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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1197779
審判番号 不服2006-7188  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-04-13 
確定日 2009-05-21 
事件の表示 特願2001-113459「情報記録方法及び情報記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月25日出願公開、特開2002-312934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判の請求に係る特許出願(以下「本願」という。)は、平成13年4月12日の出願であって、平成17年12月15日付け最後の拒絶理由通知に対して、平成18年2月20日付けで手続補正がなされたが、平成18年3月9日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、平成18年4月13日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。
その後、平成20年11月4日付けで前置報告書の内容を利用した審尋がなされ、平成21年1月7日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成18年4月13日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年4月13日付けの手続補正を却下する。

[理 由]
1.手続補正の内容
平成18年4月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前に
「【請求項1】
所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録方法において、
少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとし、それに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc≦2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする情報記録方法。
【請求項2】
複数個連結させた加熱冷却パルス中の最先端部の加熱冷却パルスを除き、
前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc≦2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1記載の情報記録方法。
【請求項3】
0.2≦tw/(tw+tc)≦0.8なる条件を併せて満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の情報記録方法。
【請求項4】
nを3以上の整数とする所定の周期nTの間連続するマークを前記光学的情報記録媒体に記録するとき、複数個連結された加熱冷却パルスの合計長さが、nT-1.5T?nT+0.5Tである加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし3の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項5】
マークを形成しない期間は、Pb<Pe<Pwなる中間パワーレベルPeのレーザ光を連続的に前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項6】
一部のマーク長の光学的マークの形成時に、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が、各々共通になるようにした組合せで連結させた加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項7】
連結させた加熱冷却パルスのうち、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値を調整自在としたことを特徴とする請求項6記載の情報記録方法。
【請求項8】
前記光学的情報記録媒体が相変化型記録媒体であることを特徴とする請求項1ないし7の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項9】
所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させさせながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録装置において、
少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとしそれに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc≦2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させるレーザ光源制御手段を備えることを特徴とする情報記録装置。
【請求項10】
前記レーザ光源制御手段は、複数個連結させた加熱冷却パルス中の最先端部の加熱冷却パルスを除き、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc≦2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9記載の情報記録装置。
【請求項11】
前記レーザ光源制御手段は、0.2≦tw/(tw+tc)≦0.8なる条件を併せて満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9又は10記載の情報記録装置。
【請求項12】
前記レーザ光源制御手段は、nを3以上の整数とする所定の周期nTの間連続するマークを前記光学的情報記録媒体に記録するとき、複数個連結された加熱冷却パルスの合計長さが、nT-1.5T?nT+0.5Tである加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし11の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項13】
前記レーザ光源制御手段は、マークを形成しない期間は、Pb<Pe<Pwなる中間パワーレベルPeのレーザ光を連続的に前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし12の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項14】
前記レーザ光源制御手段は、一部のマーク長の光学的マークの形成時に、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が、各々共通になるようにした組合せで連結させた加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし13の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項15】
前記レーザ光源制御手段は、連結させた加熱冷却パルスのうち、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が調整自在であることを特徴とする請求項14記載の情報記録装置。
【請求項16】
前記光学的情報記録媒体が相変化型記録媒体であることを特徴とする請求項9ないし15の何れか一記載の情報記録装置。」

とあったものを、

「【請求項1】
所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録方法において、
少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとし、それに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc<2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする情報記録方法。
【請求項2】
複数個連結させた加熱冷却パルス中の最先端部の加熱冷却パルスを除き、
前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc<2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1記載の情報記録方法。
【請求項3】
0.2≦tw/(tw+tc)≦0.8なる条件を併せて満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の情報記録方法。
【請求項4】
nを3以上の整数とする所定の周期nTの間連続するマークを前記光学的情報記録媒体に記録するとき、複数個連結された加熱冷却パルスの合計長さが、nT-1.5T?nT+0.5Tである加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし3の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項5】
マークを形成しない期間は、Pb<Pe<Pwなる中間パワーレベルPeのレーザ光を連続的に前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし4の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項6】
一部のマーク長の光学的マークの形成時に、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が、各々共通になるようにした組合せで連結させた加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにしたことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項7】
連結させた加熱冷却パルスのうち、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値を調整自在としたことを特徴とする請求項6記載の情報記録方法。
【請求項8】
前記光学的情報記録媒体が相変化型記録媒体であることを特徴とする請求項1ないし7の何れか一記載の情報記録方法。
【請求項9】
所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させさせながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録装置において、
少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとしそれに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc≦2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させるレーザ光源制御手段を備えることを特徴とする情報記録装置。
【請求項10】
前記レーザ光源制御手段は、複数個連結させた加熱冷却パルス中の最先端部の加熱冷却パルスを除き、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
1.5T≦tw+tc<2T
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9記載の情報記録装置。
【請求項11】
前記レーザ光源制御手段は、0.2≦tw/(tw+tc)≦0.8なる条件を併せて満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9又は10記載の情報記録装置。
【請求項12】
前記レーザ光源制御手段は、nを3以上の整数とする所定の周期nTの間連続するマークを前記光学的情報記録媒体に記録するとき、複数個連結された加熱冷却パルスの合計長さが、nT-1.5T?nT+0.5Tである加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし11の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項13】
前記レーザ光源制御手段は、マークを形成しない期間は、Pb<Pe<Pwなる中間パワーレベルPeのレーザ光を連続的に前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし12の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項14】
前記レーザ光源制御手段は、一部のマーク長の光学的マークの形成時に、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が、各々共通になるようにした組合せで連結させた加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射させることを特徴とする請求項9ないし13の何れか一記載の情報記録装置。
【請求項15】
前記レーザ光源制御手段は、連結させた加熱冷却パルスのうち、最先端部分の加熱冷却パルス及び後端部分の加熱冷却パルスの各設定値が調整自在であることを特徴とする請求項14記載の情報記録装置。
【請求項16】
前記光学的情報記録媒体が相変化型記録媒体であることを特徴とする請求項9ないし15の何れか一記載の情報記録装置。」

と補正しようとするものである。

すると、本件補正のうち請求項1についての補正は、請求項1に係る発明を特定するためのに必要な事項である「前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が」満足すべき条件を、本件補正前に「1.5T≦tw+tc≦2T」とあったものを、本件補正後に「1.5T≦tw+tc<2T」と限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正における特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-7277号公報(以下「刊行物」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【請求項1】 記録媒体にエネルギービームを照射し、複数の長さの記録符号を各々互いに分離した複数の記録マークからなる記録マーク列として、あるいは前記の記録マーク列とするか、1個の記録マークとするかを選択して前記記録媒体上に所定の配列で記録することによって情報を記録する情報の記録方法において、
個々の記録符号を、前記複数の長さの記録符号のうちの最短の記録符号の整数分の1の長さを有する基本符号、又は前記基本符号の長さの整数倍以外の長さでかつ前記基本符号の長さの3.5分の1以上3.5倍以下の長さを有する非整数倍符号、あるいはそれらの組み合わせによって構成し、前記基本符号と前記非整数倍符号をそれぞれ1つの記録パルスに対応させ、各記録パルスは前記記録媒体上に各々独立した記録マークを形成することを特徴とする情報の記録方法。」

(2)「【請求項8】 前記記録媒体は書き換え可能な記録媒体であり、前記1つの記録パルスは高いパワーレベルの期間とそれに続く消去パワーレベルよりも低いパワーレベルの期間を含むことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項記載の情報の記録方法。」

(3)「【0015】また、基本符号と組み合わせる非整数倍符号は必ずしも1種類に限られない。例えば、記録符号が1.5T、2T、2.5T、3T、3.5T、4Tからなる変調方式において、基本符号を1.5T、非整数倍符号を2T及び2.5Tの2種類とすると全ての記録符号を基本符号と非整数倍符号の組み合わせによって構成することができる。
【0016】本発明の記録方法は、記録媒体と、前記記録媒体を移動させる手段と、レーザ光源と、前記レーザ光源からのレーザ光を前記記録媒体上に集光する手段と、記録すべき信号を記録符号に変換する信号変調手段と、前記変換された個々の記録符号を最短の記録符号の整数分の1の長さを有する基本符号、前記基本符号の長さの整数倍以外の長さでかつ前記基本符号の長さの3.5分の1以上3.5倍以下の長さを有する非整数倍符号、あるいはそれらの組み合わせに分解する符号器と、前記分割された符号に対応した記録パルスを発生させる記録パルス生成手段と、前記記録パルスによって前記レーザ光源を駆動するレーザ光源駆動手段とを含み、複数の長さの記録符号を各々1個の記録マーク又は互いに分離した複数の記録マークからなる記録マーク列として前記記録媒体上に所定の配列で記録することによって情報を記録する情報の記録装置によって実現される。」

(4)「【0021】
【実施例】以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
〔実施例1〕本発明を、サンプルサーボ方式を用いた書き換え型光ディスクに適用した例について説明する。
【0022】図1は、ディスクの構造断面図を示したものである。まず直径3.5インチ、厚さ0.6mmのサンプルサーボ方式対応のピットが表面に形成されたポリカーボネート基板1上に、マグネトロンスパッタリング法によって厚さ約125nmのZnS-SiO_(2) 保護層2を形成した。次に、Ge_(22)Sb_(22)Te_(56)の組成の記録膜3を約30nmの膜厚に形成した。次に、ZnS-SiO2 中間層4を約20nmの膜厚に形成した。さらに、Al-Ti反射層5を約100nm形成した。これらの膜形成は同一スパッタリング装置内で順次行った。その後、この上に紫外線硬化樹脂層6を塗布した後、ホットメルト接着剤7で、同じ構造のもう一枚のディスクとの密着貼りあわせを行った。
【0023】本発明では、基本符号と異なる長さの記録符号を検出する手段、これらの記録符号を、1個又は複数個の基本符号、1個又は複数個の非整数倍符号、又はこれらの組み合わせに分割する手段、分割した符号に対応した各マークを正確に形成するための記録パルス幅及び照射パワーを決定する制御器、決定された最適な条件の記録波形によって半導体レーザの駆動電流を変調するレーザ駆動器、レーザ駆動器によって駆動された半導体レーザからのレーザ光を記録膜面上に集光する手段及びディスクを回転させる手段を有する記録装置を用いた。
【0024】図2は、本実施例の記録再生に用いた装置の構成図の一例を示したものである。まず記録すべき元信号(A)を変調器8に入力し、(1,7)RLL変調符号に変換する。変換された記録符号列を、所定の規則に従って基本符号と非整数倍符号とを組み合わせた複数の符号に分割する符号器9に入力する。そしてこの符号器9で分割された各符号に対応した記録マークのエッジ位置を正確に決めるためのレーザパルス幅及びレーザ照射パワーを決定する制御器10を通って、記録パルスを生成する記録波形生成器11により最適のレーザ変調信号が出力される。そしてこのレーザ変調信号に従ってレーザ駆動器12が半導体レーザの駆動電流を変調し、回転しているディスク14上に光学ヘッド13を通してレーザ光を集光して照射し、記録マーク列を形成する。
【0025】本実施例では、変調方式として(1,7)RLL符号を用いた場合における記録方法の一例を説明する。(1,7)RLL符号の最短の記録符号は2T符号であり、最長の記録符号は8T符号である。ここで高密度化を図るという観点からは、最短の2T符号の記録マーク径を小さくする必要が有る。しかし、本実施例では実用的なS/Nを得るため、最短の2T符号により形成される記録マーク径よりも小さい記録マークを用いない。すなわち、本実施例では最短記録符号2Tを分割せずにそのまま基本符号とする。非整数倍符号は、基本符号の1.5倍の3T符号とした。表1に(1,7)RLL符号におけるそれぞれの記録符号に対応する組み合わせの一例を示した。」

上記摘示事項を、図面とともに総合整理すると、刊行物には次の発明が記載されているものと認める。
「記録パルスを発生し、前記記録パルスによってレーザ光源を駆動し、書き換え型光ディスク上に光学ヘッドを通してレーザ光を集光して照射し、複数の長さの記録符号を各々1個の記録マーク又は互いに分離した複数の記録マークからなる記録マーク列として前記記録媒体上に所定の配列で記録することによって情報を記録する情報の記録方法において、
1つの記録パルスは高いパワーレベルの期間とそれに続く消去パワーレベルよりも低いパワーレベルの期間を含み、
個々の記録符号を、前記複数の長さの記録符号のうちの最短の記録符号の整数分の1の長さを有する基本符号、又は前記基本符号の長さの整数倍以外の長さでかつ前記基本符号の長さの3.5分の1以上3.5倍以下の長さを有する非整数倍符号、あるいはそれらの組み合わせによって構成し、前記基本符号と前記非整数倍符号をそれぞれ1つの記録パルスに対応させ、各記録パルスは前記記録媒体上に各々独立した記録マークを形成し、
最短の記録符号が2T符号であるとき、基本符号を2T符号とし、非整数倍符号を3T符号とする
情報の記録方法。」(以下「刊行物発明」という。)

3.対比
(a)刊行物発明の「記録パルスを発生し、前記記録パルスによってレーザ光源を駆動し、書き換え型光ディスク上に光学ヘッドを通してレーザ光を集光して照射し、複数の長さの記録符号を各々1個の記録マーク又は互いに分離した複数の記録マークからなる記録マーク列として前記記録媒体上に所定の配列で記録することによって情報を記録する情報の記録方法」は、「最短の記録符号が2T符号」で、記録パルスが「高いパワーレベルの期間とそれに続く消去パワーレベルよりも低いパワーレベルの期間」を含むものであって、また、書き換え型光ディスクに記録されるデータが、所定のビット周期Tで入力され、所定の周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有することは明らかであるから、本願補正発明の「所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録方法」に相当する。
(b)刊行物発明の「記録パルス」の「高いパワーレベルの期間」は、本願補正発明の「前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅」である「tw」に相当し、「記録パルス」の「それに続く消去パワーレベルよりも低いパワーレベルの期間」は「それに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅」である「tc」に相当する。
(c)刊行物発明の「記録パルス」のパルス幅は「高いパワーレベルの期間とそれに続く消去パワーレベルよりも低いパワーレベルの期間」とを含むもので、本願補正発明の「加熱冷却パルス」幅である「tw+tc」に相当する。
(d)刊行物発明の「基本符号」は「最短の記録符号の整数分の1の長さを有する」符号であって、(所定の範囲)を満足する符号である点で、本願発明の「加熱冷却パルスの少なくとも1組」と共通する。
(e)刊行物発明の「非整数倍符号」は、「3T符号」であって、「2T≦tw+tc≦3T」を満足するから、本願補正発明の「他の組」に相当する。
(f)刊行物発明の「記録符号を、」「基本符号」と「非整数倍符号」「の組み合わせによって構成し、」「前記基本符号と前記非整数倍符号をそれぞれ1つの記録パルスに対応させ、」「記録マークを形成し、」「基本符号を2T符号とし、非整数倍符号を3T符号とする」は、「少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとし、それに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、(所定の範囲)を満足し、前記加熱冷却パルスの他の組が、2T≦tw+tc≦3Tを満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射する」点で、本願補正発明と共通する。

したがって、本願補正発明と刊行物発明との[一致点]及び[相違点]は以下のとおりである。
[一致点]
「所定のビット周期T毎に“1”,“0”の2値の何れかの状態を有し、同一のビット状態が2T周期以上保持されるような配列規則による入力データビット列を、所定のビット周期Tで入力し、レーザ光源の記録レーザパワーを、高パワーレベルPwと低パワーレベルPbとが交互に現われるように変化させながらレーザ光を光学的情報記録媒体に照射することで、入力データビット列に応じて複数の長さの光学的マークを前記光学的情報記録媒体に記録する情報記録方法において、
少なくとも一つの長さの前記光学的マークを記録する場合、前記高パワーレベルPwによる加熱パルスのパルス幅をtwとし、それに続く前記低パワーレベルPbによる冷却パルスのパルス幅をtcとする加熱冷却パルスの複数個を連結させて用いながら記録するときに、前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が、
(所定の範囲)
を満足し、他の組が、
2T≦tw+tc≦3T
を満足する加熱冷却パルスによるレーザ光を前記光学的情報記録媒体に照射するようにした情報記録方法。」の点。

[相違点]
本願補正発明の加熱冷却パルスの「少なくとも1組が、1.5T≦tw+tc<2Tを満足」すると特定されるのに対して、刊行物発明では、そのような特定がなされていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
刊行物(上記適示事項(3)参照)には、「基本符号」「非整数倍符号」の組み合わせとして、「2T符号」「3T符号」以外に「1.5T符号」「2T符号(2.5T符号)」を採用できることが記載されている。そして、「基本符号」は、「最短の記録符号の整数分の1の長さを有する」ものであるから、刊行物発明において、最短の記録符号を3Tとした時に、基本符号を3Tの2分の1である「1.5T符号」、非整数倍符号として「2T符号(2.5T符号)」を採用して、本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到しうることである。

そして、上記相違点についての判断を総合しても本願補正発明の奏する効果は、刊行物から当業者が十分予測可能なもので格別のものではない。

したがって、本願補正発明は、上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成18年4月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至16に係る発明は、平成18年2月20日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至16に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」)は、「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2.刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由で引用された刊行物及びその記載事項は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明の「前記加熱冷却パルスの少なくとも1組が」満足するべき条件をが「1.5T≦tw+tc<2T」との限定を削除し「1.5T≦tw+tc≦2T」としたものに相当する。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]4.」に記載したとおり、刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、回答書において、補正案を提示し、補正の機会を要求している。
しかし、平成14年改正前特許法第17条の2第1項第3号に規定する明細書の補正をできる時期を徒過しており、また、補正できる期間内に補正することができなかった合理的理由があると認めることもできない。
そして、上記のとおり、本願発明を拒絶すべきものとした原審の判断は妥当なものであって、当審で新たな拒絶の理由を発見していない。
したがって、本願について、補正の機会を設けるには及ばない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-03-23 
結審通知日 2009-03-24 
審決日 2009-04-09 
出願番号 特願2001-113459(P2001-113459)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 信一  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 横尾 俊一
漆原 孝治
発明の名称 情報記録方法及び情報記録装置  
代理人 伊東 忠彦  

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