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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61B
管理番号 1197420
審判番号 無効2008-800153  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-15 
確定日 2009-03-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第2760471号発明「平衡障害評価装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2760471号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 理 由
1 手続の経緯
本件の特許第2760471号に係る出願は,平成6年3月11日に特許出願され,その後の平成10年3月20日に,その請求項1に係る発明につき,特許の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人より平成20年8月15日に本件請求項1に係る発明について無効審判の請求がなされたものである。そして,本件無効審判における経緯は,以下のとおりである。

平成20年 8月15日 無効審判請求(甲第1?4号証の提出)
平成20年11月 7日 答弁書
12月26日 弁駁書(参考資料1の提出)

2 本件発明
本件特許第2760471号に係る発明(平成6年3月11日出願,平成10年3月20日設定登録。以下,「本件特許発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載の次のとおりのものである。
「【請求項1】 検出板に乗せられた被検体の各足にかかる荷重中心を連続的に検出して前記被検体の重心位置を算出し、この重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換して重心位置の時間の経過に伴う軌跡を求め、この軌跡の全長である総軌跡長を算出するとともに、当該軌跡によって形成された軌跡図形の最外周線の内側の面積である外周面積を算出し、前記総軌跡長をL、外周面積をDとすると、
L/D値を算出することを特徴とする平衡障害評価装置。」

3 請求人の主張
これに対して,請求人は,本件発明の特許を無効とする,との審決を求め,その理由として,
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている単位面積軌跡長の目的及び効果に関する記載は、本件特許出願が行われた平成6年3月11日当時(平成6年の改正法が施行された平成7年1月1日より前の当時)の特許法第36条第4項(以下、「特許法第36条第4項」と略称する。)に違反しており、特許法第123条第1項第4号に基づく無効理由が存在する。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲に記載されている単位面積軌跡長(L/D)における総軌跡長Lと外周面積Dとの関係につき、特許法第36条第4項及び同5項に違反しており、特許法第123条第1項第4号に基づく無効理由が存在する。
と主張し,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第4号証を提出している。

4 被請求人の主張
一方,被請求人は,(1)に対して 「本件発明のL/D値がどのようなケースで妥当性が高く、どのようなケースで妥当性が低くなるかが、後の研究によって明らかにされたとしても、本件発明は、本件発明に後続する研究の基本、開拓的発明になっているから、むしろその貢献、特許性が尊重される関係になる。したがって、本件発明のL/D値の妥当性が低くなるケースが後に報告されても、本件特許を無効にする理由には及ばない。」,(2) に対して,「データの分布の特徴、傾向を言葉で描写のために「逆比例」「比例」との文言を比喩的、近似的に引用しているのであり、データの分布それ自体は厳密に言えばそれぞれ図5、図6、図7に示すとおりであり、それらのデータが数学上の「比例」等の単純な関数で扱えないことは、当業者にとって自明である。」旨主張している。

5 甲第1号証ないし甲第4号証
甲第1号証は,本件特許公報である。
甲第2号証(五島桂子著「重心動揺検査の検討」と題する論文」(学術雑誌”EQUILIBRIUM RESEAR”Vol.45,No.4:1986年12月日本平衡神経科学会発行))には,「1)重心動揺検査をコンピュータを用いて行った。精密重心動揺検査としては,単位軌跡長,最長動揺径,面積,棄却楕円の長短軸比と長軸の傾き,座標中心,振幅確率密度分布(標準偏差,歪度,尖度),速度,ベクトル(位置ベクトル,速度ベクトル),パワースペクトルを測定して,動揺の特徴,大きさ、拡がり,偏り,散らばり,中心,速度,周波数を把握することが必要であることをのべた。」(第386頁左欄17?24行)と記載されている。
甲第3号証(長山郁生外6名著「重心動揺検査における距離と面積の関係について」と題する論文」(学術雑誌”EQUILIBRIUM RESEAR”Vol.46,No.3:1987年9月日本平衡神経科学会発行))には,「重心動揺検査における軌跡長は,検査時間とともに増大すると考えられるが,動揺面積については,時間とともに指数関数的に増大し,約60秒間で一定量の大きさに達した後は,わずかしか増大がみられないといわれる。したがって,60秒間の検査時間内においては,距離と面積は比例的な関係にあり,両者はよく相関すると考えられる。正常者においては,とくに閉眼の場合,両者はよく相関するということができるが,末梢性めまい患者群においては必ずしもこの関係はあてはまらない。」(第224頁右欄8?16行)と記載されている。
甲第4号証(伊藤正男外2名編「医学大辞典」)には,「パーキンソン病」について「パーキンソンが1817年に発表した論文「An Essay on the Shaking Palsy」の中で初めて記載した疾患。多くは孤発性で中年以後に発症する。無動,固縮,振戦、姿勢反射障害の4運動徴候が主症候(写真はパーキンソン病の前屈姿勢)で,これらに便秘・膏顔<あぶらがお>などの自律神経症候,うつ状態・思考緩徐などの精神症候を伴う原因不明の進行性の疾患。振戦は安静時に発現し,運動時にはむしろ減少する傾向があり,安静時振戦と呼ばれ,疾患特異性が高い。しかし,病名に用いられている振戦を欠く例も少なくないことがシャルコー(Charcot JM)により早くから指摘されている。病理学的には黒質緻密層のドパミン含有細胞,青斑核のノルアドレナリン含有細胞の変性脱落,これら細胞内又は無名質などにレヴィ招待と呼ばれる細胞内封入体がみられる特徴がある。治療としてL-ドパ製剤,最近開発された各種ドパミン受容体作動薬などを用いる。最近,遺伝性を示す家系が報告され,その遺伝子座が決定されている。」と記載されている。

6 当審の判断
無効理由1について
36条4項について
本件発明は「・・・平衡障害評価装置。」であるから平衡障害を評価する装置に関するものである。
ここで「評価」の意味を考えると,平衡障害の評価の結果に客観的な技術的意味を持たせるためには,判別の基準等を用いて,正常,異常等に分けることが普通は必要であると考えられる。
一方,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,平衡障害の評価については,段落【0019】に,「平衡障害の病態を評価する方法について図8?図12を参照して説明する。」と記載され,段落【0029】に「以上,実際の症例から明らかなように・・・単位面積軌跡長であるL/D値を算出し、この値によって平衡障害の病態を評価することによって,直立動揺の病態を詳細に把握することができる。」と記載され,段落【0031】に「【発明の効果】以上説明したように、本発明の平衡障害評価装置によれば、・・・単位面積軌跡長であるL/D値を算出することができる。・・・その値が長くなるほど自己受容性制御が行われるので、この値によって前記被検体の平衡障害の病態を評価することによって、直立動揺の病態を詳細に把握することができる。」と記載されている。
しかしながら,図8?図12の説明は,患者の測定結果の例であるが,何ら平衡障害の病態の評価に関する判別の基準等が示されていないので,これらの測定結果から平衡障害の病態の評価ができることを示したものとはとてもいえない。
さらに,健常者の測定例のグラフである図3と患者の測定例のグラフである図8とを比較すると,単位面積軌跡長であるL/D値は,健常者のものと患者のものは,ほとんど重なっており,単位面積軌跡長であるL/D値から,健常者か患者かの評価をするための適切な判別の基準が存在するとは,これらのグラフからは考えられないので,単位面積軌跡長であるL/D値から,健常者か患者かの評価は不可能であると言える。
そうすると,患者をさらに細分することになる,平衡障害の病態の評価も当然不可能であると考えられる。
また,明細書全体を精査しても,単位面積軌跡長であるL/D値を用いて平衡障害を評価することの技術的な裏付けとなる記載が存在しない。
してみると,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の構成要件である平衡障害を評価するための裏付けとなる根拠と,その効果が全く記載されていないというほかはない。
したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,効果が記載されているといえないから,本件特許明細書は,特許法36条4項に規定する要件を満たしていないというべきである。

無効理由2について
36条5項2号について
本件発明は「・・・平衡障害評価装置。」であるから平衡障害を評価する装置に関するものである。
ここで,無効理由1同様に「評価」の意味を考えると,平衡障害の評価の結果に,客観的な技術的意味を持たせるためには,判別の基準等を用いて,正常,異常等に分けることが普通は必要であると考えられる。
ところが,特許請求の範囲の請求項1には,単位面積軌跡長であるL/D値を算出することまでは記載されているが,該単位面積軌跡長であるL/D値から平衡障害の評価をするための具体的な構成が記載されていない。
そうすると ,特許請求の範囲の請求項1には,本件発明の必須の構成が記載されているものとは言えない。
したがって,本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあるといえないから,本件特許明細書は,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていないというべきである。

7 むすび
以上のとおりであるから,本件特許は,特許法第36条4項及び5項2号に規定する要件を具備しない特許出願に付与されたものであるから,本件特許は,同法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条2項において準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-26 
結審通知日 2009-01-07 
審決日 2009-02-05 
出願番号 特願平6-41592
審決分類 P 1 113・ 531- Z (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 福田 聡
信田 昌男
登録日 1998-03-20 
登録番号 特許第2760471号(P2760471)
発明の名称 平衡障害評価装置  
代理人 荒船 博司  
代理人 荒船 良男  
代理人 上原 考幸  
代理人 赤尾 直人  
代理人 山田 益男  

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