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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K
管理番号 1195130
審判番号 不服2006-18621  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-24 
確定日 2009-04-02 
事件の表示 特願2002-324238「多層配線板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年6月3日出願公開、特開2004-158713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯

本願は、平成14年11月7日の出願であって、平成18年3月15日付で拒絶理由通知がなされ、平成18年5月26日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成18年7月19日付で拒絶査定がなされた。これに対し、平成18年8月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付で手続補正書が提出された。その後、平成20年11月7日付で平成18年8月24日付の手続補正は却下されるとともに拒絶理由通知がなされ、平成21年1月13日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


II.平成21年1月13日付の手続補正について

<結論>
平成21年1月13日付の手続補正を却下する。

<理由>

1.補正後の本願発明

本件補正は、平成18年5月26日付手続補正書により補正された特許請求の範囲を、本件手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1?2のとおりにすることを含む補正であるところ、本件補正により、特許請求の範囲は次のとおりに補正された。

「 【請求項1】 複数の絶縁層と、複数の導体層と、前記複数の導体層を電気的に接続する導体化された穴と、少なくとも1層の前記絶縁層の比誘電率が25℃、1MHzにおいて20?100の高誘電率材料からなり、該絶縁層の上下面に電極を形成してなるコンデンサと、を有する多層配線板の製造方法であって、前記高誘電率材料として絶縁樹脂および高誘電率充填材を含む樹脂組成物を用い、前記コンデンサを形成する前記絶縁層を半硬化状態の高誘電率シートを加熱積層することにより形成し、前記電極の少なくとも片側を厚み1?18μmの金属箔の不要部分をエッチング除去することにより形成し、かつ前記1?18μmの厚さの金属箔の電極を含む導体パターンの形成時に、感光性レジストのパターン露光面積を1?250cm^(2)/回として、無機物からなるフォトマスクを用いて同一基板内に複数回露光することを特徴とする多層配線板の製造方法。
【請求項2】 無機物からなるフォトマスクがソーダガラスを基材とするフォトマスクであることを特徴とする請求項1に記載の多層配線板の製造方法。」

上記補正は、
(ア)補正前の請求項1?7、9、11を削除し、
(イ)補正前の請求項8における「絶縁層の上下面に電極を形成してなるコンデンサ」について、「コンデンサを形成する前記絶縁層を半硬化状態の高誘電率シートを加熱積層することにより形成し」と、コンデンサを形成する絶縁層の積層方法について限定し、「電極」について、「金属箔の不要部分をエッチング除去することにより形成し」と電極の形成方法について限定し、「感光性レジストのパターン露光」について、「無機物からなるフォトマスクを用いて」と、パターン露光の方法についてそれぞれ限定するとともに、補正前の請求項10における「無機物からなるフォトマスク」について、「ソーダガラスを基材とするフォトマスク」とフォトマスクの材質について限定し、
(ウ)補正前の請求項8における「電気的に接続する導体化されたと」を「電気的に接続する導体化された穴と」と、「導体化された」部分を「穴」とするものであり、
それぞれ、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同様による改正前の特許法第17条の2第4項1号に規定する請求項の削除、改正前の特許法第17条の2第4項2号に規定する特許請求の範囲の減縮、改正前の特許法第17条の2第4項3号に規定する誤記の訂正を目的とする補正に該当する。

次に、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかについて以下に検討する。


2.引用例とその記載事項

平成20年11月7日付で通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-68858号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平10-93246号公報(以下、「引用例2」という。)、特開平9-148746号公報(以下、「引用例3」という。)、特開平10-190241号公報(以下、「引用例4」という。)、特開平6-85462号公報(以下、「引用例5」という。)、特開2002-169264号公報(以下、「引用例6」という。)には、次の事項が記載されている。

(1)引用例1:特開2001-68858号公報
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 配線パターンが形成された導体層が樹脂層を介して多層に形成され、前記配線パターン間が前記樹脂層を貫通するビア・ホールによって電気的に接続されている多層配線基板において、
電源用の配線パターンとグランド用の配線パターンとの間に挟まれている部分の樹脂層が、厚さが10μm以下で、且つ誘電率が20以上の無機フィラーが配合された有機樹脂からなる高誘電体層であると共に、信号用の配線パターンと前記電源用の配線パターン又はグランド用の配線パターンとの間に挟まれている部分の樹脂層、及び信号用の配線パターン間に挟まれている部分の樹脂層が、厚さが10μmよりも厚く、且つ前記高誘電体層よりも低い誘電率を有する有機樹脂からなる低誘電体層であることを特徴とする多層配線基板。」(1欄1?15行)

(1b)「本発明に係る多層配線基板によれば、電源用の配線パターンが形成された導体層とグランド用の配線パターンが形成された導体層との間に高誘電体層(コンデンサ部の誘電体層)が設けられているので、デカップリング効果を奏することができる。この場合、高誘電体層は、比較的高い誘電率(一般に誘電体と呼ばれている物質の誘電率は3?4程度であるのに対し、本発明の場合には20以上)をもって、比較的薄く(10μm以下)形成されているので、コンデンサ部のキャパシタンスを相対的に大きくすることができ、デカップリング効果をより一層高めることが可能となる。」(5欄1?11行)

(1c)「誘電率が20以上の無機フィラー(誘電材)としては、・・・好適にはペロブスカイト型構造のセラミック粉末が用いられる。具体例としては、BaTiO_(3)、PZT、SrTiO_(3)等を挙げることができる。・・・また、コンデンサ部の高誘電体層23に含まれる有機樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル(PPE)、イミド構造を有する樹脂、フルオレン構造を有する樹脂等を好適に用いることができる。低誘電体層(絶縁層16,26,28,30)を構成する有機樹脂についても、同様の樹脂を好適に用いることができる。」(6欄34?50行)

(1d)「次の工程では(図3(d)参照)、・・・Cuの電解めっきにより、厚さ10μm程度にCu層を形成した後、図2(b)の工程で行った処理と同様にして、フォトリソグラフィによりパターニングされた導体層22を形成する。この導体層22は、部分的にパッド22aを構成すると共に、コンデンサ部の高誘電体層23を挟む一方の電極となる電源用の配線パターン22bを構成する。」(9欄17?26行)

(1e)「次の工程では(図4(a)参照)、電源用の配線パターン22b上に、コンデンサ部の高誘電体層23を厚さ5μm程度に形成する。具体的な方法としては、誘電率が20以上の無機フィラーを含んだ樹脂ペーストをスクリーン印刷により塗布するか、或いは、誘電率が20以上の無機フィラーを含んだ感光性の樹脂ペースト又は樹脂フィルム(半硬化状態のもの)を「ベタ」状に塗布し又は積層した後、露光及び現像により樹脂層をパターニングする。」(9欄27?35行)

(1f)「次の工程では(図4(c)参照)、高誘電体層23及び絶縁層24の上に、・・・Cuの電解めっきにより、厚さ10μm程度にCu層を形成し、更に図2(b)の工程で行った処理と同様にして、フォトリソグラフィによりパターニングされた導体層25を形成する。この導体層25は、部分的にパッド25aを構成すると共に、コンデンサ部の高誘電体層23を挟む他方の電極となるグランド用の配線パターン25bを構成する。」(9欄43行?10欄2行)

(1g)「本実施形態に係るビルドアップ多層配線基板及びその製造方法によれば、電源用の配線パターン22bが形成された導体層22とグランド用の配線パターン25bが形成された導体層25との間に高誘電体層23が設けられ、この高誘電体層23を、20以上の高い誘電率をもって、5μm程度に薄く形成している」(11欄30?36行)

(2)引用例2:特開平10-93246号公報
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】基板と、該基板の少なくとも一主面上に被着され、複数の有機樹脂絶縁層と複数の薄膜配線導体とを交互に多層に配設するとともに上下に位置する薄膜配線導体を各有機樹脂絶縁層に設けたスルーホール導体を介して接続して成る多層配線部と、前記有機樹脂絶縁層の少なくとも一層に比誘電率が20以上の誘電物フィラーを含有させて高誘電率有機樹脂絶縁層となすととも該高誘電率有機樹脂絶縁層をその上下両面に配設されている薄膜配線導体の一部で対向挟持させることによって形成され、前記薄膜配線導体間に電気的に接続されている容量素子とから成る多層配線基板であって、前記高誘電率有機樹脂絶縁層の上面側に配設されている薄膜配線導体は間にニッケル層を介して高誘電率有機樹脂絶縁層の上面に接合され、且つ高誘電率有機樹脂絶縁層の下面側に配設されている薄膜配線導体はその表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)で0.05μm≦Ra≦5μmとして高誘電率有機樹脂絶縁層の下面に直接接合されていることを特徴とする多層配線基板。」(1欄1?19行)

(2b)「また前記有機樹脂絶縁層3bに含有される誘電物フィラーはその比誘電率が20(室温1MHz)未満となると有機樹脂絶縁層3bの比誘電率が小さくなって容量素子Aの静電容量値が実用に供しない小さな値となってしまう。従って、前記有機樹脂絶縁層3bに含有される誘電物フィラーはその比誘電率が20(室温1MHz)以上のものに特定され、チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム等の比誘電率が高い材料が好適に使用される。」(8欄14?23行)

(3)引用例3:特開平9-148746号公報
(3a)「得られたコンデンサに対して・・・25℃における比誘電率を計算した。」(14欄14?20行)

(4)引用例4:特開平10-190241号公報
(4a)「特許請求の範囲】
【請求項1】 無機フィラー含有樹脂から成る絶縁層に金属配線回路を配設した配線層を積層して成る多層配線基板において、前記絶縁層の少なくとも一層が、金属フィラーを含有する高誘電率絶縁層から構成されていることを特徴とする多層配線基板。」(1欄1?6行)

(4b)「【発明の実施の態様】本発明の多層配線基板において、絶縁層の形成に用いられる樹脂としては、通常、熱硬化性樹脂、或いは、高融点の耐熱性熱可塑性樹脂、又は、これらの樹脂から成る組成物等が用いられる。
【0013】熱硬化性樹脂としては、絶縁材料としての電気的特性、耐熱性、及び機械強度を有する熱硬化性樹脂であれば特に限定されるものではなく、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、等が使用できる。」(3欄2?13行)

(4c)「一方、上記樹脂に金属フィラーを添加混合して上記と同様にして高誘電率絶縁層形成用スラリーを調製する。これらのスラリーの粘度は、用いる成形方法により変動するが、通常100乃至3000ポイズに調整される。そして、このスラリーを用いて、ドクターブレード法、圧延法、押出法、射出成形法などの方法によりシート状に成形した後、望ましくは、このシートを半硬化状にする。」(5欄12?19行)

(4d)「半硬化状にするには、例えば、樹脂が熱可塑性の場合には、溶剤等が極少量残存した状態に加熱途中で冷却し、熱硬化性樹脂の場合には、完全硬化(固化)する温度よりもやや低温で加熱する等の方法による。このようにして、絶縁層および高誘電率絶縁層を形成する。」(5欄20?25行)

(4e)「配線回路の形成には、例えば、上記金属の金属箔を絶縁層に接着剤により貼り付けた後に、回路パターンのレジストを形成し、酸等によって不要部分の金属箔層をエッチング除去するか、予め打ち抜きした金属箔を貼り付ける方法、又は、絶縁層の表面に導体ペーストを施し、回路パターンをスクリーン印刷、グラビヤ印刷、フォトレジスト等によって形成させ、それを乾燥後、加圧して絶縁層に密着させる方法、更に、無電解メッキや蒸着等による方法を例示できる。」(5欄31行?6欄1行)

(4f)「次に、このようにして配線回路パターンが形成された絶縁層に対して、所望によりスルーホールやバイアホールなどを打ち抜き法或いはレーザーフォト加工により形成して金属ペーストを充填する。または内壁にメッキした後、配線回路パターンが形成された、少なくとも一層が金属フィラーを含む高誘電率絶縁層である絶縁層を積層圧着した後、180乃至250℃の温度で加熱して樹脂を完全硬化させ多層配線基板を作製する。」(6欄2?9行)

(5)引用例5:特開平6-85462号公報
(5a)「形成されるべき表面電極導体パターンよりも小さいマスクを用い、ある箇所で露光した後に、該マスクを移動し、再度露光する手順を繰り返すことにより・・・該表面電極導体パターンを形成する」(1欄5?9行)

(5b)「これにより、セラミック多層基板の焼成による収縮率の変動を原因とする位置合わせのずれを、数分の1に抑えることができる。」(2欄37?39行)

(6)引用例6:特開2002-169264号公報
(6a)「ガラスを支持体とするフォトマスクは、フィルムを支持体とするフォトマスクに比べてプリント配線板の露光作業工程中の寸法変化を著しく改善し、高精度な原稿の露光を可能とする」(1欄36?39行)


3.引用例1に記載された発明

上記摘記(1c)によれば、引用例1の高誘電体層及び低誘電体層には同じ有機樹脂を用いることが可能であって、低誘電体層は絶縁層となっていることがわかる。
そして、摘記(1a)によれば、高誘電体層には誘電率が20以上の無機フィラーを配合するものであるが、摘記(1b)には高誘電体層それ自体が20以上の誘電率を有することが記載されていることから、高誘電体層は、低誘電体層(絶縁層)を形成する樹脂に誘電率の高いフィラーを配合することによって誘電率20以上とされているものであることがわかる。
また、摘記(1e)によれば、高誘電体層を形成する際に、半硬化状態のフィルムを積層する方法が採用できることがわかる。

以上の事項を考慮して、摘記(1a)?(1g)の記載事項を整理すると、引用例1には、次の「多層配線板の製造方法」についての発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数の絶縁層と、複数の導体層と、前記複数の導体層を電気的に接続するビア・ホールと、少なくとも1層は誘電率が20以上の高誘電体層からなり、該高誘電体層の上下面に電極を形成してなるコンデンサと、を有する多層配線板の製造方法であって、前記高誘電体層として、絶縁層を構成する樹脂に誘電率が20以上の無機フィラーが配合されたものを用いるとともに半硬化状態であるフィルムを積層して形成し、さらに、対向する前記電極を電解メッキにより形成してフォトリソグラフィによりパターニングし、かつその厚みを10μmとする多層配線板の製造方法。」


4.対比・判断

引用例1発明における「ビア・ホール」、「高誘電体層」、「無機フィラー」、「フィルム」はそれぞれ本願補正発明1における「導体化された穴」、「高誘電率材料」、「高誘電率充填材」、「シート」にそれぞれ相当する。
また、引用例1発明における「高誘電体層」は、絶縁層を構成する樹脂に無機フィラーを配合するものであるから、「樹脂組成物」であるともいえる。
さらに、摘記(1c)にあるように、引用例1における誘電率が20以上の無機フィラー(本願発明1の「高誘電率充填材」に相当するので、以下、「高誘電率充填材」という。)としては、チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウムが挙げられているが、これらの高誘電率充填材は、本願発明の詳細な説明の段落【0022】でも挙げられているものであり、加えて、引用例2の摘記(2b)のチタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウムが室温、1MHzでの比誘電率が20以上であると記載や、引用例3の摘記(3a)にあるように25℃で比誘電率を規定していることをふまえれば、引用例1発明における、「誘電率」は実質的に「25℃、1MHzでの比誘電率」であるといえる。

以上によれば、両者は、
「複数の絶縁層と、複数の導体層と、前記複数の導体層を電気的に接続する導体化された穴と、少なくとも1層の前記絶縁層の比誘電率が25℃、1MHzにおいて20以上の高誘電率材料からなり、該絶縁層の上下面に電極を形成してなるコンデンサと、を有する多層配線板の製造方法であって、前記高誘電率材料として、絶縁樹脂および高誘電率充填材を含む樹脂組成物を用い、前記コンデンサを形成する前記絶縁層を半硬化状態の高誘電率シートを積層することにより形成し、前記電極の少なくとも片側の厚みが10μmである多層配線板の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本願補正発明1では、高誘電率材料の比誘電率の上限が100であるのに対し、引用例1発明は、上限についての記載がない点。
<相違点2>
本願補正発明1では、半硬化状態の高誘電率シートを加熱積層するものであるのに対し、引用例1発明は、積層時に加熱しているか否か不明である点。
<相違点3>
本願補正発明1では、電極を金属箔の不要部分をエッチング除去することにより形成するものであるのに対し、引用例1発明は、電極を電解めっきにより形成するものである点。
<相違点4>
本願補正発明1では、電極を含む導体パターンの形成時に、感光性レジストのパターン露光面積を1?250cm^(2)/回として無機物からなるフォトマスクを用いて同一基盤内に複数回露光するものであるのに対し、引用例1発明にはパターン形成についての具体的な記載がない点。

以下、上記相違点について検討する。

<相違点1について>
コンデンサの容量は、高誘電率材料の比誘電率や厚さ等によって決まるものであり、本願においても比誘電率については「特に比誘電率が50以上のものを用いることが好ましい。」(段落【0022】)程度の記載がなされているだけであって、比誘電率を「25℃、1MHzにおいて20?100」と定めた具体的な根拠も記載されていないことからすれば、比誘電率は必要とされるコンデンサの容量に応じて当業者が適宜決定し得るものであるというべきものである。

<相違点2について>
摘記(4a)?(4d)の記載によれば、絶縁層及び高誘電率絶縁層(本願発明1の「高誘電率材料」に相当する。)は、シート状に成形され、半硬化状にして形成されることがわかり、さらに摘記(4f)には、回路パターンが形成された、少なくとも一層が高誘電率絶縁層である絶縁層を積層圧着した後加熱することが記載されている。
また、これ以外にも、多層配線板の製造方法において、コンデンサを形成する絶縁層を、半硬化状態の高誘電率シートを加熱積層することにより形成することは、例えば次のとおり周知である。

周知例:特開2000-277922号公報
「【請求項3】 少なくとも誘電体フィラーと熱硬化性樹脂とを含む誘電体樹脂からなる誘電体層を1層以上有する多層プリント配線板の製造方法であって、少なくとも以下の(a)?(g)の工程を有することを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
(a)支持体上に上記誘電体樹脂を塗布する工程。
(b)上記誘電体樹脂を支持体とともに半硬化して、Bステージ状にする工程。
(c)上記Bステージ状の誘電体層の表面近傍に形成された上記誘電体フィラーを含まないか、上記誘電体フィラーの含有量がその厚み方向中心部における含有量より少ない皮膜層を除去して、上記誘電体フィラーの少なくとも一部を露出させる第1露出面形成工程。
(d)上記誘電体層の第1露出面を、回路形成したプリント配線板の回路形成面に対向させて配置し、加圧加熱して一体化する積層工程。
(e)上記支持体を除去する工程。
(f)上記誘電体層の表面近傍に形成された上記誘電体フィラーを含まないか、上記誘電体フィラーの含有量がその厚み方向中心部における含有量より少ない皮膜層を除去して、上記誘電体フィラーの少なくとも一部を露出させる第2露出面形成工程。
(g)上記誘電体層の第2露出面上に金属層を形成する金属層形成工程。」(1欄34行?2欄7行

そして、積層の方法は、公知の方法の中から当業者が適宜選択することからすれば、引用例1発明における高誘電率シートの積層の方法として加熱積層を採用することは、当業者であれば適宜なし得たことというべきである。

<相違点3について>
摘記(4e)にあるように、多層配線板の回路の形成には、金属箔を絶縁層に接着剤により貼り付けた後に、回路パターンのレジストを形成し、酸等によって不要部分の金属箔層をエッチング除去するか、予め打ち抜きした金属箔を貼り付ける方法、又は、絶縁層の表面に導体ペーストを施し、回路パターンをスクリーン印刷、グラビヤ印刷、フォトレジスト等によって形成させ、それを乾燥後、加圧して絶縁層に密着させる方法、更に、無電解メッキや蒸着等の方法を適宜選択し得るものであるから、引用例1発明において電極を形成する手段としての電解めっきに替えて、金属箔を用い不要部分をエッチング除去することは、当業者であれば容易になし得たものというべきである。

<相違点4について>
摘記(5a)、(5b)によれば、基板の収縮による位置ずれを低減させるために、露光箇所を分割し、複数回に分けて露光を行うことが記載されている。
また、摘記(6a)によれば、ガラスを支持体とするフォトマスクは寸法変化が少なく、高精度な露光が可能であることが記載されており、ガラスは無機物といえる。
そして、回路パターン形成手法は上記「<相違点3について>」で述べたように、当業者が適宜選択し得るものであって、どのような手法を選択した場合であっても、位置ずれの低減は当然要求される事であるから、金属箔の不要部分をエッチングにより除去して導体パターンの形成をする際に、レジストの露光箇所を分割し、複数回に分けて露光を行うことや、無機物のフォトマスクを用いることは、当業者であれば適宜なし得ることというべきである。
さらに、露光箇所を分割し、複数回に分けて露光を行う際、どの程度の分割を行うかは、求められる精度や生産性を考慮して最適化し得る程度のことというべきところ、本願の発明の詳細な説明の、「本発明の多層配線板を製造する方法について、導体パターン形成時、感光性レジストのパターン露光面積を1?250cm^(2)/回として、同一基板内に複数回露光する。・・・1回の露光面積を1cm^(2)未満とすると露光回数が増加し、製造タクトが長くなってコストが増加する。一方、1回の露光面積が250cm^(2)を超えるとパターンの位置ずれ低減が困難となる。」(段落【0030】)との記載からみて、パターン露光面積を1?250cm^(2)/回とすることは、位置ずれ低減や製造タクトの観点から広範に定められているものであって、臨界的意義を有するものとはいえないものであるから、感光性レジストのパターン露光面積を1?250cm^(2)/回とすることは、当業者であれば適宜設定できた事項というべきである。

そして、本願補正発明1は、引用例1?6の記載及び上記周知の事項から予測できないような格別に顕著な効果を奏するとは認められない。

したがって、本願補正発明1は、引用例1?6に記載された発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、補正後の本願請求項2について検討するまでもなく、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III.本願発明について

1.本願発明

平成21年1月13日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成18年5月26日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち、請求項8に係る発明(以下、「本願発明8」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項8】 複数の絶縁層と、複数の導体層と、前記複数の導体層を電気的に接続する導体化されたと〔当審注:「導体化された穴と」の誤記〕、少なくとも1層の前記絶縁層の比誘電率が25℃、1MHzにおいて20?100の高誘電率材料からなり、該絶縁層の上下面に電極を形成してなるコンデンサと、を有する多層配線板の製造方法であって、前記高誘電率材料として絶縁樹脂および高誘電率充填材を含む樹脂組成物を用い、前記電極の少なくとも片側の厚みを1?18μmの範囲とし、かつ導体パターン形成時、感光性レジストのパターン露光面積を1?250cm^(2)/回として、同一基板内に複数回露光することを特徴とする多層配線板の製造方法。」


2.引用例とその記載事項

平成20年11月7日付で通知した拒絶の理由に引用した刊行物及びその記載事項は、上記「II.2.引用例とその記載事項」欄に記載したとおりである。


3.対比・判断

本願発明8は、本願補正発明1における、「コンデンサを形成する前記絶縁層を半硬化状態の高誘電率シートを加熱積層することにより形成し」との限定を省くとともに、「電極」について、「金属箔の不要部分をエッチング除去することにより形成し」と電極の形成方法についての限定を省き、「感光性レジストのパターン露光」について、「無機物からなるフォトマスクを用いて」との限定が省かれたものである。

そうすると、本願発明8を特定するために必要と認める事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明1は、上記「II.4.対比・判断」に記載したとおり、引用例1?6に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明8についても、同様の理由により、引用例1?6に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび

以上のとおりであるから、本願発明8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-29 
結審通知日 2009-02-03 
審決日 2009-02-18 
出願番号 特願2002-324238(P2002-324238)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長屋 陽二郎  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 市川 裕司
諸岡 健一
発明の名称 多層配線板およびその製造方法  
代理人 三好 秀和  

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