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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1196911
審判番号 不服2007-30415  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-08 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2003-16336「プロピレン系エラストマー」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月18日出願公開、特開2003-201317〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成6年6月28日(優先権主張 平成5年10月6日 日本国)に出願した特願平6-146415号の一部を、平成15年1月24日に新たな特許出願としたものであって、平成18年2月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月27日に意見書及び手続補正書が提出され、同日付け(受付日 同年4月28日)で意見書の手続補足書が提出され、同年6月9日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成19年2月1日付けで拒絶理由が通知され、同年4月9日に意見書、手続補正書及び意見書の手続補足書が提出され、同年10月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月8日に審判請求がなされ、同年12月6日に手続補正書が提出され、平成20年1月17日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年3月28日付けで前置報告がなされ、当審において、同年6月30日付けで審尋がなされ、同年9月1日に回答書が提出され、同日付け(受付日 同年9月2日)で回答書の手続補足書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定
[結論]
平成19年12月6日提出の手続補正書による明細書についての補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成19年12月6日提出の手続補正書による明細書についての補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求の日から30日以内にされた補正であり、その内容は、同年4月9日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲について、
「【請求項1】
(a)プロピレン単位を50?95モル%、エチレン単位を5?50モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が96.7%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材。」
を、
「【請求項1】
(a)プロピレン単位を50?95モル%、エチレン単位を5?50モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材。」
と補正するものである。

2.補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明の構成に欠くことができない事項である「(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕」を「96.7%以上」から「97.5%以上」に限定するものであるから、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.特許法第17条の2第5項に規定する要件について
3-1.本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正後の明細書(以下、「本願補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)プロピレン単位を50?95モル%、エチレン単位を5?50モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材。」

3-2.特許法第36条第4項に規定する要件についての検討
3-2-1.本願補正発明の構成に欠くことができない事項
本願補正発明は、「プロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材」に関するものであり、前記「プロピレン系エラストマー」が、
「(a)プロピレン単位を50?95モル%、エチレン単位を5?50モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕(以下、単に「トリアドタクティシティー」という。)が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合(以下、「2,1-挿入の割合」という。)が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にある」ことを、発明の構成に欠くことができない事項として有するものである。

3-2-2.本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載についての検討
一般に、物の発明において、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているというためには、その物を製造することができ、かつ、その物を使用することができるように、発明の詳細な説明に、発明の目的、構成及び効果が記載されていることが必要である。
したがって、「プロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材」なる物の発明である本願補正発明については、熱可塑性樹脂の改質材を構成する上記(a)?(d)の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、その全般にわたり、製造することができ、かつ、その全般にわたり、熱可塑性樹脂の改質材として使用することができるように、発明の詳細な説明に必要な事項が記載されていることが必要であると解される。

3-2-2-1.プロピレン系エラストマーの製造可能性についての
検討
本願補正明細書の発明の詳細な説明においては、少なくとも上記(a)のエチレン単位の含有量、(b)のトリアドタクティシティー、(c)の2,1-挿入の割合のすべてが本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーの具体的な製造実験例として、実施例1に、エチレン単位の含有量が33.6モル%であり、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.27%であるものの例が示され、実施例3に、エチレン単位の含有量が6.0モル%であり、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.18%であるものの例が示されているものの、これら以外には、エチレン単位の含有量、トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合のすべてが本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーの具体的な製造実験例は示されていない。

そして、一般に、他のモノマー単位を含むプロピレン系エラストマーにおいては、その立体規則性及び位置規則性は、他のモノマー単位の含有量により、大きく影響を受けることが技術常識であるから、他のモノマー単位であるエチレン単位の含有量と、立体規則性の指標であるトリアドタクティシティー及び位置規則性の指標である2,1-挿入の割合とを別個に制御し、これらの指標が本願補正発明で規定された範囲内のものであるプロピレン系エラストマーを製造するためには、何らかの技術的手段が必要であると解される。
また、プロピレン系エラストマーにおいては、その立体規則性及び位置規則性は、少なくとも、触媒の構成成分、重合温度及び重合圧力といった重合条件により、大きく影響を受けることが技術常識であるから、立体規則性の指標であるトリアドタクティシティー及び位置規則性の指標である2,1-挿入の割合が特定されたプロピレン系エラストマーを製造するためには、これらの重合条件が十分に特定できるように開示されることが必要であると解される。
以下、本願補正明細書の発明の詳細な説明全般における、エチレン単位の含有量及び重合条件に関する記載について検討する。

3-2-2-1-1.エチレン単位の含有量についての検討
エチレン単位の含有量については、段落【0006】?【0007】に
「本発明のプロピレン系エラストマーは、プロピレン単位を50?95モル%、好ましくは60?93モル%、より好ましくは70?90モル%の割合で含み、エチレン単位を5?50モル%、好ましくは7?40モル%、より好ましくは10?30モル%の割合で含んでなるプロピレン-エチレンランダム共重合体である。
このようなプロピレン系エラストマーは、プロピレンおよびエチレン以外のオレフィンから導かれる構成単位をたとえば10モル%以下の量で含んでいてもよい。」
と記載され、トリアドタクティシティーについては、段落【0007】に
「本発明のプロピレン系エラストマーは、^(13)C-NMRにより求められる頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーが90.0%以上、好ましくは93.0%以上、より好ましくは96.0%以上であることが望ましい。」
と記載され、2,1-挿入の割合については、段落【0018】に
「本発明のプロピレン系エラストマーは、^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中の2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.5%、好ましくは0.05?0.4%、より好ましくは0.05?0.3%であることが望ましい。」
と記載されているものの、エチレン単位の含有量と、トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合とを別個に制御するための技術的手段については、何ら記載されていない。

3-2-2-1-2.触媒の構成成分についての検討
また、触媒の構成成分については、段落【0023】に
「本発明のプロピレン系エラストマーは、たとえば、
(A)後述するような遷移金属化合物と、
(B)
(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物、および
(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物
からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、
所望により
(C)有機アルミニウム化合物
からなるオレフィン重合用触媒の存在下にエチレンとプロピレンとを共重合することにより得ることができる。」
と記載され、(A)の遷移金属化合物成分については、段落【0024】?【0030】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する遷移金属化合物(A)(以下『成分(A)』と記載することがある。)は、下記一般式(I)で表される遷移金属化合物である。
・・・」
と記載され、段落【0031】に上記一般式(I)で表される遷移金属化合物が多数列記されている。
(B-1)の有機アルミニウムオキシ化合物成分については、段落【0033】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物(以下『成分(B-1)』と記載することがある。)は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。」
と記載され、(B-2)の遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物成分については、段落【0038】?【0040】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(以下「成分(B-2)」と記載することがある。)としては、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、US-547718号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物およびカルボラン化合物を挙げることができる。
・・・」
と記載されている。
(C)の有機アルミニウム化合物成分については、段落【0041】?【0044】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(C)有機アルミニウム化合物(以下「成分(C)」と記載することがある。)としては、たとえば下記一般式(III)で表される有機アルミニウム化合物を例示することができる。
・・・
また有機アルミニウム化合物(C)として、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることもできる。
・・・」
と記載されている。
しかしながら、触媒の構成成分と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

3-2-2-1-3.重合温度についての検討
重合温度については、段落【0053】に
「プロピレンとエチレンとの共重合温度は、懸濁重合法を実施する際には、通常-50?100℃、好ましくは0?90℃の範囲であることが望ましく、溶液重合法を実施する際には、通常0?250℃、好ましくは20?200℃の範囲であることが望ましい。また、気相重合法を実施する際には、共重合温度は通常0?120℃、好ましくは20?100℃の範囲であることが望ましい。」
と記載されているものの、重合温度と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

3-2-2-1-4.重合圧力についての検討
重合圧力については、段落【0053】に
「共重合圧力は、通常、常圧?100kg/cm^(2)、好ましくは常圧?50kg/cm^(2)の条件下であり、・・・」
と記載されているものの、重合圧力と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

3-2-2-1-5.プロピレン系エラストマーの製造可能性につ いての検討のまとめ
してみると、発明の詳細な説明における、触媒の構成成分、重合温度及び重合圧力に関する記載からでは、これらの重合条件をどのように変化させることにより、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合がどのように変化するのかが明らかでないから、これらの指標をどのようにして制御し、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーを製造することができるのかが明らかでない。

したがって、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1及び3で製造された、特定のエチレン単位の含有量、トリアドタクティシティーが及び2,1-挿入の割合を有するプロピレン系エラストマー以外の、例えば、エチレン単位の含有量が50モル%であり、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。

3-2-2-2.プロピレン系エラストマーの使用可能性についての
検討
本願補正明細書の発明の詳細な説明においては、上記(a)のエチレン単位の含有量、(b)のトリアドタクティシティー、(c)の2,1-挿入の割合のすべてが本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーの熱可塑性樹脂の改質材としての特性に関する具体的な評価試験結果として、実施例1に、エチレン単位の含有量が33.6モル%であり、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.27%であるプロピレン系エラストマーを、ポリプロピレンに添加して得られたポリプロピレン組成物のアイゾット衝撃強度、フィルムインパクト強度及びメルトフローレートの測定結果が示されているものの、これ以外には、エチレン単位の含有量、トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合のすべてが本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーの熱可塑性樹脂の改質材としての特性に関する具体的な評価試験結果は示されていない。
以下、本願補正明細書の発明の詳細な説明における、エチレン単位の含有量、トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合、熱可塑性樹脂の改質材としての特性に関する記載について検討する。

エチレン単位の含有量、トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合については、上記「3-2-2-1.プロピレン系エラストマーの製造可能性についての検討」で述べたとおりの事項が記載されている。
プロピレン系エラストマーの熱可塑性樹脂の改質材としての使用については、段落【0055】に
「本願のプロピレン系エラストマーは、トリアドタクティシティーが高く、位置不規則単位の割合が少ない。このようなプロピレン系エラストマーは、耐熱性、衝撃吸収性、透明性、ヒートシール性、耐ブロッキング性に優れており、フィルム、シートなどへの単味使用の他、熱可塑性樹脂の改質材などに好適に使用できる。」
と記載されているものの、プロピレン系エラストマーのエチレン単位の含有量、トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合と、熱可塑性樹脂の改質材としての特性との関係については、何ら記載されていない。

したがって、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1で製造された、特定のエチレン単位の含有量、トリアドタクティシティーが及び2,1-挿入の割合を有するプロピレン系エラストマー以外のプロピレン系エラストマーを熱可塑性樹脂の改質材として使用した際に、実施例1で製造されたプロピレン系エラストマーを使用した場合と同様の効果が奏されるものとは直ちには認められない。

3-2-2-3.請求人の主張についての検討
請求人は、平成20年1月17日提出の審判請求書の手続補正書(方式)及び同年9月1日提出の回答書において、特許法第36条第4項に規定する要件について、それぞれ、概略以下のとおり主張している。
(主張1)
「本願発明の基礎出願である平成5年特許願第250742号を基礎出願の一つとする米国特許明細書(5,936,053)の69?70欄の表1には、プロピレン・エチレン共重合体のmmが99.3(Ex.1(審決注:『Ex.4』の誤記と認められる。))、プロピレン単独重合体ではmmが99.7(Ex.17)と99.5%以上の重合体が得られることが記載されております。」
(主張2)
「実験成績報告書(参考資料2)は、本願出願人である三井化学株式会社に所属する杉村健司研究員によってなされた報告書(本願の分割出願である特願2006-206919の審査において平成20年6月12日付手続補足書で提出した実験成績報告書を援用)であります。
・・・
実験報告書2には、本願明細書の実施例2に記載の「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」に換えて、本願明細書の段落[0031]に記載の「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」を用い、重合温度を-40℃でプロピレンとエチレンを共重合することにより、「極限粘度[η]=3.1dl/g、エチレン含量=5.3モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=99.2%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.11%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.03%以下」のプロピレン系エラストマーが得られることが記載されております。
したがって、当業者であれば、本願明細書の段落[0031]に記載のインデニル基に炭素数6?16のアリール基を有するジルコニウム化合物を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合することにより、プロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーが97.5以上、具体的には99.2%のプロピレンエラストマーが製造し得ることが明らかであります。」

上記(主張1)及び(主張2)について検討する。
(主張1について)
(主張1)の根拠とされた米国特許第5936053号明細書は、本願の原出願の出願時において公知のものではなく、本願の原出願の出願時における技術常識を示すものとは認められないから、前記米国特許明細書は、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
(主張2について)
上記「3-2-2-1.プロピレン系エラストマーの製造可能性についての検討」で述べたとおり、本願補正明細書の発明の詳細な説明には、触媒の構成成分と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係、重合温度と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。
してみると、(主張2)の根拠とされた実験報告書2で示された、触媒の構成成分として「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」に代えて、「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」を用い、重合温度を-40℃とすることにより、トリアドタクティシティーが99.2%であるプロピレン系エラストマーが得られることが、本願明細書の記載から自明なものとは認められないから、前記実験報告書2は、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
したがって、上記(主張1)及び(主張2)は、いずれも採用することができないものである。

また、仮に、上記米国特許第5936053号明細書及び実験報告書2を参酌したとしても、
(主張1について)
米国特許第5936053号明細書のEx.4及びEx.17で示されたプロピレン系エラストマーのエチレン単位の含有量は、それぞれ、3.9モル%及び0モル%であり、いずれも本願補正発明で規定された範囲外のものである。
そして、上記明細書中の他の実施例を検討しても、エチレン単位の含有量が本願補正発明の規定を満たすプロピレン系エラストマーの中で、最もトリアドタクティシティーが高いものは、Ex.5及びEx.9の99.2%であるから、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。
(主張2について)
実験報告書2で製造されたプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティーは99.2%であるから、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるようなプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。
したがって、上記米国特許第5936053号明細書及び実験報告書2を参酌したとしても、上記(主張1)及び(主張2)は、いずれも採用することができないものである。

3-2-3.特許法第36条第4項に規定する要件についてのまとめ
本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載からでは、本願補正発明の「プロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材」を、請求項1で特定される範囲の全般にわたり、製造することができ、かつ、使用することができることが明らかでないから、本願補正明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本願補正発明の目的、構成及び効果が記載されていない。
したがって、本件補正後の本願は、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

3-3.特許法第17条の2第5項に規定する要件についてのまとめ
本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

4.補正の却下の決定についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明の認定
上記「第2.補正の却下の決定」のとおり、平成19年12月6日提出の手続補正書による明細書についての補正は却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年4月9日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)プロピレン単位を50?95モル%、エチレン単位を5?50モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が96.7%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなる熱可塑性樹脂の改質材。」

第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成19年2月1日付け拒絶理由通知書に記載した理由4の概要は、以下のとおりである。

「4.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明で具体的に製造例が記載されているのは、トリアドタクティシティー、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が、それぞれ97.5%,0.27%,0.03%以下である実施例1、それぞれ96.7%、0.28%、0.03%以下である実施例2、それぞれ97.5%、0.18%、0.03%以下である実施例3のみである。
そして、発明の詳細な説明の記載をみても、特許請求の範囲で定義された範囲内で上記3つの物性値を増減させるための具体的な手段が明らかでなく、また、平成18年4月27日付け意見書では重合温度を調節することによって上記値の調節が可能であると記載されているが、前記の日本ポリプロ株式会社により提出された刊行物等提出書の『提出の理由』23?24頁に記載されるように、重合温度の変更といった一般的な手法では、トリアドタクティシティーが98%以上となる重合体を製造することは極めて困難であると考えられるから、本願明細書には、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているものとは認められない。」

第5.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討
本願発明は、本願補正発明における「トリアドタクティシティー」の範囲である「97.5%以上」を「96.7%以上」としたものであるから、本願補正発明の上位概念の発明に相当する。
また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載と同じものである。
してみると、上記「第2.3-2.特許法第36条第4項に規定する要件についての検討」で述べた理由と同様の理由により、本願明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本願発明の目的、構成及び効果が記載されていない。
したがって、本願は、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願はこの拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-03 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-24 
出願番号 特願2003-16336(P2003-16336)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
P 1 8・ 161- Z (C08F)
P 1 8・ 531- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 山本 昌広
野村 康秀
発明の名称 プロピレン系エラストマー  
代理人 鈴木 俊一郎  

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