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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G21K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G21K
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G21K
管理番号 1200674
審判番号 無効2004-80232  
総通号数 117 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-09-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-18 
確定日 2009-06-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3090471号「粒子、X線およびガンマ線量子のビーム制御装置」の特許無効審判事件についてされた平成17年12月20日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決の「請求項25、42、72に係る発明についての審判請求は成り立たない」との部分以外の審決取消の判決(平成18年(行ケ)第10210号、平成18年(行ケ)第10212号、平成19年2月13日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 平成19年11月19日付け訂正請求書に添付した明細書のとおり、訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

出願(特願平4-500918号) 平成 3年10月31日(国際出願日)
(パリ条約優先権1990年10月31日、米国)
設定登録 平成12年 7月21日
(特許第3090471号)
特許無効審判請求 平成16年11月18日
(請求人ユニサンティス ソシエテ アノニム)
答弁書、訂正請求書 平成17年 3月29日
口頭審理 平成17年 9月 1日
請求人口頭審理陳述要領書 平成17年 9月 1日
請求人口頭審理陳述要領書(第2回)平成17年 9月 1日
被請求人口頭審理陳述要領書 平成17年 9月 1日
請求人上申書 平成17年10月 3日
被請求人上申書 平成17年10月 3日
審決 平成17年12月20日
(請求項1、3、5ないし12、14ないし24、26ないし41、43ないし71に係る発明についての特許を無効とする。請求項2、4、13、25、42、72に係る発明についての審判請求は成り立たない。)
知的財産高等裁判所出訴 平成18年 5月 2日
(被請求人原告 平成18年(行ケ)第10210号)
知的財産高等裁判所出訴 平成18年 5月 2日
(請求人原告 平成18年(行ケ)第10212号)
判決言渡 平成19年 2月13日
上記判決により、審決の「請求項25、42、72に係る発明についての審判請求は成り立たない」との部分以外の審決が取り消されたので、さらに審理した。そして、請求項25、42、72に係る発明については、審判請求は成り立たないとした審決が支持され、上告もなかったので既に確定した。(確定した請求項の内容については、本審決の後に(参考)として添付した平成17年12月20日付け審決を参照。)したがって、以後の審理対象は、これらの発明を除いたものとする。

上申書(被請求人) 平成19年 7月 2日
上申書(請求人) 平成19年 8月10日
無効理由通知書 平成19年 8月27日
意見書、訂正請求書 平成19年11月19日
弁駁書 平成20年 1月29日
無効理由通知書 平成20年 2月28日
意見書(被請求人) 平成20年 5月22日
意見書(請求人) 平成20年 5月22日

第2 訂正の可否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1について、「毛管束」を「複数の別個の毛管束」と訂正するとともに、「当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成され、」を付加する訂正をする。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項10及び12を削除する訂正し、それに伴い、以降の請求項の番号を訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項41(訂正後の請求項39)の「入射させる」を「とどめる」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項53(訂正後の請求項51)について、「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項54(訂正後の請求項52)について、「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正する。
(6)訂正事項f
平成5年4月30日付けの特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付した明細書の翻訳文(以下、「願書に添付した明細書」という。)の第10頁21、22行(特許明細書の第11欄19、20行)の「蜂の巣形のパターン剛性支持構造を束管壁の外側に形成し、その外面にしっかりと固定し」を「束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し」と訂正する。
(7)訂正事項g
願書に添付した明細書の第29頁18、19行(特許明細書の第20欄44、45行)の「束管1の壁をその外面にしっかり固定する」を「束管1の壁をそれらの外面において剛に連結する」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1における「毛管束」を「複数の別個の毛管束」と減縮し、さらに「複数の別個の毛管束」の態様を限定したものである。
そして、願書に添付した明細書の第28頁9?11行(特許明細書の第20欄10?12行)には、「チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。」と記載されていて、また、第6図及び第10図の記載により、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。
したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、請求項を削除し、他の請求項の記載を当該削除に整合を取るために訂正したもので、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、平成19年 8月27日付け無効理由通知に対応して訂正したもので、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項53における「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正したものである。そして、願書に添付した明細書の第49頁7、8行(特許明細書の第30欄44、45行)には、「次に、円錐形の毛管を配備する。」と記載されている。 したがって、訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(5)訂正事項eについて
訂正事項eは、特許請求の範囲の請求項54における「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正したものである。そして、願書に添付した明細書の第49頁7、8行(特許明細書の第30欄44、45行)には、「次に、円錐形の毛管を配備する。」と記載されている。
したがって、訂正事項eは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(6)訂正事項fについて
訂正事項fは、願書に添付した明細書の第10頁21、22行(特許明細書の第11欄19、20行)の「蜂の巣形のパターン剛性支持構造を束管壁の外側に形成し、その外面にしっかりと固定し」を「束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し」と束官壁の記載を明りょうにしたものである。
そして、願書に添付した明細書の第17頁8?12行(特許明細書の第14欄35?39行)には、「第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターン支持構造を形成している。」と記載されている。
したがって、訂正事項fは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(7)訂正事項gについて
訂正事項gは、願書に添付した明細書の第29頁18、19行(特許明細書の第20欄44、45行)の「束管1の壁をその外面にしっかり固定する」を「束管1の壁をそれらの外面において剛に連結する」と束管1の記載を明りょうにしたものである。
そして、願書に添付した明細書の第17頁8?12行(特許明細書の第14欄35?39行)には、「第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターン支持構造を形成している。」と記載されている。
したがって、訂正事項gは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

3.請求項23、40、70に係る発明(訂正前の請求項25、42、72)についての独立特許要件の判断
請求項23、40、70に係る発明については、審決で、「審判請求は成り立たない」とした部分が、判決で支持され確定したので、請求項23、40、70に係る発明についての訂正は、無効の審判が請求されていない請求項に係る訂正となる。
そして、請求項23、40、70に係る発明は、請求項1に係る発明を直接又は間接に引用する発明であるところ、請求項1に係る発明についての訂正は、上記「2.訂正の適否(1)訂正事項aについて」で述べたように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、請求項23、40、70に係る発明についての、平成19年11月29日付け訂正請求書による訂正請求は、無効の審判が請求されていない請求項に係る特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
まず、請求項1に係る発明の独立特許要件について検討すると、後述の「第5 当審の判断 3.無効理由(特許法第29条違反)について 3-2.対比・判断 A特許法第29条第1項第3号違反について (1)本件発明1について」及び同「B 特許法第29条第2項違反について (1)本件発明1について」で述べるように、請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
そして、請求項23、40、70に係る発明は、請求項1に係る発明を直接又は間接に引用する発明であるので、それらについても特許出願の際独立して特許を受けることができるものであることは、明らかである。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第134条第2項ただし書きに適合し、同法第134条第5項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正請求を認める。

第3 無効審判請求人の主張の概要
以下の記載において、請求項の番号は、平成19年11月19日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項の番号である。

請求人は、平成17年9月1日付け口頭審理陳述要領書において新たな無効理由を主張し、平成17年10月3日付け上申書において、請求項1、5、6についてさらに新たな無効理由を主張するともに、請求項1、5、6に係る発明以外の請求項に係る発明については、平成16年11月18日付け請求書において主張した無効理由により、無効であることを主張したものである。
しかしながら、請求項1、5、6に係る発明に関する新たな無効理由は、平成17年12月1日に許可しない決定がなされた。
したがって、請求人の主張は、平成16年11月18日付け請求書においてなされたものである。

請求人は、平成16年11月18日付け請求書において、下記の証拠方法を提示し、特許第3090471号の請求項1ないし70に係る発明の特許は、次の理由により特許法第123条第1項第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものである旨主張する。

(1)特許法第29条違反
本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、本件発明1は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項1ないし22、24ないし39、41ないし69に係る発明は、甲第1ないし8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:V.A.Arkad'ev, A.I.Kolomiitsev, M.A.Kumakhov, I.Yu.Ponomarev, I.A.Khodeev, Yu.P.Chertov, and I.M.Shakhparonov, Wide-band x-ray optics with a large angular aperture, Sov. Phys. Usp. 32(3), March 1989, p.271-276
甲第2号証:M.A.Kumakhov and F.F.Komarov, Multiple reflection from surface X-ray optcs', Physics Reports 191, No.5, 1990, p.290-350
甲第3号証:特開昭62-299241号公報
甲第4号証:V.A.Arkad'ev, R.F.Fayazov, and M.A.Kumakhov, Design of a wide pass-band system for focusing a hard X-ray radiation, Central Research Institute for Scientific Information and Studies on Atomic Science and Technology(Atominform), 1988
甲第5号証:Book of abstracts, Ivth All union Conference on Interaction of Radiation with Solids, May15-19, 1990, Elbrus settlement, Kabardino-Balkarian ASSR, USSR
甲第6号証:英国特許第1227929号明細書
甲第7号証:国際公開第88/01428号(1988)
甲第8号証:特開平1-185497号公報

(2)特許法第36条違反
本件請求項5、40、51、52に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本件請求項23、48、49、70に係る発明は、発明の詳細な説明又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないので、その特許は、特許法第36条で規定する記載要件を満たしていない出願に対してされたものである。

また、請求人は、平成19年8月10日付け上申書において、上記2件の訴訟で提出した書類一式を提出した。

また、請求人は、平成20年1月29日付け弁駁書において、本件発明1、2、3、5、7が各証拠から容易であり、本件発明5、6、7、9、10、20、21、24、25、26、29、32、34、35、36、37、39、44、50、57は、発明が不明確であると主張している。

また、請求人は、平成20年5月22日付け意見書において、本件発明5が、各証拠から容易であるか、発明が不明確であると主張している。

第4 被請求人の反論の概要
(1)甲第1ないし8号証には、複数の別個の毛管束が記載されていないので、本件請求項1ないし70に係る発明は、新規性及び進歩性を有する。

(2)特許明細書の本件請求項1、5、6、40、51、52に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていて、特許明細書の本件請求項23、48、49、70に係る発明は、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されている。

(3)請求人の新たな主張が認められるならば、被請求人に答弁書提出及び訂正請求の機会が与えられるべきである。

被請求人は、上記(1)ないし(3)に関して、下記の乙号証を提示した。

乙第1号証:陳述書
乙第2号証:Sidney Levy and J.Harris DuBois, "Plastics Product Design Engineering Handbook", Litton Education Publishing, p.51, 1977
乙第3号証:E. P. Popov, "Mecanics of Materials (second edition)", Prentice-Hall, p.570, 1976
乙第4号証:陳述書
乙第5号証:陳述書
乙第6号証:陳述書
乙第7号証:陳述書
乙第8号証:Unisantis S. A. , "evolution of capillary optics", [online], [平成17年9月22日検索]、インターネット<URL:http://www.unisantis.com/evolution.html>
乙第9号証:Unisantis S. A. , "Kumakhov Optics", [online], [平成17年9月22日検索]、インターネット<URL:http://www.unisantis.com/kumakhov-optics.html>
乙第10号証:特許庁編、「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」、発明協会、平成15年12月26日、第52頁、第322頁

また、被請求人は、平成19年7月2日付け上申書において、下記の乙号証を提示した。

乙第11号証:陳述書
乙第12号証:陳述書
乙第13号証:Official Communication(米国特許商標庁発行)
乙第14号証:Ex Parte Certificate, US 5,192,869 C1(米国特許商標庁発行)
乙第15号証:判決文(平成13年10月24日東京高民13判(平成12年(行ケ)297号))
乙第16号証:特許庁総務部総務課制度改正審議室編、「平成15年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説」、発明協会、68?69頁

また、被請求人は、平成19年11月19日付け意見書、及び平成20年5月22日付け意見書(被請求人)において、本件発明1?22、24?39、41?69は、不明確でもなく、容易でもない旨主張している。

第5 当審の判断
1.本件発明
前記「第2 訂正の可否についての判断」で示したように前記訂正が認められるから、本件特許第3090471号の請求項1ないし69に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明69」という。)(但し、平成17年3月29日付け訂正請求書による訂正請求による訂正内容で既に確定している請求項23、40、70に係る発明は、本件無効審判の審理の対象としないので、記載していない。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され、当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成され、しかも、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する、請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項4】支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できる、請求項1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項6】チャネル幅をその長さに沿って変更可能とした、請求項5の装置。
【請求項7】装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした、請求項6の装置。
【請求項8】入力端でのチャネル幅が、
R(θcr)2/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした、請求項7の装置。
【請求項9】出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした、請求項7の装置。
【請求項10】チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した、請求項1の装置。
【請求項11】支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した、請求項1の装置。
【請求項12】発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項13】平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項14】発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項15】準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項16】ブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した、請求項15の装置。
【請求項17】放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した、請求項15の装置。
【請求項18】吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した、請求項1の装置。
【請求項19】装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した前記吸収フィルタを用いる請求項18の装置。
【請求項20】チャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている、請求項1の装置。
【請求項21】ビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている、請求項1の装置。
【請求項22】準平行ビームを形成している、請求項21の装置。

【請求項24】ビーム伝播の中心軸の方向が変化されている、請求項1の装置。
【請求項25】毛管束の断面形状が変化している、請求項1の装置。
【請求項26】放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした、請求項1の装置。
【請求項27】チャネルが複合曲率になっている、請求項1の装置。
【請求項28】発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成する、請求項27の装置。
【請求項29】樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している、請求項27の装置。
【請求項30】ビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している、請求項1の装置。
【請求項31】開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている、請求項30の装置。
【請求項32】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている、請求項1の装置。
【請求項33】チャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている、請求項1の装置。
【請求項34】放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている、請求項1の装置。
【請求項35】全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している、請求項34の装置。
【請求項36】高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している、請求項35の装置。
【請求項37】荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている、請求項35の装置。
【請求項38】曲率とカットオフエネルギーとを調整した、請求項35の装置。
【請求項39】放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルにとどめる、請求項35の装置。

【請求項41】チャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている、請求項35の装置。
【請求項42】選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している、請求項34の装置。
【請求項43】装置を冷却している、請求項1の装置。
【請求項44】入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して当該冷却を実現している、請求項43の装置。
【請求項45】冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている、請求項43の装置。
【請求項46】チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している、請求項43の装置。
【請求項47】チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している、請求項43の装置。
【請求項48】軟化温度が高い材料でチャネルを作成した、請求項1の装置。
【請求項49】熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした、請求項48の装置。
【請求項50】当該チャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する、請求項1の装置。
【請求項51】準平行ビームを成形し、テーパ毛管束に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる、請求項1の装置。
【請求項52】d1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている、請求項51の装置。
【請求項53】X線リソグラフィーシステムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項54】X線源とマスクとの間に配設した請求項53記載の装置。
【請求項55】装置マスク間の距離を、チャネルの離散パターンにより生ずるビーム強度差を均質化するに充分とした請求項54記載の装置。
【請求項56】さらにマスクを合体させた請求項53記載の装置。
【請求項57】発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する請求項1記載の装置。
【請求項58】分析機器に用いる請求項1記載の装置。
【請求項59】放射源と分析しようとする試料との間に配置した請求項58記載の装置。
【請求項60】分析機器がX線蛍光装置である請求項58記載の装置。
【請求項61】分析機器がX線回析装置である請求項58記載の装置。
【請求項62】分析機器が中性子装置である請求項58記載の装置。
【請求項63】試料と放射検出手段との間に配設した請求項58記載の装置。
【請求項64】医療診断システムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項65】医療診断システムが血管造影撮影装置である請求項64記載の装置。
【請求項66】医療診断システムが内視鏡である請求項64記載の装置。
【請求項67】医療診断システムが中性子捕獲療法システムである請求項64記載の装置。
【請求項68】医療診断システムが断層撮影または分布撮影装置である請求項64記載の装置。
【請求項69】患者を照射する収束ビームを形成するのに用いられる請求項64記載の装置。」

2.無効理由(特許法第36条第4項及び第5項第1号、第2号違反)について
請求人が発明の詳細な説明に記載されていないと主張する本件発明5、51、52は、それぞれ本件特許明細書の以下の箇所に記載されており、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえず、特許法第36条第5項第1号に規定された要件に適合する。
・本件発明5 ;特許明細書の第14欄35?39行、第10図
・本件発明51、52;特許明細書の第30欄44、45行

請求人が当業者が容易に発明の実施をすることができる程度に記載されていないと主張する本件発明48、49は、それぞれ、「軟化温度が高い材料」(融点が高い材料)としてガラス、石英等(第15頁第29欄17?20行)、「熱伝導がよく、融点が高い材料」のコーティング材料としてタングステン、シリコン等(第15頁第29欄20?23行)が挙げられており、特許法第36条第4項に規定された要件に適合する。

当審による平成19年8月27日付け無効理由通知書、及び平成20年2月28日付け無効理由通知書で通知した、本件発明5、6、7、9、10、20、21、24、25、26、29、32、34、35、36、37、39、44、50、57に関する記載不備(第36条第5項第2号違反)については、平成19年11月19日付け意見書、訂正請求書、及び平成20年5月22日付け意見書(被請求人)により、解消された。

3.無効理由(特許法第29条違反)について
3-1.甲号証記載事項
(1)甲第1号証
(a1)「X線を制御する問題は、多くの科学的、技術的方面、例えば、X線顕微鏡、X線天文学、X線プラズマ診断、X線リソグラフィにおける発達と共に、今日大きな関心を集めている。高い強度のX線源(シンクロトロン放射線、ピンチ及びレーザー源、チャネリング源)の近年の発展は、X線の合焦システムが利用できるならば、衝突される物体でのX線密度を十分に増強することを可能とする。これは、特にプラズマ物理、固体物理、レーザー技術、医療において有望である。・・・(中略)・・・困難性は、すべての知られた材料が、大きな入射角でのX線に対し非常に低い反射効率を有していることによる。この困難性に打ち勝つ一つの方法は、X線の全外反射現象に基づくかすめ入射光学の開発である。」(第271頁左欄第2行?第20行)
(a2)「他方、ブラッグ及び多層ミラー、ゾーン及びフェーズプレート、及び回折格子のような回折及び干渉要素は、スペクトル選択性があり、広帯域スペクトルを有するX線を制御するために使用することができない。」(第271頁左欄第26行?第30行)
(a3)「この示唆の1つの具体的な実現は、多数の湾曲した中空毛管によって作られた合焦システムの開発であろう。X線がこれらの毛管に沿って伝わるとき、X線は内壁から繰り返し反射される。その結果、X線が毛管を通って曲げられる全体の角度は、導波路の曲率によって規定され、全体の角度は、臨界全外反射角θ_(cr)よりも非常に大きくすることができる。」(第271頁左欄第38行?第45行)
(a4)「毛管の材料は、ある波長の放射の選択的な減衰に影響する。」(第272頁左欄第15行?第17行)
(a5)「γ=Rθ^(2)_(cr)/4r」(第272頁左欄第26行)
(a6)「図5.曲率半径の様々な値に対する毛管の断面の半径の分布」(第273頁)
(a7)「チャネルに補足された放射線は、壁からの反射の結果、毛管の湾曲角φに沿って曲げられる。放射線の減衰は減衰係数Rφから推定される。」(第273頁左欄第4行?第7行)
(a8)「減衰係数Rφは、所定の角度φに渡って放射線を曲げるための材料の反射能力の特性である。この係数の値は、種々の材料、広いガンマ線エネルギーの範囲に関して文献10で計算されている。φ=0.25に対する計算を図6に示す。これらの計算結果は、ハードX放射線を、原理的に大きな損失なしに曲げることが可能であることを示している。」(第273頁左欄第12行?第19行)
(a9)「図6.湾曲した円筒面によるφ=0.25radの曲げに対するX線減衰係数。1-Be;2-Al;3-Cu;4-Ag;5-S52ガラス。」(第273頁)
(a10)「スループットを増大させるために、毛管壁の厚さを減じ、毛管の最良の寸法及び材料を選択する必要がある。」(第273頁右欄第1行?第3行)
(a11)「図7は本合焦システムの写真である。全体のシステムは、長さ98cmで、外径0.4mm、チャネル径0.36mmからなる2000本のガラス毛管からなる。前記毛管は、断面方向において六角形状の接近パッキング(close packing)を形成し、チャネルの面積はシステムの入力端から出力端までの全面積の73%を占める。」(第273頁右欄第22行?第28行)
(a12)「直線部分は各々5cmの長さである。中央部分においては、毛管は外側層における2mから直線中央毛管におけるR=∞の範囲の曲率半径で一様に曲げられる。」(第273頁右欄第31行?第34行)
(a13)「図9は、本システムの出力端から異なる位置で撮影されたX線写真である。」(第274頁右欄第8行?第9行)
(a14)「図7.X線合焦システム」には、複数の湾曲した毛管が記載されている。(第274頁)
(a15)「この光学系における焦点の直径は、d_(f)=2(r+fφ)によって与えられる。ここで、rは毛管チャネルの半径、fは焦点距離、φは放射が毛管を出る角度である。実際のシステムでは、fは約1cm、φ≦10^(-4)である。」(第274頁右欄第30行?第35行)
(a16)「図9.合焦システムの軸からの距離に対するX線分布」(第275頁)
(a17)「図10.準平行ビームを形成するX線光システム」(第275頁)

ここで、(a1)の「この困難性に打ち勝つ一つの方法は、X線の全外反射現象に基づくかすめ入射光学の開発である」の記載、(a3)の「臨界全外反射角θ_(cr)よりも非常に大きくすることができる。」の記載等から、「X線は内壁から繰り返し反射される。その結果、X線が毛管を通って曲げられる全体の角度は、導波路の曲率によって規定され、全体の角度は、臨界全外反射角θ_(cr)よりも非常に大きくすることができる。」との(a3)の記載における「X線は内壁から繰り返し反射される」は、全外反射によるものと解するのが相当である。

したがって、甲第1号証には、
「X線のビームを制御する装置であり、長さ98cmで、外径0.4mm、チャネル径0.36mmからなる2000本のガラス毛管からなり、前記毛管は、断面方向において六角形状の接近パッキング(close packing)を形成し、チャネルの面積はシステムの入力端から出力端までの全面積の73%を占め、X線がこれらの毛管に沿って伝わるとき、X線は内壁から繰り返し全外反射され、X線が毛管を通って曲げられる全体の角度は導波路の曲率によって規定され、臨界全外反射角θcrよりも非常に大きくすることができるX線のビームを制御する装置。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証
(b1)図2(a)、(b)、(c)には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力端の方向を向けた点、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、入れ子状になった樽管の径がその長さに沿って変化している点等が、記載されている。(第294頁)
(b2)図3には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力方向を向けた点、入れ子状になった樽管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第295頁)
(b3)図6には、反射係数のグラフが記載されている。(第297頁)
(b4)「γ=Rθc/4r≧1 (23)」(第310頁第11行)
(b5)「図23.初の多重反射X線レンズの写真」(314頁)
(b6)「趨勢は、複数毛管、即ち、ミクロン及びサブミクロンの直径を有する非常に多数の導波路チャネルを備えたガラスチューブを使用することである。」(第324頁第16行?第18行)
(b7)「システムは、内径が0.36mm、壁厚が0.02mm、長さ470mmの6000本の毛管導波路から組み立てられている。システムの放射捕捉角度は3×10^(-3)srである。毛管は、反射表面の特別な処理を行うことなく、C52-Iガラスで製造されている。毛管の位置は、フォトリソグラフィー法による銅フォイルで作られた5枚のスクリーンによって剛に固定されている。」(第329頁第17行?第20行)
(b8)「図35.発散放射を準平行ビームに変換するX線システム(半樽状)の写真」(第329頁)
(b9)図37には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力方向を向けた点、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、毛管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第332頁)
(b10)「2次元角度空間において平行ビームを得るには、2つの互いに直交した平面システムが必要である。このことは、異なる方法でも達成することができる。即ち、入れ子状にした円錐面のシステムによっても達成することができる。」(第332頁第11行?第13行)
(b11)図38には、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、毛管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第332頁)
(b12)「毛管の直径をl_(0)とする。前面で毛管は、通常l_(0) より小さい毛管間の距離でかなり密に表面を占める。放射源は、”半樽状”の前面と反対側に配置される。もし、放射源がエネルギーhωで光子を照射すれば、毛管による光子の捕捉角は全外反射角の2倍である。・・・(中略)・・・例えば、ガラス毛管で、光子エネルギー10keVの場合、捕捉角は約10^(-2)であり、100keVの場合、捕捉角は約10^(-3)である。単一毛管の視野の直径はD=l_(0)+2θclである。ここで、lは放射源が配置された面までの距離、2θcは捕捉角である。もしlが”半樽状”の焦点距離に等しいならば、Dは焦点の直径に等しいことに注意すべきである。」(第345頁第9行?第17行)
(b13)「13.6節 X線リソグラフィー」(第345頁第36行)
(b14)図48には、毛管の径がその長さに沿って変化している装置が記載されている。(第347頁)

ここで、(b12)の「毛管による光子の捕捉角は全外反射角の2倍である」の記載から、(b12)における「D=l_(0)+2θcl」の「θc」は、全外反射角に等しいと理解するのが相当である。

したがって、甲第2号証には、
「発散放射を捕捉するようにチャネルの入力端の方向を向け、準平行ビームを形成するX線システムであり、システムは、内径が0.36mm、壁厚が0.02mm、長さ470mmの6000本の毛管導波路から組み立てられており、毛管の位置は、フォトリソグラフィー法による銅フォイルで作られた5枚のスクリーンによって剛に固定され、単一毛管の視野の直径はD=l_(0)+2θcl(ここで、l_(0)は毛管の直径、lは放射源が配置された面までの距離、2θcは毛管による光子の捕捉角、θcは、全外反射角。)であるX線システム。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)甲第3号証
(c1)「本実施例では、このパイプ14を小口径側同士、大口径側同士をそれぞれそろえて束ね、全体として円錐台状になるようにするとともに、小口径側同士の集合面18での各パイプ14の中心軸の延長線が一点Aで交わるようにしたものである。」(第2頁右上欄第9行?第13行)
(c2)「一本のパイプ14については、第2図に示されるように内口径の大きい側14aからX線20を入射すると、パイプ14の内壁で全反射して内口径の小さい側の出口14bに向う。」(第2頁右上欄第18行?左下欄第3行)
(c3)「この場合、パイプ24を束ねて円錐台状とした場合、X線20の入射面となる面積の広い側の集合面ではパイプ24相互の間に隙間ができるので、適当な充填材によりそれらを埋めるようにすればよい。」(第2頁右下欄第4行?第8行)
(c4)「第1図の実施例の場合、パイプの集合体の中心から離れたパイプ14では、入射X線20に対して全反射条件が満たされないことがある。そこで、本実施例では、X線20の入射側ではどのパイプ26-1、26-2、...もX線入射側が入射X線にほぼ平行になり、しかも出射側の中心軸の延長線が一点Aで交わるように、中央部のパイプと周辺部のパイプの形状を異ならせて集合体としている。」(第2頁右下欄第11行?第19行)
(c5)第1図には、平行な入射X線20がパイプ14の集合体を通ってX線の収束点Aに収束されることが記載されている。
(c6)第4図には、平行な入射X線20がパイプ26-1、26-2、...の集合体を通ってX線の収束点Aに収束されることが記載されている。

(4)甲第4号証
(d1)「システムの調整は、ディスクをシステムの軸線方向に沿って移動させることによって、及び、それらを軸線の周りで回転させることによって達成される。」(第19頁第11行?第13行)

(5)甲第5号証
(e1)「問題のX線光学システムのエネルギーバンド幅、及びその、最新のX線源を特徴付けるX線フィルタとしての適用可能性に関する刊行物が研究された。」(第94頁第27行?第30行)
(e2)「X線導波路の入力端及び出力端は、樽状面の幾何学的回転中心軸に一致したシステムの光軸上に配置された入口合焦点及び出口合焦点に向けられる」(第177頁第7行?第10行)
(e3)「R>2D/θ^(2)」(第177頁第14行)

(6)甲第6号証
(f1)「ケーシング9はアセンブリ2及びモータ7を取り囲み、ベアリングリング4及び5の不動部分を支えるのに役立つ。」(第2頁左欄第5行?第8行)
(f2)図面には、中性子コリメータ装置が記載されている。

(7)甲第7号証
(g1)「側壁は、それらの特性を改善するために、例えば、側壁を金でコーティングすることのよって処理しても良い。」(第5頁第26行?第28行)
(g2)「チャネルはテーパしていてもよく、特別な又は改善された合焦効果を生じ、軸ずれ収差を減じるために、非円形の断面、例えば、六角形の断面に形成されても良い。」(第14頁第12行?第15行)

(8)甲第8号証
(h1)「しかし、第4図に示したチューブ本体11aでは、チューブ本体11aに入射されて、その内面で反射されるX線aは、その入射角に比して反射角が、1回の反射毎に、チューブ本体11aの内面の傾斜角θのために、2θずつ増加する。しかも、X線の臨界角は数ミリラジアンと小さい。
したがって、X線の入射量を大きくするためにチューブ本体11aの内面の傾斜させると、それに対するX線aの入射角がX線の臨界角よりも大きくなり、X線aの反射量が低下して、第3図に示した従来のチューブ本体11よりも出力が小さくなったり、出力が困難になったりする。」(第2頁左上欄第1行?第12行)
(h2)図4には、チューブ本体11aの内面が傾斜した点が記載されている。

3-2.対比・判断
対比・判断に当たり、本件各発明における「チャネル」、「支持構造体」について、本件特許明細書には、例えば、以下のように記載されている。

「チャネル」に関して
・装置(クマコフのレンズ)は、複数の全外反射を特徴とする内部面を有する複数のチャネルで構成する。第1図の実施態様において、チャネル形成要素は、複数の曲がり中空束管1である。(特許明細書第18欄24?28行)
・各チャネルの半径D(入力端では束管1の直径)は次のように定義される。(特許明細書第18欄48?49行)
・束管1のチャネル(第1図)の入力横断面の充填係数を向上させるために、それぞれの束管1の横断面を3角、矩形、6角形などの形にして装置の入力横断面の充填係数を最大になるようにする。(特許明細書第19欄23?27行)
・チャネルが矩形の場合、この遅延は線形になる。チャネルが円筒形の場合、この遅延はもっと複雑な形になる。(特許明細書第19欄39?41行)
・チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。(特許明細書第20欄10?12行)
・臨界曲げ半径が束管1の直径ではなく、毛管チャネル13の直径で決まるからである。したがって、チャネルの直径をサブミクロンのレベルまで小さくすることにより、チャネル数を数倍に増やすことができる。一方、装置を組み立てるのに要する労力は複数の毛管で構成する束管の数で決まるので、元の管状設計のレベルに維持することができる。(特許明細書第20欄17?23行)
・第9図に示すように、クレードル部材22に束管1(毛管13の束)の所望の位置にしっかり固定することもできる。(特許明細書第20欄38?40行)
・毛管を使用してシンクロトロンから放射した場合、毛管または毛管束(多重毛管)(第27図参照)の方向を調整することにより四角ビームまたは円形ビームを放射するような薄い矩形ビームを捕捉することは容易である。(特許明細書第29欄39?43行)
・チャネルの断面は円形である必要はない。例えば、ビームのエネルギー幅を狭くする場合、チャネルの側面は平らなので矩形でもよい。複数の毛管、毛管束、多重毛管の個々のチャネルでは円形ではない場合が多い。6角形、四角形、3角形などの方が効率的に束ねることができ、その結果、レンズの断面でのオープン領域が大きくなり強度も高くなる。(特許明細書第31欄4?10行)
・レンズを円形毛管チャネルで構成している場合、レンズには離散チャネルがあるので、レンズを通るX線の強度には第31図に示すように断面にはさまざまな形がある。(特許明細書第32欄40?43行)

一方、本件発明と同様の技術分野に属する甲1号証の上記摘記箇所(a11)には、「図7は本合焦システムの写真である。全体のシステムは、長さ98cmで、外径0.4mm、チャネル径0.36mmからなる2000本のガラス毛管からなる。」と記載され、チャネル径が内径を表すことは明らかである。

これらの記載によれば、「チャネル」は、「毛管」とも、「束管」すなわち「毛管束」とも理解される。すなわち、「チャネル」は、単数か複数かという概念と直接関係しない「X線量子等のビームが通過する空間(通路)」と解するのが相当である。

「支持構造体」に関して
・チャネル形成要素は、剛性支持構造により相互にしっかり固定する。(特許明細書第18欄30?31行)
・剛性支持構造には、制御ビームの軸3に垂直な複数の円板4が含まれる。それぞれの円板には、蜂の巣状パターンの開口5があり、その開口を通して束管1を固定している。(特許明細書第18欄32?35行)
・剛性支持構造は、少なくとも2つの格子で構成する。例えば、制御放射ビーム軸3に垂直なチャネルの入力端と出力端で蜂の巣状に配列したセル11(第5図)を配列する。(特許明細書第19欄8?11行)
・管状チャネルの場合、組み立て手順を簡素化し、束管1の直径をできるだけ最小にして、ビーム集束領域のサイズを極小化することにより、その領域でのビーム密度を増加したい場合、束管1の壁をその外面にしっかり固定することにより、剛性蜂の巣状の構造を形成することもできる。(特許明細書第20欄41?46行)
・場合によっては、円板4を設けずに、固定資材だけを使用して束管1を固定してもよい。(特許明細書第22欄35?37行)

「支持構造体」は、上記記載、及び請求項2、3、5又は32で特定される態様から、「『複数の別個の毛管束』を互いに相対的にしっかりと固定するもの」と解するのが相当である。

A 特許法第29条第1項第3号違反について
(1)本件発明1について

本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「発散放射を捕捉するようにチャネルの入力端の方向を向け、準平行ビームを形成するX線システム」は、本件発明1の「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置」に相当し、本件発明1の「放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し」の構成を有していることは明らかである。
甲2発明の「発散放射を捕捉する」及び「単一毛管の視野の直径はD=l_(0)+2θcl(ここで、l_(0)は毛管の直径、lは放射源が配置された面までの距離、2θcは毛管による光子の捕捉角、θcは全外反射角。)」の記載から、甲2発明のものも、本件発明1の「複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネル」を有していることは明らかである。
甲2発明の「毛管の位置は、フォトリソグラフィー法による銅フォイルで作られた5枚のスクリーンによって剛に固定され」は、本件発明1の「チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した」に相当する。
甲2発明の「6000本の毛管導波路から組み立てられ」は、本件発明1の「複数の毛管束で構成され」に相当する。
甲2発明の「単一毛管の視野の直径はD=l_(0)+2θcl(ここで、l_(0)は毛管の直径、lは放射源が配置された面までの距離、2θcは毛管による光子の捕捉角、θcは全外反射角。)である」において、「D」、「l_(0)」、「θc」、「l」は、本件発明1の「D1」、「D」、「θD」、「F」に相当し、甲2発明においても、単一毛管の視野の直径はDが、「l_(0)+2θcl」以下であれば、すべての発散放射を捕捉することが明らかであるので、甲2発明には、本件発明1の「チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。」が開示されていることは明らかである。

したがって、本件発明1と甲2発明とは、「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の毛管束で構成され、しかも、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。」の点で一致する。

しかし、本件発明1は、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の「別個の」毛管束で構成され、「当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成され」たものであるが、甲第2号証にはそのような構成が記載も示唆もされていない。

したがって、本件発明1は、甲第2号証記載の発明でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許を受けることができないものではない。

B 特許法第29条第2項違反について
(1)本件発明1について

本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「X線」、「繰り返し全外反射され」、「2000本のガラス毛管」、及び「X線のビームを制御する装置」は、本件発明1における「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子」、「複数の全外反射を提示する内面を有する」、「複数のチャネル」、及び「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置」に、それぞれ相当する。ここで、甲1発明の「X線のビームを制御する装置」が放射源に向けて入力端と放射受光器に向けた出力端を有することは自明である。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、複数の毛管で構成された装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]チャネルに関して、本件発明1が、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され、当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成されているのに対して、甲1発明は2000本のガラス毛管で構成された点。

[相違点2]チャネルの入力端に関して、本件発明1が、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離であるのに対して、甲1発明にはそのような構成がない点。

[相違点1]について
甲1発明では、「X線のビームを制御する装置」は、2000本のガラス毛管からなり、前記毛管は、断面方向において六角形状の接近パッキング(close packing)を形成し、チャネルの面積はシステムの入力端から出力端までの全面積の73%を占めるものである。 そして、甲第1号証のFIG7、FIG10には、毛管を囲うようにリング状の部材が見えるが、毛管が互いに相対的にしっかりと固定されているかどうかは明らかでない。

ここで、毛管が互いに相対的にしっかりと固定することは、上記Aで検討したように、甲2発明の「毛管の位置は、フォトリソグラフィー法による銅フォイルで作られた5枚のスクリーンによって剛に固定され」は、本件発明1の「チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した」に相当するので、毛管が互いに相対的にしっかりと固定することは、甲1発明及び甲2発明から当業者にとって想到容易である。

しかし、本件発明1は、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の「別個の」毛管束で構成され、「当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成され」たものであるが、甲第1号証?甲第8号証のいずれにも、そのような構成が記載も示唆もされていない。

[相違点2]について
甲第1号証の前記記載事項(a14)には、「この光学系における焦点の直径は、df=2(r+fφ)によって与えられる。ここで、rは毛管チャネルの半径、fは焦点距離、φは放射が毛管を出る角度である。」と記載されている。ここで、甲第1号証における「df」、「2r」及び「f」は、本請求項1に係る発明における「D1」、「D」及び「F」にそれぞれ相当する。そして、甲1発明のように毛管において全外反射するためには、放射が毛管を出る角度が指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角よりも小さくなければならないから、φ≦θDである。
してみると、相違点2に係る構成は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項である。

そして、本件発明1は、[相違点1]に係る構成に係る効果について、「チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。これにより反射面が平滑になり、複数の全外反射が可能になる(第6図および第27図)。このように構成すると、有効なチャネルの直径を数倍縮小することができる。その結果、運用スペクトル幅をより高いエネルギー領域に拡大して束管1の曲げ半径を小さくすることができる。これは、臨界曲げ半径が束管1の直径ではなく、毛管チャネル13の直径で決まるからである。したがって、チャネルの直径をサブミクロンのレベルまで小さくすることにより、チャネル数を数倍に増やすことができる。一方、装置を組み立てるのに要する労力は複数の毛管で構成する束管の数で決まるので、元の管状設計のレベルに維持することができる。」(特許明細書第20欄10行?23行)と記載されている。
この記載の効果は、製造上の効果を包含するものの、出来上がったものとして見た場合にも、「有効なチャネルの直径を数倍縮小することができる。その結果、運用スペクトル幅をより高いエネルギー領域に拡大して束管1の曲げ半径を小さくすることができる。」等の効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

(2)本件発明2?22、24?39、41?69について
本件発明2?22、24?39、41?69は、本件発明1を直接又は間接に引用する発明であるところ、本件発明1は、上記「(1)本件発明1について」で検討したように、甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、本件発明2?22、24?39、41?69も甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

第6 結び
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?22、24?39、41?69に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
(参考)
平成17年12月20日付け審決
「 審決
無効2004-80232

スイス 1213 ジェニーヴァ ペティ ランシー アベニュ デ モルジン 12
請求人 ユニサンティス ソシエテ アノニム

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所
代理人弁理士 熊倉 禎男

東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル6階 中村合同特許法律事務所
代理人弁理士 田中 伸一郎

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 中村合同特許法律事務所
代理人弁理士 弟子丸 健

東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル 中村合同特許法律事務所
代理人弁理士 渡邊 誠

アメリカ合衆国 12061 ニューヨーク州 イースト グリーンバッシュ テック バレー ドライブ 15
被請求人 エックス-レイ オプティカル システムズ,インコーポレーテッド

東京都港区赤坂2丁目6番20号 谷・阿部特許事務所
代理人弁理士 谷 義一

東京都港区赤坂2丁目6番20号 谷・阿部特許事務所
代理人弁理士 阿部 和夫

東京都港区赤坂2丁目6番20号 谷・阿部特許事務所
復代理人弁理士 新開 正史

東京都港区赤坂2丁目6番20号 谷・阿部特許事務所
復代理人弁理士 小林 武彦

上記当事者間の特許第3090471号発明「粒子、X線およびガンマ線量子のビーム制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
訂正を認める。
特許第3090471号の請求項1、3、5ないし12、14ないし24、26ないし41、43ないし71に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3090471号の請求項2、4、13、25、42、72に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その72分の6を請求人の負担とし、72分の66を被請求人の負担とする。

理 由
第1 手続の経緯

1.本件特許第3090471号の出願は、1991年10月31日(パリ条約による優先権主張1990年10月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成12年7月21日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、平成16年11月18日に請求人ユニサンティス ソシエテ アノニムより特許無効審判が請求された。
3.被請求人エックス-レイ オプティカル システムズ,インコーポレイテッドより、平成17年3月29日に答弁書とともに訂正請求書が提出された。
4.平成17年9月1日に請求人及び被請求人より口頭審理陳述要領書が提出されるとともに、口頭審理が行われた。
5.平成17年10月3日に請求人及び被請求人より上申書が提出された。
6.平成17年12月1日に請求人が平成17年10月3日付けで提出した上申書(審判請求書の補正書)による請求の理由の補正については、許可しない決定がなされた。

第2 訂正の可否についての判断

1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1について、「毛管束」を「複数の別個の毛管束」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項25について、「θ-DL1」を「θ-D/L1」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項53について、「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項54について、「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正する。
(5)訂正事項e
特許請求の範囲の請求項72について、「(12El/QR1)1/2」を「(12El/QR1)1/2」と訂正する。
(6)訂正事項f
特許請求の範囲の請求項72について、「R1=2D/Q2」を「R1=2D/θD2」と訂正する。
(7)訂正事項g
特許明細書の第11欄第19行?第20行の「蜂の巣形のパターン剛性支持構造を束管壁の外側に形成し、その外面にしっかりと固定し」を「束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し」と訂正する。
(8)訂正事項h
特許明細書の第20欄第44行?第45行の「束管1の壁をその外面にしっかり固定する」を「束管1の壁をそれらの外面において剛に連結する」と訂正する。

2.訂正の適否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1における「毛管束」を「複数の別個の毛管束」とするものに減縮したものである。そして、特許明細書の第20欄第10行?第12行には、「チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。」と記載されていて、また、第6図及び第10図の記載により、「複数の別個の毛管束」は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。
したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項25における「θ-DL1」を「θ-D/L1」と訂正したものである。そして、特許明細書の第22欄第18行?第19行には、「その際、テーパ角は、θ1-D/L1となる。」と記載されていて、「θ1」、「L1」が「θ」、「L1」にそれぞれ相当することは明らかである。
したがって、訂正事項bは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3)訂正事項cについて
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項53における「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正したものである。そして、特許明細書の第30欄第44行?第45行には、「次に、円錐形の毛管を配備する。」と記載されている。
したがって、訂正事項cは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項54における「テーパ毛管束」を「テーパ毛管」と訂正したものである。そして、特許明細書の第30欄第44行?第45行には、「次に、円錐形の毛管を配備する。」と記載されている。
したがって、訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(5)訂正事項eについて
訂正事項eは、特許請求の範囲の請求項72における「(12El/QR1)1/2」を「(12El/QR1)1/2」と訂正したものである。そして、特許明細書の第19欄第44行?第47行には、「制御ビームに沿って曲がり束管1を固定している開口5を含む蜂の巣状のパターンを有する円板4は、それぞれL≦(12EI/QU1)1/2という感覚で配置することが望ましい。」と記載されていて、「U1」が「R1」に相当することは明らかである。
したがって、訂正事項eは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(6)訂正事項fについて
訂正事項fは、特許請求の範囲の請求項72における「R1=2D/Q2」を「R1=2D/θD2」と訂正したものである。そして、特許明細書の第19欄第34行?第37行には、「その結果、それぞれの放射に固有の種類とエネルギーレベルは、いわゆる臨界曲げ半径がR1=2D/θD2という特長を有する。」と記載されていて、「R1」、「θD2」が「R1」、「θD2」にそれぞれ相当することは明らかである。
したがって、訂正事項fは、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(7)訂正事項gについて
訂正事項gは、特許明細書の第11欄第19行?第20行の「蜂の巣形のパターン剛性支持構造を束管壁の外側に形成し、その外面にしっかりと固定し」を「束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し」と束官壁の記載を明りょうにしたものである。そして、特許明細書の第14欄第35行?第39行には、「第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターン支持構造を形成している。」と記載されていて、訂正事項gは、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。
したがって、訂正事項gは、不明りょうな記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(8)訂正事項hについて
訂正事項hは、特許明細書の第20欄第44行?第45行の「束管1の壁をその外面にしっかり固定する」を「束管1の壁をそれらの外面において剛に連結する」と束管1の記載を明りょうにしたものである。そして、特許明細書の第14欄第35行?第39行には、「第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターン支持構造を形成している。」と記載されていて、訂正事項hは、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内である。
したがって、訂正事項hは、不明りょうな記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正法前特許法第134条第2項ただし書きに適合し、特許法第134条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正請求を認める。

第3 無効審判請求人の主張の概要

請求人は、平成17年9月1日付け口頭審理陳述要領書において新たな無効理由を主張し、平成17年10月3日付け上申書において、請求項1、5、6についてさらに新たな無効理由を主張するともに、請求項1、5、6に係る発明以外の請求項に係る発明については、平成16年11月18日付け請求書において主張した無効理由により、無効であることを主張したものである。
しかしながら、請求項1、5、6に係る発明に関する新たな無効理由は、平成17年12月1日に許可しない決定がなされた。
したがって、請求人の主張は、平成16年11月18日付け請求書においてなされたものである。

請求人は、平成16年11月18日付け請求書において、下記の証拠方法を提示し、特許第3090471号の請求項1ないし72に係る発明の特許は、次の理由により特許法第123条第1項第1号、第2号又は第4号に該当し、無効とすべきものである旨主張する。

(1)特許法第29条違反
本件請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるから、本件発明1は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項1ないし24、26ないし41、43ないし71に係る発明は、甲第1ないし8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(以下、「無効理由1」という。)。

甲第1号証:V.A.Arkad'ev, A.I.Kolomiitsev, M.A.Kumakhov, I.Yu.Ponomarev, I.A.Khodeev, Yu.P.Chertov, and I.M.Shakhparonov, Wide-band x-ray optics with a large angular aperture, Sov. Phys. Usp. 32(3), March 1989, p.271-276
甲第2号証:M.A.Kumakhov and F.F.Komarov, Multiple reflection from surface X-ray optcs', Physics Reports 191, No.5, 1990, p.290-350
甲第3号証:特開昭62-299241号公報
甲第4号証:V.A.Arkad'ev, R.F.Fayazov, and M.A.Kumakhov, Design of a wide pass-band system for focusing a hard X-ray radiation, Central Research Institute for Scientific Information and Studies on Atomic Science and Technology(Atominform), 1988
甲第5号証:Book of abstracts, Ivth All union Conference on Interaction of Radiation with Solids, May15-19, 1990, Elbrus settlement, Kabardino-Balkarian ASSR, USSR
甲第6号証:英国特許第1227929号明細書
甲第7号証:国際公開第88/01428号パンフレット(1988)
甲第8号証:特開平1-185497号公報

(2)特許法第36条違反
本件請求項5、42、53、54に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本件請求項12、25、50、51、72に係る発明は、発明の詳細な説明又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないので、その特許は、特許法第36条で規定する記載要件を満たしていない出願に対してされたものである。(以下、「無効理由2」という。)

第4 被請求人の反論の概要

(1)甲第1ないし8号証には、複数の別個の毛管束が記載されていないので、本件請求項1ないし72に係る発明は、新規性及び進歩性を有する。

(2)特許明細書の本件請求項1、5、6、42、53、54に係る発明は発明の詳細な説明に記載されていて、特許明細書の本件請求項12、25、50、51、72に係る発明は、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されている。

(3)請求人の新たな主張が認められるならば、被請求人に答弁書提出及び訂正請求の機会が与えられるべきである。

被請求人は、上記(1)ないし(3)に関して、下記の乙号証を提示した。

乙第1号証:陳述書
乙第2号証:Sidney Levy and J.Harris DuBois, "Plastics Product Design Engineering Handbook", Litton Education Publishing, p.51, 1977
乙第3号証:E. P. Popov, "Mecanics of Materials (second edition)", Prentice-Hall, p.570, 1976
乙第4号証:陳述書
乙第5号証:陳述書
乙第6号証:陳述書
乙第7号証:陳述書
乙第8号証:Unisantis S. A. , "evolution of capillary optics", [online], [平成17年9月22日検索]、インターネット<URL:http://www.unisantis.com/evolution.html>
乙第9号証:Unisantis S. A. , "Kumakhov Optics", [online], [平成17年9月22日検索]、インターネット<URL:http://www.unisantis.com/kumakhov-optics.html>
乙第10号証:特許庁編、「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」、発明協会、平成15年12月26日、第52頁、第322頁

第5 当審の判断

1.本件発明
前記「第2 訂正の可否についての判断」で示したように前記訂正が認められるから、本件特許第3090471号の請求項1ないし72に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明72」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され、しかも、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する、請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項4】支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できる、請求項1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項6】チャネル幅をその長さに沿って変更可能とした、請求項5の装置。
【請求項7】装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした、請求項6の装置。
【請求項8】入力端でのチャネル幅が、
R(θcr)2/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした、請求項7の装置。
【請求項9】出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした、請求項7の装置。
【請求項10】反射層の間にギャップを設けることによりチャネルを形成した、請求項1の装置。
【請求項11】チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した、請求項1の装置。
【請求項12】支持構造体を、反射面の間に配置された低密度材料で形成した、請求項10の装置。
【請求項13】支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した、請求項1の装置。
【請求項14】発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項15】平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項16】発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項17】準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項18】ブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した、請求項17の装置。
【請求項19】放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した、請求項17の装置。
【請求項20】吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した、請求項1の装置。
【請求項21】装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した前記吸収フィルタを用いる請求項20の装置。
【請求項22】チャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている、請求項1の装置。
【請求項23】ビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている、請求項1の装置。
【請求項24】準平行ビームを形成している、請求項23の装置。
【請求項25】チャネルの扇形に広がった出力端は、
θ-D/L1以下であるテーパ角を有しており、θは準平行ビームの指定発散角、L1は円錐形束管セクションの長さをそれぞれ表している、請求項23の装置。
【請求項26】ビーム伝播の中心軸の方向が変化されている、請求項1の装置。
【請求項27】毛管束の断面形状が変化している、請求項1の装置。
【請求項28】放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした、請求項1の装置。
【請求項29】チャネルが複合曲率になっている、請求項1の装置。
【請求項30】発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成する、請求項29の装置。
【請求項31】樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している、請求項29の装置。
【請求項32】ビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している、請求項1の装置。
【請求項33】開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている、請求項32の装置。
【請求項34】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている、請求項1の装置。
【請求項35】チャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている、請求項1の装置。
【請求項36】放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている、請求項1の装置。
【請求項37】全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している、請求項36の装置。
【請求項38】高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している、請求項37の装置。
【請求項39】荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている、請求項37の装置。
【請求項40】曲率とカットオフエネルギーとを調整した、請求項37の装置。
【請求項41】放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルに入射させる、請求項37の装置。
【請求項42】最初の一連のチャネルでは捕捉できないビームの部分に、別のチャネルの入口を複数配置し、最初の一連のチャネルの角より小さい放射に対してチャネル壁が一定の角度になる状態で、当該追加チャネルの入口を配置し、最初の一連のチャネルで捕捉した放射幅より小さい臨界角を有する放射幅を当該追加チャネル入口で捕捉するようにした、請求項41の装置。
【請求項43】チャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている、請求項37の装置。
【請求項44】選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している、請求項36の装置。
【請求項45】装置を冷却している、請求項1の装置。
【請求項46】入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して当該冷却を実現している、請求項45の装置。
【請求項47】冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている、請求項45の装置。
【請求項48】チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している、請求項45の装置。
【請求項49】チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している、請求項45の装置。
【請求項50】軟化温度が高い材料でチャネルを作成した、請求項1の装置。
【請求項51】熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした、請求項50の装置。
【請求項52】当該チャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する、請求項1の装置。
【請求項53】準平行ビームを成形し、テーパ毛管束に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる、請求項1の装置。
【請求項54】d1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている、請求項53の装置。
【請求項55】X線リソグラフィーシステムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項56】X線源とマスクとの間に配設した請求項55記載の装置。
【請求項57】装置マスク間の距離を、チャネルの離散パターンにより生ずるビーム強度差を均質化するに充分とした請求項56記載の装置。
【請求項58】さらにマスクを合体させた請求項55記載の装置。
【請求項59】発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する請求項1記載の装置。
【請求項60】分析機器に用いる請求項1記載の装置。
【請求項61】放射源と分析しようとする試料との間に配置した請求項60記載の装置。
【請求項62】分析機器がX線蛍光装置である請求項60記載の装置。
【請求項63】分析機器がX線回析装置である請求項60記載の装置。
【請求項64】分析機器が中性子装置である請求項60記載の装置。
【請求項65】試料と放射検出手段との間に配設した請求項60記載の装置。
【請求項66】医療診断システムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項67】医療診断システムが血管造影撮影装置である請求項66記載の装置。
【請求項68】医療診断システムが内視鏡である請求項66記載の装置。
【請求項69】医療診断システムが中性子捕獲療法システムである請求項66記載の装置。
【請求項70】医療診断システムが断層撮影または分布撮影装置である請求項66記載の装置。
【請求項71】患者を照射する収束ビームを形成するのに用いられる請求項66記載の装置。
【請求項72】複数の支持構造体の間隔が(12El/QR1)1/2であり、Eは当該チャネルの弾性係数、lは中立軸に相対的な当該チャネルの断面の慣性モーメント、Qは単位長さ当りの当該チャネルの重さ、R1=2D/θD2であり、当該チャネルの曲がりの臨界半径であり、高透過効率が望まれる放射スペクトルの指定高エネルギー境界で定義する値である、請求項1の装置。」
なお、特許明細書の特許請求の範囲の請求項26には「方向を」と記載されているが、「方向が」の誤記と認められるので、本願の請求項1ないし72に係る発明を上記のように認定した。

2.無効理由1(特許法第29条違反)について

2-1.甲号証記載の発明
(1)甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(a1)「X線を制御する問題は、多くの科学的、技術的方面、例えば、X線顕微鏡、X線天文学、X線プラズマ診断、X線リソグラフィにおける発達と共に、今日大きな関心を集めている。高い強度のX線源(シンクロトロン放射線、ピンチ及びレーザー源、チャネリング源)の近年の発展は、X線の合焦システムが利用できるならば、衝突される物体でのX線密度を十分に増強することを可能とする。これは、特にプラズマ物理、固体物理、レーザー技術、医療において有望である。」(第271頁左欄第2行?第11行)
(a2)「他方、ブラッグ及び多層ミラー、ゾーン及びフェーズプレート、及び回折格子のような回折及び干渉要素は、スペクトル選択性があり、広帯域スペクトルを有するX線を制御するために使用することができない。」(第271頁左欄第26行?第30行)
(a3)「この示唆の1つの具体的な実現は、多数の湾曲した中空毛管によって作られた合焦システムの開発であろう。X線がこれらの毛管に沿って伝わるとき、X線は内壁から繰り返し反射される。その結果、X線が毛管を通って曲げられる全体の角度は
導波路の曲率によって規定され、全体の角度は、臨界全外反射角θCRよりも非常に大きくすることができる。」(第271頁左欄第38行?第45行)
(a4)「毛管の材料は、ある波長の放射の選択的な減衰に影響する。」(第272頁左欄第15行?第17行)
(a5)「γ=Rθ2cr/4r」(第272頁左欄第26行)
(a6)「図5.曲率半径の様々な値に対する毛管の断面の半径の分布」(第273頁)
(a7)「チャネルに補足された放射線は、壁からの反射の結果、毛管の湾曲角φに沿って曲げられる。放射線の減衰は減衰係数Rφから推定される。」(第273頁左欄第4行?第7行)
(a8)「減衰係数Rφは、所定の角度φに渡って放射線を曲げるための材料の反射能力の特性である。この係数の値は、種々の材料、広いガンマ線エネルギーの範囲に関して文献10で計算されている。φ=0.25に対する計算を図6に示す。これらの計算結果は、ハードX放射線を、原理的に大きな損失なしに曲げることが可能であることを示している。」(第273頁左欄第12行?第19行)
(a9)「図6.湾曲した円筒面によるφ=0.25radの曲げに対するX線減衰係数。1-Be;2-Al;3-Cu;4-Ag;5-S52ガラス。」(第273頁)
(a10)「スループットを増大させるために、毛管壁の厚さを減じ、毛管の最良の寸法及び材料を選択する必要がある。」(第273頁右欄第1行?第3行)
(a11)「図7は本合焦システムの写真である。全体のシステムは、長さ98cmで、外径0.4mm、チャネル径0.36mmからなる2000本のガラス毛管からなる。前記毛管は、断面方向において六角形状の密着パッキング(close packing)を形成し、チャネルの面積はシステムの入力端から出力端までの全面積の73%を占める。」(第273頁右欄第22行?第28行)
(a12)「直線部分は各々5cmの長さである。中央部分においては、毛管は外側層における2mから直線中央毛管におけるR=∞の範囲の曲率半径で一様に曲げられる。」(第273頁右欄第31行?第34行)
(a13)「図9は、本システムの出力端から異なる位置で撮影されたX線写真である。」(第274頁右欄第8行?第9行)
(a14)「図7.X線合焦システム」には、固定された毛管束、湾曲した毛管が記載されている。(第274頁)
(a15)「この光学系における焦点の直径は、df=2(r+fφ)によって与えられる。ここで、rは毛管チャネルの半径、fは焦点距離、φは放射が毛管を出る角度である。実際のシステムでは、fは約1cm、φ≦10-4である。」(第274頁右欄第30行?第35行)
(a16)「図9.合焦システムの軸からの距離に対するX線分布」(第275頁)
(a17)「図10.準平行ビームを形成するX線光システム」には、固定された毛管束、湾曲した毛管が記載されている。(第275頁)

これらの記載により、甲第1号証には、
「X線のビームを制御する装置であり、繰り返し全外反射をする多数のチャネルで作られたシステム。」が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証
(b1)図2(a)、(b)、(c)には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力端の方向を向けた点、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、図2(b)には、毛管の径がその長さに沿って変化している点がそれぞれ記載されている。(第294頁)
(b2)図3には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力方向を向けた点、毛管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第295頁)
(b3)図6には、反射係数のグラフが記載されている。(第297頁)
(b4)「γ=Rθc/4r≧1 (23)」(第310頁第11行)
(b5)「図23.初の多重反射X線レンズの写真」(314頁)
(b6)「趨勢は、複数毛管、即ち、ミクロン及びサブミクロンの直径を有する非常に多数の導波路チャネルを備えたガラスチューブを使用することである。」(第324頁第16行?第18行)
(b7)「システムは、内径が0.36mm、壁厚が0.02mm、長さ470mmの6000本の毛管導波路から組み立てられている。システムの放射捕捉角度は3×10-3srである。毛管は、反射表面の特別な処理を行うことなく、C52-Iガラスで製造されている。毛管の位置は、フォトリソグラフィー法による銅フォイルで作られた5枚のスクリーンによって剛に固定されている。」(第329頁第17行?第20行)
(b8)「図35.発散放射を準平行ビームに変換するX線システム(半樽状)の写真」(第329頁)
(b9)図37には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力方向を向けた点、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、毛管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第332頁)
(b10)「2次元角度空間において平行ビームを得るには、2つの互いに直交した平面システムが必要である。このことは、異なる方法でも達成することができる。即ち、入れ子状にした円錐面のシステムによっても達成することができる。」(第332頁第11行?第13行)
(b11)図38には、準平行ビームを形成するようにチャネルの出力端の方向を向けた点、毛管の径がその長さに沿って変化している点が記載されている。(第332頁)
(b12)「毛管の直径をl0とする。・・・(中略)・・・例えば、ガラス毛管で、光子エネルギー10keVの場合、捕捉角は約10-2であり、100keVの場合、捕捉角は約10-3である。単一毛管の視野の直径はD=l0+2θclである。ここで、lは放射源が配置された面までの距離、2θcは捕捉角である。もしlが”半樽状”の焦点距離に等しいならば、Dは焦点の直径に等しいことに注意すべきである。」(第345頁第9行?第17行)
(b13)「13.6節 X線リソグラフィー」(第345頁第36行)
(b14)図48には、毛管の径がその長さに沿って変化している装置が記載されている。(第347頁)

(3)甲第3号証
(c1)「本実施例では、このパイプ14を小口径側同士、大口径側同士をそれぞれそろえて束ね、全体として円錐台状になるようにするとともに、小口径側同士の集合面18での各パイプ14の中心軸の延長線が一点Aで交わるようにしたものである。」(第2頁右上欄第9行?第13行)
(c2)「一本のパイプ14については、第2図に示されるように内口径の大きい側14aからX線20を入射すると、パイプ14の内壁で全反射して内口径の小さい側の出口14bに向う。」(第2頁右上欄第18行?左下欄第3行)
(c3)「この場合、パイプ24を束ねて円錐台状とした場合、X線20の入射面となる面積の広い側の集合面ではパイプ24相互の間に隙間ができるので、適当な充填材によりそれらを埋めるようにすればよい。」(第2頁右下欄第4行?第8行)
(c4)「第1図の実施例の場合、パイプの集合体の中心から離れたパイプ14では、入射X線20に対して全反射条件が満たされないことがある。そこで、本実施例では、X線20の入射側ではどのパイプ26-1、26-2、...もX線入射側が入射X線にほぼ平行になり、しかも出射側の中心軸の延長線が一点Aで交わるように、中央部のパイプと周辺部のパイプの形状を異ならせて集合体としている。」(第2頁右下欄第11行?第19行)
(c5)第1図には、平行な入射X線20がパイプ14の集合体を通ってX線の収束点Aに収束されることが記載されている。
(c6)第4図には、平行な入射X線20がパイプ26-1、26-2、...の集合体を通ってX線の収束点Aに収束されることが記載されている。
(4)甲第4号証
(d1)「システムの調整は、ディスクをシステムの軸線方向に沿って移動させることによって、及び、それらを軸線の周りで回転させることによって達成される。」(第19頁第11行?第13行)

(5)甲第5号証
(e1)「問題のX線光学システムのエネルギーバンド幅、及びその、最新のX線源を特徴付けるX線フィルタとしての適用可能性に関する刊行物が研究された。」(第94頁第27行?第30行)

(e2)「X線導波路の入力端及び出力端は、樽状面の幾何学的回転中心軸に一致したシステムの光軸上に配置された入口合焦点及び出口合焦点に向けられる」(第177頁第7行?第10行)

(e3)「R>2D/θ2」(第177頁第14行)

(6)甲第6号証
(f1)「ケーシング9はアセンブリ2及びモータ7を取り囲み、ベアリングリング4及び5の不動部分を支えるのに役立つ。」(第2頁左欄第5行?第8行)
(f2)図面には、中性子コリメータ装置が記載されている。

(7)甲第7号証
(g1)「側壁は、それらの特性を改善するために、例えば、側壁を金でコーティングすることのよって処理しても良い。」(第5頁第26行?第28行)
(g2)「チャネルはテーパしていてもよく、特別な又は改善された合焦効果を生じ、軸ずれ収差を減じるために、非円形の断面、例えば、六角形の断面に形成されても良い。」(第14頁第12行?第15行)

(8)甲第8号証
(h1)「しかし、第4図に示したチューブ本体11aでは、チューブ本体11aに入射されて、その内面で反射されるX線aは、その入射角に比して反射角が、1回の反射毎に、チューブ本体11aの内面の傾斜角θのために、2θずつ増加する。しかも、X線の臨界角は数ミリラジアンと小さい。
したがって、X線の入射量を大きくするためにチューブ本体11aの内面の傾斜させると、それに対するX線aの入射角がX線の臨界角よりも大きくなり、X線aの反射量が低下して、第3図に示した従来のチューブ本体11よりも出力が小さくなったり、出力が困難になったりする。」(第2頁左上欄第1行?第12行)
(h2)図4には、チューブ本体11aの内面が傾斜した点が記載されている。

2-2.対比・判断
A 特許法第29条第1項違反について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、本件発明1は、チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成されたものであるが、甲第2号証にはそのような構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証記載の発明と同一でないから、特許法第29条第1項に規定する発明に該当するとはいえない。

B 特許法第29条第2項違反について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明における「X線」、「繰り返し全外反射をする」、「多数のチャネル」、及び「システム」は、本件発明1における「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子」、「複数の全外反射を提示する内面を有する」、「複数のチャネル」、及び「装置」に、それぞれ相当する。ここで、装置が放射源に向けて入力端と放射受光器に向けた出力端を有することは自明であり、また、本件発明に係るチャネルは毛管を意味するものである(平成17年9月1日付けの口頭審理調書を参照。)。そして、甲第1号証に係るチャネルも同号証の記載から毛管を意味するものと認められる。
したがって、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、
「荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、複数の毛管で構成された装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]チャネルに関して、本件発明1が、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成されたのに対して、甲第1号証記載の発明は複数の毛管で構成された点。
[相違点2]チャネルの入力端に関して、本件発明1が、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離であるのに対して、甲第1号証記載の発明にはそのような構成がない点。

[相違点1]について
甲第1号証の前記摘記事項(a11)によれば、放射源に向けて入力欄と放射受光器に向けた出力端を有する複数のチャネル(毛管)が相互に密着したパッキング構造をなしているものである。そして、図9に図示のX線分布図も併せて参酌すれば、複数のチャネルがそれらの外面である壁において相互に密着して配置されていることが読み取れるものである。
ところで、本件発明1に係る支持構造体は、請求項5の記載にもあるように、チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結したものも含むものである。一方、甲第1号証には、支持構造体についての明示的な記載はないが、上述したように複数のチャネルがそれらの外面であるチャネル壁において相互に密着して配置されているものであるから、そのようにチャネル壁において相互に密着させる手段を実質的に備えているものであり、その手段が本件発明1でいう支持構造体に相当するものである。してみれば、甲第1号証に、複数のチャネルの壁を相互に密着して毛管束構造とするための支持構造体が実質的に示されている以上、本件発明1のように複数のチャネルを支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定して毛管束を構成することは、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に想到し得た事項である。
なお、本件発明1では、「複数のチャンネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され」と規定されているが、支持構造体がチャネルの壁をそれらの外面において相互に密着させて毛管束を構成する場合は、「複数の別個」という規定は、格別な技術的な意味を持たないものである。この点は、本件明細書の第10図(束菅自身の壁により剛性蜂の巣形のパターンの支持構造を形成したもの)に記載の実施例をみても明らかである。すなわち、第10図に係る実施例の毛管束の断面形状は蜂の巣形状であり、その場合、毛管束を複数の別個にすることに特段の技術的な意義を持たないことは容易に理解される。
以上から、相違点1に係る構成は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項である。

[相違点2]について
甲第1号証の前記記載事項(a14)には、「この光学系における焦点の直径は、df=2(r+fφ)によって与えられる。ここで、rは毛管チャネルの半径、fは焦点距離、φは放射が毛管を出る角度である。」と記載されている。ここで、甲第1号証における「df」、「2r」及び「f」は、本請求項1に係る発明における「D1」、「D」及び「F」にそれぞれ相当する。そして、毛管において全外反射するためには、放射が毛管を出る角度が指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角よりも小さくなければならないから、φ≦θDである。
してみると、相違点2に係る構成は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た事項である。

そして、本件発明1の作用効果も、甲第1号証記載の発明から予測できる範囲のものである。

したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「支持構造体がチャネルを支持する開口を有する」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明2が支持構造体がチャネルを支持する開口を有するようにした点で相違している。
検討するに、本件発明2の支持構造体はチャネルを支持する開口を有するものであるが、甲第1ないし8号証のいずれにも上記相違点に係る構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1において、「複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した」ことを限定した発明であって甲第1号証記載の発明とは、本件発明3が複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c3)により、甲第3号証には、パイプ相互の隙間を充填材により充填することが開示されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明3は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1において、「支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できる」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明4が支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できるようにした点で相違する。
検討するに、本件発明4の支持構造体は当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できるものであるが、甲第1ないし8号証のいずれにも上記相違点に係る構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明4は、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1において、「チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明5がチャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した点で相違する。
検討するに、本件発明1について既述したように、複数のチャネルを支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定して毛管束を構成することは、当業者が容易に想到し得た事項であるから、チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成することも、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明5は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5において、「チャネル幅をその長さに沿って変更可能とした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明6がチャネル幅をその長さに沿って変更可能とした点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c1)ないし(c6)により、甲第3号証には、チャネル幅をその長さに沿って変化させることが示唆されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明6は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)本件発明7について
本件発明7は、本件発明6において、「装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明6が装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c1)ないし(c6)により、甲第3号証には、チャネル幅をその長さに沿って変化させることが示唆されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明7は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8)本件発明8について
本件発明8は、本件発明7において、「入力端でのチャネル幅が、R(θcr)2/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明6が入力端でのチャネル幅が、R(θcr)2/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a5)により、甲第1号証には、R(θcr)2/2D>1とすることが示唆されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明8は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1において、「出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明9が出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c1)ないし(c6)により、甲第3号証には、一方の端でのチャネルの幅が、他方の端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにすることが示唆されている。どちらの端を入力端とするか出力端とするかは、装置の構成としては格別の差異はない。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明9は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件発明10について
本件発明10は、本件発明1において、「反射層の間にギャップを設けることによりチャネルを形成した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明10が反射層の間にギャップを設けることによりチャネルを形成した点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c3)により、甲第3号証には、パイプ24相互の間に隙間を形成することが開示されているので、甲第3号証には、反射層の間にギャップを設けることによりチャネルを形成することが示唆されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証に記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明10は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(10)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1において、「チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明11がチャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した点で相違する。
検討するに、本件発明1、5について既述したように、複数のチャネルを支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定して毛管束を構成することは、当業者が容易に想到し得た事項であるから、チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架することも、当業者が容易に想到し得た事項したである。
したがって、本件発明11は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(12)本件発明12について
本件発明12は、本件発明10において、「支持構造体を、反射面の間に配置された低密度材料で形成した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明12が支持構造体を、反射面の間に配置された低密度材料で形成した点で相違している。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c3)により、甲第3号証には、充填材によりパイプ24相互の間に隙間を埋めることが開示されていて、充填材を低密度材料とすることに格別の困難性は認められない。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明12は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(13)本件発明13について
本件発明13は、本件発明1において、「支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した」ことを限定した発明であって甲第1号証記載の発明とは、本件発明12が支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した点で相違する。
検討するに、本件発明13の支持構造体はビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架したものであるが、甲第1ないし8号証のいずれにも上記相違点に係る構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明13は、甲第1号証ないし甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(14)本件発明14について
本件発明14は、本件発明1において、「発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明14が発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b1)、(b2)、(b9)により、甲第2号証には、発散放射を捕捉するようにチャネルの入力方向を向けた点が開示されている。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明14は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(15)本件発明15について
本件発明15は、本件発明1において、「平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明15が平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c5)、(c6)により、甲第3号証には、平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けることが開示されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明15は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(16)本件発明16について
本件発明16は、本件発明1において、「発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明16が発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b1)、(b9)、(b11)により、甲第2号証には、準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた点が開示されているので、発散ビームをチャネルの出力端を広がるようにすれば発散ビームが形成されることは、当業者にとって明らかである。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明16は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(17)本件発明17について
本件発明17は、本件発明1において、「準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明17が準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b1)、(b9)、(b11)により、甲第2号証には、準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた点が開示されている。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明17は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(18)本件発明18について
本件発明18は、本件発明17において、「ブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明18がブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a2)には、ブラッグの回折によりXビームを制御することが開示されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明18は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(19)本件発明19について
本件発明19は、本件発明17において、「放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明19が放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a10)には、「スループットを増大させるために、毛管壁の厚さを減じ、毛管の最良の寸法及び材料を選択する必要がある。」と記載されているので、チャネルの長さを適宜調整して、ビームの断面で強度を制御することは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明19は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(20)本件発明20について
本件発明20は、本件発明1において、「吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明20が吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した点で相違する。
検討するに、吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御することは、X線源の制御をする技術分野においては周知の事項である。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明20は、甲第1号証記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(21)本件発明21について
本件発明21は、本件発明20において、「装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した吸収フィルタを用いる」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明21が装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した吸収フィルタを用いた点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a1)に、装置をリソグラフィーに用いることが開示されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明21は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(22)本件発明22について
本件発明22は、本件発明1において、「チャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明22がチャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている点で相違する。
検討するに、チャネルの入力端での間隔を一定でないようにすることは、当業者にとって適宜選択可能な設計的事項にすぎない。
したがって、本件発明22は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(23)本件発明23について
本件発明23は、本件発明1において、「ビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明23がビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b9)には、毛管の径がその長さに沿って変化している点が開示されているので、扇形とすることに格別の困難性は認められない。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係るな構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明23は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(24)本件発明24について
本件発明24は、本件発明23において、「準平行ビームを形成している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明24が準平行ビームを形成している点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b1)、(b9)、(b11)により、甲第2号証には、準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた点が開示されている。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明24は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(25)本件発明26について
本件発明26は、本件発明1において、「ビーム伝播の中心軸の方向が変化されている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明26がビーム伝播の中心軸の方向が変化されている点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a13)、(a15)により、甲第1号証には、湾曲した毛管が開示されていて、湾曲した毛管により伝播の中心軸の方向が変化することは明らかである。
したがって、本件発明24は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(26)本件発明27について
本件発明27は、本件発明1において、「毛管束の断面形状が変化している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明27が毛管束の断面形状が変化している点で相違する。
検討するに、甲第3号証の前記記載事項(c2)により、甲第3号証には、毛管束の断面形状が変化していることが開示されている。そして、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明27は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(27)本件発明28について
本件発明28は、本件発明1において、「放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明28が放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした点で相違する。
検討するに、甲第1号証記載の発明は、複数の毛管を有するものであるから、放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにしたものである。
したがって、本件発明28は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(28)本件発明29について
本件発明29は、本件発明1において、「チャネルが複合曲率になっている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明29がチャネルが複合曲率になっている点で相違している。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a12)により、甲第1号証には、毛管に直線部分と曲げられた部分があることが開示されていて、チャネルが複合曲率になっていることは明らかである。
したがって、本件発明29は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(29)本件発明30について
本件発明30は、本件発明29において、「発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成する」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明29が発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成するの点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b8)により、甲第2号証には、発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成することが開示されている。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明30は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(30)本件発明31について
本件発明31は、本件発明29において、「樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明31が樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b8)により、甲第2号証には、発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成することが開示されていて、樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張するように構成することに格別の困難性は認められない。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明31は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(31)本件発明32について
本件発明32は、本件発明1において、「ビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明32がビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している点で相違する。。
検討するに、放射線を伝導できない材料で作成したケーシングを構成することは慣用手段であり、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る本件発明32のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明32は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(32)本件発明33について
本件発明33は、本件発明32において、「開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明33が開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている点で相違する。
検討するに、放射線を伝導できない材料で作成したケーシングを構成して放射線の直線的な透過をブロックすることは慣用手段であり、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明33は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(33)本件発明34について
本件発明34は、本件発明1において、「支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明34が支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている点で相違する。
検討するに、支持構造体をクレードル部材で構成することは慣用手段であり、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明34は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(34)本件発明35について
本件発明35は、本件発明1において、「チャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明35がチャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a12)により、甲第1号証には、毛管に直線部分と曲げられた部分があることが開示されていて、チャネルが一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている部分を有することは明らかである。
したがって、本件発明35は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(35)本件発明36について
本件発明36は、本件発明1において、「放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明36が放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a8)により、甲第1号証には、材料を選択することによって、選択したエネルギー範囲の放射線の透過効率を変化させることが示唆されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、本件発明36は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(36)本件発明37について
本件発明37は、本件発明36において、「全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明37が全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a8)により、甲第1号証には、材料を選択することによって、選択したエネルギー範囲の放射線の透過効率を変化させることが示唆されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、本件発明37は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(37)本件発明38について
本件発明38は、本件発明37において、「高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明37が高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a8)により、甲第1号証には、材料を選択することによって、選択したエネルギー範囲の放射線の透過効率を変化させることが示唆されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明38は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(38)本件発明39について
本件発明39は、本件発明37において、「荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明29が荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a12)により、甲第1号証には、毛管に直線部分と曲げられた部分があることが開示されていて、チャネルが複合曲率になっていることは明らかである。
したがって、本件発明39は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(39)本件発明40について
本件発明40は、本件発明37において、「曲率とカットオフエネルギーとを調整した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明40が曲率とカットオフエネルギーとを調整した点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a7)により、甲第1号証には、放射線が減衰してカットオフされるエネルギーがチャネルの湾曲角φによって影響されることは明らかである。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明40は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(40)本件発明41について
本件発明41は、本件発明37において、「放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルに入射させる」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明41が放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルに入射させる点で一応相違する。
検討するに、放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルに入射させることは、甲第1号証記載の発明も同様の作用を有しているので、上記相違点は実質的な差異ではない。
したがって、本件発明41は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(41)本件発明43について
本件発明43は、本件発明36において、「チャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明43がチャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている点で相違する。
検討するに、甲第7号証の前記記載事項(g1)により、甲第7号証には、チャネルの断面を非円形としても良いことが開示されているので、チャネルの断面を矩形とすることにに格別の困難性は認められない。そして、甲第1号証及び甲第7号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第7号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明43は、甲第1号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(42)本件発明44について
本件発明44は、本件発明1において、「選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明44が選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a8)により、甲第1号証には、材料を選択することによって、選択したエネルギー範囲の放射線の透過効率を変化させることが示唆されている。
してみると、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明44は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(43)本件発明45について
本件発明45は、本件発明1において、「装置を冷却している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明45が装置を冷却している点で相違する。
検討するに、装置を冷却することは慣用手段であり、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明45は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(44)本件発明46について
本件発明46は、本件発明45において、「入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して冷却を実現している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明46が入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して冷却を実現している点で相違する。
検討するに、装置を冷却することは慣用手段であり、冷却する手段として入力端に配置した入力阻止バッフルを使用することに格別の困難性は認められない。
してみると、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明46は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(45)本件発明47について
本件発明47は、本件発明45において、「冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明47が冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている点で相違する。
検討するに、装置を冷却することは慣用手段であり、冷却用熱伝導材料でチャネルを覆う構成とすることに格別の困難性は認められない。
してみると、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明47は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(46)本件発明48について
本件発明48は、本件発明45において、「チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明48がチャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している点で相違する。
検討するに、装置を冷却することは慣用手段であり、チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している構成とすることに格別の困難性は認められない。
してみると、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明48は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(47)本件発明49について
本件発明49は、本件発明45において、「チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明49がチャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している点で相違する。
検討するに、装置を冷却することは慣用手段であり、チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している構成とすることに格別の困難性は認められない。
してみると、甲第1号証記載の発明に慣用手段を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明49は、甲第1号証記載の発明及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(48)本件発明50について
本件発明50は、本件発明1において、「軟化温度が高い材料でチャネルを作成した」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明50が軟化温度が高い材料でチャネルを作成した点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a4)により、甲第1号証には、毛管の材料は、ある波長の放射の選択的な減衰に影響することが開示されている。
してみると、放射の減衰に影響しないような毛管の材料を選択して、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明50は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(49)本件発明51について
本件発明51は、本件発明50において、「熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明51が熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした点で相違する。
検討するに、甲第2号証の前記記載事項(b3)により、甲第2号証には、反射係数が反射表面によって影響されることが示唆されている。してみると、熱伝導がよく融点が高い材料でコーティングすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明51は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(50)本件発明52について
本件発明52は、本件発明1において、「チャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明52がチャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a9)により、甲第1号証には、電気伝導材であるベリリウム、アルミニウム、銅、銀によってチャネルを形成することが開示されている。また、甲第7号証の前記記載事項(g1)により、甲第7号証には、チャネルをコーティングすることが示唆されている。そして、甲第1号証及び甲第7号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第7号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明52は、甲第1号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(51)本件発明53について
本件発明53は、本件発明1において、「準平行ビームを成形し、テーパ毛管束に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる」ことを限定した発明であって、本件発明53が準平行ビームを成形し、テーパ毛管束に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる点で相違する。
検討するに、甲第8号証の前記記載事項(h1)、(h2)により、甲第8号証には、テーパ毛管を長さに沿って幅が狭くなるようにしたことが開示されている。そして、甲第1号証及び甲第8号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第8号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明53は、甲第1号証及び甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(52)本件発明54について
本件発明54は、本件発明53において、「d1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明54がd1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている点で相違する。
検討するに、甲第8号証の前記記載事項(h1)、(h2)により、甲第8号証には、テーパ毛管を長さに沿って幅が狭くなるようにしたことが開示されている。甲第1号証記載の発明は、X線が毛管を全外反射するようにしたものである。そして、甲第1号証及び甲第8号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明の毛管を甲第8号証記載の発明のテーパ毛管のような構成として、上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明54は、甲第1号証及び甲第8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(53)本件発明55ないし58、60ないし71について
本件発明55ないし58、60ないし71は、用途を限定した発明である。これに対して、甲第1号証の前記記載事項(a1)により、甲第1号証には、装置がX線リソグラフィーシステム、X線プラズマ診断、医療に用いられることが開示されている。
たしかに、甲第1号証に記載の装置は、その用途について具体的な記載はないが、同号証に記載の装置の機能からみて、当該装置は、X線照射を必要とする様々な分野、機器で用いられ得ることは当業者であれば普通に想起し得ることであるから、本件発明55ないし58、60ないし71のように本件装置の用途を特定することは、当業者であれば容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明55ないし58、60ないし71は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(54)本件発明59について
本件発明59は、本件発明1において、「発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する」ことを限定した発明であって、甲第1号証記載の発明とは、本件発明59が発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する点で相違する。
検討するに、甲第1号証の前記記載事項(a12)により、甲第1号証には、毛管を異なる曲率とすること、甲第2号証の前記記載事項(b8)により、甲第2号証には、発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成することがそれぞれ開示されている。そして、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明はいずれも荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置という同一技術分野に属する。
してみると、甲第1号証記載の発明に甲第2号証記載の発明を適用して上記相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、本件発明59は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.無効理由2(特許法第36条違反)について

(1)特許明細書の本件請求項5に係る発明について、特許明細書の第14欄第35行?第39行、第10図の記載により、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(2)特許明細書の本件請求項42に係る発明について、特許明細書の第28欄第25行?第46行、第21A図、第21B図の記載により、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(3)特許明細書の本件請求項53、54に係る発明について、前記「第2 訂正の可否についての判断」について既述したように、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえない。

(4)特許明細書の本件請求項12に係る発明について、低密度材料は周知であり、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないとはいえない。

(5)特許明細書の本件請求項25に係る発明について、前記「第2 訂正の可否についての判断」について既述したように、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえず、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないとはいえない。

(6)特許明細書の本件請求項50に係る発明について、軟化温度が高い材料は周知であり、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないとはいえない。

(7)特許明細書の本件請求項51に係る発明について、融点が高い材料はは周知であり、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないとはいえない。

(8)特許明細書の本件請求項72に係る発明について、前記「第2 訂正の可否についての判断」について既述したように、発明の詳細な説明に記載されていないとはいえず、明細書又は図面において当業者が容易に実施をできるように記載されていないとはいえない。

4.被請求人の主張について

被請求人は、請求人が新たな証拠として提出した甲第10号証に基づく主張及び新たな翻訳箇所に基づく主張に対して、被請求人に答弁書提出及び訂正請求の機会が与えられるべきである旨主張する。
これについて、平成17年9月1日になされた口頭審理において、請求人は、平成17年9月1日付け口頭審理陳述要領書において新たに提示された甲第10号証に基づく主張を取り下げた(平成17年9月1日付けの口頭審理調書を参照。)。
また、平成16年11月18日付け審判請求書における翻訳箇所が主要事実として用いられているので、新たな翻訳箇所に基づく主張は主要事実の差し替えや追加等に該当しない(特許庁編、「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」、発明協会、平成15年12月26日、第49頁第26行?第28行を参照。)。
さらに、平成17年12月1日付け補正許否の決定により、請求項1、5、6についての請求人の新たな主張は許可しない決定がなされた。
したがって、被請求人の前記主張は採用することができない。

第6 結び

以上、詳述したように、本件請求項1、3、5ないし12、14ないし24、26ないし41、43ないし71に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

本件特許の請求項2、4、13、25、42、72に係る発明の特許は、請求人の主張及び証拠方法によっては無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その72分の6を請求人の負担とし、72分の66を被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。

平成17年12月20日 」
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粒子、X線およびガンマ線量子のビーム制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され、当該複数の別個の毛管束の各々は、相互につなげられた複数の毛管により形成され、しかも、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する、請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項4】支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できる、請求項1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項6】チャネル幅をその長さに沿って変更可能とした、請求項5の装置
【請求項7】装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした、請求項6の装置。
【請求項8】入力端でのチャネル幅が、
R(θcr)^(2)/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした、請求項7の装置。
【請求項9】出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした、請求項7の装置。
【請求項10】チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した、請求項1の装置。
【請求項11】支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した、請求項1の装置。
【請求項12】発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項13】平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項14】発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項15】準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項16】ブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した、請求項15の装置。
【請求項17】放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した、請求項15の装置。
【請求項18】吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した、請求項1の装置。
【請求項19】装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した前記吸収フィルタを用いる請求項18の装置。
【請求項20】チャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている、請求項1の装置。
【請求項21】ビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている、請求項1の装置。
【請求項22】準平行ビームを形成している、請求項21の装置。
【請求項23】チャネルの扇形に広がった出力端は、θ-D/L1以下であるテーパ角を有しており、θは準平行ビームの指定発散角、L1は円錐形束管セクションの長さをそれぞれ表している、請求項21の装置。
【請求項24】ビーム伝播の中心軸の方向を変化されている、請求項1の装置。
【請求項25】毛管束の断面形状が変化している、請求項1の装置。
【請求項26】放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした、請求項1の装置。
【請求項27】チャネルが複合曲率になっている、請求項1の装置。
【請求項28】発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成する、請求項27の装置。
【請求項29】樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している、請求項27の装置。
【請求項30】ビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している、請求項1の装置。
【請求項31】開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている、請求項30の装置。
【請求項32】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている、請求項1の装置。
【請求項33】チャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている、請求項1の装置。
【請求項34】放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている、請求項1の装置。
【請求項35】全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している、請求項34の装置。
【請求項36】高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している、請求項35の装置。
【請求項37】荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている、請求項35の装置。
【請求項38】曲率とカットオフエネルギーとを調整した、請求項35の装置。
【請求項39】放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルにとどめる、請求項35の装置。
【請求項40】最初の一連のチャネルでは捕捉できないビームの部分に、別のチャネルの入口を複数配置し、最初の一連のチャネルの角より小さい放射に対してチャネル壁が一定の角度になる状態で、当該追加チャネルの入口を配置し、最初の一連のチャネルで捕捉した放射幅より小さい臨界角を有する放射幅を当該追加チャネル入口で捕捉するようにした、請求項39の装置。
【請求項41】チャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている、請求項35の装置。
【請求項42】選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している、請求項34の装置。
【請求項43】装置を冷却している、請求項1の装置。
【請求項44】入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して当該冷却を実現している、請求項43の装置。
【請求項45】冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている、請求項43の装置。
【請求項46】チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している、請求項43の装置。
【請求項47】チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している、請求項43の装置。
【請求項48】軟化温度が高い材料でチャネルを作成した、請求項1の装置。
【請求項49】熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした、請求項48の装置。
【請求項50】当該チャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する、請求項1の装置。
【請求項51】準平行ビームを成形し、テーパ毛管に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる、請求項1の装置。
【請求項52】d1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている、請求項51の装置。
【請求項53】X線リソグラフィーシステムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項54】X線源とマスクとの間に配設した請求項53記載の装置。
【請求項55】装置マスク間の距離を、チャネルの離散パターンにより生ずるビーム強度差を均質化するに充分とした請求項54記載の装置。
【請求項56】さらにマスクを合体させた請求項53記載の装置。
【請求項57】発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する請求項1記載の装置。
【請求項58】分析機器に用いる請求項1記載の装置。
【請求項59】放射源と分析しようとする試料との間に配置した請求項58記載の装置。
【請求項60】分析機器がX線蛍光装置である請求項58記載の装置。
【請求項61】分析機器がX線回析装置である請求項58記載の装置。
【請求項62】分析機器が中性子装置である請求項58記載の装置。
【請求項63】試料と放射検出手段との間に配設した請求項58記載の装置。
【請求項64】医療診断システムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項65】医療診断システムが血管造影撮影装置である請求項64記載の装置。
【請求項66】医療診断システムが内視鏡である請求項64記載の装置。
【請求項67】医療診断システムが中性子捕獲療法システムである請求項64記載の装置。
【請求項68】医療診断システムが断層撮影または分布撮影装置である請求項64記載の装置。
【請求項69】患者を照射する収束ビームを形成するのに用いられる請求項64記載の装置。
【請求項70】複数の支持構造体の間隔が(12El/QR1)^(1/2)であり、Eは当該チャネルの弾性係数、lは中立軸に相対的な当該チャネルの断面の慣性モーメント、Qは単位長さ当りの当該チャネルの重さ、R1=2D/θD^(2)であり、当該チャネルの曲がりの臨界半径であり、高透過効率が望まれる放射スペクトルの指定高エネルギー境界で定義する値である、請求項1の装置。
【発明の詳細な説明】
発明の背景
本発明は、放射ビームを制御する装置であり、より詳しく述べれば、X線ビーム、ガンマ線ビーム、および荷電粒子ビームを制御する装置であり、収束ビーム、発散ビーム、準平行ビームを、広いスペクトル範囲、広い開口角度、短い形成パスで、形成する装置に関する。
本発明の利点の一つは、X線、ガンマ線、および中性子ビームを制御して医療用放射線透過検査および治療へ応用したり、X線微量検光子およびX線回折検光子用のビームを形成したり、メスバウアー検査でガンマ線を効果的に利用できることである。
本発明のもう一つの利点は、さまざまな放射源から放射されたエネルギーを集束させることにより、放射ビームを微小領域に高出力密度で生成するのに効果があり、例えば、電波天文学で、小型で局所化した放射源に同調させた有向放射線検出器を形成するのに役立つことである。
電荷粒子ビーム、X線ビーム、およびガンマ線ビームを制御するためにさまざまな装置が使用されている。これらの装置は、例えば、フレネルのミクロ位相板、多層鏡、およびブラッグの結晶のような放射線干渉および放射線回折に基づいている。磁気要素および静電要素も荷電粒子ビーム制御に使用されている。しかし、これらの装置の致命的な問題点は、その装置が依拠している物理現象のため、スペクトル幅が狭いことである。
周知のように、さまざまな荷電粒子ビーム、中性子ビーム、X線ビーム、ガンマ線ビームを縮合媒体の境界に入射すると、全外反射が起こる臨界角と呼ばれる一定のグレージング角度の値が得られる。なお、その角度より小さいと損失が極めて少なくなる。反射面が平滑でその材質の放射吸収度が低い場合、全反射の損失が大変少ないので、臨界角より小さい角度で複数の反射光を利用してビームを効果的に制御することができる。
先行技術としては、曲がり束管チャネルで全外反射を起こして準平行X線ビームを集束して形成する装置が知られている。(旧ソ連 物理学+ウズベク、第157巻、第3号、1989年5月発行。V.A.アクラデエフ(Arkad’ev)、A.I.カラミツェフ(Kolomijtsev)、M.A.クマコフ(Kumakov)、I.Yu.ポノマレフ(Ponomarev)、I.A.コデーエフ(Khodeyev)、Yu.P.チェルトフ(Chertov)、I.M.シャクパロノフ(Shakhparonov)。「広い角度開口広帯域X線光学(Wideband X-ray Optics With Wide-Angle Aperture)」pp.529-537)この装置は、複数のチャネルで構成されており、全外反射を特徴とする内部面を持ち、入力端が放射源に向かい、出力端が放射受光器に向かう構成になっている。チャネル形成要素は、仮想同軸または虚数同軸の樽状の母面にある。
この先行技術に基づいた装置の問題点は、管状チャネルを通過する際の放射損失が大きいことである。その原因は、虚数同軸の樽状の母面にある管状チャネルを正確に位置づけることができないことと、放射線の入力端と出力端をそれぞれ放射源と受光器に最適な角度で向けることができないことである。もう一つの問題点は、管状チャネルの大きさが最適ではないために、スペクトル幅が比較的狭いことである。
X線リソグラフィーでは、微小域(点光源)から放射するX線やシンクロトロンで生成するX線などのさまざまな資源を利用して画像を生成している。しかし、残念ながら、X線リソグラフィーを使用したシステムではX線を適切に操作できないという限界がある。
X線光学には、可視光線でも赤外線(IR範囲)でも経験しなかった困難な問題がある。媒質内部の電子レベルを励起またはイオン化できるエネルギーを有する光子が強力に吸収されてしまうので、屈折率が異なる媒質を通す屈折ができないのである。ただし、多層鏡またはゾーンプレートまたは位相板で単一結晶に起こるブラッグ散乱を利用すれば、回折および干渉現象によりX線を偏向させることは可能である。確かに、この方法を適用している実例も多いが、エネルギー(波長)に制約があるので、エネルギースペクトルが広いX線ビームを制御するには使えない。既知の材料の表面にX線を広い角度から入射すると、反射係数がとても小さいので、反射の使用も制約がある。
すれすれ入射光学は、X線の全外反射現象に基づいて開発されてきた。すれすれ入射光学は、平らな鏡で偏向させて曲がった鏡で平行ビームを集束させるシンクロトロン放射装置で広く使われている。これらの鏡では単一の反射を使用しているのが通常である。そのような装置では、全外反射角(キロ電子ボルトのエネルギーで数ミリラジアン)の値が小さいので、開口角が極めて小さくなる。
従来の装置で点光源を使用するX線リソグラフィーでは、強度、光倍率、半影ブレおよび光源位置が不安定であるという制約があった。また、シンクロトロン光源を使用するX線リソグラフィーの場合も、強度に制約はないが、ビームを垂直方向に入射すると有効な発散が見られない。
本発明は、従来技術で長年懸案になっていた問題を解決することにより、X線の制御、精密さ、および正確さの点でX線リソグラフィーシステムを改良したものである。
X線、ガンマ線、および粒子放射線は、現在さまざまな分析器機で使用されている。放射線を使用すると、試料の組成や構造などの特性について知ることができる。しかし、残念ながら、従来の計測器には強度およびビームの指向性または偏向の制御という点で制約があった。
試料(物質、成分、または系)を非破壊的に評価する方法で最も重要でかつ広く使用されているのは、X線蛍光分析または分光分析(XRF)である。X線蛍光分析は、分析ツールとして、主として、波長分散分光分析(WDXRF)およびエネルギー分散分光分析(EDXRF)の2つの方法で開発された。さらに、上記の2つの測定技術を組み合わせて高い分解能で測定をすれば、高速で半定量的な分析結果が得られるが、現在商用化されているものは殆どない。
剛性試料に光子を照射することにより放出されるX線には、「制動放射」の広いバックグラウンドにある試料の単一エネルギーX線特性が含まれている。しかし、残念ながら、そのようなX線放射源により励起された2次X線スペクトルには、通常、試料に制動放射を連続すると分散が発生しエネルギーがより低いバックグラウンドになる。
本発明がX線蛍光分析を改良した点は、(1)検出器に到達する強度を上げることにより測定時間を短縮した、(2)光子の衝突を引き起こす検出器に到達する制動放射を減少させることにより測定時間を短縮した、(3)信号対雑音比を増加させることにより分解能を上げた、(4)検出器に到達する制動放射を減少させる、(5)角関係を精密に制御することによりWDXRFの分解能を向上させた、(6)明確に定義した小さな領域を評価する能力を向上させた、(7)操作により組成分布を判定する能力を向上させた、(8)試料や源開口などの部分を移動せずに、明確に定義した領域で平均組成を判定する能力を向上させた、(9)明確に定義した剛性試料の体積の分析を可能にし、より小型の検出器を使用できる系で他の組成のコストを減少させた。
本発明者は、特別な形状面から複数の反射を利用したX線の集束を初めて提案し、これらの「クマコフ(Kumakhov)」レンズの透過率は50%にもなることを実証したことがある。さらに、これより低い透過率でも、大きな収集開口度(0.25ラジアン)のためにX線強度が4倍も増加したことを示した。
放射線ビームは、医療にかかわる診断と治療の両方の分野で幅広く応用されている。しかし、従来の医療器機の使用と効果に制約があったのは、(i)容易に濾光しない所望のエネルギーより高い光子または粒子が存在するため、所望のエネルギーでバンド幅が狭くかつ高い強度のビームが得られなかった、(ii)所望の横断面積を有する平行ビームを形成し集光ビームを形成することができなかった、(iii)コリメーション時に強度が大幅に損失した、(iv)体腔のライニングに直接放射線を照射する効果的な手段がなかったからである。
これらの制約のため、画像の分解能は低いままであり、高レベルの放射線量が患者の健康な組織細胞に影響を与えたり医療員が放射能に汚染されたりすることがあり、光源や検出器などの装置部品が高価になっているのである。クマコフのレンズは、放射線の照射が正確でかつ精密なので、上記の問題を最小限に押さえることができる。
要約すると、本発明は、X線リソグラフィー、分析器機、医療器機などに新規なクマコフのレンズを応用するものである。
発明の要約
本発明の目的は、ビーム制御装置のチャネルを通して放射透過を効率化し、制御中の放射ビームの角幅およびスペクトル幅を拡張し、装置製造にかかわる労力を減少させ、装置を小型化し、焦点領域を狭くし、ビームのエネルギー集束および出力装置でのビーム出力密度の効率を向上させ、出力装置での放射ビーム均等性を向上させ、角ビーム発散を減少させ、形成中の放射ビームにバックグラウンド放射が与える効果を減少させることにある。
このような目的を実現するために、粒子量子、X線量子、およびガンマ線量子の各ビームを制御する装置において、複数の全外反射を特徴とする内部面に複数のチャネルを設け、入力端が放射源に向い、出力端が受光器に向かうように配置する。この装置では、虚数同軸の樽状の母面に配置した要素でチャネルを形成することが望ましい。本発明の方針に従って、チャネル形成要素を剛性支持構造で空間に位置づけ、入力端で放射線方向に次の条件を満足するチャネル幅Dを各チャネルに指定する。
D_(1)≦2θ_(D)F+D
なお、上記の式で、D_(1)は放射源の有効直径である。ここからレンズで放射線を捕捉する。θ_(D)は、必要なスペクトル幅で放射する臨界全外反射角の最小値である。Fは、ビーム伝播の中心軸に沿って測った、放射源からチャネルの入力端までの距離である。
複数のチャネルを曲がり束管で構成し、虚数同軸の樽状の母面に沿って縦軸を設定した場合、本発明の剛性支持構造を、円板がビーム伝播の中心軸に垂直になるように配置し、各円板に蜂の巣形の開口パターンを設けて束管を収容することにより、虚数同軸の樽状の母面に沿った縦軸をしっかり固定する。このような剛性支持機構を形成する方法はたくさんある。例えば、リソグラフィーまたはレーザ旋削のような処理により穴を開けた剛性板を使用したり、平面上で複数の方向に予め定めた間隔で大きな開口に沿ってパターン内の配線などの資材を配置する剛性枠を使ったりしても固定することができる。
この方法を使用すれば、曲がりチャネルの形状を正確に形成し、その位置を固定し、曲率半径の最適値からの偏差を極小にし、放射源および受光器に対してそれぞれ入力端および出力端を正確にかつ固定して位置づけることができるので、チャネルに入射する放射線を最大限に捕捉し、放射伝播損を最小化することができる。
本発明の別の側面として、個々の円板を一枚一枚他の円板と相対的に軸方向に沿って移動できるという特徴がある。例えば、入力端に最も近い円板にこの方法を適用すると、焦点距離と捕捉角を調整することができる。移動可能な支持機構を使用すると、伝送エネルギー帯域幅やスペクトルを調整したり、ビーム焦点の大きさや出口焦点距離を調整したりするのに役立つ。
同軸の樽状のビームの反射層またはエンベロープ間の隙間で、制御中のビームに対して同軸方向にチャネルを形成した場合、少なくとも2つの剛性格子(例えば、蜂の巣形のパターン)をチャネルの入力端および出力端に、ビーム軸に垂直に配置し、エンベロープを入力端および出力端で格子にしっかり固定することにより、剛性支持構造を形成する。このように設計すると、装置を固定する構造で発生する放射強度損を最小化したり、装置の組み立てを簡単にしたり、エンベロープ強化構造を軽量化したり、その強化構造によるエンベロープの変形を最小化したりすることができるという利点がある。
チャネル形成要素として曲がり束管を使用しているので、開口部の蜂の巣形のパターンで曲がり束管の位置を制御ビームの中心軸に沿って固定して、支持円板を位置づけられるという利点もある。なお、その際、支持部の間隔は次の式で表される。

この式で、Eは、最大温度での束管の弾性係数である。なお、この最大温度には、放射吸収に起因する束管の温度上昇分を含んでいる。Iは、中立軸に相対的な束管の横断面の慣性モーメントを表す。Qは、単位長ごとの束管の質量を示す。R_(1)=2D/Q^(2)は、必要な放射スペクトルの高エネルギー境界で判定した束管の臨界弾性半径である。このようにすると、束管が自身の重みでたるむのを許容弾性にまで最小化できる。なお、チャネルを通る放射透過による放射強度損は許容弾性を超えない。
複数のチャネルを毛管として設計する場合、毛管を別々の束にまとめて、束の縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って、制御ビームの中心軸に対して同軸になるように配置し、制御ビーム軸に垂直になるように円板を配置して剛性支持構造を設計し、開口部に蜂の巣形のパターンを用意して毛管のそれぞれの束を収容することができるという特徴がある。このように設計すると、チャネルの直径を小さくしてチャネルの数を増やせるので、装置のスペクトル幅を拡張できるという利点がある。なお、装置を組み立てる労働内容は、チャネルの数ではなく毛管の数に依存する。また、個々の小さな毛管の強度と比較すると、毛管の束としての強度の方が強いので破損が少なくなる。チャネルの臨界弾性半径R_(1)が小さくなるので、装置を小型化することができる。
前述したように、制御ビームの中心軸と同軸方向に虚数同軸の樽状の母面に沿って曲がり束管の縦軸を配置した形態で複数のチャネルを設計すると、本発明によれば、束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し、各束管のチャネル幅をチャネル長に沿って可変にし、束管の横断面で対応する装置寸法に比例させることができる。このように設計すると、装置の広い部分でチャネル寸法が大きくなり、焦点方向に向いた入力端および出力端でチャネルの直径が小さくなるように管束を自由に変形することにより装置全体を形成することができる。熱可塑性の管束を加熱して引き延ばすなどの方法が可能である。この方法によれば、焦点領域の直径を数倍も小さくすることができるので、放射エネルギーの集束度が高まる。この手法を自動化すれば、本発明を製造するコストも低くできる。
本発明のもう一つの側面として、複数のチャネルで曲がり束管を構成し、その縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って配置することにより、剛性で蜂の巣形のパターンの支持構造のブッシングを形成し、ビーム伝播の中心軸に垂直な平面で各束管を包み、ブッシングを一つ一つしっかり固定し、接着剤、連動機構または締め付け装置(例えば、外締め)などで支持構造を構成することができるという特長がある。この方法を使用すると、装置の組立が簡単になり、装置の作成でチャネル形成要素の数を増やせるので、角ビーム制御の範囲を広げることができる。
同様に、複数のチャネルを毛管で設計するにあたり、毛管を束にまとめて、その縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って配置し、剛性で蜂の巣形のパターンの支持構造でブッシングを構成し、制御ビーム軸に垂直な平面で各毛管束を包み、接着剤、連動機構、または締め付け装置で一つ一つしっかり取りつけるのにも役立つ。この用法によれば、装置の組立も簡単になる。
ブッシングで各束管または毛管束を包む代わりに、共角積み重ねクレードルを使用して剛性支持構造を形成することもできる。
剛性支持構造をビーム伝播の中心軸の回りに、一つの単位として回転させて搭載することもできるので、別々のチャネルからのビーム透過による不規則性を平均化することにより、ビームの横断面に沿って時間平均の放射強度を等化することができる。
さらに、本発明の側面として、チャネルが異なる場合はその波長も変えることができるという特長がある。すなわち、形成中のビームの横断面の各領域で放射強度の減衰に従って波長を選択する。この方法によれば、曲率が異なるチャネルを経由した場合放射透過中の強度損が相違することにより発生する不規則性を取り除くことにより、形成中のビームの横断面に沿って放射強度を制御することができる。最もよく使用されているのは、ビーム強度の等化である。その他、横断面で密度と厚さが変化する吸収フィルタがある。中心から周辺に向かって吸収度が下がっていくフィルタをビームパスに置いても同じ効果が得られる。
個々の要素をテーパー角θ_(1)で(円錐状に)発散させるのにも役立つことが実証されている。なお、θ_(1)<θ-D/L_(1)の関係になる。この式で、θは準平行ビームの必須発散角度、L_(1)は低減する束管部分の長さである。この場合、フレアーアウトチャネルで放射透過をすると、ビームの発散がテーパー角の値まで減少する。
本発明の別の側面として、曲率が複合している虚数同軸の母面に沿ってチャネル形成要素を配置することができる。例えば、チャネルの出力端をチャネル形成要素といっしょに延長することができる。なお、このチャネル要素を配置する虚数ドーナツ状の面の母面は、虚数樽状の面の母面と対応しており、出力端は放射受光器に向けられている。この方法によれば、このようにして形成した放射ビームの密度を高めることができる。
束管間の隙間を化合物で埋めれば、剛性支持構造を効率的に生産できる。制御ビームの放射線を通さない外部遮へいケーシング資材で装置を作るのに適している。ケーシングの開口部をチャネルの両端に合わせて配置し、曲がりチャネルおよび放射線を吸収する束管間資材だけを採用して、密閉した放射線受光器または放射源に対する直線路を遮断することにより、形成した放射ビームにおけるバックグラウンド放射線率を減少させる。このような充填のおかげで、振動のような動きに対する感受率も下がる。
本発明は、前述したクマコフのレンズでX線リソグラフィーシステムも構成できる。X線源を必要とし、クマコフのレンズは、通常、X線源とマスクの間に配置する。
X線源は、点光源であってもなくても構わない。クマコフのレンズは、マスクとレジストとの間に配置してもよい。本発明は、次のようなX線リソグラフィーの方法についても提示する。まず、放射源を用意して、放射源からの放射線をクマコフのレンズを通して集束させ、次に、集束した放射線をマスクに通すのである。この方法で、クマコフのレンズを追加して、一つのレンズで準平行ビームを形成し、もう一つレンズで、予め選択したエネルギー帯にビームを集束させる。
さらに、本発明では、クマコフのレンズで構成する分析器機も規定する。通常、クマコフのレンズは、放射源と分析試料との間に配置する。この分析器機は、X線蛍光装置、X線顕微鏡、X線回折装置などのX線装置でも、イオン顕微鏡のようなイオン装置でも、中性子顕微鏡や中性子回折装置のような中性子装置でも、あるいは、電子ビーム装置でも構わない。
上記の計測器は、通常、モノクロメータで構成する。この中で放射源は、クマコフのレンズとモノクロメータの両方を横断できる。この適用形態では、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかであるのが普通である。
本発明の適用形態としては、クマコフのレンズを二次放射源と試料の間に配置することもできる。この場合、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかとして機能する。
本発明では、クマコフのレンズを分析対象の試料と放射線検出器との間に配置することもできる。この場合、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかとして機能する。
クマコフのレンズは、帯域フィルタとしても機能する。さらに、この計器は、デジタル減算分析で使用するのに適している。
さらに、本発明では、試料を分析する方法も規定する。まず、放射源を用意して、放射源から放射された放射線をクマコフのレンズに通して、クマコフのレンズから出てきた放射線に分析対象の試料を接触させて、試料から出てきた放射線を検出する。
通常、検出した放射線は、次に、その放射線にかかわる既知のパラメータと照合する。
放射源から出てきた放射線は次のように伝達する。まず、クマコフのレンズから出てきた放射線を反射し、次に、反射した放射線を別のクマコフのレンズに通す。この過程では、通常、結晶が必要になる。単結晶のモノクロメータが使用できる。さらに、試料から出てきた放射線を別のクマコフのレンズに通してから検出してもよい。
本発明では、医療装置も提供する。医療装置は、診断と治療の両方に適している。開示する特定の装置には、血管造影装置、内視鏡、X線断層撮影装置、組織イオン化装置、中性子捕捉治療装置、X線蛍光分析装置などがある。さらに、本発明では、医療装置でクマコフのレンズを使用する方法も提供する。
本発明では、患者に放射線治療をする方法も規定している。まず、放射線ビームを放射し、次に、クマコフのレンズに通してビームを集束させ、患者に照射する。さらに、患者の特定の物質の存在を検出する方法も規定する。まず、放射線ビームを放射し、次に、クマコフのレンズに通してビームを集束させ、患者に照射してから、残余のビームを検出する。
図面の簡単な説明
第1図は、本発明の一つの実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。蜂の巣形のパターンで配置した開口を有する円板によりチャネル形成要素を固定する。
第2図は、第1図で示した本発明の実施態様のA-A断面図である。
第3図は、第1図で示した本発明の実施形態のB-B断面図である。なお、毛管が延長して接触していることを示している。
第4図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。蜂の巣形の格子に接着することにより、チャネル形成要素としての樽状エンベロープを固定する。
第5図は、第4図の実施態様を放射源側から示した図である。
第6図は、本発明の実施態様の一部を示している。複数の毛管を別々の束にしてそれぞれチャネル形成要素にしている。
第7図は、曲がり束管を包むブッシングを使用して剛性支持構造を形成している。
第8図は、一束の毛管を包むブッシングを使用して剛性支持ヨークを形成している。
第9図は、積み重ねクレードル部材で構成する剛性支持構造を示している。
第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面図を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターンの支持構造を形成している。
第11図は、中心ビーム軸を中心にして剛性チャネル支持構造を回転させる配置図である。
第12図は、支持円板を軸方向に移動できる実施態様を示している。
第13図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、準平行ビームを形成する束管であり、直線束管部分に広がり、準平行ビームの断面図で放射線の強度を等化するために長さを変えている。
第13A図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。準平行ビームの断面図で放射線の強度を等化するために吸収フィルタを採用している。
第14図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、準平行ビームを形成する束管であり、裾広がりの部分で、準平行ビームの発散を減少させている。
第15図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、虚数同軸の樽状の面の母面に沿って配置され、ドーナツ状の面の母面に沿って伸びている。
第16図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成束管の間の隙間および束管支持円板の間の隙間には、剛性資材が充填されている。
第17図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。装置全体が遮断へいケーシングで覆われており、放射線伝達チャネルの入力端と出力端が開口部分で整列している。
第18図は、透過係数と光子の曲げエネルギーとの関係を示している。
第19図は、毛管の湾曲点近くで特別な形状をした毛管の中を光子が次々に壁に反射しながら伝達している様子を示している。
第20図は、透過係数と光子エネルギーとの関係を示している。なお、特別な形状では高エネルギーカットオフが発生いている。
第21A図は、一連の長方形の毛管の中を初期平行ビームが反射していく様子を示している。
第21B図は、各ビームごとの光子の数と光子のエネルギーとの関係を示している。2つのビームI_(1)とI_(2)が特別な分布曲線を示している。
第22図は、幅が可変な毛管を使用してビームを獲得する様子を示している。入口端に近いほど幅が狭くなっている。
第23図は、不均一なチャネル断面図に対してレンズで焦点を合わせている様子を示している。
第24図は、非対称レンズ系で発散源からの放射線が高強度になる点を得る様子を示している。
第25図は、レンズ要素の入力バッフリングを示している。
第26図は、毛管要素および流体(気体または液体)で冷却する要素間の空間を示している。
第27図は、個々のチャネルの直径が10μmで、複数の毛管で構成する直径が300μmの毛管束を示している。
第28図は、放射源、クマコフのレンズ、およびマスクで構成するシステムの略図である。放射源から放射されたX線は、クマコフのレンズを通り、マスクへ向かうことを表している。
第29図は、放射源、クマコフのレンズ、およびマスクで構成するシステムの略図である。放射源から放射されたX線は、クマコフのレンズを通り、マスクへ向かうことを表している。なお、クマコフのレンズから出てくるビーム間の幅が、第28図より狭くなっている。
第30A図は、放射源、クマコフのレンズ、マスク、およびウェハで構成するシステムの略図である。なお、図の記号の意味は次に通りである。
g=マスクとウェハ間の隙間
θ=レンズ捕捉角度(sr)
δ=半径倍率
第30B図は、X線がマスクを通り、ウェハに衝突している様子を示す略図である。なお、図の記号の意味は次に通りである。
θ=軸からの最大発散
ρ=周辺部のぼけ
第31図は、レンズの出力端で撮ったビームの断面図の拡大図である。
第32A図は、シンクロトロンからの発散ビーム、準平行ビームの集束用クマコフのレンズ、エネルギー帯反射用のクマコフのレンズ、およびビーム形成用クマコフのレンズを使用したシステムの略図である。
第32B図は、A-AおよびB-B面で撮ったビームの断面図の略図である。
第33A図は、シンクロトロンリングから出てくるシンクロトロン放射の略図である。
第33B図は、シンクロトロンリングから出てくる放射線を断面図が大きくなるように変形し、発散を少なくしてエネルギーがより高い光子を濾過している様子を示している。
第34図は、X線源、先頭のクマコフのレンズ、マスク、フィルタ、もう一つのクマコフのレンズ、およびレジストで構成するリソグラフィーの拡大略図である。
第35図は、第34図の2番目のクマコフのレンズの拡大図である。
第36図は、発散ビームがクマコフのレンズを通り集束する様子を示している概略図である。
第37図は、平行ビームがクマコフのレンズを通り集束する様子を示している概略図である。
第38A図は、クマコフのレンズを通り準平行ビームが形成される様子を示している概略図である。
第38B図は、別の形で、クマコフのレンズを通り準平行ビームが形成される様子を示している概略図である。
第39図は、X線源、クマコフのレンズ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線が放射源からレンズを通り試料に衝突して、屈折してから検出される。
第40A図は、X線源、試料、クマコフのレンズ、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源から試料に衝突し屈折してクマコフのレンズを通ってから検出される。
第40B図は、X線源、試料、2つのクマコフのレンズ、結晶板、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源から試料に衝突し屈折してクマコフのレンズを通って結晶板で反射してもう一つのクマコフのレンズを通ってから検出される。
第41A図は、X線源、2つのクマコフのレンズ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源からクマコフのレンズを通り試料に衝突し屈折してもう一つのクマコフのレンズを通ってから検出される。
第41B図は、試料(第33A図を参照)で屈折して2番目のクマコフのレンズに向かうX線と試料を通り抜けていくX線の様子を示す概略図である。
第42図は、電源、X線源、複数のクマコフのレンズ、試料、試料位置決め装置、エネルギー発散形検出器、単結晶反射鏡または多層反射鏡、電子検出器、完全な中央分析システムなどで構成する複合分析システムの概略図である。
第43図は、X線源、2つのクマコフのレンズ、単結晶モノクロメータ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。
第44A図は、放射源、クマコフのレンズ、および一束の毛管で構成するシステムの概略図である。
第44B図は、放射源、クマコフのレンズ、および複数の毛管で構成するシステムの概略図である。
第45図は、放射源、クマコフのレンズ、および毛管システムで構成するシステムの概略図である。
第46図は、シンクロトロン放射を利用した顕微鏡の概略図である。
第47図は、樽形状毛管のレンズモードの概略図である。
第48図は、光子が樽形状毛管を通った様子を示す概略図である。
第49A図は、放射源、クマコフのレンズ、および単結晶で構成するシステムでの回折を示す概略図である。
第49B図は、放射源、2つのクマコフのレンズ、単結晶、および検出器で構成するシステムでの回折を示す概略図である。
第50図は、放射線がクマコフのレンズと単結晶モノクロメータを通り対象に至る様子を示す概略図である。
第51A図は、放射線がクマコフのレンズを通り、非対称にカットした結晶で反射してから対象に至る様子を示す概略図である。
第51B図は、A-A、B-B、およびC-Cにおける放射ビームの断面図を示す概略図である。
第52図は、コリメーターの断面図を示す平面図である。
第53図は、2つの放射源からビームをそれぞれ透過検出器を通し、対象物のある地点で交差してから、コリメーターと透過検出器を通り、位置判定検出器で留まる様子を示す概略図である。
第54図は、クマコフのレンズ、ラウエのジオメトリの単結晶モノクロメータ、対象物、コリメーター、および2次元位置反応検出器で構成するシステムの概略図である。
第55図は、光子の数とエネルギーとの関係をグラフにしたものである。点線は、対象となる線(例えば、ヨウ素のK線)のエネルギー吸収を示している。A図はモノクロメータからのビーム、B図はクマコフのレンズからのビームである。
第56図は、クマコフのレンズを通り生成された2つのピークを示している。点線は、対象となる線に対する吸収エネルギーを示している。
第57図は、(1)放射源、(2)クマコフのレンズ(放射源で生成された発散放射線を捕捉する)、(3)大きなチャネル、および(4)小さなチャネル(多数の毛管)で構成するシステムの概略図である。
第58図は、放射源から3次元(X_(0)、Y_(0)、Z_(0))方向に放射し、クマコフのレンズでその放射線を捕捉し、デフレクタの方向に放射を線集束している様子を示す概略図である。
第59図は、X線がクマコフのレンズを通り、対象物の中で一部の蛍光X線が偏向してもう一つのクマコフのレンズに入る様子を示す概略図である。
発明の詳細な記述
粒子ビーム、X線、およびガンマ線を制御する装置(クマコフのレンズ)は、複数の全外反射を特徴とする内部面を有する複数のチャネルで構成する。第1図の実施態様において、チャネル形成要素は、複数の曲がり中空束管1である。束管1の前後軸2は、制御ビームの重心軸3に同軸方向で虚数樽状面の母面に沿って配置する。チャネル形成要素は、剛性支持構造により相互にしっかり固定する。
剛性支持構造には、制御ビームの軸3に垂直な複数の円板4が含まれる。それぞれの円板には、蜂の巣状パターンの開口5があり、その開口を通して束管1を固定している。第2図に示す蜂の巣状のパターンのそれぞれの開口は、中心の開口の回りに6つの開口がそれぞれ等しい間隔で並んでいる。開口を別な方法で配列することも可能だが、前記の配列が望ましい。各円板で開口間の間隔は各円板の軸上での位置により異なるが、樽状面の母面に沿って束管1(第1図)をしっかり固定できるような位置を選択する。各円板4は、剛性資材(例えば、金属または硬質プラスティックまたは複合材)で作成し、枠6によりしっかり固定する。
曲がり束管1の入力端の方向は放射源7に向かい、出力端は受光器8に向ける。入力端および出力端は、第3図に示すように、全体が6角形の密集形になるように配列することが望ましい。
第1図で、本発明による各チャネルの半径D(入力端では束管1の直径)は次のように定義される。
D_(1)<2θ_(D)F+D
上記の式で、D_(1)は放射源7の有効直径であり、θ_(D)は指定したスペクトル幅での全外反射の最小臨界角、Fは重心軸3に沿って計測した放射源7から束管1の入力端までの距離である。
第4図に本発明の別の実施態様を示す。この実施態様では、制御ビーム軸3に同軸方向に、樽状ビーム反射層またはエンベロープ9の間に隙間を開けてチャネルを構成している。剛性支持構造は、少なくとも2つの格子で構成する。例えば、制御放射ビーム軸3に垂直なチャネルの入力端と出力端で蜂の巣状に配列したセル11(第5図)を配列する。剛性支持構造は、必ずしも蜂の巣状にする必要はないが、その場合はブロックした状態でビームに望ましくないパターンが形成される可能性があるので、十分注意して選ぶ必要がある。第4図に示すように、エンベロープ9で入力端および出力端を格子10に(例えば接着することにより)しっかり固定し、格子10はリング12に固定し、リング12は枠6によりしっかり固定する。
本発明の実施態様では、第4図に示すように、各チャネルの半径幅Dは、入力端での平面で放射状に広がる2つの隣接したエンベロープの間の距離で定義する。
さて、ここで曲がり束管をチャネル形成要素として機能させる実施態様に関する説明に戻る。束管1のチャネル(第1図)の入力横断面の充填係数を向上させるために、それぞれの束管1の横断面を3角、矩形、6角形などの形にして装置の入力横断面の充填係数を最大になるようにする。剛性支持部材は蜂の巣状以外の形態も可能であるが、その場合は放射線がブロックされてビームに望ましくないパターンが形成される可能性があるので十分注意して選ぶ必要がある。
Dサイズのチャネルを有する束管1を均一に曲げ、束管1に平行放射ビームを入射すると、ゼロからθmaxの範囲の角度でチャネル壁に衝突する。なお、θmax=(2D/R)^(1/2)であり、Rは束管1の曲がり半径である。その結果、それぞれの放射に固有の種類とエネルギーレベルは、いわゆる臨界曲げ半径がR_(1)=2D/θ^(2)_(D)という特長を有する。この値より低くなると、補足効果はR/R_(1)に比例して減少する。
チャネルが矩形の場合、この遅延は線形になる。チャネルが円筒形の場合、この遅延はもっと複雑な形になる。ビーム制御装置で束管がそれ自身の重さでたるむことにより局所的に曲がる半径には、R>R_(1)という制限がある。
制御ビームに沿って曲がり束管1を固定している開口5を含む蜂の巣状のパターンを有する円板4は、それぞれL≦(12EI/QU_(1))^(1/2)という間隔で配置することが望ましい。この式で、Eは束管1の弾性係数、Iは束管の中立軸に相対的な断面の慣性モーメント、Qは単位長さ当りの束管の重さである。なお、R_(1)は放射の高エネルギー境界で定義されている束管1の臨界曲げ半径である。このように円板4を位置づければ、束管1がそれ自身の重さでさらに曲がっても、放射線が透過することにより束管1のチャネルの全充填を保持するのに必要な値を超えることはない。
本発明装置の運用スペクトル範囲を拡大して中性子ビームの制御に適用すると、全外反射の臨界角を小さくし、束管1の直径を小さくすることができる。束管の直径が100μmより小さくすると、装置を組み立てる手順がかなり複雑になる。
チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。これにより反射面が平滑になり、複数の全外反射が可能になる(第6図および第27図)。このように構成すると、有効なチャネルの直径を数倍縮小することができる。その結果、運用スペクトル幅をより高いエネルギー領域に拡大して束管1の曲げ半径を小さくすることができる。これは、臨界曲げ半径が束管1の直径ではなく、毛管チャネル13の直径で決まるからである。したがって、チャネルの直径をサブミクロンのレベルまで小さくすることにより、チャネル数を数倍に増やすことができる。一方、装置を組み立てるのに要する労力は複数の毛管で構成する束管の数で決まるので、元の管状設計のレベルに維持することができる。
複数のチャネルで曲がり束管1(第1図)を構成する実施態様では、第7図に示すように、虚数同軸の樽状面の母面に沿って前後軸が配置されているので、制御ビーム軸に垂直な平面で角曲がり束管を覆うブッシング20で剛性蜂の巣状の構造を支持することもできる。ブッシングは、接着剤、連動機構、または締め付け機構で相互にしっかり固定する。
同様に、複数の毛管13(第6図)をまとめて別々の束管にして、その前後軸を虚数同軸の樽状面の母面に沿って配置した場合、剛性蜂の巣状構造は、制御ビーム軸に垂直な平面で、複数の毛管13で構成するそれぞれの束管を覆うブッシング21(第8図)の形にすることもできる。ここでも、ブッシングは、接着剤または包帯止めで相互に固定してヨークを形成する。
あるいは、第9図に示すように、クレードル部材22に束管1(毛管13の束)の所望の位置にしっかり固定することもできる。
管状チャネルの場合、組み立て手順を簡素化し、束管1の直径をできるだけ最小にして、ビーム集束領域のサイズを極小化することにより、その領域でのビーム密度を増加したい場合、束管1の壁をそれらの外面において剛に連結することにより、剛性蜂の巣状の構造を形成することもできる。本発明では、ガラス管のような熱塑性プラスティック管で装置を作成することを想定している。その場合、束管1の両端D_(0)から中央部Dmaxまで範囲でチャネル幅を変えることができる。本発明の実施態様では、チャネル幅は対応する束管の樽状面の直径に比例する。このような状態で、束管1の臨界曲がり半径は、入力半径D_(0)で定義する。チャネルの断面を装置の両端を透過する放射線で満たすのが不完全であっても透過効率の観点では重要ではないからである。
第10図に望ましい実施態様を示す。それぞれの束管1は、円弧に近い曲線に沿って曲げられている。装置の入力端で補足する放射線をフレアリングアウトを経由して透過させてから、必要に応じて正のガウスの曲率を有する反射だけでチャネルを逓減させ、反対側の壁に到達しないようにすることにより、装置入力端で獲得したすれすれ入射角の範囲を放射線が出力端に達するまで保持する。本発明によれば、束管1の直径は入力端で少なくともD_(0)になる。反対側の壁からの放射線を避けることが不可能だからである。その結果、すれすれ入射角が全外反射の臨界角θ_(D)を超えるので、放射損失が増えることになる。
本発明装置を使用して準平行放射ビームを生成することにより、長距離エネルギー伝送(例えば、データ伝送)、ゆがみなしの物体画像の伝送、プラナー結晶によるブラッグの放射モノクロ化などに応用することができる。多くの場合(例えば、X線リソグラフィー)、放射ビームの均一性と平行性が高くなければならない。しかし、管状システムで複数の全外反射で準平行ビームを生成すると、ビームの断面で放射分布が均一ではなくなる。その原因は、別々の束管1を経由した放射透過が離散的(ミクロ的均一性)であるからである。また、ビームの中心から端に至るまでの間に強度が低下するのは、束管1の曲率の大きい部分で放射透過の効率が低下する(マクロ的均一性)からである。
複数のチャネルを経由した離散的な放射透過が均一性を失うことが重大な問題になる場合、本発明による剛性蜂の巣状の構造を制御ビーム軸3を中心にして回転できるようにすることにより、露出時間を平均化してビームの強度を等価することもできる。例えば、第11図に示すように、外部駆動型の周歯車装置23を使用して回転させる。この構造は、例えば、X線リソグラフィーなどで準平行ビームを生成するのに応用できる。
第12図に本発明の実施態様を示す。この実施態様では、束管1の入力端の近くにある支持円板4’を軸方向に平行移動できる。ウォーム歯車機構25を駆動するロッド24を使用して静止円板4に対して円板4’を平行移動させる。逆に、円板4’を入力端に向かって移動させると、焦点長Fが増加し、同時に補足角θが小さくなる。円板4’を出力端に向かって移動させると、焦点長Fが減少し、補足角θが大きくなる。この様な操作をすると、透過エネルギー帯域幅とスペクトルを調整することができる。
複数の束管1チャネルの前後軸をそれぞれ出力端で平行になるようにして、放射ビームを透過させると、チャネルの曲率が異なるために放射透過効率も異なる。その結果発生する出力ビームの不規則性を補正するために、均一な断面を有する直線セクション14(第13図)をチャネルの出力端で延長させる。この直線セクション14の長さは、成形ビーム断面の各部分でのビームの強度の減衰度に応じて選択する。準平行ビームの中央で強度が低下する場合、延長束管1で放射吸収を行う。束管1の両端は必ずしも均一にする必要はない。強度分布に応じて、中央から周辺に向かって出力端を短くしていく。ビームパスに吸収フィルタ40(第13a図)を設ける方法もある。成形ビームの均一さのばらつきに応じて中央から周辺に向かって吸収フィルタの密度または厚みを減らしていく。このフィルタは、例えば、放射の種類に応じてレジストを選択して成形準平行ビームに露光させれば、作成できる。
ビームを成形する個々のチャネルからの放射発散は、全外反射の臨界角θ_(D)を超えない。放射発散を減少させる必要がある場合、束管1の出力端にフレアリング円錐形セクション15(第14図)を設ける。その際、テーパ角は、θ_(1)≦θ-D/L_(1)となる。この式で、θは準平行ビームで必要な発散角、L_(1)は円錐形セクション15の長さをそれぞれ示す。フレアリングアウトチャネルを透過するビームは、ビームの発散がテーパ角まで減少する。
均一に曲げた束管1を使用して準平行ビームを成形する場合、束管1の出力端と入力端のそれぞれの間隔を等しくすることはできない。したがって、虚数ドーナツ状面の母面に沿ったセクション16(第15図)で出力端を延長させて、元の樽状面と結合して、出力端のセクション16を受光器の方向に向けるようにして準平行ビームを成形することが望ましい。この場合、準平行ビームの別の部分をいっしょにして出力準平行放射ビームの密度を増加する。必要に応じて、他の複合曲率を有する虚数同軸面の母面に沿ってチャネル形成部材を配置してもよい。
管状チャネルを有する装置を設計する際、固定資材30(第16図)の剛性蜂の巣状の構造で束管1および円板4の間の隙間を充填する。なお、場合によっては、円板4を設けずに、固定資材だけを使用して束管1を固定してもよい。細い束管1を大量に使用して装置を作成する場合には、この構造の方が組み立てが簡単である。例えば、多孔性ポリマーを固定資材として使用して束管を平行に位置づけて、樽状ケーシング内部を圧縮することにより樽状面を成形することができる。この構成では、支持重構造が不要になるので重量がずっと軽くなる。例えば、この設計は宇宙でX線望遠鏡を設計するのに重要になる。
蜂の巣状のパターンを開口5に合わせてチャネル形成要素(例えば、束管1)を円板4に固定する際、チャネルの入力端を放射源7に向け、チャネルの出力端を受光器8に向け、チャネル形成要素を均一に曲げて正確に位置づける。その結果、D_(1)≦2θF+Dを満足すると、放射源7の任意の地点から放射線をθ_(D)より小さいすれすれ角でチャネル壁に入射することができるので、チャネルで放射線の全外反射を補足することができる。チャネルを均一にかつ正確に曲げると、チャネル壁にすれすれ角で入射させ、チャネルの入力端から出力端まで効果的に放射透過をさせ、その方向を受光器8に向けることが容易になる。
上記で記述した準平行ビーム成形装置で透過の方向を逆にすることにより平行放射ビームを集中することもできる。例えば、前述した「出力」端を元の平行ビームの方に向け、「入力」端を焦点の方に向けるのである。
放射のモノクロ化を達成する場合は、準平行ビームに対してブラッグ角で結晶を配置する。
許容限度を超える高いバックグラウンド放射がある場合、第17図に示すように、ビーム制御装置全体(支持構造は図中に示していない)を覆うことが望ましい。受光器8(または放射源7)、制御放射を伝導しない資材で外部遮へいケーシング17を作成し、チャネルの軸に対して開口18と19を入力端と出力端にそれぞれ合わせる。この実施態様では、中心軸に沿ったチャネル形成要素は、省略してもブロックしてもよい。複数の束管1の間の隙間は、放射を吸収またはブロックする部材36で充填する。その結果、好ましくないバックグラウンド放射が透過する際、受光器8へ直線で向かうパスはなくなる。
ガンマ線、X線、および粒子線のビームを制御する装置は、基本的には、特定の方向に向けて反射する面を制御するシステムである。複数の内部反射の全体効果に基づき、等方放射源から準平行ビームへ発散放射およびその焦点を変形する。この装置は、ガラスの曲がり管の束または同軸の「樽状」反射面を重ね合わせて設計してもよい。
本装置でガンマ線およびX線の放射を制御すると、放射エネルギーに応じて、等方放射源からの放射補足角が100度から数10度の範囲で補足できるエネルギーは、1x10^(2)eVから1x10^(7)eVの範囲になる。準平行ビームの発散は、臨界反射角を超えないので、10^(-4)ラジアンまで小さくすることができる。この装置を放射線の集束に使用すると、ガンマ線、X線、または粒子線を焦点部に集中できる度合は、この装置のような光学集束装置を使用しなかった場合と比較すると、数万倍と高くなる。焦点部の直径は、集束管の直径の制約を受けるが、10^(-8)cmまで小さくすることができる。
本装置は、広範囲の科学技術分野で新規の定性装置に応用できる。
本発明の実施態様は、曲がり束管を多層化したシステムであり、特定の層のチャネルの長さは、隣接する層のチャネルの長さと同じなので、透過特性がほぼ同じになる。さらに、X線と粒子線の導波管入射方向に向けられているので、チャネル壁でのビームのすれすれ入射角は、全外反射角を超えない。導波管から入射するビームの反射数は、ビームの中央軸からの距離に比例して増加する。その結果、広角度でビームを曲げることができる。このような機能により、ビームの集束とビーム補足角の拡大が容易になる。
装置の設計を簡素化し、装置の組み立ての精度を向上させる場合は、システムに円板(あるいはそれに相当する支持構造)を追加し、円板の開口に束管放射導波管を装着する。なお、自在X線導波管の長さと各円板間の距離は、前述した制限事項の制限を受ける。1束の放射導波管で構成するシステムから隙間で区切って重ね合わせた複数の二次面で構成するシステムに移行した方が製造の合理化が可能で装置の組み立てと生産にかかわる労力が低減できる。さらに、この方が焦点部分を微小化でき、放射透過でのエネルギー損失も減少できる。
システムを伸張し放射源に対向する位置で縮小することにより、屈折点で二次面に正接する面を臨界反射角より小さい角度にすると、準平行ビームの密度を増加させることができる。
本装置のこのような実施態様は、放射ビーム制御性能を効果的に向上させることができるので、競争力のある装置および器機の設計に使用できる。
高エネルギー光子放射源で最も重要なものは、シンクロトロンである。シンクロトロン放射は、曲線パスで屈折により荷電粒子を加速した時に放出される放射である。放射エネルギーは、電子エネルギーまたは陽電子エネルギーおよび曲率により決まる。一般に、シンクロトロン放射源は、スペクトルの真空紫外線およびX線の範囲で放射するように設計する。クマコフのレンズは原理的には光子エネルギーが0.1keV(λ?100Å)という低い値でも動作できるが、実際的には、光子エネルギーが0.5keVから1Mev(λ?0.01Å)で動作するように設計されている。クマコフのレンズは、一定の種類の粒子に対して働くが、シンクロトロンは粒子の放射源ではない。この放射源の特長は強度が高く、エネルギー範囲が広くかつ連続していることである。X線の強度は、ストレイジリングで回転する電子(あるいは陽電子)の数(電流)および屈折率の半径により決まる。光子の強度とエネルギーは、ウィグラーと呼ばれる波動装置を使用して高度化する。この装置は、交互信号の周期的磁気静電界を使用して振幅が小さく周波数が高い垂直面でビームを振動させることができる。光子のエネルギーは、非常に低いエネルギー(可視)から最大エネルギーまで連続して広がっている。
シンクロトロンからの放射は、粒子ストレイジリング内の曲率の高い曲がり管から光子が扇状に放出される。扇の高さは、通常0.5から2mmの範囲である。幅は、数度になることもある。例えば、ナショナルシンクロトロン光源では、各地点での扇の幅は6度にもなる。したがって、薄いベリリウムウィンドウを通り各ポートから放射すると、6°x1mmの幅になり、垂直方向の平行性が高く、水平方向に発散する。このような放射を効果的に使用するためには、複数のビーム線をこの狭い角範囲に密集させ、そのそれぞれの線で1度ぐらいの放射を捕捉する。放射を使用する際の制限としては、ビームモノクロメータ、屈折鏡、および装置を6°のくさびの範囲内に置く物理的な空間が必要だということだけである。余裕をとるためには、ビーム線を長くする場合が多い。その結果、ビームの強度は、水平方向の発散のために減少する。
非同軸レンズを点放射源といっしょに使用することもできる。同軸レンズと非同軸レンズを平行放射源(例えば、シンクロトロン)といっしょに使用することもできる。準平行放射源および拡張放射源を前述の放射源といっしょに使用することもできる。しかし、この技術は、同軸レンズを点放射源といっしょに使用するだけに限定されるわけではない。シンクロトロンの場合、レンズ装置の入力端は、レンズに入力するX線の方向に合わせる必要がある。点放射源を使用する場合、チャネルはすべて点放射源の方向に向けるが、平行ビームの場合は入力端は通常並列になる。各点から等方向に発散する発散源の場合、入力チャネルを並列にしても放射源の1点に向けてもあるいはその中間の角度に設定しても構わない。
シンクロトロンビームは、水平面方向に発散する。(例えば、ナショナルシンクロトロン光源のx17ウィグラービームは、5mradの発散になる)。クマコフのレンズを使用すると、発散ビームを準平行ビームに変形することができる。平行性は約0.1θ_(cr)で得られる。なお、θ_(cr)は臨界屈折角である。例えば、30keVの光子に対してガラスc-52レンズを使用すれば、0.1mradの発散が得られる。1例として、初期ビーム損失は約30%から40%になる。
ここで推奨する光学装置では、シンクロトロン放射ビームを、約1ミクロンほどの非常に小さい点に集束することができる。このような微小点での強度は、10^(4)より大きくすることもできる。
毛管光学を利用すると、高エネルギーの光子を高角で回転させることができる。さまざまな材料とエネルギー範囲に対して光子を90°回転させた場合の透過係数の依存関係を第18図に示す。10keVから30keVの光子を回転させるには、強度を30%だけ失うだけで済むことが分かる。このような高い効率が得られるのは、毛管の内部面が高い反射性能を有していることに関係がある。
シンクロトロンビームは断面が小さく発散が少ない。
ビームの放射開始時点では約0.5mm×5mradかそれ以下でこともある。このため、クマコフのレンズを使用して発散が極端に小さなビーム幅を得ることができる。例えば、ルーイビルの理論に基づいてシンクロトロン放射ビームをサイズがLの平行ビームに変形する場合、公式1_(0)θ_(0)=Lθから発散θを得ることができる。

超平行シンクロトロンビームを得るためには、チャネルの両端を逓減させてから広げる必要がある。
従来の装置を使用して高エネルギー光子または高エネルギー粒子をフィルタリングするのは非常に困難であるので、応用分野を広げたり放射源の種類を多様化するのが難題であった。シンクロトロンのような平行ビームの場合、結晶モノクロメータを使用すればモノクロビームを得ることができる。しかし、除去するのが非常に難しい高エネルギー高周波が発生する。
クマコフのレンズの利点の一つは、広帯域の光子エネルギーおよび粒子エネルギーを透過できることである。一方、エネルギーの透過を制御する技術の応用分野は広い。具体的には、レンズの素材を選ぶことにより放射を選択して吸収したり、レンズの設計パラメータを変えることにより透過放射を選択したりすることができる。このような制御は、光子や中性子のような粒子に対して適用できる。前述した例はX線の場合である。
レンズ要素の間隔(円形断面の毛管から作成したレンズの場合、毛管の内径になる)およびレンズ要素の曲率で透過帯域幅を制御する。一般に、間隔が狭く曲率が大きい場合、高エネルギー光子の透過が増加する。間隔が広く曲率半径が小さい場合、低エネルギー光子の透過が増加する。一般に、透過が最適になるのは、γ=R(θcr)^(2)/2Dで、γ≧1.00になるときである。この式で、Rはレンズ要素の曲率半径、θcrは全外反射の臨界角、Dは毛管ベースレンズの場合個々の毛管のチャネル幅をそれぞれ示す。効果的な透過帯域幅は、資材とパラメータを選択することにより、数keVという値まで小さくすることができるが、実際には約10keVから20keVあるいはそれより大きいのが普通である。低エネルギー光子電子多重散乱、コンプトン散乱、または高エネルギー光子の熱拡散散乱により発生するバックグラウンド放射を除去するためにエネルギー帯域幅を選択できるので、応用分野が広くなる。
レンズ要素の内部面を形成する素材を選択することにより、透過光子のエネルギーを制御することができる。例えば、銅でコーティングすると、約0.6keVから1keVおよび6keVから10keVの範囲で光子は透過する。一般に、低エネルギー光子は選択的に吸収されるが、ベリリウムでコーティングすると、光子のエネルギーを100eVまで下げて効果的な透過が可能になる。
ガラス製の毛管は、内部面が良好なので、反射係数はθcr以上角で非常に高くなる。例えば、E=30keV(θcr=1.11x10^(-3)rad)で、単反射係数R_(1)=0.995(θincid=10^(-3))である。この値は研磨面の反射係数よりわずかに高い。同時に、θ≧θcrで、反射係数は急減する。例えば、θincid=1.1x10^(-3)で、R_(1)=0.987、θincid=1.2x10^(-3)では、R_(1)は既に0.2に低下している。この数字は、入射角で10%の変化があり、反射係数ではほぼ5倍減少していることになる。
θcrに近いときにR_(1)が急減するという現象は、光子が複数のの反射をする場合、フィルタリングするのに効果的に応用することができる。しかし、この技術を使用して選択フィルタリングをするためには、ビームの発散が極めて小さくなければならない。この条件は正にシンクロトロン放射の特長でもある。例えば、NSLSでの垂直発散は、10^(-4)rad近くにまでなる。
E=30keVおよび33keVのときの高エネルギーのフィルタリング計算結果を表1に示す。

表から明瞭に分かるように、反射数が10以上になると、33keVの光子の強度は、30keVの光子の5倍以上も減少する。ところが、30keVの光子の強度は殆ど同じである。
なお、上記の例では、1.1x10^(-3)radの角度でビームを直線毛管に入射したことに注意されたい。
この方法は、γ範囲を含む高エネルギーにも適用できる。
毛管を特別な形状(第19図)にすると、毛管の屈折点近くで、光子が次々に壁に衝突し反射していく。この光子をチャネル内にとどめておくためには、この新しい面に対する入射角を臨界角より小さくする必要がある。高エネルギー光子の反射角は小さいのでこの光子は毛管を離脱してしまう。
点放射源からビームを発散させた実験結果を第20図に示す。光子の透過は、E=33からE=40にかけて急激に減少し、E=50では10^(-4)になってしまう。毛管の曲率半径を変化させると、フィルタリング境界も変化する。半径を小さくすると、フィルタリングエネルギーは減少し、半径を大きくすると、フィルタリングエネルギーは増大する。
第20図に示した数値は、最初に実験した結果である。毛管の形状をさらに工夫すれば、エネルギーフィルタリングをもっと急減させることもできる。
ビームに対して毛管を一定の角度にして捕捉すると、非常に狭い範囲のビームをカットして2つのビームを効果的に分離することが可能になる。一つは、選択したエネルギーより高いエネルギーのビームであり、もう一つは選択したエネルギーより低いエネルギーのビームである。フレネル角より大きい角で面に衝突する光子の多くは、材料をそのまま通過してしまう。もっと高いエネルギーの場合は、吸収される光子は極く僅かしかない。
この設計を応用する場合、ビームの発散は少なければならない。良い結果を得るには、矩形の毛管1つまたは複数の矩形毛管で構成するシステムまたは複数の平面を使用する必要がある。
第21A図について説明する。初期平行ビームI_(0)mが面口または毛管面にθ_(0)角で衝突した場合、θcritical>θ_(0)を有する光子が反射し、それより高いエネルギー、すなわち、θcritical<θ_(0)を有する光子は通過する。したがって、第21B図に示すようなスペクトル分布を有するI_(1)とI_(2)の2つのビームが得られる。
上記の技術を複数回使用すると、狭い帯域幅を修正することができる。例えば、第21A図に示すビームI_(2)は、別の毛管、平面、または毛管システムに入射角θ_(1)(最初に衝突した面より少し小さい角度)で衝突すると、θ_(1)<θcritical<θ_(0)を有する光子は、I_(3)として反射する。I_(3)のスペクトル分布は第21B図に示す。同様にしてこの操作を繰り返すと、複数の帯域幅が選択できる。例えば、第21B図のI_(5)がそうである。1つのシンクロトロンビームから複数の準モノクロビームを得ることができる。このビーム幅は、エネルギー幅/エネルギー率が数10^(-2)であり、エネルギーのビーム強度の損失が50%しかない。このようにして修正した帯域幅を使用すると、結晶モノクロメータから得られるモノクロビームよりはるかに流量の多い準モノクロビームを得ることができる。そして、所望のエネルギーで狭い帯域幅のビームを複数得ることもできる。
光子の強度は非常に強いので、入射する光子が極く僅かであってもその吸収により温度が何百度にもなることがある。時には、金属の融点を超える程高熱になり、非常に大きな熱勾配を呈して、機械にひずみが出たり変形したりすることも多い。この効果は、絶縁ウィンドウ、回折結晶、または屈折鏡などの吸収で重大な問題になる。1つのクマコフのレンズの入力端で光子の流量と強度を吸収するためには、さまざまな設計上の工夫が必要になる。
第25図に示すように、中空の入力阻止バッフルを設けて流体(液体または気体)で冷却したり、中実の入力阻止バッフルを設けて面または周辺でコイルにより冷却したりすることができる。
放射線はレンズ要素の端に衝突し停止するので、その放射線を阻止することによりレンズが加熱するのを防止する。レンズ要素に入射する放射線が衝突するレンズの壁が入口点と異なる位置になるのは、曲率がゆるやかであるためである。(透過する光子のエネルギーが最も高い場合の全外反射は臨界角より小さい)。したがって、斜め入射よりはるかに広い領域に分布する。
融点の高いガラス、セラミック、または金属でレンズを製造することもできる。例えば、純SiO_(2)(石英)で製造すると、融点が2000℃もの高温になるので光子の透過に適している。レンズ要素のコーティング材料としては、タングステン、シリコン、カーバイド、炭素などのように融点が高く熱伝導率も高い元素または化合物が使用できる。
レンズ要素を冷却するには次の方法がある。
i:熱伝導率の高い固体でレンズ要素を覆い、バルクまたは周辺部の開口部で液化ガスを通して固体を冷却する。または断面積の大きな冷却フィンを特別にレンズ要素に取り付ける。
ii:流体(液体または気体)の冷却剤をレンズ要素間に通す。レンズを真空中で操作してもレンズ要素の壁が真空障壁として機能する(第26図)ので冷却が可能になる。
iii:冷却ガスをレンズに通す。高エネルギーの光子を透過するときに、ヘリウウのような冷却ガスを使用する。ヘリウムは、熱伝導率が高く透過光子の断面での吸収率が低い。
クマコフのレンズの利点は、放射ビームの方向と断面を制御できることである。面を設計することにより、所望のビーム断面を得ることができる。例えば、毛管を使用してシンクロトロンから放射した場合、毛管または毛管束(多重毛管)(第27図参照)の方向を調整することにより四角ビームまたは円形ビームを放射するような薄い矩形ビームを捕捉することは容易である。したがって、元のビームの垂直寸法より大きい領域に放射しなければならない場合、シンクロトロンで応用できるという利点がある。シンクルトロンビームを1mmから6cmの平行ビームに広げても強度の損失は50%しかないのである。
シンクロトロンから放出される光子ビームのような形にするために、透過レンズの入力形を構成することができる。シンクロトロンの場合、この形は通常非対称になる。粒子ストレイジリングから正接して放射され、放射界が扇状になるからである。しかし、放射源から放出されるビームに合わせるために任意の形にすることは可能である。
90°以上の角度でビームを屈折させることにより、例えば、水平方向の目標ではなく垂直方向の目標だけを照射することも可能である。
ビームの向きを変えることができるので、ビームを分割して分離することも可能である。ただし、この技術はまだ実験段階である。
クマコフのレンズの一定の実施態様では、ビームの一部が他の角より大きい角で通過したり、ビームの他の部分より小さな半径で屈折するものがある。ビームの断面で強度を制御する(通常は均一な強度を得るため)方法については前述した。例えば、フィルタリングやチャネルの一部の長さを選択的に伸張してビームの対応部分で損失を増加させる方法について紹介した。しかし、この2つの方法はいずれも損失を大きくすることにより強度を制御するという欠点があった。すなわち、光子の強度が下がると、レンズの効果も減少するのである。このような欠点を改善してビーム全体の強度を制御する方法としては、チャネル間の隙間を調整する方法がある。すなわち、強度を下げる場合は間隔を大きくし、強度を上げる場合は間隔を狭くする。このようにして、光子を阻止するのではなく再分配するのである。ただし、この方法にはマイクロ均一性が減少するという欠点がある。
放射源には空間的に不安定なものが多い。例えば、シンクロトロンビームは、一定のゆらぎを受ける。クマコフのレンズは、放射源の大きさを超えた領域からの放射でも捕捉することができる。したがって、放射源の位置がほんの少し変化した程度なら、クマコフのレンズから放射される光子ビームの強度、平行性、および均一性には余り影響はない。この効果は放射源の空間的な位置を安定化させることができる。
発散を小さくする目的で、入力端から扇状に広がる樽状の毛管(第22図参照)が使用できる。この例で、放射源のサイズが小さく、チャネルの曲率半径が大きい場合、臨界反射角よりはるかに小さな発散を出口で得ることができる。
焦点を小さくする場合は、レンズを収束させる(第23図参照)。
放射の強度を高める場合は、第24図に示すような形が使用できる。放射源の後ろに、樽状を半分にした形を設けて、発散放射を準平行ビームに変形し、次に、円錐形の毛管を配備する。この樽形を通った後の放射をθ_(1)とした場合、円錐形の広い部分の直径をd_(1)、収束した部分の直径をd_(2)とした比率は、次のような関係になる。

上記の式で、θcrは完全外部反射(CER)角を示す。X線光子に対する最小サイズd_(1)は回折の制限を受けるので、?c/wp(cは光速、wpはプラズマ周波数)となり、その結果、約100Åとなる。イオンの場合、この寸法は原子レベルの数値になる。
チャネルの断面は円形である必要はない。例えば、ビームのエネルギー幅を狭くする場合、チャネルの側面は平らなので矩形でもよい。複数の毛管、毛管束、多重毛管の個々のチャネルでは円形ではない場合が多い。6角形、四角形、3角形などの方が効率的に束ねることができ、その結果、レンズの断面でのオープン領域が大きくなり強度も高くなる。
イオンを制御する場合レンズが最も効果的である。チャネルを構成する材料またはチャネルのコーティングに電気的な伝導性がある場合、静電空間電荷が累積しないので、イオンを排斥しないからである。そのため、面の仕上げが非常に重要になる。
中性子を制御する場合、チャネル面をコーティングする材料としては、チャネルの断面で中性子を吸収する率が高くないものを選択する必要がある。例えば、ホウ素を含むガラス製の毛管は、中性子を吸収する率が極めて低い。
クマコフのレンズを使用すると、複数の機能を同時に実行することができる。例えば、1つのレンズで、発散ビームを捕捉して準平行ビームを成形するだけではなく、光子エネルギーを選択的にフィルタリングして、外部チャネルでの損失を補正することができる。
クマコフのレンズでは、臨界外部反射(CER)角(波長により異なるが半径が10^(-3)レベル)より小さな入射角で平滑面からX線を鏡面反射している。密接に並べた複数の面で構成すると、X線に対する導波管の役目を果たす。
クマコフのレンズをX線リソググラフィーとして利用することもできる。すなわち、X線源およびマスクとウェハの組合せの間にレンズを配置して、ビームと形、強度、方向、およびエネルギー分配を制御する。クマコフのレンズは、密集した媒体の平滑な境界で複数の放射を利用してX線ビームを制御する。この媒体は、特別な形をいており、全外反射の臨界角より大きな角度ではビームのかなりの部分を反射しないことが保証できるのである。ウィンドウを使用し、真空または気体をシステムまたはシステムの一部の媒体として選択するのが本発明の一貫した特長である。
点光源のX線リソググラフィーの場合、発散ビームを捕捉し、X線ビームを準平行ビームに変形し、マスク方向に向けることができるクマコフのレンズを選択する。本発明の実施例を第28図および第29図に示す。なお、第29図に示す例の方がビームの強度を高めることができるので望ましい。レンズの構成は前述したいずれの構造でも構わない。
リソググラフィーシステム(第30A図および第30B図を参照)を使用すると、次のような利点がある。(1)放射源を最大出力せずに強度を高めることができる。放射源からの放射を固定角φで収集するので、放射源の出力をもっと高めでウェハへ送ることができるからである。レンズからの出力がほぼ平行なので、マスクまでの距離が余り重要ではなくなる。なお、平行でないと、ビームの強度は距離の二乗で低下する。(2)装置の半径を拡大しいで済む。ビームはその断面で、方向と発散が一定であるので、マスクとウェハとの間の距離や平行性を非常に厳密に調整する必要がなくなる。マスクを制作する際に振れの補正をする必要がなくなる。(3)磁界を拡大できる。磁界の大きさは、放射増幅または視差の制限を受けないので、要件を満足するレンズを設計することにより制御できる。7cmx7cm以上のビームを扱えるレンズが製造できる。(4)半影ぶれが減少する。S、L_(1)、L_(2)、およびL_(3)に関わらず、ρ=2sinθとなる。端で広がる毛管のようなレンズチャネルを使用すればさらに半影ぶれを減少させることができ、その結果θも減少する。(5)放射源の不安定さの影響を受けにくくなる。レンズがX線を同じ画像焦点領域から受け取り同じ方向にX線を集束するので、多少、放射源の位置がずれてマスクに送る強度に影響が出ても、ビームの方向、マスク、およびウェハの間の位置関係には影響を与えない。(6)マスクと放射源とを分離する。クマコフのレンズを使用することにより、準平行ビームが放出できるだけではなく、放射源と試料を物理的に分離してあるので、放射源から蒸着またはスパッターした材料の一連の視認透過もマスクや試料には届かない。このことは、放射源として電子ビームやレーザーを使用する場合に特に重大であり、プラズマの場合も問題になることがある。試料や薄いマスクにほんの少量でも汚染があると、性能が低下したり寿命が短くなるからである。(7)帯域幅が選択できる。クマコフのレンズを使用すると、望ましくない光子エネルギーのフィルタリングができる。通常、高エネルギーの光子をフィルタリングするのは困難である。しかし、クマコフのレンズを使用して、高エネルギー光子のフレネル角(全外反射の臨界角)を超える反射角にすれば、高エネルギー光子のフィルタリングが可能になる。光子エネルギーが大きくなるに伴いフレネル角を小さくすれば、選択フィルタリングが可能になる。
レンズを円形毛管チャネルで構成している場合、レンズには離散チャネルがあるので、レンズを通るX線の強度には第31図に示すように断面にはさまざまな形がある。これを補正するには、マスクから十分離れた位置にレンズを配置すればよい。各チャネルから発散するビームの角度が小さい場合、レンズの断面で強度を均一化することができる。あるいは、その代わりにレンズを回転してもよい。レンズの中心軸から最も離れたレンズから放出されるX線ビームの部分は、通常強度が低くなる。これはレンズの形状のためである。そこで、選択的にチャネルの長さを変えることによりレンズを修正したりフィルタを使用したりすれば、ビームの中心軸からの距離が遠くなってもビームの強度の低下を避けることができる。
X線リソググラフィーシステムとしてシンクロトロンを放射源に使用する設計では、クマコフのレンズを複数使用して、発散ビームを捕捉してから準平行ビームに集束するか、またはビームを再成形して操作が不要な二次元領域に照射する。複合レンズまたはレンズを組み合わせて(第32A図および第32B図)、ビームの方向を変えたり、ビームを分割して複数の方向に向けたり、エネルギーの帯域幅の一部を選択したりする。これにより、ビーム形の修正、ビーム効率の向上、ビーム方向の変更、シンクロトロンビームの切り替え、およびエネルギー帯域幅の選択が可能になる。
シンクロトロンを放射源として使用するX線リソググラフィーという設計は、点光源ではないリソググラフィー源が利用可能になったとしても適用できる。
射影X線リソググラフィーとは、マスクとレジスト上の画像との間に縮小があるX線リソググラフィーを指す。これにより、画像から生成した装置の特長よりマスク上の特長を大きくすることができる。ただし、射影X線リソググラフィーの市販可能性については実証されていない。
本発明の射影X線リソググラフィーは、毛管光学に基づいている。第34図は、等方放射源を使用した実施態様を示している。放射源の後ろにクマコフのレンズを配置して発散ビームを準平行ビームに変形する。このビームはパターンまたはマスクに衝突しフィルタと2番目のクマコフのレンズを通過してからレジストに到達する。フィルタは必ずしも必要ではないが、断面が均一なレジストにビームを衝突させることにより、性能を向上させることができる。補正をしないと、ビームは中央軸から離れるに伴い弱まる。その理由は、毛管の角度が広がり、ビームの損失が大きくなるからである。最初のレンズとマスクの間、またはマスクと2番目のクマコフのレンズ(第34図参照)の間のいずれかにフィルタを配置することができる。ビームの非均一性を実現する他の方法も利用できる。
毛管の直径を減少させるようにマスクとレジストの間にクマコフのレンズを配置する例を第35図に示す。毛管の内径がd_(0)からd_(1)へ縮小するような実施態様が望ましい。毛管の間の壁の厚さを縮小することにより、全断面の一部または全部を縮小することもできる。しかし、そのようなレンズを製造することは非常に困難である。そのようなレンズを作るには、壁の厚さを内径より小さくする必要があるからである。もちろん、一定の直径を有する毛管を作ることは理論的には可能であるが、入口から離れ出口に直近した位置に配置しなければならない。
本発明装置をサブミクロンのリソググラフィーで使用するためには、d_(1)を所望の機能寸法の数分の1にする必要がある。d_(1)の最小値をc/wpより小さくすることはできない。なお、cは光速、wpは毛管の材料のプラズマ周波数をそれぞれ示す。c/wpの値は、ほぼ100Åに近い。d_(1)が余りに小さい場合、回折発散が大きくなりすぎる。例えば、E=1keV、λ(波長)12Å、d_(1)=120ÅのX線は、回折発散θは約10^(-2)rad(θ=λ/d_(1))になる。毛管の断面が円形である必要はない。
クマコフのレンズから一定の距離にレジストを配置する必要がある。この距離はL=d/θ以上であり、dは毛管の壁の厚さ、θはクマコフのレンズから放出されるビームの発散をそれぞれ示している。この条件は、近隣毛管からビームを混在させるのに必要である。同時に、お互いに離れている毛管からのビームを混在できなくなる程Lを大きくしてはならない。
そのような装置をシンクロトロンと一緒に放射源として使用することもできる。シンクロトロン源を使用する場合、マスクの前にクマコフのレンズを置かなくてもよい場合がある。しかし、シンクロトロン源とマスクの間にクマコフのレンズを配置する実施態様が望ましい。前述したようにこのレンズを使用してビームの断面の形を変えたり、ビームの方向を変えたり、エネルギー帯域幅を制御することができる。
もう一つの実施態様を第34図に示す。この実施態様では、マスクもパターンも別々の要素ではなく、クマコフのレンズの端または中に組み込んである。
クマコフのレンズは分析器機に適している。毛管の直径が200から400ミクロンのレンズが、多くのXRF分野で必要となるエネルギー範囲より低い500eVから10keVのX線の透過に適している。
クマコフのレンズには次の3つの種類がある。一つは、発散ビーム集中器(第36図)で、発散X線放射源から数10度の開口角で放射線を集め、集束ビームに変えるものである。必要なら、ビームを微小点に集束させることもできる。(放射エネルギーおよびレンズの設計により異なるが、直径が100ミクロン以下にすることも可能である)。もう一つは、平行ビーム集中器(第37図)で、平行ビームを集め、集束ビームに変えるものである。さらに、準平行ビーム成形器(第38A図および第38B図)で、発散ビームを準平行ビームに変えるものである。現在利用できるレンズでは、発散角が全外反射の臨界角の約1/2に等しいものが多い。もっとも、特別なレンズを使用すれば、発散を10^(-4)半径以下にまで減少させることも原理的には可能である。準平行ビーム成形器の場合、チャネル縦断面に沿った曲率が1つの方向しかないものもある。実際は、発散ビーム成形器(第38A図)の半分である。準平行ビーム成形器の場合、曲率を複雑にして、もっと小さい領域に準平行ビームを集束させることもできる(第38B図)。
特別な応用目的に対応するためにさまざまな形態が可能である。例えば、複合曲率を変えて焦点距離を長くしたり、レンズの設計を変えてビームの方向を変えたり、分割したりすることもできる。確かに、断面の形状としては、平面、四角、矩形など任意な形が可能であるが、円形が望ましい実施態様である。
X線蛍光(XRF)装置は、試料から放出されたX線を測定する装置である。元素の相対的な存在度を非破壊的にかつ定性的に測定する。XRF装置にクマコフのレンズを組み込むと性能を向上させることができる。クマコフのレンズをX線に対して使用すると、収集角の拡大、ビームの平行化、バックグラウンドX線の減少、ビームの発散、明確に定義した微小領域からの集光などができる。クマコフのレンズをXRF装置といっしょに使用すると、感度の向上、測定時間の短縮などの利点がある。さらに、放射源、コリメータおよび検出器などの装置構成要素の仕様の厳格度を緩和できるので、コストの低減や空間解像度の向上に役立つ。また、試料の内部を測定する非接触型のXRF分析などという全く新しい機能も実現できる。
XRF分析でクマコフのレンズを利用する形態には次の3つがある。1)X線を集め試料に集束して入射する。2)試料から放出された二次X線を集めて集束する。3)上記の両方の機能をする。
放射源と試料の間にクマコフのレンズを配置した例を第39図に示す。現在使用されているコリメータと比較すると、入射X線ビームを試料に集束することにより、局所化領域分析において強度と空間解像度が大幅に向上できる。例えば、市販されているEDXRFシステムで可能な解像度は0.25x1.25mm^(2)であるが、クマコフのレンズを使用した例では、空間解像度が最大30ミクロン(0.03mm)までが可能であり、強度は少なくとも200倍増大する。なお、レンズを使用しない場合、放射源と試料との間の距離はもっと近くなることを考慮している。クマコフのレンズを使用した実施態様では、強度が高くなり焦点が小さくなるだけではなく、試料の回りに空間的な余裕があるので、コリメータから放出される二次X線によるブロック効果やバックグラウンド放射などの問題を回避することができる。X線放射源が二次対象X線蛍光分析(STXRF)としての一時放射源ではない場合、クマコフのレンズを使用することが重要である。一次源と二次源の間にレンズを配置すると、二次源からの放射を増加させることができる。さらに重要な点は、二次源と試料の間にレンズを配置することもできるということである。試料をスキャンするのは、レンズと放射源を移動するかまたは試料を移動すればよい。分析-領域-検出器という形態では、試料を移動する方が望ましい。
多くの適用形態では、試料の全部または一部で平均化することが望ましい。レンズで集束ビームを成形する場合、レンズと試料の間の距離を変えることにより分析領域や励起領域の大きさを調整することが簡単にできる。レンズと試料との間を距離を長くすると、照射される領域も拡大する。この場合は、試料-検出器の形態を保持するためには試料ではなくレンズを動かした方が望ましい。
同じ時または別な時に複数の放射源を使用する場合、複数のレンズを使用して試料の照射を正確に制御することができる。通常、同じ領域を照射するように制御する。
選択した領域だけを励起するように試料を位置づけるには、通常X線源を配置する位置に別の電磁放射源を一時的に配置すれば、簡単に実現できる。したがって、励起対象領域を直接判定することも可能になる。可視光源を使用して領域を直接見ることが望ましい実施態様であるが、別のスペクトルを使用して計測器で観察することもできる。
試料と検出器の間にレンズを配置する構成例を第40A図と第40B図に示す。この構成例では、試料の選択対象点から放射されるX線レンズで集めて、選択領域分析に使用することができる。全試料からの放射を集めるEDXRFまたはWDXRF検出器を使用して測定値を平均化することも同時に実行できる。試料と検出器の間に配置されたクマコフのレンズは、帯域フィルタとして機能する。すなわち、低エネルギーまたは高エネルギーの放射を除去したり、より小さな領域の使用だけを可能にしたりできる。したがって、値段が安く容量は小さいが、EDS検出器(第40B図)の解像度が高くなる。WZDXRFの場合、試料と結晶の間および結晶と検出器の間にレンズを配置することができる。これらのレンズを使用すると、吸収損失が高いという現在のシステムの問題を改善して平行性を向上させることができる。
放射源と試料の間および試料と検出器の間にそれぞれ1つづつレンズを配置した例を第41A図と第41B図に示す。検出器の側と放射源の側にそれぞれ1つづつレンズが配置されているという利点がある。この例では、第41B図に示すように、最初のレンズの対象焦点および2番目のレンズの画像焦点の合流点で、測定試料の容量が定義される。試料を動かすことにより、試料の内部に焦点を合わせることもできる。このようにすると、3次元マイクロビームX線蛍光分析が可能になる。クマコフのレンズを使用しなければ、放射源や検出器を大きくしたり、コリメータを放射状に配置したりする必要がある。しかし、光子のカウント率が低いし、二次放射や分散という問題が発生する。クマコフのレンズを使用すれば、焦点を30ミクロン、さらには3ミクロン程に小さくすることができる。
クマコフのレンズの焦点距離はかなり長く、試料領域に対して比較的大きな収集角を可能にしている。したがって、第42図に示すように、さまざまな測定器機を組み合わせて1つの装置を構成することができる。この図は完全な器機構成を示すものではなく、一部またはその組合せでさまざまな機能が実行できることを示している。
クマコフのレンズを利用した高度なXRF応用例を第43図に示す。この例では、クマコフのレンズで準平行ビームを生成し、次にモノクロ結晶でブラッグの回折を実現している。単エネルギービームを平行化してから、単結晶試料でブラッグ回折を行う。回折ビームを直接測定することもできるし、2番目のクマコフのレンズで集めてから集束することもできる。試料から放出される蛍光放散を集めて直接分析することもできるし、クマコフのレンズを通してから分析することもできる。X線定在波を放出している例を43図に示す。X線定在波を蛍光X線といっしょに使用すると、結晶バルクまたは結晶面または結晶境界面で不純原子の位置を正確に(0.05オングストロームより小さい精度)判定したり、格子熱振動振幅および異方性を判定したりすることができる。モノクロメータ結晶から回折角に応じて、回折X線ビームを偏光することもできる。このような偏光ビームをXRF測定器で使用すると、バックグラウンド放射を減少し、感度を向上することができる。
クマコフのレンズは高感度デジタル減法分析に適している。2つの異なる波長のX線を試料領域に順番に照射して検出したX線放射を減法することにより、バックグラウンド放射を除去して高感度を実現することができる。2つの異なる波長のX線を得るにはさまざまな方法がある。例えば、放射源と試料の間でX線をフィルタリングする。モノクロメータを使用して波長を選択する。二次放射源を2つ使用する。クマコフのレンズを使用して帯域幅を修正する。ラウエジオメトリの結晶を使用することもできる。2つ以上の波長を得るには、モノクロメータを使用して角度を変えて異なる波長を回折させればよい。感度を最大化するには、試料を励起するのに使用する2つの波長を元素の波長または対象となる化合物の波長にできるだけ接近させればよい。
2つの放射源を使用してそれぞれの放射源をほとんど同じ位置または同じ軸上の位置に順番になるように移動した場合、放射源と試料の間に配置した1つのレンズを使用して感度を上げて同じ試料対象点を励起することができる。2つの放射源を使用してそれぞれの放射源の位置を分析作業中変えない場合、2つのレンズまたは複合レンズを使用して感度を上げて同じ試料対象点を励起することができる。放射源を1つだけ使用する場合、帯域フィルタリング特性が異なる2つのレンズを使用して、2つの異なる波長を獲得して試料を照射することもできる。放射源を1つと複数のブラッグの回折結晶を使用する場合、放射源と結晶の間にレンズを配置すれば、強度を上げて、ビームの発散を減少させ、ビームを成形することが可能になる。結晶と試料の間にレンズを配置すれば、強度を上げて、励起する試料の領域を変えて同じ試料対象点を励起することができる。一次放射源を1つまたは複数用意して、複数のの二次放射源といっしょに使用する場合、一次放射源(1つまたは複数)と二次放射源の間にレンズを配置すると、強度を上げ、二次放射源の焦点の大きさを減少させることができる。二次放射源は、別々に固定した位置に置くこともできるし、移動させてほぼ同じ位置に順番に配置することもできる。二次放射源と試料の間にレンズを配置すると、強度を上げ、試料の同じ領域を励起し、励起する試料の領域の大きさを調整することができる。
本発明の先行技術として、ゲーティンゲンのX線顕微鏡がある。(参考文献:X線顕微鏡(X-ray microscopy)、ゲーティンゲン(Goettingen)、9月14-16、1963年:編集者S.シュブォール(Schwall)、光学サイエンス春期号(Spring Series in Optical Sciences)、第43巻。シュプリンガ-ファーラグ(Springer-Verlag)、ベルリン、ハイデルベルグ、ニューヨーク、東京、1984年)この顕微鏡は、他のどのX線顕微鏡より空間解像度と明るさが優れている。しかし、残念ながら、このシステムは大変複雑で高価であり、しかも強度の損失が大きいので、シンクロトロンから放射されるような平行ビームが必要であった。
クマコフのレンズを有するX線管のような普通のX線放射源といっしょにこのX線顕微鏡を使用することもできる。すなわち、放射源の後ろに配置して発散放射を準平行ビームに変形する。次に、円錐形の毛管を1つ配置する(第44A図)。クマコフのレンズを通過した後の焦点領域が広い場合、円形の毛管を複数用意する(第44B図)。
必要があれば、複数の毛管を曲げたシステム(第45図)を使用して、クマコフのレンズを通過した放射を集束してもよい。装置の毛管を一定の距離に対して断面が一定になるようにして、焦点に近付くにつれて円形に曲げることもできる。制動放射、チャネル放射、プラズマ放射、レーザープラズマ放射などを放射源として使用することができる。
シンクロトロン放射(SR)を放射源として使用する場合、モノクロメータを使用してモノクロ放射を選択してから円形毛管に通すこともできる。SRは非常に強力なので毛管の壁で損失があると、毛管の内面が加熱することがある。毛管の直径が最小の部分が最も加熱する。この問題を避けるためには、円形の角度を毛管の直径に比例して小さくしていくとよい。効果的に集束するには、円形の角度を全外反射の臨界角(フレネルの角度)より小さくするとよい(第46図参照)。このようにすると、ゲーティンゲンのX線顕微鏡より数倍効果が向上する。
発散放射源を使用する場合、各毛管が樽状に曲がっているクマコフのレンズ(第47図)を使用することもできる。毛管の直径は端が小さく中央が大きいという特徴がある。各毛管およびシステム全体の表面は、対応する投射平面が周辺の1セクションになるように成形する。放射は外面に沿って透過する(第48図)。レンズの直径は入口と出口で等しくなるようにすることが望ましい。このような光学システムを作成する場合、焦点の大きさが個々の毛管の端の大きさに近くするのが理想的である。実際には、1μmより小さくすることができる。X線顕微鏡で影像を視覚化するのに、X線ビジコンなどの方法がある。プロトタイプのX線顕微鏡の空間解像度には約100Åの回折という物理的な制約がある。
このX線顕微鏡は、放射電子のエネルギー分析器のような計測器といっしょに使用することもできる。さらに、クマコフのレンズといっしょに発散放射源を使用することもできる。クマコフのレンズで平行ビームを成形し、帯域板にビームを通して放射を集束させるのである。この場合、焦点の大きさが毛管の大きさの制限を受けないので、焦点を非常に小さくすることができる。
第44A図から第48図までを参照してイオン顕微鏡に応用することもできる。X線光学装置の内面と円形毛管を導電層で覆うことにより、ビームが静電空間荷電でブロックされるのを防止する必要がある。内面からの反射イオン係数を最小にするためには、毛管でできるだけ平滑にする必要がある。この平滑さは、X線よりイオンの場合もっと重要になる。イオン顕微鏡の空間解像度の物理的な制約は、原子レベル、すなわち、約1Åである。
焦点部分では高い強度が得られるので、例えば、イオン蒸着やリソググラフィーのような技術にこの顕微鏡を利用することもできる。
中性子を放射源として使用し、毛管の素材または毛管の内面の覆いを中性子を吸収しない材料で構成すれば、第44A図から第48図までで紹介したシステムを中性子顕微鏡として使用することもできる。
電子顕微鏡分析は、X線蛍光と非常に似ているが、X線ではなく電子を照射する点が異なっている。電子を使用すると、小さな領域を励起することができる。この電子顕微鏡は、試料と検出器の間に1つまたは複数のクマコフのレンズを配置するX線蛍光装置と一部にているところがある。
試料と検出器の間にレンズを配置した例を第40A図に示す。電子顕微鏡に応用する場合、X線の代わりに電子を使用すればよい。この例では、試料の選択点から反射するX線をレンズで集めているので、分散によるバックグラウンド放射が少ない。試料と検出器の間にクマコフのレンズを配置すると、帯域フィルタとして機能させることもできる。帯域フィルタは、低エネルギーまたは高エネルギーで放射をカットしてより小さな領域を使用できるように設計した装置である。したがって、値段も安く、静電容量も小さい(解像度は高くなる)エネルギー発散型検出器になる。WDXRFの場合、試料と結晶の間に1つ、結晶と検出器の間に1つレンズを用意する。このようにレンズを配置すると、吸収損失が高いという現在のシステムの問題を回避して平行性を高めることができる。(第40B図を参照)。
試料から反射されるX線の角分布を評価する技術としてX線回折が広く利用されている。試料が単結晶以外の場合、例えば、粉末の場合、試料を照射するにはかなり平行性の高いビームが必要になる。単結晶の場合、集束ビームを使用することもできる。
X線の角分布は現在研究中なので、クマコフのレンズを使用して、試料から発散光を集めて平行ビームまたは集束ビームを成形する方法が役立つかどうかは必ずしも断言できない。ただし、放射源と試料の間にクマコフのレンズを配置すると、所望分析に必要な断面の大きさおよび形に合わせて平行ビームまたは集束ビームを変形することができるという利点がある。さらに、不要な光子エネルギーをフィルタリングしてからX線を試料に照射できるという利点もある。この場合、レンズを組み合わせたりクマコフのレンズチャネルを曲げたりする設計が必要になる。例えば、低エネルギーを吸収する材料を使用して高いエネルギーをフィルタリングしたり、クマコフのレンズを使用して帯域幅を修正したりする必要がある。
クマコフのレンズを使用すると、試料から反射される平行X線を集めてその光子を検出器に集束させることもできる。この構成は、試料から反射されるX線の角範囲が狭い場合だけに適用できる。この場合、通常の平行化に固有な損失がなく、また検出器も小さいものでよい。
X線回折で説明したのと同じジオメトリが中性子回折にも適用できる、例えば、エネルギーの帯域幅を制御するフィルタリングも同じである。しかし、クマコフのレンズを中性子に対して使用する場合、中性子を吸収する度合が低い材料でレンズを作るかまたはコーティングする必要がある。例えば、ホウ素は、中性子を吸収する度合が高いのでホウ素を含む材料は好ましくない。
医療装置の場合、放射源と対象物の間にクマコフのレンズを配置することもできる。なお、ここでいう対象物には、患者(人間または動物)、生物、化学物質、材料などが含まれる。医療装置の場合、発散ビームの一部または平行ビームを捕捉するように設計することもできる。一旦捕捉した後は、所望の断面を有する形に変形することができる。画像処理の目的では、断面が対象領域を画像化するのに十分大きい場合矩形が一般的である。
好ましくない放射レベルをフィルタリングできるようにレンズを設計することもできる。例えば、X線の場合、高エネルギー(よりハードな)X線をフィルタリングにより除去することが望ましい。次に、レンズのパラメータを調整して平行性(分散の減少)を実現する。応用形態に応じて、集束ビーム、準平行ビーム、または発散ビームを生成する。画像処理用には、平行ビームを生成できるクマコフのレンズを有する装置が望ましい。治療用には、集束ビームを生成できるレンズを有する装置が望ましい。例えば、体腔のような人体の中で直接接触することができない部分に放射を向けられるようにレンズを構成することもできる。複数のレンズを使用して複数の機能を実現することもできるが、1つのレンズを使用することが望ましい。
放射源と患者の間にクマコフのレンズを配置する医療装置の場合、ビームを他の面に衝突させてから患者に照射することもできる。反射ビームを利用した実施態様を2つ紹介する。実施態様の一つは、発散放射源から放射をレンズで捕捉して、強力な準平行ビームを生成し、そのビームをモノクロビーム反射面(例えば、ブラッグ回折から得る)に照射する。その結果、帯域幅の狭いビームが得られる。このビームの強度はクマコフのレンズなしでは得られない。もう一つの実施態様は、発散放射源または平行放射源からの放射利用するものである。まず、クマコフのレンズで放射を捕捉して、材料に対して集束させる。その結果、その材料固有の放射特性を放出する。例えば、強度が高く帯域幅の広いX線を純粋な材料に照射する。その結果、一旦X線を吸収してから、その材料固有のエネルギーレベルで強度の高いX線を放出する。他のエネルギーレベルでは放射がほとんどないので、エネルギーレベルに固有で精度の高いビームが必要になる。対象物以外の材料に放射を向ける場合、対象物と照射材料の間にクマコフのレンズを配置することもできる。この構成の場合、ビームの成形、平行化、フィルタリング、方向の制御、発散などが望ましい。
医療装置の場合、対象物と検出手段の間にクマコフのレンズを少なくとも1つ配置することができる。この配置には、次の利点があります。(i)平行ビームを成形する(分散によるバックグラウンド放射が減少する)。(ii)少なくとも1つの検出器に向けてビームの方向を制御する。(iii)必要な検出器の大きさを小さくできるようにビームを集束したり、位置感度の高い検出器を緩和するためにビームを拡大する。
本発明装置は次の装置にも適用できる。本発明のさまざまな側面について特定の実施態様を元に説明してきた。これまで述べてきた原理は提示した実施態様だけに限定されるものではない。
クマコフのレンズは、血管造影装置のさまざまな放射源といっしょに使用することができる。また、回転対陰極のさまざまな放射源またはパルスX線放射源をその装置で使用することもできる。例えば、回転対陰極源を使用した場合、有効焦点の大きさは、1x1mm^(2)以下のレベルになり、回転対陰極源の線形速度は、100m/sになる。ヨウ素線(例えば、ランタン、セリウム、ベリリウムなど)に近い特性を有する物質で陰極を構成することもできる。電子のエネルギーが約500kevから約600kevの間で、電流が0.5Aであれば、非常に短い期間で十分な数の光子を得ることができる。
従来のフィルタを使用するこの方法(いわゆる「二重化」)は既に提案されている。しかし、残念ながら制動放射の問題が未解決であり、濾光がほとんど不可能である。さらに、光子ビームが放射源から等方に発散するので、結晶モノクロメータが有効には使用できない。
本発明を血管造影に適用した例を第50図に示す。本発明ではX線光学装置を放射源の前に配置する。この例では、発散ビームを所望の大きさ(普通、約15x約15cm)の準平行ビームに変形する。同時に、放射のハードな部分をフィルタリングする。
X線光学装置の後ろに、ラウエジオメトリの結晶モノクロメータを2つ配置する。ここで2つの特性ビーム(ヨウ素吸収線の前後)を回折する。次に、結晶と検出器の間に対象物を置く。
典型的な実施態様では、クマコフのレンズを使用して、等方ビームの10^(-3)分を集めて、約0.5mradの発散を有する準平行ビームに変形する。この発散および約20cmの厚さを有する対象物の場合、空間解像度が(700/200)ミクロンが得られる。全光子数が約3から5x10^(12)であるビームが約10^(-2)sの間に対象者の体に照射される。放射量は、数レントゲンである(すなわち、従来の血管造影法やりはるかに低い量である)。しかも、照射時間が約10^(-2)sしかかからないので、心臓の筋肉の収縮による影像のぶれもない。この方法の利点は、カテーテルを使用してヨウ素を心臓に注入する必要がないことである。これは、安全な濃度のヨウ素を腕の静脈から注入することができるからである。
本発明の実施態様として血管造影装置にクマコフのレンズを使用する方法はその他にもまだある。ラウエジオメトリで結晶モノクロメータを使用する代わりに、非対称にカットした結晶をモノクロメータとして使用することもできる。例えば、クマコフのレンズを使用して、強力な準平行ビームを2つ生成する方法がある。(第51図にこのビームの1つのパスを示す)。次に、各ビームは、非対称形にカットした結晶で反射する。この結晶は、ブラッグの反射により所望のエネルギーのX線光子を選択して、1つの方向のビームの大きさを増大できるように設計する。次に、ビームが、非対称形にカットしたもう一つ別の結晶で反射して、同じ光子エネルギーを反射して、別の方向のビームの大きさを拡大できるように設計する。この結果、断面が大きく、帯域幅が非常に狭いビームが生成できる。このビームを対称物に照射する。レンズから放出される2番目のビームを分光して別のエネルギーにすることにより、2つのビームのエネルギーで対象となる吸収エネルギーを覆う。2番目のビームは、最初のビームと似たようなパスを通り、対象物の位置で最初のビームと交差する。
クマコフのレンズを使用したコリメータまたは他のコリメータを患者の前または患者と検出器の間に配置すると、解像度を向上させることができる。患者の後ろにコリメータを配置しても空間解像度の損失を減少させることができる。しかし、この方法では解像度は向上するが、光子数が少し減少する。
デジタル減法血管造影法では、患者から十分離れた位置に検出器2つ配置することもできる。この方法では、2つのビームの角度が相違するので、2つのビームが重ならないだけ十分距離を開けて分離することができる。代替方法としては、1つの検出器を対象に極めて接近させて配置することもできる。この場合、対象から検出器までの距離が非常に狭くなるので、空間解像度がかなり向上する。これは、ビームの発散による影像ぶれが減少するからである。本発明の以前は、この方法をデジタル減法血管造影法に使用するのは困難であり、実際的ではなかった。
対象から発散がある場合、コリメータを使わなければ解像度が減少してしまう。2つのビームをお互いの角度を変えて患者に照射すると、従来のコリメータでは各ビームをブロックしてしまう(第52図を参照)。交差するビームが形成する面にスリットを有するコリメータを使用すれば、2つのビームを通過させても損失が少なくて済むし、コリメータのスリットに平行でない発散放射を吸収することができる。
デジタル減法血管造影法で1つの検出器を使用すると、さらに重大な問題が発生する。それは、2つのビームから放出される光子を区別することができないからである。2つのビームの光子エネルギーが相違していても、その相違が極く僅かなので(200eVほどの小ささ)、二次元位置感度検出器では区別できないのである。
それぞれの光子ビームに標識を付けることにより2つの光子を区別する方法もある。この方法を採用した例を第53図に示す。透過検出器AまたはBとCとの間で透過時間の相違を比較することにより、光子がどちらのチャネルを通過してきてのかを識別することができる。位置判定検出器で光子の位置情報を記録するときにこの標識を付けることができる。この情報を使用して記録した影像をそれぞれのビームごとに識別することにより、デジタル減法血管造影を実施する。透過検出器には、薄いシンチレーション結晶など、さまざまな種類がある。位置判定検出器が十分高速な場合、透過検出器Cの代わりに使用することもできる。
この方法には光束量の制約がない。ビームを分離して単一のエネルギーを有する光子だけが一定の時間内に到達するかからである。例えば、2つのビームを交互に放射したならば、位置判定検出器に到達する光子の情報をそれぞれのビームとは独立して蓄積することができる。次に、デジタル減法血管造影法による画像処理にこの情報を使用することができる。この方法では、位置感度検出器が少なくとも1つあればよい。モノクロメータに衝突する広いスペクトルビームを1つ使用してエネルギーを分割してから、明確に定義した時間間隔でやはり明確に定義した2つの位置でモノクロメータを固定するとよい。モノクロメータを2つのいずれかの位置に配置して、異なるエネルギーを有する光子を選択する。位置判定検出器で収集したデータを検出器の位置情報と照合することにより、それぞれのエネルギーを有する2つの光子のデータを別々に収集することができる。モノクロメータが動作中に到達した光子の情報は収集できない。ビームが不安定であったり、モノクロメータが動作中であったりした場合、モノクロメータを非常に短時間でロックしたり解除したりすることができる。それぞれのエネルギーごとのデータを時間で平均化し、エネルギー間で不偏化することにより、デジタル減法血管造影用のデータにする。ブラッグの回折結晶、多層装置、ラウエのジオメトリに基づいた結晶回折などさまざまなモノクロメータが使用できる。
広い領域でデジタル減法血管造影法による画像処理を応用する望ましい実施態様を第54図に示す。広いエネルギースペクトルを有する準平行ビームをクマコフのレンズで成形する。ラウエのジオメトリの結晶モノクロメータでビームを回折する。モノクロメータビームを患者に照射する。ビームをコリメータに通して、発散した光子を除去する。位置感度検出器で光子の位置を記録する。異なるエネルギーを有するビームを得るには、モノクロメータを僅かに回転させて、ビームに対する角度を変えればよい。回転させるには、結晶に衝撃を与え、圧電性結晶で回転を駆動させる。方向を変えるには、初期ビームから僅かにずれた角度で僅かに異なるエネルギーを有するビームを結晶で回折させればよい。血管造影などに応用する場合、短時間で結晶のロックと解除を繰り返せばよい。光子の位置データは、2つの位置に対応するそれぞれのエネルギーごとに集めることができる。この実施態様では、次の方法で、放射源の相違や解像度の低下を防ぐことができるという利点がある。すなわち、十分平行化した準平行ビームで強度の高いビームを使用する。角度が僅かに相違する2つのビームを用意する。エネルギーがほぼ等しいビームを2つ用意する。対象物と検出器との間の距離を最小にする。
上記の技術は、任意のデジタル減法画像処理に応用できるのであて、冠状血管造影法だけに限定されるものではない。従来の血管造影装置にクマコフのレンズを利用してもかなりの利点がある。放射源から固定した広い角度で放射を集め、発散ビームを平行ビームに変換することにより、光子の光束を増加することができる。光束が高くなればなるほど、画像を獲得できる時間が短くなるという利点がある。したがって、動きに対する人工的な制約がなくなる。さらに、ビームの強度が高く、平行性が高いので、帯域幅の狭いエネルギーを選択して対象物に照射することができる。対象識別剤の吸収線より低いエネルギーを有する広い帯域幅ではなく、吸収線より僅かに狭い帯域幅を使用することにより、より高い内容が得られる。狭い帯域幅を得る最も一般的な方法は、モノクロメータを使用する方法である。
ビームの強度を向上し(したっがて、解像度も向上する)、露出時間を短縮すると、使用するエネルギー帯域幅を広げることになる。非常に狭い帯域幅をモノクロメータで選択する。ゲルマニウムのような結晶を使用して、シリコンより広い帯域幅を選択しても、帯域幅は非常に狭いままである。この非常に狭い帯域幅は、元のビームのその他の光子はすべて除去されてしまうので、低光束になる。選択したエネルギーでの帯域幅を一定量だけ増加すると、光束をかなり増加させることができる。しかも、対象識別剤の吸収線から得られる対比も殆ど目に見えるほどの減少はないのである。クマコフのレンズを使用して帯域幅を選択する例を第55図に示す。このような帯域幅の選択手法は、対象識別媒体を使用した従来の画像処理やデジタル減法画像処理でも重要である。デジタル減法画像処理では、帯域幅を2つ使用する。一つは対象識別剤の吸収線の直上で、もう一つは直下になる(第56図を参照)。
このような利点(照射量が極めて少なくて済む、解像度が高い、プローブを使用しないので安全、コストが低い)があるので、住民の大量診断などに効果的である。
シンクロトロン放射(SR)を使用すると、患者に照射する放射線の量を低くすることができる。例えば、シンクロトロン放射源を使用した場合、放射量は、約2x10^(11)光子になる。この量は、上記で述べた装置を使用した場合よりほぼ1桁少ない値である。これは、結晶-モノクロメータのおかげで、シンクルトロンの連続スペクトルから2つの線を選択するからである。この線は、ヨウ素の吸収線に極めて近くなる。デジタル血管造影対比は、約1/(△μ)^(2)である。この式で、△μは、ヨウ素吸収係数と使用した2つのビームのエネルギーとの差である。元素の特性線は、シンクロトロン放射から選択した線よりヨウ素吸収線から選択した線の方が離れている。そのため、シンクロトロン放射を有する装置より大量の光子を使用することができる。
対象物に放射線を大量に照射しなければならないという血管造影法の問題点は、制動放射スペクトルを使用せれば改善できる。なお、制動放射は、電子を加速(最大10meVまで)して目標に照射すると、発生する。
次の計算をする。10meVエネルギーを有する電子を使用する。2つの線上の約x10^(5)光子/電子は、-△E_(1)=△E_(2)=100eV。この値は、33169/ヨウ素吸収線の前後で得られる。
クマコフのレンズでの損失が2/3であり、結晶での損失が2/3であるとすると、患者に到達する光子数は約7x10^(-6)光子/電子になる。したがって、約10^(-2)の照射をするためには、電子ビームの電流として0.5Aが必要になる。このパルスを生成する方法もいくつかある。一つは、誘導加速器を使用する方法がある。この方法ではパルスごとに目標を除去することができる。この電子加速器は、シンクロトロンリングよりはるかに安い。
相対論的電子ビームからの制動放射は、クマコフのレンズを使用すれば、極めて効果的に捕捉できる。これは、制動放射が直線方向に進むからである。前述した例(シンクロトロン放射)では、ヨウ素吸収線の前後にある2つの狭い線を、2つの結晶-モノクロメータで選択している。患者に照射する量は1レントゲンより少なくすることができる。
シンクロトロン放射は、デジタル減法血管造影法でも使用されている。クマコフのレンズを使用すると、シンクロトロンに基づいた血管造影装置のパラメータをかなり向上だせることができる。
SRビームは水平面方向に発散する。この水平方向に発散したSRビームのかなりの部分を、X線光学装置を使用して準平行ビームに変形して、血管造影に利用することができる。
例えば、1mmという制限された高さを有するシンクロトロンビームを、レンズを使用して所望の面積、例えば、(15x15)cm^(2)に変形することができる。ビームを成形する間の発散を最大1桁程度まで減少させることができる。この場合、空間解像度は著しく向上する。(例えば、心臓の最も小さな血管でも観測できる)。発散が約10^(-5)の場合、解像度は最大数ミクロンになる。クマコフのレンズを使用して、シンクロトロンのハードな部分をフィルタリングすることにより、高エネルギー光子の一部が結晶モノクロメータから所望のエネルギー範囲の高調波で反射するとを防止するすることができる。
内視鏡の直径は、オリフィスの大きさの制約を受ける。通常、内視鏡(X線部分)の直径は、約(4-5)mmより小さい。しかも、所望の領域から放射線が偏向しないように保護する必要がある。
数10ミクロンx数100ミクロンの大きさのX線放射源と捕捉角が約0.1radのクマコフのレンズを使用すると、放射源の有効領域は約10ミクロン^(2)になる。エネルギーが数10keVの場合、電子ビームのエネルギーを放射線に変換する効率は約10^(-3)になる。
上記の要因を考慮し、輸送光子の損失が約80%であると仮定すると、1分当り約1レントゲンから10レントゲンの範囲で放射強度を得ることができる。
望ましい実施態様を第57図に示す。クマコフのレンズの最初の部分は、準樽状になっており、発散放射を準平行ビームに変形する(2)。集光した後のレンズの部分を輸送セクションと呼ぶ(3)。このセクションは、比較的大きな直径(約数100ミクロン)を有する毛管のような放射チャネルで構成されている。なお、このセクションのチャネルをセクション(2)や(4)のように直径を小さくすることもできる。最後のセクション(4)は曲がっている。人体のオリフィスの直径には制約があるので、曲率の小さい半径でビームを曲げることが望ましい。セクション(3)と(4)との間の境界面で放射透過の損失を防止するには、セクション(4)を構成する毛管の直径をできれば約0.1μより小さくすることが望ましい。これは、捕捉放射の占有率がRθc^(2)/2dとなるからである。この式で、Rはセクション(4)の曲率半径、θcはフレネル角、dは毛管の内径をそれぞれ示す。セクション(4)は通常多重毛管で構成する。
最後のセクション(4)は、特殊なシステムで機械的に曲げることもできるし、システムの軸の回りを回転させることもできる、通常は、装置にシールドを施して、分散光子または粒子が人体を通過しないようにする。
腫瘍を照射するのは内視鏡を使用することもできる。例えば、喉を通すために内視鏡をかなり曲げなければならない場合、もっと強力な放射源が必要になる。これは、急角度で曲げると、光束でかなりの損失が発生するからである。そのような場合、強力なX線管などの点光源の代わりに、加速器(例えば、チャネル放射や制動放射)を使用することもできる。
放射内視鏡は、既存の光管内視鏡で組み立てることもできる。例えば、オリンパス製のGiF K/D3型の場合、直径は約12mmである。自在型の放射導波管としてバイオプシー導管を使用することもできる。セクション(4)(第57図)でX線を曲げることは、チャネルの壁で腫瘍を検出するのに必要になる。
内視鏡全体が剛性の場合、照射量を事前に計算しておくこともできる。放射源が一定の場合、放射量は、照射時間により決まる。内視鏡の出口に特別な線量計を用意する必要がなくなるので重要である。最後のセクション(4)を脱着可能にすると、必要な角度に応じて別のセクションを取り付けることができる。
第52図に示すシステムを使用すれば、通常ではアクセスするのが困難な場所の欠陥(航空機などの空洞、直径の小さなパイプなど)を検査する装置として使用することもできる。
内視鏡の最終端に検出器を取り付けると、放射量を監視し制御することができる。毛管の先端に取り付ける小さな検出器にはさまざまな種類がある。例えば、線をバックアップする電気信号を発する半導体の検出器、照射すると可視光を発する検出器などがある。この可視光は、光学導波管または内視鏡の一部を構成する導波管で観測することができる。
薄い放射保護シールドを内視鏡の端に付けることにより、異物が放射チャネルに入るのを防止することができる。
断層撮影法では、特性線ばかりではなく広いエネルギーの制動放射を含むスペクトルを有するX線管放射源を使用している。ここで、「ビームの硬化」という問題がある。「ビームの硬化」とは、スペクトルの低エネルギー端の方が高エネルギー端より減衰が進み、スペクトルの平均エネルギーを高いエネルギーの方へ移行させるという効果である。この効果は、コンピューター断層撮影法(CT)では大きな問題になる。異なる角度のX線影像のビーム硬化誤差が断層撮影中に複合するからである。一つの解決方法としては、結晶モノクロメータを使用しているX線放射源からの特性線だけを使ってビームのフィルタリングを行うことである。しかし、発散点光源からかなり多くの光線がストレイジ角に入射してしまう。
クマコフのレンズを使用すれば、発散放射を平行ビームに変形できる。まず、クマコフのレンズで発散放射を平行ビームに変形してから、次に、結晶-モノクロメータを使用して、必要な大きさのモノクロビームを得る。50LWの回転対陰極(ランタニドの陰極で、線E_(k)dl=33.44keV、E_(k)d2=33.03keV)を使用すると、2本の線で約3x10^(15)光子/sが得られる。ただし、回転速度が約100m/s、有効点の大きさが約1x1mmであるとする。
クマコフのレンズを使用すると、約3x10^(12)光子/sの平行電流x特性光子のradを得ることができる。この電流は、SSRL54ポールでのスタンフォードの電流によく似ている。クマコフのレンズを使用しなかった場合、同じ角間隔の回転対陰極からは、約3x10^(3)光子/sしか得ることができない。本発明の実施態様でクマコフのレンズを使用すると、平行ビームの光束が約4倍増加する。
他にも平行ビームを生成する方法はある。(例えば、ダイオード、プラズマ、レーザー放射源など)。
放射線が対象者の体を通過するとき、コンプトン散乱放射が発生し、CTで画像を得ることが困難になる。モノクロ平行ビームを使用し、対象者から十分離した位置に検出器を移動すれば、散乱を防止することができる。この平行モノクロビームを使用すれば、「ビームの硬化」という効果を制限することもできる。
例えば、30keVおよび80keVの領域で二重光子吸収(DPA)CTを使用するには、異なるエネルギーを有する複数のビームが必要になる。1つのエネルギーは、低Z元素の濃度を表す。別のエネルギーは、中間Z元素(P,S,Se,K,Ca、Fe)を表す。2番目のグループの元素には、神経学的に重要なkとCaが含まれている。これらの元素の濃度高いが異常な脳組織があれば、虚血および初期異常などの疾患を意味する可能性がある。[参考資料:ミーズ(Mies)G.他、神経学紀要(Ann Neurol)、16:232-7、1984;およびシージョ(Siesjo)B.K.、ヨーロッパ神経学(Eur Neurol)、25:45-56、1986]。
クマコフのレンズを使用した上記の装置では、広いエネルギー範囲で準モノクロビームを得ることができるので、DPACT問題も解決できる。
大きさを確定する断層撮影法を実施して腫瘍の形を確認するには、放射性元素を体内に注入して、しばらくしてその放射性元素が腫瘍に集積してから、多くのコリメータで構成するガンマチャンバで放出される放射線を検出する。しかし、残念ながらこの方法には、次の欠点がある。空間解像度が不十分で、バックグラウンド放射(ノイズ)が高いので、腫瘍の3次元画像が得られないのである。
本発明によれば、これらの問題をかなり解決できる。断層撮影法にクマコフのレンズを適用した例を第58図に示す。対象となる腫瘍は患者の体内の(X_(0)、Y_(0)、Z_(0))点にあるとする。放射捕捉角φ_(0)は、0.1から0.3radとする。レンズ内でのエネルギー損失を含めて、放射源からの放射の0.1%から1%が検出器に到達する。例えば、放射能が1マイクロキューリー(約10^(4)光子/s)とすると、1秒当り数10から数100の光子が検出器に来る。
クマコフのレンズの焦点部に検出器を配置すると、信号雑音比が急増する。クマコフのレンズを使用したシステムの空間解像度は、数10ミクロンほどに小さくすることができる。この値は、従来のガンマチャンバの解像度をかなり超えている。
腫瘍の位置が不明な場合、人体の断層撮影は次の2段階で実施する。第1段階では、焦点範囲が広く、開口角が大きいX線光学装置を使用して腫瘍を探す。第2段階では、焦点を狭くした(つまり、解像度は高い)クマコフのレンズを使用して腫瘍の詳細な3次元画像を得る。レンズの焦点を調節できる場合、第1段階と第2段階の両方で同じクマコフのレンズを使用して装置を作ることもできる。
従来のガンマチャンバを第1段階、X線光学装置を第2段階にそれぞれ使用することもできる。X線光学装置で走査しても完全な画像を得ることができる。この方法は、放射捕捉角が非常に大きいので、高速である。さらに、信号雑音比が高いので、多くの光子を登録する必要がない。
医者が腫瘍のおよその位置を知っている場合、高解像度の画像を即座に得ることができる。腫瘍の検出と検査に要する放射量は少なくて済む。例えば、約0.1マイクロキューリ(約3x10^(3)光子/s)の放射能を出す放射源を数分間で詳細に検査することができる。
クマコフのレンズは点よりも平面から集光することができる。集光レンズに受光チャネルを設けて対象領域超えた発散点に向けたり、受光端に平行なチャネルを設けたりすることもできる。レンズの放射端を位置感度検出器に向けて画像情報を収集する。
放射線治療で放射の方向やスペクトルを制御する(健康な組織に害を与える可能性がある)のは難しい。現在、手術できない脳腫瘍に対しては、炭素の同位体を放射源とした有向コリメータを使用して照射している。しかし、残念ながら、この方法には、コストが高い、システムが大きて重い、生態学的な危険性がある、照射エネルギーが固定している。焦点領域が広い、などの欠点がある。しかし、好運なことに、従来のX線源とクマコフのレンズを使用すれば、焦点を合わせて適切な量を照射することができる。X線光学装置の焦点領域を、腫瘍の大きさに合わせて数ミクロンから1センチの範囲で変えることができる。X線管の陰極を変更することにより、放射エネルギーも変えることができる。
平行ビームを使用することにより、照射対象が周辺の健康な組織より多くの放射線を受けるようにすることができる。また、平行ビームまたは発散ビームを複数使用することもできる。
ビームを集束させ、帯域幅を修正することにより、放射線治療を改善することができる。例えば、OJ電子励起は、発散ビームが対象となる体積に対して使用できるので魅力がある。帯域幅を修正して、蛍光放射が低い元素の吸収線の直上のエネルギーにすることにより、必要な放射量を著しく減少させることができる。クマコフのレンズとモノクロメータで準平行ビームを生成することにより、ビームを修正することができる。あるいは、モノクロビームより広いが、すべての光子が高吸収エネルギーであるのに十分な狭さになるように、クマコフのレンズで帯域幅を修正することもできる。
中性子捕捉治療はホウ素中性子捕捉に集中している。現在の技術の問題点は、ビームからガンマ線と高エネルギー中性子を分離できないこと、中性子ビームを集束できないことなどがある。
本発明では、クマコフのレンズを使用して、ガンマ線と高エネルギー中性子を分離することにより、患者が受ける放射量を減少させる装置が含まれる。発散ビームを成形するクマコフのレンズを使用することもできる。発散ビームの場合、対象領域で受ける放射量が増えるが、体面近くの健康な組織が受ける放射強度は減少する。腫瘍が大きい場合、焦点の大きいクマコフのレンズを使用するか、または焦点が小さいレンズで腫瘍を走査することもできる。
従来のプレーナー型X線画像処理装置にクマコフのレンズを使用してもいくつか利点がある。クマコフのレンズは、点光源から放出される広い固定角の放射を捕捉できるので、低い電源を使用しても放射源をハードにしない。したがって、寿命が長くなる。クマコフのレンズを使用して帯域幅を選択することにより、ビームの硬化を緩和できる。軟X線を除去できる。軟X線は、対象物に対する放射量を増加させるが、対象物は通過しない。また、画像の質を高める可能性が高い。不要な低エネルギー放射を除去できる簡単なフィルタは他にはない。しかし、所望の放射より高いエネルギーを除去するのにクマコフのレンズを使用することができる。その他の手段では極めて困難である。これらの高いエネルギーの光子が感度を低下するのは、対象物では殆ど吸収されないからである。クマコフのレンズを使用して平行化ができることもある。
X線蛍光装置を使用して分析することにより、選択した元素のレベルを判定することができる。このような測定により、体内に蓄積した不要な重元素の存在や濃度を判定することができる。クマコフのレンズを使用しなければ、通常体内の検査には使えない。その理由は、健康な組織が高い放射を浴びてしまい、分散によりバックグラウンド放射が高く、さらに、光子の収集効率が低いので信号雑音比が低くなるなどの問題が発生するからである。
クマコフのレンズを使用すれば、発散放射源からX線を集めて、評価対象領域にそのX線を集束することができる。画像焦点が最初のレンズと同じレンズをもう一つ用意する。このレンズで発散光子を集めてその光子をエネルギー感度検出器に集束させる。患者に対する放射線照射が、全体としても局部的ににも最小化できる。対象領域に合わせて測定方法を選択できる。収集効率が高まる。信号対バックグラウンド放射比が向上する。利点はまだある。帯域幅を修正できるクマコフのレンズを使用することにより、ビーム帯域幅を修正して、対象元素の吸収線の直上の光子に合わせることができる。あるいは、モノクロメータを使用することにより、モノクロビームを得ることもできる。さらに、収集クマコフのレンズを修正することにより、断面が円形以外の領域から集光して領域全体の平均測定値を得ることもできる。
これまで、本発明にかかわる、主として、ガンマ線、X線、および粒子線を制御する原理を図示しながら特定の実施態様について述べてきた。この技術に優れた人なら、さまざまな修正、代替、追加などを本発明の精神から離れずに実施できることは明白であり、以降のクレイムで、本発明にかかわる特許請求の範囲および均等物を限定する。
(参考)
平成17年3月29日付け訂正請求書に添付した全文訂正明細書
【発明の名称】粒子、X線およびガンマ線量子のビーム制御装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】荷電粒子、中性原子、X線量子、およびガンマ量子のビームを制御する装置であり、複数の全外反射を提示する内面を有する複数のチャネルと、放射源に向けて入力端と、放射受光器に向けた出力端とを有し、上記チャネルは、支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定した複数の別個の毛管束で構成され、しかも、チャネルのそれぞれで入力端の半径方向の幅Dが下記式を満足する装置:
D1≦2θDF+D
但しD1は、前記放射源の有効直径、
θDは、指定スペクトル幅での全外反射の最小臨界角、
Fは、中心軸に沿って計測したチャネルの入力端までの前記放射源の距離。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する、請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項4】支持構造体の少なくとも1つが当該支持構造体の他のものに対して中心軸に沿って選択的に平行移動できる、請求項1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより、支持構造体を構成した、請求項1の装置。
【請求項6】チャネル幅をその長さに沿って変更可能とした、請求項5の装置
【請求項7】装置各断面に於ける直径に比例して各チャネルの長さに沿って各チャネルの幅を変更できるようにした、請求項6の装置。
【請求項8】入力端でのチャネル幅が、
R(θcr)^(2)/2D>1を実現するのに必要な値より小さい装置であり、なお、この式で、Rはチャネルの曲率半径、θcrは対象となるエネルギーに対する全外反射の臨界角、Dはチャネルの幅をそれぞれ表しており、臨界角より小さい出口発散を得るようにした、請求項7の装置。
【請求項9】出力端でのチャネルの幅が、入力端でのチャネルの幅に等しいかそれ以上の大きさであるようにした、請求項7の装置。
【請求項10】反射層の間にギャップを設けることによりチャネルを形成した、請求項1の装置。
【請求項11】チャネルの入力端および出力端で支持構造体を剛に装架した、請求項1の装置。
【請求項12】支持構造体を、反射面の間に配置された低密度材料で形成した、請求項10の装置。
【請求項13】支持構造体を、ビーム伝播の中心軸の回りを回転するように装架した、請求項1の装置。
【請求項14】発散放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項15】平行放射を捕捉するように、チャネルの入力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項16】発散ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項17】準平行ビームを形成するように、チャネルの出力端の方向を向けた、請求項1の装置。
【請求項18】ブラッグの回折により生成された準平行ビームにプレーナ結晶を配置した、請求項17の装置。
【請求項19】放射線束の所望の減衰を得て、ビームの断面で強度を制御するように、各チャネルの長さを選択した、請求項17の装置。
【請求項20】吸収フィルタを使用してビーム断面における強度を制御した、請求項1の装置。
【請求項21】装置で生成した放射線ビームを材料に照射することにより、リソグラフィープロセスでフィルタを作成した前記吸収フィルタを用いる請求項20の装置。
【請求項22】チャネルの入力端での間隔が、装置の断面全体に対して一定ではなく、ビームの断面全体の強度を制御するように選択されている、請求項1の装置。
【請求項23】ビームの発散を減少するために、チャネルの出力端が外側に向けて扇形に広げられている、請求項1の装置。
【請求項24】準平行ビームを形成している、請求項23の装置。
【請求項25】チャネルの扇形に広がった出力端は、θ-D/L1以下であるテーパ角を有しており、θは準平行ビームの指定発散角、L1は円錐形束管セクションの長さをそれぞれ表している、請求項23の装置。
【請求項26】ビーム伝播の中心軸の方向を変化されている、請求項1の装置。
【請求項27】毛管束の断面形状が変化している、請求項1の装置。
【請求項28】放射線がチャネルに入るにつれてビームが分割され及び/またはビームがチャネルを出るにつれて再び一緒になり集束ビームを形成するようにした、請求項1の装置。
【請求項29】チャネルが複合曲率になっている、請求項1の装置。
【請求項30】発散放射線が捕捉され、準平行ビームを形成する、請求項29の装置。
【請求項31】樽状面の母面に対応して接合している虚数ドーナツ状面の母面に沿ってチャネルが伸張している、請求項29の装置。
【請求項32】ビーム制御装置により送り出される放射線を伝導できない材料で作成した一部または完全な外部ケーシングで構成する装置であり、当該ケーシングはチャネルの両端が整列している開口を有している、請求項1の装置。
【請求項33】開口の間で放射線の直線的な透過をブロックしている、請求項32の装置。
【請求項34】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている、請求項1の装置。
【請求項35】チャネルが、一定の半径で固定的にかつ均一に曲げられている、請求項1の装置。
【請求項36】放射線スペクトルの選択エネルギー範囲で透過効率が他のエネルギーより高くなっている、請求項1の装置。
【請求項37】全外反射の異なる臨界角を有する異なるエネルギーに基づいて、異なるエネルギーに対する透過効率を制御している、請求項36の装置。
【請求項38】高透過効率が所望されている最も高いエネルギーの臨界角に近い角で複数の反射をすることにより、透過効率を実現している、請求項37の装置。
【請求項39】荷電粒子、中性原子、X線およびガンマ量子がチャネルの壁を反射しながら伝わるようなチャネルの複合曲率を使用することにより、透過効率を得ている、請求項37の装置。
【請求項40】曲率とカットオフエネルギーとを調整した、請求項37の装置。
【請求項41】放射線ビームがチャネル壁に一定の角度で衝突し、指定角以上に大きい臨界角を有する放射線だけをチャネルに入射させる、請求項37の装置。
【請求項42】最初の一連のチャネルでは捕捉できないビームの部分に、別のチャネルの入口を複数配置し、最初の一連のチャネルの角より小さい放射に対してチャネル壁が一定の角度になる状態で、当該追加チャネルの入口を配置し、最初の一連のチャネルで捕捉した放射幅より小さい臨界角を有する放射幅を当該追加チャネル入口で捕捉するようにした、請求項41の装置。
【請求項43】チャネルの断面が平らな壁面からなるもの、すなわちチャネルが矩形断面になっている、請求項37の装置。
【請求項44】選択吸収を得るために内部面を形成する材料を変更することにより、異なる透過効率を実現している、請求項36の装置。
【請求項45】装置を冷却している、請求項1の装置。
【請求項46】入力端に配置した入力阻止バッフルを使用して当該冷却を実現している、請求項45の装置。
【請求項47】冷却用熱伝導材料でチャネルを覆っている、請求項45の装置。
【請求項48】チャネルの近くに流体冷却剤を流すことにより装置を冷却している、請求項45の装置。
【請求項49】チャネルを貫通して流体を流すことにより装置を冷却している、請求項45の装置。
【請求項50】軟化温度が高い材料でチャネルを作成した、請求項1の装置。
【請求項51】熱伝導がよく、融点が高い材料でチャネルのコーティングをした、請求項50の装置。
【請求項52】当該チャネルを電気伝導材で作成するかまたはコーティングした荷電粒子ビームを制御する、請求項1の装置。
【請求項53】準平行ビームを成形し、テーパ毛管に向ける装置であり、当該テーパ毛管は長さに沿って幅が狭くなる、請求項1の装置。
【請求項54】d1/d2はほぼθcr/θに等しくなっており、d1は当該テーパ毛管の幅の中で最も広い値、d2は当該テーパ毛管の幅の中で最も狭い値、θは当該テーパ毛管に入射する準平行ビームのビーム発散、θcrは全外反射に対する臨界角をそれぞれ示すような構成になっている、請求項53の装置。
【請求項55】X線リソグラフィーシステムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項56】X線源とマスクとの間に配設した請求項55記載の装置。
【請求項57】装置マスク間の距離を、チャネルの離散パターンにより生ずるビーム強度差を均質化するに充分とした請求項56記載の装置。
【請求項58】さらにマスクを合体させた請求項55記載の装置。
【請求項59】発散X線ビームを捕捉しこれを装置の最大横断面積よりも小さい横断面積の準平行ビームに集束する複合曲率のチャネル形成素子を有する請求項1記載の装置。
【請求項60】分析機器に用いる請求項1記載の装置。
【請求項61】放射源と分析しようとする試料との間に配置した請求項60記載の装置。
【請求項62】分析機器がX線蛍光装置である請求項60記載の装置。
【請求項63】分析機器がX線回析装置である請求項60記載の装置。
【請求項64】分析機器が中性子装置である請求項60記載の装置。
【請求項65】試料と放射検出手段との間に配設した請求項60記載の装置。
【請求項66】医療診断システムに用いられた請求項1記載の装置。
【請求項67】医療診断システムが血管造影撮影装置である請求項66記載の装置。
【請求項68】医療診断システムが内視鏡である請求項66記載の装置。
【請求項69】医療診断システムが中性子捕獲療法システムである請求項66記載の装置。
【請求項70】医療診断システムが断層撮影または分布撮影装置である請求項66記載の装置。
【請求項71】患者を照射する収束ビームを形成するのに用いられる請求項66記載の装置。
【請求項72】複数の支持構造体の間隔が(12El/QR1)^(1/2)であり、Eは当該チャネルの弾性係数、lは中立軸に相対的な当該チャネルの断面の慣性モーメント、Qは単位長さ当りの当該チャネルの重さ、R1=2D/θD^(2)であり、当該チャネルの曲がりの臨界半径であり、高透過効率が望まれる放射スペクトルの指定高エネルギー境界で定義する値である、請求項1の装置。
【発明の詳細な説明】
発明の背景
本発明は、放射ビームを制御する装置であり、より詳しく述べれば、X線ビーム、ガンマ線ビーム、および荷電粒子ビームを制御する装置であり、収束ビーム、発散ビーム、準平行ビームを、広いスペクトル範囲、広い開口角度、短い形成パスで、形成する装置に関する。
本発明の利点の一つは、X線、ガンマ線、および中性子ビームを制御して医療用放射線透過検査および治療へ応用したり、X線微量検光子およびX線回折検光子用のビームを形成したり、メスバウアー検査でガンマ線を効果的に利用できることである。
本発明のもう一つの利点は、さまざまな放射源から放射されたエネルギーを集束させることにより、放射ビームを微小領域に高出力密度で生成するのに効果があり、例えば、電波天文学で、小型で局所化した放射源に同調させた有向放射線検出器を形成するのに役立つことである。
電荷粒子ビーム、X線ビーム、およびガンマ線ビームを制御するためにさまざまな装置が使用されている。これらの装置は、例えば、フレネルのミクロ位相板、多層鏡、およびブラッグの結晶のような放射線干渉および放射線回折に基づいている。磁気要素および静電要素も荷電粒子ビーム制御に使用されている。しかし、これらの装置の致命的な問題点は、その装置が依拠している物理現象のため、スペクトル幅が狭いことである。
周知のように、さまざまな荷電粒子ビーム、中性子ビーム、X線ビーム、ガンマ線ビームを縮合媒体の境界に入射すると、全外反射が起こる臨界角と呼ばれる一定のグレージング角度の値が得られる。なお、その角度より小さいと損失が極めて少なくなる。反射面が平滑でその材質の放射吸収度が低い場合、全反射の損失が大変少ないので、臨界角より小さい角度で複数の反射光を利用してビームを効果的に制御することができる。
先行技術としては、曲がり束管チャネルで全外反射を起こして準平行X線ビームを集束して形成する装置が知られている。(旧ソ連 物理学+ウズベク、第157巻、第3号、1989年5月発行。V.A.アクラデエフ(Arkad’ev)、A.I.カラミツェフ(Kolomijtsev)、M.A.クマコフ(Kumakov)、I.Yu.ポノマレフ(Ponomarev)、I.A.コデーエフ(Khodeyev)、Yu.P.チェルトフ(Chertov)、I.M.シャクパロノフ(Shakhparonov)。「広い角度開口広帯域X線光学(Wideband X-ray Optics With Wide-Angle Aperture)」pp.529-537)この装置は、複数のチャネルで構成されており、全外反射を特徴とする内部面を持ち、入力端が放射源に向かい、出力端が放射受光器に向かう構成になっている。チャネル形成要素は、仮想同軸または虚数同軸の樽状の母面にある。
この先行技術に基づいた装置の問題点は、管状チャネルを通過する際の放射損失が大きいことである。その原因は、虚数同軸の樽状の母面にある管状チャネルを正確に位置づけることができないことと、放射線の入力端と出力端をそれぞれ放射源と受光器に最適な角度で向けることができないことである。もう一つの問題点は、管状チャネルの大きさが最適ではないために、スペクトル幅が比較的狭いことである。
X線リソグラフィーでは、微小域(点光源)から放射するX線やシンクロトロンで生成するX線などのさまざまな資源を利用して画像を生成している。しかし、残念ながら、X線リソグラフィーを使用したシステムではX線を適切に操作できないという限界がある。
X線光学には、可視光線でも赤外線(IR範囲)でも経験しなかった困難な問題がある。媒質内部の電子レベルを励起またはイオン化できるエネルギーを有する光子が強力に吸収されてしまうので、屈折率が異なる媒質を通す屈折ができないのである。ただし、多層鏡またはゾーンプレートまたは位相板で単一結晶に起こるブラッグ散乱を利用すれば、回折および干渉現象によりX線を偏向させることは可能である。確かに、この方法を適用している実例も多いが、エネルギー(波長)に制約があるので、エネルギースペクトルが広いX線ビームを制御するには使えない。既知の材料の表面にX線を広い角度から入射すると、反射係数がとても小さいので、反射の使用も制約がある。
すれすれ入射光学は、X線の全外反射現象に基づいて開発されてきた。すれすれ入射光学は、平らな鏡で偏向させて曲がった鏡で平行ビームを集束させるシンクロトロン放射装置で広く使われている。これらの鏡では単一の反射を使用しているのが通常である。そのような装置では、全外反射角(キロ電子ボルトのエネルギーで数ミリラジアン)の値が小さいので、開口角が極めて小さくなる。
従来の装置で点光源を使用するX線リソグラフィーでは、強度、光倍率、半影ブレおよび光源位置が不安定であるという制約があった。また、シンクロトロン光源を使用するX線リソグラフィーの場合も、強度に制約はないが、ビームを垂直方向に入射すると有効な発散が見られない。
本発明は、従来技術で長年懸案になっていた問題を解決することにより、X線の制御、精密さ、および正確さの点でX線リソグラフィーシステムを改良したものである。
X線、ガンマ線、および粒子放射線は、現在さまざまな分析器機で使用されている。放射線を使用すると、試料の組成や構造などの特性について知ることができる。しかし、残念ながら、従来の計測器には強度およびビームの指向性または偏向の制御という点で制約があった。
試料(物質、成分、または系)を非破壊的に評価する方法で最も重要でかつ広く使用されているのは、X線蛍光分析または分光分析(XRF)である。X線蛍光分析は、分析ツールとして、主として、波長分散分光分析(WDXRF)およびエネルギー分散分光分析(EDXRF)の2つの方法で開発された。さらに、上記の2つの測定技術を組み合わせて高い分解能で測定をすれば、高速で半定量的な分析結果が得られるが、現在商用化されているものは殆どない。
剛性試料に光子を照射することにより放出されるX線には、「制動放射」の広いバックグラウンドにある試料の単一エネルギーX線特性が含まれている。しかし、残念ながら、そのようなX線放射源により励起された2次X線スペクトルには、通常、試料に制動放射を連続すると分散が発生しエネルギーがより低いバックグラウンドになる。
本発明がX線蛍光分析を改良した点は、(1)検出器に到達する強度を上げることにより測定時間を短縮した、(2)光子の衝突を引き起こす検出器に到達する制動放射を減少させることにより測定時間を短縮した、(3)信号対雑音比を増加させることにより分解能を上げた、(4)検出器に到達する制動放射を減少させる、(5)角関係を精密に制御することによりWDXRFの分解能を向上させた、(6)明確に定義した小さな領域を評価する能力を向上させた、(7)操作により組成分布を判定する能力を向上させた、(8)試料や源開口などの部分を移動せずに、明確に定義した領域で平均組成を判定する能力を向上させた、(9)明確に定義した剛性試料の体積の分析を可能にし、より小型の検出器を使用できる系で他の組成のコストを減少させた。
本発明者は、特別な形状面から複数の反射を利用したX線の集束を初めて提案し、これらの「クマコフ(Kumakhov)」レンズの透過率は50%にもなることを実証したことがある。さらに、これより低い透過率でも、大きな収集開口度(0.25ラジアン)のためにX線強度が4倍も増加したことを示した。
放射線ビームは、医療にかかわる診断と治療の両方の分野で幅広く応用されている。しかし、従来の医療器機の使用と効果に制約があったのは、(i)容易に濾光しない所望のエネルギーより高い光子または粒子が存在するため、所望のエネルギーでバンド幅が狭くかつ高い強度のビームが得られなかった、(ii)所望の横断面積を有する平行ビームを形成し集光ビームを形成することができなかった、(iii)コリメーション時に強度が大幅に損失した、(iv)体腔のライニングに直接放射線を照射する効果的な手段がなかったからである。
これらの制約のため、画像の分解能は低いままであり、高レベルの放射線量が患者の健康な組織細胞に影響を与えたり医療員が放射能に汚染されたりすることがあり、光源や検出器などの装置部品が高価になっているのである。クマコフのレンズは、放射線の照射が正確でかつ精密なので、上記の問題を最小限に押さえることができる。
要約すると、本発明は、X線リソグラフィー、分析器機、医療器機などに新規なクマコフのレンズを応用するものである。
発明の要約
本発明の目的は、ビーム制御装置のチャネルを通して放射透過を効率化し、制御中の放射ビームの角幅およびスペクトル幅を拡張し、装置製造にかかわる労力を減少させ、装置を小型化し、焦点領域を狭くし、ビームのエネルギー集束および出力装置でのビーム出力密度の効率を向上させ、出力装置での放射ビーム均等性を向上させ、角ビーム発散を減少させ、形成中の放射ビームにバックグラウンド放射が与える効果を減少させることにある。
このような目的を実現するために、粒子量子、X線量子、およびガンマ線量子の各ビームを制御する装置において、複数の全外反射を特徴とする内部面に複数のチャネルを設け、入力端が放射源に向い、出力端が受光器に向かうように配置する。この装置では、虚数同軸の樽状の母面に配置した要素でチャネルを形成することが望ましい。本発明の方針に従って、チャネル形成要素を剛性支持構造で空間に位置づけ、入力端で放射線方向に次の条件を満足するチャネル幅Dを各チャネルに指定する。
D_(1)≦2θ_(D)F+D
なお、上記の式で、D_(1)は放射源の有効直径である。ここからレンズで放射線を捕捉する。θ_(D)は、必要なスペクトル幅で放射する臨界全外反射角の最小値である。Fは、ビーム伝播の中心軸に沿って測った、放射源からチャネルの入力端までの距離である。
複数のチャネルを曲がり束管で構成し、虚数同軸の樽状の母面に沿って縦軸を設定した場合、本発明の剛性支持構造を、円板がビーム伝播の中心軸に垂直になるように配置し、各円板に蜂の巣形の開口パターンを設けて束管を収容することにより、虚数同軸の樽状の母面に沿った縦軸をしっかり固定する。このような剛性支持機構を形成する方法はたくさんある。例えば、リソグラフィーまたはレーザ旋削のような処理により穴を開けた剛性板を使用したり、平面上で複数の方向に予め定めた間隔で大きな開口に沿ってパターン内の配線などの資材を配置する剛性枠を使ったりしても固定することができる。
この方法を使用すれば、曲がりチャネルの形状を正確に形成し、その位置を固定し、曲率半径の最適値からの偏差を極小にし、放射源および受光器に対してそれぞれ入力端および出力端を正確にかつ固定して位置づけることができるので、チャネルに入射する放射線を最大限に捕捉し、放射伝播損を最小化することができる。
本発明の別の側面として、個々の円板を一枚一枚他の円板と相対的に軸方向に沿って移動できるという特徴がある。例えば、入力端に最も近い円板にこの方法を適用すると、焦点距離と捕捉角を調整することができる。移動可能な支持機構を使用すると、伝送エネルギー帯域幅やスペクトルを調整したり、ビーム焦点の大きさや出口焦点距離を調整したりするのに役立つ。
同軸の樽状のビームの反射層またはエンベロープ間の隙間で、制御中のビームに対して同軸方向にチャネルを形成した場合、少なくとも2つの剛性格子(例えば、蜂の巣形のパターン)をチャネルの入力端および出力端に、ビーム軸に垂直に配置し、エンベロープを入力端および出力端で格子にしっかり固定することにより、剛性支持構造を形成する。このように設計すると、装置を固定する構造で発生する放射強度損を最小化したり、装置の組み立てを簡単にしたり、エンベロープ強化構造を軽量化したり、その強化構造によるエンベロープの変形を最小化したりすることができるという利点がある。
チャネル形成要素として曲がり束管を使用しているので、開口部の蜂の巣形のパターンで曲がり束管の位置を制御ビームの中心軸に沿って固定して、支持円板を位置づけられるという利点もある。なお、その際、支持部の間隔は次の式で表される。

この式で、Eは、最大温度での束管の弾性係数である。なお、この最大温度には、放射吸収に起因する束管の温度上昇分を含んでいる。Iは、中立軸に相対的な束管の横断面の慣性モーメントを表す。Qは、単位長ごとの束管の質量を示す。R_(1)=2D/Q^(2)は、必要な放射スペクトルの高エネルギー境界で判定した束管の臨界弾性半径である。このようにすると、束管が自身の重みでたるむのを許容弾性にまで最小化できる。なお、チャネルを通る放射透過による放射強度損は許容弾性を超えない。
複数のチャネルを毛管として設計する場合、毛管を別々の束にまとめて、束の縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って、制御ビームの中心軸に対して同軸になるように配置し、制御ビーム軸に垂直になるように円板を配置して剛性支持構造を設計し、開口部に蜂の巣形のパターンを用意して毛管のそれぞれの束を収容することができるという特徴がある。このように設計すると、チャネルの直径を小さくしてチャネルの数を増やせるので、装置のスペクトル幅を拡張できるという利点がある。なお、装置を組み立てる労働内容は、チャネルの数ではなく毛管の数に依存する。また、個々の小さな毛管の強度と比較すると、毛管の束としての強度の方が強いので破損が少なくなる。チャネルの臨界弾性半径R_(1)が小さくなるので、装置を小型化することができる。
前述したように、制御ビームの中心軸と同軸方向に虚数同軸の樽状の母面に沿って曲がり束管の縦軸を配置した形態で複数のチャネルを設計すると、本発明によれば、束管壁をそれらの外面において剛に連結することにより、蜂の巣形のパターンの剛性支持構造を形成し、各束管のチャネル幅をチャネル長に沿って可変にし、束管の横断面で対応する装置寸法に比例させることができる。このように設計すると、装置の広い部分でチャネル寸法が大きくなり、焦点方向に向いた入力端および出力端でチャネルの直径が小さくなるように管束を自由に変形することにより装置全体を形成することができる。熱可塑性の管束を加熱して引き延ばすなどの方法が可能である。この方法によれば、焦点領域の直径を数倍も小さくすることができるので、放射エネルギーの集束度が高まる。この手法を自動化すれば、本発明を製造するコストも低くできる。
本発明のもう一つの側面として、複数のチャネルで曲がり束管を構成し、その縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って配置することにより、剛性で蜂の巣形のパターンの支持構造のブッシングを形成し、ビーム伝播の中心軸に垂直な平面で各束管を包み、ブッシングを一つ一つしっかり固定し、接着剤、連動機構または締め付け装置(例えば、外締め)などで支持構造を構成することができるという特長がある。この方法を使用すると、装置の組立が簡単になり、装置の作成でチャネル形成要素の数を増やせるので、角ビーム制御の範囲を広げることができる。
同様に、複数のチャネルを毛管で設計するにあたり、毛管を束にまとめて、その縦軸を虚数同軸の樽状の母面に沿って配置し、剛性で蜂の巣形のパターンの支持構造でブッシングを構成し、制御ビーム軸に垂直な平面で各毛管束を包み、接着剤、連動機構、または締め付け装置で一つ一つしっかり取りつけるのにも役立つ。この用法によれば、装置の組立も簡単になる。
ブッシングで各束管または毛管束を包む代わりに、共角積み重ねクレードルを使用して剛性支持構造を形成することもできる。
剛性支持構造をビーム伝播の中心軸の回りに、一つの単位として回転させて搭載することもできるので、別々のチャネルからのビーム透過による不規則性を平均化することにより、ビームの横断面に沿って時間平均の放射強度を等化することができる。
さらに、本発明の側面として、チャネルが異なる場合はその波長も変えることができるという特長がある。すなわち、形成中のビームの横断面の各領域で放射強度の減衰に従って波長を選択する。この方法によれば、曲率が異なるチャネルを経由した場合放射透過中の強度損が相違することにより発生する不規則性を取り除くことにより、形成中のビームの横断面に沿って放射強度を制御することができる。最もよく使用されているのは、ビーム強度の等化である。その他、横断面で密度と厚さが変化する吸収フィルタがある。中心から周辺に向かって吸収度が下がっていくフィルタをビームパスに置いても同じ効果が得られる。
個々の要素をテーパー角θ_(1)で(円錐状に)発散させるのにも役立つことが実証されている。なお、θ_(1)<θ-D/L_(1)の関係になる。この式で、θは準平行ビームの必須発散角度、L_(1)は低減する束管部分の長さである。この場合、フレアーアウトチャネルで放射透過をすると、ビームの発散がテーパー角の値まで減少する。
本発明の別の側面として、曲率が複合している虚数同軸の母面に沿ってチャネル形成要素を配置することができる。例えば、チャネルの出力端をチャネル形成要素といっしょに延長することができる。なお、このチャネル要素を配置する虚数ドーナツ状の面の母面は、虚数樽状の面の母面と対応しており、出力端は放射受光器に向けられている。この方法によれば、このようにして形成した放射ビームの密度を高めることができる。
束管間の隙間を化合物で埋めれば、剛性支持構造を効率的に生産できる。制御ビームの放射線を通さない外部遮へいケーシング資材で装置を作るのに適している。ケーシングの開口部をチャネルの両端に合わせて配置し、曲がりチャネルおよび放射線を吸収する束管間資材だけを採用して、密閉した放射線受光器または放射源に対する直線路を遮断することにより、形成した放射ビームにおけるバックグラウンド放射線率を減少させる。このような充填のおかげで、振動のような動きに対する感受率も下がる。
本発明は、前述したクマコフのレンズでX線リソグラフィーシステムも構成できる。X線源を必要とし、クマコフのレンズは、通常、X線源とマスクの間に配置する。
X線源は、点光源であってもなくても構わない。クマコフのレンズは、マスクとレジストとの間に配置してもよい。本発明は、次のようなX線リソグラフィーの方法についても提示する。まず、放射源を用意して、放射源からの放射線をクマコフのレンズを通して集束させ、次に、集束した放射線をマスクに通すのである。この方法で、クマコフのレンズを追加して、一つのレンズで準平行ビームを形成し、もう一つレンズで、予め選択したエネルギー帯にビームを集束させる。
さらに、本発明では、クマコフのレンズで構成する分析器機も規定する。通常、クマコフのレンズは、放射源と分析試料との間に配置する。この分析器機は、X線蛍光装置、X線顕微鏡、X線回折装置などのX線装置でも、イオン顕微鏡のようなイオン装置でも、中性子顕微鏡や中性子回折装置のような中性子装置でも、あるいは、電子ビーム装置でも構わない。
上記の計測器は、通常、モノクロメータで構成する。この中で放射源は、クマコフのレンズとモノクロメータの両方を横断できる。この適用形態では、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかであるのが普通である。
本発明の適用形態としては、クマコフのレンズを二次放射源と試料の間に配置することもできる。この場合、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかとして機能する。
本発明では、クマコフのレンズを分析対象の試料と放射線検出器との間に配置することもできる。この場合、クマコフのレンズは、発散形のビーム集光器、平行ビーム集光器、準平行ビーム形成器、準平行ビームマニピュレータのいずれかとして機能する。
クマコフのレンズは、帯域フィルタとしても機能する。さらに、この計器は、デジタル減算分析で使用するのに適している。
さらに、本発明では、試料を分析する方法も規定する。まず、放射源を用意して、放射源から放射された放射線をクマコフのレンズに通して、クマコフのレンズから出てきた放射線に分析対象の試料を接触させて、試料から出てきた放射線を検出する。
通常、検出した放射線は、次に、その放射線にかかわる既知のパラメータと照合する。
放射源から出てきた放射線は次のように伝達する。まず、クマコフのレンズから出てきた放射線を反射し、次に、反射した放射線を別のクマコフのレンズに通す。この過程では、通常、結晶が必要になる。単結晶のモノクロメータが使用できる。さらに、試料から出てきた放射線を別のクマコフのレンズに通してから検出してもよい。
本発明では、医療装置も提供する。医療装置は、診断と治療の両方に適している。開示する特定の装置には、血管造影装置、内視鏡、X線断層撮影装置、組織イオン化装置、中性子捕捉治療装置、X線蛍光分析装置などがある。さらに、本発明では、医療装置でクマコフのレンズを使用する方法も提供する。
本発明では、患者に放射線治療をする方法も規定している。まず、放射線ビームを放射し、次に、クマコフのレンズに通してビームを集束させ、患者に照射する。さらに、患者の特定の物質の存在を検出する方法も規定する。まず、放射線ビームを放射し、次に、クマコフのレンズに通してビームを集束させ、患者に照射してから、残余のビームを検出する。
図面の簡単な説明
第1図は、本発明の一つの実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。蜂の巣形のパターンで配置した開口を有する円板によりチャネル形成要素を固定する。
第2図は、第1図で示した本発明の実施態様のA-A断面図である。
第3図は、第1図で示した本発明の実施形態のB-B断面図である。なお、毛管が延長して接触していることを示している。
第4図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。蜂の巣形の格子に接着することにより、チャネル形成要素としての樽状エンベロープを固定する。
第5図は、第4図の実施態様を放射源側から示した図である。
第6図は、本発明の実施態様の一部を示している。複数の毛管を別々の束にしてそれぞれチャネル形成要素にしている。
第7図は、曲がり束管を包むブッシングを使用して剛性支持構造を形成している。
第8図は、一束の毛管を包むブッシングを使用して剛性支持ヨークを形成している。
第9図は、積み重ねクレードル部材で構成する剛性支持構造を示している。
第10図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。束管を変形して異なるチャネル断面図を形成するようにチャネル形成要素を設計できる。束管自身の壁により剛性蜂の巣形のパターンの支持構造を形成している。
第11図は、中心ビーム軸を中心にして剛性チャネル支持構造を回転させる配置図である。
第12図は、支持円板を軸方向に移動できる実施態様を示している。
第13図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、準平行ビームを形成する束管であり、直線束管部分に広がり、準平行ビームの断面図で放射線の強度を等化するために長さを変えている。
第13A図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。準平行ビームの断面図で放射線の強度を等化するために吸収フィルタを採用している。
第14図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、準平行ビームを形成する束管であり、裾広がりの部分で、準平行ビームの発散を減少させている。
第15図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成要素は、虚数同軸の樽状の面の母面に沿って配置され、ドーナツ状の面の母面に沿って伸びている。
第16図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。チャネル形成束管の間の隙間および束管支持円板の間の隙間には、剛性資材が充填されている。
第17図は、本発明の実施態様を示す制御ビーム軸に沿った断面図である。装置全体が遮断へいケーシングで覆われており、放射線伝達チャネルの入力端と出力端が開口部分で整列している。
第18図は、透過係数と光子の曲げエネルギーとの関係を示している。
第19図は、毛管の湾曲点近くで特別な形状をした毛管の中を光子が次々に壁に反射しながら伝達している様子を示している。
第20図は、透過係数と光子エネルギーとの関係を示している。なお、特別な形状では高エネルギーカットオフが発生いている。
第21A図は、一連の長方形の毛管の中を初期平行ビームが反射していく様子を示している。
第21B図は、各ビームごとの光子の数と光子のエネルギーとの関係を示している。2つのビームI_(1)とI_(2)が特別な分布曲線を示している。
第22図は、幅が可変な毛管を使用してビームを獲得する様子を示している。入口端に近いほど幅が狭くなっている。
第23図は、不均一なチャネル断面図に対してレンズで焦点を合わせている様子を示している。
第24図は、非対称レンズ系で発散源からの放射線が高強度になる点を得る様子を示している。
第25図は、レンズ要素の入力バッフリングを示している。
第26図は、毛管要素および流体(気体または液体)で冷却する要素間の空間を示している。
第27図は、個々のチャネルの直径が10μmで、複数の毛管で構成する直径が300μmの毛管束を示している。
第28図は、放射源、クマコフのレンズ、およびマスクで構成するシステムの略図である。放射源から放射されたX線は、クマコフのレンズを通り、マスクへ向かうことを表している。
第29図は、放射源、クマコフのレンズ、およびマスクで構成するシステムの略図である。放射源から放射されたX線は、クマコフのレンズを通り、マスクへ向かうことを表している。なお、クマコフのレンズから出てくるビーム間の幅が、第28図より狭くなっている。
第30A図は、放射源、クマコフのレンズ、マスク、およびウェハで構成するシステムの略図である。なお、図の記号の意味は次に通りである。
g=マスクとウェハ間の隙間
θ=レンズ捕捉角度(sr)
δ=半径倍率
第30B図は、X線がマスクを通り、ウェハに衝突している様子を示す略図である。なお、図の記号の意味は次に通りである。
θ=軸からの最大発散
ρ=周辺部のぼけ
第31図は、レンズの出力端で撮ったビームの断面図の拡大図である。
第32A図は、シンクロトロンからの発散ビーム、準平行ビームの集束用クマコフのレンズ、エネルギー帯反射用のクマコフのレンズ、およびビーム形成用クマコフのレンズを使用したシステムの略図である。
第32B図は、A-AおよびB-B面で撮ったビームの断面図の略図である。
第33A図は、シンクロトロンリングから出てくるシンクロトロン放射の略図である。
第33B図は、シンクロトロンリングから出てくる放射線を断面図が大きくなるように変形し、発散を少なくしてエネルギーがより高い光子を濾過している様子を示している。
第34図は、X線源、先頭のクマコフのレンズ、マスク、フィルタ、もう一つのクマコフのレンズ、およびレジストで構成するリソグラフィーの拡大略図である。
第35図は、第34図の2番目のクマコフのレンズの拡大図である。
第36図は、発散ビームがクマコフのレンズを通り集束する様子を示している概略図である。
第37図は、平行ビームがクマコフのレンズを通り集束する様子を示している概略図である。
第38A図は、クマコフのレンズを通り準平行ビームが形成される様子を示している概略図である。
第38B図は、別の形で、クマコフのレンズを通り準平行ビームが形成される様子を示している概略図である。
第39図は、X線源、クマコフのレンズ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線が放射源からレンズを通り試料に衝突して、屈折してから検出される。
第40A図は、X線源、試料、クマコフのレンズ、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源から試料に衝突し屈折してクマコフのレンズを通ってから検出される。
第40B図は、X線源、試料、2つのクマコフのレンズ、結晶板、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源から試料に衝突し屈折してクマコフのレンズを通って結晶板で反射してもう一つのクマコフのレンズを通ってから検出される。
第41A図は、X線源、2つのクマコフのレンズ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。X線は、放射源からクマコフのレンズを通り試料に衝突し屈折してもう一つのクマコフのレンズを通ってから検出される。
第41B図は、試料(第33A図を参照)で屈折して2番目のクマコフのレンズに向かうX線と試料を通り抜けていくX線の様子を示す概略図である。
第42図は、電源、X線源、複数のクマコフのレンズ、試料、試料位置決め装置、エネルギー発散形検出器、単結晶反射鏡または多層反射鏡、電子検出器、完全な中央分析システムなどで構成する複合分析システムの概略図である。
第43図は、X線源、2つのクマコフのレンズ、単結晶モノクロメータ、試料、および検出器で構成するシステムの概略図である。
第44A図は、放射源、クマコフのレンズ、および一束の毛管で構成するシステムの概略図である。
第44B図は、放射源、クマコフのレンズ、および複数の毛管で構成するシステムの概略図である。
第45図は、放射源、クマコフのレンズ、および毛管システムで構成するシステムの概略図である。
第46図は、シンクロトロン放射を利用した顕微鏡の概略図である。
第47図は、樽形状毛管のレンズモードの概略図である。
第48図は、光子が樽形状毛管を通った様子を示す概略図である。
第49A図は、放射源、クマコフのレンズ、および単結晶で構成するシステムでの回折を示す概略図である。
第49B図は、放射源、2つのクマコフのレンズ、単結晶、および検出器で構成するシステムでの回折を示す概略図である。
第50図は、放射線がクマコフのレンズと単結晶モノクロメータを通り対象に至る様子を示す概略図である。
第51A図は、放射線がクマコフのレンズを通り、非対称にカットした結晶で反射してから対象に至る様子を示す概略図である。
第51B図は、A-A、B-B、およびC-Cにおける放射ビームの断面図を示す概略図である。
第52図は、コリメーターの断面図を示す平面図である。
第53図は、2つの放射源からビームをそれぞれ透過検出器を通し、対象物のある地点で交差してから、コリメーターと透過検出器を通り、位置判定検出器で留まる様子を示す概略図である。
第54図は、クマコフのレンズ、ラウエのジオメトリの単結晶モノクロメータ、対象物、コリメーター、および2次元位置反応検出器で構成するシステムの概略図である。
第55図は、光子の数とエネルギーとの関係をグラフにしたものである。点線は、対象となる線(例えば、ヨウ素のK線)のエネルギー吸収を示している。A図はモノクロメータからのビーム、B図はクマコフのレンズからのビームである。
第56図は、クマコフのレンズを通り生成された2つのピークを示している。点線は、対象となる線に対する吸収エネルギーを示している。
第57図は、(1)放射源、(2)クマコフのレンズ(放射源で生成された発散放射線を捕捉する)、(3)大きなチャネル、および(4)小さなチャネル(多数の毛管)で構成するシステムの概略図である。
第58図は、放射源から3次元(X_(0)、Y_(0)、Z_(0))方向に放射し、クマコフのレンズでその放射線を捕捉し、デフレクタの方向に放射を線集束している様子を示す概略図である。
第59図は、X線がクマコフのレンズを通り、対象物の中で一部の蛍光X線が偏向してもう一つのクマコフのレンズに入る様子を示す概略図である。
発明の詳細な記述
粒子ビーム、X線、およびガンマ線を制御する装置(クマコフのレンズ)は、複数の全外反射を特徴とする内部面を有する複数のチャネルで構成する。第1図の実施態様において、チャネル形成要素は、複数の曲がり中空束管1である。束管1の前後軸2は、制御ビームの重心軸3に同軸方向で虚数樽状面の母面に沿って配置する。チャネル形成要素は、剛性支持構造により相互にしっかり固定する。
剛性支持構造には、制御ビームの軸3に垂直な複数の円板4が含まれる。それぞれの円板には、蜂の巣状パターンの開口5があり、その開口を通して束管1を固定している。第2図に示す蜂の巣状のパターンのそれぞれの開口は、中心の開口の回りに6つの開口がそれぞれ等しい間隔で並んでいる。開口を別な方法で配列することも可能だが、前記の配列が望ましい。各円板で開口間の間隔は各円板の軸上での位置により異なるが、樽状面の母面に沿って束管1(第1図)をしっかり固定できるような位置を選択する。各円板4は、剛性資材(例えば、金属または硬質プラスティックまたは複合材)で作成し、枠6によりしっかり固定する。
曲がり束管1の入力端の方向は放射源7に向かい、出力端は受光器8に向ける。入力端および出力端は、第3図に示すように、全体が6角形の密集形になるように配列することが望ましい。
第1図で、本発明による各チャネルの半径D(入力端では束管1の直径)は次のように定義される。
D_(1)<2θ_(D)F+D
上記の式で、D_(1)は放射源7の有効直径であり、θ_(D)は指定したスペクトル幅での全外反射の最小臨界角、Fは重心軸3に沿って計測した放射源7から束管1の入力端までの距離である。
第4図に本発明の別の実施態様を示す。この実施態様では、制御ビーム軸3に同軸方向に、樽状ビーム反射層またはエンベロープ9の間に隙間を開けてチャネルを構成している。剛性支持構造は、少なくとも2つの格子で構成する。例えば、制御放射ビーム軸3に垂直なチャネルの入力端と出力端で蜂の巣状に配列したセル11(第5図)を配列する。剛性支持構造は、必ずしも蜂の巣状にする必要はないが、その場合はブロックした状態でビームに望ましくないパターンが形成される可能性があるので、十分注意して選ぶ必要がある。第4図に示すように、エンベロープ9で入力端および出力端を格子10に(例えば接着することにより)しっかり固定し、格子10はリング12に固定し、リング12は枠6によりしっかり固定する。
本発明の実施態様では、第4図に示すように、各チャネルの半径幅Dは、入力端での平面で放射状に広がる2つの隣接したエンベロープの間の距離で定義する。
さて、ここで曲がり束管をチャネル形成要素として機能させる実施態様に関する説明に戻る。束管1のチャネル(第1図)の入力横断面の充填係数を向上させるために、それぞれの束管1の横断面を3角、矩形、6角形などの形にして装置の入力横断面の充填係数を最大になるようにする。剛性支持部材は蜂の巣状以外の形態も可能であるが、その場合は放射線がブロックされてビームに望ましくないパターンが形成される可能性があるので十分注意して選ぶ必要がある。
Dサイズのチャネルを有する束管1を均一に曲げ、束管1に平行放射ビームを入射すると、ゼロからθmaxの範囲の角度でチャネル壁に衝突する。なお、θmax=(2D/R)^(1/2)であり、Rは束管1の曲がり半径である。その結果、それぞれの放射に固有の種類とエネルギーレベルは、いわゆる臨界曲げ半径がR_(1)=2D/θ^(2)_(D)という特長を有する。この値より低くなると、補足効果はR/R_(1)に比例して減少する。
チャネルが矩形の場合、この遅延は線形になる。チャネルが円筒形の場合、この遅延はもっと複雑な形になる。ビーム制御装置で束管がそれ自身の重さでたるむことにより局所的に曲がる半径には、R>R_(1)という制限がある。
制御ビームに沿って曲がり束管1を固定している開口5を含む蜂の巣状のパターンを有する円板4は、それぞれL≦(12EI/QU_(1))^(1/2)という間隔で配置することが望ましい。この式で、Eは束管1の弾性係数、Iは束管の中立軸に相対的な断面の慣性モーメント、Qは単位長さ当りの束管の重さである。なお、R_(1)は放射の高エネルギー境界で定義されている束管1の臨界曲げ半径である。このように円板4を位置づければ、束管1がそれ自身の重さでさらに曲がっても、放射線が透過することにより束管1のチャネルの全充填を保持するのに必要な値を超えることはない。
本発明装置の運用スペクトル範囲を拡大して中性子ビームの制御に適用すると、全外反射の臨界角を小さくし、束管1の直径を小さくすることができる。束管の直径が100μmより小さくすると、装置を組み立てる手順がかなり複雑になる。
チャネル形成要素が管状であると、複数の毛管を相互につなげてそれぞれの束管1を製造することができるという利点がある。これにより反射面が平滑になり、複数の全外反射が可能になる(第6図および第27図)。このように構成すると、有効なチャネルの直径を数倍縮小することができる。その結果、運用スペクトル幅をより高いエネルギー領域に拡大して束管1の曲げ半径を小さくすることができる。これは、臨界曲げ半径が束管1の直径ではなく、毛管チャネル13の直径で決まるからである。したがって、チャネルの直径をサブミクロンのレベルまで小さくすることにより、チャネル数を数倍に増やすことができる。一方、装置を組み立てるのに要する労力は複数の毛管で構成する束管の数で決まるので、元の管状設計のレベルに維持することができる。
複数のチャネルで曲がり束管1(第1図)を構成する実施態様では、第7図に示すように、虚数同軸の樽状面の母面に沿って前後軸が配置されているので、制御ビーム軸に垂直な平面で角曲がり束管を覆うブッシング20で剛性蜂の巣状の構造を支持することもできる。ブッシングは、接着剤、連動機構、または締め付け機構で相互にしっかり固定する。
同様に、複数の毛管13(第6図)をまとめて別々の束管にして、その前後軸を虚数同軸の樽状面の母面に沿って配置した場合、剛性蜂の巣状構造は、制御ビーム軸に垂直な平面で、複数の毛管13で構成するそれぞれの束管を覆うブッシング21(第8図)の形にすることもできる。ここでも、ブッシングは、接着剤または包帯止めで相互に固定してヨークを形成する。
あるいは、第9図に示すように、クレードル部材22に束管1(毛管13の束)の所望の位置にしっかり固定することもできる。
管状チャネルの場合、組み立て手順を簡素化し、束管1の直径をできるだけ最小にして、ビーム集束領域のサイズを極小化することにより、その領域でのビーム密度を増加したい場合、束管1の壁をそれらの外面において剛に連結することにより、剛性蜂の巣状の構造を形成することもできる。本発明では、ガラス管のような熱塑性プラスティック管で装置を作成することを想定している。その場合、束管1の両端D_(0)から中央部Dmaxまで範囲でチャネル幅を変えることができる。本発明の実施態様では、チャネル幅は対応する束管の樽状面の直径に比例する。このような状態で、束管1の臨界曲がり半径は、入力半径D_(0)で定義する。チャネルの断面を装置の両端を透過する放射線で満たすのが不完全であっても透過効率の観点では重要ではないからである。
第10図に望ましい実施態様を示す。それぞれの束管1は、円弧に近い曲線に沿って曲げられている。装置の入力端で補足する放射線をフレアリングアウトを経由して透過させてから、必要に応じて正のガウスの曲率を有する反射だけでチャネルを逓減させ、反対側の壁に到達しないようにすることにより、装置入力端で獲得したすれすれ入射角の範囲を放射線が出力端に達するまで保持する。本発明によれば、束管1の直径は入力端で少なくともD_(0)になる。反対側の壁からの放射線を避けることが不可能だからである。その結果、すれすれ入射角が全外反射の臨界角θ_(D)を超えるので、放射損失が増えることになる。
本発明装置を使用して準平行放射ビームを生成することにより、長距離エネルギー伝送(例えば、データ伝送)、ゆがみなしの物体画像の伝送、プラナー結晶によるブラッグの放射モノクロ化などに応用することができる。多くの場合(例えば、X線リソグラフィー)、放射ビームの均一性と平行性が高くなければならない。しかし、管状システムで複数の全外反射で準平行ビームを生成すると、ビームの断面で放射分布が均一ではなくなる。その原因は、別々の束管1を経由した放射透過が離散的(ミクロ的均一性)であるからである。また、ビームの中心から端に至るまでの間に強度が低下するのは、束管1の曲率の大きい部分で放射透過の効率が低下する(マクロ的均一性)からである。
複数のチャネルを経由した離散的な放射透過が均一性を失うことが重大な問題になる場合、本発明による剛性蜂の巣状の構造を制御ビーム軸3を中心にして回転できるようにすることにより、露出時間を平均化してビームの強度を等価することもできる。例えば、第11図に示すように、外部駆動型の周歯車装置23を使用して回転させる。この構造は、例えば、X線リソグラフィーなどで準平行ビームを生成するのに応用できる。
第12図に本発明の実施態様を示す。この実施態様では、束管1の入力端の近くにある支持円板4’を軸方向に平行移動できる。ウォーム歯車機構25を駆動するロッド24を使用して静止円板4に対して円板4’を平行移動させる。逆に、円板4’を入力端に向かって移動させると、焦点長Fが増加し、同時に補足角θが小さくなる。円板4’を出力端に向かって移動させると、焦点長Fが減少し、補足角θが大きくなる。この様な操作をすると、透過エネルギー帯域幅とスペクトルを調整することができる。
複数の束管1チャネルの前後軸をそれぞれ出力端で平行になるようにして、放射ビームを透過させると、チャネルの曲率が異なるために放射透過効率も異なる。その結果発生する出力ビームの不規則性を補正するために、均一な断面を有する直線セクション14(第13図)をチャネルの出力端で延長させる。この直線セクション14の長さは、成形ビーム断面の各部分でのビームの強度の減衰度に応じて選択する。準平行ビームの中央で強度が低下する場合、延長束管1で放射吸収を行う。束管1の両端は必ずしも均一にする必要はない。強度分布に応じて、中央から周辺に向かって出力端を短くしていく。ビームパスに吸収フィルタ40(第13a図)を設ける方法もある。成形ビームの均一さのばらつきに応じて中央から周辺に向かって吸収フィルタの密度または厚みを減らしていく。このフィルタは、例えば、放射の種類に応じてレジストを選択して成形準平行ビームに露光させれば、作成できる。
ビームを成形する個々のチャネルからの放射発散は、全外反射の臨界角θ_(D)を超えない。放射発散を減少させる必要がある場合、束管1の出力端にフレアリング円錐形セクション15(第14図)を設ける。その際、テーパ角は、θ_(1)≦θ-D/L_(1)となる。この式で、θは準平行ビームで必要な発散角、L_(1)は円錐形セクション15の長さをそれぞれ示す。フレアリングアウトチャネルを透過するビームは、ビームの発散がテーパ角まで減少する。
均一に曲げた束管1を使用して準平行ビームを成形する場合、束管1の出力端と入力端のそれぞれの間隔を等しくすることはできない。したがって、虚数ドーナツ状面の母面に沿ったセクション16(第15図)で出力端を延長させて、元の樽状面と結合して、出力端のセクション16を受光器の方向に向けるようにして準平行ビームを成形することが望ましい。この場合、準平行ビームの別の部分をいっしょにして出力準平行放射ビームの密度を増加する。必要に応じて、他の複合曲率を有する虚数同軸面の母面に沿ってチャネル形成部材を配置してもよい。
管状チャネルを有する装置を設計する際、固定資材30(第16図)の剛性蜂の巣状の構造で束管1および円板4の間の隙間を充填する。なお、場合によっては、円板4を設けずに、固定資材だけを使用して束管1を固定してもよい。細い束管1を大量に使用して装置を作成する場合には、この構造の方が組み立てが簡単である。例えば、多孔性ポリマーを固定資材として使用して束管を平行に位置づけて、樽状ケーシング内部を圧縮することにより樽状面を成形することができる。この構成では、支持重構造が不要になるので重量がずっと軽くなる。例えば、この設計は宇宙でX線望遠鏡を設計するのに重要になる。
蜂の巣状のパターンを開口5に合わせてチャネル形成要素(例えば、束管1)を円板4に固定する際、チャネルの入力端を放射源7に向け、チャネルの出力端を受光器8に向け、チャネル形成要素を均一に曲げて正確に位置づける。その結果、D_(1)≦2θF+Dを満足すると、放射源7の任意の地点から放射線をθ_(D)より小さいすれすれ角でチャネル壁に入射することができるので、チャネルで放射線の全外反射を補足することができる。チャネルを均一にかつ正確に曲げると、チャネル壁にすれすれ角で入射させ、チャネルの入力端から出力端まで効果的に放射透過をさせ、その方向を受光器8に向けることが容易になる。
上記で記述した準平行ビーム成形装置で透過の方向を逆にすることにより平行放射ビームを集中することもできる。例えば、前述した「出力」端を元の平行ビームの方に向け、「入力」端を焦点の方に向けるのである。
放射のモノクロ化を達成する場合は、準平行ビームに対してブラッグ角で結晶を配置する。
許容限度を超える高いバックグラウンド放射がある場合、第17図に示すように、ビーム制御装置全体(支持構造は図中に示していない)を覆うことが望ましい。受光器8(または放射源7)、制御放射を伝導しない資材で外部遮へいケーシング17を作成し、チャネルの軸に対して開口18と19を入力端と出力端にそれぞれ合わせる。この実施態様では、中心軸に沿ったチャネル形成要素は、省略してもブロックしてもよい。複数の束管1の間の隙間は、放射を吸収またはブロックする部材36で充填する。その結果、好ましくないバックグラウンド放射が透過する際、受光器8へ直線で向かうパスはなくなる。
ガンマ線、X線、および粒子線のビームを制御する装置は、基本的には、特定の方向に向けて反射する面を制御するシステムである。複数の内部反射の全体効果に基づき、等方放射源から準平行ビームへ発散放射およびその焦点を変形する。この装置は、ガラスの曲がり管の束または同軸の「樽状」反射面を重ね合わせて設計してもよい。
本装置でガンマ線およびX線の放射を制御すると、放射エネルギーに応じて、等方放射源からの放射補足角が100度から数10度の範囲で補足できるエネルギーは、1x10^(2)eVから1x10^(7)eVの範囲になる。準平行ビームの発散は、臨界反射角を超えないので、10^(-4)ラジアンまで小さくすることができる。この装置を放射線の集束に使用すると、ガンマ線、X線、または粒子線を焦点部に集中できる度合は、この装置のような光学集束装置を使用しなかった場合と比較すると、数万倍と高くなる。焦点部の直径は、集束管の直径の制約を受けるが、10^(-8)cmまで小さくすることができる。
本装置は、広範囲の科学技術分野で新規の定性装置に応用できる。
本発明の実施態様は、曲がり束管を多層化したシステムであり、特定の層のチャネルの長さは、隣接する層のチャネルの長さと同じなので、透過特性がほぼ同じになる。さらに、X線と粒子線の導波管入射方向に向けられているので、チャネル壁でのビームのすれすれ入射角は、全外反射角を超えない。導波管から入射するビームの反射数は、ビームの中央軸からの距離に比例して増加する。その結果、広角度でビームを曲げることができる。このような機能により、ビームの集束とビーム補足角の拡大が容易になる。
装置の設計を簡素化し、装置の組み立ての精度を向上させる場合は、システムに円板(あるいはそれに相当する支持構造)を追加し、円板の開口に束管放射導波管を装着する。なお、自在X線導波管の長さと各円板間の距離は、前述した制限事項の制限を受ける。1束の放射導波管で構成するシステムから隙間で区切って重ね合わせた複数の二次面で構成するシステムに移行した方が製造の合理化が可能で装置の組み立てと生産にかかわる労力が低減できる。さらに、この方が焦点部分を微小化でき、放射透過でのエネルギー損失も減少できる。
システムを伸張し放射源に対向する位置で縮小することにより、屈折点で二次面に正接する面を臨界反射角より小さい角度にすると、準平行ビームの密度を増加させることができる。
本装置のこのような実施態様は、放射ビーム制御性能を効果的に向上させることができるので、競争力のある装置および器機の設計に使用できる。
高エネルギー光子放射源で最も重要なものは、シンクロトロンである。シンクロトロン放射は、曲線パスで屈折により荷電粒子を加速した時に放出される放射である。放射エネルギーは、電子エネルギーまたは陽電子エネルギーおよび曲率により決まる。一般に、シンクロトロン放射源は、スペクトルの真空紫外線およびX線の範囲で放射するように設計する。クマコフのレンズは原理的には光子エネルギーが0.1keV(λ?100Å)という低い値でも動作できるが、実際的には、光子エネルギーが0.5keVから1Mev(λ?0.01Å)で動作するように設計されている。クマコフのレンズは、一定の種類の粒子に対して働くが、シンクロトロンは粒子の放射源ではない。この放射源の特長は強度が高く、エネルギー範囲が広くかつ連続していることである。X線の強度は、ストレイジリングで回転する電子(あるいは陽電子)の数(電流)および屈折率の半径により決まる。光子の強度とエネルギーは、ウィグラーと呼ばれる波動装置を使用して高度化する。この装置は、交互信号の周期的磁気静電界を使用して振幅が小さく周波数が高い垂直面でビームを振動させることができる。光子のエネルギーは、非常に低いエネルギー(可視)から最大エネルギーまで連続して広がっている。
シンクロトロンからの放射は、粒子ストレイジリング内の曲率の高い曲がり管から光子が扇状に放出される。扇の高さは、通常0.5から2mmの範囲である。幅は、数度になることもある。例えば、ナショナルシンクロトロン光源では、各地点での扇の幅は6度にもなる。したがって、薄いベリリウムウィンドウを通り各ポートから放射すると、6°x1mmの幅になり、垂直方向の平行性が高く、水平方向に発散する。このような放射を効果的に使用するためには、複数のビーム線をこの狭い角範囲に密集させ、そのそれぞれの線で1度ぐらいの放射を捕捉する。放射を使用する際の制限としては、ビームモノクロメータ、屈折鏡、および装置を6°のくさびの範囲内に置く物理的な空間が必要だということだけである。余裕をとるためには、ビーム線を長くする場合が多い。その結果、ビームの強度は、水平方向の発散のために減少する。
非同軸レンズを点放射源といっしょに使用することもできる。同軸レンズと非同軸レンズを平行放射源(例えば、シンクロトロン)といっしょに使用することもできる。準平行放射源および拡張放射源を前述の放射源といっしょに使用することもできる。しかし、この技術は、同軸レンズを点放射源といっしょに使用するだけに限定されるわけではない。シンクロトロンの場合、レンズ装置の入力端は、レンズに入力するX線の方向に合わせる必要がある。点放射源を使用する場合、チャネルはすべて点放射源の方向に向けるが、平行ビームの場合は入力端は通常並列になる。各点から等方向に発散する発散源の場合、入力チャネルを並列にしても放射源の1点に向けてもあるいはその中間の角度に設定しても構わない。
シンクロトロンビームは、水平面方向に発散する。(例えば、ナショナルシンクロトロン光源のx17ウィグラービームは、5mradの発散になる)。クマコフのレンズを使用すると、発散ビームを準平行ビームに変形することができる。平行性は約0.1θ_(cr)で得られる。なお、θ_(cr)は臨界屈折角である。例えば、30keVの光子に対してガラスc-52レンズを使用すれば、0.1mradの発散が得られる。1例として、初期ビーム損失は約30%から40%になる。
ここで推奨する光学装置では、シンクロトロン放射ビームを、約1ミクロンほ常に小さい点に集束することができる。このような微小点での強度は、10^(4)より大きくすることもできる。
毛管光学を利用すると、高エネルギーの光子を高角で回転させることができる。さまざまな材料とエネルギー範囲に対して光子を90°回転させた場合の透過係数の依存関係を第18図に示す。10keVから30keVの光子を回転させるには、強度を30%だけ失うだけで済むことが分かる。このような高い効率が得られるのは、毛管の内部面が高い反射性能を有していることに関係がある。
シンクロトロンビームは断面が小さく発散が少ない。
ビームの放射開始時点では約0.5mm×5mradかそれ以下でこともある。このため、クマコフのレンズを使用して発散が極端に小さなビーム幅を得ることができる。例えば、ルーイビルの理論に基づいてシンクロトロン放射ビームをサイズがLの平行ビームに変形する場合、公式1_(0)θ_(0)=Lθから発散θを得ることができる。

超平行シンクロトロンビームを得るためには、チャネルの両端を逓減させてから広げる必要がある。
従来の装置を使用して高エネルギー光子または高エネルギー粒子をフィルタリングするのは非常に困難であるので、応用分野を広げたり放射源の種類を多様化するのが難題であった。シンクロトロンのような平行ビームの場合、結晶モノクロメータを使用すればモノクロビームを得ることができる。しかし、除去するのが非常に難しい高エネルギー高周波が発生する。
クマコフのレンズの利点の一つは、広帯域の光子エネルギーおよび粒子エネルギーを透過できることである。一方、エネルギーの透過を制御する技術の応用分野は広い。具体的には、レンズの素材を選ぶことにより放射を選択して吸収したり、レンズの設計パラメータを変えることにより透過放射を選択したりすることができる。このような制御は、光子や中性子のような粒子に対して適用できる。前述した例はX線の場合である。
レンズ要素の間隔(円形断面の毛管から作成したレンズの場合、毛管の内径になる)およびレンズ要素の曲率で透過帯域幅を制御する。一般に、間隔が狭く曲率が大きい場合、高エネルギー光子の透過が増加する。間隔が広く曲率半径が小さい場合、低エネルギー光子の透過が増加する。一般に、透過が最適になるのは、γ=R(θcr)^(2)/2Dで、γ≧1.00になるときである。この式で、Rはレンズ要素の曲率半径、θcrは全外反射の臨界角、Dは毛管ベースレンズの場合個々の毛管のチャネル幅をそれぞれ示す。効果的な透過帯域幅は、資材とパラメータを選択することにより、数keVという値まで小さくすることができるが、実際には約10keVから20keVあるいはそれより大きいのが普通である。低エネルギー光子電子多重散乱、コンプトン散乱、または高エネルギー光子の熱拡散散乱により発生するバックグラウンド放射を除去するためにエネルギー帯域幅を選択できるので、応用分野が広くなる。
レンズ要素の内部面を形成する素材を選択することにより、透過光子のエネルギーを制御することができる。例えば、銅でコーティングすると、約0.6keVから1keVおよび6keVから10keVの範囲で光子は透過する。一般に、低エネルギー光子は選択的に吸収されるが、ベリリウムでコーティングすると、光子のエネルギーを100eVまで下げて効果的な透過が可能になる。
ガラス製の毛管は、内部面が良好なので、反射係数はθcr以上角で非常に高くなる。例えば、E=30keV(θcr=1.11x10^(-3)rad)で、単反射係数R_(1)=0.995(θincid=10^(-3))である。この値は研磨面の反射係数よりわずかに高い。同時に、θ≧θcrで、反射係数は急減する。例えば、θincid=1.1x10^(-3)で、R_(1)=0.987、θincid=1.2x10^(-3)では、R_(1)は既に0.2に低下している。この数字は、入射角で10%の変化があり、反射係数ではほぼ5倍減少していることになる。
θcrに近いときにR_(1)が急減するという現象は、光子が複数のの反射をする場合、フィルタリングするのに効果的に応用することができる。しかし、この技術を使用して選択フィルタリングをするためには、ビームの発散が極めて小さくなければならない。この条件は正にシンクロトロン放射の特長でもある。例えば、NSLSでの垂直発散は、10^(-4)rad近くにまでなる。
E=30keVおよび33keVのときの高エネルギーのフィルタリング計算結果を表1に示す。

表から明瞭に分かるように、反射数が10以上になると、33keVの光子の強度は、30keVの光子の5倍以上も減少する。ところが、30keVの光子の強度は殆ど同じである。
なお、上記の例では、1.1x10^(-3)radの角度でビームを直線毛管に入射したことに注意されたい。
この方法は、γ範囲を含む高エネルギーにも適用できる。
毛管を特別な形状(第19図)にすると、毛管の屈折点近くで、光子が次々に壁に衝突し反射していく。この光子をチャネル内にとどめておくためには、この新しい面に対する入射角を臨界角より小さくする必要がある。高エネルギー光子の反射角は小さいのでこの光子は毛管を離脱してしまう。
点放射源からビームを発散させた実験結果を第20図に示す。光子の透過は、E=33からE=40にかけて急激に減少し、E=50では10^(-4)になってしまう。毛管の曲率半径を変化させると、フィルタリング境界も変化する。半径を小さくすると、フィルタリングエネルギーは減少し、半径を大きくすると、フィルタリングエネルギーは増大する。
第20図に示した数値は、最初に実験した結果である。毛管の形状をさらに工夫すれば、エネルギーフィルタリングをもっと急減させることもできる。
ビームに対して毛管を一定の角度にして捕捉すると、非常に狭い範囲のビームをカットして2つのビームを効果的に分離することが可能になる。一つは、選択したエネルギーより高いエネルギーのビームであり、もう一つは選択したエネルギーより低いエネルギーのビームである。フレネル角より大きい角で面に衝突する光子の多くは、材料をそのまま通過してしまう。もっと高いエネルギーの場合は、吸収される光子は極く僅かしかない。
この設計を応用する場合、ビームの発散は少なければならない。良い結果を得るには、矩形の毛管1つまたは複数の矩形毛管で構成するシステムまたは複数の平面を使用する必要がある。
第21A図について説明する。初期平行ビームI_(0)mが面口または毛管面にθ_(0)角で衝突した場合、θcritical>θ_(0)を有する光子が反射し、それより高いエネルギー、すなわち、θcritical<θ_(0)を有する光子は通過する。したがって、第21B図に示すようなスペクトル分布を有するI_(1)とI_(2)の2つのビームが得られる。
上記の技術を複数回使用すると、狭い帯域幅を修正することができる。例えば、第21A図に示すビームI_(2)は、別の毛管、平面、または毛管システムに入射角θ_(1)(最初に衝突した面より少し小さい角度)で衝突すると、θ_(1)<θcritical<θ_(0)を有する光子は、I_(3)として反射する。I_(3)のスペクトル分布は第21B図に示す。同様にしてこの操作を繰り返すと、複数の帯域幅が選択できる。例えば、第21B図のI_(5)がそうである。1つのシンクロトロンビームから複数の準モノクロビームを得ることができる。このビーム幅は、エネルギー幅/エネルギー率が数10^(-2)であり、エネルギーのビーム強度の損失が50%しかない。このようにして修正した帯域幅を使用すると、結晶モノクロメータから得られるモノクロビームよりはるかに流量の多い準モノクロビームを得ることができる。そして、所望のエネルギーで狭い帯域幅のビームを複数得ることもできる。
光子の強度は非常に強いので、入射する光子が極く僅かであってもその吸収により温度が何百度にもなることがある。時には、金属の融点を超える程高熱になり、非常に大きな熱勾配を呈して、機械にひずみが出たり変形したりすることも多い。この効果は、絶縁ウィンドウ、回折結晶、または屈折鏡などの吸収で重大な問題になる。1つのクマコフのレンズの入力端で光子の流量と強度を吸収するためには、さまざまな設計上の工夫が必要になる。
第25図に示すように、中空の入力阻止バッフルを設けて流体(液体または気体)で冷却したり、中実の入力阻止バッフルを設けて面または周辺でコイルにより冷却したりすることができる。
放射線はレンズ要素の端に衝突し停止するので、その放射線を阻止することによりレンズが加熱するのを防止する。レンズ要素に入射する放射線が衝突するレンズの壁が入口点と異なる位置になるのは、曲率がゆるやかであるためである。(透過する光子のエネルギーが最も高い場合の全外反射は臨界角より小さい)。したがって、斜め入射よりはるかに広い領域に分布する。
融点の高いガラス、セラミック、または金属でレンズを製造することもできる。例えば、純SiO_(2)(石英)で製造すると、融点が2000℃もの高温になるので光子の透過に適している。レンズ要素のコーティング材料としては、タングステン、シリコン、カーバイド、炭素などのように融点が高く熱伝導率も高い元素または化合物が使用できる。
レンズ要素を冷却するには次の方法がある。
i:熱伝導率の高い固体でレンズ要素を覆い、バルクまたは周辺部の開口部で液化ガスを通して固体を冷却する。または断面積の大きな冷却フィンを特別にレンズ要素に取り付ける。
ii:流体(液体または気体)の冷却剤をレンズ要素間に通す。レンズを真空中で操作してもレンズ要素の壁が真空障壁として機能する(第26図)ので冷却が可能になる。
iii:冷却ガスをレンズに通す。高エネルギーの光子を透過するときに、ヘリウウのような冷却ガスを使用する。ヘリウムは、熱伝導率が高く透過光子の断面での吸収率が低い。
クマコフのレンズの利点は、放射ビームの方向と断面を制御できることである。面を設計することにより、所望のビーム断面を得ることができる。例えば、毛管を使用してシンクロトロンから放射した場合、毛管または毛管束(多重毛管)(第27図参照)の方向を調整することにより四角ビームまたは円形ビームを放射するような薄い矩形ビームを捕捉することは容易である。したがって、元のビームの垂直寸法より大きい領域に放射しなければならない場合、シンクロトロンで応用できるという利点がある。シンクルトロンビームを1mmから6cmの平行ビームに広げても強度の損失は50%しかないのである。
シンクロトロンから放出される光子ビームのような形にするために、透過レンズの入力形を構成することができる。シンクロトロンの場合、この形は通常非対称になる。粒子ストレイジリングから正接して放射され、放射界が扇状になるからである。しかし、放射源から放出されるビームに合わせるために任意の形にすることは可能である。
90°以上の角度でビームを屈折させることにより、例えば、水平方向の目標ではなく垂直方向の目標だけを照射することも可能である。
ビームの向きを変えることができるので、ビームを分割して分離することも可能である。ただし、この技術はまだ実験段階である。
クマコフのレンズの一定の実施態様では、ビームの一部が他の角より大きい角で通過したり、ビームの他の部分より小さな半径で屈折するものがある。ビームの断面で強度を制御する(通常は均一な強度を得るため)方法については前述した。例えば、フィルタリングやチャネルの一部の長さを選択的に伸張してビームの対応部分で損失を増加させる方法について紹介した。しかし、この2つの方法はいずれも損失を大きくすることにより強度を制御するという欠点があった。すなわち、光子の強度が下がると、レンズの効果も減少するのである。このような欠点を改善してビーム全体の強度を制御する方法としては、チャネル間の隙間を調整する方法がある。すなわち、強度を下げる場合は間隔を大きくし、強度を上げる場合は間隔を狭くする。このようにして、光子を阻止するのではなく再分配するのである。ただし、この方法にはマイクロ均一性が減少するという欠点がある。
放射源には空間的に不安定なものが多い。例えば、シンクロトロンビームは、一定のゆらぎを受ける。クマコフのレンズは、放射源の大きさを超えた領域からの放射でも捕捉することができる。したがって、放射源の位置がほんの少し変化した程度なら、クマコフのレンズから放射される光子ビームの強度、平行性、および均一性には余り影響はない。この効果は放射源の空間的な位置を安定化させることができる。
発散を小さくする目的で、入力端から扇状に広がる樽状の毛管(第22図参照)が使用できる。この例で、放射源のサイズが小さく、チャネルの曲率半径が大きい場合、臨界反射角よりはるかに小さな発散を出口で得ることができる。
焦点を小さくする場合は、レンズを収束させる(第23図参照)。
放射の強度を高める場合は、第24図に示すような形が使用できる。放射源の後ろに、樽状を半分にした形を設けて、発散放射を準平行ビームに変形し、次に、円錐形の毛管を配備する。この樽形を通った後の放射をθ_(1)とした場合、円錐形の広い部分の直径をd_(1)、収束した部分の直径をd_(2)とした比率は、次のような関係になる。

上記の式で、θcrは完全外部反射(CER)角を示す。X線光子に対する最小サイズd_(1)は回折の制限を受けるので、?c/wp(cは光速、wpはプラズマ周波数)となり、その結果、約100Åとなる。イオンの場合、この寸法は原子レベルの数値になる。
チャネルの断面は円形である必要はない。例えば、ビームのエネルギー幅を狭くする場合、チャネルの側面は平らなので矩形でもよい。複数の毛管、毛管束、多重毛管の個々のチャネルでは円形ではない場合が多い。6角形、四角形、3角形などの方が効率的に束ねることができ、その結果、レンズの断面でのオープン領域が大きくなり強度も高くなる。
イオンを制御する場合レンズが最も効果的である。チャネルを構成する材料またはチャネルのコーティングに電気的な伝導性がある場合、静電空間電荷が累積しないので、イオンを排斥しないからである。そのため、面の仕上げが非常に重要になる。
中性子を制御する場合、チャネル面をコーティングする材料としては、チャネルの断面で中性子を吸収する率が高くないものを選択する必要がある。例えば、ホウ素を含むガラス製の毛管は、中性子を吸収する率が極めて低い。
クマコフのレンズを使用すると、複数の機能を同時に実行することができる。例えば、1つのレンズで、発散ビームを捕捉して準平行ビームを成形するだけではなく、光子エネルギーを選択的にフィルタリングして、外部チャネルでの損失を補正することができる。
クマコフのレンズでは、臨界外部反射(CER)角(波長により異なるが半径が10^(-3)レベル)より小さな入射角で平滑面からX線を鏡面反射している。密接に並べた複数の面で構成すると、X線に対する導波管の役目を果たす。
クマコフのレンズをX線リソググラフィーとして利用することもできる。すなわち、X線源およびマスクとウェハの組合せの間にレンズを配置して、ビームと形、強度、方向、およびエネルギー分配を制御する。クマコフのレンズは、密集した媒体の平滑な境界で複数の放射を利用してX線ビームを制御する。この媒体は、特別な形をいており、全外反射の臨界角より大きな角度ではビームのかなりの部分を反射しないことが保証できるのである。ウィンドウを使用し、真空または気体をシステムまたはシステムの一部の媒体として選択するのが本発明の一貫した特長である。
点光源のX線リソググラフィーの場合、発散ビームを捕捉し、X線ビームを準平行ビームに変形し、マスク方向に向けることができるクマコフのレンズを選択する。本発明の実施例を第28図および第29図に示す。なお、第29図に示す例の方がビームの強度を高めることができるので望ましい。レンズの構成は前述したいずれの構造でも構わない。
リソググラフィーシステム(第30A図および第30B図を参照)を使用すると、次のような利点がある。(1)放射源を最大出力せずに強度を高めることができる。放射源からの放射を固定角φで収集するので、放射源の出力をもっと高めでウェハへ送ることができるからである。レンズからの出力がほぼ平行なので、マスクまでの距離が余り重要ではなくなる。なお、平行でないと、ビームの強度は距離の二乗で低下する。(2)装置の半径を拡大しいで済む。ビームはその断面で、方向と発散が一定であるので、マスクとウェハとの間の距離や平行性を非常に厳密に調整する必要がなくなる。マスクを制作する際に振れの補正をする必要がなくなる。(3)磁界を拡大できる。磁界の大きさは、放射増幅または視差の制限を受けないので、要件を満足するレンズを設計することにより制御できる。7cmx7cm以上のビームを扱えるレンズが製造できる。(4)半影ぶれが減少する。S、L_(1)、L_(2)、およびL_(3)に関わらず、ρ=2sinθとなる。端で広がる毛管のようなレンズチャネルを使用すればさらに半影ぶれを減少させることができ、その結果θも減少する。(5)放射源の不安定さの影響を受けにくくなる。レンズがX線を同じ画像焦点領域から受け取り同じ方向にX線を集束するので、多少、放射源の位置がずれてマスクに送る強度に影響が出ても、ビームの方向、マスク、およびウェハの間の位置関係には影響を与えない。(6)マスクと放射源とを分離する。クマコフのレンズを使用することにより、準平行ビームが放出できるだけではなく、放射源と試料を物理的に分離してあるので、放射源から蒸着またはスパッターした材料の一連の視認透過もマスクや試料には届かない。このことは、放射源として電子ビームやレーザーを使用する場合に特に重大であり、プラズマの場合も問題になることがある。試料や薄いマスクにほんの少量でも汚染があると、性能が低下したり寿命が短くなるからである。(7)帯域幅が選択できる。クマコフのレンズを使用すると、望ましくない光子エネルギーのフィルタリングができる。通常、高エネルギーの光子をフィルタリングするのは困難である。しかし、クマコフのレンズを使用して、高エネルギー光子のフレネル角(全外反射の臨界角)を超える反射角にすれば、高エネルギー光子のフィルタリングが可能になる。光子エネルギーが大きくなるに伴いフレネル角を小さくすれば、選択フィルタリングが可能になる。
レンズを円形毛管チャネルで構成している場合、レンズには離散チャネルがあるので、レンズを通るX線の強度には第31図に示すように断面にはさまざまな形がある。これを補正するには、マスクから十分離れた位置にレンズを配置すればよい。各チャネルから発散するビームの角度が小さい場合、レンズの断面で強度を均一化することができる。あるいは、その代わりにレンズを回転してもよい。レンズの中心軸から最も離れたレンズから放出されるX線ビームの部分は、通常強度が低くなる。これはレンズの形状のためである。そこで、選択的にチャネルの長さを変えることによりレンズを修正したりフィルタを使用したりすれば、ビームの中心軸からの距離が遠くなってもビームの強度の低下を避けることができる。
X線リソググラフィーシステムとしてシンクロトロンを放射源に使用する設計では、クマコフのレンズを複数使用して、発散ビームを捕捉してから準平行ビームに集束するか、またはビームを再成形して操作が不要な二次元領域に照射する。複合レンズまたはレンズを組み合わせて(第32A図および第32B図)、ビームの方向を変えたり、ビームを分割して複数の方向に向けたり、エネルギーの帯域幅の一部を選択したりする。これにより、ビーム形の修正、ビーム効率の向上、ビーム方向の変更、シンクロトロンビームの切り替え、およびエネルギー帯域幅の選択が可能になる。
シンクロトロンを放射源として使用するX線リソググラフィーという設計は、点光源ではないリソググラフィー源が利用可能になったとしても適用できる。
射影X線リソググラフィーとは、マスクとレジスト上の画像との間に縮小があるX線リソググラフィーを指す。これにより、画像から生成した装置の特長よりマスク上の特長を大きくすることができる。ただし、射影X線リソググラフィーの市販可能性については実証されていない。
本発明の射影X線リソググラフィーは、毛管光学に基づいている。第34図は、等方放射源を使用した実施態様を示している。放射源の後ろにクマコフのレンズを配置して発散ビームを準平行ビームに変形する。このビームはパターンまたはマスクに衝突しフィルタと2番目のクマコフのレンズを通過してからレジストに到達する。フィルタは必ずしも必要ではないが、断面が均一なレジストにビームを衝突させることにより、性能を向上させることができる。補正をしないと、ビームは中央軸から離れるに伴い弱まる。その理由は、毛管の角度が広がり、ビームの損失が大きくなるからである。最初のレンズとマスクの間、またはマスクと2番目のクマコフのレンズ(第34図参照)の間のいずれかにフィルタを配置することができる。ビームの非均一性を実現する他の方法も利用できる。
毛管の直径を減少させるようにマスクとレジストの間にクマコフのレンズを配置する例を第35図に示す。毛管の内径がd_(0)からd_(1)へ縮小するような実施態様が望ましい。毛管の間の壁の厚さを縮小することにより、全断面の一部または全部を縮小することもできる。しかし、そのようなレンズを製造することは非常に困難である。そのようなレンズを作るには、壁の厚さを内径より小さくする必要があるからである。もちろん、一定の直径を有する毛管を作ることは理論的には可能であるが、入口から離れ出口に直近した位置に配置しなければならない。
本発明装置をサブミクロンのリソググラフィーで使用するためには、d_(1)を所望の機能寸法の数分の1にする必要がある。d_(1)の最小値をc/wpより小さくすることはできない。なお、cは光速、wpは毛管の材料のプラズマ周波数をそれぞれ示す。c/wpの値は、ほぼ100Åに近い。d_(1)が余りに小さい場合、回折発散が大きくなりすぎる。例えば、E=1keV、λ(波長)12Å、d_(1)=120ÅのX線は、回折発散θは約10^(-2)rad(θ=λ/d_(1))になる。毛管の断面が円形である必要はない。
クマコフのレンズから一定の距離にレジストを配置する必要がある。この距離はL=d/θ以上であり、dは毛管の壁の厚さ、θはクマコフのレンズから放出されるビームの発散をそれぞれ示している。この条件は、近隣毛管からビームを混在させるのに必要である。同時に、お互いに離れている毛管からのビームを混在できなくなる程Lを大きくしてはならない。
そのような装置をシンクロトロンと一緒に放射源として使用することもできる。シンクロトロン源を使用する場合、マスクの前にクマコフのレンズを置かなくてもよい場合がある。しかし、シンクロトロン源とマスクの間にクマコフのレンズを配置する実施態様が望ましい。前述したようにこのレンズを使用してビームの断面の形を変えたり、ビームの方向を変えたり、エネルギー帯域幅を制御することができる。
もう一つの実施態様を第34図に示す。この実施態様では、マスクもパターンも別々の要素ではなく、クマコフのレンズの端または中に組み込んである。
クマコフのレンズは分析器機に適している。毛管の直径が200から400ミクロンのレンズが、多くのXRF分野で必要となるエネルギー範囲より低い500eVから10keVのX線の透過に適している。
クマコフのレンズには次の3つの種類がある。一つは、発散ビーム集中器(第36図)で、発散X線放射源から数10度の開口角で放射線を集め、集束ビームに変えるものである。必要なら、ビームを微小点に集束させることもできる。(放射エネルギーおよびレンズの設計により異なるが、直径が100ミクロン以下にすることも可能である)。もう一つは、平行ビーム集中器(第37図)で、平行ビームを集め、集束ビームに変えるものである。さらに、準平行ビーム成形器(第38A図および第38B図)で、発散ビームを準平行ビームに変えるものである。現在利用できるレンズでは、発散角が全外反射の臨界角の約1/2に等しいものが多い。もっとも、特別なレンズを使用すれば、発散を10^(-4)半径以下にまで減少させることも原理的には可能である。準平行ビーム成形器の場合、チャネル縦断面に沿った曲率が1つの方向しかないものもある。実際は、発散ビーム成形器(第38A図)の半分である。準平行ビーム成形器の場合、曲率を複雑にして、もっと小さい領域に準平行ビームを集束させることもできる(第38B図)。
特別な応用目的に対応するためにさまざまな形態が可能である。例えば、複合曲率を変えて焦点距離を長くしたり、レンズの設計を変えてビームの方向を変えたり、分割したりすることもできる。確かに、断面の形状としては、平面、四角、矩形など任意な形が可能であるが、円形が望ましい実施態様である。
X線蛍光(XRF)装置は、試料から放出されたX線を測定する装置である。元素の相対的な存在度を非破壊的にかつ定性的に測定する。XRF装置にクマコフのレンズを組み込むと性能を向上させることができる。クマコフのレンズをX線に対して使用すると、収集角の拡大、ビームの平行化、バックグラウンドX線の減少、ビームの発散、明確に定義した微小領域からの集光などができる。クマコフのレンズをXRF装置といっしょに使用すると、感度の向上、測定時間の短縮などの利点がある。さらに、放射源、コリメータおよび検出器などの装置構成要素の仕様の厳格度を緩和できるので、コストの低減や空間解像度の向上に役立つ。また、試料の内部を測定する非接触型のXRF分析などという全く新しい機能も実現できる。
XRF分析でクマコフのレンズを利用する形態には次の3つがある。1)X線を集め試料に集束して入射する。2)試料から放出された二次X線を集めて集束する。3)上記の両方の機能をする。
放射源と試料の間にクマコフのレンズを配置した例を第39図に示す。現在使用されているコリメータと比較すると、入射X線ビームを試料に集束することにより、局所化領域分析において強度と空間解像度が大幅に向上できる。例えば、市販されているEDXRFシステムで可能な解像度は0.25x1.25mm^(2)であるが、クマコフのレンズを使用した例では、空間解像度が最大30ミクロン(0.03mm)までが可能であり、強度は少なくとも200倍増大する。なお、レンズを使用しない場合、放射源と試料との間の距離はもっと近くなることを考慮している。クマコフのレンズを使用した実施態様では、強度が高くなり焦点が小さくなるだけではなく、試料の回りに空間的な余裕があるので、コリメータから放出される二次X線によるブロック効果やバックグラウンド放射などの問題を回避することができる。X線放射源が二次対象X線蛍光分析(STXRF)としての一時放射源ではない場合、クマコフのレンズを使用することが重要である。一次源と二次源の間にレンズを配置すると、二次源からの放射を増加させることができる。さらに重要な点は、二次源と試料の間にレンズを配置することもできるということである。試料をスキャンするのは、レンズと放射源を移動するかまたは試料を移動すればよい。分析-領域-検出器という形態では、試料を移動する方が望ましい。
多くの適用形態では、試料の全部または一部で平均化することが望ましい。レンズで集束ビームを成形する場合、レンズと試料の間の距離を変えることにより分析領域や励起領域の大きさを調整することが簡単にできる。レンズと試料との間を距離を長くすると、照射される領域も拡大する。この場合は、試料-検出器の形態を保持するためには試料ではなくレンズを動かした方が望ましい。
同じ時または別な時に複数の放射源を使用する場合、複数のレンズを使用して試料の照射を正確に制御することができる。通常、同じ領域を照射するように制御する。
選択した領域だけを励起するように試料を位置づけるには、通常X線源を配置する位置に別の電磁放射源を一時的に配置すれば、簡単に実現できる。したがって、励起対象領域を直接判定することも可能になる。可視光源を使用して領域を直接見ることが望ましい実施態様であるが、別のスペクトルを使用して計測器で観察することもできる。
試料と検出器の間にレンズを配置する構成例を第40A図と第40B図に示す。この構成例では、試料の選択対象点から放射されるX線レンズで集めて、選択領域分析に使用することができる。全試料からの放射を集めるEDXRFまたはWDXRF検出器を使用して測定値を平均化することも同時に実行できる。試料と検出器の間に配置されたクマコフのレンズは、帯域フィルタとして機能する。すなわち、低エネルギーまたは高エネルギーの放射を除去したり、より小さな領域の使用だけを可能にしたりできる。したがって、値段が安く容量は小さいが、EDS検出器(第40B図)の解像度が高くなる。WZDXRFの場合、試料と結晶の間および結晶と検出器の間にレンズを配置することができる。これらのレンズを使用すると、吸収損失が高いという現在のシステムの問題を改善して平行性を向上させることができる。
放射源と試料の間および試料と検出器の間にそれぞれ1つづつレンズを配置した例を第41A図と第41B図に示す。検出器の側と放射源の側にそれぞれ1つづつレンズが配置されているという利点がある。この例では、第41B図に示すように、最初のレンズの対象焦点および2番目のレンズの画像焦点の合流点で、測定試料の容量が定義される。試料を動かすことにより、試料の内部に焦点を合わせることもできる。このようにすると、3次元マイクロビームX線蛍光分析が可能になる。クマコフのレンズを使用しなければ、放射源や検出器を大きくしたり、コリメータを放射状に配置したりする必要がある。しかし、光子のカウント率が低いし、二次放射や分散という問題が発生する。クマコフのレンズを使用すれば、焦点を30ミクロン、さらには3ミクロン程に小さくすることができる。
クマコフのレンズの焦点距離はかなり長く、試料領域に対して比較的大きな収集角を可能にしている。したがって、第42図に示すように、さまざまな測定器機を組み合わせて1つの装置を構成することができる。この図は完全な器機構成を示すものではなく、一部またはその組合せでさまざまな機能が実行できることを示している。
クマコフのレンズを利用した高度なXRF応用例を第43図に示す。この例では、クマコフのレンズで準平行ビームを生成し、次にモノクロ結晶でブラッグの回折を実現している。単エネルギービームを平行化してから、単結晶試料でブラッグ回折を行う。回折ビームを直接測定することもできるし、2番目のクマコフのレンズで集めてから集束することもできる。試料から放出される蛍光放散を集めて直接分析することもできるし、クマコフのレンズを通してから分析することもできる。X線定在波を放出している例を43図に示す。X線定在波を蛍光X線といっしょに使用すると、結晶バルクまたは結晶面または結晶境界面で不純原子の位置を正確に(0.05オングストロームより小さい精度)判定したり、格子熱振動振幅および異方性を判定したりすることができる。モノクロメータ結晶から回折角に応じて、回折X線ビームを偏光することもできる。このような偏光ビームをXRF測定器で使用すると、バックグラウンド放射を減少し、感度を向上することができる。
クマコフのレンズは高感度デジタル減法分析に適している。2つの異なる波長のX線を試料領域に順番に照射して検出したX線放射を減法することにより、バックグラウンド放射を除去して高感度を実現することができる。2つの異なる波長のX線を得るにはさまざまな方法がある。例えば、放射源と試料の間でX線をフィルタリングする。モノクロメータを使用して波長を選択する。二次放射源を2つ使用する。クマコフのレンズを使用して帯域幅を修正する。ラウエジオメトリの結晶を使用することもできる。2つ以上の波長を得るには、モノクロメータを使用して角度を変えて異なる波長を回折させればよい。感度を最大化するには、試料を励起するのに使用する2つの波長を元素の波長または対象となる化合物の波長にできるだけ接近させればよい。
2つの放射源を使用してそれぞれの放射源をほとんど同じ位置または同じ軸上の位置に順番になるように移動した場合、放射源と試料の間に配置した1つのレンズを使用して感度を上げて同じ試料対象点を励起することができる。2つの放射源を使用してそれぞれの放射源の位置を分析作業中変えない場合、2つのレンズまたは複合レンズを使用して感度を上げて同じ試料対象点を励起することができる。放射源を1つだけ使用する場合、帯域フィルタリング特性が異なる2つのレンズを使用して、2つの異なる波長を獲得して試料を照射することもできる。放射源を1つと複数ののブラッグの回折結晶を使用する場合、放射源と結晶の間にレンズを配置すれば、強度を上げて、ビームの発散を減少させ、ビームを成形することが可能になる。結晶と試料の間にレンズを配置すれば、強度を上げて、励起する試料の領域を変えて同じ試料対象点を励起することができる。一次放射源を1つまたは複数用意して、複数の二次放射源といっしょに使用する場合、一次放射源(1つまたは複数)と二次放射源の間にレンズを配置すると、強度を上げ、二次放射源の焦点の大きさを減少させることができる。二次放射源は、別々に固定した位置に置くこともできるし、移動させてほぼ同じ位置に順番に配置することもできる。二次放射源と試料の間にレンズを配置すると、強度を上げ、試料の同じ領域を励起し、励起する試料の領域の大きさを調整することができる。
本発明の先行技術として、ゲーティンゲンのX線顕微鏡がある。(参考文献:X線顕微鏡(X-ray microscopy)、ゲーティンゲン(Goettingen)、9月14-16、1963年:編集者S.シュブォール(Schwall)、光学サイエンス春期号(Spring Series in Optical Sciences)、第43巻。シュプリンガ-ファーラグ(Springer-Verlag)、ベルリン、ハイデルベルグ、ニューヨーク、東京、1984年)この顕微鏡は、他のどのX線顕微鏡より空間解像度と明るさが優れている。しかし、残念ながら、このシステムは大変複雑で高価であり、しかも強度の損失が大きいので、シンクロトロンから放射されるような平行ビームが必要であった。
クマコフのレンズを有するX線管のような普通のX線放射源といっしょにこのX線顕微鏡を使用することもできる。すなわち、放射源の後ろに配置して発散放射を準平行ビームに変形する。次に、円錐形の毛管を1つ配置する(第44A図)。クマコフのレンズを通過した後の焦点領域が広い場合、円形の毛管を複数用意する(第44B図)。
必要があれば、複数の毛管を曲げたシステム(第45図)を使用して、クマコフのレンズを通過した放射を集束してもよい。装置の毛管を一定の距離に対して断面が一定になるようにして、焦点に近付くにつれて円形に曲げることもできる。制動放射、チャネル放射、プラズマ放射、レーザープラズマ放射などを放射源として使用することができる。
シンクロトロン放射(SR)を放射源として使用する場合、モノクロメータを使用してモノクロ放射を選択してから円形毛管に通すこともできる。SRは非常に強力なので毛管の壁で損失があると、毛管の内面が加熱することがある。毛管の直径が最小の部分が最も加熱する。この問題を避けるためには、円形の角度を毛管の直径に比例して小さくしていくとよい。効果的に集束するには、円形の角度を全外反射の臨界角(フレネルの角度)より小さくするとよい(第46図参照)。このようにすると、ゲーティンゲンのX線顕微鏡より数倍効果が向上する。
発散放射源を使用する場合、各毛管が樽状に曲がっているクマコフのレンズ(第47図)を使用することもできる。毛管の直径は端が小さく中央が大きいという特徴がある。各毛管およびシステム全体の表面は、対応する投射平面が周辺の1セクションになるように成形する。放射は外面に沿って透過する(第48図)。レンズの直径は入口と出口で等しくなるようにすることが望ましい。このような光学システムを作成する場合、焦点の大きさが個々の毛管の端の大きさに近くするのが理想的である。実際には、1μmより小さくすることができる。X線顕微鏡で影像を視覚化するのに、X線ビジコンなどの方法がある。プロトタイプのX線顕微鏡の空間解像度には約100Åの回折という物理的な制約がある。
このX線顕微鏡は、放射電子のエネルギー分析器のような計測器といっしょに使用することもできる。さらに、クマコフのレンズといっしょに発散放射源を使用することもできる。クマコフのレンズで平行ビームを成形し、帯域板にビームを通して放射を集束させるのである。この場合、焦点の大きさが毛管の大きさの制限を受けないので、焦点を非常に小さくすることができる。
第44A図から第48図までを参照してイオン顕微鏡に応用することもできる。X線光学装置の内面と円形毛管を導電層で覆うことにより、ビームが静電空間荷電でブロックされるのを防止する必要がある。内面からの反射イオン係数を最小にするためには、毛管でできるだけ平滑にする必要がある。この平滑さは、X線よりイオンの場合もっと重要になる。イオン顕微鏡の空間解像度の物理的な制約は、原子レベル、すなわち、約1Åである。
焦点部分では高い強度が得られるので、例えば、イオン蒸着やリソググラフィーのような技術にこの顕微鏡を利用することもできる。
中性子を放射源として使用し、毛管の素材または毛管の内面の覆いを中性子を吸収しない材料で構成すれば、第44A図から第48図までで紹介したシステムを中性子顕微鏡として使用することもできる。
電子顕微鏡分析は、X線蛍光と非常に似ているが、X線ではなく電子を照射する点が異なっている。電子を使用すると、小さな領域を励起することができる。この電子顕微鏡は、試料と検出器の間に1つまたは複数のクマコフのレンズを配置するX線蛍光装置と一部にているところがある。
試料と検出器の間にレンズを配置した例を第40A図に示す。電子顕微鏡に応用する場合、X線の代わりに電子を使用すればよい。この例では、試料の選択点から反射するX線をレンズで集めているので、分散によるバックグラウンド放射が少ない。試料と検出器の間にクマコフのレンズを配置すると、帯域フィルタとして機能させることもできる。帯域フィルタは、低エネルギーまたは高エネルギーで放射をカットしてより小さな領域を使用できるように設計した装置である。したがって、値段も安く、静電容量も小さい(解像度は高くなる)エネルギー発散型検出器になる。WDXRFの場合、試料と結晶の間に1つ、結晶と検出器の間に1つレンズを用意する。このようにレンズを配置すると、吸収損失が高いという現在のシステムの問題を回避して平行性を高めることができる。(第40B図を参照)。
試料から反射されるX線の角分布を評価する技術としてX線回折が広く利用されている。試料が単結晶以外の場合、例えば、粉末の場合、試料を照射するにはかなり平行性の高いビームが必要になる。単結晶の場合、集束ビームを使用することもできる。
X線の角分布は現在研究中なので、クマコフのレンズを使用して、試料から発散光を集めて平行ビームまたは集束ビームを成形する方法が役立つかどうかは必ずしも断言できない。ただし、放射源と試料の間にクマコフのレンズを配置すると、所望分析に必要な断面の大きさおよび形に合わせて平行ビームまたは集束ビームを変形することができるという利点がある。さらに、不要な光子エネルギーをフィルタリングしてからX線を試料に照射できるという利点もある。この場合、レンズを組み合わせたりクマコフのレンズチャネルを曲げたりする設計が必要になる。例えば、低エネルギーを吸収する材料を使用して高いエネルギーをフィルタリングしたり、クマコフのレンズを使用して帯域幅を修正したりする必要がある。
クマコフのレンズを使用すると、試料から反射される平行X線を集めてその光子を検出器に集束させることもできる。この構成は、試料から反射されるX線の角範囲が狭い場合だけに適用できる。この場合、通常の平行化に固有な損失がなく、また検出器も小さいものでよい。
X線回折で説明したのと同じジオメトリが中性子回折にも適用できる、例えば、エネルギーの帯域幅を制御するフィルタリングも同じである。しかし、クマコフのレンズを中性子に対して使用する場合、中性子を吸収する度合が低い材料でレンズを作るかまたはコーティングする必要がある。例えば、ホウ素は、中性子を吸収する度合が高いのでホウ素を含む材料は好ましくない。
医療装置の場合、放射源と対象物の間にクマコフのレンズを配置することもできる。なお、ここでいう対象物には、患者(人間または動物)、生物、化学物質、材料などが含まれる。医療装置の場合、発散ビームの一部または平行ビームを捕捉するように設計することもできる。一旦捕捉した後は、所望の断面を有する形に変形することができる。画像処理の目的では、断面が対象領域を画像化するのに十分大きい場合矩形が一般的である。
好ましくない放射レベルをフィルタリングできるようにレンズを設計することもできる。例えば、X線の場合、高エネルギー(よりハードな)X線をフィルタリングにより除去することが望ましい。次に、レンズのパラメータを調整して平行性(分散の減少)を実現する。応用形態に応じて、集束ビーム、準平行ビーム、または発散ビームを生成する。画像処理用には、平行ビームを生成できるクマコフのレンズを有する装置が望ましい。治療用には、集束ビームを生成できるレンズを有する装置が望ましい。例えば、体腔のような人体の中で直接接触することができない部分に放射を向けられるようにレンズを構成することもできる。複数のレンズを使用して複数の機能を実現することもできるが、1つのレンズを使用することが望ましい。
放射源と患者の間にクマコフのレンズを配置する医療装置の場合、ビームを他の面に衝突させてから患者に照射することもできる。反射ビームを利用した実施態様を2つ紹介する。実施態様の一つは、発散放射源から放射をレンズで捕捉して、強力な準平行ビームを生成し、そのビームをモノクロビーム反射面(例えば、ブラッグ回折から得る)に照射する。その結果、帯域幅の狭いビームが得られる。このビームの強度はクマコフのレンズなしでは得られない。もう一つの実施態様は、発散放射源または平行放射源からの放射利用するものである。まず、クマコフのレンズで放射を捕捉して、材料に対して集束させる。その結果、その材料固有の放射特性を放出する。例えば、強度が高く帯域幅の広いX線を純粋な材料に照射する。その結果、一旦X線を吸収してから、その材料固有のエネルギーレベルで強度の高いX線を放出する。他のエネルギーレベルでは放射がほとんどないので、エネルギーレベルに固有で精度の高いビームが必要になる。対象物以外の材料に放射を向ける場合、対象物と照射材料の間にクマコフのレンズを配置することもできる。この構成の場合、ビームの成形、平行化、フィルタリング、方向の制御、発散などが望ましい。
医療装置の場合、対象物と検出手段の間にクマコフのレンズを少なくとも1つ配置することができる。この配置には、次の利点があります。(i)平行ビームを成形する(分散によるバックグラウンド放射が減少する)。(ii)少なくとも1つの検出器に向けてビームの方向を制御する。(iii)必要な検出器の大きさを小さくできるようにビームを集束したり、位置感度の高い検出器を緩和するためにビームを拡大する。
本発明装置は次の装置にも適用できる。本発明のさまざまな側面について特定の実施態様を元に説明してきた。これまで述べてきた原理は提示した実施態様だけに限定されるものではない。
クマコフのレンズは、血管造影装置のさまざまな放射源といっしょに使用することができる。また、回転対陰極のさまざまな放射源またはパルスX線放射源をその装置で使用することもできる。例えば、回転対陰極源を使用した場合、有効焦点の大きさは、1 x 1mm^(2)以下のレベルになり、回転対陰極源の線形速度は、100m/sになる。ヨウ素線(例えば、ランタン、セリウム、ベリリウムなど)に近い特性を有する物質で陰極を構成することもできる。電子のエネルギーが約500kevから約600kevの間で、電流が0.5Aであれば、非常に短い期間で十分な数の光子を得ることができる。
従来のフィルタを使用するこの方法(いわゆる「二重化」)は既に提案されている。しかし、残念ながら制動放射の問題が未解決であり、濾光がほとんど不可能である。さらに、光子ビームが放射源から等方に発散するので、結晶モノクロメータが有効には使用できない。
本発明を血管造影に適用した例を第50図に示す。本発明ではX線光学装置を放射源の前に配置する。この例では、発散ビームを所望の大きさ(普通、約15x約15cm)の準平行ビームに変形する。同時に、放射のハードな部分をフィルタリングする。
X線光学装置の後ろに、ラウエジオメトリの結晶モノクロメータを2つ配置する。ここで2つの特性ビーム(ヨウ素吸収線の前後)を回折する。次に、結晶と検出器の間に対象物を置く。
典型的な実施態様では、クマコフのレンズを使用して、等方ビームの10^(-3)分を集めて、約0.5mradの発散を有する準平行ビームに変形する。この発散および約20cmの厚さを有する対象物の場合、空間解像度が(700/200)ミクロンが得られる。全光子数が約3から5x10^(12)であるビームが約10^(-2)sの間に対象者の体に照射される。放射量は、数レントゲンである(すなわち、従来の血管造影法やりはるかに低い量である)。しかも、照射時間が約10^(-2)sしかかからないので、心臓の筋肉の収縮による影像のぶれもない。この方法の利点は、カテーテルを使用してヨウ素を心臓に注入する必要がないことである。これは、安全な濃度のヨウ素を腕の静脈から注入することができるからである。
本発明の実施態様として血管造影装置にクマコフのレンズを使用する方法はその他にもまだある。ラウエジオメトリで結晶モノクロメータを使用する代わりに、非対称にカットした結晶をモノクロメータとして使用することもできる。例えば、クマコフのレンズを使用して、強力な準平行ビームを2つ生成する方法がある。(第51図にこのビームの1つのパスを示す)。次に、各ビームは、非対称形にカットした結晶で反射する。この結晶は、ブラッグの反射により所望のエネルギーのX線光子を選択して、1つの方向のビームの大きさを増大できるように設計する。次に、ビームが、非対称形にカットしたもう一つ別の結晶で反射して、同じ光子エネルギーを反射して、別の方向のビームの大きさを拡大できるように設計する。この結果、断面が大きく、帯域幅が非常に狭いビームが生成できる。このビームを対称物に照射する。レンズから放出される2番目のビームを分光して別のエネルギーにすることにより、2つのビームのエネルギーで対象となる吸収エネルギーを覆う。2番目のビームは、最初のビームと似たようなパスを通り、対象物の位置で最初のビームと交差する。
クマコフのレンズを使用したコリメータまたは他のコリメータを患者の前または患者と検出器の間に配置すると、解像度を向上させることができる。患者の後ろにコリメータを配置しても空間解像度の損失を減少させることができる。しかし、この方法では解像度は向上するが、光子数が少し減少する。
デジタル減法血管造影法では、患者から十分離れた位置に検出器2つ配置することもできる。この方法では、2つのビームの角度が相違するので、2つのビームが重ならないだけ十分距離を開けて分離することができる。代替方法としては、1つの検出器を対象に極めて接近させて配置することもできる。この場合、対象から検出器までの距離が非常に狭くなるので、空間解像度がかなり向上する。これは、ビームの発散による影像ぶれが減少するからである。本発明の以前は、この方法をデジタル減法血管造影法に使用するのは困難であり、実際的ではなかった。
対象から発散がある場合、コリメータを使わなければ解像度が減少してしまう。2つのビームをお互いの角度を変えて患者に照射すると、従来のコリメータでは各ビームをブロックしてしまう(第52図を参照)。交差するビームが形成する面にスリットを有するコリメータを使用すれば、2つのビームを通過させても損失が少なくて済むし、コリメータのスリットに平行でない発散放射を吸収することができる。
デジタル減法血管造影法で1つの検出器を使用すると、さらに重大な問題が発生する。それは、2つのビームから放出される光子を区別することができないからである。2つのビームの光子エネルギーが相違していても、その相違が極く僅かなので(200eVほどの小ささ)、二次元位置感度検出器では区別できないのである。
それぞれの光子ビームに標識を付けることにより2つの光子を区別する方法もある。この方法を採用した例を第53図に示す。透過検出器AまたはBとCとの間で透過時間の相違を比較することにより、光子がどちらのチャネルを通過してきてのかを識別することができる。位置判定検出器で光子の位置情報を記録するときにこの標識を付けることができる。この情報を使用して記録した影像をそれぞれのビームごとに識別することにより、デジタル減法血管造影を実施する。透過検出器には、薄いシンチレーション結晶など、さまざまな種類がある。位置判定検出器が十分高速な場合、透過検出器Cの代わりに使用することもできる。
この方法には光束量の制約がない。ビームを分離して単一のエネルギーを有する光子だけが一定の時間内に到達するかからである。例えば、2つのビームを交互に放射したならば、位置判定検出器に到達する光子の情報をそれぞれのビームとは独立して蓄積することができる。次に、デジタル減法血管造影法による画像処理にこの情報を使用することができる。この方法では、位置感度検出器が少なくとも1つあればよい。モノクロメータに衝突する広いスペクトルビームを1つ使用してエネルギーを分割してから、明確に定義した時間間隔でやはり明確に定義した2つの位置でモノクロメータを固定するとよい。モノクロメータを2つのいずれかの位置に配置して、異なるエネルギーを有する光子を選択する。位置判定検出器で収集したデータを検出器の位置情報と照合することにより、それぞれのエネルギーを有する2つの光子のデータを別々に収集することができる。モノクロメータが動作中に到達した光子の情報は収集できない。ビームが不安定であったり、モノクロメータが動作中であったりした場合、モノクロメータを非常に短時間でロックしたり解除したりすることができる。それぞれのエネルギーごとのデータを時間で平均化し、エネルギー間で不偏化することにより、デジタル減法血管造影用のデータにする。ブラッグの回折結晶、多層装置、ラウエのジオメトリに基づいた結晶回折などさまざまなモノクロメータが使用できる。
広い領域でデジタル減法血管造影法による画像処理を応用する望ましい実施態様を第54図に示す。広いエネルギースペクトルを有する準平行ビームをクマコフのレンズで成形する。ラウエのジオメトリの結晶モノクロメータでビームを回折する。モノクロメータビームを患者に照射する。ビームをコリメータに通して、発散した光子を除去する。位置感度検出器で光子の位置を記録する。異なるエネルギーを有するビームを得るには、モノクロメータを僅かに回転させて、ビームに対する角度を変えればよい。回転させるには、結晶に衝撃を与え、圧電性結晶で回転を駆動させる。方向を変えるには、初期ビームから僅かにずれた角度で僅かに異なるエネルギーを有するビームを結晶で回折させればよい。血管造影などに応用する場合、短時間で結晶のロックと解除を繰り返せばよい。光子の位置データは、2つの位置に対応するそれぞれのエネルギーごとに集めることができる。この実施態様では、次の方法で、放射源の相違や解像度の低下を防ぐことができるという利点がある。すなわち、十分平行化した準平行ビームで強度の高いビームを使用する。角度が僅かに相違する2つのビームを用意する。エネルギーがほぼ等しいビームを2つ用意する。対象物と検出器との間の距離を最小にする。
上記の技術は、任意のデジタル減法画像処理に応用できるのであて、冠状血管造影法だけに限定されるものではない。従来の血管造影装置にクマコフのレンズを利用してもかなりの利点がある。放射源から固定した広い角度で放射を集め、発散ビームを平行ビームに変換することにより、光子の光束を増加することができる。光束が高くなればなるほど、画像を獲得できる時間が短くなるという利点がある。したがって、動きに対する人工的な制約がなくなる。さらに、ビームの強度が高く、平行性が高いので、帯域幅の狭いエネルギーを選択して対象物に照射することができる。対象識別剤の吸収線より低いエネルギーを有する広い帯域幅ではなく、吸収線より僅かに狭い帯域幅を使用することにより、より高い内容が得られる。狭い帯域幅を得る最も一般的な方法は、モノクロメータを使用する方法である。
ビームの強度を向上し(したっがて、解像度も向上する)、露出時間を短縮すると、使用するエネルギー帯域幅を広げることになる。非常に狭い帯域幅をモノクロメータで選択する。ゲルマニウムのような結晶を使用して、シリコンより広い帯域幅を選択しても、帯域幅は非常に狭いままである。この非常に狭い帯域幅は、元のビームのその他の光子はすべて除去されてしまうので、低光束になる。選択したエネルギーでの帯域幅を一定量だけ増加すると、光束をかなり増加させることができる。しかも、対象識別剤の吸収線から得られる対比も殆ど目に見えるほどの減少はないのである。クマコフのレンズを使用して帯域幅を選択する例を第55図に示す。このような帯域幅の選択手法は、対象識別媒体を使用した従来の画像処理やデジタル減法画像処理でも重要である。デジタル減法画像処理では、帯域幅を2つ使用する。一つは対象識別剤の吸収線の直上で、もう一つは直下になる(第56図を参照)。
このような利点(照射量が極めて少なくて済む、解像度が高い、プローブを使用しないので安全、コストが低い)があるので、住民の大量診断などに効果的である。
シンクロトロン放射(SR)を使用すると、患者に照射する放射線の量を低くすることができる。例えば、シンクロトロン放射源を使用した場合、放射量は、約2x10^(11)光子になる。この量は、上記で述べた装置を使用した場合よりほぼ1桁少ない値である。これは、結晶-モノクロメータのおかげで、シンクルトロンの連続スペクトルから2つの線を選択するからである。この線は、ヨウ素の吸収線に極めて近くなる。デジタル血管造影対比は、約1/(△μ)^(2)である。この式で、△μは、ヨウ素吸収係数と使用した2つのビームのエネルギーとの差である。元素の特性線は、シンクロトロン放射から選択した線よりヨウ素吸収線から選択した線の方が離れている。そのため、シンクロトロン放射を有する装置より大量の光子を使用することができる。
対象物に放射線を大量に照射しなければならないという血管造影法の問題点は、制動放射スペクトルを使用せれば改善できる。なお、制動放射は、電子を加速(最大10meVまで)して目標に照射すると、発生する。
次の計算をする。10meVエネルギーを有する電子を使用する。2つの線上の約x10^(5)光子/電子は、-△E_(1)=△E_(2)=100eV。この値は、33169/ヨウ素吸収線の前後で得られる。
クマコフのレンズでの損失が2/3であり、結晶での損失が2/3であるとすると、患者に到達する光子数は約7x10^(-6)光子/電子になる。したがって、約10^(-2)の照射をするためには、電子ビームの電流として0.5Aが必要になる。このパルスを生成する方法もいくつかある。一つは、誘導加速器を使用する方法がある。この方法ではパルスごとに目標を除去することができる。この電子加速器は、シンクロトロンリングよりはるかに安い。
相対論的電子ビームからの制動放射は、クマコフのレンズを使用すれば、極めて効果的に捕捉できる。これは、制動放射が直線方向に進むからである。前述した例(シンクロトロン放射)では、ヨウ素吸収線の前後にある2つの狭い線を、2つの結晶-モノクロメータで選択している。患者に照射する量は1レントゲンより少なくすることができる。
シンクロトロン放射は、デジタル減法血管造影法でも使用されている。クマコフのレンズを使用すると、シンクロトロンに基づいた血管造影装置のパラメータをかなり向上だせることができる。
SRビームは水平面方向に発散する。この水平方向に発散したSRビームのかなりの部分を、X線光学装置を使用して準平行ビームに変形して、血管造影に利用することができる。
例えば、1mmという制限された高さを有するシンクロトロンビームを、レンズを使用して所望の面積、例えば、(15x15)cm^(2)に変形することができる。ビームを成形する間の発散を最大1桁程度まで減少させることができる。この場合、空間解像度は著しく向上する。(例えば、心臓の最も小さな血管でも観測できる)。発散が約10^(-5)の場合、解像度は最大数ミクロンになる。クマコフのレンズを使用して、シンクロトロンのハードな部分をフィルタリングすることにより、高エネルギー光子の一部が結晶モノクロメータから所望のエネルギー範囲の高調波で反射するとを防止するすることができる。
内視鏡の直径は、オリフィスの大きさの制約を受ける。通常、内視鏡(X線部分)の直径は、約(4-5)mmより小さい。しかも、所望の領域から放射線が偏向しないように保護する必要がある。
数10ミクロンx数100ミクロンの大きさのX線放射源と捕捉角が約0.1radのクマコフのレンズを使用すると、放射源の有効領域は約10ミクロン^(2)になる。エネルギーが数10keVの場合、電子ビームのエネルギーを放射線に変換する効率は約10^(-3)になる。
上記の要因を考慮し、輸送光子の損失が約80%であると仮定すると、1分当り約1レントゲンから10レントゲンの範囲で放射強度を得ることができる。
望ましい実施態様を第57図に示す。クマコフのレンズの最初の部分は、準樽状になっており、発散放射を準平行ビームに変形する(2)。集光した後のレンズの部分を輸送セクションと呼ぶ(3)。このセクションは、比較的大きな直径(約数100ミクロン)を有する毛管のような放射チャネルで構成されている。なお、このセクションのチャネルをセクション(2)や(4)のように直径を小さくすることもできる。最後のセクション(4)は曲がっている。人体のオリフィスの直径には制約があるので、曲率の小さい半径でビームを曲げることが望ましい。セクション(3)と(4)との間の境界面で放射透過の損失を防止するには、セクション(4)を構成する毛管の直径をできれば約0.1μより小さくすることが望ましい。これは、捕捉放射の占有率がRθc^(2)/2dとなるからである。この式で、Rはセクション(4)の曲率半径、θcはフレネル角、dは毛管の内径をそれぞれ示す。セクション(4)は通常多重毛管で構成する。
最後のセクション(4)は、特殊なシステムで機械的に曲げることもできるし、システムの軸の回りを回転させることもできる、通常は、装置にシールドを施して、分散光子または粒子が人体を通過しないようにする。
腫瘍を照射するのは内視鏡を使用することもできる。例えば、喉を通すために内視鏡をかなり曲げなければならない場合、もっと強力な放射源が必要になる。これは、急角度で曲げると、光束でかなりの損失が発生するからである。そのような場合、強力なX線管などの点光源の代わりに、加速器(例えば、チャネル放射や制動放射)を使用することもできる。
放射内視鏡は、既存の光管内視鏡で組み立てることもできる。例えば、オリンパス製のGiF K/D3型の場合、直径は約12mmである。自在型の放射導波管としてバイオプシー導管を使用することもできる。セクション(4)(第57図)でX線を曲げることは、チャネルの壁で腫瘍を検出するのに必要になる。
内視鏡全体が剛性の場合、照射量を事前に計算しておくこともできる。放射源が一定の場合、放射量は、照射時間により決まる。内視鏡の出口に特別な線量計を用意する必要がなくなるので重要である。最後のセクション(4)を脱着可能にすると、必要な角度に応じて別のセクションを取り付けることができる。
第52図に示すシステムを使用すれば、通常ではアクセスするのが困難な場所の欠陥(航空機などの空洞、直径の小さなパイプなど)を検査する装置として使用することもできる。
内視鏡の最終端に検出器を取り付けると、放射量を監視し制御することができる。毛管の先端に取り付ける小さな検出器にはさまざまな種類がある。例えば、線をバックアップする電気信号を発する半導体の検出器、照射すると可視光を発する検出器などがある。この可視光は、光学導波管または内視鏡の一部を構成する導波管で観測することができる。
薄い放射保護シールドを内視鏡の端に付けることにより、異物が放射チャネルに入るのを防止することができる。
断層撮影法では、特性線ばかりではなく広いエネルギーの制動放射を含むスペクトルを有するX線管放射源を使用している。ここで、「ビームの硬化」という問題がある。「ビームの硬化」とは、スペクトルの低エネルギー端の方が高エネルギー端より減衰が進み、スペクトルの平均エネルギーを高いエネルギーの方へ移行させるという効果である。この効果は、コンピューター断層撮影法(CT)では大きな問題になる。異なる角度のX線影像のビーム硬化誤差が断層撮影中に複合するからである。一つの解決方法としては、結晶モノクロメータを使用しているX線放射源からの特性線だけを使ってビームのフィルタリングを行うことである。しかし、発散点光源からかなり多くの光線がストレイジ角に入射してしまう。
クマコフのレンズを使用すれば、発散放射を平行ビームに変形できる。まず、クマコフのレンズで発散放射を平行ビームに変形してから、次に、結晶-モノクロメータを使用して、必要な大きさのモノクロビームを得る。50LWの回転対陰極(ランタニドの陰極で、線E_(k)dl=33.44keV、E_(k)d2=33.03keV)を使用すると、2本の線で約3x10^(15)光子/sが得られる。ただし、回転速度が約100m/s、有効点の大きさが約1x1mmであるとする。
クマコフのレンズを使用すると、約3x10^(12)光子/sの平行電流x特性光子のradを得ることができる。この電流は、SSRL54ポールでのスタンフォードの電流によく似ている。クマコフのレンズを使用しなかった場合、同じ角間隔の回転対陰極からは、約3x10^(3)光子/sしか得ることができない。本発明の実施態様でクマコフのレンズを使用すると、平行ビームの光束が約4倍増加する。
他にも平行ビームを生成する方法はある。(例えば、ダイオード、プラズマ、レーザー放射源など)。
放射線が対象者の体を通過するとき、コンプトン散乱放射が発生し、CTで画像を得ることが困難になる。モノクロ平行ビームを使用し、対象者から十分離した位置に検出器を移動すれば、散乱を防止することができる。この平行モノクロビームを使用すれば、「ビームの硬化」という効果を制限することもできる。
例えば、30keVおよび80keVの領域で二重光子吸収(DPA)CTを使用するには、異なるエネルギーを有する複数のビームが必要になる。1つのエネルギーは、低Z元素の濃度を表す。別のエネルギーは、中間Z元素(P,S,Se,K,Ca、Fe)を表す。2番目のグループの元素には、神経学的に重要なkとCaが含まれている。これらの元素の濃度高いが異常な脳組織があれば、虚血および初期異常などの疾患を意味する可能性がある。[参考資料:ミーズ(Mies)G.他、神経学紀要(Ann Neurol)、16:232-7、1984;およびシージョ(Siesjo)B.K.、ヨーロッパ神経学(Eur Neurol)、25:45-56、1986]。
クマコフのレンズを使用した上記の装置では、広いエネルギー範囲で準モノクロビームを得ることができるので、DPACT問題も解決できる。
大きさを確定する断層撮影法を実施して腫瘍の形を確認するには、放射性元素を体内に注入して、しばらくしてその放射性元素が腫瘍に集積してから、多くのコリメータで構成するガンマチャンバで放出される放射線を検出する。しかし、残念ながらこの方法には、次の欠点がある。空間解像度が不十分で、バックグラウンド放射(ノイズ)が高いので、腫瘍の3次元画像が得られないのである。
本発明によれば、これらの問題をかなり解決できる。断層撮影法にクマコフのレンズを適用した例を第58図に示す。対象となる腫瘍は患者の体内の(X_(0)、Y_(0)、Z_(0))点にあるとする。放射捕捉角φ_(0)は、0.1から0.3radとする。レンズ内でのエネルギー損失を含めて、放射源からの放射の0.1%から1%が検出器に到達する。例えば、放射能が1マイクロキューリー(約10^(4)光子/s)とすると、1秒当り数10から数100の光子が検出器に来る。
クマコフのレンズの焦点部に検出器を配置すると、信号雑音比が急増する。クマコフのレンズを使用したシステムの空間解像度は、数10ミクロンほどに小さくすることができる。この値は、従来のガンマチャンバの解像度をかなり超えている。
腫瘍の位置が不明な場合、人体の断層撮影は次の2段階で実施する。第1段階では、焦点範囲が広く、開口角が大きいX線光学装置を使用して腫瘍を探す。第2段階では、焦点を狭くした(つまり、解像度は高い)クマコフのレンズを使用して腫瘍の詳細な3次元画像を得る。レンズの焦点を調節できる場合、第1段階と第2段階の両方で同じクマコフのレンズを使用して装置を作ることもできる。
従来のガンマチャンバを第1段階、X線光学装置を第2段階にそれぞれ使用することもできる。X線光学装置で走査しても完全な画像を得ることができる。この方法は、放射捕捉角が非常に大きいので、高速である。さらに、信号雑音比が高いので、多くの光子を登録する必要がない。
医者が腫瘍のおよその位置を知っている場合、高解像度の画像を即座に得ることができる。腫瘍の検出と検査に要する放射量は少なくて済む。例えば、約0.1マイクロキューリ(約3x10^(3)光子/s)の放射能を出す放射源を数分間で詳細に検査することができる。
クマコフのレンズは点よりも平面から集光することができる。集光レンズに受光チャネルを設けて対象領域超えた発散点に向けたり、受光端に平行なチャネルを設けたりすることもできる。レンズの放射端を位置感度検出器に向けて画像情報を収集する。
放射線治療で放射の方向やスペクトルを制御する(健康な組織に害を与える可能性がある)のは難しい。現在、手術できない脳腫瘍に対しては、炭素の同位体を放射源とした有向コリメータを使用して照射している。しかし、残念ながら、この方法には、コストが高い、システムが大きて重い、生態学的な危険性がある、照射エネルギーが固定している。焦点領域が広い、などの欠点がある。しかし、好運なことに、従来のX線源とクマコフのレンズを使用すれば、焦点を合わせて適切な量を照射することができる。X線光学装置の焦点領域を、腫瘍の大きさに合わせて数ミクロンから1センチの範囲で変えることができる。X線管の陰極を変更することにより、放射エネルギーも変えることができる。
平行ビームを使用することにより、照射対象が周辺の健康な組織より多くの放射線を受けるようにすることができる。また、平行ビームまたは発散ビームを複数使用することもできる。
ビームを集束させ、帯域幅を修正することにより、放射線治療を改善することができる。例えば、OJ電子励起は、発散ビームが対象となる体積に対して使用できるので魅力がある。帯域幅を修正して、蛍光放射が低い元素の吸収線の直上のエネルギーにすることにより、必要な放射量を著しく減少させることができる。クマコフのレンズとモノクロメータで準平行ビームを生成することにより、ビームを修正することができる。あるいは、モノクロビームより広いが、すべての光子が高吸収エネルギーであるのに十分な狭さになるように、クマコフのレンズで帯域幅を修正することもできる。
中性子捕捉治療はホウ素中性子捕捉に集中している。現在の技術の問題点は、ビームからガンマ線と高エネルギー中性子を分離できないこと、中性子ビームを集束できないことなどがある。
本発明では、クマコフのレンズを使用して、ガンマ線と高エネルギー中性子を分離することにより、患者が受ける放射量を減少させる装置が含まれる。発散ビームを成形するクマコフのレンズを使用することもできる。発散ビームの場合、対象領域で受ける放射量が増えるが、体面近くの健康な組織が受ける放射強度は減少する。腫瘍が大きい場合、焦点の大きいクマコフのレンズを使用するか、または焦点が小さいレンズで腫瘍を走査することもできる。
従来のプレーナー型X線画像処理装置にクマコフのレンズを使用してもいくつか利点がある。クマコフのレンズは、点光源から放出される広い固定角の放射を捕捉できるので、低い電源を使用しても放射源をハードにしない。したがって、寿命が長くなる。クマコフのレンズを使用して帯域幅を選択することにより、ビームの硬化を緩和できる。軟X線を除去できる。軟X線は、対象物に対する放射量を増加させるが、対象物は通過しない。また、画像の質を高める可能性が高い。不要な低エネルギー放射を除去できる簡単なフィルタは他にはない。しかし、所望の放射より高いエネルギーを除去するのにクマコフのレンズを使用することができる。その他の手段では極めて困難である。これらの高いエネルギーの光子が感度を低下するのは、対象物では殆ど吸収されないからである。クマコフのレンズを使用して平行化ができることもある。
X線蛍光装置を使用して分析することにより、選択した元素のレベルを判定することができる。このような測定により、体内に蓄積した不要な重元素の存在や濃度を判定することができる。クマコフのレンズを使用しなければ、通常体内の検査には使えない。その理由は、健康な組織が高い放射を浴びてしまい、分散によりバックグラウンド放射が高く、さらに、光子の収集効率が低いので信号雑音比が低くなるなどの問題が発生するからである。
クマコフのレンズを使用すれば、発散放射源からX線を集めて、評価対象領域にそのX線を集束することができる。画像焦点が最初のレンズと同じレンズをもう一つ用意する。このレンズで発散光子を集めてその光子をエネルギー感度検出器に集束させる。患者に対する放射線照射が、全体としても局部的ににも最小化できる。対象領域に合わせて測定方法を選択できる。収集効率が高まる。信号対バックグラウンド放射比が向上する。利点はまだある。帯域幅を修正できるクマコフのレンズを使用することにより、ビーム帯域幅を修正して、対象元素の吸収線の直上の光子に合わせることができる。あるいは、モノクロメータを使用することにより、モノクロビームを得ることもできる。さらに、収集クマコフのレンズを修正することにより、断面が円形以外の領域から集光して領域全体の平均測定値を得ることもできる。
これまで、本発明にかかわる、主として、ガンマ線、X線、および粒子線を制御する原理を図示しながら特定の実施態様について述べてきた。この技術に優れた人なら、さまざまな修正、代替、追加などを本発明の精神から離れずに実施できることは明白であり、以降のクレイムで、本発明にかかわる特許請求の範囲および均等物を限定する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-12-02 
結審通知日 2005-12-08 
審決日 2009-01-27 
出願番号 特願平4-500918
審決分類 P 1 113・ 531- YA (G21K)
P 1 113・ 534- YA (G21K)
P 1 113・ 121- YA (G21K)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 武田 悟
森林 克郎
小松 徹三
日夏 貴史
登録日 2000-07-21 
登録番号 特許第3090471号(P3090471)
発明の名称 粒子、X線およびガンマ線量子のビーム制御装置  
代理人 谷 義一  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 小林 武彦  
代理人 弟子丸 健  
代理人 阿部 和夫  
代理人 渡邊 誠  
代理人 谷 義一  
復代理人 小林 武彦  
代理人 新開 正史  
代理人 阿部 和夫  
復代理人 新開 正史  

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