【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41D
管理番号 1198427
審判番号 無効2006-80082  
総通号数 115 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-05-09 
確定日 2009-04-13 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3784398号「保形性を有する衣服」(以下「本件特許」という。)の特許無効審判事件についてなされた平成20年1月8日付けの審決に対し、知的財産高等裁判所において、本件の請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す旨の判決(平成20年行ケ第10053号 平成20年6月12日判決言渡)があったので、当該取り消された部分についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 請求項1についての訂正及び明細書段落番号【0006】についての訂正を認める。 特許第3784398号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.原特許出願(特願2004-208966号):平成16年7月15日
2.原特許出願の一部を新たな特許出願とした本件特許出願:平成17年3月29日
3.設定登録:平成18年3月24日
4.請求人:三井化学株式会社(以下「請求人」という。)による無効審判の請求:平成18年5月9日(5月10日受付)
5.被請求人:シー・コム株式会社(以下「被請求人」という。)による答弁書及び訂正請求書の提出:平成18年7月28日(7月31日受付)
6.口頭審理の実施:平成18年10月6日
当日、請求人、被請求人の双方から口頭審理陳述要領書が提出された。
7.被請求人による上申書の提出:平成18年10月20日(10月23日受付)
8.請求人による上申書の提出:平成18年10月23日(10月24日受付)
9.「訂正を認める。特許第3784398号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」という。):平成19年1月5日
なお、第1次審決については、平成19年3月6日に「訂正を認める。特許第3784398号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。」との更正決定がなされた。
10.被請求人による審決取消訴訟(平成19年(行ヶ)第10058号 以下「第1次審決取消訴訟」という。)の提起:平成19年2月13日
11.被請求人による訂正審判(訂正2007-390058)の請求:平成19年5月10日(同年5月11日受付)
12.知的財産高等裁判所による第1次審決の取消決定:平成19年6月29日
13.被請求人による訂正請求(以下「本件訂正請求」という。):平成19年7月26日(7月27日受付)
なお、本件訂正請求により、上記11の訂正審判は、特許法第134条の3第4項の規定により取り下げられたものとみなされ、また、上記5の訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることになった。
14.請求人による弁駁書の提出:平成19年9月18日(9月19日受付)
15.無効理由の通知:平成19年10月30日(11月2日発送)
16.被請求人による意見書の提出:平成19年12月3日(12月4日受付)
17.上記13の訂正請求による訂正を認めないとした上で、「特許第3784398号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第2次審決」という。):平成20年1月8日
18.被請求人による審決取消訴訟(平成20年(行ヶ)第10053号 以下「第2次審決取消訴訟」という。)の提起:平成20年2月15日
19.知的財産高等裁判所による第2次審決取消訴訟についての判決言渡:平成20年6月12日
なお、この判決の主文は、次のとおりである。
「1 特許庁が無効2006-80082号事件について平成20年1月8日にした審決中,特許第3784398号の請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。」
そして、同判決第3頁の(4)には、
「なお,本件審決は、本件訂正を認めないとしたものの,本件訂正後の請求項2に係る発明及びこれを引用する本件訂正後の請求項3に係る発明について,実質的に進歩性を否定する判断を示しているところ,原告は,本訴の第1回弁論準備手続期日(平成20年4月24日)において,本件審決中、特許第3784398号の請求項2及び3に係る各発明についての特許を無効とした部分の取消しを求めた部分について、審決取消事由を主張することなく,当該部分について訴えを取り下げ,被告はこれに同意した(第1回弁論準備手続調書)。これにより,本件審決中、特許第3784398号の請求項2及び3に係る各発明についての特許を無効とした部分は,確定した。」と示されている。
上記判示によれば、第2次審決のうち、特許第3784398号の請求項2、3に係る発明についての特許を無効とした部分は確定しているから、本件無効審判請求事件における審理の対象は、訂正請求による訂正の適否を含め、本件特許の請求項1に関する部分に限定されることになった。
第2 請求人主張の概要
無効審判請求書、平成18年10月23日付けの上申書、平成19年9月18日付けの弁駁書等を総合すると、本件特許の請求項1に係る発明についての特許に対し、請求人が主張する無効理由は、概略、次のとおりである。
1.訂正事項1は、実質上本件特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではなく、また、訂正事項5は明りょうでない記載の釈明に該当せず、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号、同条第5項で準用する同法第126条4項に規定する要件を満たしていない。
2.本件特許の請求項1に係る発明は、下記証拠方法に示す甲第1号証ないし甲第6号証、参考資料1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができない発明である。
【証拠方法】
甲第1号証:特開平7-238417号公報
甲第2号証:実願昭59-49518号(実開昭60-161123号)のマイクロフィルム
甲第3号証:実用新案登録第3063552号公報
甲第4号証:特開2002-309422号公報
甲第5号証:実願昭60-106196号(実開昭62-15508号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開平8-170206号公報
(以上無効審判請求書により提出)
参考資料1:Fashion Free Paper『F*mode』Vol.1 2003-2004 Winter創刊号(抜粋)
参考資料2:『St.VERMEER』Autumn & Winter Collection 2003-2004(抜粋)
(以上平成18年10月23日付けの上申書により提出)
第3 平成19年10月30日付けで通知した無効理由の概要
平成19年10月30日付けで通知した無効理由は、本件訂正請求による訂正を認めないとした上で、本件特許の請求項1に係る発明は、上記のとおり請求人が提出した、甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができない発明である。
第4 被請求人主張の概要
答弁書、口頭審理陳述要領書、上申書、平成19年12月3日付けの意見書等を総合すると、本件訂正請求による訂正は適法になされたものであるとしたうえで、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、請求人が提出したいずれの証拠においても、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」、この袋に「曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通した」という構成が記載も示唆もなされていない。
したがって、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、請求人が提出した証拠に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正事項1ないし6のうち、本件特許の請求項1に係る発明に関するものは、次の訂正事項1、2、5である。
(a)訂正事項1
請求項1における「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正する。
(b)訂正事項2
請求項1における「保形成」を、「保形性」と訂正する。
(c)訂正事項5
【課題を解決するための手段】のうち、請求項1に対応する明細書段落番号【0006】の「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正が、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該訂正は、「明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができ、特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において、付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や、その記載から自明である事項である場合には、そのような訂正は、特段の事情のない限り、新たな技術的事項を導入しないものと解すべきである。
以上を前提として、本件訂正事項1、2及び5が明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるか否かを検討する。
(1-1)本件明細書の記載
訂正前の本件特許請求の範囲、明細書(以下、これらを合わせて「本件明細書」ということがある。)には、次の記載がある。
(a)「【請求項1】衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形成を有する衣服。」
(b)「【0017】シャツ10には、保形性を備えるために、すなわち、衣服の立体的形状を自在に変化させ、その形状を保持させるために、適宜位置に、変形自在且つ形状保持可能なワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
例えば、図2や図4に示す如く、襟付きシャツ10では、襟13と、襟口(襟の開き部分)14、袖12の下部、身頃11の下部、ポケット15の縁、ポケットフラップ15aの縁に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられ、Tシャツ40では、袖12の下部、身頃11の下部に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられている。」
(c)「【0019】前記ワイヤ20は、衣服の表側に露出しないように、裏側に取り付けられる。
例えば、図7に示す如く、衣服の表側を構成する主布17の裏側に、別布19を縫合して袋を形成し、該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けることができる。
本実施例では、図8に示す如く、布地のボーダー柄の副布16の裏側に別布19をあてて、副布16と別布19との間に袋を形成し、ここにワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けている。」
(d)「【0021】シャツ10の襟13の近傍においては、図9(a)に示す如く、襟13の周縁と、襟口14の周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図9(b)に示す如く、襟13を立てた状態で保持させることができる。また、襟13の一部を曲げたり、襟口14を波立たせたり、シャツを立体的に整形し、その状態を保持することができる。」
(e)「【0022】シャツ10のポケット15部分では、図10(a)に示す如く、ポケット15の開口の周縁と、ポケットフラップ15aの周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図10(b)に示す如く、ポケット15を身頃11から浮き立たせて立体的に整形し、また、ポケットフラップ15aを上方へ反り上がった状態に立体的に整形し、これらの立体的に整形された状態を状態を保持することができる。」
本件明細書の各記載によれば、【請求項1】には、衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成することが記載されており(記載(a)参照)、段落【0017】には、ワイヤの取付位置として、襟、襟口(襟の開き部分)、袖の下部、身頃の下部、ポケットの縁、ポケットフラップの縁が記載されており(記載(b)参照)、段落【0019】には、ワイヤの取付構造(方法)として、衣服の表側を構成する主布の裏側に、別布を縫合して袋を形成し、この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されており(記載(c)参照)、段落【0021】には、ワイヤの取付位置として、襟の周縁、襟口の周縁が記載されており(記載(d)参照)、段落【0022】には、ワイヤの取付位置として、ポケットの開口の周縁、ポケットフラップの周縁が、それぞれ記載されている(記載(e)参照)。
すなわち、本件明細書には、
・「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」することが記載され(【請求項1】)、
・ワイヤの取付位置として、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁」が記載され(段落【0017】、【0021】及び【0022】)、
・ワイヤの取付構造(方法)として、「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成」すること、この袋の内部にワイヤを挿通させることが記載されている(段落【0019】)といえる。
そうすると、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成」して、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁」にワイヤを取り付けるに当たり、「衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成」し、この袋の内部にワイヤを挿通させるようにすることは、本件明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、当業者であれば、本件明細書の記載から自明である事項として、認識することができるというべきである。
上記検討したところによれば、訂正事項1は、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、訂正事項1は、登録の請求項1に「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」とあるのを、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正することにより、袋を形成する箇所から衣服の身頃、襟口を削除するとともに、袋を形成する態様を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
このような訂正により、発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく、全く別個の発明と評価されるものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の「保形成」を「保形性」と訂正するものであって、本件明細書の段落【0004】、【0006】、【0014】における「・・・保形性を有する衣服・・・」との記載から、「保形成」が「保形性」の誤記であることは明白であり、誤記の訂正を目的とするものに該当し、新規事項を追加するものでもない。
このような訂正により、発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく、全く別個の発明と評価されるものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(3)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1による訂正に伴い、発明の詳細な説明の欄における【課題を解決するための手段】を整合させるため、段落【0006】に「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」とあるのを「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正するものであり、不明りょうな記載の釈明を目的とするものに該当する。
このような訂正により、発明の課題ないし目的が異なるものとなるわけではなく、全く別個の発明と評価されるものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件訂正請求において、請求項1に係る発明に関する訂正事項1、2及び5は、いずれも新規事項を追加するものではなく、それぞれ特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び不明りょうな記載の釈明を目的とするものに該当し、しかも、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明に関する訂正事項1、2及び5は、特許法第134条の2第1項、及び同条第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項に適合するので、本件特許の請求項1に係る発明について訂正を認める。
第6 本件特許発明
以上のとおり、本件訂正請求の請求項1に係る発明に関する訂正は認められるべきものであるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形性を有する衣服。」
第7 各甲号証に記載された発明
甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証ないし甲第6号証及び参考資料1、参考資料2に記載された発明について検討する
1.甲第1号証:特開平7-238417号公報
甲第1号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【請求項1】極限粘度数[η]が3.5dl/g未満のポリエチレンの溶融固化物又は前記ポリエチレンと他のポリオレフィンとの混合溶融固化物を延伸して塑性変形性が付与された延伸物からなり、塑性変形性として、前記延伸物の180度及び90度折曲げによる戻り角度が共に20度以下を示し、且つ最大厚み部の厚さが0.25mm以上である糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料。」(【特許請求の範囲】)
(b)「本発明は、特に針金や金網に代わる結束材、ネット等として有用な糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料に関する。」(【0001】)
(c)「本発明の塑性変形性ポリエチレン材料は、そのまま単独で、或は同種材料又は他の繊維、フィルム、シート等の材料と組合せて(前記ポリエチレン材料に他のプラスチックフィルム又はシートを一体的に被覆したような複合体を含む)、包装、果樹棚等の結束材として、また自在形状保持性が要求される織物及び編物(例えば洋服の芯材、Yシャツのカラー芯材、帽子の縁部分等)として利用することができる。」(【0035】)
以上の記載及び図面を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「カラーに、糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料であって、自在形状保持性を有する芯材を設けたYシャツ。」
2.甲第2号証:実願昭59-49518号(実開昭60-161123号)のマイクロフィルム
甲第2号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「ナイロンタフタ等の如く薄い生地よりなる被服において、縁部の布帛が、芯紐を巻き込み縫合されていることを特徴とする被服の縁部。」(実用新案登録請求の範囲)
(b)「本考案はナイロンタフタの如き薄い生地よりなる被服の縁部に関するものであり、その目的とするところは、縁部がカールすることがない被服を簡便に提供するにある。例えばナイロンタフタの如き薄い生地よりなるワンピース、ネグリジェ、ブラウス等各種の衣料の衿縁、袖口縁、前立縁、裾縁等各種の縁部は、通常三巻縫、三ツ折り縫等の方法によつて縫製されていた。ところがこのような縫製の方法によると、縁部がカールし易いものであり、ナイロンタフタ地のような極薄の生地のような場合には特にカールし易く、また、特に衿縁、やコーナー部分のように生地がバイヤスとなつている箇所では特にひどくなる傾向があつた。本考案者は、このような欠点のない縁部、すなわち最もカールし易い極薄生地を用いて、仮 それがバイヤス使いとなるような箇所での縁部とされてもカールすることなく張りのある整然とした仕上がりである縁部を得るべく鋭意検討し、種々試みた結果、各種衣料の衿縁、袖口縁、前立縁、裾縁等の縁部において、縁部となる布帛に芯紐を巻き込んで縫合し、縁部とすることによつてよくその目的を達することができ、本考案を得たものである。」(明細書1頁9行?2頁下から4行)
(c)「この説明では芯紐10を巻き込むに際して布帛9を三巻縫、あるいは三ツ折縫によって説明したが、芯紐10を巻き込み縫合するには、これら三巻縫、三ツ折縫に限ることなく、他の任意の手段によつても良い。また、上記ブラウスにあつては、ブラウスが有する縁部は、前立縁、裾縁、袖口縁、衿縁の4箇所として示し、このうち衿縁8だけが芯紐10を巻き込んで縫合されて縁部とされたように説明したが、この衿縁8だけに限らず残りの全部の縁部に施されてもよく、あるいは任意の箇所の縁部にのみ施されてもよい。」(明細書第3頁11行?4頁4行)
(d)「本考案において用いられる芯紐は製紐手段によつて得られる紐に限ることなく、例えば紡績糸、撚糸、合撚糸等の如きものであつてもよい。」(明細書第5頁6?8行)
以上の記載及び図面を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲第2号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「衿縁、袖口縁、前立縁、裾縁等の縁部において、布部に芯紐を巻き込んで縫合した被服。」
3.甲第4号証:特開2002-309422号公報
甲第4号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【請求項2】スカーフの周縁に変形可能な線材を設けた形状安定スカーフ」(特許請求の範囲)
(b)「・・・この特許は、スカーフの周縁に変形可能な線材を施し、スカーフ生地に張りを保たせてあるので、使用するときに、自由自在に形づくれ、生地の伸張性の作用を利用しているので、自然なウエーブを醸し出し、形が持続するものである。」(【0004】)
4.甲第5号証:実願昭60-106196号(実開昭62-15508号)のマイクロフィルム
甲第5号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「幼児用よだれかけにおいて、被覆線(7)を、首接触部(1)の周縁を除いたその他の周縁(8)に埋設し、胸あて部(9)の周縁の左右にそれぞれひも(10)をつけたよだれかけ。」(実用新案権登録請求の範囲)
(b)「被覆線(7)の埋設された周縁(8)を折り曲げることにより、腹あて部(11)を、胸あて部(9)に対してL字形状やレの字形状などになるように前方につき出して、固定する。又、折り曲げた被覆線(7)を元にもどしてまっすぐにして従来通りの形で使用することもできる。」(明細書第2頁13?18行)
5.甲第6号証:特開平8-170206号公報
甲第6号証には、次の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【請求項1】被服に形成されるポケットにおいて、該ポケットの開口部の少なくとも一方の端縁部に形状記憶合金部材を被封状態として装着してなる被服のポケット。」(特許請求の範囲)
(b)「【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明では被服に形成されるポケットにおいて、該ポケットの差入れ開口部の少なくとも一方の端縁部に形状記憶合金部材を被封状態として装着してなる被服のポケットを提供することを目的としている。他の目的は、開口部に形状記憶合金部材を被封状態として装着することにより長期間の着用や洗濯等によるポケット開口部の上下端縁部の型崩れや変形、或いは不均整な垂れ下がり等を防止でき、外観上も体裁、見栄えの良いポケットの開口部を縫製上も簡易かつ有利に得ることにある。上記被服、すなわち上衣及び/又は下衣に形成せられるポケットに形状記憶合金部材を装着する位置及び構成は該開口部の適当な箇所とすることができるが、まず外観デザイン上の見栄えを損なうことなく、また被服の着用者が物品を頻繁に出し入れするとき妨げとならず、さらに身体に圧迫や違和感を与えず、かつ着用時或いは洗濯、保管時を問わず、該部材の一部が突き出す等の危険性を防止するため、例えば両端に樹脂被覆体等を施した構成とすることが適当である。」(【0005】)
6.参考資料1:Fashion Free Paper『F*mode』Vol.1 2003- 2004 Winter創刊号(抜粋)
参考資料1の第56頁には、「ウールストライプワイヤー入りシャツ」という商品に関し、
「襟&袖口にワイヤー入りで、自由自在にシルエットをアレンジできちゃう優れモノ。」と記載されている。
なお、参考資料1は、その第159頁、第160頁の記載等から、少なくとも本願の原出願である特願2004-208966号の出願日(平成16年7月15日)前に頒布された刊行物といえる。
7.参考資料2:『St.VERMEER』Autumn & Winter Collection 2003-2004(抜粋)
参考資料2の第198頁には、「スタイリッシュ・タウンウエア-トップトポロ」という商品に関し、左端に「衿先のフリル部分にワイヤーを入れて自由に形づけられるようにしたジャケット。」と記載されている。
なお、参考資料2は、添付された証明書等から、少なくとも本願の原出願である特願2004-208966号の出願日(平成16年7月15日)前に頒布された刊行物といえる。
第8 対比・判断
1.本件特許発明と甲第1号証発明との対比・判断
【対比】
本件特許発明と甲第1号証発明とを対比すると、引用発明の「Yシャツ」は衣服に含まれるものであり、そのカラーは襟に相当する。
また、甲第1号証発明において、自在形状保持性を有する織物、編物をカラー芯材に用いることは、Yシャツの襟に沿って、曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能する素材を配置することにほかならない。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
衣服の襟に沿って、曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能な素材を配置した保形性を有する衣服。
【相違点】
本件特許発明においては、曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能な素材が、ワイヤであって、衣服の襟の周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して、袋を形成し、この袋にワイヤを挿通しているのに対し、甲第1号証発明においては、糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料であって、自在形状保持性を有する織物、編物を、Yシャツのカラー、すなわち衣服の襟の芯材として使用している点。
【判断】
甲第1号証発明において、芯材の材質や形状を適宜選択することは、自在形状保持性等を与えるべき対象やその態様等に応じ、当業者が適宜選択し得る程度の設計的事項と解されるところ、甲第4号証ないし甲第6号証には、スカーフ、幼児用よだれかけや、被服に形成されるポケットの周縁に、それぞれ変形可能な線材、被覆線や形状記憶合金部材を配置することが示されている。
さらに、参考資料1及び参考資料2には、襟や襟先に、変形可能なワイヤを入れて、自由に形状を変更し、その変形形状を保持可能にすることが示されており、これらを総合すると、曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能な素材として、ワイヤを用いることは本願出願前より周知の技術(以下「周知技術1」という。)といえる。
一方、衣服に形状保持用部材を配置するに当たり、表布の裏側に別布を縫合して袋状の収容部を形成することは、例えば特開2000-129501号公報、実願平1-27404号(実開平2-118701号)のマイクロフィルム、昭和15年実用新案出願公告第2043号公報にみられるように本願出願前より周知の技術(以下「周知技術2」という。)である。
以上の周知技術1、2を総合すれば、甲第1号証発明において、自在形状保持性を有する織物、編物をカラー芯材をワイヤー状のものとし、表布の裏側に別布を縫合して形成した袋状の収容部に挿通することにより、本件特許発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、変形形状を保持可能なワイヤーを、表布の裏側に別布を縫合して形成した袋状の収容部に挿通したことにより、衣服の保持性等の観点から格別の効果が奏されるものとも解されない。
2.本件特許発明と甲第2号証発明との対比・判断
【対比】
本件特許発明と甲第2号証発明とを対比すると、甲第2号証発明の「被服」は、衣服ということができ、その「衿縁の縁部」は、衣服の襟の周縁に相当する。
そして、甲第2号証発明の「カールを防止する芯紐」と、本件特許発明の「波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤ」とは、その機能、形状等からみて、「形状保持可能な線状部材」の限りで一致し、甲第2号証発明の被服も保形性を有する衣服といえることは明白である。
また、甲第2号証において、芯紐を巻き込んで縫合することは、布を縫合して形成した袋に芯紐を挿入することにほかならない。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
衣服の襟の周縁に沿って、形状を保持可能な線状部材を、布を縫合して形成した袋に挿入した保形性を有する衣服。
【相違点】
本件特許発明においては、形状を保持可能な線状部材が、曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能な素材がワイヤであって、衣服の襟の周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し、この袋にワイヤを挿通しているのに対し、甲第2号証発明においては、芯紐を布部に巻き込んで縫合している点。
【判断】
甲第2号証発明の「芯紐」は、「製紐手段によって得られる紐に限ることなく、例えば紡績糸、撚糸、合撚糸等」(甲第2号証の記載(d)参照)であり、こうした芯紐は、程度の差こそあれ、種々変形自在であり、当該芯紐を縁部に用いた衣服は、「カールすることなく張りのある整然とした仕上がり」(同記載(b)参照)となるのであるから、この芯紐は、その変形形状をある程度保持可能であることも明らかである。
しかも、甲第2号証発明においては、芯紐を布部を巻き込んで袋状にした収容部に挿通しているということができるから、前述の周知技術1、2を総合すれば、甲第2号証発明の「芯紐」を、自由に形状を変更し、その変形形状を保持可能なものとし、主布の裏側に別布を縫合して形成した収容部に挿通することにより、本件特許発明の相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、変形形状を保持可能なワイヤーを、表布の裏側に別布を縫合して形成した袋状の収容部に挿通したことにより、衣服の保持性等の観点から格別の効果が奏されるものとも解されない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明は、上述した周知技術1、2を勘案すれば、甲第1号証発明あるいは甲第2号証発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法123条1項2号の規定により、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
別掲 審決
無効2006- 80082
東京都港区東新橋1丁目5番2号
請求人 三井化学 株式会社
東京都文京区本郷4丁目2番8号 フローラビルディング8階 庄子特許事務所
代理人弁理士 庄子 幸男
大阪府大阪市西区立売堀2丁目1番14号 ビジネスゾーン本町西4F
被請求人 シー・コム 株式会社
大阪府大阪市中央区城見二丁目1番61号ツイン21MIDタワー34階 矢野内外国特許事務所
代理人弁理士 矢野 寿一郎
上記当事者間の特許第3784398号「保形性を有する衣服」の特許無効審判事件についてされた平成19年 1月 5日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の決定(平成19年行ケ第10058号平成19年6月29日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結 論
特許第3784398号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理 由
1.手続の経緯
(1)出願 平成17年3月29日
(2)設定登録 平成18年3月24日(特許第3784398号)
(3)無効審判請求(請求人 三井化学株式会社) 同年5月9日
(4)答弁書及び訂正請求書(被請求人 シー・コム株式会社) 同年7月28日
(5)口頭審理 同年10月6日
(6)口頭審理陳述要領書(請求人) 平成18年10月6日
(7)口頭審理陳述要領書(被請求人)平成18年10月6日
(8)上申書(被請求人) 平成18年10月20日
(9)上申書(請求人) 平成18年10月23日
(10)審決 平成18年12月19日
(11)更正決定 平成19年3月6日
(12)訂正請求書 平成19年7月26日
(13)弁駁書 平成19年9月18日
(14)無効理由通知 平成19年10月30日
(15)意見書 平成19年12月3日
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
a.訂正事項1
請求項1の「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して、袋を形成し」と訂正する。
b.訂正事項2
請求項1の「保形成」を「保形性」と訂正する。
c.訂正事項3
請求項2の「前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の保形成を有する衣服」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって、前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し、前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする、保形性を有する衣服」と訂正する。
d.訂正事項4
請求項3の「保形成」を「保形性」と訂正する。
e.訂正事項5
段落【0006】の「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し」と訂正する。
f.訂正事項6
段落【0007】の「前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せて熱溶着することによって端部処理されたものとするものである」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって、前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し、前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものである」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
a.訂正事項1
訂正事項1は、請求項1における「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し」を「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して、袋を形成し」と訂正しようとするものである。
訂正請求人は、訂正請求書(3頁下から3行?4頁19行)において、上記の訂正事項1についての請求理由を下記のとおり述べている。
「これは、袋の構成及び袋の位置を限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、願書に添付した明細書の段落番号[0019]には『衣服の表側を構成する主布17の裏側に、別布19を縫合して袋を形成し、該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付ける』ことが記載されている。そして、願書に添付した明細書の段落番号[0017]には『襟付きシャツ10では、襟13と、襟口(襟の開き部分)14、袖12の下部、身頃11の下部、ポケット15の縁、ポケットフラップ15aの縁に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられ』ることが記載されている。よって訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲における訂正であり、準用する特許法第126条第3項の規定に適合するものである。さらに、訂正事項1は、特許請求の範囲に記載された『袋』の構成及び位置を限定するものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。」
しかしながら、本件特許の「【請求項1】の「袋」とは、「両端が閉じられた状態の筒状部材を指す。」(当審の第1回口頭審理調書)ものであり、当該袋は、「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って」(請求項1)形成されているものである。確かに、明細書の段落番号[0019]には、「衣服の表側を構成する主布17の裏側に、別布19を縫合して袋を形成し、該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付ける」ことが記載されており、また明細書の段落番号[0017]には「襟付きシャツ10では、襟13と、襟口(襟の開き部分)14、袖12の下部、身頃11の下部、ポケット15の縁、ポケットフラップ15aの縁に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられ」ることが記載されているが、段落番号[0017][0019]のいずれにも、「衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して、袋を形成」することは記載されていないし、明細書の他の記載及び図面を参照しても、当該記載は存在しない。また、本件の願書に添付された明細書又は図面の何処にも記載されておらず、また、本件の願書に添付された明細書又は図面の記載から自明の事項ということはできないから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものに該当しない。
すなわち、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的にしたものでなく、本件願書に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を要件とするものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものである。
b.訂正事項2、4
当該訂正事項は、「保形成」を「保形性」と訂正するものであり、誤記の訂正に該当する。この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
c.訂正事項3
当該訂正事項は、「保形成」を「保形性」と訂正するとともに、請求項1の従属形式であった請求項を独立形式とした上で、ワイヤの構成及び位置を限定するものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
d.訂正事項5
当該訂正事項は、訂正事項1に伴って生じた明細書の訂正であり、この訂正は、訂正事項1と同様、特許請求の範囲の減縮を目的にしたものでなく、本件願書に添付した明細書又は図面に記載されていない事項を要件とするものであり、かつ実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものである。
e.訂正事項6
当該訂正事項は、訂正事項3に伴って生じた明細書の訂正であり、この訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおり、当該訂正は、特許法134条の2第5項で準用する同法126条3項、4項に規定する要件を満たしていないから却下されるべきである。
3.本件の発明
以上のとおり、訂正請求は却下されるので、特134条の2第4項の規定により、本件の発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形成を有する衣服。」(以下、「本件発明1」という。)
「【請求項2】前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の保形成を有する衣服。」(以下、「本件発明2」という。)
「【請求項3】前記ワイヤを、樹脂製ワイヤとすることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の保形成を有する衣服。」(以下、「本件発明3」という。)
4.無効理由及び当審の判断
(1)引用例1?引用例8に記載された発明
当審の平成19年10月30日付無効理由通知で引用した引用例1?引用例8には以下の事項が記載されている。
ア.引用例1(審判請求人が提出した甲1号証(特開平7-238417号公報))には、下記の点が記載されている。
a.「【請求項1】極限粘度数[η]が3.5dl/g未満のポリエチレンの溶融固化物又は前記ポリエチレンと他のポリオレフィンとの混合溶融固化物を延伸して塑性変形性が付与された延伸物からなり、塑性変形性として、前記延伸物の180度及び90度折曲げによる戻り角度が共に20度以下を示し、且つ最大厚み部の厚さが0.25mm以上である糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料。」(【特許請求の範囲】)
b.「本発明は、特に針金や金網に代わる結束材、ネット等として有用な糸状又は帯状塑性変形性ポリエチレン材料に関する。」(【0001】)
c.「本発明の塑性変形性ポリエチレン材料は、そのまま単独で、或は同種材料又は他の繊維、フィルム、シート等の材料と組合せて(前記ポリエチレン材料に他のプラスチックフィルム又はシートを一体的に被覆したような複合体を含む)、包装、果樹棚等の結束材として、また自在形状保持性が要求される織物及び編物(例えば洋服の芯材、Yシャツのカラー芯材、帽子の縁部分等)として利用することができる。」(【0035】)
そうすると、引用例1には、「そのまま単独で、或は同種材料又は他の繊維等の材料と組合せて、自在形状保持性が要求される織物及び編物(例えば洋服の芯材、Yシャツのカラー芯材、帽子の縁部分等)として利用することができる糸状等の塑性変形性ポリエチレン材料。」に係る発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
イ.引用例2(審判請求人が提出した甲2号証(実願昭59-49518号(実開昭60-161123号公報)のマイクロフィルム))には、下記の点が記載されている。
d.「ナイロンタフタ等の如く薄い生地よりなる被服において、縁部の布帛が、芯紐を巻き込み縫合されていることを特徴とする被服の縁部。」(実用新案登録請求の範囲)
e.「本考案はナイロンタフタの如き薄い生地よりなる被服の縁部に関するものであり、その目的とするところは、縁部がカールすることがない被服を簡便に提供するにある。例えばナイロンタフタの如き薄い生地よりなるワンピース、ネグリジェ、ブラウス等各種の衣料の衿縁、袖口縁、前立縁、裾縁等各種の縁部は、通常三巻縫、三ツ折り縫等の方法によつて縫製されていた。ところがこのような縫製の方法によると、縁部がカールし易いものであり、ナイロンタフタ地のような極薄の生地のような場合には特にカールし易く、また、特に衿縁、やコーナー部分のように生地がバイヤスとなっている箇所では特にひどくなる傾向があった。本考案者は、このような欠点のない縁部、すなわち最もカールし易い極薄生地を用いて、仮 それがバイヤス使いとなるような箇所での縁部とされてもカールすることなく張りのある整然とした仕上がりである縁部を得るべく鋭意検討し、種々試みた結果、各種材料の衿縁、袖口縁、前立縁、裾縁等の縁部において、縁部となる布帛に芯紐を巻き込んで縫合し、縁部とすることによってよくその目的を達することができ、本考案を得たものである。」(1頁9行?2頁下から4行)
f.「この説明では芯紐10を巻き込むに際して布帛9を三巻縫、あるいは三ツ折縫によって説明したが、芯紐10を巻き込み縫合するには、これら三巻縫、三ツ折縫に限ることなく、他の任意の手段によっても良い。また、上記ブラウスにあつては、ブラウスが有する縁部は、前立縁、裾縁、袖口縁、衿縁の4箇所として示し、このうち衿縁だけが芯紐10を巻き込んで縫合されて縁部とされたように説明したが、この衿縁8だけに限らず残りの全部の縁部に施されてもよく、あるいは任意の箇所の縁部にのみ施されてもよい。」(3頁11行?4頁4行)
g.「本考案において用いられる芯紐は製紐手段によって得られる紐に限ることなく、例えば紡績糸、撚糸、合撚糸等の如きものであってもよい。」(5頁6?8行)
そうすると、引用例2には、「ブラウス等の被服において、衿縁等の縁部の布帛が、芯紐を三巻縫、三ツ折縫等により巻き込み、縫合されており、カールすることなく張りのある整然とした仕上がりであって、形状を保持可能な被服の縁部。」に係る発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。
ウ.引用例3(審判請求人が提出した甲3号証(登録実用新案第3063552号公報))には、下記の点が記載されている。
h.「【請求項1】エプロンの首廻り装着部に、弾性復元力を有する切り離した円形状の合成樹脂製ワイヤを取り付け、首廻り装着部を使用者の首廻りに着脱自在としたことを特徴とするエプロン。」(実用新案権登録請求の範囲)
エ.引用例4(審判請求人が提出した甲4号証(特開2002-309422号公報))には、下記の点が記載されている。
i.「【請求項2】スカーフの周縁に変形可能な線材を設けた形状安定スカーフ。」(特許請求の範囲)
j.「・・・この特許は、スカーフの周縁に変形可能な線材を施し、スカーフ生地に張りを保たせてあるので、使用するときに、自由自在に形づくれ、生地の伸張性の作用を利用しているので、自然なウエーブを醸し出し、形が持続するものである。」(【0004】)
オ.引用例5(審判請求人が提出した甲5号証(実願昭60-106196号(実開昭62-15508号)のマイクロフィルム))には、下記の点が記載されている。
k.「幼児用よだれかけにおいて、被覆線(7)を、首接触部(1)の周縁を除いたその他の周縁(8)に埋設し、胸あて部(9)の周縁の左右にそれぞれひも(10)をつけたよだれかけ。」(実用新案権登録請求の範囲)
l.「被覆線(7)の埋設された周縁(8)を折り曲げることにより、腹当て部(11)を、胸あて部(9)に対してL字状やレの字状などになるように前方につき出して、固定する。又、折り曲げた被覆線(7)を元にもどしてまっすぐにして従来通りの形で使用することもできる。」(2頁13?18行)
カ.引用例6(審判請求人が提出した甲6号証(特開平8-170206))には、下記の点が記載されている。
m.「【請求項1】被服に形成されるポケットにおいて、該ポケットの開口部の少なくとも一方の端縁部に形状記憶合金部材を被封状態として装着してなる被服のポケット。」(特許請求の範囲)
n.「【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明では被服に形成されるポケットにおいて、該ポケットの差入れ開口部の少なくとも一方の端縁部に形状記憶合金部材を被封状態として装着してなる被服のポケットを提供することを目的としている。他の目的は、開口部に形状記憶合金部材を被封状態として装着することにより長期間の着用や洗濯等によるポケット開口部の上下端縁部の型崩れや変形、或いは不均整な垂れ下がり等を防止でき、外観上も体裁、見栄えの良いポケットの開口部を縫製上も簡易かつ有利に得ることにある。上記被服、すなわち上衣及び/又は下衣に形成せられるポケットに形状記憶合金部材を装着する位置及び構成は該開口部の適当な箇所とすることができるが、まず外観デザイン上の見栄えを損なうことなく、また被服の着用者が物品を頻繁に出し入れするとき妨げとならず、さらに身体に圧迫や違和感を与えず、かつ着用時或いは洗濯、保管時を問わず、該部材の一部が突き出す等の危険性を防止するため、例えば両端に樹脂被覆体等を施した構成とすることが適当である。」(【0005】)
キ.引用例7(審判請求人が提出した参考資料3(実願平4-4536号(実開平5-56905号)のCD-ROM))には、下記の点が記載されている。
o.「【実施例】以下、本考案の実施例としてブラジャーカップの保形用芯材で説明する。1は表面を合成樹脂で被覆した金属線材や硬質合成樹脂線材をバストのカップ部下端に合わせて半円形状に形成したカップ保形芯材である。この保形芯材1を図2に示すように、厚さ方向tに同一形状の保形芯材1a,1bを並列状に引揃え当接させ、その両端部に樹脂キャップ2,2を嵌め、熱融着で一体的に固定したものである。図2においては、保形芯材1a,1b同志を重ね合わせたが、図3に示すように、保形芯材1aと1b間に適宜の間隙部3を存して配設することもある。」(段落【0006】)
ク.引用例8(審判請求人が提出した参考資料5(実願平5-63424号(実開平7-28905号)のCD-ROM))には、下記の点が記載されている。
p.「・・・本考案の被覆用芯材は、金属のより線からなる芯線と、この芯線を覆うように一体成形された合成樹脂膜とを備え、両端部が屈曲されていることを特徴とする。・・・上記において、塑性変形しにくい材質の線材としては、形状記憶合金又はアモルファス合金が好ましく用いられ、塑性変形しやすい材質の線材としては、ステンレス、硬鋼線又はピアノ線が好ましく用いられる。本考案の更にまた別の好ましい態様においては、前記両端部に、合成樹脂によるディッピング処理が施されている。
」(段落【0012】?【0016】)。
q.「本考案の被覆用芯材は、その両端部を屈曲させたので、より線を構成する線材が屈曲部で一体化し、中央に配置された線材や、剛性の高い線材など、より線を構成する線材の一部が他の線材の端部から突出して、合成樹脂膜から飛び出し、身体に刺さるようなことが防止される。」(段落【0017】)
r.「更に、芯線の両端部に、合成樹脂によるディッピング処理を施した場合には、芯線をより確実に抜け止めすることができ、また、両端の屈曲部をなめらかな形状に形成することができる。」(段落【0024】)
s.「図5には、本考案による被服用芯材の更に別の実施例が示されている。この被服用芯材31は、図1、2に示した実施例と基本的には同じであるが、その両端部に芯線をより確実に抜け止めするためのキャップ状の合成樹脂被覆32が形成されている点が異なっている。このような合成樹脂被覆32は、芯材31の両端部を屈曲させた後、合成樹脂液にディッピングするなどの方法により形成することができる。図6には、本考案による被服用芯材の更に他の実施例が示されている。この被服用芯材41は、図1、2に示した実施例と基本的には同じであるが、その両端部がループ状に屈曲されている点が異なっている。」(段落【0031】【0032】)
(2)対比・判断
(a)本件発明1について
本件発明1と引用発明2とを対比する。本件発明1と引用発明2とは、いずれも「衣服」に関する発明である点で同じである。そして、本件発明1にいう「袋」とは、明細書の記載を参照すると、「両端が閉じられた状態の筒状部材」の意味である。なお、本件発明1における「保形成」は「保形性」の誤記であることは明らかである。
また、引用発明2の「縁部」、「芯紐」、「被服」は、それぞれ本件発明の「袋」、「ワイヤ」、「衣服」に相当する。
そこで、本件発明1と引用発明2とを対比すると、両者は、
「衣服の身頃、襟、襟口、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋を形成し、該袋に形状を保持可能な芯材を挿通したことを特徴とする保形性を有する衣服。」
の点で一致し、
芯材が、本件発明1では「曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤ」であるのに対し、引用発明2のものは、「形状を保持可能な芯紐」である点で互いに相違する(相違点1)。
上記相違点1について検討する。
本件発明1の「ワイヤ」と引用発明2の「芯紐」とは、その名称は異なるが、両者ともに、衣服の縁部に使用し、衣服の形状を保持可能とする機能を有するものであるから、実質的に同じものであるといえる。
引用発明2の「芯紐」は、「製紐手段によって得られる紐に限ることなく、例えば紡績糸、撚糸、合撚糸等」(上記5(1)イ.g)であり、当該芯紐自体が曲げたり波立たせたり変形自在であることは、自明のことである。また、当該芯紐を縁部に用いた衣服は、「カールすることなく張りのある整然とした仕上がり」(上記5(1)イ.e)となるのであるから、当該芯紐は、衣服の形状を保持可能であることも明らかである。
また、本件発明1の「ワイヤ」は、衣服の縁部を変形させ、「その変形形状を保持可能」とするものであるが、この点については、例えば、引用例4においても、「使用するときに、自由自在に形づくれ、生地の伸張性の作用を利用しているので、自然なウエーブを醸し出し、形が持続する」(上記5(1)エ.j)と記載されているとおり、「その変形形状を保持可能」なものであり、さらに、引用例5においても「被覆線(7)の埋設された周縁(8)を折り曲げることにより、腹当て部(11)を、胸あて部(9)に対してL字状やレの字状などになるように前方につき出して、固定する。」(上記5(1)オ.l)と記載されているとおり、「その変形形状を保持可能」としている。
そうすると、本件発明1のワイヤが「曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能」とした点は、本件出願前周知の技術的事項にすぎないものである。
したがって、本件発明1は、引用発明2と引用例4、5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た程度にすぎないものといえる。
(b)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に、「ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理されたものである」点を付加したものである。
そこで、本件発明2と引用発明2とを対比すると、両者は、上記相違点1のほか、本件発明1の「ワイヤ」は、「該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理されたものである」のに対し、引用発明2のものは、縁部にワイヤを用いるものの、ワイヤの端部の処理については明らかでない点(相違点2)、において互いに相違する。
上記相違点1については、前掲のとおりであるので、相違点2について検討する。
衣服の分野において、ポケットの縁部等に、ワイヤの端部処理として、その両端に樹脂製の被覆体等を被せることは、引用例6に記載されている(上記5(1)カ.n参照)。また、「ワイヤの端部に樹脂製の筒状部分を被せて熱溶着することによって端部処理」ことは、引用例7に記載されている(上記5(1)キ.o参照)。そして、「ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂を被せて端部処理」することも、引用例8に記載されている(上記5(1)ク.s参照)。
そうすると、引用例6?8に記載された技術手段は、いずれも衣服を構成する服地に組み込まれるワイヤの端部が、布を突き破って、飛び出すことを防止するためのものである点で共通しており、ワイヤの端部を折り返す点、該折り返し部分に樹脂製の筒状部分を被せて端部処理することは、上記引用例7及び8に記載されていることからして、当該相違点2は、引用発明2に、上記引用例6?8の技術手段を単に付加したにすぎないものであって、格別の創意工夫があるものとはいえない。
したがって、本件発明2は、引用発明2と引用発明4?8に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た程度にすぎないものといえる。
(c)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2における「ワイヤ」を「樹脂製ワイヤ」と限定したものである。なお、本件発明3における「保形成」は「保形性」の誤記であることは明らかである。
そこで、本件発明3と引用発明2とを対比すると、両者は、上記相違点1、2のほか、本件発明3の「ワイヤ」は、「樹脂製ワイヤ」であるのに対し、引用発明2のものは、紡績糸等の「芯紐」である点において互いに相違する(相違点3)。
上記相違点1、2については、前掲のとおりであるので、相違点3について検討する。
一般に、衣服の芯材として用いる「ワイヤ」を「樹脂製ワイヤ」とすることは、例えば、引用例1、3に記載されているように、本件出願前周知の技術手段にすぎないものである。
そうすると、当該相違点3は、引用発明2に、上記のような本件出願前周知の技術手段を単に付加したにすぎない程度であって、格別の創意工夫があるものとはいえない。
したがって、本件発明3は、引用例1?8に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た程度にすぎないものといえる。
なお、本件発明2は、訂正請求書(平成19年7月26日)において、下記の通り訂正請求された。
「【請求項2】衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって、前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分を樹脂製の筒状部分の挿嵌し、前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする、保形成性を有する衣服。」
しかしながら、当該訂正によっても、本件発明2は、実質的に訂正前の発明と同じであるから、上記の無効理由を回避することはできない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?3は、引用例1?8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法123条1項2号の規定により、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成20年 1月 8日
審判長 特許庁審判官 松縄 正登
特許庁審判官 中西 一友
特許庁審判官 田中 玲子
〔審決分類〕P1113.121-ZB (A41D)
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
保形性を有する衣服
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服を立体的に整形し、その状態を保持するための衣服の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
婦人用下着には、下着の形状を安定させるためや、身体形状の補整のために、形状記憶材料で構成されたワイヤを、下着に組み込んだものがある。
また、婦人用下着に限定されず、衣服の形状を保持するために、衣服や装飾具等にも形状を安定させたり保持したりするための構造が備えるものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、首周り全体から後頭部を紫外線から保護するために、衣服の襟部を、耳全体から後頭部にわたって覆うことのできる形状のものとし、襟部を立てた状態に保持するために、芯材として形状記憶合金製ワイヤや金属製ワイヤを組み込ませている。
また、特許文献2に記載の技術では、形状記憶合金製ワイヤ又は金属製ワイヤを保形部材として、襟巻きの内部に取り付け、襟巻きの立体的形状を自在に変化させ、その形状を保持可能として意匠的価値を高めることができるようにしている。
【特許文献1】特開2000-314023号公報
【特許文献2】登録実用新案第3089123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にニット素材等、比較的柔らかな素材から成る衣服では、衣服の立体的形状を自在に変化させ、素材独自の風合いを保持したまま、その形状を保持させることが困難である。例えば、ニット素材等の柔らかい素材で形成された衣服では、襟を立たせたり、袖を捲ったりすることはできても、素材の性質上、その形状を保持することが困難である。
そこで、本発明では、ニット素材等の柔らかい素材で形成された衣服であっても、衣服の立体的形状を自在に変化させた状態で保持可能とする、保形性を有する衣服の構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通した、保形性を有する衣服である。
【0007】
請求項2においては、衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって、前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し、前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものである。
【0008】
請求項3においては、前記ワイヤを、樹脂製ワイヤとするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、ニット地のような柔らかく形崩れし易い布地で構成されていても、衣服を立体的に整形し、その状態を保持させることができる。また、一旦、衣服の形が崩れたとしても、容易に再度整形して良好な状態を形成することができる。そして、ワイヤは、多少の許容範囲を持って移動できるように衣服に取り付けられるので、ワイヤが組み込まれた部分に不自然な引きつりや皺が生じないようにすることができる。
【0011】
請求項2においては、衣服を構成する服地に組み込まれるワイヤの端部が、布を突き破って、飛び出すことを防止できる。
【0012】
請求項3においては、金属製ワイヤと比較して錆びることなく、洗濯にも耐えることができ、また、自在に屈曲可能であるとともに、繰り返し変形しても脆性変化が小さいという利点があり、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る衣服としての襟付きシャツを示す図、図2は襟付きシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図、図3は本発明の一実施例に係る衣服としてのTシャツを示す図、図4はTシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図である。
図5はボーダー柄部分の構成を示す図である。
図6はワイヤを示す図、図7はワイヤを衣服に取り付ける形態の一例を示す図、図8は衣服にワイヤを取り付けた状態を示す図である。
図9はワイヤを取り付けた襟部分の様子を示す図、図10はワイヤを取り付けたポケット部分の様子を示す図、図11はワイヤを取り付けた袖部分の様子を示す図である。
図12は本発明の一実施例に係る衣服としてのパンツを示す図である。
【0014】
本発明の保形性を有する衣服では、ニット地のように柔らかく、立体形状を保持することが困難な布地で構成されていても、その布地の風合いを損ねることなく、衣服を整形し、その形状を保持させることができる。
図1では、本発明に係る保形性を有する衣服の一例として、ニット地のシャツ10を示している。シャツ10は襟付きシャツであり、該シャツ10の身頃11には袖12が縫合されており、また、身頃11には襟13とポケット15とポケットフラップ15aとが縫合されている。なお、図3に示す如く、ニット地で襟のないTシャツ40も、保形性を有する衣服とすることができる。
【0015】
但し、保形性を有する衣服は、シャツに限定されることなく、パンツやジャケット等とすることができる。また、マフラーやスカーフ、鞄等の、服飾雑貨に本発明の保形性を有する衣服の構造を応用させて、保形性を有する服飾雑貨とすることもできる。
また、衣服を構成する布地の素材も、ニット地に限定されるものではなく、その他の素材とすることもできる。
【0016】
なお、図1や図3に示す如く、シャツ10・40はボーダー柄(縞柄)のニット地で構成されている。
図5に示す如く、ボーダー柄は、布地を織る糸の色を変化させて形成されるのではなく、主布17と副布16との、少なくとも複数の種類(柄・色)の布地を縫合させることにより、立体的に形成されている。
主布17の裏側であって、主布17と主布17との間に、ボーダー柄の幅よりやや大きい幅を有する副布16が縫いつけられている。主布17・17の端部17a・17aは、纏られることなく、切り放しとされ、また、衣服の表側に露出している。主布17の端部17aはニット地の特性上、表側へ巻き上がって、ボーダー柄の上下の切替部分に立体的なラインが形成される。
【0017】
シャツ10には、保形性を備えるために、すなわち、衣服の立体的形状を自在に変化させ、その形状を保持させるために、適宜位置に、変形自在且つ形状保持可能なワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
例えば、図2や図4に示す如く、襟付きシャツ10では、襟13と、襟口(襟の開き部分)14、袖12の下部、身頃11の下部、ポケット15の縁、ポケットフラップ15aの縁に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられ、Tシャツ40では、袖12の下部、身頃11の下部に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
【0018】
前記ワイヤ20は、金属製ワイヤ、樹脂製ワイヤ、セラミック製ワイヤ等を用いることができる。本実施例では、セラミック製ワイヤを採用している。セラミック製ワイヤは、金属製ワイヤと比較して錆びることなく、洗濯にも耐えることができ、また、自在に屈曲可能であるとともに、繰り返し変形しても脆性変化が小さいという利点がある。
図6に示す如く、ワイヤ20の両端20a・20aは折り返され、折り返された部分は樹脂製チューブ21・21に挿嵌され、熱溶着される。これにより、衣服を構成する服地に組み込まれるワイヤ20の端部が、布を突き破って、飛び出すことのないようにしている。
【0019】
前記ワイヤ20は、衣服の表側に露出しないように、裏側に取り付けられる。
例えば、図7に示す如く、衣服の表側を構成する主布17の裏側に、別布19を縫合して袋を形成し、該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けることができる。
本実施例では、図8に示す如く、布地のボーダー柄の副布16の裏側に別布19をあてて、副布16と別布19との間に袋を形成し、ここにワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けている。
【0020】
なお、ワイヤ20は、衣服の布地に対して固着されたり布地に織り込まれたりするのではなく、多少の許容範囲を持って移動できるように衣服に取り付けられる。これは、衣服がニット地等の伸縮する布地で成るからであり、ニット地の伸縮によってワイヤ20が組み込まれた部分に不自然な引きつりや皺が生じないようにするためである。
但し、ワイヤ20の取り付け形態は、上記例に限定されるものではなく、布地にワイヤ20を多少の許容範囲をもって移動できるように部分的に留め付けたり、主布17の端部の折り返し部分にワイヤ20を挿通させたり、することができる。
【0021】
シャツ10の襟13の近傍においては、図9(a)に示す如く、襟13の周縁と、襟口14の周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図9(b)に示す如く、襟13を立てた状態で保持させることができる。また、襟13の一部を曲げたり、襟口14を波立たせたり、シャツを立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0022】
シャツ10のポケット15部分では、図10(a)に示す如く、ポケット15の開口の周縁と、ポケットフラップ15aの周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図10(b)に示す如く、ポケット15を身頃11から浮き立たせて立体的に整形し、また、ポケットフラップ15aを上方へ反り上がった状態に立体的に整形し、これらの立体的に整形された状態を状態を保持することができる。
【0023】
シャツ10の袖12部分では、図11(a)に示す如く、袖12の下部に袖裄方向にわたって複数のワイヤ20が取り付けられる。ワイヤ20は袖筒の形状に沿って環状に取り付けられる。但し、袖裄方向に沿って複数本を設けることができるが、衣服を着た状態での活動を阻害しないようにするためには、袖筒の形状に沿って環状に取り付けることが好ましい。これにより、図11(b)に示す如く、袖12を捲った状態に立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0024】
なお、保形性を有する衣服としてのパンツ25では、図12(a)に示す如く、パンツ25の裾に複数の環状のワイヤ20が取り付けられる。これにより、ニット地のように柔らかい布地で構成されたパンツ25であっても、図12(b)に示す如く、裾を捲った状態に立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0025】
上述のように、衣服にワイヤ20を取り付けることで、ニット地のような柔らかく形崩れし易い布地で構成されていても、衣服を立体的に整形し、その状態を保持させることができる。しかも、糊付けのように布地の表面に処理を施さないので、布地の持つ風合いを損ねることがない。
さらに、時間が経過しても、ワイヤ20の持つ保形性は経時変化しないので、衣服の整形された立体的な形態は保持される。また、一旦、衣服の形が崩れたとしても、ワイヤ20であるので、特殊な機器や用具、薬剤等を必要とすることなく、容易に再度整形して良好な状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施例に係る衣服としての襟付きシャツを示す図。
【図2】襟付きシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図。
【図3】本発明の一実施例に係る衣服としてのTシャツを示す図。
【図4】Tシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図。
【図5】ボーダー柄部分の構成を示す図。
【図6】ワイヤを示す図。
【図7】ワイヤを衣服に取り付ける形態の一例を示す図。
【図8】衣服にワイヤを取り付けた状態を示す図。
【図9】ワイヤを取り付けた襟部分の様子を示す図。
【図10】ワイヤを取り付けたポケット部分の様子を示す図。
【図11】ワイヤを取り付けた袖部分の様子を示す図。
【図12】本発明の一実施例に係る衣服としてのパンツを示す図。
【符号の説明】
【0027】
10 シャツ
11 身頃
12 袖
13 襟
14 襟口
15 ポケット
20 ワイヤ
21 チューブ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って、衣服の表側を構成する主布の裏側に別布を縫合して袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする保形性を有する衣服。
【請求項2】
衣服の襟、ポケット又はポケットフラップの周縁に沿って袋が形成され、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤが挿通された保形性を有する衣服であって、
前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分を樹脂製の筒状部材に挿嵌し、前記ワイヤの折り返し部分に前記筒状部材を熱溶着することによって端部処理されたものであることを特徴とする、保形性を有する衣服。
【請求項3】
前記ワイヤを、樹脂製ワイヤとすることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の保形性を有する衣服。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-03 
結審通知日 2008-09-05 
審決日 2008-09-18 
出願番号 特願2005-94080(P2005-94080)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A41D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 村山 禎恒
栗林 敏彦
登録日 2006-03-24 
登録番号 特許第3784398号(P3784398)
発明の名称 保形性を有する衣服  
代理人 矢野 寿一郎  
代理人 庄子 幸男  
代理人 矢野 寿一郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ