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審決分類 |
審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C22C |
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管理番号 | 1197413 |
審判番号 | 訂正2009-390007 |
総通号数 | 115 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-07-31 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2009-01-26 |
確定日 | 2009-05-11 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3448498号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3448498号に係る明細書及び図面を、本件審判請求の、平成21年4月7日付け手続補正書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件訂正審判に係る特許第3448498号は、平成10年12月25日に特許出願(特願平2000-192199号)され、平成15年6月30日に特許権の設定登録がされ、平成21年1月26日付けで本件訂正審判が請求され、当審において同年3月6日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、同年4月7日付けで手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。 II.本件補正について 1.訂正拒絶理由の概要 訂正拒絶理由の概要は、次のとおりである。 以下の訂正事項を含む本件訂正は、特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 訂正事項A-1 訂正前の請求項1に記載の「Ti:0.01?0.8%」を「Ti:0.05?0.8%」と訂正する。 訂正事項B-1 段落0008記載の「Ti:0.01?0.8%」を「Ti:0.05?0.8%」と訂正する。 訂正事項C-1 段落0015記載の 「Ti:Tiは本発明の課題であるリジング特性及び溶接部の加工性を向上させる重要な元素である。Mgと複合で添加した場合に凝固組織微細化効果を発揮するのは0.01%以上であり、これを下限とした。またTi量が多すぎると加工性の低下を招くため、上限を0.8%とした。」の下線部の「0.01%以上であり、」を「0.05%以上であり、」と訂正する。 訂正事項 C-2.段落0016記載の 「A1:Alは加工性を向上する元素であるが、本発明の場合にはTi+Mgによる微細化効果を低減する為、低い方が好ましいので上限は0.1%とした。一方、A1量の低減により脱酸が困難になるため、下限は0.005%とした。」の下線部の「下限は0.005%とした。」を「下限は0.01%とした。」と訂正する。 2.本件補正の適否についての検討 本件補正の概要は、審判請求書の請求の理由の訂正事項において、要するに、訂正拒絶理由で訂正は認められないとされた上記訂正事項のみを削除し、審判請求書に添付した訂正明細書についても同趣旨の補正をしようとするものであり、審判請求書の要旨を変更するものとはいえない。 したがって、本件補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものといえるので、補正を認める。 III.請求の要旨 上記のとおり、本件補正は認められるので、本件訂正審判の請求の要旨は、特許第3448498号の明細書(以下「本件特許明細書」という。)を、本件補正に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものである。 IV.訂正の内容 本件訂正審判に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(以下、訂正拒絶理由通知書の訂正事項に付した記号を用い、訂正部分の明瞭化のため下線を引いた。)。 (1)訂正事項A 訂正前の特許請求の範囲の請求項(以下「旧請求項」という。)1?3を削除し、旧請求項1を引用する旧請求項4について、「[Ti/Al]の値が5以上である」を「[Ti/Al]の値が5以上を満足し」として、独立形式に改めるとともに、以下の「A-2」の訂正事項を付加して訂正後の請求項(以下「新請求項」という。)1とする。 上記訂正に合わせ、旧請求項4が引用していた旧請求項2、3を、新請求項1を引用する従属形式の新請求項2、3とする。 A-2.旧請求項1に記載の「Al:0.005?0.1%」を「Al:0.01?0.1%」と訂正する。 すなわち、特許請求の範囲を下記のとおり訂正する。 「【請求項1】 mass%で、 C :0.0005?0.08%、 Si:0.01?1.0%、 Mn:0.01?1.0%、 P :0.04%未満、 S :0.0001?0.01%、 Cr:10?25%、 Ti:0.01?0.8%、 Al:0.01?0.1%、 N :0.0005?0.08%、 Mg:0.0005?0.010% を含有し、[Ti/Al]の値が5以上を満足し、残部が鉄及び不可避不純物よりなるフェライト系ステンレス鋼であって、最大径が0.05?2.0μmのMg系介在物が20個/mm^(2)以上の密度で存在し、且つ該Mg系介在物を覆ってTiNが存在していることを特徴とするリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【請求項2】 鋼成分として、さらにmass%で、 B :0.0005?0.005%、 Nb:0.05?0.5%、 Zr:0.0005?0.01% の1種もしくは2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【請求項3】 鋼成分として、さらにmass%で、 Mo:0.1?2.0%、 Ni:0.1?2.0%、 Cu:0.1?2.0% の1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。」 (2)訂正事項B 本件特許明細書段落0008記載の、 B-2.「Al:0.005?0.1%」を「Al:0.01?0.1%」と訂正する。 B-3.「を含有し、残部が鉄」を「を含有し、[Ti/Al]の値が5以上を満足し、残部が鉄」と訂正する。 B-4.「(4)[Ti/A1]の値が5以上であることを特徴とする前記(1)、(2)又は(3)記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。」を削除する。 (3)訂正事項D D-1.同段落0019記載の 「Mo,Ni,Cu:これらは加工性を向上する元素であり、耐食性が問題となる用途ではMo,Ni,Cuのうち一種又は二種以上を組み合わせて添加する。それぞれ0.1%以上添加することにより効果が現れる。しかし、加工性を考慮すると上限はいずれも2%である。」の下線部の「加工性」を「耐食性」と訂正する。 D-2. 同段落0026の表1中に記載の「鋼種A、C、D、F、G、H、J」についての「本発明鋼」を「参考鋼」に訂正する。 同段落0028の表2中に記載の「鋼種A、C、D、F、G、H、J」についての「本発明鋼」を「参考鋼」に訂正する。 V.当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更等の存否について (1)訂正事項Aについて 訂正事項Aは、旧請求項1?3を削除し、旧請求項1を引用する旧請求項4について、「[Ti/Al]の値が5以上である」を「[Ti/Al]の値が5以上を満足し」として、旧請求項4を新請求項1に繰り上げ、独立形式とするとともに、旧請求項1に記載の「Al:0.005?0.1%」を「Al:0.01?0.1%」と限定するものであり、また、旧請求項4が引用していた旧請求項2、3を、新請求項1を引用する従属形式の新請求項2、3とするものであるから、請求項の削除、及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 また、訂正事項Aは、訂正前の明細書又は図面(以下「旧明細書等」という。)の段落0026の表1に、鋼種Bとして、「Al」の含有率0.01%の記載があるから、本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)訂正事項Bについて 訂正事項B-2、B-3、B-4は、訂正事項Aによって特許請求の範囲の記載が訂正されることに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものといえる。 また、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)訂正事項Dについて 訂正事項D-1は、以下の理由から、誤記の訂正を目的とするものと認められる。 (ア)段落0018には、「B、Nb、Zr:これらは加工性を向上する元素であり」と、段落0019記載の元素とは別の元素が加工性を向上すると記載されており、 (イ)訂正前の段落0019には、「Mo,Ni,Cu:これらは加工性を向上する元素であり、耐食性が問題となる用途ではMo,Ni,Cuのうち一種又は二種以上を組み合わせて添加する。それぞれ0.1%以上添加することにより効果が現れる。しかし、加工性を考慮すると上限はいずれも2%である。」と記載されているから、「Mo,Ni,Cu」は耐食性を向上する元素と解される。 訂正事項D-2は、訂正事項Aによって特許請求の範囲の記載が訂正されたことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、旧明細書の表1、2に記載した「本発明鋼」を、鋼種A?Jの内、B、E、Iのみに限定するものであるから、明りようでない記載の釈明を目的とするものといえる。 また、訂正事項D-1、D-2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号乃至第3号、第3項、第4項の規定に適合する。 2.訂正後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて (1)訂正後の発明 訂正後における特許請求の範囲の請求項1?3に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1?3」という。)は、上記手続補正書(審判請求書)に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものである(IV.(1)訂正事項A参照))。 (2)刊行物とその記載事項 本件訂正審判の請求人は、本件訂正審判請求書に添付して以下の刊行物1?3を提出した。 1 特開平9- 53155号公報 2 特開平9-217151号公報 3 特開平8-104950号公報 そして、上記刊行物1?3には、それぞれ発明の名称である 「耐リジング性と表面性状に優れたFe-Cr合金」、 「溶接性に優れたフェライト系ステンレス鋼」、 「連続鋳造性に優れるフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法」 についての発明が記載されている。 (3)対比・判断 刊行物1?3には、本件訂正発明1の特定事項である「最大径が0.05?2.0μmのMg系介在物が20個/mm^(2)以上の密度で存在し、且つ該Mg系介在物を覆ってTiNが存在していること」について記載も示唆もされておらず、しかもその点は、当業者が容易に想到することができたものではない。 そして、本件訂正発明1は、上記の特定事項により、訂正明細書(段落0020、0024)に記載の「凝固組織微細化の効果」を奏し、リジング特性及び溶接部の加工性を向上しているものと認められる。 したがって、本件訂正発明1は、上記刊行物1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、他に本件訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由も見あたらない。 本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2、3についても同じ判断である。 よって、本件訂正は、特許法第126条第5項の規定に適合する。 VI.まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項、第3項乃至第5項の規定に適合するので、本件訂正を認める。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 リジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】mass%で、 C :0.0005?0.08%、 Si:0.01?1.0%、 Mn:0.01?1.0%、 P :0.04%未満、 S :0.0001?0.01%、 Cr:10?25%、 Ti:0.01?0.8%、 Al:0.01?0.1%、 N :0.0005?0.08%、 Mg:0.0005?0.010% を含有し、[Ti/Al]の値が5以上を満足し、残部が鉄及び不可避不純物よりなるフェライト系ステンレス鋼であって、最大径が0.05?2.0μmのMg系介在物が20個/mm^(2)以上の密度で存在し、且つ該Mg系介在物を覆ってTiNが存在していることを特徴とするリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【請求項2】鋼成分として、さらにmass%で、 B :0.0005?0.005%、 Nb:0.05?0.5%、 Zr:0.0005?0.01% の1種もしくは2種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【請求項3】鋼成分として、さらにmass%で、 Mo:0.1?2.0%、 Ni:0.1?2.0%、 Cu:0.1?2.0% の1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明はリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関する。 【0002】 【従来の技術】 フェライト系ステンレス鋼は耐食性に優れており、多くの用途に用いられている。しかし、プレス成形や引張加工を行うと圧延方向に平行な凹凸が認められる場合がある。この凹凸はリジングと呼ばれ、表面の美麗性を損ねたり、それを回復させるための研磨工程を困難にするという問題が生じる。リジングの成因は必ずしも明確になっているわけではないが、次のように考えられている。リジングはプレス成形や引張加工時に結晶粒毎の塑性異方性に起因する。フェライト系ステンレス鋼の場合、α→γ完全変態(組織が100%γ相になること)がないため、凝固後の結晶粒が粗大である。この粗大組織は熱延中あるいは、冷延、焼鈍後に再結晶組織となり、微細で結晶粒方位が変化した組織となる。しかし、結晶粒の微細化や方位の変化(ランダム化)が不十分であると初期の粗大粒が圧延方向に展伸した場合と類似の組織となるため、圧延方向に平行な凹凸が生じることになる。 【0003】 これまでリジング特性の改善策として、下記のような対策がとられてきた。 ▲1▼凝固組織の微細化、ランダム方位化 ▲2▼製造工程中での粗大粒の微細化 ▲3▼製造工程中での粗大粒のランダム方位化 ▲1▼はリジングの成因となる粗大粒を初期から細かくしておく考え方に基づくものである。この具体的対策としては特開昭50-123294号公報などのように、粗大柱状晶の等軸微細化、方位ランダム化を目的とした電磁攪拌、凝固核の接種、鋳造温度の低下などがある。 ▲2▼は製造工程により、再結晶を促進させ、粗大粒を破壊する考え方に基づくものである。この具体的対策としては特開昭52-47513号公報、特開昭52-717号公報などのように、熱間圧延条件の適正化、焼鈍条件の適正化などがある。 ▲3▼はフェライト母相と硬度の異なる第2相を活用して結晶粒の方位を変化させる考え方に基づくものである。この具体的対策としては特開平1-111816号公報などのようにγ相あるいはマルテンサイト相を活用した圧延集合組織の方位ランダム化がある。しかしいずれの方法もそれ単独でリジング特性を皆無にすることは不可能であり、いくつかの技術を合わせることでリジングを抑制してきた。しかし、鋼種、製造工程によってはリジング抑制効果が現れないこともあった。 【0004】 また、フェライト系ステンレス鋼薄板の場合、溶接後に加工を施すと溶接部の延性が母材に比べて著しく低下し、溶接部より加工破断に至るという問題点がある。溶接部の加工性を向上する手法としては特開昭52-107220号公報、特開平4-228539号公報が公知で有る。これらの技術によって溶接部の加工性は向上するもののリジング特性が劣化する場合があった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 上記のようにフェライト系ステンレス鋼板を溶接後、加工(成形)した場合には、加工によるリジング発生と溶接部の加工性低下という2つの問題を解決する必要がある。本発明は、フェライト系ステンレス鋼薄板で熱延以降の製造工程及び条件を特に限定しなくともリジング特性及び溶接部の加工性の両特性が優れているフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的としたものである。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、特願平10-62766号(リジング)特願平10-62767号(溶接性)にてMg系酸化物の粒子が分散したステンレスにおいて上記問題点が解決できることを既に開示しているが、Alを必須としてさらに添加することにより、さらに確実に高い効果を得られることを見出すに至り本発明を完成させた。本発明者らは、実験室の溶解炉を用いてフェライト系ステンレス鋼の凝固組織に及ぼす添加元素の影響を調査した。その結果、TiとMgを含有した鋼において凝固組織の等軸晶率が増加し、等軸晶粒径が著しく細かくなる場合があることを発見した。さらに介在物を電子顕微鏡で詳細に調査した結果、凝固組織が微細である鋼塊には、図1に概略を示すようにMg系介在物が存在しており、さらにその周りをTi窒化物(TiN)が覆った状態で存在していた。この鋼塊を熱延、冷延、焼鈍後にリジング特性及び溶接部の加工性を調査した。リジングの評点は1、2、3、4の4段階とし、評価レベルは1:リジングが全くなし、2:目視では無いが粗度を測定すると若干凹凸がある、3:目視で認められる、4:目視で激しい凹凸が認められる、である。溶接部の加工性は、TIG溶接後、溶接部及び母材部についてエリクセン試験を行い調査した。その結果、Ti+Mg添加鋼は、熱延、冷延で特に条件を設けなくともリジング特性が1又は2と良好であった。また溶接部の加工性は向上し、母材に非常に近く、溶接部以外で破断する場合が認められた。 【0007】 さらにTi+Mg添加鋼の凝固組織に及ぼす他元素の影響を調査したところ、Ti+Mgによる微細化の程度はTi/Al量によって異なることを知見した。すなわち、Ti/Alが大きい場合には等軸晶の粒径が細かくなり、Ti/Alが小さい場合には等軸晶粒径がやや大きくなる。Ti/Al量を変化させたMg添加の鋼塊を溶製し、上記同様にリジング特性を調査した。リジング評点とTi/Al量の関係を図1に示す。図よりTi/Alが大きいほどリジング特性は良好であり、リジング評点がAになるのはTi/Alが5以上の場合である。 【0008】 本発明は上記知見に基づくものであって、その要旨とするところは以下の通りである。 (1)mass%で、 C :0.0005?0.08%、 Si:0.01?1.0%、 Mn:0.01?1.0%、 P :0.04%未満、 S :0.0001?0.01%、 Cr:10?25%、 Ti:0.01?0.8%、 Al:0.01?0.1%、 N :0.0005?0.08%、 Mg:0.0005?0.010% を含有し、[Ti/Al]の値が5以上を満足し、残部が鉄及び不可避不純物よりなるフェライト系ステンレス鋼であって、最大径が0.05?2.0μmのMg系介在物が20個/mm2 以上の密度で存在し、且つ該Mg系介在物を覆ってTiNが存在していることを特徴とするリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 (2)鋼成分として、さらにmass%で、 B :0.0005?0.005%、 Nb:0.05?0.5%、 Zr:0.0005?0.01% の1種もしくは2種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 (3)鋼成分として、さらにmass%で、 Mo:0.1?2.0%、 Ni:0.1?2.0%、 Cu:0.1?2.0% の1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載のリジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼。 【0009】 【発明の実施の形態】 以下本発明について詳細に説明する。なお、下記の説明における%とはmass%を示すものである。 C、N:C、Nを多量に添加すると加工性が低下するため、それぞれ上限は0.08%とした。一方、下限は精錬段階でのコストを考慮した場合には0.0005%である。加工用途等に用いる場合には、C、N共に0.0005?0.015%とすることが好ましい。 【0010】 Si:Siは脱酸元素として必要であるが多量の添加により加工性が低下する。したがって上限は1.0%とした。下限は脱酸効果を得るために0.01%とした。 【0011】 Mn:Mnは多量の添加により加工性を低下させる為、上限を1.0%とした。下限はコストの観点より0.01%とした。 【0012】 P:Pは加工性の点からは低い方が好ましく、0.04%未満とする必要がある。下限はコストの点から0.005%程度が望ましい。 【0013】 S:Sは多量に添加すると耐食性、加工性が低下するため、上限は0.01%とした。下限は近年の脱硫技術で極低化が可能であるので0.0001%とした。 【0014】 Cr:Crは10%未満ではステンレス鋼としての耐食性が不十分であり、25%を超えると靱性が低下する場合があるため、10?25%を範囲とした。また、Cr量が多くなると加工性が低下するため、加工用途としては10?19%が好ましい。 【0015】 Ti:Tiは本発明の課題であるリジング特性及び溶接部の加工性を向上させる重要な元素である。Mgと複合で添加した場合に凝固組織微細化効果を発揮するのは0.01%以上であり、これを下限とした。またTi量が多すぎると加工性の低下を招くため、上限を0.8%とした。 【0016】 Al:Alは加工性を向上する元素であるが、本発明の場合にはTi+Mgによる微細化効果を低減する為、低い方が好ましいので上限は0.1%とした。一方、Al量の低減により脱酸が困難になるため、下限は0.005%とした。 【0017】 Mg:Mgは本発明の課題であるリジング特性及び溶接部の加工性を向上させる重要な元素である。Tiと複合で添加した場合に凝固組織微細化効果を発揮するのは0.0005%でありこれを下限とした。また多量に添加してもその効果は飽和するため、0.010%を上限とした。 【0018】 B、Nb、Zr:これらは加工性を向上する元素であり、必要に応じてB、Nb、Zrのうち一種又は二種以上を組み合わせて添加する。B:0.0005%、Nb:0.05%、Zr:0.0005%以上添加することで効果が現れる。しかしB:0.005%、Nb:0.5%、Zr:0.01%より多くてもその効果は飽和する。 【0019】 Mo、Ni、Cu:これらは耐食性を向上する元素であり、耐食性が問題となる用途ではMo、Ni、Cuのうち一種又は二種以上を組み合わせて添加する。それぞれ0.1%以上添加することにより効果が現れる。しかし、加工性を考慮すると上限はいずれも2%である。 【0020】 さらに本発明では、Mg系介在物を覆ってTiNが存在することが重要となる。本発明で述べているような凝固組織の微細化の効果は、TiN、Mg系介在物が単独で存在していても発揮されない。Mg系介在物を覆ってTiNが存在することで初めて効果がある。Mg系介在物の最大径は0.05?2.0μmのサイズが必要であり、これより細かいと凝固組織微細化の効果が小さく、これより大きいと圧延キズを発生し易くなる。分布密度は20個/mm^(2)以上が必要となる。これより少ないと凝固組織微細化効果が低減する。上限は特に定める必要はない。Mg系介在物のサイズは、鋼塊及び鋼板の任意の断面において介在物の抽出レプリカあるいは薄膜を作成し、電子顕微鏡で調査する方法がよい。分布は、前述のごとく電子顕微鏡、あるいはEPMAを用いて調査する方法がよい。 【0021】 また、Mg系介在物を覆ってTiNが存在する為には、上記の成分系の溶鋼にMgを添加後、1時間以内に鋳造を開始すればよい。好ましくはMg添加後30min以内が良い。その他の鋳造条件(温度、速度等)は特に規定する必要がないが、低温鋳造、電磁攪拌等の公知の技術と組み合わせるとさらに効果は増大すると考えられる。 【0022】 また、[Ti/Al]の値は5以上であるとリジング特性が非常に良好となる。ここで、[Ti/Al]の値とは、[鋼に含有されるTi量/鋼に含有されるAl量]により求められる値である。この値は大きい方が安定的に良好なリジング特性が得られ、好ましくは10以上がよい。 【0023】 Mg系介在物とは、Mgを含有する介在物を示す。酸化物(MgO、MgAl2O4等)や硫化物(MgS)等いずれの組成でも良い。また「Mg系介在物を覆ったTiN」とは、図1に示すように電子顕微鏡で調査したときにMg介在物を囲むようにしてTiNが析出又は晶出している状態を示している。 【0024】 また上記のフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、通常、鋼塊を熱延、焼鈍、冷延、焼鈍するが、熱延板の焼鈍を省略しても、冷延途中に焼鈍を行っても、また熱延を省略しても、良好なリジング特性及び溶接部の加工性が得られる。溶接は、溶融凝固の工程をであれば良く、方法はTIG、MIG、シーム等いずれの方法でも本発明の効果は発揮される。 【0025】 【実施例】 以下に本発明の実施例を示す。 [実施例1] 表1に示すフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱延後、冷延、焼鈍等により0.4?1.0mmの鋼板を作成した。鋼板の板厚中心部の介在物を電子顕微鏡により調査し、Mg系介在物を覆ったTiNが存在するかどうかを調査した。また鋼板より採取した引張試験片でリジング特性評価試験を、また鋼板をTIG突き合わせ溶接後、エリクセン試験による加工性評価試験を行った。リジングの評点は前述のように、1:リジングが全くなし、2:目視では無いが粗度を測定すると若干凹凸がある、3:目視で認められる、4:目視で著しく激しい凹凸が認められる、である。 【0026】 【表1】 【0027】 各種評価結果を表2に示す。本発明鋼は比較鋼に比べてリジング特性が優れており、溶接部の加工性が良好であった。 【0028】 【表2】 【0029】 [実施例2] Mgを添加し、Ti/Alの比を変化させたフェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱延後、冷延、焼鈍等により0.4?1.0mmの鋼板を作成した。鋼塊の成分を表3に示す。鋼板の板厚中心部の介在物を電子顕微鏡により調査し、Mg系介在物を覆ったTiNが存在するかどうかを調査した。また鋼板より採取した引張試験片でリジング特性評価試験及び鋼板をTIG突き合わせ溶接後、エリクセン試験による加工性評価試験を行った。 【0030】 【表3】 【0031】 各種評価結果を表4に示す。Ti/Alが大きいほどリジング特性が優れており、溶接部の加工性が良好であった。特にTi/Alが5以上の鋼種ではリジング評点が1であった。 【0032】 【表4】 【0033】 【発明の効果】 本発明は鋼成分及び介在物を規定することにより、熱延以降の製造工程及び条件を規定することなく、リジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1はTiN覆われたMg系介在物の析出形態を模式的に示した図である。 【図2】 図2はMg添加鋼のリジング評点とTi/Al比の関係を示す図である。 【符号の説明】 1 Mg系介在物 2 TiN |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審決日 | 2009-04-24 |
出願番号 | 特願平10-371188 |
審決分類 |
P
1
41・
841-
Y
(C22C)
|
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
山田 靖 山本 一正 |
登録日 | 2003-07-04 |
登録番号 | 特許第3448498号(P3448498) |
発明の名称 | リジング特性及び溶接部の加工性に優れたフェライト系ステンレス鋼 |
代理人 | 田中 久喬 |
代理人 | 内藤 俊太 |
代理人 | 田中 久喬 |
代理人 | 内藤 俊太 |