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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1199425
審判番号 不服2007-16266  
総通号数 116 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-11 
確定日 2009-06-15 
事件の表示 平成 9年特許願第332369号「高出力レーザパルス位相補償装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 2日出願公開、特開平11-149098〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年11月17日の出願であって、平成19年4月9日に手続補正がなされ、同年5月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年7月10日に手続補正がなされ、当審において、平成19年7月10日付け手続補正が平成21年1月23日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、平成21年3月31日に手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成21年3月31日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものである。

「波長範囲が略0.2?2.3μm、パルス幅が10nsec以上で且つ上限が1μsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光が、吸収係数が5×10^(-4)以下の石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡に入射される光軸線上に沿って、偏光板と、レーザ光出力増幅器と、ファラデイ回転子と、焦点距離fが500mmを超え1000mmまでの集光レンズと、順次配置し、前記集光レンズで集光したパルスレーザ光を前記石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶようにしたことを特徴とする高出力レーザパルス位相補償装置。」

第3 刊行物の記載事項及び引用発明

1.刊行物の記載事項
平成21年1月23日付けで通知した拒絶の理由に引用した刊行物にはそれぞれ次の事項が記載されている。

(1)本願の出願前に頒布された刊行物である「吉田英次他、石英ガラスSBS位相共役鏡による固体レーザーの高性能化、1997年(平成9年)秋季 第58回応用物理学会学術講演会予稿集、1997年10月2日、第3分冊、p.1042、3a-PA-6」(以下「引用例1」という。)には、石英ガラスSBS位相共役鏡による固体レーザーの高性能化として、図1とともに次の事項が記載されている。

ア 「1.目的;固体媒質を用いた位相共役波の発生は、フォトリフラクティブ結晶や長距離光ファイバーを用いた誘導ブリルアン散乱等が報告されている。これらの媒質は低出力では高効率動作が可能であるが高出力動作ではレーザー損傷等が問題となる。
前回我々は、非晶質材料(光学ガラス)等の固定媒質によるSBS発生とレーザー損傷について比較検討した結果、石英ガラスにおいて高耐力レーザー損傷性と優れたSBS反射率特性が得られた。今回、初めて石英ガラスによるSBS位相共役鏡をYAGレーザーシステムに導入し、レーザービームの高性能化実験を行った。
2.実験方法・結果;単一縦モードQスイッチYAG発振器からの出力光パルス幅18nsをYAG増幅器で増幅した後、石英ガラスSBSに入射し、2パス増幅を行い、レーザービーム性能を測定した。図1は増幅後、f500mmの単レンズを用いて石英ガラスに集光した時のSBS反射率特性を示す。入射エネルギー580mJの時、最大反射率85%が得られた。この時、石英内部には損傷はなく、増幅後のビーム忠実度も良好であった。」

イ 図1の「Repetition rate 10Hz」及び「Pulse width 18ns」の記載から、石英ガラスSBS位相共役鏡に入射するレーザー光は、繰り返し数10Hzで、パルス幅18nsであることが把握される。

(2)本願の出願前に頒布された刊行物である「Hidetsugu Yoshida他、“SBS phase conjugation in a bulk fused-silica glass at high energy operation”, Summaries of papers presented at the Conference on Lasers and Electro-Optics May 18-23, 1997、CTuP8、p.117-p.118」(以下「引用例2」という。)には、Fig.1、Fig.2とともに概略次の事項が記載されている。

ア 「高エネルギー動作におけるバルク溶融石英ガラス中の誘導ブリュアン散乱位相共役
…(略)…
種々の液体及び気体状態の光学物質における誘導ブリュアン散乱効果は位相共役の様なレーザー応用として興味深いものがある。オプチカルファイバーの長距離利用の場合、低出力レベルにおいて誘導ブリュアン散乱を生ずる。しかしながら、高ピークレーザーに使用されるオプチカルファイバーでは入射面損傷問題が起こり得る。他方、適度の焦点距離を持つファイバーの代わりに、より耐性の強い誘導ブリュアン散乱鏡となるバルク溶融石英ガラスを使用することが出来る。
本書では高エネルギー動作におけるバルク溶融石英ガラスの誘導ブリュアン散乱の最初の測定結果を報告する。出力光のレーザー性能を測定する実験装置の構成を第1図に示す。発振装置は直線偏光単一周波数、TEM_(00),Nd:YAG Q-スイッチレーザーであった。この出力は準ガウス型パルス形の100mJに増幅され、パルスのFWHMは10Hzにおいて18nsであった。レーザー光は2度、収差及び偏光解消を与える増幅器(直径10×長さ120mm、10Hz)を通過する。入射光の性質は1.5倍回折限界であって、溶融石英ガラス中にレンズ(f=500mm)によって集光される。本実験で使用された試料は強い縞を有するUV級溶融石英(20×20×300mm^(3))であった。我々は入射、反射及び透過パルスの形状を高速バイプラナー光電管で測定した。反射及び透過エネルギーを直接カロリー計で測定した。第2図に示される誘導ブリュアン散乱後方反射率は誘導ブリュアン散乱鏡による出力エネルギーの、誘導ブリュアン散乱鏡の代わりに置かれた全反射鏡(99%)によるエネルギーに対する比と定義された。約92%の最大の誘導ブリュアン散乱反射率は、コート無しのガラス表面におけるフレネル損失を補償して、580mJの入射エネルギーにおいて得られた。実験中如何なる光学的損失も観測されなかった。Nd:YAG増幅器の熱レンズ効果はほぼ補償され、2重光路系の出力光の質は有意的に改善された。
溶融石英の諸性質は良好な誘導ブリュアン散乱ガスや液体とほぼ同等である。我々は溶融石英ガラスは、赤外線波長域での低吸収性の故に、すべての固体高平均出力レーザーの為のより良い位相共役者としての役割を期待することが出来る。」

イ Fig.1から、入力エネルギー100mJ、パルス幅18ns、繰り返し率10Hzのポンピングレーザ光が、一度反射された後溶融石英に向けて直進して、偏光子、YAG増幅器、ファラデー回転子及び焦点距離f=500のレンズを介して溶融石英に入射し、溶融石英で反射した後入射するときの光軸に沿って逆進し、上述のレンズ、ファラデー回転子及びYAG増幅器を介して前記偏光子に当たって反射し、その後ビームスプリッターで分離され、分離された光は焦点距離f=3000のレンズ、ビームスプリッター、ピンホールを介すなどして、バイプラナー光電管、カロリー計、CCDカメラ、ピンダイオードに導かれるようになっている「出力光の特性評価のための光学的実験装置構成(誘導ブリュアン散乱、近視野及び遠視野忠実度)」が見てとれる。

ウ Fig.2のパルス幅18ns、繰り返し率10Hzのパルスレーザ光を用いた場合、横軸を溶融石英への入射エネルギー(mJ)、縦軸を反射率(%)とした溶融石英ガラス中に集光された入射エネルギーの関数としての単一モードポンプ光の誘導ブリュアン散乱反射率を示すグラフから、誘導ブリュアン散乱反射率は、入射エネルギーが増加するに従い、100mJ程度までは急激に増加し、その後は緩やかに増加して580mJの入射エネルギーにおいて約92%の最大値になっていることが見てとれる。また、反射損失は8%であると示されている。

(3)本願の出願前に頒布された刊行物である「Hidetsugu Yoshida他、“Stimulated Brillouin scattering phase-conjugated wave reflection from fused-silica glass without laser-induced damage”、 OPTICAL ENGINEERING 、1997年9月号(Volume 36, Number 9)ISSN 0091-3286 p.2557-p.2562」(以下「引用例3」という。)には、Fig.1ないしFig.5、Table 1とともに概略次の事項が記載されている。

ア 「石英ガラスのSBS反射率とレーザー損傷閾値の関係
…(略)…
要約 バルク溶融石英ガラスの誘導ブリュアン散乱(SBS)反射率は1.06μmの波長で測定される。長焦点レンズを用い長いパルスを注入した溶融石英ガラスは、15nsのパルス持続期間に380mJのエネルギーが注入されても損傷を観察することなく95%をほぼ超える高いSBS反射率を示す。…(略)…
1 序論
…(略)…
2 実験
SBS反射率を測定する実験配置図を図1に示す。使用するレーザーは、出射エネルギー10mJ、単一縦モードQスイッチYAGレーザー発信器である。準ガウスのパルス形状のパルスのFWHMsは1,15及び25nsである。…(略)…レーザー出力エネルギーは、直径10mm、長さ100mmのNd:YAG増幅器により2度増幅され、25nsで400mJになる。…(略)…注入ビームのほとんどは片面が反射防止(AR)被覆されたガラス面を透過し、バルク溶融石英ガラス内部で焦点を結ぶ。使用したサンプルは…溶融シリカ(30×30×100mm^(3))である。直径9mmのレーザービームは焦点距離100、150、200、250及び500mmのレンズにより石英ガラスの内側70?75mmの点に集光する。…(略)…
3 実験結果
我々はSBSの閾値、反射率およびパルス幅及び焦点距離に依存するレーザー損傷閾値を測定した。焦点距離200mmを用いた時、パルス幅1,15及び25nsでのバルク溶融石英ガラスのSBS反射率を図2に示す。パルス幅が長くなるに従って、損傷閾値fluenceおよびSBS反射率は単調に増加した。パルス幅1nsで測定したダメージ強度は28±3GW/cm^(2)であり、SBS反射は観測されなかった。一方、パルス幅25nsで入射エネルギー約200mJではレーザー損傷は観測されなかった。パルス幅25nsでの損傷閾値強度は約10±1GW/cm^(2)であると見積もれ、入射エネルギーは500mJまで上昇させることが許容されるであろう。溶融石英の音響緩和時間より十分小さいパルス幅における内部損傷強度は、レンズの集光条件に依存しない。音響緩和時間よりも十分長いパルス幅における内部損傷閾値強度は、SBS反射率に大きく依存する。また、レーザー損傷閾値強度はパルス幅の平方根に反比例する…(略)…
図3はパルス幅15nsとしてレンズの焦点距離を変化させた時、入射エネルギーに対するSBS反射特性を示す。レーザー損傷を避けるための有効な解決策は長い焦点距離のものを使うことである。…(略)…。入射エネルギー380mJの時、焦点距離500mmのものを用いての内部損傷は観測されなかった。焦点距離500mmのものを用いることで、約15mJのSBS閾値の26倍の入射エネルギーとなる95%を超える値までSBS反射率は増加する。入射エネルギーは入射面の損傷閾値によって制限される。100、150、200、250及び500mmの焦点距離における最大SBS反射率は、それぞれ、5、18、55、85及び95%である。100、150及び200mmの焦点距離におけるレーザー損傷が起こる入射エネルギーは、それぞれ、12、18及び55mJである。…(略)…
図4に、パルス幅を15nsとし、各種焦点距離のレンズを用いて溶融石英ガラスに集光した時の入射及び透過パルス波形を示す。焦点距離100、150及び250mmのレンズの集光スポット径は、それぞれ85、95及び125μmであった。焦点距離が100、150及び250mmのレンズに対して焦点スポットサイズはそれぞれ約85、95及び125μmであった。…(略)…焦点距離250mmの時、SBS反射は入射ピーク強度0.63MW以上で発生した。入射ピーク強度を70MWまで増加したが、透過ピーク強度は約2MWと一定であった。…(略)…。
図5はパルス幅15nsの入射レーザー強度の関数としての透過パルス波形から得られるピーク強度を示している。…(略)…。
4 論点
表1に、種々のレーザーパルス幅、種々の焦点距離とともに、波長1.06μmでのバルク損傷閾値及びSBS特性を示す。…(略)…SBS共役反射率は入力パルスの立ち上がりエッジの傾きに敏感である。音響緩和時間に比較して、短い立ち上がりエッジのパルスに対しては、レンズの焦点付近の強度はSBS閾値を上まわる。立ち上がりエッジは、溶融石英緩和時間4nsよりも緩やかにすべきである。…(略)…。
一方、長焦点レンズを用い長いパルス幅としたモード損傷閾値は、入射強度のみにより評価することはできない。パルス幅15ns、焦点距離500mmの条件では、入射及び透過の強度から求めた損傷閾値の比は高いSBS反射により13倍を超える。…(略)…。
5 結論
溶融石英ガラスは、気体又は液体のSBS媒体に代わって高ピークエネルギーレーザーの位相共役鏡として使用することができる。特徴溶融石英についてのSBSの特色の予備的研究は、強度を低くするため焦点距離の長いレンズを用い長い幅のパルスを注入することにより反射率が95%の高いものになることを示している。…(略)…溶融石英ガラスを用いた位相共役鏡を用いることにより固体レーザーを高効率にすることが可能である。」

イ Table 1から、パルス幅15ns、焦点距離500mm、スポットサイズ270μm、入力パルスエネルギー380mJ超の事例において損傷がなかったことが読み取れる。

2.引用発明

(1)上記1.(1)の記載事項からみて、引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「固体レーザーを高性能化するため、石英ガラスによるSBS位相共役鏡を導入し、単一縦モードQスイッチYAG発振器からのパルス幅18nsの出力光をYAG増幅器で増幅した後の、繰り返し数10Hz、パルス幅18nsのレーザー光を、f500mmの単レンズを用いて石英ガラスに集光するように石英ガラスSBS位相共役鏡に入射エネルギー580mJの高出力動作で入射し、SBS反射率特性が最大85%の反射率が得られる2パス増幅を行っても、石英内部にはレーザー損傷がない、増幅後のビーム忠実度が良好であるYAGレーザーシステム。」

(2)上記1.(2)の記載事項からみて、引用例2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「入力エネルギー100mJ、パルス幅18ns、繰り返し率10Hzのポンピングレーザ光が、誘導ブリュアン散乱鏡となる、20×20×300mm^(3)の形状で低吸収性のバルク溶融石英ガラスに向かって直進し、偏光子と、YAG増幅器と、ファラデイ回転子と、焦点距離fが500mmの集光レンズとを介して、前記溶融石英ガラスに入射し、前記YAG増幅器で増幅されたレーザ光は、パルス幅18ns、繰り返し率10Hz、入射エネルギー580mJの入射レーザ光として前記集光レンズによって該溶融石英中に集光されて該溶融石英ガラスで反射した後入射するときの光軸に沿って逆進し、上述の集光レンズ、前記ファラデー回転子及び前記YAG増幅器を介して前記偏光子に当たり反射して分離導出するようにした、前記YAG増幅器の熱レンズ効果を補償する高出力レーザパルス位相共役装置。」

(3)上記1.(3)の記載事項からみて、引用例3には次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「直径10mm、長さ100mmのYAG増幅器により、波長が約1.06μm、パルス幅が15ns、入射エネルギー380mJに増幅されたパルスレーザ光を、焦点距離500mmの長焦点レンズを用い30×30×100mm^(3)の溶融石英ガラスに注入し、該バルク溶融石英ガラス内で焦点を結ぶようにして、バルク溶融石英ガラスを高ピークエネルギーレーザーの位相共役鏡として用いることにより、前記バルク溶融石英ガラスにレーザー損傷がなく高い誘導ブリュアン散乱(SBS)反射率を得て、固体レーザーを高効率にする位相共役装置。」

第4 対比・判断

1.引用発明1との対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「石英ガラスSBS位相共役鏡」、「YAG増幅器」、「単レンズ」、「『繰り返し数10Hz、パルス幅18nsのレーザー光を』『単レンズを用いて石英ガラスに集光するように』『入射し』」及び「『高出力動作で』『2パス増幅を行っ』た『増幅後のビーム』」は、それぞれ、本願発明の「『石英ガラス』を『固体媒質にしたSBS位相共役鏡』」、「レーザ光出力増幅器」、「集光レンズ」、「『前記集光レンズで集光したパルスレーザを前記石英ガラス』『を固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶようにした』」及び「高出力レーザ」に相当する。
イ 引用発明1の「単一縦モードQスイッチYAG発振器からの出力光パルス幅18nsをYAG増幅器で増幅した後の、繰り返し数10Hz、パルス幅18nsのレーザー光」は、本願発明の「パルスレーザ光」に相当する
ウ 引用発明1は、固体レーザーを高性能化するため、石英ガラスによるSBS位相共役鏡を導入し、単一縦モードQスイッチYAG発振器からのパルス幅18nsの出力光を2パス増幅した後のビーム忠実度が良好になされるものであるから、本願発明の「高出力レーザパルス位相補償装置」を備えていることが明らかである。
エ 引用発明1において、SBS位相共役鏡に入射するレーザー光は、上記イに照らせば「パルスレーザ光」であり、かつ、入射エネルギーは580mJであるから、引用発明1は、本願発明の「出力15mJ/パルス以上」との事項を備えていることが明らかである。
オ 引用発明1のレーザー光の「パルス幅18ns」と、本願発明のパルスレーザの「パルス幅が10nsec以上で且つ上限が1μsec」とは、「パルス幅が18nsec」の点で一致する。
カ YAGレーザーの波長は1064nmであるから、引用発明1のYAG増幅器で増幅されたレーザー光は、本願発明「波長範囲が略0.2?2.3μm」であるとの事項を備えていることが当業者に自明である。
キ 上記アないしカから、本願発明と引用発明1とは、
「波長範囲が略0.2?2.3μm、パルス幅が18nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光が石英ガラスを固体媒質にしたSBS位相共役鏡に入射され、レーザ光出力増幅器と、集光レンズと、を、前記集光レンズで集光したパルスレーザ光を前記石英ガラスを固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶように配置した高出力レーザパルス位相補償装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明においては、レーザ光出力増幅器と、集光レンズと、SBS位相共役鏡とに加え、「偏光板」と「ファラデイ回転子」とを備え、パルスレーザ光が「SBS位相共役鏡に入射される光軸線上に沿って」、これらの「偏光板」と、レーザ光出力増幅器と、「ファラデイ回転子」と、集光レンズとを、「順次配置し」ているのに対して、引用発明1のYAGレーザーシステムにおいては、偏光板とファラデイ回転子を備えておらず、YAGレーザーシステムの構成要素の配置位置及び配置順序が不明である点。

相違点2:
集光レンズの焦点距離fが、本願発明においては、「500mmを超え1000mmまで」であるのに対して、引用発明1においては「500mm」である点。

相違点3:
SBS位相共役鏡の固体媒質である石英ガラスが、本願発明においては「ロッド」であって、その吸収係数が「5×10^(-4)以下」であるのに対して、引用発明1においては、「ロッド」であるか否か明らかでなく、その吸収係数も明らかでない点。

(2)判断
上記相違点1ないし3について検討する。

ア 上記相違点1について
(ア)発振器からのレーザ光をレーザ光出力増幅器で増幅した後位相共役鏡等の反射器で反射させ、帰りのレーザ光を前記増幅器に再度入射して再度増幅するレーザーシステムにおいて、前記増幅器から出射されたレーザ光が位相共役鏡等の反射器に入射される光軸線上に沿って、該増幅器の手前に偏光板を配置し、前記増幅器と前記SBS位相共役鏡の間に偏波方向を45°回転させるファラデー回転子を配置して、偏波方向を45°回転された後前記反射器で反射された帰りのレーザ光の偏波方向を前記回転子で再度45°回転させて前記増幅器を再度通過した後に前記偏光板で取り出すことは、本願出願前に周知である(例.特開平7-193307号公報(段落0016及び図7(b)参照。)、特開平9-107147号公報(段落0013及び図2参照。)、特表平9-509010号公報(9頁20行?11頁最下行の記載、図2の50、14、46及び44参照。))。
(イ)引用発明1のYAGレーザーシステムにおいて、2パス増幅を行った出力レーザ光をYAG発振器に戻すことなく取り出す必要があることは、当業者に自明の課題であるから、その出力レーザ光の取り出しのために、上記(ア)の周知技術を採用することは当業者が容易に想到することができた程度のことであり、引用発明1の集光レンズは石英ガラスに集光するように配置するものであるから、上記(ア)の周知技術を引用発明1に採用する際に、その集光の邪魔にならないように、引用発明1のレーザ光出力増幅器と集光レンズとの間に上記(ア)の周知技術のファラデー回転子を配置して、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、上記(ア)の周知技術に基づいて当業者が適宜なし得た程度のことである。

イ 上記相違点2について
SBS位相共役鏡において、媒体のブレークダウンを抑制するため、集光レンズの焦点距離fを700mm、あるいは1000mmと長く取ってレーザー強度を抑制しても、ほぼ同一のSBS反射率特性が得られるとともに位相補償が可能であることが本願出願前に周知である(「吉田英次他、誘導ブリュリアン散乱による位相共役鏡の開発-焦点距離依存性-、1994年(平成6年)春季 第41回応用物理学関係連合講演会予稿集、1994年3月28日、第3分冊、p.905、30p-D-2」及び「吉田英次他、誘導ブリュリアン散乱による位相共役鏡の開発(2)-焦点距離依存性-、1994年(平成6年)秋季 第55回応用物理学会学術講演会予稿集、1994年9月19日、第3分冊、p.818、20a-D-2」参照。)から、引用発明1において、500mmの集光レンズの焦点距離fを、500mmを超え700mm、あるいは1000mmと長く取ってレーザー強度をより抑制すること、すなわち上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 上記相違点3について
(ア)引用発明1は、増幅器からのレーザー光を、f500mmの単レンズを用いてSBS位相共役鏡の石英ガラスに集光し、高いSBS反射率を得て2パス増幅を行うものである。そうすると、前記石英ガラスは、増幅器から出射されたレーザ光を十分な反射率で反射し、再度増幅器に入射して増幅した後良好なビーム忠実度が得られるようにするものであるから、焦点距離f500mmの単レンズで集光するにせよ、またレーザー強度をより抑制するため焦点距離fをさらに長く取るにせよ、レーザー光が石英ガラスに入射する方向に十分な長さを持って入射し、入射したレーザー光を反射して増幅器に確実に戻るような形状にしなければならないものであることが当業者に自明である。
また、SBS位相共役鏡の形状を長いチューブ等の細長い形状にしたものは本願出願前に周知である(例.上記特表平9-509010号公報(16頁下から7行目?下から5行目参照。)、特開平5-341335号公報(5頁左欄30?37行参照。))。
よって、引用発明1において、石英ガラスの形状を、レーザー光が入射する方向に十分な長さを持つ、細長い形状、すなわちロッド状にすることは、周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができた程度のことである。
(イ)引用発明1は、固体レーザーを高性能化するものであって、増幅器からのレーザー光を、SBS位相共役鏡の石英ガラスに集光し、高いSBS反射率を得て2パス増幅を行うものである。よって、前記石英ガラスは、増幅器から出射されたレーザ光により石英内部にレーザー損傷を生じることなく、十分な反射率で反射し、再度増幅器に入射して増幅した後良好なビーム忠実度が得られるようなものでなければならない。
以上のことから、前記石英ガラスは、光吸収が低いものでなければならないことは当業者に自明の事項である。
してみれば、引用発明1において石英ガラスの吸収係数をできるだけ低い値に抑えることは当業者が容易に想到することができた程度のことであり、吸収係数が5×10^(-4)以下である石英ガラスは本願出願前に知られている(例.特開平7-63680号公報(段落0035参照。))から、引用発明1において、石英ガラスの吸収係数の上限を「5×10^(-4)」と規定することは、当業者が適宜なし得た設計上の事項である。
(ウ)上記(ア)及び(イ)からして、上記相違点3は、上記各周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

エ 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明1の効果及び上記各周知技術の効果から当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
上記(2)アないしエからして、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.引用発明2との対比・判断
本願は、平成11年法律第41号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第30条第1項の規定の適用を受けようとする出願であり、引用例2は、同項に規定する「第29条第1項各号の一に該当するに到った発明」であることを証明する書面として提出されたものである。
しかし、引用例2には、本願発明の発明特定事項である「集光レンズ」に相当する「集光レンズ」の「焦点距離」については、「500mm」が記載されているのみで、「500mmを超え1000mmまで」との数値範囲は記載されていない。
また、引用例2には、本願発明の発明特定事項である「石英ガラスロッド」に相当する「20×20×300mm^(3)の形状で低吸収性のバルク溶融石英ガラス」の「吸収係数」が「5×10^(-4)以下」であるとの技術事項は記載されていない。
してみると、本願発明は、引用例2により特許法第29条第1項各号の一に該当するに到った発明ではない。

(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
ア YAG増幅器からの出射レーザ光の波長は約1.06μmであるから、引用発明2の
「『YAG増幅器』で増幅された『パルス幅18ns、繰り返し率10Hz、入射エネルギー580mJの入射レーザ光』」と本願発明の「波長範囲が略0.2?2.3μm、パルス幅が10nsec以上で且つ上限が1μsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光」とは「波長約1.06μm、パルス幅18nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光」である点で一致する。
イ 引用発明2の「誘導ブリュアン散乱鏡となる、20×20×300mm^(3)の形状で低吸収性のバルク溶融石英ガラス」は、その形状は「ロッド」状であるといえ、バルク石英ガラスが誘導ブリュアン散乱鏡の「固体媒質」であることが明らかであるから、本願発明の「石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡」に相当する。
ウ 引用発明2における、ポンピングレーザ光が、バルク溶融石英ガラスに向かって直進し、前記溶融石英ガラスに入射するときの「光軸」であって、該溶融石英ガラスで反射した後に沿って逆進する「光軸」が、本願発明における「SBS位相共役鏡に入射される光軸」に相当する。
エ 引用発明2の「偏光子」、「YAG増幅器」、「ファラデイ回転子」及び「集光レンズ」は、それぞれ、本願発明の「偏光板」、「レーザ光出力増幅器」、「ファラデイ回転子」及び「集光レンズ」に相当する。
オ 引用発明2は「前記YAG増幅器の熱レンズ効果を補償する」ものであり、「YAG増幅器で増幅されたレーザ光」は、「波長約1.06μm、パルス幅18nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光」である(上記ア参照。)から、引用発明2は本願発明の「高出力レーザパルス位相補償装置」との構成を備えている。
カ 引用発明2において、「YAG増幅器で増幅されたレーザ光は、パルス幅18ns、繰り返し率10Hz、入射エネルギー580mJの入射レーザ光として前記集光レンズによって該溶融石英中に集光され」るから、引用発明2は本願発明の「前記集光レンズで集光したパルスレーザ光を前記石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶようにした」との事項を備えている。
キ 引用発明2において、「ポンピングレーザ光」は、「誘導ブリュアン散乱鏡となる、20mm×20mm×300mmの形状で低吸収性のバルク溶融石英ガラスに向かって直進し、偏光子と、YAG増幅器と、ファラデイ回転子と、焦点距離fが500mmの集光レンズとを介して、前記溶融石英ガラスに入射」するから、引用発明2の「偏光板」、「レーザ光出力増幅器」、「ファラデイ回転子」及び「集光レンズ」は、「パルスレーザ光」が、「石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡」に入射される「光軸」線上に沿って、「順次配置」されていることになり、引用発明2は、本願発明の「『パルスレーザ光』が、『石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡に入射される光軸線』上に沿って、『偏光板と、レーザ光出力増幅器と、ファラデイ回転子と』、『集光レンズ』と、順次配置し」との事項を備えている。
ク 上記アないしキから、本願発明と引用発明2とは、
「波長約1.06μm、パルス幅18nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光が、石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡に入射される光軸線上に沿って、偏光板と、レーザ光出力増幅器と、ファラデイ回転子と、集光レンズと、順次配置し、前記集光レンズで集光したパルスレーザ光を前記石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶようにした高出力レーザパルス位相補償装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

相違点4:
集光レンズの焦点距離fが、本願発明においては、「500mmを超え1000mmまで」であるのに対して、引用発明2においては「500mm」である点。

相違点5:
SBS位相共役鏡の固体媒質である石英ガラスが、本願発明においては、吸収係数が「5×10^(-4)以下」であるのに対して、引用発明2においては、吸収係数が明らかでない点。

(2)判断
上記相違点4及び5について検討する。

ア 上記相違点4について
引用発明2において、500mmの集光レンズの焦点距離fを、500mmを超え700mm、あるいは1000mmと長く取ってレーザー強度をより抑制すること、すなわち上記相違点4に係る本願発明の構成となすことは、上記1.(2)イの周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記相違点5について
引用例2には、入射面損傷に耐性の強い誘導ブリュアン散乱鏡となるバルク溶融石英ガラスは、高い誘導ブリュアン反射率を得る旨記載されており(上記第3の1.(2)ア、ウ参照。)、また、「溶融ガラスは、赤外線波長での低吸収性の故に」(上記第3の1.(2)ア参照。)とも記載されていることから、引用発明2の「バルク溶融石英ガラス」は、光吸収が低いものでなければならないことは当業者に自明の事項である。
してみれば、引用発明2においてバルク溶融石英ガラスの吸収係数をできるだけ低い値に抑えることは当業者が容易に想到することができた程度のことであり、吸収係数が5×10^(-4)以下である石英ガラスは本願出願前に知られている(上記1.(2)ウ(イ)参照。)から、引用発明2において、バルク溶融石英ガラスの吸収係数の上限を「5×10^(-4)」と規定することは、当業者が適宜なし得た設計上の事項である。

ウ 効果について
また、本願発明の奏する効果は、引用発明2の効果及び上記1.(2)イの周知技術、引用例2の記載事項から当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
上記のとおりであるから、本願発明は、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.引用発明3との対比・判断
本願は、旧特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとする出願であり、引用例3は、同項に規定する「第29条第1項各号の一に該当するに到った発明」であることを証明する書面として提出されたものである。
しかし、引用例3には、本願発明の発明特定事項である「集光レンズ」に相当する「長焦点レンズ」の「焦点距離」については、「100、150、200、250及び500mm」が記載されているのみで、「500mmを超え1000mmまで」との数値範囲は記載されていない。
また、引用例3には、本願発明の発明特定事項である「石英ガラスロッド」に相当する「バルク溶融石英ガラス」の「吸収係数」が「5×10^(-4)以下」であるとの技術事項は記載されていない。
してみると、本願発明は、引用例3により特許法第29条第1項各号の一に該当するに到った発明ではない。

(1)対比
本願発明と引用発明3とを対比する。
ア 引用発明3の「波長が約1.06μm、パルス幅が15ns、入射エネルギー380mJに増幅されたパルスレーザ光」は、本願発明の「波長範囲が略0.2?2.3μm、パルス幅が10nsec以上で且つ上限が1μsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光」と「波長約1.06μm、パルス幅が15nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光」である点で一致する。
イ 引用発明3の「『高い誘導ブリュアン散乱(SBS)反射率』を得る『高ピークエネルギーレーザーの位相共役鏡』として用いる『30×30×100mm^(3)の溶融石英ガラス』」と本願発明の「吸収係数が5×10^(-4)以下の石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡」とは「石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡」の点で一致する。
ウ 引用発明3「直径10mm、長さ100mmのYAG増幅器」は本願発明の「レーザ光出力増幅器」に相当する。
エ 引用発明3の「焦点距離500mmの長焦点レンズ」と本願発明の「焦点距離fが500mmを超え1000mmまでの集光レンズ」とは「集光レンズ」である点で一致する。
エ 引用発明3の「パルスレーザ光を、焦点距離500mmの長焦点レンズを用い30×30×100mm^(3)の溶融石英ガラスに注入し、該バルク溶融石英ガラス内で焦点を結ぶようにし」た事項は、本願発明の「前記集光レンズで集光したパルスレーザ光を前記石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡中で焦点を結ぶようにした」事項に相当する。
オ 引用発明3は、バルク溶融石英ガラスを高ピークエネルギーレーザーの位相共役鏡として用いることにより、前記バルク溶融石英ガラスにレーザー損傷がなく高い誘導ブリュアン散乱(SBS)反射率を得て、固体レーザーを高効率にしたものであるから、引用発明3は「高出力レーザパルス位相補償」を行う「装置」といえる。
カ したがって、本願発明と引用発明3とは、
「波長1.06μm、パルス幅が15nsec、出力15mJ/パルス以上のパルスレーザ光が、石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡に入射され、レーザ光出力増幅器と、集光レンズと、石英ガラスロッドを固体媒質にしたSBS位相共役鏡とを備え、前記集光レンズで集光したパルスレーザを前記石英ガラスロッド中で焦点を結ぶようにした高出力レーザパルス位相補償装置。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

相違点6:
本願発明においては、レーザ光出力増幅器と、集光レンズと、SBS位相共役鏡とに加え、「偏光板」と「ファラデイ回転子」とを備え、パルスレーザ光が「SBS位相共役鏡に入射される光軸線上に沿って」、これらの「偏光板」と、レーザ光出力増幅器と、「ファラデイ回転子」と、集光レンズと、を、「順次配置し」ているのに対して、引用発明3においては、偏光板とファラデイ回転子をそのように配置していない点。

相違点7:
集光レンズの焦点距離fが、本願発明においては、「500mmを超え1000mmまで」であるのに対して、引用発明3においては「500mm」である点。

相違点8:
SBS位相共役鏡の固体媒質である石英ガラスの吸収係数が、本願発明においては「5×10^(-4)以下」であるのに対して、引用発明3においては明らかでない点。

(2)判断
上記相違点6ないし8について検討する。

ア 相違点6について
引用発明3において、増幅されたパルスレーザ光の取り出しのために、上記1.(2)ア(ア)の周知技術を採用することは当業者が容易に想到することができた程度のことであり、引用発明3の長焦点レンズはバルク溶融石英ガラスに集光するように配置するものであるから、上記周知技術を引用発明3に採用する際に、その集光の邪魔にならないように、引用発明3の「レーザ光出力増幅器(YAG増幅器)」と「集光レンズ(長焦点レンズ)」との間に上記周知技術のファラデー回転子を配置して、上記相違点6に係る本願発明の構成となすことは、上記周知技術に基づいて当業者が適宜なし得た程度のことである。

イ 相違点7について
引用発明3において、500mmの長焦点レンズの焦点距離fを、500mmを超え700mm、あるいは1000mmと長く取ってレーザー強度をより抑制すること、すなわち上記相違点7に係る本願発明の構成となすことは、上記1.(2)イの周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点8について
引用発明3は、固体レーザーを高効率にするものであって、YAG増幅器からのパルスレーザー光を、位相共役鏡として用いるバルク溶融石英ガラスに集光し、高いSBS反射率を得るものである。よって、前記バルク溶融石英ガラスは、YAG増幅器からのパルスレーザ光により石英内部にレーザー損傷を生じることなく、十分な反射率で反射するようなものでなければならない。
以上のことから、前記バルク溶融石英ガラスは、光吸収が低いものでなければならないことは当業者に自明の事項である。
してみれば、引用発明3においてバルク溶融石英ガラスの吸収係数をできるだけ低い値に抑えることは当業者が容易に想到することができた程度のことであり、吸収係数が5×10^(-4)以下である石英ガラスは本願出願前に知られている(上記1.(2)ウ(イ)参照。)から、引用発明3において、バルク溶融石英ガラスの吸収係数の上限を「5×10^(-4)」と規定することは、当業者が適宜なし得た設計上の事項である。

エ 効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明3の効果及び上記各周知技術から予測できた程度のものである。

(3)まとめ
上記のとおりであるから、本願発明は、引用例3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1ないし3に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-04-10 
結審通知日 2009-04-17 
審決日 2009-04-28 
出願番号 特願平9-332369
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 祥恵牧 隆志河原 正  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 三橋 健二
吉野 公夫
発明の名称 高出力レーザパルス位相補償装置  
代理人 花田 久丸  
代理人 高橋 昌久  

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