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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1196923
審判番号 不服2008-7686  
総通号数 114 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-27 
確定日 2009-05-07 
事件の表示 特願2006-206919「プロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月19日出願公開、特開2006-283040〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成6年6月28日(優先権主張 平成5年10月6日 日本国)に出願した特願平6-146415号の一部を平成15年1月24日に新たな特許出願とした特願2003-16336の一部を、更に平成18年7月28日に新たな特許出願としたものであって、平成19年10月2日付けで拒絶理由が通知され、同年12月13日に意見書、手続補正書及び意見書の手続補足書が提出され、平成20年2月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年3月27日に審判請求がなされ、同年4月23日に手続補正書が提出され、同年6月12日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同日付け(受付日 同年6月13日)で同手続補正書(方式)の手続補足書が提出され、同年8月28日付けで前置報告がなされ、当審において、同年9月22日付けで審尋がなされ、同年11月20日に回答書が提出され、同日付け(受付日 同年11月25日)で回答書の手続補足書が提出されたものである。

第2.補正の却下の決定
[結論]
平成20年4月23日提出の手続補正書による明細書及び特許請求の範囲についての補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年4月23日提出の手続補正書による明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求の日から30日以内にされた補正であり、その内容は、平成19年12月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲について、
「 【請求項1】
(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート。
【請求項2】
(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなるヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート。」
を、
「 【請求項1】
(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなるヒートシールフィルムもしくはヒートシールシート。」
と補正するものである。

2.補正の適否
上記特許請求の範囲についての補正は、以下の補正事項(1)?(3)を含むものである。
(1)補正前の請求項1を削除する補正事項。
(2)補正前の請求項2に記載された「ヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」を「ヒートシールフィルムもしくはヒートシールシート」とする補正事項。
(3)補正事項(1)に伴い、補正前の請求項2の項番号を繰り上げて請求項1とする補正事項。

上記補正事項(2)の目的について検討する。
平成20年11月20日提出の回答書の2.(1)における
「審判請求前の『ヒートシール用フィルム(ヒートシール用シート)』は、その語句から明らかなように、専らヒートシールに用いられるフィルム(シート)を表す語句であり、ヒートシールフィルム(ヒートシールフィルム)は、ヒートシールされたフィルムそのものであり、フィルムを『ヒートシール用』から『ヒートシール』と更に限定する補正であり、補正前の発明特定事項を限定する補正であると、思量致します。」
との記載によれば、補正前の「ヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」は、専らヒートシールに用いられるフィルム又はシート、すなわち、ヒートシール処理が施される前のフィルム又はシートを指すものと認められ、補正後の「ヒートシールフィルムもしくはヒートシールシート」は、ヒートシールされたフィルム又はシート、すなわち、ヒートシール処理が施された後のフィルム又はシートを指すものと認められるから、両者は、ヒートシール処理の前後における互いに異なった状態にあるフィルム又はシートを指すものと認められる。
してみると、補正後の請求項2に記載された「ヒートシールフィルムもしくはヒートシールシート」は、補正前の請求項2に記載された「ヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」の下位概念に相当するものでないから、補正事項(2)は、補正前の請求項2に記載された発明の構成に欠くことができない事項(以下、「必須構成要件」という。)を限定するものでない。
したがって、補正事項(2)は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法(以下、「第2.補正の却下の決定」において、単に「特許法」という。)第17条の2第3項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものでない。
また、補正事項(2)が請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明のいずれかの事項を目的とするものでないことは明らかであるから、同補正事項は、特許法第17条の2第3項に掲げるいずれかの事項を目的とするものでない。

よって、補正事項(2)を含む本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明の認定
上記「第2.補正の却下の決定」のとおり、平成20年4月23日提出の手続補正書による明細書及び特許請求の範囲についての補正は却下されたから、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成19年12月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート。
【請求項2】
(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にあるプロピレン系エラストマーからなるヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート。」

第4.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた平成19年10月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由4の概要は、以下のとおりである。
「4.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



請求項1,2では、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティーが『96.0%以上』と規定されているが、発明の詳細な説明で具体的に製造例が記載されているのは最大でも97.5%のもののみである。
そして、上記定義にはメソトリアドタクティシティーが99.5%程度のものも含まれることになるが、発明の詳細な説明の記載をみても、そのようなポリマーを製造するためにはどのような条件を採用すればよいのか具体的な記載がないし、当業者に自明でもない。
また、本願分割出願の基礎出願(特願2003-016336号)において、日本ポリプロ株式会社により提出された刊行物等提出書の『提出の理由』23?24頁に記載されるように、重合温度の変更といった一般的な手法では、トリアドタクティシティーが99.5%以上となる重合体を製造することは極めて困難であると考えられる。
したがって、本願明細書には、当業者が容易に実施をすることができる程度に発明の構成が記載されていない。」

第5.原査定の拒絶の理由の妥当性についての検討
1.本願発明の必須構成要件
本願発明1及び2は、それぞれ、「プロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート」及び「プロピレン系エラストマーからなるヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」に関するものであり、いずれも前記「プロピレン系エラストマー」が、
「(a)プロピレン単位を84.6?95モル%、エチレン単位を5?15.4モル%(但し、5モル%は除く)含んでなり、
(b)^(13)C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のメソトリアドタクティシティー〔PPP(mm)〕(以下、単に「トリアドタクティシティー」という。)が97.5%以上であり、
(c)^(13)C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合(以下、「2,1-挿入の割合」という。)が0.05?0.3%であり、
(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1?12dl/gの範囲にある」
ことを、必須構成要件として有するものである。

2.本願明細書の発明の詳細な説明の記載についての検討
一般に、物の発明において、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているというためには、その物を製造することができ、かつ、その物を使用することができるように、発明の詳細な説明に、発明の目的、構成及び効果が記載されていることが必要である。

2-1.本願発明1についての検討
「プロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート」なる物の発明である本願発明1については、少なくとも、「フィルムもしくはシート」を構成する上記(a)?(d)の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、その全般にわたり、製造することができるように、発明の詳細な説明に必要な事項が記載されていることが必要であると解される。

平成19年12月13日提出の手続補正書により補正された明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)においては、少なくとも上記(b)のトリアドタクティシティー、(c)の2,1-挿入の割合のいずれもが本願発明1及び2の規定を満たすプロピレン系エラストマーの具体的な製造実験例として、実施例1に、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.18%であるものの例が示され、参考例1に、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.27%であるものの例が示されているものの、これら以外には、トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合のいずれもが本願発明1及び2の規定を満たすプロピレン系エラストマーの具体的な製造実験例は示されていない。

そして、一般に、プロピレン系エラストマーにおいては、その立体規則性及び位置規則性は、少なくとも、触媒の構成成分、重合温度及び重合圧力といった重合条件により、大きく影響を受けることが技術常識であるから、立体規則性の指標であるトリアドタクティシティー及び位置規則性の指標である2,1-挿入の割合が特定されたプロピレン系エラストマーを製造するためには、これらの重合条件が十分に特定できるように開示されることが必要であると解される。
以下、発明の詳細な説明全般におけるこれらの重合条件に関する記載について検討する。

2-1-1.触媒の構成成分との関係についての検討
触媒の構成成分については、段落【0025】に
「本発明に係るプロピレン系エラストマーは、たとえば、(A)後述するような遷移金属化合物と、(B)(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物、および(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、所望により(C)有機アルミニウム化合物からなるオレフィン重合用触媒の存在下にエチレンとプロピレンとを共重合することにより得ることができる。」
と記載され、(A)の遷移金属化合物成分については、段落【0026】?【0036】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する遷移金属化合物(A)(以下『成分(A)』と記載することがある。)は、下記一般式(I)で表される遷移金属化合物である。
・・・」
と記載され、段落【0037】?【0039】に上記一般式(I)で表される遷移金属化合物が多数列記されている。
(B-1)の有機アルミニウムオキシ化合物成分については、段落【0041】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物(以下『成分(B-1)』と記載することがある。)は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。」
と記載され、(B-2)の遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物成分については、段落【0048】?【0051】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(以下『成分(B-2)』と記載することがある。)としては、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、US-547718号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物およびカルボラン化合物を挙げることができる。
・・・」
と記載されている。
(C)の有機アルミニウム化合物成分については、段落【0052】?【0056】に
「本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(C)有機アルミニウム化合物(以下『成分(C)』と記載することがある。)としては、たとえば下記一般式(III)で表される有機アルミニウム化合物を例示することができる。
・・・
また有機アルミニウム化合物(C)として、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることもできる。
・・・」
と記載されている。
しかしながら、触媒の構成成分と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

2-1-2.重合温度との関係についての検討
重合温度については、段落【0067】に
「プロピレンとエチレンとの共重合温度は、懸濁重合法を実施する際には、通常-50?100℃、好ましくは0?90℃の範囲であることが望ましく、溶液重合法を実施する際には、通常0?250℃、好ましくは20?200℃の範囲であることが望ましい。また、気相重合法を実施する際には、共重合温度は通常0?120℃、好ましくは20?100℃の範囲であることが望ましい。」
と記載されているものの、重合温度と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

2-1-3.重合圧力との関係についての検討
重合圧力については、段落【0067】に
「共重合圧力は、通常、常圧?100kg/cm^(2)、好ましくは常圧?50kg/cm^(2)の条件下であり、・・・」
と記載されているものの、重合圧力と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。

2-1-4.まとめ
してみると、発明の詳細な説明における、触媒の構成成分、重合温度及び重合圧力に関する記載からでは、これらの重合条件をどのように変化させることにより、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合がどのように変化するのかが明らかでないから、これらの指標をどのようにして制御し、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願発明1の規定を満たすプロピレン系エラストマーを製造することができるのかが明らかでない。

したがって、発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1及び参考例1で製造された、特定のトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合を有するプロピレン系エラストマー以外の、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願発明1の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。

2-2.本願発明2についての検討
「プロピレン系エラストマーからなるヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」なる物の発明である本願発明2については、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートを構成する上記(a)?(d)の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、その全般にわたり、製造することができ、かつ、その全般にわたり、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとして使用することができるように、発明の詳細な説明に必要な事項が記載されていることが必要であると解される。

2-2-1.プロピレン系エラストマーの製造可能性についての検討
上記「2-1.本願発明1についての検討」で述べた理由と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1及び参考例1で製造された、特定のトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合を有するプロピレン系エラストマー以外の、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願発明2の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。

2-2-2.プロピレン系エラストマーの使用可能性についての検討
発明の詳細な説明においては、少なくとも上記(b)のトリアドタクティシティー、(c)の2,1-挿入の割合のいずれもが本願発明2の規定を満たすプロピレン系エラストマーを、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとして使用した際の特性に関する具体的な評価試験結果として、実施例1に、トリアドタクティシティーが97.5%であり、2,1-挿入の割合が0.18%であるプロピレン系エラストマーから得られたフィルムのヒートシール開始温度及び熱処理後のヒートシール開始温度の測定結果が示されているものの、これ以外には、トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合のいずれもが本願発明2の規定を満たすプロピレン系エラストマーをヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとして使用した際の特性に関する具体的な評価試験結果は示されていない。

発明の詳細な説明全般における、トリアドタクティシティー、2,1-挿入の割合、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとしての特性に関する記載について検討する。
トリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合については、上記「2-1.本願発明1についての検討」で述べたとおりの事項が記載されている。
プロピレン系エラストマーのヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとしての使用については、段落【0085】に
「本発明のトリアドタクティシティーが高く、位置不規則単位の割合が少ないプロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシートは、耐熱性、衝撃吸収性、透明性、ヒートシール性、耐ブロッキング性に優れているので、フィルム、シートなどへの単味使用などに好適に使用できる。」
と記載されているものの、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合と、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとしての特性との関係については、何ら記載されていない。

したがって、発明の詳細な説明の記載からでは、実施例1で製造された、特定のトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合を有するプロピレン系エラストマー以外の、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超え、2,1-挿入の割合が本願発明2の規定を満たすプロピレン系エラストマーをヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとして使用した際に、実施例1で製造されたプロピレン系エラストマーを使用した場合と同様の効果が奏されるものとは直ちには認められない。

2-3.請求人の主張についての検討
請求人は、平成19年12月13日提出の意見書、平成20年6月12日提出の審判請求書の手続補正書(方式)及び同年11月20日提出の回答書において、特許法第36条第4項に規定する要件について、それぞれ、概略以下のとおり主張している。
(主張1)
「本願発明の基礎出願である平成5年特許願第250742号を基礎出願の一つとする米国特許明細書(5,936,053)(参考資料1)の69?70欄の表1には、プロピレン・エチレン共重合体のmmが99.3(Ex.4)、プロピレン単独重合体ではmmが99.7(Ex.17)と99.5%以上の重合体が得られることが記載されております。」
(主張2)
「実験成績報告書(参考資料2)は、本願出願人である三井化学株式会社に所属する杉村健司研究員によってなされた報告書であります。
参考資料2には、本願明細書の実施例2に記載の「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」に換えて、本願明細書の段落[0038]に記載の「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」を用い、重合温度を-40℃でプロピレンとエチレンを共重合することにより、「極限粘度[η]=3.1dl/g、エチレン含量=5.3モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=99.2%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.11%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.03%以下」のプロピレン系エラストマーが得られることが記載されております。そして、かかるプロピレンエラストマーからなるヒートシールフィルムは、ヒートシール開始温度が115℃で、熱処理後のヒートシール開始温度が118℃であることが記載されています。
したがって、当業者であれば、本願明細書の段落[0037]-[0039]に記載のインデニル基に炭素数6?16のアリール基を有するジルコニウム化合物を用いて、プロピレンとエチレンとを共重合することにより、プロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーが97.5以上、具体的には99.2%のプロピレンエラストマーからなるヒートシールフィルムを得ることは容易であることは明らかであります。」
(主張3)
「重合温度が得られるプロピレン重合体の立体規則性に影響を与えることは、例えば、J.Am.Chem.Soc,1991,113,8570-8571:Isospecific Polymerization of Propylene Catalyzed by rac-Ethylenebis(indenyl)methylzirconium "Cation"(参考資料3)のTable 1に、重合温度(Tp)と得られるポリプロピレンに含まれるi-PP(isotactic PP)のアイソタクティシティ(IY)及び融点(Tm)が記載されており、
【表1】

と、重合温度を下げることにより、得られるアイソタクティシティ(IY)及びi-PPの融点が上がる、即ち、立体規則性がよくなること、および
Macromolecules 1990,23,3559-3568:Degree of Stereochemical Control of rac-Et[Ind]2ZrCl2/MAO Catalyst Properties Anisotactic Polypropylenes(参考資料4)のTable III(3563頁)に、重合温度(Tp)とPPのtriad(mm)が記載されており、
【表2】

と重合温度を下げることにより、triad(mm)が高いポリプロピレンが得られることが記載されており、本願発明の出願前から、重合温度を下げることにより、より立体規則性が高いプロピレン重合体を得ることができることは、公知であります。
一方、本願明細書の実施例1では、重合温度が70℃で、PPP(mm)が97.5%のプロピレン系エラストマーが得られたことが記載されています。そして、本願明細書の段落[0067]には、重合温度を-50?100℃とし得ることが記載されており、当業者であれば、本願明細書の記載に基づき、重合温度を変えること(低くすること)により、PPP(mm)が97.5%より高いプロピレン系エラストマーを得ることができることは、上記参考資料3及び4から明らかであります。」

上記(主張1)?(主張3)について検討する。
(主張1について)
(主張1)の根拠とされた参考資料1の米国特許第5936053号明細書は、本願の原出願の原出願である特願平6-146415号の出願時において公知のものではなく、同出願の出願時における技術常識を示すものとは認められないから、前記参考資料1は、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
(主張2について)
上記「2-1.本願発明1についての検討」で述べたとおり、発明の詳細な説明には、触媒の構成成分と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係、重合温度と、得られるプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合との関係については、何ら記載されていない。
してみると、(主張2)の根拠とされた参考資料2で示された、触媒の構成成分として「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」に代えて、「rac-ジメチルシリルビス{1-(2-エチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリド」を用い、重合温度を-40℃とすることにより、トリアドタクティシティーが99.2%であるプロピレン系エラストマーが得られることが、本願明細書の記載から自明なものとは認められない。
また、上記「2-2-2.プロピレン系エラストマーの使用可能性についての検討」で述べたとおり、発明の詳細な説明には、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティー及び2,1-挿入の割合と、ヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとしての特性との関係については、何ら記載されていない。
してみると、参考資料2で示された、トリアドタクティシティーが99.2%であり、2,1-挿入の割合が0.11%であるプロピレン系エラストマーから得られるフィルムのヒートシール開始温度が115℃であり、熱処理後のヒートシール開始温度が118℃であることが、本願明細書の記載から自明なものとは認められない。
したがって、上記参考資料2は、本願明細書の記載要件の適否の判断にあたり、参酌することができないものである。
(主張3について)
参考資料3及び4で示されたプロピレン系エラストマーのエチレン単位の含有量は0モル%であり、いずれも本願発明1及び2で規定された範囲外のものであるから、これらの参考資料を検討しても、エチレン単位の含有量が本願発明1及び2の規定を満たし、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。
また、参考資料3には、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティーが示されておらず、参考資料4で示されたプロピレン系エラストマーの中で、最もトリアドタクティシティーが高いものは、重合温度が0℃である場合の91%である。
そして、参考資料4で示されたプロピレン系エラストマーの重合温度が50℃である場合のトリアドタクティシティーと重合温度が0℃である場合のトリアドタクティシティーがともに91%であることを考慮すると、重合温度を低下させることにより、プロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティーが単調に増加するものとは認められないから、重合温度を低下させることのみによって、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるプロピレン系エラストマーを製造し得るものとは認められない。

よって、上記(主張1)?(主張3)は、いずれも採用することができないものである。

また、仮に、上記参考資料1及び2を参酌したとしても、
(主張1について)
参考資料1のEx.4及びEx.17で示されたプロピレン系エラストマーのエチレン単位の含有量は、それぞれ、3.9モル%及び0モル%であり、いずれも本願発明1及び2で規定された範囲外のものである。
そして、参考資料1中の他の実施例を検討しても、エチレン単位の含有量が本願発明1及び2の規定を満たすプロピレン系エラストマーの中で、最もトリアドタクティシティーが高いものは、Ex.5及びEx.9の99.2%であるから、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでない。
(主張2について)
参考資料2で製造されたプロピレン系エラストマーのトリアドタクティシティーは99.2%であるから、例えば、トリアドタクティシティーが99.5%を超えるようなプロピレン系エラストマーを、どのようにして製造し得るのかが明らかでなく、また、当該プロピレン系エラストマーをヒートシール用フィルム又はヒートシール用シートとして使用した際に、実施例1で製造されたプロピレン系エラストマーを使用した場合と同様の効果が奏されるものとは直ちには認められない。
(主張3について)
上記(主張3について)で述べたとおりである。

したがって、上記参考資料1及び2を参酌したとしても、上記(主張1)?(主張3)は、いずれも採用することができないものである。

2-4.小括
発明の詳細な説明の記載からでは、本願発明1の「プロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート」を、請求項1で特定される範囲の全般にわたり、製造することができることが明らかでないから、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本願発明1の目的、構成及び効果が記載されていない。
また、発明の詳細な説明の記載からでは、本願発明2の「プロピレン系エラストマーからなるヒートシール用フィルムもしくはヒートシール用シート」を、請求項2で特定される範囲の全般にわたり、製造することができ、かつ、使用することができることが明らかでないから、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本願発明2の目的、構成及び効果が記載されていない。

3.まとめ
したがって、本願は、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願はこの拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-04 
結審通知日 2009-03-10 
審決日 2009-03-24 
出願番号 特願2006-206919(P2006-206919)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 57- Z (C08F)
P 1 8・ 531- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 山本 昌広
野村 康秀
発明の名称 プロピレン系エラストマーからなるフィルムもしくはシート  
代理人 鈴木 俊一郎  
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