3発明は引用発明5及び引用文献3、6に記載された事項から当業者ならば容易になしえたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願第1発明は、引用文献1に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、仮にそうでないとしても引用文献1、2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。また、本願第3発明は、引用文献3、5及び6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-05 
結審通知日 2008-12-12 
審決日 2008-12-24 
出願番号 特願平7-58691
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧口 博史  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 木村 孔一
繁田 えい子
発明の名称 窒化ピストンリング  
代理人 川上 肇  
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