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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1195265
審判番号 不服2006-21037  
総通号数 113 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-09-21 
確定日 2009-04-01 
事件の表示 特願2005- 54445「そしゃく困難者用イカ刺身の製造方法およびイカ刺身」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月14日出願公開、特開2006-238709〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年2月28日の出願であって、特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとするものであり、平成18年4月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成18年6月27日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成18年8月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年9月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年10月23日付けで手続補正がなされ、平成20年6月30日付けで審尋が通知され、平成20年8月29日に回答書が提出されたものである。

2.平成18年10月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成18年10月23日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
平成18年10月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「剥皮したイカ外套膜(胴肉)の表皮側から複数の切れ目を入れる切れ目入れ工程と、切れ目の入れられたイカ外套膜を切り出して刺身に加工する切り出し工程とを備えてなるそしゃく困難者用短冊形イカ刺身の製造方法であって、該切れ目入れ工程は、剥皮したイカ外套膜に表皮側から体軸方向と同一方向もしくは斜め方向に1?2mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目か、または目合い1?2mmで深さ1?2mmの鹿の子状もしくは格子状の切れ目を入れることによって、通常の剥皮工程では除去できない表皮第4層を切断するものであり、また、該切り出し工程は、体軸方向と略直角方向に短冊形にイカ刺身を切り出すものであることにより、かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下の短冊形イカ刺身を得られることを特徴とする、そしゃく困難者用短冊形イカ刺身の製造方法。」を、
「剥皮したイカ外套膜(胴肉)の表皮側から複数の切れ目を入れる切れ目入れ工程と、切れ目の入れられたイカ外套膜を切り出して刺身に加工する切り出し工程とを備えてなるそしゃく困難者用短冊形イカ刺身の製造方法であって、該切れ目入れ工程は、剥皮したイカ外套膜に表皮側から体軸方向と同一方向もしくは斜め方向に1?2mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目を入れることによって、通常の剥皮工程では除去できない表皮第4層を切断するものであり、また、該切り出し工程は、体軸方向と略直角方向に短冊形にイカ刺身を切り出すものであることにより、かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下の短冊形イカ刺身を得られることを特徴とする、そしゃく困難者用短冊形イカ刺身の製造方法。」に、及び、同請求項2である、
「イカ外套膜から体軸方向と略直角方向に短冊形に切り出されており、表皮側から体軸方向と同一方向もしくは斜め方向に下記(A)、(B)いずれかの切れ目が入れられていて表皮第4層が切断されており、かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下であることを特徴とする、そしゃく困難者用短冊形イカ刺身。
(A)体軸方向と同一方向もしくは斜め方向の1?2mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目。
(B)目合い1?2mmで深さ1?2mmの鹿の子状または格子状の切れ目。」を
「イカ外套膜から体軸方向と略直角方向に短冊形に切り出されており、表皮側から体軸方向と同一方向もしくは斜め方向に1?2mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目が入れられていて表皮第4層が切断されており、かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下であることを特徴とする、そしゃく困難者用短冊形イカ刺身。」に補正することを含むものである。

上記請求項1に関する補正は、補正前の「または目合い1?2mmで深さ1?2mmの鹿の子状もしくは格子状の切れ目」という事項を削除したもの、また、請求項2に関する補正は、補正前の「下記(A)、(B)いずれかの切れ目」及び「(B)」の事項を削除し、「(A)」の事項のみに限定し記載を整理したものである。
上記補正は、願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に適合するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であって、発明を特定する事項である「切れ目」を限定するものであるから、同条第4項第2号に掲げられた特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明」といい、補正後の明細書を「本願補正明細書」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例の記載内容
引用例1:
原査定で引用された引用文献1である「特許第2962714号公報」(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1-a)「【請求項1】作業台上に俎板を設置するとともに俎板上を昇降動するガイド板を配設し、そのガイド板には該ガイド板上に跨るカッター支持体をガイド板に沿って水平状往復動可能に取り付け、ガイド板には前記支持体の移動方向に沿う多数のスリットが微小間隔をおいて並設され、カッター支持体には前記各スリットに挿着されてガイド板下に刃先が突出する多数のカッターナイフが取り付けられ、前記ガイド板が下降し俎板上の被加工物に当接した状態で、前記カッター支持体が往動してカッターナイフにより被加工物にその厚さに満たない切れ目を形成するイカの切り込み装置。
【請求項2】上記カッター支持体には外方に突出した支持ローラを一体的に設けるとともに、上記作業台には俎板の外方に案内路を配置して、カッター支持体の往動時に前記支持ローラが案内路に沿って移動するようにし、該案内路の所定区間には支持ローラの上動を規制する溝レールを設け、前記支持ローラの下面は前記カッターナイフの刃先より低位ならしめた請求項1記載のイカの切り込み装置。」(特許請求の範囲)
(1-b)「本発明はイカの切り込み装置、詳しくはイカを刺身用に調理する際に、切断するまでに至らない切れ目を形成する装置に関する。
従来、刺身イカに切れ目を入れることが行なわれているが、斯る刺身イカは盛り付け時の保形が容易であるとともに、するめイカのように硬めの肉身を噛みやすくする便益がある。しかるに上記従来の切れ目入れ作業は、調理人が包丁を用いて手作業により行なわれており、そのため営業用の刺身イカを調理する場合に量産性に劣るとともに、切れ目形成の均一性を確保することが困難であった。」(段落【0001】、【0002】)
(1-c)「本発明は斯る従来事情に鑑み、刺身イカの切れ目加工を自動化することにより量産化が可能であるとともに切れ目を微小ピッチかつ均一に形成可能とし、しかも品質及び食感性を良好に確保できる装置を簡易安価に提供することを目的とするものである。」(段落【0003】)
(1-d)「上記ガイド板10には、微少の間隔(例えば、1.5mm程度のピッチ)で左右方向へ延びる多数のスリット11,11……が上下に貫通状に穿孔され、そのスリット群の前後にそれぞれ間隔をおいてレール12,12が固定状に敷設されている。またガイド板10には、前記レール12,12間に跨り摺動可能な基台部13を搭載するとともに、この基台部13に後端を回動自在に連結したカッター支持体14を上下方向へ首振り可能(開閉可能)に配設する。」(段落【0010】)
(1-e)「上記作業により回収されたイカ30には、図9(1)に示すような切れ目30aが形成される。なお、上記作業の一サイクル後に、新たなイカを供給することに代えて、加工済みのイカを俎板2上で略90度回転させた後に前述したサイクルを完了させることにより、図9(2)に示すような切れ目30bを形成することができる。」(段落【0016】)
(1-f)「【図9】

」(図9。図9(1)には、「切り込み加工された被加工物の平面図」として、イカの体軸方向と斜め方向に直線状に切れ目(30a)が入れられたものが見て取れる。)

また、周知例として、以下に、引用例2?4を挙げる。
引用例2:厚生労働省が出した通達である「特別用途食品の表示許可について」(昭和48年12月26日衛発第781号;平成13年3月27日一部改正)
(2-a)「第6 高齢者用食品たる表示の許可基準について
・・・
2 食品群別許可基準
・・・

」(「第6」の項中の「表」。この「表」には、「食品群」の「種別」が「そしゃく困難者用食品」、「形状」が「固形物」である項には、「規格」として「堅さ(一定速度で圧縮したときの抵抗)(N/m^(2))」が、「5×10^(4)N/m^(2)以下」との記載がある。)

引用例3:特開平2-249447号公報
(3-a)「さらに、第1図で示されるように4層で構成されているイカ皮部のうち、表面に近い1、2層の皮は従来方法で剥離されるが、肉質部に近い3、4層の薄い皮(以後、薄皮とよぶ)は、剥離されずに残ることが多い。この残った丈夫な薄皮がイカの種類または鮮度によって、かみ切るのに容易ではないほど堅いために、特にムラサキイカの天プラを製造する際には、機械で物理的に剥離するのが一般的である。」(2頁左上欄14行?右上欄2行)

引用例4:森雅央著、「新編 日本食品事典」、1998年1月20日第1版第19刷、医歯薬出版株式会社発行、240頁右欄下?10行?242頁右欄38行、「いか(烏賊・・・)類」の項
(4-a)「いかの胴肉では、筋肉組織を束ねている結合組織がなく、細くて長い筋繊維が横に長く並列しており、そのため、縦には非常にさけにくいが、横には容易に細かくさける構造となり、さらに肉の表面には4層からなる皮がある。この皮の最も肉に近い第4層は、コラーゲン繊維が体軸の方向に縦に走っており、これが加熱により熱収縮するので、いかを加熱すると縦に丸まる現象がみられる。」(241頁右欄下5行?242頁左欄4行、「成分特性」の項)
(4-b)「成分特性でふれたように、いかは筋繊維が体軸と直角の方向(軸切りする時の方向)に走っている肉の上に、コラーゲン繊維が体軸の方向(頭から足を結ぶ方向)に走っている層を含む皮がある。そのため切り身を加熱すると体軸方向に収縮変形する。加熱調理ではこれを防ぐため皮をむいたり、斜めや縦、横の方向に切り目を入れておくことが多い。皮を第4層まで十分にむくには、1?2分熱湯にくぐらせるとよい。[加熱は短時間で]加熱が長いと変形が進むばかりでなく、身がしまって硬くなり、味付けもしにくい。切り目を入れることは味の浸透にも役立つ。布目、松笠などの切り方がある。」(242頁右欄19行?31行、「調理」の項)

(3)引用発明及び周知事項
上記摘示(1-b)によると、引用例1に係るイカの切り込み装置は、イカを刺身用に調理するために、切断するまでに至らない切れ目を形成するものであり、また、摘示(1-d)には、切り目の幅は、1.5mmであることが記載され、「図9(1)」には切れ目の入ったイカが記載され(摘示(1-f))、引用例1には、イカ刺身が記載されているといえ、イカ刺身は形態としては短冊形のものが普通であるから、引用例1には、
「イカの体軸と斜め方向に1.5mm幅で直線状の切り目が入れられている短冊形イカ刺身」
という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

また、引用例2?4に記載された内容から、次のことがわかる。
そしゃく困難者用食品について、引用例2の、「第6 高齢者用食品たる表示の許可基準について」の「2 食品群別許可基準」の表の記載によれば、「そしゃく困難者用食品」の「固形物」の形状のものは、堅さが、「5×10^(4)N/m^(2)以下」と規格されているから(摘示(2-a))、「そしゃく困難者用食品の固形物の堅さを5×10^(4)N/m^(2)以下とすること」は、当業者の周知に属する事項であるといえる。
イカについて、引用例3には、「肉質部に近い3、4層の薄い皮(以後、薄皮とよぶ)は、剥離されずに残ることが多い。この残った丈夫な薄皮がイカの種類または鮮度によって、かみ切るのに容易ではないほど堅い」(摘示(3-a))との記載があり、また、引用例4には、「この皮の最も肉に近い第4層は、コラーゲン繊維が体軸の方向に縦に走っており」(摘示(4-a))、「いかは筋繊維が体軸と直角の方向(軸切りする時の方向)に走っている肉の上に、コラーゲン繊維が体軸の方向(頭から足を結ぶ方向)に走っている層を含む皮がある」(摘示(4-b))と記載されていることからすると、「イカは、筋繊維が体軸と直角の方向に走り、表皮第4層はコラーゲン繊維が体軸の方向に縦に走っており、この表皮第4層はかみ切るのに困難である」ことは、当業者に周知といえる。
さらに、調理方法に関し、引用例1に「従来、刺身イカに切れ目を入れることが行なわれているが、斯る刺身イカは盛り付け時の保形が容易であるとともに、するめイカのように硬めの肉身を噛みやすくする便益がある。」(摘示(1-b))と記載されているように、「堅い食品素材に切れ目を入れて、食しやすくする」ことは、一般調理法として周知であるといえる。

(4)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「イカ外套膜から短冊形に切り出されており、体軸方向と斜め方向に1.5mm幅の直線状切れ目が入れられている短冊形イカ刺身」
で一致し、次の点で相違する。

(ア)イカ刺身として短冊状に切り出すのが、本願補正発明では、「体軸方向と略直角方向」であるのに対し、引用発明では特定されていない点
(イ)切れ目を入れるのが、本願補正発明では「表皮側」からであるのに対し、引用発明では特定されていない点
(ウ)切れ目の深さが、本願補正発明では「1?2mm」であるのに対し、引用発明では特定されていない点
(エ)本願補正発明は、「表皮第4層が切断されて」いるのに対し、引用発明ではそれが明らかでない点
(オ)本願補正発明は、「かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下であることを特徴とする、そしゃく困難者用」のイカ刺身であるのに対し、引用発明では、それが明らかでない点

(5)判断
相違点(オ)について
昨今の高齢化とともに、高齢者において、そしゃく困難者が増加し、そのためにそしゃく困難高齢者用の食品の開発が求められており、厚生労働省は、その食品の基準として、「特別用途食品の表示許可について」という通達(引用例2)を出したものであり、上記(3)に示したように、「そしゃく困難者用食品の固形物の堅さを5×10^(4)N/m^(2)以下とすること」は、当業者に周知といえる。
ところで、そしゃくが困難な高齢者といえども、若い時から慣れ親しんだ食品を食したいと思うのは当然のことであって、「イカ刺身」も食したい食品のひとつであることは明らかといえる。そうすると、イカ刺身をそしゃく困難者用に調製してみることは、当業者であれば容易に想到し得ることであり、しかも、その調製に際し、堅さについては、「5×10^(4)N/m^(2)以下」を目途にすることは当然のことである。
してみれば、引用発明において、「そしゃく困難者用」のものを調製すること、しかも、「かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下」のものにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。

相違点(イ)(ウ)(エ)について
イカの皮部は、4層からなり、そのうち、肉質部に近い特に第4層は、コラーゲン繊維からなり、この層は、かみ切るのに容易ではないほど堅いことは、上記(3)に示したように、周知に属する事項である。
そして、上記(3)に示したように、堅い食品素材に切れ目を入れて、食しやすくすることは、一般調理法として周知の技術であるから、かみ切るのに容易ではないほど堅いことの原因となっている皮部の第4層にまで、切り目を入れれば、上記相違点(オ)の箇所で検討した「かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下」の物性を有するイカ刺身に近づけることは、当業者であれば容易に気付くことである。そして、イカの皮部について処理するのであるから、表皮側から切れ目を入れるのは当然のことであり、また、切り目が、皮部の第4層に達するには、その深さが「1?2mm」にするべきことは、当業者が適宜決定し得る程度のことである。
そうすると、相違点(イ)(ウ)(エ)の事項、すなわち、引用発明において、「表皮側から深さ1?2mmの切れ目が入れられていて表皮第4層が切断」されるようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。

相違点(ア)について
イカにおいては、筋繊維が体軸と直角の方向に走り、これと直角方向、すなわち、体軸方向にコラーゲン繊維が走っており、これを含む表皮第4層が堅いことは上記(3)に示したように、当業者に周知といえる。
ところで、上記相違点(イ)?(オ)の箇所で検討したように、イカ刺身を「かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下」のものに近づけるために、「表皮側から体軸方向と斜め方向に1.5mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目が入れられていて表皮第4層が切断」するところ、この処理だけでは、イカ刺身の形態として普通である短冊状にはならないので、さらに切り出し工程が必要である。ここで、短冊状は、矩形であって、長辺と短辺を有するものであるところ、体軸方向には、すでに切り目が入れてあるから、体軸方向とは直角の方向に、短冊状の長辺になるように切り出し、さらにそしゃくし易いものとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

本願補正発明の効果について
本願補正発明に係る効果は、本願補正明細書によると、
「本発明のイカ刺身の製造方法およびイカ刺身は上述のように構成されるため、これによれば、イカ刺身としての食感が従来よりも充分に提供され、そしゃく困難高齢者用食品として適合する物性を持たせたイカ刺身を提供することができる。また、工業的に、安全かつ大量にイカ刺身を製造可能なイカ刺身加工機械、鹿の子切りの加工機械に適用することができる。」(段落【0010】)というものである。
しかるに、そしゃく困難高齢者用食品として固形物の形状のものは、堅さが「5×10^(4)N/m^(2)以下」にすることが周知であるから(必要ならば、引用例2を参照のこと。)、この堅さに調製したイカ刺身は、そしゃく困難高齢者用食品として適合していることは当然のことである。したがって、本願補正発明に係る効果は、引用例1に記載された事項、並びに周知事項から予測されるところを超えて優れているとはいえない。

(6)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、その余のことを検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成18年10月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成18年6月27日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、請求項2に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、下記のとおりである。

「イカ外套膜から体軸方向と略直角方向に短冊形に切り出されており、表皮側から体軸方向と同一方向もしくは斜め方向に下記(A)、(B)いずれかの切れ目が入れられていて表皮第4層が切断されており、かたさ5*10^(4)N/m^(2)以下、もしくは引っ張り荷重2N以下であることを特徴とする、そしゃく困難者用短冊形イカ刺身。
(A)体軸方向と同一方向もしくは斜め方向の1?2mm幅で深さ1?2mmの直線状の切れ目。
(B)目合い1?2mmで深さ1?2mmの鹿の子状または格子状の切れ目。」

(2)原査定の理由の概要
拒絶査定における拒絶理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物である引用文献1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものであって、引用文献1は次のものである。
引用文献1:特許第2962714号公報

(3)引用文献1に記載された事項
引用文献1は、上記「2.[理由](2)」に示した引用例1と同じであるから、引用文献1に記載された事項は、上記「2.[理由](2)」に記載したとおりである。

(4)引用発明
引用発明は、上記「2.[理由](3)」に記載したとおりである。

(5)対比・判断
本願発明は、本願補正発明に、選択的事項として、「(B)目合い1?2mmで深さ1?2mmの鹿の子状または格子状の切れ目。」が加わったものに実質的に相当するから、本願発明は本願補正発明を包含するものである。
そうすると、本願補正発明が、前記「2.[理由](6)」に記載したとおり、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これを包含する本願発明も、同様の理由により、本願出願前に頒布された刊行物である引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(6)むすび
以上のとおりであるから、その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-02-03 
結審通知日 2009-02-04 
審決日 2009-02-18 
出願番号 特願2005-54445(P2005-54445)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 騎見高小石 真弓  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 坂崎 恵美子
鈴木 紀子
発明の名称 そしゃく困難者用イカ刺身の製造方法およびイカ刺身  
代理人 富沢 知成  

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