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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F24F
管理番号 1196821
審判番号 不服2006-26217  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-21 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2002-228466「空気調和機」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月 4日出願公開、特開2004- 69161〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年8月6日の出願であって、拒絶の理由が通知され、平成18年8月8日付で手続補正がされたものの、平成18年10月13日付で拒絶査定(発送日:平成18年10月31日)がなされ、これに対し、平成18年11月21日に拒絶査定不服審判が請求がされ、平成20年12月9日付で最後の拒絶の理由(発送日:平成20年12月16日)が通知され、平成21年2月16日付で手続補正がなされたものである。


2.平成21年2月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年2月16日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の適否
本件補正前の平成18年8月8日付手続補正書に記載された特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】 少なくとも熱交換器およびファンを内設してなる空気調和機において、空気調和機室外機の外郭部材であって、圧縮機が設置され前記熱交換器から発生するドレン水に触れるベースと、前記ベースを凹形状にする前記ベースの外周に設けたフランジと、冷媒配管や電気配線の必要に応じてノックアウト加工される前記ベースに設けられたノックアウト加工部と、を備え、前記ベースを、ドレン水に触れる前記ノックアウト加工された切断面に前記ベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護皮膜を形成させるように高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき鋼板を用いて形成したことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】 少なくとも熱交換器およびファンを内設してなる空気調和機において、空気調和機室外機の溶接部分を有した外郭部材であって、圧縮機が設置され前記熱交換器から発生するドレン水に触れるベースと、前記ベースを凹形状にする前記ベースの外周に設けたフランジと、前記ベースのドレン水を機外へ放出する前記ベースに設けられたドレン穴と、前記空気調和機室外機を据付固定する前記ベースの下面に取り付けられたレグと、を備え、前記ベースを、ドレン水に触れる前記ドレン穴の切断面に前記ベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護皮膜を形成させるように高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき鋼板を用いて形成したことを特徴とする空気調和機。
【請求項3】 空気調和機室内機のドレン水に触れる板金部品に、高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき鋼板を用いたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空気調和機。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】 少なくとも熱交換器およびファンを内設してなる空気調和機において、空気調和機室外機は、前記熱交換器と前記ファンを有する送風室と、冷凍サイクルを構成する部品が配置される機械室と、溶接部分を有した外郭部材であって、圧縮機が設置され前記熱交換器から発生するドレン水や外部から侵入する雨水などに触れるベースと、前記ベースを凹形状にする前記ベースの外周に設けたフランジと、前記ベースのドレン水を機外へ放出する前記ベースに設けられたドレン穴と、前記空気調和機室外機を据付固定する前記ベースの下面に取り付けられたレグと、を備え、前記ベースを、ドレン水や外部から侵入する雨水などに触れる前記ドレン穴の切断面に前記ベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護被膜を形成させるように高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき鋼板を用いて形成したことを特徴とする空気調和機。」

これは、審判請求人が意見書で主張するように、本件補正後の請求項1は本件補正前の請求項2に基づくものである。

そこで、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
本件補正前の請求項2に係る空気調和機は、「ドレン水に触れるベース」、「ドレン水に触れる前記ドレン穴の切断面」と、空気調和機室外機のベース、切断面が、ドレン水には触れてはいたが、外部から侵入する雨水には触れていなかったものが、本件補正後の請求項1に係る空気調和機は、「ドレン水や外部から侵入する雨水などに触れるベース」、「ドレン水や外部から侵入する雨水などに触れる前記ドレン穴の切断面」と、空気調和機室外機のベース、切断面が、ドレン水と外部から侵入する雨水などに触れている。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正後の請求項1は、空気調和機室外機のベース、切断面が触れるものが、ドレン水に加えて外部から侵入する雨水も含まれているから、本件補正後の請求項1の記載により特定される発明は、本件補正前の請求項2の記載により特定される発明よりも限定されたものとはなっていないので、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
この点に関し、審判請求書第7頁には、「そもそも、引用文献4は、?とあるように、主に雨水による防食を目的としたものであり、空気調和機室外機のドレン水を示唆するものは何も記述されておらず、」との記載、及び「引用文献4の金属性鋼材では、雨水によりZn、Al、Mgの各成分がめっき層から鋼板の切断面に流れることで、Mgを含むZn系の緻密な保護被膜と、Mgを含むZn-Al系の緻密な保護被膜との二重構造の高耐食めっき層が切断面を被覆する犠牲防食作用が得られるという記載も、上述した課題が把握できない以上は、空気調和機室外機で特徴的なドレン水と、それが触れるノックアウト加工された切断面との関係から、特に、切断面にベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護皮膜を形成させるようにベースを構成した」との記載があることから、本件補正により雨水を排除していることは明らかである。
また、本件補正後の請求項1についての補正は請求項の削除とは認められず、本件補正前の請求項2に誤記も明りょうでない記載も認められないので、本件補正後の請求項1についての補正は、誤記の訂正とも、明りょうでない記載の釈明とも認められない。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された特開平10-96537号公報(以下「引用例1」という)には、

a「空調装置の機械部品や電気部品を収納する収納箱と、前記収納箱の少なくとも一部を形成する鋼板を、絞りを含むプレス成形加工を施してから溶接またはネジ止めを含む接合手段により接合組立てされる外郭と、を備え、前記鋼板は所定膜厚の有機系トップコートを施した高耐食性合金メッキ鋼板で有ることを特徴とする空調用機器の箱体。」(【請求項1】)、
b「従来の空調用室外機の外箱体のように、室外におかれた場合日射や雨水による悪い環境に耐えられるよう図8に示すように素材に合金化溶融亜鉛メッキ鋼板等を用いて、ローラ塗りやシャワーリングによるオイリングST4a、絞りなどのプレス成形加工ST4b、溶接ST4c、洗浄ST4d、塗装ST4eの工程で製造されていた。」(【0002】)、
c「実施の形態1. 図1はこの発明の実施の形態1である空調用室外機の外箱体を示すものである。1は底板で、絞り成形加工された絞り加工部1a、1本につき3カ所スポット溶接された2本の脚部1bと圧縮機を固定するためにプロジェクション溶接された3本のスタッドボルト1cで構成されている。2はフロントパネル、3はバックパネル、4はトップパネルでそれぞれ別にプレス加工された後、各パネル1,2,3,4 間で互いにネジ締結されている。このパネルで構成された箱体の中にファン5、モータ支え6、熱交換器7、冷媒配管8、圧縮機9、仕切り板10などの機械部品やこれらの機械部品を制御する電気部品が収納されて空調機の室外機を構成している。」(【0016】)、
d「まず、板厚0.8mm、板巾335mm、板長770mmで図2に示す仕様の高耐食性合金メッキ鋼板に、絞り、縁きりであるトリミング、再プレスであるリストライク、穴あけであるピアスの4工程からなるプレス加工を施して図1の絞り加工部1aを有する底板1を製造した。」(【0018】)、
e「外周にフランジを設け凹形状の底板。」(図1)が記載されている。

上記cにおける仕切り板の配置を検討すると、仕切り板は、箱体の中の熱交換器及びファンと、箱体の中の冷凍配管及び圧縮機との間に、図1を参照すると配置されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「少なくとも熱交換器およびファンを収納してなる空調機において、空調機の室外機は、収納箱に収納された熱交換器及びファンが、収納箱に収納された冷凍配管及び圧縮機より、仕切り板によって仕切られ、且つ、外郭であって、圧縮機が設置され外部から侵入する雨水に触れる底板と、底板に設けられた穴と、底板を凹形状にする底板の外周に設けたフランジと、空調機の室外機を据付固定する底板の下面に溶接で取り付けられた脚部と、を備え、底板を高耐食性合金メッキ鋼板を用いて形成した空調機」が記載されている。

当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された特開2001-262305号公報(以下「引用例2」という)には、図面とともに、

f「母材鋼板の少なくとも片面に溶融Zn-Al系合金めっき皮膜を備えた鋼板であって、そのめっき皮膜は、化学組成が質量%でAl:3.5?15%、Mg:0.5?3.5%、残部がZnおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物としてのFe含有量が0.5g/m2 以下、Pb、Sn、CdおよびBiの含有量が合計で200ppm以下であり、スパングルの平均直径が2mm以下、かつめっき面に平行なZn(00・2)面の配向指数が3.5以下であることを特徴とする加工性に優れた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。」(【請求項1】)、
g「 本発明は自動車、家電、建材等の素材として好適な、加工性に優れた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐割れ性、密着性および意匠性にすぐれためっき皮膜を有し、さらに経済性にも優れた溶融Zn-Al系合金めっき鋼板とその製造方法に関するものである。」(【0001】)、
h「上記のように多様な用途に使用される鋼板には、耐食性に加えて、さらに優れた加工性や、意匠性も求められるようになっている。 耐食性の改善に対しては、Zn-Al合金にMgを数%含有させためっき皮膜が有効であることが知られている(例えば、「材料とプロセス」Vol.12(1999)、P554)。このMgを含有させたZn-Al合金(以下、Zn-Al系合金とも記す)は安定した溶融めっきが可能であり、耐食性改善効果を活用するべく実用化が進められている。」(【0004】)、
i「本発明の目的はこれらの問題点を解決し、優れた耐食性と意匠性を備え、さらに厳しい加工に耐え得るめっき皮膜を有し、しかも経済的に製造できる加工性に優れた溶融Al-Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。」(【0013】)が記載されている。

上記記載事項及び図面からみて、引用例2には、
「優れた耐食性を備えたMgを含有させたZn-Al合金を溶融めっきした鋼板。」が記載されている。

当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された特開2002-35861号公報(以下「引用例3」という)には、図面とともに、

j「本発明の金属製網材によると、Znを主体とし3?18%のAl及び1?5%のMgを含むめっき層で鋼板の表面及び裏面が被覆されるので、雨水に晒されている間にZn、Al、Mgの各成分がめっき層から鋼板の切断面に流れることで、Mgを含むZn系の緻密な保護被膜と、Mgを含むZn-Al系の緻密な保護被膜との二層構造の高耐食めっき層が切断面を被覆する犠牲防食作用が得られる。」(【0006】)、
k「図6において、金属板14は、鋼板16と、Znを主体とし3?18%のAl及び1?5%のMgを含み鋼板16の表面及び裏面を被覆する溶融めっき層18とで構成されている。」(【0014】)、
l「上記構造の金属製網材10では、雨水に晒されている間にZn、Al、Mgの各成分が溶融めっき層18から、鋼板16の切断面11a(図10参照)に流れることで、高耐食めっき層24が切断面11aを被覆する犠牲防食作用を得ることができる。高耐食めっき層24は、切断面11aの腐食を効果的に抑止し、犠牲防食作用を長時間持続させる。」(【0016】)、
m「図9に示すように、数週間経過の時点から1年未満の暴露中期においては、切断面11aの近傍の垂れ部の溶融めっき層18から流れる成分により、Mgを含むZn系の緻密な保護被膜20が切断面11a上に形成され、これを被覆する。」(【0020】)が記載されている。

上記記載事項および図面からみて、引用例3には、
「雨水に晒される鋼板の切断面に、鋼板を被覆する溶融めっき層から流れるMgを含むZn系の緻密な保護被膜が形成されるように高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき層で被覆した鋼板。」が記載されている。

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用例1に記載された発明とを比較すると、引用例1に記載された発明の「収納」、「空調機」、「空調機の室外機」、「外郭」、「底板」、「脚部」は、本願補正発明の「内設」、「空気調和機」、「空気調和機室外機」、「外郭部材」、「ベース」、「レグ」に相当する。又、引用例1に記載された発明の「収納箱に収納された熱交換器及びファンが、収納箱に収納された冷凍配管及び圧縮機より、仕切り板によって仕切られ」は、その機能から考えて、本願補正発明の「熱交換器とファンを有する送風室と、冷凍サイクルを構成する部品が配置される機械室」に相当する。又、引用例1に記載された発明の「底板の下面に溶接で取り付けられた脚部」は、底板が外郭の一部であって、脚部が溶接で底板に取り付けられていることから、本願補正発明の「溶接部分を有した外郭部材」が示されているものと認められる。
両者は、「少なくとも熱交換器およびファンを内設してなる空気調和機において、空気調和機室外機は、前記熱交換器と前記ファンを有する送風室と、冷凍サイクルを構成する部品が配置される機械室と、溶接部分を有した外郭部材であって、圧縮機が設置され外部から侵入する雨水に触れるベースと、前記ベースを凹形状にする前記ベースの外周に設けたフランジと、前記ベースに設けられた穴と、前記空気調和機室外機を据付固定する前記ベースの下面に取り付けられたレグと、を備え、前記ベースを、高耐食性めっき鋼板を用いて形成したことを特徴とする空気調和機。」の点で一致し、以下の点で相違している。
〔相違点1〕
本願補正発明は、ベースが熱交換器から発生するドレン水も触れているが、引用例1に記載された発明は、当該ドレン水に触れているか否か不明な点。
〔相違点2〕
本願補正発明は、ベースの穴が、ドレン水を機外へ放出するために設けられたドレン穴であるが、引用例1に記載された発明は、ベースに設けられた穴の用途が明示されていない点。
〔相違点3〕
本願補正発明は、ベースの鋼板に施されるめっきが、ドレン穴の切断面にベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護被膜を形成させるように高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっきであるが、引用例1に記載された発明は、単に高耐食性合金メッキである点。

(3)判断
〔相違点1〕について
空気調和機室外機を使用するとき、ドレン水が発生すること、及び、当該ドレン水がベースに触れることは、空気調和機の分野において周知(必要が有れば、当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された特開平10-300131号公報、特開平11-14095号公報等参照)であり、引用例1記載のものも空気調和機室外機の使用時に、ドレン水が発生し、当該ドレン水がベースに触れているものと認められる。

〔相違点2〕について
空気調和機室外機を使用するとき、発生したドレン水がベースに触れることは、上記したように周知の事項であり、又、当該発生したドレン水をベースに設けた穴から排出することも周知(必要が有れば、当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された特開平10-300131号公報、特開平11-14095号公報等参照)であるから、引用例1記載のものにおいてベースの穴をドレン水排出用とすることは、当業者が適宜選択し得ることと認められる。

〔相違点3〕について
引用例1に記載された発明は、雨水による悪い環境に耐えるために、ベースの鋼板に高耐食性メッキを施している。又、引用例2に記載された発明の、優れた耐食性を備えたMgを含有させたZn-Al合金を溶融めっきした鋼板は、高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき層で被覆した鋼板であり、その用途として、雨水に晒されるものが含まれており(上記g参照)、引用例3に記載された発明は、高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき層で被覆した鋼板であり、その用途として、雨水に晒されるものが含まれているから(上記j参照)、雨水による悪い環境に耐えるために、高耐食性メッキを施したベースの鋼板のめっきとして、引用例2に記載された発明、引用例3に記載された発明のように、高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっき鋼板とすることは、当業者が容易に考えられることと認められる。
その際、引用例1に記載された発明において、高耐食性メッキ鋼板に穴を開けており、当該穴はメッキが施されない切断面を有しているから、引用例1記載のものにおいて、上記したように鋼板のめっき層を高耐食性のZn-Al-Mgからなる溶融めっきとした場合、雨水に晒される鋼板の切断面に、鋼板を被覆する溶融めっき層から流れるMgを含むZn系の緻密な保護被膜が形成されることとなる。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用例1-3及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、引用例3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に考えられることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で引用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)、請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という)、請求項3に係る発明(以下、「本願発明3」という)は、平成18年8月8日付手続補正書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される、上記したとおりのものである。


4.当審の拒絶の理由
(1)特許法第17条の2第3項について
当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由の特許法第17条の2第3項に関連するものの概要は以下のとおりである。

『平成18年8月8日付でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。


(1)請求項1には、「ドレン水に触れるベース」、「ドレン水に触れる前記ノックアウト加工された切断面」と記載があり、請求項2には、「ドレン水に触れるベース」、「ドレン水に触れる前記ドレン穴の切断面」と記載がある。
しかし、出願当初の明細書には、「前記外郭部材または構成部材は水が直接触れる部分に配設された」(請求項3)、
「また、さらに従来の空気調和機において、室外機のベース部材のように直接雨水や外気にさらされて耐食性が求められる部分には、塗装レス板金のZn-Alによるめっき鋼鈑が用いられていた。」(【0004】)、
「また、ベース外周はフランジが設けられた凹形状であるため、暖房運転により室外機側にある熱交換器5から発生するドレン水や外部から進入する雨水などに触れやすく、これらの水を機外へ放出するためのドレン穴25が最も水による腐食の影響を受けやすい位置形状となっている。」(【0012】)と記載されており、
空気調和機室外機の外郭部材であるベース、切断面が、ドレン水と雨水に晒される点は記載があるが、空気調和機室外機の外郭部材であるベース、切断面が、ドレン水のみに晒され、雨水には晒されない点は記載がない。
(この点、例えば、審判請求書第7頁には、「そもそも、引用文献4は、?とあるように、主に雨水による防食を目的としたものであり、空気調和機室外機のドレン水を示唆するものは何も記述されておらず、」との記載、及び「引用文献4の金属性鋼材では、雨水によりZn、Al、Mgの各成分がめっき層から鋼板の切断面に流れることで、Mgを含むZn系の緻密な保護被膜と、Mgを含むZn-Al系の緻密な保護被膜との二重構造の高耐食めっき層が切断面を被覆する犠牲防食作用が得られるという記載も、上述した課題が把握できない以上は、空気調和機室外機で特徴的なドレン水と、それが触れるノックアウト加工された切断面との関係から、特に、切断面にベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護皮膜を形成させるようにベースを構成した」との記載から、雨水を排除していることは明らかである。更に、審判請求書第6頁に、「一般に、空気調和機室外機の内部は、パネルにより囲まれているので外部から内部に雨水はあまり侵入しないようになっているが、暖房運転をすることで、多量のドレン水が発生する。」とあるが、出願当初の明細書及び図面には、本願室外機がこの様な構成を採用することは全く記載がない。又、図6-8及びこれに関する記載事項は、室内機に関するものであり、空気調和機室外機に関するものではない。)
したがって、平成18年8月8日に補正された上記請求項1-2に記載された事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面の記載から自明な事項ではない。したがって、この補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない。』


5.当審の判断
本願発明1、本願発明2ともに、ベース、切断面が接触するのはドレン水のみであるが、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)には、ベース、切断面共に、ドレン水に加えて雨水に晒されることが記載されており、しかも、雨水が空気調和機室外機内部に入らないようにするためには、何某かの防水が必要であるが、当初明細書等にはこの点何ら開示が無いので、空気調和機室外機の外郭部材であるベース、切断面が、ドレン水のみに晒され、雨水には晒されない点は当初明細書等に記載がない。
この点に関し、審判請求人は審判請求書第7頁において、「そもそも、引用文献4は、?とあるように、主に雨水による防食を目的としたものであり、空気調和機室外機のドレン水を示唆するものは何も記述されておらず、」と記載し、及び「引用文献4の金属性鋼材では、雨水によりZn、Al、Mgの各成分がめっき層から鋼板の切断面に流れることで、Mgを含むZn系の緻密な保護被膜と、Mgを含むZn-Al系の緻密な保護被膜との二重構造の高耐食めっき層が切断面を被覆する犠牲防食作用が得られるという記載も、上述した課題が把握できない以上は、空気調和機室外機で特徴的なドレン水と、それが触れるノックアウト加工された切断面との関係から、特に、切断面にベースのめっき層から流れるMg含有Zn系保護皮膜を形成させるようにベースを構成した」と記載していることから、本願発明1、本願発明2から雨水を排除していることは明らかである。
したがって、この補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでないので、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていない。


6.むすび
したがって、この出願は、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


『上記のとおり、平成18年8月8日付でした手続補正(以下「8月8日補正」という)は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしていないが、仮に8月8日補正が特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとして、本願発明2が特許法第29条第2項の規定により受けることができるものであるかについて検討する。

本願発明2は、上記したとおりのものである。

(1)引用例
当審で平成20年12月9日付で通知した拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記[理由II](1)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明2は、前記[理由II]で検討した本願補正発明から、「空気調和機室外機」の限定事項である、「前記熱交換器と前記ファンを有する送風室と、冷凍サイクルを構成する部品が配置される機械室」との構成を省き、「ベース」の限定事項である「外部から侵入する雨水など」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明2の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記[理由II](3)に記載したとおり、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、引用例3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2も、同様の理由により、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、引用例3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明2は、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された発明、引用例3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。』
 
審理終結日 2009-03-09 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-25 
出願番号 特願2002-228466(P2002-228466)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F24F)
P 1 8・ 572- WZ (F24F)
P 1 8・ 561- WZ (F24F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 健志  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 佐野 遵
豊島 唯
発明の名称 空気調和機  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 高橋 省吾  
代理人 村上 加奈子  
代理人 中鶴 一隆  

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