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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1194154
審判番号 不服2006-23066  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-12 
確定日 2009-03-09 
事件の表示 特願2001-101885「スロットマシン」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 8日出願公開、特開2002-291970〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯等
本願は、平成13年3月30日の出願であって、平成18年6月6日付けで拒絶理由が通知され、これに対し平成18年7月14日付けで手続補正がされ、平成18年9月1日付けで拒絶査定がされ、これに対し平成18年10月12日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年11月2日付けで手続補正がされたものである。

第2.平成18年11月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年11月2日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「左側に隣接して設置される遊技媒体貸出機と通信可能に接続され、この遊技媒体貸出機からの貸出指示に基づいて遊技媒体の貸出処理を行うスロットマシンであって、
前面に開口部を有する筐体と、
この筐体の前面開口部に左縁をヒンジ側として開閉可能に取り付けられ、遊技面を構成する前面体と、
上記筐体内の上側位置に筐体の背面部に固定して配置され、遊技媒体の貸出処理を制御する制御基板と、
上記筐体内の下側位置でかつ筐体の左側側壁部に近接して配置された電源装置と、
上記前面体の左側部位に設けられた貸出・返却スイッチや度数表示器などの貸出操作・表示部と、
上記筐体内における制御基板の配置位置と電源装置の配置位置との間に位置する筐体内の上下方向中間位置でかつ上記遊技媒体貸出機と隣接する左側の筐体側壁部の内壁面に取り付けられた中継基板とを備えており、
上記中継基板は、遊技媒体貸出機と接続するための第1ケーブルが接続される第1コネクタと、上記制御基板と接続するための第2ケーブルが接続される第2コネクタと、上記電源装置と接続するための第3ケーブルが接続される第3コネクタと、上記貸出操作・表示部と接続するための第4ケーブルが接続される第4コネクタとを有し、これらコネクタ間の信号を授受可能にするだけで表示制御用の駆動回路IC及びサブCPUを有しないものであり、
上記筐体には中継基板の取付個所近傍に上記第1ケーブルを導入するための長孔からなる導入口が設けられ、この導入口は、筐体の背面部における上記遊技媒体貸出機に近接する部位でかつ、上記中継基板より低く、かつ上記電源装置より高い高さ位置に設けられていることを特徴とするスロットマシン。」(以下、「本願補正発明」という。)と補正された。

上記補正は、補正前の「隣接して設置される」を「左側に隣接して設置される」と限定し、補正前の「遊技機」を「スロットマシン」と限定し、補正前の「前面開口部に開閉可能に」を「前面開口部に左縁をヒンジ側として開閉可能に」と限定し、補正前の「下側位置に配置された電源装置」を「下側位置でかつ筐体の左側側壁部に近接して配置された電源装置」と限定し、補正前の「前面体に設けられた貸出・返却スイッチや度数表示器」を「前面体の左側部位に設けられた貸出・返却スイッチや度数表示器」と限定し、補正前の「遊技媒体貸出機と隣接する側の筐体側壁部」を「遊技媒体貸出機と隣接する左側の筐体側壁部」と限定するものであって、補正前の「中継基板」に「これらコネクタ間の信号を授受可能にするだけで表示制御用の駆動回路IC及びサブCPUを有しないものであり」との限定を付加し、補正前の「導入口」に「長孔からなる」及び「上記中継基板より低く、かつ上記電源装置より高い高さ位置に設けられている」との限定を付加するものであり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(上記改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用文献について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-795号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

・記載事項1
「【請求項1】 カード読み取り手段を有するメダル貸し装置との間の信号線を接続するための第一の接続手段、回胴式遊技機との間の信号線を接続するための第二の接続手段、及び制御手段を有し、前記制御手段によって、前記メダル貸し装置と前記回胴式遊技機との間の信号の授受の仲介、前記回胴式遊技機におけるゲーム中の前記メダル貸し装置におけるメダル貸し動作の禁止、及び前記メダル貸し装置におけるメダル貸し動作中の前記回胴式遊技機における新たなゲームの開始の禁止を制御することを特徴とする回胴式遊技機用中継基板。
【請求項2】 前記メダル貸し装置と前記回胴式遊技機との間で授受される信号は、メダルの払出し量を制御するための信号を含むものであることを特徴とする請求項1記載の回胴式遊技機用中継基板。」(【特許請求の範囲】)

・記載事項2
「【従来の技術】従来のプリペイドカードを用いたメダル貸し装置は、貸しメダルの排出装置を備えていたが、最近その排出装置として遊技機内に設けられたメダル排出装置を使用するものが出現している。かかるメダル貸し装置は、遊技機間に設けられているので、台間メダル貸し装置と呼ばれている。各遊技機間に台間メダル貸し装置が設けられる場合、遊技機と台間メダル貸し装置との間には貸しメダルに関する情報を送受するためのケーブルが接続される。また、両装置には、それぞれの制御手段間で情報を送受するためのインターフェイス回路が設けられている。」(段落【0002】)

・記載事項3
「【発明が解決しようとする課題】ところで、遊技中に遊技者からメダル貸しの要求があった場合、メダル貸し装置は遊技中にはメダル貸しの動作を行わずにその要求を保留しておき、遊技が終了した時点で要求されたメダル貸しの動作を実行する必要がある。逆に、メダル貸し動作を行っている途中に遊技者が遊技機をスタートさせる操作を行った場合、メダル貸し動作が終了するまでは遊技機の動作開始を保留するとともに、メダル貸し動作が終了した時点において遊技者の要求に従って遊技機の動作を開始させる必要がある。このような場合に、従来の遊技機では、その内部にあるCPUが、メダル貸し動作中における遊技開始を制限したり、あるいは遊技中における遊技機のメダル貸し動作を制限するという制御を行っていた。」(段落【0003】)

・記載事項4
「しかしながら、遊技機が遊技動作を行っている間にその遊技機内部のCPUにメダル貸しの要求に対する制御の仕事を並行して行わせたり、また、メダル貸しの動作を行っているときに遊技動作の開始を保留する制御を併せて行わせると、遊技機内部のCPUの負担が大きくなり、本来行うべき動作が遅延するなどの悪影響が生ずる。」(段落【0004】)

・記載事項5
「本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、遊技機の本来の動作中にメダル貸しの要求がなされた場合や、メダル貸し動作が行われている途中に遊技機の開始操作がなされた場合に、遊技機内部のCPUの負荷を増大させずにこれらの処理を行う回胴式遊技機用中継基板を提供することを目的とするものである。」(段落【0005】)

・記載事項6
「図1において、1は遊技機の機枠であり、機枠1の前面には前面枠2が開閉自在に装着されている。前面枠2の前面には前面板3が装着され、その前面板3の前面に7セグメント表示素子やLEDを備えた貯留メダル枚数表示部15、払出しメダル枚数表示部16、ストップランプ17?19、回胴回転装置の表示窓20x等が設けられている。また、前面板3の下部にはメダル払出し口6、メダル受け皿4が設けられている。」(段落【009】)
・記載事項7
「前面枠2の中央部には後述する台間メダル貸し装置30を操作するための操作スイッチであるメダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14bと、7セグメント表示素子やLEDを備えたメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13が設けられている。・・・31は、メダル貸し装置の一部に設けられたカード読み取り部である。」(段落【0010】)

・記載事項8
「図2は本発明の一実施例である遊技機の前面板を開いた状態の概略斜視図である。・・・機枠1内には、上記のもの以外に、電源部25、遊技機制御用の主CPU基板26、後述する本発明の一実施例である遊技機用中継基板(以下単に「中継基板」という)40等が設けられている。」(段落【0011】)

・記載事項9
「遊技機のメダル排出装置23は、台間メダル貸し装置30からの情報に基づいてメダルを排出する。排出されるメダルは、貯留装置が使用可能な状態のときは貯留枚数が50枚になるまでは、貯留装置に貯留され、貯留枚数が50枚を越える分はメダル払出し口6から払い出され、また貯留装置を使用していないときには、直接、メダル払出し口6からメダル受け皿4に払い出される。」(段落【0013】)

・記載事項10
「図3は、中継基板40と遊技機の主CPU基板26、及び中継基板40とメダル貸し装置31の間で送受信される各信号を示したブロック図である。中継基板40には、制御手段であるサブCPU44、遊技機及びメダル貸し装置31との間の電気的な絶縁を維持しながら信号の授受を行うフォトカプラ46a,46b、サブCPU44との間で信号を入出力する入出力回路48、そして各部に電力を供給する電源回路50が設けられている。・・・電源回路50は、遊技機の電源部51から電源の供給を受ける。」(段落【0014】)

・記載事項11
「遊技機の主CPU基板26と中継基板40との間では、貸出禁止信号、受信応答信号、貸出データ、送信要求信号、ゲーム禁止信号、受信確認データ信号がやり取りされる。これらの信号が送受される信号線は、図3の中継基板40に設けられたコネクタCN1を介して遊技機と中継基板との間で接続される。このコネクタCN1は、本発明の第二の接続手段となる。」(段落【0015】)

・記載事項12
「貸出データは、台間メダル貸し装置30から貸出しを行うメダルの枚数のデータで、例えば100円単位のデータが中継基板40から遊技機へ送出される。この信号は送信時にはHとされる。」(段落【0021】)

・記載事項13
「メダル貸し装置31と中継基板40との間では、BRDY信号、 BRQ信号、PRDY信号、 EXS信号がやり取りされる。これらの信号がやり取りされる信号線は、中継基板40上に設けられた D-Sub25というコネクタCN2の一部のピンによって、メダル貸し装置と中継基板との間で接続される。このコネクタCN2は、本発明の第一の接続手段となる。」(段落【0022】)

・記載事項14
「BRQ信号は、メダル貸出を指示する信号であり、メダル貸し装置31からメダルの貸出指示を中継基板に対して行う信号である。この信号は、例えば一回100円分の貸出を要求するときに、HからLへ遷移する。」(段落【0024】)

・記載事項15
「メダル貸し装置31と遊技機の表示部及び操作部との間では、メダル貸出要求スイッチ信号である TDS信号、LEDを点灯してメダル貸出可能であることを示すTDL0信号、カードの残高を表示する信号である DG1?DG3 、SEGa?SEGg信号、そして返却スイッチ信号である RES信号が、中継基板40を経由してやり取りされる。また、残額表示及びLEDなど、メダル貸し装置の状態を表示するためのメダル貸し装置状態表示用電源の電源線が接続されている。これらの信号がやり取りされる信号線及び電源線は、メダル貸し装置の側は上記コネクタCN2の残りのピンによって、遊技機の側はコネクタCN3によってそれぞれ接続される。コネクタCN3で接続された遊技機側は、図1のメダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14b、7セグメント表示素子やLEDを備えたメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13に接続されている。」(段落【0027】)

・記載事項16
「30 台間メダル貸し装置 31 カード読み取り部」(【符号の説明】)

・記載事項17
図1には、遊技機の左側に隣接して台間メダル貸し装置30が設置されていることが図示されている。

・記載事項18
図2には、機枠1の前面に開閉自在に装着された前面枠2が、機枠1の前面開口部の左縁を中心として回動して前面開口部が開放されていることが図示されている。
また、図2には、遊技機の機枠1内の上側位置で機枠1の左側側壁部に主CPU基板26を配置し、機枠1内の下側位置で機枠1の左側側壁部に近接して電源部25を配置し、機枠1内の上側位置で機枠1の背面部に中継基板40を配置することが図示されている。

・記載事項19
図3には、遊技機電源部AC24Vからの電源が、中継基板40内かつ電源回路50の手前で分岐されてメダル貸し装置31に電源が供給されることが図示されている。

上記引用文献1において、「台間メダル貸し装置」、「メダル貸し装置」、「台間メダル貸し装置30」及び「メダル貸し装置31」と記載されているが、一方、「31は、メダル貸し装置の一部に設けられたカード読み取り部である。」(上記記載事項7)及び「30 台間メダル貸し装置 31 カード読み取り部」(上記記載事項16)と記載されており、記載に混乱があるので、この点について検討する。
上記記載事項2において、「かかるメダル貸し装置は、遊技機間に設けられているので、台間メダル貸し装置と呼ばれている。」と記載されているところから、「メダル貸し装置」と「台間メダル貸し装置」は、「台間」という設置場所を限定するか否かを除いて同一の概念のものであることは明らかであり、上記記載は「従来の技術」に関するものであるが、引用文献1に記載された発明はこれを基礎としていることは明らかである。また、引用文献1の種々の記載からみても、「メダル貸し装置」と「台間メダル貸し装置」を設置位置を除けば同一のものと解するのが自然であるとともに、別の概念のものと解すべき理由もない。
これにより、以下においては「台間メダル貸し装置」、「メダル貸し装置」、「台間メダル貸し装置30」及び「メダル貸し装置31」は「メダル貸し装置」に統一して整理を行う。
上記各記載事項を含む全記載及び図示によれば、引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。
「左側に隣接して設置されるメダル貸し装置と信号の授受を行い、メダル貸し装置からの情報に基づいてメダルを排出する回胴式遊技機であって、
前面開口部を有する機枠1と、
この機枠1の前面開口部の左縁を中心として開閉自在に装着され、7セグメント表示素子やLEDを備えた貯留メダル枚数表示部15、払出しメダル枚数表示部16、ストップランプ17?19、回胴回転装置の表示窓20x等が設けられた前面板3を前面に装着された前面枠2と、
機枠1内の上側位置で機枠1の左側側壁部に配置され、中継基板40と貸出禁止信号、受信応答信号、貸出データ、送信要求信号、ゲーム禁止信号、受信確認データ信号のやり取りを行う主CPU基板26と、
機枠1内の下側位置で機枠1の左側側壁部に近接して配置した電源部25と、
前面枠2の中央部に設けられた、メダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14b、及びメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13と、
機枠1内の上側位置で機枠1の背面部に配置された中継基板40を備えており、
中継基板40は、メダル貸し装置と接続するための信号線が接続されるコネクタCN2と、主CPU基板26と接続するための信号線が接続されるコネクタCN1と、メダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14b、及びメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13と接続するための信号線が接続されるコネクタCN3と、遊技機電源部AC24Vからの電源の接続部とを有し、サブCPU44を有するものである、
回胴式遊技機」(以下、「引用発明」という。)

3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「メダル貸し装置」は本願補正発明の「遊技媒体貸出機」に相当し、以下同様に、「メダル」は「遊技媒体」に、「回胴式遊技機」は「スロットマシン」に、「機枠1」は「筐体」に、「前面枠2」は「前面体」に、「主CPU基板26」は「制御基板」に、「電源部25」は「電源装置」に、「メダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14b、及びメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13」は「貸出・返却スイッチや度数表示器などの貸出操作・表示部」に、「信号線」は「ケーブル」に、それぞれ相当する。

そして、引用発明について、以下のことがいえる。
(1)「左側に隣接して設置されるメダル貸し装置と信号の授受を行い、メダル貸し装置からの情報に基づいてメダルを排出する遊技機であって」について
「信号の授受を行う」ためには、「通信可能に接続されている」ことは必須である。また、メダル貸し装置からの情報を「貸出指示」ということができ、「メダルの排出」を「遊技媒体の貸出処理」いうことができることは明らかである。
そうすると、引用発明は、「左側に隣接して設置される遊技媒体貸出機と通信可能に接続され、この遊技媒体貸出機からの貸出指示に基づいて遊技媒体の貸出処理を行うスロットマシンであって」なる構成を実質的に具備している。
(2)「前面開口部を有する機枠1と、この機枠1の前面開口部の左縁を中心として開閉自在に装着され、7セグメント表示素子やLEDを備えた貯留メダル枚数表示部15、払出しメダル枚数表示部16、ストップランプ17?19、回胴回転装置の表示窓20x等が設けられた前面板3を前面に装着された前面枠2と」について
一般に、スロットマシンにおいて、前面扉を筐体の前面開口部に左縁をヒンジ側として開閉可能に取り付けられることは常套手段であって、引用文献1にこの点が明記されていなくとも、引用発明は当該常套手段を有しているものと認められる。
また、「7セグメント表示素子やLEDを備えた貯留メダル枚数表示部15、払出しメダル枚数表示部16、ストップランプ17?19、回胴回転装置の表示窓20x等が設けられた前面板3」を含む「前面枠2」の前面が「遊技面」となっていることは自明である。
そうすると、引用発明は、「前面に開口部を有する筐体と、この筐体の前面開口部に左縁をヒンジ側として開閉可能に取り付けられ、遊技面を構成する前面体と」なる構成を実質的に具備している。
(3)「機枠1内の上側位置で機枠1の左側側壁部に配置され、中継基板40と貸出禁止信号、受信応答信号、貸出データ、送信要求信号、ゲーム禁止信号、受信確認データ信号のやり取りを行う主CPU基板26と」について
「貸出禁止信号、受信応答信号、貸出データ、送信要求信号、ゲーム禁止信号、受信確認データ信号」は、メダルの排出を行うための信号であるから、当該信号のやり取りを行うことは「メダルの排出」すなわち「遊技媒体の貸出処理」を行うことである。
そうすると、引用発明は、「筐体内の上側位置に固定して配置され、遊技媒体の貸出処理を制御する制御基板と」なる構成を実質的に具備するものである。
(4)「中継基板40は、メダル貸し装置と接続するための信号線が接続されるコネクタCN2と、主CPU基板26と接続するための信号線が接続されるコネクタCN1と、メダル貸しスイッチ14aやカード返却スイッチ14b、及びメダル貸し可表示やカード残高表示等を行う表示部13と接続するための信号線が接続されるコネクタCN3と、遊技機電源部AC24Vからの電源の接続部とを有し」について
中継基板と他の装置との接続の関係を考慮すると、引用発明の「コネクタCN2」及びそれに接続される「信号線」は本願補正発明の「第1コネクタ」及び「第1ケーブル」に相当し、引用発明の「コネクタCN1」及びそれに接続される「信号線」は本願補正発明の「第2コネクタ」及び「第2ケーブル」に相当し、引用発明の「コネクタCN3」及びそれに接続される「信号線」は本願補正発明の「第4コネクタ」及び「第4ケーブル」に相当する。また、遊技機電源部AC24Vから中継基板へ電源が供給されるということは、当然電源線が存在するものであり、これは本願補正発明の「第3ケーブル」に相当するものである。
そうすると、「中継基板は、遊技媒体貸出機と接続するための第1ケーブルが接続される第1コネクタと、制御基板と接続するための第2ケーブルが接続される第2コネクタと、上記貸出操作・表示部と接続するための第4ケーブルが接続される第4コネクタとを有し、電源装置と接続するための第3ケーブルが接続されている」という点で、引用発明は本願補正発明と一致している。

以上により、本願補正発明と引用発明は
「左側に隣接して設置される遊技媒体貸出機と通信可能に接続され、この遊技媒体貸出機からの貸出指示に基づいて遊技媒体の貸出処理を行うスロットマシンであって
前面に開口部を有する筐体と、
この筐体の前面開口部に左縁をヒンジ側として開閉可能に取り付けられ、遊技面を構成する前面体と、
筐体内の上側位置に固定して配置され、遊技媒体の貸出処理を制御する制御基板と、
筐体内の下側位置で筐体の左側側壁部に近接して配置された電源装置と、
前面体に設けられた貸出・返却スイッチや度数表示器などの貸出操作・表示部と、
筐体内に配置された中継基板を備えており、
中継基板は、遊技媒体貸出機と接続するための第1ケーブルが接続される第1コネクタと、制御基板と接続するための第2ケーブルが接続される第2コネクタと、上記貸出操作・表示部と接続するための第4ケーブルが接続される第4コネクタとを有し、電源装置と接続するための第3ケーブルが接続されている
スロットマシン」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
筐体内の上側位置に固定して配置される制御基板が、本願補正発明においては筐体の背面部に配置されたのに対し、引用発明では筐体の左側側壁部に配置された点。
<相違点2>
前面体に設けられた貸出操作・表示部が、本願補正発明では前面体の左側部位に設けられたのに対し、引用発明ではそのような構成となっていない点。
<相違点3>
筐体内に配置された中継基板が、本願補正発明では筐体内における制御基板の配置位置と電源装置の配置位置との間に位置する筐体内の上下方向中間位置でかつ遊技媒体貸出機と隣接する左側の筐体側壁部の内壁面に取り付けられたのに対し、引用発明では筐体内の背面部に配置された点。
<相違点4>
中継基板は、本願補正発明では電源装置と接続するための第3ケーブルが接続される第3コネクタを有するのに対し、引用発明ではそのような構成となっていない点。
<相違点5>
中継基板は、本願補正発明では、コネクタ間の信号を授受可能にするだけで表示制御用の駆動回路IC及びサブCPUを有しないものであるのに対し、引用発明ではサブCPUを有するものである点。
<相違点6>
本願補正発明では、筐体には中継基板の取付個所近傍に第1ケーブルを導入するための長孔からなる導入口が設けられ、この導入口は、筐体の背面部における上記遊技媒体貸出機に近接する部位でかつ、中継基板より低く、上記電源装置より高い高さ位置に設けられているのに対し、引用発明ではそのような構成となっていない点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
<相違点1?3>について
相違点1?3は、相互に関連しているのであわせて検討する。
本願補正発明と引用発明は、制御基板、中継基板、及び相違点には挙がっていない電源装置を筐体内に配置すること、貸出操作・表示部を前面体に設けることにおいて一致しているが、これらの構成要素(制御基板、中継基板、電源装置、貸出操作・表示部)を筐体内のどの位置に取り付けるか、前面体のどの位置に取り付けるか、すなわち上記構成要素をどのように配置するかの相違によって相違点1?3が生じているものと認められる。
一般に電気機器において、ケーブルが無用に長いとコストの増加、絡み合いが発生するということは技術常識であって、この点を考慮しつつ機器の設計を行うことは当然のことである。また、電源装置がノイズを発生させるものであり、電源装置からケーブル、電子部品等を離すことがノイズの混入を防止するために有効であることも技術常識である。
そうすると、電気機器の一種とみることができるスロットマシンにおいて、上記技術常識を考慮しつつ、上記構成要素の配置を適切に決定することは当業者にとって当然のことである。それ故、引用発明においてその構成要素の配置を適切なものとして変更し、相違点1?3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
<相違点4>について
基板とケーブルの接続をコネクタで行うことは、例を挙げるまでもなく従来周知の技術手段であるから、引用発明において電源装置と接続するための第3ケーブルを接続するためコネクタを設けることとし、相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。
<相違点5>について
上記記載事項3?5によれば、従来はメダル貸しの制御を遊技機内部のCPUが行っていたが、CPUの負担が大きくなり、本来行うべき動作が遅延するなどの悪影響が生じたことから、引用発明は、メダル貸し制御の一部をサブCPU44が行うものとし、当該サブCPU44を中継基板40に搭載したものである。
しかし、中継基板は、従来周知(例、実開昭60-180480号のマイクロフィルム、実開昭63-88371号のマイクロフィルム)のものであって、遊技機においてよく用いられるものであるが、本来、中継基板は、遊技機のケーブル、リード線等を整理するものであって、表示制御用の駆動回路IC及びサブCPUを必須とするものでないことは明らかである。
以上により、中継基板にサブCPUを搭載するか否かは、設計的事項というべきものであり、引用発明においてサブCPUを有しないものとし、相違点5に係る本願補正発明の構成とすることは当業者にとって容易に想到したことである。
<相違点6>について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-4931号公報(以下、「引用文献2」という。)の段落【0008】には「台間メダル貸し装置30と回胴式遊技機装置はDSUB-25PINコネクタが接続されたケーブル32により接続されている。100は中継用端子板である。」と記載されており、図2には、機枠1内で背面部に設けられた中継用端子板100に接続されたケーブル32が、背面部における中継基板100の取付個所近傍に設けた穴に通されていることが図示されている。
そして、「ケーブル32」は、台間メダル貸し装置30と回胴式遊技機装置を接続するものであるから、「第1ケーブル」に相当するものであり、また、ケーブル32が通される穴は「ケーブル32を導入するための導入口」といいかえることができる。そうすると、引用文献2には「筐体には中継基板の取付個所近傍に第1ケーブルを導入するための導入口が設けられ」なる技術事項が記載されている。また、ケーブルを挿通する穴の形状をどのようにするかは適宜決定する設計事項程度に過ぎず、上記の周知例である実開昭60-180480号のマイクロフィルム(第4図の開口部39)にも長孔とすることが記載されている。更に、導入口を設ける位置をどのようにするかは、「<相違点1?3>について」と同様の理由により、他の構成要素(中継基板、電源装置)との関連において適切に決定すればよいものである。
そうすると、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用し、その際に導入口を「長孔」とすると共にその配置を適切なものとし、相違点6に係る本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到したことである。

そして、本願補正発明の効果は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記改正前の特許法17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、同法159条第1項で準用する同法53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明の認定
平成18年11月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年7月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「隣接して設置される遊技媒体貸出機と通信可能に接続され、この遊技媒体貸出機からの貸出指示に基づいて遊技媒体の貸出処理を行う遊技機であって、
前面に開口部を有する筐体と、
この筐体の前面開口部に開閉可能に取り付けられ、遊技面を構成する前面体と、
上記筐体内の上側位置に筐体の背面部に固定して配置され、遊技媒体の貸出処理を制御する制御基板と、
上記筐体内の下側位置に配置された電源装置と、
上記前面体に設けられた貸出・返却スイッチや度数表示器などの貸出操作・表示部と、
上記筐体内における制御基板の配置位置と電源装置の配置位置との間に位置する筐体内の上下方向中間位置でかつ上記遊技媒体貸出機と隣接する側の筐体側壁部の内壁面に取り付けられた中継基板とを備えており、
上記中継基板は、遊技媒体貸出機と接続するための第1ケーブルが接続される第1コネクタと、上記制御基板と接続するための第2ケーブルが接続される第2コネクタと、上記電源装置と接続するための第3ケーブルが接続される第3コネクタと、上記貸出操作・表示部と接続するための第4ケーブルが接続される第4コネクタとを有してなり、
上記筐体には中継基板の取付個所近傍に上記第1ケーブルを導入するための導入口が設けられ、この導入口は、筐体の背面部でかつ上記遊技媒体貸出機に近接する部位に設けられていることを特徴とする遊技機。」

2.本願発明の進歩性の判断

(1)引用文献
拒絶の理由に引用された引用文献及びその記載事項は、上記第2の2.に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明から、上記第2の1.において指摘した各限定を元に戻したものである。
そうすると、本願発明の構成をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2の4.に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-17 
結審通知日 2009-01-06 
審決日 2009-01-19 
出願番号 特願2001-101885(P2001-101885)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 仁之  
特許庁審判長 伊藤 陽
特許庁審判官 川島 陵司
池谷 香次郎
発明の名称 スロットマシン  
代理人 松永 勉  

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