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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J |
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管理番号 | 1194870 |
審判番号 | 不服2007-11267 |
総通号数 | 113 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-19 |
確定日 | 2009-03-26 |
事件の表示 | 特願2002-373192「電界放射型電子源」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-206975〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第一 手続の経緯 本願は、平成14年12月24日の出願であって、明細書又は図面について平成18年6月26日付けで補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成19年3月13日付けで拒絶査定がなされ(送達:同年3月20日)、これに対して平成19年4月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 第二 本件補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、補正前の 「絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなり、剥れ防止層となる薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されてなることを特徴とする電界放射型電子源。」 から、補正後の 「絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなり、剥れ防止層となる薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されて圧縮応力が付加されてなり前記半導体層に発生する圧縮応力を緩和する応力緩和層として機能することを特徴とする電界放射型電子源。」と補正するものであって、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。 2.引用例記載の事項・引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-138026号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項(a)乃至(c)が図1乃至8とともに記載されている。 (a)「【請求項1】 導電性基板の主表面側の最表面に形成された導電性薄膜を陰極として電界を印加することにより導電性薄膜の表面から電子線を放射させる電界放射型電子源の製造方法であって、導電性基板上に多結晶半導体層を形成し、該多結晶半導体層上に所定領域が開口されたマスク材料層を形成し、該マスク材料層をマスクとして陽極酸化処理を行うことにより多結晶半導体層の一部を多孔質化し、該多孔質化された多孔質の多結晶半導体層を酸化若しくは窒化し、該酸化若しくは該窒化された多孔質多結晶半導体層上に所定形状にパターニングされた導電性薄膜を形成することを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。」 (b)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、半導体材料を用いて電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源および電界放射型電子源の製造方法、電界放射型電子源を利用した平面発光装置およびディスプレイ装置に関するものである。」 (c)「【0036】(実施形態2)本実施形態の電界放射型電子源の製造方法を図2(a)?(e)を参照しながら説明する。 【0037】まず、例えばガラス基板よりなる絶縁性基板11の主表面上にストライプ状の導電体層よりなる下部電極12を形成することによって、図2(a)に示す構造が得られる。なお、本実施形態では、絶縁性基板11と下部電極12とで導電性基板を構成している。ここにおいて、下部電極12は、例えば、絶縁性基板11の主表面上の全面に導電体層を形成し、該導電体層をパターニングすることで形成すればよく、下部電極12としては、パターンの高精度化が可能な材料を用いることが望ましい。 【0038】その後、絶縁性基板11の主表面側の全面に亘って下部電極12を覆うようにLPCVD法により膜厚が1.0μmのノンドープのポリシリコン層3を形成することによって、図2(b)に示す構造が得られる。ここに、LPCVD法の成膜条件は、基板温度を610℃、SiH_(4)ガス流量を600sccm、真空度を20Paとした。なお、本実施形態では、ポリシリコン層3が多結晶半導体層を構成している。ここにおいて、ポリシリコン層3の成膜方法は、LPCVD法に限定されるものではなく、例えばスパッタ法あるいはプラズマCVD法によってアモルファスシリコン層を形成した後、該アモルファスシリコン層に対してアニール処理を行うことにより結晶化させてポリシリコン層を形成する方法を用いてもよい。 【0039】次に、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを1:1で混合し0℃に冷却した電解溶液を用い、白金電極を負極、下部電極12を正極として、ポリシリコン層に光を照射しながら定電流で陽極酸化処理を行うことによって、下部電極12に対応したストライプ状に多孔質ポリシリコン層5が形成され、図2(c)に示す構造が得られる。本実施形態では、陽極酸化処理の条件として、電流密度を20mA/cm^(2)一定、陽極酸化時間を15秒とするとともに、陽極酸化処理中に500Wのタングステンランプにより光照射を行うことにより膜厚が1μmの多孔質ポリシリコン層5が形成された。 【0040】次に、急速熱酸化(RTO)法により、多孔質ポリシリコン層5を酸化することにより熱酸化された多孔質ポリシリコン層6が形成され、図2(d)に示す構造が得られる。急速熱酸化の条件としては、酸化温度900℃、酸化時間を1時間とした。なお、本実施形態では、多孔質ポリシリコン層5を酸化しているが、酸化する代わりに窒化するようにしてもよい。 【0041】その後、絶縁性基板11の主表面側に、メタルマスクを用いて金薄膜を蒸着法によって形成することにより、熱酸化された多孔質ポリシリコン層6に対応したストライプ状にパターニングされた金薄膜よりなる金属薄膜7が形成され、図2(e)に示す構造の電界放射型電子源10が得られる。なお、本実施形態では、金属薄膜7が導電性薄膜を構成している。また、本実施形態では、導電性薄膜の材料として金を用いたが、金に限定されるものではなくて、仕事関数の小さな金属や導電性材料であれば良く、金の他にアルミニウム、クロム、タングステン、ニッケル、白金などや、これらの金属の合金などが使用可能である。また、本実施形態では、金属薄膜7の膜厚を10nmとしたが、この膜厚は特に限定するものではない。 【0042】上述の電界放射型電子源10を真空チャンバ(図示せず)内に導入して、金属薄膜7に対向する位置にコレクタ電極(図示せず)を配置し、真空チャンバ内の真空度を5×10-5Paとして、金属薄膜7を正極、オーミック電極2を負極として両極間に20Vの直流電圧を印加するとともに、コレクタ電極を正極(陽極)、金属薄膜7を負極(陰極)として両極間に100Vの直流電圧を印加することにより、金属薄膜7の表面からコレクタ電極に向かって電子が経時的に安定して(ポッピング現象が起こることなく)放出される放出されるのを観測することができる。 【0043】しかして、本実施形態の電界放射型電子源の製造方法では、多結晶半導体層たるポリシリコン層3を多孔質化する際に下部電極12を利用して陽極酸化処理を行っていることによって、下部電極12のパターンに応じて多孔質多結晶半導体層たる多孔質ポリシリコン層5のパターンが形成されるから、下部電極12のパターンを高精度化することで多孔質ポリシリコン層5のパターン精度が向上し、また、酸化された多孔質ポリシリコン層6と金属薄膜7との接触面積が多孔質ポリシリコン層5のパターン精度で決まるから、低コストで電子放出面積のパターン精度を高めることができる。」 したがって、上記記載事項(a)乃至(c)、及び図1乃至8に基づけば、引用例1には、 「絶縁性基板(11)と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極(12)と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する金属薄膜(7)と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と金属薄膜とで挟まれた部分に多孔質ポリシリコン(5)を酸化することにより熱酸化された多孔質ポリシリコン層(6)が形成され、下部電極と金属薄膜との間に電圧が印加されるよう構成された電界放射型電子源(10)。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-144204号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項(a)乃至(c)が図1乃至12とともに記載されている。 (a)「【0007】 【発明が解決しようとする課題】ところで、この種の電子放出素子用マトリックス基板では、ガラス基板上に金属からなる下部電極とSiO_(2) 等の絶縁体層を介して上部電極を形成したものが一般的である。しかし、このような従来技術による電子放出素子では、ガラス基板と素子電極またはガラス基板と絶縁層の密着性に関して特別な考慮がなされていなかったため、マトリックス基板製造工程における焼成等の温度変化により基板と電極または絶縁体などの熱膨張率の差異により、層間に亀裂や破損が生じやすく製品の歩留りが低下する原因となっていた。そこで、本発明では、ガラス基板と電極、絶縁体層の間に低膨張率の密着性強化層を導入することによってこの問題を解決しようとするものである。」 (b)「【0017】まず、図4に示すように、ガラス基板100上の全面に、適宜な方法で低融点のガラスフリットからなるペーストを全面に塗布する。その後、当該塗布後のガラス基板を焼成してガラス基板に低膨張率のガラス層を被着させる。このガラス層はガラス基板100と、その上に形成される電極層110,130や絶縁層120との密着性を高める密着性強化層105として機能することになる。その後、ガラス基板の上の全面に導電性をもった第1の準備層115を、スピンナーや真空蒸着法あるいはスパッタ法など一般的な成膜方法を用いて形成する。導電性層はそれ自体が感光性を有するものであってもよいし感光性を有しなくてもよい。それ自体は感光性を有しないものである場合は、当該準備層上に感光性レジストを更に設けて、フォトマスクを用いる一般的なパターン形成方法で電極パターンを形成する。図5は、感光性を有する導電性の準備層115をガラス基板上に形成した状態を示している。」 (c)「【0027】(1)基板ガラス:背面露光を行う場合は透明性の良い青板ガラスや光学ガラスあるいは石英基板等が使用できる。また、背面露光を行わない場合は透明性を特に考慮する必要はない。 (2)密着性強化層: ○1(当審注:○と数字の組み合わせは丸囲み数字。以下、同じ。)PbOを50%以上含み、ガラスの分相を防止する効果を持たせたり、軟化点を調整したり、熱膨張係数をガラス基板に合わせたりするために、Al_(2 )O_(3 ),B_(2 )O_(3) ,SiO_(2) ,MgO,SrO,BaO等を含有する低融点ガラスフリットからなるペーストが一般的に使用される。これらの組成のものは、焼成後の熱膨張率が、45×10^(-7)/°C程度であって、一般の板ガラスより低膨張率であるため、導電層や絶縁層との熱膨張率の差異に基づく剥離や破壊を緩和できるため密着性強化層として機能するからである。この材料をガラス基板に塗布する際には、スクリーン印刷法、浸漬法、吹き付け法、スピンナーによる回転塗布法等の手段が採られる。 ○2PbO,Al_(2 )O_(3 ),B_(2 )O_(3) ,SiO_(2),MgO,SrO,BaO等の無機絶縁体の混晶もしくはガラス物質。これらは、スパッタリング、イオンプレーティング等の真空蒸着法でガラス基板に薄膜形成される。」 したがって、上記記載事項(a)乃至(c)及び図1乃至12に基づけば、引用例2には、「基板と電極や絶縁層との熱膨張率の差異に基づく層間の剥離等を緩和するため、基板と電極や絶縁層との間に低膨張率の密着性強化層を焼成によって成膜する電子放出素子」が記載されている。 さらに、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平1-279538号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項(a)及び(b)が第1図乃至第5図とともに記載されている。 (a)「【特許請求の範囲】 (1)基板上に少なくとも薄膜と電極が設けられ、該薄膜に高抵抗部の形成された表面伝導形電子放出素子において、基板と薄膜との間に中間層を設けたことを特徴とする電子放出素子。 (2)中間層が、低熱膨張率で高熱伝導率の材料からなることを特徴とする請求項1項に記載の電子放出素子。 (3)中間層が、SiO_(2)又はSiO_(2)を主成分とする膜からなることを特徴とする請求項1項又は2項に記載の電子放出素子。」 (b)「さらに薄膜の発熱部は、中間層と接しているために発生する内部応力も小さい。このため、基板割れや、薄膜の剥離が発生しない表面伝導形電子放出素子が得られる。 第2図は本発明の一例を示す素子の斜視図であり、第3図は本発明の一例を示す素子の製造工程図である。製造方法としては、まず、ガラス基板等から成る基板1上に低熱膨張率で高熱伝導率材料から成る中間層3を堆積する。堆積方法は、中間層材料により異なるが、液体コーティング法や、真空堆積法、印刷法等の膜形成法によって堆積できる。中でも、セラミックコーティング剤を基板上に、塗布、焼成することによって得る液体コーティング法が、大面積化の可能性範囲、安価である点、大量処理の可能性、供給安定性や熱可塑性の大きな材料を制御して形成できる点等から最も優れている(第3図○1参照)。」(公報第2頁右下欄第19行?第3頁左上欄第16行) したがって、上記記載事項(a)及び(b)及び第1図乃至第5図に基づけば、引用例3には、「基板と薄膜の熱膨張係数率の差異に基づく薄膜の剥離等を防ぐため、基板と薄膜との間に低熱膨張率の中間層を焼成によって成膜する電子放出素子」が記載されている。 3.対比 本願補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「金属薄膜(7)」は、本願補正発明の「表面電極」に相当する。 次に、本願補正発明の、「下部電極と表面電極とで挟まれた部分」の形成工程に関する、「多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され」との構成について検討する。発明の詳細な説明を参酌すると、「下部電極と表面電極とで挟まれた部分」は、次のように形成されるものである。 「【0033】 ・・・絶縁性基板11の上記一表面側の全面に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3をプラズマCVD法によって所定の成膜温度(例えば、450℃)で成膜することにより、図3(a)に示す構造が得られる。なお、本実施形態では、多結晶シリコン層3が絶縁性基板11の上記一表面側に成膜した半導体層を構成している。 【0034】 ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図2参照)と多数のシリコン微結晶63(図2参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)4を強電界ドリフト層6の形成予定部位に形成することにより、図3(b)に示す構造が得られる。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層3に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層3の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm^(2)の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層4を多結晶シリコン層3において下部電極12に重なる部位に形成する。 【0035】 ナノ結晶化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことで第1の複合ナノ結晶層4を電気化学的に酸化することによって、図2のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる強電界ドリフト層6を多結晶シリコン層3において下部電極12に重なる部位に形成することにより、図3(c)に示す構造が得られる。・・・」 他方、引用発明の、下部電極(11)と金属薄膜(7)(表面電極)とで挟まれた部分の形成工程に関する「多孔質ポリシリコン(5)を酸化することにより熱酸化された多孔質ポリシリコン層(6)が形成され」との技術事項について、この技術事項に対応する引用例1における上記記載事項(c)には、前記本願発明の詳細な説明に記載された形成工程と同様のものが記載されている。 以上のことから、引用発明における「多孔質ポリシリコン(5)を酸化することにより熱酸化された多孔質ポリシリコン層(6)が形成され」は、本願補正発明の「多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され」に相当するものといえる。 そうすると、両者は、 (一致点) 「絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成されたものである電界放射型電子源。」で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) 本願補正発明は、「下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなり、剥れ防止層となる薄膜は、半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されて圧縮応力が付加されてなり半導体層に発生する圧縮応力を緩和する応力緩和層として機能する」ものであるのに対し、引用発明は、そのことが明らかでない点で相違する。 4.判断 電子放出素子において、基板と、電極や絶縁層、薄膜等の基板と接する層との熱膨張率の差異に基づく層間の剥離等を緩和するため、基板と電極等の基板と接する層との間に低膨張率で層間の剥離を防止する機能を奏する剥がれ防止層を、焼成における高い成膜温度で成膜することは、前記「2.引用例記載の事項・引用発明」で説示したとおり、引用例2や3に示されるとおり、周知技術である(以下、「周知技術」という。)。そして、基板と、基板と接する電極とを有する引用発明において、基板と電極との剥がれを緩和するため、剥がれ防止層に関する当該周知技術を適用することは当業者にとって格別困難なことではない。 本願補正発明は、剥れ防止層となる薄膜に「圧縮応力が付加されてなり半導体層に発生する圧縮応力を緩和する応力緩和層として機能する」ものであり、剥がれ防止層が「下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する」ものである。この点、周知技術は、剥がれ防止層を焼成における高い成膜温度で成膜するものであり、それにより、常温において剥がれ防止層に圧縮応力が付加されるものであるから、絶縁性基板、下部電極、電子通過部からなる引用発明に、基板と電極間に剥がれ防止層を成膜する周知技術を適用してなる電子放出素子は、本願補正発明と同様の層構造であり、同様の剥がれ防止層の圧縮応力が生じるものである。そして、本願補正発明と同様の層構造及び圧縮応力に起因して、本願補正発明同様、下部電極から電子通過部が剥れるのが防止されるものであるといえる。したがって、本願補正発明において、剥れ防止層となる薄膜に「圧縮応力が付加されてなり半導体層に発生する圧縮応力を緩和する応力緩和層として機能する」こと、及び剥がれ防止層が「下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する」ものであることは、引用発明に周知技術を適用することによる技術的な因果関係により当然に奏される効果である。 また、本願補正発明は、剥がれ防止層の成膜温度が「半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度」であるが、この点に関して、本願の発明の詳細な説明には、「また、本実施形態では、剥れ防止層13を半導体層たる多結晶シリコン層3の成膜温度(基板温度)と同じ成膜温度で成膜しているので、剥れ防止層13を多結晶シリコン層3に比べて低温で成膜する場合に比べて剥れ防止層13に発生する圧縮応力が大きくなって多結晶シリコン層3に発生する圧縮応力が小さくなり、下部電極12からの電子通過部5の剥れがより発生しにくくなる。ここに、剥れ防止層13の成膜温度を半導体層たる多結晶シリコン層3の成膜温度よりも高くしてもよく、この場合にも下部電極12からの電子通過部5の剥れがより発生しにくくなる。」(【0039】)と記載されている。そして、剥がれ防止層に発生する圧縮応力が大きくなって多結晶シリコン層に発生する圧縮応力が小さくなり、下部電極からの電子通過部5の剥れがより発生しにくくなるという効果は、前記本願の発明の詳細な説明によれば、剥がれ防止層の成膜温度が高いほど剥がれ防止層に発生する圧縮応力が大きくなることに起因するものであり、剥がれ防止層を半導体層の成膜温度と同じ温度以上の温度で成膜する場合と、半導体層の成膜温度よりも低い温度で成膜する場合とで、剥がれ防止層に発生する圧縮応力に、単なる温度の高低に伴う圧縮応力の変化を超える顕著な変化が発生するものではない。このことは、当審が「半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度」であることの技術的意義の説明を請求人に求めた際の、請求人の技術説明(平成21年1月20日付けFAX送信票)において、「成膜温度が高い方が有利」になるという単なる温度の高低に伴う圧縮応力の変化を超える技術的意義の説明がないことによっても裏付けられる事項である。よって、剥がれ防止層の成膜温度が「半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度」であることに顕著な技術的意義はなく、焼成における高い成膜温度で成膜する周知技術を引用発明に適用することにより、相違点に係る本願補正発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得る設計的事項である。 よって、上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。 したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.まとめ 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第三 本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至5に係る発明は、前記補正1によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。 「絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなり、剥れ防止層となる薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されてなることを特徴とする電界放射型電子源。」(以下、「本願発明」という。) 1.引用例記載の事項・発明 原査定の拒絶の理由に引用された引用発明・事項は、前記「第二2.引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。 2.対比・判断 本願発明は、前記「第二1.補正の内容」で検討した本願補正発明から、「剥れ防止層となる薄膜」について、「圧縮応力が付加されてなり半導体層に発生する圧縮応力を緩和する応力緩和層として機能する」との発明特定事項を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第二4.判断」に記載したとおり引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、「前記第二4.判断」で示したものと同様の理由により、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-01-26 |
結審通知日 | 2009-01-27 |
審決日 | 2009-02-12 |
出願番号 | 特願2002-373192(P2002-373192) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01J)
P 1 8・ 121- Z (H01J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 堀部 修平 |
特許庁審判長 |
飯野 茂 |
特許庁審判官 |
南 宏輔 下中 義之 |
発明の名称 | 電界放射型電子源 |
代理人 | 森 厚夫 |
代理人 | 西川 惠清 |